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特許7493945培養組織の観察方法、培養方法、評価方法及び培養器具
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-24
(45)【発行日】2024-06-03
(54)【発明の名称】培養組織の観察方法、培養方法、評価方法及び培養器具
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/34 20060101AFI20240527BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20240527BHJP
【FI】
C12M1/34 D
C12Q1/02
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020011649
(22)【出願日】2020-01-28
(65)【公開番号】P2021114957
(43)【公開日】2021-08-10
【審査請求日】2022-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000113470
【氏名又は名称】ポーラ化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137338
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 朋子
(74)【代理人】
【識別番号】100196313
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 大輔
(72)【発明者】
【氏名】大石 貴矢
【審査官】鳥居 敬司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/093961(WO,A1)
【文献】特開2014-147342(JP,A)
【文献】特開2012-247284(JP,A)
【文献】国際公開第2017/222065(WO,A1)
【文献】特開2009-210433(JP,A)
【文献】特表2018-524019(JP,A)
【文献】特表2014-503466(JP,A)
【文献】特表2007-518792(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0315309(US,A1)
【文献】特開2012-235921(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-1/42
C12Q 1/00-1/70
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体組織及び/又は細胞含有固形組成物である培養対象の観察方法であって、
表裏方向を貫く貫通孔を有する培養台に、前記培養対象を載置し、前記貫通孔を通じて前記培養対象に培養液を接触させて培養する培養工程と、
以下の(a)又は(b)による観察工程と、
を含み、
前記培養台は、前記培養対象を載置するための平面を有し、前記平面の表裏方向を貫くように前記貫通孔が設けられており、
前記培養工程において、前記培養対象を前記平面の上、かつ、前記貫通孔の直上に載置し、
前記貫通孔の直径が1mm以上、かつ、前記平面に載置する培養対象が落ちない大きさであることを特徴とする、観察方法。
(a)倒立顕微鏡により、前記貫通孔を通じて、前記培養台に載置された前記培養対象を観察する。
(b)前記貫通孔を通じて、前記培養台に載置された前記培養対象に、下方より光源からの光を照射し、正立顕微鏡により該培養対象を観察する。
【請求項2】
前記培養工程において、前記培養台上における前記培養対象の位置を保持した状態で、前記培養対象を培養し、
前記観察工程を経時的に行うことを特徴とする、請求項1に記載の観察方法。
【請求項3】
培養工程が、培養液貯留容器の内部に設けられた前記培養台に培養対象を載置し、培養液貯留容器に貯留された前記培養液が、前記貫通孔を通じて前記培養対象に接触するようにして、前記培養対象を培養する工程であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の観察方法。
【請求項4】
前記培養工程が、
前記培養対象と、
前記培養対象と共培養する共培養対象と、
を培養することを含み、
前記培養対象は、前記培養台に載置されて培養され、
前記共培養対象は、前記培養液貯留容器に貯留された培養液中で培養され、
前記共培養対象は、細胞及び/又は生体組織であることを特徴とする、請求項3に記載の観察方法。
【請求項5】
前記培養対象が、皮膚組織であることを特徴とする、請求項1~4の何れか一項に記載の観察方法。
【請求項6】
前記培養対象が、細胞及び/又は生体組織が包埋されたゲル組成物であることを特徴とする、請求項1~4の何れか一項に記載の観察方法。
【請求項7】
前記培養工程において、少なくとも前記培養対象の上部表面が前記培養液に触れない状態に置いて、前記培養対象を培養することを特徴とする、請求項1~6の何れか一項に記載の観察方法。
【請求項8】
前記培養対象を前記培養台に載置した状態で、前記培養対象を染色する染色工程を含み、
前記染色工程の後に前記観察工程を行い、
前記観察工程において、前記培養対象の染色像を観察することを特徴とする、請求項1~7の何れか一項に記載の観察方法。
【請求項9】
前記染色工程において、前記培養対象が載置された培養台を染色液が貯留された容器に置き、前記貫通孔を通じて前記染色液を前記培養対象に接触させることにより、前記培養対象を染色することを特徴とする、請求項8に記載の観察方法。
【請求項10】
請求項1~9の何れか一項に記載の観察方法により、試験対象が培養対象に与える影響を評価する方法であって、
前記培養対象に試験対象を付与する付与工程と、前記培養工程と、前記観察工程と、を
含み、
前記付与工程の後、任意の期間の前記培養工程を経た後に、前記観察工程を行い、該観察工程における観察結果に基づき、前記試験対象が前記培養対象に与える影響を評価することを特徴とする、評価方法。
【請求項11】
前記培養工程において、保持手段により、前記培養台上における前記培養対象の位置を保持した状態で、前記培養対象を培養し、
前記付与工程の前又は直後にも、前記観察工程を行い、
前記付与工程の前又は直後の前記観察工程における観察結果と、前記任意の期間の前記培養工程を経た後の前記観察工程における観察結果と、に基づき、前記試験対象が前記培養対象に与える影響を評価することを特徴とする、請求項10に記載の評価方法。
【請求項12】
前記培養対象が皮膚組織であり、
前記付与工程において前記試験対象を前記皮膚組織に塗布することを特徴とする、請求項10又は11に記載の評価方法。
【請求項13】
生体組織及び/又は細胞含有固形組成物である培養対象の培養方法であって、
表裏方向を貫く貫通孔を有する培養台に、前記培養対象を載置し、前記貫通孔を通じて前記培養対象に培養液を接触させて培養することを含み、
前記培養台は、前記培養対象を載置するための平面を有し、前記平面の表裏方向を貫くように前記貫通孔が設けられており、
前記培養対象は前記平面の上、かつ、前記貫通孔の直上に載置され、
前記貫通孔の直径が1mm以上、かつ、前記平面に載置する培養対象が落ちない大きさであることを特徴とする、培養方法。
【請求項14】
生体組織及び/又は細胞含有組織である培養対象を載置し培養するための、表裏方向を貫く貫通孔を有する培養台を備え、
前記培養台は、前記培養対象を載置するための平面を有し、前記平面の表裏方向を貫くように前記貫通孔が設けられており、
前記培養対象が前記平面の上、かつ、前記貫通孔の直上に載置されるように構成されており、
前記貫通孔の直径が1mm以上、かつ、前記平面に載置する培養対象が落ちない大きさであることを特徴とする、培養器具。
【請求項15】
前記培養台上における前記培養対象の位置を保持するための保持手段を備えることを特徴とする、請求項14に記載の培養器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は組織培養技術に関する。
【背景技術】
【0002】
培養細胞に候補物質を曝露させ、その培養細胞の動態変化を指標に医薬品や化粧品、健康食品の有効成分となる物質をスクリーニングする方法が広く実施されている(例えば特許文献1)。培養細胞を使用したスクリーニング方法は簡便に実施できるというメリットがあるが、その試験環境は実際の生体内環境との差異が大きいというデメリットもある。
【0003】
可能な限り生体環境に近い環境でスクリーニングを実施するため、組織を使用する方法が知られている。生体より採取した組織や人工的に作製した組織を候補物質に暴露することにより、より生体に近い環境でのスクリーニングが可能になる(例えば特許文献2)。
【0004】
ところで細胞や組織をカルチャーインサートと呼ばれる器具を使用して培養する方法が知られている。これは微小孔を有する培養台上に細胞等を播種し、該微小孔より培養液を細胞等に供給して培養する方法である。カルチャーインサートを用いると、組織の上表面は空気に触れさせ、底面は培養液に触れた状態で組織培養(気相液相界面培養)ができるため、特に皮膚組織培養に有効である。
【0005】
特許文献3には微小孔を有する細胞培養シートの上で組織を培養する技術が開示されている。特許文献4にはカルチャーインサートを使用して皮膚組織を培養し、乾燥状態を評価する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2019-007759号公報
【文献】特開2017-169540号公報
【文献】特開2014-147342号公報
【文献】特開2012-247284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
カルチャーインサートを用いて培養されている組織を倒立顕微鏡で観察する場合、顕微鏡の光路がカルチャーインサートの培養台を通過することとなる。しかし、微小孔の影響により光が散乱され、光透過率が低下するという問題があった。特許文献3のように微小孔の孔径を大きくすれば光透過率が向上する傾向にはあるものの、全波長領域において光透過率100%を実現することはできていない。
【0008】
また、培養皿に培養液を貯留し、そこに培養組織を置いて培養する方法においては、培養組織が培養液に漂い移動してしまうため、組織中の特定の箇所を経時的に観察することが非常に難しいという問題があった。
【0009】
本発明の解決しようとする課題は、組織培養における新規の観察評価系を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する本発明は、生体組織及び/又は細胞含有固形組成物である培養対象の観察方法であって、
表裏方向を貫く貫通孔を有する培養台に、前記培養対象を載置し、前記貫通孔を通じて前記培養対象に培養液を接触させて培養する培養工程と、
以下の(a)又は(b)による観察工程と、
を含むことを特徴とする、観察方法である。
【0011】
(a)倒立顕微鏡により、前記貫通孔を通じて、前記培養台に載置された前記培養対象を観察する。
(b)前記貫通孔を通じて、前記培養台に載置された前記培養対象に、下方より光源からの光を照射し、正立顕微鏡により該培養対象を観察する。
【0012】
本発明は、培養台に表裏方向を貫く貫通孔が設けられていることを特徴とする。培養対象にはこの貫通孔を通じて培養液が供給される。また、倒立顕微鏡ないし正立顕微鏡で培養対象を観察する際に、その光路が培養台により遮られることが無く貫通孔を通過するため、より明瞭に培養対象を観察することができる。
【0013】
本発明の好ましい形態では、前記培養工程において、前記培養台上における前記培養対象の位置を保持した状態で、記培養対象を培養し、
前記観察工程を経時的に行う。
このように培養対象の位置を保持しながら培養対象を培養することにより、培養対象が培養液に漂って移動することが無いため、培養対象の特定の位置を経時的に観察することができ、その形態変化等を評価し易くなる。
【0014】
本発明の好ましい形態では、前記貫通孔の直径が1mm以上である。
貫通孔の直径を1mm以上とすることにより、顕微鏡の光路を十分に確保することができる。
【0015】
本発明の好ましい形態では、培養工程が、培養液貯留容器の内部に設けられた前記培養台に培養対象を載置し、培養液貯留容器に貯留された前記培養液が、前記貫通孔を通じて前記培養対象に接触するようにして、前記培養対象を培養する工程である。
このように培養台をいわばカルチャーインサートの構造のごとく構成することにより、簡便な培養と観察が可能になる。
【0016】
本発明の好ましい形態では、前記培養液貯留容器に貯留された培養液中で、細胞及び/又は生体組織である共培養対象の培養を行う。
かかる形態によれば、共培養対象が培養対象に与える影響を評価することができる。
【0017】
本発明の好ましい形態では、前記培養対象が、皮膚組織である。
本発明は皮膚組織の培養及びその観察評価系に適している。
【0018】
本発明の好ましい形態では、前記培養対象が、細胞及び/又は生体組織が包埋されたゲル組成物である。
本発明はゲル組成物に包埋された細胞や生体組織の観察に適している。
【0019】
本発明の好ましい形態では、前記培養工程において、少なくとも前記培養対象の上部表面が前記培養液に触れない状態に置いて、前記培養対象を培養する。
かかる形態はいわば気相液相界面培養である。本形態は、皮膚組織のような気相と液相に極性をもって接する組織の培養及びその観察評価に適している。
【0020】
本発明の好ましい形態では、前記培養対象を前記培養台に載置した状態で、前記培養対象を染色する染色工程を含み、
前記染色工程の後に前記観察工程を行い、
前記観察工程において、前記培養対象の染色像を観察する。
かかる形態によれば、簡便に培養対象を染色観察することができる。
【0021】
本発明の好ましい形態では、前記染色工程において、前記培養対象が載置された培養台を染色液が貯留された容器に置き、前記貫通孔を通じて前記染色液を前記培養対象に接触させることにより、前記培養対象を染色する。
このような形態とすることにより、より簡便に培養対象の染色が可能になる。
【0022】
本発明は上述の観察方法により、試験対象が培養対象に与える影響を評価する方法にも関する。
本発明の評価方法は、前記培養対象に試験対象を付与する付与工程と、前記培養工程と、前記観察工程と、を含み、
前記付与工程の後、任意の期間の前記培養工程を経た後に、前記観察工程を行い、該観察工程における観察結果に基づき、前記試験対象が前記培養対象に与える影響を評価することを特徴とする。
【0023】
本発明の好ましい形態では、前記培養工程において、保持手段により、前記培養台上における前記培養対象の位置を保持した状態で、記培養対象を培養し、
前記付与工程の前又は直後にも、前記観察工程を行い、
前記付与工程の前又は直後の前記観察工程における観察結果と、前記任意の期間の前記培養工程を経た後の前記観察工程における観察結果と、に基づき、前記試験対象が前記培養対象に与える影響を評価する。
【0024】
このような形態の本発明によれば、培養台の貫通孔を通じて培養対象の特定の位置を経時的に観察できるため、より正確な評価が可能になる。
【0025】
本発明の好ましい形態では、前記培養対象が皮膚組織であり、
前記付与工程において前記試験対象を前記皮膚組織に塗布する。
かかる形態の本発明によれば、生体適用する条件に近い条件でのスクリーニングが可能になり、より高精度に候補物質の絞り込みができる。
【0026】
本発明は培養方法にも関する。
本発明の培養方法は、生体組織及び/又は細胞含有固形組成物である培養対象の培養方法であって、
表裏方向を貫く貫通孔を有する培養台に、前記培養対象を載置し、前記貫通孔を通じて前記培養対象に培養液を接触させて培養することを特徴とする。
【0027】
また、本発明は培養器具にも関する。
本発明の培養器具は、生体組織及び/又は細胞含有組織である培養対象を載置し培養するための、表裏方向を貫く貫通孔を有する培養台を備えることを特徴とする。
【0028】
本発明の好ましい形態では、前記培養台上における前記培養対象の位置を保持するための保持手段を備える。
かかる形態の本発明は、培養台上の位置を保持しながら培養対象を培養することができ、経時的な観察を要する培養系に有利である。
【0029】
本発明の好ましい形態では、前記貫通孔の直径が1mm以上である。
貫通孔の直径を1mm以上とすることにより、顕微鏡観察の際の光路を十分に確保することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、顕微鏡の光路が培養台を通過せず、貫通孔を通じて培養対象を観察することができるため、より明瞭に培養対象を観察評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の培養器具の模式図である。
図2】本発明の培養器具の断面図である。
図3】培養液貯留容器に培養台を設置するための突起部を備える本発明の培養器具の実施形態を示す断面図である。
図4】貫通孔の周囲に周設された凸部により培養対象を保持する保持手段を有する本発明の培養器具の実施形態を示す断面図である。
図5】培養対象を保持するための錘を備える本発明の培養器具の実施形態を示す断面図である。
図6】本発明の培養器具で培養する培養対象を落射型の倒立顕微鏡で観察する際の光路(白抜き矢印)を示す断面模式図である。
図7】本発明の培養器具で培養する培養対象を透過型の倒立顕微鏡で観察する際の光路(白抜き矢印)を示す断面模式図である。
図8】本発明の培養器具で培養する培養対象を透過型の正立顕微鏡で観察する際の光路(白抜き矢印)を示す断面模式図である。
図9】染色工程を含む本発明の観察方法の実施形態を示すフローチャートである。
図10】本発明の評価方法の実施形態を示すフローチャートである。Aは付与工程の前に観察工程を行う実施形態を表す。Bは付与工程の直後に観察工程を行う実施形態を表す。
図11】脂肪由来幹細胞と共培養した脂肪組織の3次元染色画像を示す。上段が培養工程前の観察工程で得られた染色像であり、下段が培養工程後の観察工程で得られた染色像である。左はフィブロネクチンの染色像であり、右はI型プロコラーゲンの染色像を示す。
図12】脂肪由来幹細胞と共培養せずに培養した比較対象の脂肪組織の3次元染色画像を示す。上段が培養工程前の観察工程で得られた染色像であり、下段が培養工程後の観察工程で得られた染色像である。左はフィブロネクチンの染色像であり、右はI型プロコラーゲンの染色像を示す。
図13】従来のカルチャーインサートで培養する培養対象を落射型の倒立顕微鏡で観察する際の光路(白抜き矢印)を示す断面模式図である。
図14】従来のカルチャーインサートで培養する培養対象を透過型の倒立顕微鏡で観察する際の光路(白抜き矢印)を示す断面模式図である。
図15】従来のカルチャーインサートで培養する培養対象を透過型の正立顕微鏡で観察する際の光路(白抜き矢印)を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図1~10を適宜参照しながら本発明の実施の形態を説明する。しかし、本発明の技術的範囲は以下に説明する具体的な実施形態に限定されないことは言うまでもない。
また、公知技術であるカルチャーインサートによる組織培養技術の模式図を図13図15に示し、本発明と適宜対比しながら説明する。
【0033】
<1>培養器具
本発明の培養器具は培養台10を備える。培養台10には貫通孔11が設けられている。貫通孔11は、これを通じて顕微鏡観察するためのものであり、従来のカルチャーインサートの培養台(メンブレン)に設けられている微小孔とは孔径が全く異なるものである。
【0034】
具体的に貫通孔11の孔径は、好ましくは0.1mm以上、より好ましくは0.3mm以上、より好ましくは0.5mm以上、より好ましくは0.8mm以上、さらに好ましくは1mm以上、さらに好ましくは1.5mm以上、さらに好ましくは2mm以上、さらに好ましくは2.5mm以上である。
【0035】
貫通孔11の孔径の上限値は、載置する培養対象3が落ちない程度であればよく、特に限定されない。例えば3cm以下、より好ましくは1cm以下が目安として挙げられる。
【0036】
培養台10に設ける貫通孔11の数は限定されず、1個または2個以上を任意に選択することができる。
【0037】
培養台10は貫通孔11が設けられている構成が必須であるが、その他の構成は特に制限されない。
例えば培養台10には、貫通孔11の他に複数の微小孔を設けてもよい。微小孔の孔径は好ましくは0.01~20μmであり、より好ましくは0.1~10μmである。
このような実施の形態の培養台10は、市販のカルチャーインサートに貫通孔11を穿つことで製造することもできる。
【0038】
培養台10の周縁には壁部12を周設することが好ましい(図1図5)。これにより、培養台10の周囲から培養液4が溢れて培養対象3が流されてしまうことを防ぐことができる。
【0039】
培養台10は培養液貯留容器2の内部に設ける形態とすることが好ましい(図1図5)。培養液貯留容器2は培養液4を貯留できればその形態は特に限定されない。
後述する培養液貯留容器2の内部で共培養対象を培養する形態とする場合には、培養液貯留容器2は細胞培養に適した形態であることが好ましい。
培養液貯留容器2として、通常の培養操作に用いる培養皿や複数のウェルを備える培養プレートを使用しても良い。
【0040】
図1に示すように、培養台10と培養液貯留容器2は取り外し可能に構成することが好ましい。市販の培養皿・培養プレートは規格化されているため、その規格に合わせて培養台10のサイズ等を調整すれば、培養台10を培養液貯留容器2とは別売りとして販売することができる。
【0041】
図1及び図2に示す実施形態では、培養台10の下底に脚部13が設けられている。これにより、培養液貯留容器2の下底から貫通孔11までの高さが確保され、培養液4の貯留が可能となる。
【0042】
脚部13の代わりに培養台10の壁部12の縁に突起部14を設ける実施形態としてもよい。突起部14を培養液貯留容器2の縁に架け、培養台10を培養液貯留容器2に横架することにより、培養液貯留容器2の下底から貫通孔11までの高さが確保され、培養液4の貯留が可能となる(図3)。
【0043】
培養液貯留容器2の壁内面にアジャスターを上下方向に延設し、そのアジャスターに突起部14を掛合させる形態とすることも好ましい(図示なし)。このようにアジャスターに沿って突起部14を上下方向に摺動可能に構成すれば、培養液貯留容器2の下底から貫通孔11までの高さを任意に調節することができる。
【0044】
培養台10及び培養液貯留容器2ともに透明材料で構成することが好ましい。例えば、ガラスや合成樹脂などが挙げられる。合成樹脂としては、ETFE(テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体)、FEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、HDPE(高密度ポリエチレン)、LDPE(低密度ポリエチレン)、PC(ポリカーボネート)、PETG(グリコール変性ポリエステル)、PFA(四フッ化エチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合体)、PMMA(ポリメタクリル酸メチル)、PMP(ポリメチルペンテン)、PP(ポリプロピレン)、PS(ポリスチレン)、PSF(ポリサルホン)、PUR(ポリウレタン)、硬質PVC(塩化ビニール)、軟質PVC(塩化ビニール)、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)シリコン、TPE(熱可塑性エラストマー)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等を例示することができる。
【0045】
培養液貯留容器2に培養液4の灌流機構を設けても良い。すなわち、培養液貯留容器2の内部に培養液4を供給する培養液供給手段と、培養液貯留容器2から培養液4を排出する培養液排出手段を設けても良い(図示なし)。
この場合、灌流機構は自動制御されていることが好ましい。
【0046】
培養器具は、培養台10上における培養対象3の位置を保持するための保持手段を有していても良い。
保持手段の具体的な態様は特に限定されず、培養台10と一体である構成を採用してもよいし、培養台10とは別体の部材を採用してもよい。
【0047】
図4に培養台10の構成自体が保持手段を備えている形態を示す。図4の培養台10においては、貫通孔11から一定の距離を置いて凸部151が周設されている。凸部151が培養対象3の平面方向の移動を制限する。
【0048】
図5に培養台10とは別体の保持手段を備える形態を示す。図5に示す保持手段は培養対象3の上に載せるための錘152である。錘152により培養対象3の動きが制限され、培養台10における位置を保持しながら培養することができる。
【0049】
培養対象3を保持することができれば錘152の形態は特に制限されない。
正立顕微鏡又は透過型の倒立顕微鏡によって培養対象3を観察可能にするため、錘152は前記顕微鏡の光路を遮断しない形態であることが好ましい。顕微鏡の光路を確保する観点では、錘152は透明部材で構成されているか、または貫通孔を有する形態であることが好ましい。
また、気相液相界面培養を行う場合には、培養対象3と気相との接触を確保するため、錘152は貫通孔を有する形態であることが好ましい。
貫通孔を有する錘152の具体的な構造としては、ドーナツ型構造や網状構造が挙げられる。
【0050】
<2>培養方法
<2-1>培養対象
本発明の培養対象3は、生体組織と細胞含有固形組成物である。ヒト、動物及び植物の何れの種に由来するものであっても本発明を適用することができる。
培養液4は培養対象3の種類により適宜選択する。
【0051】
生体組織はヒト、動物又は植物の細胞の集合体である。生体組織には、生体より採取した組織と人工的に製造した組織のいずれもが含まれる。
本発明を適用可能なヒト又は動物の生体組織としては、上皮組織、結合組織、筋組織、神経組織の何れもが挙げられ、より具体的には皮膚組織、骨組織、軟骨組織などが挙げられる。
本発明は気相液相界面培養に適しているため、皮膚組織の培養に応用することが好ましい。
【0052】
細胞含有固形組成物とは、ヒト、動物又は植物の細胞若しくは生体組織を含む組成物であり、固形のものを指す。具体的には、細胞や生体組織がゼラチンや寒天に包埋されたゲル組成物が挙げられる。
ゲル組成物に包埋する細胞は培養細胞や生体より採取した細胞が挙げられ、その種類は限定されない。またゲル組成物に包埋する生体組織には生体より採取した組織と人工的に製造した組織のいずれもが含まれる。
【0053】
培養対象3の大きさは貫通孔11より落下しない大きさであれば特に限定されない。具体的には培養対象3の最大径が、貫通孔11の孔径よりも大きければよい。
培養対象3の厚みも顕微鏡観察に支障がない範囲で任意に選択することができる。
【0054】
<2-2>培養方法
本発明の培養方法の特徴は、貫通孔11を通じて培養対象3に培養液4を供給する点にある(図1~5)。培養対象3に培養液4を接触させるため、少なくとも培養液4の液面が貫通孔11の上部開口面にまで達している必要がある。
図1~5に示した実施形態においては、培養液貯留容器2に貯留する培養液4の液量を調整することにより、前記構成を容易に実現することができる。
【0055】
貫通孔11を通じて培養対象3に培養液4を供給するため、培養対象3は貫通孔11の直上に載置することが好ましい。
【0056】
図1~5に示した実施形態では、貫通孔11の上部開口面と、培養液貯留容器2における培養液4の液面が等しい。
本発明においてはこの実施形態に限定されず、貫通孔11の上部開口面よりも、培養液貯留容器2における培養液4の液面の方が上方に位置していても良い。この場合には、貫通孔11より培養液4が培養台10上に溢れ出るため、図5に示すように培養対象3の上に錘152を載置することが好ましい。
【0057】
培養液貯留容器2に貯留された培養液4の中で共培養対象の培養を行っても良い(図示なし)。共培養対象は細胞と生体組織の何れもが採用できる。
共培養する培養対象3と共培養対象の組合せは特に限定されない。共培養対象の分泌物が培養対象3に形態変化や分化、培養・成長促進の影響を与えることが公知である何れの組合せを採用しても良い。
また、共培養対象が培養対象3に与える影響、又は培養対象3が共培養対象に与える影響が非公知である組合せを採用しても良い。この場合には、本発明の評価方法により、共培養対象が培養対象3に与える影響、または培養対象3が共培養対象に与える影響を観察評価することができる。
【0058】
培養液貯留容器2の中での共培養対象の培養態様は特に限定されない。培養液貯留容器2の底面で付着培養する形態であってもよいし、培養液貯留容器2に貯留された培養液4中で浮遊培養する形態であってもよい。浮遊培養をする実施形態とする場合には、培養液貯留容器2の内部に攪拌羽を設けることもできる。
【0059】
<3>観察方法
本発明の観察方法は、培養工程と観察工程を備える。培養工程の実施形態については、上述の培養方法の実施形態の説明がそのまま妥当する。
【0060】
観察工程は倒立顕微鏡又は正立顕微鏡により行う。具体的には以下の(a)又は(b)の形態により行う。
(a)倒立顕微鏡により、前記貫通孔を通じて、前記培養台に載置された前記培養対象を観察する。
(b)前記貫通孔を通じて、前記培養台に載置された前記培養対象に、下方より光源からの光を照射し、正立顕微鏡により該培養対象を観察する。
【0061】
(a)の倒立顕微鏡を使用する本発明の実施形態としては、落射型顕微鏡を用いる実施形態(図6)と、透過型顕微鏡を用いる実施形態(図7)とが挙げられる。
【0062】
落射型倒立顕微鏡を用いる形態においては、光源51からの光を培養対象3に照射し、培養対象3から反射する光を対物レンズ50により補足し観察する(図6)。落射型倒立蛍光顕微鏡の場合には、光源51から励起光を培養対象3に照射し、培養対象3から発する蛍光を対物レンズ50により補足し観察する(図6)。
【0063】
従来のカルチャーインサート上の培養対象3を落射型倒立顕微鏡で観察する場合には、図13に示すように、光源51からの光、並びに培養対象3からの反射光又は蛍光が、メンブレン6を通過する。つまり、顕微鏡観察に係る光路にメンブレン6が存在するため、顕微鏡像の明瞭度はメンブレン6の光透過率に依存することになる。特許文献3に記載のように、メンブレン6に形成された微小孔の孔径が大きくなれば光透過率が大きくなる傾向はあるものの、全波長領域において光透過率を100%にすることはできない。
【0064】
一方で、本発明の観察方法においては、培養台10に貫通孔11が空いているため、光源51からの光、並びに培養対象3からの反射光又は蛍光の光路上に培養台10が存在しない(図6)。つまり、従来のカルチャーインサート(図13)と比較して光のロスが大幅に低減されており、より明瞭な顕微鏡像を得ることができる。
【0065】
この効果は本発明を透過型倒立顕微鏡での観察に適用した場合にも得られる(図7)。図7に示すように、透過型倒立顕微鏡で観察する本発明の実施形態においては、光源51からの光が貫通孔11を通過して対物レンズ50に到達する。つまり、光源51の光路上に培養台10が存在しない。したがって、従来のカルチャーインサート上の培養対象3を落射型倒立顕微鏡で観察する形態(図14)に比べ、光のロスが大幅に低減されており、より明瞭な顕微鏡像を得ることができる。
【0066】
次に(b)の正立顕微鏡を使用する本発明の実施形態について説明する(図8)。この実施形態における顕微鏡は透過型正立顕微鏡である。
図8に示すように、透過型正立顕微鏡で観察する本発明の実施形態においては、光源51からの光が貫通孔11を通過して対物レンズ50に到達する。つまり、光源51の光路上に培養台10が存在しない。したがって、従来のカルチャーインサート上の培養対象3を透過型正立顕微鏡で観察する形態(図15)に比べ、光のロスが大幅に低減されており、より明瞭な顕微鏡像を得ることができる。
【0067】
以上、説明したように、(a)の形態(落射型倒立顕微鏡若しくは透過型倒立顕微鏡を使用する形態)又は(b)の形態(透過型正立顕微鏡を使用する形態)で観察工程を実施することにより、従来のカルチャーインサート上で培養される培養対象3を観察する形態よりも明瞭な顕微鏡像を得ることができるという有利な効果が奏される。
なお、本発明の培養方法で培養される培養対象3を落射型正立顕微鏡で観察しても問題は無い。
【0068】
通常の組織培養においては、培養液が貯留された培養皿に培養対象を置いて培養を行う。この場合、培養対象が培養液に漂い移動し、培養過程において培養対象を一定の位置に留めることが非常に難しい。そのため、培養対象の特定の箇所に着目して経時的に観察することが非常に困難である。
このような問題を解決するために、上述した保持手段を備える実施形態の培養器具(図4及び図5)を用いて、本発明の観察方法を実施することが好ましい。
【0069】
保持手段により培養台10上における培養対象3の位置を保持した状態で培養を行えば、培養対象3の特定の箇所に着目して経時的に観察することができる。培養過程の複数の異なる時点において培養対象3の特定の箇所を顕微鏡撮影し、それぞれの時点での顕微鏡像を比較することで、培養過程において培養対象3がどのように変化したのか、または変化しなかったのかを極めて高精度に評価することが可能となる。
【0070】
経時的に撮影した顕微鏡像の比較方法の態様は特に限定されない。例えば、異なる複数の時点における顕微鏡像に共通して表れた任意の特徴的部分を基準点として設定し、その基準点が一致するように複数の顕微鏡像を重ねる。このように基準点が合致するように複数の顕微鏡像を重ねて比較検討する方法により、より高精度な評価が可能となる。
【0071】
基準点の設定方法は特に限定されない。
基準点は好ましくは2以上、より好ましくは3以上設定する。
また、焦点面を少しずつずらして取り込んだ顕微鏡像を再構成して生成した3次元画像顕微鏡像(Zスタック画像)を取得し、複数の基準点を同一平面ではなく3次元的に分散させて設定することも好ましい。
基準点を合致させた上での複数顕微鏡像の重ね合わせは、公知の顕微鏡画像処理ソフトにより容易に実行することができる。
【0072】
本発明においては、培養対象3を染色する染色工程を含むことが好ましい。この場合、観察工程においては、培養対象3の染色像を観察する。
染色方法は特に限定されず、公知の何れの方法をも使用することができる。生きていない組織等を染色するin vitro染色と、生きている組織等を染色するin vivo染色の何れであっても採用することができる。
培養工程に供されている培養対象3を経時的に観察する場合には、in vivo染色を採用することが好ましい。
抗体の選択により任意の抗原を染色できることから、免疫染色を採用することが好ましい。
【0073】
培養対象3を培養台10に載置した状態で染色する実施形態とすることが好ましい。
例えば、培養液貯留容器2から、培養対象3が載置された状態の培養台10を取り出し、これを染色液が貯留された容器の内部に置き、培養対象3を染色する実施の形態が挙げられる。この場合、貫通孔11を通じて培養対象3に染色液が接触することとなる。
【0074】
この場合、培養液4に染色剤を添加し、これを染色液とすることが好ましい。例えば、免疫染色をする場合にあっては、染色用の抗体を添加した培養液4を染色液とし、これを培養対象3に接触させることにより染色する。かかる実施形態は、培養対象3を生きたまま染色(すなわちin vivo染色)する観点で好ましい。
【0075】
染色工程における培養対象3の洗浄も上の例にならって実施することができる。具体的にはPBSなどの洗浄液が貯留された容器の内部に培養台10を置き、貫通孔11を通じて洗浄液を培養対象3に接触させて洗浄することができる。
【0076】
図9に染色工程を含む実施形態の一例を示す。本実施形態においては、まず染色工程を実施し、観察工程において染色像を取得する。その後、任意の期間の培養工程を経た後に再び染色工程を行い、観察工程において染色像を取得する(図9)。
図9には2回目の観察工程の後に再び培養工程を行い、3回以上の観察工程を実行する形態を示しているが、もちろん観察工程は2回で留めてもよい。
【0077】
図9に示すように異なる時点の培養対象3を複数回観察することにより、培養工程における培養対象3の変化を精度よく観察評価することができる。
【0078】
図6図8においては、培養工程で使用する培養液貯留容器2に培養台10を設置したまま顕微鏡観察する形態を示すが、この形態に限られない。観察工程の際に培養台10を培養液貯留容器2とは別の観察用の容器に移し替えてもよい。
観察用の容器は透明材料で構成されていることが好ましい。また、観察工程において観察用の容器に培養液4を貯留してもよい(実質的に図6図8に示す実施の形態としてもよい)。
【0079】
<4>評価方法
本発明は試験対象が培養対象に与える影響を評価する方法にも関する。本発明の評価方法は、例えば医薬品や化粧料、健康食品の有効成分のスクリーニングや、特定の物質の毒性試験、また、純粋な生物学・医学的研究に応用することができる。
【0080】
本明細書における「試験対象」には有体物、無体物の何れもが含まれる。
例えば「試験対象」には、化学的に合成された化合物、天然物から抽出された化合物、人工的に製造した組成物、天然から抽出された抽出組成物など、化合物単体や混合物が制限なく含まれる。
また、光、ガス、電気刺激、物理的刺激などの目に見えないものも「試験対象」とすることができる。
さらには、上述した共培養における共培養対象、より具体的には共培養対象から分泌される分泌物も「試験対象」に含まれ得る。
【0081】
本発明の評価方法は付与工程と培養工程と観察工程を含む。培養工程の実施の形態については、上述した本発明の培養方法に関する説明がそのまま妥当する。また、観察工程の実施の形態については、上述した本発明の観察方法に関する説明がそのまま妥当する。
【0082】
付与工程は培養対象に試験対象を付与する工程である。付与の方法は、付与しようとする試験対象物により適宜選択できる。
【0083】
試験対象が化合物や混合物などの有体物の場合には、培養対象3に直接付与する形態と、培養液4に添加することにより培養対象3に間接的に付与する形態とが挙げられる。
直接付与する形態としては、培養対象3に試験対象を塗布、散布、注入する方法が挙げられる。培養対象3が皮膚組織である場合には、試験対象又は試験対象を含む組成物を培養対象3に塗布する形態が好ましく例示できる。
【0084】
試験対象が光の場合には、培養対象3に直接照射することで付与することが好ましい。この場合、試験の目的に合わせて照射する光の波長、強さなどを適宜設定する。この実施形態は例えば紫外線の影響評価試験などに応用することができる。
【0085】
試験対象がガスの場合には、培養系の気相を試験対象であるガスで構成することが好ましい。この形態の発明は、例えば湿気や乾燥が培養対象3に与える影響を評価したり、培養系の気相の酸素濃度が培養対象3に与える影響を評価したり、特定の気体成分が培養対象3に与える影響(薬理作用、毒性など)を評価したりすることができる。
【0086】
試験対象が電気刺激や物理的刺激の場合には、培養対象3に直接刺激を加える形態とすることが好ましい。
【0087】
試験対象が共培養対象又は共培養対象から分泌される分泌物である場合には、共培養対象が存在する培養液4が貯留された培養液貯留容器2の内部に、培養対象3が載置された培養台10を設置することをもって「培養対象に試験対象を付与した」ということができる。
なお、共培養を行いながら他の試験対象を培養対象3に付与する実施形態も、当然ながら本発明の技術的範囲に含まれる。
【0088】
図10に本発明の評価方法の実施形態をフローチャートで示す。
図10Aは、まず観察工程により培養対象3を観察し、培養対象3の初期状態を確認した後に付与工程を行い、任意の期間の培養工程を経た後の培養対象3の形態を観察工程により確認する実施形態を示している。
図10Bは、付与工程を行った直後に観察工程を行い、培養対象3の初期状態を確認した後に任意の期間の培養工程を実施し、その後の培養対象3の形態を観察工程により確認する実施形態を示している。
図10A及びBの何れの形態であっても試験対象が培養対象3に与える影響を評価することができる。
【0089】
図10A及びBには、2回目の観察工程の後に再び培養工程を行い、3回以上の観察工程を実行する形態を示すが、もちろん観察工程は2回で留めてもよい。
【0090】
観察工程は培養対象3の染色像を観察することによって行ってもよい。すなわち、図10における観察工程の前に、上述した染色工程を行ってもよい。
【実施例
【0091】
<1>脂肪組織含有ゲル組成物の調製
5%アガロース溶液を加熱溶解した後、12ウェルプレートに注入し、インキュベーター内で保温した。
市販のヒト皮膚組織から脂肪組織を切り出し、これをインキュベーター内で保温していた5%アガロース溶液に添加し、12ウェルプレートを保冷剤で上下から挟み込み冷却固化した。
冷却固化したゲル組成物を剃刀で切り、脂肪組織が表面に露出した状態で扁平状に成形することで脂肪組織含有ゲル組成物を調製した。
【0092】
<2>観察工程(1)
図1に示す壁部12及び脚部13を備える培養台10を用意した。
培養台10に設けられた貫通孔11の孔径は直径3.0mmである。壁部12、脚部13、培養台10はそれぞれ透明の合成樹脂で成形されている。また、培養台10は多孔性メンブレンであり、貫通孔11の他、全体に渡って孔径約1μmの微小孔が設けられている。
【0093】
調製した脂肪組織含有ゲル組成物を脂肪組織が露出した面を下にして、培養台10の貫通孔11の直上に載置した。脂肪組織含有ゲル組成物の上に、図5に示すように、滅菌された金属製の錘152を載置した。
【0094】
一次抗体(抗フィブロネクチン抗体及び抗I型プロコラーゲン抗体)を培養液4(DMEM)で希釈した染色液が貯留された10cmディッシュに前記培養台10を載置した。貫通孔11を通じて脂肪組織含有ゲル組成物に染色液を接触させ、16時間インキュベートした。
PBSで脂肪組織含有ゲル組成物を洗浄した後、上述の2種類の一次抗体に対する蛍光標識二次抗体を培養液4(DMEM)で希釈した染色液が貯留された10cmディッシュに前記培養台10を載置した。貫通孔11を通じて脂肪組織含有ゲル組成物に染色液を接触させ、2時間インキュベートした。
PBSで脂肪組織含有ゲル組成物を洗浄した後、培養液4(DMEM)が貯留されたガラスボトムプレートの内部に培養台10を載置し、落射型倒立共焦点蛍光顕微鏡を用いて、貫通孔11を通じて下方から脂肪組織含有ゲル組成物の3次元染色像を撮影した(図6参照)。
【0095】
<3>培養工程
培養液4(DMEM)が貯留され、共培養対象として脂肪由来幹細胞(ADMSC)が予め播種された6ウェルプレート(培養液貯留容器2)に前記培養台10を載置した。貫通孔11を通じて脂肪組織含有ゲル組成物に培養液4が接触する状態(図5に示す状態)で、7日間インキュベーター内で培養した。
なお、共培養の影響を比較評価するため、共培養対象である脂肪由来幹細胞が播種されていない6ウェルプレートにも前記培養台10を載置して同様に脂肪組織含有ゲル組成物を培養した。
【0096】
<4>観察工程(2)
上述した観察工程(1)と同様の手順で脂肪組織含有ゲル組成物を染色し、その3次元染色像を観察した。
【0097】
<5>結果
脂肪由来幹細胞と共培養した脂肪組織の染色像を図11に示し、共培養することなく培養した脂肪組織の染色像を図12に示す。図11及び図12に示すように染色像は極めて明瞭である。
【0098】
また、図11及び図12の上段と下段の染色像を比較すれば明らかなとおり、培養前と培養後における染色像は、培養対象である脂肪組織含有ゲル組成物の同一箇所の染色像である。つまり、本発明は、これまで困難であった組織の特定の箇所に着目した経時的観察を可能としている。
【0099】
図11の上段と下段の染色像を比較すると、フィブロネクチンとI型プロコラーゲンの発現量が顕著に上昇していることが容易に理解できる。これは、本発明においては経時的に同一箇所の観察が可能であることに起因する効果である。培養前後において培養対象の別の箇所を観察する場合には、これほどまでに明確な評価をすることは難しい。
【0100】
また図11図12を比較すると、脂肪由来幹細胞と共培養しない場合には、脂肪組織におけるフィブロネクチンとI型プロコラーゲンの発現量の上昇が見られないか、または共培養する場合と比較して弱いということが容易に理解できる。このような明確な評価ができるのは、経時的に同一箇所の観察が可能であることに起因する。
【0101】
以上のように本発明によれば、明瞭な顕微鏡像を得ることができ、また経時的に培養組織の同一箇所の観察が可能となる。
【符号の説明】
【0102】
10 培養台
11 貫通孔
12 壁部
13 脚部
14 突起部
151 凸部
152 錘
2 培養液貯留容器
3 培養対象
4 培養液
50 対物レンズ
51 光源
521 ダイクロイックミラー
522 光源ミラー
6 メンブレン


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15