(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】銅粉及びこれを含む銅ペースト並びに導電膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 1/00 20220101AFI20240604BHJP
B22F 1/052 20220101ALI20240604BHJP
B22F 1/07 20220101ALI20240604BHJP
B22F 1/102 20220101ALI20240604BHJP
B22F 7/04 20060101ALI20240604BHJP
B22F 9/00 20060101ALI20240604BHJP
C22C 9/00 20060101ALI20240604BHJP
H01B 1/02 20060101ALI20240604BHJP
H01B 1/22 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
B22F1/00 L
B22F1/052
B22F1/07
B22F1/102
B22F7/04 D
B22F9/00 B
C22C9/00
H01B1/02 A
H01B1/22 A
(21)【出願番号】P 2023580803
(86)(22)【出願日】2023-09-28
(86)【国際出願番号】 JP2023035411
【審査請求日】2024-01-10
(31)【優先権主張番号】P 2022157049
(32)【優先日】2022-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】秋澤 瑞樹
(72)【発明者】
【氏名】澤本 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 隆史
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-234330(JP,A)
【文献】特開2015-168878(JP,A)
【文献】特開2021-025115(JP,A)
【文献】国際公開第2018/168186(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/202971(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00,1/052,1/065,1/068,1/07,
1/102,7/04,9/00
C22C 9/00
H01B 1/02,1/22,13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の銅粒子A及び銅粒子Bを含み、
銅粒子Aと銅粒子Bの合計に対する銅粒子Aの含有割合が60質量%以上99質量%以下であり、銅粒子Bの含有割合が1質量%以上40質量%以下である、銅粉。
〔銅粒子A〕
銅からなるコア粒子と、該コア粒子の表面を被覆する被覆層とを備え、
前記被覆層は脂肪族有機酸の銅塩によって形成されており、
一次粒子径が0.1μm以上0.6μm以下である銅粒子。
〔銅粒子B〕
BET比表面積から算出されたBET径Bに対する、X線回折測定において銅の(111)面に由来するピークの半値幅からシェラーの式によって求められる第1結晶子サイズS1の比(S1/B)が
0.02以上0.23以下であり、
X線回折測定において銅の(220)面に由来するピークの半値幅からシェラーの式によって求められる第2結晶子サイズS2に対する、前記第1結晶子サイズS1の比(S1/S2)が
0.1以上1.35以下であり、
一次粒子径が0.1μm以上2.0μm以下である銅粒子。
【請求項2】
銅粒子Bは、X線回折測定において銅の(311)面に由来するピークの半値幅からシェラーの式によって求められる第3結晶子サイズS3に対する、前記第1結晶子サイズS1の比(S1/S3)が1.35以下である、請求項1に記載の銅粉。
【請求項3】
銅粒子Bは炭素元素を含み、且つ該炭素元素の含有量が5000ppm以下である、請求項1に記載の銅粉。
【請求項4】
銅粒子Bはリン元素を含み、且つ該リン元素の含有量が300ppm以上である、請求項1に記載の銅粉。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか一項に記載の銅粉を含む銅ペースト。
【請求項6】
請求項5に記載の銅ペーストを基材に塗布して塗膜を形成し、該塗膜を焼成する、導電膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅粉及びこれを含む銅ペーストに関する。また本発明は、導電膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅は導電性の高い金属であり、また汎用性が高い材料であることから、導電材料として工業的に広く用いられている。例えば銅粒子の集合体である銅粉は、積層セラミックコンデンサ(以下「MLCC」ともいう。)の外部電極及び内部電極、並びに各種基板への配線など、各種電子部品を製造するための原材料として幅広く利用されている。
【0003】
そのような銅粉の一つとして、本出願人は先に、一次粒子の平均粒径が0.1μm以上0.6μm以下であり、粒子表面に表面処理剤が施されている球状銅粒子に関する技術を提案した(特許文献1参照)。この技術によれば、銅粒子の低温焼結性が良好になるという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
しかし、球状銅粒子を用いてペーストを調製し、該ペーストから各種の導電膜を製造する場合、その粒子形状に起因して、導電膜の連続性が担保しづらいことがある。
一方、銅粒子として扁平状の銅粒子も知られている。しかし、扁平状銅粒子を用いてペーストを調製し、該ペーストから各種の導電膜を製造する場合、その粒子形状に起因して、導電膜の緻密性を向上させづらいことがある。
そこで現在では、お互いの短所を補うことを目的として、球状銅粒子と扁平状銅粒子とを混合して用いる場合が多い。しかし、昨今では、導電膜の連続性及び緻密性に加えて、導電膜を製造するときの銅粒子の低温焼結性も求められている。球状銅粒子と扁平状銅粒子とを単に混合して用いただけでは混合銅粒子の低温焼結性は高まらない。
【0006】
したがって本発明の課題は、連続性及び緻密性が高い導電膜を製造でき、且つ、焼結温度が低い銅粉を提供することにある。
【0007】
本発明は、以下の銅粒子A及び銅粒子Bを含み、
銅粒子Aと銅粒子Bの合計に対する銅粒子Aの含有割合が60質量%以上99質量%以下であり、銅粒子Bの含有割合が1質量%以上40質量%以下である、銅粉を提供するものである。
〔銅粒子A〕
銅からなるコア粒子と、該コア粒子の表面を被覆する被覆層とを備え、
前記被覆層は脂肪族有機酸の銅塩によって形成されており、
一次粒子径が0.1μm以上0.6μm以下である銅粒子。
〔銅粒子B〕
BET比表面積から算出されたBET径Bに対する、X線回折測定において銅の(111)面に由来するピークの半値幅からシェラーの式によって求められる第1結晶子サイズS1の比(S1B)が0.23以下であり、
X線回折測定において銅の(220)面に由来するピークの半値幅からシェラーの式によって求められる第2結晶子サイズS2に対する、前記第1結晶子サイズS1の比(S1/S2)が1.35以下であり、
一次粒子径が0.1μm以上2.0μm以下である銅粒子。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明の銅粉は、以下の銅粒子A及び銅粒子Bを含む。
〔銅粒子A〕
銅からなるコア粒子と、該コア粒子の表面を被覆する被覆層とを備え、
前記被覆層は脂肪族有機酸の銅塩によって形成されており、
一次粒子径が0.1μm以上0.6μm以下である銅粒子。
〔銅粒子B〕
BET比表面積から算出されたBET径Bに対する、X線回折測定において銅の(111)面に由来するピークの半値幅からシェラーの式によって求められる第1結晶子サイズS1の比(S1B)が0.23以下であり、
X線回折測定において銅の(220)面に由来するピークの半値幅からシェラーの式によって求められる第2結晶子サイズS2に対する、前記第1結晶子サイズS1の比(S1/S2)が1.35以下であり、
一次粒子径が0.1μm以上2.0μm以下である銅粒子。ただし、銅粒子Aに該当するものは除く。
【0009】
本発明者らが鋭意検討したところ、驚くべきことに、前記の銅粒子A及びBを含む銅粉は焼結温度が低く、また該銅粉を含む銅ペーストから製造された導電膜は高い連続性及び緻密性を有することを見いだした。
【0010】
上述の効果をより一層高める観点から、銅粒子Aは球状の形状を有することが好ましい。一方、銅粒子Bは扁平状の形状を有することが好ましい。
【0011】
本発明の銅粉の低温での焼結性の向上と、該粒子の焼結によって得られる導電膜の導電性の向上を両立する観点から、銅粒子Aは、その一次粒子の平均画像解析径が好ましくは0.1μm以上0.6μm以下、より好ましくは0.12μm以上0.4μm以下、更に好ましくは0.15μm以上0.3μm以下である。一次粒子とは、外形上の幾何学的形態から判断して、粒子としての最小単位と認められる物体のことをいう。
同様の観点から、銅粒子Bは、その一次粒子の平均画像解析径が、好ましくは0.1μm以上2.0μm以下、より好ましくは0.15μm以上1.0μm以下、更に好ましくは0.2μm以上0.6μm以下である。
【0012】
また、BET比表面積から算出された銅粒子Aの粒子径(以下、BET径Aともいう。)は、好ましくは0.1μm以上0.6μm以下、より好ましくは0.12μm以上0.4μm以下、更に好ましくは0.15μm以上0.3μm以下である。BET径Aがこのような範囲となっていることによって、本発明の銅粉の熱伝導性を高めて、焼結温度を効果的に低下させることができる。
同様の観点から、BET比表面積から算出された銅粒子Bの粒子径(以下、BET径Bともいう。)は、好ましくは0.1μm以上2.0μm以下、より好ましくは0.15μm以上1.0μm以下、更に好ましくは0.2μm以上0.6μm以下である。BET径Bがこのような範囲となっていることによって、本発明の銅粉の熱伝導性を高めて、焼結温度を効果的に低下させることができる。
本明細書においては、BET径Bのことを銅粒子Bの一次粒子径ともいう。
【0013】
銅粒子A及びBの一次粒子の平均画像解析径は、例えば走査型電子顕微鏡(日本電子(株)製JSM-6330F)を用い、倍率10000倍又は30000倍で銅粒子を観察し、視野中の粒子200個について水平方向における最大フェレ径を測定し、これらの測定値から、球に換算した体積平均粒径を算出することができる。
本明細書においては、このように算出された銅粒子Aの一次粒子の平均画像解析径のことを銅粒子Aの一次粒子径ともいう。
【0014】
BET比表面積から算出されたBET径A及びBは、BET法に基づいて、以下の条件で測定できる。具体的には、株式会社マウンテック製の「Macsorb」を用い、窒素吸着法で測定することができる。測定粉末の量は0.2gとし、予備脱気条件は真空下、80℃で30分間とする。そして、BET径A及びBは、測定されたBET比表面積から、以下の式(I)にて算出される。
式(I)中、dはBET径A又はB[μm]、ABETはBET一点法で測定される比表面積[m2/g]、ρは銅の密度[g/cm3]である。
d=6/(ABET×ρ) ・・・(I)
以下、銅粒子A及びBについて、その好ましい実施形態をそれぞれ詳述する。
【0015】
<銅粒子Aの好ましい実施形態>
銅粒子Aは、該粒子の表面に脂肪族有機酸の銅塩を含む表面処理剤が施されているものである。これによって、表面処理剤からなる被覆層が、銅からなるコア粒子の表面を連続的に又は不連続的に覆うように形成されている。表面処理剤は、銅の酸化と、粒子の凝集との双方を抑制するために用いられる。
またコア粒子は、好ましくは銅及び残部不可避不純物のみからなる。
【0016】
上述のとおり、本発明に用いられる表面処理剤は、脂肪族有機酸の銅塩を含んでいる。
【0017】
本技術分野においては、銅粒子における銅の酸化の抑制と、粒子どうしの凝集の抑制とを両立するために、脂肪酸や脂肪酸アミン等の表面処理剤が用いられてきた。しかし、このような処理剤は、該処理剤の分解温度が高く、銅粒子の焼結時に十分に除去できない場合があった。このことに起因して、焼結開始温度が上昇したり、銅粒子どうしの焼結後に得られる導電膜の抵抗が高くなったりすることがあった。この問題点を解決すべく本発明者が鋭意検討したところ、表面処理剤として、脂肪族有機酸の銅塩を用いることによって、銅の酸化及び粒子どうしの凝集の双方を抑制しつつ、焼結開始温度を低くすることができ、その結果、粒子どうしの低温焼結性を向上しつつ、焼結後に得られる導電膜の抵抗を低くすることができることを見出した。
【0018】
本発明の銅粉の焼結温度を低下させつつ、銅の酸化抑制と粒子どうしの凝集抑制とを兼ね備える観点から、脂肪族有機酸の銅塩を構成する脂肪族有機酸の炭素原子数は、6以上18以下であることが好ましく、8以上18以下であることがより好ましく、10以上18以下であることが更に好ましく、12以上18以下であることが一層好ましい。このような脂肪族有機酸としては、例えば、直鎖又は分枝鎖であり且つ飽和又は不飽和であるカルボン酸、あるいは直鎖又は分枝鎖であり且つ飽和又は不飽和である炭化水素基を有するスルホン酸等が挙げられ、好ましくは直鎖であり、且つ飽和又は不飽和のカルボン酸である。また、脂肪族有機酸の銅塩における銅の価数は一価又は二価であり、好ましくは二価である。
【0019】
カルボン酸の具体例としては、クエン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸等が挙げられ、好ましくはラウリン酸、オレイン酸及びステアリン酸であり、更に好ましくはラウリン酸及びステアリン酸である。
スルホン酸の具体例としては、ヘキサンスルホン酸、ヘプタンスルホン酸、オクタンスルホン酸、ノナンスルホン酸、デカンスルホン酸、ラウリンスルホン酸、パルミチンスルホン酸、オレインスルホン酸、ステアリンスルホン酸等が挙げられる。これらの脂肪族有機酸は、単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0020】
表面処理剤は、例えば、銅からなるコア粒子を製造した後の工程において、得られたコア粒子と、表面処理剤である脂肪族有機酸の銅塩とを接触させることによって、粒子表面に施すことができる。表面処理剤を施す量は、該表面処理剤が施された状態での銅粒子Aに占める該表面処理剤全体の割合(質量%)で表して、炭素原子換算で0.2質量%以上2.0質量%以下とすることが好ましく、0.3質量%以上1.0質量%以下とすることが更に好ましい。このような範囲にあることで、表面処理剤による銅粒子表面の酸化被膜の除去や、共融解による効果によって、銅粒子どうしの融解温度を低温化することができ、その結果、焼結温度を低下させることができる。
【0021】
銅粒子Aの表面に施された表面処理剤の割合(質量%)は、次のようにして測定することができる。表面処理剤が施された銅粒子Aの集合体である銅粉0.5gを、炭素・硫黄分析装置(堀場製作所製、EMIA-320V)にて酸素気流中で加熱し、銅粉中の炭素分をCOあるいはCO2に分解させてその量を定量することで表面処理剤の割合を算出する。
【0022】
表面処理剤の定性及び定量は、例えば核磁気共鳴(NMR)法、ラマン分光法、赤外分光法、液体クロマトグラフィー法、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)等の方法を単独で又は組み合わせて用いて行うことができる。
【0023】
銅粒子Aは、表面処理剤として脂肪族有機酸の銅塩を用いて形成された被覆層をコア粒子の表面に有するものであるところ、被覆層が脂肪族有機酸の銅塩を用いて形成されたものであるか否かは、例えば以下の方法によって判定することができる。詳細には、銅粒子Aの質量が5質量%となるようにKBrにて希釈し、乳鉢混合した測定試料を、日本分光社製の赤外分光光度計(型番:FT-IR4600)を用い、拡散反射法にて、分解能4cm-1、積算回数128回の条件で測定して、縦軸に吸光度をクベルカ-ムンク変換した値をとり、横軸に波数(500~4000cm-1)をとったグラフ(スペクトル)を得る。このとき、赤外線吸収ピークが1504cm-1以上1514cm-1以下の範囲に観察され、且つ1584cm-1以上1596cm-1以下の範囲に観察されなければ、被覆層が脂肪族有機酸の銅塩を用いて形成されたものと判断することができる。すなわち、銅粒子Aは、赤外分光法による測定において、1504cm-1以上1514cm-1以下の範囲に赤外線吸収ピークが観察され、1584cm-1以上1596cm-1以下の範囲に赤外線吸収ピークが観察されないことが好ましい。
「赤外線吸収ピークを有する」とは、以下の方法に従い定義される。まず、2910cm-1以上2940cm-1以下の範囲に観測されるピークの最大値で規格化したIRスペクトルデータに対して二回微分を行い、1500cm-1以上1600cm-1以下の範囲においてゼロアップクロス法に基づいて波形分離する。次いで、波形分離した各波形における基準線(ゼロ)からの振幅の絶対値から、算術平均値を算出する。そして、当該算術平均値の半分の値よりも、ピーク高さの絶対値が大きい場合に「赤外線吸収ピークを有する」とする。
なお、脂肪酸や脂肪族アミンを表面処理剤として用いた銅粒子の場合、1584cm-1以上1596cm-1以下の範囲に赤外線吸収ピークが検出されるので、この点で銅粒子Aと区別することができる。
【0024】
脂肪族有機酸の銅塩を用いることによって、銅の酸化及び粒子どうしの凝集の双方を抑制しつつ、本発明の銅粉の焼結温度を低下させることができる銅粒子が得られる理由は明らかでないが、本発明者は以下のように推測している。
上述のように、本発明の銅粒子と、脂肪酸や脂肪族アミンを表面処理剤として用いた銅粒子とでは、特定の波数における赤外線吸収ピークの有無に違いを有している。
赤外分光法は、赤外線を測定対象の物質又は分子に照射することによって、分子中の結合の運動エネルギーに相当する光エネルギーの吸収を測定することを測定原理としている。一般に、赤外分光法において赤外吸収が観察される場合には、分子中に何らかの結合が存在していることを示している。特に、高波数位置に赤外吸収が観察される場合、高波数の赤外線はエネルギーが高いので、結合エネルギーが大きい結合が分子中に存在するといえる。
銅粒子Aと、脂肪酸や脂肪族アミンを表面処理剤として用いた銅粒子とを比較すると、いずれの粒子も1504cm-1以上1514cm-1以下の範囲の低波数領域に赤外吸収が観測されるので、当該領域の吸収は、コア粒子表面に被覆層が結合して存在していることを意味すると推測される。このため、コア粒子の銅の酸化及び粒子どうしの凝集の双方を抑制することができると考えられる。
一方、1584cm-1以上1596cm-1以下の範囲の高波数領域に着目すると、銅粒子Aは、前記高波数領域に観測される赤外吸収が観察されないのに対し、脂肪酸や脂肪族アミンを表面処理剤として用いた銅粒子は、赤外吸収が前記高波数領域に観測される。つまり、脂肪酸や脂肪族アミンを表面処理剤として用いた銅粒子と比較して、本発明の銅粒子は、結合エネルギーが大きい結合が分子中に少ないことを意味している。このことは、本発明の銅粒子において、表面処理剤とコア粒子との結合が比較的弱くなっていると考えられるので、表面処理剤が低温で脱離しやすくなり、粒子どうしの焼結が低温で達成できると考えられる。
以上の理由から、銅粒子Aの表面に脂肪族有機酸の銅塩を含む表面処理剤を施すことによって、銅の酸化及び粒子どうしの凝集の双方を抑制しつつ、焼結温度の低下が達成できると考えられる。
【0025】
また銅粒子Aについて、脂肪族有機酸の銅塩を構成する脂肪族有機酸がどの有機酸であるかを特定するためには、例えばTOF-SIMSによって分析することができる。
【0026】
本発明の銅粉の焼結温度を更に低下させる観点から、銅粒子Aを25℃から1000℃まで加熱したときの熱重量分析において、500℃における質量減少値に対する質量減少値の割合が10%となる温度が、好ましくは150℃以上220℃以下、更に好ましくは180℃以上220℃以下である。
【0027】
上述した熱重量分析は、例えば以下の方法で行うことができる。すなわち、ブルカー・エイエックスエス社製のTG-DTA2000SAを用いて、測定サンプルを50mgとし、25℃から1000℃まで加熱したときの質量減少率を測定する。雰囲気は窒素とし、昇温速度は10℃/minとする。質量減少率が所定の割合となる温度が低いほど、被覆層を形成する脂肪族有機酸を除去できる温度が低いことを示すので、銅粒子Aの低温焼結性の尺度となるものである。
【0028】
上述のとおり、銅粒子Aの形状は球状であることが好ましい。球状の銅粒子Aを得るためには、例えばコア粒子の形状を球状とすればよい。なお、粒子が球状であるとは、以下の方法で測定した円形度係数が好ましくは0.85以上、更に好ましくは0.90以上であることをいう。円形度係数は、次の方法で算出される。金属粒子の走査型電子顕微鏡像を撮影し、粒子どうしが重なり合っていないものを無作為に1000個選び出す。粒子の二次元投影像の面積をSとし、周囲長をLとしたときに、粒子の円形度係数を4πS/L2の式から算出する。各粒子の円形度係数の算術平均値を上述した円形度係数とする。粒子の二次元投影像が真円である場合は、粒子の円形度係数は1となる。
【0029】
<銅粒子Bの好ましい実施形態>
銅粒子Bは、X線回折測定によって算出された特定の結晶面における結晶子サイズが所定の関係にある。具体的には、BET比表面積から算出された粒子径をBET径Bとし、X線回折測定において銅の(111)面に由来する回折ピークからシェラーの式によって求められる結晶子サイズを第1結晶子サイズS1としたときに、BET径Bに対する第1結晶子サイズS1の比(S1/B)が、好ましくは0.23以下、より好ましくは0.02以上0.23以下、更に好ましくは0.05以上0.23以下である。
【0030】
銅の(111)面に由来する回折ピークは、銅粒子BをX線回折測定したと得られるX線回折パターンの最大の高さを有するピークである。このことから、第1結晶子サイズは他の結晶面に由来する回折ピークから算出された結晶子サイズよりも大きく、結晶性も代表していると考えられる。したがって、第1結晶子サイズS1がBET径Bに対して小さい構成となっていることによって、結晶粒界が一粒子中に多いと推測される。その結果、粒子を加熱したときに印加される熱エネルギーによって、結晶子界面が不安定化しやすくなって原子拡散が活発になり、低温での粒子どうしの融着性を高め、焼結温度を低下させることができる。
このような銅粒子は、例えば後述する製造方法にて得ることができる。
【0031】
銅粒子Bの第1結晶子サイズS1は、好ましくは10nm以上80nm以下、より好ましくは20nm以上75nm以下、更に好ましくは25nm以上70nm以下である。結晶子サイズS1がこのような範囲となっていることによって、結晶粒界を一粒子中に更に多く形成しやすくして、加熱時の粒子の融着性を更に高めて、焼結温度を効果的に低下させることができる。
【0032】
また銅粒子Bは、X線回折測定において銅の(220)面に由来するピークの半値幅からシェラーの式によって求められる結晶子サイズを第2結晶子サイズS2としたときに、第2結晶子サイズS2に対する第1結晶子サイズS1の比(S1/S2)が所定の値以下であることも好ましい。
具体的には、S1/S2比は、好ましくは1.35以下、より好ましくは0.1以上1.3以下、更に好ましくは0.1以上1.2以下である。
【0033】
金属銅は面心立方構造の結晶構造をとりやすいことから、銅粒子Bは、粒子表面の特定の面に銅の(111)面が存在し、(111)面と交差する面に銅の(220)面が存在する。そして、S1/S2比が小さいほど、銅粒子が、(111)面方向に成長していないか、又は、(220)面方向に成長していることを示している。したがって、S1/S2が上述した所定の範囲であることは、銅粒子Bが扁平形状であることなどの粒子形状に異方性を有することと概ね相関する。扁平形状とは、互いに対向する一対の主面と、これらの主面に交差する側面とを有する形状を意味する。銅粒子Bが扁平形状である場合、銅粒子Bの主面に銅の(111)面が存在し、銅粒子Bの側面に銅の(220)面が存在すると推測される。
したがって、S1/S2比が上述の範囲となっていることによって、焼結する際に銅粒子Bどうしが配列したときに、銅粒子Bの主面どうし、又は粒子の側面どうしが接触しやすく、銅粒子Bどうしの接触部が同じ結晶面となりやすい。熱エネルギーが印加された粒子は、異なる結晶面どうしで接触する場合よりも、同じ結晶面どうしで接触する場合のほうが熱エネルギーの利用効率が高く、結晶子界面の原子が拡散されやすくなる。その結果、低温での粒子どうしの融着性を高め、銅粉の焼結温度を低下させることができる。このことは、球状粒子や、機械的に製造された扁平状の銅粒子と比較して、焼結性が更に向上できる点で有利である。
また、銅粒子Bどうしの接触は上述のように面どうしの接触となりやすいため、球状銅粒子等と比較して接触面積が大きくなる。このことに起因して、銅粒子Bを含む本発明の銅粉から製造される導電膜は高い連続性を有する。
このような銅粒子は、例えば後述する製造方法にて得ることができる。
【0034】
銅粒子Bの第2結晶子サイズS2は、好ましくは10nm以上80nm以下、より好ましくは20nm以上75nm以下、更に好ましくは30nm以上70nm以下である。結晶子サイズS2がこのような範囲となっていることによって、結晶子サイズが比較的小さいことに起因する低温焼結性を高めつつ、銅粒子の形状に由来する導電路を多く形成でき、焼結後に低抵抗な導電膜を形成することができる。
【0035】
銅粒子Bは、X線回折測定において銅の(311)面に由来するピークの半値幅からシェラーの式によって求められる結晶子サイズを第3結晶子サイズS3としたときに、第3結晶子サイズS3に対する第1結晶子サイズS1の比(S1/S3)が、所定の値以下であることが好ましい。
具体的には、S1/S3比は、好ましくは1.35以下、より好ましくは0.20以上1.30以下、更に好ましくは0.50以上1.25以下である。
【0036】
金属銅は面心立方構造の結晶構造をとりやすいことから、銅粒子Bは、粒子表面の特定の面に銅の(111)面が存在し、(111)面と交差する面に銅の(311)面が存在する。そして、S1/S3比が小さいほど、銅粒子Bが、(111)面方向に成長していないか、又は、(311)面方向に成長していることを示している。したがって、S1/S3が上述した所定の範囲であることは、銅粒子Bが扁平形状であることなどの粒子形状に異方性を有することと概ね相関する。この場合、銅粒子Bの主面に銅の(111)面が存在し、銅粒子の側面に銅の(311)面が存在すると推測される。
したがって、S1/S3比が上述の範囲となっていることによって、焼結する際に銅粒子Bどうしが配列したときに、銅粒子Bの主面どうし、又は銅粒子Bの側面どうしが接触しやすく、銅粒子Bどうしの接触部が同じ結晶面となりやすい。その結果、本発明の銅粉を加熱したときに銅粒子Bの結晶子界面の原子拡散を活発にして、低温での粒子の融着性を高め、銅粉の焼結温度を低下させることができる。このことは、球状粒子や、機械的に製造された扁平状の銅粒子と比較して、焼結性が更に向上できる点で有利である。
このような銅粒子は、例えば後述する製造方法にて得ることができる。
【0037】
粒子Bの第3結晶子サイズS3は、好ましくは10nm以上80nm以下、より好ましくは20nm以上75nm以下、更に好ましくは30nm以上70nm以下である。結晶子サイズS3がこのような範囲となっていることによって、結晶子サイズが比較的小さいことに起因する低温焼結性を高めつつ、銅粒子Bの形状に由来する導電路を多く形成でき、焼結後に低抵抗な導電膜を形成することができる。
【0038】
第1結晶子サイズS1、第2結晶子サイズS2及び第3結晶子サイズS3はそれぞれ、X線回折測定によって得られる銅の(110)面、(220)面又は(311)面に由来する回折ピークの半値幅の全幅から、以下に示すシェラーの式を用いて算出することができる。X線回折測定の条件は、後述する実施例にて詳述する。PDF番号は00-004-0836を用いる。
・シェラーの式:D=Kλ/βcosθ
・D:結晶子サイズ
・K:シェラー定数(0.94)
・λ:X線の波長
・β:半値幅[rad]
・θ:回折角
【0039】
銅粒子Bは、銅元素を主体として含むことが好ましい。銅元素を主体として含むとは、銅粒子中の銅元素含有量が97.0質量%以上であることをいい、好ましくは97.5質量%以上、より好ましくは98.0質量%以上、更に好ましくは98.5質量%以上である。銅元素の含有量は、例えばICP発光分光分析法で測定することができる。
【0040】
銅粒子Bは、銅元素に加えて、銅元素以外の他の元素を含むものであるか、又は、銅元素からなり、不可避不純物を除いて銅元素以外の他の元素を含まないものである。銅粒子Bは、本発明の効果を損なわない限りにおいて、酸素元素等の微量の不可避不純物元素が含まれることが許容される。いずれの態様であっても、銅粒子における銅元素以外の他の元素の含有量は、好ましくは1.5質量%以下である。これらの元素の含有量は、例えばICP発光分光分析法で測定することができる。
【0041】
銅粒子Bは、該粒子に含まれる炭素元素の含有量が少ないことも好ましい。詳細には、銅粒子Bにおける炭素元素の含有量は、好ましくは5000ppm以下であり、より好ましくは4500ppm以下であり、更に好ましくは4000ppm以下であり、少なければ少ないほど好ましいが、100ppm以上が現実的である。炭素元素の含有量がこのような範囲であることによって、銅粒子表面に存在する有機物による焼結阻害を比較的抑えることが可能である。このような銅粒子は、例えば後述する製造方法によって製造することができる。
【0042】
炭素元素の含有量は、例えば、ガス分析や燃焼式炭素分析などの方法で測定することができる。炭素元素の含有量の測定にあたっては、まず銅粒子B表面に被覆処理が行われているか否かを判断する。この確認方法は、例えばX線光電子分光(XPS)法、核磁気共鳴(NMR)法、ラマン分光法、赤外分光法、液体クロマトグラフィー法、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)等の方法を単独で又は組み合わせて行う方法が挙げられる。この方法によって粒子表面に被覆処理が行われていると判断されれば、上述の方法を単独で又は複数組み合わせて、被覆処理によって形成された被覆層に含まれる元素の種類及びその量を定性分析及び定量分析を行う。これに加えて、熱重量測定(TG)によって、焼成温度前後で生じる質量変化とその温度まで加熱したあとの炭素量の測定とによって、有機物の物性を評価可能である。
粒子表面に被覆処理が行われていないと判断された場合には、測定対象となる銅粒子Bをそのまま測定に供して、得られた定量値を銅粒子Bに含まれる炭素元素含有量とする。
【0043】
銅粒子Bは、該粒子に含まれるリン元素の含有量が所定の範囲であることも好ましい。詳細には、銅粒子におけるリン元素の含有量は、好ましくは300ppm以上、より好ましくは300ppm以上1500ppm以下、更に好ましくは300ppm以上1000ppmである。リン元素の含有量をこのような範囲にすることによって、銅が有する導電性を十分に維持しつつ、融点降下を発生させて、焼結温度更に低下させることができる。このような銅粒子は、例えば後述する製造方法によって製造することができる。銅粒子B中のリン元素の有無及びその含有量は、例えば、ICP発光分光分析法で測定することができる。
【0044】
上述のとおり、銅粒子Bの炭素含有量が少ないほど、焼結阻害が起こりにくく、銅粉の低温での焼結が可能となる。尤も、上述した炭素元素の含有量の範囲であれば、銅粒子Bの表面に存在する有機物による焼結阻害を比較的抑えることが可能であるため、銅粒子Bの表面に有機物を意図的に施してもよい。
【0045】
銅粒子Bの表面に施す有機物としては、例えば各種の脂肪酸や脂肪族有機酸の銅塩、及び脂肪族アミンを挙げることができる。このような有機物を銅粒子Bの表面に施すことによって、銅粒子間での凝集を抑制することができる。特に炭素数6以上18以下、とりわけ炭素数10以上18以下である飽和又は不飽和脂肪酸あるいは脂肪族アミンを用いることが、銅粉の低温焼結性の向上の点から好ましい。そのような脂肪酸あるいは脂肪族アミンの具体例としては、安息香酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ラウリルアミン、オレイルアミン、ステアリルアミンなどが挙げられる。これらの脂肪酸あるいは脂肪族アミンは、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0046】
銅粒子Bは、本発明の効果が奏される限りにおいて、その形状は特に制限されないが、後述する方法によって製造される場合には、好ましくは扁平形状である。このような粒子は、互いに対向するほぼ平坦な一対の主面と、両主面に交差する側面とを有し、該主面の最大差し渡し長さが厚みに比べて大きい板状のものである。この場合、銅粒子Bにおける主面を平面視したときに、その形状は、直線どうしの組み合わせ、又は直線及び曲線の組み合わせによって画定される輪郭を有することも好ましい。
【0047】
本発明の銅粉を含む銅ペーストから製造された導電膜は高い緻密性及び連続性を有する。該導電膜の緻密性及び連続性をより一層高める観点から、銅粒子Aと銅粒子Bの合計に対する銅粒子Aの含有割合は60質量%以上99質量%以下であることが好ましく、65質量%以上88質量%以下であることがより好ましく、70質量%以上85質量%以下であることが更に好ましい。
同様の観点から、銅粒子Aと銅粒子Bの合計に対する銅粒子Bの含有割合は1質量%以上40質量%以下であることが好ましく、12質量%以上35質量%以下であることがより好ましく、15質量%以上30質量%以下であることが更に好ましい。
【0048】
次に、本発明の銅粉の好適な製造方法について説明する。本発明の銅粉は、好適には、銅粒子A及び銅粒子Bを上述の好ましい割合で混合することによって製造される。以下、銅粒子A及び銅粒子Bの好適な製造方法、並びに銅粒子A及び銅粒子Bの混合方法について順に詳述する。
【0049】
<銅粒子Aの製造方法>
まず、銅粒子Aの好適な製造方法について説明する。本製造方法は、銅からなるコア粒子と、脂肪族有機酸の銅塩を含む溶液とを接触させて、コア粒子の表面を被覆する被覆層を形成するものである。
【0050】
まず、脂肪族有機酸の銅塩による表面処理に先立ち、銅からなるコア粒子を用意する。銅のコア粒子の製造方法としては、例えば特開2015-168878号公報に記載の湿式による方法で製造することできる。すなわち、水と、好ましくは炭素原子数が1以上5以下の一価アルコールとを含む液媒体に、塩化銅、酢酸銅、水酸化銅、硫酸銅、酸化銅又は亜酸化銅等の一価又は二価の銅源を含む反応液を調製する。この反応液とヒドラジンとを、銅1モルに対して好ましくは0.5モル以上50モル以下の割合となるように混合し、該銅源を還元して、銅からなるコア粒子を得る。本方法で得られるコア粒子は、その表面に脂肪族有機酸の銅塩等の表面処理剤が施されていないものであり、且つ粒径が小さいものである。
【0051】
上述の工程で得られたコア粒子は、洗浄処理することが好ましい。洗浄方法としては、例えばデカンテーション法や、ロータリーフィルター法等が挙げられる。ロータリーフィルター法でコア粒子を洗浄する場合、例えばコア粒子を水等の溶媒に分散させた水性スラリーを調製し、該スラリーの導電率が好ましくは2.0mS以下となるまで洗浄を行う。このときの洗浄条件は、例えば、洗浄溶媒として水を用いた場合、洗浄温度を15℃以上30℃以下、洗浄時間を10分以上60分以下とすることができる。スラリーの導電率を上述の範囲とすることによって、洗浄対象のコア粒子が凝集することなく均一に分散したままで、後述する表面処理を効率よく行うことができる。このスラリー中の銅からなるコア粒子の含有割合は、洗浄効率の向上と粒子の分散性の向上とを両立する観点から、好ましくは5質量%以上50質量%以下である。
【0052】
また、上述の方法に代えて、銅からなるコア粒子の別の製造方法として、例えば国際公開第2015/122251号パンフレットに記載の直流熱プラズマ(DCプラズマ)法を採用してもよい。詳細には、銅の母粉をPVD法の一種である直流熱プラズマ法に付して、該母粉からコア粒子を生成させることができる。本方法で得られるコア粒子も、その表面に脂肪族有機酸の銅塩等の表面処理剤が施されていないものであり、且つ粒径が小さいものである。必要に応じて、得られたコア粒子に対して、解砕処理や分級処理を行って、粗大粒子や微粒子を分離又は除去してもよい。
【0053】
次いで、上述した方法で得られたコア粒子に対して、表面処理剤による表面処理を行って、コア粒子の表面を被覆する被覆層を形成する。表面処理の方法としては、例えばコア粒子と、脂肪族有機酸の銅塩を溶媒に溶解させた溶液とを接触させる方法を採用することができる。本工程において脂肪族有機酸の銅塩と接触させるコア粒子の形態は、コア粒子を水等の溶媒に分散させた水性スラリーであってもよく、溶媒等に分散させていない乾燥状態のものであってもよい。また本工程における接触順序としては、コア粒子及び脂肪族有機酸の銅塩溶液のうち一方を他方に添加してもよく、コア粒子及び脂肪族有機酸の銅塩の溶液を同時に接触させてもよい。
コア粒子に対して脂肪族有機酸の銅塩による表面処理を均一に行う観点から、コア粒子が分散したスラリー中に脂肪族有機酸の銅塩の溶液を添加する方法を採用することが好ましい。
【0054】
脂肪族有機酸の銅塩溶液にコア粒子を添加して、表面処理を行う方法を例にとり以下に説明する。まず、脂肪族有機酸の銅塩溶液に用いられる溶媒を、使用する溶媒の沸点以下の温度(例えば25℃以上80℃以下)に加熱し、その状態下で、該溶媒に脂肪族有機酸の銅塩を添加し、脂肪族有機酸の銅塩溶液を調製する。次いで、銅塩溶液の温度を脂肪族有機酸の銅塩の融点以上に維持したまま、乾燥状態のコア粒子又はコア粒子含有スラリーを脂肪族有機酸の銅塩溶液に添加して、その後1時間撹拌し、コア粒子の表面に表面処理を施す。この方法によって得られた銅粒子Aは、銅からなるコア粒子の表面に脂肪族有機酸の銅塩からなる被覆層が形成されたものとなる。コア粒子含有スラリーを用いて表面処理を行う場合、該スラリーは脂肪族有機酸の銅塩の融点以上の温度に加熱されていることが、被覆層をコア粒子の表面に均一に形成させる観点から好ましい。
【0055】
脂肪族有機酸の銅塩の溶液を用いた表面処理において、コア粒子を含む反応溶液中の脂肪族有機酸の銅塩の含有量は、表面処理が施されていないコア粒子100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上3.0質量部以下、より好ましくは0.2質量部以上2.0質量部以下とする。このような量で表面処理を行うことによって、上述した炭素原子割合で表面処理された銅粒子Aを得ることができる。
【0056】
脂肪族有機酸の銅塩を溶解させる溶媒は、炭素原子数が1以上5以下である一価アルコール、多価アルコール、多価アルコールのエステル、ケトン、エーテル等の有機溶媒を挙げることができる。これらのうち、水との相溶性、経済性、取扱い性及び除去の容易性の観点から、炭素原子数が1以上5以下の一価アルコールを用いることが好ましく、メタノール水溶液、エタノール、1-プロパノール、又はイソプロピルアルコールを用いることが更に好ましい。
【0057】
以上の工程を経て得られた銅粒子Aは、必要に応じて洗浄や固液分離を行った後、銅粒子Aを水や有機溶媒等の溶媒に分散させたスラリーの形態で銅粒子Bと混合させてもよく、銅粒子Aを乾燥させて、銅粒子の集合体である乾燥粉の形態で銅粒子Bと混合させることもできる。いずれの場合であっても、本発明の銅粉に銅粒子Aを含ませることによって、構成金属である銅の酸化が抑制され、且つ粒子の凝集が抑制されたものでありながら、焼結温度の低い優れた銅粉となる。
【0058】
<銅粒子Bの製造方法>
次に、銅粒子Bの好適な製造方法を説明する。本製造方法は、銅イオンを還元して亜酸化銅を生成させる第1還元工程と、二リン酸以上のポリリン酸又はそれらの塩(以下、これをポリリン酸類ともいう)の存在下で亜酸化銅を還元して銅粒子を生成させる第2還元工程との2つの還元工程を備える。
ポリリン酸類は、第2還元工程を行うときに、又は第2還元工程を行う前のいずれかの段階において、反応系に存在させる。つまり、ポリリン酸類は、第1還元工程を行う前に又は第1還元工程を行うときに反応系に存在させて、その状態で第2還元工程を行ってもよい。これに代えて、第1還元工程ではポリリン酸類を反応系に存在させずに、第1還元工程の終了後、第2還元工程を行うときに又はその直前にポリリン酸類を反応系に存在させてもよい。
【0059】
本製造方法は、還元反応の均一な制御、及びこれに起因して得られる銅粒子の生産性向上、並びに製造コストの低減を兼ね備える観点から、いずれの還元工程も水性液中での還元を行う湿式条件下で行うことが好ましく、またいずれの還元工程も同一の反応系で行うことが好ましい。以下に、湿式条件で且つ同一の反応系での製造方法を例にとり説明する。
【0060】
まず、銅源及び還元性化合物を含む反応液を調製して第1還元工程を行って、銅イオンを還元して亜酸化銅を液中に生成させる。反応液の調製は、溶媒に各原料を同時に添加して反応液としてもよく、各原料を任意の順序で溶媒に添加してもよい。
銅イオンの還元反応を制御しやすくして、製造時の取扱い性を高める観点から、銅源と溶媒とを予め混合して銅含有溶液とした後、固体の還元性化合物、又は溶媒に予め溶解した還元性化合物溶液を銅含有溶液に添加することが好ましい。還元性化合物は一括添加でもよく、逐次添加でもよい。
【0061】
第1還元工程においては、上述のとおり、ポリリン酸類が反応液中に含まれていてもよく、非含有としてもよい。ポリリン酸類を反応液中に存在させる場合、銅源、ポリリン酸類及び還元性化合物の順に添加することが、還元性化合物による銅イオンの還元及び結晶成長の制御を効果的に行える点で好ましい。
【0062】
反応液における溶媒は、水や、メタノール、エタノール、プロパノール等の低級アルコールを用いることができる。これらは単独で又は複数組み合わせて用いることができる。
【0063】
第1還元工程に用いる銅源としては、反応液中で銅イオンを生成する化合物が挙げられ、水溶性の銅化合物が好ましく挙げられる。このような銅源の具体例としては、ギ酸銅、酢酸銅、プロピオン酸銅等の銅有機酸塩や、硝酸銅、硫酸銅等の銅無機酸塩等の各種の銅化合物が挙げられる。これらの銅化合物は、無水物であってもよく、水和物であってもよい。これらの銅化合物は単独で又は複数組み合わせて用いることができる。
【0064】
第1還元工程における反応系中の銅源の含有量は、銅元素のモル濃度で表して、好ましくは0.01mol/L以上2.0mol/L以下、より好ましくは0.1mol/L以上1.5mol/L以下である。このような範囲であることによって、粒径が小さく且つ特定の結晶面での結晶子サイズが小さい銅粒子を生産性高く製造することができる。
【0065】
還元性化合物としては、水溶性の化合物が好ましく挙げられる。還元性化合物の具体例としては、ヒドラジン、塩酸ヒドラジン、硫酸ヒドラジン及び抱水ヒドラジン等のヒドラジン系化合物、水素化ホウ素ナトリウムやジメチルアミンボラン等のホウ素化合物及びその塩、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム及びチオ硫酸ナトリウム等の硫黄オキソ酸塩、亜硝酸ナトリウム及び次亜硝酸ナトリウム等の窒素オキソ酸塩、亜リン酸、亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸及び次亜リン酸ナトリウム等のリンオキソ酸及びその塩が挙げられる。これらの還元性化合物は、無水物であってもよく、水和物であってもよい。これらの還元性化合物は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0066】
第1還元工程における還元生成物が亜酸化銅となるように制御しやすくして、以後の還元工程における銅の粒成長を制御しやすくして所定の結晶子サイズを有する粒子を得やすくする観点、及び還元後における炭素元素等の不純物の意図しない混入を低減する観点から、還元性溶液中の還元性化合物としてヒドラジン系化合物を用いることが好ましく、ヒドラジンの無水物又は水和物を用いることが更に好ましい。
【0067】
第1還元工程における反応液中の還元性化合物の含有量は、銅元素1モルに対して、好ましくは0.1モル以上2モル以下、より好ましくは0.1モル以上1モル以下とする。還元性化合物の濃度をこのような範囲に制御することによって、銅イオンの還元反応及び粒成長の進行を適度に制御して、粒径が小さく且つ特定の結晶面での結晶子サイズが小さい銅粒子を生産性高く得ることができる。
【0068】
第1還元工程における反応液は、その25℃におけるpHが3以上5以下の酸性条件にすることが、還元性化合物、特にヒドラジン系化合物を用いた場合に、亜酸化銅への還元が進行し、且つ金属銅への還元には進行しない程度に還元性の度合いを適度に制御しつつ、第2還元工程において進行する銅の結晶成長に異方性を持たせやすくすることができる点で好ましい。第1還元工程においては、pHの調整を行ったあと、還元性化合物を添加することが、銅イオンの還元の度合いを適切に制御できる点で好ましい。
【0069】
pHの調整は、本発明の効果が奏される限りにおいて、各種の酸や塩基性物質を用いたり、あるいはポリリン酸類を反応液中に存在させたりすることができる。特に、pHの調整において、ポリリン酸類を用いることによって、他の物質を反応系中に添加しなくとも以後の反応を効率的に行えるので、意図しない不純物の混入を防ぎ、目的とする銅粒子を効率的に得られる点で有利である。
【0070】
第1還元工程における還元反応は、反応液を非加熱状態で行ってもよく、加熱状態で行ってもよい。いずれの場合であっても、反応液の温度は、好ましくは10℃以上60℃以下、より好ましくは20℃以上50℃以下とする。第1還元工程における反応時間は、上述の温度範囲であることを条件として、好ましくは0.1時間以上2時間以下、より好ましくは0.2時間以上1時間以下とする。また還元反応の均一性の観点から、反応開始時点から反応終了時点にわたって、反応液の撹拌を継続することも好ましい。
【0071】
続いて、第1還元工程において得られた亜酸化銅を還元して、金属銅の粒子を生成させる第2還元工程を行う。第2還元工程についても、第1還元工程と同様に湿式条件で行うことが好ましく、また両還元工程は同一の反応系で行うことがより好ましい。
【0072】
上述のとおり、第2還元工程を行うときに、又は第2還元工程を行う前のいずれかの段階において、反応系にポリリン酸類を存在させることが好ましい。本製造方法に用いられるポリリン酸類としては、二リン酸(H4P2O7)、三リン酸(トリポリリン酸、H5P3O10)、テトラポリリン酸(H6P4O13)等といった、構造中にリン酸モノマー単位を好ましくは2つ以上8つ以下、より好ましくは2つ以上5つ以下有するポリリン酸及びこれらの塩が挙げられる。ポリリン酸塩としては、アルカリ金属塩や、アルカリ土類金属塩、他の金属塩、アンモニウム塩等が挙げられる。これらは単独で又は複数組み合わせて用いることができる。
【0073】
第2還元工程におけるポリリン酸類の含有量は、銅元素1モルに対して、好ましくは0.1ミリモル以上、より好ましくは0.1ミリモル以上1モル以下とする。ポリリン酸類の濃度をこのような範囲とすることによって、亜酸化銅の還元反応に起因する銅の結晶成長に異方性を持たせるように行うことができ、粒径が小さく且つ特定の結晶面での結晶子サイズが小さい銅粒子を生産性高く得ることができる。なお、ポリリン酸類を第1還元工程の時点で含有させる場合、ポリリン酸類は第1還元工程での反応では消費されず、ポリリン酸類の濃度は第1還元工程の前後で実質的に変化しないので、第1還元工程において上述の濃度範囲でポリリン酸類を反応系に添加することによって、第2還元工程における金属銅への還元及び粒成長に好適なポリリン酸類の存在量は十分に達成できる。
【0074】
第2還元工程においては、上述した還元性化合物を添加して、金属銅への還元を行うことができる。第2還元工程における反応液中の還元性化合物の含有量は、銅元素1モルに対して、好ましくは1モル以上8モル以下、より好ましくは2モル以上6モル以下とする。第2還元工程を第1還元工程と同一の反応系で行う場合、還元性向上と不純物低減の制御とを両立する観点から、還元性化合物を上述の含有量となるように液中に更に添加することが好ましい。また還元性化合物の種類は各還元工程で同一のものを用いることも好ましい。
還元性化合物の濃度をこのような範囲に制御することによって、金属銅への還元反応を十分に進行させて、粒径が小さく且つ特定の結晶面での結晶子サイズが小さい銅粒子を生産性高く得ることができる。
【0075】
第2還元工程における還元性化合物は、一括添加でもよく、逐次添加でもよい。上述した結晶子サイズの比や粒子径を満たす銅粒子を効率よく得る観点から、逐次添加を採用することが好ましい。
【0076】
第2還元工程における反応液は、その25℃におけるpHが7.0以上の非酸性条件(中性又はアルカリ性条件)にすることが、還元性化合物、特にヒドラジン系化合物を用いた場合に、反応液中に残存する銅イオン及び亜酸化銅の金属銅への還元を効率的に進行させ、銅の結晶成長に異方性を持たせやすくすることができる点で好ましい。pHの調整は、第2還元工程において還元性化合物を添加する前に行うことが、銅イオンの還元の度合いを適切に制御できる点で好ましい。pHの調整は、各種の酸や塩基性物質を用いることができる。
第2還元工程を第1還元工程と同一の反応系で行う場合、第1還元工程後の反応液は酸性条件となっているので、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどの塩基性物質を添加することによって、反応液のpHを調整することが好ましい。第2還元工程においては、pHの調整を行ったあと、還元性化合物を添加することが、銅イオン及び亜酸化銅を金属銅に効率的に還元できる点で好ましい。
【0077】
反応液中の銅イオン及び亜酸化銅の還元を効率よく進行させ、所定の結晶子サイズを有する銅粒子を生産性高く得る観点から、第2還元工程においては、反応液を加熱することが好ましい。反応液の加熱条件は、第2還元工程の開始時点、すなわち還元性化合物の添加時点から、反応終了時点にわたって、10℃以上60℃以下、特に20℃以上50℃以下に維持するように加熱することが好ましい。反応時間は、上述の温度条件において、30分以上720分以下とすることが好ましい。また、還元反応を均一に生じさせて、粒径のばらつきが少ない銅粒子を得る観点から、反応開始時点から反応終了時点にわたって、反応液の撹拌を継続することも好ましい。
【0078】
本製造方法において、銅イオンが亜酸化銅を経て金属銅に還元するという二段階の還元工程を行うこと、及び第2還元工程を行う際にポリリン酸類を存在させることで、焼結温度の低い銅粒子が得られる理由について、本発明者は以下のように推測している。
まず第1還元工程において、反応液中の還元性化合物によって銅イオンが還元され、亜酸化銅の非常に微小な粒子が反応液中に生成する。続いて、第2還元工程において、亜酸化銅粒子から溶出した一価の銅イオンが還元され金属銅の核を形成する。この核は非常に不安定であるため、核どうしの合体、又は反応液中への再溶解を繰り返し、最終的に粒子が成長していく。この粒子成長時にポリリン酸類が存在すると、銅の特定の結晶面にポリリン酸類が吸着し、当該結晶面方向の成長が抑制される。一方、ポリリン酸類が吸着しない結晶面は、成長が抑制されず、当該結晶面方向の成長が進行する。
金属銅が面心立方構造の結晶構造をとりやすい点と、得られた銅粒子のX線回折測定による結果とに基づくと、ポリリン酸類が吸着する結晶面は、当該粒子における銅の(111)面と推定され、ポリリン酸類が吸着しない結晶面は、銅の(111)面の垂直方向に位置する銅の(220)面であると推定される。このことから、銅の(111)面の成長が抑制され、かつ銅の(220)面の成長が進行するという異方的な成長となり、その結果、焼結温度の低い扁平状の銅粒子となると考えられる。
【0079】
また銅粒子Bの好適な製造方法として、特に第1還元工程では酸性条件で還元反応を行うことによって、銅イオンを亜酸化銅に還元できる程度であり且つ金属銅までは還元できない程度の還元力に制御できる。これに加えて、以後の金属銅生成反応の制御も容易になる。その後、非酸性条件とすることで、亜酸化銅の溶出速度を低下させ、一価の銅イオン供給を制御することができる。その環境下で第2還元を行うことで、金属銅への還元反応速度を緩やかな条件に調整することができるので、核成長速度を制御できる点で特に有利である。
【0080】
以上の工程を経て得られた銅粒子Bは、有機アミンやアミノアルコール、還元糖などの結晶成長を制御する有機成分を非含有とした場合であっても、上述した好適な結晶子サイズ及びその比、好適な粒子径、炭素元素等の各種元素の好適な含有量を満たすものとなり、また、扁平状の形状を有するものとなる。
またこのようにして得られた銅粒子Bは、主面に存在し且つ主面に直交する方向に成長した結晶の結晶面と、側面に存在し且つ主面に沿う方向に成長した結晶の結晶面とがそれぞれ特定の配向方向を有し、各結晶面が一方向に均一に形成されたものとなる。したがって、銅粒子Bを含む銅粉を用いて、銅粒子Bの主面どうしが接触した状態、あるいは銅粒子Bの側面どうしが接触した状態で焼成した場合には、均等に整列した同一の結晶面どうしが接触することに起因して、融着に要するエネルギーを過度に必要とせず、低温での焼結が可能となる。
【0081】
以上の工程を経て得られた銅粒子Bは、必要に応じて洗浄や固液分離を行った後、銅粒子Bを水や有機溶媒等の溶媒に分散させたスラリーの形態で銅粒子Aと混合させてもよく、該粒子を乾燥させて、銅粒子Bの集合体である乾燥粉の形態で銅粒子Aと混合することもできる。いずれの場合であっても、銅粒子Bは、焼結温度の低い優れたものとなる。銅粒子Bは、必要に応じて、粒子同士の分散性の向上を目的として、脂肪酸又はその塩等の有機物や、ケイ素系化合物等の無機物による表面被覆処理を更に施してもよい。なお、本発明の効果が奏される限りにおいて、得られた銅粒子Bは、その表面が不可避的に微量酸化されるなどして、銅元素以外の他の元素を含むことは許容される。
【0082】
<銅粒子A及び銅粒子Bの混合方法>
銅粒子A及び銅粒子Bは、乾式又は湿式で混合することができるが、混合の簡便性の観点から、乾式で混合することが好ましい。乾式での混合は、公知の乾式混合装置を用いて行うことができる。湿式での混合は、具体的には有機溶媒や水溶媒中で混合することができる。
【0083】
本発明の銅粉は、有機溶媒や樹脂等に更に分散させて、導電性インクや銅ペースト等の導電性組成物の形態で用いることもできる。
本発明の銅粉を導電性組成物の形態とする場合、導電性組成物は、銅粉及び有機溶媒を少なくとも含んで構成される。有機溶媒としては、金属粉を含む導電性組成物の技術分野においてこれまで用いられてきたものと同様のものを特に制限なく用いることができる。そのような有機溶媒としては、例えば一価アルコール、多価アルコール、多価アルコールアルキルエーテル、多価アルコールアリールエーテル、ポリエーテル、エステル類、含窒素複素環化合物、アミド類、アミン類、及び飽和炭化水素などが挙げられる。これらの有機溶媒は、単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、高い還元作用を有し、焼結時における銅粒子の意図しない酸化を防ぐ観点から、ポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコールなどのポリエーテルを用いることが好ましい。同様の観点から、有機溶媒としてポリエチレングリコールを用いる場合、その数平均分子量は、120以上400以下であることが好ましく、180以上400以下であることが更に好ましい。
【0084】
本発明の銅粉を含む導電性組成物には、必要に応じて、分散剤、有機ビヒクル及びガラスフリットの少なくとも一種を更に添加してもよい。分散剤としては、ナトリウム、カルシウム、リン、硫黄及び塩素等を含有しない非イオン性界面活性剤等の分散剤等が挙げられる。有機ビヒクルとしては、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、エチルセルロース、カルボキシエチルセルロース等の樹脂成分と、ターピネオール及びジヒドロターピネオール等のテルペン系溶剤、エチルカルビトール及びブチルカルビトール等のエーテル系溶剤等の溶剤とを含む混合物が挙げられる。ガラスフリットとしては、例えばホウケイ酸ガラス、ホウケイ酸バリウムガラス、ホウケイ酸亜鉛ガラス等が挙げられる。
【0085】
本発明の銅粉を含む導電性組成物は、これを基板上に塗布して塗膜を形成し、この塗膜を焼成することによって、銅を含む導電膜を形成することができる。導電膜は、例えばプリント配線板の回路形成や、セラミックコンデンサの外部電極の電気的導通確保のために好適に用いられる。基板としては、銅粒子が用いられる電子回路の種類に応じて、ガラスエポキシ樹脂等からなるプリント基板や、ポリイミド等からなるフレキシブルプリント基板が挙げられる。
【0086】
本発明の銅粉を含む導電性組成物における銅粉及び有機溶媒の配合量は、該導電性組成物の具体的な用途や該導電性組成物の塗布方法に応じて調整可能であるが、導電性組成物における銅粉の含有割合は、好ましくは5質量%以上95質量%以下、より好ましくは80質量%以上90質量%以下である。塗布方法としては、例えばインクジェット法、ディスペンサ法、マイクロディスペンサ法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、ディップコーティング法、スピンコーティング法、スプレー塗布法、バーコーティング法、ロールコーティング法などを用いることができる。
【0087】
形成された塗膜を焼結させる際の加熱温度は、銅粉の焼結開始温度以上であればよく、例えば150℃以上220℃以下とすることができる。加熱時における雰囲気は、例えば酸化性雰囲気下、又は非酸化性雰囲気下で行うことができる。酸化性雰囲気としては、例えば酸素含有雰囲気が挙げられる。非酸化性雰囲気としては、例えば水素や一酸化炭素等の還元性雰囲気、水素-窒素混合雰囲気等の弱還元性雰囲気、アルゴン、ネオン、ヘリウム及び窒素等の不活性雰囲気が挙げられる。いずれの雰囲気を用いる場合であっても、加熱時間は、上述の温度範囲で加熱することを条件として、好ましくは1分以上3時間以下、更に好ましくは3分以上2時間以下とする。
【0088】
このようにして得られた導電膜は、本発明の銅粉の焼結によって得られたものであるので、比較的低温の条件で焼結を行った場合でも、十分に焼結を進行させることができる。また焼結時には、銅粉を構成する銅粒子が低温でも溶融するので、銅粒子どうし、あるいは銅粒子と基材の表面との接触面積を大きくすることができ、その結果、接合対象物との密着性が高く、且つ密な焼結構造を効率よく形成することができる。更に、得られた導電膜は、連続性、緻密性及び導電信頼性が高いものとなる。
【0089】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。例えば、本発明の銅粉は、所期の効果が奏される範囲において、銅粒子A及び銅粒子B以外の銅粒子を含んでもよい。
【0090】
本発明の上記の実施形態は、以下の技術思想を包含するものである。
[1] 以下の銅粒子A及び銅粒子Bを含み、
銅粒子Aと銅粒子Bの合計に対する銅粒子Aの含有割合が60質量%以上99質量%以下であり、銅粒子Bの含有割合が1質量%以上40質量%以下である、銅粉。
〔銅粒子A〕
銅からなるコア粒子と、該コア粒子の表面を被覆する被覆層とを備え、
前記被覆層は脂肪族有機酸の銅塩によって形成されており、
一次粒子径が0.1μm以上0.6μm以下である銅粒子。
〔銅粒子B〕
BET比表面積から算出されたBET径Bに対する、X線回折測定において銅の(111)面に由来するピークの半値幅からシェラーの式によって求められる第1結晶子サイズS1の比(S1/B)が0.23以下であり、
X線回折測定において銅の(220)面に由来するピークの半値幅からシェラーの式によって求められる第2結晶子サイズS2に対する、前記第1結晶子サイズS1の比(S1/S2)が1.35以下であり、
一次粒子径が0.1μm以上2.0μm以下である銅粒子。
[2] 銅粒子Bは、X線回折測定において銅の(311)面に由来するピークの半値幅からシェラーの式によって求められる第3結晶子サイズS3に対する、前記第1結晶子サイズS1の比(S1/S3)が1.35以下である、[1]に記載の銅粉。
[3] 銅粒子Bは炭素元素を含み、且つ該炭素元素の含有量が5000ppm以下である、[1]又は[2]に記載の銅粉。
[4] 銅粒子Bはリン元素を含み、且つ該リン元素の含有量が300ppm以上である、[1]ないし[3]のいずれか一項に記載の銅粉。
[5] [1]ないし[4]のいずれか一項に記載の銅粉を含む銅ペースト。
[6] [5]に記載の銅ペーストを基材に塗布して塗膜を形成し、該塗膜を焼成する、導電膜の製造方法。
【実施例】
【0091】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0092】
以下の実施例及び比較例では、銅粒子として銅粒子A-1、銅粒子A-2及び銅粒子B-1ないしB-3を用いた。これらのうち、銅粒子A-2としては特開2015-168878号公報に記載されている球状の銅粒子を用いた。
その他の銅粒子は、以下の方法によって製造した。
【0093】
〔銅粒子A-1の製造〕
特開2015-168878号公報の実施例1に記載の方法に準じて、表面処理剤が施されていない球状のコア粒子(銅:100質量%)が水に分散したスラリーを製造した。このスラリーをロータリーフィルターによって25℃で30分間洗浄して、洗浄処理されたコア粒子のスラリーを得た。洗浄後の導電率は1.0mSであり、球状の形状を有していた。またスラリー中の銅からなるコア粒子の含有量は、1000g(10質量%)であった。
【0094】
次いで、洗浄処理されたコア粒子のスラリーを50℃に加熱し、この状態下で、ラウリン酸銅(II)17gをイソプロピルアルコール4Lに溶解させた溶液を表面処理剤として瞬時に添加し、50℃で1時間撹拌した。その後、ろ過により固液分離を行い、脂肪族有機酸の銅塩の被覆層がコア粒子の表面に形成された銅粒子を固形分として得た。得られた銅粒子の表面処理剤の含有量は、炭素原子換算で0.7質量%であった。
次に、銅粒子A-1及びA-2について、以下の評価を行った。
【0095】
〔一次粒子の平均画像解析径の測定〕
銅粒子の一次粒子の平均画像解析径は上述の方法によって測定した。結果を以下の表1に示す。
【0096】
〔BET比表面積に基づくBET径Aの算出〕
まず、上述した測定方法によって、BET一点法に基づいて銅粒子A-1及びA-2の比表面積を測定し、当該比表面積に基づいてBET径Aを算出した。結果を表1に示す。
【0097】
〔10%質量減少時の温度の評価〕
25℃から1000℃まで加熱したときの熱重量分析において、500℃における質量減少値に対する質量減少値の割合が10%となる温度を、上述した条件で測定した。結果を表1に示す。
【0098】
〔赤外線吸収ピークの評価〕
銅粒子A-1及びA-2について、上述の方法で赤外分光法による測定を行った。1504cm-1以上1514cm-1以下、及び1584cm-1以上1596cm-1以下の各範囲を対象として、それぞれ独立に、赤外線吸収ピークを有するものを「あり」と評価し、赤外線吸収ピークを有しないものを「なし」と評価した。結果を表1に示す。
【0099】
【0100】
〔銅粒子B-1の製造〕
<第1還元工程>
温純水5.0リットル及びメタノール5.0リットルを入れたステンレス製タンク中に、銅源として2.5kgの酢酸銅一水和物と、ポリリン酸類として8.0gのトリポリリン酸ナトリウム(銅元素1モルに対するモル割合:0.002)を入れ、液温25℃にて30分間撹拌し、両者を溶解させた。
次いで、235.0gのヒドラジン(銅元素1モルに対するモル割合:1.55)を液中に添加した後、液温25℃の非加熱条件にて30分間にわたって撹拌を継続して、液中に亜酸化銅の微粒子を生成させた。亜酸化銅を生成させたあと、反応液を30分間攪拌した。
【0101】
<第2還元工程>
続いて、第1還元工程における反応液に対して、25%NaOH水溶液を添加して、液のpHを7.0に調整した。その後、液温を40℃に加熱し、1900.0gのヒドラジン(銅元素1モルに対するモル割合:3.0)を液中に10分間かけて定量的に逐次添加して、第2還元工程を行った。その後、液温が30℃となるように冷却し、150分間にわたって撹拌を継続し、亜酸化銅の微粒子が金属銅に還元された銅粒子を得た。
【0102】
このようにして得られた銅粒子の水性スラリーに対してデカンテーション洗浄を行って、電導度が1.0mSになるまで洗浄を行った(洗浄スラリー)。
洗浄処理されたコア粒子のスラリーを50℃に加熱し、この状態下で、ラウリン酸銅(II)4gをイソプロピルアルコール1Lに溶解させた溶液を表面処理剤として瞬時に添加し、50℃で1時間撹拌した。その後、ろ過により固液分離を行い、脂肪族有機酸の銅塩の被覆層がコア粒子の表面に形成された銅粒子を固形分として得た。その後乾燥して、銅粒子の集合体からなる銅粉を得た。得られた銅粒子は、銅元素含有量が98質量%超であり、扁平状の形状を有していた。
【0103】
〔銅粒子B-2の製造〕
トリポリリン酸ナトリウムの添加量を24g(銅元素1モルに対するモル割合:0.006)とした以外は銅粒子B-1と同様に製造して、銅粒子B-2を得た。得られた銅粒子は、銅元素含有量が98質量%超であり、扁平状の形状を有していた。
【0104】
〔銅粒子B-3の製造〕
硫酸銅五水和物4kg及びアミノ酢酸120gを水に溶解させて、液温70℃の銅塩水溶液8Lを作製した。そして、この水溶液を撹拌しながら、6.6kgの25質量%水酸化ナトリウム溶液を約5分間かけて一定速度で添加した。次いで、液温70℃で60分間の撹拌を行い、液色が完全に黒色になるまで熟成させて酸化第二銅を生成した。その後30分間放置し、グルコース1.5kg添加して、1時間熟成することで酸化第二銅を酸化第一銅に還元した。更に、水和ヒドラジン1kgを5分間かけて定量的に添加して酸化第一銅を還元することで金属銅にして、銅粉スラリーを生成した。得られた銅粉スラリーをろ過し、純水で十分に洗浄し、再度ろ過した後、乾燥した。得られたCu粉を特許4227373号記載の扁平化方法を用いて塑性変形させることで、略球形の銅粉を扁平状の銅粉にした。このとき、使用したビーズ径は0.7mmではなく、0.2mmに変更した。
【0105】
次に、銅粒子B-1ないしB-3について、以下の評価を行った。
【0106】
〔一次粒子の平均画像解析径の測定〕
銅粒子B-1ないしB-3について、各銅粒子の一次粒子の平均画像解析径は上述の方法によって測定した。結果を表2に示す。
【0107】
〔BET比表面積に基づくBET径Bの算出〕
銅粒子B-1ないしB-3のBET径Bを銅粒子AのBET径Aと同様の方法で測定した。結果を以下の表2に示す。
【0108】
〔炭素元素及びリン元素の含有量の測定〕
銅粒子B-1ないしB-3における銅粒子中の炭素元素の含有量は、炭素・硫黄分析装置(LECOジャパン合同会社製CS844)を用いて、銅粒子B-1ないしB-3のいずれか0.50gを磁性坩堝に入れて、キャリアガスは酸素ガス(純度:99.5%)とし、分析時間は40秒として測定した。測定結果を以下の表2に示す。
銅粒子中のリン元素の含有量は、銅粒子B-1ないしB-3のいずれか1.00gを15%硝酸水溶液50mLに溶解させた溶解液を、ICP発光分光分析装置(株式会社 日立ハイテクサイエンス製PS3520VDDII)に導入して測定した。測定結果を以下の表2に示す。
【0109】
〔結晶子サイズの測定〕
銅粒子B-1ないしB-3について、以下の方法で測定を行った。まず、銅粒子B-1ないしB-3の洗浄スラリーを用いて、20質量%水性スラリーを調製した。その後、50℃に加熱した該スラリーに表面被覆処理剤としてラウリン酸銅12gを溶解させたイソプロピルアルコール溶液を一度に添加し、1時間撹拌した。その後、ろ過により固液分離して得られた固形分を真空乾燥させて、表面被覆処理が施された銅粒子を得た銅粉を75μmの目開きの篩を用いて分級し、その篩下分をサンプルとした。このサンプルをサンプルホルダーに充填し、X線回折装置(株式会社Rigaku製 Ultima IV)を使用し、以下の条件で測定を行った。
その後、回折ピークのうち、銅の(220)面、(111)面又は(311)面に相当する位置のメインピークを対象として、該ピークの半値幅の全幅に基づいて、上述したシェラーの式を用いて、各結晶子サイズS1ないしS3、並びにS1/S2及びS1/S3比を算出した。また得られた各結晶子サイズから、S1/B比を算出した。結果を以下の表2に示す。
【0110】
<X線回折測定条件>
・管球:CuKα線
・管電圧:40kV
・管電流:50mA
・測定回折角:2θ=20~100°
・測定ステップ幅:0.01°
・収集時間:3sec/ステップ
・受光スリット幅:0.3mm
・発散縦制限スリット幅:10mm
・検出器:高速1次元X線検出器 D/teX Ultra250
【0111】
<X線回折用試料の調製方法>
測定対象の銅粉を測定ホルダに敷き詰め、銅粉の厚さが0.5mmで且つ平滑になるように、ガラスプレートを用いて平滑化した。
【0112】
上述の測定条件にて得られたX線回折パターンを用いて、以下の条件にて、解析用ソフトウェアで解析した。解析には、ピーク幅の補正にLaB6値を用いて補正した。結晶子サイズは、ピークの半値幅の全幅とシェラー定数(0.94)とを用いて算出した。
【0113】
<測定データ解析条件>
・解析ソフトウェア:Rigaku製PDXL2
・平滑処理:ガウス関数、平滑化パラメータ=10
・バックグラウンド除去:フィッティング方式
・Kα2除去:強度比0.497
・ピークサーチ:二次微分法
・プロファイルフィッティング:FP法
・結晶子サイズ分布タイプ:ローレンツモデル
・シェラー定数:0.9400
【0114】
なお、解析を行う際に使用したX線回折パターンのピークは、以下のとおりである。以下に示すミラー指数は、上述した銅の結晶面と同義である。
・2θ=71°~76°付近にあるミラー指数(220)で指数付けされるピーク。
・2θ=40°~45°付近にあるミラー指数(111)で指数付けされるピーク。
・2θ=87.5°~92.5°付近にあるミラー指数(311)で指数付けされるピーク。
【0115】
【0116】
〔実施例1ないし7及び9並びに比較例1ないし7〕
銅粒子A-1、A-2、及びB-1ないしB-3を以下の表3に示す割合で混合し、各実施例及び各比較例の銅粉を得た。具体的には、100mL容器に各銅粒子を表3に示す割合で加え、次いで小型ボールミル(アサヒ理化製AV-1)を用いて混合することで各実施例及び各比較例の銅粉を得た。混合は、100rpmで1時間行った。
上述のようにして得た銅粉と、数平均分子量が200のポリエチレングリコールとを3本ロール混練機を用いて混合し、銅粉を85質量%含む銅ペーストを得た。
なお、表3には銅粒子の合計100質量部に対する各銅粒子成分の含有量が示されている。また「固形分濃度」とは、銅ペースト全体の質量に対する銅粉の質量の割合を示す。
【0117】
〔ペースト印刷性の評価〕
各実施例及び各比較例のペースト印刷性を、以下の評価基準に基づいて評価した。
<ペースト印刷性の評価基準>
可:縦2cm、横1cmの大きさでマスキングしたガラス板上に塗工可能。
不可:上記条件において連続性のある塗膜を形成できない。
【0118】
〔導電膜の製造〕
各実施例及び各比較例の銅ペーストをガラス基板上に塗布し、該基板を窒素雰囲気下、190℃で10分間焼成し、導電膜をガラス基板上に形成させた。
得られた導電膜は、縦2cm、横1cm、厚さ30μmであり、それらについて、以下の評価を行った。
【0119】
〔製膜強度の評価〕
各導電膜の製膜強度を、以下の評価基準に基づいて評価した。
<製膜強度の評価基準>
高:導電膜表面をスクラッチして、粉が手につかない。
低:導電膜表面をスクラッチして、粉が手につく。
【0120】
〔導電膜の抵抗率の測定〕
各導電膜の抵抗率を、抵抗率計(三菱ケミカルアナリテック株式会社製、Loresta-GP MCP-T610)を用いて測定した。測定対象の導電膜について3回測定し、その算術平均値を抵抗率(μΩ・cm)とした。抵抗率は低ければ低いほど導電膜の抵抗が小さいことを示し、50μΩ・cm以下であることが好ましい。結果を以下の表3に示す。
【0121】
〔導電膜の厚さ評価〕
Cuペーストの焼成膜の厚さは、デジタル測長機(ニコン社製 MFC-101)を用いて, 導電膜及びガラス基板の厚さと、ガラス基板のみの厚さとを測定し、これらの厚さの差分を導電膜の厚さとして求めた。
【0122】
〔導電膜の表面粗さRaの測定〕
各導電膜の表面粗さ(平均粗さRa)は、表面粗さ・輪郭形状測定機(東京精密社製 SURFCOM 130A)を使用し、各導電膜に対し、3か所測定し、得られた値の平均値を求めた。結果を表3に示す。
表面粗さRaは、電気的抵抗の観点から、2.0以下であることが好ましい。また、導電膜の表面粗さRaが小さいことは、該導電膜の緻密性が高いことを意味する。
【0123】
〔接合強度の測定〕
片面が#800の研磨シートで研磨された5mm角の銅チップに対し、研磨側に2mm×2mm×30μmの形で銅ペーストをスクリーン印刷し、片面が#800の研磨シートで研磨された3mm角の銅チップを研磨面が接合面となるように載せた。その後、加圧焼成機(井元製作所製IMC-1AB6)を用いて、5MPaで加圧しながら、窒素雰囲気下、200℃、30分間焼成し、接合させた。得られた接合体をボンドテスター(XYZTEC社製 Condor Sigma)を用いて、接合強度を測定した。
上述した測定を3回実施し、接合強度の最大値と平均値を算出した。これを表3に示す。表3において、接合強度は比較例3の接合強度が1.0になるように規格化した値である。また表3において、「-」は未測定を示す。
【0124】
【0125】
表3に示すとおり、各実施例の導電膜はいずれも、190℃という比較的低温での焼成によって製造したにもかかわらず、低い抵抗率を有していた。このことから、各実施例で用いた銅粉は低い焼結温度を有していることが分かる。また、各実施例の導電膜はペースト印刷性に優れ、且つ表面粗さRaが低いことから、良好な連続性及び緻密性を有していることも分かる。
また、実施例2と比較例1との比較から分かるように、同じ扁平状銅粒子でも、銅粒子B-3等の機械的に扁平化させた銅粒子を用いた場合には銅粉の焼結温度が上昇し、導電膜の抵抗率が高くなる。
【0126】
〔実施例8、比較例8及び比較例9〕
以下の表4に示すように、銅粉と数平均分子量が200のポリエチレングリコールとを3本ロール混練機を用いて混合する際、銅粉とポリエチレングリコールとの混合割合を変更し、銅粉を90質量%含む銅ペーストを作成した以外は実施例2、比較例3、及び比較例5と同様にして、実施例8、比較例8、及び比較例9の銅ペースト及びその導電膜を作成した。これらの銅ペースト及びその導電膜について、実施例1ないし7及び比較例1ないし7と同様の評価を行った。結果を表4に示す。
【0127】
【0128】
表4に示すとおり、銅粒子A-1及びB-1の両方を含む、実施例2及び8の銅粉は、銅ペースト中の有機溶媒の含有量を変更した場合でも、導電膜の抵抗率及び表面粗さRaが悪影響を受けにくい。一方、比較例8及び比較例9に示すように、銅粒子A-1及びB-1のいずれか一方しか含まない銅粉を用いた場合に銅ペースト中の有機溶媒の含有量を10質量%とすると、特に導電膜の抵抗率が大きく上昇することが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明によれば、連続性及び緻密性が高い導電膜を製造でき、且つ、焼結温度が低い銅粉が提供される。
【要約】
以下の銅粒子A及び銅粒子Bを含み、銅粒子Aと銅粒子Bの合計に対する銅粒子Aの含有割合が60質量%以上99質量%以下であり、銅粒子Bの含有割合が1質量%以上40質量%以下である、銅粉。
〔銅粒子A〕
銅からなるコア粒子と、該コア粒子の表面を被覆する被覆層とを備え、前記被覆層は脂肪族有機酸の銅塩によって形成されており、一次粒子径が0.1μm以上0.6μm以下である銅粒子。
〔銅粒子B〕
BET径Bに対する、X線回折測定において銅の(111)面に由来するピークの半値幅から求められる第1結晶子サイズS1の比(S1/B)が0.23以下であり、(220)面に由来するピークの半値幅から求められる第2結晶子サイズS2に対するS1の比(S1/S2)が1.35以下であり、一次粒子径が0.1μm以上2.0μm以下である銅粒子。