(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-13
(45)【発行日】2024-06-21
(54)【発明の名称】評価方法、評価システム及びレーザ加工システム
(51)【国際特許分類】
B23K 26/00 20140101AFI20240614BHJP
B23K 26/21 20140101ALN20240614BHJP
【FI】
B23K26/00 P
B23K26/00 Q
B23K26/21 A
(21)【出願番号】P 2020186656
(22)【出願日】2020-11-09
【審査請求日】2023-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【氏名又は名称】岡部 博史
(72)【発明者】
【氏名】船見 浩司
(72)【発明者】
【氏名】藤原 和樹
(72)【発明者】
【氏名】中井 出
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2020/0023461(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第102015015330(DE,A1)
【文献】特開2008-055442(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00
B23K 26/21
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ発振器からのレーザビームの対象物への照射領域を前記対象物に対して相対的に移動させて前記対象物の加工を行うレーザ加工の評価方法であって、
光の強度を測定するための測光器の測定領域を前記対象物に対して相対的に移動させて、前記測定領域の移動に伴う光の強度の変化を前記測光器で測定する測定ステップと、
前記測定ステップで測定された前記測定領域の移動に伴う光の強度の変化に基づいて、前記レーザ加工の評価をする評価ステップと、
を含み、
前記測定ステップは、前記測定領域の移動経路が前記照射領域の移動経路と複数の交差点を有するように、前記測定領域を前記対象物に対して相対的に移動させる、
評価方法。
【請求項2】
前記測定ステップは、前記複数の交差点の少なくとも一つにおいて前記測定領域が前記照射領域の少なくとも一部と重なるように、前記測定領域を前記対象物に対して相対的に移動させる、
請求項1の評価方法。
【請求項3】
前記測定ステップは、前記測定領域の移動経路が蛇行するように前記測定領域を前記対象物に対して相対的に移動させる、
請求項1又は2に記載の評価方法。
【請求項4】
前記測定ステップは、
前記照射領域の移動方向においては、前記測定領域が前記照射領域の少なくとも一部と重なるように前記測定領域を前記対象物に対して相対的に移動させ、
前記移動方向に交差する規定方向においては、前記照射領域の移動経路を基準にして前記測定領域を前記対象物に対して相対的に往復させる、
請求項1~3のいずれか一つに記載の評価方法。
【請求項5】
前記測定ステップは、測定システムを用いて、前記測定領域の移動に対する光の強度の変化を測定し、
前記測定システムは、
前記測光器と、
前記測定領域からの光を前記測光器に導き、前記対象物に対して前記測定領域が相対的に移動するように前記測光器に対する位置を調整可能な光学部材と、
前記光学部材の前記測光器に対する位置を調整する調整装置と、
を備え、
前記測定ステップは、前記調整装置により前記測光器に対する前記光学部材の位置を調整することで、前記測定領域を前記対象物に対して相対的に移動させる、
請求項4に記載の評価方法。
【請求項6】
前記測定ステップは、前記規定方向においては、前記測定領域を所定の幅で往復させ、
前記所定の幅をW[mm]、前記レーザビームの前記対象物への照射による前記対象物の溶融予定領域の幅をd[mm]とすると、Wは、次式を満たす、
W≧2×d
請求項4又は5に記載の評価方法。
【請求項7】
前記照射領域の移動速度をV[mm/s]、前記照射領域の移動方向における前記測定領域の寸法をD[mm]、前記測定領域の前記規定方向における往復の周波数をF[Hz]とすると、Fは、次式を満たす、
F≧V/D
請求項4~6のいずれか一つに記載の評価方法。
【請求項8】
前記評価ステップは、測定波形と基準波形との比較に基づいて、前記レーザ加工の評価をし、
前記測定波形は、前記測定ステップで測定された前記測定領域の移動に伴う光の強度の変化を示す波形であり、
前記基準波形は、前記レーザ加工に異常がない場合の前記測定領域の移動に伴う光の強度の変化を示す波形である、
請求項1~7のいずれか一つに記載の評価方法。
【請求項9】
前記評価ステップは、前記測定波形に前記基準波形にはない光の強度の変化を確認し、前記レーザ加工に異常があると判定する、
請求項8に記載の評価方法。
【請求項10】
前記評価ステップは、前記測定波形において前記基準波形にはない光の強度の変化があるときの前記測定領域の位置に基づいて、前記対象物において前記レーザ加工の異常が起きた場所の判定をする、
請求項8又は9に記載の評価方法。
【請求項11】
レーザ発振器からのレーザビームの対象物への照射領域を前記対象物に対して相対的に移動させて前記対象物の加工を行うレーザ加工の評価システムであって、
測定処理及び評価処理を実行する処理装置を備え、
前記測定処理は、光の強度を測定するための測光器の測定領域を前記対象物に対して相対的に移動させて、前記測定領域の移動に伴う光の強度の変化を前記測光器で測定し、
前記評価処理は、前記測定処理で測定された前記測定領域の移動に伴う光の強度の変化に基づいて、前記レーザ加工の評価をし、
前記測定処理は、前記測定領域の移動経路が前記照射領域の移動経路と複数の交差点を有するように、前記測定領域を前記対象物に対して相対的に移動させる、
評価システム。
【請求項12】
測定システムを更に備え、
前記測定システムは、
前記測光器と、
前記測定領域からの光を前記測光器に導き、前記測光器に対する位置が変化することで前記対象物に対して前記測定領域を相対的に移動させる光学部材と、
前記光学部材の前記測光器に対する位置を変化させる調整装置と、
を備え、
前記測定処理は、前記調整装置により前記測光器に対する前記光学部材の位置を変化させることで、前記測定領域を前記対象物に対して相対的に移動させる、
請求項11に記載の評価システム。
【請求項13】
対象物にレーザビームを照射するためのレーザ発振器と、
光の強度を測定する測光器と、
前記レーザ発振器及び前記測光器に接続される処理装置と、
を備え、
前記処理装置は、加工処理と、測定処理と、評価処理と、を実行し、
前記加工処理は、前記レーザ発振器からのレーザビームの対象物への照射領域を前記対象物に対して相対的に移動させて前記対象物の加工を行い、
前記測定処理は、前記測光器の測定領域を前記対象物に対して相対的に移動させて、前記測定領域の移動に伴う光の強度の変化を前記測光器で測定し、
前記評価処理は、前記測定処理で測定された前記測定領域の移動に伴う光の強度の変化に基づいて、前記加工処理での加工の評価をし、
前記測定処理は、前記測定領域の移動経路が前記照射領域の移動経路と複数の交差点を有するように、前記測定領域を前記対象物に対して相対的に移動させる、
レーザ加工システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に、評価方法、評価システム及びレーザ加工システムに関する。本開示は、より詳細には、レーザビームの対象物への照射に起因して対象物で発生する光を利用してレーザ加工の評価をする評価方法、評価システム及びレーザ加工システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のレーザ溶接品質評価方法は、レーザ溶接時に溶融部で発生する溶接光(熱放射光、プラズマ光、及び、レーザ反射光等)のピーク強度、もしくは、溶接光の強度の積分値から、リアルタイムでレーザ溶接品質評価を行っている。例えば、特許文献1においては、レーザ溶接時に溶融部で発生するプラズマ光または反射光のピーク強度を利用して溶接不良の判定を行っている。また、特許文献2においては、レーザ溶接時に溶融部で発生する反射光とプラズマ光と赤外光の時間積分強度を利用して溶接不良の判定を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3154177号公報
【文献】特開2007-98442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のレーザ溶接品質評価の方法は、溶接光を測定するモニタリング領域(測定領域)をレーザ照射位置に一致させて、溶融部のみでしか光の強度を測定していない。そのため、溶融部ではなく溶接部の周囲で発生した溶融異常を精度良く検出できない。具体的には、溶融部の外側のヒゲ状の溶融物やスパッタ付着等を精度良く検出できない。
【0005】
本開示は、レーザ加工の評価の精度を向上できる、評価方法、評価システム及びレーザ加工システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様は、レーザ発振器からのレーザビームの対象物への照射領域を対象物に対して相対的に移動させて対象物の加工を行うレーザ加工の評価方法である。評価方法は、測定ステップと、評価ステップとを含む。測定ステップは、光の強度を測定するための測光器の測定領域を対象物に対して相対的に移動させて、測定領域の移動に伴う光の強度の変化を測光器で測定する。評価ステップは、測定ステップで測定された測定領域の移動に伴う光の強度の変化に基づいて、レーザ加工の評価をする。測定ステップは、測定領域の移動経路が照射領域の移動経路と複数の交差点を有するように、測定領域を対象物に対して相対的に移動させる。
【0007】
本開示の一態様は、レーザ発振器からのレーザビームの対象物への照射領域を対象物に対して相対的に移動させて対象物の加工を行うレーザ加工の評価システムである。評価システムは、測定処理及び評価処理を実行する処理装置を含む。測定処理は、光の強度を測定するための測光器の測定領域を対象物に対して相対的に移動させて、測定領域の移動に伴う光の強度の変化を測光器で測定する。評価処理は、測定処理で測定された測定領域の移動に伴う光の強度の変化に基づいて、レーザ加工の評価をする。測定処理は、測定領域の移動経路が照射領域の移動経路と複数の交差点を有するように、測定領域を対象物に対して相対的に移動させる。
【0008】
本開示の一態様は、レーザ加工システムである。レーザ加工システムは、対象物にレーザビームを照射するためのレーザ発振器と、光の強度を測定する測光器と、レーザ発振器及び測光器に接続される処理装置とを備える。処理装置は、加工処理と、測定処理と、評価処理とを実行する。加工処理は、レーザ発振器からのレーザビームの対象物への照射領域を対象物に対して相対的に移動させて対象物の加工を行う。測定処理は、測光器の測定領域を対象物に対して相対的に移動させて、測定領域の移動に伴う光の強度の変化を測光器で測定する。評価処理は、測定処理で測定された測定領域の移動に伴う光の強度の変化に基づいて、前記加工処理での加工の評価をする。測定処理は、測定領域の移動経路が照射領域の移動経路と複数の交差点を有するように、測定領域を対象物に対して相対的に移動させる。
【発明の効果】
【0009】
本開示は、レーザ加工の評価の精度を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】一実施の形態にかかるレーザ加工システムの構成例のブロック図
【
図2】
図1のレーザ加工システムの動作のフローチャート
【
図3】対象物の溶融部に異常がある場合に
図2に示す測定処理で得られる測定波形と対象物との関係を示す説明図
【
図4】
図2に示す加工処理の前の対象物の外観の説明図
【
図5】
図2に示す加工処理の後の対象物の外観の説明図
【
図6】
図2に示す加工処理におけるレーザビームの照射時間と出力との関係の一例を示すグラフ
【
図7】
図2に示す加工処理の後の対象物の外観の実際の写真
【
図8】
図1のレーザ加工システムが備える測定システムの動作の説明図
【
図9】
図1のレーザ加工システムが備える測定システムの動作の別の説明図
【
図10】
図1のレーザ加工システムが備える測定システムの動作の更に別の説明図
【
図11】
図2に示す測定処理における測定領域の移動経路の設定の仕方の一例の説明図
【
図12】対象物の溶融部に異常がある場合に
図2に示す測定処理で得られる測定波形と対象物との関係を示す説明図
【
図13】対象物の溶融部に異常がある場合に
図2に示す測定処理で得られる測定波形と対象物との関係を示す別の説明図
【
図14】対象物の溶融部の一方側に異常がある場合に
図2に示す測定処理で得られる測定波形と対象物との関係を示す説明図
【
図15】対象物の溶融部の他方側に異常がある場合に
図2に示す測定処理で得られる測定波形と対象物との関係を示す説明図
【
図16】対象物の溶融部の他方側に異常がある場合に
図2に示す測定処理で得られる測定波形と対象物との関係を示す別の説明図
【
図17】比較例1の測定処理における測定領域の移動の仕方の説明図
【
図18A】比較例1の測定処理で得られる測定波形と対象物との関係を示す説明図
【
図18B】比較例1の測定処理で得られる測定波形と対象物との関係を示す別の説明図
【
図18C】比較例1の測定処理で得られる測定波形と対象物との関係を示す別の説明図
【
図18D】比較例1の測定処理で得られる測定波形と対象物との関係を示す別の説明図
【
図19A】比較例2の測定処理で得られる測定波形と対象物との関係を示す説明図
【
図19B】比較例3の測定処理で得られる測定波形と対象物との関係を示す説明図
【
図20】変形例の測定処理で得られる測定波形と対象物との関係を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、適宜図面を参照しながら、実施の形態を詳細に説明する。但し、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。なお、発明者(ら)は、当業者が本開示を十分に理解するために添付図面および以下の説明を提供するのであって、これらによって特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。
【0012】
(実施の形態)
[1-1.概要]
図1は、一実施の形態にかかるレーザ加工システム1の構成例のブロック図である。レーザ加工システム1は、レーザ発振器21と、測光器31と、処理装置5を備える。レーザ加工システム1は、レーザ発振器21からのレーザビームL1を対象物71に照射することにより、対象物71の加工を行う。
図1では、レーザ加工システム1は、対象物71を別の対象物72に接合する、レーザ溶接に用いられる。対象物72は、対象物71の下に配置されている。対象物71にレーザビームL1を照射して対象物71及び対象物72の一部を溶融して溶融部74を形成することで、対象物71と対象物72とが互いに溶融接合される。
【0013】
レーザ加工システム1では、処理装置5が、
図2に示すように、加工処理S1と、測定処理S2と、評価処理S3とを実行する。
【0014】
加工処理S1は、
図3に示すように、レーザ発振器21からのレーザビームL2の対象物71への照射領域R1を対象物71に対して相対的に移動させて対象物71の加工を行う。
図3において、加工処理S1は、照射領域R1を、最初の照射領域R1sから最後の照射領域R1eまで、対象物71に対して相対的に移動させる。照射領域R1の移動経路M1は、所望の溶融部74の形状が得られるように設定される。
図3では、溶融部74は直線状であり、移動経路M1も直線状である。
【0015】
測定処理S2は、
図1に示すように、レーザビームL1の対象物71への照射に起因する対象物71からの光L2の強度を測定する。
図1において、レーザビームL1と光L2とは、理解しやすいように、ずらして描いているが、実際には同軸上となる。測定処理S2は、
図3に示すように、測光器31の測定領域R2を対象物71に対して相対的に移動させて、測定領域R2の移動に伴う光L2の強度の変化を測光器31で測定する。
図3において、測定領域R2は、最初の測定領域R2sから最後の測定領域R2eまで、対象物71に対して相対的に移動する。特に、測定処理S2は、測定領域R2の移動経路M2が照射領域R1の移動経路M1と複数の交差点P3を有するように、測定領域R2を対象物71に対して相対的に移動させる。
【0016】
評価処理S3は、測定処理S2で測定された測定領域R2の移動に伴う光L2の強度の変化に基づいて、レーザ加工の評価をする。測定領域R2の移動に伴う光L2の強度の変化は、
図3において、経過時間に対する信号強度の変化として図示されている。信号強度は、測定システム3からの検出信号の強度であり、これは、光L2の強度に対応する。
【0017】
図1のレーザ加工システム1では、測定処理S2は、測定領域R2の移動経路M2が照射領域R1の移動経路M1と複数の交差点P3を有するように、測定領域R2を対象物71に対して相対的に移動させる。測定処理S2は、測定領域R2を、照射領域R1の移動経路M1と常に一致させるのではなく、照射領域R1の移動経路M1と異なる領域にも測定領域R2を設定する。そのため、評価処理S3は、光L2の強度に基づいて、照射領域R1の移動経路M1と一致する領域でのレーザ加工の異常だけではなく、照射領域R1の移動経路M1と異なる領域でのレーザ加工の異常も評価することが可能となる。したがって、
図1のレーザ加工システム1によれば、レーザ加工の評価の精度を向上できる。
【0018】
[1-2.詳細]
以下、
図1のレーザ加工システム1について更に詳細に説明する。レーザ加工システム1は、レーザ照射システム2と、測定システム3と、移動システム4と、処理装置5とを備える。
【0019】
[1-2-1.レーザ照射システム]
図1において、レーザ照射システム2は、対象物71のレーザ加工のために、対象物71にレーザビームL1を照射する。レーザ照射システム2は、レーザ発振器21と、コリメートレンズ22と、ダイクロイックミラー23と、集光レンズ24とを備える。レーザ発振器21は、対象物71のレーザ加工のためのレーザビームL1を出力する。レーザビームL1の波長は、例えば、1070nmであるが、適宜設定される。レーザビームL1は、連続波でもパルス波であってもよい。コリメートレンズ22と、ダイクロイックミラー23と、集光レンズ24とは、レーザビームL1を対象物71に導く光学系を構成する。
図1において、レーザ発振器21から出力されるレーザビームL1は、コリメートレンズ22で平行ビームに変換され、ダイクロイックミラー23で対象物71に向けて直角に反射され、集光レンズ24で集光され、対象物71に照射される。ダイクロイックミラー23の表面は、レーザビームL1の波長と等しい波長の光を全反射し、レーザビームL1の波長と異なる波長の光を透過するように特殊コーティングされている。
【0020】
[1-2-2.測定システム]
図1において、測定システム3は、レーザ加工の際に対象物71で発生する光L2の強度を測定し、光L2の強度を示す検出信号を出力する。光L2は、例えば、レーザビームL1の対象物71への照射による対象物71の溶融に起因する熱放射光を含む。熱放射光の強度は、溶融温度や溶融面積等の溶融状態に応じた大きさになる。なお、光L2は、熱放射光だけではなく、レーザビームL1の対象物71での反射光、及び、対象物71の材料が励起されることで発生する固有の光を含み得る。測定システム3は、測光器31と、検出信号増幅器32と、光学部材33と、バンドパスフィルタ34と、結像レンズ35と、調整装置36とを備える。
【0021】
測光器31は、測定領域R2での光L2の強度を測定する。測光器31は、受光センサを含む。測光器31は、受光センサに入射される光L2の強度を測定し、光L2の強度を示す検出信号を、検出信号増幅器32に出力する。検出信号増幅器32は、測光器31からの検出信号を、増幅して、処理装置5に出力する。
【0022】
光学部材33と、バンドパスフィルタ34と、結像レンズ35とは、測光器31の測定領域R2を対象物71上に設定するための光学系を構成する。
【0023】
光学部材33は、ダイクロイックミラー23に対して集光レンズ24とは反対側にある。光学部材33は、測定領域R2からの光L2を測光器31に導く。光学部材33は、対象物71に対して測定領域R2が相対的に移動するように測光器31に対する位置を調整可能である。
図1において、光学部材33は、時計回り及び反時計回りに回転可能である。光学部材33の測光器31に対する位置は、光学部材33の回転軸の周りの回転位置である。光学部材33は、例えば、可動式全反射ミラーを備える。可動式全反射ミラーは、例えば、ガルバノミラーである。ガルバノミラーは、高精度かつ高速に回転可能である。光学部材33において、可動式全反射ミラーの回転軸は、ステージ41の移動方向D2に沿っている。そのため、光学部材33は、ステージ41の移動方向D2に直交する方向においては測定処領域R2を移動させることができるが、ステージ41の移動方向D2においては測定処領域R2を移動させることができない。光学部材33は、光学部材33の回転にかかわらず、移動方向D2においては測定領域R2が照射領域R1に一致するように配置されている。
図1において、光学部材33は、時計回り及び反時計回りに回転可能である。
【0024】
バンドパスフィルタ34と、結像レンズ35とは、この順に、光学部材33と測光器31との間にある。バンドパスフィルタ34は、所定の波長帯域の光を通過させて、結像レンズ35に入射させる。所定の波長帯域は、例えば、1300nm~1350nmの波長帯域である。この場合、1300nm~1350nmの波長帯域の光だけが測光器31に入射する。結像レンズ35は、バンドパスフィルタ34を通過した光L2を測光器31で結像させる。
図1において、測定領域R2からの光L2は、集光レンズ24とダイクロイックミラー23を通過して光学部材33に入射する。光学部材33に入射した光L2は、光学部材33で反射され、バンドパスフィルタ34及び結像レンズ35を通過して、測光器31に入射する。
【0025】
調整装置36は、光学部材33の測光器31に対する位置を調整する。
図1において、光学部材33は、時計回り及び反時計回りに回転可能である。調整装置36は、例えば、光学部材33を回転させるモータを制御する。
【0026】
[1-2-3.移動システム]
図1において、移動システム4は、レーザ照射システム2からのレーザビームL1の照射領域R1に対して対象物71を移動させる。移動システム4は、ステージ41と、移動装置42とを備える。ステージ41は、レーザ加工の対象物71を支持する。
図1において、対象物71の下には対象物72が設置されている。対象物71と対象物72は、ステージ41上に固定されている。移動装置42は、モータ等の動力源を備え、ステージ41を移動させる。ステージ41が移動することで、対象物71及び対象物72も移動する。
図1において、移動装置42は、
図1の紙面に直交する方向に沿って、ステージ41を直線的に移動させる。
図1のレーザ加工システム1は、ステージ41の移動と同期してレーザビームL1を対象物71に照射し、これによって、対象物71と対象物72とがレーザ溶接により接合される。
【0027】
[1-2-4.処理装置]
図1において、処理装置5は、レーザ照射システム2と、測定システム3と、移動システム4とに接続される。処理装置5は、レーザ加工システム1の全体の制御をする。処理装置5は、レーザ発振器21、調整装置36、及び移動装置42の同期制御を実行し、検出信号増幅器32からの検出信号の演算処理をする機能を有する。
【0028】
処理装置5は、
図2に示すように、加工処理S1と、測定処理S2と、評価処理S3とを実行する。処理装置5は、例えば、1以上のプロセッサ(マイクロプロセッサ)と1以上のメモリとを含むコンピュータシステムにより実現され得る。1以上のプロセッサが(1以上のメモリに記憶された)プログラムを実行することで、加工処理S1と、測定処理S2と、評価処理S3とを実現する。プログラムは、ここでは1以上のメモリに予め記録されているが、インターネット等の電気通信回線を通じて、又はメモリカード等の非一時的な記録媒体に記録されて提供されてもよい。
【0029】
[1-2-4-1.加工処理]
加工処理S1は、
図3に示すように、レーザ発振器21からのレーザビームL1の対象物71への照射領域R1を対象物71に対して相対的に移動させて対象物71の加工を行う。
図4は、
図3に示す加工処理S1の前の対象物71の外観の説明図である。
図4(a)(b)は、それぞれ加工処理S1の前の対象物71の断面図及び平面図である。
図4(b)に示すように、対象物71に、対象物71と対象物72とを溶融接合するための、溶融予定領域73が設定されている。
【0030】
加工処理S1は、溶融予定領域73において対象物71が溶融するように、照射領域R1を対象物71に対して相対的に移動させる。加工処理S1は、移動システム4によりステージ41を移動させて対象物71,72を移動させることで、照射領域R1を対象物71に対して相対的に移動させる。照射領域R1が対象物71に対して相対的に移動する移動方向D1は、ステージ41の移動方向D2と反対方向である。
図4において、照射領域R1は、レーザビームL1の対象物71への照射位置P1を中心とする領域である。照射領域R1は、例えば、レーザビームL1の対象物71への照射により対象物71の溶融が生じる領域である。照射領域R1は円形の領域であり、照射領域R1の直径は溶融予定領域73の幅に等しい。
【0031】
図5は、加工処理S1の後の対象物の外観の説明図である。
図5(a)(b)は、それぞれ加工処理S1の後の対象物71の断面図及び平面図である。
図5(c)は加工処理S1の後の対象物71の、移動方向D1に直交する面での断面図である。
図5(a)(b)に示すように、加工処理S1は、照射領域R1を、最初の照射位置P1sに対応する照射領域R1から最後の照射位置P1eに対応する照射領域R1まで、対象物71に対して相対的に移動させる。これによって、
図5(a)~(c)に示すように、対象物71,72において溶融予定領域73に対応する部位が溶融し、一定深さの溶融部74が形成される。照射領域R1の移動経路M1は、溶融予定領域73の形状によって決まる。溶融予定領域73は、所望の溶融部74の形状が得られるように設定される。
図5では、溶融部74は直線状であり、移動経路M1も直線状である。
【0032】
図6は、加工処理S1におけるレーザビームL1の照射時間[ms]と出力[w]との関係の一例を示すグラフである。レーザビームL1の出力波形は、台形波形であり、スローアップ部、平坦部、及びスローダウン部を含む。平坦部のレーザビームL1の出力w1は、例えば、400Wである。レーザビームL1の全照射時間t1は、例えば、4msである。スローアップ部及びスローダウン部は、レーザ溶接時のスパッタや陥没防止のために設けている。このようにレーザビームL1の出力波形が台形波形であるため、
図5(b)のように、溶融部74の形状も逆台形形状となる。なお、移動システム4がステージ41を移動させる移動速度は、500mm/sである。溶融予定領域73及び溶融部74の幅は、約300μmである。溶融部74の深さは、約400μmである。
【0033】
図7は、加工処理S1の後の対象物71の外観の実際の写真である。
図7において、対象物71は、厚み0.2mmのアルミ板である。対象物72は、厚み1.0mmのアルミ板である。
【0034】
図7(a)は、対象物71の溶融部74に異常がない正常時の対象物71の外観の写真である。正常時、溶融部74はある程度の一定の幅を有しており、レーザビームL1の照射領域R1の移動経路M1に即した形状である。
【0035】
図7(b)は、対象物71の溶融部74に異常がある異常時の対象物71の外観の写真である。
図7(b)では、溶融部74の中央付近に異常部75が発生している。
図7(b)では、異常部75は、例えば、穴である。異常部75は、穴あきに起因する。穴あきは、溶融予定領域73の一部で溶融が正常に行われず、対象物71に穴が開いたり、溶融部74が凹状に凹んだりしているような、溶融の度合いが不十分である状態である。異常部75は、例えば、穴のほかに、突起、凹み等である場合もある。このような異常部75が発生する場合、異常部75での温度が溶融部74よりも高くなるため、光L2の強度も増加する。したがって、光L2の強度の変化に異常なピークがあれば、ピークの発生場所で、異常が発生したと推定できる。
【0036】
図7(c)は、対象物71の溶融部74の周囲に異常がある異常時の対象物71の外観の写真である。
図7(c)では、対象物71の溶融部74の一方側に異常部76が発生している。異常部76は、溶融部74に対し、レーザビームL1の移動方向D1に直交する一方側(
図7(c)における溶融部74の上側)にある。異常部76が存在することで、溶融部74の幅が異常部76近傍で大きくなる。異常部76は、例えば、対象物71と対象物72との間に樹脂等の異物が存在する場合に発生する過度な発熱によって、溶融予定領域73外で対象物71が溶融することで形成される。
【0037】
図7(d)は、対象物71の溶融部74の周囲に異常がある異常時の対象物71の外観の写真である。
図7(d)では、対象物71の溶融部74の他方側に異常部77が発生している。異常部77は、溶融部74に対し、レーザビームL1の移動方向D1に直交する他方側(
図7(d)における溶融部74の下側)にある。異常部77が存在することで、溶融部74の幅が異常部77近傍で大きくなる。異常部77は、例えば、対象物71と対象物72との間に樹脂等の異物が存在する場合に発生する過度な発熱によって、溶融予定領域73外で対象物71が溶融することで形成される。
【0038】
このように、加工処理S1でのレーザ加工では、異常が発生する場合がある。そこで、
図1のレーザ加工システム1は、加工処理S1での加工の評価のための評価方法を実行する。評価方法は、測定ステップと評価ステップとを含む。測定ステップは、
図2の測定処理S2に対応する。評価ステップは、
図2の評価処理S3に対応する。
【0039】
[1-2-4-2.測定処理]
測定処理S2は、
図1に示すように、測定システム3を用いて、レーザビームL1の対象物71への照射に起因する対象物71からの光L2の強度を測定する。測定処理S2は、加工処理S1と並行して実行される。測定処理S2は、
図3に示すように、測光器31の測定領域R2を対象物71に対して相対的に移動させて、測定領域R2の移動に伴う光L2の強度の変化を測光器31で測定する。測定領域R2の位置は、測定領域R2の中心P2の位置を基準とする。
図3において、測定領域R2は、最初の測定領域R2sから最後の測定領域R2eまで、対象物71に対して相対的に移動する。特に、測定処理S2は、測定領域R2の移動経路M2が照射領域R1の移動経路M1と複数の交差点P3を有するように、測定領域R2を対象物71に対して相対的に移動させる。更に、測定処理S2は、複数の交差点P3の少なくとも一つにおいて測定領域R2が照射領域R1の少なくとも一部と重なるように、測定領域R2を対象物71に対して相対的に移動させる。
【0040】
図1のレーザ加工システム1の測定システム3では、調整装置36は、測光器31に対する光学部材33の位置を調整することが可能である。測光器31に対する光学部材33の位置を調整することで、対象物71上の測定領域R2の位置を調整することが可能である。
【0041】
図8~
図10は、測定システム3の動作の説明図である。なお、
図9(a)及び
図10(a)では、単に図面の簡略化のために、処理装置5の図示を省略している。また、
図8~
図10においては、溶融部74の幅方向において、測定領域R2の寸法が溶融部74の寸法と同じである。
【0042】
図8は、
図1における対象物71のレーザビームL1の照射領域R1近傍の拡大図である。
図1において、光学部材33は測光器31に対して基本位置にある。基本位置では、集光レンズ24を通過する光L1の光軸が集光レンズ24を通過するレーザビームL1の光軸に一致するように光学部材33の回転角度が設定される。つまり、光学部材33が基本位置にある場合、測定領域R2が溶融部74上にあり、照射領域R1に一致する。このため、測光器31は、溶融部74からの光L2の強度を測定することができる。
図3において、測定領域R21は、光学部材33が基本位置にある場合に対応する。測定領域R21の中心P2は、照射領域R1の照射位置P1及び交点P3と一致する。
【0043】
図9において、光学部材33は測光器31に対して第1位置にある。第1位置は、基本位置から光学部材33が時計回り方向に回転した位置である。第1位置では、
図9(a)に示すように、集光レンズ24を通過する光L1の光軸が集光レンズ24を通過するレーザビームL1の光軸に対して所定の第1角度を有するように光学部材33の回転角度が設定される。
図9(b)は、
図9(a)における対象物71のレーザビームL1の照射領域R1近傍の拡大図である。
図9(b)に示すように、所定の第1角度は、例えば、測定領域R2が溶融部74上ではなく、溶融部74の幅方向の一方側(
図9(b)での左側)に位置するように設定される。つまり、光学部材33が第1位置にある場合、測定領域R2が溶融部74上になく、照射領域R1と重ならない。この場合、測光器31は、溶融部74の幅方向の一方側の領域からの光L2の強度を測定することができる。
図3において、測定領域R22は、光学部材33が第1位置にある場合に対応する。
【0044】
図10において、光学部材33は測光器31に対して第2位置にある。第2位置は、基本位置から光学部材33が反時計回り方向に回転した位置である。第2位置では、
図10(a)に示すように、集光レンズ24を通過する光L1の光軸が集光レンズ24を通過するレーザビームL1の光軸に対して所定の第2角度を有するように光学部材33の回転角度が設定される。
図10(b)は、
図10(a)における対象物71のレーザビームL1の照射領域R1近傍の拡大図である。
図10(b)に示すように、所定の第2角度は、例えば、測定領域R2が溶融部74上ではなく、溶融部74の幅方向の他方側(
図10(b)での右側)に位置するように設定される。つまり、光学部材33が第2位置にある場合、測定領域R2が溶融部74上になく、照射領域R1と重ならない。この場合、測光器31は、溶融部74の幅方向の他方側の領域からの光L2の強度を測定することができる。
図3において、測定領域R23は、光学部材33が第2位置にある場合に対応する。
【0045】
図8~
図10に示すように、測定処理S2は、測定システム3の調整装置36により測光器31に対する光学部材33の位置を調整することで、測定領域R2を対象物71に対して相対的に移動させる。
【0046】
測定処理S2は、
図5(a)(b)に示す照射領域R1の移動方向D1においては、測定領域R2が照射領域R1の少なくとも一部と重なるように測定領域R2を対象物71に対して相対的に移動させる。
図1のレーザ加工システム1では、移動システム4が、ステージ41と一緒に対象物71を移動方向D2に移動させる。測定領域R2は、移動方向D2においては、照射領域R1と一致している。そのため、移動システム4が、ステージ41と一緒に対象物71を移動方向D2に移動させるだけで、測定領域R2が照射領域R1と一致した状態で対象物71に対して移動方向D1に相対的に移動する結果になる。
【0047】
一方で、測定処理S2は、照射領域R1の移動方向D1に交差する規定方向においては、照射領域R1の移動経路M1を基準にして測定領域R2を対象物71に対して相対的に往復させる。規定方向は、例えば、移動方向D1に直交する方向であって、
図5(c)に示す溶融部74の幅方向(
図5(c)の左右方向)である。測定処理S2は、調整装置36により光学部材33を
図9に示す第1位置と
図10に示す第2位置との間で往復移動にさせる。基本位置は、第1位置と第2位置との中間の位置である。これによって、測定領域R2が、照射領域R1の移動経路M1を基準にして対象物71に対して規定方向において相対的に往復する。
【0048】
調整装置36による測定領域R2の往復移動の間も、移動システム4が、ステージ41と一緒に対象物71を移動方向D2に移動させるから、測定領域R2は、
図3に示すように、測定領域R2の移動経路M2が蛇行するように、対象物71に対して相対的に移動する。このようにして、測定処理S2は、
図3に示すように、測定領域R2の移動経路M2が蛇行するように測定領域R2を対象物71に対して相対的に移動させる。更に、照射領域R1の移動方向D1において、測定領域R2は照射領域R1と一致しており、光学部材33が基本位置にあるときは、照射領域R1の移動方向D1に直交する方向においても測定領域R2が照射領域R1に一致する。そのため、測定領域R2の移動経路M2と照射領域R1の移動経路M1との複数の交差点P3の各々において、測定領域R2が照射領域R1と重なる。
【0049】
図11は、測定処理S2における測定領域R1の移動経路M2の設定の仕方の一例の説明図である。
図11は、レーザ加工の途中の対象物71の状態を示している。
【0050】
図11に示すように、測定処理S2は、溶融部74の幅方向に一致する規定方向(
図11の上下方向)においては、測定領域R2を所定の幅W[mm]で往復させる。所定の幅Wは、測定領域R2の走査幅である。所定の幅Wは、規定方向における移動経路M2の幅である。所定の幅Wは、規定方向における、測定領域R22と測定領域R23との間の距離である。
【0051】
所定の幅Wは、対象物71の溶融部74の幅方向において、対象物71の溶融部74の周囲の状態の評価を可能とするように設定される。所定の幅Wは、例えば、少なくとも溶融部74の幅方向の両側の領域での光L2の強度の評価が可能なように設定される。溶融部74の幅を、d[mm]とすると、所定の幅Wは、W≧2×dを満たすように設定される。溶融部74の幅は、レーザビームL1の対象物71への照射による対象物71の溶融予定領域73の幅に等しい。
【0052】
一方で、測定領域R2の移動経路M2において、溶融部74での走査ピッチをP[mm]、測定領域R2の往復移動の端での端ピッチをPt[mm]とする。走査ピッチPは、光学部材33が基本位置にある場合の測定領域R21の中心P2間の距離である。端ピッチPtは、光学部材33が第1位置にある場合の測定領域R22の中心P2間の距離、又は、光学部材33が第2位置にある場合の測定領域R23の中心P2間の距離である。
【0053】
更に、照射領域R1の移動速度をV[mm/s]、測定領域R2の規定方向における往復の周波数をF[Hz]とする。移動速度Vは、移動システム4によるステージ41の速度である。周波数Fは、測定システム3の調整装置36による光学部材33の往復の周波数である。周波数Fは、例えば、光学部材33が第1位置から移動し再び第1位置に戻るまでにかかる時間の逆数である。
【0054】
この場合、走査ピッチPは、P=V/(F/2)である。端ピッチPtは、Pt=P/2である。したがって、端ピッチPtは、Pt=V/Fである。
【0055】
端ピッチPtは、照射領域R1の移動方向D1において、対象物71の溶融部74全体の評価を可能とするように設定される。ここで、照射領域R1の移動方向D1における測定領域R2の寸法をD[mm]とすると、端ピッチPtは、Pt≦Dを満たすように設定される。
【0056】
以上の点から、測定領域R2の規定方向における往復の周波数Fは、F≧V/Dを満たすように設定される。
【0057】
以上のように、移動経路M2の幅W及び周波数Fが設定されることで、照射領域R1の移動方向D1において溶融部74の全体の状態の評価、及び、照射領域R1の移動方向D1に交差する規定方向において対象物71の溶融部74の周囲の状態の評価が可能となる。
【0058】
レーザ加工システム1では、測定領域R2のサイズをdm[mm]とすると、dm=ds×f1/f2で表される。
図11において、測定距離R2は、円形の領域である。測定領域R2のサイズは、測定領域R2の直径に等しい。つまり、dm=Dである。ここで、ds[mm]は、測光器31の受光部のサイズである。受光部は、例えば、円形である。受光部のサイズは、受光部の直径に等しい。f1[mm]は、集光レンズ24の焦点距離である。f2[mm]は、測光器31に対する結像レンズ35の焦点距離である。
【0059】
このように、測定領域R2のサイズdmは、測光器31の受光部のサイズds、集光レンズ24の焦点距離f1、及び、測光器31に対する結像レンズ35の焦点距離f2により設定される。ds、f1、f2を調整することで、測定領域R2のサイズdmを調整することができる。
図11では、測定領域R2のサイズdmは、溶融部74の幅dに等しい。例えば、溶融部74の幅dが300μmである場合には、測光器31の受光部のサイズdsを300μm、f1を100mm、f2を100μmに設定すればよい。
【0060】
以上述べた測定処理S2は、
図3に示すように、測定処理S2は、測定領域R2を、最初の測定領域R2sから最後の測定領域R2eまで、対象物71に対して相対的に移動させる。測光器31は、測定領域R2からの光L2の強度を示す検出信号を出力する。測光器31からの検出信号は、検出信号増幅器32で増幅されて、処理装置5に入力される。処理装置5は、
図3に示すように、経過時間に対する検出信号の強度の変化を示す測定波形を取得する。経過時間は、測定領域R2が移動経路M2に沿って移動した距離に対応する。測定処理S2は、加工処理S1と並行して実行される。つまり、レーザ加工を行いながら、測定領域R2を照射領域R1の移動方向D1に対して垂直方向に往復させているため、測定領域R2からの光L2の強度は、溶融部74を通過する時に最大となり、溶融部74から離れるに従い弱くなり、最端部では最小となる。そのため、測定波形は、
図3に示すような概略正弦波形となる。
図3は、対象物71の溶融部74に異常がない場合に測定処理S2で得られる測定波形を示す。
【0061】
より詳細には、
図3において、tsは、最初の測定領域R2sに対応する。測定領域R2sは、溶融部74の幅方向では、測定領域R22と同じ位置である。測定領域R22は、溶融部74から最も離れており、照射領域R1とも一致しない。よって、tsにおいて、信号強度は最小値である。t11、t12、t13、t14は、それぞれ、測定領域R21、R23,R21,R22に対応する。測定領域R21は、溶融部74上において照射領域R1と一致する。よって、t11,t13において、信号強度は最大値である。測定領域R22,R23は、溶融部74から最も離れており、照射領域R1とも一致しない。よって、t12,t14において、信号強度は最小値である。teは、最後の測定領域R2eに対応する。測定領域R2eは、溶融部74の幅方向では、測定領域R23と同じ位置であるから、teにおいて、信号強度は最小値である。このように、経過時間に対する検出信号の強度の変化は、測定処理S2で測定された測定領域R2の移動に伴う光L2の強度の変化に対応する。
図3の測定波形は、正常溶融波形A1と、正常未溶融波形A2とを含む。正常溶融波形A1は、測定領域R2の移動に伴う光L2の強度の変化において、最大値近傍の信号強度の変化を示す。光学部材33が基本位置にある場合の測定領域R21において信号強度が最大になり、測定領域R21は対象物71の溶融部74に対応する。よって、正常溶融波形A1は、正常時の溶融部74からの光L2の強度の波形を示す。正常未溶融波形A2は、測定領域R2の移動に伴う光L2の強度の変化において、最小値近傍の信号強度の変化を示す。光学部材33が第1位置又は第2位置にある場合の測定領域R22,R23において信号強度が最小になり、測定領域R22,R23は対象物71において溶融していない未溶融部に対応する。よって、正常未溶融波形A2は、正常時の未溶融部からの光L2の強度の波形を示す。
【0062】
次に、
図12及び
図13を参照して対象物71の溶融部74に異常がある場合に測定処理S2で得られる測定波形について説明する。
図12及び
図13は、
図7(b)と同様に溶融部74の中央付近で異常部75が発生した場合に、測定処理S2で得られる測定波形と対象物71との関係を示す説明図である。
【0063】
図12では、測定領域R2が異常部75を一回通過している。
図12の測定波形は、異常部75が発生した時刻において、異常溶融波形A3を含む。は、溶融部74の異常である異常部75に起因する信号強度の変化を示す。
図12では、異常溶融波形A3は、1つのピークを含む。異常溶融波形A3の1つのピークは、正常溶融波形A1のピークよりも大きい。
【0064】
図13では、測定領域R2が異常部75を2回通過している。
図13の測定波形は、異常部75が発生した時刻近傍において、2つのピークを含む異常溶融波形A4を含む。異常溶融波形A4の2つのピークは、正常溶融波形A1のピークよりも大きい。異常溶融波形A4は、溶融部74の異常である異常部75に起因する信号強度の変化を示す。
【0065】
次に、
図14~
図16を参照して対象物71の溶融部74の周囲に異常がある場合に測定処理S2で得られる測定波形について説明する。
【0066】
図14は、
図7(c)と同様に対象物71の溶融部74の一方側に異常部76が発生した場合に、測定処理S2で得られる測定波形と対象物71との関係を示す説明図である。
図14では、測定領域R2が溶融部74を通って異常部76を通過した後に、再び異常部76を通って溶融部74を通過している。
図14では、測定領域R2が異常部76を2回通過しているが、一回目の異常部76の通過と二回目の異常部76の通過の時間間隔が、走査ピッチPに対応する時間より短い。
図14の測定波形は、異常部76が発生した時刻近傍において、2つのピークを含む異常溶融波形A5を含む。異常溶融波形A5の2つのピークは、正常溶融波形A1のピークよりも大きい。また、異常溶融波形A5の2つのピークの谷の信号強度は、正常未溶融波形A2でのピークの谷の信号強度よりも大きい。このような異常溶融波形A5は、溶融部74の異常である異常部76に起因する信号強度の変化を示す。異常溶融波形A5は、上述のように正常溶融波形A1及び正常未溶融波形A21と相違する。更に、異常溶融波形A5は、溶融部74の中央付近で異常部75が発生した場合に対応する異常溶融波形A3,A4とも相違する。そのため、対象物71の溶融部74の一方側に異常部76が発生した場合と、溶融部74の中央付近で異常部75が発生した場合との区別が可能である。
【0067】
図15は、
図7(d)と同様に対象物71の溶融部74の他方側に異常部77が発生した場合に、測定処理S2で得られる測定波形と対象物71との関係を示す説明図である。
図15では、測定領域R2が溶融部74を通って異常部77を通過した後に、再び異常部77を通って溶融部74を通過している。
図15では、測定領域R2が異常部77を2回通過しているが、一回目の異常部77の通過と二回目の異常部77の通過の時間間隔が、走査ピッチPに対応する時間より短い。
図15の測定波形は、異常部77が発生した時刻近傍において、2つのピークを含む異常溶融波形A6を含む。異常溶融波形A6の2つのピークは、正常溶融波形A1のピークよりも大きい。また、異常溶融波形A6の2つのピークの谷の信号強度は、正常未溶融波形A2でのピークの谷の信号強度よりも大きい。このような異常溶融波形A6は、溶融部74の異常である異常部77に起因する信号強度の変化を示す。異常溶融波形A6は、上述のように正常溶融波形A1及び正常未溶融波形A21と相違する。更に、異常溶融波形A6は、溶融部74の中央付近で異常部75が発生した場合に対応する異常溶融波形A3,A4とも相違する。そのため、対象物71の溶融部74の他方側に異常部77が発生した場合と、溶融部74の中央付近で異常部75が発生した場合との区別が可能である。
【0068】
図14の異常溶融波形A5は、対象物71の溶融部74の一方側に異常部76が発生した場合に対応し、
図15の異常溶融波形A6は、対象物71の溶融部74の他方側に異常部77が発生した場合に対応する。
図14の異常溶融波形A5と
図15の異常溶融波形A6とは、異なる場所の異常部76,77にそれぞれ対応するものの、ほぼ同じ形状である。所定期間に観測された波形が異常溶融波形A5,A6のいずれに該当するかを判定するために、所定期間での光学部材33の移動方向を利用できる。所定期間での光学部材33の移動方向が基本位置から第1位置への方向から第1位置から基本位置への方向に変化する場合、測定領域R2は溶融部74の一方側にある。よって、所定期間に観測された波形は異常溶融波形A5である。所定期間での光学部材33の移動方向が基本位置から第2位置への方向から第2位置から基本位置への方向に変化する場合、測定領域R2は溶融部74の他方側にある。よって、所定期間に観測された波形は異常溶融波形A6である。
【0069】
図16は、
図7(d)と同様に対象物71の溶融部74の他方側に異常部77が発生した場合に、測定処理S2で得られる測定波形と対象物71との関係を示す説明図である。
図16では、測定領域R2が異常部77を通って溶融部74を通過した後に、再び溶融部74を通って異常部77を通過している。
図16では、測定領域R2が異常部77を2回通過しているが、一回目の異常部77の通過と二回目の異常部77の通過の時間間隔が、走査ピッチPに対応する時間より長い。
図16の測定波形は、異常部77が発生した時刻近傍において、2つのピークを含む異常溶融波形A7を含む。異常溶融波形A7の2つのピークは、正常溶融波形A1のピークよりも大きい。異常溶融波形A7の2つのピークの谷の信号強度は、正常未溶融波形A2でのピークの谷の信号強度に等しい。異常溶融波形A7の2つのピークの谷と反対側の谷の信号強度は、正常未溶融波形A2でのピークの谷の信号強度より大きい。このような異常溶融波形A7は、溶融部74の異常である異常部77に起因する信号強度の変化を示す。異常溶融波形A7は、上述のように正常溶融波形A1及び正常未溶融波形A21と相違する。更に、異常溶融波形A7は、溶融部74の中央付近で異常部75が発生した場合に対応する異常溶融波形A3,A4とも相違する。そのため、対象物71の溶融部74の他方側に異常部77が発生した場合と、溶融部74の中央付近で異常部75が発生した場合との区別が可能である。
【0070】
以上述べた測定処理S2によれば、測定領域R2の移動に伴う光L2の強度の変化を示す測定波形を得ることができる。測定波形は、
図3に示す対象物71の溶融部74に異常がない場合とは異なり、
図12~
図16に示すように対象物71の溶融部74に異常がある場合に異常溶融波形A3,A4,A5,A6,A7を含む。したがって、測定処理S2で得られる測定波形(測定領域R2の移動に伴う光L2の強度の変化)を分析すれば、溶融部74の異常の検出が可能であり、レーザ加工の評価が可能である。更に、異常が発生した時刻の近傍での測定領域R2の位置に基づいて、異常部が対象物71のどの位置で発生しているかの評価が可能である。
【0071】
ここで、本実施の形態の測定処理S2の利点を確認するために、比較例1の測定処理を、
図17を参照して説明する。説明を簡略化するために、以下では、
図1のレーザ加工システム1が比較例1の測定処理を実行する場合を説明する。
図17は、比較例1の測定処理における測定領域R2の移動の仕方の説明図である。
図17は、レーザ加工の途中の対象物71の状態を示している。比較例1の測定処理は、測定システム3を用いて、レーザビームL1の対象物71への照射に起因する対象物71からの光L2の強度を測定する。比較例1の測定処理は、
図17に示すように、測光器31の測定領域R2を対象物71に対して相対的に移動させて、測定領域R2の移動に伴う光L2の強度の変化を測光器31で測定する。
図17において、比較例1の測定処理は、測定領域R2の移動経路M21が照射領域R1の移動経路M1と一致するように、測定領域R2を対象物71に対して相対的に移動させる。
【0072】
次に、
図18A~
図18Dを参照して比較例1の測定処理で得られる測定波形について説明する。
図18Aは、
図7(a)と同様に溶融部74に異常がない場合に、比較例1の測定処理で得られる測定波形と対象物71との関係を示す説明図である。
図18Aの測定波形は、時刻t21~t22において、信号強度が、
図6のレーザビームL1の出力の変化と同様に変化する。
【0073】
図18Bは、
図7(b)と同様に溶融部74に異常部75が発生した場合に、比較例1の測定処理で得られる測定波形と対象物71との関係を示す説明図である。
図18Bの測定波形は、異常部75に測定領域R2が重なる時刻t23~t24において信号強度が大きくなる。異常部75が発生した場合、異常部75が正常な溶融部74に比べて異常な高温となるため、光L2の信号強度も急激に大きくなる。そのため、測定波形に大きなピークが見られれば、この大きなピークに対応する対象物71の場所で溶融異常が発生したと考えられる。
【0074】
図18Cは、
図7(c)と同様に溶融部74の一方側に異常部76が発生した場合に、比較例1の測定処理で得られる測定波形と対象物71との関係を示す説明図である。
図18Cの測定波形は、時刻t23~t24において、測定領域R2が異常部76の一部に重なるが、
図18Bほどの大きな信号強度の変化が見られない。
図18Cに示す程度の信号強度の変化は、一般的な信号強度の変動とあまり変わらないため、溶融異常が発生したかどうかの判断が難しい。
【0075】
図18Dは、
図7(d)と同様に溶融部74の他方側に異常部77が発生した場合に、比較例1の測定処理で得られる測定波形と対象物71との関係を示す説明図である。
図18Dの測定波形は、時刻t23~t24において、測定領域R2が異常部77の一部に重なるが、
図18Bほどの大きな信号強度の変化が見られない。
図18Dに示す程度の信号強度の変化は、一般的な信号強度の変動とあまり変わらないため、溶融異常が発生したかどうかの判断が難しい。
【0076】
図18Cの測定波形は、対象物71の溶融部74の一方側に異常部76が発生した場合に対応し、
図18Dの測定波形は、対象物71の溶融部74の他方側に異常部77が発生した場合に対応する。
図18Cの測定波形と
図18Dの測定波形とは、異なる場所の異常部76,77にそれぞれ対応するものの、ほぼ同じ形状である。よって、
図18C及び
図18Dの測定波形に類似の測定波形が得られた場合に、この測定波形が
図18Cの測定波形と
図18Dの測定波形のいずれに該当するかを判定することは困難である。
【0077】
以上述べた比較例1の測定処理のように、測定領域R2の移動経路M21が照射領域R1の移動経路M1と一致するように、測定領域R2を対象物71に対して相対的に移動させると、溶融部74の一方側の異常部76又は他方側に異常部77があっても、レーザ加工に異常があると判断することが難しい。
【0078】
比較例2の測定処理を、
図19Aを参照して説明する。説明を簡略化するために、以下では、
図1のレーザ加工システム1が比較例2の測定処理を実行する場合を説明する。
図19Aは、
図7(c)と同様に溶融部74に異常部76が発生した場合に、比較例2の測定処理で得られる測定波形と対象物71との関係を示す説明図である。比較例2の測定処理は、測定領域R2の移動経路M22が照射領域R1の移動経路M1に平行するが溶融部74を通らないように、測定領域R2を対象物71に対して相対的に移動させる。
図19Aでは、移動経路M22が溶融部74の一方側にある。
図19Aの測定波形は、異常部76に測定領域R2が重なる時刻t23~t24において信号強度が大きくなる。比較例2の測定処理は、異常部76の検出が可能である一方で、異常部75,77については、信号強度の変化が一般的な信号強度の変動とあまり変わらない。そのため、比較例2の測定処理では、異常部75,77の検出は難しい。
【0079】
比較例3の測定処理を、
図19Bを参照して説明する。説明を簡略化するために、以下では、
図1のレーザ加工システム1が比較例3の測定処理を実行する場合を説明する。
図19Bは、
図7(d)と同様に溶融部74に異常部77が発生した場合に、比較例3の測定処理で得られる測定波形と対象物71との関係を示す説明図である。比較例3の測定処理は、測定領域R2の移動経路M22が照射領域R1の移動経路M1に平行するが溶融部74を通らないように、測定領域R2を対象物71に対して相対的に移動させる。
図19Bでは、移動経路M22が溶融部74の他方側にある。
図19Bの測定波形は、異常部77に測定領域R2が重なる時刻t23~t24において信号強度が大きくなる。比較例3の測定処理は、異常部77の検出が可能である一方で、異常部75,76については、信号強度の変化が一般的な信号強度の変動とあまり変わらない。そのため、比較例3の測定処理では、異常部75,76の検出は難しい。
【0080】
以上述べたように、比較例1~3の測定処理の測定波形では、異常部75,76,77の全てを安定的に検出することが難しい。これに対して、本実施の形態の測定処理S2の測定波形によれば、異常部75,76,77の検出が可能となる。
【0081】
[1-2-4-3.評価処理]
評価処理S3は、測定処理S2で測定された測定領域R2の移動に伴う光L2の強度の変化に基づいて、レーザ加工の評価、つまり、加工処理S1での加工の評価をする。上述したように、測定処理S2により得られる測手波形は、レーザ加工に異常がある場合には、異常溶融波形A3~A7等の異常溶融波形を含む。したがって、異常溶融波形の有無によって、レーザ加工が正常か異常かの評価が行える。
【0082】
評価処理S3は、測定波形と基準波形との比較に基づいて、レーザ加工の評価をする。測定波形は、測定処理S2で測定された測定領域R2の移動に伴う光L2の強度の変化を示す波形である。測定波形としては、例えば、
図3、
図12~
図16に示す測定波形が挙げられる。基準波形は、レーザ加工に異常がない場合の測定領域R2の移動に伴う光L2の強度の変化を示す波形である。レーザ加工に異常がない場合、測定領域R2からの光L2の強度は、溶融部74を通過する時に最大となり、溶融部74から離れるに従い弱くなり、最端部では最小となる。基準波形は、例えば、
図3に示す測定波形のような、概略制限波形となる。
【0083】
評価処理S3は、測定波形と基準波形との比較に基づいて、測定波形に基準波形にはない光L2の強度の変化があるかどうかを判定する。評価処理S3は、測定波形に基準波形にはない光L2の強度の変化がなければ、レーザ加工に異常がないと判定する。例えば、測定処理S2により
図3に示す測定波形が得られた場合、評価処理S3は、レーザ加工に異常がないと判定する。評価処理S3は、測定波形に基準波形にはない光L2の強度の変化があれば、レーザ加工に異常があると判定する。例えば、測定処理S2により
図12に示す測定波形が得られた場合、評価処理S3は、測定波形に基準波形にはない光L2の強度の変化を示す異常溶融波形A3があることから、レーザ加工に異常があると判定する。同様に、測定処理S2により
図13~
図16に示す測定波形が得られた場合、評価処理S3は、測定波形に基準波形にはない光L2の強度の変化を示す異常溶融波形A4,A5,A6,A7があることから、レーザ加工に異常があると判定する。
【0084】
また、評価処理S3は、測定波形において基準波形にはない光L2の強度の変化があるときの測定領域R2の位置に基づいて、対象物71においてレーザ加工の異常が起きた場所の判定をする。測定波形において、経過時間は、測定領域R2が移動経路M2に沿って移動した距離に対応する。したがって、評価処理S3は、基準波形にはない光L2の強度の変化が生じた時間から、対象物71上での測定領域R2の位置を決定する。評価処理S3は、対象物71上での測定領域R2の位置から、対象物71においてレーザ加工の異常が起きた場所の判定をする。
【0085】
評価処理S3は、レーザ加工の評価の結果を、出力する。評価処理S3は、例えば、レーザ加工の評価の結果を示す情報を、無線又は有線通信により、端末装置等の外部装置に出力することができる。また、評価処理S3は、例えば、レーザ加工の評価の結果を示す情報を、画像表示装置に出力することができる。
【0086】
[1-3.効果等]
以上述べたように、
図1のレーザ加工システム1は、対象物71にレーザビームL1を照射するためのレーザ発振器21と、光L2の強度を測定する測光器31と、レーザ発振器21及び測光器31に接続される処理装置5とを備える。処理装置5は、加工処理S1と、測定処理S2と、評価処理S3とを実行する。加工処理S1は、レーザ発振器21からのレーザビームL1の対象物71への照射領域R1を対象物71に対して相対的に移動させて対象物71の加工を行う。測定処理S2は、測光器31の測定領域R2を対象物71に対して相対的に移動させて、測定領域R2の移動に伴う光L2の強度の変化を測光器31で測定する。評価処理S3は、測定処理S2で測定された測定領域R2の移動に伴う光L2の強度の変化に基づいて、加工処理S1での加工の評価をする。測定処理S2は、測定領域R2の移動経路M2が照射領域R1の移動経路M1と複数の交差点P3を有するように、測定領域R2を対象物71に対して相対的に移動させる。
【0087】
図1のレーザ加工システム1では、熱放射光L2を測定する測定領域R2をレーザビームL1の照射領域R1の移動方向D1と交差する方向に高速に往復移動させる。これにより、対象物71においてレーザビームL1で溶融される溶融部74だけではなく、溶融部74の周囲やレーザビームL1の照射の影響を受けない未溶融部(凝固部)も含めた全体的なレーザ加工の品質を評価することができる。また、
図1のレーザ加工システム1では、照射領域R1の移動方向D1と移動方向D1に交差する方向との2次元的な範囲で、レーザ加工の評価が可能となる。そのため、レーザ加工に異常がある対象物71を、レーザ加工の後の工程に供給してしまう可能性を低減できる。
【0088】
図1のレーザ加工システム1では、処理装置5が、レーザ発振器21からのレーザビームL1の対象物71への照射領域R1を対象物71に対して相対的に移動させて対象物71の加工を行うレーザ加工の評価方法を実行する。評価方法は、測定ステップと、評価ステップとを含む。測定ステップは、光L2の強度を測定するための測光器31の測定領域R2を対象物71に対して相対的に移動させて、測定領域R2の移動に伴う光L2の強度の変化を測光器31で測定する。評価ステップは、測定ステップで測定された測定領域R2の移動に伴う光L2の強度の変化に基づいて、レーザ加工の評価をする。測定ステップは、測定領域R2の移動経路M2が照射領域R1の移動経路M1と複数の交差点P3を有し、かつ、複数の交差点P3の少なくとも一つにおいて測定領域R2が照射領域R1の少なくとも一部と重なるように、測定領域R2を対象物71に対して相対的に移動させる。この評価方法によれば、レーザ加工の評価の精度を向上できる。
【0089】
別の観点からすれば、処理装置5は、レーザ発振器21からのレーザビームL1の対象物71への照射領域R1を対象物71に対して相対的に移動させて対象物71の加工を行うレーザ加工の評価システムを構成する。評価システムは、測定処理S2及び評価処理S3を実行する処理装置5を備える。測定処理S2は、光L2の強度を測定するための測光器31の測定領域R2を対象物71に対して相対的に移動させて、測定領域R2の移動に伴う光L2の強度の変化を測光器31で測定する。評価処理S3は、測定処理S2で測定された測定領域R2の移動に伴う光L2の強度の変化に基づいて、レーザ加工の評価をする。測定処理S2は、測定領域R2の移動経路M2が照射領域R1の移動経路M1と複数の交差点P3を有し、かつ、複数の交差点P3の少なくとも一つにおいて測定領域R2が照射領域R1の少なくとも一部と重なるように、測定領域R2を対象物71に対して相対的に移動させる。この評価システムによれば、レーザ加工の評価の精度を向上できる。
【0090】
また、評価システムは、測定システム3を更に備える。測定システム3は、測光器31と、測定領域R2からの光L2を測光器31に導き、測光器31に対する位置が変化することで対象物71に対して測定領域R2を相対的に移動させる光学部材33と、光学部材33の測光器31に対する位置を変化させる調整装置36とを備える。測定処理S2は、調整装置36により測光器31に対する光学部材33の位置を変化させることで、測定領域R2を対象物71に対して相対的に移動させる。この評価システムによれば、レーザ加工の評価の精度を向上できる。
【0091】
また、
図1のレーザ加工システム1では、測定処理S2は、複数の交差点(P3)の少なくとも一つにおいて測定領域(R2)が照射領域(R1)の少なくとも一部と重なるように、測定領域(R2)を対象物(71)に対して相対的に移動させる。これにより、照射領域(R1)での光L2の強度の変化の測定が可能になる。
【0092】
また、
図1のレーザ加工システム1では、測定処理S2は、測定領域R2の移動経路M2が蛇行するように測定領域R2を対象物71に対して相対的に移動させる。これにより、一つの測定領域R2だけで測定領域R2の移動に伴う光L2の強度の変化の測定が可能になる。
【0093】
また、
図1のレーザ加工システム1では、測定処理S2は、照射領域R1の移動方向D1においては、測定領域R2が照射領域R1の少なくとも一部と重なるように測定領域R2を対象物71に対して相対的に移動させる。測定処理S2は、移動方向D1に交差する規定方向においては、照射領域R1の移動経路M1を基準にして測定領域R2を対象物71に対して相対的に往復させる。これにより、簡易な構成で測定領域R2の移動に伴う光L2の強度の変化の測定が可能になる。
【0094】
また、
図1のレーザ加工システム1では、測定処理S2は、測定システム3を用いて、測定領域R2の移動に対する光L2の強度の変化を測定する。測定システム3は、測光器31と、測定領域R2からの光L2を測光器31に導き、対象物71に対して測定領域R2が相対的に移動するように測光器31に対する位置を調整可能な光学部材33と、光学部材33の測光器31に対する位置を調整する調整装置36とを備える。測定処理S2は、調整装置36により測光器31に対する光学部材33の位置を調整することで、測定領域R2を対象物71に対して相対的に移動させる。これにより、簡易な構成で測定領域R2の移動に伴う光L2の強度の変化の測定が可能になる。
【0095】
また、
図1のレーザ加工システム1では、測定処理S2は、規定方向においては、測定領域R2を所定の幅で往復させる。所定の幅をW[mm]、レーザビームL1の対象物71への照射による対象物71の溶融予定領域73の幅をd[mm]とすると、Wは、W≧2×dを満たす。これにより、照射領域R1の移動方向D1に交差する規定方向において対象物71の溶融部74の周囲の状態の評価が可能となる。
【0096】
また、
図1のレーザ加工システム1では、照射領域R1の移動速度をV[mm/s]、照射領域R1の移動方向D1における測定領域R2の寸法をD[mm]、測定領域R2の規定方向における往復の周波数をF[Hz]とすると、Fは、F≧V/Dを満たす。これにより、照射領域R1の移動方向D1において対象物71の溶融部74の全体の状態の評価が可能となる。
【0097】
また、
図1のレーザ加工システム1では、評価処理S3は、測定波形と基準波形との比較に基づいて、レーザ加工の評価をする。測定波形は、測定処理S2で測定された測定領域R2の移動に伴う光L2の強度の変化を示す波形である。基準波形は、レーザ加工に異常がない場合の測定領域R2の移動に伴う光L2の強度の変化を示す波形である。これにより、レーザ加工の評価の精度を向上できる。
【0098】
また、
図1のレーザ加工システム1では、評価処理S3は、測定波形に基準波形にはない光L2の強度の変化を確認し、レーザ加工に異常があると判定する。これにより、レーザ加工の評価の精度を向上できる。
【0099】
また、
図1のレーザ加工システム1では、評価処理S3は、測定波形において基準波形にはない光L2の強度の変化があるときの測定領域R2の位置に基づいて、対象物71においてレーザ加工の異常が起きた場所の判定をする。これにより、レーザ加工の評価において異常が起きた場所を知ることができる。
【0100】
(変形例)
本開示の実施の形態は、上記実施の形態に限定されない。上記実施の形態は、本開示の課題を達成できれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。以下に、上記実施の形態の変形例を列挙する。以下に説明する変形例は、適宜組み合わせて適用可能である。
【0101】
上記実施の形態において、測定処理S2は、調整装置36により光学部材33を
図9に示す第1位置と
図10に示す第2位置との間で往復移動にさせる。基本位置は、第1位置と第2位置との中間の位置である。一変形例では、基本位置は、第1位置と第2位置との中間の位置ではなく、基本位置が第1位置と第2位置との一方に他方よりも近付くように第1位置と第2位置とを調整することができる。
【0102】
図20は、変形例の測定処理で得られる測定波形と対象物との関係を示す説明図である。変形例の測定処理では、移動経路M1が規定方向において移動経路M24の中心を通らないように、移動経路M24が設定される。規定方向での測定領域R21と測定領域R23との距離W2が、規定方向での測定領域R21と測定領域R22との距離W1より小さい。
図20の変形例では、基本位置が第2位置に第1位置よりも近付くように第1位置と第2位置とが調整されている。
【0103】
図20の測定波形は、ピークに対応する波形A21と、ピーク間の谷に対応する波形A22,A23を含む。波形A21は、測定領域R21での光L2の強度変化に対応する。波形A22,A23は、いずれもピーク間の谷の波形であるが、波形A22の谷の強度のほうが波形A23の谷の強度よりも低い。移動経路M24において、測定領域R22は、測定領域R23よりも溶融部74から遠い。そのため、測定領域R22での光L2の強度は、測定領域R23での光L2の強度より小さい。したがって、波形A22は、測定領域R22での光L2の強度変化に対応し、波形A23は、測定領域R23での光L2の強度変化に対応する。このように、
図20の測定波形においては、信号強度によって、測定領域R22と測定領域R23とのいずれの光L2の強度かを判断することが可能である。
【0104】
一変形例では、測定処理S2は、必ずしも、複数の交差点P3の少なくとも一つにおいて測定領域R2が照射領域R1の少なくとも一部と重なるように、測定領域R2を対象物71に対して相対的に移動させなくてもよい。つまり、交差点P3において、測定領域R2は照射領域R1に一致しなくてもよい。例えば、交差点P3において、測定領域R2は、前回の照射領域R1に一致してよい。換言すれば、測定領域R2を、照射領域R1の移動方向D1の後ろ側の位置を中心として、移動方向D1と交差する規定方向に高速に往復走査させてよい。このようにすれば、レーザビームL1による溶融時ではなく、レーザビームL1による溶融から時間が経過した溶融部74、溶融部74の周囲、及び凝固部のレーザ加工の品質を評価できる。
【0105】
一変形例では、レーザ加工システム1は、上下に重ねた対象物71,72の溶接ではなく、横に並べた対象物71,72の溶接に用いられてもよい。また、レーザ加工システム1でのレーザ加工は、レーザ溶接に限らず、レーザ切断であってもよい。
【0106】
一変形例では、レーザ照射システム2、測定システム3、及び移動システム4の構成は、上記の実施の形態の構成に限定されない。レーザ照射システム2、測定システム3、及び移動システム4の構成は、適宜変更され得る。
【0107】
レーザ照射システム2において、レーザ発振器21の数は特に限定されない。コリメートレンズ22、ダイクロイックミラー23、及び集光レンズ24を含む光学系の構成及び配置は特に限定されない。
【0108】
測定システム3において、測光器31の数は特に限定されない。複数の測定領域R2が移動経路M2に沿って移動してよい。複数の測定領域R2は互いに異なる移動経路M2に沿って移動してよい。バンドパスフィルタ34及び結像レンズ35を含む光学系の構成及び配置は特に限定されない。光学部材33及び調整装置36の構成は特に限定されない。測定システム3は、照射領域R1の移動方向D1において、測定領域R2を所定の幅で往復させる構成を備えていてもよい。この場合、測定処理は、照射領域R1の移動方向D1においては、照射領域R1を基準にして測定領域R2を対象物71に対して相対的に往復させることができる。このような構成は、光学部材33の回転軸の向きを移動方向D1に直交する方向とすることで実現できる。これによって、測定領域R2を照射領域R1の移動方向D1と同一方向に高速に往復移動させることができて、レーザビームL1による溶融時ではなく、レーザビームL1による溶融前後の溶融部74、溶融部74の周囲、及び凝固部のレーザ加工の品質を評価できる。
【0109】
移動システム4は、対象物71を載せるステージ41を直線的に移動させる構成に限定されない。移動システム4は、ステージ41を所望の移動経路に沿って移動させてよい。ステージ41の移動経路は、レーザ加工の内容に応じて適宜決定されてよい。また、移動システム4は、ステージ41ではなく、レーザ照射システム2及び測定システム3を移動させてもよい。
【0110】
(態様)
上記実施の形態及び変形例から明らかなように、本開示は、下記の態様を含む。以下では、実施の形態との対応関係を明示するためだけに、符号を括弧付きで付している。
【0111】
第1の態様は、レーザ発振器(21)からのレーザビーム(L1)の対象物(71)への照射領域(R1)を前記対象物(71)に対して相対的に移動させて前記対象物(71)の加工を行うレーザ加工の評価方法である。前記評価方法は、測定ステップと、評価ステップとを含む。前記測定ステップは、光(L2)の強度を測定するための測光器(31)の測定領域(R2)を前記対象物(71)に対して相対的に移動させて、前記測定領域(R2)の移動に伴う光(L2)の強度の変化を前記測光器(31)で測定する。前記評価ステップは、前記測定ステップで測定された前記測定領域(R2)の移動に伴う光(L2)の強度の変化に基づいて、前記レーザ加工の評価をする。前記測定ステップは、前記測定領域(R2)の移動経路(M2)が前記照射領域(R1)の移動経路(M1)と複数の交差点(P3)を有するように、前記測定領域(R2)を前記対象物(71)に対して相対的に移動させる。この態様によれば、レーザ加工の評価の精度を向上できる。
【0112】
第2の態様は、第1の態様に基づく評価方法である。第2の態様では、前記測定ステップは、前記複数の交差点(P3)の少なくとも一つにおいて前記測定領域(R2)が前記照射領域(R1)の少なくとも一部と重なるように、前記測定領域(R2)を前記対象物(71)に対して相対的に移動させる。この態様によれば、照射領域(R1)での光L2の強度の変化の測定が可能になる。
【0113】
第3の態様は、第1又は第2の態様に基づく評価方法である。第3の態様では、前記測定ステップは、前記測定領域(R2)の移動経路(M2)が蛇行するように前記測定領域(R2)を前記対象物(71)に対して相対的に移動させる。この態様によれば、一つの測定領域(R2)だけで測定領域(R2)の移動に伴う光(L2)の強度の変化の測定が可能になる。
【0114】
第4の態様は、第1~第3の態様のいずれか一つに基づく評価方法である。第4の態様では、前記測定ステップは、前記照射領域(R1)の移動方向(D1)においては、前記測定領域(R2)が前記照射領域(R1)の少なくとも一部と重なるように前記測定領域(R2)を前記対象物(71)に対して相対的に移動させる。前記測定ステップは、前記移動方向(D1)に交差する規定方向においては、前記照射領域(R1)の移動経路(M1)を基準にして前記測定領域(R2)を前記対象物(71)に対して相対的に往復させる。この態様によれば、簡易な構成で測定領域(R2)の移動に伴う光(L2)の強度の変化の測定が可能になる。
【0115】
第5の態様は、第4の態様に基づく評価方法である。第5の態様では、前記測定ステップは、測定システム(3)を用いて、前記測定領域(R2)の移動に対する光(L2)の強度の変化を測定する。前記測定システム(3)は、前記測光器(31)と、前記測定領域(R2)からの光(L2)を前記測光器(31)に導き、前記対象物(71)に対して前記測定領域(R2)が相対的に移動するように前記測光器(31)に対する位置を調整可能な光学部材(33)と、前記光学部材(33)の前記測光器(31)に対する位置を調整する調整装置(36)とを備える。前記測定ステップは、前記調整装置(36)により前記測光器(31)に対する前記光学部材(33)の位置を調整することで、前記測定領域(R2)を前記対象物(71)に対して相対的に移動させる。この態様によれば、簡易な構成で測定領域(R2)の移動に伴う光(L2)の強度の変化の測定が可能になる。
【0116】
第6の態様は、第4又は第5の態様に基づく評価方法である。第6の態様では、前記測定ステップは、前記規定方向においては、前記測定領域(R2)を所定の幅で往復させる。前記所定の幅をW[mm]、前記レーザビーム(L1)の前記対象物(71)への照射による前記対象物(71)の溶融予定領域(73)の幅をd[mm]とすると、Wは、W≧2×dを満たす。この態様によれば、照射領域(R1)の移動方向(D1)に交差する規定方向において対象物(71)の溶融部(74)の周囲の状態の評価が可能となる。
【0117】
第7の態様は、第4~第6の態様のいずれか一つに基づく評価方法である。第7の態様では、前記照射領域(R1)の移動速度をV[mm/s]、前記照射領域(R1)の移動方向(D1)における前記測定領域(R2)の寸法をD[mm]、前記測定領域(R2)の前記規定方向における往復の周波数をF[Hz]とすると、Fは、F≧V/Dを満たす。この態様によれば、照射領域(R1)の移動方向(D1)において対象物(71)の溶融部(74)の全体の状態の評価が可能となる。
【0118】
第8の態様は、第1~第7の態様のいずれか一つに基づく評価方法である。第8の態様では、前記評価ステップは、測定波形と基準波形との比較に基づいて、前記レーザ加工の評価をする。前記測定波形は、前記測定ステップで測定された前記測定領域(R2)の移動に伴う光(L2)の強度の変化を示す波形である。前記基準波形は、前記レーザ加工に異常がない場合の前記測定領域(R2)の移動に伴う光(L2)の強度の変化を示す波形である。この態様によれば、レーザ加工の評価の精度を向上できる。
【0119】
第9の態様は、第8の態様に基づく評価方法である。第9の態様では、前記評価ステップは、前記測定波形に前記基準波形にはない光(L2)の強度の変化を確認し、前記レーザ加工に異常があると判定する。この態様によれば、レーザ加工の評価の精度を向上できる。
【0120】
第10の態様は、第8又は第9の態様に基づく評価方法である。第10の態様では、前記評価ステップは、前記測定波形において前記基準波形にはない光(L2)の強度の変化があるときの前記測定領域(R2)の位置に基づいて、前記対象物(71)において前記レーザ加工の異常が起きた場所の判定をする。この態様によれば、レーザ加工の評価において異常が起きた場所を知ることができる。
【0121】
第11の態様は、レーザ発振器(21)からのレーザビーム(L1)の対象物(71)への照射領域(R1)を前記対象物(71)に対して相対的に移動させて前記対象物(71)の加工を行うレーザ加工の評価システムである。前記評価システムは、測定処理(S2)及び評価処理(S3)を実行する処理装置(5)を備える。前記測定処理(S2)は、光(L2)の強度を測定するための測光器(31)の測定領域(R2)を前記対象物(71)に対して相対的に移動させて、前記測定領域(R2)の移動に伴う光(L2)の強度の変化を前記測光器(31)で測定する。前記評価処理(S3)は、前記測定処理(S2)で測定された前記測定領域(R2)の移動に伴う光(L2)の強度の変化に基づいて、前記レーザ加工の評価をする。前記測定処理(S2)は、前記測定領域(R2)の移動経路(M2)が前記照射領域(R1)の移動経路(M1)と複数の交差点(P3)を有するように、前記測定領域(R2)を前記対象物(71)に対して相対的に移動させる。この態様によれば、レーザ加工の評価の精度を向上できる。
【0122】
第12の態様は、第11の態様に基づく評価システムである。第12の態様では、前記評価システムは、測定システム(3)を更に備える。前記測定システム(3)は、前記測光器(31)と、前記測定領域(R2)からの光(L2)を前記測光器(31)に導き、前記測光器(31)に対する位置が変化することで前記対象物(71)に対して前記測定領域(R2)を相対的に移動させる光学部材(33)と、前記光学部材(33)の前記測光器(31)に対する位置を変化させる調整装置(36)とを備える。前記測定処理(S2)は、前記調整装置(36)により前記測光器(31)に対する前記光学部材(33)の位置を変化させることで、前記測定領域(R2)を前記対象物(71)に対して相対的に移動させる。この態様によれば、レーザ加工の評価の精度を向上できる。
【0123】
第13の態様は、レーザ加工システム(1)である。前記レーザ加工システム(1)は、対象物(71)にレーザビーム(L1)を照射するためのレーザ発振器(21)と、光(L2)の強度を測定する測光器(31)と、前記レーザ発振器(21)及び前記測光器(31)に接続される処理装置(5)とを備える。前記処理装置(5)は、加工処理(S1)と、測定処理(S2)と、評価処理(S3)とを実行する。前記加工処理(S1)は、前記レーザ発振器(21)からのレーザビーム(L1)の対象物(71)への照射領域(R1)を前記対象物(71)に対して相対的に移動させて前記対象物(71)の加工を行う。前記測定処理(S2)は、前記測光器(31)の測定領域(R2)を前記対象物(71)に対して相対的に移動させて、前記測定領域(R2)の移動に伴う光(L2)の強度の変化を前記測光器(31)で測定する。前記評価処理(S3)は、前記測定処理(S2)で測定された前記測定領域(R2)の移動に伴う光(L2)の強度の変化に基づいて、前記加工処理(S1)での加工の評価をする。前記測定処理(S2)は、前記測定領域(R2)の移動経路(M2)が前記照射領域(R1)の移動経路(M1)と複数の交差点(P3)を有するように、前記測定領域(R2)を前記対象物(71)に対して相対的に移動させる。この態様によれば、レーザ加工の評価の精度を向上できる。
【0124】
以上のように、本開示における技術の例示として、実施の形態を説明した。そのために、添付図面および詳細な説明を提供した。したがって、添付図面および詳細な説明に記載された構成要素の中には、課題解決のために必須な構成要素だけでなく、上記技術を例示するために、課題解決のためには必須でない構成要素も含まれ得る。そのため、それらの必須ではない構成要素が添付図面や詳細な説明に記載されていることをもって、直ちに、それらの必須ではない構成要素が必須であるとの認定をするべきではない。また、上述の実施の形態は、本開示における技術を例示するためのものであるから、特許請求の範囲またはその均等の範囲において種々の変更、置き換え、付加、省略などを行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本開示は、評価方法、評価システム及びレーザ加工システムに適用可能である。具体的には、レーザビームの対象物への照射に起因して対象物で発生する光を利用してレーザ加工の評価をする評価方法、評価システム及びレーザ加工システムに、本開示は適用可能である。
【符号の説明】
【0126】
1 レーザ加工システム
21 レーザ発振器
3 測定システム
31 測光器
33 光学部材
36 調整装置
5 処理装置
71 対象物
L1 レーザビーム
L2 光
R1 照射領域
R2 測定領域
M1 移動経路
M2 移動経路
P3 交差点
D1 移動方向
S1 加工処理
S2 測定処理
S3 評価処理