(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】イオンミリング装置
(51)【国際特許分類】
H01J 37/30 20060101AFI20240625BHJP
H01J 37/305 20060101ALI20240625BHJP
H01J 27/04 20060101ALI20240625BHJP
H01J 37/08 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
H01J37/30 A
H01J37/305 A
H01J27/04
H01J37/08
(21)【出願番号】P 2022576316
(86)(22)【出願日】2021-01-22
(86)【国際出願番号】 JP2021002163
(87)【国際公開番号】W WO2022157908
(87)【国際公開日】2022-07-28
【審査請求日】2023-07-19
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】会田 翔太
(72)【発明者】
【氏名】高須 久幸
(72)【発明者】
【氏名】上野 敦史
(72)【発明者】
【氏名】鴨志田 斉
【審査官】中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開昭52-127169(JP,A)
【文献】実開昭63-055535(JP,U)
【文献】特開平11-160057(JP,A)
【文献】特開2006-344745(JP,A)
【文献】特開2007-048588(JP,A)
【文献】特開2019-137877(JP,A)
【文献】特表2019-510374(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/30
H01J 37/305
H01J 27/04
H01J 37/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料室と、
前記試料室内に配置され、試料を載置する試料ステージと、
前記試料に向けて非集束のイオンビームを放出するイオン源と、
前記イオンビームの出力を制御する制御部と、
前記試料室内に配置される振動子と、
前記振動子を発振させて発振信号を前記制御部に出力する発振回路とを有し、
前記制御部は、前記イオンビームが前記試料に照射されることにより発生するスパッタリング粒子が前記振動子上に堆積することによる前記振動子の単位時間当たりの振動数変化量があらかじめ定めた範囲におさまるよう、前記イオンビームの出力を制御するイオンミリング装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記試料ステージと前記振動子との間にトラップを有し、
前記トラップには電源回路から所定の電圧が印加され、前記所定の電圧は、前記スパッタリング粒子のうちの荷電粒子がトラップされる電圧とされるイオンミリング装置。
【請求項3】
請求項1において、
前記振動子は振動子位置調整機構を介して前記試料室に取り付けられ、
前記振動子位置調整機構により、前記振動子の位置または向きを調整可能なイオンミリング装置。
【請求項4】
請求項1において、
開口を有し、内部に複数の前記振動子を配置可能な回転式ユニットを有し、
前記回転式ユニットの開口から、内蔵された複数の前記振動子のいずれか一つが前記試料室に露出するよう配置されるイオンミリング装置。
【請求項5】
請求項1において、
前記制御部は、前記振動子の単位時間当たりの振動数変化量が、前記振動子上に堆積した前記スパッタリング粒子の少なくとも一部が落下し、その前後に跨った前記振動子の振動数を用いて算出されていると判断される場合には、当該振動数変化量に基づく前記イオンビームの出力制御は行わないイオンミリング装置。
【請求項6】
請求項1において、
前記イオン源は、ぺニング方式を採用したイオン源であって、
前記制御部は、前記イオン源の放電電圧、または前記イオン源にてイオン化されるアルゴンガスの流量を制御することにより、前記イオンビームの出力を制御するイオンミリング装置。
【請求項7】
請求項1において、
可動のビーム電流検出導体と、
前記ビーム電流検出導体が、前記イオンビームの中心軸上に配置された状態で、前記ビーム電流検出導体に照射される前記イオンビームのイオンビーム電流量を測定する電流計とを有し、
前記制御部は、前記電流計により計測される前記イオンビームのイオンビーム電流量が安定したと判断した後、前記ビーム電流検出導体を前記イオンビームの中心軸上から移動させることにより、前記イオンビームの前記試料への照射が開始されるイオンミリング装置。
【請求項8】
請求項1において、
前記振動子は、円板状の水晶振動子であるイオンミリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオンミリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
イオンミリング装置は、電子顕微鏡による観察対象である試料(例えば、金属、半導体、ガラス、セラミックなど)に対して非集束のイオンビームを照射し、スパッタリング現象によって試料表面の原子を無応力で弾き飛ばすことにより、試料表面の研磨や試料の内部構造を露出するために使用する。イオンビーム照射によって研磨した試料表面や露出された試料の内部構造は、走査電子顕微鏡や透過電子顕微鏡によって観察が行われる。
【0003】
特許文献1には、イオンビームエッチング装置(イオンミリング装置)において、被処理物(試料)のエッチング量を計測し、エッチング終点を検出するエッチング量計測装置が開示されている。エッチング量計測装置は、被処理物(試料)とは異なる被処理部材を備え、被処理部材はイオンビームの一部が照射されることでエッチングされる。エッチング量計測装置は、被処理部材のエッチングにより発生する物質の質量を検出し、検出された物質の質量と被処理物(試料)のエッチング量との関係式をあらかじめ求めておくことにより、被処理物(試料)のエッチング量をリアルタイムに算出する。ここで、被処理部材のエッチングにより発生する物質の質量を検出するため、水晶振動子等の振動子を用いることが例示されている。具体的には、振動子上に堆積する膜の厚さに応じて振動子の共振周波数が変化することを利用して、堆積した物質の質量を検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
イオンビームの制御パラメータとして、イオン源に導入するアルゴンガス量、イオン源に印加する放電電圧、加速電圧が挙げられる。これらの制御値に依存してイオン源の放電電流値、イオンビーム電流値あるいはイオンビーム分布が変化するので、従来、ユーザは、それらの測定値に基づき、経験によって制御パラメータの値を調整していた。
【0006】
イオンミリング装置で電子顕微鏡試料の表面研磨や内部構造を露出させる加工をする場合、試料加工形状の均一性を求められる場合がある。イオンミリング装置による加工形状の均一性を高めるためには、単にエッチング量を等しくするだけでは不十分であり、ミリング処理中におけるイオンビームのエネルギーや分布を常に一定範囲に保つように制御する必要がある。
【0007】
しかしながら、所望の放電電流値、イオンビーム電流値あるいはイオンビーム分布となるように制御パラメータを設定しても、試料を交換するためのベント(大気開放)時にイオン源の内部電極に大気由来のアウトガスが吸着し、吸着したアウトガスがアルゴンガスとともにイオン化したり、内部電極が消耗したりすることにより、ミリング処理期間中にイオンビームの出力に変動が生じることがある。ミリング処理期間中に、このようなイオンビーム出力のばらつきが生じると、試料加工形状の均一性が担保されない。
【0008】
上述のように、特許文献1は、イオンビームによるエッチング量をリアルタイムにモニタするエッチング量計測装置を開示する。しかしながら、非集束イオンビームの場合、試料の加工に用いる中心領域の強度と試料の加工に用いない周辺領域の強度は大きく異なる。特許文献1では、イオンビームの周辺領域によるエッチング量によりイオンビームの中心領域によるエッチング量を推定するため、実際に試料の加工に用いられるイオンビームの中心領域において生じた変動が十分に反映されないおそれがある。さらに、ミリング処理の途中で振動子上に堆積する膜の一部が落下することがある。特許文献1では、加工前後での共振周波数の変化により堆積した物質の質量を検出するため、ミリング処理の途中で一部の堆積物が落下してしまうと、正しい検出を行うことができなくなってしまう。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一実施の態様であるイオンミリング装置は、試料室と、試料室内に配置され、試料を載置する試料ステージと、試料に向けて非集束のイオンビームを放出するイオン源と、イオンビームの出力を制御する制御部と、試料室内に配置される振動子と、振動子を発振させて発振信号を制御部に出力する発振回路とを有し、制御部は、イオンビームが試料に照射されることにより発生するスパッタリング粒子が振動子上に堆積することによる振動子の単位時間当たりの振動数変化量があらかじめ定めた範囲におさまるよう、イオンビームの出力を制御する。
【発明の効果】
【0010】
イオンビームの出力を安定させ、加工再現性を高めたイオンミリング装置を提供する。
【0011】
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】イオンミリング装置の構成を示す模式図である。
【
図2】イオン源とイオン源に制御電圧を印加する電源回路とを示す模式図である。
【
図3】振動子にスパッタリング粒子が堆積するプロセスを示す模式図である。
【
図4】ミリング処理中における振動子の
振動数変化とイオン源の放電電流を測定した結果(模式図)である。
【
図5A】ミリング処理中の振動子の振動数を示す模式図である。
【
図5B】ミリング処理中の振動子の振動数変化を示す模式図である。
【
図6】イオンミリング装置による試料加工のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照して説明する。
【0014】
図1は、本発明の実施の形態であるイオンミリング装置100の主要部を側面から示した模式図である。
図1では、鉛直方向をZ方向として表示している。イオンミリング装置100は、その主要な構成としてイオン源101、試料ステージ102、試料ステージ駆動源103、振動子104、振動子位置調整機構105、トラップ106、試料室107、電源ユニット108、ビーム電流検出導体109、電流計110、発振回路111、制御部112、表示部113を有する。
【0015】
イオンミリング装置100は、走査電子顕微鏡や透過電子顕微鏡によって試料の表面あるいは断面を観察するための前処理装置として用いられる。このような前処理装置向けのイオン源は、構造を小型化するために有効なペニング方式を採用する場合が多い。本実施例でもイオン源101はペニング方式を採用する。イオン源101から試料ステージ102に固定された試料に、非集束のイオンビームが照射される。
【0016】
試料が載置される試料ステージ102は、試料ステージ駆動源103を介して試料室107に取付けられている。試料ステージ駆動源103は回転軸R0を中心に試料ステージ102を回転させる。また、試料ステージ駆動源103は、試料ステージ102の位置をX方向、Y方向、Z方向のそれぞれに、また、イオンビーム中心軸B0に対する試料ステージ102の向きをXZ平面の角度方向(T1軸を中心とする回転方向)、YZ平面の角度方向(T2軸を中心とする回転方向)のそれぞれに調整可能なように、試料室107に取付けられている。
【0017】
試料ステージ102の近傍には振動子104が設置されている。振動子104としては例えば、円板状の水晶振動子を用いることができる。振動子104は、振動子位置調整機構105によって試料室107に取り付けられている。振動子位置調整機構105は振動子104の位置をX方向、Y方向、Z方向のそれぞれに、また、振動子104の向きをXZ平面の角度方向、YZ平面の角度方向のそれぞれに調整することができる。後述するように、振動子位置調整機構105は振動子104を可動とすることで、イオンビームのモニタリングの感度を向上させるものであるが、振動子位置調整機構105を設けることなく振動子104を試料室107に固定したり、振動子位置調整機構105の振動子104の位置や向きの調整可能な方向を制限して振動子位置調整機構105の構造を簡素化したりしてもよい。
【0018】
振動子104は振動子位置調整機構105に設けられた電極を介して発振回路111に接続されている。発振回路111は振動子104を発振させて発振信号を制御部112に出力する。試料ステージ102に載置された試料へのイオンビーム照射によって発生したスパッタリング粒子が振動子104に付着して振動子104の質量が増加することにより、振動子104の振動数が変化する。具体的には、初期振動数に対して減少する。イオン源101から放出されるイオンビームのイオンビーム電流値が低下したり、イオンビームの試料への照射位置ずれが発生したりといったミリング処理中に異常が生じた場合のスパッタリング粒子の発生量は、かかる異常が生じることなくミリング処理が行われた場合のスパッタリング粒子の発生量とは異なる。
【0019】
このように、試料由来のスパッタリング粒子が振動子104に付着することで、振動子104の振動数は減少する。ここで、振動子104の単位時間あたりの振動数変化に着目すると、イオンビームの出力が所望の出力で安定していれば、単位時間当たりのスパッタリング量が一定となることを反映して、単位時間あたりの振動数変化もほぼ一定の値を示す一方、イオンビームの出力に何らかの変動が生じれば、単位時間当たりのスパッタリング量が変動し、単位時間あたりの振動数変化も変動する。したがって、本実施例では、制御部112は振動子104の単位時間あたりの振動数変化をモニタリングすることにより、イオンミリング処理の異常の発生の有無をモニタする。
【0020】
このように振動子104の単位時間あたりの振動数変化は、振動子104に付着するスパッタリング粒子の質量の増加速度に依存するため、本実施例では振動子位置調整機構105により振動子104を適切な位置に配置できるよう構成している。具体的には、振動子位置調整機構105により試料との距離を調整することにより、イオンビームの照射エネルギーに依存する試料のスパッタ量の変化にかかわらず、振動子104の振動数の変化が適切な大きさになるように調整することができる。さらには、試料へのイオンビーム照射角度の設定に応じて振動子104の向きを調整することもできる。
【0021】
また、ミリング処理する試料の大きさや組成数によっては、モニタリングするための振動子104と発振回路111との組み合わせを複数設けてもよい。
【0022】
振動子104の近傍にはトラップ106が設けられている。詳細については後述するが、トラップ106によって、スパッタリング粒子のうちの荷電粒子がトラップされ、スパッタリング粒子のうちの中性粒子だけが振動子104に付着する。
【0023】
イオン源101のイオンビーム照射口の近傍には、可動のビーム電流検出導体109が設けられている。イオン源101からイオンビームを放出させた状態で、ビーム電流検出導体109をイオンビーム中心軸B0上に配置した状態では、ビーム電流検出導体109はイオンビームの試料への照射を遮断するシャッターとして機能するとともに、ビーム電流検出導体109に照射されるイオンビームのイオンビーム電流量を電流計110により測定することができる。電流計110が測定したイオンビーム電流量は制御部112に伝達され、イオン源101の制御に用いられる。また、測定されたイオンビーム電流量は表示部113に表示される。ビーム電流検出導体109をイオンビーム中心軸B0から離れた位置に移動させると、イオン源101からのイオンビームは試料に照射されるようになる。
【0024】
電源ユニット108は、イオン源101の内部電極に印加する電圧を生成する電源回路、トラップ106に印加する電圧を生成する電源回路を含んで構成される。本実施例では、振動子104の振動数によりモニタリングされるイオンビームの状態に応じて、制御部112が、例えば電源ユニット108によりイオン源101の内部電極に印加される電圧を制御することにより、一定時間あたりのミリング量が安定するよう、イオンビームの出力を調整することができる。
【0025】
試料室107は、ミリング処理時には真空状態に保たれている必要がある。このため、試料室107内に配置される構成要素と試料室107外部に配置される制御回路あるいは電源回路等とを接続する信号配線や電源配線は、試料室107の真空を保持するため、ハーメチックコネクタを介して接続されている。
【0026】
図2は、ペニング方式を採用したイオン源101と、イオン源101の内部電極に制御電圧を印加する電源回路とを示す模式図である。電源回路は電源ユニット108の一部である。
【0027】
イオン源101は、第1カソード201、第2カソード202、アノード203、永久磁石204、加速電極205、ガス配管206、イオンビーム照射口207を有する。イオンビームを発生させるため、ガス配管206を通してイオン源101にアルゴンガスが注入される。イオン源101内部には、同電位とされる第1カソード201及び第2カソード202が配置されており、第1カソード201と第2カソード202との間にはアノード203が配置されている。カソード201,202とアノード203との間に電源ユニット108から放電電圧Vdが印加されることにより電子が発生する。電子はイオン源101内に配置した永久磁石204によって滞留し、ガス配管206から注入されたアルゴンガスと衝突してアルゴンイオンを生成する。アノード203と加速電極205との間には電源ユニット108から加速電圧Vaが印加されており、生成されたアルゴンイオンは加速電極205に誘引され、イオンビーム照射口207を通してイオンビームとして放出される。
【0028】
イオン源101から放出されるイオンビームの出力は、イオン源101の内部の放電の状況に依存する。ペニング方式を採用したイオン源101では、イオンビームの照射を繰り返すうちに、イオン源101の内部部品が摩耗して放電電流値が変動したり、あるいは照射対象となる加工物(試料)から発生した微小粒子が飛散してイオンビーム照射口207に付着することでイオンビーム電流値が変動したりする場合がある。また、第1カソード201、第2カソード202、アノード203に付着した空気中に含まれるガス(アウトガス)粒子もイオン化され、アルゴンイオンとともにイオンビームとして照射される。
【0029】
したがって、加工の高精度な再現性を求めるためには、放電電流、あるいはイオンビーム電流の変動や、ガス粒子のイオン化といった要因によって不安定な状態のイオンビームをミリング処理に用いず、また、所望のイオンビームの出力となっているか、振動子104の振動数変化に基づき、リアルタイムにモニタリングを行うことが望ましい。
【0030】
図3にスパッタリング粒子が振動子104に堆積するプロセスを示す模式図を示す。振動子104に付着するスパッタリング粒子は、振動子104表面に堆積膜を形成する。振動子104上の堆積膜厚が大きくなると振動子104から堆積したスパッタリング粒子の少なくとも一部(ここでは、粒子塊と呼ぶ)が脱落しやすくなる。粒子塊が落下すると振動子104の振動数が急激に変化するためモニタリングエラーが生じやすく、粒子塊が頻繁に落下するようになると振動子104の交換が必要となる。特に長時間の連続処理が必要な場合は、振動子104の交換周期を長くする必要がある。このため、本実施例では、スパッタリング粒子のうち、堆積膜から脱離し難い中性粒子のみが振動子104の表面に選択的に堆積するように、電界によりスパッタリング粒子のうち荷電粒子を選択的に捕捉するトラップ106を振動子104の表面近傍に配置している。
【0031】
試料ステージ102に載置した試料251に、イオン源101からイオンビームが照射されるとスパッタリング粒子が発生する。スパッタリング粒子にはアルゴンイオンがドープされていない中性粒子と、アルゴンイオンがドープされた荷電粒子とが含まれている。振動子104までの経路に電界を形成するトラップ106が配置されることにより、正電荷をもつ荷電粒子はトラップ106の負電極にトラップされ、中性粒子だけが振動子104に付着する。
【0032】
図4は、試料に対してミリング処理を行った場合における振動子104の振動数変化ΔF及びイオン源101の放電電流Adを測定した結果の模式図である。振動数変化ΔFは振動子104の単位時間あたりの振動数の変化量であり、放電電流Adは
図2に示す電流計211により測定される電流である。
図4では放電電流値を実線で、振動数変化量を破線で示している。また、経過時間の原点はイオン源101からのイオンビーム放出開始時点としている。
【0033】
イオンビーム放出開始直後は、イオン源101の内部電極から発生するガスがアルゴンガスとともにイオン化されるため、放電電流Adは高い値を示す。時間経過に伴い、ガス粒子が減少するため放電電流Adは徐々に減少し、安定した値を示す。これは、内部電極に吸着した大気由来のガスがイオンガン電極部品から脱離し切った後は、イオンビーム電流量は供給するアルゴンガス量に依存するようになるためである。
【0034】
放電電流Adが高いほどイオンビーム電流値も高くなるため、イオンビーム放出開始直後は振動数変化量が増大する一方、放電電流Ad、したがってイオンビーム電流量が安定すると、振動子104の振動数変化ΔFも安定した値を示すようになる。したがって、振動子104の振動数変化ΔFをモニタリングすれば、イオンビームに接触することなく、イオンビームのモニタリングおよび制御が可能となる。
【0035】
なお、イオンビームのモニタリング中に振動子104に堆積した堆積膜から粒子塊が落下し、振動子104の振動数が変化することがありうる。この場合、振動子104の振動数変化ΔFの算出方法を以下のようにして、粒子塊の落下の影響をおさえることができる。
図5Aは、ミリング処理中の振動子104の振動数Fを示す模式図であり、
図5Bは、
図5Aに対応し、ミリング処理中の振動子104の振動数変化ΔFを示す模式図である。簡単のため、時刻t
jにおける振動数変化ΔFは、(F(t
j)-F(t
j-1))/(t
j-t
j-1)として算出されるものとする。
【0036】
図5Aの例では、サンプリング時刻t
iとサンプリング時刻t
i+1との間に振動子104から粒子塊が落下したことにより、振動数が一時的に変動している。しかしながら、イオンビームが安定していれば、その前後では振動数変化ΔFは安定している。上記算出式の場合であれば、
図5Bに示すように、サンプリング時刻t
i+1では振動数変化量に異常値が表れるものの、その前後ではイオンビームの状態を反映した振動数変化量が表れている。このように、振動子104の堆積膜から粒子塊が落下しても、振動数変化ΔFの算出に粒子塊が落下前後に跨った振動数の値を使用しない、あるいは落下前後に跨った振動数の値を使用して算出された振動数変化量を無視してイオンビームの制御を行うことにより、粒子塊の落下があっても適切なモニタリングを行うことができる。例えば、今回サンプリング時刻で算出した振動数変化量が、前回サンプリング時刻で算出した振動数変化量との差が所定値以上の場合は、今回サンプリング時刻で算出した振動数変化量は異常値として無視するといった制御を行う。
【0037】
図6に、イオンミリング装置100による試料加工のフローチャートを示す。
【0038】
S301:試料ステージ102に試料をセットし、試料ステージ102の位置調整を行う。
図1ではXZ平面に対して45度に設定した例を示しているが、試料ステージ102の位置や向きはこれに限られるものではない。
【0039】
S302:試料ステージ102に対する振動子104の位置を、振動子位置調整機構105で調整する。振動子104が複数ある場合には、それぞれについて位置を調整する。
【0040】
S303-S304:トラップ106に電圧を印加する。振動子104を発振回路111により発振させる。なお、ステップS305のミリング処理の開始までにトラップ106に印加する電圧、振動子104の発振が安定しておればよく、ステップS303、S304及びイオン源101からのイオンビーム放出開始のタイミングは図6のフローチャート通りでなくてもよい。
【0041】
S305:イオン源101からイオンビームの放出を開始する。この段階ではビーム電流検出導体109をイオンビーム中心軸B
0上に配置し、イオンビームの試料への照射を遮断するとともに、イオンビーム電流量を電流計110により測定する。
図4に示したように、イオンビーム放出開始直後はアウトガスの影響によりイオンビームの出力は過大になっている。このため、ビーム電流検出導体109によりイオンビームを遮断し、イオンビームが安定するまで待機する。
【0042】
S306:イオンビーム電流量をモニタし、その値が安定したと判断すれば、ビーム電流検出導体109をイオンビーム中心軸B0から移動させ、イオンビームによる試料に対するミリング処理を開始する。なお、この判断は、制御部112が行ってもよいし、イオンビーム電流量を表示部113に表示して、ユーザが判断してもよい。また、イオンビーム電流量に代えて放電電流量をモニタしてもよい。なお、ミリング処理において、制御部112は、加工の内容に応じて試料ステージ102を試料ステージ駆動源103によって回転させるなどの制御を実行する。
【0043】
S307:ミリング処理の間、制御部112は発振回路111の発振信号から振動子104の振動数変化ΔFを継続的にモニタする。
図4に示すように、ユーザはミリング処理にあたり、振動数変化ΔFの正常範囲(ここでは、上限値:ΔF
h、下限値:ΔF
lとする)を設定しておき、振動数変化ΔFの値が設定した正常範囲に含まれているかを継続的にモニタする。この正常範囲は、試料のスパッタ収率や加工条件(ステップS301で設定した試料の角度やイオンビームの出力)などに依存して異なるため、ユーザはあらかじめダミーサンプルを加工するなどして、正常範囲を定めておく。
【0044】
S308:振動子104の振動数変化ΔFが正常の範囲を超える、あるいは超えるおそれがある場合には、イオン源101から発生するイオンビームの出力調整を行う。例えば、電源ユニット108で放電電圧Vdを制御することによりイオンビームの出力調整を行う。あるいは、アルゴンガスの流量を制御してもよい。
図4に示すように、振動数変化ΔFの正常範囲の下限値ΔF
lに達した場合には、イオンビームの出力を上昇させて振動数変化ΔFの値が設定した正常範囲に留まるように制御する。
【0045】
S309:ミリング処理を終了する。例えば、加工条件の一つとしてミリング処理時間を設定しておき、ミリング処理開始(ステップS306)から設定したミリング処理時間を経過した段階で終了とする。
【0046】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は記述した実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、内部に振動子を複数配置できる、1か所の開口が設けられた回転式ユニットを試料室内に配置する。回転式ユニットは試料室に直接設置してもよいが、振動子位置調節機構を介して試料室内に設置し、振動子の位置や向きを可変とすることが望ましい。加工ごとに回転式ユニットを回転させて、試料加工前には常に試料近傍にスパッタリング粒子が付着していない振動子が開口から試料室に対して露出するよう配置する。
【0047】
また、実施の形態では平面ミリング加工を行うイオンミリング装置を例に説明したが、断面ミリング加工を行うイオンミリング装置についても本発明は適用可能なものである。
【符号の説明】
【0048】
100:イオンミリング装置、101:イオン源、102:試料ステージ、103:試料ステージ駆動源、104:振動子、105:振動子位置調整機構、106:トラップ、107:試料室、108:電源ユニット、109:ビーム電流検出導体、110,211:電流計、111:発振回路、112:制御部、113:表示部、201:第1カソード、202:第2カソード、203:アノード、204:永久磁石、205:加速電極、206:ガス配管、207:イオンビーム照射口、251:試料。