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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-30
(45)【発行日】2024-06-07
(54)【発明の名称】無機構造体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01F 5/02 20060101AFI20240531BHJP
   B28B 3/00 20060101ALI20240531BHJP
   C01B 33/22 20060101ALI20240531BHJP
【FI】
C01F5/02
B28B3/00 C
C01B33/22
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022527645
(86)(22)【出願日】2021-05-11
(86)【国際出願番号】 JP2021017825
(87)【国際公開番号】W WO2021241193
(87)【国際公開日】2021-12-02
【審査請求日】2022-11-02
(31)【優先権主張番号】P 2020092468
(32)【優先日】2020-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【弁理士】
【氏名又は名称】森 太士
(74)【代理人】
【識別番号】100141449
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 隆芳
(74)【代理人】
【識別番号】100142446
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 覚
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 夏希
(72)【発明者】
【氏名】澤 亮介
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 達郎
(72)【発明者】
【氏名】栗副 直樹
(72)【発明者】
【氏名】関野 徹
(72)【発明者】
【氏名】後藤 知代
(72)【発明者】
【氏名】趙 成訓
(72)【発明者】
【氏名】徐 寧浚
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第1594081(CN,A)
【文献】特開2004-025853(JP,A)
【文献】特開2009-215144(JP,A)
【文献】特開2016-113335(JP,A)
【文献】特開2012-144801(JP,A)
【文献】JANSSENS, W. et al.,ChemSusChem,2014年11月19日,Vol.8,pp.994-1008,<DOI:10.1002/cssc.201402894>
【文献】長滝重義,シリカフュームに関する研究の現況,土木学会論文集,1995年,No.508 V-226,p.1-13
【文献】ZHAO, F. et al.,Ceramics International,2018年10月09日,Vol.45,pp.2953-2961,<DOI:10.1016/j.cramint.2018.09.296>
【文献】SADEK, H. E. H. et al.,Interceram - International Ceramic Review,2016年08月01日,Vol.65,pp.174-178,<DOI:10.1007/BF03401166>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F 5/02
B28B 3/00 - 5/12
C01B 33/20 - 39/54
C03C 1/00 - 14/00
C04B 35/03 - 35/06
C04B 35/16 - 35/22
C04B 37/00 - 37/04
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の酸化マグネシウム粒子と、
前記酸化マグネシウム粒子の表面を覆い、前記酸化マグネシウム粒子の間を結合する結合部と、
を備え、
前記結合部は、ケイ素とケイ素以外の金属元素と酸素とを含む非晶質化合物を含有し、かつ、アルカリ金属、B、V、Te、P、Bi、Pb及びZnを含まず、
前記結合部は、平均粒子径が100nm以下の微粒子を含み、
前記微粒子がケイ素と酸素と前記ケイ素以外の金属元素とを含む化合物及び二酸化ケイ素の少なくともいずれか一方を含み、
前記ケイ素以外の金属元素は、マグネシウムであり、
気孔率が20%以下である、無機構造体。
【請求項2】
前記結合部は、Ca、Sr及びBaを含まない、請求項1に記載の無機構造体。
【請求項3】
前記酸化マグネシウム粒子の体積割合が前記結合部の体積割合よりも大きい、請求項1又は2に記載の無機構造体。
【請求項4】
前記酸化マグネシウム粒子は結晶質である、請求項1から3のいずれか一項に記載の無機構造体。
【請求項5】
熱伝導率が2W/m・K以上である、請求項1から4のいずれか一項に記載の無機構造体。
【請求項6】
厚みが500μm以上である、請求項1から5のいずれか一項に記載の無機構造体。
【請求項7】
複数の酸化マグネシウム粒子と、非晶質である複数の二酸化ケイ素粒子と、ケイ素以外の金属元素を含む水溶液とを混合することにより、混合物を得る工程と、
前記混合物を、圧力が10~600MPaであり、かつ、温度が50~300℃である条件下で加圧及び加熱する工程と、
を有し、
前記ケイ素以外の金属元素は、マグネシウムである、無機構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機構造体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックスからなる無機構造体の製造方法として、従来より焼結法が知られている。焼結法は、無機物質からなる固体粉末の集合体を融点よりも低い温度で加熱することにより、焼結体を得る方法である。
【0003】
特許文献1は、高密度マグネシア焼結体の製造法を開示している。具体的には、特許文献1は、マグネシウム化合物を熱分解して仮焼したマグネシアを加圧成形し、当該成形体を焼成してマグネシア焼結体を得ることを開示している。さらに、特許文献1は、当該成形体の焼成を1250℃~1400℃で約20分間行うことを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭54-142212号公報
【発明の概要】
【0005】
しかしながら、焼結法は、固体粉末を高温で加熱する必要があることから、製造時のエネルギー消費が大きく、コストが掛かるという問題がある。また、低温条件下で固体粉末のみを単に圧粉しただけでは、固体粉末同士が十分に結合しないことから、得られる成形体には多くの気孔が存在し、機械的強度が不十分となるという問題がある。
【0006】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものである。そして、本発明の目的は、簡易な方法で作製することが可能であり、さらに高い緻密性を有する無機構造体、及び当該無機構造体の製造方法を提供することにある。
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の第一の態様に係る無機構造体は、複数の酸化マグネシウム粒子と、酸化マグネシウム粒子の表面を覆い、酸化マグネシウム粒子の間を結合する結合部と、を備える。結合部は、ケイ素とケイ素以外の金属元素と酸素とを含む非晶質化合物を含有し、かつ、アルカリ金属、B、V、Te、P、Bi、Pb及びZnを実質的に含まない。
【0008】
本発明の第二の態様に係る無機構造体の製造方法は、複数の酸化マグネシウム粒子と、非晶質である複数の二酸化ケイ素粒子と、ケイ素以外の金属元素を含む水溶液とを混合することにより、混合物を得る工程と、当該混合物を、圧力が10~600MPaであり、かつ、温度が50~300℃である条件下で加圧及び加熱する工程と、を有する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本実施形態に係る無機構造体の一例を概略的に示す断面図である。
図2図2は、本実施形態に係る無機構造体の他の例を概略的に示す断面図である。
図3図3は、本実施形態に係る無機構造体の製造方法を説明するための概略断面図である。
図4図4は、ICSDに登録されたマグネシアのXRDパターン及び実施例1の試験サンプル1のXRDパターンを示すグラフである。
図5図5(a)は、実施例1の試験サンプル1を300倍に拡大した走査型電子顕微鏡像である。図5(b)は、300倍に拡大したマグネシア粉末の走査型電子顕微鏡像である。
図6図6(a)は、実施例1の試験サンプル1を500倍に拡大した走査型電子顕微鏡像である。図6(b)は、図6(a)中の符号Aの部分におけるエネルギー分散型X線分析スペクトルを示す図である。図6(c)は、図6(a)中の符号Bの部分におけるエネルギー分散型X線分析スペクトルを示す図である。
図7図7は、実施例1の試験サンプル1に対して、エネルギー分散型X線分析を行った際の、走査型電子顕微鏡像、並びにケイ素(Si)及びマグネシウム(Mg)のマッピングデータを示す図である。図7(a)は試験サンプル1を500倍に拡大した走査型電子顕微鏡像であり、図7(b)はケイ素のマッピングデータを示す図であり、図7(c)はマグネシウムのマッピングデータを示す図である。
図8図8(a)は、試験サンプル1における結合部を3000倍に拡大した走査型電子顕微鏡像である。図8(b)は、図8(a)における符号Cの部分を10000倍に拡大した走査型電子顕微鏡像である。
図9図9(a)は、実施例1の試験サンプル1において、位置1の反射電子像を示す図である。図9(b)は、試験サンプル1において、位置2の反射電子像を示す図である。図9(c)は、試験サンプル1において、位置3の反射電子像を示す図である。
図10図10(a)は、実施例1の試験サンプル1において、位置1の反射電子像を二値化したデータを示す図である。図10(b)は、試験サンプル1において、位置2の反射電子像を二値化したデータを示す図である。図10(c)は、試験サンプル1において、位置3の反射電子像を二値化したデータを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を用いて本実施形態に係る無機構造体、及び当該無機構造体の製造方法について詳細に説明する。なお、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率と異なる場合がある。
【0011】
[無機構造体]
本実施形態の無機構造体1は、図1に示すように、複数の酸化マグネシウム粒子2を含んでいる。そして、隣接する酸化マグネシウム粒子2が結合部3を介して互いに結合することにより、酸化マグネシウム粒子2が集合してなる無機構造体1を形成している。
【0012】
酸化マグネシウム粒子2は、酸化マグネシウム(マグネシア、MgO)を主成分としている。つまり、酸化マグネシウム粒子2は、酸化マグネシウムを50mol%以上含有することが好ましく、80mol%以上含有することがより好ましく、90mol%以上含有することが特に好ましい。
【0013】
酸化マグネシウム粒子2は、結晶質であることが好ましい。酸化マグネシウム粒子2が結晶質の粒子であることにより、アモルファスからなる粒子の場合と比べて、耐久性の高い無機構造体1を得ることができる。なお、酸化マグネシウム粒子2は単結晶の粒子であってもよく、多結晶の粒子であってもよい。
【0014】
無機構造体1を構成する酸化マグネシウム粒子2の平均粒子径は、特に限定されない。ただ、酸化マグネシウム粒子2の平均粒子径は、300nm以上50μm以下であることが好ましく、300nm以上30μm以下であることがさらに好ましく、300nm以上20μm以下であることが特に好ましい。酸化マグネシウム粒子2の平均粒子径がこの範囲内であることにより、酸化マグネシウム粒子2同士が強固に結合し、無機構造体1の強度を高めることができる。また、酸化マグネシウム粒子2の平均粒子径がこの範囲内であることにより、後述するように、無機構造体1の内部に存在する気孔の割合が20%以下となることから、無機構造体1の強度を高めることが可能となる。なお、本明細書において、「平均粒子径」の値としては、特に言及のない限り、走査型電子顕微鏡(SEM)又は透過型電子顕微鏡(TEM)などの観察手段を用い、数~数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用する。
【0015】
酸化マグネシウム粒子2の形状は特に限定されないが、例えば球状とすることができる。また、酸化マグネシウム粒子2は、ウィスカー状(針状)の粒子、又は鱗片状の粒子であってもよい。ウィスカー状粒子又は鱗片状粒子は、球状粒子と比べて他の粒子との接触性及び結合部3との接触性が高まるため、無機構造体1全体の強度を高めることが可能となる。
【0016】
本実施形態の無機構造体1は、複数の酸化マグネシウム粒子2の間を結合する結合部3を備えている。隣接する酸化マグネシウム粒子2が結合部3を介して結合することにより、酸化マグネシウム粒子2同士が三次元的に結合するため、機械的強度の高いバルク体を得ることができる。
【0017】
そして、結合部3は、ケイ素と、ケイ素以外の金属元素と、酸素とを少なくとも含む非晶質化合物を含有している。後述するように、無機構造体1は、酸化マグネシウム粒子と、非晶質である二酸化ケイ素粒子と、ケイ素以外の金属元素を含む水溶液とを混合してなる混合物を、加熱及び加圧することにより、得ることができる。この際、二酸化ケイ素粒子と当該水溶液とが反応することにより、ケイ素と金属元素と酸素とを含む非晶質化合物が形成される。そのため、結合部3は、ケイ素と、ケイ素以外の金属元素と、酸素とを少なくとも含む非晶質化合物を含有している。
【0018】
なお、結合部3は、非晶質化合物を主成分として含有することが好ましい。具体的には、結合部3は、非晶質化合物を50mol%以上含有することが好ましく、70mol%以上含有することがより好ましく、90mol%以上含有することがさらに好ましい。
【0019】
結合部3の非晶質化合物に含まれるケイ素以外の金属元素は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、卑金属及び半金属からなる群より選ばれる少なくとも一つとすることができる。なお、本明細書において、アルカリ土類金属は、カルシウム、ストロンチウム、バリウム及びラジウムに加えて、ベリリウム及びマグネシウムを包含する。卑金属は、アルミニウム、亜鉛、ガリウム、カドミウム、インジウム、すず、水銀、タリウム、鉛、ビスマス及びポロニウムを包含する。半金属は、ホウ素、ケイ素、ゲルマニウム、ヒ素、アンチモン及びテルルを包含する。
【0020】
結合部3における非晶質化合物において、ケイ素以外の金属元素はマグネシウムであることが好ましい。後述するように、無機構造体1は、酸化マグネシウム粒子と、非晶質である二酸化ケイ素粒子と、マグネシウムを含む水溶液とを混合してなる混合物を、加熱及び加圧することにより、得ることができる。この際、二酸化ケイ素粒子とマグネシウムを含む水溶液とが反応することにより、ケイ素と酸素とマグネシウムとを含む非晶質化合物が形成される。そのため、結合部3は、ケイ素と酸素とマグネシウムとを含む非晶質化合物を含有することが好ましい。
【0021】
なお、結合部3は、アルカリ金属、B、V、Te、P、Bi、Pb及びZnを実質的に含まないことが好ましい。また、結合部3は、Ca、Sr及びBaを実質的に含まないことが好ましい。本明細書において、「結合部は、アルカリ金属、B、V、Te、P、Bi、Pb及びZnを実質的に含まない」とは、結合部3に故意にアルカリ金属、B、V、Te、P、Bi、Pb及びZnを含有させたものではないことを意味する。そのため、結合部3にアルカリ金属、B、V、Te、P、Bi、Pb及びZnが不可避不純物として混入した場合は、「結合部は、アルカリ金属、B、V、Te、P、Bi、Pb及びZnを実質的に含まない」という条件を満たす。同様に、本明細書において、「結合部は、Ca、Sr及びBaを実質的に含まない」とは、結合部3に故意にCa、Sr及びBaを含有させたものではないことを意味する。そのため、結合部3にCa、Sr及びBaが不可避不純物として混入した場合は、「結合部は、Ca、Sr及びBaを実質的に含まない」という条件を満たす。
【0022】
結合部3は、酸化マグネシウム粒子2と直接接触していることが好ましい。また、結合部3は、酸化マグネシウム粒子2の表面の少なくとも一部を覆っていることが好ましく、酸化マグネシウム粒子2の表面全体を覆っていることがより好ましい。これにより、酸化マグネシウム粒子2と結合部3が強固に結合することから、緻密性及び機械的強度に優れた無機構造体1を得ることができる。
【0023】
ここで、酸化マグネシウムは潮解性を有しているため、空気中の水分、さらに酸やアルカリによって劣化する可能性がある。しかしながら、無機構造体1において、酸化マグネシウム粒子2は結合部3により覆われているため、酸化マグネシウム粒子2は水分、酸、アルカリとの接触が抑制される。そのため、酸化マグネシウム粒子2の劣化を抑制し、無機構造体1の耐水性、耐酸性、耐アルカリ性を高めることが可能となる。
【0024】
図2に示すように、無機構造体1Aにおいて、結合部3は、平均粒子径が100nm以下の微粒子4を含んでいてもよい。結合部3が複数の微粒子4を含んでいることにより、結合部3がより緻密な構造となるため、無機構造体1Aの強度を高めることが可能となる。
【0025】
上述のように、結合部3は、非晶質の二酸化ケイ素粒子と、ケイ素以外の金属元素を含む水溶液とが加熱及び加圧されて反応することにより形成される。そのため、結合部3の内部には、二酸化ケイ素粒子に由来する粒子状物質が含まれている場合がある。また、後述するように、非晶質の二酸化ケイ素粒子の粒子径は、100nm以下であることが好ましい。そのため、結合部3は、二酸化ケイ素粒子に由来し、平均粒子径が100nm以下の微粒子4を含んでいてもよい。なお、結合部3に含まれる微粒子4の粒子径は、走査型電子顕微鏡又は透過型電子顕微鏡を用いて測定することができる。
【0026】
結合部3に含まれる微粒子4は、ケイ素と酸素とケイ素以外の金属元素とを含む非晶質化合物からなる粒子であってもよい。また、微粒子4は、ケイ素と酸素とケイ素以外の金属元素とを含む結晶質化合物からなる粒子であってもよい。結合部3に含まれる微粒子4は、ケイ素と酸素とマグネシウムとを含む非晶質化合物からなる粒子であってもよい。また、微粒子4は、ケイ素と酸素とマグネシウムとを含む結晶質化合物からなる粒子であってもよい。なお、微粒子4は、ケイ素以外の金属元素を含む水溶液と反応しなかった二酸化ケイ素を含んでいてもよい。
【0027】
無機構造体1,1Aにおいて、酸化マグネシウム粒子2の体積割合が結合部3の体積割合よりも大きいことが好ましい。この場合、得られる無機構造体1,1Aは、酸化マグネシウム粒子2の特性を活用しやすい構造体となる。具体的には、酸化マグネシウム粒子2は、熱伝導率が60W/m・K程度と高く、熱伝導性に優れる材料である。そのため、酸化マグネシウム粒子2の体積割合を結合部3の体積割合よりも大きくすることにより、無機構造体1,1A全体の熱伝導性を向上させることができる。
【0028】
結合部3は、結晶質のケイ素-マグネシウム複合酸化物をさらに含有することが好ましい。上述のように、結合部3は、ケイ素と酸素とを含む非晶質化合物を含有しており、ケイ素と酸素とマグネシウムとを含む非晶質化合物を含有することがより好ましい。そのため、結合部3の結晶構造は、少なくとも一部がアモルファスである。ただ、結合部3は、非晶質化合物に加えて、結晶質のケイ素-マグネシウム複合酸化物を含有することが好ましい。結合部3が結晶質のケイ素-マグネシウム複合酸化物をさらに含有することにより、結合部3が非晶質化合物のみからなる場合と比べて、無機構造体1,1Aの化学的安定性を高めることが可能となる。なお、ケイ素-マグネシウム複合酸化物は、少なくともケイ素とマグネシウムとを含む酸化物であり、例えばケイ酸マグネシウムを挙げることができる。
【0029】
上述のように、無機構造体1,1Aにおいて、結合部3はケイ素と酸素とマグネシウムとを含む非晶質化合物を含有することが好ましい。なお、当該非晶質化合物において、ケイ素とマグネシウムの比率は特に限定されない。さらに、結合部3が微粒子4を含む場合、微粒子4は、ケイ素と酸素とマグネシウムとを含む非晶質化合物からなる粒子であってもよく、結晶質のケイ素-マグネシウム複合酸化物からなる粒子であってもよい。また、微粒子4には、原料である二酸化ケイ素粒子に由来したシリカが含まれていてもよい。さらに、結合部3は、結晶質化合物として、ケイ素-マグネシウム複合酸化物を含んでいてもよい。
【0030】
上述のように、結合部3は、非晶質の二酸化ケイ素粒子とケイ素以外の金属元素を含む水溶液とが加熱及び加圧されて反応することにより形成されるため、緻密な相となる。ただ、結合部3の内部及び結合部3と酸化マグネシウム粒子2との間の少なくとも一箇所には、気孔が存在していてもよい。
【0031】
そして、無機構造体1,1Aの断面における気孔率は20%以下であることが好ましい。つまり、無機構造体1,1Aの断面を観察した場合、単位面積あたりの気孔の割合の平均値が20%以下であることが好ましい。気孔率が20%以下の場合、酸化マグネシウム粒子2同士が結合部3によって結合する割合が増加するため、無機構造体1,1Aが緻密になり、強度が高まる。そのため、無機構造体1,1Aの機械加工性を向上させることが可能となる。また、気孔率が20%以下の場合には、気孔を起点として、無機構造体1,1Aにひび割れが発生することが抑制されるため、無機構造体1,1Aの曲げ強さを高めることが可能となる。なお、無機構造体1,1Aの断面における気孔率は10%以下であることが好ましく、8%以下であることがより好ましく、5%以下であることがさらに好ましい。無機構造体1,1Aの断面における気孔率が小さいほど、気孔を起点としたひび割れが抑制されるため、無機構造体1,1Aの強度を高めることが可能となる。
【0032】
本明細書において、気孔率は次のように求めることができる。まず、無機構造体1,1Aの断面を観察し、酸化マグネシウム粒子2、結合部3及び気孔を判別する。そして、単位面積と当該単位面積中の気孔の面積とを測定し、単位面積あたりの気孔の割合を求め、その値を気孔率とする。なお、無機構造体1,1Aの断面に対し、単位面積あたりの気孔の割合を複数箇所で求めた後、単位面積あたりの気孔の割合の平均値を気孔率とすることがより好ましい。無機構造体1,1Aの断面を観察する際には、光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡(SEM)又は透過型電子顕微鏡(TEM)を用いることができる。また、単位面積と当該単位面積中の気孔の面積は、顕微鏡で観察した画像を二値化することにより測定してもよい。
【0033】
無機構造体1,1Aの内部に存在する気孔の大きさは特に限定されないが、可能な限り小さい方が好ましい。気孔の大きさが小さいことにより、気孔を起点としたひび割れが抑制されるため、無機構造体1,1Aの強度を高め、無機構造体1,1Aの機械加工性を向上させることが可能となる。なお、無機構造体1,1Aの気孔の大きさは、5μm以下であることが好ましく、1μm以下であることがより好ましく、100nm以下であることがさらに好ましい。無機構造体1,1Aの内部に存在する気孔の大きさは、上述の気孔率と同様に、無機構造体1,1Aの断面を顕微鏡で観察することにより、求めることができる。
【0034】
無機構造体1,1Aは、酸化マグネシウム粒子2同士が結合部3を介して互いに結合する構造を有していればよい。そのため、無機構造体1,1Aはこのような構造を有していれば、その形状は限定されない。無機構造体1,1Aの形状は、例えば板状、膜状、矩形状、塊状、棒状、球状とすることができる。また、無機構造体1,1Aが板状又は膜状の場合、その厚みtは特に限定されないが、例えば50μm以上とすることができる。本実施形態の無機構造体1,1Aは、後述するように、加圧加熱法により形成される。そのため、厚みの大きな無機構造体1,1Aを容易に得ることができる。なお、無機構造体1,1Aの厚みtは500μm以上とすることができ、1mm以上とすることができ、1cm以上とすることもできる。無機構造体1,1Aの厚みtの上限は特に限定されないが、例えば50cmとすることができる。
【0035】
無機構造体1,1Aにおいて、複数の酸化マグネシウム粒子2は互いに結合部3で結合しているため、有機化合物からなる有機バインダーで結合しておらず、さらに結合部3以外の無機バインダーでも結合していない。そのため、無機構造体1,1Aは、酸化マグネシウム粒子2及び結合部3の特性を保持した構造体となる。例えば、酸化マグネシウム粒子2は高い熱伝導性を有するため、得られる無機構造体1,1Aも熱伝導性に優れた構造体となる。
【0036】
このように、本実施形態の無機構造体1,1Aは、複数の酸化マグネシウム粒子2と、酸化マグネシウム粒子2の表面を覆い、酸化マグネシウム粒子2の間を結合する結合部3と、を備える。結合部3は、ケイ素とケイ素以外の金属元素と酸素とを含む非晶質化合物を含有する。さらに、結合部3は、アルカリ金属、B、V、Te、P、Bi、Pb及びZnを実質的に含まない。無機構造体1,1Aは、複数の酸化マグネシウム粒子2が、緻密性の高い結合部3を介して結合している。そのため、緻密性及び機械的強度に優れた無機構造体1,1Aを得ることができる。また、結合部3が酸化マグネシウム粒子2の表面を覆っているため、酸化マグネシウム粒子2の潮解を抑制し、無機構造体1,1Aの化学的安定性を高めることが可能となる。
【0037】
さらに、酸化マグネシウムは熱伝導率が60W/m・K程度であり、セラミックス材料の中では熱伝導率が高い。そのため、酸化マグネシウム粒子2を用い、結合部3をケイ素と酸素とマグネシウムとを含む非晶質化合物とすることにより、機械的強度に加えて熱伝導性に優れた無機構造体1,1Aとなる。なお、無機構造体1,1Aは、熱伝導率が2W/m・K以上であることが好ましく、5W/m・K以上であることがより好ましい。無機構造体1,1Aの熱伝導率の上限は特に限定されないが、例えば60W/m・Kとすることができる。なお、熱伝導率は、日本産業規格JIS R1611(ファインセラミックスのフラッシュ法による熱拡散率・比熱容量・熱伝導率の測定方法)に準拠して測定することができる。
【0038】
本実施形態の無機構造体1,1Aは、図1及び図2に示すように、酸化マグネシウム粒子2のみが結合部3を介して結合してなる構造体とすることができる。しかしながら、後述するように、無機構造体1,1Aは50~300℃に加熱しながら加圧することにより得ることができるため、無機構造体1,1Aに耐熱性の低い部材を添加することができる。具体的には、無機構造体1,1Aは、酸化マグネシウム粒子2及び結合部3に加えて、有機物や樹脂粒子が含まれていてもよい。また、有機物等の耐熱性の低い部材に限定されず、無機構造体1,1Aは、酸化マグネシウム粒子2及び結合部3以外の無機化合物からなる粒子が含まれていてもよい。
【0039】
[無機構造体の製造方法]
次に、無機構造体1,1Aの製造方法について説明する。無機構造体は、複数の酸化マグネシウム粒子と、非晶質である複数の二酸化ケイ素粒子と、水溶液とを混合することにより、混合物を得る工程と、当該混合物を加圧及び加熱する工程と、により製造することができる。
【0040】
具体的には、まず、酸化マグネシウム粒子の粉末と、二酸化ケイ素粒子と、水溶液とを混合して混合物を調製する。酸化マグネシウム粒子は、酸化マグネシウムを50mol%以上含有することが好ましく、80mol%以上含有することがより好ましく、90mol%以上含有することが特に好ましい。
【0041】
二酸化ケイ素粒子は、非晶質の二酸化ケイ素からなる粒子である。そして、二酸化ケイ素粒子はフューム状粒子、つまりフュームドシリカであることが好ましい。フュームドシリカは、一次粒子の粒子径が5nm~50nm程度である、非晶質のシリカ粒子である。このフュームドシリカは、四塩化ケイ素の燃焼加水分解によって製造される粒子であり、一次粒子が凝集及び集塊することにより、嵩高い二次粒子を形成している。そのため、フュームドシリカは、水溶液との反応性が高く、ケイ素と酸素とを含む非晶質化合物を容易に形成することができる。
【0042】
水溶液としては、ケイ素以外の金属元素を含む水溶液を用いる。なお、ケイ素以外の金属元素を含む水溶液は、当該金属元素をイオンとして含む水溶液である。ケイ素以外の金属元素は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、卑金属及び半金属からなる群より選ばれる少なくとも一つとすることができる。また、金属元素を溶解する溶媒は、純水又はイオン交換水であることが好ましい。ただ、溶媒は、水以外に、酸性物質又はアルカリ性物質が含まれていてもよく、有機溶媒(例えばアルコールなど)が含まれていてもよい。なお、以下、「ケイ素以外の金属元素を含む水溶液」を「金属元素含有水溶液」ともいう。
【0043】
また、水溶液としては、マグネシウムを含む水溶液を用いることが好ましい。なお、マグネシウムを含む水溶液は、マグネシウムをイオンとして含む水溶液であり、例えば酢酸マグネシウム水溶液を用いることができる。なお、以下、「マグネシウムを含む水溶液」を「マグネシウム含有水溶液」ともいう。
【0044】
次いで、図3に示すように、酸化マグネシウム粒子11と二酸化ケイ素粒子12と金属元素含有水溶液13とを混合してなる混合物を、金型14の内部に充填する。当該混合物を金型14に充填した後、必要に応じて金型14を加熱する。そして、金型14の内部の混合物に圧力を加えることにより、金型14の内部が高圧状態となる。この際、二酸化ケイ素粒子12は非晶質であり反応性が高いことから、二酸化ケイ素粒子12と金属元素含有水溶液13とが反応し、ケイ素と酸素とケイ素以外の金属元素とを含む結合部3を形成される。
【0045】
ここで、二酸化ケイ素粒子12としてフュームドシリカを用いた場合、フュームドシリカは粒子径がナノレベルであることから、酸化マグネシウム粒子11の間に隙間無く充填される。そのため、得られる結合部3は緻密な構造となり、酸化マグネシウム粒子11同士を強固に結合することができる。
【0046】
また、水溶液として、マグネシウム含有水溶液を用いた場合、酸化マグネシウム粒子11とマグネシウム含有水溶液は、共にマグネシウムを含むため、マグネシウム同士が相互に拡散しやすくなる。これにより、図3に示すように、酸化マグネシウム粒子11の表面には、ケイ素と酸素とマグネシウムとを含む化合物15、例えばケイ素-マグネシウム複合酸化物が形成されやすくなる。そのため、得られる結合部3は、酸化マグネシウム粒子11を覆いつつ強固に結合することから、無機構造体1,1Aの機械的強度を高めることが可能となる。
【0047】
そして、金型の内部から成形体を取り出すことにより、複数の酸化マグネシウム粒子2同士が、結合部3を介して結合した無機構造体1,1Aを得ることができる。
【0048】
なお、酸化マグネシウム粒子11と二酸化ケイ素粒子12と金属元素含有水溶液13とを混合してなる混合物の加熱加圧条件は、二酸化ケイ素粒子12と金属元素含有水溶液13との反応が進行するような条件であれば特に限定されない。例えば、上記混合物を50~300℃に加熱しつつ、10~600MPaの圧力で加圧することが好ましい。なお、上記混合物を加熱する際の温度は、80~250℃であることがより好ましく、100~200℃であることがさらに好ましい。また、上記混合物を加圧する際の圧力は、50~600MPaであることがより好ましく、200~600MPaであることがさらに好ましい。
【0049】
上述の加熱加圧工程により、非晶質の二酸化ケイ素粒子12は、金属元素含有水溶液13と完全に反応して、ケイ素と酸素とマグネシウムとを含む化合物となってもよい。また、二酸化ケイ素粒子12は、金属元素含有水溶液13と完全に反応せず、結合部3において二酸化ケイ素として残存してもよい。
【0050】
また、結合部3は、二酸化ケイ素粒子12と金属元素含有水溶液13が反応することにより形成されるため、結合部3は、当該二酸化ケイ素粒子に由来し、平均粒子径が100nm以下の微粒子4を含んでいてもよい。なお、微粒子4は、金属元素含有水溶液13と反応しなかった二酸化ケイ素を含んでいてもよい。
【0051】
上述のように、無機構造体1,1Aは、酸化マグネシウム粒子11と二酸化ケイ素粒子12と金属元素含有水溶液13とを混合してなる混合物を、10~600MPa、50~300℃で加圧及び加熱することにより、得ることができる。そして、このような加熱加圧工程により、非晶質化合物を含有する結合部3を形成することができる。ただ、上記混合物の加熱加圧時間を長くすることにより、非晶質化合物の一部が結晶化する。そのため、例えば、結合部3に、結晶質のケイ素-マグネシウム複合酸化物をさらに含ませる場合には、酸化マグネシウム粒子と二酸化ケイ素粒子とマグネシウム含有水溶液との混合物の加熱加圧時間を長くすることが好ましい。
【0052】
本実施形態の製造方法において、非晶質である二酸化ケイ素粒子としては、フューム状粒子、つまりフュームドシリカを用いることが好ましい。ただ、フューム状粒子としては、アルミナ(Al)及びチタニア(TiO)も存在する。そのため、酸化マグネシウム粒子11と二酸化ケイ素粒子12と金属元素含有水溶液13とを混合してなる混合物に、さらにフュームドアルミナ及びフュームドチタニアの少なくとも一方を混合してもよい。これにより、フュームドアルミナ及び/又はフュームドチタニアと金属元素含有水溶液13とが反応し、反応生成物を結合部3に含ませることが可能となる。
【0053】
ここで、酸化マグネシウム粒子の凝集体を形成する方法として、酸化マグネシウム粒子の粉末のみをプレスする方法が考えられる。しかし、酸化マグネシウム粒子の粉末を金型に投入し、常温で加圧したとしても、酸化マグネシウム粒子の粒子同士は互いに反応し難く、当該粒子同士を強固に結合させることは困難である。そのため、得られる圧粉体には多くの気孔が存在し、機械的強度が不十分となる。
【0054】
また、酸化マグネシウム粒子の凝集体を形成する方法として、酸化マグネシウム粒子の粉末のみをプレスして圧粉体を形成した後、高温(例えば1700℃以上)で焼成する方法も考えられる。酸化マグネシウム粒子の圧粉体を高温で焼成した場合、酸化マグネシウム粒子同士は焼結して構造体を形成する。ただ、酸化マグネシウム粒子の圧粉体を高温で焼成しても、酸化マグネシウム粒子同士が焼結し難いことから、得られる構造体には多くの気孔が存在し、機械的強度が不十分となる。また、酸化マグネシウム粒子を高温で焼成する場合、緻密な温度制御が必要となるため、製造コストが増加してしまう。
【0055】
これに対して、本実施形態の製造方法では、酸化マグネシウム粒子11と、非晶質である二酸化ケイ素粒子12と、金属元素含有水溶液13とを混合してなる混合物を加熱しながら加圧しているため、緻密かつ強度に優れた構造体を得ることができる。さらに、本実施形態の製造方法は、50~300℃で加熱しながら加圧することにより得ることができるため、緻密な温度制御が不要となり、製造コストを低減することが可能となる。
【0056】
このように、本実施形態の無機構造体1,1Aの製造方法は、複数の酸化マグネシウム粒子11と、非晶質である複数の二酸化ケイ素粒子12と、ケイ素以外の金属元素を含む水溶液13とを混合することにより、混合物を得る工程を有する。当該製造方法は、さらに、当該混合物を、圧力が10~600MPaであり、かつ、温度が50~300℃である条件下で加圧及び加熱する工程を有する。そのため、本実施形態の製造方法は、緻密性が高い無機構造体を、簡易な方法で作製することができる。
【0057】
[無機構造体を備える部材]
次に、無機構造体1を備える部材について説明する。無機構造体1は、上述のように、厚みの大きな板状とすることができ、さらに緻密であるため安定性にも優れている。また、無機構造体1は、機械的強度が高く、一般的なセラミックス部材と同様に切断することができると共に、表面加工することもできる。そのため、無機構造体1は、建築部材として好適に用いることができる。建築部材としては特に限定されないが、例えば、外壁材(サイディング)、屋根材などを挙げることができる。また、建築部材としては、道路用材料、外溝用材料も挙げることができる。
【0058】
無機構造体1は、電子機器向けの部材としても好適に用いることができる。電子機器向けの部材としては、例えば構造材、耐熱部材、絶縁部材、放熱部材、封止材、回路基板、光学部材などを挙げることができる。
【実施例
【0059】
以下、本実施形態を実施例によりさらに詳細に説明するが、本実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0060】
[試験サンプルの調製]
まず、マグネシア粉末(MgO、宇部マテリアルズ株式会社製)と、非晶質であるシリカ粉末(フュームドシリカ、日本アエロジル株式会社製AEROSIL)とを準備した。次いで、表1に示す割合で、マグネシア粉末とシリカ粉末とを、メノウ乳鉢とメノウ乳棒を用い、アセトンを加えて混合することにより、各例の混合粉末を得た。なお、実施例1の混合粉末において、マグネシア粉末(MgO)とシリカ粉末(SiO)の体積比率(vol%)は、62:38(MgO:SiO)であった。
【0061】
また、酢酸マグネシウム四水和物粉末(Mg(CHCOO)・4HO、富士フイルム和光純薬株式会社製)4gをイオン交換水6mlに溶解させることにより、酢酸マグネシウム水溶液を得た。
【0062】
【表1】
【0063】
次に、内部空間を有する円筒状の成形用金型(Φ10)の内部に、各例の混合粉末を投入した。さらに、成形用金型の内部に、表1に示す量の酢酸マグネシウム水溶液を添加し、プラスチック製のスパチュラで混合した。なお、実施例1の酢酸マグネシウム水溶液を含んだ混合粉末において、SiOはMg(CHCOO)に対して250mol%であった。
【0064】
そして、当該酢酸マグネシウム水溶液を含んだ混合粉末を、150℃、400MPa、30分の条件で加熱及び加圧した。これにより、それぞれ円柱状である、実施例1の試験サンプル1、実施例2の試験サンプル2、実施例3の試験サンプル3を得た。
【0065】
[試験サンプルの評価]
(結晶構造解析)
粉末X線回折(XRD)装置を用いて、試験サンプル1を粉砕した粉末のXRDパターンを測定した。図4では、ICSDに登録されたマグネシアのXRDパターン及び実施例1の試験サンプル1のXRDパターンを示す。
【0066】
図4に示すように、実施例1の試験サンプル1のXRDパターンは、ICSDに登録されたマグネシアと同じ位置にピークを有しており、マグネシアを主相としていることが分かった。また、他に顕著なピークが認められないことから、シリカ粉末と酢酸マグネシウム水溶液の反応によって生成するケイ素-マグネシウム複合酸化物の結晶構造は、アモルファスであることが分かった。つまり、結合部3を構成するケイ素-マグネシウム複合酸化物の結晶構造は、アモルファスであることが分かった。
【0067】
(構造観察)
実施例1で作製した円柱状の試験サンプル1を割断した断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した。なお、試験サンプル1の観察面には、金のスパッタリングを施した。図5(a)では、試験サンプル1を300倍に拡大したSEM像を示す。また、参考までに、図5(b)では、300倍に拡大したマグネシア粉末のSEM像を示す。
【0068】
さらに、実施例1で作製した円柱状の試験サンプル1を割断した断面を、エネルギー分散型X線分析装置(EDX)を用いて観察した。図6(a)では、試験サンプル1を500倍に拡大したSEM像を示す。図6(b)では、図6(a)中の符号Aの部分におけるEDXスペクトルを示し、図6(c)では、図6(a)中の符号Bの部分におけるEDXスペクトルを示す。
【0069】
また、図7は、実施例1の試験サンプル1に対してエネルギー分散型X線分析を行った際のSEM像、並びにケイ素(Si)及びマグネシウム(Mg)のマッピングデータを示す。図7(a)は試験サンプル1を500倍に拡大したSEM像を示し、図7(b)はケイ素のマッピングデータを示し、図7(c)はマグネシウムのマッピングデータを示す。
【0070】
図5(a)及び図6(a)に示すSEM像から、実施例1の試験サンプル1は、マグネシア粉末(酸化マグネシウム粒子2)同士が結合部3を介して互いに結合していることが確認できる。また、試験サンプル1では、緻密な構造が確認できる。さらに、図6(b)のEDXスペクトル、並びに図7(b)及び図7(c)のマッピングデータより、符号Aの部分はMgとOを含むことから、原料のマグネシアであることが分かる。また、図6(c)のEDXスペクトル、並びに図7(b)及び図7(c)のマッピングデータより、符号Bの部分はMgとSiとOを含むことから、原料のシリカと酢酸マグネシウム水溶液が反応して生成したケイ素-マグネシウム複合酸化物であることが分かる。
【0071】
図8(a)では、試験サンプル1における結合部3を、3000倍に拡大したSEM像を示し、図8(b)では、図8(a)における符号Cの部分を10000倍に拡大したSEM像を示す。図8(a)より、試験サンプル1における結合部3は平滑性が高く、緻密な相を形成していることが分かる。さらに、図8(b)の符号Dで示すように、結合部3の内部には、粒子径が100nm以下の微細な微粒子4が含まれていることが確認できる。
【0072】
(気孔率測定)
まず、円柱状である実施例1の試験サンプル1の断面に、クロスセクションポリッシャー加工(CP加工)を施した。次に、走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、試験サンプル1の断面について、50000倍の倍率で反射電子像を観察した。試験サンプル1の断面の3か所(位置1~3)を観察することにより得られた反射電子像を、図9(a),図9(b),図9(c)に示す。観察した反射電子像において、白色部22がマグネシア、灰色部23がケイ素含有化合物、黒色部25が気孔である。
【0073】
次いで、3視野のSEM像についてそれぞれ二値化することにより、気孔部分を明確にした。図9(a),図9(b),図9(c)の反射電子像を二値化した画像を、それぞれ図10(a),図10(b),図10(c)に示す。そして、二値化した画像から気孔部分の面積割合を算出し、平均値を気孔率とした。具体的には、図10(a)より、位置1の気孔部分の面積割合は3.2%であった。図10(b)より、位置2の気孔部分の面積割合は4.6%であった。図10(c)より、位置3の気孔部分の面積割合は3.3%であった。そのため、今回作製した実施例1の試験サンプル1の気孔率は、位置1~3の気孔部分の面積割合の平均値である3.7%であった。
【0074】
(熱伝導率測定)
実施例1の試験サンプル1、実施例2の試験サンプル2、実施例3の試験サンプル3の熱伝導率を、JIS R1611に準拠して測定した。各試験サンプルの熱伝導率を表2に示す。表2に示すように、本例の試験サンプル1,2,3は2.0W/m・K以上の高い熱伝導率を示し、実施例3の試験サンプル3は5.5W/m・Kと特に高い熱伝導率を示した。そのため、表1及び表2より、マグネシアの割合を高めることにより、無機構造体の熱伝導率を高められることが分かる。
【0075】
【表2】
【0076】
以上、本実施形態を説明したが、本実施形態はこれらに限定されるものではなく、本実施形態の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。
【0077】
特願2020-092468号(出願日:2020年5月27日)の全内容は、ここに援用される。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本開示によれば、簡易な方法で作製することが可能であり、さらに高い緻密性を有する無機構造体、及び当該無機構造体の製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0079】
1,1A 無機構造体
2 酸化マグネシウム粒子
3 結合部
4 微粒子
11 酸化マグネシウム粒子
12 二酸化ケイ素粒子
13 ケイ素以外の金属元素を含む水溶液
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10