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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-20
(45)【発行日】2024-06-28
(54)【発明の名称】電極、電池及び電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/02 20060101AFI20240621BHJP
   H01M 4/04 20060101ALI20240621BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20240621BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20240621BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240621BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240621BHJP
【FI】
H01M4/02 Z
H01M4/04 Z
H01M4/13
H01M4/139
H01M4/36 C
H01M4/62 Z
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020156130
(22)【出願日】2020-09-17
(65)【公開番号】P2022049868
(43)【公開日】2022-03-30
【審査請求日】2023-06-23
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100137235
【弁理士】
【氏名又は名称】寺谷 英作
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【弁理士】
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】岡部 有未
(72)【発明者】
【氏名】土田 修三
(72)【発明者】
【氏名】堀川 晃宏
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/031211(WO,A1)
【文献】特開2007-122915(JP,A)
【文献】特開2008-300239(JP,A)
【文献】特開2008-243736(JP,A)
【文献】特開2006-252882(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/02
H01M 4/04
H01M 4/13
H01M 4/139
H01M 4/36
H01M 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極であって、
集電体と、
前記集電体上に位置し、第1粒子及び第1活物質粒子を含む第1合剤層と、前記第1合剤層上に位置し、第2粒子及び第2活物質粒子を含む第2合剤層と、を有する活物質合剤層と、を備え、
前記電極の断面視において、前記活物質合剤層は、少なくとも一部に前記第1活物質粒子と前記第2活物質粒子とが不連続な状態で接している前記第1合剤層と前記第2合剤層との境界を有し、
前記第1活物質粒子は、前記境界において前記第2合剤層に面した平坦面を有する変形粒子と、前記平坦面を有さない非変形粒子と、を含み、
前記電極の断面視において、前記変形粒子の前記平坦面のRz(最大高さ)は、10以下である、
電極。
【請求項2】
前記境界において、前記変形粒子の前記平坦面は、前記第2活物質粒子と接する、
請求項に記載の電極。
【請求項3】
前記変形粒子は、前記電極の断面視において、前記平坦面の長さが前記非変形粒子の平均粒子径以上である粒子を含む、
請求項1又は2に記載の電極。
【請求項4】
前記変形粒子は、前記電極の断面視において、前記変形粒子の外周と当該変形粒子の前記平坦面とのなす角が90°以上である粒子を含む、
請求項1から3のいずれか1項に記載の電極。
【請求項5】
前記電極の断面視において、前記境界における、前記境界の長さに対する前記平坦面の長さの合計の割合は80%以上である、
請求項1から4のいずれか1項に記載の電極。
【請求項6】
前記境界における前記変形粒子間の平均粒子間距離は、前記非変形粒子の平均粒子径の130%以下である、
請求項1から5のいずれか1項に記載の電極。
【請求項7】
前記非変形粒子の平均粒子径に対して、前記第1粒子の平均粒子径は50%以下である、
請求項1から6のいずれか1項に記載の電極。
【請求項8】
前記電極の断面視において、前記第1活物質粒子の表面の80%以上に前記第1粒子が付着している、
請求項1からのいずれか1項に記載の電極。
【請求項9】
前記第1合剤層の膜厚は、20μm以上200μm以下の範囲内である、
請求項1からのいずれか1項に記載の電極。
【請求項10】
前記第1粒子及び前記第2粒子は、固体電解質である、
請求項1からのいずれか1項に記載の電極。
【請求項11】
正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に位置する電解質層と、を備え、
前記正極及び前記負極のうちの少なくとも一方が、請求項1から10のいずれか1項に記載の電極である、
電池。
【請求項12】
第1粒子と第1活物質粒子との第1混合体から第1合剤塗工膜を集電体上に形成することと、
前記第1合剤塗工膜を加圧することで、前記第1合剤塗工膜の表面部における前記第1活物質粒子の一部の表面を変形させ平坦面を形成することと、
加圧した前記第1合剤塗工膜上に、第2粒子と第2活物質粒子との第2混合体から第2合剤塗工膜を形成することと、を含む、
電極の製造方法。
【請求項13】
前記第1活物質粒子の平均粒子径に対して、前記第1粒子の平均粒子径は50%以下である、
請求項12に記載の電極の製造方法。
【請求項14】
前記第1活物質粒子の表面の80%以上に前記第1粒子が付着するように、前記第1活物質粒子と前記第1粒子とを混合することで前記第1混合体を準備することをさらに含む、
請求項12又は13に記載の電極の製造方法。
【請求項15】
前記第1合剤塗工膜の加圧荷重は、前記第1活物質粒子の1粒子圧縮強度の100%以上300%以下の範囲内である、
請求項12から14のいずれか1項に記載の電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電極、電池及び電極の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、パソコン及び携帯電話などの電子機器の軽量化及びコードレス化などにより、繰り返し使用可能な二次電池の開発が求められている。また、電気自動車又はハイブリッド車といった自動車分野においても、高容量の二次電池の開発が重要視されている。二次電池としては、ニッケルカドミウム電池、ニッケル水素電池、鉛畜電池及びリチウムイオン電池などがある。これらの中でも、軽量、高電圧及び高エネルギー密度といった特徴を有するリチウムイオン電池の需要は増加傾向にある。
【0003】
リチウムイオン電池は、正極層、負極層及びこれらの間に配置された電解質を含み、電解質として、例えば、六フッ化リン酸リチウムなどの支持塩を有機溶媒に溶解させた電解液、又は、固体電解質が用いられる。現在、広く普及しているリチウムイオン電池は、有機溶媒を含む電解質が用いられているため可燃性である。そのため、リチウムイオン電池の安全性を確保するための材料、構造及びシステムが必要である。これに対し、電解質として不燃性である固体電解質を用いることで、リチウムイオン電池の材料、構造及びシステムを簡素化できることが期待され、エネルギー密度の増加、製造コストの低減、及び、生産性の向上を図ることができると考えられる。以下、固体電解質を用いた電池を、「全固体電池」と呼ぶ。
【0004】
全固体電池の高容量化を実現するために、電極に含まれる活物質の密度を向上させる取り組みがなされている。しかし、活物質の密度を増加させることで、充放電過程における電池の性能劣化が生じる。例えば、充放電過程で活物質粒子が膨張及び収縮することによって、活物質粒子同士の接点が減少することで、イオン及び電子の伝導性が減少し、電池の性能劣化が生じる。さらに、膨張及び収縮によって電極内部応力が増加すると、電極の破断又は挫屈による内部短絡の原因となり、電池の電極性能及び安全性が低下する。
【0005】
特許文献1には、充放電サイクルによる性能劣化を解決するため、電極の活物質層を積層構造とし、厚み方向に粒径の異なる活物質粒子を有する活物質層を積層する構造の電極が、開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006―210003号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1の構造では、活物質層の厚み方向の膨張及び収縮のムラによる性能劣化はある程度抑制することができるが、膨張及び収縮によって、活物質粒子のズレが生じ、粒子接点が減少してしまう場合がある。活物質間の接点が減少することで、イオン伝導及び電子伝導が阻害され、電極性能が劣化する。
【0008】
本開示は、上記課題を鑑みてなされたものであり、電極性能の劣化を抑制することで、優れた電極性能を有する電極等を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一態様に係る電極は、集電体と、前記集電体上に位置し、第1粒子及び第1活物質粒子を含む第1合剤層と、前記第1合剤層上に位置し、第2粒子及び第2活物質粒子を含む第2合剤層と、を有する活物質合剤層と、を備え、前記電極の断面視において、前記活物質合剤層は、少なくとも一部に前記第1活物質粒子と前記第2活物質粒子とが不連続な状態で接している前記第1合剤層と前記第2合剤層との境界を有する。
【0010】
本開示の一態様に係る電池は、正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に位置する電解質層と、を備え、前記正極及び前記負極のうちの少なくとも一方が、上記電極である。
【0011】
本開示の一態様に係る電極の製造方法は、第1粒子と第1活物質粒子との第1混合体から第1合剤塗工膜を集電体上に形成することと、前記第1合剤塗工膜を加圧することで、前記第1合剤塗工膜の表面部における前記第1活物質粒子の一部の表面を変形させ平坦面を形成することと、加圧した前記第1合剤塗工膜上に、第2粒子と第2活物質粒子との第2混合体から第2合剤塗工膜を形成することと、を含む。
【発明の効果】
【0012】
本開示により、優れた電極性能を有する電極等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、実施の形態に係る電極の概略断面図である。
図2図2は、実施の形態に係る正極の概略断面図である。
図3図3は、実施の形態に係る第1正極合剤層と第2正極合剤層との境界近傍を示す拡大断面図である。
図4図4は、実施の形態に係る全固体電池の概略断面図である。
図5図5は、実施の形態に係る正極の製造方法を説明するための図である。
図6図6は、実施例における正極活物質合剤層の断面SEM画像である。
図7図7は、実施例における第1正極合剤層と第2正極合剤層との境界近傍の断面SEM画像である。
図8図8は、実施例における正極活物質合剤層の拡大断面SEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(本開示の概要)
本開示の一態様の概要は以下の通りである。
【0015】
本開示の一態様に係る電極は、集電体と、前記集電体上に位置し、第1粒子及び第1活物質粒子を含む第1合剤層と、前記第1合剤層上に位置し、第2粒子及び第2活物質粒子を含む第2合剤層と、を有する活物質合剤層と、を備え、前記電極の断面視において、前記活物質合剤層は、少なくとも一部に前記第1活物質粒子と前記第2活物質粒子とが不連続な状態で接している前記第1合剤層と前記第2合剤層との境界を有する。
【0016】
これにより、境界において第1合剤層中の第1活物質粒子と第2合剤層中の第2活物質粒子との接触部分が存在する。このため、膨張及び収縮等により第1活物質粒子及び第2活物質粒子がそれぞれ、第1合剤層及び第2合剤層中で移動した場合でも、別の合剤層中に存在するため、膨張及び収縮が同調しにくく、第1活物質粒子と第2活物質粒子との接点が維持されやすい。加えて、第1活物質粒子及び第2活物質粒子の膨張及び収縮による内部応力を、境界で吸収することができるため、電極の破断及び挫屈を抑制できる。したがって、本態様に係る電極は、充放電を行う場合及び熱にさらされる場合等でも、電極性能の劣化を抑制することで、優れた電極性能を有するとともに、高い耐久性を有する。
【0017】
また、例えば、前記第1活物質粒子は、前記境界において前記第2合剤層に面した平坦面を有する変形粒子と、前記平坦面を有さない非変形粒子と、を含んでもよい。
【0018】
第1合剤層の一部が平坦面で第2合剤層と接するため、第1活物質粒子の膨張及び収縮による応力が第1合剤層と第2合剤層との境界に分散される。そのため、第1合剤層内で生じる膨張及び収縮による内部応力を、第1合剤層と第2合剤層との境界で効率的に吸収することができる。
【0019】
また、例えば、前記境界において、前記変形粒子の前記平坦面は、前記第2活物質粒子と接してもよい。
【0020】
これにより、境界において、第1合剤層の変形粒子と第2合剤層の第2活物質粒子とは、面と点とで接する。そのため、充放電などによって第1活物質粒子及び第2活物質粒子の膨張及び収縮が生じることで、第1活物質粒子及び第2活物質粒子が微動しても、第1活物質粒子と第2活物質粒子との接点が維持されやすい。よって、電極性能の劣化をさらに抑制できる。
【0021】
また、例えば、前記変形粒子は、前記電極の断面視において、前記平坦面の長さが前記非変形粒子の平均粒子径以上である粒子を含んでもよい。
【0022】
これにより、変形粒子は、十分な広さの平坦面を有するため、充放電などによる第1活物質粒子及び第2活物質粒子の膨張及び収縮が生じることで、第1活物質粒子及び第2活物質粒子が微動しても、第1活物質粒子に含まれる変形粒子と第2活物質粒子との接点が維持されやすい。
【0023】
また、例えば、前記変形粒子は、前記電極の断面視において、前記変形粒子の外周と当該変形粒子の前記平坦面とのなす角が90°以上である粒子を含んでもよい。
【0024】
これにより、変形粒子は、断面視において、平坦面から離れるに従い、幅が同等以上になる構造を含むため、平坦面への応力で変形粒子が変形しにくくなる。そのため、第1活物質粒子及び第2活物質粒子の膨張及び収縮が生じても、変形粒子と第2活物質粒子との接点が維持されやすい。
【0025】
また、例えば、前記電極の断面視において、前記変形粒子の前記平坦面のRz(最大高さ)は、10以下であってもよい。
【0026】
これにより、変形粒子の平坦面の粗さが低いため、変形粒子と第2活物質粒子との十分な接点を容易に確保できる。
【0027】
また、例えば、前記電極の断面視において、前記境界における、前記境界の長さに対する前記平坦面の長さの合計の割合は80%以上であってもよい。
【0028】
これにより、断面視における境界の長さの80%以上において変形粒子の平坦面が存在する。そのため、第1活物質粒子及び第2活物質粒子の膨張及び収縮が生じても、変形粒子と第2活物質粒子との接点が維持されやすい。
【0029】
また、例えば、前記境界における前記変形粒子間の平均粒子間距離は、前記非変形粒子の平均粒子径の130%以下であってもよい。
【0030】
これにより、変形粒子間の間隔が狭くなることで、変形粒子と第2活物質粒子との接点をより容易に確保できる。そのため、第1活物質粒子及び第2活物質粒子の膨張及び収縮が生じても、変形粒子と第2活物質粒子との接点が維持されやすい。
【0031】
また、例えば、前記非変形粒子の平均粒子径に対して、前記第1粒子の平均粒子径は50%以下であってもよい。
【0032】
これにより、第1粒子が第1活物質粒子の表面に均一に付着可能になるため、電極の製造において第1合剤層を加圧する場合であっても、第1活物質粒子に過剰な応力がかかりにくくなり、第1活物質粒子の割れを抑制できる。
【0033】
また、例えば、前記電極の断面視において、前記第1活物質粒子の表面の80%以上に前記第1粒子が付着していてもよい。
【0034】
これにより、第1活物質粒子の表面の80%以上が第1粒子に被覆されるため、電極の製造において第1合剤層を加圧する場合であっても、第1活物質粒子に過剰な応力がかかりにくくなり、第1活物質粒子1の割れを抑制できる。
【0035】
また、例えば、前記第1合剤層の膜厚は、20μm以上200μm以下の範囲内であってもよい。
【0036】
第1合剤層の膜厚が20μm以上であることにより、第1合剤層の加圧時に、厚さ方向の第1活物質粒子の割れを抑制できる。また、第1合剤層の膜厚が200μm以下であることにより、第1合剤層の加圧時に、第1活物質粒子間の応力が面方向に逃げて、集電体が破損することを抑制できる。
【0037】
また、例えば、前記第1粒子及び前記第2粒子は、固体電解質であってもよい。
【0038】
これにより、活物質合剤層が固体電解質を含むことで、活物質合剤層内のイオン伝導性が向上し、電極性能が向上する。
【0039】
また、本開示の一態様に係る電池は、正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に位置する電解質層と、を備え、前記正極及び前記負極のうちの少なくとも一方が、上記電極である。
【0040】
これにより、本態様に係る電池は、上記電極を備えるため、優れた電極性能を有する電池を実現できる。
【0041】
また、本開示の一態様に係る電極の製造方法は、第1粒子と第1活物質粒子との第1混合体から第1合剤塗工膜を集電体上に形成することと、前記第1合剤塗工膜を加圧することで、前記第1合剤塗工膜の表面部における前記第1活物質粒子の一部の表面を変形させ平坦面を形成することと、加圧した前記第1合剤塗工膜上に、第2粒子と第2活物質粒子との第2混合体から第2合剤塗工膜を形成することと、を含む。
【0042】
これにより、第1合剤塗工膜と第2合剤塗工膜との境界において第2合剤塗工膜に面した平坦面を有する変形粒子を含む第1活物質粒子が形成された電極を製造できる。このような電極は、第1活物質粒子の膨張及び収縮による応力が境界に分散され、効率的に吸収される。よって、本態様の製造方法により、優れた電極性能を有する電極を製造できる。
【0043】
また、第1合剤塗工膜の表面部における第1活物質粒子の一部の表面を変形させ平坦面を形成することにより、加圧した第1合剤塗工膜上に第2合剤塗工膜を形成する際、第1合剤塗工膜表面の平坦面で第2合剤塗工膜中の粒子が流動しやすくなり、均一な第2合剤塗工膜を形成することができる。
【0044】
また、例えば、前記第1活物質粒子の平均粒子径に対して、前記第1粒子の平均粒子径は50%以下であってもよい。
【0045】
これにより、第1活物質粒子の表面に第1粒子を均一に付着させることができる。そのため、第1合剤塗工膜の加圧時に第1活物質粒子の割れを抑制できる。
【0046】
また、例えば、上記電極の製造方法は、前記第1活物質粒子の表面の80%以上に前記第1粒子が付着するように、前記第1活物質粒子と前記第1粒子とを混合することで前記第1混合体を準備することをさらに含んでもよい。
【0047】
これにより、第1活物質粒子の表面の80%以上が第1粒子に被覆されるため、第1合剤塗工膜の加圧時に第1活物質粒子の割れを抑制できる。
【0048】
また、例えば、前記第1合剤塗工膜の加圧荷重は、前記第1活物質粒子の1粒子圧縮強度の100%以上300%以下の範囲内であってもよい。
【0049】
このような範囲内の荷重圧力で第1合剤塗工膜を加圧することで、良好に変形粒子を形成できるとともに、第1活物質粒子の割れを抑制することができる。その結果、第1活物質粒子の割れを抑制しつつ、変形させて平坦面を有する変形粒子を形成し、加えて変形しない活物質粒子にも割れを生じさせにくくすることができるため、電極性能の低下を抑制できる。
【0050】
以下、本開示の実施の形態に係る電極、電池及び電極の製造方法について、図面を参照しながら説明する。なお、各図は、模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではなく、実際の形状、位置関係及び比率とは異なる場合がある。各図において、実質的に同一の構成に対しては同一の符号を付しており、重複する説明は省略又は簡素化される場合がある。
【0051】
また、以下の実施の形態は、いずれも本開示の一具体例を示すものであり、数値、形状、材料、構成要素、並びに構成要素の配置位置及び接続形態などは例にすぎず、本開示を限定するものではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうちの、本開示の最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0052】
また、本明細書において、平行などの要素間の関係性を示す用語、及び、矩形などの要素の形状を示す用語、並びに、数値範囲は、厳格な意味のみを表す表現ではなく、実質的に同等な範囲、例えば数%程度の差異をも含むことを意味する表現である。
【0053】
また、本明細書において、断面図は、電極又は電池の中心部を積層方向に切断した場合の断面を示す図である。また、本明細書において電極の「断面視」とは、電極又は電池の中心部を積層方向に切断した場合の断面を正面から見た場合を意味する。
【0054】
また、本明細書において、電池の構成における「上」及び「下」という用語は、絶対的な空間認識における上方向(鉛直上方)及び下方向(鉛直下方)を指すものではなく、積層構成における積層順を基に相対的な位置関係により規定される用語として用いる。また、「上」及び「下」という用語は、2つの構成要素が互いに密着して配置されて2つの構成要素が接する場合のみならず、2つの構成要素が互いに間隔を空けて配置されて2つの構成要素の間に別の構成要素が存在する場合にも適用される。
【0055】
(実施の形態)
<電極>
本実施の形態に係る電極について、図1を用いて説明する。図1は、本実施の形態に係る電極10の概略断面図である。なお、図1においては、第1粒子3及び第2粒子6が存在する領域が、ドットの付された領域で示されており、第1粒子3及び第2粒子6の粒子形状の図示が省略された図となっている。
【0056】
本実施の形態に係る電極10は、図1に示すように、集電体5と、集電体5上に位置し、第1粒子3、第2粒子6、第1活物質粒子1及び第2活物質粒子4を含む活物質合剤層11と、を備える。活物質合剤層11は、集電体5上に位置し、第1粒子3及び第1活物質粒子1を含む第1合剤層12と、第1合剤層12上に位置し、第2粒子6及び第2活物質粒子4を含む第2合剤層13と、を有する。つまり、活物質合剤層11では、集電体5上に、第1合剤層12と第2合剤層13とがこの順に積層されている。図1に示すように、電極10の断面視において、活物質合剤層11は、少なくとも一部に第1活物質粒子1と第2活物質粒子4とが不連続な状態で接している境界11Aを有する。境界11Aにおいて接している第1活物質粒子1と第2活物質粒子4とは、一体化されておらず、連続的な状態ではない。
【0057】
本実施の形態に係る電極10は、このような構成を有するため、境界11Aにおいて第1合剤層12中の第1活物質粒子1と第2合剤層13中の第2活物質粒子4との接触部分が存在する。このため、膨張及び収縮等により第1活物質粒子1及び第2活物質粒子4がそれぞれ、第1合剤層12及び第2合剤層13中で移動した場合でも、別の合剤層中に存在するため、膨張及び収縮が同調しにくく、第1活物質粒子1と第2活物質粒子4との接点が維持されやすい。加えて、第1活物質粒子1及び第2活物質粒子4の膨張及び収縮による内部応力を、境界11Aで吸収することができるため、電極10の破断及び挫屈を抑制できる。したがって、本実施の形態に係る電極10は、充放電を行う場合及び熱にさらされた場合でも、電極性能の劣化を抑制することで、優れた電極性能を有するとともに、高い耐久性を有する。
【0058】
集電体5は、活物質合剤層11と電子を授受する導電体である。集電体5の厚さ及び形状などについては、特に限定されず、用途に応じて適宜設定すればよい。集電体5の厚さは、例えば、5μm以上50μm以下の範囲内である。集電体5の厚さが5μm以上であることにより、集電体5が破損しにくくなり、集電体5の厚さが50μm以下であることにより、電極10を用いた電池全体のエネルギー密度を向上させることができる。
【0059】
第1合剤層12の膜厚は、例えば、20μm以上200μm以下の範囲内である。第1合剤層12の膜厚が20μm以上であることにより、第1合剤層12の加圧時に、厚さ方向の第1活物質粒子1の割れを抑制できる。また、第1合剤層12の膜厚が200μm以下であることにより、第1合剤層12の加圧時に、第1活物質粒子1間の応力が面方向に逃げて、集電体5が破損することを抑制できる。また、第2合剤層13の膜厚は、特に限定されず、用途に応じて適宜調整すればよい。
【0060】
活物質合剤層11に含まれる成分の配合比は、特に限定されない。配合比は、電極10の用途に応じて、適宜調整されうる。
【0061】
第1粒子3及び第2粒子6の形状としては、例えば、真球状又は楕円球状等の粒子形状が挙げられる。第1粒子3の平均粒子径(D50)は、例えば、第1活物質粒子1の後述する非変形粒子1Bの平均粒子径(D50)に対して50%以下であり、2μm以下であってもよい。これにより、第1粒子3が第1活物質粒子1の表面に均一に付着可能であり、後述する製造方法において、第1合剤層12の加圧時に第1活物質粒子1に過剰な応力がかかりにくくなり、第1活物質粒子1の割れを抑制できる。さらに、活物質合剤層11内の充填率向上を図ることができる。第1粒子3の平均粒子径(D50)は、0.01μm以上であってもよく、0.1μm以上であってもよい。なお、本明細書において、平均粒子径(D50)は、例えば、粒度分布計により測定してもよく、レーザ解析及び散乱式粒度分布測定装置によって測定される体積基準の平均粒子径であってもよい。また、平均粒子径(D50)は、電極10の断面SEM(Scanning Electron Microscope)画像から計測した平均粒子径であってもよい。
【0062】
第2粒子6の平均粒子径(D50)は、例えば、第2活物質粒子4の平均粒子径(D50)に対して50%以下であり、2μm以下であってもよい。これにより、第2粒子6が第2活物質粒子4の表面に均一に付着可能であり、後述する製造方法において、第2合剤層13の加圧時に第2活物質粒子4に過剰な応力がかかりにくくなり、第2活物質粒子4の割れを抑制できる。さらに、活物質合剤層11内の充填率向上を図ることができる。第2粒子6の平均粒子径(D50)は、0.01μm以上であってもよく、0.1μm以上であってもよい。第1粒子3の平均粒子径(D50)と第2粒子6の平均粒子径(D50)とは、同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0063】
第1粒子3及び第2粒子6は、例えば、固体電解質である。これにより、活物質合剤層11内のイオン伝導性を向上させることができる。第1粒子3及び第2粒子6の材料は、特に限定されず、電極10の用途に応じて選択すればよい。第1粒子3及び第2粒子6には、例えば、同じ材料が用いられる。第1粒子3と第2粒子6とには、異なる材料が用いられてもよい。
【0064】
また、例えば、電極10の断面視において、第1活物質粒子1の表面の80%以上に第1粒子3が付着している。これにより、第1活物質粒子1の表面の80%以上が第1粒子3に被覆されるため、後述する製造方法において、第1合剤層12の加圧時に第1活物質粒子1の割れを抑制できる。
【0065】
第1活物質粒子1及び第2活物質粒子4の材料は、特に限定されず、電極10の用途に応じて選択すればよい。本実施の形態に係る電極10では、正極及び負極の双方に適用可能であり、例えば、正極として用いる場合には、集電体5及び活物質合剤層11の材料として、正極として作用する材料を採用すればよい。また、電極10では、例えば、負極として用いる場合には、集電体5及び活物質合剤層11の材料として、負極として作用する材料を採用すればよい。電極10が正極である場合、例えば、集電体5は正極集電体であり、活物質合剤層11は、第1活物質粒子1及び第2活物質粒子4として正極活物質粒子を含む正極活物質合剤層である。また、電極10が負極である場合、例えば、集電体5は負極集電体であり、活物質合剤層11は、第1活物質粒子1及び第2活物質粒子4として負極活物質粒子を含む負極活物質合剤層である。
【0066】
第1活物質粒子1及び第2活物質粒子4は、例えば、粒子状である。第1活物質粒子1及び第2活物質粒子4の平均粒子径(D50)はそれぞれ、例えば、50nm以上50μm以下の範囲内であり、1μm以上15μm以下の範囲内であってもよい。第1活物質粒子1及び第2活物質粒子4の平均粒子径(D50)が50nm以上であることで、取扱性が向上する。また、第1活物質粒子1及び第2活物質粒子4の平均粒子径(D50)が50μm以下であることで、電極10を容易に平坦に形成することができる。第1活物質粒子1の平均粒子径(D50)と第2活物質粒子4の平均粒子径(D50)とは、同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0067】
第1合剤層12中の第1活物質粒子1の含有量、及び、第2合剤層13中の第2活物質粒子4の含有量は、特に限定されるものではないが、例えば、40重量%以上99重量%以下の範囲内であってもよく、70重量%以上95重量%以下であってもよい。第1合剤層12中の第1活物質粒子1の含有量と第2合剤層13中の第2活物質粒子4の含有量とは、同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0068】
第1活物質粒子1の1粒子圧縮強度は、例えば、100MPa以上である。これにより、後述する製造方法において、加圧時に第1活物質粒子1の割れを抑制できる。本明細書において1粒子圧縮強度とは、1粒子を圧縮して当該1粒子が破壊された際の応力である。
【0069】
また、図1に示すように、第1活物質粒子1は、例えば、境界11Aにおいて第2合剤層13に面した平坦面1Cを有する変形粒子1Aと、平坦面1Cを有さない非変形粒子1Bと、を含む。また、例えば、境界11Aにおいて、変形粒子1Aの平坦面1Cは、第2活物質粒子4と接する。これにより、境界11Aにおいて、第1合剤層12の変形粒子1Aと第2合剤層13の第2活物質粒子4とは、図1に示すように面と点とで接している。そのため、充放電などによって第1活物質粒子1及び第2活物質粒子4の膨張及び収縮が生じることで、第1活物質粒子1及び第2活物質粒子4が微動しても、第1活物質粒子1と第2活物質粒子4との接点が維持されやすい。さらに、第1合剤層12の一部が平坦面1Cで第2合剤層13と接するため、第1活物質粒子1の膨張及び収縮による応力が第1合剤層12と第2合剤層13との境界11Aに分散される。そのため、第1合剤層12内で生じる膨張及び収縮による内部応力を、境界11Aで効率的に吸収することができる。
【0070】
変形粒子1Aは、例えば、電極10の断面視において、平坦面1Cの長さが非変形粒子1Bの平均粒子径(D50)以上である粒子を含む。これにより、変形粒子1Aは、十分な広さの平坦面1Cを有するため、充放電などによる第1活物質粒子1及び第2活物質粒子4の膨張及び収縮が生じることで、第1活物質粒子1及び第2活物質粒子4が微動しても、第1活物質粒子1に含まれる変形粒子1Aと第2活物質粒子4との接点が維持されやすい。
【0071】
さらに、変形粒子1Aは、例えば、電極10の断面視において、変形粒子1Aの外周と当該変形粒子1Aの平坦面1Cとのなす角が90°以上である粒子を含む。これにより、変形粒子1Aは、断面視において、平坦面1Cから離れるに従い幅が同等以上になる構造を含むため、平坦面1Cへの応力で変形粒子1Aが変形しにくくなる。そのため、第1活物質粒子1及び第2活物質粒子4の膨張及び収縮が生じても、変形粒子1Aと第2活物質粒子4との接点が維持されやすい。
【0072】
また、変形粒子1Aは、例えば、電極10の断面視において、境界11Aに接する面が非変形粒子1Bの平均粒子径(D50)の10倍以上のR形状を有する粒子を含む。これにより、充放電によって、第1活物質粒子1及び第2活物質粒子4が微動しても変形粒子1Aと第2活物質粒子4との接点を維持しやすくする。
【0073】
また、例えば、電極10の断面視において、境界11Aにおける、境界11Aの長さに対する平坦面1Cの長さの合計の割合は80%以上である。これにより、断面視における境界11Aの長さの80%以上において変形粒子1Aの平坦面1Cが存在する。そのため、第1活物質粒子1と第2活物質粒子4との膨張及び収縮が生じても、変形粒子1A及び第2活物質粒子4の接点が維持されやすい。
【0074】
また、電極10の断面視において、境界11Aにおける変形粒子1A間の平均粒子間距離は、例えば、非変形粒子1Bの平均粒子径(D50)の130%以下である。これにより、変形粒子1A間の間隔が狭くなることで、変形粒子1Aと第2活物質粒子4との接点をより容易に確保できる。そのため、第1活物質粒子1及び第2活物質粒子4の膨張及び収縮が生じても、変形粒子1Aと第2活物質粒子4との接点が維持されやすい。
【0075】
また、電極10の断面視において、変形粒子1Aの平坦面1CのRz(最大高さ)は、例えば、10(μm)以下である。これにより、変形粒子1Aの平坦面1Cの粗さが低いため、変形粒子1Aと第2活物質粒子4との十分な接点を容易に確保できる。
【0076】
また、活物質合剤層11における境界11AのRzは、例えば、10以下である。これにより、第1活物質粒子1及び第2活物質粒子4の膨張及び収縮による内部応力を、境界11Aで吸収することができる。
【0077】
なお、本明細書において、電極の活物質粒子、合剤層、及び後述する製造方法において調製される合剤塗工膜に冠せられる「第1」及び「第2」という語によって、合剤層が2層にのみ限定されるわけではなく、3層以上の積層でもよい。例えば、活物質合剤層11は、第1合剤層12を2層以上及び第2合剤層13を1層有してもよく、第1合剤層12を1層及び第2合剤層13を2層以上有してもよい。また、活物質合剤層11は、第1合剤層12を2層以上及び第2合剤層13を2層以上有してもよい。このように、活物質合剤層11を3層以上の構造にする場合、層の積層順は特に限定されないが、例えば、集電体5から一番離れた層として第2合剤層13が配置される。
【0078】
次に、電極10を全固体電池用の正極として用いる場合の例について説明する。
【0079】
図2は、本実施の形態に係る正極50の概略断面図である。なお、図2においては、固体電解質25及び固体電解質28が存在する領域が、ドットの付された領域で示されており、固体電解質25及び固体電解質28の粒子形状の図示が省略された図となっている。これは、以下の図3図4及び図5についても同じである。
【0080】
本実施の形態に係る正極50は、図2に示すように、正極集電体27と、正極集電体27上に位置し、固体電解質25及び第1正極活物質粒子23を含む第1正極合剤層21と、第1正極合剤層21上に位置し、固体電解質28及び第2正極活物質粒子26を含む第2正極合剤層22と、を有する正極活物質合剤層20と、を備える。また、正極50の断面視において、正極活物質合剤層20は、少なくとも一部に第1正極活物質粒子23と第2正極活物質粒子26とが不連続な状態で接している境界20Aを有する。正極50は、例えば、全固体電池用正極である。
【0081】
本実施の形態における正極50は、集電体5の一例として正極集電体27を備える。正極集電体27は、例えば、金属箔であってよい。正極集電体27には、例えば、アルミニウム、金、白金、亜鉛、銅、SUS、ニッケル、スズ、チタン又はこれらの2種以上の合金などからなる箔状体、板状体又は網目状体などが用いられる。
【0082】
正極集電体27の厚さ及び形状などについては、特に限定されず、用途に応じて適宜設定すればよい。正極集電体27の厚さは、上記で説明した集電体5の厚さであればよい。
【0083】
本実施の形態では、正極50は、活物質合剤層11の一例として、正極集電体27上に位置する正極活物質合剤層20を備える。正極活物質合剤層20は、第1合剤層12の一例として第1正極合剤層21と第2合剤層13の一例として第2正極合剤層22とを有する。正極活物質合剤層20は、正極集電体27上に第1正極合剤層21と第2正極合剤層22とが積層された積層体である。第1正極合剤層21は、第1粒子3の一例として固体電解質25及び第1活物質粒子1の一例として第1正極活物質粒子23を含む。また、第2正極合剤層22は、第2粒子6の一例として固体電解質28及び第2活物質粒子4の一例として第2正極活物質粒子26を含む。
【0084】
第1正極合剤層21の膜厚は、上述の第1合剤層12と同様に、例えば、20μm以上200μm以下の範囲内である。また、第2正極合剤層22の膜厚は、特に限定されず、用途に応じて適宜調整すればよい。
【0085】
正極活物質合剤層20に含まれる成分の配合比は、特に限定されない。配合比は、正極50の用途に応じて、適宜調整されうる。
【0086】
固体電解質25及び固体電解質28は、伝導イオン種(例えば、リチウムイオン)に応じて適宜選択すればよく、例えば、硫化物系固体電解質及び酸化物系固体電解質とのうちの少なくとも一方を用いてもよい。
【0087】
硫化物系固体電解質としては、例えば、LiS-SiS、LiI-LiS-SiS、LiI-LiS-P、LiI-LiS-P、LiI-LiPO-P、及びLiS-Pなどが挙げられる、固体電解質25として硫化物系固体電解質を用いる場合、リチウムイオン伝導性に優れていることから、Li(リチウム)、P(リン)及びS(硫黄)を含む硫化物系固体電解質を用いてもよい。硫化物系固体電解質として、1種の硫化物系固体電解質を単独で使用してもよく、2種以上の硫化物系固体電解質を組み合わせて使用してもよい。また、硫化物系固体電解質は、結晶質であってもよく、非晶質であってもよく、ガラスセラミックであってもよい。なお、上記「LiS-P」の記載は、LiS及びPを含む硫化物系固体電解質を意味し、他の記載についても同様である。
【0088】
硫化物系固体電解質は、例えば、LiS及びPを含む硫化物ガラスセラミックであり、LiS及びPの割合は、モル換算でLiS/P=モル比とした場合、モル比が2.3以上4以下の範囲内であることが好ましく、より好ましくは、モル比が3以上4以下の範囲内である。モル比が当該範囲であることにより、電池特性に影響するリチウム濃度を保ちながら、イオン伝導性の高い結晶構造を得ることができる。また、後述のバインダーと反応し、結合するためのPの量を十分確保することができる。
【0089】
酸化物系固体電解質としては、例えば、LiPON、LiPO、LiSiO、LiSiO、Li0.5La0.5TiO、Li1.3Al0.3Ti0.7(PO、La0.51Li0.34TiO0.74、及びLi1.5Al0.5Ge1.5(POなどが挙げられる。酸化物系固体電解質として、1種の酸化物系固体電解質を単独で使用してもよく、2種以上の酸化物系固体電解質を組み合わせて使用してもよい。
【0090】
固体電解質25及び固体電解質28の形状及び平均粒子径(D50)は、例えば、上記で説明した第1粒子3及び第2粒子6の形状及び平均粒子径(D50)であればよい。
【0091】
また、上述の第1活物質粒子1と同様に、例えば、正極50の断面視において、第1正極活物質粒子23の表面の80%以上には、固体電解質25が付着している。
【0092】
第1正極活物質粒子23及び第2正極活物質粒子26は、負極よりも高い電位で結晶構造内にリチウム(Li)が挿入又は離脱され、それに伴って酸化又は還元が行われる物質であればよい。第1正極活物質粒子23及び第2正極活物質粒子26の種類は特に限定されず、正極50の用途に応じて適宜選択されうる。第1正極活物質粒子23及び第2正極活物質粒子26としては、例えば、酸化物活物質及び硫化物活物質などが挙げられる。なお、第1正極活物質粒子23及び第2正極活物質粒子26として、同じ物質を用いてもよく、異なる物質を用いてもよい。
【0093】
本実施の形態では、第1正極活物質粒子23及び第2正極活物質粒子26として、例えば、酸化物活物質(リチウム含有遷移金属酸化物)が用いられる。酸化物活物質としては、例えば、LiCoO、LiNiO、LiMn、LiCoPO、LiNiPO、LiFePO、LiMnPO、及びこれらの化合物の遷移金属を1種以上の異種元素で置換することによって得られる化合物などが挙げられる。上記化合物の遷移金属を1種以上の異種元素で置換することによって得られる化合物としては、例えば、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiNi0.8Co0.15Al0.05、及びLiNi0.5Mn1.5などが挙げられる。
【0094】
また、第1正極合剤層21中の第1正極活物質粒子23の含有量、及び、第2正極合剤層22中の第2正極活物質粒子26の含有量は、上記で説明した第1合剤層12中の第1活物質粒子1の含有量、及び、第2合剤層13中の第2活物質粒子4の含有量であればよい。
【0095】
第1正極活物質粒子23及び第2正極活物質粒子26の表面は、コート層で被覆されていてもよい。これにより、第1正極活物質粒子23及び第2正極活物質粒子26(例えば酸化物活物質)と固体電解質25(例えば、硫化物系固体電解質)との反応を抑制することができる。コート層の材料としては、例えば、LiNbO、LiPO、LiPON等のリチウムイオン伝導性酸化物が挙げられる。コート層の平均厚さは、例えば、1nm以上20nm以下の範囲内であり、1nm以上10nm以下の範囲内であってもよい。
【0096】
正極活物質合剤層20に含まれる第1正極活物質粒子23と固体電解質25との割合及び第2正極活物質粒子26と固体電解質28との割合はそれぞれ、重量換算で正極活物質/固体電解質=重量比とした場合、例えば、重量比が0.67以上99以下の範囲内であり、2.3以上19以下の範囲内であってもよい。重量比が当該範囲であることにより、正極活物質合剤層20内でのリチウムイオン伝導経路と電子伝導経路との両方を確保することができる。第1正極合剤層21と第2正極合剤層22とにおいて、上記重量比が同じであってもよく、それぞれ異なってもよい。
【0097】
本実施の形態に係る正極活物質合剤層20には、バインダーが含まれていてもよい。これにより、正極活物質合剤層20内の材料同士の密着強度が向上させることができる。
【0098】
バインダーとしては、例えば、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、スチレン-ブタジエン-スチレン(SBS)、スチレン-エチレン-ブタジエン-スチレン(SEBS)、エチレン-プロピレン、ブチルゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、アクリルゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、及びウレタンゴム等の合成ゴム、ポリビニリデンフロライド(PVDF)、ポリビニリデンフロライド-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVDF-HFP)、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリビニルアルコール並びに塩素化ポリエチレン(CM)などが挙げられる。
【0099】
正極活物質合剤層20には、導電助剤が含まれていてもよい。これにより、正極活物質合剤層20内の電子伝導度を増加させることができるため、正極活物質合剤層20中の電子伝導経路を確保することができ、正極50を用いた全固体電池の内部抵抗を下げることができる。そのため、電子伝導経路を通じて伝導できる電流量が増大するため、全固体電池の充放電特性が向上する。
【0100】
導電助剤は、正極活物質合剤層20の電子伝導度を向上させるものであれば特に限定されない。導電助剤としては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、カーボンブラック、グラファイト及びカーボンファイバー等を用いることができる。導電助剤は、1種の導電助剤を単独で使用してもよく、2種以上の導電助剤を組み合わせて使用してもよい。
【0101】
第1正極活物質粒子23及び第2正極活物質粒子26の形状及び平均粒子径(D50)は、例えば、上記で説明した第1活物質粒子1及び第2活物質粒子4の形状及び平均粒子径(D50)であればよい。
【0102】
第1正極活物質粒子23の1粒子圧縮強度は、上述の第1活物質粒子1と同様に、例えば、100MPa以上である。これにより、後述する製造方法において、加圧時に第1正極活物質粒子23の割れを抑制できる。
【0103】
本実施の形態に係る正極50では、第1正極活物質粒子23は、例えば、境界20Aにおいて第2正極合剤層22に面した平坦面23Cを有する変形正極活物質粒子23Aと、平坦面23Cを有さない非変形正極活物質粒子23Bと、を含む。変形正極活物質粒子23Aは、変形粒子1Aの一例であり、非変形正極活物質粒子23Bは非変形粒子1Bの一例である。
【0104】
図3は、第1正極合剤層21と第2正極合剤層22との境界20A近傍を示す拡大断面図である。図3に示すように、本実施の形態に係る正極50では、正極活物質合剤層20の断面の境界20Aにおいて、第1正極合剤層21中の変形正極活物質粒子23Aは、粒子の平坦面23Cで、第2正極活物質粒子26と接している。
【0105】
上述の変形粒子1Aと同様に、変形正極活物質粒子23Aは、例えば、正極50の断面視において、平坦面23Cの長さLが非変形正極活物質粒子23Bの平均粒子径D以上である粒子を含む。言い換えると、変形正極活物質粒子23Aの少なくとも一部の粒子は、正極50の断面視における平坦面23Cの長さLが、非変形正極活物質粒子23Bの平均粒子径D(D50)以上である。
【0106】
さらに、上述の変形粒子1Aと同様に、変形正極活物質粒子23Aは、正極50の断面視において、変形正極活物質粒子23Aの外周と当該変形正極活物質粒子23Aの平坦面23Cとのなす角Aが90°以上である粒子を含む。言い換えると、第1正極合剤層21中の変形正極活物質粒子23Aの少なくとも一部の粒子は、変形正極活物質粒子23Aの外周と当該変形正極活物質粒子23Aの平坦面23Cとのなす角Aが90°以上である。
【0107】
また、上述の変形粒子1Aと同様に、変形正極活物質粒子23Aは、例えば、正極50の断面視において、境界20Aに接する面が非変形正極活物質粒子23Bの平均粒子径D(D50)の10倍以上のR形状を有する粒子を含む。言い換えると、変形正極活物質粒子23Aの少なくとも一部の粒子は、境界20Aに接する面が、非変形正極活物質粒子23Bの平均粒子径D(D50)の10倍以上のR形状を有する。
【0108】
また、例えば、上述の境界11Aと同様に、境界20Aにおける、境界20Aの長さBに対する平坦面23Cの長さの合計の割合は80%以上である。
【0109】
また、上述の変形粒子1Aと同様に、正極50の断面視において、境界20Aにおける変形正極活物質粒子23A間の平均粒子間距離dは、例えば、非変形正極活物質粒子23Bの平均粒子径D(D50)の130%以下である。変形正極活物質粒子23A間の平均粒子間距離dは、隣り合う変形正極活物質粒子23Aの平坦面23Cにおける中心間の距離の平均値である。
【0110】
また、正極50の断面視において、上述の変形粒子1Aと同様に、変形正極活物質粒子23Aの平坦面23CのRzは、例えば、10以下である。
【0111】
また、上述の活物質合剤層11と同様に、正極活物質合剤層20における境界20AのRzは、例えば、10以下である。
【0112】
このような正極50であることにより、上述の電極10と同様の作用効果が得られる。
【0113】
<電池>
次に、本実施の形態に係る電池について説明する。本実施の形態に係る電極10は、例えば、正極、電解質層及び負極がこの順に積層され電池の正極及び負極の少なくとも一方として用いられる。本実施の形態に係る電池において、正極として電極10が用いられてもよく、負極として電極10が用いられてもよく、正極及び負極の両方に電極10が用いられてもよい。
【0114】
本実施の形態では、電極10として正極50及び負極60を用いた電池の一例である全固体電池100を、図4を参照して説明する。図4は、全固体電池100の概略断面図である。なお、図4においては、固体電解質34、固体電解質37及び固体電解質41が存在する領域が、ドットの付された領域で示されており、固体電解質34、固体電解質37及び固体電解質41の粒子形状の図示が省略された図となっている。
【0115】
なお、本実施の形態に係る電池は、全固体電池100に限られず、電極10を用いた電池であれば、他の構成の電池であってもよい。
【0116】
図4に示すように、全固体電池100は、正極50と、負極60と、正極50と負極60との間に位置する固体電解質層40とを備える。全固体電池100では、正極50、固体電解質層40及び負極60がこの順に積層されている。全固体電池100では、電極10の一例として正極50及び負極60が用いられている。また、固体電解質層40は電解質層の一例である。なお、図4には、正極50、固体電解質層40及び負極60の単位構造が示されているが、本実施の形態に係る電池は、単位構造が複数積層された全固体電池であってもよい。また、本実施の形態に係る全固体電池100では、本実施の形態に係る電極10を正極50及び負極60として用いているが、正極50及び負極60のうち少なくとも一方に電極10を用いてもよい。
【0117】
本実施の形態に係る全固体電池100における正極50については、上述したものと同じであるため、説明を省略する。
【0118】
本実施の形態に係る全固体電池100における負極60は、例えば、金属箔等で構成される負極集電体36と、負極集電体36上に位置し、固体電解質34及び第1負極活物質粒子33を含む第1負極合剤層31と、第1負極合剤層31上に位置し、固体電解質37及び第2負極活物質粒子35を含む第2負極合剤層32とを有する負極活物質合剤層30と、を備える。また、負極60の断面視において、負極活物質合剤層30は、少なくとも一部に第1負極活物質粒子33と第2負極活物質粒子35とが不連続な状態で接している境界30Aを有する。負極集電体36は、集電体5の一例であり、負極活物質合剤層30は、活物質合剤層11の一例である。また、固体電解質34及び第1負極活物質粒子33を含む第1負極合剤層31は、第1粒子3及び第1活物質粒子1を含む第1合剤層12の一例であり、固体電解質37及び第2負極活物質粒子35を含む第2負極合剤層32は、第2粒子6及び第2活物質粒子4を含む第2合剤層13の一例である。なお、以下の負極60の説明において、電極10及び正極50と共通の事項については省略又は簡略化する。
【0119】
負極集電体36として、上述の正極集電体27に記載した材料と同様のものを用いることができる。負極集電体36として、正極集電体27と同じ材料を用いてもよく、異なる材料を用いてもよい。
【0120】
第1負極活物質粒子33及び第2負極活物質粒子35は、第1正極活物質粒子23及び第2正極活物質粒子26よりも低い電位で結晶構造内にリチウムが挿入又は離脱され、それに伴って酸化又は還元が行われる物質であればよい。
【0121】
第1負極活物質粒子33及び第2負極活物質粒子35としては、例えば、リチウム、インジウム、スズ及びケイ素等のリチウムとの易合金化金属、ハードカーボン及び黒鉛等の炭素材料、並びに、LiTi12及びSiO等の酸化物活物質が挙げられる。第1負極活物質粒子33及び第2負極活物質粒子35として、1種の負極活物質を単独で使用してもよく、2種以上の活物質粒子を組み合わせて使用してもよい。また、第1負極活物質粒子33及び第2負極活物質粒子35として、同じ材料を用いてもよく、異なる材料を用いてもよい。
【0122】
負極活物質合剤層30に含まれる第1負極活物質粒子33と固体電解質34との割合及び第2負極活物質粒子35と固体電解質37との割合はそれぞれ、例えば、重量換算で負極活物質/固体電解質=重量比とした場合、重量比が0.66以上19以下の範囲内であり、1以上5.67以下の範囲内であってもよい。重量比が当該範囲であることにより、負極活物質合剤層30内でのリチウムイオン伝導経路と電子伝導経路との両方を確保することができる。第1負極合剤層31と第2負極合剤層32とにおいて、上記重量比がそれぞれ異なってもよい。
【0123】
第1負極活物質粒子33は、例えば、図4に示すように、境界30Aにおいて第2負極合剤層32に面した平坦面33Cを有する変形負極活物質粒子33Aと、平坦面33Cを有さない非変形負極活物質粒子33Bと、を含む。
【0124】
固体電解質34及び固体電解質37については、上述の固体電解質25及び固体電解質28で記載したのと同様のものを用いることができる。固体電解質25、固体電解質28、固体電解質34及び固体電解質37として同じ物質を用いてもよく、固体電解質25、固体電解質28、固体電解質34及び固体電解質37の少なくとも1つに異なる物質を用いてもよい。
【0125】
負極活物質合剤層30には、バインダーが含まれていてもよい。バインダーの種類については、上述の正極活物質合剤層20に含まれうるバインダーと同様のものを用いることができる。
【0126】
負極活物質合剤層30には、導電助剤が含まれていてもよい。導電助剤の種類については、上述の正極活物質合剤層20に含まれうる導電助剤と同様のものを用いることができる。これにより、負極活物質合剤層30内の電子伝導度を増加させることができるため、負極活物質合剤層30中の電子伝導経路を確保することができ、全固体電池100の内部抵抗を下げることができる。そのため、電子伝導経路を通じて伝導できる電流量が増大するため、全固体電池100の充放電特性が向上する。
【0127】
固体電解質層40は、リチウムイオン等の金属イオン伝導性を有する固体電解質41を含む。固体電解質41については、上述の固体電解質25及び固体電解質28で記載したのと同様のものを用いることができる。固体電解質41として、固体電解質25、固体電解質28、固体電解質34又は固体電解質37と同じ物質を用いてもよく、固体電解質25、固体電解質28、固体電解質34及び固体電解質37のいずれとも異なる物質を用いてもよい。
【0128】
固体電解質層40は、固体電解質41同士の密着強度を高めるために、バインダーを含んでもよい。バインダーは、上述の正極活物質合剤層20に含まれうるバインダーと同様のものを用いることができる。固体電解質層40がバインダーを含む場合、例えば、固体電解質層40におけるバインダーの含有量は、固体電解質41の1重量%以下である。固体電解質層40は、バインダーを含んでいなくてもよい。固体電解質層40におけるバインダーの含有量が固体電解質41の1重量%以下であることで、固体電解質層40のリチウムイオン伝導が阻害されにくくなり、全固体電池100の充放電特性が劣化しにくい。なお、バインダーが含まれないとは、バインダーが実質的に含まれず、固体電解質層40におけるバインダーの含有量が、固体電解質41の100ppm以下であることを意味する。固体電解質層40がバインダーを含まない場合、固体電解質41を接着剤として用いる。固体電解質41同士は、固体電解質41が焼結することで、接着している。
【0129】
本実施の形態に係る全固体電池100には、図示しないが、例えば、正極集電体27の正極活物質合剤層20とは反対側の表面に端子(金属製正極リード)を溶接等により取り付け、負極集電体36の負極活物質合剤層30とは反対側の表面に端子(金属製負極リード)を溶接等により取り付ける。こうして得られた全固体電池100、又は、複数の全固体電池100を接続した電池群を電池用ケースに収納し、正極リード及び負極リードを電池用ケースの外部に導出し、電池用ケースを封止してもよい。
【0130】
電池用ケースとしては、例えば、アルミラミネートフィルムなどからなる袋、又は、金属製(例えば、SUS、鉄、アルミニウムなど)若しくは樹脂製の任意の形状のケースなどが用いられる。
【0131】
<製造方法>
次に、本実施の形態に係る電極の製造方法について説明する。
【0132】
本実施の形態に係る電極10の製造方法は、第1粒子3と第1活物質粒子1との第1混合体から第1合剤塗工膜を集電体5上に形成することと、第1合剤塗工膜を加圧することで、第1合剤塗工膜の表面部における第1活物質粒子1の一部の表面を変形させ平坦面1Cを形成することと、加圧した第1合剤塗工膜上に、第2粒子6と第2活物質粒子4との第2混合体から第2合剤塗工膜を形成することと、を含む。形成された第1合剤塗工膜を加圧することで、第1合剤層12が形成され、加圧された第1合剤塗工膜上に第2合剤塗工膜を形成することで、第2合剤層13が形成される。これにより、集電体5上に活物質合剤層11が積層された電極10を得ることができる。このような製造方法によって、境界11Aにおいて第2合剤層13に面した平坦面1Cを有する変形粒子1Aを含む第1活物質粒子1を含む第1合剤層12を備える電極10を製造できる。
【0133】
また、電極10の製造方法は、例えば、第1活物質粒子1の表面の80%以上に第1粒子3が付着するように、第1活物質粒子1と第1粒子3とを混合することで第1混合体を準備することをさらに含む。また、例えば、第1活物質粒子1の平均粒子径(D50)に対して、第1粒子3の平均粒子径(D50)は50%以下である。また、第1合剤塗工膜の加圧荷重は、例えば、第1活物質粒子1の1粒子圧縮強度の100%以上300%以下の範囲内である。
【0134】
以下では、電極10が全固体電池用の正極50である場合の製造方法について、図5を用いて説明する。図5は、本実施の形態に係る正極50の製造方法を説明するための図である。図5には、正極50における各製造段階での概略断面図が示されている。図5に示すように、正極50の製造方法は、例えば、第1合剤層塗工工程と、第2合剤層塗工工程と、を含む。
【0135】
第1合剤層塗工工程は、固体電解質25と第1正極活物質粒子23との第1混合体から第1正極合剤塗工膜を正極集電体27上に形成する工程と、第1正極合剤塗工膜を加圧することで、第1正極合剤塗工膜の表面部における第1正極活物質粒子23の一部の表面を変形させ平坦面23Cを形成する工程と、を含む。言い換えると、第1合剤層塗工工程は、固体電解質25及び第1正極活物質粒子23を含む第1正極合剤塗工膜を正極集電体27上に形成する工程と、第1正極合剤塗工膜を加圧することで第1正極合剤塗工膜の表面部における第1正極活物質粒子23の一部の表面を変形させ平坦面23Cを有する変形正極活物質粒子23Aを形成する工程と、を含む。
【0136】
第2合剤層塗工工程は、加圧した第1正極合剤塗工膜上に、固体電解質28及び第2正極活物質粒子26との第2混合体から第2正極合剤塗工膜を形成する工程を含む。言い換えると、第2合剤層塗工工程は、加圧した第1正極合剤塗工膜上に、固体電解質28及び第2正極活物質粒子26を含む第2正極合剤塗工膜を形成する工程を含む。
【0137】
第1正極合剤塗工膜は第1合剤塗工膜の一例であり、第2正極合剤塗工膜は第2合剤塗工膜の一例である。以下に、各工程の詳細を説明する。
【0138】
まず、第1合剤層塗工工程では、所望の固体電解質25、第1正極活物質粒子23、及び、必要に応じてバインダーや導電助剤等の他の成分を混合することで、第1混合体として正極合剤を調製する。この正極合剤中に配合される各成分の具体的な形態については上記の正極50について説明した通りである。
【0139】
本実施の形態では、例えば、第1正極活物質粒子23の表面の80%以上に固体電解質25が付着するように、適度なせん断力及び圧力を印加しながら、第1正極活物質粒子23と固体電解質25とを混合し、均一に分散された正極合剤を調製する。第1正極活物質粒子23と固体電解質25との混合手法は特に限定されず、一般的な手法が用いられうる。
【0140】
また、本実施の形態では、例えば、第1正極活物質粒子23の平均粒子径に対して、固体電解質25の平均粒子径は50%以下である。これにより、第1正極活物質粒子23の表面に固体電解質25を均一に付着させることができる。
【0141】
次に、図5の(a)に示すように、調整した正極合剤を正極集電体27上に塗工し、第1正極合剤塗工膜を形成する。正極合剤の塗工方法は、特に限定されないが、粉体の正極合剤を振動フィーダ、テーブルフィーダ又はスクリューフィーダ等を用いて塗布することができる。なお、正極合剤を溶剤等に分散させたスラリーを正極集電体27上に塗布し、加熱等により溶剤を除去することで第1正極合剤塗工膜を形成してもよい。
【0142】
次に、図5の(b)に示すように、正極集電体27上に塗工された第1正極合剤塗工膜を加圧することで、第1正極合剤層21を形成する。本実施の形態では、例えば、第1正極活物質粒子23の1粒子の圧縮強度の100%以上300%以下の範囲の加圧荷重で第1正極合剤塗工膜を加圧することで、第1正極合剤塗工膜の表面部における第1正極活物質粒子23の一部の表面を変形させ平坦面23Cを有する変形正極活物質粒子23Aを形成する。上記の範囲内の荷重圧力で加圧することで、良好に変形正極活物質粒子23Aを形成できるとともに、第1正極活物質粒子23の割れを抑制することができる。その結果、第1正極活物質粒子23の割れを抑制しつつ、変形させて変形正極活物質粒子23Aを形成し、加えて非変形正極活物質粒子23Bにも割れが生じにくくすることができるため、電極性能の低下を抑制できる。また、第1正極合剤塗工膜を加圧することで、第1正極活物質粒子23及び固体電解質25の隙間が埋まり、充填率の高い第1正極合剤層21が得られる。第1正極合剤塗工膜の加圧方法は、特に限定されず、プレス機などを用いて加圧する方法等が用いられうる。
【0143】
第1正極合剤塗工膜の表面部における第1正極活物質粒子23の一部の表面を変形させ平坦面23Cを形成することにより、第2合剤層塗工工程において第2正極合剤塗工膜を塗工する際、第1正極合剤層21表面の平坦面で第2正極合剤塗工膜中の粒子が流動しやすくなり、均一な第2正極合剤層22を形成することができる。また、平坦面23Cと第2正極活物質粒子26とが接した状態になりやすくなる。
【0144】
次に、第2合剤層塗工工程では、所望の固体電解質28、第2正極活物質粒子26、及び、必要に応じてバインダーや導電助剤等の他の成分を混合することで、第2混合体として正極合剤を調製する。この正極合剤中に配合される各成分の具体的な形態については上記の正極50について説明した通りである。第2混合体として、第1混合体と同じ正極合剤を用いてもよく、異なる正極合剤を用いてもよい。
【0145】
次に、図5の(c)に示すように、調整した正極合剤を加圧した第1正極合剤塗工膜上に塗工し、第2正極合剤塗工膜を形成する。第2正極合剤塗工膜を塗工する工程においても、正極合剤の塗工方法は、特に限定されず、第1正極合剤塗工膜の塗工方法と同様の方法で行うことができる。
【0146】
次に、図5の(d)に示すように、第2正極合剤塗工膜を塗工した後、第2正極合剤塗工膜を加圧することで、第2正極合剤層22が形成され、集電体27上に正極活物質合剤層20が形成された正極50を製造することができる。なお、第2正極合剤塗工膜の加圧荷重は、例えば、目的の充填率の第2正極合剤層22が形成されるような圧力に設定されればよく、第1正極合剤塗工膜の加圧荷重以上であってもよく、第1正極合剤塗工膜の加圧荷重以下であってもよい。
【0147】
なお、電極10として負極60を製造する場合には、負極60は、上述の正極50の製造方法において、第1正極活物質粒子23及び固体電解質25の代わりに第1負極活物質粒子33及び固体電解質34を用い、第2正極活物質粒子26及び固体電解質28の代わりに第2負極活物質粒子35及び固体電解質37を用いることで製造することができる。
【実施例
【0148】
以下に本実施の形態の実施例について説明する。なお、以下で示す実施例は一例であって、本開示の実施の形態はこれらの実施例に限定されない。
【0149】
まず、第1正極活物質粒子23及び第2正極活物質粒子26として、Li含有Ni,Mn,Co複合酸化物(平均粒子径:4μm以上5μm以下の範囲内、圧縮強度:106MPa)と、固体電解質25及び固体電解質28の模擬粒子として、炭酸カルシウム(平均粒子径:0.7μm以上1μm以下の範囲内)を、重量換算で正極活物質粒子/炭酸カルシウム=15/85の成分比で乳鉢混合し、第1混合体及び第2混合体として正極合剤を調製した。
【0150】
次に、正極集電体27として、アルミニウム箔(厚さ:20μm)を準備した。アルミニウム箔上に、上記で調製した正極合剤を、φ10mmの金型を用いて塗布した後、289MPaで加圧し、第1正極合剤層21を形成した。
【0151】
第1正極合剤層21の上に、上記で調製した正極合剤を、φ10mmの金型を用いて塗布した後に加圧することで、第2正極合剤層22を形成し、正極50を完成させた。
【0152】
図6は、実施例における正極活物質合剤層20の断面SEM画像である。図6に示すように、正極活物質合剤層20は、第1正極合剤層21と第2正極合剤層22との境界20Aを有することがわかる。第1正極合剤層21の膜厚は190.7μmであった。また、第2正極合剤層22の膜厚は193.9μmであった。
【0153】
図7は、実施例における第1正極合剤層21と第2正極合剤層22との境界20A近傍の断面SEM画像である。図7に示すように、第1正極合剤層21と第2正極合剤層22との境界20Aに接する第1正極活物質粒子23が、第2正極合剤層22に面した部分が加圧により潰され、平坦面23Cを有した変形正極活物質粒子23Aとなっていることがわかる。また、境界20Aにおいて、変形正極活物質粒子23Aは、変形正極活物質粒子23Aの平坦面23Cが第2正極活物質粒子26と接している粒子を含んでいることがわかる。さらに、変形正極活物質粒子23Aは、変形正極活物質粒子23Aの外周と当該変形正極活物質粒子23Aの平坦面23Cとのなす角Aが90°以上である粒子を含んでいる。さらに、変形正極活物質粒子23Aは、境界20Aに接する面が、非変形正極活物質粒子23Bの平均粒子径Dの10倍以上のR形状を有する粒子も含んでいる。
【0154】
図8は、実施例における正極活物質合剤層20の拡大断面SEM画像である。図8では、正極活物質合剤層20の断面における第1正極合剤層21と第2正極合剤層22との境界20A近傍を拡大している。また、実施例における正極活物質合剤層20の断面SEM画像から計測したデータを表1に示す。
【0155】
【表1】
【0156】
表1に示すように、第1正極合剤層21に含まれる非変形正極活物質粒子23Bの平均粒子径D(つまり、表1における非変形正極活物質粒子23Bの粒子径Dの平均値)は、4.03μmであり、非変形正極活物質粒子23Bの平坦面の長さLの最大値は5.98μmであった。よって、断面視における平坦面の長さLが、非変形正極活物質粒子23Bの平均粒子径D以上である変形正極活物質粒子23Aが存在する。また、第2正極合剤層22との境界の長さBに対する変形正極活物質粒子23Aの平坦面の長さLの合計の割合、つまり、上記表1においては平坦面の割合ΣL/Bは、82.3%であった。また、隣り合う変形正極活物質粒子23A粒子間の平均粒子間距離d(つまり、表1における変形正極活物質粒子23A間距離dの平均値)は、非変形正極活物質粒子23Bの平均粒子径Dの114.2%であった。
【0157】
以上、本開示に係る電極及び電池について、実施の形態及び実施例に基づいて説明したが、本開示は、これらの実施の形態及び実施例に限定されるものではない。本開示の主旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を実施の形態及び実施例に施したもの、ならびに、実施の形態及び実施例における一部の構成要素を組み合わせて構築される別の形態も、本開示の範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0158】
本開示に係る電極及びそれを用いた電池は、携帯電子機器及びウェアラブル電子機器用の電池並びに車載用電池等への応用が期待される。
【符号の説明】
【0159】
1 第1活物質粒子
1A 変形粒子
1B 非変形粒子
1C、23C、33C 平坦面
3 第1粒子
4 第2活物質粒子
5 集電体
6 第2粒子
10 電極
11 活物質合剤層
11A、20A、30A 境界
12 第1合剤層
13 第2合剤層
20 正極活物質合剤層
21 第1正極合剤層
22 第2正極合剤層
23 第1正極活物質粒子
23A 変形正極活物質粒子
23B 非変形正極活物質粒子
25、28、34、37、41 固体電解質
26 第2正極活物質粒子
27 正極集電体
30 負極活物質合剤層
31 第1負極合剤層
32 第2負極合剤層
33 第1負極活物質粒子
33A 変形負極活物質粒子
33B 非変形負極活物質粒子
35 第2負極活物質粒子
36 負極集電体
40 固体電解質層
50 正極
60 負極
100 全固体電池
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8