IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 富士フイルム株式会社の特許一覧 ▶ 国立大学法人大阪大学の特許一覧

<>
  • 特許-炎症性腸疾患の診断を補助する方法 図1
  • 特許-炎症性腸疾患の診断を補助する方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】炎症性腸疾患の診断を補助する方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20240625BHJP
   C07K 16/18 20060101ALN20240625BHJP
   C12M 1/34 20060101ALN20240625BHJP
【FI】
G01N33/53 D
C07K16/18 ZNA
C12M1/34 F
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2022538017
(86)(22)【出願日】2021-07-20
(86)【国際出願番号】 JP2021027099
(87)【国際公開番号】W WO2022019298
(87)【国際公開日】2022-01-27
【審査請求日】2023-01-10
(31)【優先権主張番号】P 2020124881
(32)【優先日】2020-07-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】三善 英知
(72)【発明者】
【氏名】森下 康一
(72)【発明者】
【氏名】新▲崎▼ 信一郎
(72)【発明者】
【氏名】本岡 渓
(72)【発明者】
【氏名】木戸脇 佳代子
(72)【発明者】
【氏名】田村 郁実
(72)【発明者】
【氏名】伊達 睦廣
【審査官】中村 直子
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-507704(JP,A)
【文献】特表2012-507723(JP,A)
【文献】特表2012-529508(JP,A)
【文献】国際公開第2017/204295(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/241617(WO,A1)
【文献】本岡渓 ほか,次世代型糖鎖抗体を使った画期的な炎症性腸疾患バイオマーカーの開発,第38回日本糖質学会年会要旨集,2019年07月26日,p.202
【文献】MORISHITA, K. et al.,Identification of the epitope of 10-7G glycan antibody to recognize cancer-associated haptoglobin,Analytical Biochemistry,2020年01月22日,Vol.593, No.113588,pp.1-6
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
C07K 16/18
C12M 1/34
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
医中誌WEB
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者由来試料を還元処理した後、配列番号1で表されるアミノ酸配列に特異的に結合する抗体である抗体1を用いて前記試料中のヒトプロハプトグロビン量を測定することを含み、前記ヒトプロハプトグロビン量を指標とする、、炎症性腸疾患の診断を補助する方法であって、
前記還元処理が、前記被験者由来試料中のヒトハプトグロビンのα鎖とβ鎖を連結しているジスルフィド結合を切断する処理である、方法。
【請求項2】
前記測定が、下記工程(A-1)~(A-4)を含む、請求項1に記載の炎症性腸疾患の診断を補助する方法:
(A-1)被験者由来試料を還元処理する工程
(A-2)前記工程(A-1)で得られた試料からヒトプロハプトグロビンを分離する工程、
(A-3)前記工程(A-2)で得られたヒトプロハプトグロビンと前記抗体1とを接触させて、ヒトプロハプトグロビンと抗体1との複合体を形成させる工程、
(A-4)前記工程(A-3)で得られた複合体の量を測定することにより、ヒトプロハプトグロビン量を測定する工程。
【請求項3】
前記工程(A-2)を電気泳動法で行う、請求項に記載の炎症性腸疾患の診断を補助する方法。
【請求項4】
前記測定が、下記工程(B-1)~(B-4)を含む、請求項1に記載の炎症性腸疾患の診断を補助する方法:
(B-1)被験者由来試料を還元処理する工程
(B-2)前記工程(B-1)で得られた試料と前記抗体1とを接触させて、前記試料中のヒトプロハプトグロビンと抗体1との複合体を形成させる工程、
(B-3)前記工程(B-2)で得られた複合体を分離する工程、
(B-4)前記工程(B-3)で分離した複合体の量を測定することにより、ヒトプロハプトグロビン量を測定する工程。
【請求項5】
前記工程(B-3)を電気泳動法で行う、請求項に記載の炎症性腸疾患の診断を補助する方法。
【請求項6】
前記測定が、下記工程(C-1)~(C-3)を含む、請求項1に記載の炎症性腸疾患の診断を補助する方法:
(C-1)被験者由来試料を還元処理する工程、
(C-2)前記工程(C-1)で得られた試料と、前記抗体1と、ヒトプロハプトグロビンのβ鎖を認識する抗体である抗体2とを接触させて、前記試料中のヒトプロハプトグロビンと抗体1と抗体2との複合体を形成させる工程、
(C-3)前記工程(C-2)で得られた複合体の量を測定することにより、ヒトプロハプトグロビン量を測定する工程。
【請求項7】
前記抗体1と前記抗体2のいずれか一方が不溶性担体に固定化されており、他方が標識物質で標識されている、請求項6に記載の炎症性腸疾患の診断を補助する方法。
【請求項8】
被験者由来試料を還元処理した後、配列番号1で表されるアミノ酸配列に特異的に結合する抗体である抗体1を用いて前記試料中のヒトプロハプトグロビン量を測定することを含み、前記ヒトプロハプトグロビン量を指標とする、炎症性腸疾患の診断を補助する方法であって、下記工程(C-1)~(C-3)を含む方法;
(C-1)被験者由来試料を還元処理する工程、
(C-2)前記工程(C-1)で得られた試料と、前記抗体1と、ヒトプロハプトグロビンのβ鎖を認識する抗体である抗体2とを接触させて、前記試料中のヒトプロハプトグロビンと抗体1と抗体2との複合体を形成させる工程、
(C-3)前記工程(C-2)で得られた複合体の量を測定することにより、ヒトプロハプトグロビン量を測定する工程。
【請求項9】
前記(C-1)の還元処理が、前記被験者由来試料中のヒトハプトグロビンのα鎖とβ鎖を連結しているジスルフィド結合を切断する処理である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記抗体1と前記抗体2のいずれか一方が不溶性担体に固定化されており、他方が標識物質で標識されている、請求項8又は9に記載の炎症性腸疾患の診断を補助する方法。
【請求項11】
前記ヒトプロハプトグロビン量が基準値以上の場合に、被験者が炎症性腸疾患であると判定する、請求項1~10のいずれか1項に記載の炎症性腸疾患の診断を補助する方法。
【請求項12】
被験者由来試料が血清、血漿、又は全血である、請求項1~11のいずれか1項に記載の炎症性腸疾患の診断を補助する方法。
【請求項13】
者由来試料を還元処理した後、配列番号1で表されるアミノ酸配列に特異的に結合する抗体である抗体1を用いて前記試料中のヒトプロハプトグロビン量を測定することを含み、前記ヒトプロハプトグロビン量を指標とする、炎症性腸疾患の診断を補助するためのデータを得る方法であって、
前記還元処理が、前記被験者由来試料中のヒトハプトグロビンのα鎖とβ鎖を連結しているジスルフィド結合を切断する処理である、方法。
【請求項14】
被験者由来試料を還元処理した後、配列番号1で表されるアミノ酸配列に特異的に結合する抗体である抗体1を用いて前記試料中のヒトプロハプトグロビン量を測定することを含み、前記ヒトプロハプトグロビン量を指標とする、炎症性腸疾患の診断を補助するためのデータを得る方法であって、下記工程(C-1)~(C-3)を含む方法;
(C-1)被験者由来試料を還元処理する工程、
(C-2)前記工程(C-1)で得られた試料と、前記抗体1と、ヒトプロハプトグロビンのβ鎖を認識する抗体である抗体2とを接触させて、前記試料中のヒトプロハプトグロビンと抗体1と抗体2との複合体を形成させる工程、
(C-3)前記工程(C-2)で得られた複合体の量を測定することにより、ヒトプロハプトグロビン量を測定する工程。
【請求項15】
配列番号1で表されるアミノ酸配列に特異的に結合する抗体である抗体1及び還元剤を含む、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法に用いる、炎症性腸疾患の診断補助用検査キット。
【請求項16】
ヒトプロハプトグロビンのβ鎖を認識する抗体である抗体2を更に含んでなる、請求項15に記載の診断補助用検査キット。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease: IBD)は、潰瘍性大腸炎とクローン病に大別される、腸管に炎症を繰り返す難治性の慢性炎症疾患で、近年その患者数が増加している。炎症性腸疾患の診断は、大腸内視鏡検査や消化管造影検査、病理組織検査等によって行われる。炎症性腸疾患に罹患した患者は炎症性腸疾患に罹患していない者に比較して発癌リスクが高いため、長期にわたり検査を続ける必要がある。しかしながら、大腸内視鏡検査は侵襲性が高く、常に内視鏡検査で病態を監視するには被験者である患者の身体的負担が大きい。
【0002】
そのため、非侵襲的に炎症性腸疾患の診断を行うことのできるバイオマーカーを用いた診断も行われつつある。
【0003】
例えば、ヒトハプトグロビンは肝臓で合成される急性期反応蛋白であり、潰瘍性大腸炎やクローン病で血中濃度が変動することが知られている(特許文献1、特許文献2)。潰瘍性大腸炎患者及びクローン病患者の血清ヒトハプトグロビン濃度の測定も行われている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2009-526233号公報
【文献】特表2012-529508号公報
【文献】特表2012-507723号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、公知の炎症性腸疾患を判定するためのバイオマーカーは、炎症性腸疾患に特異的な腸管炎症を反映していない。
本発明は、前記した状況に鑑みなされたもので、炎症性腸疾患を特異的に判定できる炎症性腸疾患の診断を補助する方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
近年、プロハプトグロビンに成熟ハプトグロビンとは異なる生物学的機能を持つ可能性があることが報告されている。本発明者等は、炎症性腸疾患を高い正確性で判定できる優れたバイオマーカーを見出すべく鋭意検討した結果、ヒトプロハプトグロビンのα鎖が持つ配列番号1で表されるアミノ酸配列の領域に特異的に結合する抗体を用いてヒトプロハプトグロビンの測定を行うことにより、炎症性腸疾患を高い特異性で判定できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明は、以下の構成よりなる。
「[1]被験者由来試料を還元処理した後、配列番号1で表されるアミノ酸配列に特異的に結合する抗体である抗体1を用いて前記試料中のヒトプロハプトグロビン量を測定すること、及び前記ヒトプロハプトグロビン量を指標として、被験者が炎症性腸疾患であると判定することを含む、炎症性腸疾患の診断を補助する方法。
[2]前記判定が、前記ヒトプロハプトグロビン量が基準値以上の場合に、被験者が炎症性腸疾患であると判定することである、前記[1]に記載の炎症性腸疾患の診断を補助する方法。
[3]前記測定が、下記工程(A-1)~(A-4)を含む、前記[1]又は[2]に記載の炎症性腸疾患の診断を補助する方法:
(A-1)被験者由来試料を還元処理する工程
(A-2)前記工程(A-1)で得られた試料からヒトプロハプトグロビンを分離する工程、
(A-3)前記工程(A-2)で得られたヒトプロハプトグロビンと前記抗体1とを接触させて、ヒトプロハプトグロビンと抗体1との複合体を形成させる工程、
(A-4)前記工程(A-3)で得られた複合体の量を測定することにより、ヒトプロハプトグロビン量を測定する工程。
[4]前記工程(A-2)を電気泳動法で行う、前記[3]に記載の炎症性腸疾患の診断を補助する方法。
[5]前記測定が、下記工程(B-1)~(B-4)を含む、前記[1]又は[2]に記載の炎症性腸疾患の診断を補助する方法:
(B-1)被験者由来試料を還元処理する工程
(B-2)前記工程(B-1)で得られた試料と前記抗体1とを接触させて、前記試料中のヒトプロハプトグロビンと抗体1との複合体を形成させる工程、
(B-3)前記工程(B-2)で得られた複合体を分離する工程、
(B-4)前記工程(B-3)で分離した複合体の量を測定することにより、ヒトプロハプトグロビン量を測定する工程。
[6]前記工程(B-3)を電気泳動法で行う、前記[5]に記載の炎症性腸疾患の診断を補助する方法。
[7]前記測定が、下記工程(C-1)~(C-3)を含む、前記[1]又は[2]に記載の炎症性腸疾患の診断を補助する方法:
(C-1)被験者由来試料を還元処理する工程、
(C-2)前記工程(C-1)で得られた試料と、前記抗体1と、ヒトプロハプトグロビンのβ鎖を認識する抗体である抗体2とを接触させて、前記試料中のヒトプロハプトグロビンと抗体1と抗体2との複合体を形成させる工程、
(C-3)前記工程(C-2)で得られた複合体の量を測定することにより、ヒトプロハプトグロビン量を測定する工程。
[8]前記抗体1と前記抗体2のいずれか一方が不溶性担体に固定化されており、他方が標識物質で標識されている、前記[7]に記載の炎症性腸疾患の診断を補助する方法。
[9]前記測定が、下記工程(D-1)~(D-4)を含む、前記[1]又は[2]に記載の炎症性腸疾患の診断を補助する方法:
(D-1)被験者由来試料を還元処理する工程、
(D-2)前記工程(D-1)で得られた試料と、前記抗体1と、前記抗体1とは認識するエピトープが異なる、ヒトプロハプトグロビンのα鎖を認識する抗体である抗体1-2と、ヒトプロハプトグロビンのβ鎖を認識する抗体である抗体2とを接触させて、前記試料中のプロハプトグロビンと抗体1と抗体1-2と抗体2との複合体を形成させる工程、
(D-3)前記(D-2)で得られたプロハプトグロビンと抗体1と抗体1-2と抗体2との複合体を分離する工程、
(D-4)前記工程(D-3)で分離した複合体の量を測定することにより、ヒトプロハプトグロビン量を測定する工程。
[10]前記工程(D-3)をキャピラリー電気泳動で行う、前記[9]に記載の炎症性腸疾患の診断を補助する方法。
[11]被験者由来試料が血清、血漿、又は全血である、前記[1]~[10]の何れか一つに記載の炎症性腸疾患の診断を補助する方法。
[12]被験者由来試料を還元処理した後、配列番号1で表されるアミノ酸配列に特異的に結合する抗体である抗体1を用いて前記試料中のヒトプロハプトグロビン量を測定することを特徴とする、炎症性腸疾患の診断を補助するためのデータを得る方法。
[13]配列番号1で表されるアミノ酸配列に特異的に結合する抗体である抗体1及び還元剤を含む、炎症性腸疾患の診断補助用検査キット。
[14]ヒトプロハプトグロビンのβ鎖を認識する抗体である抗体2を更に含んでなる、前記[13]に記載の診断補助用検査キット。
[15]前記抗体1とは認識するエピトープが異なる、ヒトプロハプトグロビンのα鎖を認識する抗体である抗体1-2を更に含んでなる、前記[14]に記載の診断補助用検査キット。
[16]被験者由来試料中のヒトプロハプトグロビンの量を測定する測定部を有する、炎症性腸疾患診断補助用装置。
[17]更に測定部における測定で得られた測定値が基準値以上か否かを判定する判定部を有する、前記[16]に記載の炎症性腸疾患診断補助用装置。
[18]更に、前記ヒトプロハプトグロビン量が基準値以上であるか否かを決定することを含む、前記[12]に記載の炎症性腸疾患の診断を補助するためのデータを得る方法。
[19]前記測定が、下記工程(A-1)~(A-4)を含む、前記[12]又は[18]に記載の炎症性腸疾患の診断を補助するためのデータを得る方法:
(A-1)被験者由来試料を還元処理する工程
(A-2)前記工程(A-1)で得られた試料からヒトプロハプトグロビンを分離する工程、
(A-3)前記工程(A-2)で得られたヒトプロハプトグロビンと前記抗体1とを接触させて、ヒトプロハプトグロビンと抗体1との複合体を形成させる工程、
(A-4)前記工程(A-3)で得られた複合体の量を測定することにより、ヒトプロハプトグロビン量を測定する工程。
[20]前記工程(A-2)を電気泳動法で行う、前記[19]に記載の炎症性腸疾患の診断を補助するためのデータを得る方法。
[21]前記測定が、下記工程(B-1)~(B-4)を含む、前記[12]又は[18]に記載の炎症性腸疾患の診断を補助するためのデータを得る方法:
(B-1)被験者由来試料を還元処理する工程
(B-2)前記工程(B-1)で得られた試料と前記抗体1とを接触させて、前記試料中のヒトプロハプトグロビンと抗体1との複合体を形成させる工程、
(B-3)前記工程(B-2)で得られた複合体を分離する工程、
(B-4)前記工程(B-3)で分離した複合体の量を測定することにより、ヒトプロハプトグロビン量を測定する工程。
[22]前記工程(B-3)を電気泳動法で行う、前記[21]に記載の炎症性腸疾患の診断を補助するためのデータを得る方法。
[23]前記測定が、下記工程(C-1)~(C-3)を含む、前記[12]又は[18]に記載の炎症性腸疾患の診断を補助するためのデータを得る方法:
(C-1)被験者由来試料を還元処理する工程、
(C-2)前記工程(C-1)で得られた試料と、前記抗体1と、ヒトプロハプトグロビンのβ鎖を認識する抗体である抗体2とを接触させて、前記試料中のヒトプロハプトグロビンと抗体1と抗体2との複合体を形成させる工程、
(C-3)前記工程(C-2)で得られた複合体の量を測定することにより、ヒトプロハプトグロビン量を測定する工程。
[24]前記抗体1と前記抗体2のいずれか一方が不溶性担体に固定化されており、他方が標識物質で標識されている、前記[23]に記載の炎症性腸疾患の診断を補助するためのデータを得る方法。
[25]前記測定が、下記工程(D-1)~(D-4)を含む、前記[12]又は[18]に記載の炎症性腸疾患の診断を補助するためのデータを得る方法:
(D-1)被験者由来試料を還元処理する工程、
(D-2)前記工程(D-1)で得られた試料と、前記抗体1と、前記抗体1とは認識するエピトープが異なる、ヒトプロハプトグロビンのα鎖を認識する抗体である抗体1-2と、ヒトプロハプトグロビンのβ鎖を認識する抗体である抗体2とを接触させて、前記試料中のプロハプトグロビンと抗体1と抗体1-2と抗体2との複合体を形成させる工程、
(D-3)前記(D-2)で得られたプロハプトグロビンと抗体1と抗体1-2と抗体2との複合体を分離する工程、
(D-4)前記工程(D-3)で分離した複合体の量を測定することにより、ヒトプロハプトグロビン量を測定する工程。
[26]前記工程(D-3)をキャピラリー電気泳動で行う、前記[25]に記載の炎症性腸疾患の診断を補助するためのデータを得る方法。
[27]被験者由来試料が血清、血漿、又は全血である、前記[12]又は[18]~[26]の何れか一つに記載の炎症性腸疾患診断を補助するためのデータを得る方法。
【0008】
本発明の炎症性腸疾患の診断を補助する方法は、医師等の診断を補助する方法として用いることができる。
また、前記方法は、すべてin vitroで実施される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、本発明に係る抗体1を用いた、本発明の炎症性腸疾患の診断を補助するためのデータを得ることができる。そして該データを用いて炎症性腸疾患を消化器癌及び健常者と区別できるという特異性の高い炎症性腸疾患の診断を、補助することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施例1で得られた、健常人、潰瘍性大腸炎患者、クローン病患者、大腸癌患者、及び急性腸炎患者の血清を用いた測定で得られた、ヒトプロハプトグロビン量(proHpt(%))の分布図を表す。
図2図2は、実施例2で得られた、潰瘍性大腸炎患者の血清を用いて本発明に係る方法でヒトプロハプトグロビンの測定を行った結果と、公知のゾヌリン測定キットを用いてヒトプロハプトグロビンの測定を行った結果との関係を示す相関図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、ヒトプロハプトグロビンを指標として用いた炎症性腸疾患の診断を補助する方法、該診断を補助するためのデータを得る方法、及びこれに用いられるキットに関する。
【0012】
<1.炎症性腸疾患>
本発明にかかる炎症性腸疾患とは、一般に炎症性腸疾患として分類される潰瘍性大腸炎およびクローン病を含む。好ましくは潰瘍性大腸炎およびクローン病である。
【0013】
<2.ヒトプロハプトグロビン>
プロハプトグロビン(proHaptglobin)は、α鎖及とβ鎖の二つのサブユニットが結合したヘテロダイマーで、ハプトグロビンの前駆体である。プロハプトグロビンは、complement C1r subcomponent-like protein(C1RL)のセリンプロテアーゼ活性によりα鎖とβ鎖に切断され、両鎖がジスルフィド結合を介して連結したハプトグロビンとなる。本発明に係るプロハプトグロビンは、ヒト由来のヒトプロハプトグロビンを指す。
本発明に係るヒトプロハプトグロビンを、以下「proHpt」と略記する。
【0014】
ハプトグロビン(Haptoglobin)は、哺乳類の血中に存在する肝臓由来の糖タンパク質であり、溶血時に遊離したヘモグロビンと結合するため、溶血時には血中濃度が低下することが一般に知られている。本発明に係るハプトグロビンは、ヒト由来のヒトハプトグロビンを指す。本発明に係るヒトハプトグロビンを、以下「Hpt」と略記する。
【0015】
Hptのα鎖には、α1鎖とα2鎖の2種類があり、α1鎖は約10kDa、α2鎖は約18kDaである。β鎖は約39kDaである。Hptは、Hpt1-1型((α1β)2)、Hpt2-1型((α1β)m(α2β)n)、及びHpt2-2型((α2β)n)の三つの型に分類される。m及びnは1以上の整数であり、同じであっても異なっていてもよい。三つの型のβ鎖は同じである。
【0016】
<3.炎症性腸疾患の診断を補助する方法>
本発明の炎症性腸疾患の診断を補助する方法は、
「被験者由来試料を還元処理した後、配列番号1で表されるアミノ酸配列に特異的に結合する抗体である抗体1を用いて前記試料中のproHpt量を測定すること、及び前記proHpt量を指標として、被験者が炎症性腸疾患であると判定することを含む、炎症性腸疾患の診断を補助する方法。」
である。
【0017】
また、本発明は、このように被験者由来試料を還元処理した後、本発明に係る抗体1を用いて、前記試料中のproHpt量を測定することを特徴とする、炎症性腸疾患の診断を補助するためのデータを得る方法を含む。
【0018】
1.試料
本発明において、試料中のproHpt量を測定するために用いられる試料としては、被験者であるヒト由来の、血清、血漿、血液(全血)、膵液、唾液、リンパ液、髄液等の体液、大腸及び小腸等の腸組織、該組織の抽出液,該組織の組織切片、該組織の洗浄液、あるいはこれらから調製されたもの等が挙げられる。中でも、血清、血漿、又は血液(全血)が好ましい。血清又は血漿がより好ましく、血清が特に好ましい。
【0019】
2.proHptの測定方法
本発明の炎症性腸疾患の診断を補助する方法においては、炎症性腸疾患の診断を補助するためのデータを得るためにproHpt量を測定するが、該工程に係るproHpt量の測定方法は、「被験者由来試料を還元処理した後、配列番号1で表されるアミノ酸配列に特異的に結合する抗体である抗体1を用いて被験者由来試料中のproHpt量を測定する方法」である。
【0020】
(I)還元処理
前記したように、Hptはα鎖とβ鎖がジスルフィド結合を介して連結している。そこで、Hptを還元処理してHptのα鎖とβ鎖を連結しているジスルフィド結合を切断すると、Hptはα鎖とβ鎖に解離する。一方、proHptのα鎖とβ鎖は還元処理しても解離しない。
【0021】
本発明に係るproHptの測定方法では、例えば還元剤により被験者由来試料を還元処理して試料中のHptをα鎖とβ鎖に解離させる。次いで還元処理した試料中のproHpt量を測定すればよい。
【0022】
前記方法に用いられる還元剤としては、Hptのα鎖とβ鎖を連結しているジスルフィド結合を還元し切断することのできる薬剤であれば特に限定されない。SH基化合物又はその塩、チオ尿素誘導体、ホスフィン誘導体等が挙げられる。
【0023】
より具体的には、ジチオストイトール(DTT)、グルタチオン、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩(TCEP-HCl)、ジチオエリスリトール(DTE)、α―チオグリセロール、2-メルカプトエチルアミン塩酸塩、臭化2-アミノエチルイソチオウロニウム臭化水素酸塩、チオレドキシン、グルタキオンレダクターゼ、2―メルカプトエタノール、3-メルカプト-1,2-プロパンジオール、トリブチルフォスフィン、NaBH4、NADPH、チオグリコール酸、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、一酸化窒素等が挙げられる。
ジチオストイトール(DTT)、2―メルカプトエタノール、又は3-メルカプト-1,2-プロパンジオールが好ましい。
【0024】
還元剤は、適当な緩衝液に溶解させた溶液として用いるのが好ましい。そのために用いられる緩衝液としては、例えばトリス緩衝液、リン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、グッド緩衝液などが挙げられる。
【0025】
還元剤の濃度は、被検者由来試料と混合した時の濃度として、0.001~100w/v%、好ましくは0.01~50w/w%である。又は20~500mM、好ましくは30~400mMである。
【0026】
被験者由来試料を還元剤で処理する還元反応の時間は、1分~72時間、好ましくは1分~12時間、より好ましくは1分~100分である。
【0027】
還元反応時の温度は、0℃~120℃、好ましくは25℃~100℃である。
【0028】
被験者由来試料を還元処理する方法としては、被験者由来試料を、前記したごとき条件となるように、被験者由来試料を還元剤又は還元剤の溶液と混合すればよい。
【0029】
(II)本発明に係る抗体1
本発明に係るproHptの測定方法に用いられる「配列番号1で表されるアミノ酸配列に特異的に結合する抗体」を、以下、「本発明に係る抗体1」、又は単に「抗体1」と略記する。
【0030】
本発明に係る抗体1としては、「proHptのα鎖の配列番号1で表されるアミノ酸配列の一次構造を特異的に認識する抗体」、又は「proHptのα鎖の配列番号1で表されるアミノ酸配列の領域内の立体構造を特異的に認識する抗体」が含まれる。
【0031】
すなわち、本発明に係る抗体1は、proHptのα鎖の配列番号1で表される6アミノ酸の領域に結合する。
【0032】
本発明に係る抗体1は、前記した特性を有する抗体であればよく、モノクローナル抗体でもポリクローナル抗体でもよい。モノクローナル抗体がより好ましい。また、市販品でも常法により適宜調製されたものでもよい。さらに後記する本発明に係る抗体1を用いたproHptの測定においては、これらを単独であるいはこれらを適宜組み合わせて用いる等は任意である。
【0033】
尚、Hptのα1鎖のアミノ酸配列は、配列番号2で表される。そして、配列番号1で表されるアミノ酸配列(QCKNYY)を、そのN末端から51番目~56番目に有する。
Hptのα2鎖のアミノ酸配列は、記配列番号3で表される。そして配列番号1で表されるアミノ酸配列を、そのN末端から51番目~56番目、及び110番目~115番目の二ヶ所に有する。
すなわち、Hptのα鎖も配列番号1のアミノ酸配列を持つ。従って、本発明に係る抗体1として、Hptのα鎖の配列番号1の領域に結合する抗体も用いることができる。
【0034】
本発明に係る抗体1は、抗体1の抗原結合断片であってもよい。抗原結合断片とは、抗体の断片であって、抗原結合部位を有するものを意味する。具体的には、例えば抗体1のFab、Fab’、F(ab')2、Fv、Fd、一本鎖Fv(scFv)、ジスルフィド結合したFv(sdFv)、VL、VH、ダイアボディー((VL-VH)2もしくは(VH-VL)2)、トリアボディー(三価抗体)、テトラボディー(四価抗体)、ミニボディー((scFV-CH3)2)、IgG-delta-CH2、scFv-Fc、(scFv)2-Fcフラグメント等であって、配列番号1で表されるアミノ酸配列に特異的に結合するものが挙げられる。
【0035】
本発明に係る抗体1を取得するために免疫原(抗原)として用いられるものとしては、(a)Hptのα鎖のアミノ酸配列(例えば配列番号2又は配列番号3で表されるアミノ酸配列)を持つポリペプチド、(b)Hptのα鎖のアミノ酸配列(例えば配列番号2又は配列番号3で表されるアミノ酸配列)の部分配列であって、配列番号1で表されるアミノ酸配列を含有するポリペプチド、又は(c)proHpt(全長)が挙げられる。
【0036】
本発明に係る抗体1を取得するために免疫原として用いられる上記(a)、(b)、又は(c)は、そのアミノ酸配列に従って、一般的な化学的製法により製造することができる。例えば、フルオレニルメチルオキシカルボニル法(Fmoc法)、t-ブチルオキシカルボニル法(tBoc法)等の通常の化学合成法により、該ポリペプチドを得ることができる。また、市販のペプチド合成機を用いて化学合成することもできる。また、ペプチド合成品を製造する業者に委託した製造品でもよい。
【0037】
本発明に係る抗体1を取得するために免疫原として用いられる上記(a)Hpt(全長)は、ヒト大腸癌細胞株HCT116(ATCC)にHpt遺伝子を導入し安定過剰発現させた細胞の培養上清等の、癌細胞株の培養液又は培養上清から、例えば抗Hpt抗体カラムを用いる方法で、抽出及び精製することによっても得ることができる。または市販のHptの精製品等を用いることもできる。
【0038】
また、免疫源として用いられる上記(c)proHpt(全長)は、既報(Mi-Kyung Oh, et al., FEBS letters vol. 589, pp.1009-1017, 2015)に従ってC1RLによって切断される部分にアミノ酸変異を入れたHptの発現ベクターを作製し、例えばHEK293細胞等の適当な宿主細胞に過剰発現させ、その培養上清を回収後、Hpt結合担体を用いたアフィニティーカラムクロマトグラフィーで回収・精製することによっても得られる。
【0039】
前記した免疫原となる抗原蛋白質の精製は、自体公知の方法、例えば抗Hpt抗体又は抗Hptα鎖抗体をコートしたセファロースビーズを用いたアフィニティークロマトグラフィー等の幾つかのクロマトグラフィー技術を組み合わせて行えばよい。
【0040】
本発明のポリクローナル抗体1を得る方法としては、前記した如き方法で得られた免疫原を、常法[例えば免疫実験学入門、第2刷、松橋直ら、(株)学会出版センター、1981等に記載の方法等]に従って、例えば馬、牛、羊、兎、山羊、モルモット、ラット、マウス等の動物に免役する常法により作製し、常法により配列番号1で表されるアミノ酸配列に特異的に結合する抗体を選択すればよい。
【0041】
また、本発明のモノクローナル抗体1を得る方法としては、例えば以下の方法が挙げられる。すなわち、前記した如き方法で得られた免疫原を免疫した、例えばラット、マウス等の動物の、例えば脾細胞、リンパ球等の免疫感作された細胞と、例えば骨髄腫細胞等の永久的に増殖する性質を有する細胞とを、ケラーとミルシュタインらにより開発された自体公知の細胞融合技術(Nature, 256, 495, 1975)により融合させてハイブリドーマを作製し、配列番号1で表されるアミノ酸配列に特異的に結合するモノクローナル抗体を生産するハイブリドーマを選択する。選択した該ハイブリドーマを培地中で培養するか、動物の腹腔内に投与して腹水中に抗体を産生させて、該培養物又は腹水より目的のモノクローナル抗体を採取すればよい。あるいは、遺伝子組換え技術等を応用した自体公知の方法(Eur.J.Immunol., 6, 511, 1976)により前記した如き性質を有する抗体を産生する細胞を作製し、この細胞を培養することにより目的の本発明のモノクローナル抗体1を採取すればよい。
【0042】
本発明に係る抗体1の産生方法の一例を、モノクローナル抗体を製造する方法を例にとり、以下に説明する。
【0043】
すなわち、免疫原[(a)本発明に係るHptのα鎖のアミノ酸配列(例えば配列番号2又は配列番号3で表されるアミノ酸配列)を持つポリペプチド、(b)本発明に係るHptのα鎖のアミノ酸配列(例えば配列番号2又は配列番号3で表されるアミノ酸配列)の部分配列であって、配列番号1で表されるアミノ酸配列を含有するポリペプチド、又は(c)proHpt(全長)]と、完全(若しくは不完全)フロイントアジュバント等のアジュバントとを混合して懸濁液を作製する。この懸濁液を前述の如き適当な動物に、通常1ng~10mgの量の抗原を、通常1~5週間毎に、好ましくは2~5週間毎に、通常2~10回、好ましくは3~8回、皮下、静脈内あるいは腹腔内に投与して免疫する。
【0044】
最終免疫から3~4日後に、免疫した動物から脾臓やリンパ節を無菌的に摘出する。摘出する臓器としては、脾臓が最も好ましい。摘出した脾臓から、脾細胞を常法により調製する。得られた脾細胞と、例えばNS-1,Sp2,Sp2/0,X63等のミエローマ細胞とを常法に従い細胞融合する。細胞融合の方法としては、ポリエチレングリコールを用いる方法、細胞電気融合法等が挙げられるが、ポリエチレングリコールを用いる方法が簡便で好ましい。
【0045】
次いで、常法に従って、ハイブリドーマをHAT培地を用いて選択する。
選択されたハイブリドーマを培養し、培養上清を採取する。その培養上清を通常のELISA法、間接免疫蛍光法や、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動後にポリビニリデンジフルオリド(PVDF)膜を用いるウェスタンブロット免疫染色法等に供して、proHptを特異的に認識し、且つ配列番号1で表されるアミノ酸配列に特異的に結合する抗体を産生する細胞(ハイブリドーマ)を選択する。
【0046】
次いで、限界希釈法によるクローニングを数回行い、安定して高力価の抗体を産生することが認められたものを本発明のモノクローナル抗体1産生ハイブリドーマ株として選択する。
【0047】
以上の方法で、目的とする本発明のモノクローナル抗体1を産生するハイブリドーマを獲得することができる。
【0048】
獲得したハイブリドーマから本発明のモノクローナル抗体1を取得するには、前記方法により得られたハイブリドーマを培養し、得られた培養上清から常法によりモノクローナル抗体1を精製すればよい。
【0049】
ハイブリドーマを培養する方法としては、動物の腹腔内にハイブリドーマを投与する腹水形成法や、該ハイブリドーマを培養する細胞培養法等の常法が挙げられる。
【0050】
培養上清やマウス腹水からのモノクローナル抗体の精製は、硫酸アンモニウム塩折法、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、分子ふるいクロマトグラフィー等の公知の方法を適宜選択及び組み合わせて行えばよい。
【0051】
本発明に係る抗体1の好ましい具体例としては、本発明者等がPCT/JP2020/020669において樹立した、Hptのα鎖の配列番号1で表されるアミノ酸配列の領域に特異的に結合する新規な抗体1である「10-7G2A」が挙げられる。
【0052】
(III)proHptの測定方法
本発明の炎症性腸疾患の診断を補助する方法において、該方法に用いられるデータを得るためにproHpt量を測定する工程は、抗体1を用いて還元処理した試料中のproHpt量を測定すればよい。その測定方法としては、例えば、酵素免疫測定法(EIA)、放射免疫測定法(RIA)、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、蛍光免疫測定法(FIA)、簡易イムノクロマトグラフィーによる測定法、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、電気泳動法、キャピラリー電気泳動法、キャピラリーチップ電気泳動法、質量分析法、免疫比ろう法、免疫比濁法等の免疫凝集法に準じた測定法、イムノブロット法等が挙げられる。
【0053】
尚。proHptの量は、proHptの実際の量(proHptのタンパク質量)でなくてもよい。濃度が判っている精製proHptを用いて測定を行った測定実測値(蛍光強度、吸光度等のシグナル値等)を基準の値とし、その値に対する被験者由来試料を用いて同様の測定を行ったproHptの測定実測値の相対値(relative unit)であってもよい。
【0054】
proHpt量の具体的な測定方法としては、例えば下記方法A、方法B、又は方法Cが挙げられる。
【0055】
方法A:下記工程(A-1)~(A-4)を含む方法:
(A-1)被験者由来試料を還元処理する工程
(A-2)前記工程(A-1)で得られた試料からproHptを分離する工程、
(A-3)前記工程(A-2)で得られたproHptと前記抗体1とを接触させて、proHptと抗体1との複合体を形成させる工程、
(A-4)前記工程(A-3)で得られた複合体の量を測定することにより、proHpt量を測定する工程。
【0056】
方法B:下記工程(B-1)~(B-4)を含む方法:
(B-1)被験者由来試料を還元処理する工程
(B-2)前記工程(B-1)で得られた試料と前記抗体1とを接触させて、前記試料中のproHptと抗体1との複合体を形成させる工程、
(B-3)前記工程(B-2)で得られた複合体を分離する工程、
(B-4)前記工程(B-3)で分離した複合体の量を測定することにより、proHpt量を測定する工程。
【0057】
方法C:下記工程(C-1)~(C-3)を含む方法:
(C-1)被験者由来試料を還元処理する工程、
(C-2)前記工程(C-1)で得られた試料と、前記抗体1と、proHptのβ鎖を認識する抗体である抗体2とを接触させて、前記試料中のproHptと抗体1と抗体2との複合体を形成させる工程、
(C-3)前記工程(C-2)で得られた複合体の量を測定することにより、proHpt量を測定する工程。
【0058】
各方法について、それぞれ以下に説明する。
【0059】
[方法A]
前記方法Aの具体的な方法としては、例えばウエスタンブロッティング法による方法がある。
【0060】
例えば、被験者由来試料を前記した方法により還元処理して、試料中のHptをα鎖とβ鎖に解離させる。
次いで、還元処理した試料を、定法に従ってSDS-PAGE,等電点電気泳動,二次元電気泳動等の電気泳動に付して、proHptを試料中の他の蛋白質と分離した後、ゲル中のproHptをウエスタンブロッティングの常法に従い、PVDF膜(Polyvinylidene Difluoride)やニトロセルロース膜等のブロット膜に移動(ブロッティング)および固定化する。転写方法としては、電気転写等の方法が挙げられる。
転写後のブロット膜を本発明に係る抗体1(一次抗体)を含有する溶液に含侵させて、ブロット膜上のproHptと抗体1とを反応させ、proHptと抗体1との複合体を形成させる。次いで測定可能な標識物質で標識された標識抗体(標識二次抗体)を含有する溶液に含侵させて反応させることにより、ブロット膜上にproHptと抗体1と標識二次抗体との複合体を形成させる。次いで、標識抗体の標識物質に応じて適当な発色基質を反応させて、泳動画分を検出する。泳動画分の泳動位置から、分子量 57kDaの画分をproHptの分離画分と決定し、その画分の標識物質に由来する量又は蛋白量を測定し、被験者由来試料中のproHpt量とする。
【0061】
[方法B]
前記方法Bの具体的な方法としては、例えばウエスタンブロッティング法又はELISA法による方法がある。
方法Bをウエスタンブロッティング法により実施する方法を例にとり、以下に説明する。
【0062】
例えば被験者由来試料を前記した方法により還元処理して、試料中のHptをα鎖とβ鎖に解離させる。還元処理した試料を本発明に係る抗体1(一次抗体)と反応させて、試料中のproHptと抗体1との複合体を形成させる。
次いで、得られた試料について、定法に従ってSDS-PAGE、等電点電気泳動、二次元電気泳動等の電気泳動に付して、該複合体を試料中の他の蛋白質と分離する。次いでゲル中の該複合体を、ウエスタンブロッティングの常法に従い、PVDF膜(Polyvinylidene Difluoride)やニトロセルロース膜等のブロット膜に移動(ブロッティング)および固定化する。
転写後のブロット膜を、測定可能な標識物質で標識された標識抗体(標識二次抗体)を含有する溶液に含侵させて反応させることにより、ブロット膜上にproHptと抗体1と標識二次抗体との複合体を形成させる。次いで、標識抗体の標識物質に応じた適当な発色基質を反応させて、泳動画分を検出する。泳動画分の泳動位置から、分子量 57kDaの画分をproHptの分離画分と決定し、その画分の標識物質に由来する量又は蛋白量を測定し、被験者由来試料中のproHpt量とする。
【0063】
前記方法A及び方法Bで行われる還元処理の方法は、前記「(I)還元処理」の項で説明した通りであり、それに用いられる試薬の具体例及び好ましい例、及び処理条件等の具体例及び好ましい例も同じである。
【0064】
前記方法A及び方法Bに用いられる本発明に係る抗体1(一次抗体)については、前記「(1)本発明に係る抗体1」の項にて説明した通りであり、好ましい例、具体例等も同じである。また、標識二次抗体として用いられる抗体は、抗体1(一次抗体)を作製させた動物種由来の抗体を認識する抗体である。標識二次抗体の標識物質としては、後記する方法Cにおいて説明する、本発明に係る抗体1又は本発明に係る抗体2を標識する標識物質と同じものが挙げられ、好ましい例、具体例等も同じである。
また該標識物質の標識方法及び該標識の測定方法等の具体例及び好ましい例も同様である。標識物質を検出するために、ウエスタンブロッティング用の市販の発光試薬(ImmunoStar Zeta、富士フイルム和光純薬(株)製)等を用いてもよい。
【0065】
方法A又は方法BでproHptを測定する方法として方法Aを例にとり、説明すると、以下の通りである。
被験者由来試料を、20w/v% 2-メルカプトエタノールを含有する緩衝液及び精製水と混合することにより還元処理する。次いで、得られた試料を、定法に従ってSDS-PAGEに付す。得られた泳動ゲルを、ウエスタンブロッティングの常法に従い、PVDF膜(Polyvinylidene Difluoride)やニトロセルロース膜等のブロット膜にブロッティングおよび固定化する。
転写後のブロット膜を本発明に係る抗体1(例えば10-7G2A)を含有する緩衝液液に含侵させる。次いでペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG抗体を含有する溶液に含侵させる。次いで、反応後のブロット膜をPBS-T等の緩衝液で洗浄後、ImmunoStar Zeta(富士フイルム和光純薬(株)製)等のペルオキシダーゼ発光基質を含有する溶液に浸漬させて、発色させる。発色後のブロット膜を精製水等で洗浄して、反応を停止させる。各画分の発光シグナル値を検出することにより、proHptに相当する分子量 57kDaの画分をproHpt画分と決定する。その画分の標識物質に由来する量を測定する。別に、濃度既知のproHptを含有する試料を用いて同様の測定を行う。被験者由来試料を用いた測定で得られた標識物質に由来する量の、濃度既知のproHptを含有する試料を用いて同様の測定を行って得られた標識物質に由来する量に対する比率を、被験者由来試料中のproHptの量とする。
【0066】
[方法C]
前記方法Cの具体的な方法としては、例えば本発明に係る抗体1と、proHptのβ鎖に結合する抗体(抗体2)を用いた免疫学的測定方法が挙げられる。
【0067】
すなわち、被験者由来試料を前記した方法により還元処理して、試料中のHptをα鎖とβ鎖に解離させる。
還元処理した試料を、本発明に係る抗体1及びproHptのβ鎖に結合する抗体と接触させて、抗体1とproHptとproHptのβ鎖に結合する抗体との複合体を形成させる。得られた当該複合体の量を測定する。以上の方法により、proHptを特異的に測定することができる。
【0068】
方法Cで行われる還元処理の方法は、前記「(I)還元処理」の項で説明した通りであり、それに用いられる試薬の具体例及び好ましい例、及び処理条件等の具体例及び好ましい例も同じである。
【0069】
方法Cに用いられるproHptのβ鎖を認識する抗体としてはHptのβ鎖に結合する抗体も用いることができる。proHptのβ鎖のみを特異的に認識する抗体又はHptのβ鎖のみを特異的に認識する抗体が好ましい。
該抗体を、以下、「本発明に係る抗体2」、又は単に「抗体2」と記載する。
【0070】
本発明に係る抗体2は、モノクローナル抗体でもポリクローナル抗体でもよい。モノクローナル抗体がより好ましい。市販品でも常法により適宜調製されたものでもよい。また、これらを単独であるいはこれらを適宜組み合わせて用いる等は任意である。
【0071】
また、抗体2は、抗体2の抗原結合断片であってもよく、具体的には、例えば抗体2のFab、Fab’、F(ab')2、Fv、Fd、一本鎖Fv(scFv)、ジスルフィド結合したFv(sdFv)、VL、VH、ダイアボディー((VL-VH)2もしくは(VH-VL)2)、トリアボディー(三価抗体)、テトラボディー(四価抗体)、ミニボディー((scFV-CH3)2)、IgG-delta-CH2、scFv-Fc、(scFv)2-Fcフラグメント等であって、proHptのβ鎖を特異的に認識するものが挙げられる。
【0072】
抗体2の由来は特に限定されないが、例えばウサギ、ラット、マウス、羊、山羊、馬等に由来する、前記した性質を有するものが挙げられる。市販品、あるいは例えば「免疫学実験入門、第2刷、松橋直ら、(株)学会出版センター、1981」等に記載の方法で取得されたものであって、前記した性質を有するものを使用すればよい。
【0073】
抗体2は、常法によるポリクローナル抗体の作製方法又はモノクローナル抗体の作製方法に従い、proHptあるいはHptのβ鎖又はその断片を動物に免疫し、生体内に産生される抗体を採取、精製し、スクリーニングすることによって得ることができる。
【0074】
抗原として用いられるHptについては、常法により、例えば抗Hpt抗体カラムを用いる方法により、癌細胞株の培養液又は培養上清から抽出することにより得ることができる。市販のものを用いても構わない。
【0075】
また、抗原として用いられるproHpt(全長)は、既報(Mi-Kyung Oh, et al., FEBS letters vol. 589, pp.1009-1017, 2015)に従ってC1RLによって切断される部分にアミノ酸変異を入れたHptの発現ベクターを作製し、例えばHEK293細胞等の適当な宿主細胞に過剰発現させ、その培養上清を回収後、Hpt結合担体を用いたアフィニティーカラムクロマトグラフィーで回収・精製することによって得られる。
【0076】
抗原として用いられるproHpt又はHptのβ鎖又はその断片は、そのアミノ酸配列に従って、例えば通常の化学合成法により製造することができる。
市販のβ鎖サブユニットのリコンビナント品を用いてもよい。例えばRecombinant Human Haptoglobulin beta protein (ab63120)(Abcam plc.製)が挙げられる。
【0077】
抗体2は、市販のものを用いてもよい。例えばHaptoglobin (5C5) Monoclonal Antibody(Bioss Inc.製、ウサギ抗ヒトハプトグロビン抗体、IgG、カタログNo.bsm-52899R)等が挙げられる。
【0078】
方法Cにおいて、本発明に係る抗体1とproHptと本発明に係る抗体2の複合体を測定する方法としては、例えば、酵素免疫測定法(EIA)キャピラリー電気泳動法、キャピラリーチップ電気泳動法等の、前記した方法が挙げられる。
【0079】
これらの測定原理としては、例えばサンドイッチ法、競合法、二抗体法等が挙げられ、サンドイッチ法が好ましい。また、不溶性担体等を用い、B/F分離を行うヘテロジニアスな方法で測定することも、B/F分離を行わないホモジニアスな方法で測定することも可能である。
【0080】
―サンドイッチ法―
方法Cにおいて、サンドイッチ法による測定方法としては、被験者由来試料と該抗体1と該抗体2とを接触させて、proHptと該抗体1と該抗体2との複合体を形成させ、当該複合体の量を測定する方法が挙げられる。
【0081】
前記サンドイッチ法による測定方法に用いられる、抗体1及び/又は抗体2は、標識物質等で標識されているものが好ましい。例えば本発明に係る抗体1が標識物質で標識された抗体1(標識抗体1)を用いる場合、標識抗体1の標識物質量に基づいて複合体1を測定すればよく、例えば抗体2が標識物質で標識された抗体2(標識抗体2)を用いる場合、標識抗体2の標識物質量に基づいて複合体1又は複合体2を測定すればよい。
【0082】
抗体1又は抗体2を標識するために用いられる標識物質としては、例えば通常の免疫測定法等において用いられるペルオキシダーゼ(POD),マイクロペルオキシダーゼ,アルカリホスファターゼ,β-ガラクトシダーゼ,グルコースオキシダーゼ,グルコース-6-リン酸脱水素酵素,アセチルコリンエステラーゼ,リンゴ酸脱水素酵素,ルシフェラーゼ等の酵素類;例えば放射免疫測定法(Radioimmunoassay、RIA)で用いられる99mTc,131I,125I,14C,3H、32P,35S等の放射性同位元素;例えば蛍光免疫測定法(Fluoroimmunoassay、FIA)で用いられるフルオレセイン,ダンシル,フルオレスカミン,クマリン,ナフチルアミン、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ローダミン、ローダミンXイソチオシアネート、スルフォローダミン101、ルシファーイエロー、アクリジン、アクリジンイソチオシアネート、リボフラビンあるいはこれらの誘導体等の蛍光性物質;例えばルシフェリン,イソルミノール,ルミノール,ビス(2,4,6-トリフロロフェニル)オキザレート等の発光性物質;例えばフェノール,ナフトール,アントラセンあるいはこれらの誘導体等の紫外部に吸収を有する物質;例えば4-アミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル,3-アミノ-2,2,5,5-テトラメチルピロリジン-1-オキシル,2,6-ジ-t-ブチル-α-(3,5-ジ-t-ブチル-4-オキソ-2,5-シクロヘキサジエン-1-イリデン)-p-トリルオキシル等のオキシル基を有する化合物に代表されるスピンラベル化剤としての性質を有する物質等の標識物質;例えばHiLyte Fluor 647、HiLyte Fluor 488、HiLyte Fluor 555、HiLyte Fluor 680、HiLyte Fluor 750等のHiLyte系色素〔いずれもハイライトバイオサイエンス社(HiLyte Bioscience, Inc.)商品名〕;例えばAlexa Fluor Dye 350、Alexa Fluor Dye 430、Alexa Fluor Dye 488、Alexa Fluor Dye 532、Alexa Fluor Dye 546、Alexa Fluor Dye 555、Alexa Fluor Dye 568、Alexa Fluor Dye 594、Alexa Fluor Dye 633、Alexa Fluor Dye 647、Alexa Fluor Dye 660、Alexa Fluor Dye 680、Alexa Fluor Dye 700、Alexa Fluor Dye 750等のAlexa系色素〔いずれもモレキュラープローブス社(Molecular Probes)商品名〕;例えばCy3、Cy3.5、Cy5、Cy5.5、Cy7等のCyDye系色素〔いずれもアマシャムバイオサイエンス社(Amersham Biosciences)商品名〕;例えばクーマシーブリリアントブルーR250,メチルオレンジ等の色素等、通常この分野で用いられている標識物質が全て挙げられる。中でも、ペルオキシダーゼ,マイクロペルオキシダーゼ,アルカリホスファターゼ,β-ガラクトシダーゼ,グルコースオキシダーゼ,グルコース-6-リン酸脱水素酵素,アセチルコリンエステラーゼ,リンゴ酸脱水素酵素,ルシフェラーゼ等の酵素類が好ましく、ペルオキシダーゼがより好ましい。
【0083】
また、前記した如き標識物質を抗体1又は抗体2に結合させる(標識する)には、例えば自体公知のEIA、RIA、FIA等の免疫測定法等において一般に行われている自体公知の標識方法を適宜利用して行えばよい。
【0084】
また、前記した如き標識物質を蛋白質に結合させる(標識する)キットも各種市販されているので、それらを用い、キットに添付の取扱説明書に従って、抗体1又は抗体2の標識を行ってもよい。
【0085】
また、高速液体クロマトグラフィー、キャピラリー電気泳動法、キャピラリーチップ電気泳動法を実施する場合、抗原抗体複合物と遊離の標識抗体とをより明確に分離するために、例えばDNA、RNA等の核酸等の分離向上物質を結合させてもよい(特許第3070418号、特許第3531372号等)。
【0086】
尚、測定に用いられる標識抗体1又は標識抗体2を含有する溶液中には、通常この分野で安定化剤として使用されているもの、例えば糖類、蛋白質、界面活性剤等が、通常この分野で使用される濃度範囲内で含有されていてもよい。
【0087】
前記の如く抗体1及び/又は抗体2を標識する場合、遊離の標識物質で標識された抗体(標識抗体)と複合体とを分離する必要がある。そのため、例えば複合体1を形成する場合、抗体1と抗体2のいずれかの抗体を標識物質で標識し、標識しない残りの抗体1又は抗体2を不溶性担体に固定化することが好ましい。この場合、抗体1を不溶性担体に固定し、抗体2を標識物質で標識することが好ましい。遊離の標識抗体と複合体の分離は、公知のB/F分離法により分離することができる。
【0088】
抗体1又は抗体2を固定化する不溶性担体としては、通常の免疫学的測定法等で用いられるものであればいずれも使用可能である。具体的には例えばポリスチレン,ポリプロピレン,ポリアクリル酸,ポリメタクリル酸,ポリアクリルアミド,ポリグリシジルメタクリレート,ポリ塩化ビニール,ポリエチレン,ポリクロロカーボネート,シリコーン樹脂,シリコーンラバー等の合成高分子化合物、例えば多孔性ガラス,スリガラス,セラミックス,アルミナ,シリカゲル,活性炭,金属酸化物等の無機物質等が挙げられる。また、これら不溶性担体は、マイクロタイタープレート、ビーズ、チューブ、多数のチューブが一体成形された専用のトレイ、ディスク状片、微粒子(ラテックス粒子)、等多種多様の形態で使用し得る。なかでもマイクロプレートやビーズは、洗浄の容易さおよび多数の検体(試料)を同時処理する際の操作性等の点から好ましい。
【0089】
本発明に係る抗体1又は抗体2を不溶性担体に固定化させる方法は、通常この分野で利用される方法に準じてなされればよく、特に限定されない。通常この分野で利用される自体公知の固定化方法は全て挙げられ、例えば、化学的結合法(共有結合により固定化する方法)、物理的に吸着させる方法等が挙げられる。
【0090】
その好ましい例としては、例えば、抗体1又は抗体2を通常0.1μg/mL~20mg/mL、好ましくは1μg/mL~5mg/mLの範囲で含む溶液と不溶性担体とを接触させ、適当な温度で所定時間反応させて抗体1又は抗体2が結合した不溶性担体(固相)を得る方法が挙げられる。
【0091】
抗体1又は抗体2の溶液を調製するための溶媒としては、抗体1又は抗体2が不溶性担体上に吸着あるいは結合するのを妨げる性質を有するものでなければよく、例えば精製水、例えばpH 5.0~10.0、好ましくはpH 6.5~8.5の中性付近に緩衝作用を有する緩衝液(例えばリン酸緩衝液、トリス緩衝液、グッド緩衝液、グリシン緩衝液、ホウ酸緩衝液、等)が好ましい。また、これらの緩衝液中の緩衝剤濃度としては、通常10~500 mM、好ましくは10~300 mMの範囲から適宜選択される。また、この溶液中には、抗体1又は抗体2が不溶性担体上に吸着あるいは結合するのを妨げない量であれば、例えば糖類、NaCl等の塩類、界面活性剤、防腐剤、蛋白質等が含まれていてもよい。
【0092】
尚、通常この分野で行われているブロッキング処理、すなわち、上述のごとくして得られた抗体1又は抗体2が結合した不溶性担体を、さらにproHptやHptとは無関係の蛋白質、例えばヒト血清アルブミン、牛血清アルブミン、スキムミルク等の乳蛋白質、卵白アルブミン、市販のブロッキング剤(例えばブロックエース(DSファーマバイオメディカル(株)製)等を含有する溶液中に浸漬する処理を行うことは、測定時の非特異的反応を防ぐ点から望ましい。
【0093】
また、この分野で用いられているアビジン-ビオチン反応のような非常に強固な結合反応を利用して抗体1又は抗体2を不溶性担体に固定化することも可能である。
【0094】
更に、上述の如く、抗体1又は抗体2を固定化した不溶性担体は、自体公知の免疫比濁法や免疫比ろう法にも用いることができる。
【0095】
標識抗体1又は標識抗体2を用いた反応の結果生成する複合体中の標識量を測定する方法としては、標識物質の種類により異なるが、標識物質が有している何らかの方法により検出し得る性質に応じて、それぞれ所定の方法に従い実施すればよい。例えば、標識物質が酵素の場合には、酵素免疫測定法により測定を行えばよい。標識物質が放射性物質の場合には、例えばRIAで行われている常法に従い、該放射性物質の出す放射線の種類および強さに応じて液浸型GMカウンター、液体シンチレーションカウンター、井戸型シンチレーションカウンター、HPLC用カウンター等の測定機器を適宜選択して使用し、測定を行えばよい。標識物質が蛍光性物質の場合には、例えば蛍光光度計等の測定機器を用いるFIAで行われている常法により測定を行えばよい。標識物質が発光性物質の場合には、フォトカウンター等の測定機器を用いる常法により測定を行えばよい。標識物質が紫外部に吸収を有する物質の場合には、分光光度計等の測定機器を用いる常法により測定を行えばよい。標識物質がスピンの性質を有する場合には、電子スピン共鳴装置を用いる常法により測定を行えばよい。
【0096】
更に、標識物質が酵素である場合は、これを発色試薬と反応させて発色反応に導き、その結果生成する色素量を分光光度計等により測定する方法等の自体公知の方法が挙げられる。尚、発色反応を停止させるために、例えば反応液に1~6Nの硫酸等の酵素活性阻害剤や、キットに添付の反応停止剤を添加する等、通常この分野で行われている反応停止方法を利用してもよい。
【0097】
前記発色試薬としては、例えばテトラメチルベンジジン(TMB)、3,3',5,5'-テトラメチルベンジジン(TMBZ)、o-フェニレンジアミン、o-ニトロフェニル-β-D-ガラクトシド、2,2’-アジノ-ビス(3-エチルベンズチアゾリン-6-スルホン酸)(ABTS)、N-エチル-N-スルホプロピル-m-アニシジン(ADPS)、p-ニトロフェニルリン酸等、通常この分野で用いられる発色試薬が挙げられる。また、これらの使用濃度は、通常この分野で用いられる濃度範囲から適宜設定すればよい。
また、発色反応を停止させるには、例えば反応液に1~6Nの塩酸等の酵素活性阻害剤を添加する等、通常この分野で行われている反応停止方法を利用すればよい。
【0098】
また、標識されていない抗体のみを用いてproHptを測定する方法としては、例えば得られた複合体に由来する性質を利用して測定する方法、具体的には、複合体自体が有するプロテアーゼ活性等の酵素活性や蛍光偏向度を吸光度として測定する方法、或いは、表面プラズモン共鳴などのホモジニアスイムノアッセイ系等の方法が挙げられる。
【0099】
前記本発明に係るproHpt量の測定方法に用いられる抗体1及び抗体2の濃度は、測定方法に応じて、通常この分野で使用される範囲で適宜設定されればよい。
【0100】
方法Cに用いられる、試薬及びその測定時の濃度、測定を実施するに際しての測定条件等(反応温度、反応時間、反応時のpH,測定波長、測定装置等)は、すべて自体公知の前記した如き免疫学的測定法の測定操作法に準じて選択すればよい。使用する自動分析装置、分光光度系等も通常この分野で使用されているものは、いずれも例外なく使用し得る。
【0101】
方法Cに用いられる抗体1及び抗体2の溶液に用いられる溶媒としては、緩衝液が好ましい。該緩衝液としては、通常この分野で使用されるものであれば特に限定されないが、通常pH 5.0~10.0、好ましくはpH 6.5~8.5の中性付近に緩衝作用を有するものが挙げられる。具体的には、例えばトリス緩衝液、リン酸緩衝液、ベロナール緩衝液、ホウ酸緩衝液、グッド緩衝液等の、通常抗原抗体反応を利用した測定法に用いられている緩衝液は全て挙げられる。これらの緩衝液の緩衝剤濃度としては、通常10~1000 mM、好ましくは10~300 mMの範囲から適宜選択される。また、そのpHとしては抗原抗体反応を抑制しない範囲であれば特に限定されないが、通常5~9の範囲が好ましい。
【0102】
本発明に係る抗体1及び抗体2を用いたサンドイッチ法によりproHpt量を測定する方法としては、例えば以下の方法が挙げられる。
還元処理した試料を本発明に係る抗体1と反応させると、抗体1はproHptのα鎖に結合する。次いで、proHptのβ鎖を認識する抗体(本発明に係る抗体2)を標識物質で標識した標識抗体2を反応させると標識抗体2はproHptのβ鎖に結合する。そこで、得られた抗体1-proHpt-標識抗体2の複合体の量を測定することにより、被検試料中のproHpt量を得ることができる。
【0103】
サンドイッチ法によりproHpt量を測定する別の方法としては、例えば以下の方法が挙げられる。すなわち。還元処理した試料を、proHptのβ鎖を認識する抗体(抗体2)と反応させると、抗体2はproHptのβ鎖に結合する。次いで本発明に係る抗体1(抗体1)を標識物質で標識した標識抗体1と反応させると、標識抗体1はproHptのα鎖に結合する。そこで、得られた標識抗体1-proHpt標識抗体2の複合体の量を測定することにより、被検者由来試料中のproHpt量を得ることができる。
【0104】
方法Cの具体例として、標識物としてペルオキシダーゼ(POD)を用い、不溶性担体に固定化した本発明に係る抗体1と、PODで標識した抗体2を用いて試料中のproHpt濃度を測定する場合を例にとり、以下に記載する。
【0105】
まず、適当な緩衝液(例えば0.1M Tris緩衝液のようなグッド緩衝液)に還元剤(例えばジチオスレイトール)を適当濃度(通常500 mM程度)になるように添加した還元剤溶液を調製する。そして、proHptを含有する被験者由来試料(例えば血清等)に還元剤溶液を添加(終濃度50 mM程度)後、0~120℃程度で1分~100分程度(通常30分間程度)加温して還元処理する。
次いで、還元処理した被験者由来試料を、本発明に係る抗体1(例えば10-7G2A)を固定化した不溶性担体(本発明に係る抗体1を0.1ng~0.1mg含有)と接触させ、4~40℃で3分~20時間反応させて不溶性担体上に、本発明に係る抗体1とproHptの複合体、及び本発明に係る抗体1と還元処理で解離したHptのα鎖の複合体を生成させる。次に、通常の洗浄処理を行うと、還元処理で解離したHptのβ鎖は除去される。その後、PODで標識した抗体2を含有する溶液10~100μL(抗体2を0.01ng~0.1mg含有)と4~40℃で3分~20時間反応させて、抗体1-proHpt―標識抗体2の複合体を不溶性担体上に生成させる。続いて、TMBZ溶液等の発色液を添加した後、一定時間反応させ、1N HCl等の反応停止液を加えて反応を停止させ、波長450nmの吸光度を測定する。
一方、濃度既知のproHptについて前記と同じ試薬を用い同様の操作を行って測定値と濃度の検量線を作成する。前記測定で得られた測定値を、当該検量線にあてはめることにより、proHptの量を求める。
又は、濃度既知のproHptについて前記と同じ試料を用い同様の操作を行って、同様に吸光度を測定する。被験者由来試料を用いて得られた吸光度の、濃度既知のproHptを用いて得られた吸光度に対する比率を求め、この値を被験者由来試料中のproHpt濃度の相対値(relative unit)としてもよい。
【0106】
―キャピラリー電気泳動法―
キャピラリー電気泳動法を利用した、方法CによるproHpt量の測定法について、以下に説明する。
キャピラリー電気泳動法又はキャピラリーチップ電気泳動法でproHptを測定するには、前記した方法で還元処理した被験者由来試料を用い、例えばJ.Chromatogr. 593 253-258 (1992)、Anal.Chem. 64 1926-1932 (1992)、WO2007/027495等に記載の方法に準じて行えばよい。
【0107】
具体的には、例えば以下の方法が挙げられる。
即ち、被験者由来試料を前記した方法により還元処理して、試料中のHptをα鎖とβ鎖に解離させる。
次いで、還元処理した試料と、標識物質で標識した本発明に係る抗体1と、proHptのβ鎖を認識する抗体(抗体2)とを混合し、25~40℃保温下に5~30分、好ましくは10秒~15分反応させる。該反応により、proHptと標識抗体1との複合体、還元処理で生じたHptのα鎖と抗体1との複合体2、及び還元処理で生じたHptのβ鎖と抗体2との複合体3が生じる。その後、生じた複合体1と、複合体2及び複合体3を、例えばキャピラリーチップ電気泳動により分離し、例えば蛍光検出器等により標識物質に由来する量を測定する。得られた複合体1由来の測定値を、濃度既知のproHpt溶液を使用して予め作成しておいたproHpt濃度と該測定値との関係を表す検量線に当てはめることにより、試料中のproHpt濃度を求めることができる。
【0108】
免疫学的測定方法によりproHptを測定する別の方法として、下記方法Dが挙げられる。
方法D:下記工程(D-1)~(D-4)を含む方法:
(D-1)被験者由来試料を還元処理する工程、
(D-2)前記工程(D-1)で得られた試料と、前記抗体1と、前記抗体1とは認識するエピトープが異なる、proHptのα鎖を認識する抗体である抗体1-2と、proHptのβ鎖を認識する抗体である抗体2とを接触させて、proHptと抗体1と抗体1-2と抗体2との複合体を形成させる工程、
(D-3)前記(D-2)で得られたproHptと抗体1と抗体1-2と抗体2との複合体を分離する工程、
(D-4)前記工程(D-3)で分離した複合体の量を測定することにより、proHpt量を測定する工程。
【0109】
方法Dは、方法Cにおいて本発明に係る抗体1とは認識するエピトープが異なる、proHptのα鎖を認識する抗体(抗体1-2)を更に組み合わせて用いて、proHptを測定する方法である。
【0110】
方法Dの具体的な方法としては、例えばキャピラリー電気泳動又はキャピラリーチップ電気泳動が挙げられる。
即ち、被験者由来試料を前記した方法により還元処理して、試料中のHptをα鎖とβ鎖に解離させる。
次いで、還元処理した試料と、標識物質で標識した抗体1と、proHptのβ鎖を認識する抗体(抗体2)と、proHptのα鎖を認識する抗体(抗体1-2)を混合し、25~40℃保温下に5~30分、好ましくは10秒~15分反応させる。該反応により、proHptと標識抗体1と抗体2と抗体1-2との複合体、還元処理で生じたHptのα鎖(α1、α2)と標識抗体1と抗体1-2の複合体2、及び還元処理で生じたHptのβ鎖と標識抗体2の複合体3、が生じる。その後、得られた反応溶液を、例えばキャピラリーチップ電気泳動により複合体1と、複合体2及び複合体3とを分離し、例えば蛍光検出器等により標識物質に由来する量を測定する。得られた複合体1由来の測定値を、濃度既知のproHpt溶液を使用して予め作成しておいたproHpt濃度と該測定値との関係を表す検量線に当てはめることにより、被験者由来試料中のproHpt濃度を求めることができる。
【0111】
方法Dで行われる還元処理の方法は、前記「(I)還元処理」の項で説明した通りであり、それに用いられる試薬の具体例及び好ましい例、及び処理条件等の具体例及び好ましい例も同じである。
【0112】
本発明に係るproHptの測定に用いられる抗体1-2としては、proHptのα鎖を認識する抗体であって、本発明に係る抗体1とは認識するエピトープが異なる抗体であればよく、Hptのα鎖を認識する抗体も用いることができる。抗体1-2は、モノクローナル抗体でもポリクローナル抗体でもよい。モノクローナル抗体がより好ましい。市販品でも常法により適宜調製されたものでもよい。また、これらを単独であるいはこれらを適宜組み合わせて用いる等は任意である。該抗体を、以下「本発明に係る抗体1-2」又は単に「抗体1-2」と記載する。
【0113】
抗体1-2は、抗体1-2の抗原結合断片であってもよく、具体的には、例えば抗体1-2のFab、Fab’、F(ab')2、Fv、Fd、一本鎖Fv(scFv)、ジスルフィド結合したFv(sdFv)、VL、VH、ダイアボディー((VL-VH)2もしくは(VH-VL)2)、トリアボディー(三価抗体)、テトラボディー(四価抗体)、ミニボディー((scFV-CH3)2)、IgG-delta-CH2、scFv-Fc、(scFv)2-Fcフラグメント等であって、proHptのα鎖を認識するものが挙げられる。
【0114】
本発明に係る抗体1-2は、陰イオン性物質等の荷電キャリヤー分子で標識されていることが好ましい。具体的には、例えば核酸鎖で標識されていることが好ましい。この場合、抗体1-2は荷電キャリヤー分子と上記した検出に係る標識物質の両方で標識されていてもよい。
【0115】
本発明に係る抗体1-2の例としては、市販品としては、Haptoglobin Mouse anti-Human Monoclonal (26E11) Antibody(LifeSpan BioSciences.Inc製、マウス抗ヒトハプトグロビン抗体、IgG、カタログNo.LS-C62011)等が挙げられる。
【0116】
キャピラリー電気泳動法及びキャピラリーチップ電気泳動法に用いられる本発明に係る抗体1、抗体2、抗体1-2の各抗体を標識する標識物質等の具体例等は、前記した「方法C」の「-サンドイッチ法-」に関する説明に記載された通りである。
また、キャピラリー電気泳動及びキャピラリーチップ電気泳動の具体的な実施方法及びそれに用いられる本発明に係る抗体1-2以外の試薬等の詳細は、前記した[方法C]において説明した通りである。
【0117】
本発明に係るproHptの測定方法は、用手法に限らず、自動分析装置を用いた測定系で行ってもよい。尚、用手法又は自動分析装置を用いて測定を行う場合の試薬類等の組み合わせ等については、特に制約はなく、適用する自動分析装置の環境、機種に合わせて、或いは、他の要因を考慮にいれて最も良いと思われる試薬類等の組み合わせを適宜選択して用いればよい。
【0118】
3.炎症性腸疾患の診断を補助する方法
本発明の炎症性腸疾患の診断を補助する方法は、被験者由来試料中のproHpt量を、前記した「2.proHptの測定方法]に記載された測定方法により測定することにより、その測定結果に基づいて判定するという、炎症性腸疾患の診断を補助する方法である。
【0119】
すなわち、本発明に係る抗体1を用い、前記した「2.proHptの測定方法]の項に記載の方法により被験者由来試料中のproHptの量を測定し、その結果を基に、炎症性腸疾患を判定するための、proHptに関するデータ(例えばproHptの存在の有無、濃度、量の増加の程度等の情報)を得る。得られたデータを用いて、例えば下記の方法で、炎症性腸疾患の判定(診断・検査)を行う。
【0120】
例えば予め基準値(カットオフ値)を設定しておく。別に、被験者由来試料中のproHptの量(測定値等)のデータを得る。得られたデータをその基準値と比較してproHptの量がその基準値以上か否かを決定し、決定した結果のデータを得る。得られた結果が、被験者由来試料中のproHptの量が基準値以上であった、という場合には、試料を提供した被験者は炎症性腸疾患(例えば潰瘍性大腸炎やクローン病)に罹患している可能性がある、又はその可能性が高い等の判定が可能である。proHptの測定結果(測定値)が基準値未満の場合には、該被験者は炎症性腸疾患に罹患していない可能性がある(炎症性腸疾患陰性)又は罹患している可能性が低い、等の判定が可能である。
【0121】
前記基準値は、炎症性腸疾患患者と非炎症性腸疾患(非潰瘍性大腸炎や非クローン病)患者由来試料を用いて前記測定方法により試料中のproHpt量を測定し、その値の境界値等を元に設定されればよい。非炎症性腸疾患者のproHpt量の平均値を基準値と設定してもよい。
【0122】
また、当該検体中のproHptの量又はその量的範囲(測定値又は測定値の範囲)に対応させて複数の判定区分を設定して炎症性腸疾患を判定してもよい。例えば、[(1)炎症性腸疾患のおそれはない、(2)炎症性腸疾患のおそれは低い、(3)炎症性腸疾患の兆候がある、(4)炎症性腸疾患のおそれが高い、等]の判定区分を設定する。そして、被験者由来試料のproHpt量の測定結果がどの判定区分に入るかを判定することにより炎症性腸疾患の判定を行うことが可能である。
【0123】
また、同一被験者において、ある時点で測定された被験者由来試料中のproHptの測定結果と、異なる時点で測定された被験者由来試料中のproHptの測定結果とを比較し、測定結果(測定値)の増減及び/又は増減の程度を評価することによっても判定が可能である。例えば、測定結果(測定値)の増加が認められた場合には、試料を提供した被験者が炎症性腸疾患へ病態が進行した可能性がある等の判定が可能である。proHptの測定値の変動が認められないという場合には、該被験者の炎症性腸疾患の病態に変化はないとの判定が可能である。測定結果(測定値)の減少が認められた場合には、該被験者の炎症性腸疾患の病態が改善されたとの判定が可能である。
【0124】
本発明の炎症性腸疾患の判定方法により被験者である患者が炎症性腸疾患に罹患している可能性がある、又はその可能性が高いと判定された場合には、更に大腸内視鏡検査や消化管造影検査、病理組織検査等の、侵襲的検査をおこなうことを選択できる。
一方、本発明の炎症性腸疾患の判定方法により被験者である患者が炎症性腸疾患に罹患していない可能性がある又はその可能性が低いと判定された場合には、前記侵襲的検査は行わずに、必要に応じて経過観察を行うという治療方針を選択することができる。
【0125】
本発明の炎症性腸疾患の診断を補助する方法によれば、炎症性腸疾患を判定することができる。また、炎症性腸疾患を健常人や大腸癌と識別することもできる。特に、潰瘍性大腸炎を健常人や大腸癌と識別することができる。
【0126】
<4.本発明の炎症性腸疾患の診断を補助するためのキット>
本発明の炎症性腸疾患の診断を補助するためのキット(以下、「本発明のキット」と略記する場合がある。)は、「「配列番号1で表されるアミノ酸配列に特異的に結合する抗体(本発明に係る抗体1)及び還元剤」を構成試薬として含むものである。
【0127】
前記本発明のキット1に含まれる本発明に係る抗体1、抗体1-2、及び還元剤は、それぞれ前記の「<3.炎症性腸疾患の診断を補助する方法>」の項で説明した通りであり、その具体例及び好ましい例等も同じである。
【0128】
また、該キットは、更に本発明に係る抗体2を含んでいてもよく、更に本発明に係る抗体1-2を含んでいてもよい。
【0129】
前記本発明のキットに含まれる本発明に係る抗体2及び抗体1-2は、前記の「<3.炎症性腸疾患の診断を補助する方法>」の項で説明した通りであり、その具体例及び好ましい例等も同じである。
【0130】
前記本発明のキットに含まれる本発明に係る抗体1又は抗体2は、不溶性担体に結合したものであってもよい。不溶性担体及び該抗体の不溶性担体への結合方法、及びこれらの好ましい例等も上記「<3.炎症性腸疾患の診断を補助する方法>」に記載されたものと同じである。
【0131】
また、本発明に係る抗体1又は抗体2は、標識物質で標識されていてもよい。標識物質及び該抗体の標識方法、及びこれらの好ましい例等も上記「<3.炎症性腸疾患の診断を補助する方法>」に記載されたものと同じである。
【0132】
更に、本発明に係る抗体1-2は、荷電キャリヤー分子で標識されているものである。その例については、上記「<3.炎症性腸疾患の診断を補助する方法>」の項で説明した通りである。
【0133】
前記本発明のキットにおける試薬中の抗体1、抗体2、及び抗体1-2の濃度は、測定方法に応じて、通常この分野で使用される範囲で適宜設定されればよい。
【0134】
また、これらキットに含まれる試薬中には、通常この分野で用いられる試薬類、例えば緩衝剤、増感剤、界面活性剤、防腐剤(例えばアジ化ナトリウム、サリチル酸、安息香酸等)、安定化剤(例えばアルブミン、グロブリン、水溶性ゼラチン、界面活性剤、糖類等)、賦活剤、共存物質の影響回避剤、標識物質検出用試薬等その他この分野で用いられているものであって、共存する試薬との安定性を阻害したり、proHptと抗体との反応又は結合を阻害したりしないものを有していてもよい。またこれら試薬類等の濃度範囲、pH等も、各々の試薬類が有する効果を発揮するために通常用いられる濃度範囲及びpH等を適宜選択して用いればよい。
【0135】
上記標識物質検出用試薬とは、本発明に係る抗体1又は抗体2が標識物質で標識されている場合、その標識を検出するものであり、標識物質の種類により適宜選択される。その具体例としては、例えばテトラメチルベンジジン、オルトフェニレンジアミン等の吸光度測定用基質、ヒドロキシフェニルプロピオン酸、ヒドロキシフェニル酢酸等の蛍光基質、CDP-StarTM、ルミノール等の発光物質、4-ニトロフェニルフォスフェート等の吸光度測定用試薬、4-メチルウンベリフェリルフォスフェート等の蛍光基質等が挙げられる。
【0136】
本発明のキットのそれぞれの構成要素の好ましい態様、具体例及び濃度等については、前記の<3.炎症性腸疾患の診断を補助する方法>の項で述べた通りである。
【0137】
更に本発明のキットは、本発明に係る抗体1や抗体2の他に、該抗体を用いたproHpt量の免疫測定等の測定に必要な試薬を必要量備えていてもよい。
【0138】
また、本発明に係るキットは、更に電気泳動を実施するための試薬等を構成要素として含んでいてもよい。その各試薬については前記の通りであり、その具体例及び好ましい例等も同じである。
【0139】
本発明のキットを構成する抗体、及び上記試薬類は、それぞれ溶液状態、凍結状態、乾燥状態、又は凍結乾燥状態であってもよい。
【0140】
本発明のキットは、当該proHptを測定する際に用いられる検量線作成用のproHptの標準品が組み合わされていてもよい。該標準品は、市販の標準品を用いても、公知の方法に従って、製造されたものを用いてもよい。
【0141】
更にまた、本発明のキットには、本発明の補助方法を行うための説明書等を含まれていてもよい。当該「説明書」とは、本発明の補助方法の特徴、原理、操作手順、判定手順等が文章又は/及び図表により実質的に記載されている本発明のキットに含まれる試薬類の取扱説明書、添付文書、パンフレット(リーフレット)等を意味する。具体的には、例えば、(i)本発明に係る測定工程の原理、操作手順等が記載されたもの、(ii)本発明に係る測定工程及び判定工程の原理、操作手順等が記載されたもの等が挙げられる。
【0142】
本発明のキットを用いれば、本発明の補助方法を簡便、短時間且つ精度よく行うことができる。
【0143】
<5. 本発明に係る炎症性腸疾患の診断補助用装置>
本発明に係る炎症性腸疾患の診断補助用装置(以下、「本発明に係る補助用装置」と略記する。)は、少なくとも(1)測定部を備えている。更に、(2)判定部、(3)出力部及び(4)入力部の一つ以上を備えていてもよい。
【0144】
本発明に係る補助用装置における測定部は、被験者由来試料中の前記本発明のバイオマーカーであるproHptの量を測定するように構成されている。具体的には、例えば、免疫学的測定法に準じた方法に用いられる装置等の測定装置が挙げられる。
尚、要すれば、測定部では、測定された測定値に基づいて、前記本発明のバイオマーカーの量を算出するように構成されていてもよい。
【0145】
本発明に係る補助用装置における判定部は、測定部における測定で得られた測定値が基準値以上か否かを判定するように構成されている。
又は、本発明に係る補助用装置における判定部は、測定部にて得られた被験者由来試料中のproHptの量を測定する測定部、及び前記proHptの量を指標として、被験者が炎症性腸疾患に罹患しているかを判定するように構成されている。
例えば、測定部にて測定された測定値を、あらかじめ設定された基準値(カットオフ値)と比較して、該基準値以上であるか、又は該基準値未満であるかを判定するように構成されていてもよい。
【0146】
本発明に係る補助用装置における出力部は、測定部にて得られた結果又は/及び判定部にて得られた結果を出力するよう構成されている。
【0147】
本発明に係る補助用装置における入力部は、操作する者の操作を受けて、測定部へ、当該測定部を作動させるための信号を送るよう構成されている。
【0148】
本発明に係る補助用装置を構成する前記(1)~(4)の装置は、同一の装置内に配置されていても、それぞれ別体となっていてもよい。
【0149】
本発明に係る補助用装置において、当該補助用装置に係る被験者、被験者由来試料、proHptについてはそれぞれ前記した通りであり、その具体例及び好ましい例等も同じである。
【0150】
本発明に係る補助用装置の測定部及び判定部によりなされる測定、判定等については、前記<3.炎症性腸疾患の診断を補助する方法>にて説明した通りであり、好ましい例、具体例等も同じである。
【0151】
前記本発明に係る補助用装置を用いれば、本発明の補助方法を簡便、短時間且つ精度よく行うことができる。
【0152】
<6. 本発明に係る炎症性腸疾患を治療する方法>
本発明に係る炎症性腸疾患を治療する方法(以下、「本発明に係る治療方法」と略記する。)は、被験者由来試料中の本発明のバイオマーカーの量を測定し、得られた測定結果に基づいて被験者が炎症性腸疾患に罹患しているか否かを判定し、その判定結果に基づいて炎症性腸疾患に罹患しているおそれがある又は炎症性腸疾患に罹患しているおそれが高いと判定された患者に適切な治療を施すことによりなされる。
尚、本発明に係る治療方法における被験者由来試料、マーカー、測定、判定等については、前記<3.炎症性腸疾患の診断を補助する方法>の項で説明した通りであり、その好ましい例、具体例等も同じである。
【0153】
本発明に係る治療方法における適切な治療としては、具体的には、例えば、外科的治療、薬剤による治療法(メサラジン、サラゾスルファピリジン、インフリキシマブ等)等が挙げられる。
【0154】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例等により何等限定されるものではない。
【実施例
【0155】
実施例1.proHptの測定及び炎症性腸疾患の判定
(1)精製proHptの調製
1)proHptのプラスミド構築
ヒトハプトグロビン 遺伝子型2 (Hpt2)を含むpcDNA3.1-Hyg (+) vector (Invitrogen, Carlsbad, USA)を、公知の方法(Narisada M, Kawamoto S, Kuwamoto K, Moriwaki K, Nakagawa T, Matsumoto H, et al. Biochem. Biophys. Res. Commun. 2008;377:792-6.)に従い、以下の方法で調製した。
ヒトハプトグロビン発現ベクターを構築するために、ヒトハプトグロビン 遺伝子型2 (Hpt2)の塩基配列の161番アミノ酸のアルギニンをグルタミンに置換したアミノ酸配列をコードするDNA配列を設計し、合成した。なお、161番アミノ酸のアルギニンは、C1RLにより切断される部分である。
得られたDNA配列を鋳型として用い、以下の条件で、PCRを行った。
【0156】
Fプライマー:CCAAGAATCCGGCAAACCCAGTGCAGCAGATCCTGGGTGGAC(配列番号4)
Rプライマー:GGCATCCAGGTGTCCACCCAGGATCTGCTGCACTGGGTTTGCC(配列番号5)
【0157】
PCR反応条件
98℃、10秒で初期熱変性の後、98℃で10秒→50℃で2分→68℃で8分を1サイクル行った後、以下の条件で30サイクルPCRを行った。
熱変性:98℃、10秒
アニーリング:50℃、15秒
伸長反応:68℃、8分
【0158】
得られたDNAフラグメントを、T4 DNA ligase (Promega, Madison, WI)を用いてpcDNA3.1-Hyg (+) vectorライゲーションした。
得られたベクターが上記アミノ酸が置換されたHpt2のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含むことを、シーケンシング分析で確認した。
【0159】
2)HEK 293細胞からのproHptの精製
HEK293T (ヒト胎児腎由来)はAmerican Type Culture Collection (ATCC, Manassas, VA)から入手した。HEK 293Tは、10% fetal bovine serum (非動化処理、HyClone, Logan, UT), 100 U/mL penicillin,及び100 μg/mL streptomycin(Nacalai Tesque Inc)を添加した高グルコース DMEM培地(ナカライテスク(株)製)で、湿分含有大気中、37 ℃、5 % CO2、95%空気の条件下に培養した。
培養後、HEK293T細胞を、上記「1)proHptのプラスミド構築」で得られたアミノ酸変異Hpt2遺伝子を含む発現ベクターpcDNA3.1-Hyg (+)で遺伝子導入した。24時間培養後、培地にハイグロマイシンB(富士フィルム和光純薬(株)製)を添加し、形質導入した細胞を2~3週間培養し、proHpt過剰安定発現形質導入体を得た。
ProHpt生産物を proHpt過剰発現proHpt産物を含有するHEK293T細胞の培養上清からproHpt産物を回収し、10-7G2A (本発明者等の特許出願:PCT/JP2020/020669) を結合した担体を用いたアフィニティーカラムクロマトグラフィーで精製した。精製したproHptの濃度はNano Drop 1000 spectrophotometer (Thermo Fisher Scientific, Waltham, MA)を用いて測定した。
【0160】
(2)試料の調製
潰瘍性大腸炎患者(n=45)、クローン病患者(n=20)、大腸癌患者(n=20)、及び健常人(n=20)の血清 0.25μL、試料用緩衝液1(0.2 M Tris-HCl pH 6.8, 8 w/v% SDS, 40 w/v % グリセロール, 0.02 w/v % BPB, 20 w/v % 2-メルカプトエタノール) 5μL、精製水14.75 μLを混合したものを試料とした。
前記(1)で調製した精製proHpt 1μL(proHptとして7.4 μg)、試料用緩衝液1 5μL、精製水14.0 μLを混合したものをポジティブコントロールとした。
【0161】
(3)ウエスタンブロッティング
前記(2)で調製した試料20 μLについて、7.5 %ポリアクリルアミドゲル(富士フイルム和光純薬(株)製)を用いたSDS-PAGE (7.5% gel)を行った。得られた泳動ゲルを、Bio-Rad社のブロッティングシステムを用いて、セミドライでPVDF膜にプロトコールに従いブロッティングした。転写したPVDF膜を、5 %スキムミルク (0.05 % TBS-T, 室温)を用いて1時間室温でブロッキング処理した。次いで、10-7G2A(5% スキムミルクで7500倍希釈)を4℃で一晩反応させた。反応後のPVDF膜を0.05 % TBS-Tで3回洗浄後、5%スキムミルク、10000倍希釈した二次抗体(西洋ワサビペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG抗体(プロメガ社製))をりん酸緩衝液で200倍希釈した液に浸漬し、室温で1時間反応させた。反応後のPVDF膜をPBS-Tで3回洗浄後、ImmnunoStar Zeta(化学発光試薬、富士フイルム和光純薬(株)製)を含有する溶液に5分間浸漬させて、発色させた。発色後、精製水でPVDF膜を洗浄して反応を停止させた
各画分の発光シグナル値をImageQuant LAS-4000(GEヘルスケア・ジャパン(株)製)を用いて発光シグナルをそれぞれ検出した。
ポジティブコントロールを用いて同様に処理し、発光シグナルを検出した。
【0162】
proHptに相当する分子量57,000の画分の発光シグナル値を、proHpt画分の発光シグナル値とした。
また、ポジティブコントロール画分の精製proHptの画分の発光シグナル値を、ポジティブコントロールの発光シグナル値とした。
被験者由来試料を用いた前記測定で得られたproHpt画分の発光シグナル値の、前記測定で得られたポジティブコントロール画分の発光シグナル値に対する比率を求めた(ProHpt(%))。
有意差検定は、予測分析ソフトウェアであるJMP pro 14を用い、Wilcoxon検定により行った、すべてのペアのノンパラメトリックな比較を表す。
(4)結果
得られた結果を図1に示す。
また、測定結果を表1に示す。
【0163】
【表1】
【0164】
図1、及び表1より、proHpt量は、炎症性腸疾患患者(潰瘍性大腸炎患者、クローン病患者)の場合は健常者及び大腸癌患者の場合と比較して、有意に高くなることがわかる。また、図1より、潰瘍性大腸炎の場合に、健常者及び大腸癌患者に対してより有意に高くなることがわかる。
以上の結果から、10-7G2Aを用い、proHpt量を指標として本発明の判定方法を実施することにより、炎症性腸疾患を健常人や大腸癌と識別することができる。
【0165】
実施例2.本発明に係る10-7G2Aを用いたproHptの測定1
比較例1.市販のゾヌリンキットを用いたproHpt量の測定
(1)10-7G2Aを用いたproHptの測定(実施例2)
Hptの表現型がHpt2-1もしくはHpt2-2である潰瘍性大腸炎患者(n=59)の血清を用い、実施例1と同じ方法で、血清中のproHpt量を測定した。
【0166】
(2)市販のゾヌリン測定キットを用いたproHptの測定(比較例1)
抗ゾヌリン抗体を含む市販のHuman zonulin ELISA kit(CUSABIO TECHNOLOGY LLC製)により、上記「(1)本発明によるproHptの測定」で用いた潰瘍性大腸炎患者の血清を用いて、キットに添付のプロトコルに従い、ゾヌリン(プロハプトグロビンの別名)の測定を行った。
【0167】
(3)結果
市販のゾヌリン測定キットを用いたproHptの測定で得られた測定値(ng/mL)を横軸に、本発明によるproHptの測定で得られた測定値(%)を縦軸にとったグラフを図2に示す。
図2から明らかな通り、市販のゾヌリン測定キットを用いて潰瘍性大腸炎患者の血清中のproHpt量を測定することはできなかった(測定値は全て感度以下)が、同じ試料を用い、本発明に係る10-7G2Aを用いた測定では、proHpt量を測定することができた。
以上のことから、本発明に係るproHptの測定方法によれば、proHptを測定することができることがわかる。
一方、市販のゾヌリン測定キットを用いても、潰瘍性大腸炎患者のproHpt量を測定することができないので、潰瘍性大腸炎の判定が行えないことがわかる。
【0168】
実施例2.本発明に係る10-7G2Aを用いたproHptの測定2
(1)試料及び試薬類の調製
1)試料
潰瘍性大腸炎患者、クローン病患者、大腸癌患者、及び健常人の血清 0.25μL、試料用緩衝液1(0.2 M Tris-HCl pH 6.8, 8 w/v% SDS, 40 w/v % グリセロール, 0.02 w/v % BPB, 20 w/v % 2-メルカプトエタノール) 5μL、精製水14.75 μLを混合したものを試料とした。
【0169】
2)試薬類
10-7G2A抗体(本発明に係る抗体1)をポリスチレンビーズ1個に0.6 μgを固相した後、BSAやカゼインでブロッキングし抗体ビーズを得た。
【0170】
Haptoglobin (5C5) Monoclonal Antibody(Bioss Inc.製、ウサギ抗ヒトハプトグロビン抗体、IgG、カタログNo.bsm-52899R:本発明に係る抗体2)をPOD標識し、2% BSAを含むMES 緩衝液で希釈し、酵素標識抗体液(0.2 nmol/L)を得た。
【0171】
5 mmol/Lルミノールを含む溶液を基質液とし、0.02% 過酸化水素を含む溶液を過酸化水素液とした。
【0172】
(2)proHptの測定
測定には自動化学発光酵素免疫分析装置SphereLight Wakoを使用し、以下の方法で測定した。
10-7G2A抗体の抗体ビーズ1個が入った反応槽に試料10 μLと2% BSAを含むMOPS緩衝液130 μLを加え、37 ℃約7分間反応させ、りん酸緩衝液で洗浄する。次に酵素標識抗体液を140 μL加え37℃で約7分間反応させ、りん酸緩衝液で洗浄する。更に、基質液70 μLと過酸化水素液70 μLを加え、発光量を測定した。
一方、実施例1(1)で調製した精製proHptを用い2%BSAを含むMOPS緩衝液で0、0.05、0.1、0.5、1、5、10 μg/mLに希釈して、上記方法と同様に測定し検量線を作成する。当該検量線に上記測定結果を当てはめ試料中のproHpt濃度を算出した。
(3)結果
実施例1と同様に、proHpt量は、炎症性腸疾患患者(潰瘍性大腸炎患者、クローン病患者)の場合は健常者及び大腸癌患者の場合と比較して、有意に高くなった。また、潰瘍性大腸炎の場合に、健常者及び大腸癌患者に対してより有意に高くなった。
以上の結果から、本発明に係る抗体1と抗体2を用い、proHpt量を指標として本発明の判定方法を実施することにより、炎症性腸疾患を健常人や大腸癌と識別することができることが明らかとなった。
図1
図2
【配列表】
0007509361000001.app