(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-13
(45)【発行日】2024-06-21
(54)【発明の名称】車載報知装置、報知プログラム
(51)【国際特許分類】
B60L 58/16 20190101AFI20240614BHJP
B60L 50/60 20190101ALI20240614BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20240614BHJP
【FI】
B60L58/16
B60L50/60
H01M10/48 P
H01M10/48 301
(21)【出願番号】P 2021548759
(86)(22)【出願日】2020-09-08
(86)【国際出願番号】 JP2020033862
(87)【国際公開番号】W WO2021059950
(87)【国際公開日】2021-04-01
【審査請求日】2023-06-02
(31)【優先権主張番号】P 2019174175
(32)【優先日】2019-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123102
【氏名又は名称】宗田 悟志
(72)【発明者】
【氏名】松田 昂
(72)【発明者】
【氏名】楊 長輝
(72)【発明者】
【氏名】飯田 崇
【審査官】上野 力
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-186179(JP,A)
【文献】特開2008-308122(JP,A)
【文献】特開2007-074891(JP,A)
【文献】特開平10-004603(JP,A)
【文献】特開2007-274806(JP,A)
【文献】特開2007-195312(JP,A)
【文献】特開2014-235113(JP,A)
【文献】特開2007-215332(JP,A)
【文献】特開2005-227141(JP,A)
【文献】特開2017-026616(JP,A)
【文献】特開2016-133514(JP,A)
【文献】特開2007-210487(JP,A)
【文献】特開平11-109004(JP,A)
【文献】特開2006-025471(JP,A)
【文献】特開2013-062945(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 58/16
B60L 50/60
H01M 10/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動車両に搭載される車載報知装置であって、
前記電動車両内の走行用モータへ、前記電動車両内の二次電池から放電されている放電電流値を取得する取得部と、
前記取得部により取得された放電電流値に応じて、前記電動車両の運転者による現在の運転状況が、前記二次電池の劣化に与える影響を示す情報をリアルタイムに、前記運転者に報知する報知部と、
前記二次電池の車載電池としての寿命に対応した前記電動車両の走行寿命と、前記二次電池の放電電流レートとの関係を規定したマップまたは関数と、前記取得部により取得された放電電流値をもとに、前記電動車両の走行寿命を予測する予測部と、
を備え
、
前記報知部は、前記予測部により予測された前記電動車両の走行寿命に応じた情報をリアルタイムに、前記運転者に報知し、
前記電動車両の走行寿命と、前記二次電池の放電電流レートとの関係を規定したマップまたは関数は、
前記電動車両の1日の走行パターンデータを複数取得する走行データ取得部と、
前記複数の走行パターンデータのそれぞれについて、1日の平均放電電流レート算出 する平均放電電流レート算出部と、
前記二次電池の保存劣化速度特性、充電サイクル劣化速度特性、及び放電サイクル劣 化速度特性と、前記複数の1日の走行パターンデータをもとに、走行パターンデータご とに、前記電動車両の走行寿命を予測する走行シミュレート部と、
前記複数の走行パターンデータの1日の平均放電電流レートと、当該複数の走行パタ ーンデータにそれぞれ対応する走行寿命の組み合わせをプロットし、曲線回帰により前 記電動車両の走行寿命と、前記二次電池の放電電流レートとの関係を規定したマップま たは関数を生成する生成部とを備える、
演算装置から提供される、
ことを特徴とする車載報知装置。
【請求項2】
前記取得部は、前記二次電池のSOC(State Of Charge)をさらに取得し、
前記予測部は、前記二次電池の放電電流値とSOCの使用範囲をもとに、前記電動車両の走行寿命を予測することを特徴とする請求項
1に記載の車載報知装置。
【請求項3】
前記取得部は、前記二次電池のSOCと温度をさらに取得し、
前記予測部は、前記二次電池の放電電流値とSOCの使用範囲と温度をもとに、前記電動車両の走行寿命を予測することを特徴とする請求項
1に記載の車載報知装置。
【請求項4】
前記報知部は、表示部を有し、
前記表示部は、前記予測部により予測された前記電動車両の走行寿命に応じた画像を表示することを特徴とする請求項
1から
3のいずれか1項に記載の車載報知装置。
【請求項5】
前記予測部は、前記電動車両の走行寿命を、走行寿命年数または走行寿命距離で予測し、
前記表示部は、前記電動車両の走行寿命年数または走行寿命距離の基準を示す目盛りと、現在の放電電流値をもとに予測される前記電動車両の走行寿命年数または走行寿命距離を示すバーを画面に表示させることを特徴とする請求項
4に記載の車載報知装置。
【請求項6】
前記報知部は、音声出力部を有し、
前記音声出力部は、前記予測部により予測された前記電動車両の走行寿命に応じたメッセージを音声出力することを特徴とする請求項
1から
5のいずれか1項に記載の車載報知装置。
【請求項7】
前記運転者の運転操作に基づく前記二次電池の電流推移を記録する記録部をさらに備えることを特徴とする請求項1から
6のいずれか1項に記載の車載報知装置。
【請求項8】
電動車両内の走行用モータへ、前記電動車両内の二次電池から放電されている放電電流値を取得する処理と、
取得された放電電流値に応じて、前記電動車両の運転者による現在の運転状況が、前記二次電池の劣化に与える影響を示す情報をリアルタイムに、前記運転者に報知する処理と、
前記二次電池の車載電池としての寿命に対応した前記電動車両の走行寿命と、前記二次電池の放電電流レートとの関係を規定したマップまたは関数と、取得された放電電流値をもとに、前記電動車両の走行寿命を予測する処理と、
をコンピュータに実行させ
、
前記報知する処理は、予測された前記電動車両の走行寿命に応じた情報をリアルタイムに、前記運転者に報知し、
前記電動車両の走行寿命と、前記二次電池の放電電流レートとの関係を規定したマップまたは関数は、
前記電動車両の1日の走行パターンデータを複数取得する走行データ取得部と、
前記複数の走行パターンデータのそれぞれについて、1日の平均放電電流レート算出 する平均放電電流レート算出部と、
前記二次電池の保存劣化速度特性、充電サイクル劣化速度特性、及び放電サイクル劣 化速度特性と、前記複数の1日の走行パターンデータをもとに、走行パターンデータご とに、前記電動車両の走行寿命を予測する走行シミュレート部と、
前記複数の走行パターンデータの1日の平均放電電流レートと、当該複数の走行パタ ーンデータにそれぞれ対応する走行寿命の組み合わせをプロットし、曲線回帰により前 記電動車両の走行寿命と、前記二次電池の放電電流レートとの関係を規定したマップま たは関数を生成する生成部とを備える、
演算装置から提供される、
ことを特徴とする報知プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動車両に搭載される車載報知装置、報知プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド車(PHV)が普及してきている。これらの電動車両にはキーデバイスとして、二次電池が搭載される。二次電池の劣化を抑制して長寿命化させるには、二次電池から走行用モータへ放電される電流レートを抑えることが有効である。電流車両の場合、低速で走行し、急加速をしなければ放電電流レートを抑えることができる。
【0003】
電動車両において放電電流レートを抑えるために、二次電池から走行用モータへ放電される電流に対して強制的な制限を設けることが考えられる。例えば、リチウムイオン電池内のリチウムイオン濃度の偏りを防ぐために、放電の継続時間により電流を制限することが提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電動車両において強制的な電流制限を行うと、運転者の意図通りに車両を加速することができなくなり、危険回避行動の妨げになる場合がある。
【0006】
本開示はこうした状況に鑑みなされたものであり、その目的は、運転者による自由な運転操作を確保しつつ、二次電池の劣化抑制を図る技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本開示のある態様の車載報知装置は、電動車両に搭載される車載報知装置であって、前記電動車両内の走行用モータへ、前記電動車両内の二次電池から放電されている放電電流値を取得する取得部と、前記取得部により取得された放電電流値に応じて、前記電動車両の運転者による現在の運転状況が、前記二次電池の劣化に与える影響を示す情報を、前記運転者に報知する報知部と、を備える。
【0008】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせ、本開示の表現を方法、装置、システム、コンピュータプログラムなどの間で変換したものもまた、本開示の態様として有効である。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、運転者による自由な運転操作を確保しつつ、二次電池の劣化抑制を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施の形態に係る車載報知装置が搭載される、電動車両の概略構成を示す図である。
【
図2】
図1に示した電動車両に搭載された電源システムの詳細な構成を説明するための図である。
【
図3】実施の形態に係る演算装置の構成例を示す図である。
【
図4】
図4(a)-(c)は、保存劣化速度特性マップ、充電サイクル劣化速度特性マップ及び放電サイクル劣化速度特性マップの概略例を示す図である。
【
図5】1日の走行パターンデータに含まれる1日の電流パターンの具体例を示す図である。
【
図6】走行寿命/放電電流レートマップの一例を示す図である。
【
図7】実施の形態に係る演算装置による、走行寿命/放電電流レートマップ生成処理の流れを示すフローチャートである。
【
図8】実施の形態に係る車載報知装置の構成例を示す図である。
【
図9】
図9(a)-(b)は、電動車両の走行寿命を示すバーを画面に表示させる場合の例を示す図である。
【
図10】放電サイクル劣化速度特性からSOC補正比率を算出する処理の具体例をグラフに示した図である。
【
図11】SOCの使用範囲による影響を考慮した、電動車両の走行寿命を示すバーを画面に表示させる場合の例を示す図である。
【
図12】実施の形態に係る車載報知装置による、予測走行寿命の表示処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、実施の形態に係る車載報知装置20が搭載される、電動車両3の概略構成を示す図である。本実施の形態では電動車両3として、内燃機関を搭載しない純粋なEVを想定する。電動車両3は、一対の前輪31f、一対の後輪31r、動力源としてのモータ34を備える後輪駆動(2WD)のEVである。一対の前輪31fは前輪軸32fで連結され、一対の後輪31rは後輪軸32rで連結される。変速機33は、モータ34の回転を所定の変換比で後輪軸32rに伝達する。
【0012】
車両制御部30は電動車両3全体を制御する車両ECU(ElectronicControl Unit)であり、例えば、統合型のVCM(Vehicle Control Module)で構成されていてもよい。車両制御部30は、電動車両3内のセンサ部37から、電動車両3の挙動および/または電動車両3の周囲環境を検知するための各種のセンサ情報を取得する。
【0013】
センサ部37は電動車両3内に設置されるセンサの総称である。
図1では代表的なセンサとして、車速センサ371、GPSセンサ372、ジャイロセンサ373を挙げている。
【0014】
車速センサ371は、前輪軸32fまたは後輪軸32rの回転数に比例したパルス信号を発生させ、発生させたパルス信号を車両制御部30に送信する。車両制御部30は、車速センサ371から受信したパルス信号をもとに電動車両3の速度を検出する。
【0015】
GPSセンサ372は、電動車両3の位置情報を検出し、検出した位置情報を車両制御部30に送信する。GPSセンサ372は具体的には、複数のGPS衛星から、それぞれの発信時刻を含む電波をそれぞれ受信し、受信した複数の電波にそれぞれ含まれる複数の発信時刻をもとに受信地点の緯度経度を算出する。
【0016】
ジャイロセンサ373は、電動車両3の角速度を検出し、検出した角速度を車両制御部30に送信する。車両制御部30は、ジャイロセンサ373から受信した角速度を積分して、電動車両3の傾斜角を検出することができる。
【0017】
その他、電動車両3内には様々なセンサが設置される。例えば、アクセルペダル開度センサ、ブレーキペダル開度センサ、舵角センサ、カメラ、ソナー等が設置される。
【0018】
無線通信部36は、アンテナ36aを介してネットワークに無線接続するための信号処理を行う。電動車両3が無線接続可能な無線通信網として、例えば、携帯電話網(セルラー網)、無線LAN、ETC(Electronic Toll Collection System)、DSRC(DedicatedShort Range Communications)、V2I(Vehicle-to-Infrastructure)、V2V(Vehicle-to-Vehicle)を使用することができる。
【0019】
車載報知装置20は、電動車両3の運転者による現在の運転状況が、電源システム40に含まれる二次電池の劣化に与える影響を示す情報を運転者に報知するための装置である。車載報知装置20として、ディスプレイオーディオやカーナビゲーションシステム等のインフォテインメント機器を利用することができる。車載報知装置20の詳細は後述する。
【0020】
図2は、
図1に示した電動車両3に搭載された電源システム40の詳細な構成を説明するための図である。電源システム40は、第1リレーRY1及びインバータ35を介してモータ34に接続される。インバータ35は力行時、電源システム40から供給される直流電力を交流電力に変換してモータ34に供給する。回生時、モータ34から供給される交流電力を直流電力に変換して電源システム40に供給する。モータ34は三相交流モータであり、力行時、インバータ35から供給される交流電力に応じて回転する。回生時、減速による回転エネルギーを交流電力に変換してインバータ35に供給する。
【0021】
第1リレーRY1は、電源システム40とインバータ35を繋ぐ配線間に挿入されるコンタクタである。車両制御部30は、走行時、第1リレーRY1をオン状態(閉状態)に制御し、電源システム40と電動車両3の動力系を電気的に接続する。車両制御部30は非走行時、原則として第1リレーRY1をオフ状態(開状態)に制御し、電源システム40と電動車両3の動力系を電気的に遮断する。なおリレーの代わりに、半導体スイッチなどの他の種類のスイッチを用いてもよい。
【0022】
電動車両3は充電ケーブル38を介して充電器4に接続することにより、電源システム40内の蓄電部41を外部から充電することができる。充電器4は、商用電力系統5から供給される3相交流電力を直流電力に変換する電力変換機能を有する急速充電器であってもよい。充電器4は、商用電力系統5から供給される交流電力を全波整流し、フィルタで平滑化することにより直流電力を生成する。
【0023】
CAN(Controller Area Network)方式を採用した充電ケーブル38内には電力線に加えて通信線も含まれている。電動車両3の充電口と充電器4が充電ケーブル38で接続されると、車両制御部30は充電器4内の制御部と通信チャンネルを確立する。なお、PLC(Power Line Communication)方式を採用した充電ケーブルでは、車両制御部30と充電器4内の制御部間の通信信号が電力線に重畳されて伝送される。
【0024】
車両制御部30と、電源システム40の管理部42間は、車載ネットワーク(例えば、CAN)を介して通信チャンネルが確立される。車両制御部30と充電器4内の制御部間の通信規格と、車両制御部30と電源システム40の管理部42間の通信規格は同じであってもよいし、異なっていてもよい。両者の通信規格が異なる場合、車両制御部30がゲートウェイ機能を担う。
【0025】
電動車両3内において、電源システム40と充電器4を繋ぐ配線間に第2リレーRY2が挿入される。なおリレーの代わりに、半導体スイッチなどの他の種類のスイッチを用いてもよい。充電器4から蓄電部41への充電時、車両制御部30及び管理部42は連携して動作する。車両制御部30及び管理部42は充電器4からの充電開始前に、第2リレーRY2をオン状態(閉状態)に制御し、充電終了後にオフ状態(開状態)に制御する。
【0026】
なお、充電器4が普通充電器の場合、一般的に単相100/200Vの交流電力で充電される。交流で充電される場合、第2リレーRY2と電源システム40との間に挿入されるAC/DCコンバータ(不図示)により、交流電力が直流電力に変換される。
【0027】
電源システム40は、蓄電部41と管理部42を備え、蓄電部41は、直列接続された複数のセルE1-Enを含む。なお蓄電部41は、複数の電池モジュールが直列または直並列接続されて構成されていてもよい。セルには、リチウムイオン電池セル、ニッケル水素電池セル、鉛電池セル等を用いることができる。以下、本明細書ではリチウムイオン電池セル(公称電圧:3.6-3.7V)を使用する例を想定する。セルE1-Enの直列数は、モータ34の駆動電圧に応じて決定される。
【0028】
複数のセルE1-Enと直列にシャント抵抗Rsが接続される。シャント抵抗Rsは電流検出素子として機能する。なおシャント抵抗Rsの代わりにホール素子を用いてもよい。また蓄電部41内に、複数のセルE1-Enの温度を検出するための複数の温度センサT1、T2が設置される。温度センサは電池モジュールに1つ設置されてもよいし、複数のセルごとに1つ設置されてもよい。温度センサT1、T2には例えば、サーミスタを使用することができる。
【0029】
管理部42は、電圧計測部43、温度計測部44、電流計測部45及び蓄電制御部46を備える。直列接続された複数のセルE1-Enの各ノードと、電圧計測部43との間は複数の電圧線で接続される。電圧計測部43は、隣接する2本の電圧線間の電圧をそれぞれ計測することにより、各セルE1-Enの電圧を計測する。電圧計測部43は、計測した各セルE1-Enの電圧を蓄電制御部46に送信する。
【0030】
電圧計測部43は蓄電制御部46に対して高圧であるため、電圧計測部43と蓄電制御部46間は絶縁された状態で、通信線で接続される。電圧計測部43は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)または汎用のアナログフロントエンドICで構成することができる。電圧計測部43はマルチプレクサ及びA/D変換器を含む。マルチプレクサは、隣接する2本の電圧線間の電圧を上から順番にA/D変換器に出力する。A/D変換器は、マルチプレクサから入力されるアナログ電圧をデジタル値に変換する。
【0031】
温度計測部44は分圧抵抗およびA/D変換器を含む。A/D変換器は、複数の温度センサT1、T2と複数の分圧抵抗によりそれぞれ分圧された複数のアナログ電圧を順次、デジタル値に変換して蓄電制御部46に出力する。蓄電制御部46は当該デジタル値をもとに複数のセルE1-Enの温度を推定する。例えば蓄電制御部46は、各セルE1-Enの温度を、各セルE1-Enに最も隣接する温度センサで計測された値をもとに推定する。
【0032】
電流計測部45は差動アンプ及びA/D変換器を含む。差動アンプはシャント抵抗Rsの両端電圧を増幅してA/D変換器に出力する。A/D変換器は、差動アンプから入力される電圧をデジタル値に変換して蓄電制御部46に出力する。蓄電制御部46は当該デジタル値をもとに複数のセルE1-Enに流れる電流を推定する。
【0033】
なお蓄電制御部46内にA/D変換器が搭載されており、蓄電制御部46にアナログ入力ポートが設置されている場合、温度計測部44及び電流計測部45はアナログ電圧を蓄電制御部46に出力し、蓄電制御部46内のA/D変換器でデジタル値に変換してもよい。
【0034】
蓄電制御部46は、電圧計測部43、温度計測部44及び電流計測部45により計測された複数のセルE1-Enの電圧、温度、及び電流をもとに複数のセルE1-Enの状態を管理する。蓄電制御部46と車両制御部30間は、車載ネットワークにより接続される。車載ネットワークとして例えば、CANやLIN(Local Interconnect Network)を使用することができる。
【0035】
蓄電制御部46はマイクロコンピュータ及び不揮発メモリ(例えば、EEPROM(ElectricallyErasable Programmable Read-Only Memory)、フラッシュメモリ)により構成することができる。蓄電制御部46は、複数のセルE1-EnのそれぞれのSOC(State Of Charge)及びSOH(State Of Health)を推定する。
【0036】
蓄電制御部46は、OCV(Open Circuit Voltage)法と電流積算法を組み合わせて、SOCを推定する。OCV法は、電圧計測部43により計測される各セルE1-EnのOCVと、SOC-OCVカーブをもとにSOCを推定する方法である。電流積算法は、各セルE1-Enの充放電開始時のOCVと、電流計測部45により計測される電流の積算値をもとにSOCを推定する方法である。電流積算法は、充放電時間が長くなるにつれて、電流計測部45の計測誤差が累積していく。従って、OCV法により推定されたSOCを用いて、電流積算法により推定されたSOCを補正する必要がある。
【0037】
SOHは、初期のFCC(Full Charge Capacity)に対する現在のFCCの比率で規定され、数値が低いほど(0%に近いほど)劣化が進行していることを示す。SOHは、完全充放電による容量測定により求めてもよいし、保存劣化とサイクル劣化を合算することにより求めてもよい。
【0038】
またSOHは、セルの内部抵抗との相関関係をもとに推定することもできる。内部抵抗は、セルに所定の電流を所定時間流した際に発生する電圧降下を、当該電流値で割ることにより推定することができる。内部抵抗は温度が上がるほど低下する関係にあり、SOHが低下するほど増加する関係にある。
【0039】
蓄電制御部46は、複数のセルE1-Enの電圧、温度、電流、SOC及びSOHをもとに、蓄電部41全体の電圧、温度、電流、SOC及びSOHを決定する。蓄電制御部46は、蓄電部41全体の電圧、温度、電流、SOC及びSOHを、車載ネットワークを介して車両制御部30に送信する。
【0040】
図3は、実施の形態に係る演算装置10の構成例を示す図である。演算装置10は、車載報知装置20で使用される走行寿命/放電電流レートマップを生成するための装置である。演算装置10は、車載報知装置20のメーカ、又は車載報知装置20にインストールされる運転者報知プログラムのベンダに設置されるサーバ又はPCで構成される。なお、データセンタに設置されたクラウドサーバが使用されてもよい。
【0041】
演算装置10は、処理部11及び記録部12を備える。処理部11は、走行データ取得部111、平均放電電流レート算出部112、走行シミュレート部113及び走行寿命/放電電流レートマップ生成部114を含む。処理部11の機能はハードウェア資源とソフトウェア資源の協働、又はハードウェア資源のみにより実現できる。ハードウェア資源として、CPU、ROM、RAM、GPU(Graphics Processing Unit)、ASIC、FPGA(FieldProgrammable Gate Array)、その他のLSIを利用できる。ソフトウェア資源としてオペレーティングシステム、アプリケーション等のプログラムを利用できる。
【0042】
記録部12は、保存劣化速度特性マップ121、充電サイクル劣化速度特性マップ122及び放電サイクル劣化速度特性マップ123を含む。記録部12は、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)等の不揮発性の記録媒体を含み、各種のプログラム及びデータを記録する。
【0043】
保存劣化速度特性マップ121、充電サイクル劣化速度特性マップ122及び放電サイクル劣化速度特性マップ123は、電動車両3に搭載される二次電池の保存劣化速度特性、充電サイクル劣化速度特性、及び放電サイクル劣化速度特性をマップ化したものである。二次電池の保存劣化速度特性、充電サイクル劣化速度特性、及び放電サイクル劣化速度特性は、電池メーカによる実験やシミュレーションにより、二次電池の製品ごとに予め導出される。なお、他の評価機関により導出されたデータを使用してもよい。
【0044】
保存劣化は、二次電池の各時点における温度、各時点におけるSOCに応じて経時的に進行する劣化である。充放電中であるか否かを問わず時間経過とともに進行する。保存劣化は主に、負極に被膜(SEI(Solid Electrolyte Interphase)膜)が形成されることに起因して発生する。保存劣化は、各時点におけるSOCと温度に依存する。一般的に、各時点におけるSOCが高いほど、また各時点における温度が高いほど、保存劣化速度は増加する。
【0045】
サイクル劣化は、充放電の回数が増えるにつれ進行する劣化である。サイクル劣化は主に、活物質の膨張または収縮による割れや剥離などに起因して発生する。サイクル劣化は、電流レート、使用するSOC範囲、温度に依存する。一般的に、電流レートが高いほど、また使用するSOC範囲が広いほど、また温度が高いほど、サイクル劣化速度は増加する。
【0046】
図4(a)-(c)は、保存劣化速度特性マップ、充電サイクル劣化速度特性マップ及び放電サイクル劣化速度特性マップの概略例を示す図である。
図4(a)は保存劣化速度特性マップの概略例を示す。X軸はSOC[%]、Y軸は温度[℃]、Z軸は保存劣化速度[%/√h]を示している。保存劣化は、時間h(hour)の0.5乗則(平方根)で進行することが知られている。
図4(a)に示すように、SOCが高いほど、保存劣化速度が速くなる。
【0047】
図4(b)は充電サイクル劣化速度特性マップの概略例を示す。X軸はSOCの使用範囲[%]、Y軸は電流レート[C]、Z軸は充電サイクル劣化速度[%/√Ah]を示している。サイクル劣化は、アンペア時(Ah)の0.5乗則(平方根)で進行することが知られている。
図4(b)に示すように、SOCが低い領域で充電すると、充電サイクル劣化速度が速くなる。またSOCが高い領域で充電する場合も、SOCが低い領域ほどではないが、充電サイクル劣化速度が速くなる。
【0048】
図4(c)は放電サイクル劣化速度特性マップの概略例を示す。X軸はSOCの使用範囲[%]、Y軸は電流レート[C]、Z軸は放電サイクル劣化速度[%/√Ah]を示している。SOCが低い領域で放電するほど、放電サイクル劣化速度が速くなる。
【0049】
なおサイクル劣化特性は、電流レートほどの寄与はないが温度の影響も受ける。したがってサイクル劣化速度の推定精度を上げるには、複数の電流レートと複数の温度の二次元の組み合わせごとに、SOCの使用範囲とサイクル劣化速度の関係を規定したサイクル劣化特性を用意することが好ましい。一方、簡易的なサイクル劣化速度特性マップを生成する場合、温度は常温とみなし、複数の電流レートごとのサイクル劣化速度特性を用意するだけでよい。
【0050】
なお保存劣化速度特性、充電サイクル劣化速度特性、及び放電サイクル劣化速度特性は、マップではなく関数で規定されてもよい。
【0051】
演算装置10の走行データ取得部111は、電動車両3の1日の走行パターンデータを複数取得する。1日の走行パターンデータには、二次電池を搭載する予定の電動車両3と同一車種または類似車種の過去の実測データを使用することができる。1日の走行パターンデータには、少なくとも1日の二次電池の電流推移が含まれる。さらに、1日の二次電池のSOC推移、及び温度推移の少なくとも一方が含まれていてもよい。なお、1日の走行パターンデータとして、燃費(電費)算出用に使用する標準走行パターンデータを使用してもよい。
【0052】
平均放電電流レート算出部112は、1日の走行パターンデータから1日の平均放電電流レートを算出する。平均放電電流レート算出部112は、1日の走行パターンデータから、二次電池から放電している期間と、その期間の平均放電電流値を算出し、1日の平均放電電流レートを求める。平均放電電流レート算出部112は、複数の走行パターンデータのそれぞれについて、1日の平均放電電流レートを求める。
【0053】
図5は、1日の走行パターンデータに含まれる1日の電流パターンの具体例を示す図である。
図5では、3つの走行パターンデータに含まれる電流パターンを示している。3つの電流パターンにおいて、充電期間と充電電流値は共通している。第1電流パターン(点線(密))の1日の平均放電電流レートは0.3Cであり、第2電流パターン(実線)の1日の平均放電電流レートは0.6Cであり、第3電流パターン(点線(粗))の1日の平均放電電流レートは0.8Cである。
【0054】
走行シミュレート部113は、二次電池の保存劣化速度特性、充電サイクル劣化速度特性、及び放電サイクル劣化速度特性と、複数の1日の走行パターンデータをもとに、走行パターンデータごとに、電動車両3の走行寿命を予測する。電動車両3の走行寿命は、当該二次電池の車載電池としての寿命に対応する。走行シミュレート部113は、走行パターンデータごとに、同じ走行パターンを毎日繰り返し場合に、二次電池のSOHが、車載電池の寿命として設定された値(例えば、80%)に到達するまでの電動車両3の走行年数を予測する。なお、走行年数の代わりに積算走行距離で予測してもよい。
【0055】
走行シミュレート部113は、走行パターンデータに温度データが含まれない場合、温度を常温と仮定し、電流推移をもとに二次電池のSOHが設定値に到達するまでの年数を、電動車両3の走行寿命として予測する。なお仕向地の気象データをもとに、温度推移を仮定してもよい。SOC推移は、電流推移、SOH推移、及び温度推移に依存する。
【0056】
走行寿命/放電電流レートマップ生成部114は、複数の走行パターンデータの1日の平均放電電流レートと、当該複数の走行パターンデータにそれぞれ対応する走行寿命年数(または走行寿命距離)の組み合わせをプロットし、曲線回帰により走行寿命/放電電流レートマップを生成する。なお、電動車両3の走行寿命と二次電池の放電電流レートとの関係は、マップではなく関数で規定されてもよい。
【0057】
図6は、走行寿命/放電電流レートマップの一例を示す図である。
図6に示す例では、1日の平均放電電流レートが0.3Cの場合は走行寿命は10.8年になり、1日の平均放電電流レートが0.8Cの場合は走行寿命は9.3年になる。
【0058】
図7は、実施の形態に係る演算装置10による、走行寿命/放電電流レートマップ生成処理の流れを示すフローチャートである。走行シミュレート部113は、記録部12から二次電池の保存劣化速度特性、充電サイクル劣化速度特性、及び放電サイクル劣化速度特性を読み込む(S10)。走行データ取得部111は、電動車両3の複数の1日の走行パターンデータを取得する(S11)。平均放電電流レート算出部112は、複数の1日の走行パターンデータから、対応する複数の1日の平均放電電流レートを算出する(S12)。
【0059】
走行シミュレート部113は、二次電池の保存劣化速度特性、充電サイクル劣化速度特性、及び放電サイクル劣化速度特性と、複数の1日の走行パターンデータをもとに、走行パターンデータごとに、電動車両3の走行寿命を予測する(S13)。走行寿命/放電電流レートマップ生成部114は、複数組の1日の平均放電電流レートと走行寿命年数(または走行寿命距離)から、走行寿命/放電電流レートマップを生成する(S14)。生成された走行寿命/放電電流レートマップは、車載報知装置20に提供される。
【0060】
図8は、実施の形態に係る車載報知装置20の構成例を示す図である。車載報知装置20は、運転者の視界に入る位置(例えば、ダッシュボード)に設置される。上述したように車載報知装置20は、ディスプレイオーディオやカーナビゲーションシステムの一機能として実装されてもよいし、独立した装置として構成されてもよい。
【0061】
車載報知装置20は、処理部21、記録部22及び報知部23を備える。処理部11は、取得部211、予測部212、書込部213及び外部通信部214を含む。
【0062】
処理部21の機能は、ハードウェア資源とソフトウェア資源の協働、又はハードウェア資源のみにより実現できる。ハードウェア資源として、CPU、ROM、RAM、GPU、ASIC、FPGA、その他のLSIを利用できる。ソフトウェア資源として、オペレーティングシステム、ファームウェア、アプリケーション等のプログラムを利用できる。なおハードウェア資源として、SoC(System-on-a-Chip)が用いられてもよい。
【0063】
記録部22は、走行寿命/放電電流レートマップ221、走行データ記録部222を含む。記録部22は、HDD、SSD等の不揮発性の記録媒体を含み、各種のプログラム及びデータを記録する。走行寿命/放電電流レートマップ221は、演算装置10により生成された走行寿命/放電電流レートマップである。走行寿命/放電電流レートマップ221は、車載報知装置20の出荷前に予め書き込まれていてもよいし、事後的に運転報知プログラムがインストールされた際に書き込まれてもよい。
【0064】
車載報知装置20は報知部23として、表示部231及び音声出力部232を備える。表示部231は、液晶ディスプレイ又は有機ELディスプレイを備え、処理部21により生成された映像データを表示する。音声出力部232はスピーカを備え、処理部21により生成された音声データを出力する。
【0065】
車載報知装置20の処理部21と車両制御部30間は、車載ネットワークにより接続される。処理部21の取得部211は、車載ネットワークを介して車両制御部30から、蓄電部41からモータ34に放電されている放電電流値を取得する。
【0066】
予測部212は、記録部12から走行寿命/放電電流レートマップを読み込み、読み込んだ走行寿命/放電電流レートマップを参照して、取得された放電電流値に対応する走行寿命を特定して、電動車両3の現在の運転状況に応じた走行寿命を予測する。放電電流は、電動車両3の走行速度と加速度に依存する。走行速度が速いほど放電電流が大きくなり、走行速度が遅いほど放電電流が小さくなる。また、加速度が大きいほど放電電流が大きくなり、加速度が小さいほど放電電流が小さくなる。走行速度と加速度は、運転者のアクセル開度に大きく依存する。その他、道路状況(具体的には、道路の傾斜角度、摩擦係数)、気象条件、タイヤの摩擦係数にも依存する。
【0067】
報知部23は、予測された電動車両3の走行寿命に応じた情報を運転者に報知する。当該走行寿命に応じた情報は、表示部231により視覚的に運転者に報知されてもよいし、音声出力部232により聴覚的に運転者に報知されてもよいし、その両方で運転者に報知されてもよい。例えば表示部231は、電動車両3の走行寿命の基準を示す目盛りと、現在の放電電流値をもとに予測される電動車両3の走行寿命を示すバーを画面に表示させる。
【0068】
図9(a)-(b)は、電動車両3の走行寿命を示すバーを画面に表示させる場合の例を示す図である。
図9(a)は走行寿命を年数で表示する例を示し、
図9(b)は走行寿命を距離で表示する例を示している。取得される放電電流値に応じて、バーの斜線部分が左右に動的に変化する。上のバーは速度が遅い状態における予測走行寿命を示しており、現在の運転状況が続けば、10年以上の走行が可能なこと、又は10万km以上の走行が可能なことを運転者に視覚的に示している。下のバーは速度が速い状態における予測走行寿命を示しており、現在の運転状況が続けば、8年未満の走行しかできないこと、又は8万km未満の走行しかできないことを運転者に視覚的に示している。
【0069】
予測部212が、走行寿命/放電電流レートマップを参照して、取得される放電電流値をそのまま放電電流レートとして走行寿命に変換する場合、走行寿命は、運転者のアクセル開度の変化に対して高感度に変動する。
図9(a)-(b)に示したバーの斜線部分は、運転状況の変化に応じてリアルタイムに伸縮する。運転者はバーの変化を見ることにより、自己のアクセル操作やブレーキ操作が二次電池の寿命に与える影響を実感することができる。
【0070】
予測部212が、取得される放電電流値をもとに1日の平均放電電流レートを算出し、算出した1日の平均放電電流レートを、走行寿命/放電電流レートマップを参照して、走行寿命に変換する場合、走行寿命の変化は緩やかになる。運転者は、1日を通じて自己の運転操作が二次電池の寿命に与える影響を認識することができる。
【0071】
音声出力部232は、現在の放電電流値をもとに予測される電動車両3の走行寿命を示す年数または距離を含むメッセージを音声出力する。音声出力部232は、当該メッセージは定期的に音声出力してもよいし、予測される電動車両3の走行寿命を示す年数または距離が基準値以上変化したタイミングで、音声出力してもよい。
【0072】
電動車両3が配送会社、バス会社、タクシー会社などで使用される商用車である場合、会社は経営上の観点から、電動車両3の走行寿命の最低ラインを定めていることが多い。
【0073】
表示部231は、現在の放電電流値をもとに予測される電動車両3の走行寿命が、会社が設定した走行寿命の最低ラインを超えない場合、上述した電動車両3の走行寿命のバーを強調表示に変えてもよい。例えば表示部231は、当該最低ラインを超えない間は、当該走行寿命のバーを赤色で表示し、当該最低ラインを超えると当該走行寿命のバーを青色で表示してもよい。
【0074】
音声出力部232は、現在の放電電流値をもとに予測される電動車両3の走行寿命が、会社が設定した走行寿命の最低ラインを下回った場合、アラートメッセージを音声出力してもよい。例えば、「速度を下げてください。」といったメッセージを音声出力する。
【0075】
図4(c)に示したように同じ放電電流レートであっても、SOCの使用範囲により放電サイクル劣化速度は異なってくる。以下、放電電流レートとSOCの使用範囲をもとに、走行寿命を予測する例を説明する。
【0076】
演算装置10の補正比率算出部(不図示)は、放電サイクル劣化速度特性をもとに、放電電流レートごとに、SOCの全使用範囲(0-10、10-20、20-30、30-40、40-50、50-60、60-70、70-80、80-90、90-100)の平均劣化速度を算出する。当該補正比率算出部は、算出した平均劣化速度と、SOCの各使用範囲の劣化速度との比率をSOC補正比率として算出する。算出されたSOC補正比率は、走行寿命/放電電流レートマップとともに、車載報知装置20に提供される。
【0077】
図10は、放電サイクル劣化速度特性からSOC補正比率を算出する処理の具体例をグラフに示した図である。
図10に示すグラフには、放電電流レートが0.5Cのときの、SOCの全使用範囲の平均劣化速度を横線で示している。さらに当該平均劣化速度に対する、SOCの使用範囲が0-10%のときの劣化速度の比率R(0)と、SOCの使用範囲が50-60%のときの劣化速度の比率R(50)が示されている。
【0078】
図11は、SOCの使用範囲による影響を考慮した、電動車両3の走行寿命を示すバーを画面に表示させる場合の例を示す図である。上のバーは、放電電流レートが0.5CでSOCの使用範囲が50-60%のときの予測走行寿命を示している。下のバーは、放電電流レートが0.5CでSOCの使用範囲が0-10%のときの予測走行寿命を示している。それぞれの予測走行寿命年数の位置は、放電電流レートが0.5C時の平均走行寿命年数に対して、上記比率R(50)、上記比率R(0)をそれぞれ掛けることにより、導出することができる。
【0079】
図12は、実施の形態に係る車載報知装置20による、予測走行寿命の表示処理の流れを示すフローチャートである。電動車両3の電源がオンされると(S20のON)、取得部211は、車載ネットワークを介して車両制御部30から、蓄電部41の現在の放電電流値とSOCを取得する(S21)。予測部212は、記録部12から走行寿命/放電電流レートマップとSOC補正比率を読み込む。予測部212は、走行寿命/放電電流レートマップとSOC補正比率を参照して、取得された現在の放電電流値とSOCをもとに、現在の運転状況に応じた電動車両3の走行寿命を予測する(S22)。表示部231は、現在の運転状況に応じた電動車両3の予測走行寿命を表示する(S23)。以上のステップS21-ステップS23の処理が、電動車両3の電源がオフされるまで(S20のOFF)、繰り返し実行される(S20のON)。
【0080】
車載報知装置20の書込部213は、運転者の運転操作に基づく蓄電部41内の二次電池の電流推移を走行データ記録部222に書き込む。なお、二次電池の電流推移に加えて、SOC推移、温度推移、電圧推移を走行データに含めてもよい。
【0081】
外部通信部214は、走行データ記録部222に記録された走行データを定期的に、電動車両3を保有する会社の管理システムに送信する。管理システムは、当該会社のサーバ又はPCで構成されてもよいし、データセンタに設置されたクラウドサーバで構成されてもよい。管理システムは、走行データを運転者ごとに評価する。例えば、走行データから算出される1日の平均放電電流レートに対応する予測走行寿命が、会社が設定した走行寿命の最低ラインを下回っている場合、当該運転者の評価がマイナス査定になる。下回っている度合いが大きいほどマイナス幅が大きくなる。一方、当該最低ラインを上回っている場合、当該運転者の評価がプラス査定になる。上回っている度合いが大きいほどプラス幅が大きくなる。運転者の評価は、給与、賞与、人事に反映される。
【0082】
以上説明したように本実施の形態によれば、強制的な電流制限を行わずに、現在の運転状況に応じた走行寿命の目安を運転者に報知する。これにより、運転者による自由な運転操作を確保しつつ、二次電池の劣化抑制を図ることができる。走行中に危険が発生した場合、運転者は、意図通りに電動車両3を加速させることができ、危険回避行動をとることができる。また、運転者のアクセル操作またはブレーキ操作に応じて、走行寿命の目安を示すバーがリアルタイムに変化するため、運転者はどのような運転をすれば、二次電池の劣化抑制に寄与するかを実感することができる。
【0083】
また、充電と放電と別々に生成されたサイクル劣化速度特性マップをもとに、走行寿命/放電電流レートマップが生成されるため、現在の運転状況に応じた放電電流値から、高精度に走行寿命を予測することができる。また現在のSOCの使用範囲を考慮することにより、さらに高精度に走行寿命を予測することができる。
【0084】
また、二次電池の劣化抑制の観点からの運転評価が可能となるため、二次電池の劣化抑制による利益を運転者に還元したり、運転者の運転スキルの評価に活用したりすることができる。運転者は、二次電池の劣化抑制に寄与する運転に対してインセンティブが与えられるため、二次電池の劣化抑制に寄与する運転を心がけることになる。
【0085】
以上、本開示を実施の形態をもとに説明した。実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本開示の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0086】
図10に示した例では、演算装置10の補正比率算出部(不図示)は、放電サイクル劣化速度特性をもとに、放電電流レートごとに、SOCの全使用範囲の平均劣化速度と、SOCの各使用範囲との比率をSOC補正比率として算出した。さらに補正比率算出部は、放電サイクル劣化速度特性をもとに、放電電流レートごとに、全温度区間における平均劣化速度と、各温度区間との比率を温度補正比率として算出してもよい。
【0087】
車載報知装置20の取得部211は、車載ネットワークを介して車両制御部30から、蓄電部41の現在の放電電流値とSOCと温度を取得する。予測部212は、取得された現在の放電電流値とSOCと温度をもとに、走行寿命/放電電流レートマップとSOC補正比率と温度補正比率を参照して、現在の運転状況に応じた電動車両3の走行寿命を予測する。現在の放電電流値に加えて、SOCの使用範囲と温度を考慮することにより、走行寿命をさらに高精度に予測することができる。
【0088】
図9(a)-(b)、
図11に示す例では、予測走行寿命を運転者に報知するための画面インターフェースデザインとして、走行寿命の基準を示す目盛りと、現在の運転状況に応じて伸縮する走行寿命を示すバーを表示した。予測走行寿命を運転者に報知するための画面インターフェースデザインは、バー表示に限るものではない。例えば、走行寿命の基準を示す目盛りを円状に配置し、現在の運転状況に応じて時計回りまたは反時計回りに回転する指針を表示してもよい。また予測走行寿命年数または予測走行寿命距離を示す数値をデジタルで表示してもよい。また、数値を示さずに予測走行寿命に応じたマークまたは文字を表示してもよい。例えば、会社が設定した走行寿命の最低ラインを下回っている場合、ネガティブなマークを表示し、当該最低ラインを上回っている場合、ポジティブなマークを表示する。また当該最低ラインを下回っている場合、「bad」を表示し、当該最低ラインを上回っている場合、「good」を表示してもよい。
【0089】
なお、実施の形態は、以下の項目によって特定されてもよい。
【0090】
[項目1]
電動車両(3)に搭載される車載報知装置(20)であって、
前記電動車両(3)内の走行用モータ(34)へ、前記電動車両(3)内の二次電池(E1-En)から放電されている放電電流値を取得する取得部(211)と、
前記取得部(211)により取得された放電電流値に応じて、前記電動車両(3)の運転者による現在の運転状況が、前記二次電池(E1-En)の劣化に与える影響を示す情報を、前記運転者に報知する報知部(23)と、
を備えることを特徴とする車載報知装置(20)。
これによれば、運転者による自由な運転操作を確保しつつ、二次電池(E1-En)の劣化抑制を図ることができる。
[項目2]
前記二次電池(E1-En)の車載電池としての寿命に対応した前記電動車両(3)の走行寿命と、前記二次電池(E1-En)の放電電流レートとの関係を規定したマップまたは関数と、前記取得部(211)により取得された放電電流値をもとに、前記電動車両(3)の走行寿命を予測する予測部(212)をさらに備え、
前記報知部(23)は、前記予測部(212)により予測された前記電動車両(3)の走行寿命に応じた情報を、前記運転者に報知することを特徴とする項目1に記載の車載報知装置(20)。
これによれば、現在の放電電流値をもとに、電動車両(3)の走行寿命を高精度に予測することができる。
[項目3]
前記取得部(211)は、前記二次電池(E1-En)のSOC(State OfCharge)をさらに取得し、
前記予測部(212)は、前記二次電池(E1-En)の放電電流値とSOCの使用範囲をもとに、前記電動車両(3)の走行寿命を予測することを特徴とする項目2に記載の車載報知装置(20)。
これによれば、現在の放電電流値とSOCの使用範囲をもとに、電動車両(3)の走行寿命をさらに高精度に予測することができる。
[項目4]
前記取得部(211)は、前記二次電池(E1-En)のSOCと温度をさらに取得し、
前記予測部(212)は、前記二次電池(E1-En)の放電電流値とSOCの使用範囲と温度をもとに、前記電動車両(3)の走行寿命を予測することを特徴とする項目2に記載の車載報知装置(20)。
これによれば、現在の放電電流値とSOCの使用範囲と温度をもとに、電動車両(3)の走行寿命をさらに高精度に予測することができる。
[項目5]
前記報知部(23)は、表示部(231)を有し、
前記表示部(231)は、前記予測部(212)により予測された前記電動車両(3)の走行寿命に応じた画像を表示することを特徴とする項目2から4のいずれか1項に記載の車載報知装置(20)。
これによれば、現在の運転状況に応じた電動車両(3)の走行寿命を運転者に画像で伝えることができる。
[項目6]
前記予測部(212)は、前記電動車両(3)の走行寿命を、走行寿命年数または走行寿命距離で予測し、
前記表示部(231)は、前記電動車両(3)の走行寿命年数または走行寿命距離の基準を示す目盛りと、現在の放電電流値をもとに予測される前記電動車両(3)の走行寿命年数または走行寿命距離を示すバーを画面に表示させることを特徴とする項目5に記載の車載報知装置(20)。
これによれば、現在の運転状況に応じた電動車両(3)の走行寿命を運転者に実感させることができる。
[項目7]
前記報知部(23)は、音声出力部(232)を有し、
前記音声出力部(232)は、前記予測部(212)により予測された前記電動車両(3)の走行寿命に応じたメッセージを音声出力することを特徴とする項目2から6のいずれか1項に記載の車載報知装置(20)。
これによれば、現在の運転状況に応じた電動車両(3)の走行寿命を運転者に音声で伝えることができ、運転者の視線移動を必要としない。
[項目8]
前記運転者の運転操作に基づく前記二次電池(E1-En)の電流推移を記録する記録部(222)をさらに備えることを特徴とする項目1から7のいずれか1項に記載の車載報知装置(20)。
これによれば、運転者の運転操作を評価するためのデータとして使用することができる。
[項目9]
電動車両(3)内の走行用モータ(34)へ、前記電動車両(3)内の二次電池(E1-En)から放電されている放電電流値を取得する処理と、
取得された放電電流値に応じて、前記電動車両(3)の運転者による現在の運転状況が、前記二次電池(E1-En)の劣化に与える影響を示す情報を、前記運転者に報知する処理と、
をコンピュータに実行させることを特徴とする報知プログラム。
これによれば、運転者による自由な運転操作を確保しつつ、二次電池(E1-En)の劣化抑制を図ることができる。
[項目10]
電動車両(3)の複数の走行データから複数の1日の平均放電電流レートを算出し、
前記複数の1日の平均放電電流レートと、前記電動車両(3)に搭載すべき二次電池(E1-En)の劣化速度特性をもとに、前記二次電池(E1-En)の車載電池として寿命に対応した前記電動車両(3)の走行寿命と、前記二次電池(E1-En)の1日の平均放電電流レートとの関係を規定したマップまたは関数を算出する、
ことを特徴とする演算装置(20)。
これによれば、電動車両(3)の走行中の放電電流値をもとに、電動車両(3)の走行寿命を高精度に予測することができる。
【符号の説明】
【0091】
3 電動車両、 4 充電器、 5 商用電力系統、 10 演算装置、 11 処理部、 111 走行データ取得部、 112 平均放電電流レート算出部、 113 走行シミュレート部、 114 走行寿命/放電電流レートマップ生成部、 12 記録部、 121 保存劣化速度特性マップ、 122 充電サイクル劣化速度特性マップ、 123 放電サイクル劣化速度特性マップ、 20 車載報知装置、 21 処理部、 211 取得部、 212 予測部、 213 書込部、 214 外部通信部、 22 記録部、 221 走行寿命/放電電流レートマップ、 222 走行データ記録部、 23 報知部、 231 表示部、 232 音声出力部、 30 車両制御部、 31f 前輪、 31r 後輪、 32f 前輪軸、 32r 後輪軸、 33 変速機、 34 モータ、 35 インバータ、 36 無線通信部、 36a アンテナ、 37 センサ部、 371 車速センサ、 372 GPSセンサ、 373 ジャイロセンサ、 38 充電ケーブル、 40 電源システム、 41 蓄電部、 42 管理部、 43 電圧計測部、 44 温度計測部、 45 電流計測部、 46 蓄電制御部、 E1-En セル、 RY1,RY2 リレー、 T1,T2 温度センサ、 Rs シャント抵抗。