(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】インクジェットヘッドの駆動制御方法及びインクジェット記録装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/015 20060101AFI20240611BHJP
【FI】
B41J2/015 101
(21)【出願番号】P 2022533273
(86)(22)【出願日】2020-06-29
(86)【国際出願番号】 JP2020025497
(87)【国際公開番号】W WO2022003771
(87)【国際公開日】2022-01-06
【審査請求日】2023-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柴田 拓磨
(72)【発明者】
【氏名】九鬼 隆良
【審査官】加藤 昌伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-175601(JP,A)
【文献】特開2009-066821(JP,A)
【文献】特開2002-046270(JP,A)
【文献】特開2006-150816(JP,A)
【文献】米国特許第06286925(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01 - 2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出するノズルと、印加される駆動パルスに応じて前記ノズルに供給されるインクに圧力変動を付与する駆動素子と、を含む記録素子を複数備えるインクジェットヘッドの駆動制御方法であって、
前記駆動素子に印加される駆動パルスに応じて前記記録素子の各々により吐出されるインク液滴に係る所定の特性値が前記駆動パルスのパルス幅の変化に対して極大となる前記駆動パルスの基準パルス幅は、所定の基準以上のばらつきを有し、
2以上の所定数の前記駆動パルスに応じてそれぞれ吐出される当該所定数のインク液滴を同一の画素範囲に着弾させる場合に、前記複数の記録素子の各々について、前記基準パルス幅よりもパルス幅の長い第1駆動パルスと、前記基準パルス幅よりもパルス幅の短い第2駆動パルスとを前記所定数個組み合わせて、前記複数の記録素子の各々に対して出力させるパルス幅設定ステップ
を含
み、
前記パルス幅設定ステップでは、前記第1駆動パルス及び前記第2駆動パルスの順番は、前記複数の記録素子に係る前記極大の前記特性値のうち最小のものに応じた前記基準パルス幅により近いパルス幅のものが最後の駆動パルスとなるように定められる、
駆動制御方法。
【請求項2】
前記パルス幅設定ステップでは、前記複数の記録素子の各々に係る前記基準パルス幅のいずれよりもパルス幅の長い前記第1駆動パルスと、前記基準パルス幅のいずれよりもパルス幅の短い前記第2駆動パルスとを定める、請求項1記載の駆動制御方法。
【請求項3】
前記パルス幅設定ステップでは、前記第1駆動パルスのパルス幅及び前記第2駆動パルスのパルス幅は、前記複数の記録素子に対して共通に定められる、請求項2記載の駆動制御方法。
【請求項4】
前記所定の特性値は、吐出されるインクの液滴速度である、請求項1~
3のいずれか一項に記載の駆動制御方法。
【請求項5】
前記所定の特性値は、吐出されるインクの液滴量である、請求項1~
3のいずれか一項に記載の駆動制御方法。
【請求項6】
前記ばらつきに係る前記所定の基準は、3%である、請求項1~
5のいずれか一項に記載の駆動制御方法。
【請求項7】
前記所定数は偶数であり、
前記パルス幅設定ステップでは、前記第1駆動パルスと前記第2駆動パルスとが交互に出力されるように定められる、
請求項1~
6のいずれか一項に記載の駆動制御方法。
【請求項8】
インクを吐出するノズルと、印加される駆動パルスに応じて前記ノズルに供給されるインクに圧力変動を付与する駆動素子と、を含む記録素子を複数有するインクジェットヘッドと、
前記駆動素子に対して印加する前記駆動パルスの前記記録素子への出力を制御する制御部と、
を備え、
前記駆動素子に印加される駆動パルスに応じて前記記録素子の各々により吐出されるインク液滴に係る所定の特性値が前記駆動パルスのパルス幅の変化に対して極大となる前記駆動パルスの基準パルス幅は、所定の基準以上のばらつきを有し、
前記制御部は、2以上の所定数の前記駆動パルスに応じてそれぞれ吐出される当該所定数のインク液滴を同一の画素範囲に着弾させる場合に、前記複数の記録素子の各々について、前記基準パルス幅よりもパルス幅の長い第1駆動パルスと、前記基準パルス幅よりもパルス幅の短い第2駆動パルスとを前記所定数個組み合わせて、前記複数の記録素子の各々に対して出力させ
、
前記第1駆動パルス及び前記第2駆動パルスの順番は、前記複数の記録素子に係る前記極大の前記特性値のうち最小のものに応じた前記基準パルス幅により近いパルス幅のものが最後の駆動パルスとなるように定められる、
インクジェット記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、インクジェットヘッドの駆動制御方法及びインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ノズルからインク液滴を吐出して媒体上に所望の画像、構造や薄膜などを形成するインクジェット記録装置において、連続して吐出した複数のインク液滴を途中で合一させて又は別個に、同一画素範囲に着弾させることで、各画素範囲の濃度階調を変化させる技術がある。インクジェット記録装置では、各ノズル間にインク吐出特性に係るばらつきが存在する。特に、複数のインク液滴を続けて吐出させる場合には、先の吐出動作の影響が後の吐出動作に及びやすいことから、ばらつきが大きくかつ複雑になりやすい
【0003】
。
このばらつきの影響を低減するために、ノズル内のインクに圧力変動を付与する駆動素子を駆動させる電気信号(駆動パルス)を駆動素子ごとに各々調整する技術がある。特許文献1では、さらに、各駆動素子の駆動パルスにおける駆動波形の立ち下りタイミングを調整することで、インクの液滴量と着弾タイミングとを合わせる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来、インク吐出特性に基準以上のばらつきがあるインクジェットヘッドは、規格外品として処分されていた。ノズル数の増大やインク吐出特性に対する要求の高まりに応じ、インクジェットヘッドの歩留まりが低下し、コストの増大などにつながるという課題がある。
【0006】
この発明の目的は、より広範に吐出特性のばらつきを低減させて利用可能なインクジェットヘッドを得ることのできるインクジェットヘッドの駆動制御方法及びインクジェット記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明は、
インクを吐出するノズルと、印加される駆動パルスに応じて前記ノズルに供給されるインクに圧力変動を付与する駆動素子と、を含む記録素子を複数備えるインクジェットヘッドの駆動制御方法であって、
前記駆動素子に印加される駆動パルスに応じて前記記録素子の各々により吐出されるインク液滴に係る所定の特性値が前記駆動パルスのパルス幅の変化に対して極大となる前記駆動パルスの基準パルス幅は、所定の基準以上のばらつきを有し、
2以上の所定数の前記駆動パルスに応じてそれぞれ吐出される当該所定数のインク液滴を同一の画素範囲に着弾させる場合に、前記複数の記録素子の各々について、前記基準パルス幅よりもパルス幅の長い第1駆動パルスと、前記基準パルス幅よりもパルス幅の短い第2駆動パルスとを前記所定数個組み合わせて、前記複数の記録素子の各々に対して出力させるパルス幅設定ステップ
を含み、
前記パルス幅設定ステップでは、前記第1駆動パルス及び前記第2駆動パルスの順番は、前記複数の記録素子に係る前記極大の前記特性値のうち最小のものに応じた前記基準パルス幅により近いパルス幅のものが最後の駆動パルスとなるように定められる。
【0008】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載の駆動制御方法において、
前記パルス幅設定ステップでは、前記複数の記録素子の各々に係る前記基準パルス幅のいずれよりもパルス幅の長い前記第1駆動パルスと、前記基準パルス幅のいずれよりもパルス幅の短い前記第2駆動パルスとを定める。
【0009】
また、請求項3記載の発明は、請求項2記載の駆動制御方法において、
前記パルス幅設定ステップでは、前記第1駆動パルスのパルス幅及び前記第2駆動パルスのパルス幅は、前記複数の記録素子に対して共通に定められる。
【0011】
また、請求項4記載の発明は、請求項1~3のいずれか一項に記載の駆動制御方法において、
前記所定の特性値は、吐出されるインクの液滴速度である。
【0012】
また、請求項5記載の発明は、請求項1~3のいずれか一項に記載の駆動制御方法において、
前記所定の特性値は、吐出されるインクの液滴量である。
【0013】
また、請求項6記載の発明は、請求項1~5のいずれか一項に記載の駆動制御方法において、
前記ばらつきに係る前記所定の基準は、3%である。
【0014】
また、請求項7記載の発明は、請求項1~6のいずれか一項に記載の駆動制御方法において、
前記所定数は偶数であり、
前記パルス幅設定ステップでは、前記第1駆動パルスと前記第2駆動パルスとが交互に出力されるように定められる。
【0015】
また、請求項8記載の発明は、
インクを吐出するノズルと、印加される駆動パルスに応じて前記ノズルに供給されるインクに圧力変動を付与する駆動素子と、を含む記録素子を複数有するインクジェットヘッドと、
前記駆動素子に対して印加する前記駆動パルスの前記記録素子への出力を制御する制御部と、
を備え、
前記駆動素子に印加される駆動パルスに応じて前記記録素子の各々により吐出されるインク液滴に係る所定の特性値が前記駆動パルスのパルス幅の変化に対して極大となる前記駆動パルスの基準パルス幅は、所定の基準以上のばらつきを有し、
前記制御部は、2以上の所定数の前記駆動パルスに応じてそれぞれ吐出される当該所定数のインク液滴を同一の画素範囲に着弾させる場合に、前記複数の記録素子の各々について、前記基準パルス幅よりもパルス幅の長い第1駆動パルスと、前記基準パルス幅よりもパルス幅の短い第2駆動パルスとを前記所定数個組み合わせて、前記複数の記録素子の各々に対して出力させ、
前記第1駆動パルス及び前記第2駆動パルスの順番は、前記複数の記録素子に係る前記極大の前記特性値のうち最小のものに応じた前記基準パルス幅により近いパルス幅のものが最後の駆動パルスとなるように定められる、
インクジェット記録装置である。
【発明の効果】
【0016】
本発明に従うと、より容易にノズル間の吐出特性のばらつきを低減させることができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】インクジェット記録装置の概略構成を示す斜視図である。
【
図2】ヘッドユニットの搬送ベルトと対向する底面を示す底面図である。
【
図3】インクジェット記録装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図5A】インクを複数回続けて吐出する場合の駆動波形の例を示す図である。
【
図5B】インクを複数回続けて吐出する場合の駆動波形の例を示す図である。
【
図6A】インクジェットヘッドにおける複数ノズルの吐出速度の分布の例を示す図である。
【
図6B】インクジェットヘッドにおける複数ノズルの吐出速度の分布の例を示す図である。
【
図7A】パルス幅の変化量を異ならせた場合の吐出速度分布の例を示す図である。
【
図7B】パルス幅の変化量を異ならせた場合の吐出速度分布の例を示す図である。
【
図8A】ノズル間の感度のばらつきについて説明する図である。
【
図8B】ノズル間の感度のばらつきについて説明する図である。
【
図9】感度の異なるノズルを含む場合におけるパルス幅の順番に応じた吐出速度の分布の例を示す図である。
【
図10】インクジェット記録装置で実行される駆動波形設定処理の制御手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態のインクジェット記録装置1の概略構成を示す斜視図である。
【0019】
インクジェット記録装置1は、搬送部10と、記録動作部20と、制御部40と、撮像部50などを備える。
【0020】
搬送部10は、画像を記録する対象の媒体Mを移動させ、画像記録位置を経由して排出させる。搬送部10は、駆動ローラー11と、搬送ベルト12と、従動ローラー13と、搬送モーター14と、押さえローラー15などを備える。
【0021】
搬送ベルト12は、ここでは、無端状であり、駆動ローラー11と従動ローラー13との間にかけ渡されて、駆動ローラー11の回転に応じて移動する。駆動ローラー11は、搬送モーター14の回転動作に応じた速度で回転動作する。従動ローラー13は、搬送ベルト12の移動に応じた速度で回転する。搬送ベルト12の外周面上に所定位置で媒体Mが載置されて移動しながら画像が記録され、画像記録後に所定位置で排出される。押さえローラー15は、搬送ベルト12に載置された媒体Mを搬送ベルト12に押し付けることでしわなどによる媒体Mの浮き上がりを除去する。押さえローラー15は、自重で媒体Mを搬送ベルト12に押さえ付け、媒体M及び搬送ベルト12の移動に応じて回転するものであってよい。
【0022】
記録動作部20は、搬送ベルト12上の媒体Mに対してインクを吐出するノズルを複数有し、各ノズルからのインク吐出タイミング及び吐出量に応じた画像を記録する。特には限られないが、ここでは、記録動作部20は、シアン色のインクを吐出するヘッドユニット21C、マゼンタ色のインクを吐出するヘッドユニット21M、イエローのインクを吐出するヘッドユニット21Y、及び黒色のインクを吐出するヘッドユニット21Kを有し、すなわち4色のインクを吐出動作可能である。以降では、これらの一部又は全部をヘッドユニット21とも記す。
【0023】
制御部40は、インクジェット記録装置1の全体動作を統括制御する。制御部40については後述する。
【0024】
撮像部50は、搬送部10による搬送ベルト12上での媒体Mの搬送方向について記録動作部20の下流側で搬送ベルト12(載置されている媒体M)の表面を撮像する。撮像部50は、例えば、CCD(Charge-Coupled Device)撮像素子又はCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)撮像素子が幅方向に並んだラインセンサーであり、媒体Mの搬送方向への移動と組み合わせて媒体M上の2次元撮像が可能となっている。
【0025】
図2は、ヘッドユニット21の搬送ベルト12と対向する面(底面)を示す底面図である。なおヘッドユニット21C、21M、21Y、21Kは、同一の構造を有するので、ここではいずれか一つについて説明する。
【0026】
ヘッドユニット21は、キャリッジ210に固定されている。ヘッドユニット21の底面には、ヘッドユニット21がそれぞれ有する16個のインクジェットヘッド211のノズル面が露出している。ノズル面には、それぞれノズルの開口27aが多数並んでいる。開口27aは、幅方向について所定の間隔(ノズルピッチ)で並び、搬送される媒体M上の幅方向についての各位置に吐出されたインクが着弾するようになっている。
【0027】
図3は、インクジェット記録装置1の機能構成を示すブロック図である。
インクジェット記録装置1は、上述の搬送部10、記録動作部20、制御部40及び撮像部50に加えて、駆動波形信号生成部29と、記憶部30と、通信部70と、操作受付部81と、表示部82と、電力供給部90などを備える。
【0028】
搬送部10は、上述のように搬送モーター14を備え、当該搬送モーター14に適切な駆動信号を出力することで搬送モーター14を回転動作させる。
【0029】
記録動作部20は、ヘッド駆動部25と圧電素子26(駆動素子)などを備える。ヘッド駆動部25は、選択された圧電素子26に駆動信号(駆動パルス)を印加して圧電素子26を変形動作させる。これにより、圧電素子26は、ノズル27に供給されるインクに対し、駆動パルスに応じた圧力変動を付与してノズル27から射出させ、画像を記録する。圧電素子26とノズル27とにより本実施形態の記録素子200が構成される。記録動作部20は、ノズル27の数に応じた複数の記録素子200を有する。
【0030】
駆動波形信号生成部29は、ヘッド駆動部25が記録素子200へ出力する駆動パルスを生成する。駆動波形信号生成部29は、特には限られないが、予め定められた駆動波形を示すデジタルデータをアナログ変換し、電圧及び電流を増幅した信号を駆動パルスとしてヘッド駆動部25に出力する。
【0031】
制御部40は、CPU41(Central Processing Unit)と、RAM42(Random Access Memory)を備え、インクジェット記録装置1の各種動作を統括制御するプロセッサーである。CPU41は、各種演算処理を行って制御動作を実行する。RAM42は、CPU41に作業用のメモリー空間を提供し、一時データを記憶する。制御部40は、記録対象の画像データや画像の記録に係る設定データなどに基づいて、インクジェットヘッド211におけるインク吐出動作に係る駆動パルスの記録素子200への出力を制御する。
【0032】
記憶部30は、記録対象の画像データを記憶し、また、各種プログラムや設定データを記憶する。記憶部30は、少なくとも不揮発性メモリーを有し、揮発性メモリー(RAM)を有していてもよい。画像データは、RAMに記憶されてもよい。設定データには、AL(Acoustic Length)計測データ31と、波形設定データ32とが含まれる。不揮発性メモリーは、例えば、フラッシュメモリーなどであり、これに加えて又は代えてHDD(Hard Disk Drive)などを有していてもよい。
【0033】
AL計測データ31は、各ノズル27内(ノズル27に連通するインク流路を含む)のインクに係る実際のAL(基準パルス幅)の計測値を記憶する。ALは、ノズル27内のインク(流体)に生じる圧力振動の共振周期(音響的共振周期)の半分である。このALは、ノズル27などの構造、すなわち、長さや幅などに依存する。また、ノズル及びインク流路は、更に上流で共通のインク供給路に連通していることから、理論的に正確な値から多少ずれる場合がある。さらに、製造上構造に僅かなばらつきを有し、当該ばらつきに応じてALも若干ばらつく。AL計測データ31は、全てのノズル27のALを含んでいなくてもよく、所定の間隔などでサンプル取得され、また、必要に応じて部分的に間隔を狭めて取得されたALが記憶されていればよい。
【0034】
波形設定データ32は、各記録素子200に出力する駆動パルスの波形パターンデータを記憶する。ここで記憶される波形パターンデータは、特に、複数発のインク吐出を連続的に行う場合における各インク吐出にそれぞれ応じた駆動パルスの開始タイミング、パルス幅及び電圧振幅の情報が含まれる。これらは、駆動波形信号生成部29により生成される駆動パルスの元となるデジタルデータとされてよい。
【0035】
通信部70は、外部機器との間での通信を実行制御する。通信部70は、例えば、TCP/IPなどの通信規格に基づいて外部のコンピューターと接続されて、記録対象の画像データを含むジョブデータを取得し、また、ジョブデータに基づく画像記録動作のステータスを出力することができる。また、通信部70は、USB(Universal Serial Bus)などにより周辺機器と直接接続されてデータの送受信がなされてもよい。
【0036】
操作受付部81は、ユーザーなどによる入力操作を受け付けて、受け付けた内容を入力信号として制御部40に出力する。操作受付部81は、例えば、タッチパネルや押しボタンスイッチなどを備える。タッチパネルは、表示部82の表示画面と重なって位置し、表示画面への表示内容と同期して操作内容が特定されてもよい。
【0037】
表示部82は、ユーザーなどに対してステータスや選択メニューなどを示す表示を行う。表示部82は、例えば、表示画面とインディケーター(ランプ)などを有する。表示部82は、例えば、液晶ディスプレイなどを有し、表示画面に各種文字や図形をドットマトリクス表示することができる。インディケーターは、例えば、LEDランプなどにより電力供給の有無や動作異常の有無などを示す場合に利用されてもよい。
【0038】
電力供給部90は、インクジェット記録装置1の各部に応じた電圧の電力を供給する。記録動作部20の駆動基板212には、各駆動波形のピーク電圧に応じた電圧が出力される。あるいは、最大ピーク電圧のみが出力されて、駆動基板212で複数の電圧信号が生成されてもよい。
【0039】
上記各構成に加えて、インクジェット記録装置1は、各ノズル27からのインクの吐出速度を計測する計測部を有していてもよい。あるいは、インクジェット記録装置1に対して外付けで各ノズル27からのインク吐出速度を計測する計測装置の取り付け部を有していてもよい。なお、吐出速度は、直接インクの飛翔速度を計測するものではなく、撮像部50による撮像データに基づいて着弾位置から定められてもよい。
【0040】
次に、本実施形態のインクジェット記録装置1におけるインク吐出動作に係る駆動設定について説明する。
図4A及び
図4Bは、吐出パルスについて説明する図である。
図4Aに示すように、インク吐出動作は、ここでは、圧電素子26に対して台形波(又は矩形波)の駆動パルスが印加されてノズル27に供給されるインクをノズル27手前のインク流路(インク室)で一時的に圧縮又は膨張させてその後戻す動作によりインクに圧力変動を付与することで行われる。なお、ここでは説明のため、台形波の電圧の初期電圧からの立ち上がり及び初期電圧への立ち下がりを分かりやすい長さで示しているが、駆動電圧の維持期間に比した立ち上がり時間及び立ち下がり時間は、適切に定められてよい。
【0041】
ノズル27からのインク吐出は、先にインクを圧縮する押し打ちの場合には、インク流路を圧縮して開口27aから押し出されたインクが、インク流路の容積が元に戻る動作により引き戻されるインク流路内のインクと分離することで飛翔する。先にインクを膨張させる引き打ちの場合には、インク流路を拡張してノズル27の開口27aから流路の奥へ引き戻されたインクが、インク流路の容積が元に戻る動作により勢いよくノズル27の開口27aの方向へ戻されることで、先端部分のインクの一部が開口27aから飛び出して分離し、飛翔する。
【0042】
この圧力変動において、インクには、上述のALに応じた周期の振動成分が大きくなる。パルス幅(ここでは、台形駆動波における駆動パルスの立ち上がり開始から立ち下りの開始までの時間をパルス幅Pwとする)がALの駆動パルスを印加することで、駆動パルスから効率よくインクの運動エネルギーが得られる。
【0043】
図4Bに示すように、印加されたパルス幅に応じ、特に、パルス幅がノズル27に係る実際のALから大きくずれるほど、吐出速度(特性値)は低下(変化)する。吐出速度は、パルス幅の実際のALからのずれ量に対して、例えば、2次曲線~3次曲線(又はより高次の関数)で近似され得る。複数のノズル27間でのALのずれに応じて(ここでは、太線と細線で2種類を例示)、近似曲線の位置にもずれが生じる。通常、所定の代表値Pw0でのインクの吐出速度にノズル27間で基準以上のずれが生じなければ、当該ノズル27を有するインクジェットヘッド211は利用可能とされる。代表値Pw0としては、例えば、ノズル27の配列において中央に位置するノズルのALが選択される。
【0044】
図5A及び
図5Bは、インクを複数回続けて吐出する場合の駆動波形の例を示す図である。
図5Aに示すように、インクジェット記録装置1では、複数回(2以上の所定数)続けて吐出されたインク(マルチドロップのインク)を飛翔中に合一させて、又は媒体M上の所定の画素範囲内に各々着弾させることで、各画素範囲のインク濃度(階調)を多段階に定める。パルス幅Pw1がALと等しい場合、その2倍の吐出周期Pe1で複数回の吐出動作を行うと、2回目以降の吐出時にその前の吐出動作に係るインクの振幅の残響により振動が増幅されて(共振して)吐出速度が上昇する。一方、パルス幅Pw1がALと等しくない場合や、吐出周期Pe1がパルス幅Pw1やALの2倍ではない場合には、2回目以降の吐出速度が上昇せず、更には振動が弱められて吐出速度が低下する場合もある。すなわち、単発吐出の場合と比較して、複数回の連続吐出では、設定されたパルス幅と各ノズルの実際のALとの関係に応じて吐出速度のばらつきが増大され得る。
【0045】
本実施形態のインクジェット記録装置1では、例えば、インクの液滴速度(インク液滴に係る所定の特性値)がパルス幅の変化に対して極大値を取る基準パルス幅(実際のAL)のばらつき、すなわち、実際のALでのインクの液滴速度(インク液滴に係る所定の特性値)が画質上無視できないほど(画質に応じた所定の基準以上に)大きくなる場合のあるインクジェットヘッド211も利用可能とする。また、簡便に、パルス幅が上記の代表値Pw0(中央のノズルのAL)の駆動パルスでの液滴吐出速度が所定の基準以上大きくなる場合といったような基準が用いられてもよい。インクジェット記録装置1では、同一の画素範囲に複数回(特に偶数回)続けて吐出、着弾させる場合(途中で合一する場合も含む)には、
図5Bに示すように、1回目のパルス幅Pw1と2回目のパルス幅Pw2とを異ならせる。吐出速度のばらつきによる画質上の問題は、例えば、インクの着弾位置のずれ、インク速度が低すぎることによるインク液滴の飛翔の不安定性及び着弾時のインクの媒体Mへの浸透、広がり及び定着具合のばらつきなどに現れる。インクの着弾位置のずれ量は、飛翔中の媒体Mの移動速度(搬送速度)などにも依存するので、所定の基準は一律には定められないが、例えば、インクジェット記録装置1で実行され得る最大の媒体Mの移動速度に基づいて定められれてもよい。このような着弾位置(液滴速度)のずれ量の基準としては、現在のインクジェット記録装置1では、例えば、3%などに定められ得る。また、連続した吐出の回数や搬送速度など(まとめて動作状況)に応じて所定の基準を満たす場合と満たさない場合が混在し得る場合、少なくともいずれかの条件で所定の基準を満たさない場合には、インクジェットヘッド211は、動作状況によらず一律に1回目のパルス幅Pw1と2回目のパルス幅Pw2とを異ならせる制御を行わせるものとして定めてよい。すなわち、動作状況に応じて各々駆動パルスの設定を切り替える必要はない。
【0046】
上述のように、印加された駆動パルスのパルス幅に実際のALから大きくずれているものがある場合には、先行の吐出に係る振動が次の吐出に係る振動を弱めやすく、この場合、顕著に吐出速度が低下する。後発の吐出インクが先発の吐出インクよりも遅くなると、合一させるはずのインク液滴が飛翔中に合一しない場合が生じ得る。また、速度差が大きすぎる場合には、インクの着弾位置のずれのみならず、インク液滴の形状や着弾時の態様に問題が生じ得る(すなわち、画質などを劣化させ得る)ので、複数のインク液滴は、適切な速度範囲内である必要がある。
【0047】
本実施形態のインクジェット記録装置1では、続けて行われる2回の駆動パルスを組み合わせてパルス幅などの設定を行う。ここでは、2回の駆動パルスのうち一方が調整対象の1つのヘッドユニット21における全てのノズルのAL(インクを吐出するノズル自身のALを含む)よりも長いパルス幅Pw1の駆動パルス(第1駆動パルス)とし、他方が当該ヘッドユニット21における全てのノズルのAL(インクを吐出するノズル自身のALを含む)よりも短いパルス幅Pw2の駆動パルス(第2駆動パルス)とする。すなわち、全ての駆動パルスは、いずれのノズルに係るALと同程度の長さに設定されない。一方で、2回の長さを長短異ならせることで、ALとの長さの差が小さい2回のパルスが供給されるノズルと、ALとの長さの差が大きい2回のパルスが供給されるノズルとを生じさせない。この駆動パルスの組合わせは、全てのノズルに係る駆動パルスとして共通に定められてよい。
【0048】
図6A及び
図6Bは、インクジェットヘッド211における複数ノズル(ここでは100ノズル分)の吐出速度の分布の例を示す図である。以下では、吐出速度とは、複数回連続して吐出されたインク液滴が合一した後の速度を表すが、撮像部50の撮像結果に基づいて速度が算出される場合には、いずれかのインク液滴(例えば、最後発)の吐出タイミングから媒体Mへの着弾までの平均速度が求められてもよい。
図6Aの線Lk1に示すように、あるパルス幅Pwm(例えば、代表値Pw0より8.6%短い)に固定して1画素分の吐出動作(ここでは2回の吐出)を行った場合に、ノズル番号が55以降のノズルで吐出速度(複数の液滴の合一後)が大きく、ノズル番号が45以前のノズルで吐出速度が小さい。一方で、線Lk2に示すように、あるパルス幅Pwp(>Pwm、例えば、代表値Pw0よりも8.6%長い)に固定して同様の吐出動作を行った場合には、ノズル番号が45以前のノズルでは、パルス幅Pwmの場合よりも吐出速度が大きく、ノズル番号が55以降のノズルでは、パルス幅Pwmの場合よりも吐出速度が低い。すなわち、ノズル番号が45以前のノズルについては、ALがパルス幅Pwpに近く、ノズル番号55以降のノズルについては、ALがパルス幅Pwmに近いと推測される。
【0049】
線Lj1、Lj2は、それぞれ、2回の吐出動作のうち1回目でパルス幅Pwmよりも十分に短いパルス幅Pw1とし、2回目でパルス幅Pwpよりも十分に長いパルス幅Pw2とした場合の各ノズルでの吐出速度を示している。ここでいう十分にとは、それぞれ、全てのノズルのALよりも短くなるほど短い、及び全てのノズルのAよりも長くなるほど長いことを意味する。ノズルに明確な異常がなければ、必ずしも全てのノズルのALが実際に計測、取得されていなくても、ALのばらつきの範囲は、一部の計測結果と製造上の特性とに基づいて概ね想定できる。したがって、想定される範囲のばらつきよりも更に大きい範囲(ここでは、代表値Pw0の±15.2%)でパルス幅Pw1、Pw2が定められればよい。パルス幅は、Pwm+Pwp=Pw1+Pw2の関係を満たす。また、線Lj1では、吐出周期がパルス幅Pwmの2倍であり、線Lj2では、吐出周期がパルス幅Pwpの2倍である。いずれの場合でも、固定パルス幅の場合と比較して、吐出速度のばらつきが各ノズルのALのばらつきに比して小さくなる。
【0050】
特には限られないが、例えば、吐出周期Pe1は、パルス幅Pw2の2倍以下であり、パルス幅Pw1の2倍以上である。吐出周期Pe1は、例えば、全ノズルの平均的なALの2倍程度の長さであってもよいし、パルス幅Pw1又はパルス幅Pw2の2倍であってもよい。
【0051】
このようなパルス幅の組合せは、2回の吐出の場合に限られず、例えば、4回の吐出の場合であってもよい。4回以上のインク吐出を連続させる場合には、2回の駆動パルスのセットを2回以上繰り返せばよい。長短パルス幅の駆動パルスを交互に出力させていくことで、ALの異なる部分を有するノズル列について、全体の吐出速度のばらつきが低減される。
【0052】
また、単一の画素範囲に対して4回以上連続吐出を行う場合だけでなく、前の画素範囲へのインク吐出に係る残響が消えないうちに次の画素範囲へのインク吐出を開始するような高周波数吐出の場合も同様に、先の吐出に係るインクの振動の影響が後の吐出に係るインクの振動に影響して吐出速度のばらつきが大きくなりやすい。
【0053】
図6(b)では、線Li1、Li2がそれぞれパルス幅Pwc(Pwp>Pwc>Pwm、ここでは、パルス幅Pwcは代表値Pw0より5.7%短い)で1画素当たり4発のインク吐出を行った場合における1画素目と10画素目のインク吐出速度の分を示している。各画素(画素範囲)の記録周期は、吐出周期の約5.22倍である。この場合、10画素目の記録時のインク吐出速度のうちALに近いノズル(ノズル番号55以降)では、画素間の波形の残響によって弱められて1画素目のインク吐出速度が低下する。すなわち、連続動作の状況によって吐出速度に変化が生じる。
【0054】
線Lv1、Lv2は、それぞれパルス幅P1a、P2a(P1a(=0.686×Pw0)<Pwc<P2a(=1.286×Pw0))の波形を奇数発目と偶数発目の吐出で交互に切り替えた場合の1画素目と10画素目のインク吐出速度の分布である。1画素目におけるばらつきが線Li1で示されたものよりも小さいだけではなく、10画素目の吐出におけるインク吐出速度分布の1画素目におけるインク吐出速度分布との差が、パルス幅Pwcに固定された場合よりも小さくなっていることが分かる。このように、長いパルス幅と短いパルス幅を組み合わせた駆動信号は、連続動作時の安定性にも効果がある。
【0055】
なお、相対的な吐出速度のばらつきが低減されるパルス幅の組合せでは、必ずしも最も効率のよい運動エネルギー(吐出速度)への変換がなされるとは限らない。したがって、駆動波形の振幅(電圧)を調整することで所望の吐出速度(絶対値)を得ることができる。
【0056】
各ノズルでのALの差分に応じてパルス幅の代表値Pw0からの調整が必要になるのは、上述のようにノズル間でのALのばらつきが画質に与える影響が無視できないほど大きい場合であり、媒体Mの最速搬送速度や最高レベルの要求画質などに応じて、例えば、吐出速度やインク液滴のインク量に3%以上のばらつきが生じる場合としてもよい。パルス幅Pw1、Pw2は、上記のように、上記吐出速度のばらつきに応じたALのばらつき(例えば10%程度)の最大値と最小値との間隔以上の間隔に設定される。これにより、例えば、パルス幅Pw1、Pw2は、従来設定されるパルス幅の代表値Pw0に対して±20%(全体で40%)程度の増減となってもよく、あるいは、これよりも更に大きな増減であってもよい。
【0057】
図7A及び
図7Bは、パルス幅の変化量を異ならせた場合の吐出速度分布の例を示す図である。
図7Aでは、上記パルス幅Pwcで固定して1画素に対し4回吐出動作を行った場合の吐出速度の分布(線Lra、Lrb)に対し、2回目、4回目のパルス幅を約9%伸ばした場合の吐出速度の分布(線Laa、Lab)を比較している。線Lra、Laaでは、吐出周期はパルス幅Pwcの2倍であり、線Lrb、Labでは、吐出周期は2、4回目のパルス幅の2倍である。この程度の振幅の差では、大きな変化にはならないが、固定パルス幅の場合よりも若干ばらつきが減少する傾向はみられる。
【0058】
図7Bでは、1、3回目のパルス幅をパルス幅Pwcよりも約18%短縮させ、2、4回目のパルス幅をパルス幅Pwcよりも約27%伸ばしている。線Lba、Lbbのそれぞれの場合における吐出周期は、線Laa、Labと同一である。これらの場合には、ノズル間の吐出速度のばらつきがより効果的に低減される傾向がみられる。
【0059】
ここで、更に、各ノズルにそれぞれ対応する圧電素子26には、感度のばらつきがある。
図8A及び
図8Bは、ノズル間の感度のばらつきについて説明する図である。
【0060】
例えば、
図8Aに示すように、パルス幅Pwaで吐出速度が極大となるノズルと、パルス幅Pwbで吐出速度が極大となるノズルがあり、これらの極大の吐出速度Va、Vbが異なる。すなわち、実際のALと等しいパルス幅の駆動パルスがそれぞれ印加されても、同一の吐出速度が得られない場合がある。
【0061】
図8Bに示す例では、パルス幅の代表値Pw0でインクジェットヘッド211内の複数のノズルからの吐出速度を計測すると、線Ltで示すように、見かけ上ノズル番号が0~25番及び50番よりも後ろのノズルで吐出速度が相対的に高くなっている。しかしながら、代表値Pw0よりも短いパルス幅Pwmで上記複数のノズルの吐出速度を計測すると、線Lsで示すように、ノズル番号が60以降のノズルでは吐出速度が更に上昇し、ノズル番号が50より前のノズルでは、吐出速度が減少する傾向がみられた。一方で、代表値Pw0よりも長いパルス幅Pwpでこれら複数のノズルの吐出速度を計測すると、線Luで示すように、ノズル番号55以降のノズルでは、吐出速度が低下し、ノズル番号が50未満のノズルでは、吐出速度が上昇した。すなわち、ノズル番号が55以降のノズルのALは、代表値Pw0よりも短く、ノズル番号が50より前のノズルのALはPsよりも長いことが分かる。しかしながら、ノズル番号が25~45のノズルでは、ALに近いパルス幅Pwpで駆動されても吐出速度としては、ノズル番号が50より後ろのノズルの吐出速度と大きな差が生じない。すなわち、ノズル番号が25~45のノズルは、圧電素子26の感度自体が低いことが分かる。
【0062】
このような場合、上記2回セットの駆動パルスにおいて、2回目の(最後の)駆動パルスのパルス幅が、感度の低いノズル(極大の特性値(吐出速度)のうち最小のもの)のAL(基準パルス幅)により近くなるようにパルス幅の順番を定める。もともと感度が低く速度が遅くなりやすい場合には、後発のインクの速度を相対的に上げることで、後発インクを先発インクに追いつかせることで、全体として適切な着弾となりやすい。
【0063】
図9は、感度の異なるノズルを含む場合におけるパルス幅の順番に応じた吐出速度の分布の例を示す図である。ノズル番号が50より前のノズル(圧電素子26)の感度が相対的に低く、ノズル番号が50よりも後ろのノズル(圧電素子26)の感度が相対的に高い。
【0064】
線Lhは、1回目のパルス幅がノズル番号が50より前のノズルに係る実際のALにより近く、2回目のパルス幅がノズル番号が50より後ろのノズルに係る実際のALにより近い場合の吐出速度と基準吐出速度との差を示している。線Llは、1回目のパルス幅がノズル番号が50より後ろのノズルに係る実際のALにより近く、2回目のパルス幅がノズル番号が50より後ろのノズルに係る実際のALにより近い場合の吐出速度と基準吐出速度との差を示している。線Lhで示されている吐出速度の差よりも、線Llで示されている吐出速度の差の方が小さいことが分かる。
【0065】
次に、本実施形態のインクジェット記録装置1におけるパルス幅設定動作について説明する。
上述のように、パルス幅の設定は、ヘッドユニット21内でALのばらつきが十分小さければ不要であり、ALのばらつきが大きい場合に、そのヘッドユニット21を廃棄する代わりに行われる。各ノズル27でのALは、理論値からのずれがあるので、パルス幅をずらしながら吐出速度を計測してフィッティングし、当該フィッティングにより吐出速度が極大になるパルス幅(基準パルス幅)と等しいものとして特定される。ヘッドユニット21(インクジェットヘッド211)内でのALの分布は、上述のように、所定数の計測データに基づいて推測されてよい。
【0066】
図10は、本実施形態のインクジェット記録装置1で実行される駆動波形設定処理の制御部40による制御手順を示すフローチャートである。この駆動波形設定処理は、例えば、出荷前の検査時などに検査者によって操作受付部81への入力操作に応じて起動される。
【0067】
駆動波形設定処理が開始されると、制御部40(CPU41)は、インク吐出速度の計測を行う対象の複数(例えば3つ)のパルス幅と複数のノズル27とを定める。制御部40は、パルス幅とノズル位置との組み合わせを全て設定し、設定されたノズル27及びパルス幅で記録動作部20によりインク吐出を行わせ、また、計測部によりインク吐出速度の計測を行わせる(ステップS101)。
【0068】
制御部40は、インク吐出速度の計測対象とされた各ノズル27について、得られた速度分布をフィッティングして(上述のように、例えば、2次曲線又は3次曲線によるフィッティング)、最大(極大)速度と当該最大(極大)速度でのパルス幅(基準パルス幅)とを推定する(ステップS102)。最大(極大)速度は、ノズル27の圧電素子26の感度情報に変換され得る。基準パルス幅は、当該ノズル27に係るAL(実AL)に対応付けられる。
【0069】
制御部40は、実ALのノズル配列方向についての分布に基づいて、実ALの最大値及び最小値を推定する(ステップS103)。最大値及び最小値は厳密な値である必要はなく、広めの間隔(最大値を大きく、最小値を小さく)で推定されてもよい。この推定のために、制御部40は、追加でいくつかのノズル27における上記複数のパルス幅でのインク吐出速度の計測データを取得してもよい。また、制御部40は、最大値及び最小値の推定にフィッティングなどを用いてもよい。
【0070】
制御部40は、推定された各ノズルのALに基づいて、固定パルス幅と吐出周期Peとを設定する(ステップS104)。この固定パルス幅は、従来設定されている代表値Pw0であってよいが、これに限られない。吐出周期Peは、固定パルス幅の2倍であってもよい。
【0071】
制御部40は、設定された固定パルス幅での全ノズル27によるインク吐出速度のばらつきが所定の基準内に収まるか否かを判別する(ステップS105)。制御部40は、例えば、固定パルス幅から最も離れたAL(上記ALの最大値又は最小値のいずれか。機械的に両方が選択されてもよい)のノズル27からのインク吐出速度が、ALでのインク吐出速度に対してどの程度遅くなるかを算出する。所定の基準内に収まると判別された場合には(ステップS105で“YES”)、制御部40は、設定された固定パルス幅と吐出周期Peを確定して、駆動波形設定処理を終了する。
【0072】
所定の基準内に収まらないと判別された場合には(ステップS105で“NO”)、制御部40は、推定されているALの最大値及び最小値に基づいて、パルス幅Pw1、Pw2、及び吐出周期Pe1、Pe2を設定する(ステップS106)。パルス幅Pw1、Pw2は、例えば、ALの最大値及び最小値の中央値(平均値)にその値の所定倍(例えば、1.2倍及び0.8倍など)を乗じて得られてもよい。吐出周期Pe1は、例えば、得られたパルス幅Pw1、Pw2のいずれかの2倍であってもよい。吐出周期Pe2は、例えば、吐出周期Pe1と同一であってもよい。
【0073】
制御部40は、ノズル27の配列方向(幅方向)についての感度分布とALの分布とを比較する。制御部40は、パルス幅Pw1、Pw2のうちいずれを先に出力するか順番を決定する(ステップS107)。制御部40は、全ノズル27のうち感度が相対的に低い範囲を特定し、この範囲での代表的なALの値を取得する。制御部40は、代表的なALに対し、パルス幅Pw1、Pw2のどちらが近いかを判別し、近い方が後に出力されるように吐出の順番が決定される。ステップS106、S107の処理が、本実施形態の駆動制御方法におけるパルス幅設定ステップを構成する。そして、制御部40は、駆動波形設定処理を終了する。
【0074】
以上のように、本実施形態のインクジェットヘッド211は、インクを吐出するノズル27と、印加される駆動パルスに応じてノズル27に供給されるインクに圧力変動を付与する圧電素子26と、を含む記録素子200を複数備える。複数の圧電素子26の各々に対して印加される駆動パルスに応じて記録素子200の各々により吐出されるインク液滴の液滴速度が駆動パルスのパルス幅の変化に対して極大となる基準パルス幅(実際のAL)は、所定の基準以上のばらつきを有する。本実施形態のこのようなインクジェットヘッド211の駆動制御方法は、2以上の所定数の駆動パルスに応じてそれぞれ吐出される当該所定数のインク液滴を同一の画素範囲に着弾させる場合に、複数の記録素子200の各々について、基準パルス幅(実際のAL)よりも長いパルス幅Pw1の第1駆動パルスと、基準パルス幅(実際のAL)よりも短いパルス幅Pw2の第2駆動パルスとを合計で上記所定数個組み合わせて、複数の記録素子200の各々に対して出力させるパルス幅設定ステップ(すなわち、駆動波形設定処理におけるステップS106、S107の処理)を含む。
このような駆動制御方法によれば、複数発の液滴を連続的に吐出して同一画素範囲に着弾させるインクジェット記録装置1において、ノズル27間の特性のばらつきが大きく複数発の連続吐出ではこの影響が特に大きくなってインクジェットヘッド211の規格を従来満たさないような場合であっても、より効果的にばらつきの悪影響を低減することができる。したがって、従来廃棄されていたようなインクジェットヘッド211も使用可能となり、製造上の歩留まりを上昇させて製造コストを削減することができる。
【0075】
また、パルス幅設定ステップでは、複数の記録素子200の各々に係る基準パルス幅のいずれよりも長いパルス幅Pw1の第1駆動パルスと、基準パルス幅のいずれよりも短いパルス幅Pw2の第2駆動パルスとを定める。すなわち、各々のノズルについて、個々の基準パルス幅に基づくパルス幅Pw1、Pw2を設定するのではなく、全てのノズルのALに対して長い側のパルス幅Pw1と短い側のパルス幅Pw2を設定する。これにより、パルス幅Pw1、Pw2を適度に大きく異ならせることができ、安定的に各ノズルの吐出速度を得ることができる。
【0076】
また、パルス幅設定ステップでは、パルス幅Pw1及びパルス幅Pw2は、複数の記録素子200に対して共通に定められる。全てのノズル27に対して条件を満たすパルス幅Pw1、Pw2を共通に定めることで、パルス幅の設定を容易に行うことができる。また、圧電素子26ごとにパルス幅を変更する必要がないので、駆動動作も容易である。
【0077】
また、パルス幅設定ステップでは、第1駆動パルス及び第2駆動パルスの順番は、複数の記録素子200に係る極大のインク吐出速度のうち最小のものに応じた基準パルス幅(AL)により近いパルス幅のものが最後の駆動パルスとなるように定められる。すなわち、感度の低い圧電素子26に対しては、最後の駆動パルスでなるべく必要な吐出速度が得られやすいように、ALに近い駆動パルスを出力させる。これにより、必要以上に吐出速度を下げずに安定したインク吐出と駆動電圧に対する動作効率とを得ることができる。
【0078】
また、所定の特性値は、吐出されるインクの液滴速度である。インクの液滴速度が画質のばらつきには大きく影響しやすいので、これを特性値としてノズル27の間でそろえるように調整することで、画質のむらを低減させやすい。
【0079】
あるいは、所定の特性値は、吐出されるインクの液滴量であってもよい。記録対象画像の内容や画像の記録者の要求内容によっては、インクの着弾位置以上に、全体としてのインク濃度(階調)のむらがより重要になる場合もあるので、特性値として液滴量を用いて画質のばらつきを低減させる場合にも本発明は有効である。
【0080】
また、特性値のばらつきの許容範囲に係る所定の基準は、3%である。ばらつきの影響は、媒体Mの搬送速度や要求画質にもよるが、一般的に要求される平均的な画質などに基づいて一意に適宜な値が定められていてもよい。これにより、検査及び設定の手間を簡略化しつつ、容易かつ安定して適正な画質の得られるインクジェットヘッド211をインクジェット記録装置1のユーザーに提供することができる。
【0081】
また、インク液滴の単一の画素範囲への連続吐出に係る所定数は偶数であり、パルス幅設定ステップでは、第1駆動パルスと第2駆動パルスとが交互に出力されるように定められる。これにより、各ノズルについてよりバランスよく最終的なインク吐出速度を得やすくなる。
【0082】
また、本実施形態のインクジェット記録装置1は、インクを吐出するノズル27と、印加される駆動パルスに応じてノズル27に供給されるインクに圧力変動を付与する圧電素子26と、を含む記録素子200を複数有するインクジェットヘッド211と、圧電素子26に対して印加する駆動パルスの記録素子200への出力を制御する制御部40と、を備える。このインクジェット記録装置1では、複数の圧電素子26の各々に対して印加される駆動パルスに応じて記録素子200の各々により吐出されるインク液滴の液滴速度が駆動パルスのパルス幅の変化に対して極大となる基準パルス幅(実際のAL)は、所定の基準以上のばらつきを有する。制御部40は、2以上の所定数の駆動パルスに応じてそれぞれ吐出される当該所定数のインク液滴を同一の画素範囲に着弾させる場合に、複数の記録素子200の各々について、基準パルス幅(AL)よりも長いパルス幅Pw1の第1駆動パルスと、基準パルス幅(AL)よりも短いパルス幅Pw2の第2駆動パルスとを合計で所定数個組み合わせて、複数の記録素子200の各々に対して出力させる。
このようなインクジェット記録装置1によれば、従来廃棄されていた規格外のインクジェットヘッド211を安定したインク吐出速度でインク吐出可能として利用することができる。したがって、インクジェット記録装置1は、製造/メンテナンスのコストを低減しつつ安定した画像の記録動作を行うことができる。
【0083】
なお、本発明は、上記実施の形態に限られるものではなく、様々な変更が可能である。
例えば、上記実施の形態では、インクジェットヘッド211の全ての記録素子200に対して共通の駆動信号を出力することとしたが、各々別個に、又はインクジェットヘッド211内の記録素子200をいくつかのグループに分けた当該グループごとに、駆動信号が設定されてもよい。この場合には、ある駆動信号が出力される記録素子200について、当該記録素子200のALのいずれよりも長いパルス幅Pw1及び短いパルス幅Pw2がそれぞれ設定されてよい。
【0084】
また、上記実施の形態では、少なくともいずれかの動作状況でパルス幅が代表値Pw0の駆動信号による吐出速度のばらつきが基準を超える場合には、該当するインクジェットヘッド211での1画素当たり2発以上の連続したインク吐出に対して常に第1駆動パルスと第2駆動パルスの組合せによる駆動信号を出力するものとして説明したが、基準を超える条件でのみ、第1駆動パルスと第2駆動パルスの組合せによる駆動信号を出力する動作に切り替えてもよい。
【0085】
また、上記実施の形態では、特性値としてインク液滴の吐出速度を用いるものとして説明したが、これに限られない。例えば、インクの液滴量なども特性値として利用可能である。
【0086】
また、上記実施の形態では、複数のパルス幅で計測した吐出速度を2次又は3次関数などでフィッティングして極大値を基準パルス幅(AL)としたが、極大値付近で十分狭い間隔で計測して直接求めてもよい。
【0087】
また、圧電素子26の感度に応じた吐出の順番は考慮されなくてもよく、常に長い方の駆動パルス又は短い方の駆動パルスの一方が先で他方が後とされてもよい。
その他、上記実施の形態で示した具体的な構成、処理動作の内容及び手順などは、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。本発明の範囲は、特許請求の範囲に記載した発明の範囲とその均等の範囲を含む。
【産業上の利用可能性】
【0088】
この発明は、インクジェットヘッドの駆動制御方法及びインクジェット記録装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0089】
1 インクジェット記録装置
10 搬送部
11 駆動ローラー
12 搬送ベルト
13 従動ローラー
14 搬送モーター
15 ローラー
20 記録動作部
21、21C、21M、21Y、21K ヘッドユニット
25 ヘッド駆動部
26 圧電素子
27 ノズル
27a 開口
29 駆動波形信号生成部
30 記憶部
31 AL計測データ
32 波形設定データ
40 制御部
41 CPU
42 RAM
50 撮像部
70 通信部
81 操作受付部
82 表示部
90 電力供給部
200 記録素子
210 キャリッジ
211 インクジェットヘッド