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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-30
(45)【発行日】2024-06-07
(54)【発明の名称】二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20240531BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20240531BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20240531BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20240531BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/66 A
H01M10/058
H01M4/13
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021542042
(86)(22)【出願日】2020-06-23
(86)【国際出願番号】 JP2020024532
(87)【国際公開番号】W WO2021039063
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2023-04-06
(31)【優先権主張番号】P 2019154693
(32)【優先日】2019-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】澁谷 聡
【審査官】井上 能宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-110149(JP,A)
【文献】特開2012-028322(JP,A)
【文献】特開2007-242420(JP,A)
【文献】国際公開第2013/146723(WO,A1)
【文献】特開平09-241027(JP,A)
【文献】特開2010-282849(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に配置されるセパレータと、電解質と、を備え、
前記正極は、正極集電体と、正極活物質を含む正極合材層と、不活性材料を含む追加層と、を有し、
前記不活性材料は、空間群Fm3m、C2/M、Immm、P3m1のいずれかに属する結晶構造を有するLi含有遷移金属酸化物であり、
前記追加層中の前記不活性材料の含有量は、60質量%以上であり、
前記追加層の目付量は3.8g/m以上50g/m以下であり、
前記追加層は、前記正極集電体と前記正極合材層との間に位置し、
前記不活性材料のうち空間群Immmに属する結晶構造を有するLi含有遷移金属酸化物は、遷移金属としてCuを主成分とする結晶構造を有するLi含有遷移金属酸化物である、二次電池。
【請求項2】
前記不活性材料は、遷移金属としてFe又はMnを主成分とし、空間群Fm3mに属する結晶構造を有するLi含有遷移金属酸化物、及び遷移金属としてCu又はNiを主成分とし、空間群C2/M、P3m1のいずれかに属する結晶構造を有するLi含有遷移金属酸化物のうちの少なくともいずれか一方を含む、請求項1に記載の二次電池。
【請求項3】
前記不活性材料は、LiFe1-y(0.5≦x≦1.5、0.5≦y≦1、MはFe以外の遷移金属)で表され、空間群Fm3mに属するLi含有遷移金属酸化物、LiMn1-y(0.5≦x≦1.5、0.5≦y≦1、MはMn以外の遷移金属)で表され、空間群Fm3mに属するLi含有遷移金属酸化物、LiCu1-y(0.5≦x≦1.5、0.5≦y≦1、MはCu以外の遷移金属)で表され、空間群C2/M、Immm、P3m1のいずれかに属する結晶構造を有するLi含有遷移金属酸化物、及びLiNi1-y(0.5≦x≦1.5、0.5≦y≦1、MはNi以外の遷移金属)で表され、空間群C2/M、P3m1のいずれかに属する結晶構造を有するLi含有遷移金属酸化物のうちの少なくともいずれか1つを含む、請求項1又は2に記載の二次電池。
【請求項4】
前記追加層の空隙率は、25%以上55%以下である、請求項に記載の二次電池。
【請求項5】
前記不活性材料の粒子形状は、多面体状、針状、又はネッキング状である、請求項に記載の二次電池。
【請求項6】
前記追加層は、正極活物質をさらに含む、請求項1に記載の二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池は、例えば、正極、負極、及び電解質を備え、正極と負極との間でリチウムイオンを移動させて充放電を行う非水電解質二次電池が広く利用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、非水電解質二次電池用正極として、正極集電体と、正極集電体上に形成された保護層と、リチウム含有遷移金属酸化物を含み、前記保護層上に形成された正極合材層と、を備え、前記保護層は、厚みが1μm~5μmであり、前記リチウム含有遷移金属酸化物よりも酸化力が低い無機化合物、及び導電材を含む、非水電解質二次電池用正極が開示されている。
【0004】
例えば、特許文献2には、正極および負極を備える二次電池であって、正極は、正極集電体と、前記正極集電体に保持された正極合材層とを備え、前記正極合材層は、前記正極集電体上に形成された第1正極合材層と、前記第1正極合材層を覆う第2正極合材層とを有し、前記第1正極合材層は、過充電時に酸素を放出し得る第1正極活物質を含み、前記第2正極合材層は、前記第1正極活物質よりも耐湿性が高い第2正極活物質を含む、二次電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016―127000号公報
【文献】特開2015-138730号公報
【発明の概要】
【0006】
ところで、二次電池は、異物(例えば釘等の金属物)の突刺しによって、内部短絡が発生すると、電池が発熱して、高温になる場合がある。
【0007】
そこで、本開示の目的は、異物の突刺しによって、内部短絡が発生した際の電池温度の上昇を抑制することができる二次電池を提供することにある。
【0008】
本開示の一態様である二次電池は、正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に配置されるセパレータと、電解質と、を備え、前記正極は、正極集電体と、正極活物質を含む正極合材層と、不活性材料を含む追加層と、を有し、前記不活性材料は、空間群Fm3m、C2/M、Immm、P3m1のいずれかに属する結晶構造を有するLi含有遷移金属酸化物であり、前記追加層中の前記不活性材料の含有量は、60質量%以上であり、前記追加層の目付量は3.8g/m以上50g/m以下である。
【0009】
本開示の一態様によれば、異物の突刺しによって、内部短絡が発生した際の電池温度の上昇を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態の一例であるリチウムイオン二次電池の断面図である。
図2】本実施形態の二次電池に用いられる正極の一例を示す断面図である。
図3】本実施形態の二次電池に用いられる正極の他の一例を示す断面図である。
図4】本実施形態の二次電池に用いられる正極の他の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示の一態様である二次電池は、正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に配置されるセパレータと、電解質と、を備え、前記正極は、正極集電体と、正極活物質を含む正極合材層と、不活性材料を含む追加層と、を有し、前記不活性材料は、空間群Fm3m、C2/M、Immm、P3m1のいずれかに属する結晶構造を有するLi含有遷移金属酸化物であり、前記追加層中の前記不活性材料の含有量は、60質量%以上であり、前記追加層の目付量は3.8g/m以上50g/m以下である。そして、本開示の一態様である二次電池によれば、異物の突刺しによって、内部短絡が発生した際の電池温度の上昇を抑制することができる。
【0012】
空間群Fm3m、C2/M、Immm、P3m1のいずれかに属する結晶構造を有するLi含有遷移金属酸化物は、リチウムイオン等の電荷担体となる化学種を可逆的に吸蔵及び放出することが困難な材料、所謂電気化学的に不活性な材料である。このような不活性材料を60質量%以上含み、3.8g/m以上50g/m以下の目付量を有する追加層を正極に設けることにより、異物(例えば釘等の金属物)の突刺しによって、内部短絡が生じた際、追加層が抵抗成分となって、異物を介して正極と負極との間に流れる電流量が抑えられる。その結果、異物の突刺しによって、内部短絡が発生した際の電池温度の上昇が抑制される。
【0013】
本開示において、二次電池とは、繰り返し充放電可能な蓄電装置であり、例えば、非水電解質二次電池、水系二次電池等であり、具体的にはリチウムイオン二次電池、アルカリ系二次電池等が挙げられる。以下では、本開示の一態様である二次電池の一例として、リチウムイオン二次電池を例に説明する。
【0014】
図1は、実施形態の一例であるリチウムイオン二次電池の断面図である。図1に示すリチウムイオン二次電池10は、正極11及び負極12がセパレータ13を介して巻回されてなる巻回型の電極体14と、電解質と、電極体14の上下にそれぞれ配置された絶縁板18,19と、上記部材を収容する電池ケース15と、を備える。電池ケース15は、有底円筒形状のケース本体16と、ケース本体16の開口部を塞ぐ封口体17とにより構成される。なお、巻回型の電極体14の代わりに、正極及び負極がセパレータを介して交互に積層されてなる積層型の電極体など、他の形態の電極体が適用されてもよい。また、電池ケース15としては、円筒形、角形、コイン形、ボタン形等の金属製ケース、樹脂シートをラミネートして形成された樹脂製ケース(ラミネート型電池)などが例示できる。
【0015】
ケース本体16は、例えば有底円筒形状の金属製容器である。ケース本体16と封口体17との間にはガスケット28が設けられ、電池内部の密閉性が確保される。ケース本体16は、例えば側面部の一部が内側に張出した、封口体17を支持する張り出し部22を有する。張り出し部22は、ケース本体16の周方向に沿って環状に形成されることが好ましく、その上面で封口体17を支持する。
【0016】
封口体17は、電極体14側から順に、フィルタ23、下弁体24、絶縁部材25、上弁体26、及びキャップ27が積層された構造を有する。封口体17を構成する各部材は、例えば円板形状又はリング形状を有し、絶縁部材25を除く各部材は互いに電気的に接続されている。下弁体24と上弁体26は各々の中央部で互いに接続され、各々の周縁部の間には絶縁部材25が介在している。内部短絡等による発熱でリチウムイオン二次電池10の内圧が上昇すると、例えば下弁体24が上弁体26をキャップ27側に押し上げるように変形して破断し、下弁体24と上弁体26の間の電流経路が遮断される。さらに内圧が上昇すると、上弁体26が破断し、キャップ27の開口部からガスが排出される。
【0017】
図1に示すリチウムイオン二次電池10では、正極11に取り付けられた正極リード20が絶縁板18の貫通孔を通って封口体17側に延び、負極12に取り付けられた負極リード21が絶縁板19の外側を通ってケース本体16の底部側に延びている。正極リード20は封口体17の底板であるフィルタ23の下面に溶接等で接続され、フィルタ23と電気的に接続された封口体17の天板であるキャップ27が正極端子となる。負極リード21はケース本体16の底部内面に溶接等で接続され、ケース本体16が負極端子となる。
【0018】
以下に、正極11、負極12、非水電解質、セパレータ13について詳述する。
【0019】
<正極>
図2は、本実施形態の二次電池に用いられる正極の一例を示す断面図である。図2に示す正極11は、正極集電体30と、正極集電体30上に配置された正極合材層32と、正極合材層32上に配置された追加層34とを備える。追加層34の上にはセパレータ(不図示)が配置される。すなわち、図2に示す正極11では、追加層34は正極合材層32とセパレータとの間に位置している。追加層34の位置は特に限定されるものではなく、例えば、図3に示すように、正極集電体30上に追加層34を配置し、追加層34上に正極合材層32を配置してもよい。すなわち、追加層34は正極集電体30と正極合材層32との間に位置してもよい。また、例えば、図4に示すように、追加層34は、正極集電体30側に配置された正極合材層32とセパレータ側に配置された正極合材層32との間に位置してもよい。追加層34及び正極合材層32は、正極集電体30の一方の面にのみ設けられてもよいし、正極集電体30の両面に設けられていてもよい。
【0020】
正極集電体30には、アルミニウムなどの正極の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。正極集電体30の厚みは、例えば、1μm以上20μm以下の範囲であることが好ましい。
【0021】
正極合材層32は、正極活物質を含み、さらに結着材や導電材等を含むことが好ましい。正極合材層32の厚みは、例えば、20μm以上100μm以下の範囲であることが好ましい。
【0022】
正極活物質は、リチウムイオン等の電荷担体となる化学種を可逆的に吸蔵及び放出できる材料であり、例えば、空間群R-3mに属する結晶構造(空間群R-3mの結晶構造は層状構造)を有するリチウム遷移金属酸化物等が挙げられる。正極活物質として用いられるリチウム含有遷移金属酸化物を構成する金属元素は、例えば、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、カルシウム(Ca)、スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、ゲルマニウム(Ge)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、錫(Sn)、アンチモン(Sb)、タングステン(W)、鉛(Pb)、およびビスマス(Bi)から選択される少なくとも1種を含む。これらの中では、Co、Ni、Mn、Alから選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0023】
正極活物質の結晶構造は、X線回折(XRD)測定を行った場合に得られる回折パターンに見られるピークにより特定される。
【0024】
X線回折パターンは、粉末X線回折装置(株式会社リガク製、商品名「RINT-TTR」、線源Cu-Kα)を用いて、以下の条件による粉末X線回折法によって得られる。
測定範囲;15-120°
スキャン速度;4°/min
解析範囲;30-120°
バックグラウンド;B-スプライン
プロファイル関数;分割型擬Voigt関数
束縛条件;Li(3a) + Ni(3a)=1
Ni(3a) + Ni(3b)=y
ICSD No.;98-009-4814
正極合材層32に含まれる導電材としては、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛等の炭素粉末等が挙げられる、これらは、1種単独でもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
正極合材層32に含まれる結着材としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のフッ素系樹脂、PAN、ポリイミド系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂等を用いることができる。これらは、1種単独でもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0026】
追加層34は、不活性材料を含み、さらに導電材および結着材等を含むことが好ましい。追加層34の厚みは、例えば、1μm以上5μm以下の範囲であることが好ましい。導電材は正極合材層32に使用される導電材と同様のものを使用できる。結着材は正極合材層32に使用される結着材と同様のものを使用できる。
【0027】
不活性材料は、空間群Fm3m、C2/M、Immm、P3m1のいずれかに属する結晶構造を有するLi含有遷移金属酸化物である。当該Li含有遷移金属酸化物は、リチウムイオン等の電荷担体となる化学種を可逆的に吸蔵及び放出することが困難な材料であり、好ましくは、2.5V~4.2V(vs.Li/Li)の電位範囲で、リチウムイオンを可逆的に吸蔵及び放出することができない材料である。不活性材料の結晶構造は、X線回折(XRD)測定を行った場合に得られる回折パターンに見られるピークにより特定される。XRD測定の条件は前述の通りである。
【0028】
不活性材料は、内部短絡時において追加層34を抵抗成分として十分に機能させることができる点で、遷移金属としてFe又はMnを主成分とし、空間群Fm3mに属する結晶構造を有するLi含有遷移金属酸化物、及び遷移金属としてCu又はNiを主成分とし、空間群C2/M、Immm、P3m1のいずれかに属する結晶構造を有するLi含有遷移金属酸化物のうちの少なくともいずれか一方を含むことが好ましい。ここで、遷移金属の主成分とは、Li含有遷移金属酸化物中に最も多く含有する遷移金属を意味する。
【0029】
特に、不活性材料は、LiFe1-y(0.5≦x≦1.5、0.5≦y≦1、MはFe以外の遷移金属)で表され、空間群Fm3mに属するLi含有遷移金属酸化物、LiMn1-y(0.5≦x≦1.5、0.5≦y≦1、MはMn以外の遷移金属)で表され、空間群Fm3mに属するLi含有遷移金属酸化物、LiCu1-y(0.5≦x≦1.5、0.5≦y≦1、MはCu以外の遷移金属)で表され、空間群C2/M、Immm、P3m1のいずれかに属する結晶構造を有するLi含有遷移金属酸化物、及びLiNi1-y(0.5≦x≦1.5、0.5≦y≦1、MはNi以外の遷移金属)で表され、空間群C2/M、Immm、P3m1のいずれかに属する結晶構造を有するLi含有遷移金属酸化物のうちの少なくともいずれか1つを含むことが好ましい。
【0030】
追加層34中の不活性材料の含有量は、60質量%以上であればよいが、さらに90質量%以上であることが好ましい。追加層34中の不活性材料の含有量が、50質量%未満であると、異物の突刺しによって、内部短絡が生じた際、追加層34が抵抗成分として十分に機能せず、内部短絡が発生した際の電池温度の上昇を十分に抑制できない。追加層34中の不活性材料の含有量の上限は特に限定されるものではない。追加層34には、正極活物質を含んでいてもよい。追加層34中の正極活物質の含有量は、内部短絡が発生した際の電池温度の上昇を抑制するという本開示の効果を損なわない範囲であれば特に限定されるものではないが、例えば、30質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。なお、正極合材層32に不活性材料を含んでいてもよい。正極合材層32中の不活性材料の含有量は、電池容量の低下が引き起こされない程度であることが好ましく、例えば、2質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましい。
【0031】
追加層34の目付量は、3.8g/m以上50g/m以下であればよいが、7g/m以上であることが好ましく、20g/m以下であることが好ましい。追加層34の目付量が3.8g/m未満であると、異物の突刺しによって、内部短絡が生じた際、追加層34が抵抗成分として十分に機能せず、内部短絡が発生した際の電池温度の上昇を十分に抑制できない。また、追加層34の目付量が50g/m超であると、正極11の電気抵抗が上昇して、通常時における電池容量が低下する。
【0032】
正極11における追加層34の位置は、図2~4で示す位置の中では、正極合材層32とセパレータとの間に追加層34が位置していることが好ましい(図2)。図2に示す追加層34の位置によれば、正極集電体30と正極合材層32との間の集電を追加層34により阻害されないため、電池容量の低下が抑制される。
【0033】
追加層34が正極合材層32とセパレータとの間に位置する場合には、追加層34の空隙率は、25%以上55%以下であることが好ましく、30%以上50%以下であることがより好ましい。追加層34の空隙率が25%未満では、電解質が正極合材層32に浸透し難くなり、電池容量が低下する場合がある。また、追加層34の空隙率が55%超では、追加層34の空隙率が55%以下の場合と比較して、内部短絡が発生した際の電池温度の上昇を抑制できない場合がある。追加層34が正極集電体30と正極合材層32との間に位置する場合(図3)、及び正極合材層32に挟まれている場合(図4)においては、追加層34の空隙率は、電池容量の低下、内部短絡が発生した際の電池温度の上昇抑制等の点で、例えば70%以上87%以下であることが好ましい。
【0034】
追加層34の空隙率は、下記の式で算出される。
【0035】
追加層34の空隙率(%)=100-[[W÷(d×ρ)]×100]
W:追加層の目付量(g/cm
d:追加層の厚み(cm)
ρ:追加層の平均密度(g/cm
不活性材料の粒子形状は、例えば、球状、多面体状、針状、ネッキング状等が挙げられるが、追加層34が正極合材層32とセパレータとの間に位置する場合には、不活性材料の粒子形状は、電解質が正極合材層32に浸透し易くなり、電池容量が向上する等の点で、多面体状、針状、又はネッキング状が好ましい。
【0036】
不活性材料の粒径は、内部短絡が発生した際の電池温度の上昇をより効果的に抑制できる点等から、例えば、5μm以下であることが好ましく、1.5μm以下であることがより好ましい。粒径とは、レーザー回折散乱法で測定される粒度分布において粒子径に対する積算%が50%となる50%粒子径(D50)を意味する。
【0037】
不活性材料を含む追加層34は、例えば、初期充電時にLiイオンを放出して、不活性材料となる前駆体を用いて追加層34を形成し、追加層34を具備する二次電池を充放電することにより、当該前駆体を不活性材料に変化させることにより得られる。充電によって不活性材料となる前駆体は、例えば、LiFeO、LiMnO、LiCuO、LiNiO、LiCu0.6Ni0.4等が挙げられる。
【0038】
<負極>
負極12は、例えば金属箔等の負極集電体と、負極集電体上に形成された負極合材層とを備える。負極集電体には、銅などの負極の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。負極合材層は、例えば、負極活物質、結着材等を含む。
【0039】
負極合材層に含まれる負極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵・放出することが可能な材料であれば特に制限されるものではなく、例えば、炭素材料、リチウムと合金を形成することが可能な金属またはその金属を含む合金化合物等が挙げられる。炭素材料としては、天然黒鉛、難黒鉛化性炭素、人造黒鉛等のグラファイト類、コークス類等を用いることができ、合金化合物としては、リチウムと合金形成可能な金属を少なくとも1種類含むものが挙げられる。リチウムと合金形成可能な元素としてはケイ素やスズであることが好ましく、これらが酸素と結合した、酸化ケイ素や酸化スズ等も用いることもできる。また、上記炭素材料とケイ素やスズの化合物とを混合したものを用いることができる。上記の他、チタン酸リチウム等の金属リチウムに対する充放電の電位が、炭素材料等より高いものも用いることができる。
【0040】
負極合材層に含まれる結着材としては、正極の場合と同様にフッ素系樹脂、PAN、ポリイミド系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂等を用いることができる。その他には、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、CMC又はその塩、ポリアクリル酸(PAA)又はその塩(PAA-Na、PAA-K等、また部分中和型の塩であってもよい)、ポリビニルアルコール(PVA)等を用いてもよい。
【0041】
<電解質>
電解質は、例えば、非水溶媒と、非水溶媒に溶解した電解質塩とを含む。電解質は、液体電解質に限定されず、ゲル状ポリマー等を用いた固体電解質であってもよい。非水溶媒には、例えばエステル類、エーテル類、アセトニトリル等のニトリル類、ジメチルホルムアミド等のアミド類、及びこれらの2種以上の混合溶媒等を用いることができる。非水溶媒は、これら溶媒の水素の少なくとも一部をフッ素等のハロゲン原子で置換したハロゲン置換体を含有していてもよい。
【0042】
上記エステル類の例としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート等の環状炭酸エステル、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート等の鎖状炭酸エステル、γ-ブチロラクトン(GBL)、γ-バレロラクトン(GVL)等の環状カルボン酸エステル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル(MP)、プロピオン酸エチル、γ-ブチロラクトン等の鎖状カルボン酸エステルなどが挙げられる。
【0043】
上記エーテル類の例としては、1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、プロピレンオキシド、1,2-ブチレンオキシド、1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、1,3,5-トリオキサン、フラン、2-メチルフラン、1,8-シネオール、クラウンエーテル等の環状エーテル、1,2-ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジヘキシルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、メチルフェニルエーテル、エチルフェニルエーテル、ブチルフェニルエーテル、ペンチルフェニルエーテル、メトキシトルエン、ベンジルエチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、o-ジメトキシベンゼン、1,2-ジエトキシエタン、1,2-ジブトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、1,1-ジメトキシメタン、1,1-ジエトキシエタン、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル等の鎖状エーテル類などが挙げられる。
【0044】
上記ハロゲン置換体としては、フルオロエチレンカーボネート(FEC)等のフッ素化環状炭酸エステル、フッ素化鎖状炭酸エステル、フルオロプロピオン酸メチル(FMP)等のフッ素化鎖状カルボン酸エステル等を用いることが好ましい。
【0045】
電解質塩は、リチウム塩であることが好ましい。リチウム塩の例としては、LiBF、LiClO4、LiPF、LiAsF、LiSbF6、LiAlCl4、LiSCN、LiCF3SO3、LiCF3CO2、Li(P(C)F)、LiPF6-x(C2n+1(1<x<6,nは1又は2)、LiB10Cl10、LiCl、LiBr、LiI、クロロボランリチウム、低級脂肪族カルボン酸リチウム、Li、Li(B(C)F)等のホウ酸塩類、LiN(SOCF、LiN(C2l+1SO)(C2m+1SO){l,mは0以上の整数}等のイミド塩類などが挙げられる。リチウム塩は、これらを1種単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。これらのうち、イオン伝導性、電気化学的安定性等の観点から、LiPFを用いることが好ましい。リチウム塩の濃度は、非水溶媒1L当り0.8~1.8molとすることが好ましい。
【0046】
<セパレータ>
セパレータ13は、例えば、イオン透過性及び絶縁性を有する多孔性シートが用いられる。多孔性シートの具体例としては、微多孔薄膜、織布、不織布等が挙げられる。セパレータ13の材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、セルロースなどが好適である。セパレータ13は、セルロース繊維層及びオレフィン系樹脂等の熱可塑性樹脂繊維層を有する積層体であってもよく、セパレータ13の表面にアラミド樹脂等が塗布されたものを用いてもよい。
【実施例
【0047】
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0048】
<実施例1>
[正極活物質の作製]
正極活物質(組成:LiNi0.88Co0.09Al0.03)を98質量部、導電材としてアセチレンブラックを1質量部、結着材としてポリフッ化ビニリデンを1質量部の割合で混合し、正極合材層用スラリーを調製した。また、前駆体としてLiFeO(平均粒径:1μm)を99質量部、アセチレンブラックを0.5質量部、ポリフッ化ビニリデンを0.5質量部の割合で混合し、追加層用スラリーを調製した。次いで、正極合材層用スラリーを厚さ15μmのアルミニウム箔に塗布し、当該塗膜上に追加層用スラリーを塗布・乾燥し、得られた塗膜を圧延して、アルミニウム箔の両面に正極合材層が形成され、正極合材層上に追加層が形成された正極を作製した。正極の作製において、片面あたりの正極合材層の目付を270g/mに設定し、追加層の目付を10g/mに設定した。
【0049】
[負極の作製]
負極活物質(黒鉛)を98質量部、SBRを1質量部と、CMCを1質量部の割合で混合し、さらに水を適量加えて、負極合材スラリーを調製した。次いで、負極合材スラリーを厚さ15μmの銅箔に塗布し、塗膜を乾燥した。そして、塗膜を圧延して、負極集電体の両面に負極合材層が形成された負極を作製した。
【0050】
[電解液の調製]
エチレンカーボネート(EC)と、メチルエチルカーボネート(MEC)とを、3:7の体積比で混合した混合溶媒に対して、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を1モル/リットルの濃度になるように溶解して、電解液を調製した。
【0051】
[試験セルの作製]
正極と、負極とを、セパレータを介して互いに対向するように積層し、これを巻回して、電極体を作製した。正極の追加層は正極合材層とセパレータとの間に位置している(すなわち、追加層の位置はセパレータ側である)。次いで、電極体及び上記電解液を有底円筒形状の電池ケース本体に収容し、上記電解液を注入した後、ガスケット及び封口体により電池ケース本体の開口部を封口して、試験セルを作製した。
【0052】
当該試験セルを、25℃の環境下、0.2Cの定電流で、電池電圧が4.2Vになるまで定電流充電し、その後、電流値が0.02Cになるまで定電圧充電した。次に、0.05Cの定電流で、電池電圧が2.5Vになるまで放電した。
【0053】
充放電後の試験セルをドライルーム内にて解体し、追加層の試料を採取した。採取した試料に対して、既述の条件で粉末X線回折測定を行い、X線回折パターンを得た。その結果、空間群Fm3mに属する結晶構造を示す回折ピークが確認された。また、この試料をICPにより組成分析した結果、LiFeOという組成であった。すなわち、試験セルを充放電することにより、空間群Fm3mに属する結晶構造を有するLiFeOを含む追加層が形成された。また、追加層から採取した試料にはLiFeO成分が確認されなかったことから、上記充放電により、追加層内のLiFeOはほとんど全て上記LiFeOに変換されたものと推察される。
【0054】
<実施例2>
正極の追加層用スラリーの調製において、LiFeO(平均粒径:1μm)に代えてLiMnO(平均粒径:1μm)を用いたこと以外、実施例1と同様にして、試験セルを作製した。
【0055】
実施例2の試験セルを、実施例1と同様に充放電を行い、追加層の分析を行った。その結果、空間群Fm3mに属する結晶構造を有するLiMnOを含む追加層が形成できた。また、充放電により、追加層内のLiMnOはほとんど全て上記LiMnOに変換されたものと推察される。
【0056】
<実施例3>
正極の追加層用スラリーの調製において、LiFeO(平均粒径:1μm)に代えてLiCuO(平均粒径:1μm)を用いたこと以外、実施例1と同様にして、試験セルを作製した。
【0057】
実施例3の試験セルを、実施例1と同様に充放電を行い、追加層の分析を行った。その結果、空間群C2/mに属する結晶構造を有するLiCuOを含む追加層が形成できた。また、充放電により、追加層内のLiCuOはほとんど全て上記LiCuOに変換されたものと推察される。
【0058】
<実施例4>
正極の追加層用スラリーの調製において、LiFeO(平均粒径:1μm)に代えてLiNiO(平均粒径:1μm)を用いたこと以外、実施例1と同様にして、試験セルを作製した。
【0059】
実施例4の試験セルを、実施例1と同様に充放電を行い、追加層の分析を行った。その結果、空間群P3m1に属する結晶構造を有するLiNiOを含む追加層が形成できた。また、充放電により、追加層内のLiNiOはほとんど全て上記LiNiOに変換されたものと推察される。
【0060】
<実施例5>
正極の作製において、追加層の目付を3.8g/mに設定したこと以外、実施例1と同様にして、試験セルを作製し、充放電を行った。
【0061】
<実施例6>
正極の作製において、追加層の目付を50g/mに設定したこと以外、実施例1と同様にして、試験セルを作製し、充放電を行った。
【0062】
<実施例7>
正極の追加層用スラリーの調製において、LiFeO(平均粒径:1μm)に代えてLiNiO(平均粒径:1μm)を用いたこと以外、実施例1と同様にして、試験セルを作製した。
【0063】
実施例7の試験セルを、充電する電池電圧を4.1Vに変えたこと以外実施例1と同様に充放電を行い、追加層の分析を行った。その結果、空間群ImmmおよびP3m1の2種に属する結晶構造を有するLi1.4NiOを含む追加層が形成できた。また、充放電により、追加層内のLiNiOはほとんど全て上記Li1.4NiOに変換されたものと推察される。
【0064】
<実施例8>
正極の追加層用スラリーの調製において、LiFeO(平均粒径:1μm)に代えてLiCu0.6Ni0.4(平均粒径:1μm)を用いたこと以外、実施例1と同様にして、試験セルを作製した。
【0065】
実施例8の試験セルを、実施例1と同様に充放電を行い、追加層の分析を行った。その結果、空間群C2/mに属する結晶構造を有するLiCu0.6Ni0.4を含む追加層が形成できた。また、充放電により、追加層内のLiCu0.6Ni0.4はほとんど全て上記LiCu0.6Ni0.4に変換されたものと推察される。
【0066】
<実施例9>
正極の作製において、追加層用スラリーをアルミニウム箔に塗布し、当該塗膜上に正極合材層用スラリーを塗布したこと以外、実施例1と同様にして、試験セルを作製した。正極の追加層はアルミニウム箔と正極合材層との間に位置している(すなわち、追加層の位置は正極集電体側である)。実施例9の試験セルを、実施例1と同様に充放電を行った。
【0067】
<実施例10>
正極の作製において、追加層用スラリーをアルミニウム箔に塗布し、当該塗膜上に正極合材層用スラリーを塗布したこと以外、実施例2と同様にして、試験セルを作製した。正極の追加層はアルミニウム箔と正極合材層との間に位置している(すなわち、追加層の位置は正極集電体側である)。実施例10の試験セルを、実施例2と同様に充放電を行った。
【0068】
<実施例11>
正極の作製において、追加層用スラリーをアルミニウム箔に塗布し、当該塗膜上に正極合材層用スラリーを塗布したこと以外、実施例3と同様にして、試験セルを作製した。実施例11の試験セルを、実施例3と同様に充放電を行った。
【0069】
<実施例12>
正極の作製において、追加層用スラリーをアルミニウム箔に塗布し、当該塗膜上に正極合材層用スラリーを塗布したこと以外、実施例4と同様にして、試験セルを作製した。実施例12の試験セルを、実施例4と同様に充放電を行った。
【0070】
<実施例13>
正極の作製において、追加層用スラリーをアルミニウム箔に塗布し、当該塗膜上に正極合材層用スラリーを塗布したこと以外、実施例5と同様にして、試験セルを作製した。実施例13の試験セルを、実施例5と同様に充放電を行った。
【0071】
<実施例14>
正極の作製において、追加層用スラリーをアルミニウム箔に塗布し、当該塗膜上に正極合材層用スラリーを塗布したこと以外、実施例6と同様にして、試験セルを作製した。実施例14の試験セルを、実施例6と同様に充放電を行った。
【0072】
<実施例15>
正極の作製において、LiFeO(平均粒径:1μm)に代えてLiFeO(平均粒径:0.3μm)を用いたこと、追加層用スラリーをアルミニウム箔に塗布し、当該塗膜上に正極合材層用スラリーを塗布したこと以外、実施例1と同様にして、試験セルを作製した。実施例15の試験セルを、実施例1と同様に充放電を行った。
【0073】
<実施例16>
正極の作製において、LiFeO(平均粒径:1μm)に代えてLiFeO(平均粒径:1.5μm)を用いたこと、追加層用スラリーをアルミニウム箔に塗布し、当該塗膜上に正極合材層用スラリーを塗布したこと以外、実施例1と同様にして、試験セルを作製した。実施例16の試験セルを、実施例1と同様に充放電を行った。
【0074】
<比較例1>
正極の追加層用スラリーの調製において、LiFeO(平均粒径:1μm)に代えてAl(平均粒径:1μm)を用いたこと以外、実施例1と同様にして、試験セルを作製し、充放電を行った。
【0075】
<比較例2>
正極の作製において、LiFeO(平均粒径:1μm)に代えてAl(平均粒径:1μm)を用いたこと、以外、実施例1と同様にして、試験セルを作製した。追加層用スラリーをアルミニウム箔に塗布し、当該塗膜上に正極合材層用スラリーを塗布したこと以外、実施例1と同様にして、試験セルを作製し、充放電を行った。
【0076】
<比較例3>
正極の作製において、追加層の目付を2g/mに設定したこと、追加層用スラリーをアルミニウム箔に塗布し、当該塗膜上に正極合材層用スラリーを塗布したこと以外、実施例9と同様にして、試験セルを作製した。比較例3の試験セルを、実施例1と同様に充放電を行った。
【0077】
<比較例4>
正極の作製において、追加層の目付を2g/mに設定したこと以外、実施例1と同様にして、試験セルを作製し、充放電を行った。
【0078】
[釘刺し試験]
各実施例及び各比較例の試験セルについて、下記の手順で試験を行った。評価結果は表1に示す。
(1)25℃の環境下で、0.2Cの定電流で電池電圧が4.2Vになるまで充電を行い、その後定電圧で電流値が0.02Cになるまで充電を引き続き行った。
(2)25℃の環境下で、(1)で充電した試験セルの側面中央部に2.7mmφの太さの丸釘の先端を接触させ、1mm/secの速度で電池の直径方向に丸釘を突き刺し、内部短絡による電池電圧降下を検出した直後、丸釘の突き刺しを停止させた。
(3)有底円筒形状の電池ケース本体の側面の温度を測定して、最高到達温度を求めた。
【0079】
【表1】
【0080】
空間群Fm3m、C2/M、Immm、P3m1のいずれかに属する結晶構造を有するLi含有遷移金属酸化物(不活性材料)を含み、目付量が3.8g/m以上50g/m以下である追加層を含む正極を用いた実施例1~16は、上記不活性材料を含まない或いは上記不活性材料を含むが、目付量が3.8g/m未満である追加層を含む正極を用いた比較例1~4と比較して、釘刺し試験時の電池の最高到達温度を低く抑えることができた。すなわち、実施例1~16は、異物の突刺しによって、内部短絡が発生した際の電池温度の上昇を抑制することができたと言える。
【0081】
<実施例17>
LiFeO(平均粒径:1μm)を94質量部、正極活物質(組成:LiNi0.88Co0.09Al0.03)を5質量部、アセチレンブラックを0.5質量部、ポリフッ化ビニリデンを0.5質量部の割合で混合し、追加層用スラリーを調製したこと、追加層用スラリーをアルミニウム箔に塗布し、当該塗膜上に正極合材層用スラリーを塗布したこと以外、実施例9と同様にして、試験セルを作製した。実施例17の試験セルを、実施例1と同様に充放電を行った。
【0082】
<実施例18>
LiFeO(平均粒径:1μm)を60質量部、正極活物質(組成:LiNi0.88Co0.09Al0.03)を29質量部、アセチレンブラックを0.5質量部、ポリフッ化ビニリデンを0.5質量部の割合で混合し、追加層用スラリーを調製したこと、追加層用スラリーをアルミニウム箔に塗布し、当該塗膜上に正極合材層用スラリーを塗布したこと以外、実施例9と同様にして、試験セルを作製した。実施例18の試験セルを、実施例1と同様に充放電を行った。
【0083】
<比較例5>
LiFeO(平均粒径:1μm)を40質量部、正極活物質(組成:LiNi0.88Co0.09Al0.03)を59質量部、アセチレンブラックを0.5質量部、ポリフッ化ビニリデンを0.5質量部の割合で混合し、追加層用スラリーを調製したこと、追加層用スラリーをアルミニウム箔に塗布し、当該塗膜上に正極合材層用スラリーを塗布したこと以外、実施例9と同様にして、試験セルを作製した。比較例5の試験セルを、実施例1と同様に充放電を行った。
【0084】
実施例17~18及び比較例5の充放電後の試験セルをドライルーム内にて解体し、追加層の試料を採取した。追加層から採取した試料にはLiFeO成分が確認されず、ほとんど全てLiFeO成分であった。すなわち、追加層中のLiFeOの含有量は、実施例17が94質量%、実施例18が60質量%、比較例5が40質量%となる。
【0085】
実施例17~18及び比較例5の試験セルに対して、上記の釘刺し試験を行い、最高到達温度を測定した。その結果、実施例17は500℃、実施例18は500℃であり、比較例5は630℃であった。これらの結果から、異物の突刺しによって、内部短絡が発生した際の電池温度の上昇を抑制するには、追加層中の不活性材料の含有量を60質量%以上にする必要がある。
【符号の説明】
【0086】
10 リチウムイオン二次電池
11 正極
12 負極
13 セパレータ
14 電極体
15 電池ケース
16 ケース本体
17 封口体
18 絶縁板
18,19 絶縁板
20 正極リード
21 負極リード
22 張り出し部
23 フィルタ
24 下弁体
25 絶縁部材
26 上弁体
27 キャップ
28 ガスケット
30 正極集電体
32 正極合材層
34 追加層
図1
図2
図3
図4