(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】磁性薄膜およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 10/16 20060101AFI20240611BHJP
H01F 41/18 20060101ALI20240611BHJP
H01F 41/22 20060101ALI20240611BHJP
H01L 29/82 20060101ALI20240611BHJP
H10N 50/01 20230101ALI20240611BHJP
H10N 50/10 20230101ALI20240611BHJP
C22C 19/07 20060101ALI20240611BHJP
C22C 30/00 20060101ALI20240611BHJP
C22F 1/10 20060101ALI20240611BHJP
C23C 14/14 20060101ALI20240611BHJP
C23C 14/34 20060101ALI20240611BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20240611BHJP
【FI】
H01F10/16
H01F41/18
H01F41/22
H01L29/82 Z
H10N50/01
H10N50/10 M
C22C19/07 C
C22C30/00
C22F1/10 B
C23C14/14 F
C23C14/34
C22F1/00 601
C22F1/00 613
C22F1/00 622
C22F1/00 660Z
C22F1/00 661Z
C22F1/00 682
C22F1/00 691A
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
(21)【出願番号】P 2022006371
(22)【出願日】2022-01-19
【審査請求日】2023-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100113664
【氏名又は名称】森岡 正往
(74)【代理人】
【識別番号】110001324
【氏名又は名称】特許業務法人SANSUI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 岳
(72)【発明者】
【氏名】三浦 篤志
(72)【発明者】
【氏名】小坂 悟
(72)【発明者】
【氏名】木村 大至
【審査官】久保田 昌晴
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/222038(WO,A1)
【文献】特開2020-155436(JP,A)
【文献】特開2019-089039(JP,A)
【文献】特許第6806939(JP,B1)
【文献】特許第6806200(JP,B1)
【文献】特許第6806199(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 10/00-10/32、41/14-41/34
H01L 29/82
H10N 50/01-50/10
C22C 19/07、30/00
C22F 1/00、1/10
C23C 14/14、14/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記に示す原子比からなるCo基合金を含む磁性薄膜。
Cox[Mny(Gaz Ge1-z)1-y]1-x
0.4 ≦ x ≦ 0.55、
0.35 ≦ y ≦ 0.6、
0.
55 ≦ z ≦ 0.
8
【請求項2】
前記Co基合金は、結晶構造がL2
1構造またはB2構造である請求項1に記載の磁性薄膜。
【請求項3】
前記Co基合金は、0.
65 ≦ z ≦ 0.75である請求項1または2に記載の磁性薄膜。
【請求項4】
前記Co基合金は、x=0.5である請求項1~3のいずれかに記載の磁性薄膜。
【請求項5】
前記Co基合金は、y=0.44である請求項1~4のいずれかに記載の磁性薄膜。
【請求項6】
前記Co基合金は、Mnの一部がFeで置換されている請求項1~
5のいずれかに記載の磁性薄膜。
【請求項7】
膜厚が5~400nmである請求項1~
6のいずれかに記載の磁性薄膜。
【請求項8】
基板上または下地層上に原料を堆積させて合金層を得る成層工程を備え、
該合金層から請求項1~
7のいずれかに記載した磁性薄膜を得る製造方法。
【請求項9】
さらに、前記合金層を400~700℃に加熱する熱処理工程を備える請求項
8に記載の磁性薄膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Co基合金からなる磁性薄膜等に関する。
【背景技術】
【0002】
電子の電荷とスピンの両特性を応用するスピントロニクス分野では、異方性磁気抵抗効果(AMR)、巨大磁気抵抗効果(GMR)、トンネル磁気抵抗効果(TMR)などのように、磁界による電気抵抗の変化(磁気抵抗変化)を生じる磁性材料の研究・開発が中核となっている。このような磁性材料に関する提案は多くなされており、例えば、下記の文献に関連した記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】WO2007/126071
【文献】特開2008-156703
【文献】特開2009-102703
【文献】特開2010-229477
【非特許文献】
【0004】
【文献】S. Picozzi et al., Phys. Rev. B 69, 094423 (2004).
【文献】A. Rajanikanth et al., J. Appl. Phys. 101, 023901 (2007).
【文献】T. Taira et al., J. Phys. D: Appl. Phys. 42, 084015 (2009).
【文献】M. J. Carey et al., J. Appl. Phys. 109, 093912 (2011).
【文献】G. Chang et al., Phys. Rev. Lett. 119, 156401 (2017).
【文献】A. Sakai et al., Nat. Phys. 14, 1119 (2018).
【文献】H. Reichlova et al., Appl. Phys. Lett. 113, 212405 (2018).
【文献】T. Sato et al., Appl. Phys. Lett. 113, 112407 (2018).
【文献】B. S. D. Ch. S.Varaprasad et al., Appl. Phys. Express 3, 023002 (2010).
【文献】A. Okubo et al., Appl. Phys. Lett. 96, 222507 (2010).
【文献】H. Luo et al., J. Phys.: Condens. Matter 25, 156003 (2013).
【文献】Y. Sakuraba et al., Appl. Phys. Lett. 104, 172407 (2014).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1~4には、TMR素子等に用いられるCo基ホイスラー合金からなる磁性薄膜に関する記載がある。具体的にいうと、Co基ホイスラー合金として、特許文献1はCo2Fe(Si1-xAlx)を、特許文献2はCo2(CrxFe1-x)Siを、特許文献3は(Co2-xFex)CrGaを、特許文献4はCo2(FexMn1-x)Siをそれぞれ提案している。いずれの特許文献も、各合金のスピン分極率の評価に留まっている。
【0006】
非特許文献1~12にもCo基ホイスラー合金に関する記載がある。具体的にいうと、非特許文献1~4はCo2MnGeについて、非特許文献5~8はCo2MnGaについて、非特許文献9~11はCo2Mn(GaGe)について、それぞれ述べている。また非特許文献12は、Co基ホイスラー合金からなる薄膜に関して、AMR効果とTMR効果の間の密接な関係について述べている。
【0007】
なお、非特許文献9~11はいずれも、バルク試料を前提に、そのスピン分極率等を評価しているに留まり、その伝導特性の温度依存性等については何ら述べていない。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みて為されたものであり、スピントロニクスデバイスの高性能化に寄与し得る新たな磁性薄膜等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者がその課題を解決すべく鋭意研究した結果、特定組成のCo基合金からなる磁性薄膜が、伝導特性とその温度依存性に優れることを新たに見出した。この成果を発展させることにより、以降に述べるような本発明を完成するに至った。
【0010】
《磁性薄膜》
(1)本発明は、下記に示す原子比からなるCo基合金を含む磁性薄膜である。
Cox[Mny(Gaz Ge1-z)1-y]1-x
0.4 ≦ x ≦ 0.55、0.35 ≦ y ≦ 0.6、0.1 ≦ z ≦ 0.9
【0011】
(2)本発明の磁性薄膜は、電子の伝導特性に優れると共に、その伝導特性が温度変化(通常は温度上昇)に伴って減少することも抑制される。つまり、本発明の磁性薄膜は、伝導特性とその温度依存性を高次元で両立できる。
【0012】
本発明の磁性薄膜が優れた特性を発現する機序や理由は定かではないが、次のように考えられる。その磁性薄膜を構成するCo基合金は、上述した成分組成からなり、Co基ホイスラー合金(フルホイスラー合金:X2YZ/X、Y:遷移金属元素、Z:非磁性元素)の一種と考えられる。
【0013】
Co基ホイスラー合金の一例であるCo2MnGaは、ワイル半金属として知られている。ワイル半金属は、トポロジカル物質の一つであり、電子の波数空間に、正負の符合(換言するとN極とS極)を有する一組のワイル点(特異点)をもつ。フェルミ準位近傍の電子は、ワイル点間に発生する仮想的な巨大内部磁場により、特異的に高い伝導特性を発現する。従って、Co2MnGaも高い伝導特性を発現し得る。
【0014】
Co基ホイスラー合金の別例であるCo2MnGeは、ハーフメタル(HMF)として知られている。磁性材料は、一般的に、上向きスピン(upスピン)と下向きスピン(downスピン)の数が異なるスピン偏極状態にある。そのなかでもハーフメタルは、フェルミ準位において、電気伝導を担う電子が一方のスピン(例えばupスピン)しかもたない状態(スピン分極率:100%)となり得る。このようなハーフメタルは、熱擾乱(温度上昇)によるスピン分極の減少(upスピン電子軌道とdownスピン電子軌道の間における電子の遷移)が理論上生じない。従って、Co2MnGeも温度変化(特に昇温)に伴う伝導特性の変化が少なく、伝導特性の温度依存性に優れる。
【0015】
本発明に係るCo基合金は、ワイル半金属であるCo2MnGaと、ハーフメタルであるCo2MnGeとが融合した成分組成からなる。その結果、そのCo基合金からなる磁性薄膜は、上述したように、伝導特性とその温度依存性が高次元で両立された特性を発現するようになったと考えられる。
【0016】
《磁性薄膜の製造方法》
本発明は、磁性薄膜の製造方法としても把握される。例えば、本発明は、基板上または下地層上に原料を堆積させて合金層を得る成層工程を備え、その合金層から磁性薄膜を得る製造方法でもよい。
【0017】
《その他》
(1)本明細書では、特に断らない限り、合金組成をその構成元素の原子比(またはat%)により示す。説明の便宜上、全体を1または100at%とし合金組成を示すが、その合金中には、不純物元素や特性を改善する元素(改質元素)が含まれてもよい。もっとも、その範囲は、例えば、1at%以下さらには0.5at%以下であるとよい。不純物元素や改質元素の含有分は、特に断らない限り、合金中に最も多く含まれる主元素(Co基合金ならCo)の組成比(Co基合金がx)の減少分として考慮されればよい。
【0018】
(2)特に断らない限り本明細書でいう「x~y」は下限値xおよび上限値yを含む。本明細書に記載した種々の数値または数値範囲に含まれる任意の数値を、新たな下限値または上限値として「a~b」のような範囲を新設し得る。また、本明細書でいう「x~ynm」はxnm~ynmを意味する。他の単位系についても同様である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施例に係るCo基合金のGa原子比と格子定数(a軸、c軸)の関係を示すグラフである。
【
図2A】そのGa原子比と磁性薄膜のAMR比との関係を示すグラフである。
【
図2B】そのGa原子比とそのAMR比の温度変化率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書で説明する内容は、磁性薄膜のみならずその製造方法にも該当し得る。本明細書中から任意に選択した一以上の構成要素を本発明の構成要素として付加し得る。製造方法に関する構成要素は、物の構成要素ともなり得る。いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。
【0021】
《Co基合金》
(1)組成
磁性薄膜に含まれるCo基合金は、Cox[Mny(Gaz Ge1-z)1-y]1-x で示される。Coの原子比(x)は、合金全体を1として、例えば、0.4 ~ 0.55、0.45~0.52さらには0.47~0.51である。合金全体を100原子%(適宜、単に「%」で示す。)とするなら、Coは、例えば、40~55%、45~52%さらには47~51%である。
【0022】
Mnの原子比(y)は、Mn、GaおよびGeの合計全体を1として、0.35~ 0.6、0.40~0.55さらには0.44~0.53である。合金全体を100原子%とするなら、Mnは、例えば、17~30%、20~28%さらには22~26%である。
【0023】
Mnの一部はFeで置換されてもよい。Feは、例えば、MnとFeの合計全体を1とするなら0.1~0.5程度、Mn、Fe、GaおよびGeの合計全体を1とするなら0.02~0.13程度含まれてもよい。合金全体を100原子%とするなら、Feは、例えば、2~13%程度含まれてもよい。
【0024】
Gaの原子比(z)は、GaとGeの合計全体を1として、0.1 ~ 0.9、0.4~0.85、0.5~0.8さらには0.55~0.75である。合金全体を100原子%とするなら、Gaは、例えば、2~23%、10~22%、13~20%さらには14~19%である。
【0025】
CoおよびMnの組成(原子比)が上記範囲から外れると、想定している伝導特性が得難くなる。GaとGeの組成(原子比)を上記範囲内で制御することで、伝導特性とその温度依存性のバランスを調整できる。例えば、Ga量の増加(Ge量の減少)により伝導特性を高めれる。逆に、Ga量の減少(Ge量の増加)により伝導特性の温度依存性を高めれる。
【0026】
(2)構造
Co基合金は、例えば、L21構造またはB2構造からなる結晶構造を有し、さらに規則合金であるとよい。
【0027】
L21構造の単位格子は4つの面心立方格子(fcc)からなる。Co基合金がフルホイスラー合金(X2YZ)のときはL21構造となる。
【0028】
Mn(Y)、GaとGe(Y)の組成変化(原子配列の乱れ)により、Co基合金の結晶は、L21構造からB2構造へ変化する。このようなL21構造やB2構造の格子定数は、a:0.575~0.579nm、c:0.573~0.578nmである。
【0029】
《磁性薄膜》
(1)Co基合金からなる磁性薄膜は、例えば、膜厚が5~400nm、10~200nm、さらには20~100nmである。磁性薄膜は、基板や下地層に形成される。基板は、例えば、MgO、Si、サファイア、SiC等の単結晶面を有する。下地層は、結晶の整合や成長を促すバッファ層でもよいし、磁性薄膜(磁性層)と組み合わせられる機能層(電極層、絶縁層、非磁性層等)でもよい。このような下地層は、例えば、Cr層、MgO層、Ag層、Mo層、W層等である。
【0030】
(2)磁性薄膜は、例えば、各種スピントロニクスデバイス(例えば次世代のセンサー、メモリなど)に利用される。本発明の磁性薄膜により、スピントロニクスデバイスの高性能化や低ノイズ化(安定化)等が図られる。
【0031】
《製造方法》
(1)磁性薄膜は、例えば、基板上または下地層上に原料を堆積させて合金層を得る成層工程を経て得られる。成層工程は、例えば、物理蒸着法(PVD)、化学蒸着法(CVD)等の公知な薄膜法によりなされる。真空蒸着法(スパッタリング、真空加熱蒸着、パルスレーザ蒸着等)などのPVDによれば、種々のターゲット(原料)を用いつつ、所望組成の合金層を得ることができる。真空蒸着は、例えば、10-3~10-8Paさらには10-5~10-7Pa程度の高真空下でなされる。成層時の温度(基板温度、下地温度)は、例えば、室温付近(60℃以下さらには40℃以下)~600℃である。
【0032】
(2)合金層を400~700℃さらには500~675℃に加熱されてもよい(熱処理工程)。これにより合金層は、より確実に規則合金化される。加熱時間は、例えば、0.1~2時間さらには0.5~1.5時間である。
【0033】
加熱源は、電熱、放射熱、レーザ等のいずれでもよい。加熱雰囲気は、例えば、上述した高真空下でなされるとよい。
【0034】
《用途》
磁性薄膜は、例えば、各種のスピントロニクスデバイス(素子を含む。)に用いられる。スピントロニクスデバイスは、例えば、磁気センサ、磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)、磁気論理回路等である。
【実施例】
【0035】
種々の試料(磁性薄膜)を製作し、それらの特性を評価した。これらに基づいて本発明をより具体的に説明する。
【0036】
《試料の製作》
スパッタリング法により、MgO基板の単結晶面上に、GaとGeの原子比(z)が異なるCo基合金からなる種々の薄膜(試料)を形成した。具体的には次の通りである。なお、MgO単結晶面は、基板を研磨した(100)面とした。
【0037】
成膜は、超高真空多元スパッタ装置(MPS-2000-C8 株式会社アルバック製)を用いて、真空下で加熱クリーニング(600℃)した後、室温付近まで冷却した単結晶面に行った。成膜前の到達真空度:1×10-7Pa以下、成膜形状:φ8mm×40nmとした。膜厚は、成膜速度(0.1nm/sec以下)と成膜時間の積から算出した。
【0038】
ターゲット(原料)には、Co、Mn、Geの純金属と高純度なMnGa(金属間化合物)とを組み合わせて用いた。具体的にいうと、CoMnGa系薄膜(試料1)は、CoとMnGaをターゲットとする2元同時スパッタにより製作した。CoMnGe系薄膜(試料8)は、Co、MnおよびGeをターゲットとする3元同時スパッタにより製作した。CoMnGaGe系薄膜(試料2~7)は、Co、Mn、GeおよびMnGaをターゲットとする4元同時スパッタにより製作した。
【0039】
こうして、単結晶面上に堆積(蒸着)させた合金層を得た(成層工程)。合金層は、上記真空中で650℃×1時間加熱して、規則合金化させた(熱処理工程)。その後、室温域まで冷却してから、成膜した試料を大気中に取り出した。こうして、表1に示すように、GaとGeの原子比(z)が異なるCo基合金からなる各薄膜(試料1~8)を得た。なお、誘導結合プラズマ(ICP)発光分析装置で分析したところ、各薄膜の組成(原子比)はCo0.5Mn0.22(Gaz Ge1-z)0.28(z=0~1)であった。
【0040】
《結晶構造》
(1)X線回折装置(株式会社リガク製RINT-TTR II /使用X線:Cu-Kα線、2θ:30~90℃)を用いて、各試料(薄膜)の結晶構造をその上面側から解析した。
【0041】
また、各試料のX線回折スペクトル(XRD)を分析し、それらの格子定数を求めた。その結果を表1に併せて示した。また、表1に基づいて、Ga原子比[z=Ga/(Ga+Ge)]と格子定数の関係(結晶構造の組成依存性)を
図1に示した。
【0042】
(2)各XRDから、いずれの薄膜の結晶構造もL2
1構造またはB2構造であることが確認された。また、表1および
図1に示した格子定数a、c、c/aからわかるように、各結晶構造はほぼ立方晶であり、組成による大きな変化はなかった。
【0043】
《伝導特性》
(1)各試料の異方性磁気抵抗変化率(AMR比)を測定した。なお、巨大磁気抵抗効果(GMR)やトンネル磁気抵抗効果(TMR)は多層薄膜の伝導特性を反映するため、本実施例では、磁性薄膜単層の伝導特性の指標として、異方性磁気抵抗効果(AMR)を示すAMR比を選択した。
【0044】
AMR比は、試料(薄膜)をホールバー形状に微細加工した試験片を用いて測定した。具体的にいうと、膜面内方向へ回転磁場を印加して、電流方向と磁場印加方向との相対角度qに対する抵抗変化を四端子法により測定した。このとき、印加電流:0.5mA、薄膜温度:5Kまたは300Kとした。
【0045】
印加した電流と磁場の方向が平行(q=0°または180°)のときの抵抗率rpと、その方向が垂直(q=90°または270°)のときの抵抗率rvとから、AMR比=100×(rp-rv)/rv(%)を算出した。
【0046】
各試料のAMR比(5Kと300K)と、AMR比(5K)に対するAMR比(300K)の割合(AMR比の温度変化率=AMR比
300K/AMR比
5K)を表1に併せて示した。また、表1に基づいて、Ga原子比とAMR比の関係(5Kと300K)を
図2Aに、Ga原子比とAMR比の温度変化率との関係を
図2Bにそれぞれ示した。
【0047】
(2)表1および
図2Aから明らかなように、Ga原子比(z)の増加に伴い、薄膜のAMR比は負側に大きくなり、高い伝導特性が発現されることがわかった。
【0048】
また表1および
図2Bから明らかなように、Ga原子比(z)の減少(Ge原子比の増加)に伴い、薄膜のAMR比の温度変化率は1に近くなり、AMR比の温度依存性が向上することがわかった。
【0049】
特に、Ga原子比(z)が0.4~0.8さらには0.55~0.75のとき、AMR比の温度変化が緩やかとなり、AMR比も-0.4%超となり負側に十分大きくなった。つまり、磁性薄膜の高い伝導特性とその温度依存性を高次元で両立されることがわかった。
【0050】