(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-20
(45)【発行日】2024-06-28
(54)【発明の名称】二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/36 20100101AFI20240621BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240621BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20240621BHJP
H01M 10/0569 20100101ALI20240621BHJP
【FI】
H01M10/36 A
H01M4/36 C
H01M4/587
H01M10/0569
(21)【出願番号】P 2021548388
(86)(22)【出願日】2020-07-28
(86)【国際出願番号】 JP2020028824
(87)【国際公開番号】W WO2021059726
(87)【国際公開日】2021-04-01
【審査請求日】2023-05-12
(31)【優先権主張番号】P 2019177643
(32)【優先日】2019-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】飯田 一博
(72)【発明者】
【氏名】竹内 正信
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-52747(JP,A)
【文献】特開2019-29077(JP,A)
【文献】特開2019-57359(JP,A)
【文献】国際公開第2004/023589(WO,A1)
【文献】特開2018-6358(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/36
H01M 4/587
H01M 4/36
H01M 10/0569
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極と、電解液とを備える二次電池であって、
前記電解液は、水を含む溶媒と、リチウム塩とを含み、
前記負極は、炭素材料を含む負極活物質を有し、
前記炭素材料は、ラマン分光法によって得られるラマンスペクトルにおいて、DバンドとGバンドとのピーク強度比(D/G値)が0.05~0.7であり、
前記炭素材料の表面には被膜が形成されており、
前記被膜は、X線光電子分光法で測定されるXPSスペクトルにおいて、結合エネルギーが685eV付近に現れる、F原子の1s電子軌道のピークの強度をP1とし、結合エネルギーが532eV付近に現れる、O原子の1s電子軌道のピークの強度をP2とした時に、前記ピーク強度P2に対する前記ピーク強度P1の比(P1/P2値)が1.0~3.0である、二次電池。
【請求項2】
前記電解液は、有機溶媒を含む、請求項1に記載の二次電池。
【請求項3】
前記有機溶媒は、フッ素化カーボネートを含む、請求項2に記載の二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
高出力、高エネルギー密度の二次電池として、正極、負極、及び電解液を備え、正極と負極との間でリチウムイオンを移動させて充放電を行うリチウムイオン二次電池が広く利用されている。従来の二次電池では、高エネルギー密度を達成するために、有機溶媒系の電解液が使用されている。
【0003】
しかし、有機溶媒は一般に可燃性であり、安全性の確保が重要な課題となっている。また、有機溶媒のイオン伝導度は水溶液と比べて低く、急速な充放電特性が十分でない点も問題となっている。
【0004】
このような問題に鑑みて、水を含有する電解液(以下、水系電解液と称する場合がある)を用いた二次電池の研究が行われている。例えば、特許文献1には、二次電池の水系電解液として、高濃度のアルカリ塩を含む水溶液を用いることが提案され、また、特許文献2には、高濃度のアルカリ塩を含む水溶液に有機カーボネートを添加した水系電解液を用いることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6423453号公報
【文献】特開2018-73819号公報
【発明の概要】
【0006】
水系電解液を有する二次電池において、負極活物質として炭素材料を用いると、充放電効率が非常に低い。
【0007】
本開示の一態様である二次電池は、正極と、負極と、電解液とを備え、前記電解液は、水を含む溶媒と、リチウム塩とを含み、前記負極は、炭素材料を含む負極活物質を有し、前記炭素材料は、ラマン分光法によって得られるラマンスペクトルにおいて、DバンドとGバンドとのピーク強度比(D/G値)が0.05~0.7であり、前記炭素材料の表面には被膜が形成されており、前記被膜は、X線光電子分光法で測定されるXPSスペクトルにおいて、結合エネルギーが685eV付近に現れる、F原子の1s電子軌道のピークの強度をP1とし、結合エネルギーが532eV付近に現れる、O原子の1s電子軌道のピークの強度をP2とした時に、前記ピーク強度P2に対する前記ピーク強度P1の比(P1/P2値)が1.0~3.0である。
【0008】
ここで、685eV付近とは、684eV~686eVの範囲であり、532eV付近とは、530eV~534eVの範囲である。また、本明細書において、「数値(1)~数値(2)」との記載は、数値(1)以上、数値(2)以下を意味する。
【0009】
本開示に係る二次電池によれば、充放電効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本実施形態の二次電池の一例を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
一般的に、水を含む溶媒とリチウム塩とを含む水系電解液の還元分解は、Li基準でおよそ2V付近から当該電位より卑な電位の間で起こり、炭素材料の充放電反応は、水系電解液の還元分解電位又はそれより卑な電位で起こる。したがって、充電過程において、水系電解液の還元分解が盛んに行われると、その反応に充電電流が消費されるため、負極活物質の充電反応の進行が阻害され、ひいては電池の充放電効率が低下する。本発明者らは鋭意検討した結果、炭素材料(負極活物質)の結晶性と炭素材料の表面に形成する被膜によって、二次電池の充放電効率を向上させることができることを見出し、以下に示す態様の二次電池を想到するに至った。
【0012】
本開示の一態様である二次電池は、正極と、負極と、電解液とを備え、前記電解液は、水を含む溶媒と、リチウム塩とを含み、前記負極は、炭素材料を含む負極活物質を有し、前記炭素材料は、ラマン分光法によって得られるラマンスペクトルにおいて、DバンドとGバンドとのピーク強度比(D/G値)が0.05~0.7であり、前記炭素材料の表面には被膜が形成されており、前記被膜は、X線光電子分光法で測定されるXPSスペクトルにおいて、結合エネルギーが685eV付近に現れる、F原子の1s電子軌道のピークの強度をP1とし、結合エネルギーが532eV付近に現れる、O原子の1s電子軌道のピークの強度をP2とした時に、前記ピーク強度P2に対する前記ピーク強度P1の比(P1/P2値)が1.0~3.0である。そして、本開示の一態様である二次電池によれば、充放電効率を向上させることができる。
【0013】
ラマン分光法によって得られるラマンスペクトルにおいて「Dバンド」とは、欠陥や非晶質炭素成分に由来する1360cm-1付近のラマンバンドを示す。「Gバンド」とは、C=C結合に由来する1580cm-1付近のラマンバンドを示す。そして、DバンドとGバンドとのピーク強度比(以下、単にD/G値と呼ぶ場合がある)が、0.05~0.7である場合、炭素材料の表面は、比較的、結晶の規則性が高く、電気化学的活性点が均一に存在しているため、電解液の還元分解によって炭素材料の表面上に形成される被膜は、非晶質体の場合と比較して、薄い被膜となる。ここで、本開示の炭素材料の表面上の被膜は、結合エネルギーが532eV付近に現れる、O原子の1s電子軌道のピーク強度P2に対する結合エネルギーが685eV付近に現れる、F原子の1s電子軌道のピーク強度P1(以下、単にP1/P2値と呼ぶ場合がある)が1.0~3.0の被膜である。結合エネルギーが685eV付近に現れる、F原子の1s電子軌道のピークは、被膜を構成するLiF由来のピークであり、結合エネルギーが532eV付近に現れる、O原子の1s電子軌道のピークは、被膜を構成するLi2CO3由来のピークであるので、本開示の炭素材料の表面上に形成した被膜は、LiFを多く含んでいることになる。そして、LiFは水に対する溶解性が低いため、LiFを多く含む被膜は、電気化学的に安定な被膜である。したがって、本開示の被膜は、水に対して溶解性の低いLiFを多く含む安定な被膜であるため、水系電解液中の水と炭素材料との接触が当該被膜によって抑えられ、更なる水系電解液の還元分解が抑制される。その結果、二次電池の充放電効率が向上する。
【0014】
以下、本開示に係る二次電池の実施形態について詳説する。
【0015】
本実施形態の二次電池の形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。
図1は、本実施形態の二次電池の一例を示す模式断面図である。
図1に示す二次電池20は、カップ形状の電池ケース21と、電池ケース21の上部に設けられた正極22と、正極22に対してセパレータ24を介して対向する位置に設けられた負極23と、絶縁材により形成されたガスケット25と、電池ケース21の開口部に配設されガスケット25を介して電池ケース21を密封する封口板26と、を備えている。
図1に示す二次電池20は、正極22と負極23との空間に電解液27が満たされている。以下、電解液27、正極22、負極23、セパレータ24、について詳述する。
【0016】
電解液27は、水を含む溶媒と、リチウム塩とを含む水系電解液である。水系電解液は可燃性を有さない水を含むため、二次電池20の安全性を高めることができる。溶媒は水のみでもよいが、電解液27に含まれる溶媒の総量に対する水の含有量が体積比で10%以上50%未満であることが好ましい。水の含有量が上記範囲にあると、例えば、電池の充放電効率が向上する場合がある。
【0017】
また、電解液27に含まれる水の量は、リチウム塩1モルに対して、0.5モル~4モルであることが好ましく、0.5モル~3モルであることがより好ましい。電解液27に含まれる水の量が上記範囲にあると、例えば、電解液27の電位窓が拡大し、二次電池20への印加電圧をより高めることができる。
【0018】
電解液27は、水以外の溶媒を含んでいてもよい。水以外の溶媒としては、例えば、エステル類、エーテル類、ニトリル類、アルコール類、ケトン類、アミン類、アミド類、硫黄化合物類及び炭化水素類等の有機溶媒が挙げられる。また、これら溶媒の水素の少なくとも一部をフッ素等のハロゲン原子で置換したハロゲン置換体等でもよい。具体的には、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ビニリデンカーボネート、ブチレンカーボネート等の環状カーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の鎖状カーボネート、フルオロエチレンカーボネート、フルオロジメチルカーボネート、フルオロプロピオン酸メチル等のフッ素を構成元素として含むフッ素化カーボネート等が挙げられる。特に上記例示した中では、例えば、電池の自己放電を抑制する点、電池の充放電効率を向上させる点等で、環状カーボネートやフッ素を構成元素として含むフッ素化カーボネートが好ましい。
【0019】
リチウム塩に対する水以外の溶媒(有機溶媒)の含有比率は、モル比で、1:0.01~1:5の範囲であることが好ましく、1:0.05~1:2の範囲であることがより好ましい。上記範囲とすることで、電池の自己放電の低下を効果的に抑制できたり、電池の充放電効率をより向上できたりする場合がある。
【0020】
リチウム塩は、水を含有する溶媒に溶解して解離し、リチウムイオンを電解液27中に存在させることができる化合物であれば、いずれも使用できる。リチウム塩は、正極及び負極を構成する材料との反応により電池特性の劣化を引き起こさないことが好ましい。このようなリチウム塩としては、例えば、過塩素酸、硫酸、硝酸等の無機酸との塩、塩化物イオン及び臭化物イオン等のハロゲン化物イオンとの塩、炭素原子を構造内に含む有機アニオンとの塩等が挙げられる。
【0021】
リチウム塩を構成する有機アニオンとしては、例えば、下記一般式(i)~(vi)で表されるアニオンが挙げられる。
(R1SO2)(R2SO2)N- (i)
(R1、R2は、それぞれ独立に、アルキル基又はハロゲン置換アルキル基から選択される。R1及びR2は互いに結合して環を形成してもよい。)
R3SO3
- (ii)
(R3は、アルキル基又はハロゲン置換アルキル基から選択される。)
R4CO2
- (iii)
(R4は、アルキル基又はハロゲン置換アルキル基から選択される。)
(R5SO2)3C- (iv)
(R5は、アルキル基又はハロゲン置換アルキル基から選択される。)
[(R6SO2)N(SO2)N(R7SO2)]2-(v)
(R6、R7は、アルキル基又はハロゲン置換アルキル基から選択される。)
[(R8SO2)N(CO)N(R9SO2)]2-(vi)
(R8、R9は、アルキル基又はハロゲン置換アルキル基から選択される。)
上記一般式(i)~(vi)において、アルキル基又はハロゲン置換アルキル基の炭素数は、1~6が好ましく、1~3がより好ましく、1~2がさらに好ましい。ハロゲン置換アルキル基のハロゲンとしてはフッ素が好ましい。ハロゲン置換アルキル基におけるハロゲン置換数は、もとのアルキル基の水素の数以下である。
【0022】
R1~R9のそれぞれは、例えば、以下の一般式(vii)で表される基である。
【0023】
CnHaFbClcBrdIe (vii)
(nは1以上の整数であり、a、b、c、d、eは0以上の整数であり、2n+1=a+b+c+d+eを満足する。)
上記一般式(i)で表される有機アニオンの具体例としては、例えば、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(TFSI;[N(CF3SO2)2]-)、ビス(パーフルオロエタンスルホニル)イミド(BETI;[N(C2F5SO2)2]-)、(パーフルオロエタンスルホニル)(トリフルオロメタンスルホニル)イミド([N(C2F5SO2)(CF3SO2)]-)等が挙げられる。上記一般式(ii)で表される有機アニオンの具体例としては、例えばCF3SO3
-、C2F5SO3
-等が挙げられる。上記一般式(iii)で表される有機アニオンの具体例としては、例えばCF3CO2
-、C2F5CO2
-等が挙げられる。上記一般式(iv)で表される有機アニオンの具体例としては、例えば、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)炭素酸 ([(CF3SO2)3C]-)、トリス(パーフルオロエタンスルホニル)炭素酸([(C2F5SO2)3C]-)等が挙げられる。上記一般式(v)で表される有機アニオンの具体例としては、例えば、スルホニルビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド([(CF3SO2)N(SO2)N(CF3SO2)]2-)、スルホニルビス(パーフルオロエタンスルホニル)イミド([(C2F5SO2)N(SO2)N(C2F5SO2)]2-)、スルホニル(パーフルオロエタンスルホニル)(トリフルオロメタンスルホニル)イミド([(C2F5SO2)N(SO2)N(CF3SO2)]2-)等があげられる。上記一般式(vi)で表される有機アニオンの具体例としては、例えば、カルボニルビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド([(CF3SO2)N(CO)N(CF3SO2)]2-)、カルボニルビス(パーフルオロエタンスルホニル)イミド([(C2F5SO2)N(CO)N(C2F5SO2)]2-)、カルボニル(パーフルオロエタンスルホニル)(トリフルオロメタンスルホニル)イミド([(C2F5SO2)N(CO)N(CF3SO2)]2-)等があげられる。
【0024】
上記一般式(i)から(vi)以外の有機アニオンとしては、例えば、ビス(1,2-ベンゼンジオレート(2-)-O,O’)ホウ酸、ビス(2,3-ナフタレンジオレート(2-)-O,O’)ホウ酸、ビス(2,2’-ビフェニルジオレート(2-)-O,O’)ホウ酸、ビス(5-フルオロ-2-オレート-1-ベンゼンスルホン酸-O,O’)ホウ酸等のアニオンが挙げられる。
【0025】
リチウム塩を構成するアニオンとしては、イミドアニオンが好ましい。イミドアニオンの好適な具体例としては、例えば、上記一般式(i)で表される有機アニオンとして例示したイミドアニオンのほか、ビス(フルオロスルホニル)イミド(FSI;[N(FSO2)2]-)、(フルオロスルホニル)(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(FTI;[N(FSO2)(CF3SO2)]-)等が挙げられる。
【0026】
リチウムイオンとイミドアニオンとを有するリチウム塩は、電池の自己放電を効果的に抑制できる等の点で、例えば、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)、リチウムビス(パーフルオロエタンスルホニル)イミド(LiBETI)、リチウム(パーフルオロエタンスルホニル)(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、リチウム(フルオロスルホニル)(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiFTI)等が挙げられる。これらは単独でもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0027】
他のリチウム塩の具体例としては、CF3SO3Li、C2F5SO3Li、CF3CO2Li、C2F5CO2Li、(CF3SO2)3CLi、(C2F5SO2)3CLi、(C2F5SO2)2(CF3SO2)CLi、(C2F5SO2)(CF3SO2)2CLi、[(CF3SO2)N(SO2)N(CF3SO2)]Li2、[(C2F5SO2)N(SO2)N(C2F5SO2)]Li2、[(C2F5SO2)N(SO2)N(CF3SO2)]Li2、[(CF3SO2)N(CO)N(CF3SO2)]Li2、[(C2F5SO2)N(CO)N(C2F5SO2)]Li2、[(C2F5SO2)N(CO)N(CF3SO2)]Li2、ビス(1,2-ベンゼンジオレート(2-)-O,O’)ホウ酸リチウム、ビス(2,3-ナフタレンジオレート(2-)-O,O’)ホウ酸リチウム、ビス(2,2’-ビフェニルジオレート(2-)-O,O’)ホウ酸リチウム、ビス(5-フルオロ-2-オレート-1-ベンゼンスルホン酸-O,O’)ホウ酸リチウム、過塩素酸リチウム(LiClO4)、塩化リチウム(LiCl)、臭化リチウム(LiBr)、水酸化リチウム(LiOH)、硝酸リチウム(LiNO3)、硫酸リチウム(Li2SO4)、硫化リチウム(Li2S)、水酸化リチウム(LiOH)等が挙げられる。これらは単独でもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0028】
電解液27は、添加剤を含むことが好ましい。添加剤は、例えば電池性能を向上させるために添加されるものであり、従来公知のあらゆる添加剤を使用できる。特に、電解液27の還元反応によって、炭素材料上に、電気化学的に安定な被膜を形成し、電解液27の還元分解反応を効果的に抑制することができる等の点で、ジカルボニル基含有化合物が好ましい。
【0029】
ジカルボニル基含有化合物は、例えば、コハク酸、グルタル酸、フタル酸、マレイン酸、シトラコン酸、グルタコン酸、イタコン酸、ジグリコール酸等が挙げられる。ジカルボニル基含有化合物は、無水物でもよく、例えば、無水コハク酸、無水グルタル酸、無水フタル酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水グルタコン酸、無水イタコン酸、無水ジグリコール酸等が挙げられる。上記のうち、炭素材料上に、電気化学的に安定な被膜を形成し、電解液27の還元分解反応をより効果的に抑制することができる点で、コハク酸、無水コハク酸、マレイン酸、無水マレイン酸、ジグリコール酸、グルタル酸等が好ましい。中でも、コハク酸、無水マレイン酸が好ましい。これらは1種単独でも、2種以上を併用してもよい。
【0030】
添加剤の含有量は、例えば、電解液27の総量に対して0.1質量%以上5.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上3.0質量%以下であることがより好ましい。上記範囲とすることで、上記範囲外の場合と比較して、電解液27の還元分解反応を効果的に抑制することができる場合がある。
【0031】
正極22は、例えば、正極集電体と、正極集電体上に形成された正極合材層とを備える。正極集電体としては、正極の電位範囲で電気化学的、化学的に安定な金属の箔、及び、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。正極集電体の形態は特に限定されるものではなく、例えば、当該金属のメッシュ体、パンチングシート、エキスパンドメタル等の多孔体を使用してもよい。正極集電体の材料としては、水系電解液を用いた二次電池に使用可能な公知の金属等を使用することができる。そのような金属としては、例えば、ステンレス鋼、Al、アルミニウム合金、Ti等が挙げられる。正極集電体の厚さは、集電性、機械的強度等の観点から、例えば3μm以上50μm以下が好ましい。
【0032】
正極合材層は、正極活物質を含む。また、正極合材層は、結着材、導電材等を含んでいてもよい。
【0033】
正極活物質としては、例えば、リチウム(Li)、並びに、コバルト(Co)、マンガン(Mn)及びニッケル(Ni)等の遷移金属元素を含有するリチウム遷移金属酸化物が挙げられる。正極活物質としては、そのほか、遷移金属硫化物、金属酸化物、リン酸鉄リチウム(LiFePO4)やピロリン酸鉄リチウム(Li2FeP2O7)などの1種類以上の遷移金属を含むリチウム含有ポリアニオン系化合物、硫黄系化合物(Li2S)、酸素や酸化リチウムなどの酸素含有金属塩等が挙げられる。正極活物質としては、リチウム含有遷移金属酸化物が好ましく、遷移金属元素としてCo、Mn及びNiの少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0034】
リチウム遷移金属酸化物は、Co、Mn及びNi以外の他の添加元素を含んでいてもよく、例えば、アルミニウム(Al)、ジルコニウム(Zr)、ホウ素(B)、マグネシウム(Mg)、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、チタン(Ti)、鉄(Fe)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、クロム(Cr)、鉛(Pb)、錫(Sn)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、バリウム(Ba)、ストロンチウム(Sr)、カルシウム(Ca)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)及びケイ素(Si)等を含んでいてもよい。
【0035】
リチウム遷移金属酸化物の具体例としては、例えばLixCoO2、LixNiO2、LixMnO2、LixCoyNi1-yO2、LixCoyM1-yOz、LixNi1-yMyOz、LixMn2O4、LixMn2-yMyO4、LiMPO4、Li2MPO4F(各化学式において、Mは、Na、Mg、Sc、Y、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Cr、Pb、Sb及びBのうち少なくとも1種であり、0<x≦1.2、0<y≦0.9、2.0≦z≦2.3である)が挙げられる。リチウム遷移金属酸化物は、1種を単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。高容量化の観点からは、リチウム遷移金属酸化物がリチウム以外の遷移金属の総量に対して80モル%以上のNiを含有することが好ましい。また、結晶構造の安定性の観点からは、リチウム遷移金属酸化物が、LiaNibCocAldO2(0<a≦1.2、0.8≦b<1、0<c<0.2、0<d≦0.1、b+c+d=1)であることがより好ましい。
【0036】
導電材としては、正極合材層の電気伝導性を高める公知の導電材が使用でき、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、グラフェン等の炭素材料が挙げられる。結着材としては、正極活物質や導電材の良好な接触状態を維持し、また、正極集電体表面に対する正極活物質等の結着性を高める公知の結着材が使用でき、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のフッ素樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド、アクリル樹脂、ポリオレフィン、カルボキシメチルセルロース(CMC)又はその塩、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)等が挙げられる。
【0037】
正極22は、例えば正極活物質、結着材、導電材等を含む正極合材スラリーを正極集電体上に塗布し、塗膜を乾燥、圧延して、正極合材層を正極集電体上に形成することにより製造できる。
【0038】
負極23は、例えば、負極集電体と、負極集電体上に形成された負極合材層とを備える。負極集電体としては、負極の電位範囲で電気化学的、化学的に安定な金属の箔、及び、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。負極集電体の形態は特に限定されるものではなく、例えば、当該金属のメッシュ体、パンチングシート、エキスパンドメタル等の多孔体を使用してもよい。負極集電体の材料としては、水系電解液を用いた二次電池に使用可能な公知の金属等を使用することができる。そのような金属としては、例えば、Al、Ti、Mg、Zn、Pb、Sn、Zr、In等が挙げられる。これらは1種を単独で用いても良く、2種以上の合金等でもよく、少なくとも1つを主成分とする材料から構成されていればよい。また、2つ以上の元素を含む場合において、必ずしも合金化されている必要性はない。負極集電体の厚さは、集電性、機械的強度等の観点から、例えば3μm以上50μm以下が好ましい。
【0039】
負極合材層は、負極活物質を含む。また、負極合材層は、結着材、導電材等を含んでいてもよい。導電材や結着材は、正極側と同様のものを使用できる。
【0040】
負極活物質は、炭素材料を含む。当該炭素材料は、前述したように、電池の充放電効率を向上させる点等で、ラマン分光法によって得られるラマンスペクトルにおいて、DバンドとGバンドとのピーク強度比(D/G値)が0.05~0.7であればよいが、負極の充放電効率をより向上させる点で、0.2~0.7であることが好ましく、0.4~0.7であることがより好ましい。
【0041】
炭素材料におけるラマンスペクトルは、市販のラマン分光測定装置を用いて測定できる。好適なラマン分光測定装置としては、JASCO製の顕微レーザーラマン分光装置「NRS-5100」が例示できる。
【0042】
炭素材料は、D/G値が上記範囲を満たす炭素材料であれば特に限定されないが、D/G値を制御し易いという点で、例えば、黒鉛粒子の表面に非晶質炭素がコーティングされた表面修飾炭素材料が好ましい。例えば、表面修飾炭素材料における非晶質炭素の質量比を調整して、非晶質炭素のコーティング厚みを調整することにより、炭素材料におけるD/G値を制御できる。表面修飾炭素材料における非晶質炭素の量は、黒鉛100質量部に対して0.1質量部~50質量部であることが好ましく、0.1質量部~10質量部であることがより好ましい。表面修飾炭素材料における非晶質炭素の質量比を上記範囲とすることで、D/G値が上記範囲を満たす炭素材料になり易い。
【0043】
表面修飾炭素材料のコアとなる黒鉛は、例えば、鱗片状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛等の天然黒鉛、塊状人造黒鉛(MAG)、黒鉛化メソフェーズカーボンマイクロビーズ(MCMB)等の人工黒鉛等である。また、黒鉛粒子の表面にコーティングされる非晶質炭素は、例えば、石油系ピッチ若しくはタール、石炭系ピッチ若しくはタール、又は熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等の焼成物である。非晶質炭素は、例えば黒鉛粒子の表面全体にピッチを付着させた後、不活性ガス雰囲気下で、900~1500℃、好ましくは1200~1300℃の温度で焼成することにより形成される。上記方法は一例であって、黒鉛粒子の表面に非晶質炭素をコーティングする方法は従来公知の方法を採用できる。例えば、黒鉛粒子と非晶質炭素との間に圧縮剪断応力を加えて被覆するメカノフュージョン法や、スパッタリング法等により被覆する固相法や、非晶質炭素をトルエン等の溶剤に溶解させて黒鉛粒子を浸漬したのち熱処理する液相法等を採用し得る。
【0044】
炭素材料の表面には、被膜が形成されている。当該被膜は、前述したように、電池の充放電効率を向上させる点で、X線光電子分光法で測定されるXPSスペクトルにおいて、結合エネルギーが532eV付近に現れる、O原子の1s電子軌道のピーク強度P2に対する結合エネルギーが685eV付近に現れる、F原子の1s電子軌道のピーク強度P1の比(P1/P2値)が、1.0~3.0であればよいが、負極23の充放電効率をより向上させる点で、1.2~3.0であることが好ましく、1.5~3.0であることがより好ましい。被膜のP1/P2値が3.0を超えると、過密な被膜となりLiイオン伝導性が低下する虞がある。したがって、本開示では、被膜のP1/P2値の上限を3.0に規定している。
【0045】
X線光電子分光法で測定されるXPSスペクトルは、例えば、以下の条件により測定できる。
【0046】
測定装置:アルバック・ファイ社製PHI5000VersaProbe
使用X線源:単色Mg-Kα線、200nmΦ、45W、17kV
分析領域:約200μmφ
被膜は、例えば、二次電池20を組み立てた後、二次電池20を充放電して、電解液27の還元分解によって、炭素材料の表面に形成することができる。また、被膜は、例えば、二次電池20を組み立てる前に、被膜形成用の電解液に炭素材料を含む負極及び対極を浸漬させて、電圧を印加し、被膜形成用の電解液の還元分解によって、炭素材料の表面に形成してもよい。この場合、被膜形成用の電解液で処理した負極を使用して二次電池20を組み立てる。
【0047】
二次電池20を組立後、電解液27の還元分解によって、被膜を形成する場合には、電解液27は、有機溶媒を含むことが好ましい。有機溶媒は、LiFを含む被膜を形成し易い等の点で、フッ素含有有機溶媒が好ましく、例えば、フルオロエチレンカーボネート、フルオロジメチルカーボネート等の環状若しくは鎖状フッ素化カーボネート、フルオロプロピオン酸メチル、酢酸トリフルオロメチル等のフッ素化カルボン酸エステル類等が好ましい。また、有機溶媒は、Li2CO3を含む被膜を形成し易い等の点で、フッ素非含有有機溶媒が好ましく、例えば、エチレンカーボネートやジメチルカーボネート等のフッ素非含有カーボネートが好ましい。そして、被膜のP1/P2値が上記範囲となる被膜を形成し易い点で、溶媒の総量に対するフッ素含有有機溶媒の含有量は、体積比で、60%~90%が好ましい。
【0048】
また、電解液27は、LiFを含む被膜を形成し易い等の点で、フッ素含有リチウム塩を含むことが好ましい。フッ素含有リチウム塩は特に限定されないが、LiFを含む被膜を形成し易い等の点で、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)、リチウムビス(パーフルオロエタンスルホニル)イミド(LiBETI)、リチウム(パーフルオロエタンスルホニル)(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、リチウム(フルオロスルホニル)(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiFTI)等が好ましい。
【0049】
また、二次電池20を組み立てる前に、被膜形成用の電解液に炭素材料を含む負極を浸漬させて、被膜形成用の電解液の還元分解によって、炭素材料の表面に被膜を形成する場合には、被膜形成用の電解液は、前述の電解液27と同様に、フッ素含有有機溶媒やフッ素非含有有機溶媒等の有機溶媒やフッ素含有リチウム塩を含むことが好ましい。なお、被膜形成用の電解液に浸漬させる負極は、例えば負極活物質、結着材等を含む負極合材スラリーを負極集電体上に塗布し、塗膜を乾燥、圧延して、負極合材層を負極集電体上に形成することにより作製される。また、被膜形成用の電解液を使用して、炭素材料の表面に被膜を形成する場合、二次電池20の電解液27には、フッ素含有有機溶媒やフッ素含有リチウム塩を添加しなくてもよい。
【0050】
負極活物質は、上記炭素材料以外に、本開示の効果を損なわない範囲において、従来のリチウムイオン二次電池の負極活物質に使用可能な材料を含んでいてもよく、例えば、リチウム元素を含む合金や金属酸化物、金属硫化物、金属窒化物のような金属化合物、シリコン等が挙げられる。例えば、リチウム元素を有する合金としては、例えばリチウムアルミニウム合金、リチウムスズ合金、リチウム鉛合金、リチウムケイ素合金等を挙げることができる。また、リチウム元素を有する金属酸化物としては、例えばチタン酸リチウム(Li4Ti5O12等)等を挙げることができる。また、リチウム元素を含有する金属窒化物としては、例えばリチウムコバルト窒化物、リチウム鉄窒化物、リチウムマンガン窒化物等を挙げることができる。さらに、硫黄系化合物を例示することもできる。
【0051】
セパレータ24は、リチウムイオンを透過し、且つ、正極と負極とを電気的に分離する機能を有するものであれば特に限定されず、例えば、樹脂や無機材料等で構成される多孔性シートが用いられる。多孔性シートの具体例としては、微多孔薄膜、織布、不織布等が挙げられる。セパレータ24の材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、ポリアミド、ポリアミドイミド、セルロース等が挙げられる。セパレータ24を構成する無機材料としては、ホウ珪酸ガラス、シリカ、アルミナ、チタニア等のガラス及びセラミックスが挙げられる。セパレータ24は、セルロース繊維層及びオレフィン系樹脂等の熱可塑性樹脂繊維層を有する積層体であってもよい。また、ポリエチレン層及びポリプロピレン層を含む多層セパレータであってもよく、セパレータの表面にアラミド系樹脂、セラミック等の材料が塗布されたものを用いてもよい。
【0052】
<実施例>
以下、実施例により本開示をさらに説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0053】
<実施例1>
[負極]
負極活物質として、人工黒鉛の表面に非晶質炭素をコーティングした表面修飾炭素材料を用いた。表面修飾炭素材料における非晶質炭素の量は、人工黒鉛100質量部に対して2質量部である。実施例1の表面修飾炭素材料におけるD/G値は0.253であった。
【0054】
上記表面修飾炭素材料(負極活物質)と、結着材としてのPVDFとを、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)中で96:4の固形分質量比で混合して、負極合材スラリーを調製した。次に、当該負極合材スラリーを銅箔からなる負極集電体上に塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧延ローラーにより圧延することにより、電極を作製した。
【0055】
[正極]
正極活物質としてのLiCoO2と、導電材としてのカーボンブラックと、結着剤としてのPVdFとを、NMP中で94:3:3の質量比で混合して、正極合材スラリーを調製した。次に、当該正極合材スラリーを、Al箔からなる正極集電体上に塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧延ローラーにより圧延した。そして、所定の電極サイズに切断して、正極を得た。
【0056】
[電解液]
リチウム塩(LITFSI:LIBETI=1.0:0.4(モル比))と、フルオロエチレンカーボネート(FEC)と、水とを、モル比で1.4:2.6:1.2となるように混合して、電解液を調製した。
【0057】
[試験セル]
上記負極及び上記正極にリードをそれぞれ取り付け、セパレータを介して各電極を対向させた電極体をアルミニウムラミネートシートで構成された外装体に挿入して、105℃で2時間30分真空乾燥した後、上記電解液を注入し、外装体の開口部を封止して試験セル(ラミネートセル)を作製した。
【0058】
<実施例2>
負極活物質として、人工黒鉛の表面に非晶質炭素をコーティングした表面修飾炭素材料を用いた。表面修飾炭素材料における非晶質炭素の量は、人工黒鉛100質量部に対して2質量部である。実施例2の人工黒鉛は実施例1とは異なる人工黒鉛である。また、実施例2の表面修飾炭素材料は、実施例1の表面修飾炭素材料より、バルク構造では非晶質寄りである。実施例2の表面修飾炭素材料におけるD/G値は0.253であった。上記表面修飾炭素材料を負極活物質として用いたこと以外、実施例1と同様にして、試験セルを構築した。
【0059】
<実施例3>
負極活物質として、天然黒鉛の表面に非晶質炭素をコーティングした表面修飾炭素材料を用いた。表面修飾炭素材料における非晶質炭素の量は、天然黒鉛100質量部に対して4質量部である。実施例3の表面修飾炭素材料におけるD/G値は0.414であった。上記表面修飾炭素材料を負極活物質として用いたこと以外、実施例1と同様にして、試験セルを構築した。
【0060】
<実施例4>
負極活物質として、天然黒鉛の表面に非晶質炭素をコーティングした表面修飾炭素材料を用いた。表面修飾炭素材料における非晶質炭素の量は、天然黒鉛100質量部に対して5質量部である。実施例4の表面修飾炭素材料におけるD/G値は0.416であった。上記表面修飾炭素材料を負極活物質として用いたこと以外、実施例1と同様にして、試験セルを構築した。
【0061】
<比較例1>
負極活物質として、人工黒鉛の表面に非晶質炭素をコーティングした表面修飾炭素材料を用いた。表面修飾炭素材料における非晶質炭素の量は、人工黒鉛100質量部に対して2質量部である。比較例1の表面修飾炭素材料におけるD/G値は0.253であった。
【0062】
リチウム塩(LITFSI)と、ジメチルカーボネート(DMC)と、フルオロエチレンカーボネート(FEC)と、水とを、モル比で1.0:0.2:0.2:1.5となるように混合して、電解液を調製した。
【0063】
上記表面修飾炭素材料を負極活物質としたこと、上記電解液を用いたこと以外、実施例1と同様にして、試験セルを構築した。
【0064】
<比較例2>
負極活物質として、人工黒鉛の表面に非晶質炭素をコーティングした表面修飾炭素材料を用いた。表面修飾炭素材料における非晶質炭素の量は、人工黒鉛100質量部に対して2質量部である。比較例2の人工黒鉛は比較例1とは異なる人工黒鉛である。また、比較例2の表面修飾炭素材料は、比較例1の表面修飾炭素材料より、バルク構造では非晶質寄りである。比較例2の表面修飾炭素材料におけるD/G値は0.253であった。上記表面修飾炭素材料を負極活物質として用いたこと、比較例1と同じ電解液を用いたこと以外、実施例1と同様にして、試験セルを構築した。
【0065】
<比較例3>
負極活物質として、天然黒鉛の表面に非晶質炭素をコーティングした表面修飾炭素材料を用いた。表面修飾炭素材料における非晶質炭素の量は、天然黒鉛100質量部に対して4質量部である。比較例3の表面修飾炭素材料におけるD/G値は0.414であった。上記表面修飾炭素材料を負極活物質として用いたこと、比較例1と同じ電解液を用いたこと以外、実施例1と同様にして、試験セルを構築した。
【0066】
<比較例4>
負極活物質として、天然黒鉛の表面に非晶質炭素をコーティングした表面修飾炭素材料を用いた。表面修飾炭素材料における非晶質炭素の量は、天然黒鉛100質量部に対して5質量部である。比較例3の表面修飾炭素材料におけるD/G値は0.416であった。上記表面修飾炭素材料を負極活物質として用いたこと、比較例1と同じ電解液を用いたこと以外、実施例1と同様にして、試験セルを構築した。
【0067】
[充放電効率の評価]
各実施例及び各比較例の試験セルを、25℃の温度環境下、0.2C+0.05Cの定電流で電池電圧が3.7Vになるまで充電した後、0.2C+0.05Cの定電流で電池電圧が2.5Vになるまで放電した。この時の充放電容量を測定し、下記の式に基づいて、充放電効率を求めた。
【0068】
充放電効率=(放電容量/充電容量)×100
また、充放電効率の評価とは別に作製した各実施例及び各比較例の試験セルに対して、上記充放電を3サイクル行った。充放電後の各試験セルを分解し、負極から表面修飾炭素材料を採取して、X線光電子分光法により、表面修飾炭素材料の表面に形成された被膜のXPSスペクトルを測定し、P1/P2値を求めた。
【0069】
表1に、実施例1~4及び比較例1~4における、表面修飾炭素材料のD/G値、被膜のP1/P2値、試験セルの充放電効率の結果を示す。但し、充放電効率の値は、実施例4の値を100として、その他の実施例及び比較例を相対値で示している。
【0070】
【0071】
表1から分かるように、実施例1~2及び比較例1~2で使用した表面修飾炭素材料は、同じD/G値であるが、炭素材料表面に形成した被膜のP1/P2値は、実施例1~2が1以上であり、比較例1~2は1未満である。また、実施例3~4及び比較例3~4を比較しても同じ傾向である。これは、フッ素化カーボネート(FEC)の量が多い電解液を使用した実施例では、電解液の還元分解によって、表面修飾炭素材料の表面に、LiFの割合が高い被膜が形成されたためである。そして、P1/P2値が1以上の被膜、すなわち、比較例よりLiFの割合が高い被膜が形成された実施例はいずれも、比較例より、充放電効率が向上した。実施例1~4の中では、表面修飾炭素材料のD/G値が0.4以上で、被膜のP1/P2値が1.5以上である実施例4が、最も高い充放電効率を示した。
【符号の説明】
【0072】
20 二次電池
21 電池ケース
22 正極
23 負極
24 セパレータ
25 ガスケット
26 封口板
27 電解液。