(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-20
(45)【発行日】2024-06-28
(54)【発明の名称】ビーム強度均一化素子
(51)【国際特許分類】
G02B 3/00 20060101AFI20240621BHJP
【FI】
G02B3/00 A
(21)【出願番号】P 2022538581
(86)(22)【出願日】2021-03-09
(86)【国際出願番号】 JP2021009131
(87)【国際公開番号】W WO2022018901
(87)【国際公開日】2022-01-27
【審査請求日】2023-08-31
(31)【優先権主張番号】P 2020124244
(32)【優先日】2020-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106116
【氏名又は名称】鎌田 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100131495
【氏名又は名称】前田 健児
(72)【発明者】
【氏名】長谷山 亮
(72)【発明者】
【氏名】織田 学
(72)【発明者】
【氏名】西山 寿美
(72)【発明者】
【氏名】芦野 淳
【審査官】植野 孝郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-214696(JP,A)
【文献】特開2016-1225(JP,A)
【文献】特開2014-146542(JP,A)
【文献】特開2007-25090(JP,A)
【文献】特開2006-91328(JP,A)
【文献】特開2014-228809(JP,A)
【文献】特開2018-43444(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 3/00- 3/14
G02B 5/00- 5/136
B29C33/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに反対側の表面と裏面とを有する光学母体と、
前記光学母体の前記表面に配置された第1のレンズアレイと、
前記光学母体の前記裏面に配置された第2のレンズアレイと、
を備え、
前記第1のレンズアレイは前記光学母体の前記表面に沿って複数の異なる方向に配列された複数の第1のモールドレンズセルを有し、
前記複数の第1のモールドレンズセルは、第1の方向に延びる複数の第1の線状痕が形成されてかつ前記光学母体の前記表面を構成する表面を有しており、
前記第2のレンズアレイは前記光学母体の前記裏面に沿って複数の異なる方向に配列された複数の第2のモールドレンズセルを有し、
前記第2のモールドレンズセルは、前記第1の方向と異なる第2の方向に延びる複数の第2の線状痕が形成されてかつ前記光学母体の前記裏面を構成する表面を有している、ビーム強度均一化素子。
【請求項2】
前記第1の方向は前記第2の方向に直交している、請求項1に記載のビーム強度均一化素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光線の光強度分布を均一化するためのビーム強度均一化素子に関する。
【背景技術】
【0002】
ビーム強度均一化素子は、レンズアレイにより構成される。レンズアレイは複数のレンズセルを2次元的に整列配置した構成である。レンズアレイは、硝材を金型でプレス成形するいわゆるモールド成形により作成される。モールド成形における金型は、レンズ面を転写する成形面を切削加工などにより作製されるため、成形面に加工方向に沿った線状の加工痕が形成される。加工痕はモールドレンズセルの表面に線状痕として転写される。この線状痕がモールドレンズセルの表面に規則性をもって存在することでモールドレンズセルを透過した光線に干渉縞が発生する。
【0003】
この干渉縞を抑制するために、レンズアレイにおける複数のモールドレンズセルに形成される線状痕のピッチを、隣接するモールドレンズセルごとに異ならせる構造が提案されている。
【0004】
従来のビーム強度均一化素子は、例えば、特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【0006】
線状痕のピッチをレンズセルごとに異ならせる上述の従来のビーム強度均一化素子では、金型の成形面におけるレンズセルごとの加工条件を変更しなければならない。つまり、レンズアレイをモールド成形するための金型加工が非常に煩雑になる。したがって、金型の作製コストが高くなり、結果として、レンズアレイのコストが高騰する。
【0007】
ビーム強度均一化素子は、光学母体と、光学母体の表面に配置された第1のレンズアレイと、光学母体の裏面に配置された第2のレンズアレイとを備える。第1のレンズアレイは光学母体の表面に沿って複数の異なる方向に配列された複数の第1のモールドレンズセルを有する。複数の第1のモールドレンズセルは、第1の方向に延びる複数の第1の線状痕が形成されてかつ光学母体の表面を構成する表面を有している。第2のレンズアレイは光学母体の裏面に沿って複数の異なる方向に配列された複数の第2のモールドレンズセルを有する。第2のモールドレンズセルは、第1の方向と異なる第2の方向に延びる複数の第2の線状痕が形成されてかつ光学母体の裏面を構成する表面を有している。
【0008】
このビーム強度均一化素子は干渉縞の発生を抑制し、かつコストを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本開示の実施の形態におけるビーム強度均一化素子を模式的に示す三面図である。
【
図2】
図2は、実施の形態におけるビーム強度均一化素子の製造方法を示す模式図である。
【
図3】
図3は、実施の形態における製造方法の成形装置における金型成形面の製造方法を示す模式図である。
【
図4】
図4は、実施の形態におけるビーム強度均一化素子の干渉縞を示す図である。
【
図5】
図5は、線状痕の方向が一致する比較例のビーム強度均一化素子の干渉縞を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下では、本開示の実施の形態にかかるビーム強度均一化素子について図を用いて説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、いずれも本開示の好ましい一具体例を示すものである。したがって、以下の実施の形態で示される形状、構成要素、構成要素の配置及び接続形態などは、一例であり、本開示を限定する趣旨ではない。よって、以下の実施の形態における構成要素のうち、本発明の最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0011】
また、各図は、模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。各図において、実質的に同一の構造については同一の符号を付しており、重複する説明は省略または簡略化している。
【0012】
図1は本開示の実施の形態におけるビーム強度均一化素子100の三面図である。
【0013】
ビーム強度均一化素子100は、入射された光線の光強度分布を変換して出射する光学素子である。例えば、レーザーダイオードから出射されたガウシアン型のビーム強度分布を有する光線をトップフラット型のビーム強度分布を有する光線に変換して出力する。ビーム強度均一化素子100の基本的な構造は、互いに反対側の表面10aと裏面10bを有する光学母体10と、光学母体10の表面10aに配置されたレンズアレイ11と、光学母体10の裏面10bに配置されたレンズアレイ12とを有している。
【0014】
光学母体10の表面10aに配置されたレンズアレイ11は、2次元的に整列配置された複数のモールドレンズセル11aよりなる。複数のモールドレンズセル11aは、光学母体10の表面10aに沿って複数の異なる方向D100に配列されている。実施の形態では、レンズアレイ11では、16個のモールドレンズセル11aが縦に4列、横に4列で配置されている。複数のモールドレンズセル11aは、方向D11に延びる複数の線状痕11bが形成されてかつ光学母体10の表面10aを構成する表面11cを有している。
図1における左から2列目のモールドレンズセル11aの縦列に記された複数の縦の実線は、光学母体10の表面10aに形成された線状痕11bを示す。なお、図面の都合上、線状痕11bを、左から2列目のモールドレンズセル11aにだけに記しているが、実際には、すべての縦列において形成されている。線状痕11bの詳細については後述する。
【0015】
光学母体10の裏面10bに配置されたレンズアレイ12は、2次元的に整列配置された複数のモールドレンズセル12aよりなる。すなわち、複数のモールドレンズセル12aは、光学母体10の裏面10bに沿って複数の異なる方向D100に配列されている。実施の形態では、レンズアレイ12では、16個のモールドレンズセル12aが縦に4列、横に4列で配置されている。複数のモールドレンズセル12aは、方向D12に延びる複数の線状痕12bが形成されてかつ光学母体10の裏面10bを構成する表面12cを有している。
図1における上から2列目のモールドレンズセル12aの横列に記された複数の横の破線は、光学母体の裏面に形成された線状痕12bを示す。なお、図面の都合上、線状痕12bを、上から2列目のモールドレンズセル12aにだけに記しているが、実際には、すべての横列において形成されている。線状痕12bの詳細については後述する。
【0016】
光学母体10の表面10aに配置されたそれぞれのモールドレンズセル11aは、光学母体10の裏面10bに配置された対応する1つのモールドレンズセル12aに対峙するように配置されている。
【0017】
次に、ビーム強度均一化素子100の製造方法について説明する。
図2はビーム強度均一化素子100の製造工程を模式的に示す。ビーム強度均一化素子100を製造するための成形装置20は、下金型21と上金型22を備えている。
【0018】
下金型21の上面は、レンズアレイ12を成形する成形面21bである。成形面21bは、複数のモールドレンズセル12aの表面12cの形状を光学母体10の裏面10bに転写する形状を有する。
【0019】
上金型22の下面は、レンズアレイ11を成形する成形面22bである。成形面22bは、複数のモールドレンズセル11aの表面の形状を光学母体10の表面10aに転写する形状を有する。
【0020】
ビーム強度均一化素子100は、光学ガラスからなる硝材13で成形される。図に示すように、先ず下金型21の成形面21bの上に硝材13を配置する。次に、硝材13を加熱する。硝材13がプレス成形可能な温度に昇温してから下金型21と上金型22とで硝材13をプレスして成形する。その後、プレス成形された硝材13を冷却し、プレス成形された硝材13つまりビーム強度均一化素子100を下金型21と上金型22の間から取り出す。
【0021】
このようにして作製されたビーム強度均一化素子100のモールドレンズセル11a、12aの表面には、複数の線状痕11b、12bが形成される。線状痕11b、12bは、下金型21と上金型22の成形面21b、22bの作製過程に起因して形成される。下金型21や上金型22の成形面21b、22bは、切削加工により作製される。切削加工の作業イメージを
図3に示す。切削加工は、金型部材30の加工面30aを切削工具31で切削する。この時、切削工具31は上方向D3と下方向D4に移動して加工面30aに食い込むサグ量を調節しながら、金型部材30を上方向D3と下方向D4とに直角の方向D5に直線的に移動する。切削工具31は、直線的に加工面30aを切削するので、1列のモールドレンズを形成する切削が完了したら切削工具31を硝材13に対して相対的に移動させて隣の1列のモールドレンズを形成する切削を行う。この工程を繰り返し行うことで成形面が作製される。そのため、切削加工後の加工面30aには切削工具31を移動させる切削ピッチに応じた線状の加工痕が規則的に形成される。なお、一つの加工面30aに対して構成される複数の加工痕は互いに平行である。また、このような加工痕を有する加工面30aでレンズアレイ11、12を製造した場合、レンズアレイ11、12の表面、つまり、モールドレンズセル11a、12aの表面11c、12cに加工痕が転写される。モールドレンズセル11a、12aの表面11c、12cに転写された加工痕が、
図1に示す線状痕11b、12bとなる。
【0022】
ビーム強度均一化素子100は、
図1に示すように、2つ
のレンズアレイ11、12が光学母体10の表面10aと裏面10bに配置
された一体構造を有する。表面10aのレンズアレイ11の線状痕11bが延びる方向D11は、裏面10bのレンズアレイ12の線状痕12bが延びる方向D12と異なる。レンズアレイ11、12において線状痕11b、12bは、上述したように干渉縞の発生原因となり得る。しかしながらビーム強度均一化素子100を構成する2つのレンズアレイ11、12の線状痕11b、12bの延びる方向D11、D12を異ならせることにより、レンズアレイ11における干渉縞の方向とレンズアレイ12における干渉縞の方向とを異ならせ、その結果、双方の干渉縞が相互干渉しビーム強度均一化素子100における干渉縞の発生を抑制することができる。
【0023】
より効果的にビーム強度均一化素子100における干渉縞の発生を抑制するには、レンズアレイ11の線状痕11bの延びる方向D11がレンズアレイ12の線状痕12bの延びる方向D12と直交するようにレンズアレイ11、12を配置することが好ましい。
図4は、方向D11、D12が互いに直交するビーム強度均一化素子100の干渉縞を示す。
図4では、明確な干渉縞は確認されていない。
図5は、方向D11、D12が互いに一致する比較例のビーム強度均一化素子の干渉縞を示す。
図5では、明確な干渉縞が確認された。
図4と
図5に示すように、レンズアレイ11の線状痕11bの延びる方向D11がレンズアレイ12の線状痕12bの延びる方向D12
に直交
していることでビーム強度均一化素子100の干渉縞が抑制される。
【0024】
すなわち、本開示におけるビーム強度均一化素子100による干渉縞の抑制方法は、レンズアレイ11の線状痕11bとレンズアレイ12の線状痕12bの方向を互いに異なせたものである。したがって、従来のモールドレンズセル単位で線状痕のピッチを異ならせる必要がない。つまり、ビーム強度均一化素子100においては、線状痕11b、12bのピッチを等間隔とすることができる。この場合、
図3で説明した切削加工において切削ピッチの変更が不要となる。この結果、切削加工の加工時間
を短縮でき、ビーム強度均一化素子100のコストを低減することができる。
【0025】
さらに、切削ピッチが均一となることで、切削ピッチを最適化することができる。例えば、切削ピッチを切削装置における最小ピッチとすることができる。切削ピッチを最小とすることで、成形面の加工精度をより高めることができ、ビーム強度均一化素子100による光線の透過ロスを低減することができる。
【0026】
光の強度分布を均一化するためには、通常、光軸上に2つ以上のレンズアレイを配置する。ビーム強度均一化素子100のように2つのレンズアレイを光学母体10の表面10aと裏面10bに一体化した構造とすることで、2枚のレンズアレイ11、12の相対位置が金型の精度レベルで保証されるため、ビーム強度均一化素子100を光源装置に容易に組み込むことができる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本開示は、干渉縞を抑制したビーム強度均一化素子のコストを抑制することという効果を有し、特に小型のレーザ光源装置において有効である。
【符号の説明】
【0028】
10 光学母体
11,12 レンズアレイ
11a,12a モールドレンズセル
11b,12b 線状痕
100 ビーム強度均一化素子