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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-12
(45)【発行日】2024-06-20
(54)【発明の名称】送液ポンプ及び送液方法
(51)【国際特許分類】
   F04B 49/06 20060101AFI20240613BHJP
   F04B 23/06 20060101ALI20240613BHJP
   G01N 30/32 20060101ALI20240613BHJP
【FI】
F04B49/06 311
F04B23/06
G01N30/32 C
G01N30/32 A
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020192248
(22)【出願日】2020-11-19
(65)【公開番号】P2022080997
(43)【公開日】2022-05-31
【審査請求日】2023-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塚田 修大
(72)【発明者】
【氏名】秋枝 大介
(72)【発明者】
【氏名】岩佐 翔
(72)【発明者】
【氏名】用田 祐介
(72)【発明者】
【氏名】橋本 雄一郎
【審査官】北村 一
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-053098(JP,A)
【文献】特開2009-013957(JP,A)
【文献】特許第6753532(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 49/00-51/00
F04B 9/00-15/08
F04B 23/00-23/14;53/00-53/22
G01N 30/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1プランジャを有する第1プランジャポンプと、
第2プランジャを有し、前記第1プランジャポンプと直列に接続された第2プランジャポンプと、
前記第2プランジャポンプの下流に配置された圧力センサと、
前記圧力センサが測定した液体の吐出圧力の入力を受け付け、前記第1プランジャの駆動及び前記第2プランジャの駆動を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記第1プランジャポンプにより前記液体を圧縮する際の前記第1プランジャの過去の圧縮距離と圧縮完了時の圧力とに基づいて、前記液体の圧力変化率を算出し、
前記圧力変化率と現在の吐出圧力とに基づいて、前記第1プランジャの圧縮距離を予測し、
前記予測した圧縮距離に基づいて、前記第1プランジャによる前記圧縮を完了するタイミングを決定することを特徴とする送液ポンプ。
【請求項2】
前記制御部は、
前記第1プランジャの変位が前記予測した圧縮距離より短い所定の距離を超える期間を、前記圧縮の完了を判定する期間とすることを特徴とする請求項1に記載の送液ポンプ。
【請求項3】
前記制御部は、
前記圧縮の完了を判定する期間において、前記吐出圧力の脈動が生じた場合に前記圧縮を停止することを特徴とする請求項2に記載の送液ポンプ。
【請求項4】
前記制御部は、
前記第1プランジャの変位が前記予測した圧縮距離となった場合に、前記圧縮を停止することを特徴とする請求項1に記載の送液ポンプ。
【請求項5】
前記制御部は、
流量が0のときに、前記第1プランジャの変位が前記予測した圧縮距離よりも短い所定の距離となった場合に前記圧縮を停止することを特徴とする請求項1に記載の送液ポンプ。
【請求項6】
前記制御部は、
前記流量が0となる前の前記第1プランジャの前記圧縮距離と前記圧縮完了時の圧力とに基づいて、前記圧力変化率を算出することを特徴とする請求項5に記載の送液ポンプ。
【請求項7】
前記制御部は、
前記現在の吐出圧力を前記圧縮の完了時の前記第1プランジャポンプ内の前記液体の圧力と推定して、前記圧縮距離を予測することを特徴とする請求項1に記載の送液ポンプ。
【請求項8】
前記制御部は、
前記圧縮の開始時の前記吐出圧力を前記現在の吐出圧力とすることを特徴とする請求項1に記載の送液ポンプ。
【請求項9】
前記制御部は、
前記圧縮の開始よりも前の前記吐出圧力を前記現在の吐出圧力とすることを特徴とする請求項1に記載の送液ポンプ。
【請求項10】
前記制御部は、
前記現在の吐出圧力の測定ごとに前記圧縮距離の前記予測を更新することを特徴とする請求項1に記載の送液ポンプ。
【請求項11】
前記制御部は、
前記圧縮が完了したと判定した後、前記第1プランジャを所定時間だけ停止することを特徴とする請求項1に記載の送液ポンプ。
【請求項12】
前記制御部は、
前記圧縮が完了したと判定した後、前記第1プランジャの速度を低下させて前記圧縮を継続することを特徴とする請求項1に記載の送液ポンプ。
【請求項13】
送液ポンプによる送液を制御する制御部により実行される送液方法であって、
前記送液ポンプは、
第1プランジャを有する第1プランジャポンプと、
第2プランジャを有し、前記第1プランジャポンプと直列に接続された第2プランジャポンプと、
前記第2プランジャポンプの下流に配置され、前記第2プランジャポンプの液体の吐出圧力を計測する圧力センサと、を有し、
前記制御部が、前記第1プランジャポンプにより前記液体を圧縮する際の前記第1プランジャの過去の圧縮距離と圧縮完了時の圧力とに基づいて、前記液体の圧力変化率を算出することと、
前記制御部が、前記圧力変化率と現在の吐出圧力とに基づいて、前記第1プランジャの圧縮距離を予測することと、
前記制御部が、前記予測した圧縮距離に基づいて、前記第1プランジャによる前記圧縮を完了するタイミングを決定することと、を含むことを特徴とする送液方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、送液ポンプ及び送液方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体クロマトグラフを用いた分析では、測定対象である試料の種類に応じて使用する溶媒が異なり、それぞれの分析の前に送液ポンプ内の溶媒を置換する必要がある。したがって、様々な種類の試料を対象として一定時間内で数多くの分析を実行するためには、溶媒の置換を短時間で行う必要がある。溶媒の置換を短時間で行うためには、ポンプ容積の低減が有効である。
【0003】
一般的に、液体クロマトグラフに用いられる送液ポンプは2台のプランジャポンプを直列に接続した構成を有する。上流側のプランジャポンプ(第1プランジャポンプ)が溶媒を吸引、圧縮、吐出する。第1プランジャポンプのみでは一定流量を送液することができないため、下流側にもう一台のプランジャポンプ(第2プランジャポンプ)が接続される。第2プランジャポンプは、第1プランジャポンプの脈流を打ち消す動作をする(第1プランジャポンプが溶媒を吸引、圧縮するときに、溶媒を吐出する)ことで、送液ポンプとしては一定の流量を送液することができる。
【0004】
第1プランジャポンプの動作における溶媒の圧縮は、吸引した溶媒の圧力を大気圧から、第2プランジャポンプが吐出している圧力(吐出圧力)まで上げる工程である。ここで、溶媒の圧力が吐出圧力とほぼ同じになったら圧縮の動作を終了する必要がある。吐出圧力を越えて圧縮動作を続ける(過圧縮)と、その区間は第1プランジャポンプと第2プランジャポンプがともに吐出することとなり、送液ポンプとしては流量が大きくなり、その分、吐出圧力が上昇する。また、圧縮が足らず吐出圧力に達せずに圧縮動作を終了する(圧縮不足)と、その後の工程で第1プランジャポンプと第2プランジャポンプがともに吐出せず送液されない瞬間が生じるため、その間は吐出圧力が低減する。流量が変動すると液体クロマトグラフとしての分析精度が悪化するだけでなく、それに伴う圧力の脈動によって、分離カラムに負荷がかかり消耗を早めることとなる。
【0005】
過圧縮若しくは圧縮不足を防ぐ技術として、特許文献1には、第1プランジャポンプ内の溶媒の圧力を測定する圧力センサと、第2プランジャポンプが吐出する溶媒の圧力を測定する圧力センサを設け、圧縮工程において、それぞれの圧力センサが測定する値を比較することで、第1プランジャポンプの動作を制御する送液ポンプが開示されている。
【0006】
特許文献2には、第1のプランジャポンプと第2のプランジャポンプが直列に接続され、第2のプランジャポンプの下流にのみ圧力センサが設けられた構成を有する送液ポンプが開示されている。
【0007】
特許文献3には、圧縮工程における圧縮体積と圧縮完了時の圧力(圧縮圧力)の履歴から流量を補正して制御する送液ポンプが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第5624825号
【文献】特開2008-291848号公報
【文献】国際公開第2019/082243号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1の送液ポンプにおいては、第1プランジャポンプと第2プランジャポンプのそれぞれに圧力センサが設けられているため、ポンプ容積が大きくなる。ポンプ容積を減らして溶媒の置換を短時間で行うためには、第1プランジャポンプ側に圧力センサを設けず、その分の容積を削減した方がよい。ただし、この場合、第2プランジャポンプ用の圧力センサのみを用いて第1プランジャポンプの動作を制御し、流量及び圧力の脈動の小さい送液を実現するという課題がある。
【0010】
特許文献2の送液ポンプにおいては、上述のように、第2プランジャポンプ側にのみ圧力センサが設けられており、ポンプ容積の増大は抑制されているといえる。しかしながら、特許文献2には、流量及び圧力の脈動の小さい送液を実現することについては何ら記載がない。
【0011】
また、特許文献3の送液ポンプにおいても、流量及び圧力の脈動の小さい送液を実現することについては何ら記載がない。
【0012】
そこで、本開示は、送液ポンプの容積を小さくし、かつ脈動の小さい送液を可能とする技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本開示の送液ポンプは、第1プランジャを有する第1プランジャポンプと、第2プランジャを有し、前記第1プランジャポンプと直列に接続された第2プランジャポンプと、前記第2プランジャポンプの下流に配置された圧力センサと、前記圧力センサが測定した液体の吐出圧力の入力を受け付け、前記第1プランジャの駆動及び前記第2プランジャの駆動を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記第1プランジャポンプにより前記液体を圧縮する際の前記第1プランジャの過去の圧縮距離と圧縮完了時の圧力とに基づいて、前記液体の圧力変化率を算出し、前記圧力変化率と現在の吐出圧力とに基づいて、前記第1プランジャの圧縮距離を予測し、前記予測した圧縮距離に基づいて、前記第1プランジャによる前記圧縮を完了するタイミングを決定する。
【0014】
本開示に関連する更なる特徴は、本明細書の記述、添付図面から明らかになるものである。また、本開示の態様は、要素及び多様な要素の組み合わせ及び以降の詳細な記述と添付される特許請求の範囲の様態により達成され実現される。本明細書の記述は典型的な例示に過ぎず、本開示の特許請求の範囲又は適用例を如何なる意味に於いても限定するものではない。
【発明の効果】
【0015】
本開示の送液ポンプによれば、容積が小さく、脈動の小さい送液が可能である。上記以外の課題、構成及び効果は、以下の実施の形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1の実施形態に係る送液ポンプを備える液体クロマトグラフの構成を示す模式図である。
図2】溶媒を通常送液する際の各プランジャの変位、溶媒の吐出流量及び吐出圧力を示すグラフである。
図3】第1プランジャの速度及び第2プランジャの速度の制御方法を説明するためのグラフである。
図4】第1の実施形態に係る第1プランジャの制御方法を説明するためのグラフである。
図5】圧縮完了時の第1プランジャの変位と圧力の関係を示すグラフである。
図6A】第1の実施形態に係る第1プランジャの制御方法を説明するためのグラフである。
図6B】第1の実施形態に係る第1プランジャの制御方法を説明するためのグラフである。
図7】第1の実施形態の変形例に係る第1プランジャの制御方法を説明するためのグラフである。
図8】第2の実施形態に係る第1プランジャの制御方法を説明するためのグラフである。
図9】第3の実施形態に係る送液ポンプを備える液体クロマトグラフの構成を示す模式図である。
図10】第3の実施形態に係る送液ポンプにおける流量変化を説明するためのグラフである。
図11】第3の実施形態に係る第1プランジャの制御方法を説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[第1の実施形態]
<送液ポンプ及び液体クロマトグラフの構成例>
図1は、第1の実施形態に係る送液ポンプ1を備える液体クロマトグラフ100の構成を示す模式図である。図1に示すように、液体クロマトグラフ100は、送液ポンプ1、試料を液体クロマトグラフ100に導入するためのインジェクタ2、分離カラム3、検出器4及び廃液容器5を備える。インジェクタ2、分離カラム3、検出器4及び廃液容器5については、液体クロマトグラフに一般に用いられるものを使用することができるので、本実施形態においてはそれらの詳細な構成について格別説明しない。
【0018】
送液ポンプ1は、コントローラ10(制御部)、圧力センサ110、第1プランジャポンプ101、第2プランジャポンプ102、連結流路103、第1電磁弁81、第2電磁弁82、モータドライバ210、パージバルブドライバ310、パージバルブ311、廃液タンク312及び電磁弁ドライバ410を有する。第1プランジャポンプ101と第2プランジャポンプ102は直列に接続されており、第1プランジャポンプ101が上流側に配置され、第2プランジャポンプ102が下流側に配置されている。
【0019】
圧力センサ110は、第2プランジャポンプ102の下流に設置されている。圧力センサ110は、第2プランジャポンプ102から吐出される溶媒(液体)の圧力(吐出圧力)を測定し、圧力値をコントローラ10へ出力する。
【0020】
詳細は後述するが、コントローラ10は、圧力センサ110が測定した吐出圧力とあらかじめ定めた動作シーケンスに基づき、モータドライバ210及び電磁弁ドライバ410に指令値を与えてこれらを動作させる。また、コントローラ10は、あらかじめ定めた動作シーケンスに基づき、パージバルブドライバ310に指令値を与えてこれを動作させる。
【0021】
第1プランジャポンプ101は、第1加圧室11、第1プランジャ21、第1吸引通路31、第1吐出通路41、第1逆止弁51、第2逆止弁52、第1シール61及び軸受71が形成された第1ポンプヘッド111を有する。第1逆止弁51は第1吸引通路31の流路上に配置されており、第2逆止弁52は第1吐出通路41の流路上に配置されており、これにより溶媒液の流通方向を制限している。第1プランジャ21(加圧部材)は、軸受71により第1プランジャポンプ101内を摺動可能に保持されている。第1シール61は、第1加圧室11からの液漏れを防止している。
【0022】
第2プランジャポンプ102は、第2加圧室12、第2プランジャ22、第2吸引通路32、第2吐出通路42、第2シール62及び軸受72が形成された第2ポンプヘッド112を有する。第2逆止弁52と第2吸引通路32は、連結流路103により連結されている。すなわち、第1プランジャポンプ101と第2プランジャポンプ102は直列に配置され、第1プランジャポンプ101が上流側に設置されている。第2プランジャ22(加圧部材)は、軸受72により第2プランジャポンプ102内を摺動可能に保持されている。第2シール62は、第2加圧室12からの液漏れを防止している。
【0023】
本明細書において「下限点」とは、プランジャが加圧室内を移動できる範囲において、最も下降した位置を示す。一方、「上限点」とは、プランジャが加圧室内を移動できる範囲において、最も上昇した位置を示す。また、プランジャの「上昇」とは、加圧室内の溶媒が圧縮もしくは吐出される方向の動き(図1における右向きの動き)を表し、プランジャの「下降」とは、加圧室内に溶媒が吸引される方向の動き(図1における左向きの動き)を表す。
【0024】
第1プランジャ21の往復運動は、第1電動モータ211、減速装置221及び直動装置231により制御される。より具体的には、モータドライバ210は、コントローラ10の指令値に基づいて第1電動モータ211に駆動電力を与えて回転させる。第1電動モータ211の回転は、減速装置221により減速され、直動装置231により直線運動に変換されて、第1プランジャ21が往復運動する。
【0025】
同様に、第2プランジャ22の往復運動は、第2電動モータ212、減速装置222及び直動装置232により制御される。より具体的には、モータドライバ210は、コントローラ10の指令値に基づいて第2電動モータ212に駆動電力を与えて回転させる。第2電動モータ212の回転は、減速装置222により減速され、直動装置232により直線運動に変換されて、第2プランジャ22が往復運動する。
【0026】
減速装置221及び直動装置231は、これらを組み合わせることによって第1電動モータ211の回転動力を増幅して直線運動力に変換することから、広義に動力伝達機構装置と呼ぶことができる。このことは減速装置222及び直動装置232についても同様である。
【0027】
減速装置221及び222の具体例としては、平歯車、プーリー、遊星歯車、ウォームギヤなどが挙げられる。減速装置221及び222を設ける主な理由は、第1及び第2電動モータ211及び212のトルクを増大させるためである。もし第1及び第2電動モータ211及び212が十分なトルクを発生する能力があるならば、必ずしも減速装置221及び222を設置する必要はない。直動装置231及び232の具体例としては、ボールねじ、カム、ラックピニオンなどが挙げられる。
【0028】
パージバルブドライバ310は、コントローラ10の指令値に基づいてパージバルブ311に駆動電力を与える。パージバルブ311は、第2プランジャポンプ102の下流に接続されている。パージバルブ311は、送液ポンプ1から吐出される溶媒が流れる方向を、インジェクタ2側もしくは廃液タンク312側のどちらかに切り替える。
【0029】
電磁弁ドライバ410は、コントローラ10の指令値に基づいて第1電磁弁81及び第2電磁弁82に駆動電力を与える。送液ポンプ1の外部には、第1溶媒511を収容する溶媒容器と、第2溶媒512を収容する溶媒容器が設置されており、第1電磁弁81及び第2電磁弁82の開閉、第1プランジャポンプ101及び第2プランジャポンプ102(第1プランジャ21及び第2プランジャ22)の駆動により、第1溶媒511又は第2溶媒512を送液ポンプ1へ送液することができる。
【0030】
第1プランジャポンプ101が溶媒を吸引するとき、第1電磁弁81及び第2電磁弁82のうちどちらか一方が開いた状態で他の一方は閉じた状態となり、第1溶媒511及び第2溶媒512のどちらか一方が吸引される。吸引された溶媒は合流部90、第1逆止弁51及び第1吸引通路31を通過して第1加圧室11に吸引される。第1加圧室11内に吸引された溶媒は、第1プランジャ21の上昇に伴って圧縮される。
【0031】
溶媒が圧縮されることで第1加圧室11内部の圧力が第2加圧室12内部の圧力より大きくなると、溶媒は第1吐出通路41、第2逆止弁52、連結流路103及び第2吸引通路32を通過して第2加圧室12に流入し、第2吐出通路42から吐出される。
【0032】
送液ポンプ1から吐出された溶媒には、インジェクタ2によって、分析対象である試料が注入される。試料が注入された溶媒は分離カラム3に導入されて成分ごとに分離され、その後、検出器4により、試料成分に応じた吸光度、蛍光強度、屈折率などが検出される。分離カラム3には微小粒子が充填されており、溶媒が微小粒子の隙間を流れる際の流体抵抗によって、送液ポンプ1には数十メガパスカルから百メガパスカル超の負荷圧力が発生する。この負荷圧力の大きさは、分離カラム3の径と通過流量に応じて異なる。
【0033】
第1溶媒511を用いる分析から第2溶媒512を用いた分析に切り替える際には、第2溶媒512を用いる分析の前に、第1電磁弁81を開いた状態から閉じた状態に切り替え、その後、第2電磁弁82を閉じた状態から開いた状態に切り替える。これにより、送液ポンプ1の内部(第1逆止弁51、第1吸引通路31、第1加圧室11、第1吐出通路41、第2逆止弁52、連結流路103、第2吸引通路32、第2加圧室12、第2吐出通路42、圧力センサ110、パージバルブ311、及びそれらを連結する配管)と、インジェクタ2、分離カラム3、検出器4及びそれらを連結する配管の内部が、第1溶媒511から第2溶媒512に置換される。このとき、溶媒の置換にかかる時間を短くすることで、一定時間内に行える分析の数を多くすることができる。
【0034】
<送液方法>
本実施形態の送液ポンプ1を用いて溶媒を通常送液する際の送液方法の概略を説明する。ここで、「通常送液」とは、送液ポンプ1から吐出する溶媒をインジェクタ2、分離カラム3及び検出器4へ流し、試料を分析する場合の送液方法である。なお、試料を分析しない場合(溶媒を廃液タンク312に送液する場合)も同様の動作となるため、説明を省略する。
【0035】
図2は、送液ポンプ1により溶媒を通常送液する際の各プランジャの変位、溶媒の吐出流量及び吐出圧力を示すグラフである。図2に示される4つのグラフは、いずれも横軸は時間を示し、縦軸は、上から順に、第1プランジャ21の変位、第2プランジャ22の変位、溶媒の吐出流量、溶媒の吐出圧力を示す。ここで、吐出流量は送液ポンプ1から吐出される流量であり、吐出圧力は圧力センサ110によって検出される圧力である。第1プランジャ21の変位及び第2プランジャ22の変位は、上昇方向(図1の右方向)を正方向とし、下降方向(図1の左方向)を負方向とする。吐出流量は吐出を正とし、吸引を負とする。
【0036】
通常送液において、第1プランジャ21及び第2プランジャ22はともに下限点を基準として動作する。
【0037】
通常送液において、第1プランジャポンプ101及び第2プランジャポンプ102はともに周期的な動作をする。図2においては、4周期分が示されている。1つの送液周期の中で、第1プランジャ21が下降して溶媒を吸引する区間a及び第1プランジャ21が上昇して溶媒を圧縮する区間bでは、第1加圧室11からは溶媒は吐出されないので、第2プランジャ22が上昇して溶媒を吐出する。詳細は後述するが、区間bには、第1プランジャ21が上昇する区間b1と、その後に停止する区間b2がある。区間bの後、第2プランジャ22が下降して溶媒を吸引する区間cでは、第1プランジャ21が上昇して第2プランジャ22の吸引分とポンプ下流に吐出する分の溶媒を吐出する。その後、区間dでは、第1プランジャ21が上昇して溶媒を吐出し、第2プランジャ22は停止する。このような動作によって、送液ポンプ1からの吐出流量をほぼ一定に保つことができ、吐出圧力もほぼ一定となる。ただし、区間b1が完了するタイミングでは、第1プランジャ21が圧縮動作を続ける場合は第1加圧室11内の溶媒の圧力が吐出圧力を越えること(過圧縮)によって、吐出流量が瞬間的に大きくなり、それに伴い、吐出圧力も瞬間的に大きくなる。区間b1が完了するタイミングで、第1プランジャ21の圧縮距離(圧縮工程(区間b)における第1プランジャ21の移動距離)が十分でなく、第1加圧室11内の溶媒の圧力が吐出圧力に達していない(圧縮不足)場合は、区間cの開始時に吐出流量が瞬間的に小さくなり、それに伴い、吐出圧力も瞬間的に小さくなる。これらの過圧縮又は圧縮不足によって、吐出圧力に脈動が生じる。図2では、過圧縮が生じた場合の圧力脈動を示している。
【0038】
<第1プランジャの速度及び第2プランジャの速度の制御方法>
次に、第1プランジャ21の過圧縮に起因する吐出圧力の脈動を小さくするために、第1プランジャ21の速度及び第2プランジャ22の速度を制御する方法の詳細について説明する。第1プランジャ21の速度及び第2プランジャ22の速度は、実際にはコントローラ10がモータドライバ210に指令値を出力し、当該出力値に従って第1電動モータ211及び第2電動モータ212等が駆動することによって制御されるが、以下においては、簡略化のために、コントローラ10が直接第1プランジャ21及び第2プランジャ22の動作を制御するものとして説明する場合がある。
【0039】
図3は、通常送液する際の第1プランジャ21の速度及び第2プランジャ22の速度の制御方法を説明するためのグラフである。図3においては、1周期分の動作のみを示している。図3に示される5つのグラフは、いずれも横軸は時間を示し、縦軸は、上から順番に、第1プランジャ21の変位、第2プランジャ22の変位、第1プランジャ21の速度、第2プランジャ22の速度、圧力を示す。第1プランジャ21の速度及び第2プランジャ22の速度は、プランジャが上昇するときを正とし、下降するときを負とする。圧力は、圧力センサ110によって測定される吐出圧力を実線で示し、第1加圧室11内の溶媒の圧力P11を破線で示している。ここで、吐出圧力は圧力センサ110で測定できるが、第1加圧室11内の溶媒の圧力P11を測定する手段はない。
【0040】
区間aにおいて、コントローラ10は、第1プランジャ21を下限点(図2参照)まで負の速度で下降させ、第2プランジャ22を一定の正の速度で下限点から上昇させる。コントローラ10は、第1プランジャ21の位置が下限点となった際に第1プランジャ21を一旦停止(速度0)とする。区間aにおける吐出圧力は一定である。第1加圧室11内の溶媒の圧力P11は大気圧未満まで減少したのち一定となり、第1プランジャ21が停止すると大気圧となる。
【0041】
区間b1において、コントローラ10は、第1プランジャ21を上昇させる。このとき、まず速度を増加させつつ第1プランジャ21を上昇させ、その後一定の速度とする。また、コントローラ10は、第2プランジャ22を区間aと同じ一定の正の速度で上昇させ続ける。区間b1における吐出圧力は一定である。第1プランジャ21の上昇に伴って溶媒が圧縮され、第1加圧室11内の溶媒の圧力P11が上昇する。
【0042】
第1加圧室11内の溶媒の圧力P11が吐出圧力よりも大きくなると、過圧縮によって吐出圧力に脈動が生じる。コントローラ10は、吐出圧力の脈動によって、溶媒の圧縮が完了したと判断する。具体的には、コントローラ10は、区間b1の開始時(圧縮開始時)における吐出圧力をPb1として、圧力センサ110の出力が吐出圧力Pb1よりも所定の閾値ΔPだけ大きくなったら溶媒の圧縮が完了したと判断して、第1プランジャ21の減速を開始し、一旦停止する(速度0まで減速する)。すなわち、圧縮開始時の吐出圧力と比較した吐出圧力の増加量が所定の閾値ΔP以上となった場合に、溶媒の圧縮が完了したと判断する。その後、区間cに移行する。
【0043】
区間cにおいて、コントローラ10は、第1プランジャ21を一定の速度で上昇させ、第2プランジャ22を一定の速度で下降させる。第2プランジャ22が下限点に到達した段階で、区間dに移行する。
【0044】
区間dにおいて、コントローラ10は、区間cよりも低い一定の速度で第1プランジャ21を上昇させる。また、コントローラ10は、区間dにおいては第2プランジャ22を停止する。区間dにおいては、過圧縮に伴う脈動はほぼ収まっており吐出圧力はほぼ一定である。
【0045】
なお、図3の例においては、吐出圧力は全体的に見て(脈動を除いて)略一定であるが、時間の経過とともに吐出圧力が上昇する(右肩上がりとなる)場合もある。
【0046】
<圧縮完了のタイミングの判定方法>
図4は、圧縮の完了が誤判定される場合を説明するための図である。図4の上図のグラフは、吐出圧力(実線)と第1加圧室11内の溶媒の圧力(点線)を示しており、下図のグラフは第1プランジャ21の変位と第2プランジャ22の変位とを示している。以上で述べた区間bにおける圧縮完了の判定の方法では、圧縮の完了を誤って判定する場合がある。上述のように、区間bにおいて過圧縮に伴う脈動を検知したときに圧縮を完了したと判断し、第1プランジャ21を停止させる。このとき、圧縮が完了する(第1プランジャ21が上昇して、第1加圧室11内の圧力が吐出圧力と同等になる)前に、例えばサンプル注入時のインジェクタ2の切り替えによる圧力脈動(いわゆる、インジェクションショック)のような送液ポンプ1にとって外乱となる脈動が生じると、第1加圧室11内の溶媒の圧力P11が十分に大きくなっていないにもかかわらず、第1プランジャ21は停止してしまう(圧縮完了の誤判定)。その後、区間cの開始時に、第1プランジャ21が上昇し、第2プランジャ22が下降すると、吐出圧力が第1加圧室11内の圧力まで低下し、大きな圧力低下が生じる。
【0047】
なお、図4の例においては、吐出圧力は全体的に見て(脈動を除いて)上昇している(右肩上がりである)が、吐出圧力は略一定となる場合もあるし、下降する(右肩下がりとなる)場合もある。
【0048】
そこで、本実施形態では、このような圧縮完了の誤判定を防ぐために、推測される第1加圧室11内の圧力が、圧縮が始まる直前(圧縮開始時の)の吐出圧力Pb1よりもΔPAだけ低い圧力となるまでは圧縮判定をせず、その圧力を超えてから圧縮判定を開始する。その具体的な方法を以下に記す。
【0049】
図5は、複数の周期の圧縮完了時における第1プランジャ21の変位と圧力の関係を示すグラフである。図5のグラフにおいて、各周期の区間b2における圧縮完了時の吐出圧力(圧縮圧力Pc)を縦軸とし、圧縮完了時の第1プランジャ21の移動距離(圧縮距離xc)を横軸としている。
【0050】
まず、コントローラ10は、現在の周期を第n周期として、1つ前の周期(第n-1周期)の圧縮距離xc(n-1)と、圧縮圧力Pc(n-1)から、現在の周期の圧縮時の溶媒の圧力の変化率k(n)を以下の式(1)により算出する。
【0051】
k(n)=Pc(n-1)/(xc(n-1)-xc0) …(1)
【0052】
式(1)は、図5に示した圧縮距離xcと圧縮圧力Pcの関係を示す以下の式(2)に基づく。
【0053】
Pc=k(xc-xc0) …(2)
【0054】
ここで、xc0は、シールからの漏れ等による第1プランジャ21の移動距離に対する吐出圧力の上昇の遅れに相当する距離である。式(1)では変化率kを簡易的に求めるため、現在よりも1つ前の周期の圧縮距離xc(n-1)と圧縮圧力Pc(n-1)から変化率kを求めている。xc0の値は、予め測定して求め、コントローラ10に記憶しておく。これによって、制御が単純になり、低コストのコントローラにより制御を実現できる。
【0055】
また、図5に示す圧縮距離xcと圧縮圧力Pcの関係を求めるために、現在の周期よりも前に様々な圧力で送液した履歴をコントローラ10に記憶しておき、それらの点から圧縮距離xcと圧縮圧力Pcの関係を線形近似することによって、変化率kを求めてもよい。これによって、より正確に変化率kを算出できる。また、xc0は線形近似の際に自動的に求まり、xc0の起因となる圧力上昇の遅れの経時変化に追従することができる。
【0056】
圧縮が完了する際の第1加圧室11内の溶媒の圧力を圧縮開始時の圧力Pb1(現在の吐出圧力)と推定した場合、その圧力よりもΔPAだけ低いときの第1プランジャ21の変位xAは、以下の式(3)で表すことができる。
【0057】
xA(n)=(Pb1(n)-ΔPA)/k(n)+xc0 …(3)
【0058】
第1プランジャ21の変位xAは、圧縮が完了すると予測される第1プランジャ21の変位よりも、所定の距離だけ短い変位ということができる。コントローラ10は、式(3)に従って求めた第1プランジャ21の変位xAを境に、圧縮完了の判定をしない区間(非判定区間)と判定をする区間(判定区間)を定める。したがって、コントローラ10は、第1プランジャ21の変位がxAとなるまでは、脈動の有無にかかわらず圧縮が完了したかどうかの判定を行わず、第1プランジャ21の変位がxAを超えたら、圧縮が完了したかどうかの判定を開始する。
【0059】
図6Aは、第1の実施形態に係る圧縮完了の判定方法を説明するためのグラフである。図6Aの上図のグラフは、吐出圧力(実線)と第1加圧室11内の溶媒の圧力(点線)を示しており、下図のグラフは第1プランジャ21の変位と第2プランジャ22の変位とを示している。図6Aに示すように、コントローラ10は、式(3)に従って求めた第1プランジャ21の変位xAを境に、圧縮完了の判定をしない非判定区間bNと判定をする判定区間bDに分ける。非判定区間bNで圧力の外乱による脈動が生じても圧縮は継続するため、圧縮完了の誤判定を防ぐことができる。
【0060】
図6Bは、第1の実施形態に係る圧縮完了の判定方法を説明するためのグラフであり、判定区間bDにおいて外乱による脈動が生じた場合を示している。図6Bに示すように、判定区間bDで外乱による圧力脈動が生じた場合、区間c開始時の圧力低下の大きさは、最大でもΔPAと吐出圧力の変化分の和となるので、それよりも大きな圧力低下は防ぐことができる。
【0061】
式(3)では、圧縮完了時の圧力を圧縮開始時の吐出圧力Pb1としたが、これに代えて、圧縮開始よりも前(区間a)の圧力、すなわちコントローラ10が吐出圧力の脈動をモニタしていないときの圧力とすれば、制御の処理を簡単にできるので、より低コストのコントローラにより制御を実現できる。また、吐出圧力Pb1に対して吐出圧力の変化を考慮して、圧縮完了時の圧力を予測してもよい。この場合、より正確に変位xAを計算できる。さらに、吐出圧力Pb1の代わりに、現在の圧力に対して式(3)を常時計算して、変位xAを随時更新してもよい。その場合、さらに正確に変位xAを計算できる。
【0062】
以上、本実施形態の送液ポンプ1を液体クロマトグラフ100に適用する例を説明したが、これに限定されず、本実施形態の送液ポンプ1は、例えば液体クロマトグラフ質量分析装置(LC/MS)など、送液ポンプが用いられる他の装置にも適用可能である。
【0063】
<第1の実施形態の変形例>
図7は、第1の実施形態の変形例に係る第1プランジャ21の制御方法を説明するためのグラフである。第1の実施形態では、圧縮が完了後、区間b2において第1プランジャ21を停止することを説明した。これに対し、本変形例では、図7の下のグラフに示すように、区間b2において第1プランジャ21を微上昇させる。換言すれば、コントローラ10は、圧縮完了後、第1プランジャ21の速度を低下させて圧縮を継続する。これにより、図7の上のグラフに示すように、区間cの開始時の圧力低下(脈動)を小さくすることができる。なお、本変形例の手法は、以下の実施形態にも適用できる。
【0064】
<第1の実施形態のまとめ>
以上のように、本実施形態の送液ポンプ1は、第1プランジャ21による溶媒の圧縮工程(区間b)において、過去の周期における圧縮完了時の圧縮圧力Pcと第1プランジャ21の圧縮距離xcとに基づいて、溶媒の圧力の変化率kを算出し、圧力の変化率kと圧縮開始時の吐出圧力Pb1(現在の吐出圧力)とに基づいて、第1加圧室11内の溶媒の圧力が吐出圧力Pb1よりΔPAだけ低くなるときの第1プランジャ21の変位xA(予測される圧縮距離よりも短い所定の距離)を算出し、変位xAに基づいて、圧縮完了を判定する期間(第1プランジャ21による圧縮を完了するタイミング)を決定する。そして、第1プランジャ21の変位がxAを超え、第1プランジャ21を上昇させ、圧力センサ110の出力が吐出圧力Pb1よりも所定の閾値ΔPだけ大きくなったら、溶媒の圧縮が完了したと判断して、第1プランジャ21を一旦停止するこれにより、圧縮完了を誤判定する確率が小さくなるとともに、誤判定する場合でもその結果生じる圧力脈動が小さくなる。
【0065】
圧力脈動の小さい送液によって、検出器に生じるノイズが小さくなり、感度の高い分析を実現できる。また、圧力脈動が小さいことで分離カラムに加わる負荷が小さくなり、その寿命を長くすることができる。
【0066】
また、本実施形態の送液ポンプ1は、第1プランジャポンプ101の第1加圧室11内の溶媒の圧力を(式1)により推定するため、圧力センサ110を1つのみ(第2プランジャポンプ102の下流にのみ)有していればよい。これにより、圧力センサを2つ用いるよりもポンプ容積が小さくなるので、溶媒置換を早くすることができる。また、圧力センサが1つのみであるので、2つ設置するよりも装置のコストを低減できる。さらに、圧力センサが1つのみであるので、圧力センサの固体差の調整が不要であり、生産効率を向上できる。
【0067】
[第2の実施形態]
第1の実施形態では、過圧縮による圧力脈動を検出して第1プランジャ21による圧縮を停止することを説明した。そこで、第2の実施形態では、第1プランジャ21の圧縮距離の予測値で圧縮を完了することで、圧縮判定に伴う圧力脈動を小さくする方法を提案する。
【0068】
本実施形態の送液ポンプの構成は、図1に示した第1の実施形態に係る送液ポンプ1と同じものを採用できる。
【0069】
<圧縮完了のタイミングの判定方法>
図8は、第2の実施形態に係る圧縮完了の判定方法を説明するためのグラフである。コントローラ10は、式(1)の溶媒の圧力の変化率k(n)を求め、圧縮圧力を圧縮開始時の吐出圧力Pb1と推定して、圧縮を停止する第1プランジャ21の変位xc’(圧縮距離の予測値)を、以下の式(4)により算出する。
【0070】
xc’(n)=Pb1(n)/k(n)+xc0 …(4)
【0071】
第1の実施形態の処理は、圧縮時に脈動が起こることを前提として圧縮完了を判定するものであるが、第2の実施形態では、第1プランジャ21の変位がxc’となるまで脈動がない場合に圧縮完了と判定する。これにより、圧縮完了時の脈動をより小さくすることができる。なお、圧縮開始時から第1プランジャ21の変位がxc’となるまでの間に吐出圧力に脈動があった場合は、コントローラ10は、第1の実施形態と同様にして圧縮が完了したと判定することができる。
【0072】
式(4)では、圧縮完了時の圧力を圧縮開始時の吐出圧力Pb1としたが、これに代えて、圧縮開始よりも前(区間a)の圧力、すなわちコントローラ10が吐出圧力の脈動をモニタしていないときの圧力とすれば、制御の処理を簡単にできるので、より低コストのコントローラにより制御を実現できる。また、吐出圧力Pb1に対して吐出圧力の変化を考慮して、圧縮完了時の圧力を予測してもよい。この場合、より正確に変位xc’を計算できる。さらに、吐出圧力Pb1の代わりに、現在の圧力に対して式(4)を常時計算して、変位xc’を随時更新してもよい。その場合、さらに正確に変位xc’を計算でき、結果として脈動を小さくすることができる。
【0073】
<第2の実施形態のまとめ>
以上のように、本実施形態の送液ポンプ1は、第1プランジャ21による溶媒の圧縮工程(区間b)において、過去の周期における圧縮完了時の圧縮圧力Pcと第1プランジャ21の圧縮距離xcとに基づいて圧力の変化率kを算出し、圧力の変化率kと圧縮開始時の吐出圧力Pb1(現在の吐出圧力)とに基づいて、圧縮完了時の第1プランジャ21の変位xc’(圧縮距離)を予測し、第1プランジャ21の変位がxc’(予測した圧縮距離)となった場合に、溶媒の圧縮が完了したと判定し、圧縮を停止する(変位xc’に基づいて、第1プランジャ21による圧縮を完了するタイミングを決定する)。これにより、圧縮完了を誤判定する確率が小さくなるとともに、誤判定する場合でもその結果生じる圧力脈動が小さくなる。
【0074】
[第3の実施形態]
第1の実施形態では、圧縮完了の判定期間内に、過圧縮による圧力脈動を検出して第1プランジャ21による圧縮を停止することを説明した。また、第2の実施形態では、圧縮距離の予測値となった時に第1プランジャ21による圧縮を停止することを説明した。第3の実施形態では、圧縮判定に伴う圧力脈動を小さくする他の方法として、送液ポンプの流量が0の場合に、圧縮距離の予測値の直前で圧縮を停止する技術を提案する。
【0075】
<液体クロマトグラフの構成例>
図9は、第3の実施形態に係る送液ポンプ1001及び1002を備える液体クロマトグラフ200の構成を示す模式図である。図9に示すように、液体クロマトグラフ200は、送液ポンプ1001及び1002、試料を液体クロマトグラフ200に導入するためのインジェクタ2、分離カラム3、検出器4及び廃液容器5を備える。送液ポンプ1001及び1002の具体的な構成は、それぞれ第1の実施形態の送液ポンプ1の構成と同様である。インジェクタ2、分離カラム3、検出器4及び廃液容器5については、液体クロマトグラフに一般に用いられるものを使用することができる。
【0076】
本実施形態の液体クロマトグラフ200は、送液ポンプが2セット並列に接続された、いわゆる高圧グラジエントの構成である。送液ポンプ1001及び1002はそれぞれ別の溶媒を送液し(送液ポンプ1001は溶媒511及び512を送液し、送液ポンプ1002は溶媒513及び514を送液する)、それらが合流点6より下流で混合して分離カラム3に送液される。送液ポンプ1001及び1002の流量は、それぞれ分析項目に応じて適切に設定される。
【0077】
<圧縮完了のタイミングの判定方法>
図10は、送液ポンプ1001及び1002における流量変化を説明するためのグラフである。図10に示すように、片方の送液ポンプ(図10では送液ポンプ1001)の流量が0となる区間(時刻B~C)がある場合、その区間で送液ポンプ1001が完全に停止していると、その内部の溶媒の圧力は大気圧となっている。すると、送液を再開するタイミング(時刻C)において溶媒の圧力が大気圧から吐出圧力まで上昇するまでは溶媒を送液することができず、送液ポンプ1002側から送液ポンプ1001側に向かって逆流し、結果として圧力の脈動が生じる。この脈動を防ぐために、流量が0の区間(時刻B~C)において、送液ポンプ1001は、溶媒を吐出(送液)しないが圧縮はしておく必要がある。ただし、本実施形態では、送液ポンプ1001の圧縮完了の直前で圧縮を停止することで、脈動の発生を防止する。
【0078】
図11は、本実施形態に係る送液ポンプ1001の第1プランジャ21の制御方法を説明するためのグラフである。コントローラ10は、第1の実施形態と同様に、式(1)の溶媒の圧力の変化率k(m)を求める。なお、変化率kを求める周期は、流量が0となる区間(図10の時刻B~C)よりも前の第m周期とする(例えば、図10の時刻Aまでのタイミングを含む周期)。また、コントローラ10は、圧縮圧力を圧縮開始時の吐出圧力Pb1と推定して、圧縮を停止する第1プランジャ21の変位xDを、以下の式(5)により算出する。
【0079】
xD(n)=(Pb1(n)-ΔPD)/k(m)+xc0 …(5)
【0080】
ここで、ΔPDは圧縮圧力の推定値と圧縮を停止する圧力との差分である。ΔPDは、予め行った実験により定めることができ、例えば、吐出圧力Pb1の5%~10%の値とすることができる。Pb1-ΔPDの値が吐出圧力Pb1の値に近ければ近いほど、送液を再開するタイミング(時刻C)の脈動を小さくすることができる。
【0081】
式(5)では、圧縮完了時の圧力を圧縮開始時の吐出圧力Pb1としたが、これに代えて、圧縮開始よりも前(区間a)の圧力、すなわちコントローラ10が吐出圧力の脈動をモニタしていないときの圧力とすれば、制御の処理を簡単にできるので、より低コストのコントローラにより制御を実現できる。また、吐出圧力Pb1に対して吐出圧力の変化を考慮して、圧縮完了時の圧力を予測してもよい。この場合、より正確に変位xDを計算できる。さらに、吐出圧力Pb1の代わりに、現在の圧力に対して式(5)を常時計算して、変位xDを随時更新してもよい。その場合、さらに正確に変位xDを計算でき、その結果、脈動を小さくすることができる。
【0082】
<第3の実施形態のまとめ>
以上のように、本実施形態の送液ポンプ1001は、流量が0のとき、流量が0となる前の過去の周期における圧縮完了時の圧縮圧力Pcと第1プランジャ21の圧縮距離xcとに基づいて圧力の変化率kを算出し、圧力の変化率kと圧縮開始時の吐出圧力Pb1(現在の吐出圧力)とに基づいて、第1加圧室11内の溶媒の圧力が吐出圧力Pb1よりΔPDだけ低くなるときの第1プランジャ21の変位xD(予測される圧縮距離よりも短い所定の距離)を算出し、第1プランジャ21の変位がxDとなった場合に、溶媒の圧縮を完了(停止)する(変位xDに基づいて、第1プランジャ21による圧縮を完了するタイミングを決定する)。これにより、送液を再開するタイミングの脈動を小さくすることができる。
【0083】
[変形例]
本開示は、上述した実施形態に限定されるものでなく、様々な変形例を含んでいる。例えば、上述した実施形態は、本開示を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備える必要はない。また、ある実施形態の一部を他の実施形態の構成に置き換えることができる。また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることもできる。また、各実施形態の構成の一部について、他の実施形態の構成の一部を追加、削除又は置換することもできる。
【符号の説明】
【0084】
1 送液ポンプ
2 インジェクタ
3 分離カラム
4 検出器
5 廃液容器
10 コントローラ
11 第1加圧室
12 第2加圧室
21 第1プランジャ
22 第2プランジャ
31 第1吸引通路
32 第2吸引通路
41 第1吐出通路
42 第2吐出通路
51 第1逆止弁
52 第2逆止弁
100 液体クロマトグラフ
101 第1プランジャポンプ
102 第2プランジャポンプ
103 連結流路
110 圧力センサ
210 モータドライバ
310 パージバルブドライバ
410 電磁弁ドライバ
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10
図11