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特許7494095抗ウイルス性塗膜形成用塗料、塗膜、及び積層フィルム
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  • 特許-抗ウイルス性塗膜形成用塗料、塗膜、及び積層フィルム 図1
  • 特許-抗ウイルス性塗膜形成用塗料、塗膜、及び積層フィルム 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-24
(45)【発行日】2024-06-03
(54)【発明の名称】抗ウイルス性塗膜形成用塗料、塗膜、及び積層フィルム
(51)【国際特許分類】
   C09D 4/02 20060101AFI20240527BHJP
   C09D 5/14 20060101ALI20240527BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20240527BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20240527BHJP
【FI】
C09D4/02
C09D5/14
C09D7/61
C09D7/63
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020192672
(22)【出願日】2020-11-19
(62)【分割の表示】P 2020538162の分割
【原出願日】2020-03-09
(65)【公開番号】P2021036053
(43)【公開日】2021-03-04
【審査請求日】2023-03-02
(31)【優先権主張番号】P 2019071701
(32)【優先日】2019-04-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000250384
【氏名又は名称】リケンテクノス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391018341
【氏名又は名称】株式会社NBCメッシュテック
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安藤 幹規
(72)【発明者】
【氏名】毛利 昌孝
(72)【発明者】
【氏名】早田 大志
(72)【発明者】
【氏名】長尾 朋和
(72)【発明者】
【氏名】中山 鶴雄
【審査官】川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】特許第6799200(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 1/00-65/48
A01P 1/00-23/00
B32B 1/00-43/00
C09D 1/00-10/00;101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)多官能(メタ)アクリレート;
(B)一価の銅化合物、及びヨウ素と周期表の第4周期から第6周期かつ8族から15族の元素とを含むヨウ化物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物
C)ポリアミン、ポリアミン構造を含有する化合物、N-置換(メタ)アクリルアミド化合物、及びN-ビニルラクタム化合物からなる群から選択される少なくとも1種のアミン化合物;ならびに
(D)レベリング剤
を含む、抗ウイルス性塗膜形成用塗料。
【請求項2】
上記成分(C)が、(C1)ポリアミン、及びポリアミン構造を含有する化合物からなる群から選択される少なくとも1種のアミン化合物を含み、ここで、該アミン化合物のアミン価が1~500mgKOH/gである、請求項1に記載の抗ウイルス性塗膜形成用塗料。
【請求項3】
(A)多官能(メタ)アクリレート100質量部;
(B)一価の銅化合物、及びヨウ素と周期表の第4周期から第6周期かつ8族から15族の元素とを含むヨウ化物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物0.1~150質量部;ならびに、
(C1)ポリアミン、及びポリアミン構造を含有する化合物からなる群から選択される少なくとも1種のアミン化合物0.1~20質量部
を含み、ここで、上記成分(C1)ポリアミン、及びポリアミン構造を含有する化合物からなる群から選択される少なくとも1種のアミン化合物のアミン価が1~500mgKOH/gである、抗ウイルス性塗膜形成用塗料。
【請求項4】
更に(D)レベリング剤0.01~3質量部を含む、請求項3に記載の抗ウイルス性塗膜形成用塗料。
【請求項5】
上記成分(C1)ポリアミン、及びポリアミン構造を含有する化合物からなる群から選択される少なくとも1種のアミン化合物のアミン価が10~200mgKOH/gである、請求項2~4の何れか1項に記載の抗ウイルス性塗膜形成用塗料。
【請求項6】
上記成分(B)一価の銅化合物、及びヨウ素と周期表の第4周期から第6周期かつ8族から15族の元素とを含むヨウ化物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物が、ヨウ化第一銅を含む、請求項1~5の何れか1項に記載の塗料。
【請求項7】
請求項1~6の何れか1項に記載の塗料を用いて形成された抗ウイルス性塗膜を含む積層フィルムであって、この塗膜が少なくとも一方の表面を構成する積層フィルム。
【請求項8】
下記特性(i)を満たす、請求項7に記載の積層フィルム:
(i)A香港型インフルエンザウイルス(A/Hong Kong/8/68(H3N2))を、上記積層フィルムの塗膜の面と温度25℃で120分間作用させたとき、感染価の対数減少値が2以上である。
【請求項9】
下記特性(ii)を満たす、請求項7又は8に記載の積層フィルム:
(ii)JIS K7136:2000に従い測定されるヘーズが2%以下である。
【請求項10】
請求項1~6の何れか1項に記載の塗料を用いて形成された塗膜を含む物品。
【請求項11】
請求項7~9の何れか1項に記載の積層フィルムの抗菌用又は消臭用としての使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗ウイルス性塗膜を形成することができる塗料に関する。更に詳しくは、本発明は、抗ウイルス性塗膜を形成することができる塗料、及び該塗料を用いて形成される塗膜、並びに該塗膜を含む積層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々なウイルス、特にインフルエンザウイルス、及びノロウイルスなどの強い感染力を有するウイルスによる感染症は、感染が広範囲に急速に広まることから、深刻な問題としてクローズアップされている。例えば、病院や老人ホームなどにおける集団感染は社会問題化している。そして、対処すべきウイルスは、インフルエンザウイルスに限っても非常に多くの種類が存在し、またウイルスはしばしば突然変異して新種が登場することがある。そのため、様々なウイルスを不活化することができる(ウイルスの種類に依らず汎用的に効果のある)抗ウイルス剤が求められている。
【0003】
そこで、様々なウイルスを不活化することができる抗ウイルス剤として、ヨウ化第一銅(CuI)などのヨウ素と周期表の第4周期から第6周期かつ8族から15族の元素とからなる少なくとも1種のヨウ化物の粒子を有効成分として含むことを特徴とする抗ウイルス剤(特許文献1参照)や、該抗ウイルス剤を用いた樹脂部材(特許文献2参照)が提案されている。ところが、ヨウ化第一銅(CuI)などの抗ウイルス剤には、これらを塗料に配合した場合、抗ウイルス性が低下する、抗ウイルス剤を塗料中に良好に分散させることが難しい、及び形成される塗膜の透明性が不十分などの不都合のあることが分かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第WO2010/026730号
【文献】国際公開第WO2013/005446号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の第1の課題は、抗ウイルス性を有する塗膜を形成することができる塗料を提供することにある。
本発明の更なる課題は、抗ウイルス性を有し、透明性に優れた塗膜を形成することができる塗料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、鋭意研究した結果、特定の塗料により、上記課題を達成できることを見出した。
【0007】
即ち、本発明の諸態様は、以下の通りである。
[1].
(A)多官能(メタ)アクリレート;
(B)一価の銅化合物、及びヨウ素と周期表の第4周期から第6周期かつ8族から15族の元素とを含むヨウ化物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物;
ならびに、
(C)ポリアミン、ポリアミン構造を含有する化合物、N-置換(メタ)アクリルアミド化合物、及びN-ビニルラクタム化合物からなる群から選択される少なくとも1種のアミン化合物
を含む、抗ウイルス性塗膜形成用塗料。
[2].
(A)多官能(メタ)アクリレート100質量部;
(B)一価の銅化合物、及びヨウ素と周期表の第4周期から第6周期かつ8族から15族の元素とを含むヨウ化物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物0.1~150質量部;ならびに、
(C1)ポリアミン又はポリアミン構造を含有する化合物0.1~20質量部
を含む、抗ウイルス性塗膜形成用塗料。
[3].
(A)多官能(メタ)アクリレート40~99質量%;及び
(C2)N-置換(メタ)アクリルアミド化合物又はN-ビニルラクタム化合物60~1質量%
からなる組成物であって、ここで上記成分(A)多官能(メタ)アクリレートと上記成分(C2)N-置換(メタ)アクリルアミド化合物又はN-ビニルラクタム化合物との和は100質量%である、組成物100質量部;ならびに、
(B)一価の銅化合物、及びヨウ素と周期表の第4周期から第6周期かつ8族から15族の元素とを含むヨウ化物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物0.1~150質量部
を含む、抗ウイルス性塗膜形成用塗料。
[4].
上記成分(B)一価の銅化合物、及びヨウ素と周期表の第4周期から第6周期かつ8族から15族の元素とを含むヨウ化物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物が、ヨウ化第一銅を含む、上記[1]~[3]項の何れか1項に記載の塗料。
[5].
上記[1]~[4]項の何れか1項に記載の塗料を用いて形成された抗ウイルス性塗膜を含む積層フィルムであって、この塗膜が少なくとも一方の表面を構成する積層フィルム。
[6].
下記特性(i)を満たす、上記[5]項に記載の積層フィルム:
(i)A香港型インフルエンザウイルス(A/Hong Kong/8/68(H3N2))を、上記積層フィルムの塗膜の面と温度25℃で120分間作用させたとき、感染価の対数減少値が2以上である。
[7].
下記特性(ii)を満たす、上記[5]又は[6]項に記載の積層フィルム:
(ii)JIS K7136:2000に従い測定されるヘーズが2%以下である。
[8].
上記[1]~[4]項の何れか1項に記載の塗料を用いて形成された塗膜を含む物品。
【発明の効果】
【0008】
本発明の塗料を用いて形成される塗膜は、抗ウイルス性を有し、透明性にも優れている。また本発明の塗料は、抗ウイルス剤が塗料中に良好に分散しており、塗膜を工業的に安定して形成することができる。そのため本発明の塗料を用いて表面に塗膜が形成された物品、例えば、飛散防止フィルム、赤外線遮蔽フィルムとしての塗膜または塗膜を含む積層フィルムが貼合された窓ガラスなど;ディスプレイ面板保護フィルムとしての塗膜または塗膜を含む積層フィルムが貼付されたスマートフォンやタブレット端末など;化粧シート、加飾シートとしての塗膜または塗膜を含む積層フィルムで装飾された家具、家電製品、及び建築部材など;塗膜または塗膜を含む積層フィルムが表面に形成された手摺り、ドアノブ、グリップ、及び床板などの建築部材等は、病院、老人ホーム、保育園、医療用器具生産工場、医薬品生産工場、及び食品加工工場など抗ウイルス性が要求される場所で好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の積層フィルムの一例を示す断面の概念図である。
図2】本発明の積層フィルムの他の一例を示す断面の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において「樹脂」の用語は、2種以上の樹脂を含む樹脂混合物や、樹脂以外の成分を含む樹脂組成物をも含む用語として使用する。本明細書において「フィルム」の用語は、「シート」と相互交換的に又は相互置換可能に使用する。本明細書において、「フィルム」及び「シート」の用語は、工業的にロール状に巻き取ることのできるものに使用する。「板」の用語は、工業的にロール状に巻き取ることのできないものに使用する。また本明細書において、ある層と他の層とを順に積層することは、それらの層を直接積層すること、及び、それらの層の間にアンカーコートなどの別の層を1層以上介在させて積層することの両方を含む。
【0011】
本明細書において数値範囲に係る「以上」の用語は、ある数値又はある数値超の意味で使用する。例えば、20%以上は、20%又は20%超を意味する。数値範囲に係る「以下」の用語は、ある数値又はある数値未満の意味で使用する。例えば、20%以下は、20%又は20%未満を意味する。数値範囲に係る「~」の記号は、ある数値、ある数値超かつ他のある数値未満、又は他のある数値の意味で使用する。ここで、他のある数値は、ある数値よりも大きい数値とする。例えば、10~90%は、10%、10%超かつ90%未満、又は90%を意味する。更に、数値範囲の上限と下限とは、任意に組み合わせることができるものとし、任意に組み合わせた実施形態が読み取れるものとする。例えば、ある特性の数値範囲に係る「通常10%以上、好ましくは20%以上である。一方、通常40%以下、好ましくは30%以下である。」や「通常10~40%、好ましくは20~30%である。」という記載から、ある特性は、一実施形態において10~40%、20~30%、10~30%、又は20~40%であることが読み取れるものとする。
【0012】
実施例以外において、又は別段に指定されていない限り、本明細書及び特許請求の範囲において使用されるすべての数値は、「約」という用語により修飾されるものとして理解されるべきである。特許請求の範囲に対する均等論の適用を制限しようとすることなく、各数値は、有効数字に照らして、及び通常の丸め手法を適用することにより解釈されるべきである。
【0013】
本明細書において、「抗ウイルス性」の用語は、ウイルスを不活化すること(ウイルスの感染力を低下又は喪失(失活)させること)、及びウイルスの増殖を抑制することの両方の意味を含む用語として使用する。
【0014】
1.抗ウイルス性塗膜形成用塗料
本発明の塗料は、(A)多官能(メタ)アクリレート;(B)一価の銅化合物、及びヨウ素と周期表の第4周期から第6周期かつ8族から15族の元素とを含むヨウ化物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物;ならびに、(C)アミン化合物を含む。本発明の塗料は、実施形態の1つにおいて、(A)多官能(メタ)アクリレート;(B)一価の銅化合物、及びヨウ素と周期表の第4周期から第6周期かつ8族から15族の元素とを含むヨウ化物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物;ならびに、(C1)ポリアミン又はポリアミン構造を含有する化合物を含む。本発明の塗料は、実施形態の1つにおいて、(A)多官能(メタ)アクリレート;(B)一価の銅化合物、及びヨウ素と周期表の第4周期から第6周期かつ8族から15族の元素とを含むヨウ化物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物;ならびに、(C2)N-置換(メタ)アクリルアミド化合物又はN-ビニルラクタム化合物を含む。本発明の塗料は、別の実施形態において、(A)多官能(メタ)アクリレート;(B)一価の銅化合物、及びヨウ素と周期表の第4周期から第6周期かつ8族から15族の元素とを含むヨウ化物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物;(C1)ポリアミン又はポリアミン構造を含有する化合物;ならびに、(C2)N-置換(メタ)アクリルアミド化合物又はN-ビニルラクタム化合物を含む。本発明の塗料は、他の実施形態の1つにおいて、更に(D)レベリング剤を含むものであってよい。以下、各成分について説明する。
【0015】
(A)多官能(メタ)アクリレート
上記成分(A)多官能(メタ)アクリレートは、1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレートである。上記成分(A)多官能(メタ)アクリレートは、紫外線や電子線等の活性エネルギー線により重合・硬化し、塗膜を形成する働きをする。また上記成分(A)多官能(メタ)アクリレートは、上記成分(B)一価の銅化合物等、及び上記成分(C)アミン化合物を包含する働きをする。
【0016】
上記成分(A)多官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、2,2’-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシポリエチレンオキシフェニル)プロパン、及び、2,2’-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシポリプロピレンオキシフェニル)プロパン等の(メタ)アクリロイル基含有2官能反応性モノマー;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、及びペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリロイル基含有3官能反応性モノマー;ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリロイル基含有4官能反応性モノマー;ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等の(メタ)アクリロイル基含有6官能反応性モノマー;トリペンタエリスリトールアクリレート等の(メタ)アクリロイル基含有8官能反応性モノマー及びこれらの1種以上を構成モノマーとする重合体(オリゴマーやプレポリマー)を挙げることができる。上記成分(A)多官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、ポリウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリアクリル(メタ)アクリレート、ポリエポキシ(メタ)アクリレート、ポリアルキレングリコールポリ(メタ)アクリレート、及び、ポリエーテル(メタ)アクリレートなどのプレポリマー又はオリゴマーであって、1分子中に2個以上の、例えば、2官能、3官能、4官能、6官能、または8官能の、(メタ)アクリロイル基を有するものを挙げることができる。本明細書において、(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートの意味である。
【0017】
上記成分(A)多官能(メタ)アクリレートとしては、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0018】
(B)一価の銅化合物等
上記成分(B)一価の銅化合物、及びヨウ素と周期表の第4周期から第6周期かつ8族から15族の元素とを含むヨウ化物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物は、抗ウイルス性を発現させる働きをする。
【0019】
上記一価の銅化合物としては、例えば、塩化第一銅(CuCl)、臭化第一銅(CuBr)、ヨウ化第一銅(CuI)、酢酸第一銅(Cu(CHCOO))、硫化第一銅(CuS)、チオシアン酸第一銅(CuSCN)、及び酸化第一銅(CuO)などを挙げることができる。
【0020】
上記ヨウ素と周期表の第4周期から第6周期かつ8族から15族の元素とを含むヨウ化物としては、例えば、銅、銀、アンチモン、イリジウム、ゲルマニウム、錫、タリウム、白金、パラジウム、ビスマス、金、鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛、インジウム、及び水銀などのヨウ化物を挙げることができる。上記ヨウ素と周期表の第4周期から第6周期かつ8族から15族の元素とを含むヨウ化物としては、例えば、ヨウ化第一銅(CuI)、ヨウ化第一銀(AgI)、三ヨウ化アンチモン(SbI)、四ヨウ化イリジウム(IrI)、四ヨウ化ゲルマニウム(GeI)、二ヨウ化ゲルマニウム(GeI)、二ヨウ化錫(SnI)、四ヨウ化錫(SnI)、ヨウ化第一タリウム(TlI)、二ヨウ化白金(PtI)、四ヨウ化白金(PtI)、二ヨウ化パラジウム(PdI)、三ヨウ化ビスマス(BiI)、ヨウ化第一金(AuI)、三ヨウ化金(AuI)、二ヨウ化鉄(FeI)、二ヨウ化コバルト(CoI)、二ヨウ化ニッケル(NiI)、二ヨウ化亜鉛(ZnI)、三ヨウ化インジウム(InI)、及びヨウ化第一水銀(Hg)などを挙げることができる。
【0021】
これらの中で、空気中における安定性の観点から、塩化第一銅(CuCl)、臭化第一銅(CuBr)、ヨウ化第一銅(CuI)、チオシアン酸第一銅(CuSCN)、ヨウ化第一銀(AgI)、及び四ヨウ化錫(SnI)が好ましい。抗ウイルス性の観点から、ヨウ化第一銅(CuI)がより好ましい。
【0022】
上記成分(B)の銅化合物等としては、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0023】
上記成分(B)の銅化合物等の形状は、特に制限されない。上記成分(B)の形状は、塗料の塗工性の観点から、好ましくは粒子状(球状、繊維状、鱗片状、及びリボン状などを含む)であってよい。
【0024】
上記成分(B)の銅化合物等の形状が粒子状である場合、上記成分(B)の平均粒子径は、塗膜形成性の観点から、通常10μm以下、好ましくは5μm以下、より好ましくは3μm以下、更に好ましくは1μm以下であってよい。上記成分(B)の銅化合物等の平均粒子径は、塗膜にすっきりとした透明感を付与したい場合には、通常300nm以下、好ましくは200nm以下、より好ましくは120nm以下であってよい。一方、平均粒子径の下限は特にないが、上記成分(B)の銅化合物等を製造する際の生産性の観点から、通常1nm以上であってよい。
【0025】
本明細書において、粒子の平均粒子径は、レーザー回折・散乱法で測定した粒子径分布曲線において、粒子の小さい方からの累積が50質量%となる粒子径である。上記粒子径分布曲線は、例えば、日機装株式会社のレーザー回折・散乱式粒度分析計「MT3200II」(商品名)を使用して測定することができる。
【0026】
上記成分(B)の銅化合物等の配合量は、上記成分(A)多官能(メタ)アクリレート100質量部(下記成分(C2)N-置換(メタ)アクリルアミド化合物又はN-ビニルラクタム化合物を含む実施形態にあっては、上記成分(A)多官能(メタ)アクリレートと下記成分(C2)N-置換(メタ)アクリルアミド化合物又はN-ビニルラクタム化合物との合計100質量部)に対して、抗ウイルス性を確実に発現させる観点から、通常0.1質量部以上、好ましくは1質量部以上、より好ましくは4質量部以上、更に好ましくは7質量部以上、最も好ましくは10質量部以上であってよい。一方、上記成分(B)の銅化合物等の配合量は、上記基準成分100質量部に対して、塗料の塗工性、及び塗膜の透明性を保持する観点から、通常150質量部以下、好ましくは100質量部以下、より好ましくは60質量部以下、更に好ましくは50質量部以下、最も好ましくは40質量部以下であってよい。
【0027】
(C)アミン化合物
上記成分(C)アミン化合物は、上記成分(B)の銅化合物等が抗ウイルス剤として、抗ウイルス性を確実に発現するようにさせる働きをする。上記成分(C)アミン化合物は、典型的な実施形態の1つにおいて、ポリアミン、ポリアミン構造を含有する化合物、N-置換(メタ)アクリルアミド化合物、及びN-ビニルラクタム化合物からなる群から選択される少なくとも1種のアミン化合物であってよい。
【0028】
(C1)ポリアミン又はポリアミン構造を含有する化合物
上記成分(C)アミン化合物の好ましい例としては、(C1)ポリアミン又はポリアミン構造を含有する化合物を挙げることができる。ポリアミンは、分子中に2個以上のアミノ基を有する炭化水素化合物である。ポリアミン構造を含有する化合物は、2個以上のアミノ基を含有する炭化水素基を分子中に1個以上含有する化合物である。ここで言及される「炭化水素」は、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、もしくは脂肪族及び芳香族炭化水素、またはそれらの混合物であってよいが、典型的には脂肪族炭化水素である。
【0029】
理論に拘束される意図はないが、ポリアミンはウイルスにも存在し、核酸やタンパク質の合成に関与している。そのため、ウイルスが上記成分(C1)のポリアミン又はポリアミン構造を含有する化合物の近傍に留まり、結果として、抗ウイルス剤としての上記成分(B)の銅化合物等と接触する機会が増えるのではないかと予想している。
【0030】
上記成分(C1)のポリアミン又はポリアミン構造を含有する化合物のアミン価は、抗ウイルス性の観点から、上記成分(C1)の配合量にもよるが、通常1mgKOH/g以上、好ましくは10mgKOH/g以上、より好ましくは20mgKOH/g以上、更に好ましくは30mgKOH/g以上、最も好ましくは40mgKOH/g以上であってよい。一方、上記成分(C1)のポリアミン又はポリアミン構造を含有する化合物のアミン価は、塗料のポットライフの観点から、上記成分(C1)の配合量にもよるが、通常500mgKOH/g以下、好ましくは200mgKOH/g以下であってよい。
【0031】
アミン価は、試料1gを中和するのに要する酸と当量の水酸化カリウム(KOH:分子量56.11)のmg数である。本明細書において、アミン価は、試料5gをエタノール(95)50mLに溶解し、0.5モル/Lの塩酸水溶液で電気滴定法(電位差滴定)により滴定して算出される。本願明細書の実施例にて用いられたポリアミン又はポリアミン構造を含有する化合物のアミン価は、供給業者によってこの方法により算出された値である。
【0032】
上記成分(C1)のポリアミン又はポリアミン構造を含有する化合物の配合量は、上記成分(A)多官能(メタ)アクリレート100質量部(下記成分(C2)N-置換(メタ)アクリルアミド化合物等を含む実施形態にあっては、上記成分(A)と下記成分(C2)との合計100質量部)に対して、抗ウイルス性を確実に発現させる観点から、通常0.1質量部以上、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上、更に好ましくは2質量部以上、最も好ましくは3質量部以上であってよい。一方、上記成分(C1)のポリアミン又はポリアミン構造を含有する化合物の配合量は、上記基準成分100質量部に対して、ブリード白化抑制の観点から、通常20質量部以下、好ましくは15質量部以下、より好ましくは10質量部以下であってよい。
【0033】
(C2)N-置換(メタ)アクリルアミド化合物等
上記成分(C)アミン化合物の他の好ましい例としては、(C2)N-置換(メタ)アクリルアミド化合物又はN-ビニルラクタム化合物を挙げることができる。ここで、「N-置換(メタ)アクリルアミド化合物」とは、N-置換アクリルアミド化合物又はN-置換メタクリルアミド化合物の意味である。上記成分(C2)N-置換(メタ)アクリルアミド化合物又はN-ビニルラクタム化合物は重合性を有する。そのため、上記成分(C2)N-置換(メタ)アクリルアミド化合物又はN-ビニルラクタム化合物は多量に配合しても、塗膜形成性(ウェット塗膜の硬化性)を大きく低下させることはない。そのため、上記成分(C2)N-置換(メタ)アクリルアミド化合物又はN-ビニルラクタム化合物は、抗ウイルス性が確実に発現するように、当該塗料に多量に配合することが可能である。
【0034】
上記成分(C2)N-置換(メタ)アクリルアミド化合物は、特に限定されないが、典型的には、下記一般式(1)で表される構造を有する化合物であってよい。式中、Rは水素原子又はメチル基を表す。Rは水素原子若しくは炭素数1~6のアルキル基を表し、Rは水酸基、炭素数1~6のアルコキシ基、若しくはアミノ基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基を表すか、又はRとRが一緒になって、それらが結合する窒素原子と共に、酸素原子を環構成員として有してもよい5員若しくは6員の炭化水素環を形成する。
【0035】
【化1】
【0036】
上記成分(C2)N-置換(メタ)アクリルアミド化合物としては、例えば、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミドブチルエーテル、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-n-プロピル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-シクロプロピル(メタ)アクリルアミド、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N-メチル,N-エチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミドメチルエーテル、N-メチロール(メタ)アクリルアミドエチルエーテル、N-メチロール(メタ)アクリルアミドプロピルエーテル、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、及び(メタ)アクリロイルモルホリンなどを挙げることができる。これらの中で、(メタ)アクリロイルモルホリンが好ましく、アクリロイルモルホリンがより好ましい。
上記成分(C2)N-ビニルラクタム化合物としては、N-ビニル-2-ピロリドン、N-ビニル-ε-カプロラクタムなどを挙げることができる。
上記成分(C2)N-置換(メタ)アクリルアミド化合物又はN-ビニルラクタム化合物としては、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0037】
上記成分(C2)N-置換(メタ)アクリルアミド化合物又はN-ビニルラクタム化合物の配合量は、上記成分(A)多官能(メタ)アクリレートと上記成分(C2)との和を100質量%として、抗ウイルス性を確実に発現させる観点から、通常1質量%以上(上記成分(A)99質量%以下)、好ましくは5質量%以上(上記成分(A)95質量%以下)、より好ましくは10質量%以上(上記成分(A)90質量%以下)、更に好ましくは15質量%以上(上記成分(A)85質量%以下)であってよい。一方、上記成分(C2)N-置換(メタ)アクリルアミド化合物又はN-ビニルラクタム化合物の配合量は、上記基準成分100質量部に対して、形成される塗膜の表面硬度、及び耐擦傷性の観点から、通常60質量%以下(上記成分(A)40質量%以上)、好ましくは50質量%以下(上記成分(A)50質量%以上)、より好ましくは45質量%以下(上記成分(A)55質量%以上)、更に好ましくは40質量%以下(上記成分(A)60質量%以上)であってよい。
【0038】
(D)レベリング剤
本発明の塗料には、塗膜の表面を平滑なものにする観点から、更に(D)レベリング剤を含ませることが好ましい。
【0039】
上記成分(D)レベリング剤としては、例えば、アクリル系レベリング剤、シリコーン系レベリング剤、弗素系レベリング剤、シリコーン・アクリル共重合体系レベリング剤、弗素変性アクリル系レベリング剤、弗素変性シリコーン系レベリング剤、及びこれらに官能基(例えば、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基、アシルオキシ基、ハロゲン基、アミノ基、ビニル基、エポキシ基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基、及びイソシアネート基など)を導入したレベリング剤などを挙げることができる。これらの中で、上記成分(D)レベリング剤としては、シリコーン・アクリル共重合体系レベリング剤が好ましい。上記成分(D)レベリング剤としては、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0040】
上記成分(D)レベリング剤の配合量は、任意成分であるから特に制限されない。上記成分(D)レベリング剤の配合量は(存在する場合)、上記成分(A)多官能(メタ)アクリレート100質量部(上記成分(C2)N-置換(メタ)アクリルアミド化合物等を含む実施形態にあっては、上記成分(A)と上記成分(C2)との合計100質量部)に対して、レベリング剤の使用効果を確実に得る観点から、通常0.01質量部以上、好ましくは0.05質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上であってよい。一方、上記成分(D)レベリング剤の配合量は、上記基準成分100質量部に対して、ブリードアウトによるトラブルを抑制する観点から、通常3質量部以下、好ましくは2質量部以下、より好ましくは1質量部以下、更に好ましくは0.5質量部以下であってよい。
【0041】
本発明の塗料は、塗工し易い濃度に希釈するため、所望により、溶剤を含んでいてもよい。上記溶剤は上記成分(A)多官能(メタ)アクリレート、上記成分(B)銅化合物等、上記成分(C)アミン化合物、及びその他の任意成分と反応したり、これらの成分の自己反応(劣化反応を含む)を触媒(促進)したりしないものであれば、特に制限されない。上記溶剤としては、例えば、1-メトキシ-2-プロパノール、2-プロパノール、エタノール、酢酸エチル、酢酸n-ブチル、トルエン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ダイアセトンアルコール、及びアセトンなどを挙げることができる。
【0042】
本発明の塗料は、特に限定されないが、以下の任意成分をさらに含み得る(含まなくてもよい)。この任意成分としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、スチレンなどの上記成分(A)や上記成分(C2)以外の重合性化合物、上記成分(B)以外の抗ウイルス剤、抗菌剤、消臭剤、シランカップリング剤、1分子中に2以上のエポキシ基を有する化合物、1分子中に2以上のイソシアネート基を有する化合物、光重合開始剤、反応触媒、有機多価金属化合物、帯電防止剤、界面活性剤、レベリング剤、チクソ性付与剤、汚染防止剤、撥水剤、印刷性改良剤、酸化防止剤、耐候性安定剤、耐光性安定剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、顔料、及びフィラーなどを挙げることができる。
上記任意成分の配合量は、上記多官能(メタ)アクリレートを100質量部として、通常10質量部以下、あるいは0.01~10質量部程度であってよい。
【0043】
本発明の塗料は、これらの成分を混合、攪拌することにより得ることができる。
【0044】
2.積層フィルム(抗ウイルス性フィルム)
本発明の積層フィルムは、本発明の塗料を用いて形成された抗ウイルス性塗膜を含む。本発明の積層フィルムは、通常は、本発明の塗料を用いて形成された抗ウイルス性塗膜が、積層フィルムの少なくとも片側の表面を構成する。本発明の積層フィルムは、典型的には、本発明の塗料を用いて形成された抗ウイルス性塗膜と樹脂フィルムの層を有し、実使用状態において表面となる面は、上記抗ウイルス性塗膜により構成される。ここで実使用状態とは、本発明の積層フィルムが各種物品の部材として用いられた状態(例えば、飛散防止フィルムであれば窓ガラスなどに貼合された状態;化粧シートであれば物品の表面の装飾にもちいられた状態)をいう。
【0045】
本発明の塗料については上述した。本発明の塗料を用いて、上記抗ウイルス性塗膜を形成する方法は特に制限されず、公知のウェブ塗布方法を使用することができる。上記方法としては、例えば、ロッドコート、ロールコート、グラビアコート、リバースコート、ロールブラッシュ、ディップコート、スプレーコート、スピンコート、エアナイフコート、及びダイコートなどの方法を挙げることができる。これらの方法の中で、上記抗ウイルス性塗膜の厚みを均一なものにする観点から、ロッドコートが好ましく、ロッドとしてメイヤーバーを用いるロッドコート(以下、「メイヤーバー方式」と略すことがある)がより好ましい。
【0046】
上記抗ウイルス性塗膜の厚みは、特に制限されず、所望により任意の厚みにすることができる。上記抗ウイルス性塗膜の厚みは、抗ウイルス性、耐候性、及び耐擦傷性の観点から、通常0.1μm以上、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは1μm以上、更に好ましくは1.5μm以上であってよい。一方、本発明の積層フィルムの耐屈曲性を良好に保ち、フィルムロールとして容易に取り扱えるようにする観点から、通常60μm以下、好ましくは30μm以下、より好ましくは20μm以下、更に好ましくは10μm以下であってよい。
なお、ここに記載された積層フィルムにおける抗ウイルス性塗膜の厚みの通常及び好ましい範囲群は、塗膜が単層フィルムとして物品の表面の一部又は全部を構成する場合にも当てはまる。
【0047】
上記樹脂フィルムの層は、任意の樹脂フィルムからなり、上記抗ウイルス性塗膜を形成するためのフィルム基材となる層である。上記樹脂フィルムとしては、例えば、ポリ塩化ビニル系樹脂;芳香族ポリエステル、脂肪族ポリエステルなどのポリエステル系樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン、及びポリメチルペンテンなどのポリオレフィン系樹脂;アクリル系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;ポリ(メタ)アクリルイミド系樹脂;ポリスチレン、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体樹脂(ABS樹脂)、スチレン・エチレン・ブタジエン・スチレン共重合体、スチレン・エチレン・プロピレン・スチレン共重合体、及びスチレン・エチレン・エチレン・プロピレン・スチレン共重合体などのスチレン系樹脂;セロファン、トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、及びアセチルセルロースブチレートなどのセルロース系樹脂;ポリ塩化ビニリデン系樹脂;ポリフッ化ビニリデンなどの含弗素系樹脂;その他、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール、ポリエーテルエーテルケトン、ナイロン、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、ポリエーテルイミド、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォンなどの樹脂フィルムを挙げることができる。これらのフィルムは無延伸フィルム、一軸延伸フィルム、及び二軸延伸フィルムを包含する。またこれらのフィルムは、これらの1種又は2種以上を、2層以上積層した多層フィルムを包含する。
【0048】
上記樹脂フィルムの厚みは、特に制限されず、所望により任意の厚みにすることができる。本発明の積層フィルムを高い剛性を必要としない用途に用いる場合には、上記樹脂フィルムの厚みは、取扱性の観点、及びガラス飛散防止フィルムとしての規格に適合させる観点から、通常10μm以上、好ましくは30μm以上、より好ましくは50μm以上であってよい。一方、この用途の場合の上記樹脂フィルムの厚みは、経済性の観点から、通常250μm以下、好ましくは150μm以下、より好ましくは100μm以下であってよい。本発明の積層フィルムを高い剛性を必要とする用途に用いる場合には、上記樹脂フィルムの厚みは、通常200μm以上、好ましくは300μm以上、より好ましくは400μm以上であってよい。また、この用途の場合の上記樹脂フィルムの厚みは、物品の薄型化の要求に応える観点から、通常1500μm以下、好ましくは1000μm以下、より好ましくは700μm以下であってよい。
【0049】
上記樹脂フィルムの上記抗ウイルス性塗膜形成面の上には、上記樹脂フィルムの層と上記抗ウイルス性塗膜との密着性を高めるため、上記抗ウイルス性塗膜を形成する前に、アンカーコートを形成してもよい。あるいは、アンカーコートを形成せずに、樹脂フィルムと抗ウイルス性塗膜とが直接積層されてもよい。
【0050】
本発明の積層フィルムを透明性が必要とされる用途、例えば、建築物の窓ガラス、自動車のウィンドウなどに貼付される飛散防止フィルム、赤外線遮蔽フィルム、及び紫外線遮蔽フィルム;スマートフォン、タブレット端末、及びカーナビゲーションなどに貼付されるディスプレイ面板保護フィルム等に用いる場合には、上記樹脂フィルムとしては、高い透明性を有するものが好ましい。この用途の場合の上記樹脂フィルムとしては、高い透明性を有し、かつ着色のない透明樹脂フィルムがより好ましい。
【0051】
上記透明樹脂フィルムの全光線透過率は、通常80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは88%以上、更に好ましくは90%以上であってよい。全光線透過率は高い方が好ましい。ここで全光線透過率は、JIS K7136:2000に従い測定される。測定に使用する装置としては、例えば、日本電色工業株式会社の濁度計「NDH2000」(商品名)をすることができる。
【0052】
上記透明樹脂フィルムの黄色度指数は、通常5以下、好ましくは3以下、より好ましくは2以下、更に好ましくは1以下であってよい。黄色度指数は低い方が好ましい。ここで黄色度指数は、JIS K7105:1981に従い、島津製作所社製の色度計「SolidSpec-3700」(商品名)を用いて測定されうる。
【0053】
上記透明樹脂フィルムとしては、例えば、トリアセチルセルロース等のセルロースエステル系樹脂;ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂;エチレンノルボルネン共重合体等の環状炭化水素系樹脂;ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、及びビニルシクロヘキサン・(メタ)アクリル酸メチル共重合体等のアクリル系樹脂;芳香族ポリカーボネート系樹脂;ポリプロピレン、及び4-メチル-ペンテン-1等のポリオレフィン系樹脂;ポリアミド系樹脂;ポリアリレート系樹脂;ポリマー型ウレタンアクリレート系樹脂;ならびにポリイミド系樹脂などのフィルムを挙げることができる。これらのフィルムは無延伸フィルム、一軸延伸フィルム、及び二軸延伸フィルムを包含する。またこれらのフィルムは、これらの1種又は2種以上を、2層以上積層した多層フィルムを包含する。
【0054】
本発明の積層フィルムを透明性が必要とされない用途、例えば、化粧シート、加飾フィルムなどに用いる場合には、上記樹脂フィルムは着色されたものであってもよく、不透明なものであってもよく、または透明なものであってもよい。
【0055】
本発明の積層フィルムは、その塗膜の面とA香港型インフルエンザウイルス(A/Hong Kong/8/68(H3N2))とを、温度25℃で120分間作用させたとき、感染価の対数減少値が好ましくは2以上、より好ましくは3以上、更に好ましくは4以上であってよい。抗ウイルス性の観点から、感染価の対数減少値は高い方が好ましい。ここで感染価の対数減少値は、下記実施例の測定方法(i)抗ウイルス性に従い測定される。
【0056】
本発明の積層フィルムを透明性が必要とされる用途に使用する場合、本発明の積層フィルムのヘーズは、通常3%以下、好ましくは2%以下、より好ましくは1%以下であってよい。すっきりとした透明感を得る観点から、ヘーズは低い方が好ましい。
本発明の積層フィルムの全光線透過率は、通常80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは88%以上、更に好ましくは90%以上であってよい。全光線透過率は高い方が好ましい。ここで全光線透過率、ヘーズは、JIS K7136:2000に従い測定される。測定に使用する装置としては、例えば、日本電色工業株式会社の濁度計「NDH2000」(商品名)を挙げることができる。
【0057】
図1は本発明の積層フィルムの一例を示す断面の概念図である。図1に示される実施形態の積層フィルムは、赤外線遮蔽フィルムとして用いられるものである。本実施形態の積層フィルムは、実使用状態において表面となる面の側から順に、本発明の塗料を用いて形成された抗ウイルス性塗膜1、第1のアンカーコート2、透明な熱可塑性樹脂フィルムの層3、第2のアンカーコート4、赤外線遮蔽機能を有する塗膜5、及び粘着剤層6を有している。
【0058】
図2は本発明の積層フィルムの他の一例を示す断面の概念図である。図2に示される実施形態の積層フィルムは、化粧シートとして用いられるものである。本実施形態の積層フィルムは、実使用状態において表面となる面の側から順に、本発明の塗料を用いて形成された抗ウイルス性塗膜1、透明な熱可塑性樹脂フィルムの層3、印刷層7、着色され隠蔽性を有する熱可塑性樹脂フィルムの層8、及び粘着剤層6を有している。
【0059】
3.物品
本発明の物品は、本発明の塗料を用いて形成された抗ウイルス性塗膜を含む。本発明の物品は、通常は、本発明の塗料を用いて形成された抗ウイルス性塗膜が、物品の表面の一部又は全部を構成する。
【0060】
本発明の物品は、典型的な一実施形態において、本発明の積層フィルムが部材として用いられた物品(例えば、飛散防止フィルムの貼合された窓ガラス、化粧シートで装飾された家具)であってよい。
【0061】
本発明の物品は、典型的な他の一実施形態において、物品の三次元形状の基体(例えば、電気製品の筐体、及び自動車のインスツルメントパネルなど)の表面の一部又は全部に、本発明の塗料を用いて抗ウイルス性塗膜が形成されているものであってよい。該塗膜は上記基体に直接塗工して形成してもよく、該塗膜を含む単層または積層フィルムを貼合することにより形成してもよい。
上記基体の表面の一部又は全部に、本発明の塗料を用いて抗ウイルス性塗膜を形成する方法としては、例えば、ディップコート、スプレーコート、スピンコート、及びエアナイフコートなどの方法により、本発明の塗料を、1回又は2回以上繰り返して塗工することにより塗膜を形成する方法を挙げることができる。上記基体の成形方法としては、例えば、熱可塑性樹脂シートを、メンブレンプレス成形、圧空プレス成形、真空成形、及び真空圧空成形などの所謂三次元成形する方法;熱可塑性樹脂を射出成形、ブロー成形、及び押出成形する方法;ならびに、硬化性樹脂を所望の形状の型に注入し、硬化させる方法などを挙げることができる。
【実施例
【0062】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0063】
測定方法
(i)抗ウイルス性
(i-1)抗ウイルス性フィルムの感染価の測定
試験はISO 21702「プラスチック及び非多孔質表面の抗ウイルス活性の測定」の方法に準じて行った。具体的には、積層フィルム(抗ウイルス性フィルム)から5cm×5cmの試験片を採取し、プラスチックシャーレに入れ、上記試験片の抗ウイルス性塗膜の面の上に、A香港型インフルエンザウイルス(A/Hong Kong/8/68(H3N2))のウイルス液(以下、「原液」ということがある)100μLを滴下し、室温(25℃)で120分間作用させた。このとき上記試験片と上記ウイルス液と接触面積を一定にするため、上記試験片の上面をポリエチレンテレフタレートフィルム(大きさ4cm×4cm)により覆った。次に、SCDLP培地10mLを添加し、ピペッティングによりウイルスを洗い出し、作用を停止させた。その後、各作用後のウイルス液の濃度が原液の10-2~10-5になるまで(各作用後のウイルス液の量を、滴下した原液の量(100μL)の10~10倍にするのと同じ濃度になるまで)MEM希釈液にて希釈し、サンプル液(原液、ウイルス液の濃度が原液の10-2、10-3、10-4、及び10-5の5種類)を作成した。続いて、作成した各サンプル液について、6穴プレートシャーレに培養したMDCK細胞(Madin-Darby canine kidney cell)にサンプル液100μLを接種し、60分間静置してウイルスを上記MDCK細胞へ吸着させ、0.7質量%寒天培地を重層し、インキュベータを使用し、温度34℃、5%COで48時間培養した後、ホルマリン固定、メチレンブルー染色を行い、形成されたプラーク数をカウントした。各サンプル液の結果から、ウイルスの感染価(PFU(Plaque-forming unit)/0.1mL)の常用対数を算出した。
【0064】
(i-2)コントロールフィルムの製造
下記成分(A-1)154質量部(固形分換算100質量部)、下記成分(C1-1)5質量部、下記成分(D-1)1質量部(固形分換算0.1質量部)、下記成分(E-1)3質量部、下記成分(E-2)140質量部、及び下記成分(E-3)60質量部を混合攪拌し、コントロールフィルムの塗膜形成用塗料を得た。次に、該塗料を、東レ株式会社の厚み50μmの両面易接着二軸延伸ポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルム「ルミラー」(商品名)の片面の上に、メイヤーバー方式の塗工装置を使用して、硬化後の厚みが2μmとなるように塗布し、乾燥し、紫外線照射によりして硬化して、塗膜を形成し、コントロールフィルムを得た。
【0065】
(i-3)コントロールフィルムの感染価の測定
上記(i-2)で得たコントロールフィルムから5cm×5cmの試験片を採取したこと以外は、上記(i-1)と同様にして、コントロールフィルムの感染価の常用対数を算出した。
【0066】
(i-4)抗ウイルス性の評価
コントロールフィルムの感染価の常用対数と抗ウイルス性フィルムの感染価の常用対数との差(以下、「対数減少値」ということがある)を抗ウイルス性の指標として算出した。なお対数減少値が3であったとは、抗ウイルス性フィルムの感染価がコントロールフィルムの感染価の1/1000であったことを意味する。
【0067】
(ii)ヘーズ、全光線透過率
JIS K7136:2000に従い、日本電色工業株式会社の濁度計「NDH2000」(商品名)を使用し、抗ウイルス性塗膜側の面から光を入射する条件で、抗ウイルス性フィルムのヘーズ、全光線透過率を測定した。
【0068】
(iii)鉛筆硬度
JIS K5600-5-4:1999に従い、200g荷重の条件で、三菱鉛筆株式会社の鉛筆「ユニ」(商品名)を用い、抗ウイルス性フィルムの抗ウイルス性塗膜の面について鉛筆硬度を測定した。
【0069】
(iv)耐スチールウール試験(耐擦傷性)
抗ウイルス性フィルムを、抗ウイルス性塗膜の面が表面になるようにJIS L0849:2013の学振形試験機(摩擦試験機2形)に置いた。続いて、学振形試験機の摩擦端子に#0000のスチールウールを取り付けた後、200g荷重を載せ、摩擦端子の移動速度300mm/分、移動距離30mmの条件で、試験片の表面を往復10回擦った後、当該摩擦箇所を目視観察し、以下の基準で評価した。
○(良好):傷がなかった、又は傷は1~5本であった。
△(中程度):6~15本の傷があった。
×(不良):16本以上の傷があった。
【0070】
(v)色調安定性1
JIS Z8722:2009に従い、コニタミノルタジャパン株式会社の分光測色計「CM600d」を使用し、幾何条件c、鏡面反射となる成分含む条件で、XYZ座標を測定し、これをL*a*b*座標に換算することにより、処理前の抗ウイルス性フィルムのb*値を求めた。次に、温度80℃のギヤオーブン(湿度コントロールはしなかった)中に500時間保管した後、同様にして処理後の抗ウイルス性フィルムのb*値を求めた。処理前と処理後のb*値の差の絶対値(Δb*)を算出した。なおL*a*b*座標については、コニタミノルタジャパン株式会社のホームページ(下記アドレス)などを参照することができる。
http://www.konicaminolta.jp/instruments/knowledge/color/part1/07.html
【0071】
(vi)色調安定性2
JIS Z8722:2009に従い、コニタミノルタジャパン株式会社の分光測色計「CM600d」を使用し、幾何条件c、鏡面反射となる成分含む条件で、XYZ座標を測定し、これをL*a*b*座標に換算することにより、処理前の抗ウイルス性フィルムのb*値を求めた。次に、温度60℃、相対湿度90%の環境試験機中に500時間保管した後、同様にして処理後の抗ウイルス性フィルムのb*値を求めた。処理前と処理後のb*値の差の絶対値(Δb*)を算出した。
【0072】
(vii)碁盤目試験(塗膜密着性)
JIS K5600-5-6:1999に従い、抗ウイルス性フィルムに抗ウイルス性塗膜の面の側から碁盤目の切れ込みを100マス(1マス=1mm×1mm)入れた後、密着試験用テープを碁盤目へ貼り付けて指でしごいた後、剥がした。評価基準はJISの上記規格の表1に従った。
分類0:カットの縁が完全に滑らかで、どの格子の目にも剥れがなかった。
分類1:カットの交差点における塗膜の小さな剥れがあった。クロスカット部分で影響を受ける面積は、明確に5%を上回ることはなかった。
分類2:塗膜がカットの縁に沿って、及び/又は交差点において剥れていた。クロスカット部分で影響を受ける面積は、明確に5%を超えるが15%を上回ることはなかった。
分類3:塗膜がカットの縁に沿って、部分的又は全面的に大剥れを生じており、及び/又は目のいろいろな部分が、部分的又は全面的に剥れていた。クロスカット部分で影響を受ける面積は、明確に15%を超えるが35%を上回ることはなかった。
分類4:塗膜がカットの縁に沿って、部分的又は全面的に大剥れを生じており、及び/又は数箇所の目が、部分的又は全面的に剥れていた。クロスカット部分で影響を受ける面積は、明確に35%を超えるが65%を上回ることはなかった
分類5:剥れの程度が分類4を超える場合は、本分類とした。
【0073】
(viii)熱老化後の碁盤目試験(熱老化後密着性)
温度80℃のギヤオーブン(湿度コントロールはしなかった)中に500時間保管した後、上記試験(vii)と同様にして抗ウイルス性フィルムの熱老化後の密着性を評価した。
【0074】
(ix)湿熱処理後の碁盤目試験(湿熱後密着性)
温度60℃、相対湿度90%の環境試験機中に500時間保管した後、上記試験(vii)と同様にして抗ウイルス性フィルムの湿熱処理後の密着性を評価した。
【0075】
使用した原材料
(A)多官能(メタ)アクリレート
(A-1)荒川化学工業株式会社のエポキシアクリレート系多官能(メタ)アクリレート「ビームセット371」(商品名)。1分子中の(メタ)アクリロイル基の数6個。酸価0.32KOHmg/g。エポキシ当量65Kg/eq。固形分65質量%。
(A-2)日本化薬株式会社のジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(6官能)。固形分100質量%。
【0076】
(B)一価の銅化合物等
(B-1)市販のヨウ化第一銅(CuI)粉末(和光純薬工業株式会社製)をエタノールにプレ分散後、ビーズミルにて解砕・分散し、平均粒子径120nmのヨウ化第一銅のスラリーを得た。これを固形分11質量%に調整した。
【0077】
(C)アミン化合物
(C1)ポリアミン又はポリアミン構造を含有する化合物
(C1-1)ビッグケミー・ジャパン株式会社のアミン系分散剤「DISPERBYK-145」(商品名)。ポリアミン構造を含有する高分子量共重合体のリン酸エステル塩。アミン価71mgKOH/g。固形分100質量%。
(C1-2)ビッグケミー・ジャパン株式会社のアミン系分散剤「BYK-9076」(商品名)。ポリアミン構造を含有する高分子量共重合体のアルキルアンモニウム塩。アミン価44mgKOH/g。固形分100質量%。
(C1-3)ビッグケミー・ジャパン株式会社のアミン系分散剤「DISPERBYK-2009」(商品名)。アミン変性アクリル系ブロック共重合体。アミン価4mgKOH/g。固形分44質量%。
【0078】
(C2)N-置換(メタ)アクリルアミド化合物
(C2-1)アクリロイルモルホリン。固形分100質量%。
【0079】
(C’)比較成分
(C’-1)ビッグケミー・ジャパン株式会社の分散剤、リン酸エステル「DISPERBYK-110」(商品名)。ポリアミン構造は含有しない。固形分52質量%。
【0080】
(D)レベリング剤
(D-1)楠本化成株式会社のシリコーン・アクリル共重合体系レベリング剤「ディスパロンNSH-8430HF」(商品名)。固形分10質量%。
【0081】
(E)その他の成分
(E-1)双邦實業股分有限公司のフェニルケトン系光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)「SB-PI714」(商品名)。固形分100質量%。
(E-2)メチルイソブチルケトン。
(E-3)1-メトキシ-2-プロパノール。
【0082】
例1
(1)抗ウイルス性塗膜形成用塗料の調製
上記成分(A-1)154質量部(固形分換算100質量部)、上記成分(B-1)100質量部(固形分換算11質量部)、上記成分(C1-1)5質量部、上記成分(D-1)1質量部(固形分換算0.1質量部)、上記成分(E-1)3質量部、上記成分(E-2)140質量部、及び上記成分(E-3)60質量部を混合攪拌し、抗ウイルス性塗膜形成用塗料を得た。
【0083】
(2)積層フィルム(抗ウイルス性フィルム)の製造
上記(1)で得た抗ウイルス性塗膜形成用塗料を、東レ株式会社の厚み50μmの両面易接着二軸延伸ポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルム「ルミラー」(商品名)の片面の上に、メイヤーバー方式の塗工装置を使用して、硬化後の厚みが2μmとなるように塗布し、乾燥し、積算光量440mJ/cmの条件で紫外線照射によりして硬化して、抗ウイルス性塗膜を含む積層フィルムを形成した。外観の良好な積層フィルム(抗ウイルス性フィルム)を安定して製造することができた。
【0084】
得られた積層フィルムに対して、上記試験(i)~(ix)を行った。結果を表1に示す。なお、表には溶剤(上記成分(E-2)と上記成分(E-3))以外の成分については固形分換算の値を記載した。以下、同様である。
【0085】
例2~7
塗料の配合を表1に示すように変更したこと以外は、例1と同様に積層フィルムの形成及び物性試験・評価を行った。何れも外観の良好な積層フィルムを安定して製造することができた。上記試験(i)~(ix)を行った。結果を表1に示す。
【0086】
【表1】
【0087】
本発明の塗料を用いて外観の良好な積層フィルム(抗ウイルス性フィルム)を安定して製造することができた。従って、本発明の塗料は、抗ウイルス剤としての上記成分(B)が塗料中に良好に分散していると考察した。また本発明の塗料を用いて形成された塗膜は抗ウイルス性を有し、透明性にも優れていた。更に、フィルム基材との密着性、耐熱老化性、及び耐湿熱性も良好であった。一方、上記成分(C)を含まない例の抗ウイルス性は十分なものではなかった。
【0088】
また、例1の積層フィルムについてSIAA(抗菌製品技術協議会)の耐水処理区分0の処理をした後、JIS Z2801:2010に従い、上記(i-2)をコントロールフィルムとして用い、塗膜の面の上に菌液を滴下する条件で、黄色ぶどう球菌についての抗菌活性値を測定したところ値は4.5であった。同様に大腸菌についての抗菌活性値を測定したところ値は5.8であった。
更に、例1の積層フィルムについてSIAA(抗菌製品技術協議会)の耐光処理区分1の処理をした後、JIS Z2801:2010に従い、上記(i-2)をコントロールフィルムとして用い、塗膜の面の上に菌液を滴下する条件で、黄色ぶどう球菌についての抗菌活性値を測定したところ値は3.6であった。同様に大腸菌についての抗菌活性値を測定したところ値は4.3であった。
従って、本発明の塗料を用いて形成された塗膜を有する積層フィルムはSIAA(抗菌製品技術協議会)の抗菌性マークを取得できると考察した。
ここで、上述の抗菌活性値は、SIAA(抗菌製品技術協議会)の抗菌性マークを取得する観点から、通常2以上、好ましくは2.5以上、より好ましくは3以上、更に好ましくは3.5以上であってよい。抗菌活性値はより高い方が好ましい。
【0089】
更に、例1の積層フィルムについて、試験試料サイズを200cm、測定時間(放置時間)を24時間としたこと以外は、一般社団法人繊維評価技術協議会のSEKマーク繊維製品認証基準(JEC301)第6章-4消臭性試験、21.消臭性試験の検知管法に従い、硫化水素について、臭気減少率(単位:%)を測定したところ値は66%であった。
同様に、酢酸について臭気減少率を測定したところ値は60%であった。
同様に、アンモニアについて臭気減少率を測定したところ値は52%であった。
同様に、アセトアルデヒドについて臭気減少率を測定したところ値は26%であった。
ここで、臭気減少率は、消臭性能の観点から、通常20%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上、更に好ましくは70%以上であってよい。臭気減少率はより高い方が好ましい。
【0090】
本発明の塗料を用いて形成された塗膜を有する積層フィルム(抗ウイルス性フィルム)は、抗ウイルス用として有用なだけでなく、抗菌用や消臭用としても有用であることが分かった。
【符号の説明】
【0091】
1:抗ウイルス性塗膜
2:第1のアンカーコート
3:透明な熱可塑性樹脂フィルムの層
4:第2のアンカーコート
5:赤外線遮蔽機能を有する塗膜
6:粘着剤層
7:印刷層
8:着色され隠蔽性を有する熱可塑性樹脂フィルムの層
図1
図2