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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】超音波治療装置
(51)【国際特許分類】
   A61N 7/00 20060101AFI20240611BHJP
   A61B 17/00 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
A61N7/00
A61B17/00 700
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020145078
(22)【出願日】2020-08-28
(65)【公開番号】P2022039835
(43)【公開日】2022-03-10
【審査請求日】2023-08-25
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100075557
【弁理士】
【氏名又は名称】西教 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】高野 恭寿
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 明
(72)【発明者】
【氏名】大谷 修司
(72)【発明者】
【氏名】小関 義彦
(72)【発明者】
【氏名】葭仲 潔
【審査官】鈴木 敏史
(56)【参考文献】
【文献】再公表特許第2018/097245(JP,A1)
【文献】特開昭56-94229(JP,A)
【文献】特開昭60-22636(JP,A)
【文献】特開2003-152438(JP,A)
【文献】特開昭62-284648(JP,A)
【文献】特開昭63-115559(JP,A)
【文献】特開2021-145784(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 7/00
A61B 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の所望の部位に超音波を照射する超音波照射部と、
超音波によって前記所望の部位に誘起された電磁波を検出するアンテナを有し、前記アンテナによって検出された電磁波に基づき、前記所望の部位の温度を測定する測定部と、
前記アンテナと前記超音波照射部の間に配設され、前記アンテナに入射する超音波を抑制する超音波抑制材と、を備えている、超音波治療装置。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波治療装置であって、
前記超音波抑制材は、前記アンテナの前記超音波照射部側のみに位置している、超音波治療装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の超音波治療装置であって、
前記超音波抑制材は、超音波を吸収する材料によって形成されている、超音波治療装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載の超音波治療装置であって、
前記超音波抑制材は、超音波を反射する材料によって形成されている、超音波治療装置。
【請求項5】
請求項1または2に記載の超音波治療装置であって、
前記超音波抑制材は、超音波を吸収する材料によって形成されている複数の部材を含んでいる、超音波治療装置。
【請求項6】
請求項1または2に記載の超音波治療装置であって、
前記超音波抑制材は、超音波を反射する材料によって形成されている複数の部材を含んでいる、超音波治療装置。
【請求項7】
請求項1または2に記載の超音波治療装置であって、
前記超音波抑制材は、超音波を吸収する材料によって形成されている部材と、超音波を反射する材料によって形成されている部材と、を含んでいる、超音波治療装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、生体内の骨などの照射対象部位に生体外から超音波を照射して治療するための超音波治療装置に関する。
【背景技術】
【0002】
体外から集束した超音波を照射し、体内のがん組織などの患部を非侵襲で焼灼して治療する装置として、高密度集束超音波(High Intensity Focused Ultrasound;HIFU)治療装置が知られている。そのようなHIFU治療装置の従来技術は、例えば、特許文献1に記載されている。
【0003】
上記の特許文献1に記載される従来技術では、患部の皮膚上に与えられて集束超音波を患部に向けて照射する集束超音波付与部と、患部の温度計測を与える温度計測部と、を備える。温度計測部は、集束超音波の照射部から放射される電磁波の強度を計測する電磁波計測部と、電磁波計測部の電磁波の変化を解析し患部の温度を与える解析部と、を備える。
【0004】
解析部は、集束超音波付与部から与えられる集束超音波の打ち出し波と、骨表面からの反射波とに対応し、時間遅れを有して電磁波計測部で計測される一対の電磁変化の参照波の間にある電磁変化から患部の温度を与える。このような構成によって、骨表面へその近傍の皮膚上から集束超音波を与えての治療において、大規模な計測手段を用いずとも、電磁変化、例えば、電磁波強度変化から患部の温度をモニタリングでき、患部への集束超音波の正確な照射強度の制御を可能とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2018/097245号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来技術では、生体内の所望の部位に超音波を照射した際に、照射された超音波が電磁波計測部に入射して、電磁波計測部で誘起される電磁波がノイズとなって、超音波の照射対象部位の温度の測定精度が低減することがあった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の超音波治療装置は、生体の所望の部位に超音波を照射する超音波照射部と、
超音波によって前記所望の部位に誘起された電磁波を検出するアンテナを有し、前記アンテナによって検出された電磁波に基づき、前記所望の部位の温度を測定する測定部と、
前記アンテナと前記超音波照射部の間に配設され、前記アンテナに入射する超音波を抑制する超音波抑制材と、を備えている。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、生体の所望の部位に超音波を照射した際に誘起される電磁波からノイズとなる電磁波を低減し、所望の部位の温度を高精度で測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本開示の一実施形態の超音波治療装置の概略的構成を示す図である。
図2】本実施形態の超音波抑制材の超音波抑制効果を確認するための実験に使用したHIFU実験機21の構成を示す図である。
図3】本実施形態の超音波抑制材10を示す断面図である。
図4】他の実施形態の超音波抑制材10aを示す断面図である。
図5】他の実施形態の超音波抑制材10bを示す断面図である。
図6】他の実施形態の超音波抑制材10cを示す断面図である。
図7】超音波抑制材の材料とアンテナの出力との関係を確認した実験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して、本開示の超音波治療装置の実施形態について説明する。
【0011】
図1は本開示の一実施形態の超音波治療装置の概略的構成を示す図である。本実施形態の超音波治療装置は、生体である患者P内の所望の部位である、例えば患部1に患者Pの体外から超音波を照射する超音波照射部2と、超音波によって患部1に誘起された電磁波を検出するアンテナ3aを有し、アンテナ3aによって検出された電磁波に基づき、患部1の温度を測定する測定部3と、アンテナ3aに近接して配設され、アンテナ3aに入射する超音波を抑制する超音波抑制材10と、を備えている。
【0012】
本実施形態において、患者Pの患部1は、超音波の照射対象部位であり、一例として骨を想定して説明する。また生体は、患者Pの身体に限らず、例えば実験動物、人体または動物から摘出された組織の一部などであってもよい。また所望の部位は、患者Pの骨等の患部1に限るものではなく、実験および研究のために使用可能な各種の生体組織であってもよい。
【0013】
測定部3は、電磁波を受信可能な前述のアンテナ3aと、アンテナ3aを超音波抑制材10とともに超音波照射部2に保持する保持構造部材とを有している。アンテナ3aは、例えば、ループアンテナまたはダイポールアンテナを使用すればよい。本実施形態では、ループアンテナを採用している。測定部3がアンテナ3aを有し、アンテナ3aが患部1から発生した電磁波を受信することによって、測定部3は患部1の温度を測定することができる。その結果、超音波照射部2から患部1に超音波が照射されたときに、患部1の骨が圧電体として機械的に振動し、電磁波が発生する。この電磁波の強度が患部1における骨の温度によって変化するため、アンテナ3aによって受信した電磁波による誘導起電力(電圧)を測定することによって、患部1である骨の温度を測定することができる。
【0014】
本実施形態の超音波治療装置は、臨床治療に限らず、学術的研究および技術開発などを目的とする実験にも使用することができる。皮質骨や軟骨などの骨組織は、超音波照射によって電磁波を発生する。骨組織のうちの皮質骨は、コラーゲン組織であるオステンからなり、螺旋状のコラーゲン組織は、人間の場合、42℃を変性の開始温度としてゼラチン質(膠質)へと変化し、60℃付近で完全にゼラチン質に変性する。
【0015】
超音波照射の焦点を照射対象部位(本実施形態では患部1)に設定し、照射対象部位に超音波を照射すると、骨組織の温度上昇とともに、骨組織から発生する電磁波の強度はコラーゲン組織が減少するにつれて連続的に低下し、60℃付近で骨の結晶組織が溶解して電磁波の発生も消滅する。このような温度上昇と電磁波の発生強度との関係を利用することによって、電磁波強度を計測して超音波照射の焦点とされる照射対象部位における温度を計測することができ、少なくともゼラチン質への変性完了を明確に計測し、必要以上に患部1の温度を上昇させずに、必要な一定温度まで患部1の温度を上昇させることが可能となる。
【0016】
このような患部1の温度上昇は、患部1に超音波を集束させて照射すると、患部1から超音波によって誘起された微弱な電磁波が発生し、この電磁波を計測するために、患部1にできるだけ近接した位置にアンテナ3aが配設される。アンテナ3aは、患部1に対して、患部1からの電磁波を受信できる位置であれば、どこに配置されていてもよいが、例えば、アンテナ3aは、患部1から5mm~120mmの距離に配置されている。
【0017】
本実施形態の超音波治療装置は、集束超音波(High Focused Ultrasound;HIFU)治療器によって実現され、患者Pの体外から集束した超音波を照射し、体内のがん組織などの患部1を焼灼して治療するために用いられる。超音波を照射する部品は、HIFUトランスデューサ6が用いられる。HIFUトランスデューサ6は、生体組織に超音波を効率よく入射させるために、生体組織と音響インピーダンスが近い水の中に設置される。そして、水を収容した袋である後述の第1導波体4を体表に押し付け、体内に超音波を伝搬させる。
【0018】
水中で超音波を発生させると、超音波の正圧・負圧の繰り返しによって、水中の溶存酸素などのガスの膨張・収縮によって気泡化し、その気泡が破裂を繰り返すキャビテーションを生じる。この気泡がHIFUトランスデューサ6の表面に付着すると、超音波の強度が低下する。また、キャビテーションによってHIFUトランスデューサ6の表面を損傷するなどの悪影響を及ぼす場合がある。そのため、HIFUトランスデューサ6に使用する水は、水中の溶存酸素量が3mg/L以下の脱気水が使用される。このような水に代えて、脱気され、かつ音響インピーダンスが生体に近い油性溶液が使用されてもよい。
【0019】
超音波治療装置を使用し、生体組織の一部である骨の圧電特性を利用し、患部1に超音波を照射し、そこから発生する電磁波を超音波が伝搬可能な媒質(例えば、水)中に設置したアンテナ3aによって計測し、その値の変化を装置制御に利用している。骨は弱圧電体であるので、超音波によって電位を発生させるためには、強い超音波の照射が必要である。強い超音波を発生する装置として、前述のHIFUトランスデューサ6が用いられる。HIFUトランスデューサ6の振動子面は、複数の圧電素子が半球上の凹面に並んで構成され、その振動子面は筐体7に接着され、支持されている。HIFUトランスデューサ6から超音波を発生させるためには、ファンクションジェネレータなどの発振器から所定の信号をドライバアンプに送信し、そこで増幅された電圧をHIFUトランスデューサ6に印加し、圧電素子面を振動させて超音波を発生させる。
【0020】
このようなHIFUトランスデューサ6から発生する超音波に誘起されて発生する骨の電磁波は弱い。そのため、その弱い電磁波の量をなるべく多く検知するため、アンテナ3aを患部1に近づける必要がある。しかし、媒質中を伝搬した超音波がアンテナ3aに当たり、その際、アンテナ3a自身から電磁波が生じる。その電磁波が、患部1の骨からほぼ同時に発生する電磁波と重畳すると、骨から発生する電磁波を正確に検知できなくなる。
【0021】
そこで、本件発明者は、アンテナ3aに当たる超音波の量を、アンテナ3aの周囲に超音波を吸収または反射する超音波抑制材10を設置することによって低減できることを見出した。このような超音波抑制材10に求められる条件としては、設置方向が超音波の入射方向に設置すると、超音波抑制効果が高いことが判明した。
【0022】
超音波抑制材10の材料としては、連続気泡の樹脂材料ではなく、独立気泡の樹脂材料が好ましい。連続気泡を有する樹脂材料は、媒質がその空隙内に入り込むので、超音波を伝搬し易くなり、超音波抑制効果が薄れることも判明している。また、超音波抑制材10は、非圧電材料でなければならない。超音波が圧電性を有する材料に当たると、電位が生じて電磁波が発生するからである。媒質中に導体を置くと、それ自体がアンテナとなり、外来ノイズを検知して電磁波を発生する。そのため、超音波抑制材10は、導体ではなく、アンテナとして機能しない誘電体が望ましい。
【0023】
超音波抑制材10を用いることによって、アンテナ3aに直接当たる超音波の量とともに、アンテナ3a由来の電磁波強度が低下する。そのため、アンテナ3a由来の電磁波と骨などの照射部位由来の電磁波とが重畳しても、目的とする照射部位の電磁波信号の量を正確に取得できる。
【0024】
超音波抑制材10としては、超音波を吸収する材料、反射する材料またはそれらを組み合わせた材料を用いることができる。超音波を吸収する材料としては、ウレタン系合成ゴム製の超音波抑制材10を用いることができる。ウレタン系合成ゴムは、周波数0.5MHz以上の音波の20±1℃における透過損失が、30dB/cm/MHzであるものを用いることができる。超音波を吸収する材料の他の例として、例えば、天然ゴム、シリコンゴム、フェライトゴム、エポキシ樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリビニルブチラル(PVB)、ABS樹脂、ポリウレタン(PUR)、ポリビニルアルコール(PVAL)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリアセタール(POM)、ポリエチレンテレフタレート(PETP)、フッ素樹脂(PTFE)を使用してもよい。なお、超音波を吸収する材料は、上記のうち、いずれか1種または2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0025】
また、超音波抑制材10の材料として、超音波を反射する材料を用いることができる。超音波を反射する材料としては、例えば独立気泡の発泡ポリプロピレンが好適である。超音波がインピーダンスの異なる媒質を通過する際に生じる、その音圧反射係数は、下記の式1で示される。
【0026】
【0027】
医療で使用する超音波の媒質は、生体に近い音響インピーダンスを持つ水を使用する場合が多い。水の音響インピーダンスは、1.495×10kg/msecであり、空気の音響インピーダンスは、4.45×10-4kg/msecであるので、水の音響インピーダンスの方が空気の音響インピーダンスよりもはるかに大きい。そのため、水に対する空気の音圧反射係数は、ほぼ1となり、水中にある空気は超音波をほぼ全反射する。
【0028】
例えば、ポリプロピレン単体(または実質)の音響インピーダンスは、2.3×10kg/msecである。しかし、空隙率20%の独立気泡の発泡ポリプロピレンの空隙には、空気が充満している。そのため、水中にある発泡ポリプロピレンは、ポリプロピレン単体(または実質)よりも超音波を多く反射する。したがって、超音波を反射する材料としては、独立気泡の発泡ポリプロピレンが好ましい。超音波を反射する材料の他の例として、例えば、ポリウレタン(PUR)、ポリスチレン(PS)、ポリエチレン(PE)、フェノール樹脂(PF)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ユリア樹脂(UF)、シリコーン(SI)、ポリイミド(PI)、メラミン樹脂(MF)などが挙げられる。なお、超音波を反射する材料は、上記のうち、いずれか1種または2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、超音波抑制材10としては、超音波を吸収する材料と反射する材料とを組み合わせて使用してもよい。
【0029】
従来の超音波治療装置では、患部1の骨の温度を測定するために、アンテナ3aで骨から発生する電磁波を受信する。また、一方で、骨に向けて照射された超音波がアンテナ3aに当たることがある。アンテナ3aに超音波が当たった場合に、アンテナ3a自身が電磁波を発生することがある。これは、電磁誘導作用などに起因し、アンテナ3aに誘導起電力が生じた結果であると考えられる。測定部3には、骨から発生した電磁波に起因する出力と、アンテナ3a自身から発生した電磁波に起因する出力とが重畳して、骨の温度の測定精度が低下することがある。
【0030】
そのため、本実施形態の超音波治療装置では、測定部3のアンテナ3aと超音波照射部2との間に超音波抑制材10が配設されている。これによって、超音波照射部2から直接アンテナ3aに入射する超音波を低減することができ、ひいてはアンテナ3aに不要なノイズとして入射する電磁波を低減できる。その結果、測定部3の出力に基づいて患部1の骨の温度を測定することができる。したがって、本実施形態に係る超音波治療装置では、患部1の骨の温度の測定精度を向上することができる。
【0031】
超音波抑制材10は、アンテナ3aに近接して配されていてもよい。すなわち、超音波抑制材10とアンテナ3aとの距離は、超音波抑制材10と超音波照射部2との距離よりも小さくてもよい。その結果、超音波照射部2から直接アンテナ3aに入射する超音波を低減することができ、患部1の骨の温度の測定精度を向上させることができる。なお、超音波抑制材10は、例えば、アンテナ3aから10mm以内に位置していればよい。
【0032】
また、超音波抑制材10は、超音波照射部2から平面視したときに、アンテナ3aと重複していてもよい。その結果、患部1の骨の温度の測定精度を向上させることができる
【0033】
また、超音波抑制材10は、超音波照射部2から平面視したときに、アンテナ3aを覆うように配されていてもよい。すなわち、超音波抑制材10の平面方向における大きさが、アンテナ3aの平面方向における大きさよりも大きく、平面視においてアンテナ3aが超音波抑制材10の外縁よりも内側に位置していてもよい。その結果、患部1の骨の温度の測定精度を向上させることができる。
【0034】
超音波照射部2および測定部3は、電磁波を遮断するため、電磁遮蔽室(すなわち、シールドルームまたは電磁遮蔽空間)を規定する箱状構造体20に収容されている。
【0035】
上記の通り、アンテナ3aは、患部1よりも超音波照射部2側でかつ患部1に近接して配置されている。アンテナ3aよりも超音波照射部2側には、アンテナ3aに近接して超音波抑制材10が配置されている。その結果、アンテナ3a自身が超音波の照射によって電磁波を発生することが抑制され、アンテナ3aは患部1から発生した電磁波を受信することができる。これによって、患部1から発生した電磁波と、それ以外の外来ノイズとなる電磁波とを時間的に区分するために、それぞれの電磁波を重畳するなどの信号処理を行う必要がなくなり、患部1の電磁波を受信することができる。
【0036】
前述の患部1から発生した電磁波と、それ以外の外来ノイズとなる電磁波を時間的に区分できるのは、次の理由による。すなわち、電磁波の速度は光の速度(30000km/sec)で伝播するが、超音波の速度は、例えば水中の場合、1500m/secで伝播する。そのため、患部1および超音波照射部2間の距離とアンテナ3aおよび超音波照射部2間の距離とが異なると、その距離に応じて異なる時間で超音波が患部1およびアンテナ3aに照射される。しかし、患部1およびアンテナ3aに超音波がそれぞれ当たった瞬間に、患部1およびアンテナ3aのそれぞれから電磁波が発生するため、患部1およびアンテナ3aから発生した電磁波またはその電磁波強度を表す電圧信号は、位相が時間的にずれた重畳した信号波形として検出されるからである。
【0037】
測定部3は、例えば、超音波照射部2と超音波が集束する収束点mとを結ぶ軸線L上に位置している。その結果、測定部3は患部1から発生する強い電磁波を受信することができる。
【0038】
超音波治療装置は、空気よりも誘電率の高い流体である、前述の水が封入された第1導波体4を備えていてもよい。そして、第1導波体4は、超音波照射部2と患部1とを実質的に誘電体によって接続し、超音波および電磁波の減衰を抑制している。その結果、超音波を患部1に集束させて効率良く照射することができ、また、第1導波体4内に測定部3が設置されるので、患部1から発生した電磁波をアンテナ3aによって効率よく受信することができる。なお、第1導波体4は、バルーンとも呼ばれる。第1導波体4は、液体が封入できるように、機械的強度を有する液密な構造体から成る。
【0039】
本実施形態の超音波治療装置は、例えば、転移骨がん,関節痛等に由来する骨疼痛、すなわち体表からの深度が1mm~30mm程度の身体の浅い部分で発生する疼痛を緩和するために用いられてもよい。超音波照射部2は、圧電素子から成る複数の振動子を備える高密度集束超音波(High-Intensity Focused Ultrasound;HIFU)トランスデューサ6と、HIFUトランスデューサ6が収容される筐体7と、HIFUトランスデューサ6および筐体7を変位可能に保持する駆動装置8とを有する。
【0040】
超音波照射部2の下方には、患者が仰臥または横臥した姿勢で横たわることができる治療用支持台9が設けられ、治療用支持台9の下方には第2導波体5が設けられる。
【0041】
HIFUトランスデューサ6の駆動装置8および治療用支持台9は、超音波を治療用支持台9上の患者Pの任意の部位である患部1に照射可能なように、水平な仮想平面上で直交するX軸およびY軸、ならびにX軸およびY軸に垂直な高さ方向であるZ軸に沿って、相対的に自在に移動させ、超音波照射対象部位を、HIFUトランスデューサ6の直下の適切な位置に位置決めできるように構成されている。
【0042】
図1に示す超音波治療装置において、超音波照射部2は、患部1の上に広がる湾曲した円板状のHIFUトランスデューサ6と、患者Pの超音波照射対象部位の冷却用の冷却水を保持するための樹脂フィルム製のバルーンである第1導波体4と、これらを患者Pの身体の上に懸架するとともに、駆動装置8に支持されて移動可能な筐体7と、を主体として構成されている。図1における配管、配線等の各部材間の接続は、図示を省略している。
【0043】
HIFUトランスデューサ6は、全体として、患部1の上方に位置し、下方に向かって下方した凹状のパラボラ形状になっている。その凹状の内面には、前述の複数の振動子が整列して配設されている。このHIFUトランスデューサ6の内面は、収束点mに向かって集束する曲率半径を有する湾曲面に形成されているため、各振動子が同時に超音波を発振した場合、発振された超音波は、一点(焦点)に集束してHIFUとなる。
【0044】
なお、HIFUトランスデューサ6(超音波照射部)が、上記のように患部1の上方に広がる円板状等の形状になっているのは、患部1に正対する広い面になるべく多くの振動子を並べ、超音波発信強度を確保するためである。したがって、HIFUトランスデューサ6の形状は、前述の円板状や円盤状に限定されるものではなく、患部1に正対する広い面を確保できる形状であれば、照射部の全体形状は特に限定されるものではない。たとえば、外形が円形もしくは四角形等であってもよく、あるいは平坦な板状であってもよい。
【0045】
また、振動子を、超音波の焦点と被写界深度とを変えることのできる、フェィズドアレイタイプのHIFUトランスデューサとすれば、HIFUトランスデューサ6におけるパラボラ形の曲率半径を変更したり、フラットな平板状の照射部を採用することも可能である。
【0046】
第1導波体4は、樹脂製の透明または半透明フィルムを用いて構成されており、図示しない冷却水発生部で作製された脱気済み冷水(この場合、水温約18℃)が、冷却水発生部との間で循環することによって、第1導波体4内の水温が一定温度に保たれ、第1導波体4下部(底部)の接する体表面を冷却できるようになっている。
【0047】
なお、患者Pの体表面(超音波照射対象部位の皮膚面)を第1導波体4で冷却する理由は、超音波照射による体表面および表層の熱傷(火傷)を軽減するためであり、循環させる冷水は、超音波照射による気泡の発生等を抑制するために、脱気された状態で循環する。また、本実施形態における第1導波体4の「透明または半透明」とは、使用している樹脂フィルムの、可視光の波長帯域および紫外線の波長帯域における光の透過率が80%以上であることをいう。
【0048】
さらに超音波治療装置は、超音波を照射するHIFUトランスデューサ6の駆動回路6aおよびパワーアンプ6b、駆動装置8の制御装置13、患部1を診るための超音波診断装置14、超音波を患部1まで照射する経路となる第1導波体4および第2導波体5に純水を供給する装置15、ならびに電磁波を検知するアンテナ3a等を備えた測定部3の支持装置の制御機構である制御装置16を含んで構成される。これらはシステムコントローラ17によって制御され、制御値は入力装置18から入力され、各制御値および測定データ等は画像表示装置19によって画像表示される。システムコントローラ17は、例えばパーソナルコンピュータによって実現されてもよい。入力装置18は、例えばキーボード、タッチパネルなどによって実現されてもよい。画像表示装置19は、例えば液晶表示装置、EL表示装置またはLED表示装置などによって実現されてもよい。
【0049】
(HIFU実験機について)
図2は本実施形態の超音波抑制材の超音波抑制効果を確認するための実験に使用したHIFU実験機21の構成を示す図であり、このHIFU実験機21における超音波発生装置と骨サンプルの電磁波を計測するシステムのブロック図を示す。患者Pに使用される実際のHIFU治療装置と異なる点は、前述の患部1に代わるサンプル1aがタンク22外にある点であり、その他の装置構成は、同じである。サンプル1aがタンク22外にあっても、超音波と電磁波とはほぼ同様に伝搬させることが可能である。HIFUトランスデューサ23から照射される超音波は、タンク22内にある液体を媒質として、所望の部位であるサンプル1aの骨に照射される。ファンクションジェネレータ24で発生させた所定の信号をドライバアンプ25で増幅し、その電圧をHIFUトランスデューサ23に印加して超音波を発生させ、サンプル1aに照射する。
【0050】
HIFU実験機21は、超音波を連続波でサンプル1aに照射し、サンプル1aを加熱することができる。一方、断続的な超音波(バースト波)をHIFUトランスデューサ23からサンプル1aに照射し、そのときのサンプル1aから発生する電磁波をアンテナ3aで検知して、その信号をプリアンプ26で増幅し、オシロスコープ27で電磁波の変化を電圧変化として見ることができる。この電磁波(または電圧)の変化から、サンプル1aの特性変化を把握することができる。本HIFU実験機21では、図2のタンク22内に示すように、サンプル1aの前方(超音波の照射方向下流側)にアンテナ3aを設置し、そのアンテナ3aの近傍に超音波抑制材10を、超音波の照射方向の上流側に設置した。
【0051】
図3は本実施形態の超音波治療装置に備えられるアンテナ3aの超音波の入射方向上流側に近接して超音波抑制材10を取り付けた状態を示す断面図である。前記のアンテナ3aは、複数の導体3a1と、各導体3a1を被覆する保護層3a2とを有する。超音波抑制材10の形状は、アンテナ3aの外形に合わせ、外径D1が45mm、内径D2が35mm、厚さTが3mmの正面視において円環状または円環の一部を構成し、断面が矩形の部材によって実現されてもよい。超音波抑制材10の材質は、超音波を反射する独立気泡を有する発泡ポリプロピレンによって形成されるが、他の実施形態では発泡ポリスチレンなどであってもよい。一方、超音波を吸収する材料を用いる場合には、例えばポリウレタン樹脂などによって超音波抑制材10を形成してもよい。
【0052】
超音波抑制材10は、前述のように、アンテナ3aの超音波照射部2側に近接した位置に配置されるが、アンテナ3aに入射する超音波が強い任意の方向に設置してもよい。また、超音波抑制材10は、円環状の板状体でなく、図4の参照符10aで示すように、アンテナ3aの外周面を被覆する、正面視において円環状の筒状体であってもよく、図5に参照符10bで示すように、正面視において円環状の半円筒体であってもよく、受信する超音波の影響を大きく受けない領域にアンテナ3aの外周を被覆するように形成されてもよい。
【0053】
さらに他の実施形態では、図6に示すように、材料の異なる複数の円環状の板状体から成る超音波抑制材10c1,10c2を組み合わせた超音波抑制材10cであってもよい。異なる材料としては、例えば、一方の超音波抑制材10c1と他方の超音波抑制材10c2とが、前述の超音波を吸収する材料で、吸収特性の異なる材料を電磁波強度および周波数の特性に応じて選択的に用いるようにしてもよく、超音波を吸収する材料によって形成されている超音波抑制材10c1と、超音波を反射する材料によって形成された超音波抑制材10c2との組合わせによって構成されてもよい。
【0054】
さらに他の実施形態の超音波抑制材として、前述の超音波抑制材10,10a,10b,10cのうちの1種または複数種を、アンテナ3aの一部だけに選択的に設置されてもよい。
【0055】
次に、HIFU実験機21による実験例について述べる。本件発明者は、超音波抑制材による電磁波の抑制効果を確認するため、前述のHIFU実験機21を用いて以下の実験を実施した。
【0056】
(超音波の照射条件)
使用したHIFUトランスデューサの幾何学的集束点距離は、100mmである。アンテナ3aは、外径45mm、内径35mm、中心がHIFUの集束点から5mm離れた位置に設置した。また、アンテナ3aとHIFUトランスデューサ23の振動子面が平行になるように設置した。タンク22内の媒質は、導電率が0.07μS/cm未満のイオン交換水を使用した。使用した媒質(水)は、デガッサ(脱気装置)を使用して、溶存酸素量が3mg/L以下の脱気水とした。
【0057】
(超音波抑制材)
実験で使用する超音波抑制材として、超音波を吸収する効果があるポリウレタン樹脂、超音波を反射する効果がある発泡ポリプロピレン(空隙率20%)の2種類を使用した。超音波抑制材の形状寸法は、いずれも外径45mm、内径35mm、厚さ3mmである。超音波抑制材をアンテナに密着させて設置し、HIFUトランスデューサ23側に平行に設置した。アンテナ3aは、その中心位置がHIFUトランスデューサ23の焦点位置から5mm離して設置した。
【0058】
(実験結果)
図7は超音波抑制材の材料とアンテナの出力との関係を確認した実験結果を示すグラフである。タンク22内にアンテナ3aのみを設置して、照射対象部位にサンプルを設置していない状態で、HIFUトランスデューサ23から超音波を照射し、使用する超音波抑制材10の条件を、(1)装着しない場合、(2)ポリウレタン樹脂、(3)発泡ポリプロピレンとし、アンテナ3aが検知するアンテナ電圧を計測した。使用した超音波抑制材は、図3と同一の超音波抑制材10を使用した。
【0059】
その結果、アンテナ電圧は、超音波抑制材を(1)装着しない場合、(2)ポリウレタン樹脂、(3)発泡ポリプロピレンの順に低下した。この結果から、超音波抑制材10を超音波の入射方向、すなわち超音波照射部2側に設置すると、アンテナ3aに入射する不要な電磁波が減少し、骨などの超音波照射部位から発生する電磁波の強度を、より正確に測定できることが確認された。
【0060】
本開示に係る実施形態おいて使用可能なアンテナ3aは、ループアンテナまたはダイポールアンテナである。一般的に、ループアンテナは、銅線をコイル状に巻いた形状である。一方、ダイポールアンテナは、ケーブルの先に2本の直線状の導線を左右方向に伸ばしたアンテナである。これらの大きさは、測定部3の形状寸法に合わせるが、身体に使用する場合、ループアンテナにおいて直径10mmから150mm程度、ダイポールアンテナにおいて、長さ10mmから150mm程度である。また、アンテナ3aと超音波抑制材10との距離は、接触状態から離れた状態において、10mm程度であってもよい。
【0061】
以上、本開示の実施形態について詳細に説明したが、また、本開示は上述の実施の形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲内において、種々の変更、改良等が可能である。上記各実施形態をそれぞれ構成する全部または一部を、適宜、矛盾しない範囲で組み合わせ可能であることは、言うまでもない。
【符号の説明】
【0062】
1 患部
2 超音波照射部
3 測定部
4 第1導波体
5 第2導波体
6 HIFUトランスデューサ
7 筐体
8 駆動装置
9 治療用支持台
10,10a,10b,10c 超音波抑制材
13 制御装置
14 超音波診断装置
15 純水供給装置
16 制御装置
17 システムコントローラ
18 入力装置
19 画像表示装置
m 収束点
L 軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7