(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-27
(45)【発行日】2024-07-05
(54)【発明の名称】実装方法およびそれにより形成される実装構造体
(51)【国際特許分類】
H05K 3/34 20060101AFI20240628BHJP
H05K 3/12 20060101ALN20240628BHJP
【FI】
H05K3/34 512C
H05K3/34 507K
H05K3/12 610A
(21)【出願番号】P 2020126689
(22)【出願日】2020-07-27
【審査請求日】2023-05-26
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【氏名又は名称】吉田 環
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【氏名又は名称】鮫島 睦
(72)【発明者】
【氏名】大橋 直倫
(72)【発明者】
【氏名】大川 靖弘
(72)【発明者】
【氏名】松野 行壮
【審査官】小林 大介
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-077265(JP,A)
【文献】特開2007-134402(JP,A)
【文献】特開2010-140924(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 3/34
H05K 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子部品の樹脂基材への実装方法であって、
(1)導電性ペーストにより形成された配線パターンを有する樹脂基材を準備する工程、
(2)樹脂基材の所定箇所に、はんだ粒子および熱硬化性樹脂(硬化前の状態)を含んで成るはんだペーストを供給する工程、
(3)はんだペースト上に電子部品を載置する工程、ならびに
(4)基材を加熱してはんだペーストを105~130℃の温度に加熱してはんだ粒子を溶融すると共に、熱硬化性樹脂の硬化発熱反応を開始する工程
を含んで成り、
はんだ粒子の溶融温度が90~130℃であり、熱硬化性樹脂の硬化発熱反応のピーク温度が135~165℃であることを特徴とする実装方法。
【請求項2】
工程(4)において、少なくとも5分間、加熱温度を維持する請求項1に記載の実装方法。
【請求項3】
はんだペーストは、硬化剤を更に含んで成る請求項1または2に記載の実装方法。
【請求項4】
熱硬化性樹脂は、エポキシ樹脂である請求項1~3のいずれかに記載の実装方法。
【請求項5】
樹脂基材に電子部品が実装された実装構造体であって、
樹脂基材と、樹脂基材の上に導電性ペーストによって形成された配線パターンと、基材に配置された電子部品と、配線パターンと電子部品とを電気的に接続するはんだ接合部を有して成り、
はんだ接合部は、基材表面に接着する部分に加えて、基材表面に接着する、硬化した熱硬化性樹脂部分を有し、それによって、はんだ接合部と樹脂基材との間に硬化した熱硬化性樹脂部分が介在し、
硬化した熱硬化性樹脂部分が基材表面に接着して占有する面積の、その面積とはんだ接合部が基材表面に接着して占有する部分の面積の和に対する割合が10~40%であることを特徴とする実装構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品の実装方法、詳しくは配線または電極を有する基材に電子部品を実装する方法、より詳しくは、導電性ペーストを用いて形成された配線または電極を有する基材に、はんだペーストを用いて電子部品を実装する方法に関する。更に、本発明は、そのような方法により形成される実装構造体にも関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトロニクス分野において、電子機器を衣服と一体化したり、肌に貼り付けたりして使用する電子機器のウエアラブル化の研究開発および実用化が進んでいる。このようなウエアラブルデバイスには柔軟性が要求される。その場合、電子機器に用いるプリント基板、配線材等にも柔軟な素材を基材として使用する必要性が高まってきている。
【0003】
柔軟な基材として、PET、PEN、PI等の熱可塑性フィルム、伸縮性を有するウレタンフィルム等を使用する例がよく報告されている、この場合、基材に配線、電極等を形成する場合、導電性ペーストを基材に印刷して形成する方法が多く用いられている。導電性ペーストによる配線、電極等は、スクリーン印刷により導電性ペーストを基材に供給後、乾燥させることで形成可能である。
【0004】
このような配線、電極等と電子部品とを電気的に導通させる為の接合材としては、信頼性の点からはんだを用いることが好ましい。しかしながら、導電性ペーストに含まれる樹脂成分がはんだの濡れを阻害したり、また、配線、電極等に含まれる導電性フィラーがはんだ内に拡散して消失し、断線状態になり得るという問題がある。この問題を解決すべく、導電性ペーストで形成された配線、電極等の表面に、はんだと合金を形成しやすい金属のメッキ層を更に形成する対策が報告されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のように、導電性ペーストにより形成した配線、電極等と電子部品とをはんだで接合する場合、基材上の配線、電極等と電子部品の電極とは金属接合により強固に接合されるが、基材と配線、電極等との界面の接合強度、あるいは配線、電極等自体の強度が必ずしも十分でない為、基材と配線、電極等との界面の接合強度、配線、電極等自体の強度を補強する対策が望まれる。
【0007】
そこで、本発明は、樹脂基材、特にフィルム状の樹脂基材(例えば、PET、PEN、PI等の熱可塑性フィルム、伸縮性を有するウレタンフィルム等)を使用し、導電性ペーストにより基材上に形成された配線、電極等に電子部品を実装することにより実装構造体を形成する方法において、基材と配線、電極等との界面の接合強度の上述の補強の為に余分な工程を必要としない、実装構造体の形成方法を提供することを目的とする。更に、本発明は、基材と配線、電極等との界面の接合強度が補強された実装構造体を提供することをも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の要旨において、本発明は、電子部品の樹脂基材への実装方法を提供し、この方法は、
(1)導電性ペーストにより形成された配線パターンを有する樹脂基材を準備する工程、
(2)樹脂基材の所定箇所に、はんだ粒子および熱硬化性樹脂(硬化前の状態)を含んで成るはんだペーストを供給する工程、
(3)はんだペースト上に電子部品を載置する工程、ならびに
(4)基材を加熱してはんだペーストを105~130℃の温度に加熱してはんだ粒子を溶融すると共に、熱硬化性樹脂の硬化発熱反応を開始する工程
を含んで成り、
はんだ粒子の溶融温度が90~130℃であり、熱硬化性樹脂の硬化発熱反応のピーク温度が135~165℃であることを特徴とする実装方法。
【0009】
このように実装構造体を形成する方法において、工程(4)における加熱に際して、はんだペーストに含まれるはんだ粒子が溶融する時、熱硬化性樹脂の硬化発熱反応が始まっているものの、加熱温度が105~130℃である為にピーク温度には達していないので、液状の熱硬化性樹脂は十分な流動性を有する。その後、熱硬化性樹脂の硬化が次第に進む。その結果、配線パターンと電子部品、詳しくはその電極との間ではんだ接合部が形成されてこれらの間で電気的導通が確保されると共に、基材とはんだ接合部との間で(その後に)十分に硬化した熱硬化性樹脂部分が介在するように形成される。その後、基材を冷却することによってはんだ接合部は固化する。
【0010】
本発明の1つの好ましい態様では、工程(4)において、用いる熱硬化性樹脂に応じて所定時間、一般的には少なくとも5分間、好ましくは5分間~15分間、加熱温度を維持して十分に硬化させた後に、例えば室温まで、基材を冷却する。この態様において、硬化した熱硬化性樹脂部分が基材の主表面を占有する面積(即ち、硬化した熱硬化性樹脂部分と基材との間の接触面積、以下、単に「熱硬化性樹脂部分占有面積」とも呼ぶ)の、その面積とはんだ接合部が基材の主表面を占有する面積(即ち、はんだ接合部と基材との間の接触面積、以下、「はんだ接合部専有面積」とも呼ぶ)との和に対する割合が10~40%となるのが好ましい。
【0011】
第2の要旨において、本発明は、樹脂基材に電子部品が実装されている実装構造体を提供し、
この実装構造体は、樹脂基材と、樹脂基材上に導電性ペーストによって形成された配線パターンと、基材に配置された電子部品と、配線パターンと電子部品、詳しくはその電極とを電気的に接続するはんだ接合部を有して成り、
はんだ接合部と樹脂基材との間に硬化した熱硬化性樹脂部分が介在することを特徴とする。
【0012】
この実装構造体は、上述の本発明の実装方法によって得ることができる。本発明の1つの好ましい態様では、上述のように、熱硬化性樹脂部分専有面積(a)およびはんだ接合部専有面積(b)の和に対する熱硬化性樹脂部分専有面積の和(a+b)に対する熱硬化性樹脂部分面積(a)の割合(即ち、a/(a+b))は、0.1~0.4(即ち、10~40%)である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の電子部品の実装方法によれば、また、本発明の実装構造体によれば、導電性ペーストにより形成した配線パターンに電子部品をはんだ接合する場合において、はんだ接合部と樹脂基材との間の一部分に硬化した熱硬化性樹脂部分が介在することで、配線パターンと基材との間の接合強度が補強される。
【0014】
より詳しくは、はんだペーストの加熱によって生じる、基材とはんだ接合部との間に介在する硬化した熱硬化性樹脂部分は、その硬化に際して、はんだ粒子の溶融によって生じるはんだ接合部と接着してこれらの間の接着性を向上させると共に、樹脂基材とも接着するので、形成される実装構造体において、樹脂基材と硬化した熱硬化性樹脂部分との接着性をも向上させる。このように介在する硬化した熱硬化性樹脂部分は、基材と接着し、また、はんだ接合部と接着する。換言すれば、硬化した熱硬化性樹脂部分は、配線パターンと電子部品を接続するはんだ接合部と基材との間に介在してこれらの接着性を向上させる。その結果、はんだ接合部は基材に対してより強固に接着されるので、はんだ接合部に接合された配線パターンおよび/または電子部品も基材に対してより強固に接着される、即ち、これらの間の接着性が補強されることになる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実装方法によって得られる本発明の実装構造体の一部分の模式的断面図である。
【
図2】
図1の実装構造体の一部分をその上方から見た様子を模式的に示す図面(平面図に対応)である。
【
図3】
図1の実装構造体の一部分をその下方から見た様子を模式的に示す面図(底面図に対応、但し、基材の図示を省略)である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明するが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではない。
【0017】
図1は、本発明の実装方法によって電子部品5を樹脂基材1に実装した実装構造体の一部分の模式的な基材の主表面に対して垂直な方向における断面図である。
図1においては、実装構造体の詳細をより明確にすべく、その一部を拡大して示している。実装構造体は、樹脂基材1の一方の主表面上に、導電性ペーストによって形成された配線パターン2-1および2-2を有し、はんだ接合部3-1および3-2は、電子部品の電極6-1および6-2と導電性ペーストによって形成された配線パターン2-1および2-2とをそれぞれ電気的に導通させている。また、はんだ接合部3-1および3-2と樹脂基材1との間には、これらを介在する硬化した熱硬化性樹脂部分4-1および4-2が存在する。尚、図示した態様では、それぞれのはんだ接合部3-1および3-2の外側および電子部品の下側にも硬化した熱硬化性樹脂部分7が存在する。
【0018】
図2は、
図1に示す実装構造体を、
図1の上方から見た場合の様子を模式的に示す図、即ち、
図1の実装構造体の模式的平面図である。
図1および
図2から分かるように、配線パターンとしての配線2-1が電子部品5の電極6-1に接続され、配線パターンとしての配線2-2が電子部品5の電極6-2に接続されている。容易に理解できるように、実装構造体を形成する際、通常、加熱により形成されるはんだ接合部3-1および3-2が配線2-1および2-2の端部から接続すべき電極6-1および6-2にわたって形成されるように、はんだペーストが基材1の上側主表面に供給される。
【0019】
1つの態様では、はんだペーストの供給は、配線2-1および2-2の端部およびその周囲の基材部分を覆い、また、電極6-1および6-2の下方に位置する基材部分を覆い、更にこれらの間に位置する基材の主表面の部分を覆うように、実施する。別の態様では、このような覆うべき部分の更に周辺部をも覆うように、はんだペーストを基材に供給する。このように、はんだペーストを供給する樹脂基材の所定は、供給されたはんだペーストの加熱により形成されるはんだ接合部が配線パターンと電子部品、特にその電極との間で電気的導通を確保できるように選択される。このようにはんだペーストを供給する箇所が、本発明における樹脂基材の所定の箇所である。
【0020】
図示した態様では、はんだ接合部3-1および3-2は、電子部品の電極6-1および6-2の下方に位置する基材の部分の上方から外側に向かって配線2-1および2-2の端部まで延伸して形成されている。例えば、配線2-1の端部と電子部品5を配置すべき箇所の左端との間にはんだペーストを供給することによって、溶融したはんだ粒子が配線2-1の端部と電極6-1との間でこれらを電気的に導通するはんだ接合部3-1を形成できる。
【0021】
図3に、
図1の実装構造体をその下方から見た時の様子を模式的に示す(但し、基材1の図示を省略)。即ち、
図3は、実装構造体の底面図である。
図3に示すように、はんだ接合部3-1の内側に硬化した熱硬化性樹脂部分4-1が存在する。また、はんだ接合部3-2の内側に硬化した熱硬化性樹脂部分4-2が2箇所存在する。
【0022】
本発明の実装方法において、はんだペーストを105℃~130℃、好ましくは110℃~125℃、例えば120℃の温度に加熱してはんだ粒子を溶融すると、未硬化の熱硬化性樹脂は、固体である場合には液状となって流動すると共に、また、既に液状である場合には、熱硬化性樹脂がより流動性を増すと共に、徐々に硬化を始め、硬化した熱硬化性樹脂部分4が形成されていく。好ましい態様では、硬化した熱硬化樹脂部分4に加えて、はんだ接合部3の外側(即ち、上側)および/または電子部品の下側にも硬化した熱硬化性樹脂部分7が形成される。先に説明したように、このような硬化した熱硬化性樹脂部分4を形成するために、少なくとも5分間、好ましくは5分間~15分間、加熱温度を維持することが好ましい。
【0023】
特に好ましい態様では、熱硬化性樹脂部分占有面積(例えば熱硬化性樹脂部分4-1と基材1との接触面積(a))の、その面積とはんだ接合部専有面積(例えばはんだ接合部3-1と基材1との接触面積(b))の和(a+b)に対する割合(a/(a+b))が10~40%である。この割合に関して、考慮する熱硬化性樹脂部分は、はんだ接合部3の下方に位置する熱硬化性樹脂部分4のみを対象とし、電子部品5の下方に直接位置する熱硬化性樹脂部分7は対象としない。尚、熱硬化性樹脂部分占有面積およびはんだ接合部専有面積は、樹脂基材が透明であれば、裏面から観察して計測可能である。樹脂基材が透明ではない場合、X線観察により、あるいは樹脂基材を研磨等で除去してはんだ接合部の底面を露出させることによって計測可能である。
【0024】
以下、上述の本発明の実装構造体を形成するために用いる種々の材料等をより具体的に説明することによって、本発明を更に詳細に説明する。
【0025】
<電子部品>
本明細書において、電子部品5は、特に限定されるものではなく、基材1に実装することによって、基材上に形成された配線パターンとの電気的接続を確保すべき部品である。具体的には、電子部品は、表面実装(SMT(Surface mount technology))用の部品であってよい。例えば、電子部品としては、ICチップ、通信部品、センサー部品等の能動素子の他、抵抗、コンデンサ、インダクタ等の受動素子等が挙げられる。このような電子部品は、配線パターンとはんだ接合可能な金属(例えばSn、Au、Ag、Cu等)で形成された電極を有する。
【0026】
<樹脂基材>
本明細書において、樹脂基材としては、用途に応じて熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を用いることができる。熱可塑性樹脂としては、ポリイミド(PI)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ウレタン系、オレフィン系、スチレン系、アミド系のエラストマー等、様々な樹脂を用いることができる。熱硬化性樹脂としては、エポキシ、ウレタン、シリコーン、アクリル樹脂等、様々な樹脂を用いることができる。基材の素材としては、伸縮性が必要な場合、エラストマーの様な伸縮性材料を用いてよい。また、基材のコストの点では、一般的に熱可塑性樹脂が好適である。
【0027】
<導電性ペースト>
基材上に配線パターンを形成するために一般的に使用されている導電性ペーストを用いることができる。導電性ペーストをスクリーン印刷、塗布等で基材の所定の箇所に供給し、加熱・乾燥することにより配線パターンを形成する。ここで、配線パターンとは、電子部品と共に所定の回路を形成するために必要な配線および/または電極を意味する。このような配線パターンは、例えば、Ag、Cu、Sn、Ni、Au等の金属粉及びこれらの組み合わせの金属粉を導電性粒子として含む。配線パターンに伸縮性、フレキシブル性を持たせたい場合は、バインダー樹脂を含有する場合もある。このバインダー樹脂としては、ウレタン系、シリコーン系、エポキシ系、アクリル系、ポリエステル系等の樹脂を用いることができる。
【0028】
<はんだペースト>
本実施形態におけるはんだペーストは、はんだ粒子および熱硬化性樹脂(硬化に必要な硬化剤を含む)を含んで成り、更に、必要に応じて活性剤成分およびその他の成分を含んでもよい。そのようなはんだペーストは105℃~130℃の温度に加熱された場合、はんだ粒子が溶融してはんだ接合部を形成すると共に、はんだ接合部と基材との間で硬化した熱硬化性樹脂部分が介在するように設計されている。次に、はんだペーストの成分について詳細に説明する。
【0029】
(はんだ粒子)
はんだ粒子は、その溶融温度が90℃~130℃、好ましくは90℃~110℃の、より好ましくは90℃~100℃の合金から実質的に構成されており、本発明の実装方法の工程(4)においてはんだペーストが加熱されることにより溶融する。そのような合金としては、例えばSn又はBiを必須成分として含むもの、これらに加えて、Ag、In、Pb、Sb、CdおよびGaの少なくとも1つ、例えばInを構成成分として含むものを挙げることができる。より具体的には、Sn-In系、Bi-In系、Sn-Bi-In系、Sn-Bi-Pb系、Sn-Bi-Cd系、Sn-Ag-Bi-In系、Sn-Ag-In系からなる群から選ばれるものを例示できる。尚、はんだ粒子は、列挙した元素で実質的に構成されている限り、不可避的に混入する微量金属であって、例えばNi、Zn、Sb、Cu等である金属を含んでいてもよい。
【0030】
はんだ粒子の溶融温度は、はんだ粒子の試料の加熱昇温過程での状態変化を観察したときの、融け始めと理解されるときの温度を意味し、本明細書では、示差走査熱量計(DSC)、TG-DTA等を使用して測定することができる。
【0031】
はんだ粒子の平均粒径は、例えば10μm~35μm、特に15μm~30μm、より特に20μm~25μmの範囲以内にある。本明細書において平均粒径とは、体積基準で粒度分布を求め、全体積を100%とした累積曲線において、累積値が50%となる点の粒径(D50)である。かかる平均粒径は、レーザー回折・散乱式 粒子径・粒度分布測定装置または電子走査顕微鏡を用いて測定することができる。
【0032】
本発明において、はんだペーストの全質量に対するはんだ粒子の含有量は、40重量%~95重量%、より好ましくは50重量%~90重量%、更に好ましくは60重量%~82重量%の範囲以内にある。含有量がこのような範囲にあることにより、接合部の高い接続信頼性を実現することができる。
【0033】
(熱硬化性樹脂)
本発明において、熱硬化性樹脂としては、所定の官能基を構造内に有し、加熱による硬化が可能である樹脂をいう。例えば、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ビスマレイミド、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、またはオキセタン樹脂等を挙げることができるが、これらに限定されない。これらは単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。これらのうち、はんだペーストの硬化物の物性向上を考慮すると、エポキシ樹脂を用いることが好ましい。より好ましくは、エポキシ樹脂は、はんだ粒子等の他の成分を容易に分散させることができるよう、常温で液状である。エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型樹脂、脂環式エポキシ樹脂、アミノプロパン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、トリアジン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、またはノボラック型エポキシ樹脂等を用いることができる。
【0034】
本発明において、はんだペーストに含まれる熱硬化性樹脂の種類およびその含有量は、はんだ粒子の合金の種類および含有量、ペーストに含まれる後述する硬化剤の種類およびその含有量、ならびに他の添加剤等の要素およびその含有量に応じて、熱硬化性樹脂の硬化反応による発熱の結果としてのピーク温度(即ち、硬化発熱反応のピーク温度が135~165℃、好ましくは140℃~160℃となるように適宜選択および調整され得る。
【0035】
このピーク温度は、DSCを用いて未硬化の熱硬化性樹脂を昇温加熱した時に得られるピーク温度(いわゆるピークトップ温度)として測定される温度を意味する。尚、はんだペーストが、熱硬化性樹脂に加えて、硬化剤および後述するその他の種々の成分をも含む場合は、これらの成分も一緒に加熱して測定する。本明細書では、この場合に測定されるピーク温度も、硬化発熱反応のピーク温度と呼ぶ。好ましい態様では、硬化発熱反応のピーク温度は、はんだ粒子の溶融温度より少なくとも10℃、より好ましくは少なくとも20℃高く、例えば15℃~25℃高い。
【0036】
(硬化剤)
本発明に用いるはんだペーストにおいて、硬化剤としては、使用する熱硬化性樹脂に応じて、一般的な硬化剤を使用することができる。例えば、イミダゾール系化合物、チオール系化合物、変性アミン系化合物、多官能フェノール系化合物および酸無水物系化合物からなる群から選ばれる化合物を用いることができる。
【0037】
本発明に用いるはんだペーストに含まれる硬化剤の種類およびその含有量は、はんだペーストに含まれるはんだ粒子の合金組成およびその含有量、前述した熱硬化性樹脂およびその含有量、ならびに後述の種々の他の成分(必要な場合)およびその含有量に応じて、本発明の実装方法の工程(4)において熱硬化性樹脂の硬化発熱反応が始まり、また、上述のように熱硬化性樹脂の硬化発熱反応のピーク温度が所定の温度範囲内となるように適宜選択および調整され得る。更に、硬化剤の含有量は、従来技術に基づき、熱硬化性樹脂の官能基当量に応じても適宜調整され得る。
【0038】
(活性剤成分)
本発明に用いるはんだペーストにおける活性剤成分は、金属酸化膜を除去する機能を有する限り任意の適切なものであり得、種類は限定されない。例えば、はんだペーストを加熱する温度域において、被接合部材である電子部品の電極、配線(より詳細には後述する導電性粒子)および/またははんだ粒子表面に存在し得る酸化膜を除去する還元力を有する有機酸、アミンのハロゲン塩、またはアミン有機酸塩等が用いられ得る。有機酸としては、例えば、飽和脂肪族モノカルボン酸であるラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸もしくはステアリン酸、レブリン酸、不飽和脂肪族モノカルボン酸であるクロトン酸、飽和脂肪族ジカルボン酸であるシュウ酸、L(-)-リンゴ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸もしくはセバシン酸、不飽和脂肪族ジカルボン酸であるマレイン酸もしくはフマル酸、芳香族系カルボン酸であるフタルアルデヒド酸、フェニル酪酸、フェノキシ酢酸もしくはフェニルプロピオン酸、エーテル系ジカルボン酸であるジグリコール酸、その他の有機酸であるアビエチン酸、または、アスコルビン酸等が挙げられる。これらの成分、特に好ましくは有機酸をはんだペーストに含ませることで、優れたフラックス作用、すなわち、はんだペーストが塗布される金属表面に生じた酸化皮膜を除去するという還元作用、および、溶融はんだの表面張力を低下させて、はんだの接合金属表面への濡れ性を促進する作用を発揮させることができる。また、有機酸の中でも、グルタル酸またはアジピン酸は、フラックス作用に優れ、化合物としての安定性が高いため、より好ましい。活性剤成分の含有量は、従来技術に基づき、熱硬化性樹脂の官能基当量に応じて適宜調整され得る。
【0039】
(その他の成分)
本発明に用いるはんだペーストは、必要に応じて改質剤または添加剤等の他の成分を更に含んでいてもよい。例えば、はんだペーストの配線上への印刷形状を保持するために、粘度調整剤またはチクソ性付与剤として、無機系または有機系の添加剤を使用することができる。例えば、無機系であれば、シリカまたはアルミナ等を用いることができる。有機系であれば、固形のエポキシ樹脂、低分子量のアマイド、ポリエステル類、またはヒマシ油の有機誘導体等を用いることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
更に、本発明に用いるはんだペーストは、硬化剤に加えて、硬化促進剤をも含んでいてもよい。硬化促進剤としては、例えば、3級アミン類、1,8-ジアザビシクロ(5.4.0)ウンデセン-7や1,5-ジアザビシクロ(4.3.0)ノネン-5等の環状アミン類およびそれらのテトラフェニルボレート塩、トリブチルホスフィン等のトリアルキルホスフィン類、トリフェニルホスフィン等のトリアリールホスフィン類、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレートやテトラ(n-ブチル)ホスホニウムテトラフェニルボレート等の4級ホスホニウム塩、Feアセチルアセトナート等の金属錯体およびそれらのアダクト化合物を用いることができる。
【0041】
1つの態様では、はんだ粒子がSn-Bi-In系の合金組成を有し、熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を用い、硬化剤としてイミダゾール系化合物を用いる場合、はんだペーストの全質量に対する熱硬化性樹脂の含有量を、例えば5重量%~30重量%、特に10重量%~25重量%、より特に12重量%~20重量%の範囲以内にすることによって、はんだ接合部の接続信頼性を補強することができる。
【0042】
このようなはんだペーストは、例えば導電性ペーストと同様の方法で、配線パターンを有する基材の所定箇所に供給する。所定の箇所は、はんだペーストにより形成される接合部が電子部品の電極と基材上に形成した配線パターンとの間で意図する電気的導通をもたらすように適宜選択する。例えば、所定の箇所は、例えば配線および/または電極の上、上およびその周辺部、配線と配線との間、ならびにこれらのいずれかの適切な組み合わせであってよい。
【0043】
次に、本発明の実装構造体を形成する具体的な方法の例を説明する。樹脂基材1として、厚み0.1mmのPETを用いる。導電性ペーストによって形成された配線パターン2は、Ag系導電性粒子を導通の主成分とする導電性ペースト(EMS社製の品番:CI-1036)をスクリーン印刷により、基材へ描画した後、120℃15分で乾燥させることで形成する。乾燥後のAg配線パターンの厚みは例えば10~20μmである。
【0044】
その後、接合すべき電子部品5の電極6が位置する基材箇所に、Sn、Bi、Inから構成される溶融温度が98℃のはんだ合金(例えば25Sn-55Bi-20In合金、融点:98℃)の粒子、熱硬化性樹脂としてのエポキシ樹脂、カルボン酸、硬化剤を主成分として構成されるはんだペースト(熱硬化性樹脂の硬化発熱反応のピーク温度:例えば143℃)を、0.1mm厚のメタルマスクを用いて、スクリーン印刷により供給する。その後、電子部品5を所定の位置に載置し、リフロー炉を用いて基材を130℃まで昇温させて、10分間保持し、導電性ペーストによって形成された配線パターン2と電子部品の電極6とを金属接合する。
【0045】
このようなリフロー炉による加熱中に、Ag系導電性粒子を導通の主成分とする導電性ペーストによって形成された配線パターンに溶融したはんだが濡れ拡がる際に、導電性ペーストに含まれるAgが溶融はんだに拡散していく。Agがはんだへ拡散する際に元々Agが存在していた部分には、はんだペーストに含まれ、流動状態になっているエポキシ樹脂が進入して硬化する結果、はんだ接合部3と樹脂基材1との間に介在する熱硬化性樹脂部分4が形成される。エポキシ樹脂の硬化発熱反応のピーク温度が135~165℃の間であると、このように進入する時、エポキシ樹脂の粘度が未だ十分低いので、Agが存在していた部分にエポキシ樹脂が入り込み易い。
【0046】
熱硬化性樹脂部分の面積は、一般的に、リフロー炉の温度が高いほど、また、加熱時間が長いほど大きくなる。また、形成した配線パターンの種類や厚みによっても熱硬化性樹脂部分占有面積は異なる。通常、本発明の実装方法によって実装構造体を形成する場合、熱硬化性樹脂部分占有面積は、その面積とはんだ接合部専有面積の和に対して10~40%であるのが好ましく、熱硬化性樹脂による接着性が補強される。
【0047】
[実施例および比較例]
厚さ0.1mmのPET樹脂製の樹脂基材上に、導電性ペースト(EMS社製の品番:CI-1036)で配線パターンを形成した。次に、形成した配線パターン上にメタルマスクを用いてはんだペーストを供給した。
【0048】
実施例1、実施例2および実施例4ならびに比較例1において用いたはんだペーストの組成は以下の通りであった:
はんだ粒子(平均粒子寸法:20~30μm、25Sn-55Bi-20In合金)
80質量%
エポキシ樹脂(三菱化学製、商品名:806) 16質量%
レブリン酸 2.5質量%
イミダゾール系硬化剤(四国化成製、商品名:2P4MHZ) 1.5質量%
カルボン酸および硬化剤を含むエポキシ樹脂の硬化発熱反応のピーク温度をDSCにより測定したところ、143℃であった。
【0049】
上記はんだペーストの組成中のイミダゾール系硬化剤を四国化成製、商品名:2MZ-A 1.5質量%に代えて実施例3に用いるはんだペーストを得た。同様にして、はんだペーストに用いたエポキシ樹脂の硬化発熱反応のピーク温度をDSCにより測定したところ、155℃であった。
【0050】
上記はんだペーストの組成中のイミダゾール系硬化剤を四国化成製、商品名:2E4MZ-A 1.5質量%に代えて比較例2および比較例3に用いるはんだペーストを得た。同様にして、はんだペーストに用いたエポキシ樹脂の硬化発熱反応のピーク温度をDSCにより測定したところ、120℃であった。
【0051】
次に、供給したはんだペースト上に電子部品としての2125サイズのチップコンデンサを載置した後、基材をリフロー炉に入れて所定の加熱温度にて所定時間加熱して、チップコンデンサと配線との間に接合部を形成した。
【0052】
形成した接合部について、その熱硬化性樹脂部分占有面積比率を測定し、また、その接合強度を判定した。その結果を、表1に示す。
【0053】
【0054】
尚、面積比率に関して、透明基材の裏面から接合部を観察し、熱硬化性樹脂部分の面積および接合部専有面積を計測し、上述のように、熱硬化性樹脂部分占有面積の、その面積とはんだ接合部専有面積の和に対する比率を「熱硬化性樹脂部分占有面積比率」とした。
【0055】
また、接合強度の判定については、シェアテスタ(RHESCA社製PTR-1100)を用いて1mm/s速度でのせん断強度を測定することにより接合部における接合強度を評価し、サンプル数10以上での平均接合強度が4000gf以上であった場合に「〇」とし、それより小さかった場合を「×」とした。
【0056】
表1の結果からも分かるように、熱硬化性樹脂等の補強がない場合、配線パターンの樹脂基材に対する接合強度はほぼ配線パターンのバルク強度に依存するが、一般的に配線パターンのバルク強度は十分でない場合が多く、比較例2および比較例3において「×」の判定となった。一方、熱硬化性樹脂部分占有面積が10%以上存在することによって、配線パターンとはんだ接合部とが熱硬化性樹脂部分で強固に基材に固定される為、また、電子部品とはんだ接合部とが熱硬化性樹脂部分で強固に基材に固定される為、実施例1~4の結果から分かるように、機械的に高い信頼性を有するはんだ接合部が得られる。はんだ接合部3は配線パターンの導電性粒子を構成する金属(例えばAg)が拡散した合金組成となっている。尚、熱硬化性樹脂部分占有面積が40%以上存在すると、配線パターンとはんだ接合部との間の接合強度が不十分となり、断線が発生しやすくなるという問題が生じ得るので、そのような割合は一般的には好ましくない。
【0057】
特に好ましい態様では、はんだ接合部3の外側および/または電子部品5の下側には、はんだペーストから分離して硬化する熱硬化性樹脂部分7が覆っている。このように、本発明によれば、はんだ接合部と樹脂基材の間に介在する熱硬化性樹脂部分4およびはんだペーストから分離して形成されるはんだ接合部3の外周に接する熱硬化性樹脂部分7および/または電子部品5と基材1との間に形成される熱硬化性樹脂部分7による補強により機械的に高い信頼性を有する実装構造体を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の実装方法により形成される実装構造体では、基材とはんだ接合部との接着性が補強される結果、配線パターンと電子部品との接着性が補強される。従って、そのような実装構造体は、衣服や肌に貼り付けて使用するようなウエアラブル機器のような、柔軟な電子機器に有用に用いることができる。
【符号の説明】
【0059】
1 基材
2.2-1,2-2 配線または配線パターン
3,3-1,3-2 はんだ接合部
4,4-1,4-2 熱硬化性樹脂部分
5 電子部品
6,6-1,6-2 電極
7 熱硬化性樹脂部分