(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-20
(45)【発行日】2024-06-28
(54)【発明の名称】電気化学デバイス用負極および電気化学デバイス、並びに電気化学デバイス用負極の製造方法および電気化学デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/133 20100101AFI20240621BHJP
H01M 4/60 20060101ALI20240621BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20240621BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240621BHJP
H01M 10/058 20100101ALI20240621BHJP
H01M 4/1393 20100101ALI20240621BHJP
【FI】
H01M4/133
H01M4/60
H01M10/0568
H01M10/052
H01M10/058
H01M4/1393
(21)【出願番号】P 2020557759
(86)(22)【出願日】2019-11-27
(86)【国際出願番号】 JP2019046294
(87)【国際公開番号】W WO2020111094
(87)【国際公開日】2020-06-04
【審査請求日】2022-11-02
(31)【優先権主張番号】P 2018225727
(32)【優先日】2018-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 祐介
(72)【発明者】
【氏名】坂田 英郎
(72)【発明者】
【氏名】清水 俊明
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/136922(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第108493434(CN,A)
【文献】特開2014-146448(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/133
H01M 4/60
H01M 10/0568
H01M 10/052
H01M 10/058
H01M 4/1393
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極芯材および前記負極芯材に担持された負極材料層を具備し、
前記負極材料層は、炭素材料を含み、
前記負極材料層の表層部が、炭酸リチウム含有領域を有し、
前記炭酸リチウム含有領域の厚さは、1nm以上、100nm以下であり、
前記炭酸リチウム含有領域をX線光電子分光法で測定するとき、C=O結合に帰属されるO1sの第1ピークと、Li-O結合に帰属されるO1sの第2ピークとが観測され、
前記表層部を深さ方向に分析するとき、前記表層部の最表面からの距離が深くなる順に、
前記第1ピークと前記第2ピークとが観測され、かつ前記第1ピーク強度が前記第2ピーク強度より大きい第1領域と、
前記第1ピークと前記第2ピークとが観測され、かつ前記第2ピーク強度が前記第1ピーク強度より大きい第2領域と、が観測される、
電気化学デバイス用負極。
【請求項2】
前記第1領域よりも前記表層部の最表面からの距離が近く、かつ前記第1ピークが観測され、前記第2ピークが観測されない第3領域が更に存在する、
請求項1に記載の電気化学デバイス用負極。
【請求項3】
前記炭酸リチウム含有領域をX線光電子分光法で測定するとき、LiF結合に帰属される実質的なF1sのピークが観測されない、
請求項1または2に記載の電気化学デバイス用負極。
【請求項4】
負極芯材および前記負極芯材に担持された負極材料層を具備し、
前記負極材料層は、炭素材料を含み、
前記負極材料層の表層部が、炭酸リチウム含有領域を有し、
前記炭酸リチウム含有領域の厚さは、1nm以上、100nm以下であり、
前記炭酸リチウム含有領域をX線光電子分光法で測定するとき、LiF結合に帰属される実質的なF1sのピークが観測されない、
電気化学デバイス用負極。
【請求項5】
正極芯材および前記正極芯材に担持された正極材料層を具備する正極と、
請求項1~4のいずれか1項に記載の負極と、
前記正極と前記負極との間に介在するセパレータと、
電解質と、を具備する、
電気化学デバイス。
【請求項6】
前記正極材料層が、導電性高分子を含む、
請求項5に記載の電気化学デバイス。
【請求項7】
正極芯材および前記正極芯材に担持された正極材料層を具備する正極と、
負極芯材および前記負極芯材に担持された負極材料層を具備する負極と、
前記正極と前記負極との間に介在するセパレータと、
電解質と、を具備し、
前記正極材料層が、導電性高分子を含み、
前記負極材料層は、炭素材料を含み、
前記負極材料層の表層部が、炭酸リチウム含有領域を有
し、
前記炭酸リチウム含有領域の厚さは、1nm以上、100nm以下である、
電気化学デバイス。
【請求項8】
前記電解質が、フッ素含有アニオンを含む、
請求項5~7のいずれか1項に記載の電気化学デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学デバイス用負極および電気化学デバイス、並びに電気化学デバイス用負極の製造方法および電気化学デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
負極材料層にリチウムイオンが吸蔵された炭素材料を用いる電気化学デバイスが知られている(特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-123641号公報
【文献】国際公開第2007/88604号
【文献】国際公開第2012/036249号
【発明の概要】
【0004】
リチウムイオンを利用する電気化学デバイスでは、充放電の際に負極材料層に固体電解質界面被膜(すなわちSEI被膜)が形成される。SEI被膜は充放電反応において重要な役割を果たすが、SEI被膜が過剰に厚く形成されると、電気化学デバイスの内部抵抗が大きくなる。
【0005】
本発明の一側面は、負極芯材および前記負極芯材に担持された負極材料層を具備し、前記負極材料層は、炭素材料を含み、前記負極材料層の表層部が、炭酸リチウム含有領域を有する、電気化学デバイス用負極に関する。炭酸リチウム含有領域の厚さは、例えば1nm以上、100nm以下である。
【0006】
本発明の別の側面は、正極芯材および前記正極芯材に担持された正極材料層を具備する正極と、上記負極と、前記正極と前記負極との間に介在するセパレータと、電解質と、を具備する、電気化学デバイスに関する。
【0007】
本発明の更に別の側面は、負極芯材および前記負極芯材に担持された負極材料層を具備し、前記負極材料層が炭素材料を含む負極を準備する工程と、前記負極材料層の表面に金属リチウムを付着させる工程と、前記金属リチウムを付着させた前記負極材料層を有する前記負極を炭酸ガス雰囲気に暴露して、厚さ1nm以上、100nm以下の炭酸リチウム含有領域を有する表層部を前記負極材料層に形成する工程と、を有する、電気化学デバイス用負極の製造方法に関する。
【0008】
本発明の更に別の側面は、負極芯材および前記負極芯材に担持された負極材料層を具備し、前記負極材料層が炭素材料を含む負極を準備する工程と、前記負極材料層の表面に金属リチウムを付着させる工程と、正極芯材および前記正極芯材に担持された正極材料層を具備する正極を準備する工程と、前記金属リチウムを付着させた前記負極材料層を有する前記負極と前記正極との間にセパレータを介在させて電極体を形成する工程と、前記電極体を、炭酸ガス雰囲気に暴露する工程と、を有する、電気化学デバイスの製造方法に関する。
【0009】
本発明によれば、電気化学デバイスの内部抵抗の上昇を効果的に抑制し得る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る電気化学デバイスの構成を示す縦断面図である。
【
図2】
図2は、厚さ30nmの炭酸リチウム含有領域のXPS分析におけるC1sスペクトルを示す図である。
【
図3】
図3は、厚さ30nmの炭酸リチウム含有領域のXPS分析におけるO1sスペクトルを示す図である。
【
図4】
図4は、厚さ30nmの炭酸リチウム含有領域のXPS分析におけるLi1sスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態に係る電気化学デバイス用負極は、負極芯材および負極芯材に担持された負極材料層を具備し、負極材料層は炭素材料を含む。負極材料層の表層部は、炭素材料の表面に形成された被膜により構成され、被膜には炭酸リチウムが含まれている。すなわち、負極材料層の表層部には、炭酸リチウム含有領域が存在する。炭酸リチウム含有領域とは、例えば、X線光電子分光法(XPS)による分析により、炭酸リチウムの実質的な存在が観測される表層部もしくは被膜の領域である。なお、分析方法はXPSに限定されるものではない。
【0012】
ここで、炭酸リチウム含有領域は、電気化学デバイスを組み立てる前に負極材料層の表層部として形成される。予め形成された炭酸リチウム含有領域が十分な厚さを有する場合、その負極を用いて組み立てられた電気化学デバイスでは、その後の充放電によって、負極材料層の表面に均質かつ適度な厚さのSEI被膜が形成されるものと考えられる。よって、電気化学デバイスの内部抵抗の上昇が低減される。ここで、十分な厚さとは、例えば1nm以上であればよく、より長期的な作用を期待する場合は5nm以上とすればよく、より確実な作用を期待する場合は30nm以上とすればよい。ただし、炭酸リチウム含有領域の厚さが100nmを超えると、炭酸リチウム含有領域自体が抵抗成分となり、電気化学デバイスの内部抵抗が大きくなる。よって、炭酸リチウム含有領域の厚さは100nm以下とすればよい。
【0013】
炭酸リチウム含有領域の厚さは、負極材料層の複数箇所(少なくとも5箇所)において、負極材料層の表層部を分析することにより測定される。そして、複数箇所で得られた炭酸リチウム含有領域の厚さの平均を、炭酸リチウム含有領域の厚さとすればよい。なお、測定試料に供される負極材料層は、負極芯材から剥がされてもよい。この場合、負極材料層の表層部の近傍を構成していた炭素材料の表面に形成された被膜を分析すればよい。この場合、負極芯材と接合していた面とは反対の面側に配されていた負極材料層の領域から、被膜で覆われた炭素材料を採取して分析に用いればよい。
【0014】
負極材料層の表層部のXPS分析は、例えば、X線光電子分光計のチャンバ内で表層部もしくは炭素材料の表面に形成された被膜にアルゴンビームを照射し、照射時間に対するC1sもしくはO1s電子に帰属される各スペクトルの変化を観測し、記録する。このとき、分析誤差を避ける観点から、表層部の最表面のスペクトルは無視してもよい。炭酸リチウムに帰属されるピークが安定して観察される領域の厚さが、炭酸リチウム含有領域の厚さに対応する。
【0015】
なお、少なくとも一回の充放電を経た電気化学デバイス内から取り出された負極の場合、負極材料層の表層部もしくは炭素材料の表面に形成された被膜は、電気化学デバイス内で生成されたSEI被膜を有する。SEI被膜にも炭酸リチウムに帰属されるO1sピークが観測され得る。ただし、電気化学デバイス内で生成されたSEI被膜は、予め形成された炭酸リチウム含有領域とは異なる組成を有するため、両者を区別可能である。例えば、SEI被膜のXPS分析では、LiF結合に帰属されるF1sピークが観測されるが、炭酸リチウム含有領域にはLiF結合に帰属される実質的なF1sピークは観測されない。また、SEI被膜に含有される炭酸リチウムは微量である。なお、Li1sピークとしては、例えばROCO2Li、ROLiのような化合物に由来するピークが検出され得る。
【0016】
炭酸リチウム含有領域をXPSで分析するとき、C=O結合に帰属されるO1sの第1ピーク以外に、Li-O結合に帰属されるO1sの第2ピークが観測されてもよい。炭素材料の表面の近傍に存在する被膜の領域は、僅かなLiOHもしくはLi2Oを含有していると考えられる。
【0017】
具体的には、負極材料層の表層部を深さ方向にXPSで分析するとき、表層部の最表面からの距離が深くなる順に、第1ピークと第2ピークとが観測され、かつ第1ピーク強度が第2ピーク強度より大きい第1領域と、第1ピークと第2ピークとが観測され、かつ第2ピーク強度が第1ピーク強度より大きい第2領域とが観測されてもよい。また、第1領域よりも表層部の最表面からの距離が近く、かつ第1ピークが観測され、第2ピークが観測されない第3領域が更に存在してもよい。第3領域は、炭酸リチウム含有領域の厚さが大きい場合に観測されやすい。なお、ピーク強度の大小は、ベースラインからのピークの高さで判断すればよい。
【0018】
炭酸リチウム含有領域の厚さ方向(深さ方向)の中央では、通常、C-C結合に帰属されるC1sピークは実質的に観測されないか、観測される場合でもC=O結合に帰属されるピーク強度の半分以下である。
【0019】
次に、本発明の一実施形態に係る電気化学デバイスは、正極芯材および正極芯材に担持された正極材料層を具備する正極と、上記負極と、正極と負極との間に介在するセパレータと、電解質とを具備する。負極および正極は、これらの間に介在するセパレータとともに電極体を構成している。電極体は、例えば、それぞれ帯状の正極と負極とをセパレータを介して捲回して柱状の捲回体として構成される。また、電極体は、それぞれ板状の正極と負極とをセパレータを介して積層して積層体として構成してもよい。
【0020】
正極材料層は、正極材料として、例えば導電性高分子を含む。導電性高分子としては、例えば、ポリアニリンもしくはその誘導体等を用い得る。リチウムイオンを利用する電気化学デバイスの中でも、正極材料層が導電性高分子を含み、負極材料層が炭素材料を含む電気化学デバイスは、車載用途などの様々な分野で利用が期待されている。このような電気化学デバイスでは、充電時に、電解質中のリチウムイオンが負極に吸蔵され、アニオンが正極に吸着(ドープ)される。また、放電時には、負極からリチウムイオンが電解質中に放出され、正極からアニオンが電解質中に脱離(脱ドープ)される。導電性高分子は、アニオンのドープと脱ドープにより充放電を行ため、反応抵抗が小さく、高出力を達成しやすい。
【0021】
ただし、導電性高分子は有機物であり、耐熱性が低く、かつ電解質の極性が強い溶媒に溶解し得る。例えば、電解質中の溶媒が副反応で分解してアルコールが生成することがある。ポリアニリンのような導電性高分子は、アルコールの影響を受けやすい。具体的には、非水電解液が負極上で分解し、分解物が非水電解液中の水分と反応し、微量のアルコールが生成し得る。アルコールによりポリアニリンが溶解する可能性がある。一方、負極材料層の表層部に十分な厚さを有する炭酸リチウム含有領域が存在する場合、アルコールの生成が抑制される。
【0022】
アニオンは、例えば、フッ素含有アニオンを含む。このようなアニオンを有する電解質塩は、解離度が高く、かつ低粘度の電解液が得られる。また、電解質にフッ素含有アニオンを含ませることで、電気化学デバイスの耐電圧特性を向上させ得る。
【0023】
次に、本発明の一実施形態に係る電気化学デバイス用負極の製造方法は、負極芯材および負極芯材に担持された負極材料層を具備し、負極材料層が炭素材料を含む負極を準備する第1工程、負極材料層の表面に金属リチウムを付着させる第2工程、金属リチウムを付着させた負極材料層を有する負極を炭酸ガス雰囲気に暴露して、厚さ1nm以上、100nm以下の炭酸リチウム含有領域を有する表層部を負極材料層に形成する第3工程を有する。この方法では、負極材料層の表層部における炭酸リチウム含有領域は、第2工程と第3工程を経ることにより形成される。これらの工程は、負極材料層へのリチウムイオンのプレドープ工程の少なくとも一部を兼ねている。
【0024】
負極材料層の表面に金属リチウムを付着させる第2工程は、例えば、気相法、転写等により行い得る。気相法としては、化学蒸着、物理蒸着、スパッタリング等の方法が挙げられる。例えば、真空蒸着装置によって金属リチウムを負極材料層の表面に膜状に形成すればよい。蒸着時の装置チャンバ内の圧力は、例えば10-2~10-5Paとすればよく、リチウム蒸発源の温度は400~600℃であればよく、負極材料層の温度は-20~80℃であればよい。
【0025】
炭酸ガス雰囲気は、水分を含まない乾燥雰囲気であることが望ましく、例えば露点-40℃以下もしくは-50℃以下であればよい。炭酸ガス雰囲気は、二酸化炭素以外のガスを含み得るが、二酸化炭素のモル分率が80%以上であることが望ましく、95%以上であることがより望ましい。酸化性のガスは含まないことが望ましく、酸素のモル分率は0.1%以下とすればよい。
【0026】
炭酸リチウム含有領域をより厚く形成するには、二酸化炭素の分圧を、例えば0.5気圧(5.05×104Pa)より大きくすれば効率的であり、1気圧(1.01×105Pa)以上であってもよい。
【0027】
炭酸ガス雰囲気に暴露される負極の温度は、例えば15℃~120℃の範囲であればよい。温度が高いほど、炭酸リチウム含有領域の厚さが厚くなる。
【0028】
炭酸ガス雰囲気に負極を暴露する時間を変更することで、炭酸リチウム含有領域の厚さを容易に制御し得る。暴露時間は、例えば12時間以上であればよく、10日未満であればよい。
【0029】
第3工程は、電極体を構成する前に行うことが望ましいが、電極体を構成した後に行う場合を排除するものではない。すなわち、第3工程は、正極芯材および正極芯材に担持された正極材料層を具備する正極を準備し、金属リチウムを付着させた負極材料層を有する負極と正極との間にセパレータを介在させて電極体を形成し、電極体を炭酸ガス雰囲気に暴露して、厚さ1nm以上、100nm以下の炭酸リチウム含有領域を有する表層部を負極材料層に形成する工程であってもよい。
【0030】
なお、負極材料層へのリチウムイオンのプレドープは、例えば、その後、負極材料層と電解質とを接触させることで更に進行し、所定時間放置することで完了する。
【0031】
本発明に係る電気化学デバイスは、リチウムイオン二次電池、リチウムイオンキャパシタ、電気二重層コンデンサなどの電気化学デバイスを包含するが、特に正極材料に導電性高分子を用いるリチウムイオン二次電池とリチウムイオンキャパシタとの中間的な電気化学デバイスとして構成するのに適している。
【0032】
図1は、本発明の一実施形態に係る電気化学デバイス200の構成を概略的に示している。電気化学デバイス200は、捲回体100と、非水電解質(図示せず)と、電極体100および非水電解質を収容する金属製の有底のセルケース210と、セルケース210の開口を封口する封口板220とを具備する。封口板220の周縁部にはガスケット221が配されており、セルケース210の開口端部をガスケット221にかしめることでセルケース210の内部が密閉されている。中央に貫通孔13hを有する正極集電板13は、正極芯材露出部11xと溶接されている。
タブリード15の一端が
正極集電板13に接続されて
おり、タブリード15の他端は、封口板220の内面に接続されている。よって、封口板220は、外部正極端子としての機能を有する。一方、負極集電板23は、負極芯材露出部21xと溶接されている。負極集電板23は、セルケース210の内底面に設けられた溶接用部材に直接溶接されている。よって、セルケース210は、外部負極端子としての機能を有する。
【0033】
以下、正極材料に導電性高分子を用い、負極材料に炭素材料を用いる電気化学デバイスを例にとって、本発明の実施形態に係る電気化学デバイスの各構成要素について更に詳細に説明する。
【0034】
(正極芯材)
正極芯材には、シート状の金属材料が用いられる。シート状の金属材料は、金属箔、金属多孔体、エッチングメタルなどであればよい。金属材料としては、アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、チタンなどを用い得る。正極芯材の厚みは、例えば10~100μmである。正極芯材には、カーボン層を形成してもよい。カーボン層は、正極芯材と正極材料層との間に介在して、例えば、正極材料層から正極芯材への集電性を向上させる機能を有する。
【0035】
(カーボン層)
カーボン層は、例えば、正極芯材の表面に導電性炭素材料を蒸着し、もしくは、導電性炭素材料を含むカーボンペーストの塗膜を形成し、塗膜を乾燥することで形成される。カーボンペーストは、例えば、導電性炭素材料と、高分子材料と、水または有機溶媒とを含む。カーボン層の厚みは、例えば1~20μmであればよい。導電性炭素材料には、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン、カーボンブラックなどを用い得る。中でも、カーボンブラックは、薄くて導電性に優れたカーボン層を形成し得る。高分子材料には、フッ素樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)などを用い得る。
【0036】
(正極材料層)
正極材料層は、導電性高分子を含む。正極材料層は、例えば、カーボン層を備える正極芯材を導電性高分子の原料モノマーを含む反応液に浸漬し、正極芯材の存在下で原料モノマーを電解重合することにより形成される。このとき、正極芯材をアノードとして電解重合を行うことにより、導電性高分子を含む正極材料層がカーボン層を覆うように形成される。正極材料層の厚みは、電解電流密度、重合時間等により制御し得る。正極材料層の厚みは、片面あたり、例えば10~300μmである。
【0037】
導電性高分子としては、π共役系高分子が好ましい。π共役系高分子としては、例えば、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリフラン、ポリアニリン、ポリチオフェンビニレン、ポリピリジンまたはこれらの誘導体を用い得る。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせてもよい。導電性高分子の重量平均分子量は、例えば1000~100000である。なお、π共役系高分子の誘導体とは、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリフラン、ポリアニリン、ポリチオフェンビニレン、ポリピリジン等のπ共役系高分子を基本骨格とする高分子を意味する。例えば、ポリチオフェン誘導体には、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)などが含まれる。
【0038】
正極材料層は、電解重合以外の方法で形成されてもよい。例えば、原料モノマーの化学重合により導電性高分子を含む正極材料層を形成してもよい。また、予め合成された導電性高分子もしくはその分散体(dispersion)を用いて正極材料層を形成してもよい。
【0039】
電解重合または化学重合で用いられる原料モノマーは、重合により導電性高分子を生成し得る重合性化合物であればよい。原料モノマーは、オリゴマ―を含んでもよい。原料モノマーとしては、例えばアニリン、ピロール、チオフェン、フラン、チオフェンビニレン、ピリジンまたはこれらの誘導体が用いられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせてもよい。中でもアニリンは、電解重合によりカーボン層の表面に成長させやすい。
【0040】
電解重合または化学重合は、アニオン(ドーパント)を含む反応液を用いて行い得る。π電子共役系高分子にドーパントをドープすることで優れた導電性を発現される。例えば化学重合では、ドーパントと酸化剤と原料モノマーとを含む反応液に正極芯材を浸漬し、その後、反応液から引き揚げて乾燥させればよい。電解重合では、ドーパントと原料モノマーとを含む反応液に正極芯材と対向電極とを浸漬し、正極芯材をアノードとして両者の間に電圧を印加して電流を流せばよい。
【0041】
ドーパントとしては、硫酸イオン、硝酸イオン、燐酸イオン、硼酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオン、ナフタレンスルホン酸イオン、トルエンスルホン酸イオン、メタンスルホン酸イオン(CF3SO3
-)、過塩素酸イオン(ClO4
-)、テトラフルオロ硼酸イオン(BF4
-)、ヘキサフルオロ燐酸イオン(PF6
-)、フルオロ硫酸イオン(FSO3
-)、ビス(フルオロスルホニル)イミドイオン(N(FSO2)2
-)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオン(N(CF3SO2)2
-)などが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせてもよい。
【0042】
ドーパントは、高分子イオンであってもよい。高分子イオンとしては、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリアクリルスルホン酸、ポリメタクリルスルホン酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸、ポリアクリル酸などのイオンが挙げられる。これらは単独重合体であってもよく、2種以上のモノマーの共重合体であってもよい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせてもよい。
【0043】
(正極集電板)
正極集電板は、概ね円盤状の金属板である。正極集電板の中央部には非水電解質の通路となる貫通孔を形成することが好ましい。正極集電板の材質は、例えばアルミニウム、アルミニウム合金、チタン、ステンレス鋼などである。正極集電板の材質は、正極芯材の材質と同じでもよい。
【0044】
(負極芯材)
負極芯材にもシート状の金属材料が用いられる。シート状の金属材料は、金属箔、金属多孔体、エッチングメタルなどであればよい。金属材料としては、銅、銅合金、ニッケル、ステンレス鋼などを用い得る。負極芯材の厚みは、正極芯材の厚みよりも小さく、例えば10~100μmである。
【0045】
(負極材料層)
負極材料層は、負極活物質として、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵および放出する炭素材料を備える。炭素材料としては、黒鉛、難黒鉛化炭素(ハードカーボン)、易黒鉛化炭素(ソフトカーボン)が好ましく、特に黒鉛やハードカーボンが好ましい。炭素材料とそれ以外の材料とを併用してもよい。
【0046】
負極材料層には、負極活物質の他に、導電剤、結着剤などを含ませ得る。導電剤としては、カーボンブラック、炭素繊維などが挙げられる。結着剤としては、フッ素樹脂、アクリル樹脂、ゴム材料、セルロース誘導体などが挙げられる。
【0047】
負極材料層は、例えば、負極活物質と、導電剤および結着剤などとを、分散媒とともに混合して負極合剤ペーストを調製し、負極合剤ペーストを負極集電板に塗布した後、乾燥することにより形成される。負極材料層の厚みは、片面あたり、例えば10~300μmである。
【0048】
負極材料層には、予めリチウムイオンがプレドープされる。これにより、負極の電位が低下するため、正極と負極の電位差(すなわち電圧)が大きくなり、電気化学デバイスのエネルギー密度が向上する。リチウムイオンの負極材料層へのプレドープは、先述したように、金属リチウムを負極材料層の表面に膜状に付与した後、負極を非水電解質に含浸させることにより進行する。リチウムイオンは、金属リチウムから非水電解質中に溶出し、負極材料層に吸蔵される。プレドープされるリチウム量は、例えば、負極材料層に吸蔵可能な最大量の50%~95%程度とすればよい。
【0049】
(負極集電板)
負極集電板は、概ね円盤状の金属板である。負極集電板の材質は、例えば銅、銅合金、ニッケル、ステンレス鋼などである。負極集電板の材質は、負極芯材の材質と同じでもよい。
【0050】
(セパレータ)
セパレータとしては、セルロース繊維製の不織布、ガラス繊維製の不織布、ポリオレフィン製の微多孔膜、織布もしくは不織布などを用い得る。セパレータの厚みは、例えば10~300μmであり、10~40μmが好ましい。
【0051】
(電解質)
電解質は、リチウムイオン伝導性を有し、リチウム塩と、リチウム塩を溶解させる溶媒とを含む。リチウム塩のアニオンは、正極へのドープと脱ドープとを可逆的に繰り返す。リチウム塩に由来するリチウムイオンは、可逆的に負極に吸蔵および放出される。
【0052】
リチウム塩としては、例えば、LiClO4、LiBF4、LiPF6、LiAlCl4、LiSbF6、LiSCN、LiCF3SO3、LiFSO3、LiCF3CO2、LiAsF6、LiB10Cl10、LiCl、LiBr、LiI、LiBCl4、LiN(FSO2)2、LiN(CF3SO2)2などが挙げられる。これらは1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせてもよい。中でもフッ素含有アニオンを有する塩が好ましい。充電状態(充電率(SOC)90~100%)における非水電解質中のリチウム塩の濃度は、例えば0.2~5mol/Lである。
【0053】
溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートなどの環状カーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネートなどの鎖状カーボネート、ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチルなどの脂肪族カルボン酸エステル、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトンなどのラクトン類、1,2-ジメトキシエタン(DME)、1,2-ジエトキシエタン(DEE)、エトキシメトキシエタン(EME)などの鎖状エーテル、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフランなどの環状エーテル、ジメチルスルホキシド、1,3-ジオキソラン、ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジオキソラン、アセトニトリル、プロピオニトリル、ニトロメタン、エチルモノグライム、トリメトキシメタン、スルホラン、メチルスルホラン、1,3-プロパンサルトンなどを用いることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせてもよい。
【0054】
電解質に、必要に応じて、種々の添加剤を含ませてもよい。例えば、負極表面にリチウムイオン伝導性の被膜を形成する添加剤として、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、ジビニルエチレンカーボネートなどの不飽和カーボネートを添加してもよい。
【0055】
[実施例]
以下、実施例に基づいて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0056】
(実施例1)
(1)正極の作製
厚み25μmのアルミニウム箔(正極芯材)の両面に、カーボンブラックを含むカーボン層(厚み2μm)を形成した。一方、アニリンおよび硫酸を含むアニリン水溶液を準備した。正極芯材と対向電極とをアニリン水溶液に浸漬し、10mA/cm2の電流密度で20分間の電解重合を行ない、硫酸イオン(SO4
2-)がドープされた導電性高分子(ポリアニリン)の膜を正極材料層としてカーボン層上に成長させた。このとき、正極芯材の長手方向に沿う端部には、幅10mmの正極芯材露出部を形成した。次に、硫酸イオンがドープされた導電性高分子を還元し、ドープされていた硫酸イオンを脱ドープし、その後、正極材料層を十分に洗浄し、乾燥させた。正極材料層の厚みは、片面あたり50μmとした。
【0057】
(2)負極の作製
厚み10μmの銅箔(負極芯材)を準備した。一方、ハードカーボン97質量部と、カルボキシセルロース1質量部と、スチレンブタジエンゴム2質量部とを混合した混合粉末と、水とを、質量比で40:60(混合粉末:水)の割合で混錬した負極合剤ペーストを調製した。負極合剤ペーストを負極芯材の両面に塗布し、乾燥して、厚さ50μmの負極材料層を形成した。負極芯材の長手方向に沿う端部には、幅10mmの負極芯材露出部を形成した。
【0058】
次に、負極材料層の全面に、真空蒸着により金属リチウムの薄膜を形成した。プレドープするリチウム量は、プレドープ完了後の非水電解質中での負極電位が金属リチウムに対して0.2V以下となるように設定した。
【0059】
その後、装置のチャンバ内を二酸化炭素でパージし、炭酸ガス雰囲気とした。炭酸ガス雰囲気の露点は-40℃、二酸化炭素のモル分率は100%、チャンバ内の圧力は1気圧(1.01×105Pa)とした。1気圧の炭酸ガス雰囲気に暴露される負極の温度は25℃とした。炭酸ガス雰囲気に負極を暴露する時間は、表1に記載のように変化させ、実施例の負極A1~A4と比較例の負極B1~B3を得た。なお、比較例3の電気化学デバイスB3は、装置のチャンバ内の二酸化炭素によるパージを行わなかった。
【0060】
(3)電極体の作製
正極と負極とをセルロース製不織布のセパレータ(厚さ35μm)を介して柱状に捲回して電極体を形成した。このとき、正極芯材露出部を捲回体の一方の端面から突出させ、負極芯材露出部を電極体の他方の端面から突出させた。正極芯材露出部および負極芯材露出部にそれぞれ円盤状の正極集電板および負極集電板を溶接した。
【0061】
(4)非水電解液の調製
プロピレンカーボネートとジメチルカーボネートとの体積比1:1の混合物に、ビニレンカーボネートを0.2質量%添加して溶媒を調製した。得られた溶媒にリチウム塩としてLiPF6を所定濃度で溶解させて、アニオンとしてヘキサフルオロリン酸イオン(PF6
-)を有する非水電解質を調製した。
【0062】
(5)評価1
負極材料層の表層部をXPS分析して、炭酸リチウム含有領域の厚さを測定した。XPS分析には、X線光電子分光装置(商品名:Model 5600、アルバック・ファイ(株)製)を使用した。測定条件を以下に示す。
【0063】
X線源:Al-mono(1486.6eV)14kV/200W
測定径:800μmφ
光電子取り出し角:45°
エッチング条件:加速電圧3kV、エッチングレート約3.1nm/min(SiO2換算)、ラスター面積3.1mm×3.4mm
【0064】
図2は、実施例3の負極A3の負極材料層の表層部のXPS分析で得られたC1sスペクトルを示す図である。
図3は、実施例3の負極A3の負極材料層の表層部のXPS分析で得られたO1sスペクトルを示す図である。
図4は、実施例3の負極A3の負極材料層の表層部のXPS分析で得られたLi1sスペクトルを示す図である。
【0065】
図2によれば、表層部の最表面に不純物炭素と推察されるC-C結合等のピークが見られるが、表層部の1~3nm深さ付近で急激に小さくなり、10~20nm深さでほぼ消失する。深部に見られるC-C結合等のピークは、活物質のハードカーボンに由来するピークと推察される。一方、C=O結合に帰属されるピークは、表層部の最表面から30nm深さまで定常的に観測される。
【0066】
図3によれば、表層部の最表面から30nm深さまでC=O結合に帰属される第1ピークが見られる。5nm深さ付近からはLi-O結合に帰属される第2ピークが観測される。また、
深さ方向の表層部の最表面からの距離が深くなる順に、第1ピークが観測され、かつ第2ピークが観測されない第3領域、第1ピークと第2ピークとが観測され、かつ第1ピーク強度が第2ピーク強度より大きい第1領域、第1ピークと第2ピークとが観測され、かつ第2ピーク強度が第1ピーク強度より大きい第2領域が存在する。
【0067】
図4では、表層部の最表面から100nm深さに定常的にLiの存在が確認できる。なお、LiFに帰属されるピークは観測されなかった。
【0068】
(6)電気化学デバイスの組み立て
開口を有する有底のセルケースに捲回体を収容し、正極集電板と接続されているタブリードを封口板の内面に接続し、更に、負極集電板をセルケースの内底面に溶接した。セルケース内に非水電解質を注液した後、セルケースの開口を封口板で塞ぎ、
図1に示すような電気化学デバイスを組み立てた。その後、正極と負極との端子間に3.8Vの充電電圧を印加しながら25℃で24時間エージングし、リチウムイオンの負極へのプレドープを完了させた。
【0069】
エージング直後において、電気化学デバイスを3.8Vの電圧で充電した後、静電容量を求めた。また、電気化学デバイスを3.8Vの電圧から所定時間放電し、その際の電圧降下量から内部抵抗(初期DCR:Direct Current Resistance)を求めた。結果を表1に示す。
【0070】
【0071】
表1のDCRおよび容量の数値は、比較例3の数値を100としたときの相対値である。炭酸リチウム含有領域の厚さを1nm以上にすることで、DCRが大きく低減され、容量が向上することが理解できる。ただし、炭酸リチウム含有領域の厚さが100nmを超えると、DCRの低減効果が顕著に小さくなっている。また、十分な厚さの炭酸リチウム含有領域を形成するには、相当の時間をかけて炭酸ガス雰囲気に負極材料層を暴露する必要があることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明に係る電気化学デバイスは、例えば車載用途として好適である。
【符号の説明】
【0073】
100:電極体
10:正極
11x:正極芯材露出部
13:正極集電板
15:タブリード
20:負極
21x:負極芯材露出部
23:負極集電板
30:セパレータ
200:電気化学デバイス
210:セルケース
220:封口板
221:ガスケット