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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-24
(45)【発行日】2024-06-03
(54)【発明の名称】運転計画作成装置、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/06 20240101AFI20240527BHJP
   G06Q 10/04 20230101ALI20240527BHJP
   H02J 3/00 20060101ALI20240527BHJP
   H02J 3/38 20060101ALI20240527BHJP
【FI】
G06Q50/06
G06Q10/04
H02J3/00 170
H02J3/38 120
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019152956
(22)【出願日】2019-08-23
(65)【公開番号】P2021033625
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-07-29
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久保田 雅之
(72)【発明者】
【氏名】矢口 航太
(72)【発明者】
【氏名】山嵜 朋秀
(72)【発明者】
【氏名】豊嶋 伊知郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 勇樹
(72)【発明者】
【氏名】武田 朗子
【審査官】庄司 琴美
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-130584(JP,A)
【文献】国際公開第2018/150604(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/090519(WO,A1)
【文献】安定的な再生可能エネルギーの電力供給を実現 -新たな最適蓄発電運用計画法を開発-,東京工業大学 科学技術振興機構,2019年02月07日,インターネット:<URL:https://www.jst.go.jp/pr/announce/20190207/index.html>
【文献】Youngchae Cho, 他3名,Box-Based Temporal Decomposition of Multi-Period Economic Dispatch for Two-Stage Robust Unit Commitment,IEEE TRANSACTIONS ON POWER SYSTEMS,VOL. 34, NO. 4,IEEE,2019年02月06日,3109-3118,DOI:10.1109/TPWRS.2019.2896349
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00 - 99/00
H02J 3/00 - 3/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象とする電力系統に関するデータであって、電力の需要実績を示す第1データ、再生可能エネルギーによる発電実績を示す第2データ、再生可能エネルギーを用いない発電機の諸元を示す第3データ、および電力系統の状態を示す第4データをそれぞれ取得する取得部と、
前記第1データと前記第2データのそれぞれに基づいて、統計的に取り得る範囲を示す予測データを生成する第1生成部と、
前記予測データの示す範囲と、前記第3データおよび前記第4データが示す機能上の制約を含む制約式を満たし、少なくとも再生可能エネルギーの抑制をコストとした目的関数の値を所望の値に近づける問題を解くことで、発電機の運転計画を作成して記憶部に記憶させる第2生成部と、
を備え、
前記第2生成部は、
前記目的関数および前記制約式に入力値を当てはめることで問題データを生成する問題生成部と、
前記問題データに対して、ロバスト最適化手法に適用するための式変形を行う前処理部と、
前記式変形された式に対してロバスト最適化手法に基づいて前記発電機の運転計画を作成する計画作成部と、
を備え、
前記式変形された問題データは、再生可能エネルギーを用いた発電機の抑制有無を表すフラグを含み、前記フラグが抑制実施を表す場合に、前記問題の不確実性が低下する一方で前記目的関数の値が好ましくない方向に変化する、
運転計画作成装置。
【請求項2】
コンピュータに、
対象とする電力系統に関するデータであって、電力の需要実績を示す第1データ、再生可能エネルギーによる発電実績を示す第2データ、再生可能エネルギーを用いない発電機の諸元を示す第3データ、および電力系統の状態を示す第4データをそれぞれ取得させ、
前記第1データと前記第2データのそれぞれに基づいて、統計的に取り得る範囲を示す予測データを生成させ、
前記予測データの示す範囲と、前記第3データおよび前記第4データが示す機能上の制約を含む制約式を満たし、少なくとも再生可能エネルギーの抑制をコストとした目的関数の値を所望の値に近づける問題を解くことで、発電機の運転計画を作成して記憶部に記憶させることを行わせ、
前記問題を解く際に、前記コンピュータに、
前記目的関数および前記制約式に入力値を当てはめることで問題データを生成させ、
前記問題データに対して、ロバスト最適化手法に適用するための式変形を行わせ、
前記式変形された式に対してロバスト最適化手法に基づいて前記発電機の運転計画を作成させ、
前記式変形された問題データは、再生可能エネルギーを用いた発電機の抑制有無を表すフラグを含み、前記フラグが抑制実施を表す場合に、前記問題の不確実性が低下する一方で前記目的関数の値が好ましくない方向に変化する、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、運転計画作成装置、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽光、風力等の再生可能エネルギーの導入が進んでいる。再生可能エネルギーの発電量は、天候に左右されるため予測が困難である。また、再生可能エネルギーの発電量が需要を上回り、再生可能エネルギー運用事業者へ出力抑制の依頼を行っているケースが発生している。従来、時間帯ごとの電力需要を満たすような発電機の運転計画は、変動のない入力データを用いた最適化計算を解くことや、オペレータの経験により事前に生成されていたが、再生可能エネルギーの大量導入により計算や予想が困難になっている。
【0003】
発電事業者と送配電事業者(TSO)が別になることも国内外で想定されている。TSOが、供給地域における周波数制御、需給制御を行うための能力を調整力という。調整力に関する各事業者間の料金のやり取りを後述する。TSOは、電力システムの安定性を考慮し、需要と供給を一致させるという責務を負っており、需給均衡を保てなければ、電力システムの周波数が変動し、最悪の場合停電をもたらす可能性がある。TSOが需給一致のために発電機出力を上げる調整を行った場合、その分の燃料費に相当する金額を発電事業者に支払う。TSOが発電機出力を下げる調整を行った場合、発電事業者は不要となった燃料費に相当する金額をTSOに支払う。また、TSOが再生可能エネルギーの抑制を行った場合、発電事業者の発電機会を損なわせることになるため、TSOから発電事業者に相当の対価を支払うことが予想される。このような条件の中でTSOはコストを最小化する計画を立てることが望ましい。
【0004】
しかしながら、従来の技術では、不確実性を持つパラメータ(再生可能エネルギーの電力変動と不確実性を持つ電力需要)を考慮しながら、再生可能エネルギーの出力抑制を含む計画を作成し、指示することについて十分に検討がなされていなかった。
【0005】
例えば、非特許文献1には、不確実性を想定しない最適化手法を用いた発電計画作成手法が記されている。非特許文献2には、発電機起動停止計画問題において、需要のみを不確実性を持つパラメータとして発電機運転計画を生成する手法について記載されているが、再生可能エネルギー及び再生可能エネルギーの抑制に関する記述はない。また、特許文献1には、因子分解型マルコフ決定過程(fMDP)の状態及び遷移を考慮し、需要を不確実的なものとして扱い発電機の運転スケジュールを生成することについて記載されているが、再生可能エネルギーの抑制は想定されていない。
【0006】
なお、非特許文献3には、不確実性をもつパラメータを変数とし、最も厳しいケースの最良解を求めることができるロバスト最適化法の研究が90年代後半から著しく発展をしていることが記されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第5465344号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】長谷川淳、他「電気学会大学講座:電力系統工学」,電気学会,pp92-103(2002)
【文献】"Adaptive Robust Optimization for the Security Constrained Unit Commitment Problem", IEEE Trans. power syst. vol.28, no.1, pp52-63, Feb. 2013
【文献】武田朗子「ロバスト最適化法とその動向」,電気学会論文誌C, Vol.134, No.6, pp.760-764
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、不確実性を持つパラメータを考慮しながら、再生可能エネルギーの出力抑制を含む計画を作成することができる運転計画作成装置、およびプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
実施形態の運転計画作成装置は、取得部と、第1生成部と、第2生成部とを持つ。取得部は、対象とする電力系統に関するデータであって、電力の需要実績を示す第1データ、再生可能エネルギーによる発電実績を示す第2データ、発電機の諸元を示す第3データ、および電力系統の状態を示す第4データをそれぞれ取得する。第1生成部は、前記第1データと前記第2データのそれぞれに基づいて、統計的に取り得る範囲を示す予測データを生成する。第2生成部は、前記予測データの示す範囲と、前記第3データおよび前記第4データが示す機能上の制約を含む制約式を満たし、少なくとも再生可能エネルギーの抑制をコストとした目的関数の値を所望の値に近づける問題を解くことで、発電機の運転計画を作成して記憶部に記憶させる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1の実施形態に係る運転計画作成装置1の構成図。
図2】式(1)における各項の定義の一覧を示す図。
図3】再生エネを用いない発電機2台、再生エネを用いた発電機2台、時間コマ数が1~24のときの解のイメージを表す図(その1)。
図4】再生エネを用いない発電機2台、再生エネを用いた発電機2台、時間コマ数が1~24のときの解のイメージを表す図(その2)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施形態の運転計画作成装置、およびプログラムを、図面を参照して説明する。
【0013】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る運転計画作成装置1の構成図である。運転計画作成装置1は、例えば、取得部10と、第1不確実性集合生成部20と、第2不確実性集合生成部22と、問題生成部30と、前処理部40と、計画作成部50と、出力部60と、記憶部100とを含む。記憶部100以外の構成要素は、例えば、CPU(Central Processing Unit)などのハードウェアプロセッサがプログラム(ソフトウェア)を実行することにより実現される。これらの構成要素のうち一部または全部は、LSI(Large Scale Integration)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)などのハードウェア(回路部;circuitryを含む)によって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。プログラムは、予めHDD(Hard Disk Drive)やフラッシュメモリなどの記憶装置(非一過性の記憶媒体を備える記憶装置)に格納されていてもよいし、DVDやCD-ROMなどの着脱可能な記憶媒体(非一過性の記憶媒体)に格納されており、記憶媒体がドライブ装置に装着されることでインストールされてもよい。なお、第1不確実性集合生成部20と第2不確実性集合生成部22を合わせたものが「第1生成部」の一例であり、問題生成部30と前処理部40と計画作成部50とを合わせたものが「第2生成部」の一例である。
【0014】
記憶部100は、例えばRAM(Random Access Memory)やHDD、フラッシュメモリなどを含む。記憶部100には、例えば、第1実績データ110、第2実績データ112、発電機データ114、系統データ116、問題データ120、計画データ130などのデータが格納される。更に、記憶部100には、上述のプログラムが格納されてもよい。
【0015】
取得部10は、第1実績データ110、第2実績データ112、発電機データ114、および系統データ116を取得し、記憶部100に記憶させる。取得部10は、これらのデータを、例えばネットワークを介して他装置から取得する。ネットワークは、WAN(Wide Area Network)やLAN(Local Area Network)、インターネット、セルラー網などを含む。この場合、取得部10は、ネットワークカードなどの通信インターフェースを含んでもよい。また、取得部10は、キーボードやマウス、タッチパネル、可搬型記憶装置およびドライブ装置などを介して上記データを取得してもよい。
【0016】
第1実績データ(需要実績)110は、運転計画作成装置1が処理対象とする電力系統に接続された需要家による消費電力の実績データである。第1実績データ110は、需要家に設置された電力測定器等により測定された消費電力を統合したものである。第1実績データ110は、個別の需要家の消費電力を足し合わせたものでも良いし、複数の需要家の消費電力を足し合わせたものでも良い。
【0017】
第1不確実性集合生成部20は、第1実績データ110に基づいて、需要予測データを生成する。需要予測データは、不確実性を内包する需要家の将来の消費電力に関して、例えば需要の期待値(予測値、中央値)、および変動幅等を設定したものである。変動幅については、例えば、需要家の将来の消費電力が確率分布を持つものである場合は、範囲が予測値の±1σ(68.27[%])であるような変動幅を選定してもよいし、もしくは予測値の±2σ、あるいは±3σに基づいて定義してもよい。
【0018】
第2実績データ(再エネ発電実績)112は、運転計画作成装置1が処理対象とする電力系統における、再生可能エネルギー(再エネ)を用いた発電機の発電量の実績データである。再エネには、太陽光、風力、地熱、水力などが含まれる。なお、水力に関しては再エネでない発電に分類されてもよい。第2実績データ112は、再エネを用いて発電する発電機に設置された電力測定器等で測定されたデータである。第2実績データ112は、メガソーラー、ウインドファームなど多数の発電機の集合体について測定されたデータでもよい。
【0019】
第2不確実性集合生成部22は、第2実績データに基づいて、再エネ発電量予測データを生成する。再エネ発電量予測データは、不確実性を内包する再エネの将来の発電量に関して、例えば再エネの将来の発電量の期待値(予測値、中央値)、および変動幅等を設定したものである。変動幅については、例えば、再エネの将来の発電量が確率分布を持つものである場合は、範囲が予測値の±1σであるような変動幅を選定してもよいし、もしくは予測値の±2σ、あるいは±3σに基づいて定義してもよい。需要予測データにおける変動幅と、再エネ発電量予測データにおける変動幅は、同じ確率分布に従う必要は無く、それぞれ個別に設定されてよい。
【0020】
発電機データ114は、再エネを用いない発電機に関する各種情報(諸元データ)を、発電機ごと(或いは発電機グループごと)に集めたものである。再エネを用いない発電機とは、例えば、火力発電機や原子力発電機、ガス発電機、燃料電池など、ある程度、機動的に発電量の調整を行うことが可能な発電機である。発電機には、狭義の発電機ではないが同様の機能を持つもの、例えば蓄電池システムなどが含まれてもよい。発電機データ114は、例えば、発電機ごとの最小運転時間、最小停止時間、出力変化速度、出力増加速度、出力低下速度、最大出力および最小出力、並びに予備力制約などを含む。予備力とは、潮流変動の発生を抑制するために、系統に即時出力することを想定した発電機の出力の余力である。
【0021】
系統データ116は、運転計画作成装置1が処理対象とする電力系統の予備力確保量、予備力上限値、送電線に流せる電力の上下限のデータなどを含む。予備力確保量は、系統全体で発電機に要求される予備力の合計値である。予備力上限値は、各発電機に設定される予備力の上限値であり、発電機の予備力はこの値より小さく設定する必要がある。
【0022】
問題生成部30は、需要予測データ、再エネ発電量予測データ、発電機データ114、および系統データ116に含まれる各種データを入力値とする最適化計算における目的関数と制約式を生成する。なお、「式を生成する」とは、例えば、予め定められた数式における入力値に対して、上記各種データのどの項目を割り当てるかを決定する処理である。
【0023】
目的関数は、式(1)で表される。式(1)における各項の定義は、図2に掲載する通りである。図2は、式(1)における各項の定義の一覧を示す図である。これらのうち、起動変数は、起動が開始される最初のタイミングで立ち上がり、その後は立ち下がる信号である。停止変数は、停止が開始される最初のタイミングで立ち上がり、その後は立ち下がる信号である。
【0024】
【数1】
【0025】
制約式は、式(2)~(15)で表される。式(2)および(3)のそれぞれは、発電機の起動および停止に関する制約を示す式である。
【0026】
【数2】
【0027】
式(4)および(5)のそれぞれは、最小運転時間、最小停止時間に関する制約を示す式である。
【0028】
【数3】
【0029】
式(6)は、電力系統における需要と供給のバランスを表す式である。需要は消費電力であり、供給は発電機と再生可能エネルギーの発電量の合計である。これらが一致する必要がある。例えば、再生可能エネルギーの出力抑制がされた場合(r=1の場合)、発電電力の合計値は減ることになる。式(7)は、需要を期待値d(バー) および変動幅d(ハット) を用いて定義した式である。この期待値と変動幅は、第1不確実性集合生成部20が生成する需要予測データに含まれている。式(8)は、再エネの将来の発電量を期待値z(バー) および変動幅z(ハット) を用いて定義した式である。この期待値と変動幅は、第2不確実性集合生成部22が生成する再エネ発電量予測データに含まれている。
【0030】
【数4】
【0031】
式(9)は、発電機の出力変化速度を定義した式である。RU は発電機のランプアップレート(最大の出力増加速度)であり、RD は発電機のランプダウンレート(最大の出力減少速度)である。
【0032】
【数5】
【0033】
式(10)は、送電線が健全である場合の潮流制約を示す式である。式(11)は、送電線の一部または全部が脱落している場合の潮流制約を示す式である。f maxは送電線に流せる有効電力の上限であり、fl,i maxは送電線iが脱落している場合に送電線に流せる有効電力の上限である。a’およびal,i’は、送電線の感度係数である。送電線が脱落した場合、一般にal,i’のベクトルの要素がa’のベクトルの要素より小さくなるため、結果的に送電線に流せる電力が制限される。要素の変化幅自体は潮流計算等によって事前に求められてもよい。
【0034】
【数6】
【0035】
式(12)は、発電機の出力の上下限制約を示す図である。発電機が停止している場合、x =0であるため、p =0となる。p minは発電機iの出力の下限であり、p maxは発電機iの出力の上限である。
【0036】
【数7】
【0037】
式(13)は、発電機の出力と予備力との合計が発電機の出力の上下限の範囲内に収まることを規定する式である。qi,a は発電機予備力である。引数aは集合Aに属するものであり、AはTMSR,TMNSR,TMORの組み合わせからなる集合である。
【0038】
【数8】
【0039】
式(14)は、電力系統全体の予備力の確保量を規定する式である。q(バー) は電力系統全体で要求される予備力であり、Nrは要求される予備力の種別である。予備力の種別には、TMSR、T10、T30がある。TMSRとは、Ten-Minute Spinning Reserveの略であり、10分以内に供給できる予備力(部分負荷運転の発電機)を意味する。Akは、ATMSR={TMSR},AT10={TMSR,TMNSR},AT30={TMSR,TMNSR,TMOR}のいずれかである。TMNSRとは、Ten-Minute Non Spinning Reserveの略であり、10分以内に起動できる予備力(停止待機中の水力・火力)を意味する。TMORとは、Thirty-Minute Operating Reserveの略であり、30分以内に負荷に供給できる予備力を意味する。
【0040】
【数9】
【0041】
式(15)は、各発電機の予備力の上限を規定する式である。q(バー)i,K は発電機iの予備力の上限である。ある発電機について、その発電機の予備力の構成要素であるTMSR,TMNSR,TMORの合計値は、予備力上限より小さい必要がある。
【0042】
【数10】
【0043】
上記の考え方に従い問題生成部30により作成された数式(目的関数および制約式)は、問題データ120として記憶部100に格納される。
【0044】
前処理部40は、計画作成部50が行う処理手法に合わせて式変形を行う。例えば、計画作成部50で確率計画法を用いる場合では、複数のシナリオを作成する処理を行う。以下では、ロバスト最適化手法を用いる場合の例について記載する。
【0045】
例えば、前処理部40は、新たな変数ζ およびη を用いて、式(7)を式(16)に変形し、式(8)を式(17)に変形する。
【0046】
【数11】
【0047】
【数12】
【0048】
更に、前処理部40は、式(1)を式(18)に、式(2)~(5)を式(19)に、式(9)、(13)~(15)を式(20)に、式(10)~(12)を式(21)に、式(6)を式(22)に、それぞれ変形する。
【0049】
【数13】
【0050】
そして、前処理部40は、不確実なパラメータを含む項の式変形を行う。式(18)のwはxとrの関数、yはdとzの関数であり、wはyの関数ではない。需要d および再生可能エネルギーの出力z は変動を含む不確実なパラメータであるため、これらが如何なる変動範囲であっても解を満たすためには、まずはコストが最大となるbyを求める必要があるため、前処理部40は、式(18)を式(23)に変形する。更に、yはw、ζ、ηの変数でもあるため、wを固定したときの最小コストを求めるために、式(24)の第2項を解けばよい。このため、前処理部40は、式(23)を式(24)に変形する。なお、式(25)は制約式をまとめたものである。
【0051】
【数14】
【0052】
【数15】
【0053】
計画作成部50は、ロバスト最適化法、確率計画法、遺伝的アルゴリズム等の手法を用いて計画データ130を作成し、記憶部100に記憶させる。計画データ130は、目的関数を最小化するパラメータの集合である。
【0054】
出力部60は、計画作成部50により作成された計画データ130に応じて、通信等を用いて直接指示を行うか、もしくは動作スケジュールを送信する。
【0055】
以上説明した第1の実施形態によれば、不確実性を持つパラメータを考慮しながら、再生可能エネルギーの出力抑制を含む計画を作成することができる。
【0056】
(第2の実施形態)
以下、第2の実施形態について説明する。第2の実施形態において、前処理部40は、ロバスト最適化手法のための式変形を行い、計画作成部50は、ロバスト最適化手法を用いて計画データ130を作成する。
【0057】
式(24)に関連した最適解を式(26)で定義する。式(26)は、w、ζ、ηが固定された場合における経済的なディスパッチコストを表している。再生可能エネルギーの発電量が大きければ発電機による発電量が減り発電コストが小さくなり、需要が少なければ発電コストが小さくなることから、それらの場合はワーストケースにはならないと考えられる。そのため、ワーストケースはζ、ηが共にゼロ以上の場合に現れると仮定できる。このため、不確実性集合を式(27)のように簡略化することができる。
【0058】
【数16】
【0059】
【数17】
【0060】
式(27)に対して双対定理を適用することで、式(28)が得られる。a(小さい丸)bは、a、bのそれぞれと同じ要素数のベクトルであり、各ベクトルのi番目の要素についてa・bを算出することで求められる(要素積)。
【0061】
【数18】
【0062】
maxζ,ηS(w,ζ,η)の最適値をR(w)とすると、R(w)は式(29)で表される。
【0063】
【数19】
【0064】
式(29)は双線形の最適化問題であるため、前処理部40は、以下の点を考慮して式(29)を線形計画問題に変形する。集合D×Zの端点上に最適解ζ*、η*が存在することが証明できることから、各wについて、バイナリベクトルで表される最適解ζ*、η*が存在する。特に、目的関数R(w)中の多重線形の項は連続の変数とバイナリ変数(ζまたはη)との積で表される部分があり、正の連続変数κとバイナリ変数βの積であるκβに書き直すことができる。これを、式(30)で示される線形の制約条件を満たすような新たな変数ν=κβを導入することによって線形化できる。ただし、κはκの上限値である。このように、Sにν=κβを代入することで、R(w)を線形問題として扱うことができる。
【0065】
【数20】
【0066】
計画作成部50は、例えば、ベンダーズ分解法等の手法を用いて、メインプロブレム(外側のmin)とサブプロブレム(内側のmax)の繰り返し計算を行うことで解を求め、計画データ130を作成する。
【0067】
図3、4は、一例として、再生エネを用いない発電機2台、再生エネを用いた発電機2台、時間コマ数が1~24のときの解のイメージを表す図である。
【0068】
以上説明した第2の実施形態によれば、再生可能エネルギー抑制をコスト関数とし、需要及び再生可能エネルギーの発電電力が入力条件として設定した範囲内で如何なる値をとった場合においても、コストが最小となる再生可能エネルギー抑制指令と発電機運転指令を与えることができる。
【0069】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、対象とする電力系統に関するデータであって、電力の需要実績を示す第1データ(第1実績データ110)、再生可能エネルギーによる発電実績を示す第2データ(第2実績データ112)、発電機の諸元を示す第3データ(発電機データ114)、および電力系統の状態を示す第4データ(系統データ116)をそれぞれ取得する取得部10と、第1データと前記第2データのそれぞれに基づいて、統計的に取り得る範囲を示す予測データを生成する第1生成部(第1不確実性集合生成部20、第2不確実性集合生成部22)と、予測データの示す範囲と、第3データおよび第4データが示す機能上の制約を含む制約式を満たし、少なくとも再生可能エネルギーの抑制をコストとした目的関数の値を所望の値に近づける問題を解くことで、発電機の運転計画を作成して記憶部100に記憶させる第2生成部(問題生成部30、前処理部40、計画作成部50)とを持つことにより、不確実性を持つパラメータを考慮しながら、再生可能エネルギーの出力抑制を含む計画を作成することができる。
【0070】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0071】
1…運転計画作成装置、10…取得部、20…第1不確実性集合生成部、22…第2不確実性集合生成部、30…問題生成部、40…前処理部、50…計画作成部、60…出力部、100…記憶部、110…第1実績データ、112…第2実績データ、114…発電機データ、116…系統データ、120…問題データ、130…計画データ
図1
図2
図3
図4