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特許7497558作物の発育ステージの予測方法及び予測装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】作物の発育ステージの予測方法及び予測装置
(51)【国際特許分類】
   A01G 7/00 20060101AFI20240604BHJP
   G06Q 50/02 20240101ALI20240604BHJP
   G06N 3/02 20060101ALI20240604BHJP
   G06Q 10/04 20230101ALI20240604BHJP
【FI】
A01G7/00 603
G06Q50/02
G06N3/02
G06Q10/04
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022041436
(22)【出願日】2022-03-16
(65)【公開番号】P2022145632
(43)【公開日】2022-10-04
【審査請求日】2023-09-28
(31)【優先権主張番号】P 2021043964
(32)【優先日】2021-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「ハイブリッド作物生育モデルと品種設計法の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】寺谷 諒
(72)【発明者】
【氏名】中川 博視
【審査官】磯田 真美
(56)【参考文献】
【文献】小野木 章雄,効率的育種のための全ゲノム情報を活用する統計遺伝学的手法に関する研究,2015年03月,p.116-150
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 7/00
G06Q 50/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータが、
第1のニューラルネットワークを用いて作物の遺伝学的情報を含む第1の情報から、DVR(Development Rate)を出力する関数を決定し、
第2のニューラルネットワークを用いて、前記作物が栽培される地域に特有の情報から前記関数の値を調節する係数を決定し、
前記係数で調整した前記関数に第1の気象条件を入力することによりDVRを算出し、
算出した前記DVRに基づいて前記作物の発育ステージを予測する、
処理を実行することを特徴とする作物の発育ステージの予測方法。
【請求項2】
コンピュータが、
第1のニューラルネットワークを用いて作物の遺伝学的情報と栽培条件の情報とを含む第1の情報から、DVR(Development Rate)を出力する関数を決定し、
決定した前記関数に第1の気象条件を入力することによりDVRを算出し、
算出した前記DVRに基づいて前記作物の発育ステージを予測する、
処理を実行することを特徴とする作物の発育ステージの予測方法。
【請求項3】
前記栽培条件の情報は、環境条件に関する情報及び栽培管理に関する情報の少なくとも一方を含むことを特徴とする請求項に記載の発育ステージの予測方法。
【請求項4】
前記関数は、パラメータを含む関数であり、
前記関数を決定する処理では、前記第1のニューラルネットワークを用いて前記第1の情報から前記パラメータを決定することを特徴とする請求項1~のいずれか一項に記載の発育ステージの予測方法。
【請求項5】
コンピュータが、
第1のニューラルネットワークを用いて作物の遺伝学的情報を含む第1の情報から、DVR(Development Rate)を出力する関数を決定し、
決定した前記関数に第1の気象条件を入力することによりDVRを算出し、
算出した前記DVRに基づいて前記作物の発育ステージを予測する、
処理を実行し、
前記関数は、出力がDVRである第3のニューラルネットワークであり、
前記関数を決定する処理では、前記第1のニューラルネットワークを用いて前記第1の情報から前記第3のニューラルネットワークに入力する潜在変数を決定することを特徴とす作物の発育ステージの予測方法。
【請求項6】
前記発育ステージを予測する処理は、前記DVRの和であるDVSを前記発育ステージを示す値として算出することにより行われ、
前記コンピュータが、
算出した前記DVSと、該DVSの実測値との誤差を前記第1のニューラルネットワークに逆伝搬させることにより、前記遺伝学的情報と前記実測値との関係を学習させることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の発育ステージの予測方法。
【請求項7】
前記遺伝学的情報は、ある遺伝子又は遺伝学的なマーカーの型が前記作物に該当するか否かを示す数値であることを特徴とする請求項1~のいずれか一項に記載の発育ステージの予測方法。
【請求項8】
前記第1の気象条件は、少なくとも気温あるいは日長のいずれかを含むことを特徴とする請求項1~のいずれか一項に記載の発育ステージの予測方法。
【請求項9】
第1のニューラルネットワークを用いて作物の遺伝学的情報を含む第1の情報から、DVR(Development Rate)を出力する関数を決定する関数決定部と、
第2のニューラルネットワークを用いて、前記作物が栽培される地域に特有の情報から前記関数の値を調節する係数を決定する係数決定部と、
前記係数で調整した前記関数に第1の気象条件を入力することによりDVRを算出するDVR算出部と、
算出した前記DVRに基づいて前記作物の発育ステージを予測する発育ステージ予測部と、
を有することを特徴とする作物の発育ステージの予測装置。
【請求項10】
第1のニューラルネットワークを用いて作物の遺伝学的情報と栽培条件の情報とを含む第1の情報から、DVR(Development Rate)を出力する関数を決定する関数決定部と、
決定した前記関数に第1の気象条件を入力することによりDVRを算出するDVR算出部と、
算出した前記DVRに基づいて前記作物の発育ステージを予測する発育ステージ予測部と、
を有することを特徴とする作物の発育ステージの予測装置。
【請求項11】
第1のニューラルネットワークを用いて作物の遺伝学的情報を含む第1の情報から、DVR(Development Rate)を出力する関数を決定する関数決定部と、
決定した前記関数に第1の気象条件を入力することによりDVRを算出するDVR算出部と、
算出した前記DVRに基づいて前記作物の発育ステージを予測する発育ステージ予測部と、
を有し、
前記関数は、出力がDVRである第3のニューラルネットワークであり、
前記関数決定部は、前記第1のニューラルネットワークを用いて前記第1の情報から前記第3のニューラルネットワークに入力する潜在変数を決定する、
ことを特徴とする作物の発育ステージの予測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作物の発育ステージの予測方法及び予測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の農業のICT(Information and Communication Technology)化に伴い、作物の発育ステージを自動的に予測してそれを作物の栽培管理に役立てたいというニーズが高まりつつある。特に、品種登録される品種数が増加傾向にある昨今において、新品種などの発育ステージの実測値を有しない品種に対しても、発育ステージ予測への対応が速やかに実施できることが望まれる。
【0003】
また、発育ステージは、作物が栽培されている圃場の気象条件や栽培条件、地球温暖化等の気象変動によっても変動し得るため、これらを考慮して適切に予測するのが好ましい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】堀江、「気象と作物の光合成, 蒸散そして生長に関するシステム生態学的研究」、農業技術研究所報告A、28:1-181、1981
【文献】堀江、中川、「イネの発育過程のモデル化と予測に関する研究: 第1報 モデルの基本構造とパラメータの推定法および出穂予測への適用」、日本作物学会紀事、59(4):687-695、1990
【文献】Loomis and Conner、Development. In “Crop ecology”、 Cambridge University Press、p.104-128、1992
【文献】Nakagawa et al.、“Flowering response of rice to photoperiod and temperature: a QTL analysis using a phenological model”、Theoretical and Applied Genetics、110(4)、778-786、2005
【文献】中野他、「ダイズ品種の発育モデルの作成と気温上昇が発育速度に及ぼす影響の広域推定」、日本作物学会紀事、84(4):408-417、2015
【文献】中園他、「コムギの発育段階の推定モデル」、日本作物学会紀事、83(3):249-259、2014
【文献】Summerfield et al.、“Phenological adaptation to cropping environment. From evaluation descriptors of times to flowering to the genetic characterization of flowering responses to photoperiod and temperature”、Euphytica、92:281-286、1996
【文献】Onogi et al.、“Toward integration of genomic selection with crop modelling:the development of an integrated approach to predicting rice heading dates”、Theoretical and Applied Genetics、129(4):805-817、2016
【文献】Yin et al.、“QTL analysis and QTL-based prediction of flowering phenology in recombinant inbred lines of barley”、Journal of Experimental Botany、56(413):967-976、2005
【文献】Yano et al.、“Hd1, a Major Photoperiod Sensitivity Quantitative Trait Locus in Rice, Is Closely Related to the Arabidopsis Flowering Time Gene CONSTANS”、Plant Cell、12(12) :2473-2484、2000
【文献】Xue et al.、“Natural variation in Ghd7 is an important regulator of heading date and yield potential in rice”、Nature Genetics、40:761-767、2008
【文献】Yoshida et al.、“A model for simulating plant N accumulation, growth and yield of diverse rice genotypes grown under different soil and climatic conditions”、Field Crops Research、117(1):122-130、2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、十分な予測精度で発育ステージを予測する方法はまだ確立されていない。
【0006】
本発明は、十分な予測精度で発育ステージを予測することが可能な作物の発育ステージの予測方法及び予測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の作物の発育ステージの予測方法は、コンピュータが、第1のニューラルネットワークを用いて作物の遺伝学的情報を含む第1の情報から、DVR(Development Rate)を出力する関数(以下、「DVR関数」と呼ぶ)を決定し、第2のニューラルネットワークを用いて、前記作物が栽培される地域に特有の情報から前記関数の値を調節する係数を決定し、前記係数で調整した前記関数に第1の気象条件を入力することによりDVRを算出し、算出した前記DVRに基づいて前記作物の発育ステージを予測する、処理を実行する方法である。
本発明の第2の作物の発育ステージの予測方法は、コンピュータが、第1のニューラルネットワークを用いて作物の遺伝学的情報と栽培条件の情報とを含む第1の情報から、DVR(Development Rate)を出力する関数を決定し、決定した前記関数に第1の気象条件を入力することによりDVRを算出し、算出した前記DVRに基づいて前記作物の発育ステージを予測する、処理を実行する方法である。
本発明の第3の作物の発育ステージの予測方法は、コンピュータが、第1のニューラルネットワークを用いて作物の遺伝学的情報を含む第1の情報から、DVR(Development Rate)を出力する関数を決定し、決定した前記関数に第1の気象条件を入力することによりDVRを算出し、算出した前記DVRに基づいて前記作物の発育ステージを予測する、処理を実行し、前記関数は、出力がDVRである第3のニューラルネットワークであり、前記関数を決定する処理では、前記第1のニューラルネットワークを用いて前記第1の情報から前記第3のニューラルネットワークに入力する潜在変数を決定する方法である。
【0008】
また、本発明の第1の発育ステージの予測装置は、第1のニューラルネットワークを用いて作物の遺伝学的情報を含む第1の情報から、DVR(Development Rate)を出力する関数を決定する関数決定部と、第2のニューラルネットワークを用いて、前記作物が栽培される地域に特有の情報から前記関数の値を調節する係数を決定する係数決定部と、前記係数で調整した前記関数に第1の気象条件を入力することによりDVRを算出するDVR算出部と、算出した前記DVRに基づいて前記作物の発育ステージを予測する発育ステージ予測部と、を有する装置である。
本発明の第2の作物の発育ステージの予測装置は、第1のニューラルネットワークを用いて作物の遺伝学的情報と栽培条件の情報とを含む第1の情報から、DVR(Development Rate)を出力する関数を決定する関数決定部と、決定した前記関数に第1の気象条件を入力することによりDVRを算出するDVR算出部と、算出した前記DVRに基づいて前記作物の発育ステージを予測する発育ステージ予測部と、を有する装置である。
本発明の第3の作物の発育ステージの予測装置は、第1のニューラルネットワークを用いて作物の遺伝学的情報を含む第1の情報から、DVR(Development Rate)を出力する関数を決定する関数決定部と、決定した前記関数に第1の気象条件を入力することによりDVRを算出するDVR算出部と、算出した前記DVRに基づいて前記作物の発育ステージを予測する発育ステージ予測部と、を有し、前記関数は、出力がDVRである第3のニューラルネットワークであり、前記関数決定部は、前記第1のニューラルネットワークを用いて前記第1の情報から前記第3のニューラルネットワークに入力する潜在変数を決定する。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、十分な予測精度で発育ステージを予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本願発明者が検討した発育ステージの予測方法について示す模式図である。
図2図2は、本願発明者が検討した発育ステージの別の予測方法について示す模式図である。
図3図3は、本願発明者が検討した発育ステージの他の予測方法について示す模式図である。
図4図4は、第1実施形態に係る作物の発育ステージの予測装置の模式図である。
図5図5は、第1実施形態に係る予測装置が実行する作物の発育ステージの予測方法の概略を示す模式図である。
図6図6は、式(12)のDVR関数を用いる場合の発育ステージの予測方法の概略を示す模式図である。
図7図7は、DVR関数のパラメータの一つであるLc(限界日長)が遺伝子のハプロタイプHd1_1、Hd1_2、…及びGhd7_1、Ghd7_2、…によってどのように変化するのかを示す図である。
図8図8は、本実施形態、比較例1、及び比較例2の各々について出穂に要する日数の実測値と予測値とを調査した結果を示す図である。
図9図9は、本実施形態に係る予測装置が実行する作物の発育ステージの別の予測方法の概略を示す模式図である。
図10図10は、第1実施形態に係る作物の発育ステージの予測装置の機能構成図である。
図11図11は、第1実施形態に係る作物の発育ステージの予測方法のフローチャートである。
図12図12は、第2実施形態に係る予測装置が実行する作物の発育ステージの予測方法の概略を示す模式図である。
図13図13は、第3実施形態に係る予測装置が実行する作物の発育ステージの予測方法の概略を示す模式図である。
図14図14は、第1~第3実施形態に係る予測装置のハードウェア構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本実施形態の説明に先立ち、本願発明者が検討した事項について説明する。
【0012】
作物の発育ステージを予測する方法としてDVR(Development Rate)関数を用いた方法がある。DVR関数は、気象条件からDVRを算出する関数であって、例えば次の式(1)で表される。
【0013】
【数1】
式(1)におけるG、A、Th、B、Lcの5個はDVR関数のパラメータであり、それぞれ以下のように定義される。なお、式(1)はイネの発育生理に関する既存研究の知見をもとに考案されたものである(非特許文献2参照)。
【0014】
・G: 出穂までの最小日数
・A: 温度係数
・Th: ある日長の下で発育速度が最大値の2分の1になる温度
・B: 日長係数
・Lc: 限界日長
このDVR関数に気象条件としてL(日長)とT(気温)とを入力することにより、その気象条件下における作物のDVRが得られる。DVR関数の形は式(1)以外にも様々なものがあるが、いずれも作物学の知識を利用することにより決定される。
【0015】
そして、例えば時系列の気象条件を用いてある時間スケールごとにDVRを求めると、以下の式(2)に従って作物の発育ステージを示すDVS(Development Stage)を算出することができる。算出されるDVSの値は、出穂期などの重要な発育ステージの予測や、出穂期に至る過程で行われる追肥などの栽培管理の適期を示す指標値としても活用することができる。
【0016】
【数2】
但し、DVRiは、作物の移植期等の基準となる時点からある時間スケールにおけるi時点のDVRである。また、DVSは基準となる時点からある時間スケールにおけるn時点の発育ステージを示す値であって、例えばDVS=1となる時点が出穂期となる。なお、時間スケールは1日を単位とすることが多いが、これに限定されず、例えば数時間や数日を単位とすることも可能である。以下では、特に断りがない限り、1日を単位とした場合を例に説明する。
【0017】
上記によれば、例えば基準日を現在とした場合に、L(日長)やT(気温)の予測値を式(1)に入力することで、現在からn日目のDVSを予測することができる。
【0018】
しかしながら、G、A、Th、B、Lc等のDVR関数のパラメータは式(2)で算出したDVSとその実測値との誤差が小さくなるように決定され、そのためには相当数の当該作物品種を実際に栽培してDVSの実測値を求める必要があり、新品種などの発育ステージの実測値を有しない品種に対応できるようになるまで長時間を要してしまう。
【0019】
このような問題を解決するために、次のようにして発育ステージを予測する方法も考えられる。
【0020】
図1は、本願発明者が検討した発育ステージの予測方法について示す模式図である。
【0021】
この方法では、気温T1、T2、…、Tn、日長L1、L2、…、Ln、及び遺伝学的情報X1_1、X1_2、…を入力とするニューラルネットワーク1を用いて、基準日からある発育ステージ(出穂日等)に至るまでの日数を予測する。このうち、気温T1、T2、…、Tnは、それぞれ基準日から1日目、2日目、…n日目の気温である。また、日長L1、L2、…、Lnは、それぞれ基準日から1日目、2日目、…n日目の日長である。
【0022】
そして、遺伝学的情報X1_1、X1_2、…は、ある遺伝子X1のハプロタイプを「0」と「1」にエンコードした情報である。例えば、ある作物がX1遺伝子の1番目のハプロタイプである場合にはX1_1=1であり、X1遺伝子の1番目のハプロタイプでない場合にはX1_1=0である。
【0023】
また、このニューラルネットワーク1における各層の重み行列は、算出された予測値とその実測値との誤差をニューラルネットワーク1に逆伝搬させることにより調整される。誤差としては、例えば次の式(3)の損失関数の値Eから算出される。
【0024】
【数3】
なお、式(3)のDiはi番目のデータについてのある発育ステージに至るまでの日数の予測値、Dobsiはi番目のデータの当該日数の実測値である。
【0025】
このような方法によれば、遺伝学的情報を入力とするニューラルネットワーク1を用いるため、新品種などの発育ステージの実測値を有しない品種であっても遺伝学的情報を有していれば、その遺伝学的情報を考慮して、ある発育ステージに至るまでの日数を算出でき、式(1)のDVR関数を用いる場合よりも短時間で発育ステージ予測に対応できると考えられる。
【0026】
しかしながら、この方法では、ニューラルネットワーク1から出力される予測結果の根拠がブラックボックスになるという問題がある。
【0027】
更に、作物学の知識を利用したDVR関数を用いていないため、算出された予測値に作物学の知識が一切反映されず、与えられた学習データのみから帰納的に推論する。そのため、モデルの学習に用いることが可能な既知の品種や地域に対する予測(内挿)の精度は高いが、学習に使用していない新品種や新たな地域に対する予測(外挿)の精度に問題がある。
【0028】
しかも、この方法で算出されるのはある発育ステージに至るまでの日数であって、そこに至るまでの途中の発育ステージを示すDVSを算出することができない。
【0029】
図2は、本願発明者が検討した発育ステージの別の予測方法について示す模式図である。
【0030】
この方法では、以下のようにステップS1とステップS2の2ステップでDVSを予測する。
【0031】
まず、ステップS1においては、気温T及び日長L等の気象条件と、品種A~Cのそれぞれの実際の栽培データとを用いて、DVRモデル2により品種A~CのそれぞれのDVR関数のパラメータを推定する。栽培データは、例えば、品種A~CのDVSの実測値等である。
【0032】
DVRモデル2は、例えば、気象条件と栽培データから式(1)のDVR関数のパラメータG、A、Th、B、Lcを推定するモデルである。
【0033】
次に、ステップS2において、ステップS1で推定したDVR関数のパラメータを教師データとして用いて、作物の遺伝学的情報とDVR関数のパラメータとの関係を機械学習のモデル3に学習させる。
【0034】
この後は、学習済のモデル3に作物の遺伝学的情報を入力することで得られるDVR関数のパラメータを式(1)のDVR関数に使用する。そして、そのDVR関数で得られたDVRiを式(2)に使用することでDVSを予測することができる。
【0035】
この方法では、図1の方法とは異なり、作物学の知識を利用したDVR関数でDVSを予測するため、そのDVSに作物学の知識を反映させることができる。
【0036】
しかしながら、ステップS1においてDVR関数のパラメータを推定するために品種ごとの栽培データが必要であるため、DVR関数のパラメータの推定精度を維持するために品種ごとにある程度の栽培データを蓄積する必要がある。
【0037】
また、ステップS1において品種ごとにDVR関数のパラメータを推定しているため、機械学習のモデル3が品種ごとのDVR関数のパラメータを過学習し易いうえに、品種間の遺伝学的な類似性を考慮したモデル3を構築するのが難しい。
【0038】
図3は、本願発明者が検討した発育ステージの別の予測方法について示す模式図である。
【0039】
この方法では、変分ベイズ法とマルコフ連鎖モンテカルロ法(MCMC)により次の式(4)のDVR関数のパラメータを推定する。
【0040】
【数4】
式(4)において、yjは、品種jのDVR関数のパラメータである。また、upは遺伝子pの効果を示すパラメータであり、xjpは品種jにおける遺伝子pの遺伝子型を示す。なお、μは全体の平均、εjは品種jの残差である。
【0041】
そして、推定したDVR関数のパラメータyjを式(2)のDVRiに代入することによりDVSを得る。
【0042】
この方法によれば、図2の方法のように2ステップの処理を行う必要がない。しかしながら、式(4)は、遺伝子型のパラメータupについての線形モデルであるため、複数の遺伝子が相互に影響し合いながら環境応答を決定するメカニズムを考慮することが難しい。
【0043】
以下、各実施形態について説明する。
【0044】
(第1実施形態)
図4は、第1実施形態に係る作物の発育ステージの予測装置の模式図である。
【0045】
この予測装置10は、PC(Personal Computer)やサーバ等のコンピュータであって、気温や日長等の気象条件と作物の遺伝学的情報とに基づいて、当該作物のDVSを予測する。以下では、遺伝学的情報として図1の例と同様にX1_1、X1_2、…を採用する。前述のように、遺伝学的情報X1_1、X1_2、…は、ある遺伝子X1のハプロタイプを「0」と「1」にエンコードした情報である。例えば、ある作物がX1遺伝子の1番目のハプロタイプである場合にはX1_1=1であり、X1遺伝子の1番目のハプロタイプでない場合にはX1_1=0である。
【0046】
更に、DVR関数は特に限定されないが、以下では前述の式(1)と同じDVR関数を使用する。
【0047】
図5は、予測装置10が実行する作物の発育ステージの予測方法の概略を示す模式図である。
【0048】
まず、予測装置10は、ニューラルネットワーク11を用いて遺伝学的情報X1_1、X1_2、…からDVR関数のパラメータG、A、Th、B、Lcを推定する。
【0049】
次いで、予測装置10は、推定したDVR関数のパラメータG、A、Th、B、Lcを含むDVR関数に日々の気温Tiと日長Liの値を入力することにより日々のDVRを推定する。
【0050】
なお、気温Tiは、移植日等の基準日からi日目の気温である。また、日長Liは、基準日からi日目の日長である。これらの値としては、例えば気象庁や国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構等の気象データを用いることができる。これにより、予測装置10は、基準日からi日目までの日々のDVRを推定することになる。
【0051】
次いで、予測装置10が、式(2)を用いることにより、日々のDVRの和をDVSとして算出する。
【0052】
この後は、算出したDVSと実測値との誤差をニューラルネットワーク11に逆伝搬させることにより、ニューラルネットワーク11にDVSの実測値と遺伝学的情報との関係を学習させる。その学習に使用する誤差としては、例えば次の式(5)の損失関数の値Eがある。
【0053】
【数5】
なお、式(5)のDVSiはi番目のデータのDVSの予測値、DVSobsiはi番目のデータのDVSの実測値である。以上により、発育ステージの予測方法の基本的な処理を終える。
【0054】
このような予測方法によれば、ニューラルネットワーク11の入力に遺伝学的情報X1_1、X1_2、…が含まれるため、遺伝学的情報を有していれば、新品種などの栽培データが無い品種の作物のDVSを算出することができる。
【0055】
しかも、作物学の知識が反映されているDVR関数を利用してDVSを算出し、かつ、ニューラルネットワークの誤差逆伝搬法を用いることで、品種間の遺伝学的な類似性を考慮できる1ステップでの処理が可能となるため、汎化性能(未知のデータに対する予測性能)が向上し、特に新品種など学習データ(栽培データ)の無い品種のDVSの予測精度を高めることができる。
【0056】
また、ニューラルネットワーク11で実現されるモデルは式(4)のような単純な線形モデルではないため、複数の遺伝子が相互に影響し合いながら環境応答を決定するメカニズムを考慮してDVSを算出でき、DVR関数のパラメータが安定する。
【0057】
更に、DVR関数を利用してDVSを算出するため、予測結果の根拠を理解しやすく、モデルの説明可能性に優れている。そのうえ、図1の方法とは異なり、途中の生育過程をDVSの値により出力することができる。
【0058】
加えて、遺伝学的情報がDVR関数の各パラメータに与える影響を推定することができる。また、一度推定されたDVR関数のパラメータは、他のモデルにも流用することができる。例えば、式(1)のDVR関数のパラメータを利用して、イネの収量等を予測するモデル(非特許文献12参照)などで活用が可能である。
【0059】
なお、DVR関数は式(1)の5パラメータの関数に限定されず、予測装置10が以下や文献等にて有効性が確認されている各DVR関数やそれらの組み合わせを用いてもよい。
【0060】
【数6】
式(6)は、6パラメータのDVR関数である。式(6)のDVS*は、日長に感応し始める発育指数である。DVS*以外のパラメータは式(1)におけるものと同一である。
【0061】
式(6)のDVR関数を用いる場合は、予測装置10は、DVR関数のパラメータとしてG、A、Th、B、Lc、DVS*の各パラメータをニューラルネットワーク11を用いて決定する。
【0062】
また、次のようなDVR関数を用いてもよい。
【0063】
【数7】
式(7)は、3パラメータのDVR関数である。式(7)におけるfとgはそれぞれ次の式(8)、(9)で定義される。
【0064】
【数8】
【0065】
【数9】
式(7)のGは、式(1)と同様に出穂までの最小日数である。また、αは気温への反応性を示すパラメータであり、βは日長への反応性を示すパラメータである。DVS1とDVS2は、いずれも生育相の転換期のDVSであって、それぞれ次のように与えられる。
【0066】
・DVS1 = 0.145 + 0.005G
・DVS2 = 0.345 + 0.005G
また、Tb、To、Tcは、いずれも気温反応の閾値である。このうち、Tbは成長下限の閾値であり、Toは最適閾値であり、Tcは成長上限の閾値である。これらの値は以下のように与えられる。
【0067】
・Tb = 8
・To = 30
・Tc = 42
一方、Lb、Lo、Lcは、いずれも日長反応の閾値である。このうち、Lbは成長下限の閾値であり、Loは最適閾値であり、Lcは成長上限の閾値である。これらの値は以下のように与えられる。
【0068】
・Lb = 0
・Lo = 10
・Lc = 24
式(7)のDVR関数を用いる場合は、予測装置10は、DVR関数のパラメータとしてG、α、βの各パラメータをニューラルネットワーク11を用いて推定する。
【0069】
また、次のようなDVR関数を用いてもよい。
【0070】
【数10】
式(10)は式(7)とは別の3パラメータのDVR関数である。Tbは基準温度(成長下限温度)である。また、Lbは限界日長の近似値であり、PTUは光熱単位である。
【0071】
式(10)のDVR関数を用いる場合は、予測装置10は、DVR関数のパラメータとしてTb、Lb、PTUの各パラメータをニューラルネットワーク11を用いて推定する。
【0072】
また、次のようなDVR関数を用いてもよい。
【0073】
【数11】
式(11)は、式(10)とは別の3パラメータのDVR関数である。aは切片であり、bは温度係数であり、cは日長係数である。
【0074】
式(11)のDVR関数を用いる場合は、予測装置10は、DVR関数のパラメータとしてa、b、cの各パラメータをニューラルネットワーク11を用いて推定する。
【0075】
また、次のようなDVR関数を用いてもよい。
【0076】
【数12】
式(12)は2パラメータのDVR関数である。Tbは基準温度(成長下限温度)であり、Tsumは有効積算気温である。
【0077】
式(12)のDVR関数を用いる場合は、予測装置10は、DVR関数のパラメータとしてTb、Tsumの各パラメータをニューラルネットワーク11を用いて推定する。
【0078】
図6は、式(12)のDVR関数を用いる場合の発育ステージの予測方法の概略を示す模式図である。
【0079】
この場合は、予測装置10が、ニューラルネットワーク11を用いることにより、遺伝学的情報X1_1、X1_2、…からDVR関数のパラメータTb、Tsumを推定する。
【0080】
そして、予測装置10は、推定したDVR関数のパラメータTb、Tsumを含む式(12)のDVR関数に日々の気温Tiを入力することにより日々のDVRを推定する。
【0081】
その後、予測装置10が、式(2)を用いることにより日々のDVRの和をDVSとして算出する。
【0082】
ところで、本実施形態では図5図6のように遺伝学的情報としてハプロタイプX1_1、X1_2、…を採用し、そのハプロタイプを入力とするニューラルネットワーク11でDVR関数のパラメータを推定する。そのため、ニューラルネットワーク11により、ハプロタイプの変化に伴うDVR関数のパラメータの変化が、確からしく推定できることが望ましい。
【0083】
図7は、DVR関数のパラメータの一つであるLc(限界日長)がハプロタイプHd1_1、Hd1_2、…及びGhd7_1、Ghd7_2、…によってどのように変化するのかを示す図である。
【0084】
なお、ここではイネを対象として、144品種における出穂期関連11遺伝子のハプロタイプと当該品種の出穂期データ(秋田県大仙市、新潟県上越市、茨城県つくば市、茨城県つくばみらい市、富山県富山市、兵庫県加西市、広島県福山市、福岡県筑後市の8地点の2004年~2017年のデータ、N=8959)を用いて、本実施形態によりDVR関数のパラメータを推定した。そして、各品種の結果をそれぞれが該当するHd1遺伝子のハプロタイプ(5種類)及びGhd7遺伝子のハプロタイプ(3種類)別に層別し、層別後のグループごとにLcの平均値を算出したものである。
【0085】
図7に示すように、Hd1、Ghd7のハプロタイプの違いによって、Lcの値に明確な違いがみられる。Hd1とGhd7はイネの日長反応性に大きな影響を与える遺伝子であることが知られており(非特許文献10、11参照)、その実態を反映した結果と考えられる。
【0086】
なお、Hd1のタイプが1や2の場合、Lcが小さくなり、4~7の場合は大きくなる傾向にある。一方で、Ghd7のタイプが2や3の場合は、Hd1のタイプの違いによるLcの変化が小さくなる(Hd1の効果が抑制される)傾向にあり、Hd1とGhd7に相互作用がみられることを示している。非線形な関係を表現できるニューラルネットワークにより、このような遺伝子間の相互作用についても考慮することが可能となる。
【0087】
よって上記のようにハプロタイプX1_1、X1_2、…を入力とするニューラルネットワーク11でDVR関数のパラメータを推定することができる。
【0088】
次に、本発明の効果を確かめるために本願発明者が行った調査について説明する。
【0089】
その調査では、本実施形態、図1のニューラルネットワーク1を用いた方法(比較例1)、及び図2の2ステップで発育ステージを予測する方法(比較例2)の各々について、移植日を基準日として出穂に要する日数を予測し、その予測値と実測値とを比較した。
【0090】
なお、ここではイネを対象として、144品種における出穂期関連11遺伝子のハプロタイプと出穂期データ(秋田県大仙市、新潟県上越市、茨城県つくば市、茨城県つくばみらい市、富山県富山市、兵庫県加西市、広島県福山市、福岡県筑後市の8地点の2004年~2017年のデータ、N=8959)を用いて、3分割交差検証により精度を検証した例を示す。なお、交差検証では、新品種などの発育ステージの実測値を有しない品種を予測した場合の精度を推定するため、学習データとテストデータに使用する品種を分けて、モデルの学習に使用していない品種に対する予測精度を検証した。
【0091】
なお、図2の比較例2においては、ステップS1で差分進化法(Differential Evolution)を用いて品種ごとのDVR関数のパラメータを推定した。そして、ステップS2において、Xgboost (eXtreme Gradient Boosting)により遺伝子のハプロタイプからDVR関数のパラメータを推定するモデルを作成した。
【0092】
その結果を図8に示す。また、この調査で得られたMAE (Mean Absolute Error)(日)、RMSE (Root Mean Squared Error)(日)、及び絶対誤差中央値(日)を表1に示す。
【0093】
【表1】
表1に示すように、本実施形態では、MAE、RMSE、及び絶対誤差中央値の全てが比較例1と比較例2のどちらよりも小さくなり、比較例1、2よりも予測精度が向上することが明らかとなった。
【0094】
なお、本実施形態を適用し得る作物は、気温や日長等の気象条件によって出穂期や開花期などの発育ステージが影響を受ける作物であれば特に限定されない。そのような作物としては、例えば、イネ、コムギ、ダイズ、オオムギ、及びアズキ等がある。
【0095】
特に、イネに加えて、コムギやダイズ等の発育ステージをDVR関数で求める技術は確立されているため(非特許文献6、7参照)、本実施形態ではそのDVR関数のパラメータをニューラルネットワーク11で良好に推定することができる。
【0096】
更に、ニューラルネットワーク11に入力する遺伝学的情報はハプロタイプに限定されない。例えば、RFLPマーカー、SNPマーカー、AFLPマーカー等を遺伝学的情報として用いてもよい。RFLPマーカー、SNPマーカー、AFLPマーカーが発育ステージの予測に有用であることは、例えばそれぞれ非特許文献4、非特許文献8、及び非特許文献9において裏付けられている。
【0097】
また、遺伝学的情報に加え、図9のように気象条件も同時にニューラルネットワーク11に入力してもよい。図9は、本実施形態に係る予測装置が実行する作物の発育ステージの別の予測方法の概略を示す模式図である。これにより、気象条件に応じた遺伝子発現の違い(及び遺伝子発現の違いによる環境応答性の違い)を考慮して発育ステージを予測できる可能性がある。
【0098】
なお、図9においては、気象条件をニューラルネットワーク11に入力することとしたが、これに限らず、気象条件を含む環境条件と、作物の栽培管理情報の中から選択した情報をニューラルネットワーク11に入力することとしてもよい。環境条件には、気象条件の他、土壌条件(土壌タイプ、土壌化学性、土壌物理性等)、地形条件、水分条件等が含まれる。また、栽培管理情報には、施肥に関する情報、水管理に関する情報、育苗法に関する情報、移植時の葉齢、栽植様式や栽植密度、防除(農薬散布等)の情報等が含まれる。したがって、ニューラルネットワーク11には、これらの情報のいずれか、又はこれらの情報の組み合わせを入力することができる。これにより、環境条件や栽培管理情報に応じた遺伝子発現の違い(及び遺伝子発現の違いによる環境応答性の違い)を考慮して発育ステージを予測できる可能性がある。
【0099】
次に、本実施形態に係る予測装置10の機能構成について説明する。
【0100】
図10は、本実施形態に係る予測装置10の機能構成図である。
【0101】
図10に示すように、予測装置10は、取得部21、関数決定部としてのパラメータ決定部22、DVR算出部23、発育ステージ予測部24、出力部25、及び学習部26を有する。
【0102】
このうち、取得部21は、気温や日長等の気象条件と遺伝学的情報X1_1、X1_2、…とを取得する処理部である。一例として、取得部21は、キーボード等の入力装置でユーザが予測装置10に入力した気象条件と遺伝学的情報とを取得する。なお、気象条件については、気象庁や国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構のサーバから取得部21が取得してもよい。
【0103】
パラメータ決定部22は、ニューラルネットワーク11を用いることにより、取得部21が取得した遺伝学的情報からDVR関数のパラメータを決定する処理部である。
【0104】
DVR算出部23は、決定したパラメータを含むDVR関数に、取得部21が取得した気象条件を入力することにより、DVRを算出する処理部である。そのDVR関数として、式(1)、(6)、(7)、(10)、(11)、(12)及び文献等にて有効性が確認されているいずれかの関数を使用し得る。
【0105】
発育ステージ予測部24は、DVR算出部23が算出したDVRに基づいて作物の発育ステージを示す値であるDVSを予測する処理部である。例えば、発育ステージ予測部24は、式(2)を用いることにより、日々のDVRの和をDVSとして算出する。
【0106】
出力部25は、発育ステージ予測部24が算出したDVSを出力する処理部である。一例として、出力部25は、算出したDVSを表示する指示を液晶ディスプレイ等の表示装置に出力する。
【0107】
学習部26は、発育ステージ予測部24が算出したDVSとその実測値との誤差をニューラルネットワーク11に逆伝搬させることにより、ニューラルネットワーク11にDVSの実測値と遺伝学的情報との関係を学習させる処理部である。その学習に使用する誤差としては、例えば式(5)の損失関数の値Eがある。
【0108】
次に、本実施形態に係る作物の発育ステージの予測方法について説明する。
【0109】
図11は、その予測方法のフローチャートである。
【0110】
まず、取得部21が気象条件と遺伝学的情報とを取得し(ステップS11)、パラメータ決定部22がニューラルネットワーク11を用いて遺伝学的情報からDVR関数のパラメータを決定する(ステップS12)。
【0111】
次いで、DVR算出部23が、決定したパラメータを含むDVR関数に気象条件を入力することによりDVRを算出する(ステップS13)。
【0112】
次に、発育ステージ予測部24が、算出したDVRに基づいて発育ステージを示す値であるDVSを予測する(ステップS14)。例えば、発育ステージ予測部24は、算出した日々のDVRの和をDVSとして算出する。
【0113】
その後、出力部25がDVSを出力する(ステップS15)。
【0114】
以上により、本実施形態に係る作物の発育ステージの予測方法の基本的な処理を終える。
【0115】
(第2実施形態)
作物の生育速度には地域差がある場合がある。そのような地域差を考慮してDVSを予測するために、本実施形態では次のようにDVR関数の値を調節する。
【0116】
図12は、本実施形態において予測装置10が実行する作物の発育ステージの予測方法の概略を示す模式図である。なお、図12において、第1実施形態で説明したのと同じ要素には第1実施形態におけるのと同じ符号を付し、以下ではその説明を省略する。
【0117】
本実施形態では、パラメータ決定部22が、ニューラルネットワーク17を用いることにより係数θを決定する。係数θは、次の式(13)のように、作物の生育速度の地域差を考慮してDVR関数の値を調節する係数である。
【0118】
【数13】
例えば、他の地域よりも生育速度が速い地域のDVSを予測する場合には係数θは1よりも大きくなり、逆に他の地域よりも生育速度が遅い地域のDVSを予測する場合には係数θは1よりも小さくなる。
【0119】
ニューラルネットワーク17は、作物が栽培される地域に特有の情報から係数θを推定するモデルである。地域に特有の情報は特に限定されないが、ここでは移植日等の基準日から1日目~n日目の気温Tiと日長Liとをその情報として使用する。
【0120】
そして、DVR算出部23が、ニューラルネットワーク17で推定した係数θと、ニューラルネットワーク11で推定したDVR関数のパラメータG、A、Th、B、Lcとを含む式(13)のDVR関数に、取得部21が取得した気象条件を入力することにより、日々のDVRを算出する。
【0121】
その後、発育ステージ予測部24が、日々のDVRの和をDVSとして算出する。
【0122】
これによれば、作物の生育速度の地域差を考慮してDVSを算出することができる。
【0123】
なお、この例では式(13)のように式(1)のDVR関数に係数θを乗じた式を用いたが、式(6)、(7)、(10)、(11)、(12)、及び文献等で有効性が確認されている関数のいずれかに係数θを乗じた関数を用いてもよい。
【0124】
(第3実施形態)
上記第1実施形態では、予測装置10は、図5に示すように、ニューラルネットワーク11を用いて遺伝学的情報X1_1、X1_2、…からDVR関数のパラメータG、A、Th、B、Lcを推定し、推定したDVR関数のパラメータG、A、Th、B、Lcを含むDVR関数に日々の気温Tiと日長Liの値を入力することにより日々のDVRを推定することとした。本第3実施形態では、図13に示すように、予測装置10は、ニューラルネットワーク111を用いて遺伝学的情報X1_1、X1_2、…からニューラルネットワーク113に入力する潜在変数P1、P2、…を推定し、推定した潜在変数P1、P2、…と、気象条件をニューラルネットワーク113に入力することで、出力としてDVRを推定する。このように、ニューラルネットワーク113を用いてDVRを算出することとしても、十分な精度で生育ステージを予測することができる。
【0125】
次に、本第3実施形態の効果を確かめるために本願発明者が行った調査について説明する。
【0126】
本第3実施形態においても、前述した表1に結果を示す調査と同様の調査を行った。その結果、MAE(日)として4.6、RMSE(日)として6.3、絶対誤差中央値(日)として3.2が得られた。表1と比較するとわかるように、本第3実施形態においても、MAE、RMSE、絶対誤差中央値ともに比較例1と比較例2のどちらよりも小さくなり、かつ、上記第1実施形態と近い値となるため、第1実施形態と同様、比較例1、2よりも予測精度が向上することが明らかとなった。
【0127】
また、表2には、本第3実施形態と上記第1実施形態について、品種ごとに上記と同様の調査を行った結果が示されている。なお、表2には、MAE(日)のみが示されている。表2に記載されている品種については第3実施形態のようにニューラルネットワーク113を用いる方が予測精度が高いことが分かる。なお、表2には記載していない品種では、第1実施形態のようにDVR関数を用いる方が予測精度が高いこともあった。したがって、品種ごとに第1実施形態と第3実施形態のいずれかを選択することで、いずれか一方を画一的に用いる場合よりも予測精度の向上が期待できることが分かった。
【0128】
【表2】
【0129】
また、表3には、本第3実施形態と上記第1実施形態について、ハプロタイプの型ごとに上記と同様の調査を行った結果が示されている。なお、表3には、MAE(日)のみが示されている。表3に記載されているハプロタイフ゜については、第1実施形態を用いた方が予測精度が高くなるハプロタイプの型と、第3実施形態を用いた方が予測精度が高くなるハプロタイプの型とがあることが分かる。特に、該当品種数が少ないハプロタイプの型の場合(表3の太字下線付き箇所参照)、第3実施形態の方が予測精度が高くなる傾向にあることも分かる。したがって、ハプロタイプの型ごとに第1実施形態と第3実施形態のいずれかを選択することで、いずれか一方を画一的に用いる場合よりも予測精度の向上が期待できることが分かった。
【0130】
【表3】
【0131】
(ハードウェア構成)
次に、第1~第3実施形態に係る予測装置10のハードウェア構成について説明する。
【0132】
図14は、第1~第3実施形態に係る予測装置10のハードウェア構成図である。
【0133】
図14に示すように、予測装置10は、記憶装置10a、メモリ10b、プロセッサ10c、通信インターフェース10d、表示装置10e、入力装置10f、及び媒体読取装置10gを有する。これらの各部は、バス10hにより相互に接続される。
【0134】
このうち、記憶装置10aは、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)等の不揮発性のストレージであって、本実施形態に係る予測プログラム100を記憶する。
【0135】
なお、予測プログラム100をコンピュータが読み取り可能な記録媒体10kに記録し、媒体読取装置10gを介してプロセッサ10cにその予測プログラム100を読み取らせるようにしてもよい。
【0136】
そのような記録媒体10kとしては、例えばCD-ROM(Compact Disc Read only memory)、DVD(Digital Versatile Disc)、及びUSB(Universal Serial Bus)メモリ等の物理的な可搬型記録媒体がある。また、フラッシュメモリ等の半導体メモリやハードディスクドライブを記録媒体10kとして使用してもよい。これらの記録媒体10kは、物理的な形態を持たない搬送波のような一時的な媒体ではない。
【0137】
更に、公衆回線、インターネット、及びLAN(Local Area Network)等に接続された装置に予測プログラム100を記憶させてもよい。その場合は、プロセッサ10cがその予測プログラム100を読み出して実行すればよい。
【0138】
一方、メモリ10bは、DRAM(Dynamic Random Access Memory)等のようにデータを一時的に記憶するハードウェアであって、その上に予測プログラム100が展開される。
【0139】
プロセッサ10cは、予測装置10の各部を制御するCPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphical Processing Unit)等のハードウェアである。また、プロセッサ10cは、メモリ10bと協働して予測プログラム100を実行する。
【0140】
このようにメモリ10bとプロセッサ10cとが協働して予測プログラム100を実行することにより、図10の取得部21、パラメータ決定部22、DVR算出部23、発育ステージ予測部24、及び出力部25が実現される。
【0141】
更に、通信インターフェース10dは、予測装置10をLANやインターネット等のネットワークに接続するためのNIC(Network Interface Card)等のハードウェアである。
【0142】
そして、表示装置10eは、算出したDVSを表示するための液晶ディスプレイやタッチパネル等のハードウェアである。
【0143】
また、入力装置10fは、ユーザが予測装置10に気象条件と遺伝学的情報とを入力するためのキーボードやマウス等のハードウェアである。
【0144】
媒体読取装置10gは、記録媒体10kを読み取るためのCDドライブ、DVDドライブ、及びUSBインターフェース等のハードウェアである。
【0145】
上述した実施形態は本発明の好適な実施の例である。但し、これに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施可能である。例えば、これまでの説明では、気象条件を入力とし、DVRを出力する関数が、第1実施形態のDVR関数や、変形例のDVR関数、第3実施形態のニューラルネットワーク113である場合について説明したが、気象条件を入力とし、DVRを出力する関数は、これらに限られるものではない。その他の関数であっても、気象条件を入力とし、DVRを出力する関数であれば、適宜用いることが可能である。
【符号の説明】
【0146】
1、11、17、111,113…ニューラルネットワーク、10…予測装置、21…取得部、22…パラメータ決定部、23…DVR算出部、24…発育ステージ予測部、25…出力部、26…学習部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14