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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-14
(45)【発行日】2024-06-24
(54)【発明の名称】前処理機構一体型核酸分析装置
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20240617BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALI20240617BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C12Q1/68
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022546743
(86)(22)【出願日】2020-09-01
(86)【国際出願番号】 JP2020033079
(87)【国際公開番号】W WO2022049626
(87)【国際公開日】2022-03-10
【審査請求日】2023-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】石塚 隼司
(72)【発明者】
【氏名】三山 敏史
(72)【発明者】
【氏名】小野 雪夫
【審査官】野村 英雄
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/014367(WO,A1)
【文献】特開2006-345714(JP,A)
【文献】特開2005-333824(JP,A)
【文献】特開2014-020779(JP,A)
【文献】特開2016-202094(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00- 3/10
C12Q 1/00- 3/00
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体を分析する分析部と、前記検体を前処理し、前処理した前記検体を前記分析部に移動させる前処理部と、を有する前処理機構一体型核酸分析装置において、
前記前処理部は、
流動体を分注する分注機と、
部材を把持する把持機構と、
前記把持機構を平面方向、上下方向及び回転方向に移動させる搬送機構と、
前記前処理部の動作を制御する制御用PCと
を備え
前記搬送機構は、X軸方向移動機構と、Y軸方向移動機構と、Z軸方向移動機構と、θ軸移動機構とを有し、前記把持機構は、前記制御用PCの制御により、前記X軸方向移動機構および前記Y軸方向移動機構により前記平面方向に移動され、前記Z軸方向移動機構により前記上下方向に移動され、前記θ軸移動機構により前記回転方向に移動され、前記把持機構により前記部材を把持させ、把持された部材を搬送先へ移動させ、移動させる設置位置に応じて前記部材を前記θ軸移動機構により回転させて、前記設置位置に配置させることを特徴とする前処理機構一体型核酸分析装置。
【請求項2】
請求項に記載の前処理機構一体型核酸分析装置において、
前記θ軸移動機構は、前記Z軸方向移動機構が有するZ軸方向に延びるZ軸に支持されていることを特徴とする前処理機構一体型核酸分析装置。
【請求項3】
請求項に記載の前処理機構一体型核酸分析装置において、
前記把持機構が移動する領域は、前記X軸方向移動機構及び前記Y軸方向移動機構の移動範囲よりも大きく、前記分注機のアクセス領域の外側にアクセスできることを特徴とする前処理機構一体型核酸分析装置。
【請求項4】
請求項に記載の前処理機構一体型核酸分析装置において、
前記θ軸移動機構は、前記把持機構を回転させる把持機構回転アクチュエータであり、
前記把持機構は、
前記部材を把持するための、互いに対向する2つのアームを有するグリップアームと、
前記グリップアームの前記2つのアームを駆動するグリップアームアクチュエータと、
前記グリップアームアクチュエータと連動して動き、前記2つのアームを同時に駆動する並進部と、
前記並進部と前記2つのアームをつなぐ弾性体と、
を有することを特徴とする前処理機構一体型核酸分析装置。
【請求項5】
請求項に記載の前処理機構一体型核酸分析装置において、
前記2つのアームを互いに結ぶ直線の延長線は、前記Z軸方向と直交することを特徴とする前処理機構一体型核酸分析装置。
【請求項6】
請求項1に記載の前処理機構一体型核酸分析装置において、
前記前処理部は、
温調反応を行うために加熱及び冷却を行う温調機構と、
前記検体が固定される磁性ビーズを集磁するためのマグネット部と、
前記検体が導入されるフローセルと、
前記フローセルに前記検体を導入するために、前記フローセルを保持する保持部と、
を備えることを特徴とする前処理機構一体型核酸分析装置。
【請求項7】
請求項に記載の前処理機構一体型核酸分析装置において、
前記分析部は、
前記フローセル内の前記検体を光学的に検出するための光源ユニット及び光学ユニットと、
前記フローセルを搭載し搬送するステージユニットと、
を備えることを特徴とする前処理機構一体型核酸分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNA等の生体物質を分析する生体分析装置に関する。特に、分析対象とするDNAを装置で分析するために実施する前処理工程を行う装置に係る。
【背景技術】
【0002】
ゲノム医療が本格的にスタートし、がん遺伝子パネル診断薬が保険適用された。がん遺伝子パネル診断で用いられる遺伝子プロファイリング検査とは、がん患者から採取した血液や病理検体から核酸を抽出し、遺伝子変異検査キット試薬を用いて、次世代DNAシーケンサで網羅的に解析するものである。
【0003】
解析された結果に基づいて、医師、病理医、バイオインフォマティシャン、薬剤師などの専門家集団により治療方針が決定された後に、患者に合った抗がん剤、分子標的薬、若しくは免疫チェックポイント阻害剤が提供される。
【0004】
しかしながら、遺伝子パネル検査には高額な費用が掛かることに加えて、一人の患者が保険適用内で使用できる回数は1回のみであることから、検査はすべて成功することが求められる。その一方で、現状は10~20%の検体が解析結果不良となっている。
【0005】
核酸サンプルの前処理工程は種々存在する。前処理工程では、試薬の分注、サーマルサイクラによる核酸サンプルの増幅、DNAの精製などであり、一部の操作を除いて基本的には用手で行われている。これらの一連の工程はステップ数が多く、専門の知識を有することもあり、テクニシャンの習熟度に依存しないように自動化のニーズが高まっている。
【0006】
既に市販されている前処理自動化装置は、種々の工程を行うユニットやユニット間でプレートを移動するためのグリッパ、試薬を分注するための分注機などのため、一般には大型の装置になっている。
【0007】
一方で、次世代シーケンサにおいては、前処理を行った分析対象となるDNA断片を基板に数多く固定して、これら数多くのDNA断片の塩基配列をパラレルに決定する。
【0008】
非特許文献1は、蛍光検出に基づいた次世代DNAシーケンサのDNA解読技術を開示している。フローセルと呼ばれる反応容器内には、増幅処理により同一のDNA断片が複数密集したクラスタが高密度に配置されている。4種類の蛍光体で標識された4種塩基(A、T、G、C)を含む溶液がフローセルに導入されると、DNA断片に相補的な塩基がポリメラーゼの伸長反応により取り込まれる。
【0009】
蛍光標識塩基の末端には、伸長反応を阻害するための官能基(ターミネータ)が修飾されているため、DNA断片あたり1塩基より多くは取り込まれない。伸長反応後、余分な浮遊塩基を洗い流して、反応スポットから発せられる蛍光を蛍光スポットとして検出し、色の違いによって蛍光体種を同定する。蛍光検出後、化学反応によりDNA断片上のターミネータと蛍光体を解離させて、次の塩基が取り込まれる状態にする。
【0010】
以上の伸長反応・蛍光検出・ターミネータ解離を逐次的に繰り返すことで、DNA断片の配列を100塩基程度解読する。
【0011】
特許文献1では、フローセルの中に試料となるDNA断片を固定した多数のビーズを配置して、前記フローセルへ試薬を供給し、塩基の伸長反応に伴って発生する蛍光信号を検出して、試料の塩基配列を解析する方法が示されている。
【0012】
前処理一体型の核酸分析装置では、フローセルへ前処理工程を終えたDNA断片を導入し、シーケンスを実施する分析装置部に搬送を行う必要がある。フローセルへの導入やシーケンスを行う装置への搬送という作業は現在、用手にて実施されており、前処理工程の自動化に合わせ、自動で搬送を行うことも求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特表2008-528040号公報
【非特許文献】
【0014】
【文献】D. R. Bentley et al., Accurate whole human genome sequencing using reversible terminator chemistry, Nature 456, p.53-59(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
前処理工程は反応試薬の分注と混合、PCR反応などの温調プロセスなど種々のプロセスを行う必要がある。前処理工程の自動化を行うためには、試薬の分注を行うための分注機やPCR反応などを実施するための温調機構、各機構間でサンプルの入ったプレート等を搬送する搬送機構、試薬を分注する際に使用するチップなどを搭載する必要がある。
【0016】
前処理自動化装置に搭載される搬送機構として、一般的にXYZ駆動機構を行うロボットアームと搬送対象であるプレート等を把持するグリップ機構が搭載される。
【0017】
搬送対象を把持するためのグリッパはZ軸の軸下についており、グリッパにて把持可能な領域、搬送可能な範囲はXY軸を駆動するための駆動機構のストロークで決められる。そのため、グリッパでアクセス可能な領域を広くする場合には、XY駆動用の駆動機構を大きくする必要がある。
【0018】
前処理一体型の核酸分析装置では、搬送機構は通常の前処理工程を実施する範囲に加えて分析を行う部分へフローセル等の観察対象を搬送するため、搬送機構がアクセスする範囲が広くなる。
【0019】
前処理一体型の核酸分析装置では、搬送機構用の駆動機構が大きくなり、装置全体として大型化する。
【0020】
そのため、前処理一体型の核酸分析装置の大型化を抑制しながら、搬送機構のアクセス可能な範囲を広くする技術が求められている。
【0021】
本発明の目的は、装置の大型化を抑制しながら、搬送機構のアクセス可能な範囲を広くすることが可能な前処理一体型核酸分析装置を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記目的を達成するため、本発明は、以下のように構成される。
【0023】
検体を分析する分析部と、前記検体を前処理し、前処理した前記検体を前記分析部に移動させる前処理部と、を有する前処理機構一体型核酸分析装置において、前記前処理部は、流動体を分注する分注機と、部材を把持する把持機構と、前記把持機構を平面方向、上下方向及び回転方向に移動させる搬送機構と、前記前処理部の動作を制御する制御用PCと、を備え、前記搬送機構は、X軸方向移動機構と、Y軸方向移動機構と、Z軸方向移動機構と、θ軸移動機構とを有し、前記把持機構は、前記制御用PCの制御により、前記X軸方向移動機構および前記Y軸方向移動機構により前記平面方向に移動され、前記Z軸方向移動機構により前記上下方向に移動され、前記θ軸移動機構により前記回転方向に移動され、前記把持機構により前記部材を把持させ、把持された部材を搬送先へ移動させ、移動させる設置位置に応じて前記部材を前記θ軸移動機構により回転させて、前記設置位置に配置させる。

【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、装置の大型化を抑制しながら、搬送機構のアクセス可能な範囲を広くすることが可能な前処理一体型核酸分析装置を実現することができる。
【0025】
上記以外の課題、構成及び効果は、以下の実施の形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の実施例に係る前処理機構一体型核酸分析装置の概略を示す模式図である。
図2A】本発明の実施例に係る前処理一体型核酸分析装置の前処理部に搭載している分注機アクチュエータ及びグリッパを示す模式図である。
図2B】本発明の実施例に係る前処理一体型核酸分析装置の前処理部に搭載している分注機アクチュエータ及びグリッパを示す模式図である。
図3】本実施例に係る前処理機構一体型核酸分析装置に搭載される搬送機構の模式図である。
図4A】本発明の実施例に係る前処理機構一体型核酸分析装置に搭載されるグリッパの機構の模式図である。
図4B】本発明の実施例に係る前処理機構一体型核酸分析装置に搭載されるグリッパの機構の模式図である。
図5】本発明の実施例に係る前処理機構一体型核酸分析装置の前処理部の詳細模式図である。
図6A】本発明の実施例における試薬混合ユニットからサーマルサイクラへプレートを搬送する際の動作を説明する図である。
図6B】本発明の実施例における試薬混合ユニットからサーマルサイクラへプレートを搬送する際の動作を説明する図である。
図7A】本発明の実施例における空のチップラックを空ラック置き場に搬送する際の動作の説明図である。
図7B】本発明の実施例における空のチップラックを空ラック置き場に搬送する際の動作の説明図である。
図8】本発明の実施例に係る前処理機構一体型核酸分析装置に搭載されるフローセルの概略構成図である。
図9】本発明の実施例におけるステージユニットにフローセルを設置する際の説明図である。
図10】本発明の実施例における搬送機構によりフローセルをステージユニットに設置する際のグリッパの動作説明図である。
図11A】冷却部の概略平面図である。
図11B】冷却部の概略側面図である。
図12A】マグネット部の概略平面図である。
図12B】マグネット部の概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、図面を参照しながら本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0028】
実施形態の構成要素を形成するための工程及び構成品などは、以下の記載に限定されない。また、構成要素の形状及び機能について言及する場合においては、特に明示した場合を除き、その構成要素の形状及び配置に類似する形状又は機能を有するものを含む。また、構成要素を一部変更しても、主たる機能が失われるものでなければ、その構成品については変更前と同等とみなす。
【0029】
本発明の前処理一体型核酸分析装置は、フローセルを用いて、DNA配列(DNAシーケンス)の決定などの種々の分析を行うことが可能である。病理切片等から抽出された遺伝子を装置にセットすることにより、自動でDNAシーケンスに必要な前処理を実施し、観察を行うためのフローセルへのDNA断片の導入、シーケンサによるDNAシーケンスを行うことが可能である。
【実施例
【0030】
図1は、本発明の実施例に係る前処理機構一体型核酸分析装置の概略を示す模式図である。
【0031】
図1において、前処理機構一体型核酸分析装置100は、蛍光色素等を励起するための光源ユニット101と、反応用の試薬を保管するための試薬保管ユニット102と、観察対象を搬送するためのステージユニット103と、蛍光を検出するための光学ユニット112と、を有する分析部を備える。
【0032】
また、前処理機構一体型核酸分析装置100は、測定サンプル(測定試料、生体試料及び検体と同義である)を前処理するための前処理用機構105と、前処理用機構105において試薬をハンドリングするための分注ユニット106と、測定サンプルをローディングするフローセル800と、フローセル800に測定用のDNA断片(検体)を導入するためのローディングユニット109と、グリッパユニット110と、を有する前処理部200(図2Aに示す)を備える。
【0033】
グリッパユニット110は、前処理部200内で搬送を行う。分注ユニット106は、分注機構アクチュエータ107により駆動され、グリッパユニット110は、グリッパ用アクチュエータ111による駆動される。
【0034】
上述した分析部及び前処理部200の動作は、制御用PC104により制御される。
【0035】
光源ユニット101、ステージユニット103及び光学ユニット112は外部からの振動があっても、ステージユニット103と光学ユニット112との間の位置関係が保たれるように除振台の上に設置されている。
【0036】
試薬保管ユニット102は、ペルチェ素子1103(後述する)を用いた冷却部1000(後述する)を備えており、シーケンスに用いる試薬が入った試薬ボトルを複数搭載可能である。図示していないが、試薬保管ユニット102内に搭載されている試薬ボトルにはチューブが接続されている。各試薬ボトルに接続されているチューブは、二方弁、三方弁、ロータリーバルブなどで接続されステージユニット103に接続されている。
【0037】
ステージユニット103のフローセル800を搭載する場所には注入口があり、フローセル800の流入孔と接続する。フローセル800の流出孔は廃液タンクと接続するチューブに接続している。フローセル800の流出孔に接続しているチューブには途中にシリンジが備えられており、シリンジを操作することにより試薬保管ユニット102に搭載されている試薬をフローセル800内に流し、シーケンスに必要な種々の反応を行う。
【0038】
分析対象となるDNAなどの生体物質、前処理に必要な試薬およびフローセル800は前処理用機構105内にセットされる。前処理用機構105内にセットされた生体物質は前処理部200にて前処理用の試薬を用いて、分析に必要な処理を実施される。
【0039】
前処理が完了した生体物質(検体)は、前処理部200に備えている分注ユニット106を用いて、フローセル800に導入される。フローセル800は、ローディグユニット(保持部)109に保持され、その状態で検体が導入される。
【0040】
その後、フローセル800は前処理部200に備えているグリッパユニット110にて分析部のステージユニット103に搭載され、分析部にてシーケンスが行われる。
【0041】
図2A及び図2Bは、本発明の実施例に係る前処理一体型核酸分析装置の前処理部200に搭載している分注機アクチュエータ(201、202、203)及びグリッパ(把持機構)209を示す模式図であり、前処理部200の上面を示している。
【0042】
図2Aにおいて、前処理部200には、検体や試薬等の流動体をハンドリングする(分注する)ための分注機204と、分注機204を駆動するための分注機X軸アクチュエータ201と、分注機Y軸アクチュエータ202と、分注機Z軸アクチュエータ203と、後述するプレートやチップラック、フローセル800を搬送するためのグリッパ209と、グリッパ209を駆動するためのグリッパX軸アクチュエータ205と、グリッパY軸アクチュエータ206と、グリッパZ軸アクチュエータ207と、グリッパθ軸アクチュエータ(θ軸移動機構(把持機構回転アクチュエータ))208と、を備える。
【0043】
グリッパX軸アクチュエータ205及びグリッパY軸アクチュエータ206により、グリッパ209が平面方向に移動され、グリッパZ軸アクチュエータ207により、グリッパ209が上下方向に移動される。また、グリッパθ軸アクチュエータ208により、グリッパ209が回転方向に移動される。
【0044】
分注機204は、複数の検体の同時処理を可能とするため、複数台搭載しており、それぞれ独立に分注動作の制御が可能である。分注機204としては例えばシリンダ駆動による空気圧方式の電動ピペッタとすることができる。図示は省略しているが、分注機204には分注動作(吸引動作及び吐出動作)に必要な分注機構が内蔵され、分注機構はプランジャが内蔵されるシリンダ、プランジャを往復摺動させるためのモータなどを有する。
【0045】
また、複数台搭載されている分注機204は並べて配置されており、米国規格協会(ANSI)と生体分子化学規格協会(SBS)によって規定されている標準寸法を持つプレートやチューブに合わせて吸引、吐出動作が実施できるように配置されている。
【0046】
また、分注機204は例えば静電容量式の液面検知を備えており、試薬の吸引動作時に液面を検知したことを分注機Z軸アクチュエータ203の制御にフィードバックを行う。分注機204は液面検知後に指定量だけZ軸方向に下降し、試薬の吸引動作を行う。分注機Z軸アクチュエータ203は、分注機204の吸引動作に連動して駆動する。
【0047】
本動作により、吸引先の試薬量が少ない場合においても、規定量の吸引が可能となる。試薬の吐出時には、試薬の吸引時と同様に液面検知を行ったのち、吐出する液体に合わせてZ軸を上昇もしくは下降させた後、吐出動作を実施する。本動作により、吐出後の溶液中に気泡が混入することを防止する。
【0048】
各分注機械XYZ軸アクチュエータ201、202、203としては、例えばベルト駆動の電動アクチュエータとすることができる。図示は省略しているが、各軸のアクチュエータには駆動に必要なモータなどを有する。また、各軸の原点を検知できるようにPIセンサ、移動精度を確認するためのエンコーダを有する。
【0049】
分注機204とグリッパ209をそれぞれ駆動する各軸は互いに異なる原点を持っている。例えば、図2Aに示すように、分注機204の原点は左上側、グリッパ209の原点は右上側である。また、分注機204とグリッパ209の位置は常にモニタリングされており、互いが衝突しないように制御されている。
【0050】
本実施例に係る前処理機構一体型核酸分析装置100では、サンプル間のコンタミ等を防止するため、ディスポーザブルチップを用いる。分注機204は、分注機X軸アクチュエータ201と分注機Y軸アクチュエータ202によりチップラックが保管される位置移動する。その後、分注機Z軸アクチュエータ203を駆動することにより下降し、チップの装着を行う。チップを装着した後、分注機Z軸アクチュエータ203を駆動し、他ユニットと干渉しない高さの位置まで上昇し、分注機X軸アクチュエータ201と分注機Y軸アクチュエータ202により、試薬保管部等の試薬吸引位置に移動する。
【0051】
分注機204は、図2Aの分注機稼働範囲210に示される範囲内を駆動し、チップの着脱、試薬の吸引吐出等の動作を実施する。分注機稼働範囲210は、前処理部200の上面内に位置している。
【0052】
図3は、本実施例に係る前処理機構一体型核酸分析装置100に搭載される搬送機構の模式図である。搬送機構は、グリッパX軸アクチュエータ205、グリッパY軸アクチュエータ206、グリッパZ軸アクチュエータ207及びグリッパθ軸アクチュエータ208を有する。
【0053】
図3において、グリッパ209用のグリッパθ軸アクチュエータ208は、グリッパZ軸アクチュエータ207が有するZ軸方向に延びるZ軸に支持され、同軸上に配置される。把持動作を行うグリッパ209はグリッパZ軸アクチュエータ207及びグリッパθ軸アクチュエータ208の軸と直交し、グリッパX軸アクチュエータ205とグリッパY軸アクチュエータ206により駆動される駆動面に対して平行な面上に配置される。
【0054】
グリッパ209は、グリッパX軸アクチュエータ205とグリッパY軸アクチュエータ206により、指定位置に移動した後、把持対象の向きに合わせてグリッパθ軸アクチュエータ208により回転移動される。その後、グリッパ209は、グリッパZ軸アクチュエータ207により把持位置まで降下され、把持対象の把持を行う。
【0055】
グリッパ209は、移動先においても同様に、把持対象の設置向きに合わせて回転を行う。グリッパX軸アクチュエータ205とグリッパY軸アクチュエータ206による平面駆動、グリッパθ軸アクチュエータ208による回転駆動により、図2Bに示すグリッパ稼働範囲211に示される範囲内にて、搬送動作が可能である。グリッパ稼働範囲211は、分注機稼働範囲210より広い範囲となっている。つまり、把持機構であるグリッパ209が移動する領域は、X軸方向移動機構であるグリッパX軸アクチュエータ205及びY軸方向移動機構であるグリッパY軸アクチュエータ206の移動範囲よりも大きく、分注機204のアクセス領域の外側にアクセスすることができる。
【0056】
これは、グリッパ209が回転駆動可能となっているため、分注機稼働範囲210を越えた領域まで移動可能となっているからである。
【0057】
本実施例に係る前処理機構一体型核酸分析装置100では、搬送機構は分注機用のチップが入っているチップラック、試薬の混合を行うためのウェルプレート、前処理後の生体物質を導入するフローセルを搬送する。
【0058】
図4A及び図4Bは、本実施例に係る前処理機構一体型核酸分析装置100に搭載されるグリッパ209の機構の模式図である。
【0059】
図4A及び図4Bにおいて、グリッパ209は、プレートやフローセル等を把持するためのグリップアーム302と、グリップアーム302を駆動するためのグリップアームアクチュエータ301と、グリップアームアクチュエータ301と連動して動く並進部303と、並進部303とグリップアーム302をつなぐ弾性体305と、並進部303をグリップアームアクチュエータ301で動かすためのねじ機構304と、を備える。
【0060】
グリッパθ軸アクチュエータ208は、グリッパ209を回転させ、向ききを変えるためのθ回転軸208Aを備えている。グリップアーム302は、互いに対向する2つのアームを有する。並進部303は、グリップアーム302の2つのアームを同時に駆動する部材である。グリップアーム302の2つのアームを互いに結ぶ直線の延長線は、Z軸方向と直交する
ねじ機構304は中央部でねじ山の向きが逆向きになっており、ねじ機構304の両側に配置している並進部303を一つのグリップアームアクチュエータ301で駆動可能な構成となっている。グリップアーム302は、弾性体305により、並進部303と連結しており、並進部303に合わせて駆動する。
【0061】
グリッパ209がグリッパX軸アクチュエータ205とグリッパY軸アクチュエータ206とグリッパθ軸アクチュエータ208により把持対象の上部に移動した後、グリップアームアクチュエータ301によりねじ機構304が駆動される。ねじ機構304の駆動により、並進部303間の間隔が広がる。並進部303が動くと、弾性体305を通じてグリップアーム302間の間隔が広がる方向に動く。
【0062】
グリップアーム302間の間隔が規定の幅に広がった後、グリッパZ軸アクチュエータ207が駆動し、把持対象の側面にグリップアーム302が到達する位置まで下降する。その後、グリップアームアクチュエータ301によりねじ機構304を逆回転し、グリップアーム302間の間隔が狭くなる方向に駆動する。対象の把持方向の幅に応じて、グリップアームアクチュエータ301はねじ機構304の駆動量を調整することで、対象の把持を行う。
【0063】
グリッパ209が把持対象の把持を行った後、グリッパZ軸アクチュエータ207を駆動し、他ユニットと干渉しない位置まで上昇し、グリッパX軸アクチュエータ205とグリッパY軸アクチュエータ206とグリッパθ軸アクチュエータ208により搬送先に移動する。
【0064】
図5は本実施例に係る前処理機構一体型核酸分析装置100の前処理部200の詳細模式図である。図5は、図2A及び図2Bより前処理部200を詳細に示している。
【0065】
図5において、前処理部200には、PCR反応などの温調反応を行うために加熱及び冷却を行うサーマルサイクラ(温調機構)501と、フローセル800に前処理が完了した測定サンプルをローディングするためのローディングユニット109と、試薬や測定サンプルを混合するための試薬混合ユニット502と、分注に使用するチップを保持するチップラック503と、前処理に用いる試薬を保管する試薬保管ユニット504と、精製工程を行う精製ユニット505と、精製後の濃度定量を実施する検出ユニット506と、検体が固定される磁性ビーズを集磁するための09をマグネットプレート(マグネット部)507と、を備える。
【0066】
試薬混合ユニット502及び試薬保管ユニット504は、後述するペルチェ素子1103と、空冷用のヒートシンク1104と、空冷ファン1101と、冷却ブロック1102と、を備え、一定温度に温調をされている。
【0067】
冷却ブロック1102は、米国規格協会(ANSI)と生体分子化学規格協会(SBS)によって規定されている標準寸法を持つプレートやチューブを設置可能な穴が形成されたブロックである。チップラック503は、図示は省略しているが、上下方向に駆動可能な平面上に配置されており、縦方向に複数個のチップが積載されている。
【0068】
前処理用の試薬は、試薬保管ユニット504上に設置され、分注機204によって試薬を試薬混合ユニット502に設置されたプレートに分注を行う。試薬を分注されたプレートは分注機204もしくはシェーカ(図示していない)により、攪拌・混合される。
【0069】
攪拌後、プレートはグリッパ209により把持され、サーマルサイクラ501に搬送される。サーマルサイクラ501にも試薬混合ユニット502及び試薬保管ユニット504と同様にプレート底面の形状に合わせた溝を持つブロックを備えている。
【0070】
サーマルサイクラ501は、例えば、ボールねじにより駆動するスライド式の蓋を備えている。サーマルサイクラ501にプレートを移動後、必要に応じて蒸発防止用の蓋をのせ、サーマルサイクラ501の蓋を閉じる。サーマルサイクラ501の蓋にはヒーターが内蔵されており、PCRなどの温調反応を実施している間、プレート上面を高温状態にし、蒸発等による反応効率の低下や反応液量の減少を防止する。
【0071】
プレートは、一般的に長方形の形状である。また、前処理部200に搭載する試薬混合ユニット502やサーマルサイクラ501は、プレートの形状に合ったブロックを持っているため、各部品はプレートの設置方向が同一になるように配置されるのが一般的である。
【0072】
本実施例では、グリッパ209の駆動機構に回転軸を有するため、プレートの移動先の各部品のプレート設置方向を合わせる必要がない。
【0073】
図6A及び図6Bは、本実施例における試薬混合ユニット502からサーマルサイクラ501へプレートを搬送する際の動作を説明する図である。
【0074】
図6A及び図6Bに示すように、本実施例に係る前処理機構一体型核酸分析装置100では、試薬混合ユニット502とサーマルサイクラ501でのプレートの設置向きがそろっていない。図6Aに示すように、試薬の分注が完了した試薬混合ユニット502に設置されている混合用プレート601をグリッパ209により把持する。
【0075】
その後、図6Bに示すように、グリッパX軸アクチュエータ205とグリッパY軸アクチュエータ206にて、グリッパ209は、搬送先へ移動するとともに、グリッパθ軸アクチュエータ208にてグリッパ209の向きを90°回転させる。
【0076】
本動作により、搬送を行うユニット間でプレートの設置方向をそろえる必要がなく、各ユニットの形状に合わせて、省スペースにユニットを配置することが可能となる。
【0077】
本発明に係る前処理機構一体型核酸分析装置100では、ディスポーザブルチップを採用している。チップはチップラック503に横8本縦12列に配置されており、一つのチップラック503に96本入っている。前処理工程では種々の試薬を分注、混合を行う必要がある。そのため、一度の前処理工程を完了するためには複数のチップラック503分のチップが必要となる。
【0078】
図7A及び図7Bは、本実施例における空のチップラック503を空ラック置き場704に搬送する際の動作の説明図である。
【0079】
図7A及び図7Bにおいて、本実施例に係る前処理機構一体型核酸分析装置100では、使用済みのチップラック置き場として、分注機X軸アクチュエータ201とグリッパX軸アクチュエータ205の下方に空ラック置き場704を備えている。
【0080】
前処理機構一体型核酸分析装置100のチップラック台703には、チップラック503を複数個縦方向に積んだ状態で配置を行う。チップを全て使い、空になったチップラック503は、グリッパ209にて把持される。その後、グリッパX軸アクチュエータ205とグリッパY軸アクチュエータ206により空ラック置き場704の近くに移動されるとともに、グリッパθ軸アクチュエータ208にてグリッパ209の向きが180°回転される。180°回転後、再度グリッパX軸アクチュエータ205とグリッパY軸アクチュエータ206を駆動し、前処理機構一体型核酸分析装置100の壁側に配置している空ラック置き場704に空のチップラック503を移動する。
【0081】
そして、図7Bに示す状態となる。なお、チップラック台703に配置されたチップラック503は、チップラック用アクチュエータ702により移動される。
【0082】
図8は、本発明の実施例に係る前処理機構一体型核酸分析装置100に搭載されるフローセル800の概略構成図である。
【0083】
図8において、フローセル800は、二枚のガラス板と中間部材により構成されるガラス基板804と、位置決め用の穴を有するフローセルケース805とから構成される。中間部材の中央部はくりぬかれている。また、ガラス基板804の一枚のガラス板には流入孔802と排出孔803とが形成され、中間部材のくりぬかれた部分と接続することにより、液体が通ることが可能な流路構成をとる。
【0084】
フローセルケース805は、位置決めピンが入る位置決め穴801を複数個備えている。一方、ローディングユニット109及びステージユニット103はフローセルケース805に形成された位置決め穴801に応じて位置決めピンを備えている。
【0085】
図9は、本発明の実施例におけるステージユニット103にフローセル800を設置する際の説明図である。
【0086】
図9において、グリッパ209により把持されたフローセル800はステージユニット103に搬送される。位置決め穴801が位置決めピン901の上部に来るようにグリッパX軸アクチュエータ205とグリッパY軸アクチュエータ206及びグリッパθ軸アクチュエータ208を駆動する。そして、グリッパZ軸アクチュエータ207を駆動し、位置決め穴801に位置決めピン901が刺さるように下降させる。
【0087】
本実施例に係る前処理機構一体型核酸分析装置100では、ローディングユニット109の注入口に対するフローセルの流入孔802の位置、ステージユニット103に対するガラス基板804の設置位置を正確に合わせて設置する必要がある。
【0088】
図10は、本発明の実施例における搬送機構によりフローセル800をステージユニット103に設置する際のグリッパ209の動作説明図である。
【0089】
図10において、位置決めピン901はテーパを備え、フローセルケース805にはガイド部材1001を備えている。グリッパ209が下降していくと、位置決めピン901のテーパ部分とガイド部材1001が接触する。位置決めピン901にテーパがあるため、テーパに沿ってフローセル800は設置されていく。
【0090】
フローセル800のステージユニット103への設置時に平面方向にずれがある場合、位置決めピン901のテーパにそってフローセルケース805が移動する。図10の場合、右方向にフローセルケース805がスライドする。フローセルケース805の移動に合わせてグリップアーム302が移動する。グリップアーム302と並進部303との間の弾性体305が変形することにより、位置決めピン901への挿入時の位置ずれを補正する。
【0091】
図11Aは、冷却部1000の概略平面図であり、図11Bは、冷却部1000の概略側面図である。
【0092】
図11A及び図11Bにおいて、冷却部1000は、空冷ファン1101と、冷却ブロック1102と、ペルチェ素子1103と、ヒートシンク1104とを備える。ペルチェ素子1103は、冷却ブロック1102とヒートシンク1104との間に配置されている。
【0093】
図12Aは、マグネット部507の概略平面図であり、図12Bは、マグネット部507の概略側面図である。
【0094】
図12A及び図12Bにおいて、マグネット部507は、マグネット1201と、マグネットベース1202とを備える。マグネット1201は、マグネットベース1202上に配置されている。
【0095】
以上のように、本発明の実施例によれば、前処理機構一体型核酸分析装置100は、フローセル800等を搬送する搬送機構であるグリッパ209をX軸方向に移動するグリッパX軸アクチュエータ205と、グリッパ209をY軸方向に移動するグリッパY軸アクチュエータ206と、グリッパ209をZ軸方向に移動するグリッパZ軸アクチュエータ207と、を備え、さらに、グリッパ209をθ軸方向に移動するグリッパθ軸アクチュエータ208を備えている。
【0096】
上記構成により、グリッパ209は、X軸方向、Y軸方向、Z軸方向に移動可能であるのみならず、θ軸方向(回転方向)にも移動可能であり、搬送機構であるグリッパ209の移動範囲を拡張することができる。前処理部200によるフローセル等の必要移動範囲を確保した上で、搬送機構(グリッパX軸アクチュエータ205、グリッパY軸アクチュエータ206と、グリッパZ軸アクチュエータ207グリッパθ軸アクチュエータ208、グリッパ209)を小型化することができる。つまり、装置の大型化を抑制しながら、搬送機構のアクセス可能な範囲を広くすることが可能な前処理一体型核酸分析装置を実現することができる。
【符号の説明】
【0097】
100・・・前処理機構一体型核酸分析装置、101・・・光源ユニット、102・・・試薬保管ユニット、103・・・ステージユニット、104・・・制御用PC、105・・・前処理用機構、106・・・分注ユニット、107・・・分注機用アクチュエータ、109・・・ローディングユニット、110・・・グリッパユニット、111・・・グリッパ用アクチュエータ、112・・・光学ユニット、200・・・前処理部、201・・・分注機X軸アクチュエータ、202・・・分注機Y軸アクチュエータ、203・・・分注機Z軸アクチュエータ、204・・・分注機、205・・・グリッパX軸アクチュエータ、206・・・グリッパY軸アクチュエータ、207・・・グリッパZ軸アクチュエータ、208・・・グリッパθ軸アクチュエータ、209・・・グリッパ、210・・・分注機稼働範囲、211・・・グリッパ稼働範囲、301・・・グリップアームアクチュエータ、302・・・グリップアーム、303・・・並進部材、304・・・ねじ機構、305・・・弾性体、501・・・サーマルサイクラ(温調機構)、502・・・試薬混合ユニット、503・・・チップラック、504・・・試薬保管ユニット、505・・・精製ユニット、506・・・検出ユニット、507・・・マグネットプレート(マグネット部)、601・・・混合用プレート、702・・・チップラック用アクチュエータ、703・・・チップラック台、704・・・空ラック置き場、800・・・フローセル、801・・・位置決め穴、802・・・流入孔、803・・・流出孔、804・・・ガラス基板、805・・・フローセルケース、901・・・位置決めピン、1000・・・冷却部、1001・・・ガイド部材、1101・・・空冷ファン、1102・・・冷却ブロック、1103・・・ペルチェ素子、1104・・・ヒートシンク、1201・・・マグネット、1202・・・マグネットベース
図1
図2A
図2B
図3
図4A
図4B
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図8
図9
図10
図11A
図11B
図12A
図12B