(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-11
(45)【発行日】2024-06-19
(54)【発明の名称】タイヤ成形方法
(51)【国際特許分類】
B29D 30/48 20060101AFI20240612BHJP
B29D 30/32 20060101ALI20240612BHJP
【FI】
B29D30/48
B29D30/32
(21)【出願番号】P 2020144347
(22)【出願日】2020-08-28
【審査請求日】2023-06-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【氏名又は名称】前堀 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100184343
【氏名又は名称】川崎 茂雄
(72)【発明者】
【氏名】中西 淳志
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-062649(JP,A)
【文献】特開2001-138720(JP,A)
【文献】特開平10-217722(JP,A)
【文献】特開2004-123049(JP,A)
【文献】特開2000-198329(JP,A)
【文献】特開2015-077738(JP,A)
【文献】特開平08-197638(JP,A)
【文献】特開平09-315113(JP,A)
【文献】特開2005-194398(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29D 30/48
B29D 30/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リング状のビードコアと、該ビードコアのタイヤ径方向外側の外端部から径方向外側に向かって断面を減少させながら延在するビードフィラーと、該ビードフィラーの側面に貼付けられた補強部材と、をそれぞれ備える一対のビード部材を準備し、ここで、前記ビードフィラーは、該ビードフィラーのタイヤ径方向内側の内端部の幅よりも幅が狭く、3.0mm以下の幅で形成された狭幅部を備え、該狭幅部のタイヤ径方向高さが30mm以上である薄高ビードフィラーで構成されており、
円筒状の成形ドラムにカーカスプライを巻き付け、
前記カーカスプライの径方向外側かつ軸方向両端部に、前記一対のビード部材を組付け、
前記ビードフィラーを前記成形ドラムの幅方向内側に押し曲げて、前記カーカスプライの外表面に沿うようにステッチングし、
前記カーカスプライの幅方向外側の部分を前記カーカスプライの幅方向内側に折り返し、
前記ビード部材は、前記カーカスプライに組付けられる前に、
帯状態の前記薄高ビードフィラーに帯状態の前記補強部材を貼付けて、帯状態の補強フィラーを成形し、前記補強フィラーをリング状の前記ビードコアの外周に巻き付けることによって成形されるタイヤ成形方法。
【請求項2】
前記補強部材は、前記ステッチング後かつ前記折り返し前に、前記ビードフィラーから剥離される請求項1に記載のタイヤ成形方法。
【請求項3】
前
記補強部材の接着強度は、3.0N以上5.0N以下で設定されている請求項2に記載のタイヤ成形方法。
【請求項4】
前記補強フィラーのタイヤ径方向外側の先端部の自重によるタイヤ幅方向への倒れ量が、以下を満足する請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のタイヤ成形方法。
0.0≦B/A≦0.3
A:補強フィラーのタイヤ径方向高さ
B:補強フィラーの先端部のタイヤ幅方向への倒れ量
【請求項5】
前記補強部材は、一定のタイヤ径方向寸法と一定の厚さを有する請求項1から請求項4に記載のいずれか1項に記載のタイヤ成形方法。
【請求項6】
前記補強部材は、前記ビードフィラーのタイヤ幅方向外側の側面のタイヤ径方向における50%以上の領域に貼り付けられている請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のタイヤ成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グリーンタイヤは以下のように成形する。カーカスプライを第1成形ドラムに巻き付けてカーカスバンドを成形し、カーカスバンドの軸方向の両端部に一対のビード部材を組付ける。次いで、カーカスバンドにおける一対のビード部材が組付けられた部分よりも軸方向外側の部分を、ビード部材を包み込むように折り返す。一方で、ベルト、トレッドゴム等を第2成形ドラムに巻き付けてトレッドバンドを成形する。
【0003】
次いで、カーカスバンド及びトレッドバンドを外周から把持した状態で第1及び第2成形ドラムからそれぞれ離脱させ、各移送手段によってカーカスバンドの外径側にトレッドバンドが位置するように第3成形ドラムに移送する。そして、第3成形ドラムでは、カーカスバンドを径方向外側に膨出させてトレッドバンドの内周部に結合させることによって、グリーンタイヤが成形される。
【0004】
ビード部材は、スチールワイヤからなるリング状のビードコアと、該ビードコアからタイヤ径方向外側に延在する断面三角形のゴム材からなるビードフィラーとを備える。ビードフィラーは、ビードコアに予め貼付けられた状態でカーカスバンドに組付けられる。
【0005】
特許文献1には、空気入りタイヤの重量増加を抑制しながらタイヤサイド部の剛性を確保するための薄高ビードフィラーが開示されている。薄高ビードフィラーは、タイヤ幅方向厚さがビードコアよりも狭い狭幅部(例えば、タイヤ幅方向厚さが3.0mm以下)を有し、該狭幅部のタイヤ径方向高さが所定値(例えば、30mm)以上に設定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
薄高ビードフィラーは、加硫前の段階では剛性が低く、ビードコアに貼付ける準備工程やカーカスバンドに組付けられるビード組付け工程において、タイヤ軸線方向に倒れ変形しやすい。この倒れ変形は、空気入りタイヤのタイヤサイド部に空気溜を発生させる場合がある。
【0008】
本発明は、薄高ビードフィラーの倒れ変形に起因するタイヤサイド部の空気溜を防止するタイヤ成形方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、リング状のビードコアと、該ビードコアのタイヤ径方向外側の外端部から径方向外側に向かって断面を減少させながら延在するビードフィラーと、該ビードフィラーの側面に貼付けられた補強部材と、をそれぞれ備える一対のビード部材を準備し、ここで、前記ビードフィラーは、該ビードフィラーのタイヤ径方向内側の内端部の幅よりも幅が狭く、3.0mm以下の幅で形成された狭幅部を備え、該狭幅部のタイヤ径方向高さが30mm以上である薄高ビードフィラーで構成されており、円筒状の成形ドラムにカーカスプライを巻き付け、前記カーカスプライの径方向外側かつ軸方向両端部に、前記一対のビード部材を組付け、前記ビードフィラーを前記成形ドラムの幅方向内側に押し曲げて、前記カーカスプライの外表面に沿うようにステッチングし、前記カーカスプライの幅方向外側の部分を前記カーカスプライの幅方向内側に折り返し、前記ビード部材は、前記カーカスプライに組付けられる前に、
帯状態の前記薄高ビードフィラーに帯状態の前記補強部材を貼付けて、帯状態の補強フィラーを成形し、前記補強フィラーをリング状の前記ビードコアの外周に巻き付けることによって成形されるタイヤ成形方法を提供する。
【0010】
なお、成形ドラムの軸方向と、成形ドラムの径方向とは、それぞれ、タイヤ幅方向と、タイヤ径方向とに一致する。
【0011】
この構成によれば、ビードコアの外周に巻き付けられていない帯状態の薄高ビードフィラーに、補強部材を貼付けて補強フィラーを成形することで、薄高ビードフィラーの剛性が確保される。これにより、リング状のビードコアに帯状態の補強フィラーを巻き付けるビード成形時、及び、ビード部材をカーカスバンドに組み付けるビード組付け時のビードフィラーのカーカスバンドの幅方向内側への倒れ変形が抑制できる。その結果、ビードフィラーの倒れ変形に起因した空気溜が回避されやすい。
【0012】
前記補強部材は、前記ステッチング後かつ前記折り返し前に、前記ビードフィラーから剥離されてもよい。
【0013】
この構成によれば、ビードフィラーのタイヤ幅方向外側の面に補強部材を備えない空気入りタイヤにおいても薄高ビードフィラーを適用することができる。
【0014】
前記補強部材の接着強度は、3.0N以上5.0N以下で設定されてもよい。
【0015】
なお、ここでいう接着強度とは、単位面積当たりのビードフィラーから補強部材を剥がすのに要する力を指し、これが大きいと接着性に優れる。
【0016】
この構成によれば、補強部材は、3.0N以上の接着強度を備えているので、ビードフィラーに対する接着強度が確保されている。また、補強部材は、5.0N以下の接着強度を備えているので、ステッチング後にビードフィラーから剥離しやすい。
【0017】
前記補強フィラーのタイヤ径方向外側の先端部の自重によるタイヤ幅方向への倒れ量が、以下を満足するように設定されてもよい。
0.0≦B/A≦0.3
A:補強フィラーのタイヤ径方向高さ
B:補強フィラーの先端部のタイヤ幅方向への倒れ量
【0018】
この構成により、ビード成形時、及び、ビード組付け時のビードフィラーのタイヤ幅方向への倒れ変形を抑制しながら、ステッチング時に補強フィラーをカーカスプライの外表面に沿わせやすい。B/Aが0よりも小さい場合、曲げ剛性が過度に高まり、ステッチング時に補強フィラーをカーカスプライの外表面に沿わせ難い。一方、B/Aが0.3よりも大きい場合、補強フィラーの曲げ剛性が低すぎるためにタイヤ幅方向への倒れ変形が抑制されにくい。
【0019】
前記補強部材は、一定のタイヤ径方向寸法と一定の厚さで形成されていてもよい。
【0020】
この構成により、ビードフィラーのタイヤ周方向において補強部材が均一に配置されるので、ステッチング時に補強部材の有無および厚みの変化によって生じ得るビードフィラーの貼付け斑を抑制できる。
【0021】
前記補強部材は、前記ビードフィラーのタイヤ幅方向外側の側面のタイヤ径方向における50%以上の領域に貼付けられてもよい。
【0022】
この構成により、ビードフィラーのタイヤ径方向における貼付け斑が抑制される。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係るタイヤ成形方法によれば、薄高ビードフィラーの倒れ変形に起因するタイヤサイド部の空気溜を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明に係る薄高ビードフィラーを備えた空気入りタイヤの子午線断面図。
【
図3A】帯状態のビードフィラーに帯状態の補強部材を貼付けて補強フィラーを成形する工程を示す模式図。
【
図3B】帯状態の補強フィラーをリング状のビードに貼付けてビード部材を成形する工程の図。
【
図4】補強フィラーのタイヤ軸方向への倒れ変形を説明するための説明図。
【
図5A】グリーンタイヤの成形工程におけるビード組付け工程の模式図。
【
図5B】グリーンタイヤの成形工程におけるステッチング工程の模式図。
【
図5C】グリーンタイヤの成形工程におけるターンアップ工程の模式図。
【
図6】補強部材の第1変形例を示し、グリーンタイヤの成形工程におけるステッチング後に剥離補部材を剥離する工程の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係る実施形態を添付図面に従って説明する。なお、以下の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物、あるいは、その用途を制限することを意図するものではない。また、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは相違している。
【0026】
図1は、本発明の一実施形態のタイヤ成形方法によって成型される、リム組前の空気入りタイヤ1の子午線半断面図であり、タイヤ赤道線CLに対してタイヤ幅方向の一方側のみが示されている。空気入りタイヤ1は、トレッド部10と、トレッド部10のタイヤ幅方向の両端部からタイヤ径方向内側に延びる一対のサイドウォール部20と、一対のサイドウォール部20それぞれのタイヤ径方向内側の端部に位置する一対のビード部30とを備える。
【0027】
一対のビード部30の間には、トレッド部10及びサイドウォール部20のタイヤ内面側にわたってカーカスプライ4が掛け渡されている。トレッド部10とカーカスプライ4との間には、複数層のベルト層7及びベルト補強層8がタイヤ径方向内側から順にタイヤ周方向に巻き付けられている。カーカスプライ4のタイヤ内面側には、インナーライナー3が配置されている。
【0028】
ビード部30の周囲には、チェーファー層5が配置されている。チェーファー層5は、カーカスプライ4の外面側(ビード部30とは反対側)に隣接して配置されており、カーカスプライ4と共に、ビード部30の周囲においてタイヤ幅方向内側から外側へ折り返されてタイヤ径方向の外径側へ巻き上げられている。
【0029】
ビード部30は、ビードコア31と、これに連接されてタイヤ径方向外側に延びるビードフィラー32とを有するビード部材30Aを備えている。ビードコア31は、複数本のビードワイヤを束ねてリング状に構成したものである。ビードフィラー32は、断面三角形状に形成されたゴム材料であり、ビードコア31のタイヤ径方向外側の外端面31aに沿ってリング状に貼付けられている。
【0030】
図2に示すように、ビードフィラー32は、ビードコア31に貼り付けられた基端部(内端部)32aから先端部32bに向かって、タイヤ幅方向の厚さが減少している。ビードフィラー32の内端部32aの幅W1は、ビードコア31の幅と同等に設定されている。ビードフィラー32は、タイヤ幅方向における幅が、3.0mm以下で形成された狭幅部32cを備えている。狭幅部32cは、タイヤ径方向高さH1が30mm以上である。換言すると、ビードフィラー32は、いわゆる薄高ビードフィラーが採用されている。
【0031】
ビードフィラー32は、狭幅部32cを備えると共に、ビードフィラー32のタイヤ径方向高さH2が50mm以上で形成されてもよい。ビードフィラー32のタイヤ径方向高さH2は、タイヤ断面高さH0の30%以上65%で設定されていてもよい(
図1参照)。ここで、タイヤ断面高さH0は、タイヤの断面呼び幅に扁平率を乗じて算出される。
【0032】
また、ビード部材30Aには、タイヤ幅方向の外側面、すなわち巻き上げられたカーカスプライ4とビードフィラー32との間に補強部材40が配置されている。補強部材40は、スチール製の補強コードがゴム被覆されたものである。
【0033】
次に、実施形態に係る薄高ビードフィラーを備えた空気入りタイヤ1のタイヤ成形方法について、
図3A~
図5を参照しながら説明する。
図3Aは、補強フィラー33を成形する工程を示す模式図である。
図3Bは、ビード部材30Aを成形する工程を示す模式図である。
図4は、補強フィラー33の自重によるタイヤ幅方向内側への倒れ変形の説明図である。
図5A~
図5Cは、グリーンタイヤの成形工程を示す成形ドラム50の半断面図である。
【0034】
ビード部材30Aを成形する工程では、
図3Aに示すように、帯状態のビードフィラー32のタイヤ幅方向外側に配置される側面32d(
図2参照)に、帯状態の補強部材40を貼付けて、補強フィラー33を成形する。前述のように、補強部材40は、スチール製の補強コードを含むため、ゴム材で形成された未加硫のビードフィラー32に比して剛性が高い。ビードフィラー32に補強部材40を貼付けることによって、ビードフィラー32が補強された補強フィラー33が得られる。
【0035】
図4に示すように、補強部材40のタイヤ径方向に延びる幅H3は一定の幅で形成されていると共に、タイヤ幅方向の厚さtも一定の厚さで形成されている。補強部材40は、ビードフィラー32のタイヤ幅方向外側の側面32dのタイヤ径方向における50%以上の領域に貼付けられる幅を有する。本実施形態においては、補強部材40の幅H3は、加硫成型前のビードフィラー32のタイヤ幅方向外側の側面32dと略同じ寸法になるように設定されている。換言すると、補強部材40は、ビードフィラー32のタイヤ幅方向外側の側面32dの略全面に貼付けられている。補強部材40は、帯状態でビードフィラー32に貼付けられるので、帯状態のビードフィラー32の長さに合わせて所定の長さにカットする。
【0036】
次に、
図3Bに示すように、ビード部材30Aを成形する工程では、帯状態の補強フィラー33の先端部33aをタイヤ径方向外側に延ばした状態で、リング状のビードコア31の外周面に貼り付ける。補強フィラー33は、補強部材40によって剛性が高められているので、タイヤ幅方向内側への倒れ変形を抑制しつつ貼り付けやすい。
【0037】
より詳しくは、前述のように、ビードフィラー32は、ゴム材で形成されているので、未加硫の状態では剛性が低い。さらに、ビードフィラー32は、薄高ビードフィラーで構成されているので、
図4の仮想線で示すように、ビードフィラー32をタイヤ径方向に伸ばした状態では、タイヤ径方向に延びる線分L1に対してタイヤ幅方向内側に倒れ変形する場合がある。
【0038】
これに対して、
図4に示すように、補強部材40が貼付けられて剛性が高められた補強フィラー33は、補強フィラー33をタイヤ径方向に伸ばした状態における先端部33aのタイヤ径方向に延びる線分L1に対する自重によるタイヤ幅方向への倒れ量(変位量)Bが、以下を満足するように設定されている。
【0039】
【数1】
A:補強フィラー33のタイヤ径方向高さA
B:補強フィラー33の先端部33aのタイヤ幅方向への倒れ量
【0040】
これにより、B/Aが0未満である場合、後述するグリーンタイヤの成形工程における補強フィラー33のステッチングの際に補強フィラー33をカーカスプライ4に沿って変形させ難く、カーカスプライ4と補強フィラー33との間に空気溜が生じ得る。B/Aが0.3より大きい場合、補強フィラー33の自重による倒れ変形によって、カーカスプライ4に沿って貼り付けにくく皺が発生する場合があり、サイド部20との間に空気溜が生じる。例えば、補強フィラー33の径方向高さAが50mmである場合は、変位量Bは15mm以下に設定されてもよい。
【0041】
なお、補強フィラー33の径方向高さA及び補強フィラー33の先端部33aのタイヤ径方向に延びる線分L1に対するタイヤ幅方向内側への変位量Bは、加硫成型前、かつ、補強フィラー33がビードコア31に組付けられた後の状態における寸法である。
【0042】
また、補強部材40の曲げ剛性は、例えば、カーカスプライ4の曲げ剛性の80%~150%に設定されてもよい。補強部材40の曲げ剛性がカーカスプライ4の曲げ剛性の80%以上に設定されているので、ビード部材30Aの成形時及びビード部材30Aの組付け時におけるビードフィラー32のタイヤ幅方向内側への倒れ変形を抑制できる。一方、補強部材40の曲げ剛性がカーカスプライ4の曲げ剛性の150%以下に設定されているので、後述のステッチング時にビードフィラー32をカーカスプライ4の外表面に沿わせるための変形を阻害しない。
【0043】
図5Aに示すように、成形ドラム50は、ドラム軸X方向(タイヤ幅方向と同じ)に三分割されており、中央部に位置する中央ドラム52と、その両側に位置する端部ドラム54,54とが、各々独立して拡縮可能に構成されている。端部ドラム54には、ターンアップブラダー56が設けられている。
【0044】
グリーンタイヤの成形工程においては、まず、成形ドラム50の外周に、未加硫のインナーライナー層(不図示)を巻き付け、次いで、その外周に未加硫のカーカスプライ4を円筒状に巻き付ける。
【0045】
次いで、巻き付けたカーカスプライ4の外周面における幅方向両端部に、一対のビード部材30Aを載置する。ビード部材30Aを組付ける際には、
図5Aに示されるように、端部ドラム54は中央ドラム52に対して縮径されており、したがって、中央ドラム52の外周面と端部ドラム54の外周面との間には段差が形成されている。ビード部材30Aは、この段差部の外側に沿わせて組付けられる。
【0046】
本実施形態では、前述のように補強部材40は、この段階で、ビードフィラー32のドラム軸方向両側の側面にそれぞれ全周にわたって貼付けられているので、ビード部材30A組付け時にビードフィラー32がドラム軸方向Xに倒れ変形することが抑制される。その結果、補強フィラー33の倒れ変形による空気溜が抑制される。
【0047】
次いで、
図5Bに示すように、ステッチャーローラ等の不図示の押圧部材を用いて、補強フィラー33を、カーカスプライ4の外周面に沿わせるようにドラム軸方向内側に押し曲げる。詳細には、中央ドラム52の両端の湾曲面に沿って配されたカーカスプライ4に対して補強フィラー33を押し付けて、補強フィラー33の先端33a側をドラム軸方向内側に湾曲状に曲げる。このとき、補強フィラー33は、ビードフィラー32よりも成形ドラム50の径方向外側に位置する。前述のように、補強部材40は、一定の厚さtを有すると共に、ビードフィラー32の全面に貼付けられている。これにより、ステッチング時に補強部材40の有無および厚さtの変化によって補強フィラー33をカーカスプライ4に沿わせて変形させる場合の貼付け斑を抑制できる。
【0048】
その後、
図5Cに示すように、ビード部材30Aをそれぞれ包み込むように、カーカスプライ4の両側の側部部分4Bをドラム軸方向内側に折り返す(即ち、ターンアップする)。この例では、端部ドラム54に設けられたターンアップブラダー56の内部に気体が充填されることで、ターンアップブラダー56が膨張し、これにより、カーカスプライ4の側部部分4Bが、ドラム周方向の全周にわたって同時にドラム軸方向Xの内側に折り返され、ビード部材30Aがカーカスプライ4に包まれる。ここで、カーカスプライ4の側部4Bとは、カーカスプライ4のうち、ビード部材30Aが載置された位置よりもドラム軸方向Xの外側に位置する部分である。
【0049】
ターンアップ後の工程は従来の製造方法と同様であり、例えば、サイドウォール部20となる未加硫のサイドウォールゴムが所定位置に配設しカーカスバンドを成形する。一方で、ベルト、トレッドゴム等を第2の成形ドラムに巻き付けてトレッドバンドを成形する。次いで、カーカスバンド及びトレッドバンドを外周から把持した状態で第1及び第2成形ドラムからそれぞれ離脱させ、各移送手段によってカーカスバンドの外径側にトレッドバンドが位置するように第3の成形ドラムに移送する。そして、第3成形ドラムでは、カーカスバンドを径方向外側に膨出させてトレッドバンドの内周面に結合させることによって、グリーンタイヤが成形される。得られたグリーンタイヤを、加硫モールドに入缶し、加硫成型することにより空気入りタイヤが得られる。
【0050】
以上説明したタイヤ成形方法によれば、以下の効果を奏する。
【0051】
ビードコア31の外周に巻き付けられる前の帯状態の薄高ビードフィラー32に、補強部材40を貼付けて補強フィラー33を成形することで、薄高ビードフィラー32の剛性が確保される。これにより、リング状のビードコア31に帯状態の補強フィラー33を貼り付けるビード成形時、及び、ビード部材30Aをカーカスプライ4に組み付けるビード組付け時のビードフィラー32のタイヤ幅方向(ドラム幅方向)内側への倒れ変形が抑制できる。その結果、ビードフィラー32の倒れ変形に起因した空気溜が回避されやすい。
【0052】
前述のように、補強フィラー33の径方向外側の先端部33aの径方向に延びる線分L1に対する自重によるタイヤ幅方向への倒れ量が、以下を満足する。
0.0≦B/A≦0.3
A:補強フィラー33のタイヤ径方向高さ
B:補強フィラー33の先端部33aのタイヤ幅方向への倒れ量
【0053】
この構成により、ビード成形時、及び、ビード組付け時のビードフィラー32の幅方向内側への倒れ変形を抑制しながら、ステッチング時に補強フィラー33をカーカスプライ4の外表面に沿わせやすい。B/Aが0よりも小さい場合、曲げ剛性が角に高いためにステッチング時に補強フィラー33をカーカスプライ4の外表面に沿わせ難い。一方、B/Aが0.3よりも大きい場合、補強フィラー33の曲げ剛性が低すぎるためにタイヤ幅方向への倒れ変形が抑制されにくい。
【0054】
また、補強部材40は、一定の厚さtで形成されているので、ステッチング時に補強部材40の有無および厚みtの変化によって生じ得る補強フィラー33のカーカスプライ4への貼付け斑を抑制できる。
【0055】
また、補強部材40の幅W3は、ビードフィラー32のタイヤ幅方向外側の側面32dの長さと略同じになるように設定されているので、タイヤ径方向においても補強フィラー33のカーカスプライ4への貼付け斑を抑制できる。また、ビードフィラー32のタイヤ周方向長さごとに補強部材40を準備する必要がない。
【0056】
なお、本発明は、上記実施形態に記載された構成に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。
【0057】
空気入りタイヤが補強部材40を備える構成について説明したが、薄高ビードフィラーを採用しつつ、補強部材40を備えない空気入りタイヤに適用されてもよい。この場合、
図6に示すように、補強部材40は、ステッチング後かつターンアップ前に、ビードフィラー32から剥離される剥離補強部材140で構成される。
【0058】
この構成によれば、
図1の空気入りタイヤ1のビードフィラー32のタイヤ幅方向外側の面に補強部材40を備えない空気入りタイヤ(図示せず)においても薄高ビードフィラーを適用することができる。
【0059】
剥離補強部材140の接着強度は、3.0N以上5.0N以下で設定されている。ここで、接着強度とは、本実施形態では、4000mm2当たりにおいて、剥離補強部材140をビードフィラー32から剥離させるのに要する荷重を指し、これが大きいと接着性に優れる。剥離補強部材140の接着強度は、カーカスプライ4の接着強度の50%以上90%以下に設定されてもよい。
【0060】
この構成によれば、3.0N以上のタック性によって剥離補強部材140のビードフィラー32に対する接着強度が確保され、5.0N以下のタック性によってビードフィラー32から剥離できる。
【0061】
また、本実施形態においては、補強部材40がビードフィラー32のタイヤ外側の側面32dの全面に貼付けられる構成について説明したが、これに限られない。補強部材40は、
図7に示すように、少なくともビードフィラー32の狭幅部32cに貼付けられてもよい。これにより、狭幅部32cの剛性が高められて、ビードフィラー32の倒れ変形を抑制できる。また、必要な部位のみに補強部材40を配置するので、空気入りタイヤ1の重量の増大も抑制できる。
【0062】
また、本実施形態においては、ビードフィラー32の形状は、断面三角形で形成される構成を説明したが、これに限られない。ビードフィラー332は、
図8に示すように、ビードコア31に連接し略三角の断面形状を有する三角部332aと、該三角部332aの径方向外側からさらにタイヤ径方向外側に延在しつつ、タイヤ径方向外側に向かって幅が狭くなる狭幅部332bとを備える構成であってもよい。この場合、補強部材340は、ビードフィラー332のタイヤ幅方向外側に位置する面全体に貼り付けられてもよいし、狭幅部332bにのみ貼り付けられていてもよい。
【0063】
また、本実施形態においては、カーカスプライを折り返した後にカーカスプライを膨出させるタイヤ成形方法について説明したが、カーカスプライを一対のビード部材のタイヤ幅方向内側に位置する部分をタイヤ径方向外側へ膨出させてケース本体を成形した後に、カーカスプライのうち一対のビード部材のタイヤ幅方向外側に位置する両側部を一対のビード部材の周りにタイヤ幅方向内側に折り返してケース本体の側部に貼り付けるタイヤ成形方法にも適用できる。この場合に、剥離補強部材140は、カーカスプライを膨出させた後であって、ターンアップする前に、剥離される。
【符号の説明】
【0064】
4 カーカスプライ
30A ビード部材
31 ビードコア
31a 外端部
32ビードフィラー
32a 内端部
32c 狭幅部
33a 補強フィラーの先端部
40 補強部材
50 成形ドラム
140 剥離補強部材
A 補強フィラーのタイヤ径方向高さ
B 変位量
H3 補強部材の幅
t 補強部材の厚さ
W1 幅