(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-19
(45)【発行日】2024-06-27
(54)【発明の名称】バイオ印刷された半月板移植片及びその使用方法
(51)【国際特許分類】
C12M 3/04 20060101AFI20240620BHJP
A61K 35/33 20150101ALI20240620BHJP
A61K 35/32 20150101ALI20240620BHJP
A61K 35/28 20150101ALI20240620BHJP
A61K 35/545 20150101ALI20240620BHJP
A61K 35/44 20150101ALI20240620BHJP
A61K 38/18 20060101ALI20240620BHJP
A61L 27/38 20060101ALI20240620BHJP
A61L 27/40 20060101ALI20240620BHJP
A61L 27/50 20060101ALI20240620BHJP
A61L 27/48 20060101ALI20240620BHJP
A61L 27/54 20060101ALI20240620BHJP
A61L 27/18 20060101ALI20240620BHJP
A61L 27/52 20060101ALI20240620BHJP
A61L 27/22 20060101ALI20240620BHJP
A61L 27/20 20060101ALI20240620BHJP
A61L 27/16 20060101ALI20240620BHJP
A61P 19/08 20060101ALI20240620BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240620BHJP
C12N 5/074 20100101ALN20240620BHJP
C12N 5/0735 20100101ALN20240620BHJP
C12N 5/0775 20100101ALN20240620BHJP
C07K 14/495 20060101ALN20240620BHJP
C07K 14/50 20060101ALN20240620BHJP
C07K 14/49 20060101ALN20240620BHJP
C07K 14/605 20060101ALN20240620BHJP
C07K 14/65 20060101ALN20240620BHJP
C07K 14/635 20060101ALN20240620BHJP
C07K 14/78 20060101ALN20240620BHJP
C12N 9/74 20060101ALN20240620BHJP
C12N 15/11 20060101ALN20240620BHJP
【FI】
C12M3/04 A
A61K35/33
A61K35/32
A61K35/28
A61K35/545
A61K35/44
A61K38/18
A61L27/38 112
A61L27/38 200
A61L27/40
A61L27/50
A61L27/48
A61L27/54
A61L27/18
A61L27/52
A61L27/22
A61L27/20
A61L27/16
A61P19/08
A61P43/00 121
C12N5/074
C12N5/0735
C12N5/0775
C07K14/495
C07K14/50
C07K14/49
C07K14/605
C07K14/65
C07K14/635
C07K14/78
C12N9/74
C12N15/11 Z
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022015635
(22)【出願日】2022-02-03
(62)【分割の表示】P 2018565865の分割
【原出願日】2017-06-16
【審査請求日】2022-02-21
(32)【優先日】2016-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517440553
【氏名又は名称】アスペクト バイオシステムズ リミティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100134784
【氏名又は名称】中村 和美
(72)【発明者】
【氏名】サム ワズワース
(72)【発明者】
【氏名】サイモン バイアー
(72)【発明者】
【氏名】タマー モハメド
(72)【発明者】
【氏名】コンラド ワルス
【審査官】田中 晴絵
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0009029(US,A1)
【文献】国際公開第2014/197999(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/148646(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-3/10
A61L 27/00-27/60
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオ印刷機によって堆積した複数の層を含む合成組織構造物であって、各層が固化した生体適合性マトリックスを含む1つ以上の合成組織線維を含み、前記層の少なくとも1つが、前記少なくとも1つの層内で少なくとも1つの方向で1つ以上の合成組織線維内で種類が変化するマトリックス材料を含み、1つ以上の強化周囲領域を含む、合成組織構造物。
【請求項2】
前記層の少なくとも1つが、前記バイオ印刷機から分配された単一の連続的な合成組織線維を含む、請求項1に記載の合成組織構造物。
【請求項3】
前記層の各々が、少なくとも1つの方向で種類が変化するマトリックス材料を含む、請求項1に記載の合成組織構造物。
【請求項4】
細胞をさらに含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の合成組織構造物。
【請求項5】
前記層の少なくとも1つが、1つ以上の合成組織線維内で少なくとも1つの方向で変化する細胞種類及び/または細胞密度を含む、請求項4に記載の合成組織構造物。
【請求項6】
前記細胞が哺乳動物細胞であり、前記哺乳動物細胞が、線維芽細胞、軟骨細胞、線維軟骨細胞、初期ヒト半月板由来軟骨細胞、幹細胞、骨髄細胞、胚性幹細胞、間葉系幹細胞、骨髄由来間葉系幹細胞、誘導多能性幹細胞、分化幹細胞、組織由来細胞、微小血管内皮細胞、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項3又は4に記載の合成組織構造物。
【請求項7】
1つ以上の活性剤をさらに含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の合成組織構造物。
【請求項8】
前記層の少なくとも1つが、1つ以上の合成組織線維内で少なくとも1つの方向で種類および/または量が変化する1つ以上の活性剤を含む、請求項7に記載の合成組織構造物。
【請求項9】
前記1つ以上の活性剤が、TGF-β1、TGF-β2、TGF-β3、BMP-2、BMP-4、BMP-6、BMP-12、BMP-13、塩基性線維芽細胞成長因子、線維芽細胞成長因子-1、線維芽細胞成長因子-2、血小板由来成長因子-AA、血小板由来成長因子-BB、多血小板血漿、IGF-I、IGF-II、GDF-5、GDF-6、GDF-8、GDF-10、血管内皮細胞由来成長因子、プレイオトロフィン、エンドセリン、ニコチンアミド、グルカゴン様ペプチド-I、グルカゴン様ペプチド-II、副甲状腺ホルモン、テネイシン-C、トロポエラスチン、トロンビン由来ペプチド、ラミニン、細胞結合ドメインを含有する生物学的ペプチド及びヘパリン結合ドメインを含有する生物学的ペプチド、治療剤、ならびにそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される、請求項7または8に記載の合成組織構造物。
【請求項10】
前記合成組織構造物の周囲が、1つ以上の強化マトリックス材料を含む複数の強化アンカー領域を含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の合成組織構造物。
【請求項11】
前記1つ以上の強化周囲領域が、柔らかいマトリックス材料の1つ以上の層と交互に堆積したより高い強度の材料の1つ以上の層を含み、前記柔
らかいマトリックス材料が細胞生存および内方成長を促す材料を含む、請求項1に記載の合成組織構造物。
【請求項12】
前記のより高い強度の材料の1つ以上の層が、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)(PLGA)、ポリウレタン(PU)、それらの任意の組み合わせ、または1つ以上の二重ネットワークヒドロゲルからなる、請求項11に記載の合成組織構造物。
【請求項13】
前記1つ以上の二重ネットワークヒドロゲルが、少なくとも2つの異なったハイドロゲル材料を組み合わせることによって作製される、請求項12に記載の合成組織構造物。
【請求項14】
少なくとも2つの異なったハイドロゲル材料が、アルギネート、ゼラチンメタクリロール(GelMA)、メタクリロイルポリエチレングリコール(PEGMA)、ジェランガム、アガロース、ポリアクリルアミド、またはそれらの任意の組み合わせを含む、請求項13に記載の合成組織構造物。
【請求項15】
前記1つ以上の強化周囲領域が、非毒性色素で染色されている、請求項1に記載の合成組織構造物。
【請求項16】
前記マトリックス材料が、アルギネート、ラミニン、フィブリン、ヒアルロン酸、ポリ(エチレン)グリコール系ゲル、ゼラチン、キトサン、アガロース、またはそれらの組み合わせを含む、請求項1~15のいずれか1項に記載の合成組織構造物。
【請求項17】
前記マトリックス材料がアルギネートを含む、請求項16に記載の合成組織構造物。
【請求項18】
前記固化した生体適合性マトリックスが生理学的に適合性である、請求項1~17のいずれか1項に記載の合成組織構造物。
【請求項19】
前記固化した生体適合性マトリックスが、コラーゲン、フィブロネクチン、トロンボスポンジン、グリコサミノグリカン(GAG)、デオキシリボ核酸(DNA)、接着糖タンパク質、エラスチン、及びそれらの組み合わせのうちの1つ以上を含む、請求項18に記載の合成組織構造物。
【請求項20】
前記コラーゲンが、コラーゲンI、コラーゲンII、コラーゲンIII、コラーゲンIV、コラーゲンV、コラーゲンVI、またはコラーゲンXVIIIである、請求項19に記載の合成組織構造物。
【請求項21】
前記GAGが、ヒアルロン酸、コンドロイチン-6-硫酸、デルマタン硫酸、コンドロイチン-4-硫酸、またはケラチン硫酸である、請求項19に記載の合成組織構造物。
【請求項22】
半月板移植片であって:
少なくとも1つの基礎ゾーン;
少なくとも1つの内部ゾーン;及び
少なくとも1つの表面ゾーン;
を含み、前記ゾーンの少なくとも1つが、固化した生体適合性マトリックスとしてバイオ印刷機から分配された1つ以上の合成組織線維を含む層を含み、前記固化した生体適合性マトリックスのマトリックス材料が、前記層の中央と前記層の周囲との間で1つ以上の合成組織線維内で種類が変化し、前記半月板移植片は、1つ以上の強化周囲領域
及び1つ以上のアンカー領域を更に含む、半月板移植片。
【請求項23】
前記ゾーンの各々が、前記層の前記中央と前記層の前記周囲との間で1つ以上の合成組織線維内で種類が変化するマトリックス材料を含む層を含む、請求項22に記載の半月板移植片。
【請求項24】
前記ゾーンの少なくとも1つの層の周囲領域または前記層の周囲全体が、前記マトリックスから経時的に放出されるように適合された少なくとも1つの活性剤を含む、請求項22に記載の半月板移植片。
【請求項25】
前記ゾーンの各々における各々の層の周囲領域または前記層の各々の周囲全体が、前記マトリックスから経時的に放出されるように適合された少なくとも1つの活性剤を含む、請求項22に記載の半月板移植片。
【請求項26】
前記ゾーンの少なくとも1つの少なくとも1つの層が、複数の活性剤を含む、請求項22~25のいずれか1項に記載の半月板移植片。
【請求項27】
前記ゾーンの各々の前記層の各々が、複数の活性剤を含む、請求項22~26のいずれか1項に記載の半月板移植片。
【請求項28】
前記1つ以上または前記複数の活性剤が、TGF-β1、TGF-β2、TGF-β3、BMP-2、BMP-4、BMP-6、BMP-12、BMP-13、塩基性線維芽細胞成長因子、線維芽細胞成長因子-1、線維芽細胞成長因子-2、血小板由来成長因子-AA、血小板由来成長因子-BB、多血小板血漿、IGF-I、IGF-II、GDF-5、GDF-6、GDF-8、GDF-10、血管内皮細胞由来成長因子、プレイオトロフィン、エンドセリン、ニコチンアミド、グルカゴン様ペプチド-I、グルカゴン様ペプチド-II、副甲状腺ホルモン、テネイシン-C、トロポエラスチン、トロンビン由来ペプチド、ラミニン、細胞結合ドメインを含有する生物学的ペプチド及びヘパリン結合ドメインを含有する生物学的ペプチド、治療剤、ならびにそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される、請求項24~27のいずれか1項に記載の半月移植片。
【請求項29】
前記ゾーンの少なくとも1つが、前記層の
中央と前記層の周囲との間で変化する細胞種類および/または細胞密度を含む層を含む、請求項22~28のいずれか1項に記載の半月移植片。
【請求項30】
前記ゾーンの各々が、前記少なくとも1つの層の
中央と前記少なくとも1つの層の周囲との間で変化する細胞種類および/または細胞密度を含む層を含む、請求項29に記載の半月移植片。
【請求項31】
前記半月板移植片が、前端部、後端部、前記前端部と後端部との間で湾曲した経路を画定するそれらの間の中間部分、内側、及び外側を有する弓形形状を有する、請求項22~30のいずれか1項に記載の半月板移植片。
【請求項32】
前記細胞密度の1以上が、内側から外側に向かって半径方向の様式で増加し、前記マトリックス材料の濃度が内側から外側に向かって半径方向の様式で増加し、前記1つ以上の活性剤の量が内側から外側に向かって半径方向の様式で増加する、請求項31に記載の半月板移植片。
【請求項33】
前記基礎ゾーンが、少なくとも1つのランダムに配向した合成組織線維を含む少なくとも1つの層を含み;
前記内部ゾーンが:
少なくとも1つの周方向に配向した合成組織線維;及び
少なくとも1つの半径方向に配向した合成組織線維;
を含む少なくとも1つの層を含み、
前記表面ゾーンが、少なくとも1つのランダムに配向した合成組織線維を含む少なくとも1つの層を含む、請求項22~32のいずれか1項に記載の半月板移植片。
【請求項34】
前記内部ゾーンが、前記合成組織線維の長手方向と共に整列したコラーゲン線維の堆積を促進するように構成された少なくとも1つの合成組織線維を含む少なくとも1つの層を含む、請求項22~33のいずれか1項に記載の半月板移植片。
【請求項35】
前記固化した生体適合性マトリックスが、生理学的に適合性であり、コラーゲン、フィブロネクチン、トロンボスポンジン、グリコサミノグリカン(GAG)、デオキシリボ核酸(DNA)、接着糖タンパク質、エラスチン、及びそれらの組み合わせのうちの1つ以上を含む、請求項22~
34のいずれか1項に記載の半月板移植片。
【請求項36】
前記1つ以上の強化周囲領域および/または1つ以上のアンカー領域が、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)(PLGA)、ポリウレタン(PU)、それらの任意の組み合わせ、または1つ以上の二重ネットワークヒドロゲルからなる、請求項22に記載の
半月板移植片。
【請求項37】
マトリックス材料の種類が、バイオ印刷機から分配された単一の連続的な合成組織線維
内で少なくとも1つの方向で変化する、請求項3に記載の合成組織構造
物。
【請求項38】
前記層の各々が、前記1つ以上の合成組織線維内で少なくとも1つの方向で
変化する細胞種類および/または細胞密度を含む、請求項4に記載の合成組織構造物。
【請求項39】
前記層の各々が、前記1つ以上の合成組織線維内で少なくとも1つの方向で種類および/または量が変化する1つ以上の活性剤を含む、請求項7に記載の合成組織構造物。
【請求項40】
前記層の各々が、前記層内で少なくとも1つの方向で変化する、マトリックス材料、細胞種類、細胞密度、または活性剤の量を含む、請求項1に記載の合成組織構造物。
【請求項41】
前記合成組織構造物の層の周囲全体が、強化マトリックス材料を含む、請求項1に記載の合成組織構造物。
【請求項42】
前記1つ以上の強化アンカー領域が、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)(PLGA)、ポリウレタン(PU)、それらの任意の組み合わせ、または1つ以上の二重ネットワークヒドロゲルからなる、請求項10に記載の合成組織構造物。
【請求項43】
前記1つ以上の強化アンカー領域が、非毒性色素を更に含む、請求項10に記載の合成組織構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2016年6月16日に出願された米国仮特許出願第62/351,222号の出願日の優先権の利益を主張し、その開示はその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、バイオ印刷機から分配された可変合成組織線維構造を含有する正確にパターニングされた層を含む人工半月板移植片を含む合成組織構造及びそれらの作製及び使用のための方法を提供する。
【背景技術】
【0003】
半月板は、膝関節の最も一般的に損傷する領域の1つであり、米国で負傷の平均発生率が100,000人当たり66人の負傷者である。半月板の完全または部分的な除去は急性疼痛を軽減するが、適切な置換がない場合、半月板の除去は、変形性関節症(OA)につながる膝の関節軟骨の損傷につながり得る。半月板は典型的には不十分な治癒潜在性を示し、現在利用可能な半月板置換の選択肢はいずれも、周囲の組織に成功裏に生着して半月板負傷に対する長期解決策も提供しながら、この特有の組織の必要な耐荷重性及び生体力学的要件を満たしていない。
【0004】
組織工学技術は、無数の材料及び方法を使用して生存器官及び組織を模倣及び/または置換することができる生存可能な合成構造を作製することを長い間模索してきた。歴史的には、細胞及び他の生物学的材料は、所望の構造を付与する予め形成された3次元の足場(足場は好ましくは生分解性またはそうでなければ除去可能である)に播種された。例えば、米国特許第6,773,713号を参照されたい。しかしながら、数十年の開発にもかかわらず、有効な細胞播種及び成長に関してこのアプローチには重要な課題が残っており、その技術は、異なる細胞種類のより複雑な空間配置を含むより複雑な生理学的構造には機能しない。
【0005】
より最近では、デジタルファイルから直接3次元物体を生成するために、付加製造(AM)の一形態である3D印刷が適用されており、その物体は、所望の3次元構造を達成するために層毎に構築される。3D印刷技術を3Dバイオ印刷と呼ばれる細胞構築物及び組織の生成に適合させるための初期の努力もまた、上記の慣例と一致して、細胞材料の直接播種またはその後の印刷とは独立した足場材料の初期印刷に焦点を当てていた。例えば、米国特許第6,139,574号;第7,051,654号;第8,691,274号;第9,005,972号及び第9,301,925号を参照されたい。しかしながら、残念なことに、先行技術の足場を形成するために典型的に用いられるポリマーは、一般に生体適合性であると考えられているが、生理学的適合性ではない。このように、必要な足場の機械的安定性に有利なこのアプローチを用いると細胞生存率を犠牲にする。
【0006】
特に半月板移植片技術では、例えば、Bakarichらは、アルギネート/アクリルアミドゲル前駆体溶液の組み合わせ及びエクスポキシ系UV硬化性接着剤が組み合わされて印刷可能なマトリックス材料を形成するシステムを記載した。ACS Appl.Mater.Interfaces 6:15998-16006(2014)。印刷可能なマトリックス材料を3Dバイオ印刷プロセスで使用して、マトリックス材料の2D層を単独で堆積させ、その後、UV光を層の上に1~5分間通過させてそれを固化させた後、別の層を上に堆積させる。しかしながら、アクリルアミドゲル及びエポキシ系UV硬化性マトリックス成分の非生理学的特質のために、生存細胞をバイオ印刷プロセス中にこのマトリックス材料内に維持することができず、得られる足場は、細胞の成長、分化及び伝達に依然として貢献しない。
【0007】
代替的な3Dバイオ印刷技術はまた、逆のことを強調して記載しており、それは、細胞生存率のために機械的構造及び印刷忠実性が犠牲にされる。これらのバイオ印刷システムは、生体適合性マトリックス内に細胞材料を堆積させることによって合成組織を生成し、そのマトリックスは次いで、堆積後に架橋されてまたはそうでなければ固化されて、固体または半固体組織構造を生成する。例えば、米国特許第9,227,339号;第9,149,952号;第8,931,880号及び第9,315,043号;米国特許公開第2012/0089238号;第2013/0345794号;第2013/0164339号;及び第2014/0287960号を参照されたい。しかしながら、これらのシステムの全てでは、堆積工程と架橋工程との間の時間的な遅れは必ず、印刷された構造の形状、ならびに構造の細胞及びマトリックス組成物の制御不足につながる。その上、細胞生存率は、しばしば、その後の架橋または固化の事象によっていずれの場合でも依然として損なわれる。
【0008】
この問題の1つの例として、Markstedtらは、コラーゲン、ヒアルロン酸、キトサン及びアルギネートなどのヒドロゲルが、ナノフィブリル化セルロースなどの非生理学的強化用線維材料と組み合わせて、3Dバイオ印刷用のバイオインクとして使用されるシステムを記載している。BioMacromolecules 16:1489-96(2015)。このバイオインクは、2Dの材料の層として堆積され、これは、2価カチオン浴(CaCl2)中に沈ませて10分間架橋させ、第1の層を固化させてから別の層を上に堆積させる。生存細胞はそれらのバイオインクに成功裏に組み込まれたものの、細胞生存率分析は、架橋プロセスの結果として、細胞生存率が埋め込み前の約95.3%から埋め込み及び架橋後の約69.9%まで有意に低下したことを実証した。更に、非印刷対照との比較は、細胞生存率の減少が、実際の3D印刷プロセスよりもむしろバイオインク自体の調製及び混合に起因する可能性が高いことを明らかにした。
【0009】
したがって、既存の3Dバイオ印刷技術及び材料は、一方では構造的完全性と印刷忠実性との間、及び他方では生理学的適合性と細胞生存率との間の技術的な対立を満足に解決することができなかった。本発明は、これらの及び他の満たされていないニーズに対処する。本明細書で列挙された全ての先行技術参考文献は、参照によりそれらの全体が組み込まれる。
【発明の概要】
【0010】
本発明は、構造的完全性と細胞生存率との間の3Dバイオ印刷技術におけるこれまでの相反する目的を成功裏に解決し、細胞の成長及び/または生存特性及び生理学的機能が改善され、架橋または他のその後の固化工程を必要としない固化した形態で堆積した合成組織構造を提供する。本発明の態様は、バイオ印刷機によって堆積した1つ以上の層を含む合成組織構造であって、各層が、細胞を任意に含み、且つ1つ以上の活性剤を任意に含む固化した生体適合性マトリックスを含む合成組織線維(複数可)を含み、マトリックス材料、細胞種類、細胞密度、及び/または活性剤の量の少なくとも1つが、層内の少なくとも1つの方向で変化する、合成組織構造を含む。好ましくは、前記層の少なくとも1つは、可変組成物を有するバイオ印刷機から分配された単一の連続的な合成組織線維を含む。
【0011】
特定の実施形態では、細胞を任意に含み、且つ1つ以上の活性剤を任意に含む固化した生体適合性マトリックスとしてバイオ印刷機から分配された合成組織線維(複数可)の層を含む半月板移植片であって、マトリックス材料、細胞種類、細胞密度、及び/または活性剤の量の少なくとも1つが、層内の少なくとも1つの方向で変化する、半月板移植片が提供される。好ましくは、前記層の少なくとも1つは、可変組成物を有するバイオ印刷機から分配された連続的な合成組織線維を含む。より好ましくは、前記層の各々は、可変組成物を有する連続的な合成組織線維を含む。更により好ましくは、半月板移植片は、本明細書に記載されているように、強化周囲領域及び/または少なくとも1つのアンカー領域を含む。
【0012】
一態様では、本発明は、バイオ印刷機によって堆積した複数の層を含む合成組織構造であって、各層が、細胞を任意に含み、且つ1つ以上の活性剤を任意に含む固化した生体適合性マトリックスを含む合成組織線維(複数可)を含み、前記層の少なくとも1つが、少なくとも1つの方向で種類及び/または量が変化するマトリックス材料を含む、合成組織構造を提供する。いくつかの実施形態では、各層は、少なくとも1つの方向で種類及び/または量が変化するマトリックス材料を含む。
【0013】
別の態様では、本発明は、複数の層を含む合成組織構造であって、各層が、固化した生体適合性マトリックス内にバイオ印刷機から分配された複数の哺乳動物細胞を含む合成組織線維(複数可)を含み、前記層の少なくとも1つが、少なくとも1つの方向で変化する細胞種類及び/または細胞密度を含む、合成組織構造を提供する。いくつかの実施形態では、各層は、少なくとも1つの方向で変化する細胞種類及び/または細胞密度を含む。
【0014】
別の態様では、本発明は、バイオ印刷機によって堆積した複数の層を含む合成組織構造であって、各層が、細胞を任意に含む固化した生体適合性マトリックスを含む合成組織線維(複数可)を含み、前記層の少なくとも1つが、少なくとも1つの方向で種類及び/または量が変化する活性剤を含む、合成組織構造を提供する。いくつかの実施形態では、各層は、少なくとも1つの方向で種類及び/または量が変化する活性剤を含む。
【0015】
いくつかの実施形態では、1つ以上の合成組織線維が所望のパターンまたは構成で分配されて第1の層を形成し、次いで同じまたは異なるパターンまたは構成を有する1つ以上の追加の層が上に分配される。所定の実施形態では、複数の層が積層されて、人工半月板移植片として使用され得る3次元構造を形成する。好ましくは、前記層の少なくとも1つは、可変組成物を有するバイオ印刷機から分配された単一の連続的な合成組織線維を含む。より好ましくは、前記層の各々は、可変組成物を有する単一の連続的な合成組織線維を含む。
【0016】
いくつかの実施形態では、合成組織構造は、約1~約250の範囲の数の個々の層、例えば約2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、105、110、115、120、125、130、135、140、145、150、155、160、165、170、175、180、185、190、200、205、210、215、220、225、230、235、240または約245個の個々の層を含み得る。任意の好適な数の個々の層が組み込まれて、所望の寸法を有する組織構造を生成し得る。
【0017】
いくつかの実施形態では、1つ以上の個々の線維及び/または層が組織化されて、組織構造内に1つ以上のゾーンを生成し、各々のゾーンは、1つ以上の所望の特性(例えば、1つ以上の機械的及び/または生物学的特性)を有する。本明細書で使用される場合、「領域」という用語は、x-y平面で画定される組織構造の部分(例えば、組織構造の各層がx-y平面を画定する個々の層の領域または部分)を指す一方で、「ゾーン」という用語は、z方向で画定され、且つ別々のx-y平面、または層(例えば、複数の個々の「ミクロ層」を含む「マクロ層」)からの少なくとも2つの隣接した領域を含む組織構造の部分を指す。
【0018】
本発明の実施形態によるゾーンは、任意の所望の3次元形状を有し得、合成組織構造の任意の所望の部分を占有し得る。例えば、いくつかの実施形態では、ゾーンは、合成組織構造の長さ、幅、または高さの全体に及び得る。いくつかの実施形態では、ゾーンは、合成組織構造の長さ、幅、または高さの一部のみに及ぶ。いくつかの実施形態では、合成組織構造は、合成組織構造の長さ、幅、高さ、またはそれらの組み合わせに沿って組織化された複数の異なるゾーンを含む。1つの好ましい実施形態では、合成組織構造は、合成組織構造の高さに沿って組織化された3つの異なるゾーンを含むことで、底部から頂部まで合成組織構造を通る経路が3つのゾーン全てを通過するであろう。
【0019】
いくつかの実施形態では、ゾーンは、約2~約250の範囲の数の層、例えば約3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、105、110、115、120、125、130、135、140、145、150、155、160、165、170、175、180、185、190、200、205、210、215、220、225、230、235、240または約245個の個々の層を含み得る。いくつかの実施形態では、ゾーン内の個々の層は、1つ以上の機械的及び/または生物学的特性をゾーンに付与する手法で組織化される。例えば、いくつかの実施形態では、ゾーン内の個々の層は、増加した機械的強度をゾーンに付与する1つ以上の強化用材料を含む。いくつかの実施形態では、ゾーン内の個々の層は、所望の細胞成長特性をゾーンに付与する1つ以上の材料を含む。いくつかの実施形態では、ゾーン内の個々の層、またはゾーンを通過する線維構造の複数の個々の区画は、所望の特性をゾーンに付与する手法で交互にされ得る。例えば、いくつかの実施形態では、ゾーン内の個々の層または領域は、奇数番号の層が所望の機械的特性をゾーンに付与する1つ以上の強化用材料を含有し、且つ偶数番号の層が所望の生物学的特性をゾーンに付与する1つ以上の材料(例えば、細胞の移動、成長、生存率などに貢献するより柔らかい材料)を含有するように交互にされる。いくつかの実施形態では、ゾーンは、増加した機械的強度をゾーンに付与する1つ以上の強化用材料を含む複数の隣接した個々の層(例えば、約2、3、4、5、6、7、8、9または約10個またはそれ以上の近接する層)を含み、近接する層は、所望の生物学的特性をゾーンに付与する1つ以上の材料(例えば、細胞の移動、成長、生存率などに貢献するより柔らかい材料)を含む別の複数の近接する個々の層(例えば、約2、3、4、5、6、7、8、9または約10個またはそれ以上の近接する層)と交互にされる。
【0020】
一態様では、人工半月板移植片は、少なくとも1つの基礎ゾーン、少なくとも1つの内部ゾーン、及び少なくとも1つの表面ゾーンを含み、前記ゾーンの少なくとも1つは、固化した生体適合性マトリックスを含む合成組織線維(複数可)を含む層を含み、そのマトリックス材料は、層の中央と層の周囲との間で種類及び/または量が変化する。いくつかの実施形態では、層の周囲またはその付近の1つ以上のマトリックス材料は、強化マトリックス材料を含む。
【0021】
本発明の態様はまた、1つ以上のアンカー領域を含む人工半月板移植片を含む。本明細書で使用される場合、「アンカー領域」という用語は、1つ以上の強化マトリックス材料を含む領域を指す。本発明の実施形態による人工半月板移植片は、任意の好適な数のアンカー領域、例えば1~12個、例えば2、3、4、5、6、7、8、9、10または11個のアンカー領域を含み得る。いくつかの実施形態では、人工半月板移植片はアンカー領域を含まない。
【0022】
別の態様では、少なくとも1つの基礎ゾーン、少なくとも1つの内部ゾーン、及び少なくとも1つの表面ゾーンを含む人工半月板移植片であって、少なくとも1つのゾーンが、固化した生体適合性マトリックス内にバイオ印刷機から分配された複数の哺乳動物細胞を含む少なくとも1つの合成組織線維を含む層を含み、少なくとも1つの層が、少なくとも1つの方向で変化する細胞密度を含む、人工半月板移植片が提供される。いくつかの実施形態では、前記層の各々は、少なくとも1つの方向で変化する細胞密度を含む。いくつかの実施形態では、細胞密度は、0~約100×106細胞/mLの範囲である。
【0023】
別の態様では、本発明の実施形態による人工半月板移植片は、少なくとも1つの基礎ゾーン、少なくとも1つの内部ゾーン、及び少なくとも1つの表面ゾーンを含み、前記ゾーンの1つにおける少なくとも1つの層は、固化した生体適合性マトリックス及び少なくとも1つの活性剤を含む合成組織線維(複数可)を含み、少なくとも1つの活性剤は、層の中央と層の周囲との間で種類及び/または量が変化する。
【0024】
いくつかの実施形態では、層の周囲の生体適合性マトリックスは、宿主血管細胞の内方成長及び軟骨細胞の内方成長を促すためにマトリックスから経時的に放出される少なくとも1つの活性可溶性剤を含み得る。そのような生物活性剤には、血管内皮成長因子(VEGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)、インスリン様成長因子-1(IGF-1)、骨形態形成因子、肝細胞散乱因子、ウロキナーゼプラミノゲン活性化因子、形質転換成長因子-β(TGF-β)、血小板由来成長因子(PDGF)、またはそれらの任意の組み合わせが含まれるがこれらに限定されない。
【0025】
いくつかの実施形態では、層の周囲の生体適合性マトリックスは、細胞の内方成長を促すための少なくとも1つの不溶性因子を含み得る。そのような不溶性因子の非限定的な例には、ヒアルロン酸または硫酸化ヒアルロン酸、フィブロネクチン、フィブリン、及びコラーゲンIが含まれる。追加の生物活性因子は、含む軟骨細胞によるコラーゲン堆積を促すために本人工半月板移植片の内部に配置されるマトリックスに組み込まれ得る。そのような追加の生物活性因子の非限定的な例には、インスリン、結合組織由来成長因子(CTGF)、またはそれらの組み合わせが含まれる。
【0026】
いくつかの実施形態では、周囲の部分または領域は少なくとも1つの活性剤を含む。いくつかの実施形態では、層の周囲全体が少なくとも1つの活性剤を含む。いくつかの実施形態では、周囲は複数の活性剤を含む。いくつかの実施形態では、層の周囲全体は、例えば、長期間にわたる持続放出を保証するために、1つ以上の微粒子中に含有される1つ以上のステロイド化合物の包含により、宿主の炎症反応を低減する活性剤を含む。
【0027】
いくつかの実施形態では、人工半月板移植片は、前端部、後端部、前記前端部と後端部の間で湾曲した経路を画定するそれらの間の中間部分、内側、及び外側を有する弓形形状を有する。いくつかの実施形態では、細胞密度は、内側から外側に向かって半径方向の様式で増加する。いくつかの実施形態では、強化マトリックス材料の濃度は、内側から外側に向かって半径方向の様式で増加する。いくつかの実施形態では、活性剤の量は、内側から外側に向かって半径方向の様式で増加する。
【0028】
いくつかの実施形態では、基礎ゾーンは、ランダムに配向した合成組織線維(複数可)を含む1つの層を含み;内部ゾーンは、周方向に配向した合成組織線維(複数可)及び半径方向に配向した合成組織線維(複数可)を含む1つ以上の層を含み;表面ゾーンは、ランダムに配向した合成組織線維(複数可)を含む1つ以上の層を含む。いくつかの実施形態では、周方向に配向した合成組織線維(複数可)は第1の直径を有し、半径方向に配向した合成組織線維(複数可)は第2の異なる直径を有する。いくつかの実施形態では、周方向に配向した合成組織線維(複数可)及び半径方向に配向した合成組織線維(複数可)は同じ直径を有する。いくつかの実施形態では、合成組織線維(複数可)は、約20μm~約500μmの範囲の直径を有する。
【0029】
いくつかの実施形態では、周方向に配向した合成組織線維(複数可)は第1の固化した生体適合性マトリックスを含み、半径方向に配向した合成組織線維(複数可)は第2の異なる固化した生体適合性マトリックスを含む。いくつかの実施形態では、周方向に配向した合成組織線維(複数可)及び半径方向に配向した合成組織線維(複数可)は、同じ固化した生体適合性マトリックスを含む。
【0030】
いくつかの実施形態では、内部ゾーンは、合成組織線維(複数可)の長手方向と共に整列したコラーゲン線維の堆積を促進するように構成された合成組織線維(複数可)を含む層を含む。いくつかの実施形態では、内部ゾーンは、周方向に配向した合成組織線維(複数可)の長手方向と共に整列したコラーゲン線維の堆積を促進するように構成された周方向に配向した合成組織線維(複数可)を含む層を含む。いくつかの実施形態では、内部ゾーンは、半径方向に配向した合成組織線維(複数可)の長手方向と共に整列したコラーゲン線維の堆積を促進するように構成された半径方向に配向した合成組織線維(複数可)を含む層を含む。
【0031】
固化した生体適合性マトリックスは、例えば、アルギネート、ラミニン、フィブリン、ヒアルロン酸、ポリ(エチレン)グリコール系ゲル、ゼラチン、キトサン、アガロース、またはそれらの組み合わせを含む、生存細胞の生存率をサポートする多種多様な天然または合成ポリマーのいずれかを含み得る。好ましい実施形態では、固化した生体適合性マトリックスは、アルギネート、またはプリントヘッドから分配している間に瞬時に固化し得る他の好適な生体適合性ポリマーを含む。更に好ましい実施形態では、固化した生体適合性マトリックスは、各合成組織線維の半径方向断面にわたってアルギネートの均質な組成物を含む。
【0032】
特に好ましい実施形態では、固化した生体適合性マトリックスは、生理学的に適合性である、すなわち、細胞の成長、分化及び伝達に貢献する。いくつかのそのような実施形態では、生理学的適合性マトリックスは、コラーゲン、フィブロネクチン、トロンボスポンジン、グリコサミノグリカン(GAG)、デオキシリボ核酸(DNA)、接着糖タンパク質、エラスチン、及びそれらの組み合わせの1つ以上と組み合わされたアルギネートを含む。特定の実施形態では、コラーゲンは、コラーゲンI、コラーゲンII、コラーゲンIII、コラーゲンIV、コラーゲンV、コラーゲンVI、またはコラーゲンXVIIIからなる群から選択される。特定の実施形態では、GAGは、ヒアルロン酸、コンドロイチン-6-硫酸、デルマタン硫酸、コンドロイチン-4-硫酸、またはケラチン硫酸からなる群から選択される。
【0033】
上記で概説したように、アンカー領域は、より高い強度の材料、例えば、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)(PLGA)、ポリウレタン(PU)、またはそれらの任意の組み合わせを含むがこれらに限定されないより硬い合成材料を移植片の特定のゾーン(すなわち、縫合点)に組み込むことによって生成され得る。いくつかの実施形態では、アンカー領域は、少なくとも2種の異なるヒドロゲル材料を組み合わせることによって生成される二重ネットワークヒドロゲルを含有し得、ヒドロゲル材料の例には、限定されないが、アルギネート、ゼラチンメタクリロール(GelMA)、メタクリロイルポリエチレングリコール(PEGMA)、ジェランガム、アガロース、ポリアクリルアミド、またはそれらの任意の組み合わせが含まれる。また、高強度線維は、限定されないが、コラーゲン、キトサン、シルクフィブロイン、またはそれらの任意の組み合わせを含む高濃度の生物学的ポリマーから生成され得、これらは1つ以上のアンカー領域に組み込まれ得る。いくつかの実施形態では、移植片のアンカー領域及び/または強化周囲領域は、z方向で交互に堆積した、1つ以上の高強度材料(複数可)の層と、例えば、上述した細胞の生存及び内方成長に貢献するヒドロゲル材料(複数可)を含有する1つ以上のより柔らかいマトリックス材料の層を含む。このようにして、より柔らかい細胞適合性ヒドロゲル材料は、1つ以上の所望の生物学的機能を提供し、より硬い材料は、1つ以上の所望の機械的機能を提供して、適切な機械的及び生物学的機能を有するハイブリッド構造を生成する。
【0034】
いくつかの実施形態では、哺乳動物細胞は、線維芽細胞、軟骨細胞、線維軟骨細胞、初期ヒト半月板由来軟骨細胞、幹細胞、骨髄細胞、胚性幹細胞、間葉系幹細胞、骨髄由来間葉系幹細胞、誘導多能性幹細胞、分化幹細胞、組織由来細胞、微小血管内皮細胞、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。好ましい実施形態では、合成生存組織構造内の細胞生存率は、印刷前の細胞生存率と比較して、約70%から最大で約100%、例えば約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約98%、約99%、約99.5%、または約99.9%の範囲である。
【0035】
いくつかの実施形態では、半月板移植片は、基礎ゾーンの下に配置された無細胞シースを更に含む。いくつかの実施形態では、半月板移植片は、表面ゾーンの上に配置された無細胞シースを更に含む。いくつかの実施形態では、半月板移植片は、基礎ゾーンの下に配置された第1の無細胞シース及び表面ゾーンの上に配置された第2の無細胞シースを更に含む。
【0036】
いくつかの実施形態では、半月板移植片は少なくとも1つの活性剤を更に含む。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの活性剤は、TGF-β1、TGF-β2、TGF-β3、BMP-2、BMP-4、BMP-6、BMP-12、BMP-13、塩基性線維芽細胞成長因子、線維芽細胞成長因子-1、線維芽細胞成長因子-2、血小板由来成長因子-AA、血小板由来成長因子-BB、多血小板血漿、IGF-I、IGF-II、GDF-5、GDF-6、GDF-8、GDF-10、血管内皮細胞由来成長因子、プレイオトロフィン、エンドセリン、ニコチンアミド、グルカゴン様ペプチド-I、グルカゴン様ペプチド-II、副甲状腺ホルモン、テネイシン-C、トロポエラスチン、トロンビン由来ペプチド、ラミニン、細胞結合ドメインを含有する生物学的ペプチド及びヘパリン結合ドメインを含有する生物学的ペプチド、治療剤、ならびにそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。
【0037】
好ましい実施形態では、バイオ印刷機は、複数の哺乳動物細胞を含む固化した生体適合性マトリックスを単一のオリフィスを通して分配する。特に好ましい実施形態では、単一のオリフィスは、WO2014/197999に記載され、特許請求されているようなプリントヘッド内に含まれ、その開示は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】層毎の合成組織線維堆積プロセスの概略図である。
【
図2】膝関節の概略図であり、外側及び内側半月板を図示している。(The knee meniscus:structure-function,pathophysiology,current repair techniques,and prospects for regeneration.Biomaterials.2011 October;32(30):7411-7431.doi:10.1016/j.biomaterials.2011.06.037,Eleftherios A.Makris,MD1,Pasha Hadidi,BS1,and Kyriacos A.Athanasiou,Ph.D.,P.E.1から適合)。
【
図3】半月板の概略図であり、上面図及び断面図の両方を図示している。外側(赤-赤)領域、中央(白-赤)領域、及び内側(白-白)領域が図示されている。(The knee meniscus:structure-function,pathophysiology,current repair techniques,and prospects for regeneration.Biomaterials.2011 October;32(30):7411-7431.doi:10.1016/j.biomaterials.2011.06.037,Eleftherios A.Makris,MD1,Pasha Hadidi,BS1,and Kyriacos A.Athanasiou,Ph.D.,P.E.1から適合)。
【
図4】パネルAは、半月板の概略図であり、断面図を図示している。コラーゲン線維の周方向及び半径方向の整列は、生体力学的特性を半月板に付与する。パネルBは、表面ゾーン、層状ゾーン、及び内部(深い)ゾーンを図示している。半月板表面に近い表面及び層状ゾーンのコラーゲン線維は、ランダムに配向している。半月板内のより深い線維は、周方向及び半径方向の両方に配向している。
【
図5】半月板の様々な部分に対する軸荷重力Fの成分を図示する示力図である。半月板表面に垂直な軸荷重力(F)及び水平力(f
r)は、大腿骨を圧縮すること(F
f)によって生成される。Fは、脛骨上昇力(F
t)のため反発する一方で、f
rは、半月板の押し出しを半径方向に導き、これは、前及び後挿入靭帯からの引張力によって対抗される。結果的に、軸方向圧縮中に周方向に沿って引張フープ応力が発生し、それは周方向に配向したコラーゲン線維によって抵抗される。(The knee meniscus:structure-function,pathophysiology,current repair techniques,and prospects for regeneration.Biomaterials.2011 October;32(30):7411-7431.doi:10.1016/j.biomaterials.2011.06.037,Eleftherios A.Makris,MD1,Pasha Hadidi,BS1,and Kyriacos A.Athanasiou,Ph.D.,P.E.1から適合)。
【
図6】印刷された合成組織線維構造の予めプログラムされたゾーン特異的足場含有量及び調和したパターニングを有する2つの細胞非含有3D半月板様構造の画像を提供している。スケールバー=1cm。
【
図7】より小さな直径の線維における天然コラーゲン線維の整列を図示する一連の顕微鏡画像である。30um(パネルa)、100um(パネルb)、400um(パネルc)及びチャネルなし(パネルd)を含む異なる直径のマイクロ流体チャネルにおける重合したコラーゲン線維の配向(Leeら、2006)。
【
図8】3Dバイオ印刷システムを使用した印刷されたアルギネート系線維の直径のオンザフライ調節を示す一連の画像、及び平均線維直径を比較するグラフを示している。パネルA、B、及びCは、3Dバイオ印刷システムにおいて3つの異なる圧力設定で印刷することによって生成された3つの異なる直径のアルギネート系線維を図示している。複数の線維の幅の定量化は、各圧力設定での平均直径が一貫していることを実証している(グラフ、右)。
【
図9】3Dバイオ印刷された半月板の様々な層における合成組織線維のパターニングの図である。細胞外マトリックス(ECM)、例えば、コラーゲンを負荷した特定の直径の合成組織線維構造は、コラーゲンの微細パターニング及び半月板のゾーン構造を再現する手法でパターニングされる。基礎及び表面ゾーンは、より大きな直径の線維で印刷されたランダムに配向した線維を含有する。内部ゾーンは、より小さな直径のパターニングされた線維内に整列した周方向及び半径方向に整列したコラーゲンを含有する。
【
図10】人工3D組織におけるコラーゲン線維の2光子画像化からのデータを示している。パネルA:電気紡糸ゼラチン(ESG)足場上での90日培養後の初期ヒト気道上皮細胞及び線維芽細胞の3D共培養のホルムアルデヒド固定H&E染色部分。パネルB:コラーゲンを堆積させる線維芽細胞と同様の方向で、ESG足場の表面に対して平行に配向した線維性コラーゲン(紫色)の堆積を実証する非染色部分の2光子画像化。パネルC:未染色組織の発光スペクトルは、非中心対称コラーゲン線維が特定の第2高調波信号(SHG)を生成することを実証している(Wadsworthら、2014)。
【
図11】ゾーン特異的細胞及びECM含有量を有する半月板組織の図である。「赤-赤バイオインク」及び「白-白バイオインク」は、ゾーン構造を有する組織を生成するために使用される。所望の細胞種類(例えば、MSC由来軟骨細胞または初期半月板由来細胞)は、適切な生理学的密度で赤-赤及び白-白ゾーンに播種される。足場の特定のECM含有量は、組織ゾーンに従って変更される。組織の中央ゾーンにおける「白-赤」ゾーンは、赤-赤及び白-白バイオインク及び細胞の混合物を含有する。本バイオ印刷システムは、半月板移植片の任意の所与のゾーンにおける細胞(細胞種類及び細胞密度)及びECM含有量の両方についての制御を容易にする。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明の態様は、バイオ印刷機によって堆積した1つ以上の層を含む合成組織構造であって、各層が、細胞を任意に含み、且つ1つ以上の活性剤を任意に含む固化した生体適合性マトリックスを含む合成組織線維(複数可)を含み、マトリックス材料、細胞種類、細胞密度、及び/または活性剤の量の少なくとも1つが、層内の少なくとも1つの方向で変化する、合成組織構造を含む。好ましくは、前記層の少なくとも1つは、可変組成物を有するバイオ印刷機から分配された単一の連続的な合成組織線維を含む。本明細書で使用される「固化した」という用語は、堆積の際にその形状忠実性及び構造的完全性を維持する材料の固体または半固体状態を指す。本明細書で使用される「形状忠実性」という用語は、材料がその3次元形状を維持する能力を意味する。いくつかの実施形態では、固化した材料は、その3次元形状を約30秒以上、例えば約1、10もしくは30分またはそれ以上、例えば約1、10、24、もしくは48時間またはそれ以上の期間維持する能力を有するものである。本明細書で使用される「構造的完全性」という用語は、破断または曲げに抵抗しつつ、材料がそれ自体の重量を含む荷重下で一緒に保持する能力を意味する。
【0040】
いくつかの実施形態では、固化した組成物は、約15、20または25キロパスカル(kPa)を超える、より好ましくは約30、40、50、60、70、80または90kPaを超える、更により好ましくは約100、110、120または130kPaを超える弾性係数を有するものである。好ましい弾性係数の範囲は、約15、25または50Paから約80、100、120または140kPaまでを含む。
【0041】
本発明の追加の態様は、哺乳動物の対象における損傷または罹患した半月板組織を修復及び/または置換するのに使用するための人工半月板移植片であって、細胞を任意に含有し、且つ1つ以上の活性剤を任意に含有する固化した生体適合性マトリックスとしてバイオ印刷機から分配された合成組織線維(複数可)を含み、マトリックス材料、細胞種類、細胞密度、及び/または活性剤の種類及び/または量の少なくとも1つが、線維内の少なくとも1つの方向で変化する、人工半月板移植片を含む。
【0042】
図1で提供されているように、複数の哺乳動物細胞を任意に含有する固化した生体適合性マトリックスは、堆積表面上に1つ以上の合成組織線維(複数可)を形成し、最終的に層を形成するバイオ印刷機から分配される。このように、プリントヘッドからの既に固化したマトリックスの分配後、後続の架橋または他の固化工程は不要である。したがって、第1の層の構造的完全性を維持しつつ、第2の層を第1の層の上に迅速に堆積させることができ、所望の形状を有する3次元形状が得られるまで、このプロセスを継続して複数の層を次から次へとその上に堆積させることができる。
【0043】
固化した生体適合性マトリックスは、有利には、アルギネート、またはプリントヘッドから分配している間に瞬時に固化し得る任意の他の好適な生体適合性ポリマーを含み得る。好ましい実施形態では、アルギネート系マトリックスが印刷され、プリントヘッドからの分配の前またはその際に、二価カチオン架橋溶液(例えば、CaCl2溶液)と接触させることによって印刷の時点で同時に架橋される。特に好ましい実施形態では、アルギネート系生体適合性マトリックスは、本明細書でより詳細に記載されるように、1つ以上の生理学的材料を更に含む。更に好ましい実施形態では、固化した生体適合性マトリックスは、各合成組織線維の半径方向断面にわたってアルギネートの均質な組成物を含む。
【0044】
いくつかの実施形態では、合成組織線維構造は、同じ連続的な合成組織線維構造の各区画において、異なるマトリックス材料(例えば、天然及び/または合成ポリマー)、異なる細胞種類、異なる細胞濃度、及び/または活性剤の異なる種類及び/または量を順次堆積させることによって生成される複数の個々の区画(合成組織線維の長さに沿って組織化される)を含む。例えば、いくつかの実施形態では、合成組織線維構造は、第1のマトリックス材料を含む第1の区画、及び第2のマトリックス材料を含む第2の区画を含む。いくつかの実施形態では、合成組織線維構造は、第1の細胞種類を含む第1の区画、及び第2の細胞種類を含む第2の区画を含む。いくつかの実施形態では、合成組織線維構造は、第1の細胞濃度を含む第1の区画、及び第2の細胞濃度を含む第2の区画を含む。いくつかの実施形態では、合成組織線維構造は、第1の活性剤を含む第1の区画、及び第2の活性剤を含む第2の区画を含む。所望の生体力学的特性及び/または生物学的活性を達成するために、マトリックス材料、細胞種類、細胞濃度、及び/または活性剤の種類及び/または量の任意の組み合わせが本合成組織線維構造の異なる区画で使用され得る。
【0045】
本発明の実施形態による合成組織線維構造は、異なるマトリックス材料(例えば、天然及び/または合成ポリマー)の制御されたパターニング及び所与の区画内で所望の断面プロファイルを生成するための架橋技術を含み得る。例えば、いくつかの実施形態では、合成組織線維構造は、固体、管状、または多孔質の断面プロファイルを有する区画を含む。本発明の実施形態による合成組織線維構造において生成され得る断面プロファイルの非限定的な例には、Jun,Yesl,et al.“Microfluidic spinning of micro-and nano-scale fibers for tissue engineering.”Lab on a Chip 14.13(2014):2145-2160に記載されているものが含まれ、その開示はその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0046】
いくつかの実施形態では、得られた合成組織線維は、ソフトウェアツールを使用してパターニングされて、複数の哺乳動物細胞及び/または複数の生体適合性マトリックス材料を任意に含有する層を形成する。所定の実施形態では、複数の層を順次的な様式で堆積させて、複数のゾーンを含む多層半月板移植片を生成する。いくつかの実施形態では、半月板移植片は、少なくとも1つの基礎ゾーン、少なくとも1つの内部ゾーン、及び少なくとも1つの表面ゾーンを含み、内部ゾーンは、少なくとも1つの周方向に配向した合成組織線維、及び少なくとも1つの半径方向に配向した合成組織線維を含む少なくとも1つの層を含む。好ましくは、前記層の少なくとも1つは、可変組成物を有するバイオ印刷機から分配された単一の連続的な合成組織線維を含む。
【0047】
本半月板移植片の1つの利点は、マトリックス組成物、細胞種類、細胞密度、ならびに活性剤の種類及び/または濃度を、移植片の任意の層の任意の部分における任意の点で制御することができ、それにより半月板組織の天然構造により密接に似ている半月板移植片の生成が容易になり、移植片の周囲の強化アンカー領域、半月板移植片内の周方向及び半径方向に配向した線維構造、ならびに移植片の特定の領域及び/またはゾーン内の特定の細胞種類及び細胞密度を含むがこれらに限定されない所望の生体力学的特性を有することである。
【0048】
本発明の別の利点は、1つ以上の活性剤(本明細書でより詳細に記載されている)を合成組織線維の異なる区画に選択的に添加して、半月板移植片の1つ以上の層内の活性剤の正確な局在化を可能にすることであり得、それには内因性細胞の内方成長を促すための無細胞移植片の周囲における適切な活性剤の濃度の増加が含まれるがこれに限定されない。本半月板移植片を以下に更に詳細に説明する。
【0049】
半月板生体構造:
半月板は、対応する大腿顆と脛骨プラトーとの間に位置する内側及び外側部分の両方から構成される三日月形の線維軟骨の対である。(
図2)。前及び後挿入靱帯は、半月板を堅く結合させ、それらは半月板を脛骨プラトーに十分に固定する。半月板は一般にくさび形状であり、外側半月板は長さがおよそ32.4~35.7mm、幅がおよそ26.6~29.3mmである一方で、内側半月板は長さがおよそ40.5~45.5mm、幅がおよそ27mmである。各々は、細胞、特殊細胞外マトリックス(ECM)材料、ならびにゾーン特異的神経支配及び血管新生から構成される光沢のある白色の複雑な組織である。半月板は、出生時に十分に血管新生されるが、(ヒトでは)10歳において周囲における半月板のおよそ10~30%が血管新生するまで経時的に血管は外方に後退する。それ故、成人ヒト半月板は、外側の血管/神経のゾーン(赤-赤ゾーン)、及び内側の完全に無血管/無神経のゾーン(白-白ゾーン)の2つの区別可能なゾーンを有する。これらの領域は、外側(赤-赤)及び内側(白-白)ゾーンの両方の特徴を含有する狭い中央(赤-白)ゾーンによって分離されている(
図3)。重要なことに、各領域の自己治癒能力は、血液供給に直接関係し、外傷及び変性病変の影響を受けやすい内側の白-白ゾーンを残す。
【0050】
半月板細胞及び生化学的組成物
半月板は、およそ72%の水を含む高度に水和した組織であり、残りの28%は主にECM及び細胞を含む。コラーゲンは、ECMの大部分を構成し(75%)、それにグリコサミノグリカン(GAG、17%)DNA(2%)、接着糖タンパク質(<1%)及びエラスチン(<1%)が続く。これらの比率は、その組織のゾーン、年齢、及び状態に応じて変化する。半月板の細胞成分は、ゾーン特異的であり、線維軟骨細胞及び軟骨細胞様細胞の両方を含む。
【0051】
半月板の組成物は、各ゾーンにおいて異なる。外側の赤-赤ゾーンでは、細胞は、多くのプロセスを伴う形態学的により線維芽細胞様である。このゾーンにおけるECMは、主に線維性コラーゲンI型(80%)である。内側の白-白ゾーンは、より多くのコラーゲン-II(42%)、減少した割合のコラーゲン-I(28%)、及びより高いGAG濃度を有する、硝子軟骨に密接に似ているECMを有する。このゾーンにおける細胞は、線維軟骨細胞、または軟骨細胞様細胞と称される。半月板の表面層は、潜在的な幹細胞様特性を有する別の区別可能な細胞種類を有する。半月板のゾーン特異的ECM成分は、組織内に存在する細胞によって生成され、それ故、半月板細胞の表現型マーカーは、ECMタンパク質発現または遺伝子発現、例えば:COL1A1(コラーゲン-1)、COL2A2(コラーゲン-2)、VCAN(バーシカン)、ACAN(アグリカン)、CSPG4(コンドロイチン-6-硫酸)、Sox9及びCol10a(コラーゲン-10a)を含み得る。各半月板ゾーンにおける特有の細胞種類と同様に、細胞密度も各ゾーンにおいて変化する。血管(赤-赤)及び無血管(白-赤、白-白)ゾーンは、それぞれ、12,820細胞/mm3及び27,199細胞/mm3の平均細胞密度、及び線維芽細胞様細胞よりも多い線維軟骨細胞を有する(Cengizら、2015)。半月板は非常に異質であり、細胞表現型及びECM組成物におけるゾーン特異的変化を有する。
【0052】
膝半月板の細胞種類及び生化学的足場含有量の不均質分布が表1に記載されている。赤-赤ゾーンは、微量のコラーゲン-IIを有する、線維芽細胞様細胞及びコラーゲン-I優性細胞外マトリックス(ECM)によって特徴付けられる。白-赤及び白-白ゾーンは、線維軟骨細胞及びコラーゲン-IIが豊富なマトリックスならびにより高い割合のグリコサミノグリカン(GAG)を含有する。
【表1】
【0053】
コラーゲン線維のパターニングは半月板の生体力学的特性を付与する
半月板の微細解剖学的形状は、その生体力学的特性と密接に関連している。半月板の水和特質(約72%の水)は、水が非圧縮性であるため、圧縮応力に対する耐性を付与するが、半月板は、組織を通して10μmの直径のコラーゲン線維の規則的な配置を介して付与される相当の引張強度を有する(
図4)(Bakerら、2007)。半月板の表面及び層状ゾーンは、ランダムに配向したコラーゲン線維から構成される一方で、半月板内のより深い線維は、周方向及び半径方向に配向される。通常の使用では、体重の数倍の力が膝内に生じ、半月板は、周方向に整列したコラーゲン線維の高密度ネットワークを介してこの荷重の50~100%を伝達する(
図4)。この規則的な構造は、線維方向で非常に高い引張特性(50~300MPa)を生じさせる(Bakerら、2007)。膝が軸荷重を受けたとき、引張フープ応力が周方向に生成され、この応力は、膝関節から半月板を押し出そうとする(
図5)。しかしながら、周方向に整列したコラーゲン線維の引張強度ならびに前及び後挿入靭帯における堅い結合は、半月板の押し出しを防止するのを助け、応力を有意に低減し、脛骨軟骨を保護する。対照的に、前もしくは後挿入靱帯または周囲の周方向のコラーゲン線維が断裂した場合、荷重伝達機構が変化し、これは脛骨軟骨を損傷させる。圧縮強度は、新鮮冷凍死体のヒト半月板で測定されており、12%歪みでの軸方向及び半径方向の圧縮率は、それぞれ83.4kPa及び76.1kPaであり、引張弾性率は数桁大きかった(Chia&Hull,2008)。
【0054】
組織工学の目的は、本来の組織の機能を再現する構造を生成することである。半月板の場合、課題は、膝関節への長期生着が可能である一方で、日常生活の中で曝されるかなりの圧縮力に耐えるのに必要な生体力学的強度も有する生存組織を生成することである。半月板は、mm、μm及びnmスケールで特定の構造を有する驚くほど複雑な組織であり、その全てが組織の生体力学的機能に寄与する。今日まで、半月板工学は、鋳造物を使用してヒドロゲルを成形すること、または予め作製された足場上に細胞を播種することなど、研究者が利用可能な作製ツールによって幾分制限されてきた。これらのアプローチは、機能を再現するのに必要なマイクロスケールの構造を生成することはできない。対照的に、本明細書に記載の半月板移植片は、マトリックス材料(複数可)、細胞種類、細胞密度、及び活性剤組成物に対するポイントツーポイント制御を達成することができ、半月板の本来の構造の特徴により密接に似ている移植片の生成が容易になる。
【0055】
半月板は、特定のゾーンに分布した細胞及びECM成分を有する不均質組織である。ゾーン特異性は、再生的及び生体力学的機能を付与するために不可欠である。本人工半月板移植片は、異なるマトリックス材料、細胞種類、細胞密度、及び活性剤組成物を3D組織の正確な領域及び/またはゾーンに特異的に配置することを用いるため、半月板の赤-赤、白-赤、白-白ゾーンの構造の再現が可能となる(
図6)。
【0056】
ヒト半月板内の細胞の密度は、ゾーン特異的な様式で変化することが実証されている(赤-赤ゾーンではおよそ13×106細胞/ml、白-白及び白-赤ゾーンでは28×106細胞/ml(Cengizら、2015))。細胞密度は、適切な細胞表現型、ECM組織化及び対応する組織の生体力学を維持するのに極めて重要な役割を果たす。いくつかの実施形態では、本半月板移植片は、約0~約100×106細胞/mLまたはそれ以上の範囲の細胞密度を含む。このように、いくつかの実施形態では、本半月板移植片は、移植片内の1つの位置から別の位置まで変化する細胞密度を有し得る。例えば、所定の実施形態では、半月板移植片は、少なくとも1つの方向で変化する細胞密度を有する層を含む。他の実施形態では、本移植片は無細胞であり、内在性細胞の内方成長のために設計される。
【0057】
コラーゲンは、ほとんどの組織に引張強度を与え、直径およそ100nmの複数のコラーゲン原線維が組み合わさって、直径およそ10μmの強力なコイルドコイル線維を生成する。半月板の生体力学的機能は、周方向及び半径方向でのコラーゲン線維の整列を介して付与される(
図4)。いくつかの実施形態では、本半月板移植片は、移植片を生成するために使用される合成組織線維構造の直径を調節することによって生成されるパターニングされたコラーゲン原線維を含む。
【0058】
以前の研究では、異なる直径のマイクロ流体チャネルがコラーゲン原線維の重合を導いて、チャネルの長さに沿って、但し100μm以下のチャネル直径でのみ配向した線維を形成し得ることが示されている(Leeら、2006)(
図7)。これらの配向したマトリックス内で成長した初期内皮細胞は、コラーゲン線維の方向で整列することが示された。別の研究では、Martinezらは、セルロース-ビーズ足場内の500umのチャネルがコラーゲン及び細胞の整列を指示し得ることを実証している(Martinezら、2012)。いくつかの実施形態では、本半月板移植片は、約20μm~約500μm、例えば約50μm、約75μm、約100μm、約125μm、約150μm、約175μm、約200μm、約225μm、約250μm、約275μm、約300μm、約325μm、約350μm、約375μm、約400μm、約425μm、約450μm、または約475μmの範囲の直径を有する合成組織線維構造を含む(
図7)。線維直径を調節することにより、本半月板移植片内のコラーゲン線維の配向が制御され得る。そのため、このように合成組織線維構造、及びそれらの中のコラーゲン線維をパターニングして、半月板移植片に対して必要な生体力学的特性を付与するのに不可欠な、周方向及び半径方向に整列したコラーゲン線維の生理学的に正確な配置を有する半月板移植片を生成し得る(
図8)。
【0059】
半月板は、様々な組成物及び構造のゾーンを有する本質的に不均質構造である。本半月板移植片は、限定されないが、線維直径、ECM組成物、細胞組成物、及び細胞密度を含む独自の材料組成物及び構造を含む複雑な生物学的構造を含む。本半月板移植片を生成するために使用される合成組織線維構造のこれら及び他の態様を制御する能力は、本来の半月板組織に見られるゾーン構造の構築を可能にする。
【0060】
所定の実施形態では、本半月板移植片は、合成組織線維(複数可)の1つ以上の特性を調節する自動制御システムを使用して生成されて、例えば、個々の線維構造内、別々の線維構造の間、層内または層にわたって、ゾーン内またはゾーンにわたって、及び本質的に構造全体にわたる任意の点で材料切り替えを達成する。結果として、半月板移植片組成物のポイントツーポイント制御が達成される。更に、線維の直径及び層の厚さなどの重要なパラメータもまた、所望により調節され得る。このレベルの自動制御は、本来の膝半月板に見られる不均質な組成及び形態を正確に再現するのに不可欠である。
【0061】
本合成組織線維は、多種多様なヒト細胞の生存可能な成長をサポートする。合成組織線維構造は、特定の細胞種類のためのマトリックスを最適化するために、例えば、異なるECMタンパク質、GAG及び成長因子を含有するように細かく調整され得る。コンピュータで制御される合成組織線維構造の堆積は、細胞及びマトリックス材料の特定の位置への正確な配置を可能にして、生理学的に関連する不均質な半月板移植片を生成する。
【0062】
所定の実施形態では、半月板移植片の機械的特性は、コラーゲンのパターニングを調節することによって、及び/または合成組織線維構造を生成するために使用されるマトリックス材料(例えば、アルギネート、コラーゲン)の1つ以上の特性を調節することによって制御される。例えば、いくつかの実施形態では、上述したような1つ以上のアンカー領域が、例えば、縫合などを介して、結合及び/または固定を容易にするために移植片の周囲に配置される。アンカー領域は、より高い強度の材料、例えば、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)(PLGA)、ポリウレタン(PU)、またはそれらの任意の組み合わせを含むがこれらに限定されないより硬い合成材料の組み込みによって生成され得る。本発明の実施形態によるアンカー領域は、例えば、アルギネート、ゼラチンメタクリロール(GelMA)、メタクリロイルポリエチレングリコール(PEGMA)、ジェランガム、アガロース、ポリアクリルアミド、またはそれらの任意の組み合わせを含むがこれらに限定されない少なくとも2種の異なるヒドロゲル材料を組み合わせることによって生成される、二重ネットワークヒドロゲルを含有し得る。また、高強度線維は、コラーゲン、キトサン、シルクフィブロイン、またはそれらの任意の組み合わせを含むがこれらに限定されない高濃度の生物学的ポリマーから生成され得、これらは1つ以上のアンカー領域に組み込まれ得る。
【0063】
本発明の実施形態による人工半月板移植片は、0~約12個のアンカー領域、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10または11個のアンカー領域を含み得る。本発明の実施形態によるアンカー領域は、サイズが約5mm2~約40mm2、例えば約6、7、8、9または10mm2、または約12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、または38mm2の範囲であり得る。
【0064】
本発明の実施形態によるアンカー領域は、より高い強度の材料、例えば、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)(PLGA)、ポリウレタン(PU)、またはそれらの任意の組み合わせなどのより硬い合成材料の縫合点への組み込みによって生成され得る。本発明の実施形態によるアンカー領域は、アルギネート、ゼラチンメタクリロール(GelMA)、メタクリロイルポリエチレングリコール(PEGMA)、ジェランガム、アガロース、ポリアクリルアミド、またはそれらの任意の組み合わせを含むがこれらに限定されない少なくとも2種の異なるヒドロゲル材料を組み合わせることによって生成される、二重ネットワークヒドロゲルを任意に含有し得る。また、高強度線維は、コラーゲン、キトサン、シルクフィブロイン、またはそれらの任意の組み合わせを含むがこれらに限定されない高濃度の生物学的ポリマーから生成され得る。いくつかの実施形態では、これらの生物学的ポリマーの1つ以上が、1つ以上のアンカー領域に組み込まれ得る。いくつかの実施形態では、人工半月板移植片の層の周囲全体は、強化マトリックス材料を含む。いくつかの実施形態では、周囲は、1つ以上の強化マトリックス材料を含む複数の強化アンカー領域を含む。
【0065】
いくつかの実施形態では、移植片の周囲に沿って強度を増加させるために、人工半月板移植片の1つ以上の強化周囲領域に高強度線維が組み込まれ得る(例えば、パターニングされ得る)。いくつかの実施形態では、高強度線維は移植片の周囲全体に組み込まれる。人工半月板移植片のアンカー領域及び/または強化周囲領域内では、高強度材料の層を、細胞の生存及び内方成長に最適化されたより柔らかい材料の層と交互にすることができる。アンカー領域及び/または強化周囲領域内の強度の増加は、線維材料の濃度を増加させることによって、印刷された線維の充填密度を増加させることによって、印刷された線維の直径を増加させることによって、またはそれらの任意の組み合わせによって付与され得る。いくつかの実施形態では、例えば、手術中の視覚的ガイドとして作用するための非毒性色素を印刷可能なアンカー材料に組み込むことによってアンカー領域を着色することができ、それにより縫合の配置に適合された人工半月板移植片の強化領域の位置が外科医に知らせられる。
【0066】
ヒトの半月板では、コラーゲン線維の正しい配向及び整列は、組織に適切な生体力学的特性を付与するために極めて重要である。先に論述したように、天然コラーゲン線維の配向及びその後の細胞整列は、架橋プロセスを小さな直径のチャネルまたは約100μm未満の線維に制限することによって指示され得る(Leeら、2006)(Onoeら、2006)。所定の実施形態では、本半月板移植片は、1つ以上の合成組織線維構造が、合成組織線維の長手方向と共に整列したコラーゲン線維の堆積を促進するように構成されている層を含む。このように、所定の実施形態では、合成組織線維(複数可)は、半径方向及び/または周方向の配向で堆積され、合成組織線維(複数可)の半径方向及び/または周方向の配向と共に整列したコラーゲン線維の堆積を促進するように構成される。このようにして、コラーゲン線維の周方向及び/または半径方向の配向が達成され得る。
【0067】
いくつかの実施形態では、合成組織線維の直径は、コラーゲン線維が適切に整列するように、例えば、半月板の表面及び周囲が、ランダムに配向した(例えば、不規則な)コラーゲン線維を含有する一方で、内部領域(複数可)が、周方向及び半径方向に整列した線維を含有するように調節される。本半月板移植片内の複数の層の各々における合成組織線維配向の非限定的な例の図が
図9に示されている。
【0068】
半月板負傷及び外科的修復のための選択肢
半月板の損傷は、膝関節において非常に一般的である。半月板障害は、典型的には、異なる年齢群によって分類される。より若年のヒト患者(<40歳)における半月板負傷は通常、外傷または先天性半月板疾患によって引き起こされる一方で、より高齢のヒト患者(>40歳)におけるそれらは、変性断裂に関連する傾向がある。半月板負傷は、単に臨床的に、周囲半月板病変及び無血管半月板病変に分類され得る。安定した膝を有する若年患者において高い全体成功率(63~91%)で血管(赤-赤)ゾーンにおける半月板の裂傷を修復するために、多数の外科的技術が開発されてきた。半月板の無血管(白-白)ゾーンにおける損傷及び裂傷はしばしば、修復後の予後不良に関連し、結果的に、様々な結果を有するいくつかの異なる治療戦略が試みられてきた。最も注目に値するものには、疑似半月板滑膜組織の使用、半月板裂傷の縫合を有する周囲半月板周縁部の穿孔、血管アクセスチャネルの生成、ならびに間葉系幹細胞及び/または成長因子の使用が含まれる。上記の技術はいずれも一般的に採用されていないので、整形外科医の主な戦略は、この治療戦略が膝OAの発症を予防しないとしても、修復不能または変性半月板負傷の場合には部分的な半月板切除を実施することである。部分的な半月板切除は、大腿顆と脛骨プラットフォームとの間の接触面積を減少させることによりOAをもたらし得る。関節膝軟骨の負荷特性を変化させることは、損傷、炎症及び更なる組織変性の悪循環を介して半月板及び関節軟骨の進行性の変性をもたらし得る。
【0069】
人工半月板移植片:
上記で概説したように、本発明の態様は、少なくとも1つの基礎ゾーン、少なくとも1つの内部ゾーン、及び少なくとも1つの表面ゾーンを含む人工半月板移植片を含み、前記各ゾーンの各々が、本明細書に記載されているように、細胞を任意に含み、且つ1つ以上の活性剤を任意に含む固化した生体適合性マトリックスとしてのバイオ印刷機から分配される少なくとも1つの合成組織線維を含む層を含む。いくつかの実施形態では、マトリックス材料の1つ以上、細胞種類、細胞密度、及び/または活性剤の種類及び/または量は、所与の層の少なくとも1つの方向にわたって変化し得る。例えば、いくつかの実施形態では、半月板移植片の層は、第1の側に沿ってより低く、且つ反対側に向かって層にわたって(線形または非線形様式で)増加する細胞密度を有し得る。所定の実施形態では、所与の層における細胞密度は、2つの方向で変化し得る。例えば、いくつかの実施形態では、所与の層における細胞密度は、層を横切るx方向及びy方向の両方で(線形または非線形様式で)増加し得る。所定の実施形態では、細胞密度は、1mL当たり0~100×106個の細胞またはそれ以上で変化し得る。
【0070】
いくつかの実施形態では、本人工半月板移植片の少なくとも1つの層は、少なくとも1つの周方向及び/または半径方向に配向した合成組織線維を含み得る。周方向及び/または半径方向の線維(複数可)は、同じまたは異なる直径、同じまたは異なるマトリックス材料、同じまたは異なる細胞種類、及び同じまたは異なる細胞密度を有し得る。所定の実施形態では、合成組織線維の直径は、20μmから500μmまで変化し得る。
【0071】
所定の実施形態では、合成組織線維は、合成組織線維の長手方向と共に整列したコラーゲン線維の堆積を促進するように構成される。所定の実施形態では、合成組織線維は、ランダムに配向したコラーゲン線維の堆積を促進するように構成される。
図10で提供されているように、3D加工組織におけるコラーゲン線維は、3D組織を生成するために使用される足場材料の1つ以上の特徴に依存する配向をとる。同様に、本人工半月板移植片の態様は、移植片材料内のコラーゲン線維の配向を制御するように調節され得る。
【0072】
所定の実施形態では、
図11に提供されているように、半月板移植片が内部、中央及び外側ゾーンを含むように、上述したように、本半月板移植片は、層の順次堆積を使用して構築される。所定の実施形態では、任意の所与のゾーンに存在する細胞種類、細胞密度、及び/またはマトリックス材料を制御することができ、それにより天然の半月板組織の本来の構造及び生体力学的特性に似た半月板移植片が生成される。
【0073】
生体適合性マトリックス材料:
固化した生体適合性マトリックスは、例えば、アルギネート、ラミニン、フィブリン、ヒアルロン酸、ポリ(エチレン)グリコール系ゲル、ゼラチン、キトサン、アガロース、またはそれらの組み合わせを含む、生存細胞の生存率をサポートする多種多様な天然または合成ポリマーのいずれかを含み得る。好ましい実施形態では、固化した生体適合性マトリックスは、アルギネート、またはプリントヘッドから分配している間に瞬時に固化し得る他の好適な生体適合性ポリマーを含む。更に好ましい実施形態では、固化した生体適合性マトリックスは、各合成組織線維の半径方向断面にわたってアルギネートの均質な組成物を含む。
【0074】
特に好ましい実施形態では、固化した生体適合性マトリックスは、生理学的に適合性である、すなわち、細胞の成長、分化及び伝達に貢献する。「生理学的マトリックス材料」とは、本来の哺乳動物組織に見られる生物学的材料を意味する。そのような生理学的マトリックス材料の非限定的な例には、フィブロネクチン、トロンボスポンジン、グリコサミノグリカン(GAG)(例えば、ヒアルロン酸、コンドロイチン-6-硫酸、デルマタン硫酸、コンドロイチン-4-硫酸、またはケラチン硫酸)、デオキシリボ核酸(DNA)、接着糖タンパク質、及びコラーゲン(例えば、コラーゲンI、コラーゲンII、コラーゲンIII、コラーゲンIV、コラーゲンV、コラーゲンVI、またはコラーゲンXVIII)が含まれる。
【0075】
哺乳動物の細胞種類:
本半月板移植片に使用され得る哺乳動物の細胞種類の非限定的な例には、線維芽細胞、軟骨細胞、半月板線維軟骨細胞、幹細胞、骨髄間質(幹)細胞、胚性幹細胞、間葉系幹細胞、誘導多能性幹細胞、分化幹細胞、組織由来細胞、平滑筋細胞、骨格筋細胞、上皮細胞、内皮細胞、筋芽細胞、軟骨芽細胞、骨芽細胞、破骨細胞、及びそれらの任意の組み合わせが含まれる。
【0076】
細胞は、ドナー(同種異系)またはレシピエント(自己)から得ることができる。細胞はまた、確立された細胞培養系からのものであってもよく、または表現型の所望の遺伝子型を達成するために遺伝子技術及び/または操作を受けた細胞であってもよい。いくつかの実施形態では、同一構造内に多数の異なる細胞種類を提供し得る組織片も使用され得る。1つの好ましい実施形態では、人工半月板移植片は、患者特異的骨髄由来間葉系幹細胞を含む。1つの好ましい実施形態では、人工半月板移植片は、初期半月板軟骨細胞を含む。1つの好ましい実施形態では、人工半月板移植片は、微小血管内皮細胞を含む。1つの好ましい実施形態では、人工半月板移植片は、患者特異的誘導多能性幹細胞由来軟骨細胞を含む。
【0077】
いくつかの実施形態では、細胞は、ヒトまたは動物のいずれかの好適なドナーから、または細胞が移植される対象から得ることができる。哺乳動物の種には、ヒト、サル、イヌ、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ネコ、マウス、ウサギ、ラットが含まれるがこれらに限定されない。一実施形態では、細胞はヒト細胞である。他の実施形態では、細胞は、イヌ、ネコ、ウマ、サル、または任意の他の哺乳動物などの動物に由来し得る。
【0078】
いかなる特定の理論にも拘束されることなく、播種される細胞の数は、生成される最終組織(例えば、半月板)を制限しないが、最適細胞密度は本半月板移植片の1つ以上の特性を改善し得る。
【0079】
細胞は、半月板移植片内のどこにでも、例えば、基礎ゾーン内、内部ゾーン内、及び/または表面ゾーン内に存在し得る。いくつかの実施形態では、本来の半月板線維軟骨構造を模倣するために、半月板移植片の所定のゾーンに異なる種類の細胞が空間的に配置され得る。例えば、いくつかの実施形態では、1つ以上の線維芽細胞が半月板移植片の第1の領域及び/または個々の層に配置され得る。いくつかの実施形態では、1つ以上の軟骨細胞が半月板移植片の第1の領域及び/または個々の層に配置され得る。
【0080】
特定の密度を有する特定の種類の細胞が本半月板移植片の任意の所望のゾーンに配置され得る。いくつかの実施形態では、1つ以上の幹細胞、例えば、骨髄幹細胞が、本半月板移植片及び/またはその個々の層の少なくとも一部の中に配置され得る。いくつかの実施形態では、幹細胞の少なくとも一部は、軟骨形成表現型に分化され得る。当業者は、例えば、細胞を当該分野で認識されている細胞分化因子及び/または商業的に利用可能な分化培地に曝露することによって、幹細胞を所望の表現型(例えば、軟骨形成表現型)に分化させることを容易に実施し得る。
【0081】
哺乳動物細胞のための適切な成長条件は、当該技術分野でよく知られている(Freshney,R.I.(2000)Culture of Animal Cells,a Manual of Basic Technique.Hoboken N.J.,John Wiley & Sons;Lanza et al.Principles of Tissue Engineering,Academic Press;2nd edition May 15, 2000;及びLanza & Atala,Methods of Tissue Engineering Academic Press;1st edition October 2001)。細胞培養培地は一般に、必須の栄養素、及び任意に、成長因子、塩、ミネラル、ビタミンなどの追加の要素を含み、これらは培養される細胞種類(複数可)に応じて選択され得る。特定の成分が、細胞の成長、分化、特定のタンパク質の分泌などを向上させるように選択され得る。一般に、標準的な成長培地には、10~20%のウシ胎仔血清(FBS)または子ウシ血清が補充された110mg/Lのピルベート及びグルタミンを有するダルベッコ改変イーグル培地低グルコース(DMEM)を含み、100U/mlのペニシリンが、当業者によく知られている様々な他の標準培地と同様に適切である。成長条件は、使用する哺乳動物細胞の種類及び所望の組織に依存して変化する。
【0082】
ヒト細胞の追加の供給源には、骨髄由来間葉系幹細胞(MSC)及び初期ヒト半月板由来軟骨細胞が含まれるがこれらに限定されない。MSCは、患者から単離することができ、自己移植組織置換として使用するために容易に拡大することができるため、再生医療目的にとって魅力的である。ドナー同種移植片とは異なり、レシピエント由来のMSC自己移植片は、ヒト間疾患伝播または免疫媒介性組織拒絶の危険性がゼロである。MSCの追加的な利点は、MSCを線維軟骨細胞様細胞に分化させるための培養プロトコルが明確に定義されていることである。化学的に定義された培地は、培養MSCにおいて軟骨形成表現型を誘導すると共に、10週間にわたるペレット培養においてMFCによる線維軟骨性ECMの堆積を促進することが実証されている(Mauck2006&Brendon2007)。
【0083】
2D細胞培養条件における軟骨細胞の脱分化は、より複雑な生理学的培養条件の影響に対する調査を促してきた。酸素は細胞挙動に対して根本的な影響を及ぼし、半月板の無血管ゾーンの細胞は、酸素含有血液の供給の不足のため低酸素状態にある。いくつかの研究が軟骨細胞表現型に対する低酸素成長条件の影響を調査している;低酸素(5%O2)培養で成長させたウシ関節軟骨細胞は、正常酸素(21%O2)条件で成長させた同じ細胞と比較してタンパク質レベルで多量のコラーゲン-IIを再発現することが示された(Dommら、2002)。半月板は習慣的な圧縮応力を受けており、適切な軟骨細胞表現型を引き起こすには機械的刺激が必要であるとされている。1MHzの周波数での超音波刺激は、2D及び3D培養における軟骨細胞によるECMの堆積を増加させることが実証されたが、その効果は28日間だけ持続する一時的なものである(Hsuら、2006)。Uptonらは、半月板の内側及び外側ゾーンから細胞を単離し、それらを軟質膜上の単層で成長させた。5%の二軸性歪みに曝露された場合、両方の細胞集団がNO及び総タンパク質発現を増加させることが示された(Uptonら、2006)。最適な半月板の生体力学的性能のために、低酸素培養及び機械的歪みを利用して、3D培養におけるMSC由来軟骨細胞または初期半月板細胞の表現型分化を最大にすることができる。
【0084】
活性剤:
いくつかの態様では、本発明の実施形態による半月板移植片は、少なくとも1つの活性剤を含み得る。そのような活性剤の非限定的な例には、TGF-β1、TGF-β2、TGF-β3、BMP-2、BMP-4、BMP-6、BMP-12、BMP-13、塩基性線維芽細胞成長因子、線維芽細胞成長因子-1、線維芽細胞成長因子-2、血小板由来成長因子-AA、血小板由来成長因子-BB、多血小板血漿、IGF-I、IGF-II、GDF-5、GDF-6、GDF-8、GDF-10、血管内皮細胞由来成長因子、プレイオトロフィン、エンドセリン、ニコチンアミド、グルカゴン様ペプチド-I、グルカゴン様ペプチド-II、副甲状腺ホルモン、テネイシン-C、トロポエラスチン、トロンビン由来ペプチド、ラミニン、細胞結合ドメインを含有する生物学的ペプチド及びヘパリン結合ドメインを含有する生物学的ペプチド、治療剤、ならびにそれらの任意の組み合わせが含まれる。
【0085】
本明細書で使用される「治療剤」という用語は、対象において局所的または全身的に作用する生物学的、生理学的、または薬理学的に活性な物質である任意の化学的部分を指す。「薬物」とも称される治療剤の非限定的な例は、Merck Index、Physician’s Desk Reference、及びThe Pharmacological Basis of Therapeuticsなどのよく知られている参考文献に記載されており、それらには、限定されないが、医薬品;ビタミン;ミネラルサプリメント;疾患または病気の治療、予防、診断、治癒または緩和に使用される物質;身体の構造または機能に影響を及ぼす物質;または生理学的環境に置かれた後に生物学的に活性またはより活性になるプロドラッグが含まれる。いくつかの実施形態では、対象への移植の際に、本明細書に記載の半月板移植片から隣接する組織または体液に放出され得る1つ以上の治療剤が使用され得る。治療剤の例には、抗生物質、麻酔剤、半月板再生または組織治癒を促進するか、または疼痛、感染、もしくは炎症を軽減する任意の治療剤、またはそれらの任意の組み合わせが含まれるがこれらに限定されない。
【0086】
追加の活性剤には、タンパク質、ペプチド、核酸類似体、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、核酸(DNA、RNA、siRNA)、ペプチド核酸、アプタマー、抗体またはその断片もしくは部分、抗原もしくはエピトープ、ホルモン、ホルモンアンタゴニスト、成長因子もしくは遺伝子組み換え成長因子及びその断片及び変異体、サイトカイン、酵素、抗生物質もしくは抗菌化合物、抗炎症剤、抗真菌剤、抗ウイルス剤、毒素、プロドラッグ、小分子、薬物(例えば、薬物、色素、アミノ酸、ビタミン、抗酸化剤)またはそれらの任意の組み合わせが含まれ得るがこれらに限定されない。
【0087】
本発明の半月板移植片に含めるのに好適な抗生物質の非限定的な例には、アミノグリコシド(例えば、ネオマイシン)、アンサマイシン、カルバセフェム、カルバペネム、セファロスポリン(例えば、セファゾリン、セファクロル、セフジトレン、セフジトレン、セフトビプロール)、糖ペプチド(例えば、バンコマイシン)、マクロライド(例えば、エリスロマイシン、アジスロマイシン)、モノバクタム、ペニシリン(例えば、アモキシシリン、アンピシリン、クロキサシリン、ジクロキサシリン、フルクロキサシリン)、ポリペプチド(例えば、バシトラシン、ポリミキシンB)、キノロン(例えば、シプロフロキサシン、エノキサシン、ガチフロキサシン、オフロキサシンなど)、スルホンアミド(例えば、スルファサラジン、トリメトプリム、トリメトプリム-スルファメトキサゾール(コトリモキサゾール))、テトラサイクリン(例えば、ドキシサイクリン、ミノサイクリン、テトラサイクリンなど)、クロラムフェニコール、リンコマイシン、クリンダマイシン、エタンブトール、ムピロシン、メトロニダゾール、ピラジナミド、チアンフェニコール、リファンピシン、チアンフェニクル、ダプソン、クロファジミン、キヌプリスチン、メトロニダゾール、リネゾリド、イソニアジド、ホスホマイシン、フシジン酸、またはそれらの任意の組み合わせが含まれる。
【0088】
抗体の非限定的な例には、アブシキシマブ、アダリムマブ、アレムツズマブ、バシリキシマブ、ベバシズマブ、セツキシマブ、セルトリズマブペゴル、ダクリズマブ、エクリズマブ、エファリズマブ、ゲムツズマブ、イブリツモマブチウキセタン、インフリキシマブ、ムロモナブ-CD3、ナタリズマブ、オファツムマブ、オマリズマブ、パリビズマブ、パニツムマブ、ラニビズマブ、リツキシマブ、トシツモマブ、トラスツズマブ、アルツモマブペンテテート、アルシツモマブ、アトリズマブ、ベクツモマブ、ベリムマブ、ベシレソマブ、ビシロマブ、カナキヌマブ、カプロマブペンデチド、カツマキソマブ、デノスマブ、エドレコロマブ、エフングマブ、エルツマキソマブ、エタラシズマブ、ファノレソマブ、フォントリズマブ、ゲムツズマブオゾガマイシン、ゴリムマブ、イゴボマブ、イムシロマブ、ラベツズマブ、メポリズマブ、モタビズマブ、ニモツズマブ、ノフェツモマブメルペンタン、オレゴボマブ、ペムツモマブ、ペルツズマブ、ロベリズマブ、ルプリズマブ、スレソマブ、タカツズマブテトラキセタン、テフィバズマブ、トシリズマブ、ウステキヌマブ、ビシリズマブ、ボツムマブ、ザルツムマブ、ザノリムマブ、またはそれらの任意の組み合わせが含まれる。
【0089】
本明細書に記載のような半月板移植片に使用するのに好適な酵素の非限定的な例には、ペルオキシダーゼ、リパーゼ、アミロース、有機リン酸デヒドロゲナーゼ、リガーゼ、制限エンドヌクレアーゼ、リボヌクレアーゼ、DNAポリメラーゼ、グルコースオキシダーゼ、及びラッカーゼが含まれる。
【0090】
本半月板移植片で使用するのに好適な活性剤の追加的な非限定的な例には:細胞成長培地、例えばダルベッコ改変イーグル培地、ウシ胎仔血清、非必須アミノ酸及び抗生物質;成長及び形態形成因子、例えば線維芽細胞成長因子、形質転換成長因子、血管内皮成長因子、上皮成長因子、血小板由来成長因子、インスリン様成長因子)、骨形態形成成長因子、骨形態形成様タンパク質、形質転換成長因子、神経成長因子、及び関連するタンパク質(成長因子は当該技術分野で知られており、例えば、Rosen&Thies,CELLULAR&MOLECULAR BASIS BONE FORMATION&REPAIR(R.G.Landes Co.,Austin,TeX,1995を参照されたい);抗血管新生タンパク質、例えばエンドスタチン、及び他の天然由来のまたは遺伝子操作されたタンパク質;多糖類、糖タンパク質、またはリポタンパク質;抗感染剤、例えば抗生物質及び抗ウイルス剤、化学療法剤(すなわち、抗癌剤)、抗拒絶反応剤、鎮痛剤及び鎮痛剤の組み合わせ、抗炎症剤、ステロイド、またはそれらの任意の組み合わせが含まれる。
【0091】
半月板欠陥を修復するための方法:
本発明の態様は、対象における半月板の少なくとも一部を修復及び/または置換するための方法を含む。半月板の修復または再生を達成するために、本明細書に記載の半月板移植片のいずれかがそれを必要とする対象に移植され得る。したがって、対象における半月板欠陥を修復するかまたは半月板再生を促進する方法も本明細書で提供される。一実施形態では、方法は、半月板の修復または再生を必要とする欠陥部位に本明細書に記載の半月板移植片を移植することを含む。
【0092】
「対象」という用語には、ヒト、チンパンジー及び他の類人猿及びサル種などの非ヒト霊長類;ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ及びウマなどの家畜;犬及び猫などの家庭内哺乳動物;マウス、ラット及びモルモットなどのげっ歯類を含む実験動物などが含まれるがこれらに限定されない。その用語は、特定の年齢または性別を示さない。それ故、男性または女性にかかわらず、成人及び新生児の対象、ならびに胎児が含まれる。一実施形態では、対象は哺乳動物である。一実施形態では、対象はヒト対象である。
【0093】
いくつかの実施形態では、方法は、半月板移植片、またはそのアンカー領域を欠陥部位に固定すること、及び/または半月板移植片の1つ以上のアンカー領域を対象内の少なくとも1つの解剖学的構造に固定することを含み得る。いくつかの実施形態では、方法は、欠陥半月板の少なくとも一部を対象から除去することを更に含み得る。
【0094】
いくつかの実施形態では、方法は、本明細書に記載の少なくとも1つの活性剤を対象に全身的及び/または局所的(例えば、半月板移植片部位に)投与することを更に含み得る。
【0095】
本明細書で言及した全ての特許及び特許公開物は、それらの全体が参照により本明細書によって組み込まれる。
【0096】
前述の説明を読めば、所定の変更及び改善が当業者の心に浮かぶであろう。そのような変更及び改善の全てが、簡潔さ及び可読性の目的で本明細書に含まれているわけではないが、適切に添付の特許請求の範囲内にあることが理解されるべきである。