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特許7496532無線電力伝送システム、送電装置、受電装置、および移動体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-30
(45)【発行日】2024-06-07
(54)【発明の名称】無線電力伝送システム、送電装置、受電装置、および移動体
(51)【国際特許分類】
   H02J 50/05 20160101AFI20240531BHJP
   H02J 50/80 20160101ALI20240531BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20240531BHJP
   B60L 53/122 20190101ALI20240531BHJP
   B60M 7/00 20060101ALI20240531BHJP
   B60L 5/00 20060101ALI20240531BHJP
【FI】
H02J50/05
H02J50/80
H02J7/00 301D
H02J7/00 P
H02J7/00 B
B60L53/122
B60M7/00 X
B60L5/00 B
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021502342
(86)(22)【出願日】2020-02-26
(86)【国際出願番号】 JP2020007863
(87)【国際公開番号】W WO2020175584
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2022-10-12
(31)【優先権主張番号】P 2019036691
(32)【優先日】2019-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101683
【弁理士】
【氏名又は名称】奥田 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100155000
【弁理士】
【氏名又は名称】喜多 修市
(74)【代理人】
【識別番号】100180529
【弁理士】
【氏名又は名称】梶谷 美道
(74)【代理人】
【識別番号】100125922
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 章子
(74)【代理人】
【識別番号】100188813
【弁理士】
【氏名又は名称】川喜田 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100184985
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 悠
(74)【代理人】
【識別番号】100202197
【弁理士】
【氏名又は名称】村瀬 成康
(74)【代理人】
【識別番号】100218981
【弁理士】
【氏名又は名称】武田 寛之
(72)【発明者】
【氏名】細井 浩行
(72)【発明者】
【氏名】山本 浩司
【審査官】清水 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-220853(JP,A)
【文献】特開2018-108012(JP,A)
【文献】特開2016-015808(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0361639(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 50/00 - 50/90
H02J 7/00 - 7/12
H02J 7/34 - 7/36
B60L 53/122
B60M 7/00
B60L 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
送電装置と、
受電装置と、
を備え、
前記送電装置は、
2つの送電電極と、
前記2つの送電電極に交流電力を供給する送電回路と、
を備え、
前記受電装置は、
前記2つの送電電極にそれぞれ対向して前記2つの送電電極から前記交流電力を受け取る2つの受電電極と、
前記2つの受電電極が受け取った前記交流電力を直流電力に変換して出力する受電回路と、
前記直流電力によって充電される蓄電装置と前記受電回路との間に配置され、前記蓄電装置の充電および放電を制御する充放電制御回路と、
前記2つの受電電極と前記蓄電装置との間の伝送路に配置され、前記充放電制御回路によって検知された前記蓄電装置の充電状態に応じて入力インピーダンスを変化させるインピーダンス調整回路と、
を備え、
前記送電回路は、送電中に前記入力インピーダンスの変化に起因して生じた電圧および電流の少なくとも一方の変化に応答して、前記交流電力の供給を停止し、
前記インピーダンス調整回路は、前記蓄電装置の充電状態に応じて、前記入力インピーダンスを異なる3つ以上の値に設定する、
無線電力伝送システム。
【請求項2】
送電装置と、
受電装置と、
を備え、
前記送電装置は、
2つの送電電極と、
前記2つの送電電極に交流電力を供給する送電回路と、
を備え、
前記受電装置は、
前記2つの送電電極にそれぞれ対向して前記2つの送電電極から前記交流電力を受け取る2つの受電電極と、
前記2つの受電電極が受け取った前記交流電力を直流電力に変換して出力する受電回路と、
前記直流電力によって充電される蓄電装置と前記受電回路との間に配置され、前記蓄電装置の充電および放電を制御する充放電制御回路と、
前記2つの受電電極と前記蓄電装置との間の伝送路に配置され、前記充放電制御回路によって検知された前記蓄電装置の充電状態に応じて入力インピーダンスを変化させるインピーダンス調整回路と、
を備え、
前記送電回路は、送電中に前記入力インピーダンスの変化に起因して生じた電圧および電流の少なくとも一方の変化に応答して、前記交流電力の供給を停止し、
前記インピーダンス調整回路は、前記入力インピーダンスを変化させた後、所定時間経過後、変化前の前記入力インピーダンスの値に戻す、
無線電力伝送システム。
【請求項3】
前記送電回路は、前記交流電力を出力するインバータ回路を含み、送電中に前記入力インピーダンスの変化に起因して生じた前記インバータ回路の出力電圧および出力電流の変化に応答して、前記インバータ回路を停止させる、請求項1または2に記載の無線電力伝送システム。
【請求項4】
前記送電回路は、送電中に前記入力インピーダンスの変化に起因して生じた前記出力電圧と前記出力電流との位相差の変化に応答して、前記インバータ回路を停止させる、請求項に記載の無線電力伝送システム。
【請求項5】
前記インピーダンス調整回路は、前記蓄電装置の蓄電量が予め設定された閾値に達したとき、前記入力インピーダンスを変化させる、請求項1からのいずれかに記載の無線電力伝送システム。
【請求項6】
前記インピーダンス調整回路は、前記蓄電装置の蓄電量が第1の閾値に達したとき、前記入力インピーダンスを第1の値に設定し、前記蓄電量が前記第1の閾値よりも大きい第2の閾値に達したとき、前記入力インピーダンスを前記第1の値とは異なる第2の値に設定する、請求項1から5のいずれかに記載の無線電力伝送システム。
【請求項7】
前記インピーダンス調整回路は、前記入力インピーダンスを変化させた後、所定時間経過後、変化前の前記入力インピーダンスの値に戻す、請求項に記載の無線電力伝送システム。
【請求項8】
前記受電回路は、前記2つの受電電極が受け取った前記交流電力を直流電力に変換する整流回路を含み、
前記インピーダンス調整回路は、前記整流回路と前記蓄電装置との間に配置されたDC/DCコンバータ回路を含み、前記DC/DCコンバータ回路に含まれるスイッチング素子のオン時間比率を変化させることにより、前記入力インピーダンスを変化させる、請求項1から7のいずれかに記載の無線電力伝送システム。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の無線電力伝送システムにおける送電装置。
【請求項10】
請求項1から8のいずれかに記載の無線電力伝送システムにおける受電装置。
【請求項11】
請求項10に記載の受電装置と、
前記蓄電装置と、
駆動用電気モータと、
を備える移動体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、無線電力伝送システム、送電装置、受電装置、および移動体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話機および電気自動車などの移動性を伴う機器に、無線すなわち非接触で電力を伝送する無線電力伝送技術の開発が進められている。無線電力伝送技術には、電磁誘導方式および電界結合方式などの方式がある。このうち、電界結合方式による無線電力伝送システムは、一対の送電電極と一対の受電電極とが対向した状態で、一対の送電電極から一対の受電電極に無線で交流電力が伝送される。このような電界結合方式による無線電力伝送システムは、例えば路面または床面に設けられた一対の送電電極から負荷に電力を伝送する用途で用いられ得る。負荷は、例えば可動ロボット等の移動体が有するモータまたはバッテリであり得る。特許文献1は、そのような電界結合方式による無線電力伝送システムの一例を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2015/037526号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、蓄電装置が満充電になる前に送電を適切に停止することを可能にする無線電力伝送技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様に係る無線電力伝送システムは、送電装置と、受電装置と、を備える。前記送電装置は、2つの送電電極と、前記2つの送電電極に交流電力を供給する送電回路と、を備える。前記受電装置は、前記2つの送電電極にそれぞれ対向して前記2つの送電電極から前記交流電力を受け取る2つの受電電極と、前記2つの受電電極が受け取った前記交流電力を直流電力に変換して出力する受電回路と、前記直流電力によって充電される蓄電装置と前記受電回路との間に配置され、前記蓄電装置の充電および放電を制御する充放電制御回路と、前記2つの受電電極と前記蓄電装置との間の伝送路に配置され、前記充放電制御回路によって検知された前記蓄電装置の充電状態に応じて入力インピーダンスを変化させるインピーダンス調整回路と、を備える。前記送電回路は、送電中に前記入力インピーダンスの変化に起因して生じた電圧および電流の少なくとも一方の変化に応答して、前記交流電力の供給を停止する。
【0006】
本開示の包括的または具体的な態様は、システム、装置、方法、集積回路、コンピュータプログラム、または記録媒体で実現されてもよい。あるいは、システム、装置、方法、集積回路、コンピュータプログラムおよび記録媒体の任意な組み合わせで実現されてもよい。
【発明の効果】
【0007】
本開示の技術により、蓄電装置が満充電になる前に送電を適切に停止することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】電界結合方式による無線電力伝送システムの一例を模式的に示す図である。
図2】無線電力伝送システムの概略的な構成を示す図である。
図3】電界結合方式による無線電力伝送システムの他の例を模式的に示す図である。
図4図3に示す無線電力伝送システムの概略的な構成を示す図である。
図5】本開示の例示的な実施形態による無線電力伝送システムの構成を示すブロック図である。
図6】送電回路および受電回路のより具体的な構成例を示す図である。
図7A】インバータ回路の構成例を模式的に示す図である。
図7B】整流回路の構成例を模式的に示す図である。
図8】充放電制御回路およびインピーダンス調整回路の構成例を示す図である。
図9】DC/DCコンバータの回路構成の一例を示す図である。
図10A】スイッチング素子が回路に直列に接続されたスイッチデバイスを示す図である。
図10B】スイッチング素子が回路に並列に接続されたスイッチデバイスを示す図である。
図11】インバータ回路の出力電圧Vswと出力電流Iresの波形の一例を示す図である。
図12】検出器および送電制御回路の構成例を示す図である。
図13】充放電制御回路の動作の例を示すフローチャートである。
図14】インピーダンス調整回路の動作の例を示すフローチャートである。
図15】送電制御回路の動作の例を示すフローチャートである。
図16】充放電制御回路の動作の変形例を示すフローチャートである。
図17A】インピーダンス調整回路が受電電極と受電回路との間に配置されている例を示す図である。
図17B】インピーダンス調整回路が整合回路と整流回路との間に配置されている例を示す図である。
図17C】インピーダンス調整回路が整流回路と充放電制御回路との間に配置されている例を示す図である。
図17D】インピーダンス調整回路が充放電制御回路と電池との間に配置されている例を示す図である。
図18A】送電電極が壁などの側面に敷設された例を示す図である。
図18B】送電電極が天井に敷設された例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(本開示の基礎となった知見)
本開示の実施形態を説明する前に、本開示の基礎となった知見を説明する。
【0010】
図1は、本発明者らが開発を進めている電界結合方式による無線電力伝送システムの一例を模式的に示す図である。図示されている無線電力伝送システムは、例えば工場または倉庫において物品の搬送に用いられる移動体10に無線で電力を伝送するシステムである。この例における移動体10は、無人搬送車(Automated Guided Vehicle:AGV)である。このシステムでは、床面30に平板状の一対の送電電極120a、120bが配置されている。一対の送電電極120a、120bは、一方向に延びた形状を有する。一対の送電電極120a、120bには、不図示の送電回路から交流電力が供給される。
【0011】
移動体10は、一対の送電電極120a、120bに対向する不図示の一対の受電電極を備えている。移動体10は、送電電極120a、120bから伝送された交流電力を、一対の受電電極によって受け取る。受け取られた電力は、移動体10が備えるモータ、二次電池、または蓄電用のキャパシタなどの負荷に供給される。これにより、移動体10の駆動または充電が行われる。
【0012】
図1には、互いに直交するX、Y、Z方向を示すXYZ座標が示されている。以下の説明では、図示されているXYZ座標を用いる。送電電極120a、120bが延びる方向をY方向、送電電極120a、120bの表面に垂直な方向をZ方向、Y方向およびZ方向に垂直な方向をX方向とする。なお、本願の図面に示される構造物の向きは、説明のわかりやすさを考慮して設定されており、本開示の実施形態が現実に実施されるときの向きをなんら制限するものではない。また、図面に示されている構造物の全体または一部分の形状および大きさも、現実の形状および大きさを制限するものではない。
【0013】
図2は、図1に示す無線電力伝送システムの概略的な構成を示す図である。無線電力伝送システムは、送電装置100と、移動体10とを備える。送電装置100は、一対の送電電極120a、120bと、送電電極120a、120bに交流電力を供給する送電回路110とを備える。送電回路110は、例えば、インバータ回路を含む交流出力回路である。送電回路110は、不図示の電源から供給された直流電力を、交流電力に変換して一対の送電電極120a、120bに出力する。移動体10は、受電装置200と、蓄電装置310とを備えている。受電装置200は、一対の受電電極220a、220bと、受電回路210と、充放電制御回路290とを備えている。蓄電装置310は、例えば二次電池または蓄電用のキャパシタなどの、電力を蓄えるデバイスである。受電回路210は、受電電極220a、220bが受け取った交流電力を、蓄電装置310が要求する電圧、例えば所定の電圧の直流電圧に変換して出力する。受電回路210は、例えば整流回路およびインピーダンス整合回路などの、各種の回路を含み得る。充放電制御回路290は、蓄電装置310の充電および放電を制御する回路である。図2には示されていないが、移動体10は、駆動用の電気モータなどの他の負荷も備える。一対の送電電極120a、120bと、一対の受電電極220a、220bとの間の電界結合により、両者が対向した状態で電力が無線で伝送される。
【0014】
送電電極120a、120bおよび受電電極220a、220bの各々は、2つ以上の部分に分割されていてもよい。例えば、図3および図4に示すような構成を採用してもよい。
【0015】
図3および図4は、送電電極120a、120bおよび受電電極220a、220bの各々が2つの部分に分割された無線電力伝送システムの例を示す図である。この例では、送電装置100は、2つの第1の送電電極120aと、2つの第2の送電電極120bとを備える。第1の送電電極120aおよび第2の送電電極120bは、交互に並んでいる。受電装置200も同様に、2つの第1の受電電極220aと、2つの第2の受電電極220bとを備える。2つの第1の受電電極220aおよび2つの第2の受電電極220bは、交互に並んでいる。電力伝送時には、2つの第1の受電電極220aは、2つの第1の送電電極120aに対向し、2つの第2の受電電極220bは、2つの第2の送電電極120bにそれぞれ対向する。送電回路110は、交流電力を出力する2つの端子を備えている。一方の端子は、2つの第1の送電電極120aに接続され、他方の端子は、2つの第2の送電電極120bに接続される。電力伝送の際、送電回路110は、2つの第1の送電電極120aに第1の電圧を印加し、2つの第2の送電電極120bに、第1の電圧とは逆の位相の第2の電圧を印加する。これにより、4つの送電電極を含む送電電極群120と4つの受電電極を含む受電電極群220との間の電界結合によって電力が無線で伝送される。このような構成によれば、隣り合う任意の2つの送電電極の境界上の漏洩電界を抑制する効果を得ることができる。このように、送電装置100および受電装置200の各々において、送電または受電を行う電極の数は2個に限定されない。
【0016】
以下の実施形態では、図1および図2に示すように、送電装置100が2つの送電電極を備え、受電装置200が2つの受電電極を備えた構成を主に説明する。以下の各実施形態において、各電極は、図3および図4に例示するように、複数の部分に分割されていてもよい。いずれの場合も、ある瞬間に第1の電圧が印加される電極と、第1の電圧とは逆の位相の第2の電圧が印加される電極とが交互に並ぶように配置される。ここで「逆の位相」とは、位相差が180度である場合に限らず、位相差が90度から270度の範囲内である場合を含むものと定義する。以下の説明では、送電装置100が備える複数の送電電極を区別せずに「送電電極120」と称し、受電装置200が備える複数の受電電極を区別せずに「受電電極220」と称する。
【0017】
上記のような無線電力伝送システムによれば、移動体10は、送電電極120に沿って移動しながら、無線で電力を受け取ることができる。移動体10は、送電電極120と受電電極220とが近接して対向した状態を保ちながら、送電電極120に沿って移動することができる。これにより、移動体10は、例えばバッテリまたはキャパシタ等の蓄電装置310を充電しながら移動することができる。
【0018】
このような無線電力伝送システムにおいては、充電動作中、移動体10に搭載された蓄電装置310が満充電になった場合には、過充電を防止するために、充電動作を直ちに停止することが求められる。満充電になると、充放電制御回路290は、例えば内部のスイッチをオフにして蓄電装置310への給電を停止する。このとき、回路へのダメージを抑えるために、送電装置100は直ちに送電を停止することが求められる。この動作を実現するために、例えば、満充電になる前に、受電装置200から送電装置100に、無線通信などの方法によって通知を送り、通知を受けた送電装置100が送電を停止する、という仕組みを導入することが考えられる。
【0019】
しかし、無線通信を利用して受電装置200から送電装置100に通知を送る方法では、通信に時間を要することから、送電を直ちに停止することができないことがわかった。走行中に急速に充電することを要するシステムにおいては、例えば数秒で必要な充電を完了するために、非常に大きい電力が伝送され得る。送電停止のために通信を利用した場合、例えば数ミリ秒から数秒程度の遅延が発生するおそれがある。通信遅延が発生して送電の停止が遅れると、回路にダメージを及ぼす可能性がある。万が一、充電停止によって受電側が無負荷状態になると、伝送特性が大きく変動し、過電圧または過電流が生じるおそれがある。その結果、送電装置100および受電装置200内の回路素子が破壊される可能性がある。
【0020】
特許文献1は、送電側の電極の電圧を監視し、当該電圧の一定時間毎の変化量の絶対値が閾値を超えた場合に、電力伝送を停止する方法を開示している。しかし、この方法は、上記課題の対策にはならない。この方法では、受電装置が充電を停止して初めて送電装置がそのことを検知するので、送電停止までの間に過電圧または過電流が生じる可能性がある。さらに、この方法では、送電電極には数kVの高電圧が印加され得るため、汎用的な機器を用いて監視することができない。
【0021】
本発明者らは、以上の考察に基づき、上記課題を解決するための新たな無線電力伝送システムを検討した。その結果、本発明者らは、満充電になる前に、受電装置が入力インピーダンスを変化させ、送電装置がその変化を検知する仕組みを導入することにより、上記課題を解決できることに想到した。以下、本開示の実施形態の概要を説明する。
【0022】
本開示の一態様に係る無線電力伝送システムは、送電装置と、受電装置とを備える。前記送電装置は、2つの送電電極と、前記2つの送電電極に交流電力を供給する送電回路とを備える。前記受電装置は、前記2つの送電電極にそれぞれ対向して前記2つの送電電極から前記交流電力を受け取る2つの受電電極と、前記2つの受電電極が受け取った前記交流電力を直流電力に変換して出力する受電回路と、前記直流電力によって充電される蓄電装置と前記受電回路との間に配置され、前記蓄電装置の充電および放電を制御する充放電制御回路と、前記2つの受電電極と前記蓄電装置との間の伝送路に配置されたインピーダンス調整回路とを備える。前記インピーダンス調整回路は、前記充放電制御回路によって検知された前記蓄電装置の充電状態に応じて入力インピーダンスを変化させる。前記送電回路は、送電中に前記入力インピーダンスの変化に起因して生じた電圧および電流の少なくとも一方の変化に応答して、前記交流電力の供給を停止する。
【0023】
上記の構成によれば、前記インピーダンス調整回路は、前記充放電制御回路によって検知された前記蓄電装置の充電状態に応じて入力インピーダンスを変化させる。そして、前記送電回路は、送電中に前記入力インピーダンスの変化に起因して生じた電圧および電流の少なくとも一方の変化に応答して、前記交流電力の供給を停止する。ここで、「入力インピーダンス」は、送電装置から見た受電装置のインピーダンスを意味する。
【0024】
上記の構成により、蓄電装置が満充電の状態になる前に、送電を停止することができる。その結果、送電停止までの間に過電圧または過電流が生じることを防止でき、回路素子の破壊のリスクを低減することができる。
【0025】
前記送電回路は、前記交流電力を出力するインバータ回路を含み得る。前記送電回路は、送電中に前記入力インピーダンスの変化に起因して生じた前記インバータ回路の出力電圧および出力電流の変化に応答して、前記インバータ回路を停止させるように構成され得る。例えば、前記送電回路は、送電中に前記入力インピーダンスの変化に起因して生じた前記出力電圧と前記出力電流との位相差の変化に応答して、前記インバータ回路を停止させるように構成され得る。
【0026】
上記構成では、送電回路は、送電中に、インバータ回路の出力電圧と出力電流との位相差を監視する。当該位相差の値に基づいて、インピーダンス調整回路の入力インピーダンスの変化をより高い精度で検知することができる。
【0027】
前記インピーダンス調整回路は、前記蓄電装置の蓄電量が予め設定された閾値に達したとき、前記入力インピーダンスを変化させるように構成され得る。蓄電量は、例えば充電率(State of Charge:SOC)、すなわち現在の残容量と満充電容量との比またはその百分率で表現され得る。蓄電量は、例えば、蓄電装置に印加される電圧(電圧の実効値を意味する、以下同じ。)または蓄電装置に流入する電流の積分から推定され得る。したがって、インピーダンス調整回路は、蓄電装置の電圧または電流の積分値が予め設定された閾値に達したとき、入力インピーダンスを変化させてもよい。
【0028】
前記インピーダンス調整回路は、前記蓄電装置の充電状態に応じて、前記入力インピーダンスを異なる3つ以上の値に設定してもよい。例えば、前記インピーダンス調整回路は、前記蓄電装置の蓄電量が第1の閾値に達したとき、前記入力インピーダンスを第1の値に設定し、前記蓄電量が前記第1の閾値よりも大きい第2の閾値に達したとき、前記入力インピーダンスを前記第1の値とは異なる第2の値に設定してもよい。例えば、蓄電装置の充電率が50%に達したとき、入力インピーダンスを第1の値に変化させ、90%に達したとき、入力インピーダンスを第2の値に変化させてもよい。このような多段階のインピーダンス変化を導入することで、送電制御をより柔軟に行うことができる。
【0029】
前記インピーダンス調整回路は、前記入力インピーダンスを変化させた後、所定時間経過後、変化前の前記入力インピーダンスの値に戻してもよい。このように予め設定されたパターンで入力インピーダンスを変化させることにより、異常によるインピーダンス変化とインピーダンス調整回路によって意図的に行われたインピーダンス変化とを区別することができる。
【0030】
インピーダンス調整回路による入力インピーダンスの変化量は、例えば無線電力伝送特性の変化が過大にならない程度の量に設定され得る。その上で、所定時間で元のインピーダンスに戻すようにすれば、回路へのダメージを抑制するとともに、異常によるインピーダンス変化と明確に区別することができる。
【0031】
記受電回路は、前記2つの受電電極が受け取った前記交流電力を直流電力に変換する整流回路を含み得る。前記インピーダンス調整回路は、前記整流回路と前記蓄電装置との間に配置されたDC/DCコンバータ回路を含み得る。前記インピーダンス調整回路は、前記DC/DCコンバータ回路に含まれるスイッチング素子のオン時間比率を変化させることにより、前記入力インピーダンスを変化させることができる。DC/DCコンバータ回路を用いることにより、入力インピーダンスを微小に変化させたり、多段階に変化させたりすることが容易になる。
【0032】
本開示は、上記の無線電力伝送システムにおいて用いられる送電装置および受電装置を含む。送電装置および受電装置の各々は、単独で製造または販売され得る。
【0033】
本開示は、上記の受電装置を備える移動体も含む。移動体は、受電装置と、蓄電装置と、駆動用電気モータとを備える。移動体は、前述のAGVのような車両に限定されず、電力によって駆動される任意の可動物体を意味する。移動体には、例えば、電気モータおよび1つ以上の車輪を備える電動車両が含まれる。そのような車両は、例えば、前述のAGV、電気自動車(Electric Vehicle:EV)、または電動カートであり得る。本開示における「移動体」には、車輪を有しない可動物体も含まれる。例えば、二足歩行ロボット、マルチコプターなどの無人航空機(Unmanned Aerial Vehicle:UAV、所謂ドローン)、および有人の電動航空機も、「移動体」に含まれる。
【0034】
以下、本開示のより具体的な実施形態を説明する。ただし、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明および実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になることを避け、当業者の理解を容易にするためである。なお、発明者は、当業者が本開示を十分に理解するために添付図面および以下の説明を提供するのであって、これらによって特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。以下の説明において、同一または類似する機能を有する構成要素については、同じ参照符号を付している。
【0035】
(実施形態)
図5は、本開示の例示的な実施形態による無線電力伝送システムの構成を示すブロック図である。無線電力伝送システムは、送電装置100と、移動体10とを備える。移動体10は、受電装置200と、蓄電装置である二次電池320と、駆動用電気モータ330と、モータ制御回路340とを備える。図5には、無線電力伝送システムの外部の要素である電源20も示されている。以下、二次電池320を単に「電池320」と称し、駆動用電気モータ330を、単に「モータ330」と称することがある。
【0036】
送電装置100は、2つの送電電極120と、2つの送電電極120に交流電力を供給する送電回路110とを備える。図に示す送電装置100は、さらに、検出器190と、送電制御回路150とを備える。検出器190は、送電回路110内の電圧および電流を検出する。送電制御回路150は、検出器190の出力に基づき、送電回路110を制御する。
【0037】
受電装置200は、2つの受電電極220と、受電回路210と、インピーダンス調整回路270と、充放電制御回路290とを備える。2つの受電電極220は、2つの送電電極120にそれぞれ対向した状態で、送電電極120から電界結合によって交流電力を受け取る。受電回路210は、受電電極220が受け取った交流電力を直流電力に変換して出力する。充放電制御回路290は、二次電池320の充電状態を監視し、充電および放電を制御する。充放電制御回路290は、バッテリーマネジメントユニット(BMU)とも称される。充放電制御回路290は、過充電、過放電、過電流、高温、または低温などの状態から二次電池320のセルを保護する機能も有する。インピーダンス調整回路270は、受電回路210と充放電制御回路290との間に接続されている。インピーダンス調整回路270は、充放電制御回路290によって検知された電池320の充電状態に応じて入力インピーダンスを変化させる。
【0038】
送電回路110は、送電中にインピーダンス調整回路270の入力インピーダンスの変化に起因して生じた電圧および電流の変化に応答して、交流電力の供給を停止する。この動作は、送電制御回路150によって制御される。
【0039】
以下、各構成要素をより具体的に説明する。
【0040】
電源20は、例えば商用の交流電源であり得る。電源20は、例えば、電圧100V、周波数50Hzまたは60Hzの交流電力を出力する。送電回路110は、電源20から供給された交流電力を、より高電圧かつ高周波数の交流電力に変換して一対の送電電極120に供給する。
【0041】
二次電池320は、例えばリチウムイオン電池またはニッケル水素電池などの、充電可能な電池である。移動体10は、二次電池320に蓄えられた電力によってモータ330を駆動して移動することができる。二次電池320に代えて、蓄電用のキャパシタを用いてもよい。例えば電気二重層キャパシタまたはリチウムイオンキャパシタなどの、高容量かつ低抵抗のキャパシタを利用することができる。
【0042】
移動体10が移動すると、二次電池320の蓄電量が低下する。このため、移動を継続するためには、再充電が必要になる。そこで、移動体10は、移動中に充電量が所定の閾値を下回ると、送電装置100まで移動し、充電を行う。
【0043】
モータ330は、例えば永久磁石同期モータ、誘導モータ、ステッピングモータ、リラクタンスモータ、直流モータなどの、任意のモータであり得る。モータ330は、シャフトおよびギア等の伝達機構を介して移動体10の車輪を回転させ、移動体10を移動させる。
【0044】
モータ制御回路340は、モータ330を制御して移動体10に所望の動作を実行させる。モータ制御回路340は、モータ330の種類に応じて設計されたインバータ回路などの各種の回路を含み得る。
【0045】
本実施形態における各移動体10の筐体、送電電極120、および受電電極220のそれぞれのサイズは、特に限定されないが、例えば以下のサイズに設定され得る。各送電電極120の長さ(図1におけるY方向のサイズ)は、例えば50cm~20mの範囲内に設定され得る。各送電電極120の幅(図1におけるX方向のサイズ)は、例えば5cm~2mの範囲内に設定され得る。移動体10の筐体の進行方向および横方向におけるそれぞれのサイズは、例えば、20cm~5mの範囲内に設定され得る。各受電電極220の長さは、例えば5cm~2mの範囲内に設定され得る。各受電電極220aの幅は、例えば2cm~2mの範囲内に設定され得る。2つの送電電極間のギャップ、および2つの受電電極間のギャップは、例えば1mm~40cmの範囲内に設定され得る。但し、これらの数値範囲に限定されない。
【0046】
図6は、送電回路110および受電回路210のより具体的な構成例を示す図である。送電回路110は、AC/DCコンバータ回路140と、DC/ACインバータ回路160と、整合回路180とを含む。以下の説明では、AC/DCコンバータ回路140を単に「コンバータ140」と称し、DC/ACインバータ回路160を単に「インバータ160」と称することがある。
【0047】
コンバータ140は、交流電源20に接続される。コンバータ140は、交流電源20から出力された交流電力を直流電力に変換して出力する。インバータ160は、コンバータ140に接続され、コンバータ140から出力された直流電力を、比較的高い周波数の交流電力に変換して出力する。整合回路180は、インバータ160と送電電極120との間に接続され、インバータ160と送電電極120とのインピーダンスを整合させる。送電電極120は、整合回路180から出力された交流電力を空間に送出する。受電電極220は、電界結合によって送電電極120から送出された交流電力の少なくとも一部を受け取る。整合回路280は、受電電極220と整流回路260との間に接続され、受電電極220と整流回路260とのインピーダンスを整合させる。整流回路260は、整合回路280から出力された交流電力を直流電力に変換して出力する。整流回路260から出力された直流電力は、インピーダンス調整回路270に送られる。
【0048】
図示される例では、送電装置100における整合回路180は、インバータ160に接続された直列共振回路130sと、送電電極120に接続され、直列共振回路130sと誘導結合する並列共振回路140pとを含む。直列共振回路130sは、第1のコイルL1と第1のキャパシタC1とが直列に接続された構成を有する。並列共振回路140pは、第2のコイルL2と第2のキャパシタC2とが並列に接続された構成を有する。第1のコイルL1と第2のコイルL2とは、所定の結合係数で結合する変圧器を構成する。第1のコイルL1と第2のコイルL2との巻数比は、所望の昇圧比を実現する値に設定される。整合回路180は、インバータ160から出力される数十から数百V程度の電圧を、例えば数kV程度の電圧に昇圧する。
【0049】
受電装置200における整合回路280は、受電電極220に接続された並列共振回路230pと、整流回路260に接続され、並列共振回路230pと誘導結合する直列共振回路240sとを有する。並列共振回路230pは、第3のコイルL3と第3のキャパシタC3とが並列に接続された構成を有する。受電装置200における直列共振回路240sは、第4のコイルL4と第4のキャパシタC4とが直列に接続された構成を有する。第3のコイルL3と第4のコイルL4とは、所定の結合係数で結合する変圧器を構成する。第3のコイルL3と第4のコイルL4との巻数比は、所望の降圧比を実現する値に設定される。整合回路280は、受電電極220が受け取った数kV程度の電圧を、例えば数十から数百V程度の電圧に降圧する。
【0050】
共振回路130s、140p、230p、240sにおける各コイルは、例えば、回路基板上に形成された平面コイルもしくは積層コイル、または、銅線、リッツ線、もしくはツイスト線などを用いた巻き線コイルであり得る。共振回路130s、140p、230p、240sにおける各キャパシタには、例えばチップ形状またはリード形状を有するあらゆるタイプのキャパシタを利用できる。空気を介した2配線間の容量を各キャパシタとして機能させることも可能である。各コイルが有する自己共振特性をこれらのキャパシタの代わりに用いてもよい。
【0051】
共振回路130s、140p、230p、240sの共振周波数f0は、典型的には、電力伝送時の伝送周波数f1に一致するように設定される。共振回路130s、140p、230p、240sの各々の共振周波数f0は、伝送周波数f1に厳密に一致していなくてもよい。各々の共振周波数f0は、例えば、伝送周波数f1の50~150%程度の範囲内の値に設定されていてもよい。電力伝送の周波数f1は、例えば50Hz~300GHz、ある例では20kHz~10GHz、他の例では20kHz~20MHz、さらに他の例では80kHz~14MHzに設定され得る。
【0052】
本実施形態では、送電電極120と受電電極220との間は空隙であり、その距離は比較的長い(例えば、10mm程度)。そのため、電極間のキャパシタンスCm1、Cm2は非常に小さく、送電電極120および受電電極220のインピーダンスは、例えば数kΩ程度と非常に高い。これに対し、インバータ160および整流回路260のインピーダンスは、例えば数Ω程度と低い。本実施形態では、送電電極120および受電電極220に近い側に並列共振回路140p、230pがそれぞれ配置され、インバータ160および整流回路260に近い側に直列共振回路130s、240sがそれぞれ配置される。このような構成により、インピーダンスの整合を容易に行うことができる。直列共振回路は、共振時にインピーダンスがゼロ(0)になるため、低いインピーダンスとの整合に適している。一方、並列共振回路は、共振時にインピーダンスが無限大になるため、高いインピーダンスとの整合に適している。よって、図6に示す構成のように、低いインピーダンスの回路側に直列共振回路を配置し、高いインピーダンスの電極側に並列共振回路を配置することにより、インピーダンス整合を容易に実現することができる。
【0053】
なお、送電電極120と受電電極220との間の距離を短くしたり、間に誘電体を配置したりした構成では、電極のインピーダンスが低くなるため、上記のような非対称な共振回路の構成にする必要はない。また、インピーダンス整合の問題がない場合は、整合回路180、280の一方または両方を省略してもよい。整合回路180を省略する場合、インバータ160と送電電極120とが直接接続される。整合回路280を省略する場合、整流回路260と受電電極220とが直接接続される。本明細書においては、整合回路180を設けた構成であっても、インバータ160と送電電極120とが接続されているものと解釈する。同様に、整合回路280を設けた構成であっても、整流回路260と受電電極220とが接続されているものと解釈する。
【0054】
図7Aは、インバータ160の構成例を模式的に示す図である。この例では、インバータ160は、4つのスイッチング素子を含むフルブリッジ型のインバータ回路である。各スイッチング素子は、例えばIGBTまたはMOSFET等のトランジスタスイッチであり得る。送電制御回路150は、例えば、各スイッチング素子のオン(導通)およびオフ(非導通)の状態を制御する制御信号を出力するゲートドライバと、ゲートドライバに制御信号を出力させるマイクロコントローラユニット(MCU)とを含み得る。図示されるフルブリッジ型のインバータの代わりに、ハーフブリッジ型のインバータ、または、E級などの発振回路を用いてもよい。
【0055】
図7Aに示すように、インバータ160から出力される電流および電圧を、それぞれIresおよびVswとする。電流Iresおよび電圧Vswは、図5に示す検出器190によって検出される。検出器190は、送電動作が行われている間、電流Iresおよび電圧Vswを監視する。
【0056】
図7Bは、整流回路260の構成例を模式的に示す図である。この例では、整流回路260は、ダイオードブリッジと平滑コンデンサとを含む全波整流回路である。整流回路260は、他の整流器の構成を有していてもよい。整流回路260は、受け取った交流エネルギを電池320などの負荷が利用可能な直流エネルギに変換する。
【0057】
図8は、充放電制御回路290およびインピーダンス調整回路270の構成例を示す図である。この例における充放電制御回路290は、セルバランス制御器291と、アナログフロントエンドIC(AFE-IC)292と、サーミスタ293と、電流検出抵抗294と、MCU295と、通信用ドライバIC296と、保護FET297とを含む。セルバランス制御器291は、複数のセルを含む二次電池320のそれぞれのセルの蓄電エネルギーを均一化する回路である。AFE-IC292は、サーミスタ293によって計測されたセル温度と、電流検出抵抗294が検出した電流とに基づいて、セルバランス制御器291および保護FET297を制御する回路である。MCU295は、通信用ドライバIC296を介した他の回路との通信を制御する回路である。
【0058】
この例におけるインピーダンス調整回路270は、DC/DCコンバータ回路272と、MCU274とを含む。以下、DC/DCコンバータ回路272を、単に「DC/DCコンバータ272」と称する。MCU274は、DC/DCコンバータ272を制御する回路である。MCU274は、DC/DCコンバータ272に含まれるスイッチング素子のオン時間比率を変化させることにより、DC/DCコンバータ272のインピーダンスを変化させる。ここで、「オン時間比率」は、1周期あたりにオンに設定される時間、すなわちデューティ比を意味する。スイッチング素子のオン/オフを制御することにより、送電側から見たインピーダンス調整回路270の入力インピーダンスを変化させ、システムの電力伝送状態を変化させることができる。
【0059】
図9は、DC/DCコンバータ272の回路構成の一例を示す図である。この例におけるDC/DCコンバータ272は、2つのスイッチSW1、SW2と、2つのコンデンサと、リアクトルとを含む降圧コンバータ(バックコンバータ)である。ハイサイドスイッチSW1のデューティ制御により、入力インピーダンスを微調整することが可能である。伝送状態が大きく変動しない範囲でインピーダンスを調整することができるので、伝送状態の変動に伴う回路破壊を防止することができる。
【0060】
DC/DCコンバータ272に代えて、例えば図10Aまたは図10Bに示す構成を採用してもよい。図10Aは、スイッチング素子が回路に直列に接続されたスイッチデバイス273Aを示している。図10Bは、スイッチング素子が回路に並列に接続されたスイッチデバイス273Bを示している。これらの構成によっても、スイッチング素子のオン/オフの制御により、ショートとオープンの2状態を切り替え、入力インピーダンスを変化させることができる。図10Aおよび図10Bの構成では、伝送状態が大きく変動し易いという難点はあるものの、より簡単な構成でインピーダンスの調整が可能であるという利点がある。
【0061】
インピーダンス調整回路270が入力インピーダンスを変化させると、送電回路110内の電流および電圧の状態が変化する。送電装置100は、その変化に基づいて、入力インピーダンスの変化を検知することができる。例えば図9に示すハイサイドスイッチSW1がオンからオフに変化し、オープンの状態になると、無線電力伝送の状態が変化し、送電回路110内のインバータ160の出力電圧と出力電流の位相差が変化する。具体的には、オープンの状態では、有効電力と無効電力とが等しくなる位相差90°になる。図9に示すような降圧DC/DCコンバータ272を用いてインピーダンスを微小に調整すれば、90°以下の範囲で位相差を自由に変化させることができる。
【0062】
図11は、送電回路110内のインバータ160の出力電圧Vswと出力電流Iresの波形の一例を示す図である。インピーダンス調整回路270がインピーダンスを変化させると、図11に示すように、電圧反転タイミングtvと、電流反転タイミングtiとの差Δtが変化する。送電制御回路150は、この時間差Δtすなわち位相差を一定時間毎に計算することにより、入力インピーダンスの変化を検知することができる。
【0063】
図12は、検出器190および送電制御回路150の構成例を示す図である。この例における検出器190は、出力電圧Vswを検出し小信号の電圧信号に変換する検出回路191と、電圧位相検出用のコンパレータ192と、出力電流Iresを検出し小信号の電圧信号に変換する検出回路193と、電流位相検出用のコンパレータ194とを含む。送電制御回路150は、MCU154を含む。コンパレータ192は、インバータ160の出力電圧Vswを、分圧抵抗によって小さい信号の交流パルスに変換し、信号反転タイミングでHighとLowとを切り替えて出力する。その結果、小振幅の電圧パルスが出力される。コンパレータ194は、検出回路193から出力された電流波形の正負を検出し、負の状態をHigh状態にして小振幅の電流パルスとして出力する。電圧パルスおよび電流パルスは、MCU154に入力される。MCU154は、コンパレータ192から出力された電圧パルスと、コンパレータ194から出力された電流パルスのそれぞれのエッジを検出してそれぞれの位相を検出する。続いて、両者の位相差を計算する。位相差が所定の範囲内にある場合には、ゲートブロック指令を発信する。ゲートブロック指令により、インバータ160の各スイッチング素子がオフになり、送電が停止される。MCU154は、送電停止後、送電再開の指示を受けたときには、再起動信号を発信してもよい。なお、上記の位相差の検出方法は一例に過ぎない。例えば、出力電流Iresが小さい場合は、差動増幅回路を用いて出力電流Iresを増幅してコンパレータ194に入力してもよい。
【0064】
次に、図13から図15を参照しながら、本実施形態による満充電前に送電を停止する動作の例を説明する。
【0065】
図13は、充放電制御回路290の動作の例を示すフローチャートである。この例における充放電制御回路290は、充電中、電池320の充電率(SOC)を常時監視している。充放電制御回路290は、SOCが閾値以上か否かを所定の時間間隔で判定する(ステップS101)。閾値は、例えば100%よりもわずかに小さい値に設定され得る。SOCが閾値以上である場合、充放電制御回路290は、インピーダンス調整回路270に、インピーダンスを変更すべき旨の指令を発信する(ステップS102)。指令の発信は、例えば図8に示すMCU295が、通信用ドライバIC296を介してインピーダンス調整回路270のMCU274に送信することによって行われ得る。
【0066】
図14は、インピーダンス調整回路270の動作の例を示すフローチャートである。この例におけるインピーダンス調整回路270は、動作中、インピーダンス変更指令を受信したかを判定する(ステップS111)。この判定がYesである場合、インピーダンス調整回路270は、入力インピーダンスを予め設定された量だけ変化させる(ステップS112)。この動作は、例えば、図8に示すMCU274が、DC/DCコンバータ272におけるスイッチング素子(例えば図9のハイサイドスイッチSW1)のオン時間比を一定量変化させることによって行われ得る。インピーダンスの変化量は、任意の値に設定してよいが、例えば、変化前の値からの変化率が入力インピーダンスが大きくなる方向に200%未満になるように設定され得る。インピーダンスの変化量をこのように比較的小さい値に設定することにより、電力伝送特性の変化が過大にならないようにすることができる。次に、インピーダンス調整回路270は、所定時間が経過するまでそのインピーダンス状態を維持する(ステップS113)。所定時間経過後、インピーダンス調整回路270は、入力インピーダンスを元の値に戻す(ステップS114)。
【0067】
図15は、送電装置100における送電制御回路150の動作の例を示すフローチャートである。この例における送電制御回路150は、動作中、インバータ160の出力電圧と出力電流とを検出器190から所定時間ごとに取得する(ステップS121)。次に、送電制御回路150は、取得した出力電圧と出力電流の位相差を算出する(ステップS122)。位相差は、例えば図11および図12を参照して説明した方法で行われ得る。続いて、送電制御回路150は、位相差が所定の範囲内にあるか否かを判定する(ステップS123)。この判定がNoの場合は、ステップS121に戻る。この判定がYesの場合は、送電制御回路150は、インバータ160の出力を停止する(ステップS124)。
【0068】
以上の動作により、電池320が満充電になる前に、送電を速やかに停止することができる。本実施形態の方法によれば、充放電制御回路290がインピーダンスの変更を決定してから、例えば数マイクロ秒程度の短時間で送電制御回路150がインピーダンスの変化を検知し、送電を停止することができる。このため、充電停止後に大電力の送電が継続されて回路素子を破壊するなどのリスクを大きく低減することができる。
【0069】
さらに、図14の例のように、入力インピーダンスの変化量と、変化の持続時間を予め設定しておくことにより、異常によって生じたインピーダンス変化と、充電状態を通知するためのインピーダンス変化との区別が容易になる。入力インピーダンスの変化量と、変化の持続時間を、電力伝送特性の変化が過大にならない程度の量に設定すれば、回路へのダメージを最小限に抑えることができる。
【0070】
本実施形態では、送電回路110は、インバータ160の出力電圧と出力電流との位相差の変化に応答してインバータ160を停止させる。しかし、このような動作に限定されない。例えば、インバータ160の出力電圧および出力電流の少なくとも一方の変化そのものに基づいてインピーダンスの変化を検知してもよい。しかし、上記の位相差の変化に基づく方法によれば、出力電圧のみ、または出力電流のみに基づいてインピーダンスの変化を検知する方法と比較して、誤検知を低減することができる。
【0071】
インピーダンス調整回路270は、電池320の充電状態に応じて、入力インピーダンスを異なる3つ以上の値に設定してもよい。以下、その場合の動作の一例を説明する。
【0072】
図16は、充放電制御回路290の動作の変形例を示すフローチャートである。充放電制御回路290は、図13に示す動作に代えて、図16に示す動作を実行してもよい。図16の例では、充放電制御回路290は、充電を開始した後、電池320の充電状態を監視し、SOCが第1の閾値以上であるか否かを一定時間毎に判定する(ステップS201)。第1の閾値は、例えば50%のように、100%よりも大幅に小さい値であってもよい。ステップS201での判定がYesの場合、充放電制御回路290は、インピーダンス調整回路270に、入力インピーダンスを第1の値に変更すべき旨の指令を発信する(ステップS202)。インピーダンス調整回路270は、この指令を受けて、入力インピーダンスを第1の値に変更する。第1の値は任意の値に設定され得るが、例えば、入力インピーダンスの変化前の値からの変化率が入力インピーダンスが大きくなる方向に200%未満になるように設定され得る。このように比較的小さい変化率に設定することにより、伝送特性の急変動に伴う回路素子へのダメージを小さくすることができる。次に、充放電制御回路290は、再び電池320の充電状態を監視し、SOCが第2の閾値以上であるかを一定時間毎に判定する(ステップS203)。第2の閾値は、第1の閾値よりも大きい値に設定される。第2の閾値は、例えば90%などの、満充電に近い値に設定され得る。ステップS203での判定がYesの場合、充放電制御回路290は、入力インピーダンス調整回路270に、入力インピーダンスを第2の値に変更すべき旨の指令を発信する(ステップS204)。インピーダンス調整回路270は、この指令を受けて、入力インピーダンスを第2の値に変更する。第2の値は、第1の値とは異なる任意の値に設定され得る。伝送特性の急激な変動を避けるために、第2の値も、例えば、入力インピーダンスの変化前の値からの変化率が入力インピーダンスが大きくなる方向に300%未満になるように設定され得る。
【0073】
図16の例では、インピーダンス調整回路270は、電池320のSOCが第1の閾値に達したとき、入力インピーダンスを、初期値とは異なる第1の値に設定する。送電制御回路150は、この変化を検知することにより、SOCが第1の閾値に達したことを検知できる。さらに、インピーダンス調整回路270は、SOCが第1の閾値よりも大きい第2の閾値に達したとき、入力インピーダンスを第1の値とは異なる第2の値に設定する。送電制御回路150は、この変化を検知することにより、SOCが第2の閾値に達したことを検知できる。この例によれば、送電回路110は、送電中に電池320の充電状態を2段階にわたって把握することができる。このため、より柔軟な送電制御が可能である。
【0074】
図17Aから図17Dは、インピーダンス調整回路270の配置のバリエーションを示す図である。図17Aは、インピーダンス調整回路270が受電電極220と受電回路210との間に配置されている例を示している。図17Bは、インピーダンス調整回路270が受電回路210内の整合回路280と整流回路260との間に配置されている例を示している。図17Cは、インピーダンス調整回路270が受電回路210内の整流回路260と充放電制御回路290との間に配置されている例を示している。図17Dは、インピーダンス調整回路270が充放電制御回路290と電池320との間に配置されている例を示している。このように、インピーダンス調整回路270は、2つの受電電極と電池320との間の伝送路の任意の箇所に配置され得る。しかし、上記の実施形態のように、図17Cの配置にした場合には、以下の利点がある。
・比較的低電圧の直流電圧が印加される箇所のインピーダンスを調整するだけでよいため、インピーダンス調整回路270の構成および制御を簡単にすることができる。
・充放電制御回路290による充電制御に影響を及ぼさずにインピーダンスを調整できる。
【0075】
以上の実施形態では、送電電極120は、地面に敷設されているが、送電電極120は、壁などの側面、または天井などの上面に敷設されていてもよい。送電電極120が敷設される場所および向きに応じて、移動体10の受電電極220の配置および向きが決定される。
【0076】
図18Aは、送電電極120が壁などの側面に敷設された例を示している。この例では、受電電極220は、移動体10の側方に配置される。図18Bは、送電電極120が天井に敷設された例を示している。この例では、受電電極220は、移動体10の天板に配置される。これらの例のように、送電電極120および受電電極220の配置には様々な変形が可能である。
【0077】
本開示の実施形態における無線電力伝送システムは、前述のように、工場内における物品の搬送用のシステムとして利用され得る。移動体10は、物品を積載する荷台を有し、工場内を自律的に移動して物品を必要な場所に搬送する台車として機能する。しかし、本開示における無線電力伝送システムおよび移動体は、このような用途に限らず、他の様々な用途に利用され得る。例えば、移動体は、AGVに限らず、他の産業機械、サービスロボット、電気自動車、マルチコプター(ドローン)等であってもよい。無線電力伝送システムは、工場内に限らず、例えば、店舗、病院、家庭、道路、滑走路その他のあらゆる場所で利用され得る。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本開示の技術は、電力によって駆動される任意の機器に利用できる。例えば、無人搬送車(AGV)などの電動車両に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0079】
10 移動体
20 電源
30 床面
100 送電装置
110 送電回路
120、120a、120b 送電電極
140 AC/DCコンバータ回路
150 送電制御回路
160 インバータ回路
180 整合回路
180s 直列共振回路
180p 並列共振回路
190 検出器
200 受電装置
210 受電回路
220、220a、220b 受電電極
250 受電制御回路
260 整流回路
270 インピーダンス調整回路
272 DC/DCコンバータ回路
280 整合回路
280p 並列共振回路
280s 直列共振回路
290 充放電制御回路
320 二次電池
330 電気モータ
340 モータ制御回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9
図10A
図10B
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17A
図17B
図17C
図17D
図18A
図18B