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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-06
(45)【発行日】2024-06-14
(54)【発明の名称】アーク溶接方法及びアーク溶接装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/073 20060101AFI20240607BHJP
   B23K 9/12 20060101ALI20240607BHJP
【FI】
B23K9/073 545
B23K9/12 305
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021520668
(86)(22)【出願日】2020-04-24
(86)【国際出願番号】 JP2020017615
(87)【国際公開番号】W WO2020235293
(87)【国際公開日】2020-11-26
【審査請求日】2023-04-17
(31)【優先権主張番号】P 2019096140
(32)【優先日】2019-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106116
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100131495
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 健児
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 駿
(72)【発明者】
【氏名】松岡 範幸
(72)【発明者】
【氏名】古和 将
(72)【発明者】
【氏名】中川 晶
(72)【発明者】
【氏名】藤原 潤司
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-094840(JP,A)
【文献】特開昭59-070469(JP,A)
【文献】特開2006-122912(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/073
B23K 9/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接ワイヤと母材とが短絡する短絡状態が生じる短絡期間と前記溶接ワイヤと前記母材との間にアークが発生するアーク状態が生じるアーク期間とを交互に繰り返し含むアーク溶接方法であって、
前記溶接ワイヤが短絡した後で、所定の期間内に該溶接ワイヤに供給された電力を積算して電力積算値を算出する工程と、
前記電力積算値が所定の閾値よりも大きい場合に、前記溶接ワイヤに供給する溶接電流を低下させる工程とを備え
前記電力積算値を算出する工程では、前記溶接ワイヤが短絡してから前記溶接電流が上昇し始めた後で、該電力積算値の算出を開始するアーク溶接方法。
【請求項2】
溶接ワイヤと母材とが短絡する短絡状態が生じる短絡期間と前記溶接ワイヤと前記母材との間にアークが発生するアーク状態が生じるアーク期間とを交互に繰り返し含むアーク溶接方法であって、
前記溶接ワイヤが短絡した後で、所定の期間内に該溶接ワイヤに供給された電力を積算して電力積算値を算出する工程と、
前記電力積算値が所定の閾値よりも大きい場合に、前記溶接ワイヤに供給する溶接電流を低下させる工程と、
前記溶接ワイヤが短絡してから前記溶接電流が上昇し始めた後、又は短絡して所定時間が経過した後で、該溶接ワイヤを逆送する工程とを備えたアーク溶接方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記電力積算値を算出する工程では、前記溶接ワイヤが短絡してから所定時間が経過した後で、該電力積算値の算出を開始するアーク溶接方法。
【請求項4】
請求項1又は2において、さらに、前記電力積算値が前記所定の閾値よりも大きいかどうかを決定する工程を備え、
前記所定の閾値は、固定値であるアーク溶接方法。
【請求項5】
溶接ワイヤと母材とが短絡する短絡状態が生じる短絡期間と前記溶接ワイヤと前記母材との間にアークが発生するアーク状態が生じるアーク期間とを交互に繰り返し含む溶接を行うアーク溶接装置であって、
前記溶接ワイヤが短絡した後で、所定の期間内に該溶接ワイヤに供給された電力を積算して電力積算値を算出する算出部と、
前記電力積算値が所定の閾値よりも大きい場合に、前記溶接ワイヤに供給する溶接電流を低下させる制御部とを備え
前記電力積算値を算出部では、前記溶接ワイヤが短絡してから前記溶接電流が上昇し始めた後で、該電力積算値の算出を開始するアーク溶接装置。
【請求項6】
請求項に記載のアーク溶接装置を複数備え、
前記複数のアーク溶接装置におけるグランド側のケーブルが、前記母材にそれぞれ接続されているアーク溶接装置。
【請求項7】
請求項において、前記制御部は、さらに、前記電力積算値が前記所定の閾値よりも大きいかどうかを決定し、
前記所定の閾値は、固定値であるアーク溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アーク溶接方法及びアーク溶接装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、溶接電圧の所定時間あたりの変化量を算出し、溶接電圧の所定時間あたりの変化量と溶滴のくびれ判定閾値とに基づいて溶滴のくびれ判定を行うアーク溶接装置の制御方法が開示されている。
【0003】
具体的に、溶接ワイヤと母材側溶融部との間でくびれ(いわゆるネック)が発生すると、ネック部分では断面積が小さくなるため抵抗値が増加する。このため、ネックが生じてくると、短絡制御で電流増加を一定にしているにも関わらず溶接電圧の変化量が大きくなる。そこで、電圧変化量に基づいてネックの発生を検知すると、短絡開放直前に溶接電流を低下させ、スパッタの発生を抑制するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許4760053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、例えば、銅やアルミのような抵抗が小さい溶接ワイヤを用いた場合、くびれが発生したとしても、くびれに起因する溶接電圧の変化量が小さく、また、ばらつきも大きいため、くびれの有無を誤判定するおそれがある。
【0006】
例えば、くびれが発生しているのにくびれ無しと誤判定した場合には、溶接電流を低下させることなく短絡溶接が継続されるので、短絡開放時の入熱量が大きくなり、スパッタが発生してしまうという問題がある。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、短絡開放時のスパッタの発生を抑えることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、溶接ワイヤと母材とが短絡する短絡状態が生じる短絡期間と溶接ワイヤと母材との間にアークが発生するアーク状態が生じるアーク期間とを交互に含むアーク溶接方法を対象としている。アーク溶接方法は、前記溶接ワイヤが短絡した後で、所定の期間内に該溶接ワイヤに供給された電力を積算して電力積算値を算出する工程と、前記電力積算値が所定の閾値よりも大きい場合に、前記溶接ワイヤに供給する溶接電流を低下させる工程とを備えている。
【0009】
第1の発明では、溶接ワイヤが短絡した後で、所定の期間内における電力積算値を算出する。そして、電力積算値が所定の閾値よりも大きい場合に、溶接電流を低下させるようにしている。
【0010】
このように、溶接ワイヤに供給された電力の積算量に基づいて、短絡開放前に溶接電流を低下させ、溶接ワイヤに与える入熱量を少なくするようにしている。これにより、短絡開放時のスパッタの発生を抑えることができる。
【0011】
また、くびれの発生を検知することなく、短絡開放前に溶接電流を低下させるようにしているので、くびれの有無を誤判定したことに起因する不具合を回避することができる。
【0012】
第2の発明は、第1の発明において、前記電力積算値を算出する工程では、前記溶接ワイヤが短絡してから所定時間が経過した後で、該電力積算値の算出を開始する。
【0013】
第2の発明では、溶接ワイヤが短絡してから所定時間が経過した後、例えば、短絡が安定してから電力積算値の算出を開始するようにしている。これにより、短絡が安定していない期間を除外して、電力の積算値を算出することができる。
【0014】
第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記電力積算値を算出する工程では、前記溶接ワイヤが短絡してから前記溶接電流が上昇し始めた後で、該電力積算値の算出を開始する。
【0015】
第3の発明では、溶接ワイヤが短絡してから溶接電流が上昇し始めた後、電力積算値の算出を開始するようにしている。これにより、溶接電圧に変化があった場合でも、溶接ワイヤに対して適正な熱量を与えることができる。
【0016】
第4の発明は、第1乃至第3のうち何れか1つにおいて、前記溶接ワイヤが短絡してから前記溶接電流が上昇し始めた後、又は短絡して所定時間が経過した後で、該溶接ワイヤを逆送する工程を備えている。
【0017】
第4の発明では、溶接ワイヤが短絡してから溶接電流が上昇し始めた後、又は短絡して所定時間が経過した後で、溶接ワイヤを逆送するようにしている。これにより、溶接ワイヤが座屈するのを抑えることができる。
【0018】
第5の発明は、請求項1において、さらに、電力積算値が所定の閾値よりも大きいかどうかを決定する工程を備えてもよい。所定の閾値は、固定値であってもよい。また、この固定値は溶接条件毎に定まるものであっても良い。
【0019】
第6の発明は、溶接ワイヤと母材とが短絡する短絡状態が生じる短絡期間と溶接ワイヤと母材との間にアークが発生するアーク状態が生じるアーク期間とを交互に繰り返し含む溶接を行うアーク溶接装置を対象としている。そして、前記溶接ワイヤが短絡した後で、所定の期間内に該溶接ワイヤに供給された電力を積算して電力積算値を算出する算出部と、前記電力積算値が所定の閾値よりも大きい場合に、前記溶接ワイヤに供給する溶接電流を低下させる制御部とを備えている。
【0020】
第6の発明では、算出部は、溶接ワイヤが短絡した後で、所定の期間内における電力積算値を算出する。制御部は、電力積算値が所定の閾値よりも大きい場合に溶接電流を低下させる。
【0021】
このように、溶接ワイヤに供給された電力の積算量に基づいて、短絡開放前に溶接電流を低下させ、溶接ワイヤに与える入熱量を少なくするようにしている。これにより、短絡開放時のスパッタの発生を抑えることができる。
【0022】
第7の発明は、第6の発明に記載のアーク溶接装置を複数備え、前記複数のアーク溶接装置におけるグランド側のケーブルが、前記母材にそれぞれ接続されている。
【0023】
第7の発明では、複数のアーク溶接装置におけるグランド側のケーブルを、母材にそれぞれ接続している。ここで、複数のアーク溶接装置では、溶接ワイヤに供給する電力の積算値、つまり、実際に溶接ワイヤに与えている入熱量に基づいて、短絡開放時の溶接電流を低下させている。
【0024】
そのため、一方のアーク溶接装置で発生したノイズの影響が、母材を介して他方のアーク溶接装置に及んだ場合や、溶接ワイヤがアルミや銅を含む低抵抗値の材料であるために電圧変化が小さく、電圧の検出が正確にできなくなり、くびれの判定が正確にできない場合でも、電力積算値に基づいて、溶接ワイヤと母材との短絡開放前に溶接電流を低下させる制御を確実に行うことができる。
【0025】
第8の発明は、第6の発明において、制御部は、さらに、電力積算値が所定の閾値よりも大きいかどうかを決定してもよい。所定の閾値は、固定値であってもよい。また、この固定値は溶接条件毎に定まるものであっても良い。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、短絡開放時のスパッタの発生を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本実施形態に係るアーク溶接装置の概略構成を示すブロック図である。
図2】アーク溶接時の溶接電圧、溶接電流、及び電力積算値の出力波形を示す図である。
図3】電流積算値及び電力積算値の出力波形を示す図である。
図4】本変形例に係るアーク溶接装置の概略構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0029】
図1に示すように、アーク溶接装置10は、消耗電極である溶接ワイヤ34と溶接対象物である母材35とが短絡する短絡状態が生じる短絡期間と、溶接ワイヤ34と母材35との間にアークが発生するアーク状態が生じるアーク期間とを交互に繰り返し含む溶接を行う。
【0030】
アーク溶接装置10は、第1整流部11と、第1スイッチング部12と、変圧器13と、第2整流部14と、第2スイッチング部15と、抵抗16と、リアクトル17と、溶接電流検出部18と、溶接電圧検出部19と、制御部20とを有する。
【0031】
第1整流部11は、アーク溶接装置10の外部にある入力電源Sから入力された入力電圧を整流する。第1スイッチング部12は、スイッチング動作により第1整流部11の出力を調整する。変圧器13は、第1スイッチング部12の出力を溶接に適した出力に変換する。
【0032】
第2整流部14は、変圧器13の出力を整流する。第2スイッチング部15は、スイッチング動作により第2整流部14の出力を調整する。抵抗16は、第2スイッチング部15と並列に接続されている。
【0033】
リアクトル17は、第2スイッチング部15と直列に接続されている。リアクトル17は、第2スイッチング部15の出力を平滑化する。
【0034】
溶接電流検出部18は、溶接ワイヤ34と母材35との間に供給される溶接電流を検出する。溶接電流検出部18で検出された溶接電流を示す検出信号は、制御部20に送信される。
【0035】
溶接電圧検出部19は、溶接ワイヤ34と母材35の間に供給される溶接電圧を検出する。溶接電圧検出部19で検出された溶接電圧を示す検出信号は、制御部20に送信される。
【0036】
アーク溶接装置10には、溶接トーチ30と、母材35と、ワイヤ送給部32と、設定部25が接続され、アーク溶接システムを構成している。
【0037】
溶接トーチ30には、溶接ワイヤ34に電力を供給するための溶接チップ31が設けられている。ワイヤ送給部32は、制御部20からの信号に基づいて、溶接ワイヤ34の送給として、所定の送給速度での一定送給制御または、溶接ワイヤ34を母材35の方向に送る正送と正送とは逆方向に送る逆送とを交互に行う正送と逆送の送給制御等の送給の制御を行う。
【0038】
正送と逆送の送給制御の送給の制御を行う場合は、溶接ワイヤ34の送給として正送と逆送を交互に繰り返しながら、短絡状態とアーク状態を交互に発生させて溶接を行うこととなり、正送と逆送を周期的に行って、機械的に短絡状態とアーク状態を交互に発生させる。
【0039】
なお、周期的な正送と逆送の切替えは行わず、溶接現象の状態に応じて正送と逆送の送給切り替えを行っても良い。具体的には、溶接ワイヤ34の送給として、溶接ワイヤ34と母材35とが短絡して短絡状態となったら逆送し、短絡が開放されてアーク状態となったら正送を行うものである。
【0040】
また、設定部25は、アーク溶接装置10に溶接条件を設定するために用いられる。
【0041】
アーク溶接装置10の溶接出力は、溶接チップ31を介して溶接ワイヤ34に供給される。そして、アーク溶接装置10の溶接出力により、溶接ワイヤ34と母材35との間にアーク36を発生させて溶接を行う。
【0042】
制御部20は、アーク溶接装置10の各部と、アーク溶接装置10の外部にある装置との間において信号の伝送を行う。図1に示す例では、アーク溶接装置10の各部は、第1スイッチング部12、第2スイッチング部15、溶接電流検出部18、溶接電圧検出部19である。また、アーク溶接装置10の外部にある装置は、ワイヤ送給部32及び設定部25である。
【0043】
制御部20は、第1スイッチング部12及び第2スイッチング部15に制御信号を出力して溶接出力を制御する。制御部20は、ワイヤ送給部32に制御信号を出力して、ワイヤ送給速度を制御する。
【0044】
制御部20は、プロセッサと、プロセッサと電気的に接続されてプロセッサを動作させるためのプログラムや情報を記憶するメモリとによって構成される。制御部20は、算出部21を有する。
【0045】
算出部21は、溶接ワイヤ34が短絡した後で、所定の期間内に溶接ワイヤ34に供給された電力を積算して電力積算値を算出する。なお、溶接ワイヤに供給される電力は、溶接電流と溶接電圧との積に基づいて算出する。
【0046】
制御部20は、溶接電圧検出部19によって検出された溶接電圧を、予め設定された閾値電圧と比較する。そして、溶接電圧が閾値電圧以下である場合には、短絡状態であると判定する。一方、溶接電圧が閾値電圧を超える場合には、アーク状態であると判定する。
【0047】
以下、制御部20による溶接電流の制御について説明する。
【0048】
図2に示すように、時刻t1で、短絡状態であると判定されると、制御部20は、第1スイッチング部12の出力を調整することにより、溶接電流を初期電流まで減少させる。このとき、第2スイッチング部15は、導通状態のまま維持される。
【0049】
その後、制御部20は、時刻t2から時刻t3までの間、溶接電流が予め定められた電流増加速度で増加するように、第1スイッチング部12の出力を調整する。このとき、ワイヤ送給部32の動作を制御して、溶接ワイヤ34を逆送させる。または、短絡して所定時間が経過した後(短絡が安定した後)で、溶接ワイヤ34を逆送させてもよい。短絡期間中に溶接ワイヤを逆送させることで、溶接ワイヤ34と母材35との短絡開放を促進させることができる。また、特に、周期的な正送と逆送の切替えによる溶接ワイヤ34の正送と逆送の送給制御を行うことにより、溶接ワイヤ34の先端側の溶滴形成がより安定し、溶接ワイヤ34から母材35への溶滴移行の安定性が向上する。
【0050】
なお、溶接ワイヤ34の正送と逆送の送給制御を行わなくてもよい。例えば、溶接ワイヤ34の逆送を行わない所定の送給速度での一定送給の制御としてもよい。
【0051】
算出部21は、時刻t2から時刻t4までの間で、電力を積算して電力積算値を算出する。具体的には、溶接ワイヤ34が短絡してから溶接電流が上昇し始めた後で、電力積算値の算出を開始する。例えば、算出部21は、溶接電流の上昇を検知し、それを受けて、電力積算値の算出を開始する。これに代えて、例えば、算出部21は、溶接電流が上昇すると見込まれる時間の経過を検知し、それを受けて、電力積算値の算出を開始する。
【0052】
なお、電力積算値の算出は、溶接ワイヤ34が短絡してから所定時間が経過した後、例えば、短絡が安定してから開始すればよい。例えば、時刻t1から時刻t2までの間で、電力積算値の算出を開始してもよい。算出部21は、所定時間の経過を検知し、それを受けて電力積算値の算出を開始してもよい。
【0053】
制御部20は、電力積算値が所定の閾値Pよりも大きいかを判定する。図2に示す例では、時刻t3のときに、電力積算値が閾値Pよりも大きくなっている。制御部20は、電力積算値が所定の閾値Pよりも大きい場合に、第2スイッチング部15を導通状態から遮断状態に切り換えることで、溶接ワイヤ34に供給する溶接電流を低下させる。
【0054】
時刻t4では、溶接ワイヤ34と母材35との短絡の開放が検出される。制御部20は、溶接電流が予め定められた電流となるように、第1スイッチング部12の出力を調整する。このとき、第2スイッチング部15は、導通状態のまま維持される。そして、時刻t4では、短絡が開放されてアーク状態に移行する。
【0055】
ここで、電力積算値の積算は、短絡期間において閾値Pを超えた時点で、電力積算値をリセットし、積算を終了する。なお、電力積算値が閾値Pを超えなかった場合、アーク状態と判定するアーク判定で電力積算値をリセットし、積算を終了する。
【0056】
以上のように、本実施形態に係るアーク溶接装置10では、溶接ワイヤ34に供給された電力の積算量に基づいて、短絡開放前に溶接電流を低下させ、溶接ワイヤ34に与える入熱量を少なくするようにしている。これにより、短絡開放時のスパッタの発生を抑えることができる。
【0057】
〈電流積算値と電力積算値との比較〉
以下、電力積算値の代わりに、溶接電流を積算した電流積算値を用いた場合でも、同様の制御を行うことができるかについて検討した。
【0058】
図3に示すように、電流積算値は、P1、P2、P3の3つのピーク値を示している。そのため、例えば、電流積算値が最も大きいP1を閾値とすると、電流積算値がP2、P3のときには、閾値P1を下回っている。そのため、制御部20は、電流積算値がP2、P3となる時刻において、溶接ワイヤ34に供給する溶接電流を低減させることはない。
【0059】
しかしながら、電流積算値がP2、P3となる時刻において、電力積算値のピーク値を見ると、電力積算値は、閾値Pよりも大きくなっている。そのため、電流積算値P2、P3となる時刻において、溶接電流を低下させることなく短絡溶接を継続すると、短絡開放時の入熱量が大きく、スパッタが発生してしまう。
【0060】
一方、電流積算値が最も小さいP3を閾値とすると、制御部20は、電流積算値がP1、P2となる時刻よりも前に、入熱量を下げる必要がないタイミングで溶接電流を低下させてしまうことになり、入熱量がばらついてしまう。
【0061】
以上の検討結果より、溶接ワイヤ34に供給する溶接電流を低下させるタイミングを、電力積算値に基づいて判定した方が、電流積算値に基づいて判定した場合に比べて、入熱量を下げるタイミングで効果的に溶接電流を下げることができ、短絡期間中の入熱量がより安定し、短絡開放時のスパッタの発生を抑える上で有利であることが分かる。
【0062】
《変形例》
図4に示すように、アーク溶接装置10は、複数台設けられている(図4に示す例では2台)。2台のアーク溶接装置10のグランド側のケーブルは、1つの母材35に接続されている。具体的には、電気的に導通している共通の母材35、または共通の冶具(図示せず)上の母材35に対して、複数台のアーク溶接装置10により溶接を行う。これにより、2台のアーク溶接装置10から同時にアーク36を発生させている。
【0063】
ここで、本実施形態のアーク溶接装置10では、溶接ワイヤ34に供給する電力の積算値、つまり、実際に溶接ワイヤ34に与えている入熱量に基づいて、短絡開放時の溶接電流を低下させている。
【0064】
そのため、他の溶接としての一方のアーク溶接装置10で発生したノイズの影響が、母材35を介して他方のアーク溶接装置10に及んだ場合や、溶接ワイヤ34がアルミや銅を含む低抵抗値の材料であるために電圧変化が小さく、電圧の検出が正確にできなくなり、くびれの判定が正確にできない場合でも、電力積算値に基づいて、溶接ワイヤ34と母材35との短絡開放前に溶接電流を低下させる制御を確実に行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
以上説明したように、本発明は、短絡開放時のスパッタの発生を抑えることができるという実用性の高い効果が得られることから、きわめて有用で産業上の利用可能性は高い。
【符号の説明】
【0066】
10 アーク溶接装置
20 制御部
21 算出部
32 ワイヤ送給部
34 溶接ワイヤ
35 母材
図1
図2
図3
図4