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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】ドリル
(51)【国際特許分類】
   B23B 51/00 20060101AFI20240604BHJP
【FI】
B23B51/00 S
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020052952
(22)【出願日】2020-03-24
(65)【公開番号】P2021151681
(43)【公開日】2021-09-30
【審査請求日】2023-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】山本 匡
【審査官】中川 康文
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-078209(JP,A)
【文献】特開2019-181615(JP,A)
【文献】特開2018-126842(JP,A)
【文献】特開2017-024158(JP,A)
【文献】特開2016-172305(JP,A)
【文献】特開2014-161946(JP,A)
【文献】特開2003-275913(JP,A)
【文献】特開昭64-045504(JP,A)
【文献】実公平06-045287(JP,Y2)
【文献】実公昭62-008973(JP,Y2)
【文献】米国特許出願公開第2017/0274461(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0053438(US,A1)
【文献】米国特許第06174111(US,B1)
【文献】国際公開第2019/189415(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/139377(WO,A1)
【文献】独国実用新案第202015001161(DE,U1)
【文献】特開2012-161912(JP,A)
【文献】特開2000-280110(JP,A)
【文献】特開平03-245914(JP,A)
【文献】米国特許第10265781(US,B2)
【文献】米国特許出願公開第2013/0164089(US,A1)
【文献】米国特許第8215882(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 51/00-51/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線回りにドリル回転方向に回転させられる上記軸線を中心とした軸状のドリル本体の先端部外周に切屑排出溝が形成され、この切屑排出溝の上記ドリル回転方向を向く壁面と上記ドリル本体の先端逃げ面との交差稜線部に切刃が形成されたドリルであって、
上記切刃は、上記ドリル本体の内周側に形成される主切刃と、この主切刃のドリル本体外周側に連なる副切刃とを備え、
上記副切刃の軸方向すくい角が上記主切刃の軸方向すくい角よりも正角側に大きく、
上記副切刃の上記軸線に対する径方向の幅が、上記切刃の直径Dの0.05×D~0.20×Dの範囲内とされている、ドリル。
【請求項2】
軸線回りにドリル回転方向に回転させられる上記軸線を中心とした軸状のドリル本体の先端部外周に切屑排出溝が形成され、この切屑排出溝の上記ドリル回転方向を向く壁面と上記ドリル本体の先端逃げ面との交差稜線部に切刃が形成されたドリルであって、
上記切刃は、上記ドリル本体の内周側に形成される主切刃と、この主切刃のドリル本体外周側に連なる副切刃とを備え、
上記副切刃の軸方向すくい角が上記主切刃の軸方向すくい角よりも正角側に大きく、
上記副切刃のすくい面は、上記ドリル回転方向側から見て、三角形状または四角形状に形成されている、ドリル。
【請求項3】
軸線回りにドリル回転方向に回転させられる上記軸線を中心とした軸状のドリル本体の先端部外周に切屑排出溝が形成され、この切屑排出溝の上記ドリル回転方向を向く壁面と上記ドリル本体の先端逃げ面との交差稜線部に切刃が形成されたドリルであって、
上記切刃は、上記ドリル本体の内周側に形成される主切刃と、この主切刃のドリル本体外周側に連なる副切刃とを備え、
上記副切刃の軸方向すくい角が上記主切刃の軸方向すくい角よりも正角側に大きく、
上記副切刃のすくい面は、上記ドリル回転方向側から見て、上記軸線に対する径方向の幅が上記軸線に沿う方向の長さよりも大きくされた四角形状に形成されている、ドリル。
【請求項4】
軸線回りにドリル回転方向に回転させられる上記軸線を中心とした軸状のドリル本体の先端部外周に切屑排出溝が形成され、この切屑排出溝の上記ドリル回転方向を向く壁面と上記ドリル本体の先端逃げ面との交差稜線部に切刃が形成されたドリルであって、
上記切刃は、上記ドリル本体の内周側に形成される主切刃と、この主切刃のドリル本体外周側に連なる副切刃とを備え、
上記副切刃の軸方向すくい角が上記主切刃の軸方向すくい角よりも正角側に大きく、
上記副切刃のすくい面は、上記ドリル回転方向側から見て、上記軸線に沿う方向の長さが上記軸線に対する径方向の幅よりも大きくされた四角形状に形成されている、ドリル。
【請求項5】
上記副切刃は上記軸線に沿う方向に上記ドリル本体の先端を見たときに、上記主切刃よりも上記ドリル回転方向とは反対側に延びていることを特徴とする請求項1から請求項のうちいずれか一項に記載のドリル。
【請求項6】
軸線回りにドリル回転方向に回転させられる上記軸線を中心とした軸状のドリル本体の先端部外周に切屑排出溝が形成され、この切屑排出溝の上記ドリル回転方向を向く壁面と上記ドリル本体の先端逃げ面との交差稜線部に切刃が形成されたドリルであって、
上記切刃は、上記ドリル本体の内周側に形成される主切刃と、この主切刃のドリル本体外周側に連なる副切刃とを備え、
上記副切刃の軸方向すくい角が上記主切刃の軸方向すくい角よりも正角側に大きく、
上記副切刃は上記軸線に沿う方向に上記ドリル本体の先端を見たときに、上記主切刃よりも上記ドリル回転方向とは反対側に延びている、ドリル。
【請求項7】
上記主切刃と上記副切刃とは上記軸線に沿う方向に上記ドリル本体の先端を見たときに段差をもっているとともに、上記副切刃と上記主切刃の間の段差部には上記軸線に沿う方向に上記ドリル本体の先端を見たときに曲線状をなす接続部が形成されていることを特徴とする請求項5または6に記載のドリル。
【請求項8】
上記副切刃は、上記軸線に沿う方向に上記ドリル本体の先端を見たときに、上記主切刃と折れ線状に連なっていることを特徴とする請求項5または6に記載のドリル。
【請求項9】
上記副切刃は、上記軸線に沿う方向に上記ドリル本体の先端を見たときに、上記主切刃に接する凸曲線状に形成されていることを特徴とする請求項5または6に記載のドリル。
【請求項10】
上記副切刃は、上記軸線に沿う方向に上記ドリル本体の先端を見たときに、上記主切刃から上記ドリル回転方向とは反対側に凹む凹曲線状に形成されていることを特徴とする請求項5または6に記載のドリル。
【請求項11】
上記副切刃の上記軸線に対する径方向の幅が、上記切刃の直径Dの0.05×D~0.20×Dの範囲内とされていることを特徴とする請求項2から請求項10のいずれか1項に記載のドリル。
【請求項12】
上記副切刃の軸方向すくい角が10°~50°の範囲内とされるとともに、上記主切刃の軸方向すくい角が0°~40°の範囲内とされていることを特徴とする請求項1から請求項11のいずれか1項に記載のドリル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸線回りにドリル回転方向に回転させられる上記軸線を中心とした軸状のドリル本体の先端部外周に切屑排出溝が形成され、この切屑排出溝の上記ドリル回転方向を向く壁面と上記ドリル本体の先端逃げ面との交差稜線部に切刃が形成されたドリルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
このようなドリルによる穴明け加工において、金属や炭素繊維強化プラスチック(CFRP)、あるいは金属とCFRPを積層した積層材等に貫通穴をあける際に、貫通穴の抜け際の開口部に発生するバリを低減することが課題となる。
【0003】
このようなバリを低減する手段として、切屑排出溝の捩れ角を大きくして切刃の軸方向すくい角を正角側に大きくすることにより、加工方向とは反対側の力を増大させてスラスト加重を抑えるとともに、切刃の刃物角を小さくして切れ味を向上させることが考えられる。
【0004】
ところが、切屑排出溝の捩れ角を大きくすると、切屑排出溝の全長が長くなってしまって切屑排出性が損なわれ、切屑詰まりを生じるおそれがある。また、切刃の刃物角が小さくなると切刃強度が低下してしまい、切刃の欠損やチッピングによって早期にドリル寿命を迎えるおそれもある。
【0005】
そこで、例えば特許文献1には、棒状のドリル本体と、このドリル本体の先端部に位置して、先端部に向かって見た場合に直線部を有する主切刃と、ドリル本体の外周に設けられた、主切刃の後方からドリル本体の後端部側に向かってドリル本体の回転軸の周りに螺旋状に延びている切屑排出溝と、主切刃に沿って主切刃と切屑排出溝との間に設けられた主すくい面とを備え、この主すくい面は、直線部に沿って設けられた平坦部と、この平坦部と切屑排出溝との間に位置して、切屑排出溝よりも凹んでいる凹部とを有しているドリルが記載されている。
【0006】
このようなドリルでは、主すくい面に設けられた平坦部が切屑排出溝よりも凹んだ凹部に連なることにより、この平坦部における主切刃の直線部の軸方向すくい角は、切屑排出溝の捩れ角よりも正角側に大きくなる。従って、切屑排出溝の全長を長くすることなく、主切刃の直線部の切れ味を鋭くすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第6343005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、この特許文献1に記載されたドリルでは、主切刃に隣接してドリル本体の後端部側に位置する副切刃を有しており、主すくい面の直線部に沿って設けられた上記平坦部は、この副切刃から離れていて、主切刃の外周端に達するように形成されてはおらず、主切刃の外周部で発生したバリを副切刃によって除去するようにしている。
【0009】
しかしながら、上述のような貫通穴の穴明け加工では、バリが生じ易いのは貫通穴の抜け際の開口部の周縁部分であり、このような部分を切削する主切刃の外周部に上記平坦部が形成されずに軸方向すくい角が正角側に大きくされていないと、主として貫通穴を形成する主切刃の切れ味が鈍ってしまい、発生したバリを副切刃によって完全に除去することは困難となる。
【0010】
その一方で、軸線回りの周速が遅いために大きなスラスト荷重が作用するドリル本体の内周部では、主切刃の直線部に平坦部が形成されているために刃物角は小さくなる。このため、このドリル本体内周部の主切刃の直線部に欠損やチッピング等が発生し易くなるおそれもある。
【0011】
本発明は、このような背景の下になされたもので、切刃の欠損やチッピング、切屑排出溝における切屑詰まりを生じることなく、貫通穴の抜け際の開口部におけるバリの発生を効果的に抑制することが可能なドリルを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決して、このような目的を達成するために、本発明は、軸線回りにドリル回転方向に回転させられる上記軸線を中心とした軸状のドリル本体の先端部外周に切屑排出溝が形成され、この切屑排出溝の上記ドリル回転方向を向く壁面と上記ドリル本体の先端逃げ面との交差稜線部に切刃が形成されたドリルであって、上記切刃は、上記ドリル本体の内周側に形成される主切刃と、この主切刃のドリル本体外周側に連なる副切刃とを備え、上記副切刃の軸方向すくい角が上記主切刃の軸方向すくい角よりも正角側に大きいことを特徴とする。
【0013】
このように構成されたドリルでは、切刃のうち主切刃のドリル本体外周側に連なる副切刃の軸方向すくい角が主切刃の軸方向すくい角よりも正角側に大きいので、切刃の外周端側において切れ味を鋭くすることができ、金属やCFRP、あるいは金属とCFRPを積層した積層材に貫通穴をあける際に、この貫通穴の抜け際の開口部に発生するバリを削り取って抑制することができる。
【0014】
その一方で、切刃のうちドリル本体内周側の主切刃では、副切刃に比べて軸方向すくい角が負角側に大きいので刃物角を大きく確保して切刃強度を維持することができる。このため、大きなスラスト荷重が作用しても、欠損やチッピングが生じるのを防ぐことができて、ドリル寿命の延長を図ることが可能となる。また、切屑排出溝の捩れ角は、この主切刃の軸方向すくい角に合わせて設定すればよいので、切屑排出溝の全長が長くなるのも防ぐことができて、切屑詰まりも防止することができる。
【0015】
ここで、上記副切刃の上記軸線に対する径方向の幅は、上記切刃の直径Dの0.05×D~0.20×Dの範囲内とされていることが望ましい。この副切刃の軸線に対する径方向の幅が切刃の直径Dの0.05×Dを下回ると、貫通穴の抜け際の開口部に発生するバリを確実に除去することが困難となるおそれがある一方、切刃の直径Dの0.20×Dを上回ると、軸方向すくい角が正角側に大きくて刃物角が小さくなる副切刃が切刃の全長に占める部分が大きくなりすぎて欠損やチッピングを生じるおそれが生じる。
【0016】
また、上記副切刃の軸方向すくい角が10°~50°の範囲内とされるとともに、上記主切刃の軸方向すくい角が0°~40°の範囲内とされていることが望ましい。これら副切刃と主切刃の軸方向すくい角が上記範囲内よりも正角側に大きいと、特に副切刃の刃物角が小さくなりすぎて欠損やチッピングが発生し易くなる一方、上記範囲内よりも負角側に大きいと、切削抵抗の増大を招くおそれがある。なお、これら副切刃と主切刃の軸方向すくい角はドリル本体の軸線に対する径方向に向けて変化していてもよく、この場合には副切刃と主切刃の外周端における軸方向すくい角が上記範囲内であればよい。
【0017】
ここで、上記副切刃のすくい面は、上記ドリル回転方向側から見て、三角形状または四角形状に形成されていてもよい。このように構成することにより、切刃の軸方向すくい角が主切刃の軸方向すくい角に合わせた通常のドリルを製造した後に、副切刃の部分にだけドリル回転方向から見て三角形状に副切刃のすくい面を研ぎ付けるだけで、容易に副切刃の軸方向すくい角を主切刃よりも正角側に大きくすることができる。
【0018】
なお、このうち、副切刃のすくい面を、上記ドリル回転方向側から見て、四角形状に形成する場合には、上記軸線に対する径方向の幅が上記軸線方向の長さよりも大きくされた四角形状に形成することにより、切刃のうち軸方向すくい角が正角側に大きい部分を長くすることができるので、切削抵抗の低減を図ることができる。また、これとは逆に、上記軸線方向の長さが上記軸線に対する径方向の幅よりも大きくされた四角形状に形成した場合には、切刃に摩耗が生じたときに先端逃げ面を研磨して新たな切刃を研ぎ付ける再研磨量を大きく確保することができる。
【0019】
また、上記副切刃は上記軸線方向先端側から見て上記主切刃よりも上記ドリル回転方向側に延びていてもよいが、上記副切刃は上記軸線方向先端側から見て上記主切刃よりも上記ドリル回転方向とは反対側に延びていることが、特に上述のように通常のドリルを製造した後に副切刃のすくい面を研ぎ付けて副切刃の軸方向すくい角を主切刃よりも正角側に大きくする場合に製造が容易となって望ましい。
【0020】
なお、この場合には、上記主切刃と上記副切刃とは上記軸線方向先端側から見て段差をもっているとともに、上記副切刃と上記主切刃の間の段差部には上記軸線方向先端側から見て曲線状をなす接続部が形成されていることが、副切刃の径方向すくい角を主切刃と大きく変化させずに済むとともに、段差部が鋭くなって欠けが生じたりするのを防ぐことができて望ましい。
【0021】
ただし、上記副切刃は、上記軸線方向先端側から見て上記主切刃と折れ線状に連なっていたり、上記軸線方向先端側から見て上記主切刃に接する凸曲線状に形成されていたりしてもよい。この場合には、副切刃と主切刃の間に段差部が生じることがなくなるので、欠けを一層確実に防ぐことができるとともに、主切刃と副切刃によって生成される切屑が段差部で分断されることもなくなって、分断された切屑同士が絡まることによる切屑詰まりも防ぐことができる。
【0022】
一方、上記副切刃は、上記軸線方向先端側から見て上記主切刃から上記ドリル回転方向とは反対側に凹む凹曲線状に形成されていてもよい。この場合には、切屑は主切刃と副切刃とで分断されて生成されることになるが、副切刃によって生成された切屑は凹曲線に沿ってドリル本体の内周側に流れ出ることになるので、加工穴の内周面を傷付けるようなことがない。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように、本発明によれば、切刃の欠損やチッピングを防いでドリル寿命の延長を図ることができるとともに、切屑排出溝における切屑詰まりを防止して安定した穴明け加工を行うことができ、さらに金属やCFRP、あるいは金属とCFRPを積層した積層材に貫通穴をあける際に、この貫通穴の抜け際の開口部に発生するバリを副切刃によって削り取って抑制し、高品位の穴明け加工を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の第1の実施形態を示す軸線方向先端からから見たドリル本体の正面図である。
図2図1における矢線X方向視の平面図である。
図3図1における矢線Y方向視の側面図である。
図4】本発明の第2の実施形態を示す軸線方向先端からから見たドリル本体の正面図である。
図5図4における矢線X方向視の平面図である。
図6】本発明の第3の実施形態を示す平面図である。
図7】本発明の第4の実施形態を示す軸線方向先端からから見たドリル本体の正面図である。
図8】本発明の第5の実施形態を示す軸線方向先端からから見たドリル本体の正面図である。
図9】本発明の第6の実施形態を示す軸線方向先端からから見たドリル本体の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1図3は、本発明の第1の実施形態を示すものである。本実施形態のドリルは、そのドリル本体1が、超硬合金等の硬質材料により軸線Oを中心とした概略円柱軸状を形成されており、図示されない後端部は円柱状のままのシャンク部とされるとともに、先端部は切刃部2とされている。
【0026】
このようなドリルは、上記シャンク部が工作機械の主軸に把持されて軸線O回りにドリル回転方向Tに回転させられつつ該軸線O方向先端側に送り出され、切刃部2の先端に設けられた切刃3によって金属やCFRP、あるいは金属とCFRPを積層した積層材に穴明け加工を行う。
【0027】
切刃部2の外周には、ドリル本体1の先端面である先端逃げ面4に開口して後端側(図2および図3において右側)に向かう切屑排出溝5が形成されている。本実施形態では、複数条(2条)の切屑排出溝5が周方向に等間隔にドリル本体1の後端側に向かうに従いドリル回転方向Tとは反対側に捩れるように形成されている。
【0028】
切屑排出溝5のドリル回転方向Tを向く壁面の先端部は上記切刃3のすくい面6とされており、切刃3はこのすくい面6と先端逃げ面4との交差稜線部に切刃3が形成されている。ここで、先端逃げ面4は、ドリル本体1の外周側とドリル回転方向Tとは反対側に向かうに従いドリル本体1の後端側に向かうように傾斜しており、これによって切刃3には所定の先端角と逃げ角とが与えられる。
【0029】
なお、先端逃げ面4は、本実施形態ではドリル回転方向Tとは反対側に向かうに従い逃げ角が段階的に大きくなる第1、第2先端逃げ面4a、4bによって形成されている。このうち、第2先端逃げ面4bには、周方向に切屑排出溝5の間を通ってドリル本体1に形成されたクーラント孔1aがそれぞれ開口している。
【0030】
また、切刃部2の外周面には、切屑排出溝5のドリル回転方向T側を向く壁面のドリル回転方向Tとは反対側に隣接してマージン部7aが形成されるとともに、このマージン部7aのドリル回転方向Tとは反対側は、マージン部7aよりも外径が僅かに小さくされた外周逃げ面7bとされている。
【0031】
さらに、切屑排出溝5の先端内周部には、この先端内周部をドリル本体1の軸線O側に切り欠くようにしてシンニング部8が形成されている。このシンニング部8は、本実施形態では切刃3のすくい面の内周部から、切屑排出溝5のドリル回転方向Tとは反対側を向く壁面と外周逃げ面7bとが交差するヒール部にかけて延びている。
【0032】
さらにまた、上記切刃3は、すくい面6のうち上記シンニング部8に形成されたシンニングすくい面6aと先端逃げ面4との交差稜線部に形成されるシンニング刃3aと、このシンニング刃3aのドリル本体1の外周側に連なり、切屑排出溝5のドリル回転方向T側を向く壁面の内周側の主すくい面6bと先端逃げ面4との交差稜線部に形成される主切刃3bと、この主切刃3bのドリル本体1の外周側に連なり、切屑排出溝5のドリル回転方向T側を向く壁面の外周側の副すくい面6cと先端逃げ面4との交差稜線部に形成される副切刃3cとを備えている。
【0033】
ここで、上述のように切屑排出溝5はドリル本体1の後端側に向かうに従いドリル回転方向Tとは反対側に捩れているので、この切屑排出溝5のドリル回転方向T側を向く壁面をすくい面6とする主切刃3bと副切刃3cには正角の軸方向すくい角θ1、θ2が与えられる。そして、図3に示すように、副切刃3cの軸方向すくい角θ2は主切刃3bの軸方向すくい角θ1よりも正角側に大きくされている。
【0034】
また、本実施形態では、このうち副切刃3cの軸方向すくい角θ2は10°~50°の範囲内とされるとともに、主切刃3bの軸方向すくい角θ1は40°以下の範囲内とされていて、これらの範囲内でθ2>θ1とされている。なお、主切刃3bの軸方向すくい角θ1と副切刃3cの軸方向すくい角θ2は、ドリル本体1の軸線Oに対する径方向に向けて変化していてもよく、図3に示したように主切刃3bと副切刃3cの外周端における軸方向すくい角θ1、θ2が上記範囲内であればよい。
【0035】
また、本実施形態では軸線O方向先端側から見て、シンニング刃3aは、先端逃げ面4における内周側の軸線Oの近傍からドリル回転方向に凸となる凸曲線状にドリル本体1の外周側に延びて主切刃3bの内周端に接しており、主切刃3bはシンニング刃3aとの接点から直線状に外周側に延びている。これに対して、副切刃3cは軸線O方向先端側から見て主切刃3bよりもドリル回転方向Tとは反対側に延びている。
【0036】
より詳しくは、本実施形態では軸線O方向先端側から見て図1に示すように、副切刃3cは主切刃3bに対して段差をもってドリル回転方向Tとは反対側に位置して平行に延びるように形成されている。また、副切刃3cと主切刃3bの間の段差部には曲線状をなす接続部3dが形成されていて、この接続部3dは本実施形態では凹円弧等の凹曲線状に形成されている。すなわち、主切刃3bと副切刃3c、および主すくい面6bと副すくい面6cとは不連続である。
【0037】
さらに、ドリル回転方向T側から見て図2に示すように、副すくい面6cは三角形状に形成されている。この副すくい面6cは、主すくい面6bに対してドリル回転方向Tとは反対側に凹む凹面状に形成されており、副切刃3cから離れてドリル本体1の後端側に向かうに従い主すくい面6bよりも大きな傾斜角でドリル回転方向Tとは反対側に凹んだ後に、凹曲面を描いて主すくい面6bに切れ上がるように形成されている。
【0038】
さらに、本実施形態では、副切刃3cの軸線Oに対する径方向の幅Wが、切刃3の直径(切刃3の外周端が軸線O回りになす円の直径)Dの0.05×D~0.20×Dの範囲内とされている。なお、この副切刃3cの軸線Oに対する径方向の幅Wは、上記接続部3dも含む主切刃3bの外周端から副切刃3cの外周端までの幅であり、また副切刃3cがシンニング刃3aに達することはない。
【0039】
このように構成されたドリルにおいては、切刃3のうち主切刃3bのドリル本体1外周側に連なる副切刃3cの軸方向すくい角θ2が、主切刃3bの軸方向すくい角θ1よりも正角側に大きいので、切刃3の外周端側において切れ味を鋭くすることができる。このため、金属やCFRP、あるいは金属とCFRPを積層した積層材に貫通穴を穴明け加工する際に、この貫通穴の抜け際の開口部に発生するバリを副切刃3cによって削り取って抑制することができ、高品位の穴明け加工を行うことができる。
【0040】
その一方で、切刃3のうち副切刃3cよりもドリル本体1の内周側の主切刃3bでは、副切刃3cに比べて軸方向すくい角θ1が負角側に大きいので、刃物角を大きく確保することができる。従って、切刃強度を維持することができるので、大きなスラスト荷重が作用するドリル本体1の内周側でも、欠損やチッピングが生じるのを防ぐことができて、ドリル寿命の延長を図ることが可能となる。しかも、切屑排出溝5の捩れ角は、この主切刃3bの軸方向すくい角θ1に合わせて設定することができるので、切屑排出溝5の全長が長くなるのも防ぐことができ、切屑詰まりも防止することができる。
【0041】
また、本実施形態では、副切刃3cの軸線Oに対する径方向の幅Wが、切刃3の直径Dの0.05×D~0.20×Dの範囲内とされているので、バリの発生を確実に抑制しつつ、欠損やチッピングも防止することができる。
【0042】
すなわち、この副切刃3cの幅Wが切刃3の直径Dの0.05×Dを下回ると、貫通穴の抜け際の開口部に発生するバリを確実に除去することが困難となるおそれがある。その一方で、この副切刃3cの幅Wが切刃3の直径Dの0.20×Dを上回ると、軸方向すくい角θ2が正角側に大きくて刃物角が小さくなる副切刃3cが切刃3の全長に占める部分が大きくなりすぎて欠損やチッピングを生じるおそれが生じる。
【0043】
また、本実施形態では、副切刃3cの軸方向すくい角θ2が10°~50°の範囲内とされるとともに、主切刃3bの軸方向すくい角θ1が40°以下の範囲内とされており、これによっても主切刃3bや副切刃3cの欠損やチッピングを防ぎつつ、切削抵抗が必要以上に増大するのを防ぐことができる。
【0044】
すなわち、これら主切刃3bと副切刃3cの軸方向すくい角θ1、θ2がそれぞれ上記範囲内よりも正角側に大きいと、特に副切刃3cの刃物角が小さくなりすぎて欠損やチッピングが発生し易くなる一方、上記範囲内よりも負角側に大きいと、切削抵抗の増大を招くおそれがある。なお、主切刃3bの軸方向すくい角θ1は0°であってもよく、すなわち主切刃3bの軸方向すくい角θ1は、0°~40°の範囲であればよい。
【0045】
ところで、このようなドリルを製造する場合には、まず切刃3の軸方向すくい角を主切刃3bの軸方向すくい角θ1に合わせた通常のドリルを製造した後に、このドリルの副切刃3cの部分にだけドリル回転方向T側から見て副すくい面6cを研削によって研ぎ付けることにより、この副すくい面6cと先端逃げ面4との交差稜線部に副切刃3cを形成すればよい。
【0046】
そして、このような場合に、本実施形態では、副すくい面6cがドリル回転方向T側から見て三角形状に形成されているので、副すくい面6cを研ぎ付ける際の面積が小さくて済み、容易に副切刃3cの軸方向すくい角θ2を主切刃3bの軸方向すくい角θ1よりも正角側に大きくすることができる。
【0047】
ただし、本実施形態では、このように副すくい面6cがドリル回転方向T側から見て三角形状に形成されているが、四角形状に形成されていてもよい。この場合には、例えば図4および図5に示す本発明の第2の実施形態や、図6に示す第3の実施形態のように、ドリル回転方向T側から見て副すくい面6cが略一定の幅Wで延びる四角形(略平行四辺形)状に形成されていてもよい。このような第2、第3の実施形態でも、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。なお、これら第2、第3の実施形態や、後述する第4~第6の実施形態でも、第1の実施形態と共通する部分には同一の符号を配して説明を省略する。
【0048】
ここで、図4および図5に示す第2の実施形態では、副すくい面6cが、軸線Oに対する径方向の幅Wが軸線O方向の長さよりも大きくされた四角形状に形成されており、これによって切刃3のうち軸方向すくい角θ2が正角側に大きい副切刃3cを長くすることができるので、切削抵抗の低減を図ることができる。また、これとは逆に図6に示す第3の実施形態では、副すくい面6cが、軸線O方向の長さが軸線Oに対する径方向の幅Wよりも大きくされた四角形状に形成されており、切刃3に摩耗が生じたときに先端逃げ面4を研磨して新たな切刃3を研ぎ付ける再研磨を行うときに、再研磨量を大きく確保してドリル寿命を延長することができる。
【0049】
また、これら第1~第3の実施形態では、副すくい面6cが主すくい面6bに対してドリル回転方向Tとは反対側に凹んだ凹面状に形成されて、副切刃3cは軸線O方向先端側から見て主切刃3bよりもドリル回転方向Tとは反対側に位置するように延びている。このため、上述のように通常のドリルを製造した後に、副すくい面6cを研削によって研ぎ付けることにより、容易に副切刃3cの軸方向すくい角θ2を主切刃3bの軸方向すくい角θ1よりも大きくすることができる。
【0050】
ただし、このように副切刃3cを軸線O方向先端側から見て主切刃3bよりもドリル回転方向Tとは反対側に延びるように形成するのではなく、ドリル本体1を製造する際に、主すくい面6bの外周端部にドリル回転方向Tに突出する凸部を形成しておき、この凸部のドリル回転方向Tを向く壁面に副すくい面6cを形成して先端逃げ面4との交差稜線部に、主切刃3bの軸方向すくい角θ1よりも正角側に大きな軸方向すくい角θ2の副切刃3cを形成してもよい。
【0051】
また、第1~第3の実施形態と同様に主すくい面6bの外周端部に主すくい面6bに対してドリル回転方向Tとは反対側に凹む凹面状の副すくい面6cを形成する場合でも、主すくい面6bに対して副すくい面6cが段差等を介して不連続となっていれば、副切刃3cは軸線O方向先端側から見て主切刃3bと一直線状に延びるように形成されていてもよい。
【0052】
さらに、上記第1~第3の実施形態では、主切刃3bと副切刃3cとが軸線O方向先端側から見て段差をもっていて、この副切刃3cと主切刃3bの間の段差部には軸線O方向先端側から見て曲線状をなす接続部3dが形成されている。このため、上述のように副切刃3cを軸線O方向先端側から見て主切刃3bと平行とすることができて、副切刃3cの径方向すくい角を主切刃3bの径方向すくい角に対して大きく変化させずに済むので、切屑の流出方向が主切刃3bと副切刃3cで異なる方向となるのを抑制することができるとともに、段差部(接続部3d)が鋭くなって欠けが生じたりするのを防ぐことが可能となる。
【0053】
なお、これら第1~第3の実施形態のように、主切刃3bと副切刃3cとが軸線O方向先端側から見て段差部を介して連なるように形成するのではなく、図7に示す第4の実施形態のように、副切刃3cを軸線O方向先端側から見て主切刃3bと折れ線状に連なってドリル回転方向Tとは反対側に延びていたり、図8に示す第5の実施形態のように、副切刃3cを軸線O方向先端側から見て主切刃3bに接する凸曲線状に形成されてドリル回転方向Tとは反対側に延びていたりしてもよい。
【0054】
このような第4、第5の実施形態によれば、副切刃3cと主切刃3bの間に、第1~第3の実施形態のような段差部(接続部3d)が形成されることがなくなるので、切刃3の欠けを一層確実に防ぐことができる。また、特に第4の実施形態では、主切刃3bと副切刃3cによって生成される切屑が段差部で分断されることもなくなるので、分断された切屑同士が絡まることによって切屑詰まりが生じるのも防ぐことができる。
【0055】
一方、図9に示す第6の実施形態のように、副切刃3cは、軸線O方向先端側から見て主切刃3bからドリル回転方向Tとは反対側に凹む凹曲線状に形成されていてもよい。このような第6の実施形態によれば、切屑は主切刃3bと副切刃3cとで分断されて生成されることになるが、副切刃3cによって生成された切屑は凹曲線状の副切刃3cに沿ってドリル本体1の内周側に流れ出ることになるので、加工穴の内周面が切屑によって傷付けられるのを防ぐことができる。
【実施例
【0056】
次に、本発明の実施例を挙げて、本発明の効果について説明する。本実施例では、上述した第1の実施形態に基づき、切刃3の直径Dが1/4inch(6.35mm)、主切刃3bの軸方向すくい角θ1が30°、副切刃3cの軸方向すくい角θ2が40°、副切刃3cの軸線Oに対する径方向の幅Wが切刃3の直径Dに対して0.12×Dのドリルを製造した。
【0057】
また、この実施例に対する比較例として、副切刃3cおよび副すくい面6cが形成されていないこと以外は実施例と同じドリルも製造した。なお、これら実施例のドリルと比較例のドリルのドリル本体1の表面には、ダイヤモンドコーティングを施してある。
【0058】
そして、これら実施例のドリルと比較例のドリルを用いて、厚さ10mmのCFRPと厚さ5mmのアルミニウム板材とを積層した積層材に、まず切削速度100m/min、送り速度0.02mm/revの条件でノンステップ加工により貫通穴を同数ずつ形成する穴明け加工を行い、その際のバリの高さを測定した。なお、この穴明け加工の際には、クーラント孔1aから圧縮空気を噴出した。
【0059】
その結果、比較例のドリルによる穴明け加工では、バリの高さは0.01inch~0.015inchであったのに対して、実施例のドリルによる穴明け加工では、バリの高さは、バリが発生していないものも含めて0.01inch以下であった。この結果により、本発明によれば、上述のようにバリの発生を確実に抑制することが可能であることが分かる。なお、これら実施例のドリルおよび比較例のドリルでは、切刃3の欠損やチッピングは認められなかった。
【0060】
次に、これら実施例のドリルと比較例のドリルを用いて、上記と同じ積層材に、切削速度は100m/minのまま、送り速度を上記条件の5倍の0.10mm/revとした高能率条件で、同じくノンステップ加工により貫通穴を同数ずつ形成する穴明け加工を行い、その際のバリの高さを測定した。
【0061】
その結果、比較例のドリルによる穴明け加工では、バリの高さは0.015inch~0.02inchと上記の場合よりも大きくなっていたのに対して、実施例のドリルによる穴明け加工では、バリの高さは、上記と同じくバリが発生していないものも含めて0.01inch以下であった。この結果により、本発明によれば、上述のような高能率条件における穴明け加工においても、バリの発生を確実に抑制することが可能であることが分かる。
【符号の説明】
【0062】
1 ドリル本体
1a クーラント孔
2 切刃部
3 切刃
3a シンニング刃
3b 主切刃
3c 副切刃
3d 接続部
4 先端逃げ面
4a 第1先端逃げ面
4b 第2先端逃げ面
5 切屑排出溝
6 すくい面
6a シンニングすくい面
6b 主すくい面
6c 副すくい面
7a マージン部
7b 外周逃げ面
8 シンニング部
O ドリル本体1の軸線
T ドリル回転方向
θ1 主切刃3bの軸方向すくい角
θ2 副切刃3cの軸方向すくい角
W 副切刃3cの軸線Oに対する径方向の幅
D 切刃3の直径
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9