(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-06
(45)【発行日】2024-06-14
(54)【発明の名称】電気化学式ガスセンサおよび電気化学式ガスセンサの製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/416 20060101AFI20240607BHJP
【FI】
G01N27/416 311G
(21)【出願番号】P 2021030006
(22)【出願日】2021-02-26
【審査請求日】2023-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田村 聡
(72)【発明者】
【氏名】福井 卓
(72)【発明者】
【氏名】塚原 法人
(72)【発明者】
【氏名】上山 康博
(72)【発明者】
【氏名】橋本 裕介
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-170100(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0311905(US,A1)
【文献】特表2005-503541(JP,A)
【文献】国際公開第2018/003308(WO,A1)
【文献】特開2011-058917(JP,A)
【文献】特開2006-098269(JP,A)
【文献】中国実用新案第202814910(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26-27/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜と、
前記電解質膜と接して配置された作用電極と、
前記電解質膜と接し、且つ前記作用電極と接触しないように配置された対極と、
前記電解質膜と対向配置され、貫通孔が形成された絶縁基材と、
を備え、
前記絶縁基材の前記電解質膜と対向する面には、金属層が形成され、
前記作用電極および前記対極は、前記電解質膜の表面のうち前記絶縁基材と対向する同じ面にそれぞれ配置され、
前記作用電極は、前記電解質膜と接する第1の層と、少なくとも前記金属層上の一部に形成され、前記第1の層に当接する第2の層とを有する、電気化学式ガスセンサ。
【請求項2】
前記電解質膜は、固体電解質膜である、請求項1に記載の電気化学式ガスセンサ。
【請求項3】
前記電解質膜と接し、且つ前記作用電極および前記対極と接触しないように配置された参照電極をさらに備える、請求項1または2に記載の電気化学式ガスセンサ。
【請求項4】
電解質膜と、
前記電解質膜と接して配置された作用電極と、
前記電解質膜と接し、且つ前記作用電極と接触しないように配置された対極と、
前記電解質膜と接し、且つ前記作用電極および前記対極と接触しないように配置された参照電極と、
前記電解質膜と対向配置され、貫通孔が形成された絶縁基材と、
を備え、
前記絶縁基材の前記電解質膜と対向する面には、金属層が形成され、
前記金属層は、前記絶縁基材の前記電解質膜と対向する面において、前記作用電極、前記対極、および前記参照電極にそれぞれ対応して形成された第1~第3の領域を含
み、
前記作用電極は、前記電解質膜と接する第1の層と、少なくとも前記金属層上の一部に形成され、前記第1の層に当接する第2の層とを有する、電気化学式ガスセンサ。
【請求項5】
電解質膜上に、作用電極および対極をそれぞれ構成する第1の層を形成する工程と、
貫通孔が形成された少なくとも1つの絶縁基材上に、第1および第2の領域に区画された金属層を形成する工程と、
少なくとも前記金属層の前記第1および前記第2の領域上の一部に、前記作用電極および前記対極をそれぞれ構成する第2の層を形成する工程と、
前記作用電極の前記第1の層と前記第2の層が当接し、且つ前記対極の前記第1の層と前記第2の層が当接するように、前記電解質膜と前記少なくとも1つの絶縁基材を重ねて配置する工程と、
を有する、電気化学式ガスセンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電気化学式ガスセンサおよび当該センサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、作用電極、対極、およびイオン伝導体を備えた電気化学式のガスセンサが知られている。電気化学式ガスセンサでは、例えば、作用電極と対極が外部回路を介して接続されており、一酸化炭素などの検知対象ガスがセンサに流入すると、作用電極で陽イオンと電子が発生する。電子は外部回路を通って対極に流れるが、このときの短絡電流を測定することにより、ガスの濃度を検出することができる。
【0003】
電気化学式ガスセンサは、イオン伝導体として液体電解質を用いたセンサと固体電解質を用いたセンサに大別される。例えば、特許文献1には、高分子固体電解質膜、作用電極、対極、ガス拡散層、およびフィルタを備えた電気化学式ガスセンサが開示されている。このセンサは、導電性で多孔質のガス拡散層が作用電極を被覆しており、ガス拡散層が親水性であるか、フィルタが親水性の活性炭からなることを特徴としている。なお、特許文献1には、乾燥雰囲気における感度低下を抑制できる、という効果が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、電気化学式ガスセンサにおいて、低コスト化、小型化、および高感度化は重要な課題である。センサの高感度化を実現するためには、検知対象ガスが存在しないときに出力されるベースラインを安定化させる必要がある。本発明者らの検討の結果、センサの積層構造の接触抵抗が不安定であると、ベースラインのノイズが大きくなり、センサの感度が低下することが分かった。積層構造の接触抵抗を安定化させる手段としては、センサに締結部材を取り付けて積層構造を強く押圧することが考えられるが、この場合、センサの構造が複雑になる、センサが大型化する等の問題が想定される。
【0006】
本開示の目的は、特別な締結治具等を必要としない構造でありながら、ベースラインの安定性に優れた電気化学式ガスセンサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様である電気化学式ガスセンサは、電解質膜と、電解質膜と接して配置された作用電極と、電解質膜と接し、且つ作用電極と接触しないように配置された対極と、電解質膜と対向配置され、貫通孔が形成された絶縁基材とを備え、絶縁基材の電解質膜と対向する面には、金属層が形成され、作用電極は、電解質膜と接する第1の層と、少なくとも金属層上の一部に形成され、第1の層に当接する第2の層とを有することを特徴とする。
【0008】
本開示の一態様である電気化学式ガスセンサの製造方法は、電解質膜上に、作用電極および対極をそれぞれ構成する第1の層を形成する工程と、貫通孔が形成された少なくとも1つの絶縁基材上に、第1および第2の領域に区画された金属層を形成する工程と、少なくとも金属層の第1および第2の領域上の一部に、作用電極および対極をそれぞれ構成する第2の層を形成する工程と、作用電極の第1の層と第2の層が当接し、且つ対極の第1の層と第2の層が当接するように、電解質膜と少なくとも1つの絶縁基材を重ねて配置する工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本開示の一態様によれば、特別な締結治具等を必要としない構造でありながら、ベースラインの安定性に優れた電気化学式ガスセンサを提供することができる。本開示の一態様によれば、例えば、電気化学式ガスセンサの低コスト化、小型化、および高感度化を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態の一例である電気化学式ガスセンサの分解斜視図である。
【
図2】実施形態の一例である電気化学式ガスセンサの断面図である。
【
図5】実施形態の一例である電気化学式ガスセンサの製造方法を説明するための図である。
【
図6】電気化学式ガスセンサの変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本開示に係る電気化学式ガスセンサの実施形態の一例について詳細に説明する。なお、以下で説明する複数の実施形態及び変形例を選択的に組み合わせることは本開示に含まれている。
【0012】
図1は実施形態の一例である電気化学式ガスセンサ1の分解斜視図、
図2は電気化学式ガスセンサ1の断面図である。
図2は、作用電極20が配置された部分のセンサ断面を模式的に示している。
図2では、図面の明瞭化のため、電解質膜10、作用電極20等を平坦な層として図示している。このため、電解質膜10の対向面10Sと絶縁基材50の対向面50Sの間に大きな隙間が図示されているが、実際には、対向面10S,50S同士は接している。
【0013】
図1および
図2に示すように、電気化学式ガスセンサ1は、電解質膜10と、電解質膜10と接して配置される作用電極20と、電解質膜10と接して配置され、且つ作用電極20と接触しないように配置される対極30とを備える。また、電気化学式ガスセンサ1は、電解質膜10と対向配置され、貫通孔51が形成された絶縁基材50を備える。作用電極20と対極30は、電解質膜10を介してイオン伝導可能に配置され、また図示しない外部回路を介して電気的に接続されている。作用電極20は、検知対象のガスが流入する電極であって、検知極とも呼ばれる。
【0014】
詳しくは後述するが、電気化学式ガスセンサ1は、電解質膜10、作用電極20、対極30、および絶縁基材50が積層配置され、電解質膜10と絶縁基材50の間に、作用電極20と対極30が介在した積層構造を有する。絶縁基材50の電解質膜10と対向する面には、金属層52が形成されている。作用電極20は、電解質膜10と接する第1の層21と、少なくとも金属層52上の一部に形成され、第1の層21に当接する第2の層22とを有する。第1の層21と第2の層22を形成することにより、特別な締結治具等を使用しなくても、センサの抵抗値が下がって安定化し、ベースラインの安定性が大きく向上する。
【0015】
電気化学式ガスセンサ1は、作用電極20に検知対象のガスを流入させ、作用電極20上でガスの分子を酸化または還元し、この酸化還元反応に伴う電流または電位の変化を測定することによりガスの濃度を検出する。電気化学式ガスセンサ1は、電位検出型であってもよいが、本実施形態では、電流検出型のセンサを例示する。作用電極20においてガスの分子が酸化または還元されると、電子が生成または消費されて作用電極20と対極30の間に電流が流れる。この電流値はガス濃度と比例関係にあるため、電流値を測定することでガス濃度を検出することができる。作用電極20における酸化還元反応により電子が生成または消費されると、陽イオンまたは陰イオンが発生するが、発生したイオンは電解質膜10を介して対極30に移動する。
【0016】
電気化学式ガスセンサ1は、さらに、電解質膜10と接し、且つ作用電極20および対極30と接触しないように配置された参照電極40を備える。参照電極40は、作用電極20の電位を制御、測定する際に基準となる電極であって、基準電極とも呼ばれる。参照電極40は、例えば、電解質膜10の表面であって、対極30が配置される面と同じ面に配置される。作用電極20は、図示しない外部回路を介して参照電極40と接続され、外部回路により参照電極40と一定の電位を維持するように構成されている。作用電極20の電位は、例えば、検知対象ガスを酸化できる電位に保たれている。
【0017】
以下では、検知対象ガスとして、一酸化炭素(CO)を例に挙げて説明する。但し、本開示に係る電気化学式ガスセンサの構成を適用可能なセンサは、一酸化炭素センサに限定されない。本開示に係る電気化学式ガスセンサの構成は、特に固体電解質膜を用いた電気化学式のガスセンサに広く適用でき、例えば硫化水素(H2S)、一酸化窒素(NO)、二酸化窒素(NO2)、二酸化硫黄(SO2)、オゾン(O3)、アンモニア(NH3)等を検知対象ガスとするセンサにも適用できる。
【0018】
電気化学式ガスセンサ1の検知対象ガスがCOである場合、作用電極20では、式(1)で示されるCOの酸化反応が起こる。
CO+H2O→CO2+2H++2e-・・・(1)
作用電極20に流入したCOは水分子と反応してCO2を生成し、プロトン(H+)と電子が発生する。プロトンは電解質膜10を介して、また電子は外部回路を介して対極30に移動する。対極30では、式(2)で示される反応が起こる。
1/2 O2+2H++2e-→H2O・・・(2)
作用電極20で発生したプロトンと電子は、対極30で空気中の酸素と反応し、水を生成する。このとき、外部回路に流れる電流は作用電極20に流入するCOの量と比例関係にあるため、この電流を測定することによりCOの濃度が検出される。
【0019】
電気化学式ガスセンサ1は、さらに、電解質膜10および各電極を封止する封止部材60を備える。封止部材60は、例えば、絶縁基材50の表面に接合され、絶縁基材50とともに電解質膜10および各電極を挟持している。封止部材60は、電解質膜10および各電極の全体を覆い、絶縁基材50の貫通孔51のみからCOが流入するように電解質膜10および各電極を封止している。封止部材60は、COの透過率が低い材料で構成されることが好ましく、例えば金属層、セラミック層等のガスバリア層により構成される。以下では、説明の便宜上、絶縁基材50と封止部材60に囲まれた、電解質膜10および電極が収容される空間を「収容部」という場合がある。
【0020】
以下、電気化学式ガスセンサ1を構成する電解質膜10、絶縁基材50、および電極の構成について詳述する。
【0021】
[電解質膜]
電解質膜10は、作用電極20で発生したイオンを対極30に伝達するイオン伝導体膜であって、電子伝導性を有さない絶縁性の膜である。電解質膜10は、例えば、多孔質シート等の保持部材に液体電解質を吸収させて構成されたものであってもよいが、好ましくは高分子材料で構成される固体電解質膜である。本実施形態では、プロトン伝導性を有する固体電解質膜を用いる。プロトン伝導性の固体電解質膜の一例としては、炭化水素系高分子またはフッ素系高分子にスルホン酸基等のプロトン伝導性基を導入した高分子膜が挙げられる。電解質膜10には、ナフィオン(登録商標:デュポン社製)等の市販品を用いてもよい。
【0022】
電解質膜10の厚みは特に限定されないが、一例としては、5μm~100μmである。
図1では、平面視四角形状の電解質膜10を図示しているが、電解質膜10の形状は特に限定されず、電気化学式ガスセンサ1の形状等に応じて適宜変更できる。詳しくは後述するが、本実施形態では、電解質膜10の同一平面上に、作用電極20、対極30、および参照電極40が形成されている。そして、電解質膜10は、各電極が形成された面を絶縁基材50側に向けた状態で、絶縁基材50と対向配置されている。
【0023】
[絶縁基材]
絶縁基材50は、貫通孔51を有する絶縁性の基材であって、電解質膜10と対向する対向面50Sには金属層52が形成されている。本実施形態では、絶縁基材50が電解質膜10等の支持部材として機能し、且つ封止部材60とともに電解質膜10および電極を封止する封止部材として機能する。
図1では、平面視四角形状の基板を図示しているが、絶縁基材50の形状は特に限定されず、電気化学式ガスセンサ1の形状等に応じて適宜変更できる。
【0024】
絶縁基材50の貫通孔51は、作用電極20(第1の層21)と対向する位置に形成され、作用電極20にガスを導入するためのガス流入孔として機能する。本実施形態では、作用電極20と対向する位置に貫通孔51が1つだけ形成されており、対極30、参照電極40と対向する位置等には収容部につながる貫通孔は存在しない。電気化学式ガスセンサ1は、貫通孔51のみから収容部にCOが流入するように構成され、作用電極20に作用するCOの量がコントロールされている。このため、COの流入量と電流値の比例関係から、CO濃度を正確に求めることができる。貫通孔51は、例えば、開口部が真円形状の貫通孔であって、0.05~2mmの直径を有する。
【0025】
なお、絶縁基材50の貫通孔51は、作用電極20からはみ出していてもよいし、作用電極20と対極30の両方に対向する位置に形成されてもよい。また、絶縁基材50には、複数の貫通孔51を形成することも可能である。一例としては、作用電極20と対向する位置に加えて、対極30と対向する位置に1つ以上の貫通孔51を形成する構成が挙げられる。対極30では酸素が必要なため、対極30と対向する位置に貫通孔51を設けることで、対極30周辺の酸素濃度低下を防ぐことができる。
【0026】
金属層52は、絶縁基材50の電解質膜10と対向する対向面50Sにおいて、少なくとも各電極(第1の層)と重なる位置に形成されている。本実施形態では、電解質膜10の表面のうち絶縁基材50と対向する対向面10Sに、作用電極20、対極30、および参照電極40の第1の層がそれぞれ形成されている(後述の
図3参照)。そして、金属層52は、作用電極20、対極30、および参照電極40にそれぞれ対応して形成された第1領域52A、第2領域52B、および第3領域52Cを含む。金属層52の各領域は、絶縁基材50の表面において互いに離れて形成され、各電極と外部回路を電気的に接続する取り出し電極として機能する。
【0027】
金属層52は、例えば、銅箔が一面に積層された絶縁基材をパターンエッチング(電極の形状)し、銅箔が残った部分にさらにメッキすることにより絶縁基材50の表面に形成される。金属層52の一例は、銅の上にニッケル/金がメッキされた層であって、5μm~30μmの厚みを有する。金属層52は、蒸着等の方法で形成されてもよい。詳しくは後述するが、金属層52の各領域には、各電極を構成する第2の層が形成されている。
【0028】
[電極(作用電極、対極、参照電極)]
図3は、電解質膜10の対向面10Sにおける電極(第1の層)の配置を示す図である。
図4は、絶縁基材50の対向面50Sにおける金属層52および電極(第2の層)の配置を示す図である。
図4では、電解質膜10の対向面10Sに形成された各電極の第1の層が重なる範囲を破線で、封止部材60により覆われる収容部の範囲を一点鎖線でそれぞれ示している。
【0029】
図3および
図4に示すように、作用電極20は、電解質膜10の対向面10Sに形成された第1の層21と、絶縁基材50の金属層52上に形成された第2の層22とを有する。第2の層22は、金属層52の第1領域52Aに形成され、第1の層21に当接している。即ち、作用電極20は、電解質膜10と絶縁基材50に分かれて形成され、電解質膜10と絶縁基材50にそれぞれ形成された層同士が重なり合って構成されている。この場合、特別な締結治具等を使用してセンサの積層構造を強く押圧しなくても、センサの抵抗値が下がって安定化し、ベース電流の安定性が大きく向上する。
【0030】
作用電極20の第1の層21は、電解質膜10の対向面10Sに電極材料を塗工して形成され、対向面10Sに強く密着している。同様に、第2の層22は、絶縁基材50の対向面50Sに強く密着している。第1の層21と第2の層22は、実質的に同じ材料で構成され、各層の表面状態も同様である。各層の表面は、取り出し電極として機能する金属層52と比べて凹凸があり、適度な表面粗さを有する。このため、第1の層21と第2の層22の界面では接触面積が大きくなり、押圧力が小さくても良好な接触状態が得られる。その結果、接触抵抗が下がって安定化し、ベース電流のノイズが抑えられると考えられる。これに対し、第2の層22が存在しない場合は、平滑な金属層52に第1の層21を接触させることになるが、この場合、良好な接触状態を得ることは容易ではない。
【0031】
電解質膜10の対向面10Sには、さらに、対極30の第1の層31および参照電極40の第1の層41が形成されている。各電極の第1の層は、対向面10Sにおいて互いに重ならないように離れて形成される。
図3に示す例では、作用電極20の第1の層21が、対極30および参照電極40の第1の層31,41よりも大面積に形成されている。各第1の層は、平面視四角形状に形成されているが、各層の平面視形状は特に限定されない。各電極の第1の層は、例えば、互いに同様の厚みで形成されている。第1の層の厚みの一例は、1μm~200μmである。
【0032】
絶縁基材50の対向面50Sには、金属層52の第2領域52Bに対極30の第2の層32が形成され、金属層52の第3領域52Cに参照電極40の第2の層42が形成されている。即ち、対極30は、電解質膜10に形成された第1の層31と、絶縁基材50の金属層52上に形成され、第1の層31に当接する第2の層32とを有する。参照電極40についても同様に、電解質膜10に形成された第1の層41と、絶縁基材50の金属層52上に形成され、第1の層41に当接する第2の層42とを有する。対極30と参照電極40についても、金属層52上に第2の層32,42を形成することにより、ベース電流の安定性をより効果的に改善できる。
【0033】
作用電極20、対極30、および参照電極40の各層は、例えば、触媒と、導電性担体と、アイオノマーとを含む。本実施形態では、各電極が同じ材料で構成されている。触媒は、COの酸化反応を促進させるものであって、上記式(1)の反応は作用電極20の触媒上で起こる。触媒の一例としては、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、金(Au)、銀(Ag)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、コバルト(Co)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)等が挙げられる。中でも、Pt、PtRu合金等の貴金属触媒を用いることが好ましい。
【0034】
上記導電性担体は、触媒を保持する導電性の材料である。好適な導電性担体の一例としては、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、グラファイトカーボン、カーボンナノチューブ等の炭素材料が挙げられる。触媒は、例えば、炭素材料の粒子表面に固着している。上記アイオノマーは、イオン導電性の材料であり、反応により生じたプロトンの移動を可能にする。好適なイオン導電性材料の一例としては、ナフィオン(登録商標:デュポン社製)があり、電解質膜と同様の組成のものが用いられる。
【0035】
ここで、絶縁基材50の金属層52について補足説明する。
図4に示すように、金属層52は、絶縁基材50の対向面50Sにおいて、各電極の第1の層が重なる範囲にそれぞれ形成されている。対向面50Sのうち、作用電極20の第1の層21が重なる範囲には、金属層52の第1領域52Aが形成されている。第1領域52Aは、当該範囲の長手方向端部から収容部の外側にわたって形成されている。第1領域52Aには、例えば、収容部の外側に延出した部分に、リード線、コネクタ等が接続され、当該各領域と外部回路が電気的に接続される。
【0036】
対向面50Sのうち、対極30の第1の層31が重なる範囲には、金属層52の第2領域52Bが形成されている。また、対向面50Sのうち、参照電極40の第1の層41が重なる範囲には、金属層52の第3領域52Cが形成されている。第2領域52Bおよび第3領域52Cはいずれも、各第1の層が重なる範囲の端部から収容部の外側にわたって形成されている。
【0037】
作用電極20の第2の層22は、上述のように、金属層52の第1領域52Aに形成されている。第2の層22は、第1領域52Aの全域に形成されてもよいが、好ましくは第1領域52Aのうち作用電極20の第1の層21が重なる範囲に含まれる領域だけに形成される。なお、第2の層22は、作用電極20の第1の層21が重なる範囲において、第1領域52Aの少なくとも一部に形成されていればよい。
【0038】
対極30の第2の層32は、金属層52の第2領域52Bであって、対極30の第1の層31が重なる範囲に含まれる領域の少なくとも一部に形成されている。また、参照電極40の第2の層42は、金属層52の第3領域52Cであって、参照電極40の第1の層41が重なる範囲に含まれる領域の少なくとも一部に形成されている。各電極の第2の層は、例えば、互いに同様の厚みで形成されている。第2の層の厚みの一例は、1μm~200μmであり、第2の層は第1の層以下の厚みで形成されていてもよい。
【0039】
図5は、電気化学式ガスセンサ1の製造方法の一例を説明するための図である。
図5では、絶縁基材50の表面に金属層52の第1領域52Aを形成し、電極材料のスプレー塗工により、電解質膜10および絶縁基材50の表面に作用電極20の層を形成する様子を図示している。
【0040】
電気化学式ガスセンサ1は、例えば、下記の工程を経て製造される。
(1)電解質膜10上に電極材料を塗布して、作用電極20および対極30をそれぞれ構成する第1の層21,31を形成する工程(
図5の(a)参照)。
(2)貫通孔51が形成された少なくとも1つの絶縁基材50上に、第1領域52Aおよび第2領域52Bに区画された金属層52を形成する工程(
図5の(b)参照)。
(3)少なくとも金属層52の第1領域52Aおよび第2領域52Bの領域上の一部に、作用電極20および対極30をそれぞれ構成する第2の層22,32を形成する工程(
図5の(c)参照)。
(4)作用電極20の第1の層21と第2の層22が当接し、且つ対極30の第1の層31と第2の層32が当接するように、電解質膜10と少なくとも1つの絶縁基材50を重ねて配置する工程(
図5の(d)参照)。
【0041】
上述の構造を備えた電気化学式ガスセンサ1の製造工程では、電解質膜10の同一平面上に、作用電極20の第1の層21および対極30の第1の層31を形成する。また、1つの絶縁基材50の同一平面上に、金属層52の第1領域52Aおよび第2の領域52Bを形成し、各領域上に、作用電極20の第2の層22および対極30の第2の層32を形成する。そして、第1の層21と第2の層22が重なり、第1の層31と第2の層32が重なるように、電解質膜10と絶縁基材50を重ね合わせる。
【0042】
工程(1)では、例えば、触媒、導電性担体、およびアイオノマーを含むインクを電解質膜10の表面に塗工し、塗膜を乾燥させて分散媒を揮発除去することにより、作用電極20および対極30の第1の層21,31を形成する。参照電極40を設ける場合は、さらに、参照電極40の第1の層41を形成する。インクに含まれる分散媒は、特に限定されないが、一例としては、水とエタノール等の低級アルコールとの混合溶媒が挙げられる。インクの塗工方法の一例としては、スプレー塗工、スクリーン印刷、インクジェット印刷、電解スプレー塗工、ディスペンス等が挙げられる。中でも、スプレー塗工またはスクリーン印刷が好ましい。
【0043】
工程(2)では、例えば、上記銅箔のパターンエッチングにより絶縁基材50の表面に金属層52の第1領域52Aおよび第2領域52Bを形成する。エッチングした銅箔上にニッケル/金等のメッキ層を形成してもよい。第1領域52Aは、工程(4)において作用電極20の第1の層21と重なる範囲に形成され、第2領域52Bは、工程(4)において対極30の第1の層31と重なる範囲に形成される。参照電極40を設ける場合は、さらに、金属層52の第3領域52Cを形成する。
【0044】
工程(3)では、少なくとも金属層52の第1領域52Aおよび第2領域52Bの一部に上記インクを塗工し、塗膜を乾燥させて、作用電極20および対極30の第2の層22,32を形成する。参照電極40を設ける場合は、さらに、参照電極40の第2の層42を形成する。各電極の第2の層は、第1の層と同じインクを用いて形成できる。工程(4)では、各電極の第1の層と第2の層が当接するように、電解質膜10と絶縁基材50を重ね合わせてセンサの積層構造を形成する。
【0045】
以上のように、上記構成を備えた電気化学式ガスセンサ1は、取り出し電極として機能する金属層52上に各電極の第2の層を形成することで、電解質膜10の表面に形成された各電極の第1の層との接触面積が大きくなり、良好な接触状態が得られる。このため、各電極の接触抵抗が下がって安定化し、ベース電流のノイズが抑えられるので、センサの高感度化を実現できる。電気化学式ガスセンサ1によれば、積層構造の押圧力が小さくても電極同士の良好な接触状態を確保できるので、特別な締結部材等が必要なく、センサの小型化、低コスト化が可能である。
【0046】
なお、上述の実施形態は、本開示の目的を損なわない範囲で適宜設計変更できる。例えば、上述の実施形態では、作用電極20および対極30と同じ電極材料を用いて参照電極40を形成したが、参照電極は作用電極および対極と異なる材料で構成されていてもよく、作用電極と対極が異なる材料で構成されていてもよい。また、電気化学式ガスセンサの構造は、電極として作用電極と対極のみを備える2極式構造であってもよい。あるいは、金属層を参照電極とすることも可能であり、対極を参照電極として兼用し、作用電極の電位を設定することも可能である。また、電極の第2の層は金属層上以外の領域に形成されてもよい。電気化学式ガスセンサには、ガス選択用フィルタ、ガス拡散層等の部材が設けられていてもよい。
【0047】
上述の実施形態では、電解質膜10の同一平面上に、作用電極20、対極30、および参照電極40が形成された構成を例示したが、
図6に示すように、電解質膜10の一方の面に作用電極20を形成し、電解質膜10の他方の面に対極30および参照電極40を形成することも可能である。
【0048】
図6は、電気化学式ガスセンサ1の変形例を示す断面図である。
図6に例示する形態では、電解質膜10の一方の面に作用電極20の第1の層21が形成され、電解質膜10の他方の面に対極30の第1の層31が形成されている。
図6に示す電気化学式ガスセンサ1は、電解質膜10が2つの絶縁基材50,50Xにより挟まれたサンドイッチ構造を有する。絶縁基材50は、ガス流入孔として機能する貫通孔51を有する基板であって、作用電極20の第1の層21が形成された電解質膜10の一方の面に対向配置されている。絶縁基材50Xは、貫通孔を有さない基板であって、対極30の第1の層31が形成された電解質膜10の他方の面に対向配置されている。なお、絶縁基材50Xは、例えば酸素の流入孔として機能する貫通孔を有していてもよい。
【0049】
絶縁基材50の電解質膜10と対向する面には、取り出し電極として機能する金属層52の第1領域52Aが形成されている。第1領域52Aは、電解質膜10に形成された作用電極20の第1の層21と重なる範囲の少なくとも一部に形成され、且つ電解質膜10と対向する範囲を超えて形成されている。第1領域52A上において、少なくとも第1の層21と重なる範囲の一部には、作用電極20の第2の層22が形成されている。なお、絶縁基材50の貫通孔51のみから検知対象ガスがセンサ内部に流入するように、電解質膜10および各電極は封止部材60により封止されている。
【0050】
絶縁基材50Xの電解質膜10と対向する面には、第1領域52Aと同様に、対極30の取り出し電極として機能する金属層52の第2領域52Bが形成されている。第2領域52Bは、電解質膜10に形成された対極30の第1の層31と重なる範囲の少なくとも一部に形成され、且つ電解質膜10と対向する範囲を超えて形成されている。第2領域52B上において、少なくとも第2の層32と重なる範囲の一部には、対極30の第2の層32が形成されている。
【0051】
図6に例示する形態においても、各電極を構成する2つの層が重なって接触することにより、ベース電流のノイズが十分に抑制され、センサの高感度化を実現できる。
図6では、参照電極を図示していないが、参照電極を設ける場合、対極30と同様に、電解質膜10の他方の面、および当該他方の面と対向する絶縁基材50Xの表面に、2層構造の参照電極を形成することが好ましい。
【符号の説明】
【0052】
1 電気化学式ガスセンサ、10 電解質膜、10S,50S 対向面、20 作用電極、21,31,41 第1の層、22,32,42 第2の層、30 対極、40 参照電極、50,50X 絶縁基材、51 貫通孔、52 金属層、52A 第1領域、52B 第2領域、52C 第3領域、60 封止部材