(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-20
(45)【発行日】2024-06-28
(54)【発明の名称】ニオブ酸塩分散水溶液およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 33/00 20060101AFI20240621BHJP
【FI】
C01G33/00 A
(21)【出願番号】P 2023539699
(86)(22)【出願日】2022-06-24
(86)【国際出願番号】 JP2022025275
(87)【国際公開番号】W WO2023013288
(87)【国際公開日】2023-02-09
【審査請求日】2023-08-03
(31)【優先権主張番号】P 2021128393
(32)【優先日】2021-08-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094536
【氏名又は名称】高橋 隆二
(74)【代理人】
【識別番号】100129805
【氏名又は名称】上野 晋
(74)【代理人】
【識別番号】100189315
【氏名又は名称】杉原 誉胤
(72)【発明者】
【氏名】荒川 泰輝
(72)【発明者】
【氏名】原 周平
(72)【発明者】
【氏名】元野 隆二
【審査官】大西 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-104242(JP,A)
【文献】特開2014-224032(JP,A)
【文献】特開2018-198299(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102030531(CN,A)
【文献】特開2011-190115(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 25/00-47/00
C01G 49/00-99/00
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニオブをNb
2O
5換算で0.1~40質量%含有し、ナトリウムイオンおよびまたはカリウムイオンを含み、動的光散乱法を用いた粒子径分布測定による粒子径(D50)が0nm超過30nm以下であることを特徴とするニオブ酸塩分散水溶液。
【請求項2】
前記ニオブをNb
2O
5換算で1~5質量%含有することを特徴とする請求項
1に記載のニオブ酸塩分散水溶液。
【請求項3】
前記ニオブ酸塩分散水溶液にリチウムイオンをさらに含むことを特徴とする請求項1、又は2に記載のニオブ酸塩分散水溶液。
【請求項4】
前記ニオブ酸塩分散水溶液に含まれるニオブ(Nb)とカリウム(K)とナトリウム(Na)のモル比が、Nb/K/Na=1/x/1-x(xは0.4以上0.6以下)であることを特徴とする請求項1、又は2に記載のニオブ酸塩分散水溶液。
【請求項5】
前記ニオブ酸塩分散水溶液に含まれるニオブ(Nb)とカリウム(K)とナトリウム(Na)のモル比が、Nb/K/Na=1/0.5/0.5であることを特徴とする請求項1、又は2に記載のニオブ酸塩分散水溶液。
【請求項6】
アンモニア、およびまたは、有機窒素化合物から選択される少なくとも一種を含有することを特徴とする請求項1、又は2に記載のニオブ酸塩分散水溶液。
【請求項7】
請求項1、又は2に記載のニオブ酸塩分散水溶液中のニオブ酸塩を含有することを特徴とするニオブ酸塩膜。
【請求項8】
請求項1、又は2に記載のニオブ酸塩分散水溶液中のニオブ酸塩を含有することを特徴とするニオブ酸塩粉末。
【請求項9】
請求項1、又は2に記載のニオブ酸塩分散水溶液中のニオブ酸塩を含有することを特徴とするニオブ酸塩成形体。
【請求項10】
ニオブをNb
2O
5換算で0.1~40質量%含有し、動的光散乱法を用いた粒子径分布測定による粒子径(D50)が3,000nm以下であるニオブ酸溶液と、ナトリウムおよびまたはカリウムの水酸化物とを混合することを特徴とする請求項1、又は2に記載のニオブ酸塩分散水溶液の製造方法。
【請求項11】
前記ニオブ酸溶液とリチウムの水酸化物とを混合することを特徴とする請求項1
0に記載のニオブ酸塩分散水溶液の製造方法。
【請求項12】
請求項1、又は2に記載のニオブ酸塩分散水溶液を塗布し、焼成することを特徴とするニオブ酸塩膜の製造方法。
【請求項13】
請求項1、又は2に記載のニオブ酸塩分散水溶液を乾燥、およびまたは、焼成することを特徴とするニオブ酸塩粉末の製造方法。
【請求項14】
請求項1、又は2に記載のニオブ酸塩分散水溶液を乾燥し、得られた乾燥粉を金型に充填し、加圧成形、および焼成することを特徴とするニオブ酸塩成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニオブ酸塩分散水溶液およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ノートパソコンや液晶テレビなどのバックライト用トランス、コピー機などのOA機器に用いられている圧電セラミックスは、従来PZT系などの鉛系材料が用いられていたが、廃棄処理での酸化鉛の流出による環境汚染が懸念されていたことから、鉛系材料を含まない圧電セラミックスの開発が求められていた。例えば、特許文献1、2には、鉛系材料を含まない圧電セラミックスとして、液相系の製造方法により製造されたニオブ酸アルカリ系の圧電セラミックスが開示されている。また、特許文献3には、ニオブ金属塩粒子の結晶体から製造された扁平の板状結晶及び異方系状粉末が開示されている。さらに、特許文献4には、緻密な膜を形成し得るKNN膜形成用液組成物及びこの液組成物を用いたKNN膜の形成方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-241658号公報
【文献】特開2010-241659号公報
【文献】特開2014-12612号公報
【文献】特開2019-220638号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1、2に開示されたニオブ酸アルカリ金属塩粒子や、特許文献3に開示された扁平の板状結晶及び異方系状粉末は、それらの製造工程において、高温、高圧であることが要求されており、オートクレーブといった機器が必要であった。また、特許文献4に開示されたKNN膜形成用液組成物の溶媒は、特定のカルボン酸が当該液組成物100質量%に対して50質量%~90質量%含まれており、環境負荷低減のために、水を溶媒とする溶液調整が求められていた。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みて、水への分散性が高く、水に対する溶解性が良好で、且つ高純度であるニオブ酸塩分散水溶液及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するためになされた本発明のニオブ酸塩分散水溶液は、ニオブをNb2O5換算で0.1~40質量%含有し、ナトリウムイオンおよびまたはカリウムイオンを含み、動的光散乱法を用いた粒子径分布測定による粒子径(D50)が3,000nm以下であることを特徴とする。
本発明のニオブ酸塩分散水溶液は、ニオブをNb2O5換算で0.1~40質量%であると、水への分散性及び溶解性が向上する点で好ましい。また、本発明のニオブ酸塩分散水溶液は、1~20質量%であるとより好ましく、5~10質量%であるとよりさらに好ましい。
【0007】
ここで、ニオブ酸塩分散水溶液中のニオブ濃度は、当該水溶液を必要に応じて希塩酸で適度に希釈し、ICP発光分析(アジレント・テクノロジー社製:AG-5110)により、酸化ニオブ(Nb2O5)換算のNb重量分率を測定して算出する。なお、本発明のニオブ酸塩分散水溶液中のニオブ酸は、必ずしもNb2O5の状態で存在するものではない。ニオブ酸の含有量を、Nb2O5換算で示しているのは、ニオブ濃度を示す際の慣例に基づくものである。
【0008】
ここで、本発明のニオブ酸塩分散水溶液中のニオブ酸は、ナトリウムイオンや、カリウムイオンとイオン結合した状態のイオンとして水溶液中に存在するものと推測する。本発明のニオブ酸塩分散水溶液には、陰イオンとして水酸化物イオンは存在する一方、フッ化物イオンおよび塩化物イオンなどのハロゲン化物イオンはほとんど存在せず、ナトリウムイオンや、カリウムイオンは陽イオンとして存在することから、ニオブ酸はNbO3
-のような陰イオンか、複数のニオブ原子と酸素原子とが結合したポリオキソメタレート(ポリ酸)イオンとして存在していると考えらえる。さらに、本発明のニオブ酸塩分散水溶液にリチウムイオンをさらに含むものであってもよい。例えば、本発明のニオブ酸塩分散水溶液は、ナトリウムイオン、又はカリウムイオンに代えて、リチウムイオンを含むものであってもよく、ナトリウムイオン、及びカリウムイオンに加えて、リチウムイオンを含むものであってもよい。そして、本発明のニオブ酸塩分散水溶液中のニオブ酸は、リチウムイオンともイオン結合した状態のイオンとして水溶液中に存在するものと推測する。
【0009】
さらに、動的光散乱法を用いた粒子径分布測定による粒子径(D50)が3,000nm以下であると、水への分散性、溶解性が向上する点で好ましい。また、当該粒子径(D50)が、30nm以下であるとより好ましく、20nm以下であるとさらに好ましい。なお、当該粒子径(D50)は、10nm以下、1nm以下、1nm未満の検出限界であってもよい。他方、粒子径(D50)は、0nm超過であると好まく、1nm以上であるとより好ましい。このように、動的光散乱法を用いた粒子径分布測定により、粒子径(D50)が3,000nm以下である状態の溶液を、本発明の「ニオブ酸塩分散水溶液」とする。例えば、本発明のニオブ酸塩分散水溶液中のニオブ酸塩粒子などの動的光散乱法を用いた粒子径分布測定による粒子径(D50)は、3,000nm以下であると、水への分散性、溶解性が向上する点で好ましく、30nm以下であるとより好ましく、20nm以下であるとさらに好ましい。なお、当該粒子径(D50)は、10nm以下、1nm以下、1nm未満の検出限界であってもよい。他方、当該ニオブ酸塩粒子などの動的光散乱法を用いた粒子径分布測定による粒子径(D50)は、0nm超過であると好ましく、1nm以上であるとより好ましい。
【0010】
ここで、動的光散乱法とは、懸濁溶液などの溶液にレーザ光などの光を照射することにより、ブラウン運動する粒子群からの光散乱強度を測定し、その強度の時間的変動から粒子径と分布を求める方法である。具体的には、粒度分布の評価方法は、ゼータ電位・粒径・分子量測定システム(大塚電子株式会社製:ELSZ-2000ZS)を用いて、JIS Z 8828:2019「粒子径解析-動的光散乱法」に準拠して実施する。また、測定直前に測定対象である溶液中の埃等を除去するため、10μm孔径のフィルタで当該溶液を濾過し、超音波洗浄機(アズワン社製:VS-100III)にて3分間の超音波処理を実施する。さらに、測定態様である溶液の液温は25℃に調整した。なお、粒子径(D50)は、積算分布曲線の50%積算値を示す粒子径であるメディアン径(D50)をいう。
【0011】
なお、本発明における「水溶液」とは、溶質が溶媒である純水中に単分子の状態で分散又は混合しているものに限られず、複数の分子が分子間の相互作用により引き合った集合体、例えば(1)多量体分子、(2)溶媒和分子、(3)分子クラスター、(4)コロイド粒子などが溶媒に分散しているものも含まれる。
【0012】
また、本発明のニオブ酸塩分散水溶液は、ニオブをNb2O5換算で0.1~40質量%含有し、ナトリウムイオンおよびまたはカリウムイオンを含み、乾燥粉のレーザ回折・散乱法を用いた粒子径分布測定による乾燥粉粒子径(D10)が1μm以上であることを特徴とする。
前述した通り、本発明のニオブ酸塩分散水溶液は、ニオブをNb2O5換算で0.1~40質量%であると、水への分散性及び溶解性が向上する点で好ましい。また、本発明のニオブ酸塩分散水溶液は、1~20質量%であるとより好ましく、5~10質量%であるとよりさらに好ましい。また、上述した通り、本発明のニオブ酸塩分散水溶液中のニオブ酸は、ナトリウムイオンや、カリウムイオンとイオン結合した状態のイオンとして水溶液中に存在するものと推測する。さらに、本発明のニオブ酸塩分散水溶液にリチウムイオンをさらに含むものであってもよい。例えば、本発明のニオブ酸塩分散水溶液は、ナトリウムイオン、又はカリウムイオンに代えて、リチウムイオンを含むものであってもよく、ナトリウムイオン、及びカリウムイオンに加えて、リチウムイオンを含むものであってもよい。そして、本発明のニオブ酸塩分散水溶液中のニオブ酸は、リチウムイオンともイオン結合した状態のイオンとして水溶液中に存在するものと推測する。
【0013】
さらに、上述した動的光散乱法を用いた粒子径分布測定による粒子径と区別するために、乾燥粉の粒子径を乾燥粉粒子径という。本発明のニオブ酸塩分散水溶液を乾燥して得られた乾燥粉に係る粒度分布の評価方法は、レーザ回折・散乱法粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製:MT3300EXII)を用いて、JIS Z 8828:2019に準じた動的光散乱法により行うものである。また、フィルタリングは行なわず、次のような超音波を用いた分散処理を実施する。
【0014】
具体的には、乾燥粉粒子径は、本発明のニオブ酸塩分散水溶液を真空乾燥(乾燥条件:加熱温度80℃、加熱時間7時間)して得られた乾燥粉に対し、後述する超音波による分散処理を行った粒子径である。得られた乾燥粉に対し行った超音波による分散処理の手順は、次の通りである。先ず、超音波による分散処理の前処理として、試料粉1mg、純粋20mLを容量50mLのPP製広口瓶に投入し、当該PP製広口瓶を超音波洗浄機(アズワン社製:VS-100III)にセットする。次に、当該洗浄機の槽内床面から上5cmまでを純水で満たした状態で、周波数28kHz、60分間に亘って超音波による分散処理を実施する。
【0015】
上述した乾燥粉のレーザ回折・散乱法を用いた粒子径分布測定による乾燥粉粒子径(D10)が、1μm以上であると、水への分散性及び溶解性が向上する点で好ましい。ここで、乾燥粉粒子径(D10)が、10μm以上であるとより好ましい。他方、乾燥粉粒子径(D10)が、150μmを超えると凝集が過度に大きくなり、例えば膜といった成形体の形成時における成膜性、膜均一性、及び平坦性が損なわれてしまうことから、乾燥粉粒子径(D10)は、100μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましく、20μm以下がさらに好ましい。
【0016】
また、乾燥粉粒子径(D50)は、乾燥粉粒子径(D10)と同様な理由により、20μm以上であると好ましい。他方、乾燥粉粒子径(D50)は、200μmを超えると凝集が過度に大きくなり、例えば膜といった成形体の形成時における成膜性、膜均一性、及び平坦性が損なわれてしまうことから、100μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましい。
【0017】
さらに、乾燥粉粒子径(D90)は、乾燥粉粒子径(D10)と同様な理由により、30μm以上であると好ましく、60μm以上であるとより好ましい。他方、乾燥粉粒子径(D90)は、2,000μmを超えると凝集が過度に大きくなり、例えば膜といった成形体の形成時における成膜性、膜均一性、及び平坦性が損なわれてしまうことから、1,000μm以下が好ましく、500μm以下がより好ましく、200μm以下がさらに好ましい。
【0018】
ここで、乾燥粉粒子径(D10)は体積分率にして10%に至る乾燥粉の粒子径を示す。また、乾燥粉粒子径(D50)は体積分率にして50%に至る乾燥粉の粒子径を示し、メディアン径という。さらに、乾燥粉粒子径(D90)は体積分率にして90%に至る乾燥粉の粒子径を示す。
【0019】
また、本発明のニオブ酸塩分散水溶液は、ニオブをNb2O5換算で0.1~40質量%含有し、ナトリウムイオンおよびまたはカリウムイオンを含み、真空乾燥することにより得られた乾燥粉のレーザ回折・散乱法を用いた粒子径分布測定による乾燥粉粒子径の比(D90-D10)/D50が0以上6以下であることを特徴とする。
乾燥粉粒子径の比(D90-D10)/D50が0以上6以下であると、乾燥粉粒子径の比(D90-D10)/D50が小さい値ほど、乾燥粉の粒度分布が狭いことを示し、水への分散性及び溶解性が向上する点で好ましい。また、乾燥粉粒子径の比(D90-D10)/D50が1以上3以下であるとより好ましい。さらに、上述した通り、本発明のニオブ酸塩分散水溶液中のニオブ酸は、ナトリウムイオンや、カリウムイオンとイオン結合した状態のイオンとして水溶液中に存在するものと推測する。さらに、本発明のニオブ酸塩分散水溶液にリチウムイオンをさらに含むものであってもよい。例えば、本発明のニオブ酸塩分散水溶液は、ナトリウムイオン、又はカリウムイオンに代えて、リチウムイオンを含むものであってもよく、ナトリウムイオン、及びカリウムイオンに加えて、リチウムイオンを含むものであってもよい。そして、本発明のニオブ酸塩分散水溶液中のニオブ酸は、リチウムイオンともイオン結合した状態のイオンとして水溶液中に存在するものと推測する。
【0020】
また、本発明のニオブ酸塩分散水溶液は、前記ニオブ酸塩分散水溶液に含まれるニオブ(Nb)とカリウム(K)とナトリウム(Na)のモル比が、Nb/K/Na=1/x/1-x(xは0.4以上0.6以下)であることを特徴とする。
前記ニオブ酸塩分散水溶液に含まれるニオブ(Nb)とカリウム(K)とナトリウム(Na)のモル比が、Nb/K/Na=1/x/1-x(xは0.4以上0.6以下)であると、水への分散性及び溶解性が向上する点で好ましい。また、前記ニオブ酸塩分散水溶液に含まれるニオブ(Nb)とカリウム(K)とナトリウム(Na)のモル比が、Nb/K/Na=1/0.5/0.5であると、より好ましい。
【0021】
また、本発明のニオブ酸塩分散水溶液は、アンモニア、およびまたは、有機窒素化合物から選択される少なくとも一種を含有する。
本発明のニオブ酸塩分散水溶液は、ニオブ酸、ナトリウムイオン、カリウムイオン、及びリチウムイオンの他に、アンモニア及び有機窒素化合物が含まれる。また、本発明に係る「アンモニア」及び「有機窒素化合物」は、本発明のニオブ酸塩分散水溶液中でそれぞれがイオン化されたものを含む。後述する本発明のニオブ酸塩分散水溶液の製造方法で詳しく説明するが、当該製造工程において、酸性のニオブ溶液をアンモニア水に添加する逆中和法により、ニオブ含有沈殿スラリーである含水ニオブン酸アンモニウムケーキを生成した後、有機窒素化合物を加え、混合することにより、本発明のニオブ酸塩分散水溶液が生成されることからナトリウムイオン、カリウムイオン、及びリチウムイオンと言ったアルカリ金属イオンと置換されたアンモニア及び有機窒素化合物が陽イオンとして当該溶液中に存在すると考えられる。
【0022】
当該溶液中に存在するアンモニウムイオン濃度の測定方法は、当該溶液に水酸化ナトリウムを加えてアンモニアを蒸留分離し、イオンメータによりアンモニウムイオン濃度を定量する方法、ガス化した試料中のN2分を熱伝導度計で定量する方法、ケルダール法、ガスクロマトグラフィー(GC)、イオンクロマトグラフィー、GC-MS(質量分析)などが挙げられる。
【0023】
他方、有機窒素化合物としては、脂肪族アミン、芳香族アミン、アミノアルコール、アミノ酸、ポリアミン、4級アンモニウム、グアニジン化合物、アゾール化合物が挙げられる。
【0024】
脂肪族アミンとしては、例えば、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、メチルエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、メチルジエチルアミン、ジメチルエチルアミン、n-プロピルアミン、ジn-プロピルアミン、トリn-プロピルアミン、iso-プロピルアミン、ジiso-プロピルアミン、トリiso-プロピルアミン、n-ブチルアミン、ジn-ブチルアミン、トリn-ブチルアミン、iso-ブチルアミン、ジiso-ブチルアミン、トリiso-ブチルアミンおよびtert-ブチルアミン、n-ペンタアミン、n-ヘキシルアミン、シクロヘキシルアミン、ピぺリジンなどが挙げられる。
【0025】
芳香族アミンとしては、例えば、アニリン、フェニレンジアミン、ジアミノトルエンなどが挙げられる。さらに、アミノアルコールとしては、例えば、メタノールアミン、エタノールアミン、プロパノールアミン、ブタノールアミン、ペンタノールアミン、ジメタノールアミン、ジエタノールアミン、トリメタノールアミン、メチルメタノールアミン、メチルエタノールアミン、メチルプロパノールアミン、メチルブタノールアミン、エチルメタノールアミン、エチルエタノールアミン、エチルプロパノールアミン、ジメチルメタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジメチルプロパノールアミン、メチルジメタノールアミン、メチルジエタノールアミン、ジエチルメタノールアミン、トリスヒドロキシメチルアミノメタン、ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノトリス(ヒドロキシメチル)メタンおよびアミノフェノールなどが挙げられる。また、アミノ酸としては、例えば、アラニン、アルギニン、アスパラギン酸、EDTAなどが挙げられる。さらに、ポリアミンとしては、例えば、ポリアミン、ポリエーテルアミンなどが挙げられる。
【0026】
4級アンモニウムとしては、例えば、アルキルイミダゾリウム、ピリジニウム、ピロリジウム、テトラアルキルアンモニウムなどが挙げられる。ここで、アルキルイミダゾリウムの具体例としては、1-メチル-3-メチルイミダゾリウム、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム、1-プロピル-3-メチルイミダゾリウム、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウム、1-メチル-2,3-ジメチルイミダゾリウム、1-エチル-2,3-ジメチルイミダゾリウム、1-プロピル-2,3-ジメチルイミダゾリウム、1-ブチル-2,3-ジメチルイミダゾリウムなどが挙げられる。また、ピリジニウム、ピロリジウムの具体例としては、N-ブチル-ピリジニウム、N-エチル-3-メチル-ピリジニウム、N-ブチル-3-メチル-ピリジニウム、N-ヘキシル-4-(ジメチルアミノ)-ピリジニウム、N-メチル-1-メチルピロリジニウム、N-ブチル-1-メチルピロリジニウムなどが挙げられる。さらに、テトラアルキルアンモニウムの具体例としては、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、エチル-ジメチル-プロピルアンモニウムが挙げられる。なお、上述したカチオンと塩を形成するアニオンとしては、OH-、Cl-、Br-、I-、BF4
-、HSO4
-などが挙げられる。
【0027】
グアニジン化合物としては、グアニジン、ジフェニルグアニジン、ジトリルグアニジンなどが挙げられる。また、アゾール化合物としては、イミダゾール化合物、トリアゾール化合物などが挙げられる。ここで、イミダゾール化合物の具体例としては、イミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾールなどが挙げられる。また、トリアゾール化合物の具体例としては、1,2,4-トリアゾール、1,2,4-トリアゾール-3-カルボン酸メチル、1,2,3-ベンゾトリアゾールなどが挙げられる。
【0028】
当該溶液中に存在する有機窒素化合物濃度の測定方法は、ガスクロマトグラフィー(GC)、液体クロマトグラフィー(LC)、質量分析(MS)、ガスクロマトグラフィー・質量分析(GC-MS)、液体クロマトグラフィー・質量分析(LC-MS)などが挙げられ、またガス化した試料中のN2分を熱伝導度計で定量する方法を併用してもよい。
【0029】
本発明のニオブ酸塩分散水溶液は、添加物として、Li、Mg、Ca、Ti、Mn、Ni、Cu、Sr、Ba、Ta、W、Biなどの酸化物粉末を含有してもよい。本発明のニオブ酸塩分散水溶液は、均一な溶液であることから、これらの酸化物粉末が懸濁状態であっても、均一性の向上、反応性(反応率)の向上が見込まれるからである。また、これらの酸化物粉末が本発明のニオブ酸塩分散水溶液に溶解し、均一な溶液となれば、複合化元素が最も反応性が良好な状態にすることができる。
【0030】
さらに、本発明のニオブ酸塩分散水溶液は、その作用効果を阻害しない範囲で、ニオブ乃至ニオブ酸に由来する成分、及び、アンモニア及び有機窒素化合物に由来する成分以外の成分(「他成分」という。)を含有してもよい。他成分としては、例えばLi、Mg、Si、Ca、Ti、Mn、Ni、Cu、Zn、Sr、Zr、Mo、Ba、Ta、W、Biなどが挙げられる。但し、これらに限定するものではない。本発明のニオブ酸塩分散水溶液における他成分の含有量は、5質量%未満であるのが好ましく、4質量%未満であるのがより好ましく、3質量%未満であるとさらに好ましい。なお、本発明のニオブ酸塩分散水溶液は、意図したものではなく、不可避不純物を含むことが想定される。不可避不純物の含有量は0.01質量%未満であるのが好ましい。
【0031】
また、本発明のニオブ酸塩膜は、前記ニオブ酸塩分散水溶液中のニオブ酸塩を含有することを特徴とする。
本発明のニオブ酸塩膜、すなわちニオブ酸塩成形膜は、上述したニオブ酸塩分散水溶液に含まれるニオブ酸塩を含有する。本発明のニオブ酸塩膜は、圧電膜として利用可能である。なお、本発明のニオブ酸塩膜の製造方法は、後述する。
【0032】
また、本発明のニオブ酸塩粉末は、前記ニオブ酸塩分散水溶液中のニオブ酸塩を含有することを特徴とする。
本発明のニオブ酸塩粉末は、上述したニオブ酸塩分散水溶液に含まれるニオブ酸塩を含有する。なお、本発明のニオブ酸塩粉末の製造方法は、後述する。
【0033】
また、本発明のニオブ酸塩成形体は、前記ニオブ酸塩分散水溶液中のニオブ酸塩を含有することを特徴とする。
本発明のニオブ酸塩成形体は、上述したニオブ酸塩分散水溶液に含まれるニオブ酸塩を含有する。本発明のニオブ酸塩成形体は、圧電材料として利用可能である。なお、本発明のニオブ酸塩成形体の製造方法は、後述する。
【0034】
上述した本発明のニオブ酸塩分散水溶液の製造方法について、以下説明する。
【0035】
本発明のニオブ酸塩分散水溶液の製造方法は、ニオブをNb2O5換算で0.1~40質量%含有し、動的光散乱法を用いた粒子径分布測定による粒子径(D50)が3,000nm以下であるニオブ酸溶液と、ナトリウムおよびまたはカリウムの水酸化物とを混合することを特徴とする。
【0036】
先ず、ニオブをNb2O5換算で0.1~40質量%含有し、動的光散乱法を用いた粒子径分布測定による粒子径(D50)が3,000nm以下であるニオブ酸溶液を生成する工程は、以下の通りである。なお、本明細書で言及するニオブは、特段の説明がない限り、ニオブ酸化合物を含むものである。
【0037】
フッ化水素酸を含む酸性溶液に、ニオブを溶解して、得られた溶解液を溶媒抽出することにより、フッ化物イオンを含有する酸性ニオブ溶液が得られる。ここで、フッ化物イオンを含有する酸性ニオブ溶液、例えばフッ化ニオブ水溶液は、水(例えば純水)を加えてニオブをNb2O5換算で1~100g/L含有するように調整すると好ましい。この際、ニオブ濃度がNb2O5換算で1g/L以上であると、水に溶けやすいニオブ酸化合物水和物となることから好ましく、生産性を考えた場合、10g/L以上がより好ましく、20g/L以上であるとさらに好ましい。他方、ニオブ濃度がNb2O5換算で100g/L以下であれば、水に溶けやすいニオブ酸化合物水和物になることから好ましく、より確実に水に溶けやすいニオブ酸化合物水和物を合成するには、90g/L以下であるとより好ましく、80g/L以下であるとさらに好ましく、70g/L以下であると特に好ましい。なお、フッ化ニオブ水溶液のpHは、ニオブ乃至ニオブ酸化物を完全溶解させる観点から、2以下であると好ましく、1以下であるとより好ましい。
【0038】
得られたフッ化物イオンを含有する酸性ニオブ溶液を所定濃度のアンモニア水中に添加、すなわち逆中和法により、ニオブを含有する沈殿スラリーが得られる(以下、逆中和工程という)。
【0039】
逆中和に用いるアンモニア水のアンモニア濃度は10質量%~30質量%であると好ましい。当該アンモニア濃度が10質量%であると、ニオブが溶け残りにくくなり、ニオブ乃至ニオブ酸を水に完全に溶解させることができる。他方、当該アンモニア濃度が30質量%以下であると、アンモニアの飽和水溶液付近であるから好ましい。
【0040】
かかる観点から、アンモニア水のアンモニア濃度は10質量%以上であると好ましく、15質量%以上であるとより好ましく、20質量%以上であるとさらに好ましく、25質量%であると特に好ましい。他方、当該アンモニア濃度は30質量%以下であると好ましく、29質量%以下であるとより好ましく、28質量%以下であるとさらに好ましい。
【0041】
逆中和工程の際、アンモニア水に添加するフッ化ニオブ水溶液の添加量は、NH3/Nb2O5のモル比が95以上500以下とするのが好ましく、100以上450以下とするのがより好ましく、110以上400以下とするのがさらに好ましい。また、アンモニア水に添加するフッ化ニオブ水溶液の添加量は、アミンや薄いアンモニア水に溶けるニオブ酸化合物が生成する観点から、NH3/HFのモル比が3.0以上とするのが好ましく、4.0以上とするとより好ましく、5.0以上とするとさらに好ましい。他方、コスト低減の観点から、NH3/HFのモル比が100以下とするのが好ましく、50以上とするとより好ましく、40以上とするとさらに好ましい。
【0042】
逆中和工程において、フッ化ニオブ水溶液のアンモニア水への添加に係る時間は、1分以内であると好ましく、30秒以内であるとより好ましく、10秒以内であるとさらに好ましい。すなわち、時間をかけて徐々にフッ化ニオブ水溶液を添加するのではなく、例えば一気に投入するなど、出来るだけ短い時間でアンモニア水へ投入し、中和反応させると好適である。また、逆中和工程では、アルカリ性のアンモニア水へ、酸性のフッ化ニオブ水溶液を添加することから、高いpHを保持したまま中和反応させることができる。なお、フッ化ニオブ水溶液及びアンモニア水は、常温のまま用いることができる。
【0043】
このように、逆中和法により得られたニオブを含有する沈殿スラリーには、不純物として、フッ化アンモニウムなどのフッ素化合物が存在するため、これらを除去することが好ましい。
【0044】
フッ素化合物の除去方法は任意であるが、例えばアンモニア水や純水を用いた逆浸透ろ過、限外ろ過、精密ろ過などの膜を用いたろ過による方法や、遠心分離、その他の公知の方法を採用することができる。なお、ニオブを含有する沈殿スラリーからフッ化物イオンを除去する際、温度調節は特に必要なく、常温で実施してもよい。
【0045】
具体的には、逆中和法により得られたニオブを含有する沈殿スラリーを、遠心分離機を用いてデカンテーションし、遊離したフッ化物イオン量が100mg/L以下になるまで洗浄を繰り返すことにより、フッ化物イオンが除去されたニオブ含有沈殿物が得らえる。
【0046】
フッ化物イオンの除去に用いられる洗浄液はアンモニア水であると好適である。具体的には、5.0質量%以下のアンモニア水が好ましく、4.0質量%以下のアンモニア水がより好ましく、3.0質量%以下のアンモニア水がさらに好ましく、2.5質量%のアンモニア水が特に好ましい。5.0質量%以下のアンモニア水であると、アンモニア、アンモニウムイオンがフッ素に対して適切であり不要なコストの増加を回避することができる。
【0047】
そして、得られたフッ化物イオンが除去されたニオブ含有沈殿物を純水などで希釈することにより、フッ化物イオンが除去された、ニオブを含有する沈殿スラリーが得られる。なお、当該ニオブを含有する沈殿スラリーのニオブ濃度は、当該スラリーの一部を採取し、110℃で24時間乾燥させた後、1,000℃で4時間焼成し、Nb2O5を生成する。このように生成したNb2O5の重量を測定し、その重量から当該スラリーのニオブ濃度を算出することができる。
【0048】
このようにして、得られたニオブを含有する沈殿スラリー、すなわちニオブをNb2O5換算で0.1~40質量%含有し、動的光散乱法を用いた粒子径分布測定による粒子径(D50)が3,000nm以下であるニオブ酸溶液と、ナトリウムおよびまたはカリウムの水酸化物とを混合することにより、本発明のニオブ酸塩分散水溶液が得られる。なお、当該ニオブ酸溶液と当該ナトリウムおよびまたはカリウムの水酸化物を混合するタイミングと同時に、またはその前後のタイミングで、アンモニア、又は有機窒素化合物を添加してもよい。アンモニア、又は有機窒素化合物は、揮発性が高く、除去しやすいため、ナトリウムおよびまたはカリウムの水酸化物に係るナトリウム元素や、カリウム元素との複合化を妨げることはない。さらに、当該ニオブ酸溶液に混合する当該ナトリウム、又はカリウムの水酸化物に代えて、当該ニオブ酸溶液とリチウムの水酸化物とを混合してもよく、当該ニオブ酸溶液に混合する当該ナトリウム、及びカリウムの水酸化物に加えて、当該ニオブ酸溶液とリチウムの水酸化物とを混合してもよい。
【0049】
具体的には、最終的な混合物のニオブがNb2O5換算で0.1~40質量%含有され、動的光散乱法を用いた粒子径分布測定による粒子径(D50)が3,000nm以下となるように、得られたニオブ酸溶液を、ナトリウムおよびまたはカリウムの水酸化物及び純水と混合することにより、半透明白色スラリーが得られる。当該半透明白色スラリーを撹拌しながら、液温を室温にし、1時間保持することにより、本発明の無色透明、又は白色懸濁のニオブ酸塩分散水溶液が得られる。
【0050】
また、本発明のニオブ酸塩膜、すなわちニオブ酸成膜体の製造方法について、以下説明する。
【0051】
本発明のニオブ酸塩膜の製造方法は、上述した本発明のニオブ酸塩分散水溶液の製造方法により得られるニオブ酸塩分散水溶液を塗布し、焼成し、ニオブ酸塩膜を生成する工程を有することを特徴とする。
【0052】
具体的には、上述した本発明のニオブ酸塩分散水溶液の製造方法により得られたニオブ酸塩分散水溶液を、必要に応じて、例えば10μm孔径のフィルタで濾過しながらシリンジを用いて基板上に滴下し、スピンコート(1,500rpm、30秒)により、塗布した。そして、本発明のニオブ酸塩分散水溶液が塗布された基板を、静置炉内に載置し、700℃以上に加熱し、1時間に亘って焼成することにより、本発明のニオブ酸塩膜が得られる。
【0053】
また、本発明のニオブ酸塩粉末の製造方法について、以下説明する。
【0054】
本発明のニオブ酸塩粉末の製造方法は、上述した本発明のニオブ酸塩分散水溶液の製造方法により得られるニオブ酸塩分散水溶液を乾燥し、焼成し、ニオブ酸塩粉末を生成する工程を有することを特徴とする。
【0055】
具体的には、上述した本発明のニオブ酸塩分散水溶液の製造方法により得られたニオブ酸塩分散水溶液を静置炉内に載置し、加熱温度約110℃で7時間大気乾燥することにより、本発明のニオブ酸塩分散水溶液中の水分を飛ばすことにより、本発明のニオブ酸塩分散水溶液に含まれるニオブ酸塩粒子を含有するニオブ酸塩粉末の中間生成物が得られる。
【0056】
そして、得られたニオブ酸塩粒子を含有するニオブ酸塩粉末の中間生成物を静置炉内に載置し、650℃以上に加熱し、1~3時間に亘って焼成することにより、本発明のニオブ酸塩粉末が得られる。加熱温度は、500℃以上2,000℃以下が好ましい。加熱温度が500℃以上2,000℃以下であると、ニオブ酸塩粒子の成長に十分な温度であり、且つ焼成コストを抑制することができ、また焼成により得られる焼成品が固い塊状になることがないため、粉砕の手間やコストの増加を回避することができるからである。さらに、加熱温度は、700℃以上1,500℃以下がより好ましく、900℃以上1,500℃以下がさらに好ましい。また、焼成時間は、0.5時間~72時間が好ましい。焼成時間が0.5時間~72時間であると、ニオブ酸塩粒子の成長に十分な時間であり、不要なコストを抑えることができるからである。さらに、焼成時間は、0.5時間~50時間がより好ましく、0.5時間~30時間がさらに好ましい。
【0057】
また、焼成品を粉砕したものを本発明のニオブ酸塩粉末として用いてもよい。また、粉砕されるか否かに拘らず、焼成品を篩などによって分級した得られた篩下(微粒側)をニオブ酸塩粉末として用いてもよい。篩上(粗粒側)は再度粉砕し、分級して用いてもよい。なお、ナイロン、またはフッ素樹脂によりコーティングした鉄球等が粉砕メディアとして投入された振動篩を使用して粉砕と分級とを兼ねることも可能である。このように分級と粉砕とを兼ねることにより、焙焼後大き過ぎるニオブ酸塩粒子が存在しても除去が可能である。具体的には、篩を用いて分級する場合、目開きが150μm~1,000μmのものを用いると好ましい。150μm~1,000μmであると、篩上の割合が多くなりすぎることがなく再粉砕を繰り返すことがなく、また篩下に再粉砕が必要なニオブ酸塩粉末が分級されることがない。
【0058】
また、本発明のニオブ酸塩成形体の製造方法について、以下説明する。
【0059】
本発明のニオブ酸塩成形体の製造方法は、ニオブ酸塩分散水溶液を乾燥し、得られた乾燥粉を金型に充填し、加圧成形、および焼成する工程を有することを特徴とする。
【0060】
具体的には、上述した本発明のニオブ酸塩分散水溶液の製造方法により得られたニオブ酸塩分散水溶液を、例えば0.1気圧の減圧下において60℃で7時間乾燥し、真空乾燥粉を得る。その後、得らえた真空乾燥粉を金型に充填する。そして、本発明のニオブ酸塩の真空乾燥粉が充填された金型を、静置炉内に載置し、500℃~1,500℃、例えば700℃以上に加熱し、1時間~100時間、例えば6時間に亘って加圧成形することにより、本発明のニオブ酸塩成形体が得られる。
【0061】
なお、本発明のニオブ酸塩分散水溶液は、適宜用途に合わせて、分散剤、pH調整剤、着色剤、増粘剤、湿潤剤、バインダー樹脂等を添加してもよい。
【発明の効果】
【0062】
本発明のニオブ酸塩分散水溶液は、水への分散性が高く、水に対する溶解性も良好であり、且つ高純度である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0063】
以下、本発明に係る実施形態のニオブ酸塩分散水溶液について、以下の実施例によりさらに説明する。但し、以下の実施例は、本発明を限定するものではない。
【0064】
(実施例1)
五酸化ニオブ100gを55%フッ化水素酸水溶液200gに溶解させ、イオン交換水を830mL添加することによって、ニオブをNb2O5換算で100g/L含有する(Nb2O5=8.84質量%)フッ化ニオブ水溶液を得た。このフッ化ニオブ水溶液200mLを、アンモニア水(NH3濃度25質量%)1Lに、1分間未満の時間で添加して(NH3/Nb2O5モル比=177.9、NH3/HFモル比=12.2)、反応液(pH11)を得た。この反応液はニオブ酸化合物水和物のスラリー、言い換えればニオブ含有沈殿物のスラリーであった。
【0065】
次に、この反応液を、遠心分離機を用いてデカンテーションし、遊離したフッ化物イオン量が100mg/L以下になるまで洗浄して、当該フッ化物イオンを除去したニオブ含有沈殿を得た。この際、洗浄液にはアンモニア水を用いた。
【0066】
さらに、当該フッ化物イオンを除去したニオブ含有沈殿を純水で希釈しスラリーを得た。このスラリーの一部を110℃で24時間乾燥後、1,000℃で4時間焼成することでNb2O5を生成し、その重量からスラリーに含まれるNb2O5濃度を算出した。また、得られたニオブ含有沈殿のスラリーの動的光散乱法を用いた粒子径分布測定による粒子径(D50)は、1nm未満であった。
【0067】
そして、純水で希釈したニオブ含有沈殿のスラリーを、最終的な混合物のニオブ濃度がNb2O5換算で5質量%、且つNb/K/Naのモル比が1:0.5:0.5となるように、水酸化カリウム一水和物及び水酸化ナトリウム一水和物と純水とを混合することにより、半透明色なスラリー混合物を得た。この混合物を撹拌しながら、液温を室温にし、1時間保持した後、実施例1に係る無色透明なニオブ酸塩分散水溶液を得た。
【0068】
得られた実施例1に係る無色透明なニオブ酸塩分散水溶液の動的光散乱法を用いた粒子径分布測定による粒子径(D50)は、13.2nmであった。また、実施例1に係るニオブ酸塩分散水溶液を真空乾燥(乾燥条件:加熱温度80℃、加熱時間7時間)して得られた乾燥粉の乾燥粉粒子径(D10)は11.97μm、乾燥粉粒子径(D50)は30.52μm、乾燥粉粒子径(D90)は94.44μmであった。さらに、実施例1に係る乾燥粉粒子径(D10)、乾燥粉粒子径(D50)、及び乾燥粉粒子径(D90)から算出された乾燥粉粒子径の比(D90-D10)/D50は2.7であった。
【0069】
(実施例2)
実施例2では、純水で希釈したニオブ含有沈殿のスラリーを、最終的な混合物のニオブ濃度がNb2O5換算で1質量%となるように、水酸化カリウム一水和物及び水酸化ナトリウム一水和物と純水とを混合したこと以外は、実施例1と同様な製造方法を実施し、実施例2に係る無色透明なニオブ酸塩分散水溶液を得た。
【0070】
得られた実施例2に係る無色透明なニオブ酸塩分散水溶液の動的光散乱法を用いた粒子径分布測定による粒子径(D50)は、14.5nmであった。また、実施例2に係るニオブ酸塩分散水溶液を真空乾燥(乾燥条件:加熱温度80℃、加熱時間7時間)して得られた乾燥粉の乾燥粉粒子径(D10)は16.39μm、乾燥粉粒子径(D50)は31.49μm、乾燥粉粒子径(D90)は94.44μmであった。さらに、実施例2に係る乾燥粉粒子径(D10)、乾燥粉粒子径(D50)、及び乾燥粉粒子径(D90)から算出された乾燥粉粒子径の比(D90-D10)/D50は1.7であった。
【0071】
(実施例3)
実施例3では、純水で希釈したニオブ含有沈殿のスラリーを、最終的な混合物のニオブ濃度がNb2O5換算で3質量%となるように、水酸化カリウム一水和物及び水酸化ナトリウム一水和物と純水とを混合したこと以外は、実施例1と同様な製造方法を実施し、実施例3に係る無色透明なニオブ酸塩分散水溶液を得た。
【0072】
得られた実施例3に係る無色透明なニオブ酸塩分散水溶液の動的光散乱法を用いた粒子径分布測定による粒子径(D50)は、16.5nmであった。また、実施例3に係るニオブ酸塩分散水溶液を真空乾燥(乾燥条件:加熱温度80℃、加熱時間7時間)して得られた乾燥粉の乾燥粉粒子径(D10)は14.89μm、乾燥粉粒子径(D50)は20.49μm、乾燥粉粒子径(D90)は67.10μmであった。さらに、実施例3に係る乾燥粉粒子径(D10)、乾燥粉粒子径(D50)、及び乾燥粉粒子径(D90)から算出された乾燥粉粒子径の比(D90-D10)/D50は2.5であった。
【0073】
(実施例4)
実施例4では、純水で希釈したニオブ含有沈殿のスラリーを、最終的な混合物のニオブ濃度がNb2O5換算で10質量%となるように、水酸化カリウム一水和物及び水酸化ナトリウム一水和物と純水とを混合したこと以外は、実施例1と同様な製造方法を実施し、実施例4に係る白色懸濁のニオブ酸塩分散水溶液を得た。
【0074】
得られた実施例4に係る白色懸濁のニオブ酸塩分散水溶液の動的光散乱法を用いた粒子径分布測定による粒子径(D50)は、2631.5nmであった。また、実施例4に係るニオブ酸塩分散水溶液を真空乾燥(乾燥条件:加熱温度80℃、加熱時間7時間)して得られた乾燥粉の乾燥粉粒子径(D10)は1.57μm、乾燥粉粒子径(D50)は20.85μm、乾燥粉粒子径(D90)は111.41μmであった。さらに、実施例4に係る乾燥粉粒子径(D10)、乾燥粉粒子径(D50)、及び乾燥粉粒子径(D90)から算出された乾燥粉粒子径の比(D90-D10)/D50は5.3であった。
【0075】
(実施例5)
実施例5では、純水で希釈したニオブ含有沈殿のスラリーを、最終的な混合物のニオブ濃度がNb2O5換算で30質量%となるように、水酸化カリウム一水和物及び水酸化ナトリウム一水和物と純水とを混合したこと以外は、実施例1と同様な製造方法を実施し、実施例5に係る白色懸濁のニオブ酸塩分散水溶液を得た。
【0076】
得られた実施例5に係る白色懸濁のニオブ酸塩分散水溶液の動的光散乱法を用いた粒子径分布測定による粒子径(D50)は、2434.2nmであった。また、実施例5に係るニオブ酸塩分散水溶液を真空乾燥(乾燥条件:加熱温度80℃、加熱時間7時間)して得られた乾燥粉の乾燥粉粒子径(D10)は1.50μm、乾燥粉粒子径(D50)は22.49μm、乾燥粉粒子径(D90)は94.68μmであった。さらに、実施例5に係る乾燥粉粒子径(D10)、乾燥粉粒子径(D50)、及び乾燥粉粒子径(D90)から算出された乾燥粉粒子径の比(D90-D10)/D50は4.1であった。
【0077】
(実施例6)
実施例6では、純水で希釈したニオブ含有沈殿のスラリーを、最終的な混合物のNb/K/Naのモル比が1:0.6:0.4となるように、水酸化カリウム一水和物及び水酸化ナトリウム一水和物と純水とを混合したこと以外は、実施例1と同様な製造方法を実施し、実施例6に係る白色懸濁のニオブ酸塩分散水溶液を得た。
【0078】
得られた実施例6に係る白色懸濁のニオブ酸塩分散水溶液の動的光散乱法を用いた粒子径分布測定による粒子径(D50)は、2463.2nmであった。また、実施例6に係るニオブ酸塩分散水溶液を真空乾燥(乾燥条件:加熱温度80℃、加熱時間7時間)して得られた乾燥粉の乾燥粉粒子径(D10)は1.35μm、乾燥粉粒子径(D50)は43.74μm、乾燥粉粒子径(D90)は143.22μmであった。さらに、実施例6に係る乾燥粉粒子径(D10)、乾燥粉粒子径(D50)、及び乾燥粉粒子径(D90)から算出された乾燥粉粒子径の比(D90-D10)/D50は3.0であった。
【0079】
(実施例7)
実施例7では、純水で希釈したニオブ含有沈殿のスラリーを、最終的な混合物のNb/K/Naのモル比が1:1:0となるように、水酸化カリウム一水和物と純水とを混合したこと以外は、実施例1と同様な製造方法を実施し、実施例7に係る白色懸濁のニオブ酸塩分散水溶液を得た。
【0080】
得られた実施例7に係る白色懸濁のニオブ酸塩分散水溶液の動的光散乱法を用いた粒子径分布測定による粒子径(D50)は、2557.3nmであった。また、実施例7に係るニオブ酸塩分散水溶液を真空乾燥(乾燥条件:加熱温度80℃、加熱時間7時間)して得られた乾燥粉の乾燥粉粒子径(D10)は5.50μm、乾燥粉粒子径(D50)は37.91μm、乾燥粉粒子径(D90)は112.23μmであった。さらに、実施例7に係る乾燥粉粒子径(D10)、乾燥粉粒子径(D50)、及び乾燥粉粒子径(D90)から算出された乾燥粉粒子径の比(D90-D10)/D50は2.8であった。
【0081】
(実施例8)
実施例8は、純水で希釈したニオブ含有沈殿のスラリーを、最終的な混合物のNb/K/Naのモル比が1:0:1となるように、水酸化ナトリウム一水和物と純水とを混合したこと以外は、実施例1と同様な製造方法を実施し、実施例8に係る白色懸濁のニオブ酸塩分散水溶液を得た。
【0082】
得られた実施例8に係る白色懸濁のニオブ酸塩分散水溶液の動的光散乱法を用いた粒子径分布測定による粒子径(D50)は、2469.4nmであった。また、実施例8に係るニオブ酸塩分散水溶液を真空乾燥(乾燥条件:加熱温度80℃、加熱時間7時間)して得られた乾燥粉の乾燥粉粒子径(D10)は6.50μm、乾燥粉粒子径(D50)は39.44μm、乾燥粉粒子径(D90)は100.48μmであった。さらに、実施例8に係る乾燥粉粒子径(D10)、乾燥粉粒子径(D50)、及び乾燥粉粒子径(D90)から算出された乾燥粉粒子径の比(D90-D10)/D50は2.4であった。
【0083】
(実施例9)
実施例9は、純水で希釈したニオブ含有沈殿のスラリーを、最終的な混合物のNb/K/Naのモル比が1:0.5:0.14となるように、水酸化カリウム一水和物及び水酸化ナトリウム一水和物と純水とを混合したこと以外は、実施例1と同様な製造方法を実施し、実施例9に係る白色懸濁のニオブ酸塩分散水溶液を得た。
【0084】
得られた実施例9に係る白色懸濁のニオブ酸塩分散水溶液の動的光散乱法を用いた粒子径分布測定による粒子径(D50)は、2884.3nmであった。また、実施例9に係るニオブ酸塩分散水溶液を真空乾燥(乾燥条件:加熱温度80℃、加熱時間7時間)して得られた乾燥粉の乾燥粉粒子径(D10)は1.25μm、乾燥粉粒子径(D50)は34.56μm、乾燥粉粒子径(D90)は116.41μmであった。さらに、実施例9に係る乾燥粉粒子径(D10)、乾燥粉粒子径(D50)、及び乾燥粉粒子径(D90)から算出された乾燥粉粒子径の比(D90-D10)/D50は3.3であった。
【0085】
(実施例10)
実施例10は、純水で希釈したニオブ含有沈殿のスラリーを、最終的な混合物のNb/Liのモル比が1:1となるように、水酸化リチウム一水和物と純水とを混合したこと以外は、実施例1と同様な製造方法を実施し、実施例10に係る白色懸濁のニオブ酸塩分散水溶液を得た。
【0086】
得られた実施例10に係る白色懸濁のニオブ酸塩分散水溶液の動的光散乱法を用いた粒子径分布測定による粒子径(D50)は、2843.4nmであった。また、実施例10に係るニオブ酸塩分散水溶液を真空乾燥(乾燥条件:加熱温度80℃、加熱時間7時間)して得られた乾燥粉の乾燥粉粒子径(D10)は5.54μm、乾燥粉粒子径(D50)は38.26μm、乾燥粉粒子径(D90)は167.16μmであった。さらに、実施例10に係る乾燥粉粒子径(D10)、乾燥粉粒子径(D50)、及び乾燥粉粒子径(D90)から算出された乾燥粉粒子径の比(D90-D10)/D50は4.2であった。
【0087】
(実施例11)
純水で希釈したニオブ含有沈殿のスラリーを、最終的な混合物のNb/Na/Liのモル比が1:0.5:0.5となるように、水酸化ナトリウム一水和物及び水酸化リチウム一水和物と純水とを混合したこと以外は、実施例1と同様な製造方法を実施し、実施例11に係る白色懸濁のニオブ酸塩分散水溶液を得た。
【0088】
得られた実施例11に係る白色懸濁のニオブ酸塩分散水溶液の動的光散乱法を用いた粒子径分布測定による粒子径(D50)は、2185.6nmであった。また、実施例11に係るニオブ酸塩分散水溶液を真空乾燥(乾燥条件:加熱温度80℃、加熱時間7時間)して得られた乾燥粉の乾燥粉粒子径(D10)は5.53μm、乾燥粉粒子径(D50)は36.11μm、乾燥粉粒子径(D90)は166.22μmであった。さらに、実施例11に係る乾燥粉粒子径(D10)、乾燥粉粒子径(D50)、及び乾燥粉粒子径(D90)から算出された乾燥粉粒子径の比(D90-D10)/D50は4.5であった。
【0089】
(比較例1)
比較例1は、酸化ニオブ粉末、炭酸カリウム粉末、及び炭酸ナトリウムを、最終的な混合物のニオブ濃度がNb2O5換算で5質量%、且つNb/K/Naのモル比が1:0.5:0.5となるように秤量し、ボールミル混合粉砕し、得られた混合粉末を大気雰囲気下で焼成することにより、比較例1に係る炭酸塩混合粉末を得た。
【0090】
具体的には、酸化ニオブ粉末、炭酸カリウム粉末、及び炭酸ナトリウムを最終的な混合物のニオブ濃度がNb2O5換算で5質量%、且つNb/K/Naのモル比が1:0.5:0.5となるように秤量し、混合した混合物を、ボールミルにより30分間混合した。ここで、ボールミルのステンレスメディアは、直径が5mm程度のものを使用し、篩分けを行い、篩下粉末を回収し、比較例1に係る炭酸塩混合粉末を得た。
【0091】
得られた比較例1に係る白色懸濁の炭酸塩混合粉末の動的光散乱法を用いた粒子径分布測定による粒子径(D50)は、溶液ではないため、測定不可であった。また、比較例1に係る炭酸塩混合粉末の乾燥粉粒子径(D10)は0.39μm、乾燥粉粒子径(D50)は13.29μm、乾燥粉粒子径(D90)は84.00μmであった。
【0092】
そして、実施例1~11に係るニオブ酸塩分散水溶液、又は比較例1に係る炭酸塩混合粉末について、次のような物性を測定した。以下、測定した物性値、及びその物性値の測定方法を示すとともに、測定結果を表1に示す。
【0093】
〈元素分析〉
必要に応じて試料を希塩酸で適度に希釈し、ICP発光分析(アジレント・テクノロジー社製:AG-5110)により、Nb2O5換算のNb重量分率に加え、K重量分率、Na重量分率、及びLi重量分率を測定した。
【0094】
〈動的光散乱法〉
実施例1~11に係るニオブ酸塩分散水溶液における粒度分布の評価は、ゼータ電位・粒径・分子量測定システム(大塚電子株式会社製:ELSZ-2000ZS)を用いて、JIS Z 8828:2019に準じた動的光散乱法により行った。また、10μm
孔径のフィルタで濾過し、前述の超音波を用いた分散処理を行った。ここで、比較例1に係る炭酸塩混合粉末は、溶媒に溶解しないため、測定不可であった。なお、粒子径(D50)は、積算分布曲線の50%積算値を示す粒子径であるメディアン径(D50)をいう。
【0095】
〈動的光散乱法(乾燥粉)〉
実施例1~11に係るニオブ酸塩分散水溶液、又は比較例1に係る炭酸塩混合粉末から得られた乾燥粉の粒度分布の評価は、レーザ回折・散乱法粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製:MT3300EXII)を用いて、JIS Z 8828:2019に準じた動的光散乱法により行った。また、フィルタリングは行なわず、前述の超音波を用いた分散処理を行った。なお、乾燥粉粒子径(D10)、乾燥粉粒子径(D50)、及び乾燥粉粒子径(D90)は体積分率にしてそれぞれ10%、50%、及び90%に至る乾燥粉の粒子径を示す。
【0096】
〈アンモニア定量分析〉
水酸化ナトリウム溶液(30g/100ml)25mlを試料溶液1~5mlに加え、この混合液を沸騰させて蒸留し、その蒸留液(約200ml)を純水20mlと硫酸0.5mlとを入れた容器に流出させることによりアンモニアを分離した。次に、分離したアンモニアを250mlのメスフラスコに転移し純水で250mlに定容した。さらに、250mlに定容した溶液を100mlのメスフラスコに10ml分取し、分取した溶液に、水酸化ナトリウム溶液(30g/100mL)1mlを加え、純水で100mlに定容した。このようにして得られた溶液をイオンメータ(本体:HORITA F-53、電極:HORIBA 500 2A)を用いて定量分析することにより、溶液中に含まれるアンモニウムイオン濃度(質量%)を測定した。
【0097】
〈成膜性試験〉
集電板の代替品であるガラス基板の表面に形成した塗膜の外観評価を光学顕微鏡で観察することによって行った。実施例1~11、又は比較例1に係るニオブ酸塩分散水溶液を、シリンジを用いて15mm×15mmのガラス基板に滴下し、スピンコート(1,500rpm、30秒)により、塗布した。そして、塗布した箇所を、高圧エアーにより風乾することにより、ガラス基板上に塗膜を形成した。形成した塗膜を光学顕微鏡(倍率:100倍)で観察し、評価基準「A」、「B」、又は「C」で評価した。評価基準「A」は、塗膜中に粗粒子が存在せず、気泡、塗工ムラ、ひび割れが全て存在していないものを示す。評価基準「B」は、塗膜中に粗粒子が存在しないが、気泡、塗工ムラ、ひび割れが少なくとも1つ存在するものを示す。評価基準「C」は、塗膜中に粗粒子が存在し、気泡、塗工ムラ、ひび割れが少なくとも1つ存在するものを示す。
【0098】
〈透過率測定〉
実施例1~11に係るニオブ酸塩分散水溶液をガラス基板上に塗布し、焼成して生成した実施例1~11に係るニオブ酸塩膜(サンプル)、又は比較例1に係る炭酸塩混合粉末をアクリル樹脂に練り込み、ガラス基板上に塗布し、焼成して生成した比較例1に係る炭酸塩膜(サンプル)の透過率を分光光度計にて測定した。
【0099】
=透過率測定条件=
・装置:UH4150形分光光度計
・測定モード:波長スキャン
・データモード:%T(透過)
・測定波長範囲:200~2600nm
・スキャンスピード:600nm/min
・サンプリング間隔:2nm
【0100】
透過率測定条件に基づいて、測定して得られた透過率から、波長500nmにおける透過率を算出した。
【0101】
【0102】
表1に示す通り、実施例1~11に係るニオブ酸塩分散水溶液は、当該水溶液中のニオブ濃度が0.1~40質量%であると、水への分散性が高く、水に対する溶解性も優れるものであった。
【0103】
実施例1~11に係るニオブ酸塩分散水溶液は、当該水溶液中の動的光散乱法によるニオブ酸塩の粒子径(D50)が3,000nm以下であると、水への分散性が高く、水に対する溶解性も優れるものであった。
【0104】
実施例1~11に係るニオブ酸塩分散水溶液は、当該水溶液から得られた乾燥粉の動的光散乱法によるニオブ酸塩の乾燥粉粒子径(D10)が1μm以上であると、水への分散性が高く、水に対する溶解性も優れるものであった。また、実施例1~11に係るニオブ酸塩分散水溶液は、当該水溶液から得られた乾燥粉の動的光散乱法によるニオブ酸塩の乾燥粉粒子径(D50)が20μm以上であると、水への分散性が高く、水に対する溶解性も優れるものであった。さらに、実施例1~11に係るニオブ酸塩分散水溶液は、当該水溶液から得られた乾燥粉の動的光散乱法によるニオブ酸塩の乾燥粉粒子径(D90)が60μm以上であると、水への分散性が高く、水に対する溶解性も優れるものであった。
【0105】
実施例1~11に係るニオブ酸塩分散水溶液は、当該水溶液から得られた乾燥粉の動的光散乱法によるニオブ酸塩の乾燥粉粒子径の比(D90-D10)/D50が0以上6以下であると、当該乾燥粉の粒度分布が狭いことを示し、水への分散性が高く、水に対する溶解性も優れるものであった。
【0106】
実施例1~11に係るニオブ酸塩分散水溶液は、「A」、または「B」の評価であることから、成膜性に優れるものであった。
【0107】
実施例1~11に係るニオブ酸塩分散水溶液は、透過率が80%以上であることから、優れた透過率を有するものであった。
【0108】
本明細書開示の発明は、各発明や実施形態の構成の他に、適用可能な範囲で、これらの部分的な構成を本明細書開示の他の構成に変更して特定したもの、或いはこれらの構成に本明細書開示の他の構成を付加して特定したもの、或いはこれらの部分的な構成を部分的な作用効果が得られる限度で削除して特定した上位概念化したものを含む。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明に係るニオブ酸塩分散水溶液は、水への分散性が高く、水に対する溶解性も良好であり、成膜性も優れていることから、成膜体や成形体を形成するものとして、また圧電素子や圧電薄膜の用途として好適である。本発明に係るニオブ酸塩分散水溶液は、従来ニオブ酸塩は高温での焼成を経て製造されていたのに対し、水溶液混合による低温(低エネルギー)での製造が可能であり、また物として安定であることから、天然資源の持続可能な管理、効率的な利用、及び脱炭素(カーボンニュートラル)化を達成することにつながる。