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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-23
(45)【発行日】2024-05-31
(54)【発明の名称】基材処理装置および基材処理方法
(51)【国際特許分類】
   B65H 26/02 20060101AFI20240524BHJP
   B65H 7/14 20060101ALI20240524BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20240524BHJP
【FI】
B65H26/02
B65H7/14
B41J2/01 305
B41J2/01 451
B41J2/01 401
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023086880
(22)【出願日】2023-05-26
(62)【分割の表示】P 2019068582の分割
【原出願日】2019-03-29
(65)【公開番号】P2023113742
(43)【公開日】2023-08-16
【審査請求日】2023-05-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【弁理士】
【氏名又は名称】西田 隆美
(72)【発明者】
【氏名】吉田 充宏
【審査官】松林 芳輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-162161(JP,A)
【文献】特開2018-16412(JP,A)
【文献】特開平11-202419(JP,A)
【文献】特開2016-146088(JP,A)
【文献】国際公開第2016/194703(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 23/18-23/198
B65H 26/00-26/0
B65H 7/14
B41J 2/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺帯状の基材を、複数のローラにより構成される搬送経路に沿って長手方向に搬送する搬送機構と、
前記搬送経路上の処理位置において、基材の表面にインクを吐出して画像を記録する画像記録部と、
表面に前記画像記録部からのインクが吐出された基材の表面を撮像することによって、基材の画像データを生成する撮像部と、
演算器を有し、搬送される基材の搬送方向の搬送誤差を算出する搬送誤差算出部と、
を有し、さらに、
a)前記複数のローラの少なくとも1つに直接的または間接的に接続され、前記ローラによって搬送される基材の張力を検出する張力検出部と、
b)前記複数のローラの少なくとも1つに直接的または間接的に接続され、前記ローラの回転駆動量を検出するエンコーダと、
c)前記搬送経路上の互いに搬送方向に離間した第1検出位置および第2検出位置において、それぞれ基材のエッジの幅方向の位置を連続的または断続的に検出するエッジ位置検出部と、
のすべてを有し、
前記演算器は、前記張力検出部による基材の張力の検出結果または張力の変化量の算出結果、前記エンコーダによる前記ローラの回転駆動量の検出結果または回転駆動量の変化量の算出結果、および前記エッジ位置検出部による基材のエッジの幅方向の位置の検出結果の、すべての入力に基づいて、基材の搬送方向の搬送誤差を出力するように、学習モデルを機械学習により学習済みであり、
前記機械学習において、前記演算器は、前記画像データに基づいて、実際の基材の搬送方向の搬送誤差を画像解析により算出する画像解析部からの入力、または、前記画像データに基づいて、作業員が目視で行った前記実際の基材の搬送誤差の算出結果を教師データとして、前記教師データと、前記演算器による基材の搬送方向の搬送誤差の算出結果との差異を最小化するように、前記学習モデルに含まれる複数のパラメータを調整する、基材処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の基材処理装置であって、
基材の周囲の温度または湿度を含む環境条件、基材の種類、および基材の厚みの少なくとも一つに係る情報を取得する情報取得部
をさらに有し、
前記演算器は、前記張力検出部による基材の張力の検出結果または張力の変化量の算出結果、前記エンコーダによる前記ローラの回転駆動量の検出結果または回転駆動量の変化量の算出結果、および前記エッジ位置検出部による基材のエッジの幅方向の位置の検出結果のすべてと、前記情報取得部が取得した情報の入力に基づいて、基材の搬送方向の搬送誤差を出力する、基材処理装置。
【請求項3】
請求項1に記載の基材処理装置であって、
前記画像記録部から吐出されるインクの種類または量に係る情報を取得する情報取得部
をさらに有し、
前記演算器は、前記張力検出部による基材の張力の検出結果または張力の変化量の算出結果、前記エンコーダによる前記ローラの回転駆動量の検出結果または回転駆動量の変化量の算出結果、および前記エッジ位置検出部による基材のエッジの幅方向の位置の検出結果のすべてと、前記情報取得部が取得した情報の入力に基づいて、基材の搬送方向の搬送誤差を出力する、基材処理装置。
【請求項4】
請求項3に記載の基材処理装置であって、
前記搬送誤差算出部により算出された基材の搬送方向の搬送誤差に基づいて、前記画像記録部からのインクの吐出タイミングまたは吐出位置を補正する補正値を算出する吐出補正部
をさらに備える基材処理装置。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載の基材処理装置であって、
前記画像記録部は、搬送方向に沿って配列された複数の記録ヘッドを有し、
前記複数の記録ヘッドは、互いに異なる色のインクを吐出する基材処理装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の基材処理装置であって、
前記演算器は、決定木を含み、前記機械学習において前記決定木に含まれるパラメータが調整済みである、基材処理装置。
【請求項7】
請求項3から請求項5までのいずれか1項に記載の基材処理装置であって、
前記画像解析部
をさらに有し、
前記演算器は、前記画像解析部による基材の搬送方向の搬送誤差の算出結果を教師データとして、前記機械学習を実行済みである、基材処理装置。
【請求項8】
請求項3から請求項5までのいずれか1項に記載の基材処理装置であって、
搬送される基材の幅方向の伸縮誤差を算出する伸縮誤差算出部
をさらに有し、
前記伸縮誤差算出部は、前記張力検出部による基材の張力の検出結果または張力の変化量の算出結果、前記エンコーダによる前記ローラの回転駆動量の検出結果または回転駆動量の変化量の算出結果、および前記エッジ位置検出部による基材のエッジの幅方向の位置の検出結果の少なくとも1つと、前記情報取得部が取得した情報の入力に基づいて、前記処理位置における基材の幅方向の伸縮誤差を出力する、機械学習により学習済みの第2演算器を有する、基材処理装置。
【請求項9】
長尺帯状の基材を、複数のローラにより構成される搬送経路に沿って長手方向に搬送しつつ、基材の搬送方向の搬送誤差を算出する基材処理方法であって、
a)前記ローラによって搬送される基材の張力を検出する工程
b)前記ローラの回転駆動量を検出する工程
および
c)前記搬送経路上の互いに搬送方向に離間した第1検出位置および第2検出位置において、それぞれ基材のエッジの幅方向の位置を連続的または断続的に検出する工程
のすべてと、
i)基材を搬送しながら基材の表面にインクを吐出する工程
ii)インクが吐出された基材の表面の画像を撮像することによって、基材の画像データを生成する工程
d)基材の搬送方向の搬送誤差を算出する工程
を有し、
前記工程d)の前に、前記工程a)による基材の張力の検出結果または張力の変化量の算出結果、前記工程b)による前記ローラの回転駆動量の検出結果または回転駆動量の変化量の算出結果、および前記工程c)による基材のエッジの幅方向の位置の検出結果の、すべての入力に基づいて、基材の搬送方向の搬送誤差を高精度に出力できるように、学習モデルを機械学習する工程を含み、
前記機械学習において、前記工程ii)において生成された前記画像データに基づいて、実際の基材の搬送方向の搬送誤差を画像解析により算出した結果、または、前記画像データに基づいて、作業員が目視で行った前記実際の基材の搬送誤差の算出結果を教師データとして、前記教師データと、前記工程d)において算出された前記搬送誤差との差異を最小化するように、前記学習モデルに含まれる複数のパラメータを調整する、基材処理方法。
【請求項10】
長尺帯状の基材を、複数のローラにより構成される搬送経路に沿って長手方向に搬送する搬送機構と、
前記搬送経路上の処理位置において、基材の表面にインクを吐出して画像を記録する画像記録部と、
演算器を有し、前記インクの吐出タイミングまたは吐出位置を補正する補正値を算出し、前記画像記録部へ出力する補正値算出部と、
表面に前記画像記録部からのインクが吐出された基材の表面を撮像することによって、基材の画像データを生成する撮像部と、
前記画像データに基づいて、基材における搬送方向の適切な位置に記録されている画像を画像解析により特定した結果から、前記インクの吐出タイミングまたは吐出位置の補正値を割り出す画像解析部と、
を有し、さらに、
a)前記複数のローラの少なくとも1つに直接的または間接的に接続され、前記ローラによって搬送される基材の張力を検出する張力検出部と、
b)前記複数のローラの少なくとも1つに直接的または間接的に接続され、前記ローラの回転駆動量を検出するエンコーダと、
c)前記搬送経路上の互いに搬送方向に離間した第1検出位置および第2検出位置において、それぞれ基材のエッジの幅方向の位置を連続的または断続的に検出するエッジ位置検出部と、
のすべてを有し、
前記演算器は、前記張力検出部による基材の張力の検出結果または張力の変化量の算出結果、前記エンコーダによる前記ローラの回転駆動量の検出結果または回転駆動量の変化量の算出結果、および前記エッジ位置検出部による基材のエッジの幅方向の位置の検出結果の、すべての入力に基づいて、前記インクの吐出タイミングまたは吐出位置を補正する補正値を出力するように、学習モデルを機械学習により学習済みであり、
前記機械学習において、前記演算器は、前記画像解析部により割り出された前記インクの吐出タイミングまたは吐出位置の補正値を教師データし、前記教師データと、前記演算器が算出した前記インクの吐出タイミングまたは吐出位置の補正値との差異を最小化するように、前記学習モデルに含まれる複数のパラメータを調整する、基材処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長尺帯状の基材を搬送しつつ処理する基材処理装置において、基材の搬送方向の搬送誤差を算出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、長尺帯状の印刷用紙を長手方向に搬送しつつ、複数の記録ヘッドからインクを吐出することにより、印刷用紙に画像を記録するインクジェット方式の画像記録装置が知られている。画像記録装置は、複数のヘッドから、それぞれ異なる色のインクを吐出する。そして、各色のインクにより形成される単色画像の重ね合わせによって、印刷用紙の表面に多色画像を記録する。
【0003】
この種の画像記録装置は、複数のローラにより、印刷用紙を一定の速度で搬送するように設計される。しかしながら、ローラの表面と印刷用紙との間のスリップや、インクによる印刷用紙の伸びによって、記録ヘッドの下方における印刷用紙の搬送速度が、理想的な搬送速度からずれる場合がある。そうすると、印刷用紙の表面における各色のインクの吐出位置が搬送方向にずれる虞がある。そこで、インクの吐出位置を補正することを目的として、印刷用紙の搬送方向の位置または搬送速度の誤差を検出する方法が、例えば、特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-162161号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の装置は、第1エッジセンサ(31)と、第2エッジセンサ(32)と、ずれ量算出部(41)とを有する。第1エッジセンサ(31)は、第1検出位置(Pa)において、印刷用紙(9)のエッジ(91)の幅方向の位置を検出することにより、第1検出結果R1を取得する。第2エッジセンサ(32)は、第2検出位置(Pb)において、印刷用紙(9)のエッジ(91)の幅方向の位置を検出することにより、第2検出結果R2を取得する。ずれ量算出部(41)は、第1検出結果R1と第2検出結果R2とにおいて、印刷用紙(9)の同一のエッジ(91)の形状が現れている箇所を特定し、特定した箇所が第1検出位置(Pa)および第2検出位置(Pb)でそれぞれ検出された時間の差を算出する。また、ずれ量算出部(41)は、当該算出した時間差に基づいて、第1検出位置(Pa)から第2検出位置(Pb)までの印刷用紙(9)の実際の搬送速度を算出することによって、印刷用紙(9)の搬送方向の位置または搬送速度の誤差を検出する。
【0006】
しかしながら、印刷用紙が高速で搬送される場合、または印刷用紙のエッジにセンサの測定間隔よりも微細な凹凸が有る場合等には、エッジの形状を検出することがより難しく、搬送誤差の検出精度が低下する虞がある。また、より高精度なセンサを用いてエッジの形状を検出しようとすると、コストが増大する虞がある。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、印刷用紙が高速で搬送される場合、または印刷用紙のエッジにセンサの測定間隔よりも微細な凹凸が有る場合等でも、基材の搬送方向の搬送誤差を高精度かつ低コストで検出できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本願の第1発明は、基材処理装置であって、長尺帯状の基材を、複数のローラにより構成される搬送経路に沿って長手方向に搬送する搬送機構と、前記搬送経路上の処理位置において、基材の表面にインクを吐出して画像を記録する画像記録部と、表面に前記画像記録部からのインクが吐出された基材の表面を撮像することによって、基材の画像データを生成する撮像部と、演算器を有し、搬送される基材の搬送方向の搬送誤差を算出する搬送誤差算出部と、を有し、さらに、a)前記複数のローラの少なくとも1つに直接的または間接的に接続され、前記ローラによって搬送される基材の張力を検出する張力検出部と、b)前記複数のローラの少なくとも1つに直接的または間接的に接続され、前記ローラの回転駆動量を検出するエンコーダと、c)前記搬送経路上の互いに搬送方向に離間した第1検出位置および第2検出位置において、それぞれ基材のエッジの幅方向の位置を連続的または断続的に検出するエッジ位置検出部と、のすべてを有し、前記演算器は、前記張力検出部による基材の張力の検出結果または張力の変化量の算出結果、前記エンコーダによる前記ローラの回転駆動量の検出結果または回転駆動量の変化量の算出結果、および前記エッジ位置検出部による基材のエッジの幅方向の位置の検出結果の、すべての入力に基づいて、基材の搬送方向の搬送誤差を出力するように、学習モデルを機械学習により学習済みであり、前記機械学習において、前記演算器は、前記画像データに基づいて、実際の基材の搬送方向の搬送誤差を画像解析により算出する画像解析部からの入力、または、前記画像データに基づいて、作業員が目視で行った前記実際の基材の搬送誤差の算出結果を教師データとして、前記教師データと、前記演算器による基材の搬送方向の搬送誤差の算出結果との差異を最小化するように、前記学習モデルに含まれる複数のパラメータを調整する。
【0009】
本願の第2発明は、第1発明の基材処理装置であって、基材の周囲の温度または湿度を含む環境条件、基材の種類、および基材の厚みの少なくとも一つに係る情報を取得する情報取得部をさらに有し、前記演算器は、前記張力検出部による基材の張力の検出結果または張力の変化量の算出結果、前記エンコーダによる前記ローラの回転駆動量の検出結果または回転駆動量の変化量の算出結果、および前記エッジ位置検出部による基材のエッジの幅方向の位置の検出結果のすべてと、前記情報取得部が取得した情報の入力に基づいて、基材の搬送方向の搬送誤差を出力する。
【0010】
本願の第3発明は、第1発明の基材処理装置であって、前記画像記録部から吐出されるインクの種類または量に係る情報を取得する情報取得部をさらに有し、前記演算器は、前記張力検出部による基材の張力の検出結果または張力の変化量の算出結果、前記エンコーダによる前記ローラの回転駆動量の検出結果または回転駆動量の変化量の算出結果、および前記エッジ位置検出部による基材のエッジの幅方向の位置の検出結果のすべてと、前記情報取得部が取得した情報の入力に基づいて、基材の搬送方向の搬送誤差を出力する。
【0011】
本願の第4発明は、第3発明の基材処理装置であって、前記搬送誤差算出部により算出された基材の搬送方向の搬送誤差に基づいて、前記画像記録部からのインクの吐出タイミングまたは吐出位置を補正する補正値を算出する吐出補正部をさらに備える。
【0012】
本願の第5発明は、第3発明または第4発明の基材処理装置であって、前記画像記録部は、搬送方向に沿って配列された複数の記録ヘッドを有し、前記複数の記録ヘッドは、互いに異なる色のインクを吐出する。
【0013】
本願の第6発明は、第1発明から第5発明までのいずれか1発明の基材処理装置であって、前記演算器は、決定木を含み、前記機械学習において前記決定木に含まれるパラメータが調整済みである。
【0014】
本願の第7発明は、第3発明から第5発明までのいずれか1発明の基材処理装置であって、前記画像解析部をさらに有し、前記演算器は、前記画像解析部による基材の搬送方向の搬送誤差の算出結果を教師データとして、前記機械学習を実行済みである。
【0015】
本願の第8発明は、第3発明から第5発明までのいずれか1発明の基材処理装置であって、搬送される基材の幅方向の伸縮誤差を算出する伸縮誤差算出部をさらに有し、前記伸縮誤差算出部は、前記張力検出部による基材の張力の検出結果または張力の変化量の算出結果、前記エンコーダによる前記ローラの回転駆動量の検出結果または回転駆動量の変化量の算出結果、および前記エッジ位置検出部による基材のエッジの幅方向の位置の検出結果の少なくとも1つと、前記情報取得部が取得した情報の入力に基づいて、前記処理位置における基材の幅方向の伸縮誤差を出力する、機械学習により学習済みの第2演算器を有する。
【0016】
本願の第9発明は、長尺帯状の基材を、複数のローラにより構成される搬送経路に沿って長手方向に搬送しつつ、基材の搬送方向の搬送誤差を算出する基材処理方法であって、a)前記ローラによって搬送される基材の張力を検出する工程、b)前記ローラの回転駆動量を検出する工程、およびc)前記搬送経路上の互いに搬送方向に離間した第1検出位置および第2検出位置において、それぞれ基材のエッジの幅方向の位置を連続的または断続的に検出する工程のすべてと、i)基材を搬送しながら基材の表面にインクを吐出する工程、ii)インクが吐出された基材の表面の画像を撮像することによって、基材の画像データを生成する工程、およびd)基材の搬送方向の搬送誤差を算出する工程を有し、前記工程d)の前に、前記工程a)による基材の張力の検出結果または張力の変化量の算出結果、前記工程b)による前記ローラの回転駆動量の検出結果または回転駆動量の変化量の算出結果、および前記工程c)による基材のエッジの幅方向の位置の検出結果の、すべての入力に基づいて、基材の搬送方向の搬送誤差を高精度に出力できるように、学習モデルを機械学習する工程を含み、前記機械学習において、前記工程ii)において生成された前記画像データに基づいて、実際の基材の搬送方向の搬送誤差を画像解析により算出した結果、または、前記画像データに基づいて、作業員が目視で行った前記実際の基材の搬送誤差の算出結果を教師データとして、前記教師データと、前記工程d)において算出された前記搬送誤差との差異を最小化するように、前記学習モデルに含まれる複数のパラメータを調整する。
【0017】
本願の第10発明は、基材処理装置であって、長尺帯状の基材を、複数のローラにより構成される搬送経路に沿って長手方向に搬送する搬送機構と、前記搬送経路上の処理位置において、基材の表面にインクを吐出して画像を記録する画像記録部と、演算器を有し、前記インクの吐出タイミングまたは吐出位置を補正する補正値を算出し、前記画像記録部へ出力する補正値算出部と、表面に前記画像記録部からのインクが吐出された基材の表面を撮像することによって、基材の画像データを生成する撮像部と、前記画像データに基づいて、基材における搬送方向の適切な位置に記録されている画像を画像解析により特定した結果から、前記インクの吐出タイミングまたは吐出位置の補正値を割り出す画像解析部と、を有し、さらに、a)前記複数のローラの少なくとも1つに直接的または間接的に接続され、前記ローラによって搬送される基材の張力を検出する張力検出部と、b)前記複数のローラの少なくとも1つに直接的または間接的に接続され、前記ローラの回転駆動量を検出するエンコーダと、c)前記搬送経路上の互いに搬送方向に離間した第1検出位置および第2検出位置において、それぞれ基材のエッジの幅方向の位置を連続的または断続的に検出するエッジ位置検出部と、のすべてを有し、前記演算器は、前記張力検出部による基材の張力の検出結果または張力の変化量の算出結果、前記エンコーダによる前記ローラの回転駆動量の検出結果または回転駆動量の変化量の算出結果、および前記エッジ位置検出部による基材のエッジの幅方向の位置の検出結果の、すべての入力に基づいて、前記インクの吐出タイミングまたは吐出位置を補正する補正値を出力するように、学習モデルを機械学習により学習済みであり、前記機械学習において、前記演算器は、前記画像解析部により割り出された前記インクの吐出タイミングまたは吐出位置の補正値を教師データし、前記教師データと、前記演算器が算出した前記インクの吐出タイミングまたは吐出位置の補正値との差異を最小化するように、前記学習モデルに含まれる複数のパラメータを調整する。
【発明の効果】
【0018】
本願の第1発明~第9発明によれば、基材の張力の検出結果等を用いて、基材の搬送方向の搬送誤差を出力できるように、予め機械学習を行う。これにより、基材が高速で搬送される場合、または基材のエッジにセンサの測定間隔よりも微細な凹凸が有る場合等でも、基材の搬送方向の搬送誤差を高精度かつ低コストで検出できる。また、基材に加わる張力が過度に小さい場合、または基材の搬送速度が過度に遅い場合であっても、基材の搬送方向の搬送誤差を高精度かつ低コストで検出できる。
【0019】
特に、本願の第7発明によれば、基材処理装置において既に多く導入されている設備を用いて、基材の搬送方向の搬送誤差を算出することができるため、より低コストで実現できる。
【0020】
特に、本願の第8発明によれば、基材への処理位置を、さらに幅方向に補正することを目的として、基材の幅方向の伸縮誤差を高精度かつ低コストで検出できる。
【0021】
本願の第10発明によれば、基材の張力の検出結果等を用いて、基材の搬送方向の適切な位置にインクを吐出できるように、予め機械学習を行う。これにより、基材が高速で搬送される場合、または基材のエッジにセンサの測定間隔よりも微細な凹凸が有る場合等でも、基材の搬送方向の適切な位置に、高精度かつ低コストでインクを吐出できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】第1実施形態に係る画像記録装置の構成を示した図である。
図2】第1実施形態に係る画像記録部付近における画像記録装置の部分上面図である。
図3】第1実施形態に係るエッジ位置検出部の構造を模式的に示した図である。
図4】第1実施形態に係る第1エッジ信号の例および第2エッジ信号の例を示したグラフである。
図5】第1実施形態に係る連続パルス信号の例を示したグラフである。
図6】第1実施形態に係る張力信号の例を示したグラフである。
図7】第1実施形態に係る制御部内の機能の一部を概念的に示したブロック図である。
図8】第1実施形態に係る学習処理の手順を示したフローチャートである。
図9】第1実施形態に係る演算器に含まれる決定木の例を示した図である。
図10】第1実施形態に係る機械学習により算出された印刷用紙の搬送方向の搬送誤差の例を示したグラフである。
図11】変形例に係るエッジ位置検出部のみを用いて推定された印刷用紙の搬送方向の搬送誤差の推定値の例を示したグラフである。
図12】変形例に係る制御部内の機能の一部を概念的に示したブロック図である。
図13】変形例に係る学習処理の手順を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。本発明の一実施形態では、基材処理装置の例として、搬送される印刷用紙に画像を記録する画像記録装置を例に挙げて、説明する。そして、印刷用紙の搬送方向の搬送誤差を算出する装置および方法について、説明する。
【0024】
<1.第1実施形態>
<1-1.画像記録装置の構成>
まず、本発明の基材処理装置の一例となる画像記録装置1の全体構成について、図1を参照しつつ説明する。図1は、画像記録装置1の構成を示した図である。この画像記録装置1は、長尺帯状の基材である印刷用紙9を搬送しつつ、複数の記録ヘッド21~24から印刷用紙9へ向けてインクを吐出することにより、印刷用紙9に画像を記録するインクジェット方式の印刷装置である。図1に示すように、画像記録装置1は、搬送機構10、画像記録部20、2つのエッジ位置検出部30、エンコーダ40、張力検出部50、情報取得部60、撮像部70、および制御部80を備えている。
【0025】
搬送機構10は、印刷用紙9をその長手方向に沿う搬送方向に搬送する機構である。本実施形態の搬送機構10は、巻き出しローラ11、複数の搬送ローラ12、および巻き取りローラ13を含む複数のローラを有する。印刷用紙9は、巻き出しローラ11から繰り出され、複数の搬送ローラ12により構成される搬送経路に沿って搬送される。各搬送ローラ12は、水平軸を中心として回転することによって、印刷用紙9を搬送経路の下流側へ案内する。また、搬送後の印刷用紙9は、巻き取りローラ13へ回収される。なお、印刷用紙9は、後述する制御部80の駆動部84が、巻き出しローラ11、複数の搬送ローラ12、および巻き取りローラ13を含む複数のローラの少なくとも1つを所定の回転速度で回転駆動することによって、搬送経路に沿って搬送される。
【0026】
図1に示すように、印刷用紙9は、複数の記録ヘッド21~24の下方において、複数の記録ヘッド21~24の配列方向と略平行に移動する。このとき、印刷用紙9の記録面は、上方(記録ヘッド21~24側)に向けられている。また、印刷用紙9は、張力が掛かった状態で、複数の搬送ローラ12に掛け渡される。これにより、搬送中における印刷用紙9の弛みや皺が抑制される。
【0027】
画像記録部20は、搬送機構10により搬送される印刷用紙9に対して、インクの液滴(以下「インク滴」と称する)を吐出する処理部である。本実施形態の画像記録部20は、第1記録ヘッド21、第2記録ヘッド22、第3記録ヘッド23、および第4記録ヘッド24を有する。第1記録ヘッド21、第2記録ヘッド22、第3記録ヘッド23、および第4記録ヘッド24は、印刷用紙9の搬送経路に沿って配置されている。
【0028】
図2は、画像記録部20付近における画像記録装置1の部分上面図である。4つの記録ヘッド21~24は、それぞれ、印刷用紙9の幅方向の全体を覆っている。また、図2中に破線で示したように、各記録ヘッド21~24の下面には、印刷用紙9の幅方向と平行に配列された複数のノズル250が設けられている。各記録ヘッド21~24は、複数のノズル250から印刷用紙9の上面へ向けて、多色画像の色成分となるK(ブラック)、C(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)の各色のインク滴を、それぞれ吐出する。
【0029】
すなわち、第1記録ヘッド21は、搬送経路上の第1処理位置P1において、印刷用紙9の上面に、K色のインク滴を吐出する。第2記録ヘッド22は、第1処理位置P1よりも下流側の第2処理位置P2において、印刷用紙9の上面に、C色のインク滴を吐出する。第3記録ヘッド23は、第2処理位置P2よりも下流側の第3処理位置P3において、印刷用紙9の上面に、M色のインク滴を吐出する。第4記録ヘッド24は、第3処理位置P3よりも下流側の第4処理位置P4において、印刷用紙9の上面に、Y色のインク滴を吐出する。本実施形態では、第1処理位置P1、第2処理位置P2、第3処理位置P3、および第4処理位置P4は、印刷用紙9の搬送方向に沿って、等間隔に配列されている。
【0030】
4つの記録ヘッド21~24は、インク滴を吐出することによって、印刷用紙9の上面に、それぞれ単色画像を記録する。そして、4つの単色画像の重ね合わせにより、印刷用紙9の上面に、多色画像が形成される。したがって、仮に、4つの記録ヘッド21~24から吐出されるインク滴の印刷用紙9上における搬送方向の位置が相互にずれていると、印刷物の画像品質が低下する。このような、印刷用紙9上における単色画像の位置の誤差を許容範囲内に抑えることが、画像記録装置1の印刷品質を向上させるための重要な要素となる。
【0031】
なお、記録ヘッド21~24の搬送方向下流側に、印刷用紙9の記録面に吐出されたインクを乾燥させる乾燥処理部が、さらに設けられていてもよい。乾燥処理部は、例えば、印刷用紙9へ向けて加熱された気体を吹き付けて、印刷用紙9に付着したインク中の溶媒を気化させることにより、インクを乾燥させる。ただし、乾燥処理部は、ヒートローラによる加熱や、光照射等の他の方法で、インクを乾燥させるものであってもよい。
【0032】
2つのエッジ位置検出部30はそれぞれ、印刷用紙9のエッジ(幅方向の端部)91の幅方向の位置を検出する検出部である。本実施形態では、搬送経路上の第1処理位置P1よりも上流側の第1検出位置Paと、搬送経路上において第1検出位置Paから下流側へ離間した第4処理位置P4よりもさらに下流側の第2検出位置Pbとに、エッジ位置検出部30が配置されている。
【0033】
図3は、エッジ位置検出部30の構造を模式的に示した図である。図3に示すように、エッジ位置検出部30は、印刷用紙9のエッジ91の上方に位置する投光器301と、エッジ91の下方に位置するラインセンサ302とを有する。投光器301は、下方へ向けて平行光を照射する。ラインセンサ302は、幅方向に配列された複数の受光素子321を有する。図3のように、印刷用紙9のエッジ91よりも外側においては、投光器301から照射された光が受光素子321に入射し、受光素子321が光を検出する。一方、印刷用紙9のエッジ91よりも内側においては、投光器301から照射された光が印刷用紙9に遮られるため、受光素子321は光を検出しない。エッジ位置検出部30は、このような複数の受光素子321における光検出の有無に基づいて、印刷用紙9のエッジ91の幅方向の位置を検出する。
【0034】
図1および図2に示すように、以下では、第1検出位置Paに配置されたエッジ位置検出部30を、第1エッジ位置検出部31と称する。また、第2検出位置Pbに配置されたエッジ位置検出部30を、第2エッジ位置検出部32と称する。第1エッジ位置検出部31は、第1検出位置Paにおいて、印刷用紙9のエッジ91の幅方向の位置を、断続的に検出する。これにより、第1検出位置Paにおけるエッジ91の幅方向の位置の経時変化を示す検出結果を取得する。そして、得られた検出結果を示す検出信号(以下、「第1エッジ信号Ed1」と称する)を、制御部80へ出力する。第2エッジ位置検出部32は、第2検出位置Pbにおいて、印刷用紙9のエッジ91の幅方向の位置を、断続的に検出する。これにより、第2検出位置Pbにおけるエッジ91の幅方向の位置の経時変化を示す検出結果を取得する。そして、得られた検出結果を示す検出信号(以下、「第2エッジ信号Ed2」と称する)を、制御部80へ出力する。ただし、第1エッジ位置検出部31および第2エッジ位置検出部32はそれぞれ、印刷用紙9のエッジ91の幅方向の位置を連続的に検出してもよい。
【0035】
図4は、第1エッジ信号Ed1の例および第2エッジ信号Ed2の例をそれぞれ示したグラフである。図4および後述する図5図6図10図11のグラフにおいて、横軸は時刻(ただし変形例として、横軸として印刷用紙9の搬送方向の距離を用いてもよい)を示す。図4の縦軸は、エッジ91の幅方向の位置を示す。なお、図4および後述する図5図6図10図11のグラフの横軸は、左端が現在時刻であり、右側へ向かうほど時刻が古くなる。したがって、図4および後述する図5図6図10図11中のデータ線は、時間の経過とともに、白抜き矢印のように右側へ移動する。印刷用紙9のエッジ91には、微細な凹凸が存在する。第1エッジ位置検出部31および第2エッジ位置検出部32は、予め設定された微小時間ごとに(例えば50マイクロ秒ごとに)、印刷用紙9のエッジ91の幅方向の位置を検出する。これにより、図4のように、印刷用紙9のエッジ91の幅方向の位置の経時変化を示すデータが得られる。第1エッジ信号Ed1は、第1検出位置Paを通過する印刷用紙9のエッジ91の形状を反映したデータとなる。第2エッジ信号Ed2は、第2検出位置Pbを通過する印刷用紙9のエッジ91の形状を反映したデータとなる。
【0036】
エンコーダ40は、複数の搬送ローラ12のうちの1つ(図1における搬送ローラ121)の軸芯に取り付けられる。エンコーダ40は、搬送ローラ121の回転駆動量を検出し、搬送ローラ121の回転に同期した連続パルス信号Enを、制御部80へ出力する。図5は、エンコーダ40から得られる連続パルス信号Enの例を示したグラフである。図5の縦軸は、当該連続パルス信号EnのON/OFFを示す。連続パルス信号Enは、搬送ローラ121を含む複数の搬送ローラ12によって搬送される印刷用紙9の搬送速度の経時変化を反映したデータとなる。ただし、エンコーダ40は、複数の搬送ローラ12の少なくとも1つに直接的または間接的に接続されていればよく、接続先として搬送ローラ121には限定されない。
【0037】
張力検出部50は、複数の搬送ローラ12のうちの1つ(図1における搬送ローラ122)に取り付けられる。張力検出部50は、搬送ローラ122において印刷用紙9から受ける力を計測する。これにより、張力検出部50は、印刷用紙9に加わる張力を検出し、検出結果に係る張力信号Teを、制御部80へ出力する。図6は、張力検出部50から得られる張力信号Teの例を示したグラフである。図6の縦軸は、印刷用紙9に加わる張力を示す。張力信号Teは、搬送ローラ122に接触しつつ搬送ローラ122を含む複数の搬送ローラ12によって搬送される印刷用紙9に加わる張力の経時変化を反映したデータとなる。ただし、張力検出部50は、複数の搬送ローラ12の少なくとも1つに直接的または間接的に接続されていればよく、接続先として搬送ローラ122には限定されない。
【0038】
情報取得部60は、画像記録装置1における様々な設定値および条件に係る情報を取得する装置である。情報取得部60は、例えば、タッチパネル等の入力インターフェースを含む。作業員等は、当該入力インターフェースを介して、例えば、画像記録部20の複数の記録ヘッド21~24から吐出されるインクの種類または量、印刷用紙9の周囲の温度または湿度を含む環境条件、印刷用紙9の種類、形状、または厚み等に係る情報(以下、「情報Sc」と称する)を入力する。これにより、情報取得部60は、これらの情報Scを取得する。ただし、情報取得部60は、自身が有するセンサ等を介して情報Scを直接的に取得してもよい。また、情報取得部60は、上述した様々な設定値および条件に係る情報の少なくとも一つを取得するものであればよい。さらに、情報取得部60は、上述した様々な設定値および条件に係る情報以外の情報を取得するものであってもよい。
【0039】
撮像部70は、画像記録部20よりも搬送経路の下流側に位置する。撮像部70は、画像記録部20の複数の記録ヘッド21~24からインクが吐出された印刷用紙9の表面を撮像することによって、印刷用紙9の画像データDiを生成する。また、撮像部70は、生成した印刷用紙9の画像データDiを、制御部80へ出力する。なお、撮像部70は、画像記録装置1において既に多く導入されている設備であるため、新たな導入コストを必要とすることなく、用いることができる。
【0040】
制御部80は、画像記録装置1内の各部を動作制御するための手段である。図1中に概念的に示したように、制御部80は、CPU等のプロセッサ801、RAM等のメモリ802、およびハードディスクドライブ等の記憶部803を有するコンピュータにより構成されている。記憶部803内には、印刷処理を実行し、さらに後述する印刷用紙9の搬送誤差を算出するためのコンピュータプログラムPおよびデータDが、記憶されている。また、図1中に破線で示したように、制御部80は、図示を省略した受信部および送信部を介して、上述した搬送機構10、4つの記録ヘッド21~24、2つのエッジ位置検出部30、エンコーダ40、張力検出部50、情報取得部60、および撮像部70と、それぞれイーサネット(登録商標)等の有線通信、Bluetooth(登録商標)またはWi-Fi(登録商標)等の無線通信を可能に、接続されている。
【0041】
制御部80は、画像記録装置1内の各部から受信部を介して信号を受信すると、記憶部803に記憶されたコンピュータプログラムPおよびデータDを、メモリ802に一時的に読み出し、当該コンピュータプログラムPおよびデータDに基づいて、プロセッサ801が演算処理を行うことにより、各部を動作制御する。これにより、画像記録装置1における印刷処理や、後述する印刷用紙9の搬送方向における搬送誤差の算出処理が進行する。なお、本実施形態では、撮像部70は、印刷処理の前段階としての後述する学習処理のみにおいて、使用される。
【0042】
<1-2.制御部内のデータ処理>
図7は、画像記録装置1内の制御部80における機能の一部を概念的に示したブロック図である。図7に示すように、本実施形態の制御部80は、搬送誤差算出部81、吐出補正部82、印刷指示部83、駆動部84、および画像解析部201を有する。これらの機能は、記憶部803に記憶されたコンピュータプログラムPおよびデータDをメモリ802に一時的に読み出し、当該コンピュータプログラムPおよびデータDに基づいて、プロセッサ801が演算処理を行うことによって、実現される。また、搬送誤差算出部81としての機能は、制御部80の一部または全部の機械要素からなる演算器200により実現される。演算器200には、機械学習により生成された学習済みの学習モデルが記憶されている。
【0043】
まず、演算器200および画像解析部201の構成と、演算器200に記憶される学習モデルを機械学習により生成する工程について、説明する。演算器200は、入力される種々の情報に基づいて、搬送される印刷用紙9の搬送方向の搬送誤差を算出し、出力する装置である。画像解析部201は、上述の撮像部70から入力された印刷用紙9の画像データDiに基づいて、実際の印刷用紙9の搬送方向の搬送誤差を画像解析により算出する機能である。
【0044】
学習時の流れを、図7中の破線および図8のフローチャートにて概念的に図示している。学習時においては、実際に、画像記録装置1内において、印刷用紙9を搬送しつつ複数の記録ヘッド21~24から印刷用紙9へ向けてインクを吐出することにより、印刷用紙9の表面にテストパターンの印刷を行う(ステップS1)。ここで、テストパターンとは、例えば、互いに搬送方向に離間しつつ印刷される複数の線またはマーク等である。
【0045】
このとき、上述のとおり、当該テストパターンが印刷された印刷用紙9の表面が、撮像部70によって複数回撮像され、画像データDiが生成される。画像データDiは、学習用の画像データとして複数(例えば、10~1000枚程度)用意される。複数の画像データDiは、画像解析部201に入力される。画像解析部201は、各画像データDiを画像解析し、画像データDi毎に、実際の印刷用紙9の搬送方向の搬送誤差Dtを算出する(ステップS2)。ただし、実際の印刷用紙9の搬送方向の搬送誤差Dtの算出は、作業員等が目視で行ってもよい。
【0046】
一方、印刷用紙9にテストパターンが印刷される際、エンコーダ40によって、搬送ローラ121の回転駆動量の経時変化が検出され、検出結果に係る連続パルス信号Enが演算器200に入力される。また、張力検出部50によって、搬送ローラ122に接触する印刷用紙9に加わる張力の経時変化が検出され、検出結果に係る張力信号Teが演算器200に入力される。さらに、第1エッジ位置検出部31および第2エッジ位置検出部32によって、第1検出位置Paおよび第2検出位置Pbを通過する印刷用紙9のエッジ91の幅方向の位置が断続的に検出され、検出結果に係る第1エッジ信号Ed1および第2エッジ信号Ed2が演算器200に入力される。また、印刷用紙9にテストパターンが印刷される前段階として、情報取得部60から、印刷用紙9の印刷に用いられるインクの種類または量、印刷用紙9の周囲の温度または湿度を含む環境条件、印刷用紙9の種類、形状、または厚み等に係る情報Scが演算器200に入力される。
【0047】
そして、演算器200は、入力された連続パルス信号Enと、張力信号Teと、第1エッジ信号Ed1および第2エッジ信号Ed2と、情報Scとに基づいて、搬送機構10によって搬送される印刷用紙9の搬送方向の搬送誤差Dcを高精度に算出できるように(ステップS3)、機械学習による学習処理を行う。具体的には、演算器200は、画像解析部201により算出された実際の印刷用紙9の搬送方向の搬送誤差Dtを教師データ(正解のデータ)としつつ、上述の印刷用紙9の搬送方向の搬送誤差Dcを高精度に算出するための学習モデルX(a,b,c,f(En,Te,Ed1,Ed2)…)を機械学習する。ただし、演算器200は、入力された連続パルス信号Enに係る搬送ローラ121の回転駆動量の経時変化の代わりに、搬送ローラ121の回転駆動量の変化量の経時変化を算出し、算出結果を用いて機械学習を行ってもよい。また、演算器200は、張力信号Teに係る印刷用紙9に加わる張力の経時変化の代わりに、印刷用紙9に加わる張力の変化量の経時変化を算出し、算出結果を用いて機械学習を行ってもよい。
【0048】
なお、本実施形態の演算器200に記憶される学習モデルX(a,b,c,f(En,Te,Ed1,Ed2)…)は、決定木である。図9は、本実施形態の決定木の例を示した図である。演算器200は、機械学習において、入力された連続パルス信号Enと、張力信号Teと、第1エッジ信号Ed1および第2エッジ信号Ed2と、情報Scとに基づいて算出した印刷用紙9の搬送方向の搬送誤差Dcと、画像解析部201により算出された実際の印刷用紙9の搬送方向の搬送誤差Dtとの差異を最小化するように、決定木に含まれる複数のパラメータ(a,b,c,f(En,Te,Ed1,Ed2)…)を調整しつつ更新保存していく。なお、演算器200は、1回のテストパターンの印刷時において1回の学習を行ってもよく、複数回の学習を行ってもよい。また、演算器200は、例えば、例えば、学習モデルX(a,b,c,f(En,Te,Ed1,Ed2)…)である決定木を、機械学習により複数個(例えば、印刷用紙9の種類毎に)生成してもよい。なお、決定木の学習アルゴリズムとしては、LightGBM等の勾配降下法を用いたアルゴリズムを用いてもよい。
【0049】
ただし、印刷用紙9の搬送方向の搬送誤差Dcを高精度に算出する処理を機械学習する方法は、これに限定されない。例えば、演算器200は、畳み込みニューラルネットワークにより、入力された連続パルス信号Enと、張力信号Teと、第1エッジ信号Ed1および第2エッジ信号Ed2と、情報Scから特徴を抽出して潜在変数を生成するエンコード処理と、潜在変数から印刷用紙9の搬送方向の搬送誤差Dcを算出するデコード処理とを繰り返し実行してもよい。そして、デコード処理後の搬送誤差Dcと、画像解析部201により算出された実際の印刷用紙9の搬送方向の搬送誤差Dtとの差異を最小化するように、誤差逆伝播法を用いて、エンコード処理およびデコード処理のパラメータを調整しつつ更新保存してもよい。
【0050】
演算器200により算出された印刷用紙9の搬送方向の搬送誤差Dcと画像解析部201により算出された実際の印刷用紙9の搬送方向の搬送誤差Dtとの一致度が所定値以上になると(ステップS4)、機械学習が完了する。そして、画像記録装置1は、その学習済みの学習モデルX(a,b,c,f(En,Te,Ed1,Ed2)…)を用いて、印刷用紙9の搬送方向の搬送誤差Dcを高精度に算出することが可能となる。図10は、演算器200における機械学習により算出された印刷用紙9の搬送方向の搬送誤差Dcの例を示したグラフである。図10に示すとおり、演算器200は、従来のエンコーダ40により得られた連続パルス信号Enと、従来の張力検出部50により得られた張力信号Teと、従来の第1エッジ位置検出部31および第2エッジ位置検出部32により得られた第1エッジ信号Ed1および第2エッジ信号Ed2とを用いて、低コストで、かつ、これらの信号の測定間隔よりもさらに細かい精度で、搬送誤差Dcを算出できる。また、演算器200は、印刷用紙9が高速で搬送される場合、または印刷用紙9のエッジ91に第1エッジ信号Ed1および第2エッジ信号Ed2の測定間隔よりも微細な凹凸が有る場合等でも、印刷用紙9の搬送方向の搬送誤差Dcを高精度で検出できる。
【0051】
以上により、機械学習が完了すると、演算器200を含む制御部80に学習モデルX(a,b,c,f(En,Te,Ed1,Ed2)…)が記憶された状態のままで、その後の印刷処理でも引き続き使用される。ただし、画像記録装置1の外部において、予め機械学習により学習モデルX(a,b,c,f(En,Te,Ed1,Ed2)…)を生成した後、画像記録装置1内の演算器200に、学習済みの学習モデルX(a,b,c,f(En,Te,Ed1,Ed2)…)をインストールすることによって、その後の印刷処理に使用してもよい。
【0052】
図7に戻る。制御部80は、印刷処理の実行時に、搬送誤差算出部81の演算器200において、上述のエンコーダ40により得られる連続パルス信号En等と、学習済の学習モデルX(a,b,c,f(En,Te,Ed1,Ed2)…)とを用いて、印刷用紙9の搬送方向の搬送誤差Dcを算出する。
【0053】
吐出補正部82は、算出された搬送誤差Dcに基づいて、各記録ヘッド21~24からのインク滴の吐出タイミングを補正する補正値を算出し、印刷指示部83へ出力する。例えば、印刷用紙9の画像を記録すべき部分が各処理位置P1~P4に到達する時刻が、理想的な時刻よりも遅れる(搬送誤差Dcがプラス方向に大きくなる)場合には、吐出補正部82は、各記録ヘッド21~24からのインク滴の吐出タイミングを遅らせる。また、印刷用紙9の画像を記録すべき部分が各処理位置P1~P4に到達する時刻が、理想的な時刻よりも早くなる(搬送誤差Dcがマイナス方向に大きくなる)場合には、吐出補正部82は、各記録ヘッド21~24からのインク滴の吐出タイミングを早める。
【0054】
印刷指示部83は、入稿された画像データIに基づいて、各記録ヘッド21~24からのインク滴の吐出動作を制御する。このとき、印刷指示部83は、吐出補正部82から出力される吐出タイミングの補正値を参照する。そして、当該補正値に従って、画像データIに基づく本来の吐出タイミングをずらす。これにより、各処理位置P1~P4において、印刷用紙9上の搬送方向の適切な箇所に、各色のインク滴が吐出される。したがって、各色のインクにより形成される単色画像の搬送方向の位置の誤差が抑制される。その結果、高品質な印刷画像を得ることができる。
【0055】
<2.変形例>
以上、本発明の主たる実施形態について説明したが、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではない。
【0056】
上述の実施形態では、第1エッジ位置検出部31および第2エッジ位置検出部32により得られた第1エッジ信号Ed1および第2エッジ信号Ed2が、演算器200に別々に入力されていた。また、演算器200は、第1エッジ信号Ed1および第2エッジ信号Ed2を別々に用いて、印刷用紙9の搬送方向の搬送誤差Dcを算出するための機械学習を行なっていた。しかしながら、第1エッジ信号Ed1および第2エッジ信号Ed2のみに基づいて、まず、印刷用紙9の搬送方向の搬送誤差をある程度推定してもよい。そして、演算器200において、当該推定値Deを用いて、印刷用紙9の搬送方向の搬送誤差Dcを算出するための機械学習を行なってもよい。図11は、当該推定値Deの例を示したグラフである。
【0057】
以下、当該推定方法について、説明する。図4に戻る。まず、搬送誤差算出部81は、第1エッジ信号Ed1と第2エッジ信号Ed2とを比較する。そして、第1エッジ信号Ed1と第2エッジ信号Ed2とで、印刷用紙9の同一のエッジ91の形状が現れている箇所を特定する。具体的には、第1エッジ信号Ed1に含まれるデータ区間(一定の時間範囲)ごとに、第2エッジ信号Ed2に含まれる一致性の高いデータ区間を特定する。以下では、第1エッジ信号Ed1に含まれるデータ区間を、比較元データ区間D1と称する。また、第2エッジ信号Ed2に含まれるデータ区間を、比較先データ区間D2と称する。
【0058】
データ区間の特定には、例えば、相互相関や残差平方和等のマッチング手法が用いられる。搬送誤差算出部81は、第1エッジ信号Ed1に含まれる比較元データ区間D1ごとに、第2エッジ信号Ed2に含まれる複数の比較先データ区間D2を、対応するデータ区間の候補として選択する。また、選択された複数の比較先データ区間D2のそれぞれについて、比較元データ区間D1との一致性を示す評価値を算出する。そして、評価値が最も高くなる比較先データ区間D2を、比較元データ区間D1に対応する比較先データ区間D2とする。
【0059】
なお、第1エッジ信号Ed1と第2エッジ信号Ed2との時間差は、第1検出位置Paから第2検出位置Pbまでの印刷用紙9の理想的な搬送時間から大幅にずれることはない。このため、上述した比較先データ区間D2の探索は、比較元データ区間D1から理想的な搬送時間だけ経過した時刻の近傍のみについて行えばよい。また、比較元データ区間D1に対応する比較先データ区間D2が一旦特定されれば、次回以降の探索は、探索済みの比較先データ区間D2に隣接するデータ区間の近傍のみについて行えばよい。
【0060】
このように、搬送誤差算出部81は、第1エッジ信号Ed1の比較元データ区間D1に対応する第2エッジ信号Ed2の比較先データ区間D2を推定し、推定されたデータ区間の近傍のみにおいて、比較元データ区間D1と一致性の高い比較先データ区間D2を探索してもよい。このようにすれば、比較先データ区間D2の探索範囲が狭まる。したがって、搬送誤差算出部81の演算処理負担を軽減できる。
【0061】
その後、搬送誤差算出部81は、比較元データ区間D1の検出時刻と、それに対応する比較先データ区間D2の検出時刻との時間差に基づいて、第1検出位置Paから第2検出位置Pbまでの印刷用紙9の実際の搬送時間を算出する。また、算出された搬送時間に基づいて、画像記録部20の下方における印刷用紙9の実際の搬送速度を算出する。そして、算出された搬送速度に基づいて、印刷用紙9の各部が、第1処理位置P1、第2処理位置P2、第3処理位置P3、および第4処理位置P4に到達する時刻を算出する。これにより、理想的な搬送速度で搬送される場合に対する、印刷用紙9の各部の搬送方向の搬送誤差の推定値Deが算出される。なお、当該搬送誤差の推定値Deは、第1処理位置P1、第2処理位置P2、第3処理位置P3、および第4処理位置P4を含む複数の地点の各位置において、印刷用紙9が理想的な搬送速度で搬送される場合に到達すると想定される時刻と、実際に到達する時刻との差分に、当該実際の搬送速度を掛けることにより、算出される。
【0062】
また、上述の実施形態では、印刷用紙9の搬送方向の搬送誤差Dcに基づいて、吐出補正部82によって、各記録ヘッド21~24からのインク滴の吐出タイミングを補正する補正値を算出していた。しかしながら、制御部80は、インク滴の吐出タイミングを補正する代わりに、巻き取りローラ13の駆動を補正する張力補正部を有していてもよい。これにより、印刷用紙9に加わる搬送方向の張力を補正してもよい。具体的には、張力補正部は、まず、印刷用紙9の搬送方向の搬送誤差Dcに基づいて、印刷用紙9の搬送方向の伸び量を算出する。そして、算出した伸び量が基準値よりも大きい場合、例えば、巻き取りローラ13による印刷用紙9を巻き取る方向の回転数を下げる。これにより、印刷用紙9に加わる張力を弱め、伸び量を低減する。また、伸び量が基準値よりも小さい場合、例えば、巻き取りローラ13による印刷用紙9を巻き取る方向の回転数を上げる。これにより、印刷用紙9に加わる張力を強め、伸び量を増加させる。この結果、各色のインクにより形成される単色画像の搬送方向の位置の誤差が抑制される。
【0063】
また、上述の第1実施形態では、吐出補正部82は、入稿された画像データI自体を補正することなく、記録ヘッド21~24からのインク滴の吐出タイミングを補正する補正値を算出していた。しかしながら、吐出補正部82は、演算器200により算出された搬送誤差Dcに基づいて、画像データI自体を補正する補正値を算出してもよい。その場合、印刷指示部83は、補正後の画像データIに従って、各記録ヘッド21~24からのインク滴の吐出を行えばよい。また、吐出補正部82は、演算器200により算出された搬送誤差Dcに基づいて、各記録ヘッド21~24からのインクの吐出位置を補正する補正値を算出してもよい。すなわち、吐出補正部82は、画像記録部20からのインク滴の吐出タイミングまたは吐出位置を補正する補正値を算出するものであればよい。
【0064】
また、上述の図2では、各記録ヘッド21~24において、ノズル250が幅方向に一列に配置されていた。しかしながら、各記録ヘッド21~24において、ノズル250が2列以上に配置されていてもよい。
【0065】
また、上述の実施形態では、第1エッジ位置検出部31および第2エッジ位置検出部32に、透過式のエッジセンサを用いていた。しかしながら、第1エッジ位置検出部31および第2エッジ位置検出部32の検出方式は、他の方式であってもよい。例えば、反射式の光学センサや、CCDカメラ等を用いてもよい。第1エッジ位置検出部31および第2エッジ位置検出部32は、印刷用紙9のエッジ91の位置を、搬送方向および幅方向の二次元において検出するものであってもよい。また、第1エッジ位置検出部31および第2エッジ位置検出部32による検出動作は、上述の実施形態のように断続的であってもよく、連続的であってもよい。
【0066】
また、上述の実施形態では、画像記録装置1内に4つの記録ヘッド21~24が設けられていた。しかしながら、画像記録装置1内の記録ヘッドの数は、1~3つであってもよく、5つ以上であってもよい。例えば、K,C,M,Yの各色に加えて、特色のインクを吐出する記録ヘッドが設けられていてもよい。
【0067】
さらに、画像記録装置1は、2つのエッジ位置検出部30、エンコーダ40、および張力検出部50のうち、少なくとも1つを有していればよい。そして、演算器200には、搬送される印刷用紙9の張力の検出結果または張力の変化量の算出結果、エンコーダ40による搬送ローラ12の回転駆動量の検出結果または回転駆動量の変化量の算出結果、および2つのエッジ位置検出部30による印刷用紙9のエッジ91の幅方向の位置の検出結果の少なくとも1つと、情報取得部60による情報Scとが入力されればよい。そして、演算器200は、これらの入力に基づいて、機械学習により印刷用紙9の搬送方向の搬送誤差Dcを出力するように構成されていればよい。
【0068】
また、上述の実施形態では、演算器200は、画像解析部201により算出された実際の印刷用紙9の搬送方向の搬送誤差Dtを教師データ(正解のデータ)としつつ、入力された連続パルス信号Enと、張力信号Teと、第1エッジ信号Ed1および第2エッジ信号Ed2と、情報Scとに基づいて、搬送機構10によって搬送される印刷用紙9の搬送方向の搬送誤差Dcを高精度に算出できるように、機械学習による学習処理を行っていた。すなわち、搬送誤差Dcは、印刷用紙9が理想的な搬送速度で搬送される場合に対する、印刷用紙9の搬送方向の実際の位置の誤差を示していた。しかしながら、演算器200は、印刷用紙9の理想的な搬送速度と実際の搬送速度との間の誤差、または印刷用紙9が理想的な搬送速度で搬送される場合に各記録ヘッド21~24に到達すると想定される時刻と実際に到達する時刻との間の誤差を高精度に算出できるように、機械学習による学習処理を行ってもよい。
【0069】
また、上述の実施形態および変形例では、演算器200は印刷用紙9の搬送誤差Dcを算出し、吐出補正部82は搬送誤差Dcの算出結果に基づいて各記録ヘッド21~24からのインク滴の吐出タイミングまたは吐出位置を補正する補正値を算出していた。しかしながら、演算器200自体が、機械学習によって、各記録ヘッド21~24からのインク滴の吐出タイミングまたは吐出位置を補正する補正値を算出し、印刷指示部83へ出力してもよい。
【0070】
図12は、変形例に係る画像記録装置1内の制御部80における機能の一部を概念的に示したブロック図である。図12に示すように、本変形例の制御部80は、補正値算出部181、印刷指示部83、駆動部84、および画像解析部201を有する。また、補正値算出部181としての機能は、制御部80の一部または全部の機械要素からなる演算器200により実現される。演算器200には、機械学習により生成された学習済みの学習モデルが記憶されている。
【0071】
図13は、変形例に係る学習処理の手順を示したフローチャートである。図13に示すように、学習時においては、まず複数回、実際に画像記録装置1内において印刷用紙9を搬送しつつ複数の記録ヘッド21~24から印刷用紙9へ向けてインクを吐出することにより、印刷用紙9の表面にテストパターンの印刷を行う(ステップS11)。テストパターンとは、例えば、互いに搬送方向に離間しつつ印刷される複数の線またはマーク等である。ただし、本変形例では、テストパターンを複数回印刷する際に、印刷回毎にインク滴の吐出タイミングを種々に補正し、またはインク滴の搬送方向の吐出位置を種々に補正する。そして、制御部80は、印刷回毎のインク滴の吐出タイミングまたは吐出位置の補正値を記憶する。
【0072】
また、テストパターンが印刷された複数枚の印刷用紙9の表面が、それぞれ撮像部70によって複数回撮像され、画像データDiが生成される。画像データDiは、学習用の画像データとして複数(例えば、10~1000枚程度)用意される。複数の画像データDiは、画像解析部201に入力される。画像解析部201は、各画像データDiを画像解析し、複数のテストパターンの中で、印刷用紙9における搬送方向の適切な位置に印刷されているテストパターンを特定し、そのテストパターンが印刷された際のインクの吐出タイミングまたは吐出位置の補正値Dfを割り出す(ステップS12)。
【0073】
一方、印刷用紙9にテストパターンが印刷される際、エンコーダ40によって、搬送ローラ121の回転駆動量の経時変化が検出され、検出結果に係る連続パルス信号Enが演算器200に入力される。また、張力検出部50によって、搬送ローラ122に接触する印刷用紙9に加わる張力の経時変化が検出され、検出結果に係る張力信号Teが演算器200に入力される。さらに、第1エッジ位置検出部31および第2エッジ位置検出部32によって、第1検出位置Paおよび第2検出位置Pbを通過する印刷用紙9のエッジ91の幅方向の位置が断続的に検出され、検出結果に係る第1エッジ信号Ed1および第2エッジ信号Ed2が演算器200に入力される。また、印刷用紙9にテストパターンが印刷される前段階として、情報取得部60から、印刷用紙9の印刷に用いられるインクの種類または量、印刷用紙9の周囲の温度または湿度を含む環境条件、印刷用紙9の種類、形状、または厚み等に係る情報Scが演算器200に入力される。
【0074】
そして、演算器200は、入力された連続パルス信号Enと、張力信号Teと、第1エッジ信号Ed1および第2エッジ信号Ed2と、情報Scとに基づいて、搬送機構10によって搬送される印刷用紙9の搬送方向の適切な位置に印刷するための、インクの吐出タイミングまたは吐出位置の補正値Dgを高精度に算出できるように(ステップS13)、機械学習による学習処理を行う。具体的には、演算器200は、画像解析部201により割り出された上述のインクの吐出タイミングまたは吐出位置の補正値Dfを教師データ(正解のデータ)としつつ、上述の印刷用紙9の搬送方向の適切な位置に印刷することができるインクの吐出タイミングまたは吐出位置の補正値Dgを高精度に算出するための学習モデルY(a,b,c,f(En,Te,Ed1,Ed2)…)を機械学習する。ただし、演算器200は、入力された連続パルス信号Enに係る搬送ローラ121の回転駆動量の経時変化の代わりに、搬送ローラ121の回転駆動量の変化量の経時変化を算出し、算出結果を用いて機械学習を行ってもよい。また、演算器200は、張力信号Teに係る印刷用紙9に加わる張力の経時変化の代わりに、印刷用紙9に加わる張力の変化量の経時変化を算出し、算出結果を用いて機械学習を行ってもよい。
【0075】
なお、上述の実施形態と同様に、本変形例の演算器200に記憶される学習モデルY(a,b,c,f(En,Te,Ed1,Ed2)…)は、決定木である。演算器200は、機械学習において、入力された連続パルス信号Enと、張力信号Teと、第1エッジ信号Ed1および第2エッジ信号Ed2と、情報Scとに基づいて算出したインクの吐出タイミングまたは吐出位置の補正値Dgと、画像解析部201により割り出された適切なインクの吐出タイミングまたは吐出位置の補正値Dfとの差異を最小化するように、決定木に含まれる複数のパラメータ(a,b,c,f(En,Te,Ed1,Ed2)…)を調整しつつ更新保存していく。
【0076】
演算器200により算出されたインクの吐出タイミングまたは吐出位置の補正値Dgと画像解析部201により割り出された適切なインクの吐出タイミングまたは吐出位置の補正値Dfとの一致度が所定値以上になると(ステップS14)、機械学習が完了する。そして、画像記録装置1は、その学習済みの学習モデルY(a,b,c,f(En,Te,Ed1,Ed2)…)を用いて、インクの吐出タイミングまたは吐出位置の補正値Dgを高精度に算出することが可能となる。
【0077】
また、上述の画像記録装置1は、インクジェット方式で印刷用紙9に画像を記録するものであった。しかしながら、本発明の基材処理装置は、インクジェット以外の方法(例えば、電子写真方式や露光等)で、印刷用紙9に画像を記録する装置であってもよい。また、上述の画像記録装置1は、基材としての印刷用紙9に印刷処理を行うものであった。しかしながら、本発明の基材処理装置は、一般的な紙以外の長尺帯状の基材(例えば、樹脂製のフィルム,金属箔等)に、所定の処理を行うものであってもよい。
【0078】
すなわち、本発明の基材処理装置は、長尺帯状の基材を、複数のローラにより構成される搬送経路に沿って長手方向に搬送する搬送機構と、搬送される基材の搬送方向の搬送誤差を算出する搬送誤差算出部と、を有し、さらに、a)複数のローラの少なくとも1つに直接的または間接的に接続され、ローラによって搬送される基材の張力を検出する張力検出部と、b)複数のローラの少なくとも1つに直接的または間接的に接続され、ローラの回転駆動量を検出するエンコーダと、c)搬送経路上の互いに搬送方向に離間した第1検出位置および第2検出位置において、それぞれ基材のエッジの幅方向の位置を連続的または断続的に検出するエッジ位置検出部と、の少なくとも1つを有し、搬送誤差算出部は、張力検出部による基材の張力の検出結果または張力の変化量の算出結果、エンコーダによるローラの回転駆動量の検出結果または回転駆動量の変化量の算出結果、およびエッジ位置検出部による基材のエッジの幅方向の位置の検出結果の少なくとも1つの入力に基づいて、基材の搬送方向の搬送誤差を出力する、機械学習により学習済みの演算器を有していればよい。これにより、基材が高速で搬送される場合、または基材のエッジにセンサの測定間隔よりも微細な凹凸が有る場合等でも、基材の搬送方向の搬送誤差を高精度かつ低コストで検出できる。
【0079】
特に、基材処理装置は、既に多く導入されている設備である張力検出部による基材の張力の検出結果または張力の変化量の算出結果を用いて、基材の搬送方向の搬送誤差を算出することによって、より低コスト化を実現できる。
【0080】
同様に、基材処理装置は、既に多く導入されている設備であるエンコーダによるローラの回転駆動量の検出結果または回転駆動量の変化量の算出結果を用いて、基材の搬送方向の搬送誤差を算出することによって、より低コスト化を実現できる。
【0081】
また、基材処理装置は、エッジ位置検出部による基材のエッジの幅方向の位置の検出結果を用いて、基材の搬送方向の搬送誤差を算出することによって、基材に加わる張力が過度に小さい場合、または基材の搬送速度が過度に遅い場合であっても、基材の搬送方向の搬送誤差を高精度かつ低コストで検出できる。
【0082】
また、基材処理装置は、基材の周囲の温度または湿度を含む環境条件、基材の種類、および基材の厚みの少なくとも一つに係る情報を取得する情報取得部をさらに有し、演算器は、張力検出部による基材の張力の検出結果または張力の変化量の算出結果、エンコーダによるローラの回転駆動量の検出結果または回転駆動量の変化量の算出結果、およびエッジ位置検出部による基材のエッジの幅方向の位置の検出結果の少なくとも1つと、情報取得部が取得した情報の入力に基づいて、基材の搬送方向の搬送誤差を出力するものであればよい。これにより、基材の搬送方向の搬送誤差をより高精度で検出できる。
【0083】
また、基材処理装置は、搬送経路上の処理位置において、基材の表面にインクを吐出して画像を記録する画像記録部と、画像記録部から吐出されるインクの種類または量に係る情報を取得する情報取得部と、をさらに有し、演算器は、張力検出部による基材の張力の検出結果または張力の変化量の算出結果、エンコーダによるローラの回転駆動量の検出結果または回転駆動量の変化量の算出結果、およびエッジ位置検出部による基材のエッジの幅方向の位置の検出結果の少なくとも1つと、情報取得部が取得した情報の入力に基づいて、基材の搬送方向の搬送誤差を出力するものであればよい。これにより、基材の搬送方向の搬送誤差をより高精度で検出できる。
【0084】
また、本発明の基材処理方法は、長尺帯状の基材を、複数のローラにより構成される搬送経路に沿って長手方向に搬送しつつ、基材の搬送方向の搬送誤差を算出する基材処理方法であって、a)ローラによって搬送される基材の張力を検出する工程、b)ローラの回転駆動量を検出する工程、およびc)搬送経路上の互いに搬送方向に離間した第1検出位置および第2検出位置において、それぞれ基材のエッジの幅方向の位置を連続的または断続的に検出する工程の少なくとも1つと、d)基材の搬送方向の搬送誤差を算出する工程とを有し、工程d)の前に、工程a)による基材の張力の検出結果または張力の変化量の算出結果、工程b)によるローラの回転駆動量の検出結果または回転駆動量の変化量の算出結果、および工程c)による基材のエッジの幅方向の位置の検出結果の少なくとも1つの入力に基づいて、基材の搬送方向の搬送誤差を高精度に出力できるように、機械学習を実行するものであればよい。
【0085】
さらに、基材処理装置の制御部は、機械学習によって、搬送される基材の幅方向の伸縮誤差を算出する伸縮誤差算出部としての機能を有していてもよい。具体的には、伸縮誤差算出部は、張力検出部による基材の張力の検出結果または張力の変化量の算出結果、エンコーダによるローラの回転駆動量の検出結果または回転駆動量の変化量の算出結果、およびエッジ位置検出部による基材のエッジの幅方向の位置の検出結果の少なくとも1つと、情報取得部が取得した情報(特に、基材の幅方向の伸縮への影響を及ぼしやすい要素であるインクの種類または量に係る情報を含めることが望ましい)の入力に基づいて、処理位置における基材の幅方向の伸縮誤差を出力する、機械学習により学習済みの第2演算器を有していてもよい。さらに、基材処理装置は、算出した基材の幅方向の伸縮誤差に基づいて、基材の蛇行、斜行変化、走行位置、または幅方向の寸法変化を、補正する機能を有していてもよい。
【0086】
さらに、本発明の基材処理装置は、長尺帯状の基材を、複数のローラにより構成される搬送経路に沿って長手方向に搬送する搬送機構と、搬送経路上の処理位置において、基材の表面にインクを吐出して画像を記録する画像記録部と、インクの吐出タイミングまたは吐出位置を補正する補正値を算出し、画像記録部へ出力する補正値算出部と、を有し、さらに、a)複数のローラの少なくとも1つに直接的または間接的に接続され、ローラによって搬送される基材の張力を検出する張力検出部と、b)複数のローラの少なくとも1つに直接的または間接的に接続され、ローラの回転駆動量を検出するエンコーダと、c)搬送経路上の互いに搬送方向に離間した第1検出位置および第2検出位置において、それぞれ基材のエッジの幅方向の位置を連続的または断続的に検出するエッジ位置検出部と、の少なくとも1つを有し、補正値算出部は、張力検出部による基材の張力の検出結果または張力の変化量の算出結果、エンコーダによるローラの回転駆動量の検出結果または回転駆動量の変化量の算出結果、およびエッジ位置検出部による基材のエッジの幅方向の位置の検出結果の少なくとも1つの入力に基づいて、インクの吐出タイミングまたは吐出位置を補正する補正値を出力する、機械学習により学習済みの演算器を有していてもよい。これにより、基材が高速で搬送される場合、または基材のエッジにセンサの測定間隔よりも微細な凹凸が有る場合等でも、基材の搬送方向の適切な位置に、高精度かつ低コストでインクを吐出できる。
【0087】
また、上述の実施形態や変形例に登場した各要素を、矛盾が生じない範囲で、適宜に組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0088】
1 画像記録装置
9 印刷用紙
10 搬送機構
11 巻き出しローラ
12 搬送ローラ
13 巻き取りローラ
20 画像記録部
21 第1記録ヘッド
22 第2記録ヘッド
23 第3記録ヘッド
24 第4記録ヘッド
30 エッジ位置検出部
31 第1エッジ位置検出部
32 第2エッジ位置検出部
40 エンコーダ
50 張力検出部
60 情報取得部
70 撮像部
80 制御部
81 搬送誤差算出部
82 吐出補正部
83 印刷指示部
84 駆動部
91 エッジ
121 搬送ローラ
122 搬送ローラ
181 補正値算出部
200 演算器
201 画像解析部
Dc 搬送誤差(機械学習による算出値)
De (搬送誤差の)推定値
Df (インクの吐出タイミング・吐出位置の)補正値(画像解析による算出値)
Dg (インクの吐出タイミング・吐出位置の)補正値(機械学習による算出値)
Di 画像データ
Dt 搬送誤差(画像解析による算出値)
Ed1 第1エッジ信号
Ed2 第2エッジ信号
En 連続パルス信号
Sc 情報
Te 張力信号
X(a,b,c,f・・・) 学習モデル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13