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特許7496525無線電力伝送システム、送電装置、および移動体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-30
(45)【発行日】2024-06-07
(54)【発明の名称】無線電力伝送システム、送電装置、および移動体
(51)【国際特許分類】
   H02J 50/05 20160101AFI20240531BHJP
   H02J 50/70 20160101ALI20240531BHJP
【FI】
H02J50/05
H02J50/70
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2022555367
(86)(22)【出願日】2021-09-24
(86)【国際出願番号】 JP2021035077
(87)【国際公開番号】W WO2022075092
(87)【国際公開日】2022-04-14
【審査請求日】2023-04-05
(31)【優先権主張番号】P 2020171205
(32)【優先日】2020-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101683
【弁理士】
【氏名又は名称】奥田 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100155000
【弁理士】
【氏名又は名称】喜多 修市
(74)【代理人】
【識別番号】100188813
【弁理士】
【氏名又は名称】川喜田 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100202197
【弁理士】
【氏名又は名称】村瀬 成康
(74)【代理人】
【識別番号】100202142
【弁理士】
【氏名又は名称】北 倫子
(74)【代理人】
【識別番号】100218981
【弁理士】
【氏名又は名称】武田 寛之
(72)【発明者】
【氏名】榎本 真悟
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 啓伸
(72)【発明者】
【氏名】菊池 悟
(72)【発明者】
【氏名】山本 浩司
【審査官】高野 誠治
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/148369(WO,A1)
【文献】特開2017-204997(JP,A)
【文献】特開2019-176621(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0287413(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 50/00 -50/90
H02J 7/00
B60L 1/00 - 3/12
B60L 7/00 -13/00
B60L 15/00 -58/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つ以上の送電電極を含み、交流電力を送出する送電電極群と、
インバータ回路と前記送電電極群との間に接続され、前記インバータ回路と前記送電電極群との間のインピーダンスを整合させる第1整合回路と、
2つ以上の受電電極を含み、前記送電電極群から送出された前記交流電力を受け取る受電電極群と、
前記受電電極群と整流回路との間に接続され、前記受電電極群と整流回路との間のインピーダンスを整合させる第2整合回路と、
を備え、
前記送電電極群と前記受電電極群との間の結合容量によるリアクタンスをX、
前記送電電極群から見た前記第1整合回路側のインピーダンスのリアクタンス成分をX1、
前記受電電極群から見た前記第2整合回路側のインピーダンスのリアクタンス成分をX2とするとき、
|X1-X/2|<0.5X、および
|X2-X/2|<0.5X
を満足する、無線電力伝送システム。
【請求項2】
|X1-X/2|<0.3X、および
|X2-X/2|<0.3X
を満足する、請求項1に記載の無線電力伝送システム。
【請求項3】
|X1-X/2|<0.1X、および
|X2-X/2|<0.1X
を満足する、請求項1または2に記載の無線電力伝送システム。
【請求項4】
前記送電電極群から見た前記第1整合回路側のインピーダンスの抵抗成分をR1、
前記受電電極群から見た前記第2整合回路側のインピーダンスの抵抗成分をR2とするとき、
|R1-X/2|<0.5X、および
|R2-X/2|<0.5X
を満足する、請求項1から3のいずれかに記載の無線電力伝送システム。
【請求項5】
|R1-X/2|<0.3X、および
|R2-X/2|<0.3X
を満足する、請求項4に記載の無線電力伝送システム。
【請求項6】
|R1-X/2|<0.1X、および
|R2-X/2|<0.1X
を満足する、請求項4または5に記載の無線電力伝送システム。
【請求項7】
前記送電電極群から前記受電電極群に伝送される電力Pと前記リアクタンスXとの積が3.6×10[W・Ω]以上である、請求項1から4のいずれかに記載の無線電力伝送システム。
【請求項8】
前記電力Pと前記リアクタンスXとの積が4.9×10[W・Ω]以下である、請求項7に記載の無線電力伝送システム。
【請求項9】
前記送電電極群と前記受電電極群との間の前記結合容量は、上限値、中央値、および下限値を有し、
前記結合容量が前記中央値よりも小さい場合に、
|X1-X/2|<0.5X、
|X2-X/2|<0.5X、
|R1-X/2|<0.5X、および
|R2-X/2|<0.5X
を満足する、請求項4から6のいずれかに記載の無線電力伝送システム。
【請求項10】
前記第1整合回路および前記第2整合回路の少なくとも一方は、外部からの制御によってインピーダンスを変化させることが可能であり、
前記第1整合回路および前記第2整合回路の前記少なくとも一方を制御して前記インピーダンスを変化させる少なくとも1つの制御回路をさらに備え、
前記少なくとも1つの制御回路は、前記インピーダンスを変化させることにより、条件|X1-X/2|<0.5X、および|X2-X/2|<0.5Xの少なくとも一方を満足させる、
請求項1から9のいずれかに記載の無線電力伝送システム。
【請求項11】
前記送電電極群から見た前記第1整合回路側のインピーダンスの抵抗成分をR1、
前記受電電極群から見た前記第2整合回路側のインピーダンスの抵抗成分をR2とするとき、
前記少なくとも1つの制御回路は、前記インピーダンスを変化させることにより、条件|R1-X/2|<0.5X、および|R2-X/2|<0.5Xの少なくとも一方を満足させる、
請求項10に記載の無線電力伝送システム。
【請求項12】
前記第1整合回路および前記第2整合回路の各々は、外部からの制御によってインピーダンスを変化させることが可能であり、
前記少なくとも1つの制御回路は、第1制御回路と第2制御回路とを含み、
前記第1制御回路は、前記第1整合回路の前記インピーダンスを変化させることにより、条件|X1-X/2|<0.5Xを満足させ、
前記第2制御回路は、前記第2整合回路の前記インピーダンスを変化させることにより、条件|X2-X/2|<0.5Xを満足させる、
請求項10に記載の無線電力伝送システム。
【請求項13】
前記送電電極群から見た前記第1整合回路側のインピーダンスの抵抗成分をR1、
前記受電電極群から見た前記第2整合回路側のインピーダンスの抵抗成分をR2とするとき、
前記第1制御回路は、前記第1整合回路の前記インピーダンスを変化させることにより、条件|R1-X/2|<0.5Xを満足させ、
前記第2制御回路は、前記第2整合回路の前記インピーダンスを変化させることにより、条件|R2-X/2|<0.5Xを満足させる、請求項12に記載の無線電力伝送システム。
【請求項14】
前記インバータ回路および前記整流回路をさらに備える、請求項1から13のいずれかに記載の無線電力伝送システム。
【請求項15】
前記受電電極群および前記第2整合回路は、移動体に設けられる、請求項1から14のいずれかに記載の無線電力伝送システム。
【請求項16】
請求項1から14のいずれかに記載の無線電力伝送システムにおける前記受電電極群と、前記第2整合回路とを備えた移動体。
【請求項17】
請求項1から15のいずれかに記載の無線電力伝送システムにおける前記送電電極群と、前記第1整合回路とを備えた送電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、無線電力伝送システム、送電装置、および移動体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話機および電気自動車などの移動性を伴う機器に、無線すなわち非接触で電力を伝送する無線電力伝送技術の開発が進められている。無線電力伝送技術には、磁界結合方式および電界結合方式などの種々の方式がある。
【0003】
磁界結合方式による無線電力伝送システムでは、送電コイルと受電コイルとが対向した状態で、送電コイルから受電コイルに無線で電力が伝送される。これに対し、電界結合方式による無線電力伝送システムでは、2つ以上の送電電極と2つ以上の受電電極とが対向した状態で、送電電極から受電電極に無線で電力が伝送される。電界結合方式による無線電力伝送システムは、例えば床面に設けられた複数の送電電極から、バッテリなどの負荷を備えた移動体に電力を供給する用途で用いられ得る。特許文献1から3は、電界結合方式による無線電力伝送システムの例を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-79786号公報
【文献】国際公開第2011/043074号
【文献】国際公開第2013/145403号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、電界結合方式の無線電力伝送システムにおける送電電極側に発生する電圧と受電電極側に発生する電圧とのバランスを向上させるための技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様による無線電力伝送システムは、2つ以上の送電電極を含み、交流電力を送出する送電電極群と、インバータ回路と前記送電電極群との間に接続され、前記インバータ回路と前記送電電極群との間のインピーダンスを整合させる第1整合回路と、2つ以上の受電電極を含み、前記送電電極群から送出された前記交流電力を受け取る受電電極群と、前記受電電極群と整流回路との間に接続され、前記受電電極群と整流回路との間のインピーダンスを整合させる第2整合回路と、を備える。前記送電電極群と前記受電電極群との間の結合容量によるリアクタンスをX、前記送電電極群から見た前記第1整合回路側のインピーダンスのリアクタンス成分をX1、前記受電電極群から見た前記第2整合回路側のインピーダンスのリアクタンス成分をX2とするとき、|X1-X/2|<0.5X、および|X2-X/2|<0.5Xを満足する。
【0007】
本開示の包括的または具体的な態様は、システム、装置、方法、集積回路、コンピュータプログラム、または記録媒体で実現されてもよい。あるいは、システム、装置、方法、集積回路、コンピュータプログラムおよび記録媒体の任意な組み合わせで実現されてもよい。
【発明の効果】
【0008】
本開示の技術によれば、電界結合方式の無線電力伝送システムにおける送電電極側に発生する電圧と受電電極側に発生する電圧とのバランスを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】電界結合方式による無線電力伝送システムの一例を模式的に示す図である。
図2図1に示す無線電力伝送システムの構成を示す図である。
図3】電界結合方式による無線電力伝送システムの他の例を模式的に示す図である。
図4図3に示す無線電力伝送システムの構成を示す図である。
図5】例示的な実施形態による無線電力伝送システムの構成を示すブロック図である。
図6】インバータ回路の構成例を模式的に示す図である。
図7】整流回路の構成例を模式的に示す図である。
図8】無線電力伝送システムの回路構成の一例を示す図である。
図9】インバータ回路および整流回路のインピーダンスと、電極部のインピーダンスとを、スミスチャート上に示す図である。
図10】整合回路を追加することによるリアクタンス追加の効果を示す図である。
図11】シミュレーションの構成を説明するための図である。
図12A】差動構成における電極部の等価回路を示す図である。
図12B】シングルエンド構成における電極部の等価回路を示している。
図13A】実施形態の効果を示すシミュレーション結果を示すグラフである。
図13B】実施形態の効果を示すシミュレーション結果を示すグラフである。
図13C】実施形態の効果を示すシミュレーション結果を示すグラフである。
図14A】送電側および受電側の整合回路と、電極部とを含む伝送回路の構成例を示す図である。
図14B】シミュレーションの構成を説明するための図である。
図15A】シミュレーション結果を示す図である。
図15B】シミュレーション結果を示す図である。
図16A】部品ばらつきが5%の場合における終端インピーダンスのばらつきを示す図である。
図16B】部品ばらつきが10%の場合における終端インピーダンスのばらつきを示す図である。
図17】整合回路の変形例を示す図である。
図18A】結合容量が変動した場合の影響を確認するシミュレーションの結果を示す第1の図である。
図18B】結合容量が変動した場合の影響を確認するシミュレーションの結果を示す第2の図である。
図18C】結合容量が変動した場合の影響を確認するシミュレーションの結果を示す第3の図である。
図19】外部からの制御によってインピーダンスを変化させることが可能な整合回路の一例を示す図である。
図20A】送電電極が壁などの側面に敷設された例を示す図である。
図20B】送電電極が天井に敷設された例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(本開示の基礎となった知見)
本開示の実施形態を説明する前に、本開示の基礎となった知見を説明する。
【0011】
図1は、電界結合方式による無線電力伝送システムの一例を模式的に示す図である。「電界結合方式」とは、複数の送電電極を含む送電電極群と複数の受電電極を含む受電電極群との間の電界結合(「容量結合」とも称する。)により、送電電極群から受電電極群に、無線すなわち非接触で電力が伝送される伝送方式をいう。簡単のため、送電電極群および受電電極群の各々が、2つの電極の対によって構成される例をまず説明する。
【0012】
図1に示す無線電力伝送システムは、受電装置を備えた移動体10に無線で電力を伝送するシステムである。この例における移動体10は、無人搬送車(Automated Guided Vehicle:AGV)である。移動体10は、例えば工場または倉庫において物品の搬送に用いられる。このシステムでは、床面30に平板状の一対の送電電極120a、120bが配置されている。一対の送電電極120a、120bは、第1の方向(図1におけるY方向)に延びた形状を有する。一対の送電電極120a、120bには、不図示の送電回路から交流電力が供給される。
【0013】
移動体10は、一対の送電電極120a、120bに対向する不図示の一対の受電電極を備えている。移動体10は、送電電極120a、120bから伝送された交流電力を、一対の受電電極によって受け取る。受け取った電力は、移動体10が有するモータ、二次電池、または蓄電用のキャパシタなどの負荷に供給される。これにより、移動体10の充電または駆動が行われる。
【0014】
図1には、互いに直交するX、Y、Z方向を示すXYZ座標が示されている。以下の説明では、図示されているXYZ座標を用いる。送電電極120a、120bが延びる方向をY方向、送電電極120a、120bの表面に垂直な方向をZ方向、Y方向およびZ方向に垂直な方向をX方向とする。X方向は、送電電極120a、120bが並ぶ方向である。なお、本願の図面に示される構造物の向きは、説明のわかりやすさを考慮して設定されており、本開示の実施形態が現実に実施されるときの向きをなんら制限するものではない。また、図面に示されている構造物の全体または一部分の形状および大きさも、現実の形状および大きさを制限するものではない。
【0015】
図2は、図1に示す無線電力伝送システムの概略的な構成を示す図である。この無線電力伝送システムは、送電装置100と、移動体10とを備える。移動体10は、受電装置200と、負荷300とを備える。
【0016】
送電装置100は、一対の送電電極120a、120bと、送電電極120a、120bに交流電力を供給する送電回路110とを備える。送電回路110は、例えば、インバータ回路を含む交流出力回路である。送電回路110は、不図示の電源から供給された直流電力を、電力伝送用の交流電力に変換して一対の送電電極120a、120bに出力する。送電回路110は、送電電極120a、120bとインバータ回路との間に、インピーダンス整合のための整合回路を備えていてもよい。電源は、直流電源に限らず交流電源であってもよい。電源が交流電源である場合、インバータ回路に代えて、入力された交流電力を、例えば異なる周波数または電圧を有する他の交流電力に変換して出力する電力変換回路が用いられ得る。
【0017】
受電装置200は、一対の受電電極220a、220bと、受電回路210と、負荷300とを備える。受電回路210は、受電電極220a、220bが受け取った交流電力を負荷300が要求する他の形態の電力に変換して負荷300に供給する。受電回路210は、負荷300が要求する所定の電圧の直流電力または所定の周波数および電圧の交流電力を出力する。受電回路210は、例えば整流回路およびインピーダンス整合回路などの、各種の回路を含み得る。負荷300は、例えばモータ、蓄電用のキャパシタ、または二次電池などの、電力を消費または蓄える機器、およびそれらの機器を制御する回路を含み得る。一対の送電電極120a、120bと、一対の受電電極220a、220bとの間の電界結合により、両者が対向した状態で電力が無線で伝送される。
【0018】
送電電極120a、120bおよび受電電極220a、220bの各々は、2つ以上の部分に分割されていてもよい。例えば、図3および図4に示すような構成を採用してもよい。
【0019】
図3および図4は、送電電極群および受電電極群の各々が4つの電極を含む無線電力伝送システムの例を示す図である。この例では、送電装置100は、2つの第1送電電極120aと、2つの第2送電電極120bとを備える。2つの第1送電電極120aおよび2つの第2送電電極120bは、交互に並んでいる。受電装置200も同様に、2つの第1受電電極220aと、2つの第2受電電極220bとを備える。2つの第1受電電極220aおよび2つの第2受電電極220bも、交互に並んでいる。電力伝送時には、2つの第1受電電極220aは、2つの第1送電電極120aにそれぞれ対向し、2つの第2受電電極220bは、2つの第2送電電極120bにそれぞれ対向する。
【0020】
送電回路110は、交流電力を出力する2つの端子を備えている。一方の端子は、2つの第1送電電極120aに接続され、他方の端子は、2つの第2送電電極120bに接続される。電力伝送の際、送電回路110は、2つの第1送電電極120aに第1の電圧を印加し、2つの第2送電電極120bに、第1の電圧とは逆の位相の第2の電圧を印加する。これにより、4つの送電電極を含む送電電極群と4つの受電電極を含む受電電極群との間の電界結合によって電力が無線で伝送される。このような構成によれば、隣り合う任意の2つの送電電極の境界上の漏洩電界を抑制する効果を得ることができる。このように、送電装置100および受電装置200の各々において、送電または受電を行う電極の数は2個に限定されない。
【0021】
以下の実施形態では、図1および図2に示すように、送電装置100が2つの送電電極を備え、受電装置200が2つの受電電極を備えた構成を主に説明する。以下の各実施形態において、送電電極群および受電電極群の各々は、図3および図4に例示されるように、2つよりも多くの電極を含んでいてもよい。いずれの場合も、ある瞬間に第1の電圧が印加される電極と、第1の電圧とは逆の位相の第2の電圧が印加される電極とが交互に並ぶように配置される。ここで「逆の位相」とは、位相差が180度である場合に限らず、位相差が90度から270度の範囲内である場合を含むものと定義する。以下の説明において、送電装置100が備える複数の送電電極を区別せずに「送電電極120」と称し、受電装置200が備える複数の受電電極を区別せずに「受電電極220」と称することがある。
【0022】
上記のような無線電力伝送システムによれば、移動体10は、送電電極120に沿って移動しながら、無線で電力を受け取ることができる。移動体10は、送電電極120と受電電極220とが近接して対向した状態を保ちながら、送電電極120に沿って移動することができる。これにより、移動体10は、例えばバッテリまたはキャパシタ等の蓄電デバイスを充電しながら移動することができる。
【0023】
このような電界結合型の無線電力伝送システムにおいては、送電電極120と受電電極220との間の距離が極端に短い場合、またはそれらの電極の間に高い誘電率の誘電体が存在するような場合を除き、電極間のキャパシタンスは一般に小さい。そのようなキャパシタンスの小さい送電電極120と受電電極220との間で大きい電力を伝送する場合、送電電極120間および受電電極220間に高い電圧が発生する。その結果、それらの電極または他の回路素子の損傷または破壊などの好ましくない問題が生じ得る。
【0024】
従来の電界結合型の無線電力伝送システムには、送電電極と受電電極とによって構成される電極対のリアクタンスによる影響を緩和する構成を備えたものがある。例えば、特許文献1に開示されたシステムでは、送電電極または受電電極に直列にインダクタを接続することにより、電極対のリアクタンスによる電圧降下を減少させることができる。すなわち、電極対の入力側または出力側においてLC共振を利用して補償を行うことにより、電極対のリアクタンスによる電圧降下の影響が緩和される。
【0025】
しかし、上記のような構成では、電極対の入力側と出力側に発生する電圧の大きさが不均一になり、特に高電圧側の電圧値の増大が問題になり得る。また、従来の技術では、電極間に発生する電圧を最小にする電極終端条件が考慮されておらず、前述の問題を解決することができない。
【0026】
以上の考察に基づき、本発明者らは、以下に説明する本開示の実施形態の構成に想到した。以下、本開示の実施形態の概要を説明する。
【0027】
本開示の例示的な実施形態による無線電力伝送システムは、2つ以上の送電電極を含み、交流電力を送出する送電電極群と、インバータ回路と前記送電電極群との間に接続され、前記インバータ回路と前記送電電極群との間のインピーダンスを整合させる第1整合回路と、2つ以上の受電電極を含み、前記送電電極群から送出された前記交流電力を受け取る受電電極群と、前記受電電極群と整流回路との間に接続され、前記受電電極群と整流回路との間のインピーダンスを整合させる第2整合回路と、を備える。前記送電電極群と前記受電電極群との間の結合容量によるリアクタンスをX、前記送電電極群から見た前記第1整合回路側のインピーダンスのリアクタンス成分をX1、前記受電電極群から見た前記第2整合回路側のインピーダンスのリアクタンス成分をX2とするとき、|X1-X/2|<0.5X、および|X2-X/2|<0.5Xを満足する。
【0028】
ここで、送電電極群から見た第1整合回路側のインピーダンスを「第1終端インピーダンス」と称し、受電電極群から見た第2整合回路側のインピーダンスを「第2終端インピーダンス」と称することにする。上記構成によれば、第1終端インピーダンスのリアクタンス成分X1および第2終端インピーダンスのリアクタンス成分X2のそれぞれが、送電電極群と受電電極群との間の結合容量によるリアクタンスXの半分に近くなるように、第1整合回路および第2整合回路のそれぞれが構成されている。このような構成により、送電電極群の側に発生する電圧と、受電電極群の側に発生する電圧とのバランスを向上させることができる。
【0029】
第1整合回路および第2整合回路のそれぞれは、|X1-X/2|<0.3X、および|X2-X/2|<0.3Xを満足するように構成されていてもよい。さらに、第1整合回路および第2整合回路のそれぞれは、|X1-X/2|<0.1X、および|X2-X/2|<0.1Xを満足するように構成されていてもよい。そのような構成によれば、X1およびX2のそれぞれがX/2にさらに近くなるため、送電電極群に発生する電圧と、受電電極群に発生する電圧とのバランスをさらに向上させることができる。
【0030】
ここで、前記送電電極群から見た前記第1整合回路側のインピーダンスの抵抗成分をR1、前記受電電極群から見た前記第2整合回路側のインピーダンスの抵抗成分をR2とする。このとき、|R1-X/2|<0.5X、および|R2-X/2|<0.5Xを満足するように第1整合回路および第2整合回路が構成されていてもよい。そのような構成によれば、後に詳しく説明するように、送電電極群に発生する電圧と、受電電極群に発生する電圧とを低く抑えることができる。
【0031】
第1整合回路および第2整合回路のそれぞれは、|R1-X/2|<0.3X、および|R2-X/2|<0.3Xを満足するように構成されていてもよい。さらに、第1整合回路および第2整合回路のそれぞれは、|R1-X/2|<0.1X、および|R2-X/2|<0.1Xを満足するように構成されていてもよい。そのような構成によれば、送電電極群に発生する電圧と、受電電極群に発生する電圧とをさらに低く抑えることができる。
【0032】
上記の条件は、第1整合回路および第2整合回路のそれぞれに含まれる回路素子の回路定数が適切な値に設定することにより、満足される。各整合回路は、抵抗素子、キャパシタ、およびインダクタから選択される1種以上の回路素子を含み得る。抵抗素子の抵抗値、キャパシタのキャパシタンス値、およびインダクタのインダクタンス値を適切な値に設定することにより、上記の各条件を満足させることができる。
【0033】
前記送電電極群から前記受電電極群に伝送される電力Pと前記リアクタンスXとの積は、例えば3.6×10[W・Ω]以上であり得る。前記電力Pと前記リアクタンスXとの積は、例えば4.9×10[W・Ω]以下であり得る。このような条件が満たされていれば、電極間の交流電圧を、例えば600Vから7000V程度の範囲内にすることができる。
【0034】
無線電力伝送システムの使用環境において、前記送電電極群と前記受電電極群との間の前記結合容量が、上限値、中央値、および下限値を有する場合がある。例えば、図1に示すような移動体が移動しながら受電可能なシステムにおいては、移動体の位置の変化に応じて、結合容量が変動する。送電電極群と受電電極群とが完全に対向する状態において、結合容量は上限値をとる。逆に、送電電極群と受電電極群とが殆ど重ならない状態において、結合容量は下限値をとる。このようなシステムにおいては、結合容量が中央値よりも小さい場合に、|X1-X/2|<0.5X、|X2-X/2|<0.5X、|R1-X/2|<0.5X、および|R2-X/2|<0.5Xが満たされるように、各整合回路が構成され得る。そのような構成によれば、高電圧が生じやすい低結合状態において電極間電圧が過度に大きくなる状況を避けることができる。
【0035】
前記第1整合回路および前記第2整合回路の少なくとも一方は、外部からの制御によってインピーダンスを変化させることが可能であってもよい。無線電力伝送システムは、前記第1整合回路および前記第2整合回路の前記少なくとも一方を制御して前記インピーダンスを変化させる少なくとも1つの制御回路をさらに備えていてもよい。前記少なくとも1つの制御回路は、前記インピーダンスを変化させることにより、条件|X1-X/2|<0.5X、および|X2-X/2|<0.5Xの少なくとも一方を満足させるように構成されていてもよい。そのような構成によれば、結合容量によるリアクタンスXに変動が生じる場合であっても、第1整合回路または第2整合回路のインピーダンスを適切な値に設定し、送電側と受電側の電圧のアンバランスを抑制することができる。上記構成において、条件|X1-X/2|<0.3X、および|X2-X/2|<0.3Xの少なくとも一方を満たすように整合回路のインピーダンスを調整してもよい。さらに、条件|X1-X/2|<0.3X、および|X2-X/2|<0.3Xの少なくとも一方を満たすように整合回路のインピーダンスを調整してもよい。
【0036】
前記少なくとも1つの制御回路は、前記インピーダンスを変化させることにより、条件|R1-X/2|<0.5X、および|R2-X/2|<0.5Xの少なくとも一方を満足させるように構成されていてもよい。そのような構成によれば、結合容量によるリアクタンスXに変動が生じる場合であっても、第1整合回路または第2整合回路のインピーダンスを適切な値に設定し、送電電極群に生じる電圧および受電電極群に生じる電圧を低く抑えることができる。上記構成において、条件|R1-X/2|<0.3X、および|R2-X/2|<0.3Xの少なくとも一方を満たすように整合回路のインピーダンスを調整してもよい。さらに、条件|R1-X/2|<0.3X、および|R2-X/2|<0.3Xの少なくとも一方を満たすように整合回路のインピーダンスを調整してもよい。
【0037】
前記第1整合回路および前記第2整合回路の各々は、外部からの制御によってインピーダンスを変化させることが可能であってもよい。前記少なくとも1つの制御回路は、前記第1整合回路のインピーダンスを制御する第1制御回路と、前記第2整合回路のインピーダンスを制御する第2制御回路とを含んでいてもよい。前記第1制御回路は、前記第1整合回路の前記インピーダンスを変化させることにより、条件|X1-X/2|<0.5Xを満足させてもよい。前記第2制御回路は、前記第2整合回路の前記インピーダンスを変化させることにより、条件|X2-X/2|<0.5Xを満足させてもよい。上記構成において、条件|X1-X/2|<0.3X、および|X2-X/2|<0.3Xの両方を満たすように各整合回路のインピーダンスを調整してもよい。さらに、条件|X1-X/2|<0.1X、および|X2-X/2|<0.1Xの両方を満たすように整合回路のインピーダンスを調整してもよい。
【0038】
前記第1制御回路は、前記第1整合回路の前記インピーダンスを変化させることにより、条件|R1-X/2|<0.5Xを満足させてもよい。前記第2制御回路は、前記第2整合回路の前記インピーダンスを変化させることにより、条件|R2-X/2|<0.5Xを満足させてもよい。上記構成において、条件|R1-X/2|<0.3X、および|R2-X/2|<0.3Xの両方を満たすように各整合回路のインピーダンスを調整してもよい。さらに、条件|R1-X/2|<0.1X、および|R2-X/2|<0.1Xの両方を満たすように整合回路のインピーダンスを調整してもよい。
【0039】
無線電力伝送システムは、前記インバータ回路および前記整流回路をさらに備えていてもよい。無線電力伝送システムは、インバータ回路および整流回路を備えない部品の状態で製造および販売される場合もある。
【0040】
前記受電電極群および前記第2整合回路は、例えば移動体に設けられる受電装置の構成要素であり得る。
【0041】
本開示における「移動体」は、前述の無人搬送車(AGV)のような車両に限定されず、電力によって駆動される任意の可動物体を意味する。移動体には、例えば、電気モータおよび1以上の車輪を備える電動車両が含まれる。そのような車両は、例えば、前述のAGV、搬送ロボット、電気自動車(EV)、電動カート、電動車椅子であり得る。本開示における「移動体」には、車輪を有しない可動物体も含まれる。例えば、二足歩行ロボット、マルチコプターなどの無人航空機(Unmanned Aerial Vehicle:UAV、所謂ドローン)、および有人の電動航空機、およびエレベータも、「移動体」に含まれる。受電装置は、このような移動体に限らず、例えば携帯電話機のような電子機器に搭載されてもよい。
【0042】
以下、本開示のより具体的な実施形態を説明する。ただし、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明および実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になることを避け、当業者の理解を容易にするためである。なお、発明者は、当業者が本開示を十分に理解するために添付図面および以下の説明を提供するのであって、これらによって特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。以下の説明において、同一または類似する機能を有する構成要素については、同じ参照符号を付している。
【0043】
(実施形態)
図5は、本開示の例示的な実施形態による無線電力伝送システムの構成を示すブロック図である。本実施形態の無線電力伝送システムは、例えば図1および図2に示すように、1台以上の移動体10に無線で電力を供給するシステムである。以下の説明では、図1および図2に示す例と同様、送電電極群が2つの送電電極120を含み、受電電極群が2つの受電電極220を含む例を説明する。送電電極群および受電電極群の各々は、例えば図3および図4に示す例のように、2つよりも多くの電極を含んでいてもよい。以下の説明において、2つの送電電極120を「送電電極対」と称し、2つの受電電極220を「受電電極対」と称することがある。
【0044】
図5に示す無線電力伝送システムは、送電装置100と、移動体10とを備える。図5には、無線電力伝送システムの外部の要素である交流電源50も示されている。送電装置100は、AC-DCコンバータ回路130と、送電回路110と、2つの送電電極120と、送電制御回路150とを備える。送電回路110は、インバータ回路160と、整合回路180とを備える。移動体10は、受電装置200と、負荷300とを備える。受電装置200は、2つの受電電極220と、受電回路210と、受電制御回路250とを備える。受電回路210は、整合回路280と、整流回路260とを含む。負荷300は、充放電制御回路310と、電池320と、電気モータ330とを備える。
【0045】
以下、各構成要素をより具体的に説明する。
【0046】
AC-DCコンバータ回路130は、交流電源50とインバータ回路160との間に接続されている。AC-DCコンバータ回路130は、交流電源50から出力された例えば100Vの交流電力を直流電力に変換して出力する。
【0047】
インバータ回路160は、送電制御回路150からの指令に応答してAC-DCコンバータ回路130から出力された直流電力を交流電力に変換して出力する。図6は、インバータ回路160の構成例を模式的に示す図である。この例では、インバータ回路160は、4つのスイッチング素子を含むフルブリッジ型のインバータ回路である。各スイッチング素子は、例えばIGBT、MOSFET、またはGaN等のトランジスタによって実現され得る。各スイッチング素子は、送電制御回路150によって制御される。図示されるフルブリッジ型のインバータ回路の代わりに、ハーフブリッジ型のインバータ回路、または、E級などの他の種類の発振回路を用いてもよい。
【0048】
電力伝送の周波数は、例えば50Hz~300GHz、ある例では20kHz~10GHz、他の例では20kHz~20MHz、さらに他の例では80kHz~14MHzに設定され得る。ただしこれらの周波数範囲に限定されない。
【0049】
整合回路180は、インバータ回路160と2つの送電電極120との間に接続されている。整合回路180は、インバータ回路160と2つの送電電極120との間のインピーダンスを整合させる。整合回路180は、インダクタまたはキャパシタなどの1つ以上のリアクタンス素子を含む。整合回路180は、送電制御回路150からの制御に応じてインピーダンスを変化できるように構成されていてもよい。例えば、伝送路に接続される複数のリアクタンス素子の組み合わせを切り替える1つ以上のスイッチが整合回路180に含まれていてもよい。整合回路180は、リアクタンスを変化させる少なくとも1つの可変リアクタンス素子を含んでいてもよい。
【0050】
送電制御回路150は、インバータ回路160における各スイッチング素子のオン(導通)およびオフ(非導通)の状態を制御する制御信号を出力するゲートドライバと、ゲートドライバに制御信号を出力させるマイクロコントローラ(MCU)等のプロセッサおよびメモリを含む回路とを備え得る。送電制御回路150は、各スイッチング素子のオンおよびオフの状態を制御することにより、インバータ回路160から所望の周波数および所望の電圧を有する交流電力を出力させる。整合回路180がインピーダンスを変化させることが可能である場合、送電制御回路150は、整合回路180のインピーダンスを変化させる制御信号を整合回路180に出力する。送電制御回路150は、例えば、送電電極120に入力される電圧、電流、電力、またはインピーダンス等を計測し、その計測結果に応じて整合回路180のインピーダンスの抵抗成分またはリアクタンス成分を調整してもよい。
【0051】
受電装置200における整合回路280は、2つの受電電極220と整流回路260との間に接続される。整合回路280は、2つの受電電極220と整流回路260との間のインピーダンスを整合させる。整合回路280は、インダクタまたはキャパシタなどの1つ以上のリアクタンス素子を含む。整合回路280は、受電制御回路250からの制御に応じてインピーダンスを変化できるように構成されていてもよい。例えば、伝送路に接続される複数のリアクタンス素子の組み合わせを切り替える1つ以上のスイッチが整合回路280に含まれていてもよい。整合回路280は、リアクタンスを変化させる少なくとも1つの可変リアクタンス素子を含んでいてもよい。
【0052】
整流回路260は、整合回路280から出力された交流電力を直流電力に変換する。図7は、整流回路260の構成例を模式的に示す図である。この例における整流回路260は、ダイオードブリッジと平滑コンデンサとを含む全波整流回路である。整流回路260は、例えば半波整流回路などの、他の構成を有していてもよい。整流回路260は、受け取った交流エネルギーを、負荷300が利用可能な直流エネルギーに変換する。
【0053】
受電制御回路250は、例えばMCUなどの、プロセッサとメモリなどの記憶媒体とを備えた回路によって実現され得る。受電制御回路250は、受電装置200内の電流、電圧、電力、またはインピーダンスを計測し、その計測値を示す信号を送電制御回路150に送信してもよい。送電制御回路150は、当該信号に応じてインバータ回路160から出力される交流電圧を調整してもよい。整合回路280がインピーダンスを変化させることが可能である場合、受電制御回路250は、整合回路280のインピーダンスを変化させる制御信号を整合回路280に出力する。受電制御回路250は、例えば、受電電極220から出力される電圧、電流、電力、またはインピーダンス等を計測し、その計測結果に応じて整合回路280のインピーダンスの抵抗成分またはリアクタンス成分を調整してもよい。
【0054】
充放電制御回路310は、整流回路260と電池320およびモータ330との間に接続される。充放電制御回路310は、電池320の充電および放電を制御する。
【0055】
電池320は、例えばリチウムイオン電池またはニッケル水素電池などの二次電池である。移動体10は、電池320に蓄えられた電力によってモータ330を駆動して移動する。なお、電池320に代えて、例えば電気二重層キャパシタまたはリチウムイオンキャパシタなどの、他の種類の蓄電デバイスを用いてもよい。
【0056】
電気モータ330は、充放電制御回路310および電池320に接続される。電気モータ330は、電池320に蓄積されたエネルギーによって駆動される。モータ330は、例えば直流モータ、永久磁石同期モータ、誘導モータ、ステッピングモータ、またはリラクタンスモータなどの、任意のモータであり得る。モータ330は、シャフトおよびギア等を介して移動体の車輪を回転させ、移動体10を移動させる。モータの種類に応じて、整流回路、インバータ回路、インバータ制御回路などの、各種の回路がモータ330の前段に設けられ得る。
【0057】
本実施形態における移動体10の筐体、各送電電極120、および各受電電極220のそれぞれのサイズは、特に限定されないが、例えば以下のサイズに設定され得る。各送電電極120の長さ(すなわちY方向のサイズ)は、例えば50cm~20mの範囲内に設定され得る。各送電電極120のそれぞれの幅(すなわちX方向のサイズ)は、例えば5cm~2mの範囲内に設定され得る。移動体10の筐体の移動方向および横方向におけるそれぞれのサイズは、例えば20cm~5mの範囲内に設定され得る。送電電極120から同時に2台以上の移動体10に給電できるように、移動体10の筐体の移動方向におけるサイズは、各送電電極120の長さの半分未満に設定されてもよい。受電電極220の長さ(すなわち移動方向におけるサイズ)は、例えば5cm~2mの範囲内に設定され得る。受電電極220aの幅(すなわち横方向におけるサイズ)は、例えば2cm~2mの範囲内に設定され得る。送電電極120間のギャップ、および受電電極220間のギャップは、例えば1mm~40cmの範囲内に設定され得る。但し、これらの数値範囲に限定されない。
【0058】
移動体10が移動すると、電池320の蓄電量が低下する。このため、移動を継続するためには、再充電が必要になる。そこで、移動体10は、例えば移動中に充電量が所定の閾値を下回ると、送電装置100が敷設されたエリアに進入し、充電を行う。
【0059】
本実施形態のように、移動体10が移動しながら送電電極120から電力を受電するシステムにおいては、各送電電極120は、移動体10が移動する方向に関して、移動体10の筐体よりも長い寸法を有する。当該方向における各送電電極120のサイズ(すなわち長さ)は、同方向における移動体10の筐体の寸法の例えば2倍以上、場合によっては5倍または10倍以上に達することもある。充電時間を長く確保するために、各送電電極120の長さは、例えば数メートルから数十メートルに達することもある。
【0060】
このような長い送電電極対を備えるシステムにおいては、電力伝送時に使用される周波数(以下、「伝送周波数」と称することがある)は、一般的な電子デバイスに適用される無線電力伝送システムにおいて使用される周波数よりも遥かに低く設定される。一般的な電界結合型の無線電力伝送システムにおいて使用される周波数は、例えば数MHzから数十MHzの範囲に含まれる。これに対し、本実施形態においては、例えば数百kHz程度の低い周波数が用いられ得る。
【0061】
一方、送電電極120と受電電極220との間の結合によって生じるキャパシタンス(以下、「結合容量」とも称する)は、一般に小さい。結合容量は、例えば数十ピコファラッド(pF)から数百pF程度の小さい値であり得る。送電電極120と受電電極220との間隔を極端に短い間隔(例えば5mm未満)に維持したり、それらの電極の間に高い誘電率の誘電体を設けたりすることによって結合容量を高くすることは可能である。しかし、そのような構成では、送電電極120および受電電極220の配置に制約が生じる。幅広い用途に応用できるようにするためには、電極間に誘電体を設けずに空隙にした場合、および電極間の距離が比較的長い場合(例えば5mm以上)であっても高い伝送効率を維持できることが望まれる。
【0062】
表1は、送電電極120と受電電極220との結合容量が100pFの場合における伝送周波数と結合容量によるリアクタンスとの関係の例を示している。送電電極120と受電電極220とによって形成されるキャパシタのリアクタンスは、結合容量をCm、伝送周波数をf0とすると、1/(2π×f0×Cm)で表される。表1からわかるように、伝送周波数が0.5MHzの場合、結合容量によるリアクタンスは、約3183オーム(Ω)と大きい値になる。
【0063】
【表1】
【0064】
送電電極対と受電電極対とがこのような高いリアクタンスを有する場合、大きい電力を伝送するときには、送電電極間および受電電極間に高電圧が発生し、それらの電極または他の回路素子が損傷したり破壊したりする可能性がある。
【0065】
このような問題を回避するために、本実施形態では、整合回路180、280により、送電電極120の入力側の終端条件と、受電電極220の出力側の終端条件とが最適化されている。本実施形態では、送電電極120と受電電極220との間の結合容量によるリアクタンス(X)の約半分の大きさの虚部成分をもつインピーダンス(R+jX/2)で送電電極120の入力側および受電電極220の出力側が終端されている(Rは任意)。これにより、送電電極120の入力側の電圧と受電電極220の出力側の電圧とをほぼ等しくすることができる。さらに、送電電極120と受電電極220との間の結合容量によるリアクタンス(X)の約半分の大きさの実部成分および虚部成分をもつインピーダンス(X/2+jX/2)で送電電極120の入力側および受電電極220の出力側が終端され得る。そのような条件を満足することにより、送電電極120の入力側の電圧と、受電電極220の出力側の電圧とを均一かつ最小に近付けることができる。
【0066】
図8は、本実施形態の無線電力伝送システムの回路構成の一例を示す図である。図8には、送電電極120間に生じる浮遊容量C1および受電電極220間に生じる浮遊容量C2も示されている。この例では、整合回路180および280は、ともに、複数のキャパシタおよび複数のインダクタを含んでいる。各キャパシタのキャパシタンス値および各インダクタのインダクタンス値は、整合回路180および280により決定される各々の電極終端におけるインピーダンスが、電力伝送時の周波数f0において、上記の値(X/2+jX/2)をもつように設定され得る。
【0067】
本実施形態においては、インバータ回路160および整流回路260は、比較的低いインピーダンス(例えば数十Ω程度)を有する。これに対し、送電電極120と受電電極220との間の結合容量Cmによるインピーダンスのリアクタンス成分Xは、相対的に大きい値をもつ。例えば、Cm=100pF、f=0.5MHzの場合、X≒3183Ωである。
【0068】
図9は、インバータ回路160および整流回路260のインピーダンスと、送電電極120および受電電極220からなる電極部のインピーダンスとを、スミスチャート上に示した図である。この例では、インバータ回路160および整流回路260のインピーダンス(抵抗値)は、ともに15Ωであり、電極部のインピーダンスのリアクタンス成分は3000Ωであるものとしている。図9に示すスミスチャートは、インピーダンスZ0=50Ωで正規化されている。このように大きく隔たりのあるインピーダンス同士を整合させるために、整合回路180および280の各リアクタンス素子のリアクタンス値(すなわちキャパシタンス値またはインダクタンス値)が、適切に設計されている。
【0069】
図10は、整合回路180および280を追加することによるリアクタンス追加の効果をスミスチャート上に示した図である。図10には、抵抗成分の異なる3種類の例における、受電電極対から見た整合回路280側の第1終端インピーダンスのリアクタンスX/2、電極部のリアクタンスX、および送電電極対から見た整合回路180側の第2終端インピーダンスのリアクタンスX/2による変換が実線矢印で示されている。図10には、比較のため、第1終端インピーダンスのリアクタンスと、第2終端インピーダンスのリアクタンスとが一致していない場合の変換の例が破線矢印で示されている。これらの矢印の起点は、受電側の整合回路280の入力端から見た負荷側のインピーダンスを表しており、矢印の終点は、送電側の整合回路180の出力端から見た負荷側のインピーダンスを表している。図10からわかるように、破線矢印で示す比較例においては、電極部の入力側の終端インピーダンスと出力側の終端インピーダンスとでリアクタンス成分が異なっていることから、電極部の入力側と出力側とで電圧にアンバランスが発生する。その結果、高インピーダンス側の電極電圧が相対的に高くなる。これに対し、本実施形態では、整合回路180側の第1終端インピーダンスのリアクタンス成分、および整合回路280側の第2終端インピーダンスのリアクタンス成分が、ともにX/2という対称的な値をもつため、スミスチャート上で抵抗軸に対称にインピーダンスが変換される。その結果、電極部の入力側の電圧(実効値を表す。以下同じ。)と出力側の電圧とを実質的に等しくすることができる。
【0070】
さらに、電極部から見た整合回路180側および整合回路280側のそれぞれのインピーダンスの実部成分(すなわち抵抗成分)を、X/2に等しくすることにより、送電電極120間および受電電極220間の電圧を最小にすることができる。この効果について、以下に説明する。
【0071】
ここで、簡単のため、図11に示すようなシングルエンド構成を考える。電極部の結合容量をCm、伝送周波数をf0とし、入力ポートp1から出力ポートp2に向けて電力が投入されるものとする。電極部のリアクタンス成分はX=1/(2π×f0×Cm)で表される。電極部の両端で反射が生じない条件を満たす終端インピーダンスZ1は、以下の数1で表される。
【数1】
【0072】
ここで、θZ1はZ1の位相を表す。
【0073】
ポートp1に投入される電力をP、電圧をV、電流をI、電圧と電流との位相差をθpとすると、電力Pは、以下の数2で表される。
【数2】
【0074】
一方、電極間の結合容量を介して伝送される有効電力をPr、無効電力をPxとすると、電力Pは、以下の数3で表される。
【数3】
【0075】
数3において、θp=-θZ1の関係を用いている。数1~3を用い、|V|について解くと、以下の数4が得られる。
【数4】
【0076】
この|V|をRで微分すると、以下の数5が得られる。
【数5】
【0077】
数5より、R=X/2のときに数4の|V|は最小値をとる。最小値は、以下の数6で表される。
【数6】
【0078】
以上の議論はシングルエンド構成を前提にしているが、差動構成においても同様の議論が成立する。差動構成においては、シングルエンド構成における設計を、正負両側の経路にそのまま適用すればよい。差動構成においては、終端インピーダンスZ1を、シングルエンド構成における終端インピーダンスの2倍に設定することになる。
【0079】
図12Aおよび図12Bは、電極部の等価回路を示す図である。図12Aは、差動構成における電極部の等価回路を示している。図12Bは、シングルエンド構成における電極部の等価回路を示している。実際の電極構成では、電力伝送に必要なポート1-3間およびポート2-4間の結合容量以外に、浮遊容量成分Cp1およびCp2が含まれる。本開示において、送電電極120と受電電極140との間の「結合容量」は、電極部を図12Bに示すようなπ型等価回路で表した場合の容量Cmを表すものと定義する。この場合、結合容量Cmは、図12Aに示す容量Csの1/2倍に相当する。電界結合方式における電極構造に関しては、単純な平行平板以外にも、面積または距離(送電-送電間、受電-受電間、送電-受電間)が異なる複数の平行平板によって構成される複雑な構造も可能である。そのような複雑な電極構造が採用される場合においても、図12Aおよび図12Bに示すような等価回路に変換することは常に可能である。
【0080】
図13Aから図13Cは、本実施形態の効果を示すシミュレーション結果を示すグラフである。本シミュレーションでは、図11に示すシングルエンド構成において、電極部の両端の終端インピーダンスの虚部成分をX/2に固定し、実部成分Rをスイープした場合における送電電極間および受電電極間の電圧Veleを計算した。シミュレーションの条件として、表2に示すaからiまでの9パターンの条件で計算を行った。
【0081】
【表2】
【0082】
表2に示すように、伝送周波数f0、および送電電極120と受電電極220との間の結合容量Cmを変化させ、送電電極120と受電電極220との間の電圧は一定に維持した。いずれの条件においても、電極部の入力部および出力部の終端インピーダンスの虚部を、ともに結合容量Cmと伝送周波数fとから決まるリアクタンスXの1/2倍に設定し、実部Rをともに同じ値に設定した。この条件により、電極部の入出力部のインピーダンス整合を図った。
【0083】
その条件で、入力端から正弦波電力を入力した。終端インピーダンスの実部の値をパラメータとして変化させながら、送電電極120の入力部および受電電極220の出力部に発生する電圧Veleを計算した。
【0084】
図13Aは、f0=0.01MHzの条件a、b、cにおけるシミュレーション結果を示している。図13Bは、f0=0.5MHzの条件d、e、fにおけるシミュレーション結果を示している。図13Cは、f0=13.56MHzの条件g、h、iにおけるシミュレーション結果を示している。いずれの例においても、R=X/2を満たす場合に電圧Veleが最小値をとることが確認できた。また、これらの最小値は、数6を用いて計算された値を√2倍し、実効値から波高値に換算した結果とよく一致している。これらの結果から、本実施形態の構成により、送電電極120間および受電電極220間の電圧を低減できることが確認できた。
【0085】
なお、本実施例では、シングルエンド構成での解析を行ったが、前述したように、差動構成についても同様の結果が得られる。
【0086】
次に、整合回路180および280の他の構成例を説明する。
【0087】
図14Aは、整合回路180および280と、電極部400とを含む伝送回路の構成例を示す図である。図14Aには、一例として、各パラメータの値も示されている。図14Aの構成では、整合回路180および280は、同一の回路トポロジーを有し、互いに対称的な構成を有する。整合回路180および280の各々は、ハイパスフィルタとして機能する回路部分と、ローパスフィルタとして機能する回路部分とを含む。ハイパスフィルタとして機能する回路部分は、2つの並列インダクタと、2つの直列キャパシタとを含む。ローパスフィルタとして機能する回路部分は、2つの並列キャパシタと、2つの直列インダクタとを含む。なお、並列キャパシタおよび並列インダクタは、それぞれ1つの素子で構成してもよい。また、電極部400の結合容量の前後の並列容量の値として、電極部400による並列容量と整合回路180または280における並列キャパシタの容量との合成値を用いてもよい。図14Aの例では、各回路素子のインダクタンス値または容量値は、送電側の整合回路180と受電側の整合回路280とで同一であるが、異なっていてもよい。例えばインバータ回路160の位相調整のため、送電側の整合回路180における2つの直列キャパシタの容量値Ct1を、受電側の整合回路280における対応するキャパシタの容量値とは異なる値に設定してもよい。
【0088】
図14Aに示す構成において、電極部400を終端する整合回路180側および整合回路280側のインピーダンスの実部および虚部のそれぞれは、伝送周波数f0=0.5MHz、結合容量Cm=50pFの場合におけるリアクタンス値X(≒6366Ω)の1/2倍になるように設計されている。
【0089】
本発明者らは、図14Aに示す伝送回路の特性を確認するため、Sパラメータの伝送周波数に対する依存性を確認するシミュレーションを行った。本シミュレーションにおいては、図14Aに示す伝送回路の差動入出力部を、変換比1:1の理想バランでシングルエンドに変換した図14Bの構成に基づいてSパラメータを計算した。図14Bにおいて、中央の長方形は、図14Aに示す電極部400および整合回路180、280を含む伝送回路に相当する。図14Bの例において、両端のポートのインピーダンスは、インバータ回路160の負荷インピーダンスおよび整流回路260の入力インピーダンスにそれぞれ対応する。本シミュレーションでは、それらのインピーダンスをともに20Ωとした。
【0090】
Sパラメータは、以下の数7の右辺における行列を表す。
【数7】
【0091】
ここで、a1は、図14Bに示す左側のポートから入力される電力の平方根を表し、a2は、右側のポートから入力される電力の平方根を表す。b1は、左側のポートから出力される電力の平方根を表し、b2は、右側のポートから出力される電力の平方根を表す。
【0092】
図15Aは、反射特性を示すS11およびS22の絶対値の周波数依存性を示している。図15Bは、通過特性を示すS21の絶対値の周波数依存性を示している。図15Aに示すように、S11、S22がともに、0.5MHz付近で-20dB以下と、良好な特性が得られることが確認できた。また、図15Bに示すように、S21については、0.5MHz付近で約0.02dBと、良好な特性が得られることが確認できた。
【0093】
本発明者らは、さらに、図14Aに示す回路において、整合回路180および280を構成する各インダクタのインダクタンス値と各キャパシタのキャパシタンス値の、それぞれの設計値からのばらつき(以下、「部品ばらつき」と称する)に起因する影響を解析した。部品ばらつきに起因する電極部400の終端インピーダンスのばらつきをシミュレーションによって評価した。
【0094】
図16Aおよび図16Bは、シミュレーション結果をスミスチャート上に示した図である。図16Aおよび図16Bに示すスミスチャートは、伝送周波数0.5MHz、結合容量50pFの場合のリアクタンスの1/2倍である3183Ωで正規化されている。濃いマーカー位置は、電極部400の終端インピーダンスの設計値を示している。この位置は、インピーダンス座標系(R,X)において(1,1)にある。部品ばらつきが、5%の均一分布である場合と、10%の均一分布である場合のそれぞれについて、200回のモンテカルロ(乱数)シミュレーションを行った。
【0095】
図16Aは、部品ばらつきが5%の場合における終端インピーダンスのばらつきを示している。図16Bは、部品ばらつきが10%の場合における終端インピーダンスのばらつきを示している。図16Aの例においては、Xの値がおよそ0.8から1.2の範囲で分布し、Rの値がおよそ0.6から1.8の範囲で分布する結果が得られた。図16Bの例においては、Xの値がおよそ0.4から1.8の範囲で分布し、Rの値がおよそ0.4から3.0の範囲で分布する結果が得られた。
【0096】
なお、図16Aおよび図16Bに示す各点は、図14Aにおける電極部400から見た整合回路280側の負荷インピーダンスの計算結果を示している。電極部400から見た整合回路180側の負荷インピーダンスを計算した場合も同様の結果が得られる。
【0097】
以上のように、電極部400の入力側および出力側のそれぞれの終端インピーダンスの抵抗成分およびリアクタンス成分を、送電電極群と受電電極群との間の結合容量によるリアクタンスXの半分(X/2)に設定した場合でも、部品の特性のばらつき起因して実際のインピーダンスにばらつきが生じる。このばらつきを考慮して、電極部400の入力側および出力側のそれぞれの終端インピーダンスの抵抗成分およびリアクタンス成分は、X/2に完全に一致させるのではなく、X/2から幅をもたせて設定されていてもよい。例えば、送電電極群から見た整合回路180側のインピーダンスのリアクタンス成分をX1、受電電極群から見た整合回路280のインピーダンスのリアクタンス成分をX2として、|X1-X/2|<0.5X、および|X2-X/2|<0.5Xを満たすように整合回路180および280は設計され得る。ある例においては、|X1-X/2|<0.3X、および|X2-X/2|<0.3Xが満たされ得る。他の例においては、|X1-X/2|<0.2X、および|X2-X/2|<0.2Xが満たされ得る。さらに他の例においては、|X1-X/2|<0.1X、および|X2-X/2|<0.1Xが満たされ得る。また、送電電極群から見た整合回路180側のインピーダンスの抵抗成分をR1、受電電極群から見た整合回路280側のインピーダンスの抵抗成分をR2とするとき、|R1-X/2|<0.5X、および|R2-X/2|<0.5Xが満たされていてもよい。ある例においては、|R1-X/2|<0.3X、および|R2-X/2|<0.3Xが満たされ得る。他の例においては、|R1-X/2|<0.2X、および|R2-X/2|<0.2Xが満たされ得る。さらに他の例においては、|R1-X/2|<0.1X、および|R2-X/2|<0.1Xが満たされ得る。
【0098】
図14Aに示す構成では、整合回路180および280は、ともにハイパスフィルタ(HPF)とローパスフィルタ(LPF)とを組み合わせた回路構成を有する。そのような例に限定されず、整合回路180および280の各々は、多様な構成を取り得る。例えば、図17に示す整合回路の構成を採用してもよい。図17に示す整合回路は、2つのローパスフィルタが接続された構成を備える。整合回路180および280の両方が同様の構成を有している必要はない。図8に示すように、整合回路180がHPFとLPFとを組み合わせた構成を有し、整合回路280が2つのLPFを組み合わせた構成を有していてもよい。さらに、図8図14A、および図17に示すような2段のフィルタ構成に限らず、1段のフィルタ構成、または3段以上の多段のフィルタ構成を採用してもよい。あるいは、変圧器(トランス)を用いて整合回路180および280のそれぞれを構成してもよい。
【0099】
次に、送電電極120と受電電極220との結合容量が変動する場合における影響について説明する。本実施形態のように、移動体に適用される電界結合方式の無線電力伝送システムにおいては、移動体の移動または積載重量の変動などに起因して、送電電極と受電電極との距離または相対位置が電力伝送中に変化する場合がある。その場合、送電電極120と受電電極220との結合容量が変動する。結合容量がある範囲をもって変動する場合においては、結合容量が下限値に近い場合に前述の終端条件が満たされるように設計することにより、送電電極120間および受電電極220間の電圧の最大値を低減することができる。以下、図18Aから図18Cを参照して、この効果を説明する。
【0100】
図18Aから図18Cは、結合容量を変化させた場合の電極間電圧の変化を確認するシミュレーションの結果を示す図である。図18Aから図18Cにおいて、上の図および左下の図は、図14Aに示す回路において、伝送周波数0.5MHz、正弦波出力電力1.5kWの条件における、電極部400の出力側の終端インピーダンス(△)と、入力側の終端インピーダンス(□)とを示している。右下の図は、電極部400の入力側(□)および出力側(△)の電圧値とを示している。図18Aは、結合容量Cmが50pFの場合の結果を示している。図18Bは、結合容量Cmが75pF(+50%)に変動した場合の結果を示している。図18Cは、結合容量Cmが25pF(-50%)に変動した場合の結果を示している。これらの各例において、入力側および出力側のそれぞれの終端インピーダンスの実部および虚部のいずれも、Cm=50pFの条件に対応するリアクタンスXの1/2倍に設定されている。なお、図18Aから図18Cに示すスミスチャート表示は、いずれも伝送周波数0.5MHzおよび結合容量50pFの場合のリアクタンスの1/2倍である3183Ωで正規化されている。
【0101】
図18Aの例では、入力側の電圧と出力側の電圧とが一致し、リアクタンスXと入力電力から計算される最小電圧値4.37kVとほぼ同等の計算結果が得られた。これに対し、図18Bおよび図18Cに示す例では、結合容量が変動したことに伴い、出力側の終端インピーダンスは一定であるが、入力側のインピーダンスは変動する。図18Bに示すように結合容量がプラス方向に変動する場合、リアクタンス値が小さくなるため、電極部400の入力端でのインピーダンスがスミスチャート上で低インピーダンス側に移動し、入力端に発生する電圧が小さくなる。一方、図18Cに示すように結合容量がプラス方向に変動する場合、リアクタンス値が大きくなるため、電極部400の入力端でのインピーダンスがスミスチャート上で高インピーダンス側に移動し、入力端に発生する電圧が大きくなる。図18Cの例では、結合容量が25pFの場合のリアクタンス値から計算された最小電圧値6.18kVと比較して大きい約10kVの高電圧が発生することが確認された。なお、図18Bの例において、電極部400の入力端における電圧の最小値は3.57kVであり、図18Aの例における電圧の最小値4.37kVよりも小さい。しかし、その低下の影響は、図18Cの例における電圧の増加の影響よりも小さい。
【0102】
以上の結果より、電極間の相対位置の変動などに起因して結合容量がある範囲で変動するシステムにおいては、結合容量の下限値付近で前述の終端条件が満足されることが望ましい。実際の設計においては、結合容量の変動の全ての範囲における電力伝送特性のバランスを考慮し、結合容量の下限値ではなく、中央値と下限値との間の値に対して前述の条件が満たされるように設計される場合もある。以上のことから、結合容量が、上限値、中央値、および下限値を有するシステムにおいて、結合容量が中央値よりも小さい場合に、前述の条件|X1-X/2|<0.5X、|X2-X/2|<0.5X、|R1-X/2|<0.5X、および|R2-X/2|<0.5Xが満足されるように整合回路180および280が設計されてもよい。そのような設計により、結合容量の変動に起因する電極電圧の最大値を低減することが可能となる。
【0103】
以上の実施形態において、送電電極120から受電電極220に伝送される電力Pと、送電電極120と受電電極220との結合容量によるリアクタンスXとの積が、例えば3.6×10[W・Ω]以上4.9×10[W・Ω]以下になるように各装置は設計され得る。このような条件を満たすことにより、電極間の電圧が特別高圧(7000V超)に該当しない範囲で600V以上の比較的大きい電力を伝送することができる。
【0104】
以上の各実施形態において、整合回路180および280の一方または両方は、外部からの制御によってインピーダンスを変化させることが可能な構成を備えていてもよい。その場合、送電制御回路150および受電制御回路250の一方または両方は、対応する整合回路を制御することにより、当該整合回路のインピーダンスを変化させる。そのような制御により、前述の条件|X1-X/2|<0.5X、|X2-X/2|<0.5X、|R1-X/2|<0.5X、および|R2-X/2|<0.5Xの少なくとも1つが満たされるようにしてもよい。
【0105】
図19は、外部からの制御によってインピーダンスを変化させることが可能な整合回路180および280の一例を示す図である。この例における整合回路180および280の各々は、複数のキャパシタ、インダクタ、および抵抗素子と、それらに接続された複数のスイッチとを備える。送電制御回路150は、整合回路180における各スイッチの開閉を制御する。受電制御回路250は、整合回路280における各スイッチの開閉を制御する。これにより、整合回路180および280の各々のインピーダンスの抵抗成分およびリアクタンス成分を調整することができる。整合回路180および280は、少なくとも1つの可変抵抗素子、可変キャパシタンス素子、または可変インダクタンス素子を含んでいてもよい。そのような、抵抗値またはリアクタンス値を変化させることが可能な素子も、送電制御回路150または受電制御回路250によって制御され得る。そのような可変抵抗素子および/または可変リアクタンス素子を用いることにより、スイッチを省略してもよい。送電側の整合回路180と受電側の整合回路280の一方のみがスイッチ、可変抵抗素子、および/または可変リアクタンス素子によるインピーダンスの調整が可能であってもよい。また、図19に示す構成は一例にすぎず、各整合回路の構成は任意に設計され得る。
【0106】
以上の実施形態では、送電電極120は、地面または床面に敷設されているが、送電電極120は、壁などの側面、または天井などの上面に敷設されていてもよい。送電電極120が敷設される場所および向きに応じて、移動体10の受電電極220の配置および向きが決定される。
【0107】
図20Aは、送電電極120が壁などの側面に敷設された例を示している。この例では、受電電極220は、移動体10の側方に配置される。図20Bは、送電電極120が天井に敷設された例を示している。この例では、受電電極220は、移動体10の天板に配置される。これらの例のように、送電電極120および受電電極220の配置には様々なバリエーションがある。
【0108】
本開示の実施形態における無線電力伝送システムは、前述のように、例えば倉庫または工場内における物品の搬送用のシステムとして利用され得る。移動体10は、物品を積載する荷台を有し、工場内を自律的に移動して物品を必要な場所に搬送する台車として機能する。しかし、本開示における無線電力伝送システムおよび移動体は、このような用途に限らず、他の様々な用途に利用され得る。例えば、移動体は、AGVに限らず、他の産業機械、サービスロボット、電気自動車、マルチコプター(ドローン)等であってもよい。無線電力伝送システムは、工場または倉庫に限らず、例えば、店舗、病院、家庭、道路、滑走路その他のあらゆる場所で利用され得る。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本開示の技術は、電力によって駆動される任意の機器に利用できる。例えば、無人搬送車(AGV)などの電動の移動体に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0110】
10 移動体
30 床面
50 電源
100 送電装置
110 送電回路
120 送電電極
130 AC-DCコンバータ回路
160 インバータ回路
180 整合回路
200 受電装置
210 受電回路
220 受電電極
260 整流回路
280 整合回路
300 負荷
310 充放電制御回路
320 電池
330 モータ
400 電極部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12A
図12B
図13A
図13B
図13C
図14A
図14B
図15A
図15B
図16A
図16B
図17
図18A
図18B
図18C
図19
図20A
図20B