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特許7508778N-ビニルカルボン酸アミド重合体溶液の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】N-ビニルカルボン酸アミド重合体溶液の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 126/02 20060101AFI20240625BHJP
   C07C 231/24 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
C08F126/02
C07C231/24
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019236791
(22)【出願日】2019-12-26
(65)【公開番号】P2021105111
(43)【公開日】2021-07-26
【審査請求日】2022-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菅原 篤
(72)【発明者】
【氏名】田中 直行
(72)【発明者】
【氏名】小西 淳
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-043374(JP,A)
【文献】特開2014-201453(JP,A)
【文献】特表2020-523352(JP,A)
【文献】国際公開第2017/119371(WO,A1)
【文献】特開平08-143626(JP,A)
【文献】国際公開第2010/079774(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 126/02
C07C 231/24
C07C 233/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応溶媒および副生物を含み、前記反応溶媒および前記副生物を1000~100000質量ppmの量で含む粗N-ビニルカルボン酸アミド単量体を、重合溶媒に、粗N-ビニルカルボン酸アミド単量体および重合溶媒の合計量に対して、重合溶媒が5~99質量%の量で用いて溶解させた溶液を、
55℃以下の溶液温度で、30分から15時間、溶液内に気泡を導入するバブリング処理および、溶液が装入された容器の気相部を気体交換する気相移送処理による気体交換処理により、
前記反応溶媒および前記副生物を、1質量ppm以下まで除去する、粗N-ビニルカルボン酸アミド単量体の精製方法。
【請求項2】
前記N-ビニルカルボン酸アミド単量体が、N-ビニルアセトアミド単量体であることを特徴とする、請求項1に記載の粗N-ビニルカルボン酸アミド単量体の精製方法。
【請求項3】
前記重合溶媒が、水、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコールから選ばれるアルコール類、アセトン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミドから選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする請求項1に記載の粗N-ビニルカルボン酸アミド単量体の精製方法。
【請求項4】
粗N-ビニルカルボン酸アミド単量体は、N-ビニルカルボン酸アミド単量体の反応回収物から、N-ビニルカルボン酸アミド単量体を晶析させたのち、濾過後、洗浄液で洗浄して回収した、N-ビニルカルボン酸アミドを50~97質量%の量で含む湿晶であることを特徴とする請求項1に記載の粗N-ビニルカルボン酸アミド単量体の精製方法。
【請求項5】
前記洗浄液がメチルシクロヘキサン、トルエン、ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、ジエチルエーテル、ジクロロメタン、メチルエチルケトン、およびカルボン酸アルキルエステル(エステルを構成するアルキルは、炭素数1~3の炭化水素を含む)から選ばれる少なくとも1種である、請求項に記載の粗N-ビニルカルボン酸アミド単量体の精製方法。
【請求項6】
前記反応溶媒および前記副生物が、炭素数5以下のアルコール、カルボン酸アミド、N-(1-アルコキシエチル)カルボン酸アミド、エチリデンビスカルボン酸アミド、メチルシクロヘキサン、トルエン、ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、ジエチルエーテル、ジクロロメタン、メチルエチルケトン、カルボン酸アルキルエステル(エステルを構成するアルキルは、炭素数1~3の炭化水素を含む)から選ばれる少なくとも一つである、請求項1~のいずれか1項に記載の粗N-ビニルカルボン酸アミド単量体の精製方法。
【請求項7】
請求項1~のいずれか1項で精製された粗N-ビニルカルボン酸アミドの重合を、重合溶媒中で行うことを特徴とするN-ビニルカルボン酸アミド重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、N-ビニルカルボン酸アミド重合体溶液の製造方法に関する。さらに詳しくは、粗N-ビニルカルボン酸アミド単量体中に含まれる有機溶媒などの不純物を、熱履歴をかけることなく重合に影響ないレベルまで簡単に除去でき、透明なN-ビニルカルボン酸アミド重合体を含む溶液を得ることが可能な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
N-ビニルカルボン酸アミド単量体から誘導されるN-ビニルカルボン酸アミド重合体は水溶性高分子であり、水だけでなく、アルコールやジメチルスルホキシド(DMSO)といった極性溶媒にも溶解する。そして、非イオン性ポリマーであるため塩やpHの影響を受けず、また耐光性・耐候性が高く、特に熱に対する安定性が高いという特性を有する。これら特性を活かし、工業的には、バインダーや分散剤、粘・接着剤、増粘剤、凝集剤などに応用されている。
【0003】
N-ビニルカルボン酸アミド単量体は、カルボン酸アミド、アセトアルデヒド、アルコールを原料として中間体となるN-(1-アルコキシエチル)カルボン酸アミドを製造し、その後、熱分解または接触分解により合成する方法などで製造されている。こうして製造されたN-ビニルカルボン酸アミド単量体は、各種晶析方法により、反応液より分離され、乾燥されて回収され、目的に応じて、重合されて使用されている。
【0004】
たとえば、特許文献1には、(A)N-ビニルカルボン酸アミド単量体を50~97質量%の量で含む粗N-ビニルカルボン酸アミド単量体を、炭素数1~3のアルコールに溶解する工程と、(B)上記工程(A)で得られた組成物に炭素数5~10の脂肪族炭化水素を加えて、N-ビニルカルボン酸アミド単量体の結晶を析出する工程と、(C)上記工程(B)で析出したN-ビニルカルボン酸アミド単量体の結晶を分離する工程とを含む高純度N-ビニルカルボン酸アミドの製造方法が開示されている。
【0005】
特許文献2には、N-ビニルカルボン酸アミド単量体を構成単位とするポリマーを、アルカリの存在下に変性してビニルアミンを構成単位とするポリマーを製造する方法が開示されている。特許文献2では、変性反応を水の含有量が20質量%以下の溶媒中で行い、次いで析出した副生塩を分離することが開示されている。
N-ビニルカルボン酸アミド重合体は、前記単量体を、飽和溶解濃度以下の無機塩の存在下に重合する水溶液重合法などが知られており、N-ビニルカルボン酸アミド重合体を含む溶液として製造されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5126764号公報
【文献】特許第4748844号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
N-ビニルカルボン酸アミド単量体の製造工程には従来、反応に伴い生成した単量体中に含有される有機溶媒や副生物等の不純物を除去する乾燥工程が必要とされてきた。
乾燥工程における熱履歴により、N-ビニルカルボン酸アミド単量体の重合性や、重合体溶液自体の着色・透明性の低下や耐光性・耐候性など特性の低下等の懸念が存在していた。また前記不純物を少量でも含むN-ビニルカルボン酸アミド単量体を用い重合体の製造を行った場合、重合体溶液が濁り、重合体の透明性が低くなる。しかしながら、重合後に前記のような不純物を除去して透明性の高い重合体を得ることは困難であるとされていた。
【0008】
また、前記製造方法では、N-ビニルカルボン酸アミド単量体は製造の際に、溶媒を多量に用いられており、溶媒除去のための乾燥設備に関して、流動乾燥機やベルト式乾燥機、大型真空乾燥器などを設置することが必要となり、その費用も莫大となるケースが多い。さらに、装置自体が大きくなるため大型反応設備の建設が必要となるため、コストダウンが可能な製造方法の提供が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような状況のもと、本発明者らは前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、粗N-ビニルカルボン酸アミド単量体を重合溶媒に溶解した溶液中で窒素ガスなどの不活性ガスなどで気体交換することにより、熱履歴の影響を受けずに不純物残量を減らすことおよび透明なN-ビニルカルボン酸アミド重合体を含む溶液を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明の構成は以下の通りである。
[1]反応溶媒および副生物を含む粗N-ビニルカルボン酸アミド単量体を、重合溶媒に溶解させ、溶液を気体交換処理により、反応溶媒および副生物を除去したのち、重合溶媒液中で、N-ビニルカルボン酸アミド単量体の重合を行うことを特徴とするN-ビニルカルボン酸アミド重合体溶液の製造方法。
[2]前記重合溶媒が、水、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコールから選ばれるアルコール類、アセトン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミドであることを特徴とする[1]のN-ビニルカルボン酸アミド重合体溶液の製造方法。
[3]反応溶媒および副生物を含む粗N-ビニルカルボン酸アミド単量体を、重合溶媒に溶解させた溶液を、気体交換処理により、反応溶媒および副生物を除去する工程を有するN-ビニルカルボン酸アミド単量体の製造方法。
[4]前記N-ビニルカルボン酸アミド単量体が、N-ビニルアセトアミド単量体であることを特徴とする、[3]に記載のN-ビニルカルボン酸アミド単量体の製造方法。
[5]粗N-ビニルカルボン酸アミド単量体中の反応溶媒および副生物の合計濃度が500000質量ppm以下である、[3]または[4]に記載のN-ビニルカルボン酸アミド単量体の製造方法。
[6]前記気体交換処理の溶液温度が55℃以下であることを特徴とする、[3]~[5]に記載のN-ビニルカルボン酸アミド単量体の製造方法。
[7]前記気体交換処理が、溶液内に気泡を導入するバブリング処理であるか、あるいは、溶液が装入された容器の気相部を気体交換する気相移送処理であることを特徴とする[3]~[6]に記載のN-ビニルカルボン酸アミド単量体の製造方法。
[8]前記重合溶媒が、水、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコールから選ばれるアルコール類、アセトン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミドであることを特徴とする[3]に記載のN-ビニルカルボン酸アミド単量体の製造方法。
[9]粗N-ビニルカルボン酸アミド単量体は、N-ビニルカルボン酸アミド単量体の反応回収物から、N-ビニルカルボン酸アミド単量体を晶析させたのち、濾過後、洗浄液で洗浄して回収した、N-ビニルカルボン酸アミドを50~97質量%の量で含む湿晶であることを特徴とする[3]に記載のN-ビニルカルボン酸アミド単量体の製造方法。
[10]前記洗浄液がメチルシクロヘキサン、トルエン、ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、ジエチルエーテル、ジクロロメタン、メチルエチルケトン、カルボン酸アルキルエステル(エステルを構成するアルキルは、炭素数1~3の炭化水素を含む)である、[9]に記載のN-ビニルカルボン酸アミド単量体の製造方法。
[11][3]~[10]に記載の方法で製造されるN-ビニルカルボン酸アミド単量体。
[12][11]に記載のN-ビニルカルボン酸アミド単量体を重合してなるN-ビニルカルボン酸アミド重合体。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、乾燥が不要となるので、熱履歴の影響を受けずに、単量体中の不純物残量を減らすことが可能となり、透明なN-ビニルカルボン酸アミド重合体を含む溶液を得ることができる。
また不純物残量を減らす処理を行った処理液を、重合工程に組み入れることで、大きな設備を設けることなく、生産効率の高い、安定した品質のN-ビニルカルボン酸アミド重合体溶液を得られる。
本発明のN-ビニルカルボン酸アミド重合体では、熱履歴をかけることなく単量体中の不純物が除去された単量体を重合している。このため、光学用途においてN-ビニルカルボン酸アミド重合体に求められる高度な透明性を達成できる。なお、重合後に不純物を除去しても透明な重合体を得ることは困難である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のN-ビニルカルボン酸アミド重合体溶液の製造方法では、反応溶媒および副生物を含む粗N-ビニルカルボン酸アミド単量体を、重合溶媒に溶解させ、溶液を気体交換処理により、反応溶媒および副生物を除去したのち、重合溶媒液中で、N-ビニルカルボン酸アミド単量体の重合を行う。
【0013】
[粗N-ビニルカルボン酸アミド単量体]
本明細書において、粗N-ビニルカルボン酸アミド単量体とは、不純物を含むN-ビニルカルボン酸アミド単量体成分を意味する。
なお、本発明に用いられるN-ビニルカルボン酸アミド単量体としては、例えば、N-ビニルアセトアミド、N-ビニル-N-メチルアセトアミド、N-ビニルホルムアミド、N-メチル-N-ビニルホルムアミドなどの単量体が挙げられる。これらのうちで、N-ビニルアセトアミド単量体が好ましい。
本発明では、粗N-ビニルカルボン酸アミド単量体として、N-ビニルカルボン酸アミド単量体を、50質量%以上、望ましくは50~97質量%、より望ましくは70~97質量%の量で含む湿晶が好ましく使用される。
【0014】
前記不純物としては、特に制限されないが、反応溶媒および副生物などが挙げられ、さらに反応溶媒には、回収処理で使用される溶媒や洗浄液なども含まれる。前記不純物としては、例えば、炭素数5以下のアルコール、カルボン酸アミド、N-(1-アルコキシエチル)カルボン酸アミド、エチリデンビスカルボン酸アミドなどや、貧溶媒や洗浄液などが挙げられ、メチルシクロヘキサン、トルエン、ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、ジエチルエーテル、ジクロロメタン、メチルエチルケトン、カルボン酸アルキルエステル(エステルを構成するアルキルは、炭素数1~3の炭化水素を含む)などである。副生物は、反応によって生じるアルコール類などである。
【0015】
粗N-ビニルカルボン酸アミド単量体中のこれら不純物の合計濃度が500000質量ppm以下であることが好ましく、1000~100000質量ppmの範囲にあることがより好ましく、5000~50000質量ppmの範囲にあることがさらに好ましい。
前記粗N-ビニルカルボン酸アミド単量体は、いずれの製造方法によって得たものでもよい。例えば、カルボン酸アミド、アセトアルデヒドおよびアルコールからN-(1-アルコキシエチル)カルボン酸アミドを合成し、これを熱分解または接触分解して得たものであってもよい(特開昭50-76015号公報参照)。また、カルボン酸アミドとアセトアルデヒドとからエチリデンビスカルボン酸アミドを合成し、これを熱分解して得たものであってもよい(特開昭61-106546号公報参照)。反応後、N-ビニルカルボン酸アミド単量体成分を、蒸留したり、晶析させて回収したものを、本発明で使用される粗N-ビニルカルボン酸アミド単量体とすることができる。
【0016】
特に本発明では、粗N-ビニルカルボン酸アミド単量体は、N-ビニルカルボン酸アミド単量体の反応回収物から、N-ビニルカルボン酸アミド単量体を晶析させたのち、濾過後、洗浄液で洗浄して回収した湿晶が好ましい。
晶析は、冷却して晶析させる冷却晶析であってよく、また再結晶溶媒を用いて、N-ビニルカルボン酸アミド単量体成分を溶解させたのち再結晶を晶析させる溶媒晶析であってもよい。
【0017】
また、晶析には、晶析装置を用いた晶析法を採用でき、たとえば、回分式、連続式のどちらでも良く、装置の構造様式に厳密な条件はない。晶析装置としては、回分式晶析装置、D.T.B.型晶析装置、Krystal-Oslo型晶析装置、M.W.B.型晶析装置、B.M.C.型晶析装置、圧力晶析装置などが挙げられる。
再結晶を行う場合に用いる溶媒としては、トルエン,キシレンなどの芳香族炭化水素;ヘキサン、シクロヘキサン、ペンタン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素;メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブタノール、イソブタノールなどのアルコール類;塩化メチレン、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピルなどのエステル類;ジエチルエーテルなどのエーテル類などが挙げられる。特に粗N-ビニルカルボン酸アミド単量体を溶解させる炭素数1~3のアルコールと、晶析させるための貧溶媒とを組み合わせて使用することが好ましい。
【0018】
炭素数1~3のアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、iso-プロピルアルコールが挙げられる。これらのアルコールは単独で用いても、2種以上混合して用いてもよい。これらのうちで、メタノールが好ましい。また、N-(1-アルコキシエチル)カルボン酸アミドを経由して合成された粗N-ビニルカルボン酸アミド単量体の場合には、副生するアルコールと同一種類のアルコールを用いることが、プロセスを簡略化できるため好ましい。
【0019】
前記アルコールの量は、N-ビニルカルボン酸アミド単量体を溶解しうる最少量とすることが効率の点から好ましい。したがって、不純物も含めた粗N-ビニルカルボン酸アミド単量体1質量部に対して、前記アルコールの量は、好ましくは0.01~2質量部、より好ましくは0.1~1質量部であることが望ましい。
本発明では、貧溶媒がメチルシクロヘキサン、トルエン、ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、ジエチルエーテル、ジクロロメタンなどが、操作温度、および分離する際の粘性などを考慮すると好ましい。
【0020】
前記貧溶媒は、前記アルコール1質量部に対して、好ましくは1~50質量部、より好ましくは2~30質量部の量で用いることが望ましい。前記貧溶媒の量が前記範囲にあると、N-ビニルカルボン酸アミド単量体が効率よく析出し、析出効率を高くすることができる。
【0021】
晶析させたN-ビニルカルボン酸アミド単量体を含む結晶は、濾過や遠心分離などの方法で回収される。また、不純物残量を減らす目的で、洗浄を行ってもよく、洗浄液には、結晶が溶解しないような溶媒などが使用され、たとえば、前記した貧溶媒で例示された溶媒なども使用でき、メチルシクロヘキサン、トルエン、ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、ジエチルエーテル、ジクロロメタン、メチルエチルケトン、カルボン酸アルキルエステル(エステルを構成するアルキルは、炭素数1~3の炭化水素を含む)が好ましい。
【0022】
前記粗N-ビニルカルボン酸アミド単量体は必要に応じて、蒸留、抽出などの操作によって、N-ビニルカルボン酸アミド単量体の含有量を多くした後、本発明の気体交換処理に用いてもよい。この操作によって、粗N-ビニルカルボン酸アミド単量体中の不純物を予め除去することもできる。これらの精製操作を行った後に、次の気体交換処理を行うことは、純度、重合性の観点からも望ましい。
【0023】
[気体交換処理]
次に、粗N-ビニルカルボン酸アミド単量体を重合溶媒に溶解させたのち、気体交換処理により、反応溶媒および副生物を除去する。この処理方法を適用すれば、本発明に係るN-ビニルカルボン酸アミド単量体の製造方法も提供できる。
すなわち、本発明に係るN-ビニルカルボン酸アミド単量体の製造方法は、反応溶媒および副生物を含む粗N-ビニルカルボン酸アミド単量体を、重合溶媒に溶解させた溶液を、気体交換処理により、反応溶媒および副生物を除去する工程を有する。
重合溶媒としては水や水と相溶性のある有機溶媒であれば特に限定されず、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコールなどのアルコール類、アセトン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミドなどが使用できるが、好ましくは水である。
重合溶媒は、粗N-ビニルカルボン酸アミド単量体および重合溶媒の全量に対して、好ましくは5~99質量%、より好ましくは50~97質量%、更に好ましくは80~95質量%の量で用いることが望ましい。前記範囲に水の量があると、N-ビニルカルボン酸アミド単量体が加水分解することなく、充分に回収できるので望ましい。
【0024】
気体交換処理としては、前記溶液中に、気体を導入すればよく、その手法として、バブリング、撹拌、気相交換置換等を好適に用いることができる。たとえば、溶液内に気泡を導入するバブリング処理や、溶液が装入された容器の気相部を気体交換する気相移送処理が挙げられる。また、効率の点からバブリングと撹拌の組み合わせてもよい。
気体交換処理に用いるガスは不活性ガスであることが好ましく、より好ましくは窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス、ネオンガス、アルゴンガス、クリプトンガス、キセノンガスから選ばれる少なくとも一つである。不活性ガスであれば、N-ビニルカルボン酸アミド単量体と反応することがなく好ましい。
【0025】
気体交換処理を行うと、同じ熱履歴を受けても単量体の劣化を起こし難くなる。
気体交換処理の温度は、溶液温度が好ましくは55℃以下であり、より好ましくは45℃以下であり、更に好ましくは30℃以下であることが望ましい。前記温度以下にあれば、N-ビニルカルボン酸アミド単量体に熱が加わることがなく、N-ビニルカルボン酸アミド単量体の変性が抑制でき望ましい。気体交換処理の温度は、好ましくは0℃以上である。0℃以上であれば、好ましい溶媒である水の流動性が確保され、また冷却に要するエネルギーが少なく望ましい。
【0026】
気体交換処理の処理時間は、好ましくは15時間以下であり、より好ましくは10時間以下、更に好ましくは8時間以下である。前記時間以下であれば比較的高温下における気体交換処理においてもN-ビニルカルボン酸アミド単量体の変性が起こりにくく、望ましい。処理時間の最短時間は30分であればよい。
気体交換処理は、不純物が除去される限り、複数回繰り返して行ってもよい。
気体交換処理によって、粗N-ビニルカルボン酸アミド単量体に含まれていた反応溶媒、副成物、貧溶媒、洗浄液などの不純物が除去され、N-ビニルカルボン酸アミド単量体に対して、1質量ppm以下まで低減される。
【0027】
気体交換処理の代わりに、熱処理を行うと、N-ビニルカルボン酸アミド単量体を重合したときに、重合体の分子量が低下したり、分子量分布が広くなりすぎたり、耐熱性や透明性などの特性が低くなってしまうことがある。
本発明のような気体交換処理を行うことで、熱履歴をかけることなく、気体除去が可能となり、高分子量かつ適切な分子量分布で耐熱性および透明性などにおいて優れたN-ビニルカルボン酸アミド重合体を含む溶液を効率よく製造することが可能となる。
【0028】
例えば、N-ビニルカルボン酸アミド単量体には、晶析時に使用される貧溶媒や洗浄液のメチルシクロヘキサン(以下「MCH」ともいう)などは数千ppm残存しており、乾燥により完全に除去することは熱履歴の懸念があり難しいが、本発明のような気体交換処理を行うことで、検出限界(0.5質量ppm)以下まで除去することが可能である。
本発明の気体交換処理は、N-ビニルカルボン酸アミド単量体以外にも、他のアクリルアミド系単量体、たとえばアクリルアミドなどの精製処理に適用可能である。
【0029】
[N-ビニルカルボン酸アミド単量体の重合]
得られた不純物が除去された、N-ビニルカルボン酸アミド単量体を含む溶液を使って重合を行い、N-ビニルカルボン酸アミド重合体溶液を製造する。必要に応じて重合溶媒を目的の溶媒に置換してもよいが、溶媒置換せずに重合を行ってもよい。
【0030】
本発明では、N-ビニルカルボン酸アミド重合体の重合時には目的に応じて、他の単量体を共重合させてもよい。
【0031】
前記他の単量体としては、(メタ)アクリル酸またはその塩、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸(イソ)プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリオキシアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸系モノマー;(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸またはその塩、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド系モノマー;酢酸ビニル、酪酸ビニル、吉草酸ビニル等のビニルエステル系モノマー;スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-メトキシスチレン、m-クロロスチレン等のスチレン系モノマー;メチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、ビニルベンジルエーテル等のビニルエーテル系モノマー;無水マレイン酸、マレイン酸またはその塩、フマル酸またはその塩、マレイン酸ジメチルエステル、フマル酸ジエチルエステル等のジカルボン酸系モノマー;アリルアルコール、アリルフェニルエーテル、アリルアセテート等のアリル系モノマー;(メタ)アクリロニトリル、塩化ビニル、エチレン、プロピレン等のモノマーなどが挙げられる。
【0032】
また、前記他の単量体は、単独で用いても、2種類以上組み合わせて用いてもよい。前記他の単量体の量は、共重合体の用途によって適宜決めればよいが、全単量体中、通常60質量%以下、好ましくは40質量%以下の量で用いることが望ましい。
N-ビニルカルボン酸アミド重合体を製造する際に、ラジカル重合開始剤を用いることが好ましい。ラジカル重合開始剤としては重合溶媒に溶解するものであればいかなる化合物でもよく、一例を挙げればアゾビスイソブチロニトリル、2,2'-アゾピス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2'-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2'-アゾビス(2-メチルブロピオニトリル)、2,2'-アゾピス(2-メチルブチロニトリル)、1,1'-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、ジメチル2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)2塩酸塩、2,2’-アゾビス[N-(カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]テトラハイドレート、2,2'-アゾビス(2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン)2塩酸塩、ベンゾイルパーオキサイド、ターシャリーブチルハイドロパーオキサイド、ジ(2-エチルヘキシルパ-オキシジカーボネート)、ジチオカーボネートなどが挙げられる。
【0033】
重合開始剤の添加量は、N-ビニルカルボン酸アミド単量体に対して好ましくは0.01~10質量%、より好ましくは0.05~5質量%であることが望ましい。
さらに、目的とする適度な粘度のものを得るために、メルカプトエタノール、チオグリセリン、ブチルメルカプタン、ドテカンチオール、ブロモトリクロロメタン、イソプロピルアルコール、チオグリコール酸及びその塩、2-エチルヘキシルチオグリコレート等の連鎖移動剤を添加することもできる。
【0034】
連鎖移動剤の添加量としては、N-ビニルカルボン酸アミド単量体に対して好ましくは0~25質量%、より好ましくは、0.1~20質量%であり、この範囲で添加すると、十分な連鎖移動効果は発揮できるので望ましい。
また、重合温度としては、30℃以上から使用する溶媒の沸点の範囲で適宜選択され、好ましくは40℃以上、特に好ましくは溶媒の沸点付近の温度であることが望ましい。重合温度が前記範囲にあれば、重合終了が短時間で済み、重合体の収率を高くできるので望ましい。
【0035】
前記重合に際して、pHを調整するために、酸および塩基を水溶液中に添加してもよい。
酸としては、例えば、無機酸の中では、例えば、ハロゲン化水素(水溶液中では塩酸)、硫酸、硝酸、燐酸、(オルト-、メタ-ポリ燐酸)である。有機酸の中では、例えば、蟻酸、酢酸、プロピオン酸などの炭素数1~5のカルボン酸、あるいは、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸などの脂肪族又は芳香族スルホン酸である塩基としては、周期律表の第1及び第2族の金属の水酸化物である。具体的には、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム等が挙げられる。また、アンモニア及びアンモニアのアルキル誘導体、例えば、アルキルアミン又はアリールアミンも好適である。かかるアミン類としては、例えば、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリン又はアニリンが挙げられる。
【0036】
重合後のN-ビニルカルボン酸アミド重合体溶液は、必要に応じて、洗浄などの処理を行い、未反応の単量体や開始剤・連鎖移動剤などを除去してもよい。洗浄方法としては特に制限なく、遠心分離を含む濾過などを採用できる。また必要に応じて、溶液中から、N-ビニルカルボン酸アミド重合体を回収してもよく、回収はたとえば、加熱乾燥、減圧乾燥、自然乾燥、風乾などの公知の乾燥方法を採用できる。N-ビニルカルボン酸アミド重合体溶液から重合体を回収せず、適宜洗浄した後、重合体溶液として保存してもよく、たとえば容器に充填して輸送することも可能である。
【0037】
以上の本発明で得られるN-ビニルカルボン酸アミド重合体は、一般に用いられる方法によりその分子量を測定することができる。例えば適当な標準物質により検定されたゲルパーミエーションクロマトグラフィー法や、光散乱法などがあげられるが特に限定されるものではない。重合体の重量平均分子量(Mw)の範囲は特に制限されず、10000~10000000の範囲であることが好ましい。さらに好ましくは、100000~5000000の範囲である。重量平均分子量が前記範囲にあると、増粘性能および分散性能も高いものが得られるが、使用目的に応じて分子量は適宜選択される。
数平均分子量(Mn)とMwの比率(Mw/Mn)は、好ましくは1.0~3.0、より好ましくは1.2~2.0の範囲にあり、分子量分布の狭い重合体が得られる。また、Z平均分子量(Mz)とMnとの比率(Mz/Mn)は、好ましくは1.0~3.0、より好ましくは1.2~2.5の範囲にあり、高分子量成分が少なく、また重合体は嵩が小さい、すなわち、分岐の少ない重合体が得られる。これらの分子量分布を有する重合体は、透明性および耐熱性が高く、重合体の粘性が高くならなるので、加工性が高い。
【0038】
<N-ビニルカルボン酸アミド(共)重合体の用途>
前記(共)重合体は、増粘効果、分散効果などの機能を利用して広い分野に好適に用いられる。以下に具体例を例示する。
【0039】
(1)工業用分散剤
例えば、無機・有機の各種粉末の分散剤として用いられる。より具体的には、例えば、シリカ、アルミナ、チタニア、炭酸カルシウム等の無機粉末;タルク、カオリン等の鉱物系粉末;カーボンブラック等の各種顔料粉末;ポリウレタン、ポリアクリル酸エステル、ポリエチレン等の樹脂粉末;ステアリン酸塩等の有機粉末などについて、水などの各種極性溶媒に対する分散剤として用いられる。
【0040】
(2)塗料、インキなどに用いる増粘剤・分散剤
例えば、塗料、インキなどについて、添料分散剤;粘度、レベリングなどの調整剤;濡れ性改良剤として用いられる。
【0041】
(3)水および油に用いる処理剤・採取剤
(4)化粧品
例えば、シャンプー、リンス、ローションなどの化粧品について、乳化安定剤、潤滑剤、乳化型化粧料(乳化剤として使用)、皮膜型パック剤、セット剤に用いられる。
【0042】
(5)トイレタリー製品
例えば、液体洗剤(衣料用、台所用、トイレ・タイル用)、歯磨き、クレンザー、柔軟仕上げ剤、工業用洗浄剤などの増粘剤として用いられる。
【0043】
(6)粘着剤およびその助剤
(7)メディカル分野
例えば、錠剤(徐放性薬剤)、腸溶性薬剤、パップ剤、プラスター剤等の貼付剤用の基材、外用軟膏剤、薬剤放出制御製剤、胃内浮遊徐放性製剤、粘膜投与製剤、外皮用組成物(医療用フィルム)、創傷被覆保護材、歯科用材料、口腔用吸収剤、歯間清掃具等において、薬剤の保持・徐放のために用いられるほか、消毒用オートクレーブで加熱されて反復使用される尿道カテーテル・浣腸器等の医療器具用潤滑剤、診断薬の粘度調整剤として用いられる。
【0044】
(8)吸水材、保水剤、シーリング剤、保冷剤
(9)その他
例えば、製紙用処理剤;芳香消臭剤;乾燥剤;発酵助剤;パッキン用材料、古壁等の剥離剤に用いられるほか、玩具、汗取り装身具、超音波探傷用接触媒質、超音波探触子、電池・センサー等の電解質支持体などの増粘剤として用いられる。
【実施例
【0045】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
<各平均分子量の測定> (数平均=Mn、重量平均=Mw、Z平均=Mz)
重合体溶液を重合体濃度が1質量%濃度となるように蒸留水へ溶解し以下の条件でGPC(ゲル透過クロマトグラフィー)法にて、数平均分子量、重量平均分子量およびZ平均分子量を測定した。
なお、本測定での各平均分子量の算出については各分子量帯のN-ビニルアセトアミド重合体の各平均分子量測定結果から作成した較正曲線を用いた。
検出器(RI):昭和電工株式会社製 SHODEX(登録商標)RI-201H
ポンプ:株式会社島津製作所製 LC-20AD
カラムオーブン:昭和電工株式会社製 SHODEX(登録商標) AO-30C
解析装置:システム インスツルメンツ(株)製 SIC 480II Deta Station
カラム:昭和電工株式会社製 SHODEX(登録商標) SB806 × 2
溶離液:蒸留水/2-プロパノール=8/2(質量比)
流量:0.7ml/min
各測定値から、Mw/Mn、Mz/Mnを評価した。
【0046】
<粘度>
N-ビニルアセトアミド重合体水溶液を300mlのトールビーカーに採取し、固形分を4質量%となるように水で希釈を行い、12時間以上20℃の恒温槽に静置し内部の気泡が完全に無い状態とする。その後、20℃に調温された恒温水槽にビーカーを入れ温度計にて試験体温度が20±0.5℃であることを確認し、JIS K-7117-1-1999に示すB型粘度計を用いて以下の条件にて粘度を測定する。
粘度計:DVE(ブルックフィールド)粘度計 HA型
スピンドル:No.6スピンドル
回転数:50rpm
温度:20℃
【0047】
<ヘーズ>
ヘーズは、JIS K7136:2000に準拠し、ビニルアセトアミド重合体水溶液をヘーズメーター(日本電色工業株式会社製、NDH-7000)にて測定した。
【0048】
<N-ビニルアセトアミド単量体の組成分析>
得られたN-ビニルアセトアミド単量体の組成分析については、以下の条件のGC分析で定量する。
装置:高性能汎用ガスクロマトグラフ「GC-2014」(株式会社島津製作所製)
カラム:DB-WAX(φ0.25mm × 30m、Agilent Technologies社製)
キャリアガス種類:He
キャリアガス流量:1mL/分 スプリット比:40
カラム温度:40℃(7min)→昇温(25℃/分)→130℃(15分)→昇温(30℃/分)→220℃(7分)の順で昇温プログラムを設定
インジェクション温度:200℃
検出器:水素炎イオン化検出器(FID)
検出器温度:230℃
【0049】
<N-1,3-ブタジエニルアセトアミドの分析>
製造例1におけるN-1,3-ブタジエニルアセトアミドの定量は、高速液体カラムクロマトグラフィー(HPLC)法により、紫外光吸収スペクトルにより確認・同定して定量した。測定条件は次のとおりである。
カラム:昭和電工株式会社製:Shodex(登録商標) SIL-5B
溶離液:イソプロピルアルコール(IPA)/n-ヘキサン=1/9(質量比)
カラム温度: 40℃
流量:1.0mL/min
検出器:紫外光検出器、254nm
【0050】
[製造例1]
アセトアルデヒド224g、メタノール325g、アセトアミド100gを硫酸触媒下、40℃にて反応させてpH1.2のN-(1-メトキシエチル)アセトアミドを合成した。その反応液に48質量%水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH8.3に調整した。その後、単蒸留装置にて温度60~70℃、圧力33kPa(絶対圧力)で低沸点成分を留去後、温度70℃、圧力0.3kPa(絶対圧力)で水及びメタノールを留去し、純度92質量%のN-(1-メトキシエチル)アセトアミドを151g得た。続いて、N-(1-メトキシエチル)アセトアミドを400℃、20kPa(絶対圧力)に保たれた反応器(内径20mm、長さ240mmのチューブ型反応器)に、1.5g/分の割合で供給した。反応器出口に設置された冷却管で、熱分解反応で生成したN-ビニルアセトアミドとメタノールの混合物を凝縮して、粗N-ビニルアセトアミド単量体を含む回収物を得た。N-(1-メトキシエチル)アセトアミドの転化率は90%であった。
【0051】
次いで0.3%Pd-Al23触媒をカラムに充填した(充填量は粗N-ビニルアセトアミド回収物20gに対して触媒量1mlになる量とした)のち、反応温度40℃、水素ガス圧力0.03MPa(ゲージ圧)、触媒充填カラムでの空間速度(SV値)が100/hrになるよう粗N-ビニルアセトアミド単量体を含む回収物を循環流通し、熱分解反応で副生したN-1,3-ブタジエニルアセトアミドを水素化して低減した。反応時間はN-1,3-ブタジエニルアセトアミド量が30質量ppm以下となるまで実施した。
N-1,3-ブタジエニルアセトアミドが低減された粗N-ビニルアセトアミド回収物を、単蒸留装置を用いて真空度0.3kPa(絶対圧力)以下、ボトム温度60℃以下の条件下蒸留しメタノールを除去して、粗N-ビニルアセトアミド単量体の回収物を120g得た。この時のN-ビニルアセトアミド純度は75質量%であり、残りは、N-(1-メトキシエチル)アセトアミドであった。この粗N-ビニルアセトアミド単量体回収物を晶析装置により、40℃から10℃まで冷却晶析してN-ビニルアセトアミド単量体の結晶を析出させ、遠心分離器にて分離した。回収した結晶を、メチルシクロヘキサン:酢酸エチル(質量比)=9:1の洗浄液で洗浄し、得られた結晶を乾燥し、粗N-ビニルアセトアミド単量体80gを得た。この粗N-ビニルアセトアミド単量体は、N-ビニルアセトアミド単量体96.93質量%、メチルシクロヘキサン2.98質量%を含有していた。
【0052】
[実施例1]
4つ口1Lセパラブルフラスコに窒素ガス送入管、撹拌機、溶媒滴下装置、温度計、窒素ガス排気管を装着しセパラブルフラスコに重合溶媒であるイオン交換水705.0gに1質量%濃度のトリエタノールアミン水溶液を2.9g、続いて製造例1にて製造したメチルシクロヘキサンを含有した状態の粗N-ビニルアセトアミド単量体68.1gを投入し溶解した水溶液を調製した。
その状態にて水溶液中で、88.1ml/min(標準状態、0℃、1atm)の流量にて窒素ガスをバブリングし、液相部を窒素ガスで置換をしながら撹拌加温し、内温30℃で7時間経過した時点で窒素ガス送入を止め、系内を気密状態とし、真空ポンプにて13.3kPaまで減圧し、窒素ガスにて常圧まで戻す作業を4回実施した。
メチルシクロヘキサン残量は、GC分析にて不検出であり、系内から除去されていた。
【0053】
その後、昇温を開始し内温を53.5℃に調節した。昇温開始から1時間後、2,2’-アゾビス[N-(カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]テトラハイドレート(商品名:富士フイルム和光純薬株式会社製、アゾ化合物系重合開始剤VA-057、以下「開始剤VA-057」ともいう)、0.053g(単量体比0.08質量%)を溶解した水溶液10gをシリンジにて添加し、50.0~62.0℃の内温にて4時間撹拌しながら重合を進行させた。その後、内温を75℃で1時間保持したところでイオン交換水935gを投入し、撹拌を1時間継続した後、容器外温を23℃に保ちし、翌日まで放冷した。
【0054】
[実施例2]
窒素ガス置換時の内温を50℃とした以外は、実施例1と同様に処理を行った後、重合を行った。メチルシクロヘキサン残量は、気体交換処理開始2時間後の時点で10質量ppmとなり、気体交換完了時には実施例1と同様に不検出であった。
【0055】
[比較例1]
製造例1の粗N-ビニルアセトアミド単量体を、窒素ガスイナートオーブンADVANTEC DRJ433DAにて窒素ガス流量2L/minにて50℃×2時間の乾燥処理をしたもの(メチルシクロヘキサン残量380質量ppm)66.1g用い、窒素ガスバブリングを行わない以外は、実施例1と同様にして重合を行った。
【0056】
[比較例2]
窒素ガスバブリングを行わない以外は、実施例1と同様に重合を行った。
処理条件および重合体溶液および溶液から回収された重合体の性状の結果をそれぞれ、表1に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
実施例1および2では、得られた重合体溶液は、粘度が高く、また重合体のMw(重量平均分子量)および分子量分布(Mw/Mn、Mz/Mn)、重合率(固形分濃度)の全てにおいていずれも、十分なものが得られた。
これに対して、比較例1では50℃の乾燥工程を経ていることによる熱履歴の影響で実施例よりMw(重量平均分子量)が低く、またMw/MnおよびMz/Mnがいずれも大きくなり、重合体のヘーズが高くなった。このことから同じ50℃の熱履歴を受ける場合においても水中での窒素ガスバブリングによる気体交換処理の方がメチルシクロヘキサンの除去率が高く、単量体の劣化を起こし難いことが示唆された。
比較例2においては気体交換処理を行うことなく重合を開始した影響で、重合体溶液の粘度が低く、Mz/Mnが著しく大きく、ヘーズが高くなっていた。また、重合前液が白濁しており、透明性の重合体は得られなかった。