(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-06
(45)【発行日】2024-06-14
(54)【発明の名称】アーク溶接方法およびアーク溶接装置
(51)【国際特許分類】
B23K 9/12 20060101AFI20240607BHJP
B23K 9/073 20060101ALI20240607BHJP
B23K 9/173 20060101ALI20240607BHJP
【FI】
B23K9/12 305
B23K9/073 530
B23K9/173 C
(21)【出願番号】P 2021520669
(86)(22)【出願日】2020-04-24
(86)【国際出願番号】 JP2020017616
(87)【国際公開番号】W WO2020235294
(87)【国際公開日】2020-11-26
【審査請求日】2023-04-19
(31)【優先権主張番号】P 2019096033
(32)【優先日】2019-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106116
【氏名又は名称】鎌田 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100131495
【氏名又は名称】前田 健児
(72)【発明者】
【氏名】松岡 範幸
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 駿
(72)【発明者】
【氏名】古和 将
(72)【発明者】
【氏名】中川 晶
(72)【発明者】
【氏名】藤原 潤司
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/079345(WO,A1)
【文献】特開2016-147312(JP,A)
【文献】特開2013-094840(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/12
B23K 9/073
B23K 9/173
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
消耗電極である溶接ワイヤを母材へ向けて送給し、前記溶接ワイヤが正極となり前記母材が負極となる逆極性期間と前記溶接ワイヤが負極となり前記母材が正極となる正極性期間とが交互に繰り返されるように、溶接電流を前記溶接ワイヤと前記母材とに流すことにより、前記溶接ワイヤと前記母材との間にアークを発生させて前記母材を溶接するアーク溶接方法であって、
前記溶接ワイヤと前記母材との短絡を検出する短絡検出ステップと、
前記短絡検出ステップにより前記溶接ワイヤと前記母材との短絡が検出された以後に、前記溶接ワイヤの送給速度を、第1送給速度から、前記溶接ワイヤが前記母材へ向かう方向の速度を正とした場合に前記第1送給速度よりも負側となる第2送給速度へ変化させる送給速度変更ステップと
、
前記短絡検出ステップにより前記溶接ワイヤと前記母材との短絡が検出された時点から予め定められた短絡待機時間が経過した以後に、前記溶接電流の絶対値を増加させる電流増加ステップを備え、
前記送給速度変更ステップは、前記電流増加ステップが開始された以後に行われることを特徴とするアーク溶接方法。
【請求項2】
請求項
1において、
前記電流増加ステップは、
前記短絡検出ステップにより前記溶接ワイヤと前記母材との短絡が検出された時点から前記短絡待機時間が経過した以後に、予め定められた第1電流増加速度で前記溶接電流の絶対値を増加させる第1電流増加ステップと、
前記第1電流増加ステップの後に、前記第1電流増加速度よりも低い第2電流増加速度で前記溶接電流の絶対値を増加させる第2電流増加ステップとを含み、
前記送給速度変更ステップは、前記第2電流増加ステップが開始された以後に行われることを特徴とするアーク溶接方法。
【請求項3】
請求項2
において、
前記溶接ワイヤと前記母材との間に形成される溶滴にくびれが生じていることを検出するくびれ検出ステップと、
前記電流増加ステップが開始され、その後、前記くびれ検出ステップにより前記くびれが検出された以後に、前記溶接電流の絶対値を減少させる電流減少制御ステップとを備えることを特徴とするアーク溶接方法。
【請求項4】
請求項2
において、
前記短絡検出ステップにより前記溶接ワイヤと前記母材との短絡が検出された時点から前記溶接ワイヤと前記母材とに供給された電力を積算して得られる電力積算値を検出する電力積算ステップと、
前記電流増加ステップが開始され、その後、前記電力積算ステップにおり導出される前記電力積算値が予め定められた電力積算閾値に到達した以後に、前記溶接電流の絶対値を減少させる電流減少制御ステップとを備えることを特徴とするアーク溶接方法。
【請求項5】
請求項
4において、さらに、前記電力積算値が
所定の閾値よりも大きいかどうかを決定するステップを備え、
前記所定の閾値は、固定値であるアーク溶接方法。
【請求項6】
消耗電極である溶接ワイヤを母材へ向けて送給し、前記溶接ワイヤが正極となり前記母材が負極となる逆極性期間と前記溶接ワイヤが負極となり前記母材が正極となる正極性期間とが交互に繰り返されるように、溶接電流を前記溶接ワイヤと前記母材とに流すことにより、前記溶接ワイヤと前記母材との間にアークを発生させて前記母材を溶接するアーク溶接方法であって、
前記溶接ワイヤと前記母材との短絡を検出する短絡検出ステップと、
前記短絡検出ステップにより前記溶接ワイヤと前記母材との短絡が検出された以後に、前記溶接ワイヤの送給速度を、第1送給速度から、前記溶接ワイヤが前記母材へ向かう方向の速度を正とした場合に前記第1送給速度よりも負側となる第2送給速度へ変化させる送給速度変更ステップと、
前記溶接ワイヤと前記母材との短絡の開放を検出する短絡開放検出ステップと、
前記短絡開放検出ステップにより前記溶接ワイヤと前記母材との短絡の開放が検出された以後に、前記溶接ワイヤの送給速度を前記第2送給速度から前記第1送給速度に戻す送給速度復帰ステップとを備えていることを特徴とするアーク溶接方法。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか1つにおいて、
前記第1送給速度が正の方向に大きくなるに連れて、前記第2送給速度が負の方向に大きくなることを特徴とするアーク溶接方法。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれか1つにおいて、
前記第2送給速度は、前記送給速度変更ステップが前記逆極性期間において行われる場合には負の値となり、前記送給速度変更ステップが前記正極性期間において行われる場合にはゼロまたは正の値となることを特徴とするアーク溶接方法。
【請求項9】
請求項1~
7のいずれか1つにおいて、
前記第2送給速度は、前記送給速度変更ステップが前記逆極性期間において行われる場合には第1の値となり、前記送給速度変更ステップが前記正極性期間において行われる場合には、前記第1送給速度と前記第1の値との間の第2の値となることを特徴とするアーク溶接方法。
【請求項10】
消耗電極である溶接ワイヤがワイヤ送給部により母材へ向けて送給され、前記溶接ワイヤと前記母材との間に、前記溶接ワイヤが正極となり前記母材が負極となる逆極性期間と前記溶接ワイヤが負極となり前記母材が正極となる正極性期間とが交互に繰り返されるように、溶接電流を流すことにより、前記溶接ワイヤと前記母材との間にアークを発生させて前記母材を溶接するアーク溶接装置であって、
前記溶接ワイヤと前記母材とに前記溶接電流を流す電力変換部と、
前記溶接ワイヤと前記母材との短絡を検出した以後に、前記溶接ワイヤの送給速度が、第1送給速度から、前記溶接ワイヤが前記母材へ向かう方向の速度を正とした場合に前記第1送給速度よりも負側となる第2送給速度へ変化するように前記ワイヤ送給部を制御する制御部とを備え
、前記制御部は、
前記溶接ワイヤの短絡を検出した後に前記溶接電流の絶対値が増加するように前記電力変換部を制御し、
前記溶接ワイヤの短絡を検出した後に前記溶接ワイヤに供給された電力を積算して電力積算値を算出し、前記電力積算値が、固定された閾値よりも大きいかどうかを決定し、
前記電力積算値が前記固定された閾値よりも大きいという決定の後に、前記溶接電流の絶対値が低下するように前記電力変換部を制御することを特徴とするアーク溶接装置。
【請求項11】
請求項
10において、
前記第2送給速度は、前記第1送給速度から前記第2送給速度への変化が前記逆極性期間において行われる場合には負の値となり、前記第1送給速度から前記第2送給速度への変化が前記正極性期間において行われる場合にはゼロまたは正の値となることを特徴とするアーク溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示する技術は、アーク溶接技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、逆極性電流を通電する逆極性期間と正極性電流を通電する正極性期間とを交互に繰り返して母材の溶接を行う交流パルスアーク溶接方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のようなアーク溶接では、溶接電流の周期(逆極性期間の開始時点からその逆極性期間に引き続く正極性期間の終了時点までの期間)を一定に維持することが困難である。例えば、溶接ワイヤと母材との短絡が発生すると、短絡開始から短絡開放までの間、溶接電流を周期的に変化させるための制御が中断される。つまり、溶接電流の周期に短絡開始から短絡開放までの時間(短絡時間)が追加される。そのため、溶接電流の周期が不均一となる。その結果、ビード外観が劣化してしまうおそれがある。
【0005】
そこで、ここに開示する技術は、溶接ワイヤと母材との短絡に起因する溶接電流の周期の不均一化を抑制することが可能なアーク溶接技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ここに開示する技術は、消耗電極である溶接ワイヤを母材へ向けて送給し、前記溶接ワイヤが正極となり前記母材が負極となる逆極性期間と前記溶接ワイヤが負極となり前記母材が正極となる正極性期間とが交互に繰り返されるように、溶接電流を前記溶接ワイヤと前記母材とに流すことにより、前記溶接ワイヤと前記母材との間にアークを発生させて前記母材を溶接するアーク溶接方法に関する。このアーク溶接方法は、前記溶接ワイヤと前記母材との短絡を検出する短絡検出ステップと、前記短絡検出ステップにより前記溶接ワイヤと前記母材との短絡が検出された以後に、前記溶接ワイヤの送給速度を、第1送給速度から、前記溶接ワイヤが前記母材へ向かう方向の速度を正とした場合に前記第1送給速度よりも負側となる第2送給速度へ変化させる送給速度変更ステップとを備える。
【0007】
また、ここに開示する技術は、消耗電極である溶接ワイヤがワイヤ送給部により母材へ向けて送給され、前記溶接ワイヤと前記母材との間に、前記溶接ワイヤが正極となり前記母材が負極となる逆極性期間と前記溶接ワイヤが負極となり前記母材が正極となる正極性期間とが交互に繰り返されるように、溶接電流を流すことにより、前記溶接ワイヤと前記母材との間にアークを発生させて前記母材を溶接するアーク溶接装置に関する。このアーク溶接装置は、前記溶接ワイヤと前記母材とに前記溶接電流を流す電力変換部と、前記溶接ワイヤと前記母材との短絡を検出した以後に、前記溶接ワイヤの送給速度が、第1送給速度から、前記溶接ワイヤが前記母材へ向かう方向の速度を正とした場合に前記第1送給速度よりも負側となる第2送給速度へ変化するように前記ワイヤ送給部を制御する制御部とを備える。
【発明の効果】
【0008】
ここに開示する技術によれば、溶接ワイヤと母材との短絡に起因する溶接電流の周期の不均一化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態のアーク溶接装置の構成を例示する図である。
【
図2】実施形態のアーク溶接装置の動作(短絡が発生していない場合の動作)について説明するためのタイミングチャートである。
【
図3】実施形態のアーク溶接装置の動作(短絡が発生する場合の動作)について説明するためのタイミングチャートである。
【
図4】実施形態の変形例のアーク溶接装置の動作(短絡が発生する場合の動作)について説明するためのタイミングチャートである。
【
図5】溶接ワイヤを構成する材料の種類および溶接ワイヤの送給速度Wfに応じた短絡待機時間を例示する図である。
【
図6】実施形態の変形例のアーク溶接装置の動作(短絡が発生する場合の動作)について説明するためのタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施の形態を図面を参照して詳しく説明する。なお、図中同一または相当部分には同一の符号を付しその説明は繰り返さない。
【0011】
(アーク溶接システム)
図1は、実施形態のアーク溶接システム1の構成を例示する。アーク溶接システム1では、消耗電極である溶接ワイヤW1と母材B1との間にアークA1を発生させて母材B1の溶接を行う。この例では、アーク溶接システム1は、アーク溶接装置10と、ワイヤ送給部21と、溶接トーチ22と、設定部30とを備える。
【0012】
(ワイヤ送給部と溶接トーチ)
ワイヤ送給部21は、溶接トーチ22に溶接ワイヤW1を送給する。溶接トーチ22は、ワイヤ送給部21から送給された溶接ワイヤW1と母材B1とが互いに対向するように、溶接ワイヤW1を保持する。溶接トーチ22には、アーク溶接装置10からの電力を溶接ワイヤW1に供給するための溶接チップ22aが設けられる。また、ワイヤ送給部21には、溶接ワイヤW1の送給速度Wfを検出する送給速度検出部(図示を省略)が設けられる。また、溶接トーチ22は、ロボット(図示を省略)により保持される。送給速度検出部により検出された溶接ワイヤW1の送給速度Wf(具体的には送給速度Wfを示す検出信号)は、後述する制御部14に送信される。ロボットは、母材B1において予め定められた溶接対象領域に沿うように、溶接トーチ22を予め定められた溶接速度で移動させる。
【0013】
(設定部)
設定部30は、溶接条件を設定するために用いられる。
【0014】
(アーク溶接装置)
アーク溶接装置10は、溶接に適した溶接電流iwを溶接ワイヤW1と母材B1に流すことにより、溶接ワイヤW1と母材B1との間にアークA1を発生させて母材B1を溶接する。この例では、アーク溶接装置10は、消耗電極式の交流のパルスアーク溶接機を構成する。溶接電流iwは、逆極性期間P1と正極性期間P2とが交互に繰り返されるように制御される。逆極性期間P1では、溶接ワイヤW1が正極となり、母材B1が負極となる。正極性期間P2では、溶接ワイヤW1が負極となり、母材B1が正極となる。具体的には、アーク溶接装置10は、電力変換部11と、溶接電流検出部12と、溶接電圧検出部13と、制御部14とを備える。
【0015】
〔電力変換部〕
電力変換部11は、電源S1と電気的に接続され、電源S1から供給された電力を用いて溶接に適した溶接電圧Vwを生成する。また、電力変換部11は、溶接トーチ22の溶接チップ22aを経由して溶接ワイヤW1と電気的に接続され、母材B1と電気的に接続される。そして、電力変換部11は、溶接電圧Vwを溶接ワイヤW1と母材B1との間に印加することで、溶接電流iwを溶接ワイヤW1と母材B1とに流す。
【0016】
この例では、電力変換部11は、第1整流部101と、第1スイッチング部102と、変圧器103と、第2整流部104と、リアクトル105と、第2スイッチング部106とを有する。第1整流部101は、電源S1の出力を整流する。第1スイッチング部102は、スイッチング動作により第1整流部101の出力を調節する。変圧器103は、第1スイッチング部102の出力を溶接に適した出力に変換する。第2整流部104は、変圧器103の出力を整流する。リアクトル105は、第2整流部104と直列に接続され、第2整流部104の出力を平滑化する。第2スイッチング部106は、スイッチング動作によりリアクトル105の出力を調節する。第2スイッチング部106の出力は、溶接トーチ22の溶接チップ22aを介して溶接ワイヤW1と母材B1とに供給される。これにより、溶接ワイヤW1と母材B1との間に溶接電圧Vwが印加され、溶接ワイヤW1と母材B1とに溶接電流iwが流れる。
【0017】
〔検出部〕
溶接電流検出部12は、溶接電流iwを検出する。溶接電圧検出部13は、溶接電圧Vwを検出する。溶接電流検出部12により検出された溶接電流iw(具体的には溶接電流iwを示す検出信号)および溶接電圧検出部13により検出された溶接電圧Vw(具体的には溶接電圧Vwを示す検出信号)は、制御部14に送信される。
【0018】
〔制御部〕
制御部14は、アーク溶接装置10の各部(この例では第1スイッチング部102と第2スイッチング部106と溶接電流検出部12と溶接電圧検出部13)およびアーク溶接装置10の外部にある装置(この例ではワイヤ送給部21と設定部30)との間において信号の伝送を行う。そして、制御部14は、アーク溶接装置10の各部およびアーク溶接装置10の外部にある装置から送信された信号に基づいて、アーク溶接装置10の各部およびアーク溶接装置10の外部にある装置を制御する。この例では、制御部14は、アーク溶接装置10の第1スイッチング部102および第2スイッチング部106と、ワイヤ送給部21と、溶接トーチ22を保持するロボット(図示を省略)を制御する。例えば、制御部14は、プロセッサと、プロセッサと電気的に接続されてプロセッサを動作させるためのプログラムや情報を記憶するメモリとにより構成される。
【0019】
〔検出動作〕
次に、制御部14の検出動作について説明する。制御部14は、短絡検出動作と、くびれ検出動作と、短絡開放検出動作とを行う。
【0020】
〈短絡検出動作(短絡検出ステップ)〉
短絡検出動作では、制御部14は、溶接ワイヤW1と母材B1との短絡を検出する。具体的には、制御部14は、溶接電圧検出部13により検出される溶接電圧Vwの絶対値が予め定められた短絡発生閾値を下回ると、溶接ワイヤW1と母材B1との短絡が発生したと判定する。短絡発生閾値は、溶接ワイヤW1と母材B1との短絡が発生しているとみなせるときの溶接電圧Vwの絶対値に設定される。
【0021】
〈くびれ検出動作(くびれ検出ステップ)〉
くびれ検出動作では、制御部14は、溶接ワイヤW1と母材B1との間に形成される溶滴にくびれが生じていることを検出する。具体的には、制御部14は、溶接電圧検出部13により検出される溶接電圧Vwの単位時間当たりの変化量が予め定められたくびれ閾値を上回ると、溶接ワイヤW1と母材B1との間に形成される溶滴にくびれが生じていると判定する。くびれ閾値は、溶接ワイヤW1と母材B1との間に形成される溶滴にくびれが生じているとみなせるときの溶接電圧Vwの単位時間当たりの変化量に設定される。
【0022】
〈短絡開放検出動作(短絡開放検出ステップ)〉
短絡開放検出動作、制御部14は、溶接ワイヤW1と母材B1との短絡の開放を検出する。具体的には、制御部14は、溶接電圧検出部13により検出される溶接電圧Vwの絶対値が予め定められた短絡開放閾値を上回ると、溶接ワイヤW1と母材B1との短絡が開放されたと判定する。短絡開放閾値は、溶接ワイヤW1と母材B1との短絡が開放されているとみなせるときの溶接電圧Vwの絶対値に設定される。
【0023】
〔電流制御〕
また、制御部14は、電力変換部11の動作(具体的には第1スイッチング部102と第2スイッチング部106の動作)を制御して溶接電流iwを制御する。この例では、制御部14は、通常電流制御と短絡電流制御とを選択的に行う。なお、制御部14は、短絡電流制御から通常電流制御へ復帰する場合に、復帰制御を必要に応じて行う。
【0024】
〈通常電流制御〉
通常電流制御は、溶接ワイヤW1と母材B1との短絡が発生していない期間に行われる制御である。通常電流制御では、制御部14は、逆極性期間P1と正極性期間P2とが交互に繰り返されるように、第1スイッチング部102のスイッチング動作および第2スイッチング部106の接続状態を制御して溶接電流iwを制御する。また、制御部14は、逆極性期間P1において溶接電流iwが逆極性ピーク電流ip1と逆極性ベース電流ib1とに順に変化し、正極性期間P2において溶接電流iwが正極性ピーク電流ip2と正極性ベース電流ib2とに順に変化するように、第1スイッチング部102のスイッチング動作を制御して溶接電流iwを制御する。なお、通常電流制御における溶接電流iwの周波数(逆極性ピーク電流ip1と逆極性ベース電流ib1と正極性ピーク電流ip2と正極性ベース電流ib2の出力タイミング)は、予め定められた周波数に応じた周波数(出力タイミング)となっている。
【0025】
〈短絡電流制御〉
通常電流制御において溶接ワイヤW1と母材B1との短絡が検出された以後に、制御部14は、通常電流制御を終了して短絡電流制御を開始する。例えば、制御部14は、溶接ワイヤW1と母材B1との短絡の検出を受けて、短絡電流制御を開始してもよい。制御部14は、溶接ワイヤW1と母材B1との短絡が検出された時点からの経過時間を計時する。この例では、短絡電流制御において、短絡初期制御と、電流増加制御と、電流減少制御とが行われる。
【0026】
《短絡初期制御》
通常電流制御において溶接ワイヤW1と母材B1との短絡が検出された以後(この例では直後)に、制御部14は、短絡初期制御を開始する。短絡初期制御では、制御部14は、溶接電流iwが予め定められた短絡初期電流となるように、電力変換部11の動作(具体的には第1スイッチング部102のスイッチング動作)を制御して溶接電流iwを制御する。なお、この短絡初期電流は、逆極性期間P1において溶接ワイヤW1と母材B1との短絡が検出された場合には、逆極性短絡初期電流is1に設定され、正極性期間P2において溶接ワイヤW1と母材B1との短絡が検出された場合には、正極性短絡初期電流is2に設定される。また、短絡初期制御では、第2スイッチング部106は、導通状態のまま維持される。
【0027】
《電流増加制御(電流増加ステップ)》
溶接ワイヤW1と母材B1との短絡が検出された時点(すなわち短絡初期制御が開始された時点)から予め定められた短絡待機時間が経過した以後(この例では直後)に、制御部14は、短絡初期制御を終了して電流増加制御を開始する。例えば、制御部14は、短絡待機時間の経過を受けて、電流増加制御を開始してもよい。電流増加制御では、制御部14は、溶接電流iwの絶対値が予め定められた電流増加速度で増加するように、電力変換部11の動作(具体的には第1スイッチング部102のスイッチング動作)を制御して溶接電流iwを制御する。なお、短絡初期制御では、第2スイッチング部106は、導通状態のまま維持される。また、短絡待機時間は、例えば、100μsec以上で且つ3000μsec以下の時間に設定されることが好ましい。短絡待機時間の設定については、後で詳しく説明する。
【0028】
《電流減少制御(電流減少ステップ)》
電流増加制御が開始され、その後、溶接ワイヤW1と母材B1との間に形成される溶滴にくびれが生じていることが検出された以後(この例では直後)に、制御部14は、電流増加制御を終了して電流減少制御を開始する。例えば、制御部14は、くびれの検出を受けて、電流減少制御を開始してもよい。電流減少制御では、制御部14は、溶接電流iwの絶対値が急峻に減少するように、電力変換部11の動作を制御して溶接電流iwを制御する。具体的には、制御部14は、第2スイッチング部106を導通状態から遮断状態に切り換えることで、溶接電流iwの絶対値を急峻に減少させる。
【0029】
〈復帰制御〉
短絡電流制御が開始され、その後、溶接ワイヤW1と母材B1との短絡の開放が検出された以後(この例では直後)に、制御部14は、短絡電流制御を終了し、必要に応じて復帰制御を行い、その後、通常電流制御を開始する。例えば、制御部14は、溶接ワイヤW1と母材B1との短絡の開放の検出を受けて、復帰制御を開始してもよい。復帰制御は、次の溶滴移行のための溶融塊を形成するために行われる。復帰制御では、制御部14は、溶接電流iwが予め定められた電流となるように、電力変換部11の動作(具体的には第1スイッチング部102のスイッチング動作)を制御して溶接電流iwを制御する。なお、復帰制御では、第2スイッチング部106は、導通状態のまま維持される。
【0030】
〔送給速度制御〕
また、制御部14は、ワイヤ送給部21の動作を制御して溶接ワイヤW1の送給速度Wfを制御する。この例では、制御部14は、送給速度変更制御と送給速度復帰制御とを行う。
【0031】
〈送給速度変更制御(送給速度変更ステップ)〉
制御部14は、通常電流制御において溶接ワイヤW1と母材B1との短絡が検出された以後に、送給速度変更制御を行う。この例では、制御部14は、短絡電流制御において電流増加制御が開始された以後(具体的には電流増加制御の開始と同時)に、送給速度変更制御を行う。例えば、制御部14は、短絡待機時間の経過を受けて、電流増加制御を開始してもよい。送給速度変更制御では、制御部14は、溶接ワイヤW1の送給速度Wfが第1送給速度Wf1から第2送給速度Wf2へ変化するように、ワイヤ送給部21を制御して溶接ワイヤW1の送給速度Wfを制御する。
【0032】
第1送給速度Wf1は、溶接ワイヤW1が母材B1へ向かう方向の速度を正とした場合に正の値となる。すなわち、溶接ワイヤW1の送給速度Wfが第1送給速度Wf1に設定されると、母材B1へ向かう方向である正送方向に溶接ワイヤW1が送給される。
【0033】
第2送給速度Wf2は、母材B1へ向かう方向の速度を正とした場合に第1送給速度Wf1よりも負側となる送給速度である。第2送給速度Wf2が正の値(第1供給速度Wf1よりも小さい正の値)である場合、溶接ワイヤW1の送給速度Wfが第2送給速度Wf2に設定されると、正送方向に供給される溶接ワイヤW1が減速する。第2送給速度Wf2がゼロである場合、溶接ワイヤW1の送給速度Wfが第2送給速度Wf2に設定されると、溶接ワイヤW1の送給が停止される。第2送給速度Wf2が負の値である場合、溶接ワイヤW1の送給速度Wfが第2送給速度Wf2に設定されると、母材B1から離れる方向である逆送方向(正送方向の逆方向)に溶接ワイヤW1が戻される。
【0034】
〈送給速度復帰制御(送給速度復帰ステップ)〉
制御部14は、短絡電流制御において溶接ワイヤW1と母材B1との短絡の開放が検出された以後(この例では直後)に、送給速度復帰制御を行う。例えば、制御部14は、溶接ワイヤW1と母材B1との短絡の開放の検出を受けて、送給速度復帰制御を開始してもよい。送給速度復帰制御では、制御部14は、溶接ワイヤW1の送給速度Wfが第2送給速度Wf2から第1送給速度Wf1へ変化するように、ワイヤ送給部21を制御して溶接ワイヤW1の送給速度Wfを制御する。
【0035】
〔溶接速度制御〕
また、制御部14は、溶接トーチ22を保持するロボット(図示を省略)の動作を制御して溶接トーチ22の移動速度(すなわち溶接速度)を制御する。
【0036】
〔アーク溶接装置の動作(アーク溶接方法)〕
次に、
図2および
図3を参照して、実施形態のアーク溶接装置10の動作について説明する。なお、
図3および後述する
図4では、図の見やすさのために、時点t17から時点t21までの期間において溶接電流iwの波形の一部が省略されている。また、溶接ワイヤW1と母材B1との短絡は、必ずしも周期的に発生するものではない。例えば、溶接ワイヤW1と母材B1との短絡が発生する周期もあれば、溶接ワイヤW1と母材B1との短絡が発生しない周期もある。
図3(または
図4)の時点t17から時点t21までの期間における溶接電流iwの波形は、例えば、
図2のような波形(具体的には
図2の時点t5以降の波形)となる。
【0037】
〈短絡が発生していない場合の動作〉
まず、
図2を参照して、溶接ワイヤW1と母材B1との短絡が発生していない場合のアーク溶接装置10の動作を説明する。
図2の例では、溶接ワイヤW1と母材B1との短絡が検出されず、通常電流制御のみが行われる。また、溶接ワイヤW1の送給速度Wfは、第1送給速度Wf1のまま一定に維持される。
【0038】
図2の時点t1から時点t5までの期間(逆極性期間P1)では、溶接ワイヤW1が正極となり母材B1が負極となるように、溶接電流iwが制御される。溶接電流iwは、時点t1から時点t2までの期間において逆極性ベース電流ib1から逆極性ピーク電流ip1へ向けて絶対値で次第に増加し、時点t2から時点t3までの期間において逆極性ピーク電流ip1に維持される。そして、溶接電流iwは、時点t3から時点t4までの期間において逆極性ピーク電流ip1から逆極性ベース電流ib1へ向けて絶対値で次第に減少し、時点t4から時点t5までの期間において逆極性ベース電流ib1に維持される。逆極性期間P1中、溶接ワイヤW1の送給速度は、第1送給速度Wf1に維持される。
【0039】
図2の時点t5になると、逆極性期間P1から正極性期間P2に切り換えられ、溶接電流iwが逆極性ベース電流ib1から正極性ピーク電流ip2に変化する。
【0040】
図2の時点t5から時点t8までの期間(正極性期間P2)では、溶接ワイヤW1が負極となり母材B1が正極となるように、溶接電流iwが制御される。溶接電流iwは、時点t5から時点t6までの期間において正極性ピーク電流ip2に維持される。そして、溶接電流iwは、時点t6から時点t7までの期間において正極性ピーク電流ip2から正極性ベース電流ib2へ向けて絶対値で次第に減少し、時点t7から時点t8までの期間において正極性ベース電流ib2に維持される。正極性期間P2中、溶接ワイヤW1の送給速度は、第1送給速度Wf1に維持される。
【0041】
〈短絡が発生する場合の動作〉
次に、
図3を参照して、溶接ワイヤW1と母材B1との短絡が発生する場合のアーク溶接装置10の動作について説明する。
図3の例では、時点t12において溶接ワイヤW1と母材B1との短絡が検出される。時点t14において溶接ワイヤW1と母材B1との間に形成される溶滴にくびれが生じていることが検出される。時点t15において溶接ワイヤW1と母材B1との短絡の開放が検出される。時点t13は、時点t12から短絡待機時間が経過した後の時点である。すなわち、時点t12から時点t13までの期間の時間長さは、短絡待機時間に相当する。また、
図3の例では、時点t22において溶接ワイヤW1と母材B1との短絡が検出される。時点t24において溶接ワイヤW1と母材B1との間に形成される溶滴にくびれが生じていることが検出される。時点t25において溶接ワイヤW1と母材B1との短絡の開放が検出される。時点t23は、時点t22から短絡待機時間が経過した後の時点である。すなわち、時点t22から時点t23までの期間の時間長さは、短絡待機時間に相当する。
【0042】
時点t11から時点t12までの期間では、通常電流制御が継続される。時点t12において溶接ワイヤW1と母材B1との短絡が検出されると、通常電流制御が終了して短絡初期制御が開始される。これにより、溶接電流iwが逆極性短絡初期電流is1になる。そして、時点t12から時点t13(時点t12から短絡待機時間が経過した後の時点)までの期間において短絡初期制御が継続される。これにより、時点t12から時点t13までの期間において溶接電流iwが逆極性短絡初期電流is1に維持される。なお、逆極性短絡初期電流is1は、逆極性ベース電流ib1よりも低い電流(逆極性ベース電流ib1よりも絶対値が小さい電流)であってもよいし、逆極性ベース電流ib1と同一の電流であってもよい。
【0043】
時点t13になる(時点t12から短絡待機時間が経過する)と、短絡初期制御が終了して電流増加制御が開始され、時点t13から時点t14までの期間において電流増加制御が継続される。これにより、溶接電流iwの絶対値が逆極性短絡初期電流is1から予め定められた電流増加速度で次第に増加していく。
【0044】
また、時点t13において電流増加制御が開始されると、送給速度変更制御が行われ、溶接ワイヤW1の送給速度Wfが第1送給速度Wf1から第2送給速度Wf2に切り換えられる。送給速度変更制御が行われてから送給速度復帰制御が行われるまで、第2送給速度Wf2が維持されてもよい。第2送給速度Wf2は、時間的に一定でもよく、時間的に変化してもよい。
【0045】
時点t14において溶接ワイヤW1と母材B1との間に形成される溶滴にくびれが生じていることが検出されると、電流増加制御が終了して電流減少制御が開始される。これにより、溶接電流iwが時点t14における第1逆極性電流i11から第2逆極性電流i12(第1逆極性電流i11よりも低い電流)へ向けて急峻に変化する。すなわち、溶接電流iwの絶対値が急峻に減少する。そして、時点t14から時点t15までの期間において電流減少制御が継続される。これにより、時点t14から時点t15までの期間において溶接電流iwが第2逆極性電流i12に維持される。なお、電流減少制御における溶接電流iwの下限となる第2逆極性電流i12は、逆極性ベース電流ib1よりも高い電流(逆極性ベース電流ib1よりも絶対値が大きい電流)であってもよいし、逆極性ベース電流ib1と同一の電流であってもよいし、逆極性ベース電流ib1よりも低い電流であってもよい。
【0046】
時点t15において溶接ワイヤW1と母材B1との短絡の開放が検出されると、電流減少制御が終了して復帰制御が開始され、時点t15から時点t16までの期間において復帰制御が継続される。これにより、次の溶滴移行のための溶融塊が形成される。
【0047】
また、時点t15において溶接ワイヤW1と母材B1との短絡の開放が検出されると、送給速度復帰制御が行われ、溶接ワイヤW1の送給速度Wfが第2送給速度Wf2から第1送給速度Wf1に切り換えられる。送給速度復帰制御が行われてから送給速度変更制御が行われるまで、第1送給速度Wf1が維持されてもよい。第1送給速度Wf1は、時間的に一定でもよく、時間的に変化してもよい。
【0048】
時点t16になると、復帰制御が終了して通常電流制御が開始される。これにより、溶接電流iwが逆極性ベース電流ib1に維持される。そして、時点t17になると、逆極性期間P1から正極性期間P2に切り換えられ、溶接電流iwが逆極性ベース電流ib1から正極性ピーク電流ip2に変化する。
【0049】
時点t21から時点t22までの期間では、通常電流制御が継続される。時点t22において溶接ワイヤW1と母材B1との短絡が検出されると、通常電流制御が終了して短絡初期制御が開始される。これにより、溶接電流iwが正極性短絡初期電流is2になる。そして、時点t22から時点t23(時点t22から短絡待機時間が経過した後の時点)までの期間において短絡初期制御が継続される。これにより、時点t22から時点t23までの期間において溶接電流iwが正極性短絡初期電流is2に維持される。なお、正極性短絡初期電流is2は、正極性ベース電流ib2よりも高い電流(正極性ベース電流ib2よりも絶対値が小さい電流)であってもよいし、正極性ベース電流ib2と同一の電流であってもよい。
【0050】
時点t23になる(時点t22から短絡待機時間が経過する)と、短絡初期制御が終了して電流増加制御が開始され、時点t23から時点t24までの期間において電流増加制御が継続される。これにより、溶接電流iwの絶対値が正極性短絡初期電流is2から予め定められた電流増加速度で次第に増加していく。
【0051】
また、時点t23において電流増加制御が開始されると、送給速度変更制御が行われ、溶接ワイヤW1の送給速度Wfが第1送給速度Wf1から第2送給速度Wf2に切り換えられる。送給速度変更制御が行われてから送給速度復帰制御が行われるまで、第2送給速度Wf2が維持されてもよい。第2送給速度Wf2は、時間的に一定でもよく、時間的に変化してもよい。
【0052】
時点t24において溶接ワイヤW1と母材B1との間に形成される溶滴にくびれが生じていることが検出されると、電流増加制御が終了して電流減少制御が開始される。これにより、溶接電流iwが時点t24における第1正極性電流i21から第2正極性電流i22(第1正極性電流i21よりも高い電流)へ向けて急峻に変化する。すなわち、溶接電流iwの絶対値が急峻に減少する。そして、時点t24から時点t25までの期間において電流減少制御が継続される。これにより、時点t24から時点t25までの期間において溶接電流iwが第2正極性電流i22に維持される。なお、電流減少制御における溶接電流iwの上限となる第2正極性電流i22は、正極性ベース電流ib2よりも低い電流(正極性ベース電流ib2よりも絶対値が大きい電流)であってもよいし、正極性ベース電流ib2と同一の電流であってもよいし、正極性ベース電流ib2よりも高い電流であってもよい。
【0053】
時点t25において溶接ワイヤW1と母材B1との短絡の開放が検出されると、電流減少制御が終了して復帰制御が開始され、時点t25から時点t26までの期間において復帰制御が継続される。これにより、次の溶滴移行のための溶融塊が形成される。
【0054】
また、時点t25において溶接ワイヤW1と母材B1との短絡の開放が検出されると、送給速度復帰制御が行われ、溶接ワイヤW1の送給速度Wfが第2送給速度Wf2から第1送給速度Wf1に切り換えられる。送給速度復帰制御が行われてから送給速度変更制御が行われるまで、第1送給速度Wf1が維持されてもよい。第1送給速度Wf1は、時間的に一定でもよく、時間的に変化してもよい。
【0055】
時点t26になると、復帰制御が終了して通常電流制御が開始される。これにより、溶接電流iwが正極性ベース電流ib2に維持される。そして、時点t27になると、正極性期間P2から逆極性期間P1に切り換えられ、溶接電流iwが正極性ベース電流ib2から逆極性ピーク電流ip1に変化する。
【0056】
〔実施形態の効果〕
以上のように、溶接ワイヤW1と母材B1との短絡が検出された以後に、溶接ワイヤW1の送給速度を第1送給速度Wf1(正送方向の送給速度である正の値の送給速度)から第2送給速度Wf2(第1送給速度Wf1よりも負側となる送給速度)に変化させる送給速度変更制御を行うことにより、溶接ワイヤW1の送給速度Wfを第1送給速度Wf1よりも負側に変化させることができる。
【0057】
具体的には、第2送給速度Wf2が正の値(第1送給速度Wf1よりも小さい正の値)である場合、母材B1へ向けて送給される溶接ワイヤW1を減速させることができる。すなわち、母材B1へ向けて送給される溶接ワイヤW1の送給速度を第1送給速度Wf1よりも遅くすることができる。第2送給速度Wf2がゼロである場合、溶接ワイヤW1の送給を停止することができる。第2送給速度Wf2が負の値である場合、母材B1から離れる方向である逆送方向に溶接ワイヤW1を送ることができる。
【0058】
このように、溶接ワイヤW1の送給速度Wfを第1送給速度Wf1よりも負側に変化させることにより、溶接ワイヤW1と母材B1との間の距離を長くすることができるので、溶接ワイヤW1と母材B1との短絡の開放を促進させることができる。これにより、短絡開始から短絡開放までの時間(短絡時間)を短縮することができるので、溶接電流iwの周期(逆極性期間の開始時点からその逆極性期間に引き続く正極性期間の終了時点までの期間)を一定に維持しやすくなる。したがって、溶接ワイヤW1と母材B1との短絡に起因する溶接電流iwの周期の不均一化を抑制することができる。
【0059】
また、第2送給速度Wf2を負の値に設定することにより、溶接ワイヤW1の送給速度Wfを第1給速度Wf1(正送方向の送給速度である正の値の送給速度)から第2送給速度Wf2(逆送方向の送給速度である負の値の送給速度)に変化させることで、溶接ワイヤW1が母材B1から離れる方向に溶接ワイヤW1を送ることができる。これにより、溶接ワイヤW1を母材B1から確実に引き離すことができるので、溶接ワイヤW1と母材B1との接触による溶接ワイヤW1(特にアルミニウム製の溶接ワイヤW1)の座屈の発生を防止することができる。
【0060】
また、電流増加制御が開始された以後(すなわち溶接ワイヤW1と母材B1との短絡が検出された時点から短絡待機時間が経過した以後)に、送給速度変更制御を行うことにより、溶接ワイヤW1と母材B1との短絡の接触状態が比較的に軽度であり短絡開始から短絡開放までの時間である短絡時間が比較的に短い場合(例えば短絡開始直後)に、送給速度変更制御が行われないようにすることができる。これにより、送給速度変更制御を効果的に行うことができる。
【0061】
具体的には、短絡開始から短絡開放までの時間である短絡時間が短絡待機時間よりも短い場合に、送給速度変更制御が行われないようにすることにより、送給速度変更制御が行われることにより溶接ワイヤW1の目標送給量が不足してしまうことを抑制することができる。また、短絡開始から短絡開放までの時間である短絡時間が短絡待機時間よりも長い場合に、送給速度変更制御が行われるようにすることにより、溶接ワイヤW1と母材B1との短絡の開放を促進させることができる。
【0062】
なお、短絡時間は、なるべく短い時間であることが望ましい。この理由は、以下のとおりである。例えば、溶接速度が速い場合にアーク長が長いと、アンダーカットになる傾向がある。このため、電圧を下げアーク長を短くし軽い短絡を生じさせることで、アンダーカットを抑制できる効果が期待できる。ただし、短絡時間が長くなると、電流波形の周期が不規則になり、溶接が不安定になる。このため、短絡を生じさせる場合、短絡時間は、短いほうが良い。
【0063】
また、短絡開放のタイミングが短絡待機時間の経過時点よりも前である場合で、且つ、溶接電流の供給だけで短絡開放ができる場合は、送給速度変更制御を行わない。理由は、不要な送給速度変更制御を行うと、溶接ワイヤW1の目標送給量が減ってしまうからである。したがって、短絡待機時間の経過時点より前に短絡開放した場合に送給速度変更制御を行なわず、短絡待機時間の経過時点より前に短絡開放しない場合に送給速度変更制御を行うことが好ましい。
【0064】
また、溶接ワイヤW1と母材B1との短絡の開放が検出された以後に、溶接ワイヤW1の送給速度Wfを第2送給速度Wf2から第1送給速度Wf1に戻す送給速度復帰制御を行うことにより、溶接ワイヤW1の送給速度Wfを元に戻すことができる。これにより、溶接ワイヤW1の送給速度Wfの低下による溶接ワイヤW1の送給不足を防止することができる。
【0065】
(実施形態の変形例1)
実施形態の変形例1のアーク溶接装置10は、電流増加制御の詳細が実施形態のアーク溶接装置10と異なる。実施形態の変形例1のアーク溶接装置10のその他の構成および動作は、実施形態のアーク溶接装置10の構成および動作と同様である。
【0066】
実施形態の変形例1では、
図4に示すように、電流増加制御は、第1電流増加制御と、第1電流増加制御の後に行われる第2電流増加制御とを含む。
図4の例では、時点t13から時点t13aまでの期間において第1電流増加制御が継続され、時点t13aから時点t14までの期間において第2電流増加制御が継続される。また、時点t23から時点t23aまでの期間において第1電流増加制御が継続され、時点t23aから時点t24までの期間において第2電流増加制御が継続される。なお、
図4の例のその他の期間における制御は、
図3に示した制御と同様である。
【0067】
〔第1電流増加制御(第1電流増加ステップ)〕
制御部14は、通常電流制御において溶接ワイヤW1と母材B1との短絡が検出された時点(すなわち短絡初期制御が開始された時点)から予め定められた短絡待機時間が経過した以後(この例では直後)に、第1電流増加制御を行う。第1電流増加制御では、制御部14は、溶接電流iwの絶対値が予め定められた第1電流増加速度で増加するように、電力変換部11の動作(具体的には第1スイッチング部102のスイッチング動作)を制御して溶接電流iwを制御する。なお、第1電流増加制御では、第2スイッチング部106は、導通状態のまま維持される。
【0068】
図4の例では、時点t13から時点t13aまでの期間において第1電流増加制御が継続され、溶接電流iwが逆極性短絡初期電流is1から第1電流増加速度で次第に増加していく。すなわち、溶接電流iwの絶対値が次第に増加していく。また、時点t23から時点t23aまでの期間において第1電流増加制御が継続され、溶接電流iwが正極性短絡初期電流is2から第1電流増加速度で次第に減少していく。すなわち、溶接電流iwの絶対値が次第に増加していく。
【0069】
〔第2電流増加制御(第2電流増加ステップ)〕
第1電流増加制御の後に、制御部14は、第2電流増加制御を行う。具体的には、制御部14は、第1電流増加制御において溶接電流iwが予め定められた切換電流に到達した以後(
図4の例では溶接電流iwが第3逆極性電流i13または第3正極性電流i23に到達した直後)に、第2電流増加制御を行う。例えば、制御部14は、溶接電流iwを検出し、溶接電流iwが切換電流に到達したことを受けて第2電流増加制御を開始してもよい。第2電流増加制御では、制御部14は、溶接電流iwの絶対値が予め定められた第2電流増加速度(第1電流増加速度よりも低い電流増加速度)で増加するように、電力変換部11の動作(具体的には第1スイッチング部102のスイッチング動作)を制御して溶接電流iwを制御する。なお、第2電流増加制御では、第2スイッチング部106は、導通状態のまま維持される。
【0070】
図4の例では、時点t13aから時点t14までの期間において第2電流増加制御が継続され、溶接電流iwが第3逆極性電流i13から第2電流増加速度で次第に増加していく。すなわち、溶接電流iwの絶対値が次第に増加していく。また、時点t23aから時点t24までの期間において第2電流増加制御が継続され、溶接電流iwが第3正極性電流i23から第2電流増加速度で次第に減少していく。すなわち、溶接電流iwの絶対値が次第に増加していく。
【0071】
〔送給速度変更制御〕
なお、実施形態の変形例1において、送給速度変更制御は、第2電流増加制御が開始された以後(この例では直後)に行われてもよい。すなわち、制御部14は、第2電流増加制御が開始された以後に、ワイヤ送給速度Wfが第1送給速度Wf1から第2送給速度Wf2に変化するように、ワイヤ送給部21の動作を制御するものであってもよい。例えば、制御部14は、溶接電流iwが切換電流に到達したことを受けて送給速度変更制御を実行してもよい。
【0072】
〔実施形態の変形例1の効果〕
以上のように、第1電流増加制御が開始された以後(溶接ワイヤW1と母材B1との短絡が検出された時点から短絡待機時間が経過した時点以降)に、送給速度変更制御を行うことにより、溶接ワイヤW1と母材B1との短絡の接触状態が比較的に軽度であり短絡開始から短絡開放までの時間(短絡時間)が比較的に短い場合に、送給速度変更制御が行われないようにすることができる。これにより、送給速度変更制御を効果的に行うことができる。
【0073】
(実施形態の変形例2)
実施形態の変形例2のアーク溶接装置10は、送給速度変更制御のタイミングが実施形態のアーク溶接装置10と異なる。実施形態の変形例2のアーク溶接装置10のその他の構成および動作は、実施形態のアーク溶接装置10の構成および動作と同様である。
【0074】
実施形態の変形例2では、送給速度変更制御は、電流減少制御が開始された以後(例えば直後)に行われる。すなわち、制御部14は、電流減少制御が開始された以後に、ワイヤ送給速度Wfが第1送給速度Wf1から第2送給速度Wf2に変化するように、ワイヤ送給部21の動作を制御する。例えば、制御部14は、溶接ワイヤW1と母材B1との間に形成される溶滴にくびれが生じているくびれの検出を受けて、送給速度変更制御を実行してもよい。
【0075】
〔実施形態の変形例2の効果〕
以上のように、電流減少制御が開始された以後(溶接ワイヤW1と母材B1との短絡が検出された時点から短絡待機時間が経過した時点以降)に、送給速度変更制御を行うことにより、溶接ワイヤW1と母材B1との短絡の接触状態が比較的に軽度であり短絡開始から短絡開放までの時間(短絡時間)が比較的に短い場合に、送給速度変更制御が行われないようにすることができる。これにより、送給速度変更制御を効果的に行うことができる。
【0076】
(実施形態の変形例3)
実施形態の変形例3のアーク溶接装置10は、制御部14の動作が実施形態のアーク溶接装置10と異なる。実施形態の変形例3のアーク溶接装置10のその他の構成および動作は、実施形態のアーク溶接装置10の構成および動作と同様である。
【0077】
〔電力積算動作(電力積算ステップ)〕
実施形態の変形例3では、制御部14は、くびれ検出動作の代わりに、電力積算動作を行う。電力積算動作では、制御部14は、溶接ワイヤW1と母材B1との短絡が検出された時点から溶接ワイヤW1と母材B1とに供給された電力を積算して得られる電力積算値を導出する。なお、溶接ワイヤW1と母材B1とに供給される電力は、溶接電流Iaと溶接電圧Vwとの積に基づいて算出することが可能である。
【0078】
〔電流減少制御(電流減少ステップ)〕
また、実施形態の変形例3では、制御部14は、くびれ検出動作により検出される溶滴のくびれの代わりに、電力積算動作により導出される電力積算値に基づいて、電流減少制御を行う。具体的には、制御部14は、電流増加制御を開始し、その後、電力積算動作を開始する。制御部14は、電力積算値が予め定められた所定の電力積算閾値よりも大きいかを決定する。制御部14は、電力積算値が電力積算閾値に到達した以後(例えば直後)に、制御部14は、電流減少制御を開始する。なお、電力積算閾値は、溶接ワイヤW1と母材B1との間の短絡が開放される直前であるとみなすことができるときの電力積算値に設定される。所定の電力積算閾値は、固定値であってもよい。また、この固定値は溶接条件毎に定まるものであっても良い。
【0079】
〔送給速度変更制御〕
また、実施形態の変形例3では、送給速度変更制御は、短絡待機時間が経過して電流増加制御が開始された以後(例えば直後)に行われる。すなわち、制御部14は、電流増加制御が開始された以後に、ワイヤ送給速度Wfが第1送給速度Wf1から第2送給速度Wf2に変化するように、ワイヤ送給部21の動作を制御する。
【0080】
〔実施形態の変形例3の効果〕
以上のように、溶接ワイヤW1と母材B1との短絡が検出された時点から溶接ワイヤW1と母材B1とに供給された電力を積算して得られる電力積算値に基づいて、電流減少制御を行うことにより、溶接ワイヤW1と母材B1との間に形成される溶滴のくびれの有無に基づいて電流減少制御が行われる場合よりも、溶接ワイヤW1と母材B1との短絡の開放の直前に電流減少制御を正確に行うことができる。
【0081】
具体的に説明すると、例えば、電気的に導通している共通の母材B1または共通の冶具上の母材B1に対して複数台のアーク溶接装置10により溶接を行う場合、他の溶接の影響を受けてノイズなどの外乱が生じるおそれがある。また、溶接ワイヤW1がアルミや銅を含む低抵抗値の材料の場合、電圧変化が小さくなるおそれがある。このような場合、電圧を正確に検出することが難しく、くびれ検出を正確に行うことが困難となる。一方、電力積算値に基づいて電流減少制御を行うことにより、上記のような場合であっても、溶接ワイヤW1と母材B1との短絡の開放の直前に電流減少制御を正確に行うことができる。
【0082】
また、電流増加制御が開始された以後(すなわち溶接ワイヤW1と母材B1との短絡が検出された時点から短絡待機時間が経過した時点以降)に、送給速度変更制御を行うことにより、溶接ワイヤW1と母材B1との短絡の接触状態が比較的に軽度であり短絡開始から短絡開放までの時間(短絡時間)が比較的に短い場合に、送給速度変更制御が行われないようにすることができる。これにより、送給速度変更制御を効果的に行うことができる。
【0083】
(実施形態の変形例4)
実施形態の変形例4のアーク溶接装置10は、送給速度変更制御のタイミングが実施形態のアーク溶接装置10と異なる。実施形態の変形例4のアーク溶接装置10のその他の構成および動作は、実施形態のアーク溶接装置10の構成および動作と同様である。
【0084】
実施形態の変形例4では、送給速度変更制御は、溶接ワイヤW1と母材B1との短絡が検出された時点から予め定められた短絡待機時間が経過した以後に行われる。すなわち、制御部14は、溶接ワイヤW1と母材B1との短絡が検出された時点から短絡待機時間が経過した以後(例えば直後)に、ワイヤ送給速度Wfが第1送給速度Wf1から第2送給速度Wf2に変化するように、ワイヤ送給部21の動作を制御する。
【0085】
〔実施形態の変形例4の効果〕
以上のように、溶接ワイヤW1と母材B1との短絡が検出された時点から短絡待機時間が経過した以後に、送給速度変更制御を行うことより、溶接ワイヤW1と母材B1との短絡の接触状態が比較的に軽度であり短絡開始から短絡開放までの時間(短絡時間)が比較的に短い場合に、送給速度変更制御が行われないようにすることができる。これにより、送給速度変更制御を効果的に行うことができる。
【0086】
なお、短絡待機時間は、溶接ワイヤW1の特徴(材質や径など)に応じて設定されてもよいし、溶接電流iwの電流域に応じて設定されてもよい。例えば、短絡待機時間は、溶接ワイヤW1の材質毎に最適な時間に設定されてもよいし、溶接電流iwの電流域毎に最適な時間に設定されてもよい。このような短絡待機時間の最適な時間は、実験などにより求めることが可能である。
【0087】
(その他の実施形態)
以上の説明において、電流増加制御における溶接電流iwの傾き(増加速度)は、溶接ワイヤW1の特徴(材質や径など)や、溶接電流iwの電流域や、顧客の要望などに応じて設定されてもよい。例えば、溶接の安定性よりもスパッタの低減をより強く求められている場合は、電流増加制御における溶接電流iwの傾きを小さくすることが好ましい。例えば、電流増加制御における溶接電流iwの通常の傾きが「100A/ms」であるとすると、溶接の安定性よりもスパッタの低減をより強く求められている場合、電流増加制御における溶接電流iwの傾きを通常の傾きよりも小さい傾き(例えば10A/ms)にしてもよいし、電流増加制御における溶接電流iwの傾きをゼロにして電流増加制御が行われないようにしてもよい。ただし、このような場合は、ジュール発熱による短絡開放が期待できないので、短絡開放を促進させるために第2送給速度Wf2を負の値(逆送)とすることが好ましい。特に、電流増加制御が行われないようにする場合は、第2送給速度Wf2の大きさ(絶対値)を、通常の送給速度である第1送給速度Wf1の大きさの1.5倍以上にすることが好ましい。
【0088】
また、以上の説明において、第1送給速度Wf1が正の方向に大きくなるに連れて、第2送給速度Wf2が負の方向に大きくなるようなっていてもよい。
【0089】
第1送給速度Wf1が正の方向に大きくなるに連れて、溶接ワイヤW1と母材B1との短絡が発生した際に、溶接ワイヤW1と母材B1との接触が密に接触しやすくなる。また、第2送給速度Wf2が負の方向に大きくなるに連れて、溶接ワイヤW1が母材B1から素早く離されるようになる。したがって、第1送給速度Wf1が正の方向に大きくなるに連れて、第2送給速度Wf2が負の方向に大きくなるようにすることにより、溶接ワイヤW1と母材B1との短絡が発生した際に、溶接ワイヤW1を母材B1から効果的に引き離すことできる。
【0090】
また、
図6に示すように、第2送給速度Wf2は、送給速度変更制御が逆極性期間P1において行われる場合には第1の値となり、送給速度変更制御が正極性期間P2において行われる場合には、第1送給速度Wf1と第1の値との間の第2の値となっていてもよい。第1の値は、正の値、ゼロ、または、負の値でもよい。例えば、第2送給速度Wf2は、送給速度変更制御が逆極性期間P1において行われる場合には、第1の値は負の値となり、送給速度変更制御が正極性期間P2において行われる場合には、第2の値はゼロまたは正の値となるようになっていてもよい。
【0091】
逆極性期間P1では、溶接ワイヤW1が比較的に溶けにくく、溶接ワイヤW1と母材B1との短絡が発生した場合に溶接ワイヤW1と母材B1との間の距離を長くしにくい。したがって、送給速度変更制御(溶接ワイヤW1の送給速度を第1送給速度Wf1から第2送給速度Wf2に変化させる制御)が逆極性期間P1において行われる場合に第2送給速度Wf2を負の値にすることにより、逆極性期間P1において送給速度変更制御が行われる場合に、溶接ワイヤW1を母材B1から確実に引き離すことできる。一方、正極性期間P2では、溶接ワイヤW1が比較的に溶けやすく、溶接ワイヤW1と母材B1との短絡が発生した場合に溶接ワイヤW1と母材B1との間の距離を長くしやすい。また、第2送給速度Wf2が負の値である場合(すなわち母材B1から離れる方向に溶接ワイヤW1を戻す場合)よりも、第2送給速度Wf2がゼロである場合(すなわち溶接ワイヤW1の送給を停止させる場合)および第2送給速度Wf2が正の値である場合(すなわち母材B1へ向けて送給される溶接ワイヤW1を減速させる場合)のほうが、溶接ワイヤW1の送給速度の切り換えに要する消費電力(例えばワイヤ送給部21の消費電力)が低くなる傾向にある。したがって、送給速度変更制御が正極性期間P2において行われる場合に第2送給速度Wf2をゼロまたは正の値にすることにより、溶接ワイヤW1の送給速度の切り換えに要する消費電力を低減することができる。
【0092】
また、以上の説明において、第2送給速度Wf2は、溶接ワイヤW1を構成する材料の種類に応じて設定されてもよい。
【0093】
例えば、アルミニウムやアルミニウム合金や銅や銅合金などの抵抗値が比較的に低い材料(以下「低抵抗材料」と記載)で溶接ワイヤW1が構成される場合、溶接ワイヤW1の抵抗値が低くなっているので、溶接ワイヤW1に溶接電流を印加しても溶接ワイヤW1がジュール発熱しにくく、溶接ワイヤW1に入熱が入りにくい。そのため、溶接ワイヤW1に溶接電流を印加し続けたとしても、溶接ワイヤW1の先端が溶けにくいので、溶接ワイヤW1と母材B1との接触による溶接ワイヤW1に座屈が生じやすい。したがって、低抵抗材料で溶接ワイヤW1が構成される場合、第2送給速度Wf2を負の値に設定し、送給速度変更制御において母材B1から離れる方向である逆送方向に溶接ワイヤW1を送ることが好ましい。これにより、溶接ワイヤW1の座屈の発生を防止することができ、溶接ワイヤW1と母材B1との短絡の開放を促進させることができる。
【0094】
また、軟鋼やステンレスなどの抵抗値が比較的に高い材料(以下「高抵抗材料」と記載)で溶接ワイヤW1が構成される場合、溶接ワイヤW1の抵抗値が比較的に高くなっているので、溶接ワイヤW1に溶接電流を印加すると溶接ワイヤW1がジュール発熱しやすく、溶接ワイヤW1に入熱が入りやすい。そのため、溶接ワイヤW1の先端が溶けやすいので、溶接ワイヤW1に座屈が生じにくい。したがって、高抵抗材料で溶接ワイヤW1が構成される場合、第2送給速度Wf2を正の値(第1送給速度Wf1よりも小さい正の値)またはゼロに設定し、送給速度変更制御において母材B1へ向けて送給される溶接ワイヤW1を減速または停止させることが好ましい。これにより、溶接ワイヤW1と母材B1との短絡の開放を効果的に促進させることができる。
【0095】
また、以上の説明において、短絡待機時間は、溶接ワイヤW1を構成する材料の種類および溶接ワイヤW1の送給速度Wf(具体的には第1送給速度Wf1)のうち少なくとも一方に応じて設定されてもよい。
【0096】
例えば、高抵抗材料で溶接ワイヤW1が構成される場合の短絡待機時間を、低抵抗材料で溶接ワイヤW1が構成される場合の短絡待機時間よりも長くしてもよい。具体的には、低抵抗材料で溶接ワイヤW1が構成される場合、短絡待機時間は、100μsec以上で且つ1000μsec以下の時間に設定されることが好ましい。また、高抵抗材料で溶接ワイヤW1が構成される場合、短絡待機時間は、100μsec以上で且つ3000μsec以下の時間に設定されることが好ましく、特に、スパッタ低減を考慮すると2000μsec以上で且つ3000μsec以下の時間に設定されることが好ましい。短絡待機時間を長くすると、溶接ワイヤW1に対する予熱時間が長くなるので、短絡開放電流(短絡開放時の溶接電流iw)を低下させることが可能となる。例えば、短絡待機時間を100μsecから2000μsecにすると、短絡開放電流が300Aから200Aに低下する。このように、短絡開放電流を低下させることにより、スパッタを低減することができる。なお、短絡待機時間を長くしすぎると、短絡開始から短絡開放までの時間がばらついて溶接が不安定になるので、短絡待機時間は、3000μsec以下であることが好ましい。
【0097】
また、溶接ワイヤW1の送給速度Wf(具体的には第1送給速度Wf1)が大きくなるに連れて、短絡待機時間を短くしてもよい。なお、溶接ワイヤW1の送給速度Wfが大きくなるに連れて、溶接ワイヤW1と母材B1との接触による溶接ワイヤW1の座屈が発生しやすくなる。したがって、溶接ワイヤW1の送給速度Wfが大きくなるに連れて短絡待機時間を短くすることにより、溶接ワイヤW1の座屈の発生を抑制することができる。
【0098】
図5は、溶接ワイヤW1を構成する材料の種類および溶接ワイヤW1の送給速度Wfに応じた短絡待機時間を例示する。
図5の例では、溶接ワイヤW1を構成する材料が「アルミニウム」であり、且つ、溶接ワイヤW1の送給速度Wfが「3m/min」である場合、短絡待機時間は、「1000μsec」に設定される。
【0099】
また、以上の説明では、溶接ワイヤW1と母材B1との短絡が検出された時点から所定の時間(例えば短絡待機時間)が経過した以後に送給速度変更制御が行われる場合を例に挙げたが、送給速度変更制御は、溶接ワイヤW1と母材B1との短絡が検出された直後に行われてもよい。なお、溶接ワイヤW1と母材B1との短絡が開放される前までに送給速度変更制御が行われる(開始される)ことは言うまでもない。また、送給制御復帰制御の開始は、溶接ワイヤW1と母材B1との短絡の開放が検出された時点、短絡の開放が検出された時点の直後、または、短絡の開放が検出された時点の後の近傍であることが好ましい。
【0100】
また、以上の実施形態を適宜組み合わせて実施してもよい。以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、ここに開示する技術、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0101】
以上説明したように、ここに開示する技術は、アーク溶接技術として有用である。
【符号の説明】
【0102】
1 アーク溶接システム
W1 ワイヤ
B1 母材
S1 電源
10 アーク溶接装置
11 電力変換部
12 溶接電流検出部
13 溶接電圧検出部
14 制御部
21 ワイヤ送給部
22 溶接トーチ
30 設定部
iw 溶接電流
Vw 溶接電圧
Wf 送給速度
Wf1 第1送給速度
Wf2 第2送給速度