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特許7496499学習装置、学習方法、および故障予知システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-30
(45)【発行日】2024-06-07
(54)【発明の名称】学習装置、学習方法、および故障予知システム
(51)【国際特許分類】
   G05B 23/02 20060101AFI20240531BHJP
   G06N 20/00 20190101ALI20240531BHJP
   G01M 99/00 20110101ALI20240531BHJP
【FI】
G05B23/02 302V
G06N20/00 130
G01M99/00 Z
G05B23/02 R
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020198545
(22)【出願日】2020-11-30
(65)【公開番号】P2022086500
(43)【公開日】2022-06-09
【審査請求日】2023-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】白方 亨宗
(72)【発明者】
【氏名】劉 智奇
(72)【発明者】
【氏名】小松 天太
(72)【発明者】
【氏名】築澤 貴行
【審査官】大古 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-124984(JP,A)
【文献】特開2017-102554(JP,A)
【文献】特開2019-7889(JP,A)
【文献】特開平6-4789(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/00 -23/02
G06N 20/00
G01M 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
設備の動作状態を示す特定時点までの状態観測信号データから、前記設備の特定部位に関連付けられている特徴周波数の振幅の時間変動パターンを抽出するパターン抽出部と、
前記特徴周波数の振幅の時間変動パターンに基づいて、前記特定時点以降の前記特徴周波数の振幅の時間変動パターンを表す模擬状態観測信号データを生成し、前記模擬状態観測信号データを含む教師データを生成する教師データ生成部と、
前記教師データを用いて、前記特定部位の故障状態を判定するための分類モデルを生成する学習部と、
を備える学習装置。
【請求項2】
前記教師データ生成部は、前記模擬状態観測信号データと、前記特徴周波数を表す周波数ラベルと、前記特定時点からの経過時間を表す時点ラベルと、を組にした前記教師データを生成する、
請求項1に記載の学習装置。
【請求項3】
前記教師データ生成部は、前記特定時点までの状態観測信号データから抽出された前記振幅の時間変動パターンの外挿を行うことによって、前記模擬状態観測信号データを生成する、
請求項1または2に記載の学習装置。
【請求項4】
前記設備をモデル化した設備モデルを用いたシミュレーションを行うことによって、前記特徴周波数を特定するシミュレーション部
をさらに備える、請求項1ないし3のうちのいずれか1項に記載の学習装置。
【請求項5】
前記シミュレーション部が、前記設備をモデル化した設備モデルを用いて前記特定部位の故障状態をシミュレーションしている場合、前記教師データ生成部は、前記特定部位のシミュレーションされている故障状態に収束するように前記教師データを生成する、
請求項4に記載の学習装置。
【請求項6】
学習装置が実行する学習方法であって、
前記学習装置が、
設備の動作状態を示す特定時点までの状態観測信号データから、前記設備の特定部位に関連付けられている特徴周波数の振幅の時間変動パターンを抽出し、
前記特徴周波数の振幅の時間変動パターンに基づいて、前記特定時点以降の前記特徴周波数の振幅の時間変動パターンを表す模擬状態観測信号データを生成し、
前記模擬状態観測信号データを含む教師データを生成し、
前記教師データを用いて、前記特定部位の故障状態を判定するための分類モデルを生成する、
ことを含む学習方法。
【請求項7】
請求項1ないし5のうちのいずれか1項に記載の学習装置と、
前記設備の現在の動作状態を示す現在の状態観測信号データと前記分類モデルとを用いて、前記特定部位の故障状態を判定する状態判定部と、
を備える故障予知システム。
【請求項8】
前記特定部位の故障状態の判定結果を表示する表示部
をさらに備える、請求項7に記載の故障予知システム。
【請求項9】
前記表示部は、前記特徴周波数の振幅の時間変動を表示する、
請求項8に記載の故障予知システム。
【請求項10】
前記特定部位および前記特徴周波数は複数存在し、
前記表示部は、複数の前記特定部位の故障状態の判定結果を表示する、
請求項8または9に記載の故障予知システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の態様は、学習装置、学習方法、および故障予知システムに関する。
【背景技術】
【0002】
工場等で生産を行うための産業設備、産業機械、産業ロボット等では、多数のモータ、ギア等が使用されている。突発的な装置トラブルは勿論、経年劣化、摩耗劣化による装置の異常はライン停止につながり、生産性減少や事故の発生が懸念される。
【0003】
そこで、これらの装置や機器を含む設備の状態を監視し、設備の状態に応じた効率的な計画保全を支援する故障予知システムの需要が高まっている。
【0004】
そのような故障予知システムに関連して、特許文献1には、産業機械の状態を反映したセンサデータを含む状態変数と産業機械の故障の度合いを判定した判定データとの組合せに基づいて作成される訓練データセットに従って、産業機械の故障に関連付けられる条件を学習する技術が開示されている。このように訓練データ(教師データ)を用いた教師あり学習により学習することで、教師データを用いない教師なし学習による学習と比較して、設備の故障予知精度が良くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-033526号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、稼動条件や構成がまったく異なる装置内の個々のモータ、ギア等について、状態変数と複数の故障状態との組合せからなる教師データを稼動中の設備から収集するのは困難である。例えば、モータ、ギア等が実際に異常状態または故障状態(以下、故障状態と統一して呼ぶ)にあるときの状態を示すデータを大量に収集するのは現実的には困難である。そのため、教師なし学習により正常状態の学習を行って正常状態からの乖離を検出することにより故障状態を予測する方法が、実際には多く利用されている。
【0007】
このように、教師あり学習により設備の故障状態を予知または判定するための学習については、予知または判定の精度の点で検討の余地がある。
【0008】
本開示の非限定的な実施形態は、教師あり学習の教師データに用いられる故障状態を端的に示すデータを容易に取得し、設備の故障状態を精度良く判定するための学習を行う学習装置、学習方法、および故障予知システムの提供に資する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一態様に係る学習装置は、設備の動作状態を示す特定時点までの状態観測信号データから、前記設備の特定部位に関連付けられている特徴周波数の振幅の時間変動パターンを抽出するパターン抽出部と、前記特徴周波数の振幅の時間変動パターンに基づいて、前記特定時点以降の前記特徴周波数の振幅の時間変動パターンを表す模擬状態観測信号データを生成し、前記模擬状態観測信号データを含む教師データを生成する教師データ生成部と、前記教師データを用いて、前記特定部位の故障状態を判定するための分類モデルを生成する学習部と、を備える。
【0010】
本開示の別の態様に係る学習方法は、学習装置によって実行され、前記学習装置が、設備の動作状態を示す特定時点までの状態観測信号データから、前記設備の特定部位に関連付けられている特徴周波数の振幅の時間変動パターンを抽出し、前記特徴周波数の振幅の時間変動パターンに基づいて、前記特定時点以降の前記特徴周波数の振幅の時間変動パターンを表す模擬状態観測信号データを生成し、前記模擬状態観測信号データを含む教師データを生成し、前記教師データを用いて、前記特定部位の故障状態を判定するための分類モデルを生成する、ことを含む。
【0011】
本開示のさらに別の態様に係る故障予知システムは、上記学習装置と、前記設備の現在の動作状態を示す現在の状態観測信号データと前記分類モデルとを用いて、前記特定部位の故障状態を判定する状態判定部と、を備える。
【0012】
なお、これらの包括的または具体的な態様は、システム、方法、集積回路、コンピュータプログラム、または、記録媒体で実現されてよく、システム、装置、方法、集積回路、コンピュータプログラムおよび記録媒体の任意な組み合わせで実現されてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本開示の一態様によれば、教師あり学習の教師データに用いられる故障状態を端的に示すデータを容易に取得し、設備の故障状態を精度良く判定するための学習を行うことが可能になる。
【0014】
本開示の一態様における更なる利点および効果は、明細書および図面から明らかにされる。かかる利点および/または効果は、いくつかの実施形態並びに明細書および図面に記載された特徴によってそれぞれ提供されるが、1つまたはそれ以上の同一の特徴を得るために必ずしも全てが提供される必要はない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本開示の実施の形態における故障予知システムの一例を示す構成図
図2】本開示の実施の形態における学習方法の一例を示すフローチャート
図3】本開示の実施の形態における設備高調波の例を示す図
図4】本開示の実施の形態における設備モデルの一例を示す図
図5】本開示の実施の形態における設備高調波の振幅時間変動の一例を示す図
図6】本開示の実施の形態における設備高調波の振幅時間変動パターンの例を示す図
図7】本開示の実施の形態における教師データ生成の一例を示す図
図8】本開示の実施の形態における故障予知方法の一例を示すフローチャート
図9】本開示の実施の形態における故障予知表示の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を適宜参照して、本開示の実施の形態について、詳細に説明する。但し、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。
【0017】
なお、添付図面および以下の説明は、当業者が本開示を十分に理解するために、提供されるのであって、これらにより特許請求の範囲に記載の主題を限定することは意図されていない。
【0018】
(実施の形態)
<故障予知システム>
まず、図1を参照して、本開示の実施の形態における故障予知システム100について説明する。故障予知システム100は、工場等における設備を監視し、過去の設備の状態を示すデータとシミュレーションによって得られた結果とに基づいて機械学習を行って、将来の設備の故障状態を判定するための分類モデルを生成(構築)する。そして、故障予知システム100は、現在の設備の状態を示すデータと生成した分類モデルとを用いて将来の設備の故障状態を判定し、判定した判定結果をユーザに提示する。
【0019】
故障予知システム100は、監視対象の設備101、センサ110、学習装置150、状態判定部112、および表示部113を備える。これらの機能部のうちの少なくとも一部は、例えば、通信ネットワーク(有線ネットワーク、無線ネットワーク、または有線ネットワークと無線ネットワークとの組み合わせ)を介して互いに通信可能である。
【0020】
設備101は、モータ102および負荷103を含む。負荷103は、モータ102が駆動するギアボックスや機構等を表す。なお、設備101は、複数存在してもよい。その場合、設備101-1~101-M(Mは2以上の整数)の各々は、モータ102―1~102-Mおよび負荷103-1~103-Mを含む。
【0021】
センサ110は、各設備101-1~101-Mのモータおよび負荷等に接続されるまたは取り付けられる。センサ110は、設備の状態を経時的に(例えば、1分おきに、5分おきに、30分おきに、または1時間おきに等)センシング(測定)し、センシングした設備の状態を示すセンシング信号を生成する。そして、センサ110は、生成したセンシング信号を学習装置150に出力する。なお、図1において、1つのセンサ110が示されているが、複数のセンサが存在してもよい。センサ110として、例えば、モータの電源電流を測定する電流センサや高調波センサ、モータのトルクを測定するトルクセンサ、設備の振動を測定する加速度センサや振動センサ等、種々のセンサを用いることができる。また、これらのセンサを組み合わせて用いてもよい。
【0022】
学習装置150は、センサ110から出力されたセンシング信号を入力として受け付ける。学習装置150は、受け付けたセンシング信号とシミュレーションによって得られた結果とに基づいて機械学習を行って、設備の状態(より具体的には、将来の設備の故障状態)を判定するための分類モデルを生成する。また、学習装置150は、センサ110から入力されたセンシング信号を前処理して生成した状態観測信号データを状態判定部112に出力する。学習装置150の詳細については後述する。
【0023】
状態判定部112は、学習装置150によって生成された分類モデルと状態観測信号データと教師データとを用いて設備の状態を判定する。具体的には、状態判定部112は、状態観測信号データが示す特徴(後述する特徴周波数の振幅)を検出し、分類モデルおよび教師データと検出した特徴とを用いて設備の状態を判定する。このような設備の状態として、例えば、正常、劣化、異常、故障の兆候、故障、関連する設備内の部位等がある。本実施の形態では、とりわけ、状態判定部112が、分類モデルおよび教師データと検出した特徴とを用いて将来の設備の故障状態を判定する。そして、状態判定部112は、判定した判定結果を表示部113に出力する。
【0024】
表示部113は、状態判定部112から出力された判定結果を入力として受け付け、受け付けた判定結果をユーザに表示する。例えば、表示部113として、タッチパネル付きディスプレイ等のユーザインタフェース等を用いることができる。ユーザは、表示部113を通して設備の状態を判断し、設備のメンテナンスや修理が必要な部位を判断することができる。
【0025】
<学習装置>
次に、図1を引き続き参照して、故障予知システム100に含まれる学習装置150について説明する。
【0026】
学習装置150は、状態観測部111、シミュレーション部114、特徴周波数記憶部115、パターン抽出部116、教師データ生成部117、学習部118、モデル記憶部119、および設備モデル121を備える。
【0027】
状態観測部111は、センサ110から出力されたセンシング信号を入力として受け付け、受け付けたセンシング信号に前処理を行って、動作中の設備の動作状態を示す状態観測信号データを生成(取得)する。センシング信号の前処理は、例えば、フィルタリング、ノイズ除去、移動平均、フーリエ変換、Wavelet変換による周波数スペクトルへの変換等を含む。例えば、状態観測部111は、モータの電源電流を検知する電流センサからの時系列センシングデータを所定の時間窓でフーリエ変換をした周波数領域のデータを状態観測信号データとして出力する。あるいは、状態観測部111は、モータの電源電流の高調波成分を直接検知する高調波センサからのセンシングデータを所定の時間窓で移動平均をとったデータを状態観測信号データとして出力するようにしてもよい。
【0028】
そして、状態観測部111は、生成した状態観測信号データを、状態判定部112およびパターン抽出部116に出力し、モデル記憶部119において記憶させる。なお、状態観測部111は、後述する分類モデルが生成されるまでは、事前学習のために、状態観測信号データをパターン抽出部116に出力する。
【0029】
シミュレーション部114は、設備モデル121をシミュレーション動作させることによって、設備モデル121に対応する設備101の動作をシミュレーションする。シミュレーション部114は、シミュレーション動作させているときの設備モデルの動作状態を模擬的に示す模擬状態観測信号データを生成(取得)する。模擬状態観測信号データには、後述する設備の構造に特有の特徴周波数が含まれる。ここで、後述するように、設備の特定部位と特徴周波数とは密接に関連していることが見出されている。
【0030】
そして、シミュレーション部114は、生成した模擬状態観測信号データにおける設備の構造に特有の特徴周波数を、設備の特定部位に関連付けて特徴周波数記憶部115に記憶する。また、シミュレーション部114によって生成された模擬状態観測信号データは、教師データ生成部117によって生成される教師データの入力データとして使用されてもよい。したがって、シミュレーション部114は、教師データ生成部117による使用のために、生成した模擬状態観測信号データをモデル記憶部119に記憶してもよい。
【0031】
特徴周波数記憶部115は、シミュレーション部114によって生成された設備の構造に特有の特徴周波数を、各設備の特定部位に関連付けて記憶する。なお、図1では、特徴周波数記憶部115が、学習装置150の内部に存在する例を示しているが、本実施の形態は、これに限られず、特徴周波数記憶部115は、学習装置150の外部であって、かつ、故障予知システム100の内部に存在してもよい。
【0032】
パターン抽出部116は、状態観測部111から出力された状態観測信号データを入力として受け付ける。パターン抽出部116は、受け付けた状態観測信号データから、時間変動パターンを抽出する。例えば、そのような時間変動パターンは、信号振幅の時間変動パターン、特定周波数帯の信号振幅の時間変動パターン等を含む。時間変動パターンとして、例えば、線形近似、n次曲線近似、指数関数近似等、種々のパターンを用いることができる。
【0033】
パターン抽出部116は、特徴周波数記憶部115から特徴周波数を取得する。パターン抽出部116は、取得した特徴周波数を用いて、設備毎に各特徴周波数について振幅時間変動パターンを抽出することによって、各設備から抽出した振幅時間変動パターンの集合を作成する。そして、パターン抽出部116は、作成した振幅時間変動パターンの集合を教師データ生成部117に出力する。
【0034】
教師データ生成部117は、パターン抽出部116から出力された振幅時間変動パターンの集合を入力として受け付ける。教師データ生成部117は、特徴周波数記憶部115から特徴周波数を取得する。教師データ生成部117は、受け付けた時間変動パターンの集合および取得した特徴周波数を用いて、学習部118による機械学習に用いられる教師データを生成する。具体的には、教師データは、(学習の際の)現時点(または特定時点)以降の設備の動作状態を模擬的に示す、シミュレーションによって生成された模擬状態観測信号データである入力データと、設備の仮想故障部位に関連付けられている特徴周波数を表す周波数ラベル(または設備部位ラベル)と、現時点(または特定時点)からの経過時間を表す時点ラベルと、を組にしたデータである。
【0035】
ここで、「仮想故障部位」とは、将来的に故障が発生するであろう設備部位を意味する。教師データ生成部117は、このような組にした教師データを、シミュレーションによって多様かつ大量に生成する。そして、教師データ生成部117は、生成した教師データをモデル記憶部119に記憶するとともに、教師データを生成してモデル記憶部119に記憶したことを学習部118に通知する。
【0036】
学習部118は、教師データ生成部117から上記通知を受けると、特徴周波数記憶部115およびモデル記憶部119から特徴周波数および教師データをそれぞれ取得する。学習部118は、取得した特徴周波数および教師データを用いて、状態判定部112が判定すべき設備の状態(特に、将来の設備の故障状態)に関連付けられる、模擬状態観測信号データが示す特徴(特徴周波数の振幅時間変動パターン)を機械学習する。
【0037】
このような機械学習では、例えば、ニューラルネットワーク等によるディープラーニング、サポートベクタマシン、ランダムフォレスト、これらを組み合わせたアンサンブル学習等、種々の公知のアルゴリズムを用いることができる。また、学習部118は、上記のように機械学習を行うことによって、将来の設備の故障状態を判定するための分類モデルを生成する。そして、学習部118は、生成した分類モデルをモデル記憶部119に記憶する。このように、学習部118は、教師データ生成部117によって生成された教師データを用いて機械学習を行うことによって、模擬状態観測信号データと設備の状態(特に、故障状態)との関係を特徴づけ、模擬状態観測信号データの設備の状態を分類することができる。
【0038】
モデル記憶部119は、状態観測部111によって生成された状態観測信号データ、シミュレーション部114によって生成された模擬状態観測信号データ、教師データ生成部117によって生成された教師データ、および学習部118によって生成された分類モデルを記憶する。なお、図1では、モデル記憶部119が、学習装置150の内部に存在する例を示しているが、本実施の形態は、これに限られず、モデル記憶部119は、学習装置150の外部であって、かつ、故障予知システム100の内部(状態判定部112の内部を含む)に存在してもよい。
【0039】
また、状態観測部111によって生成された状態観測信号データは、モデル記憶部119とは別個の状態観測信号データ記憶部(図示せず)に記憶されてもよい。また、シミュレーション部114によって生成された模擬状態観測信号データは、モデル記憶部119とは別個の模擬状態観測信号データ記憶部(図示せず)に記憶されてもよい。また、教師データ生成部117によって生成された教師データは、モデル記憶部119とは別個の教師データ記憶部(図示せず)に記憶されてもよい。状態判定部112は、上記判定を行う際に、モデル記憶部119を参照する。表示部113は、上記表示を行う際に、モデル記憶部119を参照する。
【0040】
設備モデル121は、設備101をモデル化したものである。設備モデル121は、モータ102をモデル化したモータモデル122および負荷103をモデル化した負荷モデル123を含む。複数の設備が存在する場合、複数の設備101-1~101-Mにそれぞれ対応する設備モデル121-1~121-Mの各々は、モータをモデル化したモータモデル122および負荷をモデル化した負荷モデル123を含む。このようなモデル化は、種々の詳細度で行うことが可能であり、動作を近似式で表現するような1-Dモデルから、形状や質量・材質・電磁気回路等を再現し電磁気的・機械的動作をシミュレーションする3-Dモデル等を用いることができる。
【0041】
<学習方法>
次に、図2図7を参照して、本開示の実施の形態における学習方法200の一例について説明する。図2において、学習方法200は、学習装置150によって実行される。
【0042】
ステップS201において、教師データ生成部117は、それぞれの設備モデルから、シミュレーション部114および特徴周波数記憶部115を介して、それぞれの設備に特有の特徴周波数を取得する。
【0043】
ステップS202において、状態観測部111は、設備の状態をセンシングしているセンサ110からセンシング信号を受け付け、センシング信号に対して上述したような前処理を行って、動作中の設備の動作状態を示す状態観測信号データを生成する。すなわち、ステップS202において、状態観測部111は、設備から、センサ110を介して、動作中の設備の動作状態を示す状態観測信号データを取得する。そして、状態観測部111は、取得した状態観測信号データをパターン抽出部116に出力する。
【0044】
ステップS203において、パターン抽出部116は、特徴周波数記憶部115から特徴周波数を取得し、取得した特徴周波数を用いて、状態観測部111から出力された状態観測信号データの過去の履歴から、設備毎に各特徴周波数またはその周辺(以下、特徴周波数と統一して呼ぶ)の振幅時間変動パターンを抽出する。また、ステップS203において、パターン抽出部116は、設備毎に抽出された振幅時間変動パターンの集合を作成する。そして、パターン抽出部116は、作成した振幅時間変動パターンの集合を教師データ生成部117に出力する。
【0045】
ステップS204において、教師データ生成部117は、各設備の特定部位に関連付けられている各特徴周波数の現時点(または特定時点)までの振幅時間変動パターンに基づいて、現時点(または特定時点)以降の設備の動作状態を模擬的に示す模擬状態観測信号データをシミュレーションによって生成する。具体的には、教師データ生成部117は、設備毎に、任意の特徴周波数に対して、振幅時間変動パターンの集合から選択した任意の振幅時間変動パターンの外挿を適用することによって、様々な組合せでの模擬状態観測信号データを生成する。したがって、模擬状態観測信号データは、各設備の特定部位に関連付けられている各特徴周波数の特定時点以降のシミュレーションによって生成された振幅時間変動パターンを表す。
【0046】
ステップS205において、教師データ生成部117は、生成した模擬状態観測信号データである入力データと、設備の特定部位に関連付けられている、振幅時間変動パターンを適用した特徴周波数を表す周波数ラベルと、現時点(または特定時点)からの経過時間を表す時点ラベルと、を組にした教師データを生成する。
【0047】
ステップS206において、学習部118は、模擬状態観測信号データと周波数ラベルと時点ラベルとを組にした教師データを用いて故障判定条件を学習し、将来の設備の故障状態を判定するための分類モデルを生成する。
【0048】
次いで、学習方法200は、ステップS206からステップ202に戻り、学習装置150は、ステップS202からステップS206を繰り返し実行することによって、現時点からの振幅時間変動パターンを更新しながら、教師データを生成して学習を継続的に行う。
【0049】
次に、図3を参照して、図2のステップS201に関連して、本開示の実施の形態における設備高調波(したがって、設備に特有の「特徴周波数」)の例について説明する。
【0050】
図3において、状態観測信号データ301は、設備101のモータ102が正常に動作している際の正常状態の信号データを示している。一方、状態観測信号データ302~304は、同じ設備の同じモータのそれぞれ異なる特定部位に故障が生じた際の故障状態の信号データを示している。すなわち、状態観測信号データ302~304は、故障が生じた際の状態観測信号データの変動の可能性を示している。なお、これらの状態観測信号データ301~304は、状態観測部111が、センサ110からのセンシング信号をフーリエ変換にて周波数解析することによって生成した信号データである。
【0051】
ここで、これらの特定部位に故障が生じると、特定部位に関連付けられている特徴周波数に特定の変動が生じるという知見が見出されている。
【0052】
図3において、正常状態の状態観測信号データ301では、少なくとも、設備に特有の特徴周波数f0、f1、f2に高調波成分が生じている。これらの周波数は、モータや負荷の構造に依存する。例えば、モータについては、回転数、電源周波数、モータ回転子の構成、固定子のスロット数・極数等が、また負荷については、ギアの波数、ギア比等が、これらの周波数に関係する。周波数がどのように変動するかは、異常または故障の深度に応じて様々な可能性がある。例えば、故障状態の状態観測信号データ302において、特徴周波数f1の振幅が、正常状態の状態観測信号データ301における特徴周波数f1の振幅より大きくなる可能性を示している。また、例えば、故障状態の状態観測信号データ303において、特徴周波数f2の振幅が、正常状態の状態観測信号データ301における特徴周波数f2の振幅より大きくなる可能性を示している。また、例えば、故障状態の状態観測信号データ304において、特徴周波数f1に変調がかかるような可能性を示している。
【0053】
実際に設備に故障が発生したならば、このような故障状態の状態観測信号データを導出することが可能であるが、故障予知の観点からすると、故障が発生する前に、これらの可能性の兆候があることを推定しなければならない。このような理由から、上記知見に基づいて、ステップS201において、設備モデルから、設備の特定部位に関連付けられている、設備に特有の特徴周波数が取得される。
【0054】
次に、図4を参照して、図2のステップS201に関連して、本開示の実施の形態における設備モデルの例について説明する。
【0055】
図4において、設備401は、モータ102および負荷103を含む設備101を模式的に示しているのに対し、設備モデル402は、モータモデル122および負荷モデル123を含む設備モデル121を模式的に示している。また、図4において、模擬状態観測信号データ403は、設備モデルから導出される特徴周波数の例を示している。
【0056】
本実施の形態では、上述したような教師データを生成するために、シミュレーション部114が、設備をモデル化した設備モデルを用いてシミュレーションを行うことによって、特徴周波数を特定する。
【0057】
まず、シミュレーション部114は、学習装置150のユーザからの入力を介して等、設備401の設計データ、測定データ等から、モータやギアの構造情報を取得する。シミュレーション部114は、そのような構造情報として、例えば、形状、サイズ、質量、材質、ギア数、ギア比等の機構的な情報、電源周波数、モータのスロット数・極数等の電磁気回路的な情報等を取得する。
【0058】
次いで、シミュレーション部114は、これらの構造情報をモデルパラメータによってモデル化した設備モデル402を用いてシミュレーションを行って、模擬状態観測信号データを生成(取得)する。モデルパラメータとして、例えば、負荷トルク、電磁トルク、回転子電流/起電力/磁束密度、固定子電流/起電力/磁束密度、慣性モーメント、摩擦係数、回転速度、シャフト周波数等が用いられる。
【0059】
シミュレーション部114は、設備モデル402を用いて様々な動作状態をシミュレーションすることによって、模擬状態観測信号データを取得する。模擬状態観測信号データの精度は、シミュレーションおよびモデルの詳細度(例えば、モデルパラメータの数)に応じて、大きく異なる。しかしながら、そのような詳細度にかかわらず、構造に依存する特徴周波数は特定可能である。一方、特徴周波数毎の振幅は、各部位の状態に依存するため、シミュレーション条件や詳細度に大きく依存する。
【0060】
詳細度が高いシミュレーションは、振幅を再現できるほどの精度で模擬状態観測信号データを得ることができる。一方、詳細度が低いシミュレーションは、短時間で模擬状態観測信号データを得ることができる。図4における模擬状態観測信号データ403は、詳細度が低いシミュレーションによって生成された場合の信号データの一例を示している。この例では、特徴周波数が特定されている。
【0061】
図4における模擬状態観測信号データ403に示されている例では、6つの特徴周波数f0~f5が特定されている。6つの特徴周波数f0~f5の各々は、上述したように、設備401における特定部位に関連付けられている。例えば、f0は、電源に関連付けられている周波数であり、f1は、固定子に関連付けられている周波数であり、f2は、回転子に関連付けられている周波数である。また、例えば、f3は、1つめのギアに関連付けられている周波数であり、f4は、2つめのギアに関連付けられている周波数であり、f5は、3つめのギアに関連付けられている周波数である。
【0062】
次いで、シミュレーション部114は、生成した模擬状態観測信号データにおける設備の構造に特有の特徴周波数を特徴周波数記憶部115に記憶する。これにより、教師データ生成部117は、特徴周波数記憶部115から、設備の構造に特有の特徴周波数を取得することができる。
【0063】
次に、図5を参照して、図2のステップS203に関連して、本開示の実施の形態における設備高調波の振幅時間変動の一例について説明する。
【0064】
図5において、正常状態の状態観測信号データ301は、時刻t0(例えば、現在)の状態を表す。特徴周波数f1の振幅が大きくなる故障状態の状態観測信号データ302は、時刻t2(例えば、将来)の状態を表す。故障予知システム100は、動作中の設備の動作状態を示す状態観測信号データが、時刻t0<t1<t2におけるどの時点の状態に近いかを判定する。そのため、学習装置150は、特徴周波数f1の振幅時間変動パターン501を、状態観測信号データの過去の履歴から抽出して外挿を行って予測し、時刻t1における状態観測信号データを分類できるように学習するための教師データを必要とする。また、このような振幅時間変動パターンは、設備毎や部位(特徴周波数)毎に異なるため、学習装置150は、多様な振幅時間変動パターンを学習する必要がある。
【0065】
次に、図6を参照して、図2のステップS203に関連して、本開示の実施の形態における設備高調波の振幅時間変動パターンの例について説明する。
【0066】
図6において、振幅時間変動パターン601~603は、任意の特徴周波数の振幅についての時間変動パターンのバリエーション例を示している。例えば、振幅時間変動パターン601は、時間の経過につれて直線的に増加するパターンを示している。また、例えば、振幅時間変動パターン602は、指数関数的に増加するパターンを示している。また、例えば、振幅時間変動パターン603は、二次関数的に減少するパターンを示している。
【0067】
図4における設備モデル402のシミュレーションだけでは、これらの時間変動パターンを十分取得することができない場合があるため、本開示の実施の形態では、実際の状態観測信号データから、時間変動パターンが抽出される。学習装置150は、設備毎や特徴周波数毎に分離した振幅時間変動パターンを抽出してシミュレーションに適用することによって、多様な変動の可能性を模擬することができる。これにより、学習装置150は、多様な振幅時間変動パターンを学習することができる。以下において、このような多様な振幅時間変動パターンの学習について説明する。
【0068】
次に、図7を参照して、図2のステップS204およびステップS205に関連して、本開示の実施の形態における教師データ生成の一例について説明する。
【0069】
まず、M台の設備の現在までの正常状態の状態観測信号データ710、720、730等を
【数1】
とする。
【0070】
これらの状態観測信号データを、それぞれ対応する設備モデルから取得された特徴周波数に分割すると、
【数2】
と表すことができる。ここで、n=1・・・Nは、設備mの特徴周波数インデックスを表し、amn(t)は、設備mの特徴周波数nの振幅時間変動を表し、fmn(t)は、設備mの特徴周波数nを表す。例えば、図7に示されているように、設備1の特徴周波数として、周波数f10(7101)、周波数f11(7102)、および周波数f12(7103)が存在する。同様に、図7に示されているように、他の設備の特徴周波数として、周波数f20(7201)、周波数f21(7202)、および周波数f22(7203)、ならびに、周波数f30(7301)、周波数f31(7302)、および周波数f32(7303)が存在する。
【0071】
式(1)を、合成関数のベクタ表現にすると、
【数3】
と表すことができる。
【0072】
M台の設備から抽出された振幅時間変動パターンを集めた振幅時間変動パターン集合700は、
【数4】
と表すことができる。
【0073】
教師データ生成部117は、この振幅時間変動パターン集合700から、設備mの仮想故障部位(特徴周波数nに関連付けられている)に関する教師データを生成する。具体的には、教師データは、以下のように生成される。
【0074】
教師データ生成部117は、振幅時間変動パターン集合700から、任意の振幅時間変動パターン
【数5】
を取り出す。
【0075】
次いで、教師データ生成部117は、設備mの上記振幅時間変動パターンベクタ
【数6】
から、仮想故障部位とする任意の特徴周波数nを選択し、その振幅時間変動パターンamnを、任意のゲイン
【数7】
を乗算した
【数8】
で入れ替えたベクタ
【数9】
を生成する。ここで、上記ゲインは、故障状態へと加速させるために設定される係数である。
【0076】
次いで、教師データ生成部117は、振幅時間変動を外挿することにより、任意の将来の時点tにおける模擬状態観測信号データ
【数10】
を生成する。
【0077】
例えば、図7は、設備1の特徴周波数f10の振幅時間変動を外挿した模擬状態観測信号データ713、設備2の特徴周波数f21の振幅時間変動を外挿した模擬状態観測信号データ723、および、設備3の特徴周波数f31の振幅時間変動を外挿した模擬状態観測信号データ733を示している。
【0078】
教師データ生成部117は、上記処理を繰り返すことによって、入力データである模擬状態観測信号データ
【数11】
と、どの特徴周波数が変えられたかを示す、仮想故障部位に関連付けられている特徴周波数を表す周波数ラベルnと、(学習の際の)現時点からの経過時間を表す時点ラベルtと、を組にした、以下に示す設備mに対する教師データの集合Dを生成する。
【数12】
【0079】
教師データ生成部117は、仮想故障部位の故障状態における特徴周波数の振幅および時点t2については、以下のように設定を行う。
【0080】
シミュレーション部114が、設備モデルを用いて、詳細度が高いシミュレーションを行った場合には、教師データ生成部117は、このシミュレーションの結果取得された故障状態における特徴周波数の振幅および時点を、仮想故障部位の故障状態における特徴周波数の振幅および時点t2としてそれぞれ設定する。すなわち、教師データ生成部117は、振幅時間変動を外挿する際に、故障状態のシミュレーションによって取得された模擬状態観測信号データに収束するように振幅時間変動を外挿することができる。このような詳細度が高いシミュレーションは、例えば、実際に故障した部位をCAD等で形状やパラメータ変化として設備モデルに取り込んでシミュレーションを行うこと、故障が想定される部位に詳細なパラメータ変化を加えてシミュレーションを行うこと等を含む。この場合、シミュレーション部114によってシミュレーションされた故障状態に収束するように教師データを生成することができる。また、教師データ生成部117は、シミュレーション部114を介して取得された故障状態における特徴周波数の振幅および時点だけを設定するのではなく、詳細度が高いシミュレーションをシミュレーション部114が行ったときに生成した模擬状態観測信号データ自体を、教師データの入力データとして使用してもよい。
【0081】
シミュレーション部114が、設備モデルを用いて、詳細度が低いシミュレーションを行った場合には、または、詳細度が低いシミュレーションをシミュレーション部114が行うことなく、特徴周波数が設備の構造パラメータから決定できる場合には、教師データ生成部117は、例えば、学習装置150のユーザによって事前に入力された特徴周波数の振幅を、仮想故障部位の故障状態における特徴周波数の振幅として設定し、設定された特徴周波数の振幅に対応する時点を、仮想故障部位の故障状態における時点t2として設定する。
【0082】
なお、振幅時間変動パターンベクタの要素(振幅時間変動パターン)を入れ替える際に、教師データ生成部117は、複数の仮想故障部位にそれぞれ関連付けられている複数の特徴周波数を選択して、複数の振幅時間変動パターンを入れ替えるようにしてもよい。これにより、複数の仮想故障部位が同時に故障する可能性を考慮した教師データを生成することができる。
【0083】
さらに、振幅時間変動パターンamnを、任意のゲインを乗算した任意の振幅時間変動パターンで入れ替える代わりに、教師データ生成部117は、次のことを行ってもよい。すなわち、教師データ生成部117は、振幅時間変動パターンamnを、状態観測部111によって生成された実際の状態観測信号データに基づいて取得された振幅時間変動パターンamnと、シミュレーション部114による設備モデルを用いたシミュレーションで取得された模擬状態観測信号データに基づいて取得された振幅時間変動パターンと、を重みづけ合成した振幅時間変動パターンで入れ替えてもよい。
【0084】
ここで、重みづけは、現在に近い時点ほど実際の状態観測信号データの重みが高くなり、現在から遠くなる将来の時点ほど模擬状態観測信号データの重みが高くなるように、設定されてもよい。例えば、現時点t0と故障状態における時点t2との間の前半部分では、実際の状態観測信号データの重みが模擬状態観測信号データの重みより高くなり、現時点t0と故障状態における時点t2との間の後半部分では、模擬状態観測信号データの重みが実際の状態観測信号データの重みより高くなるように、設定されてもよい。
【0085】
これにより、シミュレーションによって得られた故障状態に滑らかに収束するように教師データを生成することができる。あるいは、他の設備等の実際の故障状態の状態観測信号データが、状態観測部111によって取得されているならば、重みづけは、その状態観測信号データの重みがより高くなるように設定されてもよい。これにより、実際の故障状態に収束するように教師データを生成することができる。
【0086】
また、他の設備等の実際の故障状態までの状態観測信号データが、状態観測部111によって取得されているならば、教師データ生成部117は、実際の故障状態までの状態観測信号データから、仮想故障部位の故障状態における特徴周波数の振幅および時点t2を設定してもよいし、実際の故障状態までの状態観測信号データ自体を、模擬状態観測信号データとして使用してもよい。
【0087】
上記では、時点ラベルtが、(学習の際の)現時点t0からの経過時間を表すとして説明されたが、本実施の形態は、これに限られず、時点ラベルtは、故障状態に関連付けられている時点t2から、現時点t0からの経過時間を減じた値に設定されてもよい。
【0088】
<変形例>
なお、図1では、シミュレーション部114および設備モデル121が存在する例を示しているが、本実施の形態では、シミュレーション部114および設備モデル121が存在しない場合でも所望の効果を得ることができる。本変形例は、上述した、特徴周波数が設備の構造パラメータから決定できる場合に相当する。本変形例では、特徴周波数は、例えば、学習装置150のユーザの入力処理によって特徴周波数記憶部115に記憶される。本変形例によれば、シミュレーション部114による設備モデル121を用いたシミュレーションを行うことなく、パターン抽出部116、教師データ生成部117、および学習部118が、特徴周波数記憶部115に記憶されている特徴周波数を用いて上記処理を行うので、学習装置150の処理負荷を低減することができる。
【0089】
(実施の形態における学習装置および学習方法の効果)
本開示の実施の形態における学習装置150およびその学習方法200は、上記構成を有することで、特徴周波数の振幅時間変動パターンを予測することによって、現時点(または特定時点)以降の多様な変動の可能性を模擬する模擬状態観測信号データを生成するとともに個々の設備構造に合わせた模擬状態観測信号データを含む教師データを生成することができる。
【0090】
ここで、この模擬状態観測信号データには、設備の故障状態を端的に示す特徴周波数の振幅のデータが含まれる。したがって、学習装置150は、教師データに用いられる故障状態を端的に示すデータを容易に取得し、設備の故障状態を精度良く判定するための学習を行うことができる。また、学習装置150およびその学習方法200は、上記構成を有することで、高い詳細度で故障状態をシミュレーションした場合には、シミュレーションされた故障状態に収束するように教師データを生成することができる。これにより、設備の故障状態をさらに精度良く判定するための学習を行うことができる。
【0091】
<故障予知方法>
次に、図8を参照して、本開示の実施の形態における故障予知方法800の一例について説明する。故障予知方法800は、故障予知システム100によって実行される。
【0092】
ステップS801において、状態観測部111は、設備の状態をセンシングしているセンサ110からセンシング信号を受け付け、センシング信号に対して上述したような前処理を行って、動作中の設備の動作状態を示す状態観測信号データを生成する。すなわち、ステップS801において、状態観測部111は、設備から、センサ110を介して、動作中の設備の動作状態を示す状態観測信号データを取得する。そして、状態観測部111は、取得した状態観測信号データを状態判定部112に出力する。
【0093】
ステップS802において、状態判定部112は、学習方法200のステップS205において学習部118によって生成されてモデル記憶部119に記憶された分類モデルに従って、状態観測部111から出力された状態観測信号データを分類する。具体的には、状態判定部112は、分類モデルに従って、状態観測信号データと模擬状態観測信号データとの類似度または確率を計算(取得)し、最も類似度の近いまたは最も確率の高い模擬状態観測信号データに関連付けられている振幅時間変動パターンに属するものとして、状態観測信号を分類する。
【0094】
ステップS803において、状態判定部112は、最も類似度の近いまたは最も確率の高い模擬状態観測信号データに関連付けられているラベルから、特定部位の故障状態(故障可能性)を判定する。具体的な判定は次の通りである。ラベルが特徴周波数である場合には、状態判定部112は、特徴周波数記憶部115を参照して、特徴周波数(周波数ラベル)に対応する特定の故障部位を判定する。ラベルが時点である場合には、状態判定部112は、対応する振幅時間変動パターンから、具体的には、故障状態に関連付けられている時点t2からこの時点ラベルtを減じることによって、この故障部位が故障するまでの予測時間を判定する。
【0095】
なお、時点ラベルtが、故障状態に関連付けられている時点t2から、学習の際の現時点(または特定時点)t0からの経過時間を減じた値に設定されている場合には、時点ラベルt自体が、この故障部位が故障するまでの予測時間に相当する。このように、状態判定部112は、設備の現在の動作状態を示す現在の状態観測信号データと分類モデルとを用いて、特定部位の故障状態を判定することができる。
【0096】
ステップS804において、表示部113は、ステップS803において状態判定部112によって判定された故障状態の判定結果を表示する。具体的には、表示部113は、判定された特定の故障部位およびこの故障部位が故障するまでの予測時間をユーザに表示する。
【0097】
故障予知システム100は、以上のステップを繰り返すことによって、故障予知およびその判定とユーザへの表示とを行う。
【0098】
なお、状態判定部112が判定し表示部113が表示する故障状態は、最も類似度の近いまたは最も確率の高い模擬状態観測信号データに関連する故障状態のみではなく、類似度の近い順にまたは確率の高い順に予め定められた数の模擬状態観測信号データに関連する故障状態であってもよい。
【0099】
<故障予知表示>
次に、図9を参照して、本開示の実施の形態における故障予知表示の一例について説明する。図9は、本開示の実施の形態における故障予知表示の一例を示す図である。
【0100】
故障予知方法800のステップS804において、図9に示されているように、表示部113は、現在の状態観測信号データ901に加えて、その判定の根拠となった模擬状態観測信号データ902、903も表示する。さらに、表示部113は、模擬状態観測信号データ902、903については、類似度または確率の高い順に並べて表示する。
【0101】
また、図9の縦矢印904で表されているように、模擬状態観測信号データの表示領域は、複数の特定部位の故障状態の判定結果を表示するようにスクロール可能なユーザインタフェースであってもよい。これにより、複数の模擬状態観測信号データの可能性を比較することが可能になる。
【0102】
さらに、図9の横矢印905で表されているように、ユーザによる横方向のスクロール指示に対しては、表示部113は、模擬状態観測信号データの時点を変更して表示するようにして、特徴周波数の振幅時間変動を表示するようにしてもよい。例えば、表示部113は、左方向のスクロール指示に対しては、模擬する時点を戻すようにし、右方向のスクロール指示に対しては、模擬する時点を進めるようにして、指示された時点の模擬状態観測信号データを表示してもよい。これにより、どのように模擬状態観測信号データが変動して故障状態に到達するかをユーザに提示することができる。また、表示部113は、左方向のスクロール指示に対しては、模擬状態観測信号データだけではなく、現在の状態観測信号データも、さらには過去の状態観測信号データをも、表示してもよい。
【0103】
(実施の形態における故障予知システムおよび故障予知方法の効果)
本開示の実施の形態における故障予知システム100およびその故障予知方法800は、学習装置150および学習方法200の効果に加えて、上記構成を有することで、学習装置150によって生成された分類モデルを用いて、設備の故障状態を精度良く判定することができる。また、故障予知システム100およびその故障予知方法800は、上記構成を有することで、現在の状態観測信号と類似度の近いまたは確率の高い模擬状態観測信号データをユーザに表示することによって、判定の根拠および故障予知の信頼度をユーザが判断することを可能にすることができる。
【0104】
上述の実施の形態においては、各構成要素に用いる「・・・部」という表記は、「・・・回路(circuitry)」、「・・・アッセンブリ」、「・・・デバイス」、「・・・ユニット」、又は、「・・・モジュール」といった他の表記に置換されてもよい。
【0105】
以上、図面を参照しながら実施の形態について説明したが、本開示はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかである。そのような変更例または修正例についても、本開示の技術的範囲に属するものと了解される。また、本開示の趣旨を逸脱しない範囲において、実施の形態における各構成要素は任意に組み合わされてよい。
【0106】
本開示はソフトウェア、ハードウェア、又は、ハードウェアと連携したソフトウェアで実現することが可能である。上記実施の形態の説明に用いた各機能ブロックは、部分的に又は全体的に、集積回路であるLSIとして実現され、上記実施の形態で説明した各プロセスは、部分的に又は全体的に、一つのLSI又はLSIの組み合わせによって制御されてもよい。LSIは個々のチップから構成されてもよいし、機能ブロックの一部または全てを含むように一つのチップから構成されてもよい。LSIはデータの入力と出力を備えてもよい。LSIは、集積度の違いにより、IC、システムLSI、スーパーLSI、ウルトラLSIと呼称されることもある。
【0107】
集積回路化の手法はLSIに限るものではなく、専用回路、汎用プロセッサ又は専用プロセッサで実現してもよい。また、LSI製造後に、プログラムすることが可能なFPGA(Field Programmable Gate Array)や、LSI内部の回路セルの接続や設定を再構成可能なリコンフィギュラブル・プロセッサを利用してもよい。本開示は、デジタル処理又はアナログ処理として実現されてもよい。
【0108】
さらには、半導体技術の進歩または派生する別技術によりLSIに置き換わる集積回路化の技術が登場すれば、当然、その技術を用いて機能ブロックの集積化を行ってもよい。バイオ技術の適用等が可能性としてありえる。
【0109】
(本開示のまとめ)
本開示の一態様に係る学習装置は、設備の動作状態を示す特定時点までの状態観測信号データから、前記設備の特定部位に関連付けられている特徴周波数の振幅の時間変動パターンを抽出するパターン抽出部と、前記特徴周波数の振幅の時間変動パターンに基づいて、前記特定時点以降の前記特徴周波数の振幅の時間変動パターンを表す模擬状態観測信号データを生成し、前記模擬状態観測信号データを含む教師データを生成する教師データ生成部と、前記教師データを用いて、前記特定部位の故障状態を判定するための分類モデルを生成する学習部と、を備える。
【0110】
上記学習装置において、前記教師データ生成部は、前記模擬状態観測信号データと、前記特徴周波数を表す周波数ラベルと、前記特定時点からの経過時間を表す時点ラベルと、を組にした前記教師データを生成する。
【0111】
上記学習装置において、前記教師データ生成部は、前記特定時点までの状態観測信号データから抽出された前記振幅の時間変動パターンの外挿を行うことによって、前記模擬状態観測信号データを生成する。
【0112】
上記学習装置において、前記設備をモデル化した設備モデルを用いたシミュレーションを行うことによって、前記特徴周波数を特定するシミュレーション部をさらに備える。
【0113】
上記学習装置において、前記シミュレーション部が、前記設備をモデル化した設備モデルを用いて前記特定部位の故障状態をシミュレーションしている場合、前記教師データ生成部は、前記特定部位のシミュレーションされている故障状態に収束するように前記教師データを生成する。
【0114】
本開示の別の態様に係る学習方法は、学習装置によって実行され、前記学習装置が、設備の動作状態を示す特定時点までの状態観測信号データから、前記設備の特定部位に関連付けられている特徴周波数の振幅の時間変動パターンを抽出し、前記特徴周波数の振幅の時間変動パターンに基づいて、前記特定時点以降の前記特徴周波数の振幅の時間変動パターンを表す模擬状態観測信号データを生成し、前記模擬状態観測信号データを含む教師データを生成し、前記教師データを用いて、前記特定部位の故障状態を判定するための分類モデルを生成する、ことを含む。
【0115】
本開示のさらに別の態様に係る故障予知システムは、上記学習装置と、前記設備の現在の動作状態を示す現在の状態観測信号データと前記分類モデルとを用いて、前記特定部位の故障状態を判定する状態判定部と、を備える。
【0116】
上記故障予知システムにおいて、前記特定部位の故障状態の判定結果を表示する表示部をさらに備える。
【0117】
上記故障予知システムにおいて、前記表示部は、前記特徴周波数の振幅の時間変動を表示する。
【0118】
上記故障予知システムにおいて、前記特定部位および前記特徴周波数は複数存在し、前記表示部は、複数の前記特定部位の故障状態の判定結果を表示する。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本開示の一態様は、故障予知システムに有用である。
【符号の説明】
【0120】
100 故障予知システム
101 設備
110 センサ
111 状態観測部
112 状態判定部
113 表示部
114 シミュレーション部
115 特徴周波数記憶部
116 パターン抽出部
117 教師データ生成部
118 学習部
119 モデル記憶部
121 設備モデル
150 学習装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9