(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-20
(45)【発行日】2024-06-28
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 50/451 20210101AFI20240621BHJP
H01M 50/426 20210101ALI20240621BHJP
H01M 50/434 20210101ALI20240621BHJP
H01M 50/443 20210101ALI20240621BHJP
H01M 50/446 20210101ALI20240621BHJP
【FI】
H01M50/451
H01M50/426
H01M50/434
H01M50/443 M
H01M50/446
(21)【出願番号】P 2021501763
(86)(22)【出願日】2020-01-27
(86)【国際出願番号】 JP2020002827
(87)【国際公開番号】W WO2020174974
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2022-11-07
(31)【優先権主張番号】P 2019036512
(32)【優先日】2019-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉森 仁徳
(72)【発明者】
【氏名】馬場 泰憲
(72)【発明者】
【氏名】柳田 勝功
(72)【発明者】
【氏名】平野 暢宏
【審査官】鈴木 雅雄
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-508391(JP,A)
【文献】特表2008-524824(JP,A)
【文献】特開2014-067693(JP,A)
【文献】特開2015-015096(JP,A)
【文献】特開2016-038967(JP,A)
【文献】特開2016-046058(JP,A)
【文献】特開2017-076484(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/451
H01M 50/426
H01M 50/434
H01M 50/443
H01M 50/446
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極と、セパレータとを有する電極体と、
非水電解質と、を備え、
前記セパレータは、多孔質の基材と、前記基材上に配置されたフィラー層とを有し、
前記フィラー層は、リン酸塩粒子と、前記リン酸塩粒子より
融点の高い無機粒子とを含み、
前記リン酸塩粒子の体積基準の10%粒径(D
10)は、0.02μm以上0.5μm以下であり、且つ前記基材の平均孔径より小さく、
前記リン酸塩粒子のBET比表面積は、5m
2/g以上100m
2/g以下であり、且つ前記無機粒子のBET比表面積より大きく、
前記無機粒子の体積基準の50%粒径(D
50)は、前記リン酸塩粒子の体積基準の50%粒径(D
50)より大きい、非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記リン酸塩粒子の一部は、前記基材の空孔内に入り込んでおり、当該粒子の入り込み深さの平均値は0.02μm以上2μm以下である、請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記フィラー層の厚みは、4μm以下である、請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
前記フィラー層は、網目状のポリフッ化ビニリデン系樹脂を有し、
前記フィラー層中の前記ポリフッ化ビニリデン系樹脂の含有量は、15質量%以上40質量%以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項5】
前記リン酸塩粒子の表面全体が前記ポリフッ化ビニリデン系樹脂で覆われている、請求項4に記載の非水電解質二次電池。
【請求項6】
前記ポリフッ化ビニリデン系樹脂は、3質量%以上15質量%以下のヘキサフルオロプロピレンを含む、請求項4又は5に記載の非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質二次電池は、過充電、内部短絡、外部短絡、大電流に起因する過度の抵抗加熱等の異常時に、発熱する場合がある。従来、非水電解質二次電池の異常時における温度上昇を抑制する技術の1つとして、セパレータのシャットダウン機能が知られている。シャットダウン機能は、セパレータが熱によって溶融して自身の空孔を塞ぐ機能である。電池の異常時には、シャットダウン機能により、例えば、正負極間のイオン伝導(リチウムイオンの移動)が遮断されるため、電池温度の上昇が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2012/137376号
【文献】中国特許出願公開第107737702号明細書
【発明の概要】
【0004】
ところで、近年、電池の高容量化の要求に伴い、セパレータの薄膜化が検討されているが、セパレータの厚みが薄くなると、電池の異常時に、セパレータの変形や収縮が起こって、シャットダウン機能を発揮することが難しくなり、電池温度の上昇を抑制することが困難となる。
【0005】
そこで、本開示の目的は、電池の異常時において電池温度の上昇を抑えることができる非水電解質二次電池を提供することである。
【0006】
本開示の一態様である非水電解質二次電池は、正極と、負極と、セパレータとを有する電極体と、非水電解質と、を備え、前記セパレータは、多孔質の基材と、前記基材上に配置されたフィラー層とを有し、前記フィラー層は、リン酸塩粒子と、前記リン酸塩粒子より融点の高い無機粒子とを含み、前記リン酸塩粒子の体積基準の10%粒径(D10)は、0.02μm以上0.5μm以下であり、且つ前記基材の平均孔径より小さく、前記リン酸塩粒子のBET比表面積は、5m2/g以上100m2/g以下であり、且つ前記無機粒子のBET比表面積より大きく、前記無機粒子の体積基準の50%粒径(D50)は、前記リン酸塩粒子の体積基準の50%粒径(D50)より大きい。
【0007】
本開示の一態様によれば、電池の異常時において電池温度の上昇を抑えることができる非水電解質二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態の一例である非水電解質二次電池の斜視図である。
【
図2】
図1の非水電解質二次電池に用いられる電極体の一例を示す一部拡大断面図である。
【
図3】網目状のポリフッ化ビニリデンの状態を説明するためのフィラー層の一部拡大平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示の一態様である非水電解質二次電池は、正極と、負極と、セパレータとを有する電極体と、非水電解質と、を備え、前記セパレータは、多孔質の基材と、前記基材上に配置されたフィラー層とを有し、前記フィラー層は、リン酸塩粒子と、前記リン酸塩粒子より耐熱性の高い無機粒子とを含み、前記リン酸塩粒子の体積基準の10%粒径(D10)は、0.02μm以上0.5μm以下であり、且つ前記基材の平均孔径より小さく、前記リン酸塩粒子のBET比表面積は、5m2/g以上100m2/g以下であり、且つ前記無機粒子のBET比表面積より大きく、前記無機粒子の体積基準の50%粒径(D50)は、前記リン酸塩粒子の体積基準の50%粒径(D50)より大きい。
【0010】
一般的に、多孔質の基材は、電池の異常時における熱により、多孔質の基材が溶融して自身の空孔を塞ぐシャットダウン機能を有するが、さらに、本開示では、電池の異常時における熱により、フィラー層に含まれるリン酸塩粒子が、熱を加速因子として溶融、重合し、多孔質の基材の空孔を埋めるため、セパレータのシャットダウン機能が高められている。特に、リン酸塩粒子の粒径及びBET比表面積を上記範囲とすることで、電池の異常時における熱により、リン酸塩粒子が溶融し易く、多孔質の基材の空孔を速やかに埋めることができる。また、電池の異常時における熱により、多孔質の基材が変形したり収縮したりすると、セパレータのシャットダウン機能が十分に発揮されない場合がある。本開示では、フィラー層にリン酸塩粒子より耐熱性の高い無機粒子が含まれているため、当該フィラー層は高い耐熱性を有している。特に、上記規定した粒径及びBET比表面積を有する無機粒子を含むフィラー層は十分に高い耐熱性を有している。したがって、多孔質の基材は、耐熱性の高いフィラー層により支持された状態となっているため、電池の異常時において、多孔質の基材の変形や収縮が抑えられ、セパレータのシャットダウン機能が維持される。これらのことから、電池の異常時において、例えば、正負極間におけるリチウムイオンの移動がセパレータにより迅速に遮断され、発熱反応が十分に抑制されるため、電池温度の上昇が抑えられる。
【0011】
以下、本開示に係る非水電解質二次電池の実施形態の一例について詳細に説明する。
【0012】
図1は、実施形態の一例である非水電解質二次電池の斜視図である。非水電解質二次電池10は、電極体11と、非水電解質と、これらを収容する角形の電池ケース14とを備える。電極体11は、正極と、負極と、セパレータとを有する。電極体11は、複数の正極および複数の負極がセパレータを介して1枚ずつ交互に積層された積層型の電極体である。なお、積層型の電極体の代わりに、正極及び負極がセパレータを介して巻回されてなる巻回型の電極体等、他の形態の電極体が適用されてもよい。
【0013】
電池ケース14は、略箱形状のケース本体15と、ケース本体15の開口部を塞ぐ封口体16と、正極と電気的に接続された正極端子12と、負極と電気的に接続された負極端子13とを有する。ケース本体15および封口体16は、例えば、アルミニウムを主成分とする金属材料で構成される。正極端子12および負極端子13は、絶縁部材17を介して封口体16に固定されている。一般的に、封口体16には、ガス排出機構(図示せず)が設けられる。なお、電池ケースは角形に限定されず、例えば、円筒形、コイン形、ボタン形等の金属製ケース、樹脂フィルムによって構成される樹脂製ケース(ラミネート)などであってもよい。
【0014】
図2は、
図1の非水電解質二次電池に用いられる電極体の一例を示す一部拡大断面図である。以下、
図2を用いて、正極、負極、セパレータについて説明する。
【0015】
[正極]
正極18は、正極集電体と、当該集電体上に形成された正極合材層とを備える。正極集電体には、アルミニウムなどの正極18の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。正極合材層は、例えば、正極活物質、導電材、及び結着材を含み、正極集電体の両面に形成されることが好ましい。正極18は、正極集電体上に正極活物質、導電材、結着材等を含む正極合材スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧延して正極合材層を正極集電体の両面に形成することにより作製できる。電池の高容量化の観点から、正極合材層の密度は、3.6g/cc以上であり、好ましくは3.6g/cc以上4.0g/cc以下である。
【0016】
正極活物質としては、Co、Mn、Ni、Al等の金属元素を含有するリチウム金属複合酸化物が例示できる。リチウム金属複合酸化物としては、LixCoO2、LixNiO2、LixMnO2、LixCoyNi1-yO2、LixCoyM1-yOz、LixNi1-yMyOz、LixMn2O4、LixMn2-yMyO4、LiMPO4、Li2MPO4F(M;Na、Mg、Sc、Y、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Cr、Pb、Sb、Bのうち少なくとも1種、0.95≦x≦1.2、0.8<y≦0.95、2.0≦z≦2.3)等が例示できる。
【0017】
正極合材層に含まれる導電材としては、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、グラフェン等の炭素材料が例示できる。正極合材層に含まれる結着材としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等の含フッ素樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド、アクリル樹脂、ポリオレフィン、カルボキシメチルセルロース(CMC)又はその塩、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリル酸(PAA)又はその塩、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレンオキシド(PEO)等が挙げられる。
【0018】
[負極]
負極20は、負極集電体と、当該集電体上に形成された負極合材層とを備える。負極集電体には、銅などの負極20の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。負極合材層は、例えば、負極活物質及び結着材を含み、負極集電体の両面に形成されることが好ましい。負極20は、負極集電体上に負極活物質及び結着材等を含む負極合材スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧延して負極合材層を負極集電体の両面に形成することにより作製できる。
【0019】
負極活物質としては、リチウムイオンを可逆的に吸蔵、放出できるものであれば特に限定されず、例えば天然黒鉛、人造黒鉛等の炭素材料、ケイ素(Si)、錫(Sn)等のLiと合金化する金属、Si、Sn等の金属元素を含む酸化物、リチウムチタン複合酸化物等が挙げられる。なお、リチウムチタン複合酸化物を用いる場合には、負極合材層にカーボンブラック等の導電材が含まれることが好ましい。負極合材層に含まれる結着材は、正極18の場合と同様の材料が用いられる。
【0020】
[セパレータ]
図2に例示するように、セパレータ22は、多孔質の基材24と、基材24上に配置されたフィラー層26と、を有する。フィラー層26は、リン酸塩粒子と、リン酸塩粒子より耐熱性の高い無機粒子とを有する。また、フィラー層26は、結着材を含むことが好ましい。
【0021】
図2に示すセパレータ22では、フィラー層26が基材24の両面に配置されているが、基材24の両面のうちのいずれか一方に配置されていればよい。但し、フィラー層26に含まれるリン酸塩粒子の溶融、重縮合は、電池の異常時における熱だけでなく、電池の異常時における正極18の電位によっても引き起こされる場合がある。したがって、セパレータ22のシャットダウン機能を迅速に作用させる等の点で、フィラー層26は、少なくとも正極18と対向する基材24の面に配置されていることが好ましい。
【0022】
基材24は、イオン透過性及び絶縁性を有する多孔質シート、例えば微多孔薄膜、織布、不織布等で構成される。基材24を構成する樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンとαオレフィンとの共重合体等のポリオレフィン、アクリル樹脂、ポリスチレン、ポリエステル、セルロースなどが例示できる。基材24は、例えばポリオレフィンを主成分として構成され、実質的にポリオレフィンのみで構成されてもよい。基材24は、単層構造であってもよく、積層構造を有していてもよい。基材24の厚みは、特に限定されないが、例えば、3μm以上20μm以下が好ましい。
【0023】
基材24の空孔率は、リチウムイオン透過性を確保する等の点で、例えば、30%以上70%以下であることが好ましい。基材24の空孔率は、下記の方法で測定される。
(1)基材の10箇所を直径2cmの円形に打ち抜き、打ち抜いた基材の小片の中心部の厚みh、質量wをそれぞれ測定する。
(2)厚みh、質量wから、10枚分の小片の体積V、質量Wを求め、以下の式から空孔率εを算出する。
【0024】
空孔率ε(%)=((ρV-W)/(ρV))×100
ρ:基材を構成する材料の密度
基材24の平均孔径は、例えば0.02μm以上0.5μm以下であり、好ましくは0.03μm以上0.3μm以下である。基材24の平均孔径は、バブルポイント法(JIS K3832、ASTM F316-86)による細孔径測定ができるパームポロメーター(西華産業製)を用いて測定される。基材24の最大孔径は、例えば0.05μm以上1μm以下であり、好ましくは0.05μm以上0.5μm以下である。
【0025】
フィラー層26に含まれるリン酸塩粒子としては、Li3PO4、LiPON、Li2HPO4、LiH2PO4、Na3PO4、Na2HPO4、NaH2PO4、Zr3(PO4)4、Zr(HPO4)2、HZr2(PO4)3、K3PO4、K2HPO4、KH2PO4、Ca3(PO4)2、CaHPO4、Mg3(PO4)2、MgHPO4等が例示できる。中でも、副反応抑制等の観点から、リン酸リチウム(Li3PO4)、リン酸水素二リチウム(Li2HPO4)、リン酸二水素リチウム(LiH2PO4)から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0026】
フィラー層26に含まれる無機粒子は、フィラー層26に含まれるリン酸塩粒子より耐熱性の高い無機粒子(すなわち、リン酸塩粒子より融点の高い無機粒子)であれば特に制限されるものではないが、例えば、正負極間のショート発生を抑制する点から、電気絶縁性の高い無機粒子であることが好ましい。無機粒子としては、例えば、金属酸化物、金属酸化物水和物、金属水酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物等が挙げられる。
【0027】
金属酸化物、金属酸化物水和物の例としては、例えば、酸化アルミニウム(アルミナ)、ベーマイト(Al2O3H2OまたはAlOOH)、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ケイ素または酸化イットリウム、酸化亜鉛等が挙げられる。金属窒化物の例としては、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素または窒化チタン等が挙げられる。金属炭化物の例としては、炭化ケイ素または炭化ホウ素等が挙げられる。金属硫化物の例としては、硫酸バリウム等が挙げられる。金属水酸化物の例としては、水酸化アルミニウム等が挙げられる。なお、ベーマイトのようにアルミナに変性後溶融するような物質の融点は、変性後の物質の融点がリン酸塩粒子の融点より高いことが望ましい。
【0028】
また、無機粒子は、ゼオライト(M2/nO・Al2O3・xSiO2・yH2O、Mは金属元素、x≧2、y≧0)等の多孔質アルミノケイ酸塩、タルク(Mg3Si4O10(OH)2)等の層状ケイ酸塩、チタン酸バリウム(BaTiO3)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)等の鉱物を用いてもよい。これらの中では、絶縁性、耐熱性等の観点から、酸化アルミニウム、ベーマイト、タルク、酸化チタン、酸化マグネシウムから選択される少なくとも1種が好適である。
【0029】
リン酸塩粒子のBET比表面積は、5m2/g以上100m2/g以下であり、且つ無機粒子のBET比表面積より大きければよいが、20m2/g以上80m2/g以下が好ましい。BET比表面積は、JIS R1626のBET法(窒素吸着法)に従って測定される。一般的に、電池製造時にかかる温度、通常使用時における電池内温度、及び異常時における電池内温度を考慮すれば、リン酸塩粒子は、140℃~190℃程度の温度で溶融することが好ましい。そして、上記範囲のBET比表面積を有するリン酸塩粒子は140℃~190℃程度の温度で溶融し易いため、当該粒子を用いることで、電池の異常時における熱により溶融、重縮合したリン酸塩が基材24の空孔を迅速に塞ぐことができる。
【0030】
無機粒子のBET比表面積は、リン酸塩粒子のBET比表面積より小さければよいが、例えば、3m2/g以上12m2/g以下が好ましい。無機粒子のBET比表面積をリン酸塩粒子のBET比表面積より小さくすること、好ましくは、3m2/g以上7m2/g以下とすることで、フィラー層26に十分な耐熱性を付与することができる。
【0031】
リン酸塩粒子の体積基準の10%粒径(D10)は、0.02μm以上0.5μm以下であり、且つ基材24の平均孔径より小さければよいが、好ましくは0.03μm以上0.3μm以下であり、且つ基材24の平均孔径より小さいものがよい。上記範囲を満たすことで、セパレータ22の製造時においてリン酸塩粒子の一部が基材24の空孔内に入り込み易くなる、又は電池の異常時にリン酸塩が基材24の空孔を迅速に塞ぐことができるため、電池の異常時における電池温度の上昇を効果的に抑制することができる。無機粒子の体積基準の10%粒径(D10)は、フィラー層26の耐熱性を高める等の点で、例えば、リン酸塩粒子の体積基準の10%粒径(D10)より大きいことが好ましく、例えば、0.3μm以上であることが好ましい。上限値は特に限定されるものではないが、例えば、1μm以下である。
【0032】
ここで、体積基準の10%粒径(D10)とは、リン酸塩粒子や無機粒子の粒子径分布において体積積算値が10%となる粒径を意味する。なお、後述する50%粒径(D50)、90%粒径(D90)は、それぞれ、粒子径分布において体積積算値が50%、90%となる粒径を意味する。50%粒径(D50)は、メジアン径とも呼ばれる。リン酸塩粒子や無機粒子の粒子径分布は、レーザ回折法(レーザ回折散乱式粒度分布測定装置)によって測定される。以下、特に断らない限り、10%粒径、50%粒径、及び90%粒径は、体積基準の粒径を意味するものとする。
【0033】
リン酸塩粒子の50%粒径(D50)は、例えば0.05μm以上1μm以下であることが好ましく、0.1μm以上1μm以下であることがより好ましい。リン酸塩粒子の50%粒径(D50)が当該範囲から外れる場合、当該範囲内にある場合と比較して、電池の異常時における電池温度の上昇を抑制する効果が減少する場合がある。なお、リン酸塩粒子の50%粒径(D50)は、基材24の平均孔径より小さくてもよい。無機粒子の50%粒径(D50)は、リン酸塩粒子の50%粒径(D50)より大きければよいが、例えば、0.1μm以上1μm以下であることが好ましく、0.2μm以上0.8μm以下であることがより好ましい。このように、無機粒子の50%粒径(D50)をリン酸塩粒子の50%粒径(D50)より大きくすることにより、フィラー層26に十分な耐熱性を付与することができ、熱による基材24の変形・収縮を効果的に抑制できる。
【0034】
リン酸塩粒子の90%粒径(D90)は、基材24の平均孔径より大きいことが好適である。90%粒径(D90)は、例えば0.2μm以上2μm以下であることが好ましく、0.5μm以上1.5μm以下であることがより好ましい。D90が当該範囲内であれば、セパレータ22の製造時において基材24の空孔内に入り込むリン酸塩粒子の量を適度な範囲に調整でき、電池の異常時における電池温度の上昇をより効果的に抑制することができる。無機粒子の90%粒径(D90)は、フィラー層26の耐熱性を高める等の点で、例えば、リン酸塩粒子の体積基準の90%粒径(D90)より大きいことが好ましく、例えば、0.4μm以上であることが好ましい。上限値は特に限定されるものではないが、例えば、1μm以下である。
【0035】
フィラー層26中のリン酸塩粒子の含有量は、基材24の空孔を塞ぐのに十分な量とする点で、40質量%以上80質量%以下が好ましく、50質量%以上70質量%以下がより好ましい。フィラー層26中の無機粒子の含有量は、フィラー層26の耐熱性を向上させる等の点で、10質量%以上40質量%以下が好ましく、20質量%以上40質量%以下がより好ましい。
【0036】
セパレータ22では、フィラー層26のリン酸塩粒子の一部が基材24の空孔内に入り込み、当該粒子の入り込み深さの平均値が0.02μm以上2μm以下であることが好ましく、0.1μm以上1.5μm以下であることがより好ましい。
【0037】
ここで、リン酸塩粒子の入り込み深さとは、基材24の表面から、基材24の厚み方向において基材24の内部に入り込んだ粒子の端部までの長さを意味する。入り込み深さは、走査型電子顕微鏡(SEM)又は透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた基材24の断面観察によって計測できる。
【0038】
リン酸塩粒子は、基材24の表面の略全域において空孔内に入り込んでいることが好ましい。即ち、基材24の表面には、空孔内に入り込んだリン酸塩粒子が略均一に存在している。また、リン酸塩粒子の上記入り込み深さは、基材24の表面の略全域において略均一であることが好ましい。
【0039】
リン酸塩粒子の上記入り込み深さの平均値は、基材24の厚みに対して、例えば1%以上50%以下であり、好ましくは5%以上30%以下である。基材24の平均孔径に応じて、リン酸塩粒子の10%粒径(D10)等を調整することで、基材24の内部に入り込むリン酸塩粒子の深さを制御することが可能となる。
【0040】
基材24の両面にフィラー層26を設ける場合、フィラー層26の合計厚み(リン酸塩粒子の入り込み深さを除いた厚み)は、例えば、6μm以下であることが好ましく、1μm以上6μm以下であることがより好ましく、特に1μm以上4μm以下であることがより好ましい。1つのフィラー層26の厚みは、例えば、4μm以下であることが好ましく、0.5μm以上2μm以下がより好ましい。
【0041】
フィラー層26の空孔率は、電池の充放電時において、良好なイオン透過性を確保する点、物理的な強度を確保する点等から、30%以上70%以下が好ましい。フィラー層26の空孔率は、下記の式で算出される。
【0042】
フィラー層の空孔率(%)=100-[[W÷(d×ρ)]×100]
W:フィラー層の目付量(g/cm2)
d:フィラー層の厚み(cm)
ρ:フィラー層の平均密度(g/cm3)
フィラー層26は、層の機械的強度、接着性等を高める等の点で、結着材を含むことが好ましい。結着材としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンとαオレフィンとの共重合体等のポリオレフィン、PVdF、PTFE、ポリフッ化ビニル(PVF)等の含フッ素樹脂、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体等の含フッ素ゴム、スチレン-ブタジエン共重合体及びその水素化物、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体及びその水素化物、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体及びその水素化物、メタクリル酸エステル-アクリル酸エステル共重合体、スチレン-アクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル-アクリル酸エステル共重合体、ポリ酢酸ビニル、ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、ポリN-ビニルアセトアミド、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、セルロース、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリビニルアルコール、CMC、アクリルアミド、PVA、メチルセルロース、グアーガム、アルギン酸ナトリウム、カラギーナン、キサンタンガム及びこれらの塩などが挙げられる。これらの中では、接着性等の点で、ポリN-ビニルアセトアミドやポリフッ化ビニリデン系樹脂が好ましく、電極との接着性、イオン透過性等の点で、網目状のポリフッ化ビニリデン系樹脂がより好ましい。
【0043】
図3は、網目状のポリフッ化ビニリデンの状態を説明するためのフィラー層の一部拡大平面図である。
図3に示すように、フィラー層26に含まれる網目状のポリフッ化ビニリデン系樹脂28は、繊維状となって相互に三次元的に連結して、網目状のネットワークを形成している。なお、繊維状とは、径(繊維径)に対する長さ(繊維長)の比(アスペクト比)が3以上の状態を示す。そして、フィラー層26内の粒子30(リン酸塩粒子や無機粒子)は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂28の網目状のネットワークにより固定されている。このようなフィラー層26は、多数の細孔32を有し、これら細孔32が連結した構造となっている。そのため、フィラー層26は、一方の面から他方の面へとリチウムイオンが通過し易い構造となっている。また、フィラー層26は、表面の網目状のポリフッ化ビニリデン系樹脂28のアンカー効果により、電極(正極18や負極20)に対して接着性を有する。電極とフィラー層26との接着の際には、例えば、常温又は温感で電極体11の積層方向にプレスすることが望ましい。
図3に示すフィラー層26では、粒子30(リン酸塩粒子や無機粒子)の表面の一部がポリフッ化ビニリデン系樹脂28で覆われているが、電極との接着性等の点では、リン酸塩粒子の表面全体が、ポリフッ化ビニリデン系樹脂28で覆われていることが好ましく、リン酸塩粒子の表面全体及び無機粒子の表面全体が、ポリフッ化ビニリデン系樹脂28で覆われていることがより好ましい。
【0044】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂は、フッ化ビニリデンの単独重合体(すなわちポリフッ化ビニリデン)、フッ化ビニリデンと他の共重合可能なモノマーとの共重合体、あるいはこれらの混合物が好適に用いられる。フッ化ビニリデンと共重合可能なモノマーは、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、トリフルオロエチレン、フッ化ビニル等の一種類又は二種類以上を用いることができる。ポリフッ化ビニリデン系樹脂は、電極との接着性等の点で、構成単位としてのフッ化ビニリデンを70質量%以上含有することが好ましく、80質量%以上含有することがより好ましい。また、ポリフッ化ビニリデン系樹脂は、電極との接着性等の点で、構成単位としてヘキサフルオロプロピレンを3質量%以上15質量%以下含有することが好ましい。
【0045】
フィラー層26中の結着材は、例えば2質量%以上8質量%以下である。
【0046】
結着材として網目状のポリフッ化ビニリデン系樹脂を用いる場合、フィラー層26中のポリフッ化ビニリデン系樹脂の含有量は、電極との接着性等を考慮すると、15質量%以上40質量%以下であることが好ましく、15質量%以上25質量%以下であることがより好ましい。フィラー層26中のポリフッ化ビニリデン系樹脂の含有量が15質量%未満であると、電極との接着性が低下し、正極と負極の対向がずれる恐れが生じる。また、フィラー層26中のポリフッ化ビニリデン系樹脂の含有量が40質量%を超えると、例えば、フィラー層26のフィラーの減少により、セパレータの耐熱性や強度が低下する場合がある。
【0047】
フィラー層26は、さらに、ヘテロポリ酸を含んでいてもよい。ヘテロポリ酸を添加することで、溶融したリン酸塩の重縮合が促進されると考えられる。ヘテロポリ酸としては、リンモリブデン酸、リンタングステン酸、リンモリブドタングステン酸、リンモリブドバナジン酸、リンモリブドタングストバナジン酸、リンタングストバナジン酸、ケイタングステン酸、ケイモリブデン酸、ケイモリブドタングステン酸、ケイモリブドタングステントバナジン酸等が例示できる。
【0048】
フィラー層26は、例えば、基材24の表面に、リン酸塩粒子、無機粒子、任意の結着材等を含むスラリーを塗布、乾燥することにより形成される。また、例えば、基材24の表面に、リン酸塩粒子、無機粒子、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、及び分散媒を含むスラリーを塗布し、非溶媒中、又は非溶媒及び分散媒の混合溶媒中を通過させて分散媒を抽出し(相分離)、その後、乾燥させる相分離法等により形成してもよい。このような相分離法により、リン酸塩粒子、無機粒子及び網目状のポリフッ化ビニリデン系樹脂を含むフィラー層26が形成される。スラリーの塗布方法は、例えば、グラビア印刷法等の従来公知の方法でよい。
【0049】
相分離法で用いる非溶媒は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂がほとんど溶解しない溶媒であり、例えば水、アルコール類、エーテル類等が挙げられる。分散媒は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂が溶解する溶媒であり、例えば、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等が挙げられる。非溶媒として水を使用する場合、分散媒の抽出速度の速さから、N,N-ジメチルアセトアミドを使用することが好ましい。
【0050】
なお、基材24の空孔内へのリン酸塩粒子の入り込み深さは、リン酸塩粒子の粒径、スラリーの塗膜の乾燥条件、スラリーの塗布方法等によって制御できる。例えば、リン酸塩粒子の10%粒径(D10)を小さくしたり、塗膜の乾燥条件を緩やかにしたりすると、リン酸塩粒子が基材24の内部に入り込み易くなる。また、スラリーの塗布に用いるグラビアロールの回転速度を遅くすると、リン酸塩粒子が基材24の内部に入り込み易くなる。
【0051】
[非水電解質]
非水電解質は、非水溶媒と、非水溶媒に溶解した電解質塩とを含む。非水電解質は、液体電解質(非水電解液)に限定されず、ゲル状ポリマー等を用いた固体電解質であってもよい。非水溶媒には、例えばエステル類、エーテル類、アセトニトリル等のニトリル類、ジメチルホルムアミド等のアミド類、及びこれらの2種以上の混合溶媒等を用いることができる。非水溶媒は、これら溶媒の水素の少なくとも一部をフッ素等のハロゲン原子で置換したハロゲン置換体を含有していてもよい。
【0052】
上記エステル類の例としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート等の環状炭酸エステル、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート等の鎖状炭酸エステル、γ-ブチロラクトン(GBL)、γ-バレロラクトン(GVL)等の環状カルボン酸エステル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル(MP)、プロピオン酸エチル、γ-ブチロラクトン等の鎖状カルボン酸エステルなどが挙げられる。
【0053】
上記エーテル類の例としては、1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、プロピレンオキシド、1,2-ブチレンオキシド、1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、1,3,5-トリオキサン、フラン、2-メチルフラン、1,8-シネオール、クラウンエーテル等の環状エーテル、1,2-ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジヘキシルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、メチルフェニルエーテル、エチルフェニルエーテル、ブチルフェニルエーテル、ペンチルフェニルエーテル、メトキシトルエン、ベンジルエチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、o-ジメトキシベンゼン、1,2-ジエトキシエタン、1,2-ジブトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、1,1-ジメトキシメタン、1,1-ジエトキシエタン、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル等の鎖状エーテル類などが挙げられる。
【0054】
上記ハロゲン置換体としては、フルオロエチレンカーボネート(FEC)等のフッ素化環状炭酸エステル、フッ素化鎖状炭酸エステル、フルオロプロピオン酸メチル(FMP)等のフッ素化鎖状カルボン酸エステル等を用いることが好ましい。
【0055】
電解質塩は、リチウム塩であることが好ましい。リチウム塩の例としては、LiBF4、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiAlCl4、LiSCN、LiCF3SO3、LiCF3CO2、Li(P(C2O4)F4)、LiPF6-x(CnF2n+1)x(1<x<6,nは1又は2)、LiB10Cl10、LiCl、LiBr、LiI、クロロボランリチウム、低級脂肪族カルボン酸リチウム、Li2B4O7、Li(B(C2O4)F2)等のホウ酸塩類、LiN(SO2CF3)2、LiN(C1F2l+1SO2)(CmF2m+1SO2){l,mは0以上の整数}等のイミド塩類などが挙げられる。リチウム塩は、これらを1種単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。これらのうち、イオン伝導性、電気化学的安定性等の観点から、LiPF6を用いることが好ましい。リチウム塩の濃度は、非水溶媒1L当り0.8~1.8molとすることが好ましい。
【実施例】
【0056】
以下、実施例により本開示をさらに説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0057】
<実施例1>
[セパレータの作製]
下記の手順で、フィラー層/ポリエチレン製の多孔質基材/フィラー層からなる3層構造を有するセパレータを作製した。
(1)スラリーの調製
BET比表面積が61.3m2/g、D10が0.091μm、D50が0.17μmのリン酸リチウム粒子(Li3PO4)と、BET比表面積が4.3m2/g、D10が0.35μm、D50が0.46μmのアルミナ(Al2O3)と、ポリフッ化ビニリデン系樹脂(5質量%のヘキサフルオロプロピレンを含む)とを、46:46:8の質量比で混合し、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を加えることにより、スラリーを調製した。
(2)フィラー層の形成
厚みが12μmの単層のポリエチレン製多孔質基材の一方の面に、上記スラリーを塗布した後、60℃で6分間乾燥させることにより、基材の一方の面にフィラー層を形成した。また、上記同様の操作を行い、基材の他方の面にもフィラー層を形成した。ポリエチレン製多孔質基材の平均孔径は0.5μmであった。
【0058】
[正極の作製]
正極活物質として、Li1.05Ni0.82Co0.15Al0.03O2で表されるリチウム複合酸化物粒子を用いた。正極活物質と、カーボンブラックと、PVdFとを、NMP中で100:1:1の質量比で混合して正極合材スラリーを調製した。次に、当該正極合材スラリーを、アルミニウム箔からなる正極集電体の両面に塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧延ローラーにより圧延し、さらにアルミニウム製の集電タブを取り付けて、正極集電体の両面に正極合材層が形成された正極を作製した。なお、正極合材の充填密度は3.70g/cm3であった。
【0059】
[負極の作製]
人造黒鉛と、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC‐Na)と、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)のディスパージョンとを、水中で98:1:1の固形分質量比で混合して負極合材スラリーを調製した。次に、当該負極合材スラリーを銅箔からなる負極集電体の両面に塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧延ローラーにより圧延し、さらにニッケル製の集電タブを取り付けて、負極集電体の両面に負極合材層が形成された負極を作製した。なお、負極合材の充填密度は1.70g/cm3であった。
【0060】
[非水電解質の調製]
エチレンカーボネート(EC)と、エチルメチルカーボネート(EMC)と、ジメチルカーボネート(DMC)とを、3:3:4の体積比で混合した混合溶媒に対して、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を1モル/リットルの濃度になるように溶解した。さらに、ビニレンカーボネート(VC)を上記混合溶媒に対して1質量%の濃度で溶解させて、非水電解質を調製した。
【0061】
[非水電解質二次電池の作製]
上記セパレータを介して上記負極及び上記正極を交互に積層することにより、積層型の電極体を作製した。この電極体を積層方向にプレスした後、上記非水電解質と共に、角形の電池ケースに収容して、750mAhの角形試験セルを作製した。
【0062】
<実施例2>
スラリーの調製において、BET比表面積が10.3m2/g、D10が0.15μm、D50が0.2μmのアルミナ(Al2O3)を用いたこと以外は、実施例1と同様に非水電解質二次電池を作製した。
【0063】
<実施例3>
スラリーの調製において、BET比表面積が6.5m2/g、D10が0.42μm、D50が0.7μmのリン酸リチウム粒子(Li3PO4)を用いたこと以外は、実施例1と同様に非水電解質二次電池を作製した。
【0064】
<比較例1>
スラリーの調製において、BET比表面積が3.3m2/g、D10が0.68μm、D50が1.15μmのリン酸リチウム粒子(Li3PO4)を用いたこと以外は、実施例1と同様に非水電解質二次電池を作製した。
【0065】
<比較例2>
フィラー層の形成において、BET比表面積が8m2/g、D10が0.52μm、D50が0.72μmのリン酸リチウム粒子(Li3PO4)を用いたこと以外は、実施例1と同様に非水電解質二次電池を作製した。
【0066】
<比較例3>
フィラー層の形成において、BET比表面積が5.2m2/g、D10が0.36μm、D50が0.65μmのリン酸リチウム粒子(Li3PO4)を用いたこと以外は、実施例1と同様に非水電解質二次電池を作製した。
【0067】
[釘刺し試験]
各実施例及び各比較例の電池を、25℃の環境下で、225mAの定電流で電池電圧が4.2Vになるまで充電を行い、その後、4.2Vの定電圧で電流値が37.5mAになるまで充電を行った。25℃の環境下で上記充電状態の電池の側面中央部に、1mmφの大きさの丸釘を、0.1mm/秒の速度で、電極体の積層方向に突き刺し、電池を完全に貫通した時点で、釘の突刺しを停止させた。丸釘を突き刺した電池側面部から5mm離れた位置の電池温度を測定して、最高到達温度を求めた。その結果を表1に示す。
【0068】
【0069】
実施例1~3はいずれも、比較例1~3と比べて、釘刺し試験における最高到達温度が低い結果、すなわち、電池の異常時における電池温度の上昇が抑制された結果となった。なお、ここではテスト用電池での試験であるため、積層型の電池であるにも係らず、セパレータと電極との接着性を付与せずに実施した。製品として量産する場合は、接着が必要である。この場合、先述したように、別途接着機能層を設けるか、網目状のポリフッ化ビニリデン系樹脂を含むフィラー層の利用が望ましい。
【符号の説明】
【0070】
10 非水電解質二次電池
11 電極体
12 正極端子
13 負極端子
14 電池ケース
15 ケース本体
16 封口体
17 絶縁部材
18 正極
20 負極
22 セパレータ
24 基材
26 フィラー層
28 ポリフッ化ビニリデン系樹脂
30 粒子
32 細孔