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  • 特許-プリント配線板の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-23
(45)【発行日】2024-05-31
(54)【発明の名称】プリント配線板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H05K 3/46 20060101AFI20240524BHJP
   H05K 1/18 20060101ALI20240524BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20240524BHJP
【FI】
H05K3/46 Q
H05K3/46 G
H05K1/18 S
H05K1/03 610H
H05K3/46 T
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020056652
(22)【出願日】2020-03-26
(65)【公開番号】P2021158212
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 大
(72)【発明者】
【氏名】松村 一輝
(72)【発明者】
【氏名】岸野 光寿
【審査官】小南 奈都子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-229769(JP,A)
【文献】特開2016-065012(JP,A)
【文献】特開平08-162484(JP,A)
【文献】特開2011-001473(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 3/46
H05K 1/18
H05K 1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂組成物を加熱することで乾燥物又は半硬化物を作製する加熱工程と、
第一面及び第二面を有する第一絶縁層と、前記第一絶縁層における前記第一面に重なる導体と、前記第一絶縁層の前記第一面側に実装されている複数の電子部品とを備えるコア材に、前記熱硬化性樹脂組成物の前記乾燥物又は前記半硬化物を含むシート状の樹脂材を、前記導体及び前記電子部品を覆うように重ねることで、積層物を作製する積層工程と、
前記積層物を加熱することで前記樹脂材を硬化させて前記コア材に重なる第二絶縁層を作製する硬化工程とを含み、
前記加熱工程における、前記熱硬化性樹脂組成物を加熱する温度D1(℃)と加熱する時間D2(秒)との積は、10000℃・秒以上15000℃・秒以下であり、
前記複数の電子部品のうち隣り合う各電子部品間の間隔の最小値と、前記導体における線間隔の最小値とのうち、少なくとも一方は、50μm以上250μm以下であり、
前記樹脂材の最低溶融粘度は10,000Pa・s以上150,000Pa・s以下であり、かつ揮発分割合は0.7%以下である、
プリント配線板の製造方法。
【請求項2】
前記加熱工程は、第一加熱工程と、第一加熱工程に続く、第一加熱工程よりも加熱温度が高い第二加熱工程とを含み、
前記第一加熱工程では、加熱温度が140℃以上150℃以下、かつ加熱時間が38秒以上50秒以下であり、
前記第二加熱工程では、加熱温度が150℃以上160℃以下、かつ加熱時間が38秒以上50秒以下である、
請求項1に記載のプリント配線板の製造方法。
【請求項3】
第二絶縁層の厚みは0.01mm以上1.03mm以下である、
請求項1又は2に記載のプリント配線板の製造方法。
【請求項4】
前記樹脂材はプリプレグである、
請求項1から3のいずれか一項に記載のプリント配線板の製造方法。
【請求項5】
前記樹脂組成物は、末端変性ポリフェニレンエーテルと、炭素-炭素二重結合を有する架橋剤とを、含有する、
請求項1から4のいずれか一項に記載のプリント配線板の製造方法。
【請求項6】
前記樹脂材の樹脂流れ性は、3mm以上5mm以下である、
請求項1から5のいずれか一項に記載のプリント配線板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線板の製造方法に関し、詳しくは電子部品と、この電子部品が埋め込まれている絶縁層とを備えるプリント配線板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子部品を内蔵した種々のプリント配線板が提供されている。例えば特許文献1には、凹部を有する配線基板と、前記凹部に収容される半導体素子と、前記半導体素子を被覆する絶縁層と、を備えた部品内蔵基板であって、前記半導体素子の下面又は前記凹部の底面の少なくとも一方は、凹凸状に形成されており、前記絶縁層の一部は、前記半導体素子の下面と前記凹部の底面との隙間に充填されていることを特徴とする部品内蔵基板が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-277392号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
プリント配線板において、樹脂材料から作製された絶縁層で導体及び電子部品を覆う場合には、絶縁層内に未充填や気泡による空隙が生じやすくなる。特に導体における線間隔及び電子部品の間隔が小さくなると、空隙が非常に生じやすい。
【0005】
本発明の課題は、プリント配線板に電子部品を内装するにあたり、導体及び電子部品を覆う絶縁層内における空隙が生じにくいプリント配線板の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係るプリント配線板の製造方法は、第一面及び第二面を有する第一絶縁層と、前記第一絶縁層における前記第一面に重なる導体と、前記第一絶縁層の前記第一面側に実装されている複数の電子部品とを備えるコア材に、熱硬化性樹脂組成物の乾燥物又は半硬化物を含むシート状の樹脂材を、前記導体及び前記電子部品を覆うように重ねることで、積層物を作製する積層工程と、前記積層物を加熱することで前記樹脂材を硬化させて前記コア材に重なる第二絶縁層を作製する硬化工程とを含む。前記複数の電子部品のうち隣り合う各電子部品間の間隔の最小値と、前記導体における線間隔の最小値とのうち、少なくとも一方は、50μm以上250μm以下である。前記樹脂材の最低溶融粘度は10,000Pa・s以上150,000Pa・s以下であり、かつ揮発分割合は0.7%以下である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によると、プリント配線板に電子部品を内装するにあたり、導体及び電子部品を覆う絶縁層内における空隙が生じにくいプリント配線板の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明の一実施形態における樹脂材及びコア材の概略の断面図である。
図2図1は、本発明の一実施形態におけるプリント配線板の概略の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本開示の様々な実施形態の一つに過ぎない。以下の実施形態は、本発明の目的を達成できれば設計に応じて種々の変更が可能である。
【0010】
本実施形態に係るプリント配線板1の製造方法は、積層工程と、硬化工程とを含む。
【0011】
積層工程では、コア材3に樹脂材2を重ねることで積層物を作製する(図1参照)。コア材3は、第一面31及び第二面32を有する第一絶縁層41と、前記第一絶縁層41における前記第一面31に重なる導体51と、前記第一絶縁層41の前記第一面31側に実装されている複数の電子部品6とを備える。樹脂材2は、熱硬化性樹脂組成物の乾燥物又は半硬化物を含む。コア材3に樹脂材2を、導体51及び電子部品6を覆うように重ねる。
【0012】
硬化工程では、積層物を加熱することで樹脂材2を硬化させてコア材3に重なる第二絶縁層42を作製する(図2参照)。
【0013】
複数の電子部品6のうち隣り合う各電子部品6間の間隔W1の最小値と、導体51における線間隔W2の最小値とのうち、少なくとも一方は、50μm以上250μm以下である。樹脂材2の最低溶融粘度は10,000Pa・s以上150,000Pa・s以下であり、かつ揮発分割合は0.7%以下である。
【0014】
本実施形態によると、硬化工程では、樹脂材2は加熱されることで溶融し、続いて熱硬化する。樹脂材2の最低溶融粘度が10,000Pa・s以上150,000Pa・s以下であることで、樹脂材2が流動しやすく、50μm以上250μm以下の隙間にも樹脂材2が入り込みやすい。かつ、樹脂材2が流動する間に樹脂材2が気泡を噛みこみにくい。さらに、樹脂材2の揮発分割合が0.7%以下であることで、樹脂材2に由来する気泡が発生しにくい。
【0015】
これにより、本実施形態では、プリント配線板1に電子部品6を内装するにあたり、導体51及び電子部品6を覆う絶縁層(第二絶縁層41)内における空隙が生じにくいプリント配線板1の製造方法を提供できる。
【0016】
本実施形態の詳細について、図1及び図2を参照して更に具体的に説明する。
【0017】
まず、樹脂材2について説明する。樹脂材2は、上述のとおり、熱硬化性樹脂組成物(以下、組成物(X1)ともいう)の硬化物又は半硬化物を含む。
【0018】
組成物(X1)は、熱硬化性樹脂を含有する。熱硬化性樹脂は、例えばエポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂、熱硬化型ポリフェニレンエーテル樹脂からなる群から選択される少なくとも一種を含有する。
【0019】
熱硬化性樹脂は、熱硬化型ポリフェニレンエーテル樹脂を含有することが好ましく、特に末端変性ポリフェニレンエーテルを含有することが好ましい。この場合、熱硬化性樹脂の硬化性を高めやすく、そのためプリント配線板1の製造効率を高めやすい。さらに樹脂材2の溶融粘度が過度に低くなりにくく、そのため樹脂材2内の気泡の噛みこみが抑制される。
【0020】
末端変性ポリフェニレンエーテルは、炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基により末端変性されたポリフェニレンエーテルである。末端変性ポリフェニレンエーテルは、例えばポリフェニレンエーテル鎖と、ポリフェニレンエーテル鎖の末端に結合している炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基とを、有する。
【0021】
炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基としては、例えば、下記式(1)で表される置換基等が挙げられる。
【0022】
【化1】
【0023】
式(1)中、nは、0~10の数である。Zは、アリーレン基である。R1~R3は、各々独立に、水素原子又はアルキル基である。式(1)において、nが0である場合は、Zがポリフェニレンエーテル鎖の末端に直接結合している。
【0024】
アリーレン基は、例えばフェニレン基等の単環芳香族基、又はナフチレン基等の多環芳香族基等である。また、このアリーレン基における芳香族環に結合する少なくとも一つの水素原子が、アルケニル基、アルキニル基、ホルミル基、アルキルカルボニル基、アルケニルカルボニル基、又はアルキニルカルボニル基等の官能基で置換されていてもよい。また、アルキル基は、特に限定されず、例えば、炭素数1~18のアルキル基が好ましく、炭素数1~10のアルキル基がより好ましい。具体的には、アルキル基は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、又はデシル基等である。
【0025】
炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基は、より具体的には、例えばp-エテニルベンジル基、m-エテニルベンジル基等のビニルベンジル基(エテニルベンジル基)、ビニルフェニル基、アクリレート基、又はメタクリレート基等を有する。置換基は、ビニルベンジル基、ビニルフェニル基、又はメタクリレート基を有することが好ましい。炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基がアリル基を有すれば、末端変性ポリフェニレンエーテルの反応性が低い傾向がある。また、炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基がアクリレート基を有すれば、末端変性ポリフェニレンエーテルの反応性が高すぎる傾向がある。
【0026】
炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基の好ましい具体例としては、ビニルベンジル基を含む官能基が挙げられる。具体的には、式(1)に示す置換基は、例えば下記式(2)又は式(3)に示す置換基である。
【0027】
【化2】
【0028】
【化3】
【0029】
炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基は、(メタ)アクリレート基でもよい。(メタ)アクリレート基は、例えば、下記式(4)で示される。
【0030】
【化4】
【0031】
式(4)中、R4は、水素原子又はアルキル基を示す。アルキル基は、例えば、炭素数1~18のアルキル基が好ましく、炭素数1~10のアルキル基がより好ましい。具体的には、例えば、アルキル基は、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、又はデシル基等である。
【0032】
末端変性ポリフェニレンエーテル中のポリフェニレンエーテル鎖は、例えば、下記式(5)で表される繰り返し単位を有する。
【0033】
【化5】
【0034】
式(5)において、mは、1~50の数である。R5~R8は、各々独立に、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ホルミル基、アルキルカルボニル基、アルケニルカルボニル基、又はアルキニルカルボニル基である。この中でも、水素原子又はアルキル基が好ましい。
【0035】
R5~R8の各々の、より具体的な例を下記に示す。
【0036】
アルキル基は、例えば、炭素数1~18のアルキル基が好ましく、炭素数1~10のアルキル基がより好ましい。具体的には、アルキル基は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、又はデシル基等である。
【0037】
アルケニル基は、例えば、炭素数2~18のアルケニル基が好ましく、炭素数2~10のアルケニル基がより好ましい。具体的には、アルケニル基は、例えば、ビニル基、アリル基、又は3-ブテニル基等である。
【0038】
アルキニル基は、例えば、炭素数2~18のアルキニル基が好ましく、炭素数2~10のアルキニル基がより好ましい。具体的には、アルキニル基は、例えば、エチニル基、又はプロパ-2-イン-1-イル基(プロパルギル基)等である。
【0039】
アルキルカルボニル基は、アルキル基で置換されたカルボニル基である。アルキルカルボニル基は、例えば、炭素数2~18のアルキルカルボニル基が好ましく、炭素数2~10のアルキルカルボニル基がより好ましい。具体的には、アルキルカルボニル基は、例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、ピバロイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、又はシクロヘキシルカルボニル基等である。
【0040】
アルケニルカルボニル基は、アルケニル基で置換されたカルボニル基である。アルケニルカルボニル基は、例えば、炭素数3~18のアルケニルカルボニル基が好ましく、炭素数3~10のアルケニルカルボニル基がより好ましい。具体的には、アルケニルカルボニル基は、例えば、アクリロイル基、メタクリロイル基、又はクロトノイル基等である。
【0041】
アルキニルカルボニル基は、アルキニル基で置換されたカルボニル基であれる。アルキニルカルボニル基は、例えば、炭素数3~18のアルキニルカルボニル基が好ましく、炭素数3~10のアルキニルカルボニル基がより好ましい。具体的には、アルキニルカルボニル基は、例えば、プロピオロイル基等である。
【0042】
なお、R5~R8は、上記のみには制限されない。
【0043】
末端変性ポリフェニレンエーテルの重量平均分子量(Mw)は、500以上5000以下であることが好ましく、500以上2000以下であることがより好ましく、1000以上2000以下であることがさらに好ましい。重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を用いて測定し、ポリスチレン換算した値である。末端変性ポリフェニレンエーテルが、式(5)で表される繰り返し単位を分子中に有している場合、mは、末端変性ポリフェニレンエーテルの重量平均分子量がこのような範囲内になるような数値であることが好ましい。具体的には、mは、1以上50以下であることが好ましい。
【0044】
末端変性ポリフェニレンエーテルの重量平均分子量がこのような範囲内であると、末端変性ポリフェニレンエーテルは、ポリフェニレンエーテル鎖によって組成物(X1)の硬化物に優れた誘電特性を付与し、更に硬化物の耐熱性及び成形性を向上させることができる。その理由として、以下のことが考えられる。通常のポリフェニレンエーテルは、その重量平均分子量が500以上5000以下程度であると、比較的低分子量であるので、硬化物の耐熱性を低下させる傾向がある。これに対し、末端変性ポリフェニレンエーテルは、末端に不飽和二重結合を有するので、硬化物の耐熱性を高められると考えられる。また末端変性ポリフェニレンエーテルの重量平均分子量が5000以下であると、比較的低分子量のものであるので、組成物(X1)の成形性にも優れると考えられる。よって、末端変性ポリフェニレンエーテルは、硬化物の耐熱性を向上できるだけではなく、組成物(X1)の成形性を向上できると考えられる。なお、末端変性ポリフェニレンエーテルの重量平均分子量が500以上であると、硬化物のガラス転移温度が低下しにくく、このため硬化物が良好な耐熱性を有しやすい。さらに、末端変性ポリフェニレンエーテルにおけるポリフェニレンエーテル鎖が短くなりにくいため、ポリフェニレンエーテル鎖による硬化物の優れた誘電特性が維持されやすい。また、重量平均分子量が5000以下であると、末端変性ポリフェニレンエーテルは溶剤に溶解しやすく、組成物(X1)の保存安定性が低下しにくい。また、末端変性ポリフェニレンエーテルは組成物(X1)の粘度を上昇させにくく、そのため組成物(X1)の良好な成形性が得られやすい。
【0045】
末端変性ポリフェニレンエーテルの1分子当たりの、炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基の平均個数(末端官能基数)は、1~5個であることが好ましく、1~3個であることがより好ましく、1.5~3個であることがさらに好ましい。この場合、組成物(X1)の硬化物の耐熱性を確保しやすく、また末端変性ポリフェニレンエーテルの反応性及び粘度が過度に高くなることを抑制することができる。また組成物(X1)の硬化後に、未反応の不飽和二重結合が残ることを抑制することができる。なお、末端変性ポリフェニレンエーテルの末端官能基数は、末端変性ポリフェニレンエーテル1モル中の、1分子あたりの、置換基の平均値を表した数値等が挙げられる。この末端官能基数は、例えば、ポリフェニレンエーテルを変性して末端変性ポリフェニレンエーテルを合成した場合、末端変性ポリフェニレンエーテル中の水酸基数を測定して、末端変性ポリフェニレンエーテル中の水酸基数の、変性前のポリフェニレンエーテルの水酸基数からの減少分を算出することによって、測定することができる。この変性前のポリフェニレンエーテルの水酸基数からの減少分が、末端官能基数である。末端変性ポリフェニレンエーテルに残存する水酸基数は、末端変性ポリフェニレンエーテルの溶液に、水酸基と会合する4級アンモニウム塩(テトラエチルアンモニウムヒドロキシド)を添加して得られる混合溶液のUV吸光度を測定することによって、求めることができる。
【0046】
末端変性ポリフェニレンエーテルの固有粘度は、例えば0.03dl/g以上0.12dl/g以下であり、0.04dl/g以上0.11dl/g以下であれば好ましく、0.06dl/g以上0.095dl/g以下であることがより好ましい。この場合、組成物(X1)の硬化物の誘電率及び誘電正接を低くしやすい。また組成物(X1)に充分な流動性を付与することができ、樹脂材2の成形性を向上させることができる。
【0047】
なお、固有粘度は、25℃の塩化メチレン中で測定した固有粘度であり、より具体的には、末端変性ポリフェニレンエーテルを塩化メチレンに0.18g/45mlの濃度で溶解させて調製される溶液の、25℃における粘度である。この粘度は、例えばSchott社製のAVS500 Visco System等の粘度計で測定される。
【0048】
末端変性ポリフェニレンエーテルの合成方法は特に限定されない。具体的には、ポリフェニレンエーテルに、炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基とハロゲン原子とが結合された化合物を反応させることで、末端変性ポリフェニレンエーテルが合成される。
【0049】
炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基とハロゲン原子とが結合された化合物は、例えばp-クロロメチルスチレン又はm-クロロメチルスチレン等である。
【0050】
原料であるポリフェニレンエーテルは、特に限定されない。ポリフェニレンエーテルは、例えば2,6-ジメチルフェノールと2官能フェノール及び3官能フェノールの少なくともいずれか一方とからなるポリフェニレンエーテル、及びポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンオキサイド)等のうち少なくとも一種を含有できる。2官能フェノールとは、フェノール性水酸基を分子中に2個有するフェノール化合物であり、例えば、テトラメチルビスフェノールA等である。3官能フェノールとは、フェノール性水酸基を分子中に3個有するフェノール化合物である。
【0051】
末端変性ポリフェニレンエーテルの合成方法の一例においては、ポリフェニレンエーテルと、炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基とハロゲン原子とが結合された化合物とを、溶媒に溶解させ、攪拌する。そうすることによって、ポリフェニレンエーテルと、炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基とハロゲン原子とが結合された化合物とが反応し、末端変性ポリフェニレンエーテルが得られる。
【0052】
組成物(X)が末端変性ポリフェニレンエーテルを含有する場合、組成物(X)は、炭素-炭素不飽和二重結合を有する架橋剤を更に含有することが好ましい。架橋剤は、末端変性ポリフェニレンエーテルと反応することで、組成物(X)を硬化させることができる。架橋剤は、炭素-炭素不飽和二重結合を一分子中に2個以上有することが好ましい。
【0053】
架橋剤の重量平均分子量は100以上5000以下であることが好ましく、100以上4000以下であることがより好ましく、100以上3000以下であることがさらに好ましい。架橋剤の重量平均分子量が低すぎると、架橋剤が組成物(X)から揮発しやすくなるおそれがある。架橋剤の重量平均分子量が高すぎると、組成物(X)のワニスの粘度や、樹脂材2の溶融粘度が高くなりすぎるおそれがある。よって、架橋剤の重量平均分子量がこのような範囲内であると、硬化物の耐熱性により優れた樹脂組成物が得られる。このことは、末端変性ポリフェニレンエーテルとの反応により、架橋を好適に形成することができるためと考えられる。なお、ここで、重量平均分子量は、一般的な分子量測定方法で測定したものであればよく、具体的には、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を用いて測定した値等が挙げられる。
【0054】
架橋剤1分子当たりの、炭素-炭素不飽和二重結合の平均個数(末端二重結合数)は、架橋剤の重量平均分子量によって異なるが、例えば、1~20個であることが好ましく、2~18個であることがより好ましい。この末端二重結合数が少なすぎると、硬化物の耐熱性としては充分なものが得られにくい傾向がある。また、末端二重結合数が多すぎると、反応性が高くなりすぎ、例えば、樹脂組成物の保存性が低下したり、樹脂組成物の流動性が低下してしまう等の不具合が発生するおそれがある。
【0055】
架橋剤の末端二重結合数としては、架橋剤の重量平均分子量をより考慮すると、架橋剤の重量平均分子量が500未満(例えば、100以上500未満)の場合、1~4個であることが好ましい。また、架橋剤の末端二重結合数としては、架橋剤の重量平均分子量が500以上(例えば、500以上5000以下)の場合、3~20個であることが好ましい。それぞれの場合で、末端二重結合数が、上記範囲の下限値より少ないと、架橋剤の反応性が低下して、組成物(X)の硬化物の架橋密度が低下し、耐熱性やTgを充分に向上させることができなくなるおそれがある。一方、末端二重結合数が、上記範囲の上限値より多いと、組成物(X)がゲル化しやすくなるおそれがある。
【0056】
末端二重結合数は、使用する架橋剤の製品の規格値からわかる。ここでの末端二重結合数としては、具体的には、例えば、架橋剤1モル中に存在する全ての架橋剤の1分子あたりの二重結合数の平均値を表した数値等が挙げられる。
【0057】
架橋剤は、具体的には、例えばトリアリルイソシアヌレート(TAIC)等のトリアルケニルイソシアヌレート化合物、分子中にメタクリル基を2個以上有する多官能メタクリレート化合物、分子中にアクリル基を2個以上有する多官能アクリレート化合物、ポリブタジエン等のように分子中にビニル基を2個以上有するビニル化合物(多官能ビニル化合物)、及び分子中にビニルベンジル基を有するスチレン、ジビニルベンゼン等のビニルベンジル化合物等からなる群から選択される少なくとも一種を含有する。特に架橋剤は、炭素-炭素二重結合を分子中に2個以上有する化合物を含有することが好ましい。具体的には、架橋剤は、トリアルケニルイソシアヌレート化合物、多官能アクリレート化合物、多官能メタクリレート化合物、多官能ビニル化合物、及びジビニルベンゼン化合物等からなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含有することが好ましい。これらを用いると、硬化反応により架橋がより好適に形成されると考えられ、樹脂材2から作製される第二絶縁層42の耐熱性をより高めることができる。特に好ましい態様の一つでは、架橋剤は、ポリブタジエンを含有する。架橋剤は、炭素-炭素不飽和二重結合を分子中に2個以上有する化合物と、炭素-炭素不飽和二重結合を分子中に1個有する化合物との両方を含有してもよい。炭素-炭素不飽和二重結合を分子中に1個有する化合物としては、具体的には、分子中にビニル基を1個有する化合物(モノビニル化合物)等が挙げられる。
【0058】
組成物(X)中での末端変性ポリフェニレンエーテルと架橋剤との質量比は、90:10から30:70であることが好ましく、90:10から50:50であることがより好ましい。この場合、第二絶縁層42の耐熱性及び難燃性が高まりやすい。これは、末端変性ポリフェニレンエーテルと架橋剤との硬化反応が好適に進行するためと考えられる。
【0059】
組成物(X)は、難燃剤を含有することが好ましい。この場合、第二絶縁層42の難燃性を高めることができる。難燃剤は、例えば臭素又はリンを含有する難燃剤(F)含有する。この場合、第二絶縁層42の誘電率を低くしながら、耐燃性を向上させることができる。
【0060】
難燃剤(F)は、臭素を含有する難燃剤(F1)及びリンを含有する難燃剤(F2)のうち少なくとも一方を含有することができる。
【0061】
難燃剤(F1)は、例えば、芳香族臭素化合物を含むことが好ましい。難燃剤(F1)は、デカブロモジフェニルエタン、4,4-ジブロモビフェニル、及びエチレンビステトラブロモフタルイミドからなる群から選択される少なくとも一種を含むことが好ましい。
【0062】
組成物(X)が難燃剤(F1)を含有することで、組成物(X)中の臭素の量が組成物(X)に対して8質量%以上20質量%以下であることが好ましい。この場合、第二絶縁層42の難燃性を向上させられると共に、組成物(X)の加熱時に臭素の解離を抑制することができる。
【0063】
難燃剤(F2)は、例えば、非相溶性リン化合物及び相溶性リン化合物のうち少なくとも一方を含むことが好ましい。難燃剤(F2)は、例えば、非相溶性リン化合物として、ジフェニルホスフィンオキサイド基を分子中に二つ以上有するホスフィンオキサイド化合物を含むことが好ましい。このホスフィンオキサイド化合物の融点は、280℃以上が好ましい。ホスフィンオキサイド化合物は、フェニレン基、キシリレン基、ビフェニレン基、ナフチレン基、メチレン基、及びエチレン基からなる群から選択される一種以上の連結基で、二つ以上のジフェニルホスフィンオキサイド基が連結された構造の化合物を含むことが好ましい。
【0064】
難燃剤(F2)は、例えば、相溶性リン化合物として、リン酸エステル化合物、ホスファゼン化合物、亜リン酸エステル化合物、及びホスフィン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0065】
組成物(X)が難燃剤(F2)を含有することで、難燃剤(F2)中のリンの量が組成物(X)に対して1.8質量%以上5.2質量%以下であることが好ましい。この場合、第二絶縁層42の難燃性を向上させられると共に、第二絶縁層42の加熱時にリンの解離を抑制することができる。
【0066】
難燃剤は、上記の難燃剤(F1)及び難燃剤(F2)以外の成分を含有してもよく、例えば臭素以外のハロゲンを有するハロゲン系難燃剤を含有してもよい。ハロゲン系難燃剤として、塩素化パラフィン等の塩素系難燃剤等が挙げられる。
【0067】
組成物(X)が難燃剤を含有する場合、その含有量は、組成物(X)中の樹脂成分(例えば変性ポリフェニレンエーテル及び架橋剤の合計)の合計100質量部に対して、5質量部以上50質量部以下であることが好ましく、10質量部以上30質量部以下であることがさらに好ましい。
【0068】
組成物(X)は、フィラーを含有してもよい。フィラーは、第二絶縁層42の誘電特性、耐熱性、層間接着性、耐薬品性、耐デスミア性、難燃性、成形性、及び線膨張係数などの特性の改善に寄与できる。
【0069】
フィラーは、例えばシリカ、アルミナ、酸化チタン、及びマイカ等の金属酸化物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物、タルク、ホウ酸アルミニウム、硫酸バリウム、及び炭酸カルシウム等からなる群から選択される少なくとも一種を含有する。
【0070】
フィラーの量は、組成物(X)中の樹脂成分(例えば変性ポリフェニレンエーテル及び架橋剤の合計)100質量部に対して、例えば50質量部以上80質量部以下であり、50質量部以上70質量部以下であることが好ましい。
【0071】
組成物(X)は、シランカップリング剤を含有してもよい。この場合、フィラーの分散性を向上でき、また第二絶縁層42と金属、樹脂等との接着性を向上できる。
【0072】
シランカップリング剤は、フィラーの表面処理に用いられることによって組成物(X)に配合されてもよく、フィラーとは別に組成物(X)に配合されていてもよい。
【0073】
シランカップリング剤は、炭素-炭素不飽和二重結合を有する官能基を有するカップリング剤(G)を含有することが好ましい。この場合、第二絶縁層42の耐熱性及び層間接着性が更に向上しやすい。炭素-炭素不飽和二重結合を有する官能基は、例えばメタクリロキシ基、スチリル基、ビニル基、及びアクリロキシ基からなる群から選ばれる少なくとも1種である。カップリング剤(G)は、例えば3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、及び3-メタクリロキシプロピルエチルジエトキシシラン等のメタクリロキシ基を有するシランカップリング剤、p-スチリルトリメトキシシラン、及びp-スチリルトリエトキシシラン等のスチリル基を有するシランカップリング剤、ビニルトリエトキシシラン、及びビニルトリメトキシシラン等のビニル基を有するシランカップリング剤、並びに3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、及び3-アクリロキシプロピルトリエトキシシラン等のアクリロキシ基を有するシランカップリング剤からなる群から選択される少なくとも一種を含有する。
【0074】
シランカップリング剤の量は、フィラー100質量部に対して、0.3質量部以上5質量部以下であることが好ましく、0.4質量部以上4質量部以下であればより好ましい。
【0075】
組成物(X)は、上記以外の添加剤を更に含有してもよい。添加剤は、例えばエラストマー、消泡剤、酸化防止剤、熱安定剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、染料、顔料、及び滑剤等からなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有する。
【0076】
組成物(X)は、有機溶媒を含有してもよい。特に樹脂材2がプリプレグである場合は、プリプレグ作製時の組成物(X)の粘度調整のために、組成物(X)が有機溶剤を含有することが好ましい。有機溶剤は、例えばトルエン、メチルエチルケトン(MEK)、シクロヘキサノン及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等からなる群から選択される少なくとも一種を含有する。なお、有機溶剤が含有できる成分は前記のみには制限されない。
【0077】
組成物(X)中の有機溶剤の割合は、組成物(X)に要求される粘度等に応じて適宜設定されるが、例えば組成物(X)全体に対して30質量%以上50質量%以下であり、30質量%以上40質量%以下であればより好ましい。
【0078】
組成物(X)の乾燥物又は半硬化物を含むシート状の樹脂材2について説明する。
【0079】
樹脂材2は、例えばプリプレグ又は樹脂シートである。プリプレグは、組成物(X)の乾燥物又は半硬化物と基材とを備える。樹脂シートは組成物(X)の乾燥物又は半硬化物がシート状に成形されたものであり、基材を備えない。
【0080】
樹脂材2は、組成物(X1)を加熱することで乾燥物又は半硬化物を作製する加熱工程を含む方法で、製造される。
【0081】
加熱工程が、第一加熱工程と、第一加熱工程に続く、第一加熱工程よりも加熱温度が高い第二加熱工程とを含んでいてもよい。この場合、第一加熱工程では、加熱温度が140℃以上150℃以下、かつ加熱時間が38秒以上50秒以下であり、第二加熱工程では、加熱温度が150℃以上160℃以下、かつ加熱時間が38秒以上50秒以下であることが好ましい。この場合、組成物(X)から有機溶剤を、より効率よく揮発させやすく、かつ樹脂材2に適度な溶融粘度が付与されやすい。さらに、樹脂材2の表面の良好な平滑性が得られやすい。
【0082】
加熱工程における、組成物(X1)の加熱温度T(℃)と加熱時間t(秒)との積の値T×tで規定される指標値は、10000℃・秒以上15000℃・秒以下であることが好ましい。この場合、組成物(X)から有機溶剤を効率よく揮発させながら、樹脂材2に適度な溶融粘度が付与されやすい。これにより、樹脂材2の最低溶融粘度が10,000Pa・s以上150,000Pa・s以下であり、かつ揮発分割合が0.7%以下であることが、実現されやすい。この指標値は、10000℃・秒以上15000℃・秒以下であればより好ましく、11000℃・秒以上14000℃・秒以下であれば更に好ましい。
【0083】
加熱工程が第一加熱工程と第二加熱工程とを含む場合のように、加熱工程が加熱条件の異なる複数の工程を含む場合には、各工程における加熱温度Ti(℃)と加熱時間ti(秒)との積の値Ti×tiで規定される指標値が、上記の条件を満たすことが好ましい。すなわち、加熱工程が第一加熱工程と第二加熱工程とからなる場合は、第一加熱工程における加熱温度T1(℃)及び加熱時間t1(秒)、並びに第二加熱工程における加熱温度T2(℃)及び加熱時間t2(秒)とから、Ti×ti+T2×t2で規定される指標値が、上記の条件を満たすことが好ましい。
【0084】
プリプレグについて説明する。プリプレグにおける基材は、適宜の無機繊維基材又は有機繊維基材であればよい。基材は、例えばガラスクロス、アラミドクロス、ポリエステルクロス、LCP(液晶ポリマー)不織布、ガラス不織布、アラミド不織布、ポリエステル不織布、パルプ紙、及びリンター紙等からなる群から選択される少なくとも一種である。
【0085】
基材に組成物(X)を、浸漬法、塗布法などの方法で含浸させる。続いて、上述の加熱工程により、組成物(X)を加熱して乾燥させ又は半硬化させることで、組成物(X)からその乾燥物又は半硬化物を作製する。これにより、プリプレグを作製できる。プリプレグにおける樹脂含有量は、例えば56質量%以上76質量%以下である。
【0086】
樹脂材2が樹脂シートである場合は、例えばポリエチレンテレフタレートフィルムなどのフィルム基材の上に組成物(X)を塗布した後、上述の加熱工程により、組成物(X)を加熱して乾燥させ又は半硬化させることで、組成物(X)からその乾燥物又は半硬化物を作製する。これにより、フィルム基材の上に樹脂シートを作製できる。
【0087】
樹脂材2の厚みは、第二絶縁層42に要求される厚みに応じて適宜設定される。
【0088】
上記のとおり、樹脂材2の最低溶融粘度は10,000Pa・s以上150,000Pa・s以下である。最低溶融粘度が10,000Pa・s以上であることで、樹脂材2から第二絶縁層42を作製する場合に、第二絶縁層42内に気泡が噛みこまれにくい。また最低溶融粘度が150,000Pa・s以下であることで、第二絶縁層42内に未充填が生じにくい。このため、第二絶縁層42内に空隙が生じにくく、これによりプリント配線板1の信頼性が高まりやすい。この最低溶融粘度は10,000Pa・s以上120 ,000Pa・s以下であることが好ましく、20,000Pa・s以上100,000Pa・s以下であればより好ましい。
【0089】
樹脂材2の最低溶融粘度は、樹脂材2中の樹脂分の120℃における最低溶融粘度を、高化式フローテスターで測定して得られる値である。最低溶融粘度の具体的な測定方法の例は、後掲の実施例の欄で説明する。
【0090】
上記のとおり、樹脂材2の揮発分割合が0.70%以下であることで、樹脂材2から第二絶縁層42を作製する場合に、第二絶縁層42内に気泡が発生しにくい。揮発分割合は0.60%以下であればより好ましく、0.3%以下であれば更に好ましい。揮発分割合は理想的には0%であるが、実際上の下限は0.2%である。樹脂材2の揮発分割合はJIS C 6521(1990) 5.6に準拠して測定される。具体的な測定方法の例は、後掲の実施例の欄に提示する。
【0091】
樹脂材2の樹脂流れ性は3mm以上5mm以下であることが好ましい。樹脂流れ性が3mm以上であると、第二絶縁層42における未充填がより生じにくくなる。樹脂流れ性が5mm以下であると、第二絶縁層42からの樹脂の流出が抑制され、第二絶縁層42が良好な厚み精度を有しやすく、第二絶縁層42の成形不良が生じにくくなる。樹脂流れ性は4mm以上5mm以下であればより好ましい。なお、樹脂材2の樹脂流れ性は、MIL-P-13949G(IPC-TM-650)に準拠して測定される。具体的な測定方法の例は、後掲の実施例の欄に示す。
【0092】
コア材3について説明する。図1に示すように、コア材3は、第一面31及び第二面32を有する第一絶縁層41と、第一絶縁層41における第一面31に重なる導体51(以下、第一導体51という)と、第一絶縁層41の第一面31側に実装されている複数の電子部品6とを備える。
【0093】
コア材3は、第一絶縁層41と第一導体51とを備えるコア基板7に、複数の電子部品6を実装することで構成される。
【0094】
第一絶縁層41の材質に特に制限はない。第一絶縁層41は樹脂材2から作製されていることが好ましい。例えば第一絶縁層41は、熱硬化性樹脂組成物(以下、組成物(X2)ともいう)の硬化物を含むことが好ましい。この場合、組成物(X2)の樹脂系は、組成物(X1)の樹脂系と同じであることが好ましい。例えば組成物(X1)が末端変性ポリフェニレンエーテルと架橋剤とを含有する場合、組成物(X2)も末端変性ポリフェニレンエーテルと架橋剤とを含有することが好ましい。この場合、第一絶縁層41と第二絶縁層42との間に高い密着性が得られやすい。
【0095】
コア基板7は、第一絶縁層41における第二面32に重なる導体52(以下、第二導体52という)を更に備えてもよい。図1に示すコア基板7は、第一導体51、第一絶縁層41、及び第二導体52を備え、これらのこの順に積層している。なお、コア基板7は、複数の絶縁層と複数の導体とが交互に並んで積層することで構成された多層基板であってもよい。
【0096】
電子部品6は、例えばIC、LISなどであるが、これらに制限されず、適宜のチップ部品等であってよい。電子部品6は、コア基板7における第一導体51がある面に、第一導体51に電気的に接続されるように実装される。
【0097】
コア材3において、複数の電子部品6のうち隣り合う各電子部品6間の間隔W1の最小値と、第一導体51における線間隔W2の最小値とのうち、少なくとも一方は、50μm以上250μm以下である。好ましくは、電子部品6間の間隔W1の最小値と、第一導体51における線間隔W2の最小値とは、いずれも50μm以上250μm以下である。この場合、間隔の最小値が250μm以下であることで、プリント配線板1の高密度化を実現できる。また間隔の最小値が50μ以上であることで、第二絶縁層42に未充填が生じにくい。すなわち、本実施形態では、樹脂材2から第二絶縁層42を作製する際に、50μm以上250μm以下という狭い間隙があっても、未充填を生じにくくできる。
【0098】
なお、図1は、第一絶縁層41、第一導体51、第二導体52及び電子部品6の構成を、簡略的に示している。
【0099】
プリント配線板1を製造する場合、例えば積層工程と硬化工程とを含む方法が採用される。
【0100】
積層工程では、コア材3に樹脂材2を、第一導体51及び電子部品6を覆うように重ねる。すなわち、第一絶縁層41の第一面31と樹脂材2とを対向させてコア材3に樹脂材2を重ねる。これにより積層物を作製する(図1参照)。
【0101】
硬化工程では、積層物を加熱することで樹脂材2を硬化させてコア材3に重なる第二絶縁層42を作製する。硬化工程では、まず樹脂材2が軟化又は溶融することで流動し、第一導体51における線間の隙間及び電子部品6の間の隙間に充填される。続いて樹脂材2が熱硬化することで、第二絶縁層42になる。これにより、第一絶縁層41、第一導体51及び第二絶縁層42を備えるプリント配線板1が得られる(図2参照)。本実施形態では、上述のとおり、第二絶縁層42に空隙が生じにくく、そのためプリント配線板1が良好な信頼性を有することができる。
【0102】
硬化工程では、例えば積層物を熱プレスすることで加熱する。熱プレスの方法として、バッチプレス方式、又はロールプレス方式、ダブルベルトプレス方式などの連続プレス方式など、適宜の方法が採用されうる。熱プレスの条件は、熱プレスの方法にもよるが、例えば加熱温度200℃以上300℃以下、プレス圧1MPa以上8MPa以下、時間3分以上10分以下である。
【0103】
本実施形態において、特に樹脂材2がプリプレグである場合には、長尺なコア材3と長尺な樹脂材2とを連続的に搬送しながら積層して積層物を作製し、更に積層物を連続的に搬送しながら連続プレス方式で積層物を熱プレスすることでプリント配線板1を製造する際、樹脂材2がプリプレグであると樹脂材2を安定して搬送することができる。このため、積層工程と硬化工程とを連続的に行いやすく、そのため製造効率を向上させやすい。
【0104】
プリント配線板1を製造する際には、上記の樹脂材2(以下、第一樹脂材2という)とは別の樹脂材(以下、第二樹脂材という)を用い、この第二樹脂材から、第一絶縁層41の第二面32に重なる絶縁層(以下、第三絶縁層という)を作製してもよい。この場合、第二絶縁層42と第三絶縁層とを同時に作製してもよく、第二絶縁層42と第三絶縁層とのうち一方を作製してから他方を作製してもよい。第二樹脂材は、例えば樹脂材2(第一樹脂材2)と同様の樹脂系の材料から作製されてもよく、例えば末端変性ポリフェニレンエーテルと、炭素-炭素二重結合を有する架橋剤とを含有する樹脂組成物の乾燥物又は半硬化物を含有してもよい。
【実施例
【0105】
以下、本実施形態の、より具体的な実施例を提示する。なお、本実施形態は、以下の実施例のみには制限されない。
【0106】
1.樹脂材の作製
表1の成分を混合することで、熱硬化性樹脂組成物を調製した。表1に示す成分の詳細は下記のとおりである。
・変性ポリフェニレンエーテル化合物は、以下の手順で合成したものを用いた。
【0107】
ポリフェニレンエーテルと、クロロメチルスチレンとを反応させて変性ポリフェニレンエーテルを得た。
【0108】
具体的には、まず、温度調節器、攪拌装置、冷却設備、及び滴下ロートを備えた容量1リットルの3つ口フラスコに、ポリフェニレンエーテル(下記式(6)に示す構造を有するポリフェニレンエーテル、SABICイノベーティブプラスチックス社製のSA90、固有粘度(IV)0.083dl/g、一分子当たりの末端水酸基数1.9個、重量平均分子量Mw2000)200g、p-クロロメチルスチレンとm-クロロメチルスチレンとの質量比が50:50の混合物(東京化成工業株式会社製のクロロメチルスチレン:CMS)30g、相間移動触媒として、テトラ-n-ブチルアンモニウムブロマイド1.227g、及びトルエン400gを仕込み、反応液を得た。
【0109】
【化6】
【0110】
反応液を、ポリフェニレンエーテル、クロロメチルスチレン、及びテトラ-n-ブチルアンモニウムブロマイドが、トルエンに溶解するまで攪拌した。その際、最終的に液温が75℃になるまで、反応液を徐々に加熱した。そして、反応液に、アルカリ金属水酸化物として、水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム20g/水20g)を20分間かけて、滴下した。その後、さらに、反応液を75℃で4時間攪拌した。次に、濃度10質量%の塩酸水溶液で反応液を中和した後、多量のメタノールを投入した。そうすることによって、反応液に沈殿物を生じさせた。すなわち、反応液に含まれる生成物を再沈させた。そして、反応液から沈殿物をろ過によって取り出し、メタノールと水との質量比が80:20の混合液で3回洗浄した後、減圧下、80℃で3時間乾燥させた。
【0111】
得られた固体を、1H-NMR(400MHz、CDCl3、TMS)で分析した。その結果、5~7ppmにエテニルベンジルに由来するピークが確認された。これにより、得られた固体が、分子末端に、式(1)で表される基を有する変性ポリフェニレンエーテルであることが確認できた。具体的には、エテニルベンジル化されたポリフェニレンエーテルであることが確認できた。
【0112】
また、変性ポリフェニレンエーテルの末端官能数を、以下のようにして測定した。
【0113】
まず、変性ポリフェニレンエーテルを正確に秤量した。その際の変性ポリフェニレンエーテルの重量を、X(mg)とする。そして、この秤量した変性ポリフェニレンエーテルを、25mLの塩化メチレンに溶解させ、得られた溶液に、10質量%のテトラエチルアンモニウムヒドロキシド(TEAH)のエタノール溶液(TEAH:エタノール(体積比)=15:85)を100μL添加した後、UV分光光度計(株式会社島津製作所製のUV-1600)を用いて、溶液の318nmの吸光度(Abs)を測定した。そして、その測定結果から、下記式を用いて、変性ポリフェニレンエーテルの、重量当たりの末端水酸基量を算出した。
【0114】
末端水酸基量(μmol/g)=[(25×Abs)/(ε×OPL×X)]×10
ここで、εは、吸光係数を示し、本試験では4700L/mol・cmである。また、OPLは、セル光路長であり、本試験では1cmである。
【0115】
算出された末端水酸基量は、ほぼゼロであることから、変性前のポリフェニレンエーテルの水酸基が、ほぼ変性されていることがわかった。このことから、変性前のポリフェニレンエーテルの末端水酸基数が、変性ポリフェニレンエーテルの末端官能基数に等しいことがわかった。つまり、変性ポリフェニレンエーテルの一分子当たりの末端官能数が、1.9個であった。
【0116】
また、変性ポリフェニレンエーテルの塩化メチレン溶液の、25℃での固有粘度(IV)を測定した。具体的には、変性ポリフェニレンエーテルの、0.18g/45mlの塩化メチレン溶液(液温25℃)を、粘度計(Schott社製のAVS500 Visco System)で測定した。その結果、固有粘度(IV)は、0.086dl/gであった。
【0117】
また、変性ポリフェニレンエーテルの分子量分布を、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)を用いて、測定した。得られた分子量分布から、重量平均分子量(Mw)及び分子量13000以上の高分子量成分の含有量を算出した。また、高分子量成分の含有量は、具体的には、GPCにより得られた分子量分布を示す曲線に基づくピーク面積の割合から算出した。その結果、Mwは、2300であった。また、高分子量成分の含有量は、0.1質量%であった。
・ポリブタジエンオリゴマー:日本曹達社製、品番B-1000。
・単官能マレイミド:日本触媒製、イミレックスP。
・DCP:新中村化学工業製、トリシクロデカンジメタノールジメタクリレート。
・DVB:日鉄ケミカル&マテリアル製、DVB810。
・TAIC:日本化成製、トリアリルイソシアヌレート。
・TMPT:新中村化学工業製、トリメチロールプロパントリメタクリレート。
・難燃剤1:ホスフィン酸塩化合物(トリスジエチルホスフィン酸アルミニウム)、クラリアントケミカルズ製、品名Exolit OP935。
・難燃剤2:リン酸エステル化合物(芳香族縮合リン酸エステル化合物)、大八化学工業社製、品番PX-200。
・無機充填剤:球状シリカ、メジアン径3μm、アドマテックス社製、品番SC2300-SVJ。
・シランカップリング剤:3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、信越化学社製、品番KBM-503。
・溶剤:トルエン。
【0118】
表1に示すIPCスペックのガラスクロスに熱硬化性樹脂組成物を含浸させてから、熱硬化性樹脂組成物を表1の第一加熱処理の欄に示す条件で加熱して、続いて第二加熱処理の欄に示す条件で加熱した。これにより、樹脂材であるプリプレグを作製した。樹脂材を作製する際の加熱工程における指標値(第一加熱工程における加熱温度T1(℃)及び加熱時間t1(秒)、並びに第二加熱工程における加熱温度T2(℃)及び加熱時間t2(秒)とから、Ti×ti+T2×t2の式で規定される指標値)、及び樹脂含有率は、表1に示すとおりである。
【0119】
2.評価試験
(1)揮発分割合
樹脂材をカットして、平面視寸法100mm×100mmの寸法の試験片を作製した。試験片の重量を0.0001gの位まで測定した。この測定値をWa(g)とした。この試験片を循環熱風乾燥機で163℃、15分間加熱した。続いてデシケータ内で試験片の重量を0.0001gの位まで測定した。この測定値をWb(g)とした。この結果に基づき、揮発分割合を、Wa-Wb×100(%)の式で算出した。揮発分割合の値は、小数点以下第三位の値を四捨五入した、小数点以下第二位までの値とした。
【0120】
(2)樹脂流れ性
樹脂材をカットして、平面視寸法102mm×102mmの寸法の3枚の試験片を作製した。試験片をデシケータ内で4時間乾燥させた。続いて3枚の試験片を重ね、この状態で試験片に直径25.4mmの二つの孔をあけた。
【0121】
続いて、表面が平滑な銅張積層板、三枚の試験片、セルローストリアセテートフィルム、2枚のパッド紙(厚み0.5mm)、をこの順に重ねたものを、加熱温度171℃、プレス圧1380kPa、時間15分間の条件で、熱プレスした。これにより得られた試験片の硬化物を室温まで冷却させてから、硬化物における二つの孔のうちの一方の孔の径の最大値D1max(mm)及び最小値D1min(mm)、並びに他方の孔の径の最大値D2max(mm)及び最小値D2min(mm)を、測定した。この測定結果から、25.4-{(D1max+D1min)/2+(D2max+D2min)/2}/28(mm)の式で算出された値を、樹脂流れ性の指標とした。
【0122】
(3)最低溶融粘度
樹脂材をもみほぐして樹脂分の粉末を得た。この粉末をふるいにかけて繊維材などの異物を除き、約2gの粉末から、造粒プレスによりプレス圧2t/cm2の条件で熱プレスして、ペレット状の試料を得た。この試料を高化式フローテスターの加熱部に投入して、測定温度120℃で測定した。それにより得られたグラフのカーブが滑らかになったところで測定を終了し、グラフにおける横軸20mmの高さが一番高い箇所の高さの値hをとり、16912.5/hの式で算出される値を最低溶融粘度とした。
【0123】
(4)成形特性
実施例3と同じプリプレグから作製された厚み100μmの絶縁層(第一絶縁層)と、厚み13μm、線間隔50μmの銅製の導体(第一導体)と、厚み13μm、線間隔50μmの銅製の導体(第二導体)とを備えるコア基板を用意した。このコア基板における、第一導体側の面に、電子部品として厚さ80μmの寸法の回路板を実装することで、コア材を作製した。コア材における電子部品の間隔は、50μmである。
【0124】
コア材における第一導体側の面に樹脂材を重ね、加熱温度250℃、プレス圧4MPas、時間5分の条件で熱プレスした。これにより、樹脂材を硬化させて厚み100μmの第二絶縁層を作製し、プリント配線板を製造した。
【0125】
このプリント配線板を切断して、樹脂材から作製された絶縁層(第二絶縁層)の断面を観察し、その結果から、充填性と気泡の程度とを評価した。充填性については、第二絶縁層と電子部品との間に未充填による空隙が認められない場合を「A」、第二絶縁層と電子部品との間に部分的に未充填による空隙のある場合を「B」、第二絶縁層と電子部品との間に全体的に未充填による空隙のある場合を「C」と、評価した。気泡の程度については、ガラスクロスの周囲に気泡が無い場合を「A」、ガラスクロスの周囲に部分的な気泡がみられた場合を「B」、ガラスクロスに沿って多数の気泡がみられた場合を「C」と、評価した。
【0126】
(5)ガラス転移温度
樹脂材の硬化物のガラス転移温度を、次の方法で測定した。積層板から金属箔をエッチング処理によりすべて除去した。続いて、株式会社日立ハイテクサイエンス社製の粘弾性スペクトロメータ(DMA7100)の引っ張りモジュールを用い、周波数10Hz、昇温速度5℃/分、温度範囲室温から280℃の条件で、絶縁層の粘弾性測定を行った。これにより得られたtanδが極大値を示す温度を、ガラス転移温度とした。
【0127】
【表1】
【0128】
【表2】
図1
図2