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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-06
(45)【発行日】2024-06-14
(54)【発明の名称】積層型配列性繊維シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   D04H 3/04 20120101AFI20240607BHJP
   A61L 27/50 20060101ALI20240607BHJP
   B32B 5/26 20060101ALI20240607BHJP
   C12M 3/00 20060101ALI20240607BHJP
【FI】
D04H3/04
A61L27/50
B32B5/26
C12M3/00 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020076872
(22)【出願日】2020-04-23
(65)【公開番号】P2021172912
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2023-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100113170
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 和久
(72)【発明者】
【氏名】塚原 法人
(72)【発明者】
【氏名】中村 太一
(72)【発明者】
【氏名】辻 清孝
(72)【発明者】
【氏名】池田 浩二
【審査官】川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-189912(JP,A)
【文献】特開2017-043857(JP,A)
【文献】特開2018-003185(JP,A)
【文献】特開2009-068133(JP,A)
【文献】特開2010-156081(JP,A)
【文献】特開2012-057281(JP,A)
【文献】特開2018-139528(JP,A)
【文献】特開2021-146733(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04H 3/04
A61L 27/50
B32B 5/26
C12M 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム基材上に高分子材料からなる第1繊維を互いに平行に塗布し、第1繊維層を形成する工程と、
前記第1繊維層上に前記第1繊維層の前記第1繊維と交差するように、前記第1繊維とは直径が異なる、高分子材料からなる第2繊維を互いに平行に塗布し、第2繊維層を形成する工程と、
前記第2繊維層上に前記第2繊維層の前記第2繊維と交差するように、前記第1繊維を互いに平行に塗布し、第3繊維層を形成する工程と、
前記第3繊維層上に前記第3繊維層の前記第1繊維と交差するように、前記第2繊維を互いに平行に塗布し、第4繊維層を形成する工程と、を繰り返し、
第n-1繊維層上に第n繊維層を形成する工程と、
前記第n繊維層まで積層された、前記フィルム基材を加熱し、前記第1繊維と前記第2繊維との交差部を交絡させる加熱工程と、
前記加熱工程後に前記フィルム基材から積層された前記第1繊維層から前記第n繊維層までの繊維層を剥離し、積層型配列性シートを形成する工程と、
を有する、積層型配列性繊維シートの製造方法。
【請求項2】
前記第1繊維の直径と前記第2繊維の直径とは、2倍以上異なる、請求項1に記載の積層型配列性繊維シートの製造方法。
【請求項3】
前記1繊維と前記第2繊維との交差角は、30°~150°である、請求項1または2に記載の積層型配列性繊維シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配列性を有する、積層型繊維シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ポリエチレンフタレートやポリスチレン等の高分子材料からなる、微細且つ均一な配列性を有する繊維シートが、細胞培養における足場材料や濾過用フィルター用途等として、注目されている。
【0003】
特に細胞培養の分野では、近年、細胞が三次元(3D)に成長しながら生体器官を構築していく、実際の生体における細胞の成長形態をin vitro(体外で)で模倣する、3D細胞培養が脚光を浴びている。その3D細胞培養を実現する足場材料として、微細且つ均一な配列性を有する、積層型の繊維シートに対する注目が高まっている。
【0004】
例えば、3D細胞培養を可能にする足場材料としては、特許文献1の図1が示すような、配列性を有する繊維シート層の構造体を縦横90°交差する形で、積み重ねて形成した構造物が知られており、細胞は、この配列性を有する積層型繊維シート上で培養される。
【0005】
図6は、特許文献1が提案する、従来の積層型配列性繊維シートの一例の構造を示す模式図である。図7-1から図7-5は、従来の積層型配列性繊維シートの一例の製造方法の一例の各工程を示す模式図である。
【0006】
まず、図6を用いて、従来の積層型配列性繊維シートの構造について説明する。
図6において、積層型配列性繊維シート1は、ポリスチレンやポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート等の高分子材料からなる繊維2が、Y方向に平行且つ等ピッチで配列された層の構造体と、同様の高分子材料からなる繊維3が、X方向に平行且つ等ピッチに配列された層の構造体が、交互にZ方向に積み重ねられ、形成された、3D構造体である。
【0007】
次に、図7-1乃至図7-5を用いて、従来の積層型配列性繊維シート1の製造方法の一例について説明する。
(1)従来の積層型配列性繊維シートの製造方法では、まず始めに、図7-1に示すような、繊維2がY方向に平行且つ等ピッチで配列され、繊維3が、X方向に平行且つ等ピッチに配列された繊維メッシュ層4の構造体を射出成型法等の方法で、複数作製しておく。
(2)次に、複数作製した繊維メッシュ層4の内、まずは2個を、図7-2に示すように第1の繊維メッシュ層5と第2の繊維メッシュ層6とし、お互いを位置合わせし、重ね合わせた後、接合する。
尚、接合は、一般的には、熱融着により行われるが、その限りでは無く、接着材を介して接合する方法であっても良い。
(3)その結果、図7-3に示す、4層構造を有する、積層型配列性繊維シート7が完成する。
(4)次に図7-4に示すように、4層構造の積層型配列性繊維シート7に対し、第3の繊維メッシュ層8を位置合わせし、重ね合わせた後、接合する。
(5)その結果、図7-5に示す、6層構造を有する、積層型配列性繊維シート9が完成する。
更に積層型配列性繊維シートの層数を増やしたい際は、同様の工程を繰り返すことで
製造していく。
【0008】
尚、本事例では、繊維メッシュ層を1層ずつ積み重ね、接合していくことで、複数層を有する、積層型配列性繊維シートを製造する方法を示したが、全層の繊維メッシュ層をまとめて重ね合わせた後、一括で接合する製造方法であってもよい。
【0009】
次に、図8-1乃至図8-3を用いて、図6図7-1乃至図7-5の事例とは異なる、繊維メッシュ層構造を有する、従来の積層型配列性繊維シートの製造方法について説明する。図8-1乃至図8-3は、従来の積層型配列性繊維シート製造方法の一例の各工程を示す模式図である。
(a)図8-1に示す、従来例では、繊維メッシュ層10は、Y方向に平行且つ等ピッチで配列され、繊維11と、X方向に平行且つ等ピッチに配列された繊維12と、繊維11と繊維12との交点にZ方向と平行に形成された支柱13により構成されている。繊維メッシュ層10も射出成形法等により、複数製造しておく。
(b)次に、複数製造した繊維メッシュ層10を用いて、図8-2に示すように第1の繊維メッシュ層14の支柱13の位置と、第2の繊維メッシュ層15の支柱13の位置が合致するよう重ね合わせ、接合する。
(3)その後、更に第3の繊維メッシュ層16の支柱13の位置と、第2の繊維メッシュ層15の支柱13の位置が合致するよう、重ね合わせ、接合する工程を繰り返すことで、図8-3に示す、複数の層を有する、積層型配列性繊維シート17が完成する。
この場合においても、全層の繊維メッシュ層をまとめて重ね合わせた後、一括で接合する製造方法を適用してもよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特願2009-549679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、図7-1乃至図7-5及び図8-1乃至図8-3に記載した、特許文献1の積層型配列性繊維シートの製造方法では、直径が数十~数百μm程度の微細な繊維で構成された、繊維メッシュ層4を正確に位置合わせし、所定の位置に積み重ねていくことは困難であり、繊維メッシュ層間で位置ズレが生じる。この為、微細且つ均一な配列性を有する積層型の繊維シートを安定的に品質良く製造することは困難であった。
【0012】
また、正確に繊維メッシュ層4を積み重ねる為には、画像認識を活用して、所定の積層位置を算出し、積み重ねていく方法も考えられるが、その場合、生産性が著しく悪くなる、という課題があった。
【0013】
更に、図8-1に記載した、支柱13を有する、積層型配列性繊維シート17においては、各層の繊維メッシュ層10の層間接合は、支柱13の平坦な直径断面部と、繊維12の曲率部とを位置合わせし、突き合わせてつなぐ構造である。この為、正確に双方の位置合わせが出来たとしても、接合面積が小さく、層間の接合品質確保に問題があった。
【0014】
ましてや、少しでも支柱13と繊維12との位置がずれると、支柱13と繊維12との接合面積が極端に減る為、初期の接合確保すら難しい、との課題があった。
【0015】
以上より、本発明の目的は、3D細胞培養における足場材料や高性能な濾過用フィルター等として用いられる、微細且つ均一な配列性を有する積層型繊維シートを安定的に品質良く形成する製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために、本発明に係る積層型配列性繊維シートの製造方法は、フィルム基材上に高分子材料からなる第1繊維を互いに平行に塗布し、第1繊維層を形成する工程と、
前記第1繊維層上に前記第1繊維層の前記第1繊維と交差するように、前記第1繊維とは直径が異なる、高分子材料からなる第2繊維を互いに平行に塗布し、第2繊維層を形成する工程と、
前記第2繊維層上に前記第2繊維層の前記第2繊維と交差するように、前記第1繊維を互いに平行に塗布し、第3繊維層を形成する工程と、
前記第3繊維層上に前記第3繊維層の前記第1繊維と交差するように、前記第2繊維を互いに平行に塗布し、第4繊維層を形成する工程と、を繰り返し、
第n-1繊維層上に第n繊維層を形成する工程と、
前記第n繊維層まで積層された、前記フィルム基材を加熱し、前記第1繊維と前記第2繊維との交差部を交絡させる加熱工程と、
前記加熱工程後に前記フィルム基材から積層された前記第1繊維層から前記第n繊維層までの繊維層を剥離し、積層型配列性シートを形成する工程と、
を有する。
【0017】
また、本発明に係る積層型配列性繊維シートは、高分子材料からなる第1繊維が互いに平行に配置された奇数番号層と、
前記奇数番号層の上に前記第1繊維と交差する、高分子材料からなる第2繊維が多義に平行に配置された偶数番号層と、が積層された積層型配列性繊維シートであって、
互いに交差する、前記奇数番号層の前記第1繊維と、前記偶数番号層の前記第2繊維と、の交絡部は、その厚みが、前記第1繊維の直径と前記第2繊維の直径との合計以下である。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る積層型配列性繊維シートの製造方法によれば、積層型配列性繊維シートの製造において、各繊維シートの層間が、位置ズレ無く、且つ、高い接続品質で接合された積層構造体を形成することが可能となる。これにより、3D細胞培養における足場材料や高性能濾過用フィルター等として用いられる、微細且つ均一な配列性を有する、積層型配列性繊維シートを安定的に品質良く製造、提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1-1】実施の形態1に係る積層型配列性繊維シートの製造方法の一例の一工程を示す模式図である。
図1-2】実施の形態1に係る積層型配列性繊維シートの製造方法の一例の一工程を示す模式図である。
図1-3】実施の形態1に係る積層型配列性繊維シートの製造方法の一例の一工程を示す模式図である。
図1-4】実施の形態1に係る積層型配列性繊維シートの製造方法の一例の一工程を示す模式図である。
図1-5】実施の形態1に係る積層型配列性繊維シートの製造方法の一例の一工程を示す模式図である。
図1-6】実施の形態1に係る積層型配列性繊維シートの製造方法の一例によって形成されたn層の積層型配列性繊維シート構造体111の構成を示す模式図である。
図1-7】実施の形態1に係る積層型配列性繊維シートの製造方法の一例によって完成された積層型配列性繊維シートの構成を示す模式図である。
図2A】実施の形態1において、高分子材料からなる繊維をフィルム基材上に塗布し、繊維層を形成するのに用いる装置の一例を側面から見た側面図である。
図2B図2Aの装置を正面から見た正面図である。
図3】実施の形態1に係る積層型配列性繊維シートの製造方法の一例を示す工程図である。
図4-1】実施の形態1に係る積層型配列性繊維シートの一例の構造を示す模式図である。
図4-2】図4-1のA-A方向から見た断面構造を示す概略断面図である。
図5-1】実施の形態1に係る積層型配列性繊維シートの一例の断面構造を示す模式断面図である。
図5-2】図5-1のB-B方向から見た断面構造を示す模式断面図である。
図5-3】第2繊維の直径が第1繊維の直径の2倍未満の場合の断面構造を示す模式断面図である。
図5-4】第2繊維の直径が第1繊維の直径の2倍以上の場合の断面構造を示す模式断面図である。
図6】従来の積層型配列性繊維シートの一例を示す模式図である。
図7-1】従来の積層型配列性繊維シート製造方法の一例の一工程を示す模式図である。
図7-2】従来の積層型配列性繊維シート製造方法の一例の一工程を示す模式図である。
図7-3】従来の積層型配列性繊維シート製造方法の一例の一工程を示す模式図である。
図7-4】従来の積層型配列性繊維シート製造方法の一例の一工程を示す模式図である。
図7-5】従来の積層型配列性繊維シート製造方法の一例の一工程を示す模式図である。
図8-1】従来の積層型配列性繊維シート製造方法の一例の一工程を示す模式図である。
図8-2】従来の積層型配列性繊維シート製造方法の一例の一工程を示す模式図である。
図8-3】従来の積層型配列性繊維シート製造方法の一例の一工程を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
第1の態様に係る積層型配列性繊維シートの製造方法は、フィルム基材上に高分子材料からなる第1繊維を互いに平行に塗布し、第1繊維層を形成する工程と、
前記第1繊維層上に前記第1繊維層の前記第1繊維と交差するように、前記第1繊維とは直径が異なる、高分子材料からなる第2繊維を互いに平行に塗布し、第2繊維層を形成する工程と、
前記第2繊維層上に前記第2繊維層の前記第2繊維と交差するように、前記第1繊維を互いに平行に塗布し、第3繊維層を形成する工程と、
第3繊維層上に前記第3繊維層の前記第1繊維と交差するように、前記第2繊維を互いに平行に塗布し、第4繊維層を形成する工程と、を繰り返し、
第n-1繊維層上に第n繊維層を形成する工程と、
前記第n繊維層まで積層された、前記フィルム基材を加熱し、前記第1繊維と前記第2繊維との交差部を交絡させる加熱工程と、
前記加熱工程後に前記フィルム基材から積層された前記第1繊維層から前記第n繊維層までの繊維層を剥離し、積層型配列性シートを形成する工程と、
を有する。
【0021】
第2の態様に係る積層型配列性繊維シートの製造方法は、上記第1の態様において、前記第1繊維の直径と前記第2繊維の直径とは、2倍以上異なってもよい。
【0022】
第3の態様に係る積層型配列性繊維シートの製造方法は、上記第1又は第2の態様において、前記1繊維と前記第2繊維との交差角は、30°~150°であってもよい。
【0023】
第4の態様に係る積層型配列性繊維シートは、高分子材料からなる第1繊維が互いに平行に配置された奇数番号層と、
前記奇数番号層の上に前記第1繊維と交差する、高分子材料からなる第2繊維が互いに平行に配置された偶数番号層と、が積層された積層型配列性繊維シートであって、
互いに交差する、前記奇数番号層の前記第1繊維と、前記偶数番号層の前記第2繊維と、の交絡部は、その厚みが、前記第1繊維の直径と前記第2繊維の直径との合計以下である。
【0024】
第5の態様に係る積層型配列性繊維シートは、上記第4の態様において、前記第1繊維と前記第2繊維との何れか直径が大きい方の繊維は、弾性ゴム材料であってもよい。
【0025】
以下、本発明の実施の形態に係る積層型配列性繊維シート及びその製造方法について、図面を参照しながら説明する。なお、図面において実質的に同一の部材については同一の符号を付している。
【0026】
(実施の形態1)
<積層型配列性繊維シートの製造方法>
図1-1~図1-7は、実施の形態1に係る積層型配列性繊維シートの製造方法の一例の各工程を示す模式図である。図1-1~図1-7を用いて実施の形態1に係る積層型配列性繊維シートの製造方法の一例を説明する。
(1)まず、図1-1に示す、フィルム表面にフッ素加工等の離型処理が施された、剥離性を有する、フィルム基材101を準備する。
(2)次に、図1-2に示すように、フィルム基材101上にポリエチレンフタレートやポリスチレン等の高分子材料からなる、第1繊維102を互いに平行に塗布し、第1繊維層103を形成する。実施の形態1では、ポリスチレンを採用し、直径20μmの第1繊維102をフィルム基材101上に50μmの間隔で、平行に塗布した。
(3)次に、図1-3に示すように、フィルム基材101に形成された、第1繊維層103上に第1繊維層103の第1繊維102と交差するように、第1繊維102と同様の高分子材料、ポリスチレンからなる第2繊維104を100μmの間隔で互いに平行に塗布し、第2繊維層105を形成した。本実施の形態では、第2繊維104として、第1繊維102より太い、直径50μmの繊維を用いた。これは、第1繊維層と後述する第3繊維層間の隙間を確保する、スペーサとしての機能を第2繊維104に持たせる為である。
【0027】
尚、図1-3では、第1繊維層103の第1繊維102と第2繊維層105の第2繊維104との交差角は90°の事例を示しているが、隣接する各繊維層の第1繊維と第2繊維との交差角は、これに限定されるものでは無く、30°~150°の範囲であることが好適である。
【0028】
(4)次に、図1-4に示すように、第2繊維層105上に第2繊維層105の第2繊維104と交差するように第1繊維102を50μmの間隔で互いに平行に塗布し、第3繊維層106を形成した。
尚、第3繊維層106を構成する、第1繊維102は、第1繊維層103を構成する第1繊維を同様に、直径20μmのものを用いた。
【0029】
(5)更に、図1―5に示すように、第3繊維層106上に第3繊維層106の第1繊維102と交差するように第2繊維104を100μmの間隔で互いに平行に塗布し、第4繊維層107を形成した。
尚、第4繊維層106を構成する、第2繊維104は、第2繊維層105を構成する第2繊維を同様に、直径50μmのものを用いた。
【0030】
(6)その後、これまでに説明してきた、図1-2~図1-5の工程を繰り返すことで、多層構造の積層型配列性繊維シートを作製することができる。
【0031】
(7)図1-6は、フィルム基材101上に形成した第n-1繊維層109上に第n-1繊維層109の第1繊維又は第2繊維と交差するように第2繊維又は第1繊維を互いに平行に塗布して第n繊維層110を形成することで作製した、n層の積層型配列性繊維シート構造体111の構成を示す模式図である。
(8)積層型配列性繊維シート構造体111は、作製後に高分子材料(実施の形態1ではポリスチレン)のガラス転移点以上、且つ融点未満の温度で、一定時間、加熱処理を行う。加熱処理を施すことで、第n-1繊維層109の第1繊維又は第2繊維と第n繊維層110の第2繊維又は第1繊維との交差部は、交絡し、各繊維層間が接合された構造体となる。
(9)次に、加熱処理後、積層型配列性繊維シート構造体111からフィルム基材101を剥離する。
以上の工程によって、図1-7に示す、積層型配列性繊維シート112が完成する。
【0032】
この積層型配列性繊維シート112では、第1繊維102と第2繊維104との交差部は、加熱工程により交絡(接合)された構造となっている。この為、従来例のような、繊維メッシュ層間の位置ずれにより、接合部の面積が減少するといった事象が発生する心配も無く、高い接合品質の層間接続を得ることが出来る。
また、従来例のように繊維メッシュ層の構造体を位置合わせし、積み重ねていく工程とは異なり、繊維を所定の位置に高速で塗布するだけで、層間の位置ズレの無い積層体を形成することが出来る。この為、均一な配列性を有する、積層型繊維シートを安定的に品質良く、且つ高生産性で製造、提供することが可能となる。つまり、従来例において、繊維メッシュ層間の位置ずれの要因となっていた、繊維メッシュ層の構造体を位置合わせし、積み重ねていく必要がない。
【0033】
また、奇数番号層を構成する第1繊維と偶数番号層を構成する第2繊維との交差部は、加熱工程により交絡(接合)された構造となっている。この為、各繊維層間の位置ずれにより、接合部の面積が減少するといった事象が発生する心配も無く、高い接合品質の層間接続を得ることが出来る。
【0034】
更に、第1繊維と第2繊維とでは、繊維の直径が異なる為、加熱工程によって、第1繊維と第2繊維との交差部を交絡する際、第1繊維、第2繊維は、それぞれが溶融し、双方に溶け込むが、最大限溶け込んだとしても、各繊維層間の隙間は確保出来る。そのため、繊維層間が一体化してしまうといった、構造不良が発生することは無く、安定した品質で、積層型配列性繊維シートを製造、提供することが可能となる。
【0035】
尚、実施の形態1では、奇数番号層を構成する第1繊維102の塗布間隔は50μmで全ての奇数番号層で同じ、更に、偶数番号層を構成する第2繊維104の塗布間隔は100μmで全ての偶数番号層で同じ、という構造例を示したが、これに限られない。例えば、奇数番号層の中の一部の層や偶数番号層の中の一部の層で、繊維の塗布間隔が異なる層があってもよい。
【0036】
次に、図2図5を用いて、実施の形態1に係る積層型配列性繊維シートの製造方法の詳細について、更に説明する。
【0037】
図2Aは、実施の形態1において、高分子材料からなる繊維をフィルム基材上に塗布し、繊維層を形成するのに用いる装置の一例を側面から見た側面図である。図2Bは、図2Aの装置を正面から見た正面図である。
【0038】
以下に、図2A及び図2Bの装置を用いて高分子材料からなる繊維をフィルム基材上に塗布する工程について説明する。
(a)ポリエチレンフタレートやポリスチレン等の高分子材料は、有機溶剤による膨潤や加熱により、溶融もしくは、溶液状態でノズル201から押し出され、自然冷却もしくは自然乾燥されることにより、固形状態の繊維202が形成される。
実施の形態1では、繊維を構成する高分子材料としてポリスチレンを採用し、ペレット状のポリスチレンを有機溶媒であるDMF(N、N-ジメチルホルムアミド)に30重量%膨潤させた溶液を用いて、繊維202を形成した。
(b)次に、繊維202は、ガイド205により、巻取りドラム203おける回転軸204に対し、垂直な方向(Z方向)に押圧され、巻取りドラム203上に、予め取り付けられている、フィルム基材101上に塗布される。
(c)ノズル201とガイド205とは、一体となり、巻取りドラム203の回転軸204と平行な方向である、P-P’に沿って移動する。これによって、所定の配列性を持って、繊維202は、巻取りドラム203上に取り付けられた、フィルム基材101上に巻き取られていく。
【0039】
(d)巻取りドラム203に取り付けられた、フィルム基材101上に巻き取られる繊維202の間隔は、一体となり移動する、ノズル101と第1ガイド105及び第2ガイド106の移動速度の調整により、任意の値で形成可能である。本実施の形態1では、奇数番号層は、50μm間隔、偶数番号層は50μmの配列性で、繊維シート層を形成した。
【0040】
図3は、図2に示す装置を用いて、n層の積層型配列性繊維シートを製造する際の工程を示すフローチャートである。
(1)まず、S01工程において、巻取りドラムに取り付け、予め準備したフィルム基材に対し、第1繊維を塗布し、第1繊維層を形成する。
(2)その後、S02工程において、巻取りドラムから第1繊維層が形成されたフィルム基材を一旦、取り外し、90°回転させた後、再び巻取りドラムに取り付け、第2繊維を塗布し、第2繊維層を形成する。
(3)その後、S01~S02の工程を繰り返すことで、第n-1繊維層が形成されたフィルム基材を一旦、取り外し、Sn工程において、90°回転させた後、再び巻取りドラムに取り付け、第2繊維の塗布を行い(nが偶数の場合)、第n繊維層を形成する。
(4)次にSn+1工程において、フィルム基材上に第n繊維層が形成された、積層型配列性繊維シート構造体の加熱処理を行った後、Sn+2工程において、フィルム基材を剥離することで、n層の積層型配列性繊維シートが完成する。
【0041】
尚、図2A図2B及び図3においては、フィルム基材上に繊維を塗布する方法として、回転ドラム上に取り付けたフィルム基材上に繊維を塗布する工法の事例を示したが、フィルム基材上への繊維層の塗布は、インクジェットやディスペンスによる描画といった、他の工法を採用してもよい。
【0042】
<積層型配列性繊維シート構造体>
次に、図4-1は、実施の形態1に係る積層型配列性繊維シートの製造方法を用いて製造した、図3のSn工程後のn層の積層型配列性繊維シート構造体111の一例を示す模式図である。図4-2は、図4-1のA-A方向(X方向)から見た断面構造を示す概略断面図である。
【0043】
図4-1に示すように、フィルム基材101上に形成された第n-1繊維層109は、第n繊維層110を構成する第1繊維102より、太い直径を有する第2繊維104で構成されている。
図4-2に示すように、積層型配列性繊維シート構造体111において、フィルム基材101上に形成された、奇数番号層の第1繊維層103、第3繊維層106、第n繊維層110を構成する第1繊維102の直径は、偶数番号層の第2繊維層105、第4繊維層107、第n-1繊維層109を構成する第2繊維104の直径より、細い構造体となっていることが判る。
【0044】
<積層型配列性繊維シート>
次に、図3における、加熱工程Sn+1後の積層型配列性繊維シート112の断面模式図を図5-1に示す。
図5-1に示すように、図4-1に示す積層型配列性繊維シート構造体111に加熱工程を施すことで、積層型配列性繊維シート112となる。この積層型配列性繊維シート112では、高分子材料からなる第1繊維102が互いに平行に配置された奇数番号層と、奇数番号層の上に第1繊維と交差する、高分子材料からなる第2繊維104が互いに平行に配置された偶数番号層と、が積層されている。奇数番号層(第1繊維層103、第3繊維層106、第5繊維層108)を構成する第1繊維102と、偶数番号層(第2繊維層105、第4繊維層107、第n-1繊維層)を構成する第2繊維104と、の交差部301は、交絡し、各繊維層間が接合された構造となっている。この交絡部の厚みは、後述するように、第1繊維102の直径と第2繊維104の直径との合計以下である。
【0045】
図5-2は、図5-1のB-B方向(Z方向)から見た断面構造を示す断面模式図である。
第1繊維102と第2繊維104との交差部301では、交絡、接合することで、双方の繊維小同士が溶け込むため、例えば、第3繊維層102と第5繊維層104との間隔Dは、交絡前の間隔より、狭くなっている。言い換えれば、第1繊維102の上に、交差された第2繊維104との交差部301では、その厚みが、第1繊維102の直径と第2繊維104の直径の合計以下となっている。
一方で、積層型配列性繊維シートを3D細胞培養の足場材料として用いる場合、本実施の形態1において、細胞成長の足場となる、奇数番号層の各繊維層間には、細胞が成長する為の隙間を確保しておく必要がある。
【0046】
実施の形態1において、偶数番号層を構成する第2繊維104の直径は、奇数番号層を構成する第1繊維102の直径より大きくしている。これによって、第2繊維104の直径は、奇数番号層の各繊維層間の隙間を確保する為のスペーサとしての役割を果たす。図5-3は、第2繊維104の直径Fが第1繊維102の直径Eの2倍未満の場合の断面構造を示す模式断面図である。例えば、図5-3に示すように、第2繊維104の直径Fが、第1繊維102の直径Eの2倍未満の場合、第1繊維102と第2繊維104とが交絡し、双方が溶け込んだ際に、奇数番号層の繊維層間の第1繊維102同士が密着し、隙間が無くなる可能性がある。
【0047】
図5-4は、第2繊維104の直径Fが第1繊維102の直径Eの2倍以上の場合の断面構造を示す模式断面図である。従って、奇数番号層の各繊維層の隙間を確実に確保する為には、図5-4に示すように、第2繊維10の直径Fは、第1繊維の直径Eの2倍以上であることが望ましい。
その場合、仮に第2繊維104内に第1繊維102が完全に溶け込んだとしても、層間の隙間Gは確保される。すなわち、各繊維層間が一体化してしまうといった、構造不良が発生することは無く、安定した品質で、積層型配列性繊維シートを製造、提供することが可能となる。
【0048】
尚、実施の形態1では、偶数番号層を構成する第2繊維104を、細胞培養の足場となる奇数番号層を構成する第1繊維102より太くし、奇数番号層間の隙間を確保する、スペーサとしての機能を第2繊維104に持たせる事例を示したが、これに限られない。例えば、奇数番号層を構成する第1繊維102を第2繊維104より太くし、スペーサ機能を持たせ、第2繊維104で構成される偶数番号層を細胞培養の足場とする、逆の構成であってもよい。
【0049】
また、第1繊維102と第2繊維104とは、必ずしも同じ種類の高分子材料(本発明の実施の形態ではポリスチレン)である必要は無い。例えば、細胞培養の足場に柔軟性を持たせる目的で、第1繊維102と第2繊維104との何れか直径が大きい方の繊維に弾性ゴム材料を適用してもよい。
【0050】
なお、本開示においては、前述した様々な実施の形態及び/又は実施例のうちの任意の実施の形態及び/又は実施例を適宜組み合わせることを含むものであり、それぞれの実施の形態及び/又は実施例が有する効果を奏することができる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明に係る積層型配列性繊維シート製造方法によれば、繊維シートの層間を位置ズレ無く、且つ、高い接続品質で接合することが可能となる。これにより、3D細胞培養における足場材料や高性能濾過用フィルター等として用いられる、微細且つ均一な配列性を有する、積層型配列性繊維シートを安定的に品質良く製造、提供することが出来る。
【符号の説明】
【0052】
1 積層型配列性繊維シート
2 繊維
3 繊維
4 繊維メッシュ層
5 第1の繊維メッシュ層
6 第2の繊維メッシュ層
7 2層構造の積層型配列性繊維シート
8 第3の繊維メッシュ層
9 3層構造の積層型配列性繊維シート
10 繊維メッシュ層
11 繊維
12 繊維
13 支柱
14 第1の繊維メッシュ層
15 第2の繊維メッシュ層
16 第3の繊維メッシュ層
17 複数の層を有する積層型配列性繊維シート
101 フィルム基材
102 第1繊維
103 第1繊維層
104 第2繊維
105 第2繊維層
106 第3繊維層
107 第4繊維層
108 第5繊維層
109 第n-1繊維層
110 第n繊維層
111 積層型配列性繊維シート構造体
112 積層型配列性繊維シート
201 ノズル
202 繊維
203 回転ドラム
204 回転軸
205 ガイド
301 第1繊維と第2繊維の交差部
D 繊維層間のギャップ
E 第1繊維の直径
F 第2繊維の直径
図1-1】
図1-2】
図1-3】
図1-4】
図1-5】
図1-6】
図1-7】
図2A
図2B
図3
図4-1】
図4-2】
図5-1】
図5-2】
図5-3】
図5-4】
図6
図7-1】
図7-2】
図7-3】
図7-4】
図7-5】
図8-1】
図8-2】
図8-3】