(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-27
(45)【発行日】2024-07-05
(54)【発明の名称】温冷感推定装置、空調装置、空調システム、温冷感推定方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01J 5/48 20220101AFI20240628BHJP
F24F 11/62 20180101ALI20240628BHJP
F24F 11/70 20180101ALI20240628BHJP
B60H 1/00 20060101ALI20240628BHJP
A61B 5/01 20060101ALI20240628BHJP
A61B 5/00 20060101ALI20240628BHJP
A61B 5/107 20060101ALI20240628BHJP
【FI】
G01J5/48 A
F24F11/62
F24F11/70
B60H1/00 101Z
B60H1/00 101Q
A61B5/01 350
A61B5/00 101Z
A61B5/107 400
(21)【出願番号】P 2023500599
(86)(22)【出願日】2021-12-28
(86)【国際出願番号】 JP2021048942
(87)【国際公開番号】W WO2022176411
(87)【国際公開日】2022-08-25
【審査請求日】2023-08-02
(31)【優先権主張番号】P 2021023776
(32)【優先日】2021-02-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】米田 亜旗
(72)【発明者】
【氏名】式井 愼一
【審査官】小澤 瞬
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-003195(JP,A)
【文献】国際公開第2017/209089(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/122201(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/042621(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/177002(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/087959(WO,A1)
【文献】特開平08-025941(JP,A)
【文献】特開2020-115073(JP,A)
【文献】特開平06-147613(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60H 1/00 - B60H 3/06
F24F 11/00 - F24F 11/89
G01J 5/00 - G01J 5/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
利用者の着衣の一部分における表面領域の表面温度の情報を取得する取得部と、
前記利用者の体の前記表面領域に覆われた部位である着衣部位における着衣量を推定する着衣量推定部と、
前記表面温度の情報と、前記着衣量と、に少なくとも基づいて、前記利用者の体から体外に放出される放熱量を推定する放熱量推定部と、
前記放熱量に基づいて前記利用者の温冷感を推定する温冷感推定部と、
を備える温冷感推定装置。
【請求項2】
前記利用者の体の前記着衣部位の皮膚温を推定する皮膚温推定部を更に備え、
放熱量推定部は、前記表面温度の情報と、前記着衣部位の皮膚温と、前記着衣量と、に少なくとも基づいて、前記利用者の体から体外に放出される放熱量を推定する、
請求項1に記載の温冷感推定装置。
【請求項3】
前記利用者を撮影可能な場所に位置するサーモカメラを更に備え、
前記取得部は、前記サーモカメラからの熱画像を用いて前記表面温度の情報を取得する、
請求項2に記載の温冷感推定装置。
【請求項4】
前記皮膚温推定部は、前記熱画像を用いて、前記利用者の前記着衣で覆われていない部位である非着衣部位の皮膚温を取得し、前記非着衣部位の皮膚温を基に、前記着衣部位の皮膚温を推定する、
請求項3に記載の温冷感推定装置。
【請求項5】
前記利用者が着席する座席に設けられた感圧センサを更に備え、
前記皮膚温推定部は、
前記熱画像を用いて前記利用者の身長を取得し、前記感圧センサの出力に基づいて前記利用者の体重を取得し、前記体重と前記身長とを用いて、前記利用者の皮下脂肪に関する値である皮下脂肪値を算出する算出部と、
前記皮膚温推定部が推定した皮膚温を前記算出部が算出した値に応じて補正する補正部とを含む、
請求項4に記載の温冷感推定装置。
【請求項6】
前記着衣量推定部は、季節、日付、及び気温のうち1種類以上の情報を用いて前記着衣量を推定する、
請求項4又は5に記載の温冷感推定装置。
【請求項7】
前記着衣量推定部は、無風状態での気温、及び前記表面温度を基に、前記着衣量を推定する、
請求項4又は5に記載の温冷感推定装置。
【請求項8】
前記着衣量推定部は、前記利用者を撮影可能な場所に位置する可視光カメラからの画像を用いて前記着衣量を推定する、
請求項4又は5に記載の温冷感推定装置。
【請求項9】
前記着衣部位は、前記利用者の前記着衣で覆われた1以上の着衣部位のうちの第1着衣部位であり、
前記表面領域は、前記着衣の、前記第1着衣部位を覆う部分の表面領域である第1表面領域であり、
前記表面温度は、前記第1表面領域の表面温度であり、
前記着衣量は、前記利用者の前記第1表面領域における第1着衣量であり、
前記放熱量は、前記利用者の全身から前記体外に放出される全身放熱量であり、
前記放熱量推定部は、
前記第1表面領域の表面温度の情報と、前記第1着衣部位の皮膚温と、前記第1表面領域における着衣量とに基づいて、前記第1着衣部位から前記着衣に放出される第1放熱量を推定する第1放熱量推定部と、
前記第1放熱量を少なくとも用いて、前記全身放熱量を推定する全身放熱量推定部とを含む、
請求項4-8のいずれか一項に記載の温冷感推定装置。
【請求項10】
前記利用者の体を構成する複数の部位のうち胸部、腕部及び脚部が前記着衣に覆われており、
前記第1着衣部位は、前記胸部であり、
前記放熱量推定部は、
前記第1放熱量に基づいて前記利用者の仮の温冷感である仮温冷感を推定する仮温冷感推定部を更に含み、
前記皮膚温推定部は、前記仮温冷感に基づいて、前記腕部又は前記脚部である第2着衣部位の皮膚温を更に推定し、
前記取得部は、前記着衣の、前記第2着衣部位を覆う部分の表面領域である第2表面領域の表面温度の情報をも取得し、
前記着衣量推定部は、前記利用者の前記第2表面領域における第2着衣量を更に推定し、
前記放熱量推定部は、
前記第2表面領域の表面温度の情報と、前記第2着衣部位の皮膚温と、前記第2表面領域における着衣量とに基づいて、前記第2着衣部位から前記着衣に放出される第2放熱量を推定する第2放熱量推定部を更に含み、
前記全身放熱量推定部は、前記第2放熱量を更に用いて、前記全身放熱量を推定する、
請求項9に記載の温冷感推定装置。
【請求項11】
前記利用者は、空調装置が設けられた自動車の室内に居り、
前記第2着衣部位は、前記腕部であり、
前記第2放熱量は、前記腕部から前記着衣に放出される放熱量であり、
前記空調装置の吹出口には、風の吹出方向を、前記第1着衣部位に向かう方向、及び前記第2着衣部位に向かう方向を含み、前記脚部である第3着衣部位の向かう方向を含まない範囲に規制する規制部材が設けられており、
前記放熱量推定部は、
前記空調装置の設定温度及び設定風量に基づいて、前記脚部である第3着衣部位から前記着衣に放出される第3放熱量を推定する第3放熱量推定部を更に含み、
前記全身放熱量推定部は、前記第3放熱量に更に用いて、前記全身放熱量を推定する、
請求項10に記載の温冷感推定装置。
【請求項12】
前記非着衣部位は、頭部であり、
前記放熱量推定部は、
前記第1放熱量から風速を逆算する風速逆算部と、
前記風速と、前記着衣の外部の空気である外気の気温と、前記非着衣部位の皮膚温とを基に、前記非着衣部位から前記外気に放出される放熱量である第4放熱量を推定する第4放熱量推定部とを更に含み、
前記全身放熱量推定部は、前記第4放熱量を更に用いて、前記全身放熱量を推定する、
請求項9に記載の温冷感推定装置。
【請求項13】
前記利用者の代謝量を推定する代謝量推定部と、
前記全身放熱量から前記代謝量を減算する減算部とを更に備え、
前記温冷感推定部は、前記減算部による減算後の放熱量を用いて温冷感を推定する、
請求項9-12のいずれか一項に記載の温冷感推定装置。
【請求項14】
風量及び風温の少なくとも一方を調整した風を吹き出す空調部と、
請求項1-13のいずれか一項に記載の温冷感推定装置が推定した温冷感に基づいて、前記空調部を制御する空調制御部とを備える、
空調装置。
【請求項15】
請求項1-13のいずれか一項に記載の温冷感推定装置と、
1つ以上の空調装置とを備え、
前記空調装置は、
風量及び風温の少なくとも一方を調整した風を吹き出す空調部と、
前記温冷感推定装置が推定した温冷感に基づいて、前記空調部を制御する空調制御部とを備える、
空調システム。
【請求項16】
利用者の着衣の一部分における表面領域の表面温度の情報を取得する取得ステップと、
前記利用者の体の前記表面領域に覆われた部位である着衣部位における着衣量を推定する着衣量推定ステップと、
前記表面温度の情報と、前記着衣量と、に少なくとも基づいて、前記利用者の体から体外に放出される放熱量を推定する放熱量推定ステップと、
前記放熱量に基づいて前記利用者の温冷感を推定する温冷感推定ステップと、
を備える温冷感推定方法。
【請求項17】
請求項16記載の温冷感推定方法を、1以上のプロセッサに実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、温冷感推定装置、空調装置、空調システム、温冷感推定方法及びプログラムに関し、より詳細には、着衣の影響を含む温冷感を推定する、温冷感推定装置、空調装置、空調システム、温冷感推定方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、乗員の着衣部の表面温度を検出して着衣部温度信号を出力する表面温度センサを備える車両用空調装置が記載されている。この車両用空調装置は、乗員の温熱感の推定値である温熱感推定値を着衣部温度信号に基づいて算出し、温熱感推定値に基づいて車室内の空調制御を行う。
【0003】
上記車両用空調装置によれば、着衣部の表面温度を精度よく検出することで、温冷感の推定精度の向上、ひいては快適な空調制御の実現が期待される。しかし、上記車両用空調装置では、乗員が風邪等で発熱した場合、着衣部の表面温度も上昇し、温熱感推定値が実際の温冷感に対し「暑い」側に傾く。その結果、乗員が風邪をひいているにもかかわらず、気温を下げる方向に空調制御が行われることがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
本開示の目的は、推定対象の発熱の影響を含めた温冷感の推定精度の向上を図ることができる、温冷感推定装置、空調装置、空調システム、温冷感推定方法及びプログラムを提供することである。
【0006】
本開示の一態様に係る温冷感推定装置は、取得部と、着衣量推定部と、放熱量推定部と、温冷感推定部とを備える。前記取得部は、利用者の着衣の一部分における表面領域の表面温度の情報を取得する。前記着衣量推定部は、前記利用者の体の前記表面領域に覆われた部位である着衣部位における着衣量を推定する。前記放熱量推定部は、前記表面温度の情報と、前記着衣量と、に少なくとも基づいて、前記利用者の体から体外に放出される放熱量を推定する。前記温冷感推定部は、前記放熱量に基づいて前記利用者の温冷感を推定する。
【0007】
本開示の一態様に係る空調装置は、空調部と、空調制御部とを備える。前記空調部は、風量及び風温の少なくとも一方を調整した風を吹き出す。前記空調制御部は、前記温冷感推定装置が推定した温冷感に基づいて、前記空調部を制御する。
【0008】
本開示の一態様に係る空調システムは、前記温冷感推定装置と、1つ以上の空調装置とを備える。前記空調装置は、空調部と、空調制御部とを備える。前記空調部は、風量及び風温の少なくとも一方を調整した風を吹き出す。前記空調制御部は、前記温冷感推定装置が推定した温冷感に基づいて、前記空調部を制御する。
【0009】
本開示の一態様に係る温冷感推定方法は、取得ステップと、着衣量推定ステップと、放熱量推定ステップと、温冷感推定ステップとを含む。前記取得ステップでは、利用者の着衣の一部分における表面領域の表面温度の情報を取得する。前記着衣量推定ステップでは、前記利用者の体の前記表面領域に覆われた部位である着衣部位における着衣量を推定する。前記放熱量推定ステップでは、前記表面温度の情報と、前記着衣量と、に少なくとも基づいて、前記利用者の体から体外に放出される放熱量を推定する。前記温冷感推定ステップでは、前記放熱量に基づいて前記利用者の温冷感を推定する。
【0010】
本開示の一態様に係るプログラムは、前記温冷感推定方法を、1以上のプロセッサに実行させるためのプログラムである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本開示の実施形態に係る温冷感推定装置のブロック図である。
【
図2】
図2は、同上の温冷感推定装置が備える放熱量推定部のブロック図である。
【
図3】
図3は、同上の放熱量推定部による放熱量の推定方法を説明するための説明図である。
【
図4】
図4は、同上の温冷感推定装置が備える着衣量推定部が用いる第2対応情報のデータ構造の説明図である。
【
図5】
図5は、同上の温冷感推定装置の動作を説明するためのフローチャートである。
【
図6】
図6は、同上の温冷感推定装置の動作における皮膚温推定処理を説明するためのフローチャートである。
【
図7】
図7は、同上の温冷感推定装置の動作における温冷感推定処理を説明するためのフローチャートである。
【
図8】
図8は、同上の温冷感推定装置を有する空調システムが使用される自動車の概略図である。
【
図9】
図9は、同上の自動車の室内を示す概略図である。
【
図10】
図10は、同上の室内における空調装置の吹出口の配置を示す概略図である。
【
図11】
図11は、同上の放熱量推定部の変形例1を示すブロック図である。
【
図12】
図12は、同上の変形例1における放熱量推定処理を説明するためのフローチャートである。
【
図13】
図13は、同上の放熱量推定部の変形例2を示すブロック図である。
【
図14】
図14は、同上の変形例2における放熱量推定処理を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下の実施形態で説明する構成は本開示の一例にすぎない。本開示は、以下の実施形態に限定されず、本開示の効果を奏することができれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。
【0013】
本開示の実施形態に係る温冷感推定装置1、及び空調システム100について、
図1-
図14を参照して説明する。
【0014】
(1)空調システムの概要
本開示の実施形態に係る空調システム100は、温冷感推定装置1と、空調装置2とを備える。
【0015】
温冷感推定装置1は、利用者の温冷感を推定する。
【0016】
利用者は、通常、室内に居るが、屋外に居てもよい。室内は、例えば、後述する
図8-
図10に示すような自動車300の室内(車内)であるが、自動車300以外の乗り物(電車、航空機等)の室内でもよいし、建物の室内(屋内)でも構わない。利用者は、例えば、室内の座席330に着席しているが、立っていてもよい。室内の座席330は、例えば、
図8に示すような車内の運転席であるが、図示しないリビングのソファ等でもよい。
【0017】
本実施形態における温冷感とは、利用者が感じる温かさ又は冷たさの程度に関する情報である。温冷感は、例えば、“暑い”,“暖かい”,“快適”,“涼しい”,“寒い”等の情報であるが、これらに対応付けられた“2”,“1”,“0”,“-1”,“-2”等の数値でもよい。
【0018】
一般に、温冷感は、気温、湿度、風速、放射温度(例えば、着衣の表面温度)、代謝量、及び着衣量に依存する。本開示における温冷感推定方法の特徴は、上記6つの要素中の風速を用いることなく、風の影響を含めた温冷感を推定する点にある。
【0019】
空調装置2は、温冷感推定装置1が推定した温冷感に基づいて風量及び風温の少なくとも一方を調整した風を吹き出す。
【0020】
(2)温冷感推定装置
本開示の実施形態に係る温冷感推定装置1は、取得部11と、皮膚温推定部12と、着衣量推定部13と、放熱量推定部14と、代謝量推定部15と、減算部16と、温冷感推定部17とを備える(
図1参照)。皮膚温推定部12は、算出部121、及び補正部122を含む。
【0021】
(2-1)表面温度情報の取得
取得部11は、利用者の着衣の表面温度情報を取得する。表面温度情報とは、着衣の表面温度に関する情報である。本実施形態における表面温度情報は、着衣の一部分における表面領域の温度を示す情報である。ただし、表面温度情報は、例えば、着衣全体の表面における温度分布を示す情報でもよい。
【0022】
表面温度情報の取得対象となる着衣の一部分は、通常、利用者の体の胸部を覆う部分であるが、例えば、腕部を覆う部分、脚部を覆う部分等でもよい。
【0023】
取得部11は、例えば、利用者を撮影可能な場所に位置するサーモカメラ301からの熱画像を用いて、表面温度情報を取得する。
【0024】
具体的には、例えば
図9に示すように、自動車300内のルームミラー310にサーモカメラ301が設けられている。利用者が座席330に着席すると、サーモカメラ301から、利用者の上半身とその周辺を撮影した熱画像が出力される。
【0025】
例えば、図示しないメモリに、人体情報が格納されている。人体情報とは、人の体に関する情報である。人体情報は、例えば、体を構成する複数の部位について、形状、サイズ(長径、短径、表面積等)及び配置などを示す各種の情報を含む。また、人体情報は、性別に応じた特徴(体形、髪型等)、及び年齢に応じた特徴(皺の量、白髪の割合等)などに関する情報も含んでもよい。
【0026】
なお、図示しないメモリとは、通常、温冷感推定装置1内のメモリであるが、温冷感推定装置1と通信可能な外部の装置(図示しない)のメモリでもよい。人体情報、及び後述する第1-第16対応情報等の各種の情報を格納するメモリは、温冷感推定装置1のプロセッサがアクセス可能なメモリであればよく、その所在は問わない。各種の情報は、一のメモリに格納されても、複数のメモリに分散して格納されてもよいことは言うまでもない。
【0027】
取得部11は、上記熱画像に対して輪郭線検出を行い、上半身に対応する範囲内の熱画像を切り出す。次に、取得部11は、上記人体情報を用いて、上記切り出した熱画像を、頭部、胴体、及び腕部に対応する2以上の部分に区分し、胴体に対応する部分のうち上から半分ないし3分の1の範囲を胸部と推定する。そして、取得部11は、当該推定した胸部の代表点(例えば、重心点)における温度情報を、着衣の、胸部に対応する部分の表面温度情報として取得する。あるいは、胸部領域の表面温度の平均値を、表面温度情報とする。
【0028】
なお、胸部以外の着衣部位についても、取得部11は、熱画像を基に表面温度情報を取得可能である。
【0029】
(2-2)皮膚温の推定
皮膚温推定部12は、利用者の着衣部位の皮膚温を推定する。
【0030】
着衣部位とは、利用者の体を構成する複数の部位(例えば、頭部、胸部、腕部及び脚部)のうち、着衣で覆われている部位(例えば、胸部、腕部及び脚部)である。
【0031】
皮膚温推定部12の推定対象となる着衣部位は、着衣の上記一部分で覆われた部位(上記表面領域に対応する着衣部位)であり、例えば、胸部である。胸部は内臓に近いため、体の他の部分の皮膚温に比べ、胸部の皮膚温は体温に近い値となる。健康であれば体温はあまり変化しないので、胸部の皮膚温もあまり変化しない。なお、体温とは、体の深部の温度であることは言うまでもない。ただし、皮膚温の推定対象は、着衣で覆われた部位であれば、腕部、脚部等、どの部位でもよい。
【0032】
本実施形態における皮膚温推定部12は、着衣部位(例えば、胸部)の皮膚温を、例えば、非着衣部位の皮膚温を基に推定する。非着衣部位とは、同上の複数の部位のうち、着衣で覆われていない部位(例えば、頭部)である。
【0033】
なお、胸部の皮膚温推定に用いる非着衣部位は、頭部のうち、特に額が好適である。額は脳に近いため、額の温度は、胸部ほどではないが、体温と近い値となる。従って、胸部の皮膚温と頭部(額)の皮膚温は、強い相関関係を持つ。
【0034】
具体的には、例えば、図示しないメモリに、第1対応情報が格納されている。第1対応情報とは、非着衣部位の皮膚温と着衣部位の皮膚温推定値との対応に関する情報である。第1対応情報は、例えば、非着衣部位である額の皮膚温と、着衣部位である胸部の皮膚温推定値との対の集合であり、具体的には“(30度,33.5度),(31度,34度),(32度,35度),・・・”等を含むテーブルであってもよい。例えば、額の皮膚温が30度であれば、皮膚温推定値が33.5度と推定される。
【0035】
または、第1対応情報は、非着衣部位の皮膚温(t)を入力とし、着衣部位の皮膚温推定値(T)を出力とするアルゴリズム(例えば、“T=t-t0;t0=1.5”等の関数)でもよく、その形式は問わない。なお、所定値t0は、1.5度に限らず、1度から2度の間の値(例えば“1.2”や“1.8”等)であってもよいし、1度に満たない値でも、2度を超得る値でもよい。また、皮膚温は、体温と室温の両者の影響を強く受けるため、前記関数は、非着衣部位の皮膚温(t)の他に、室温もパラメータとして持ってよい。
【0036】
皮膚温推定部12は、例えば、前述したサーモカメラ301からの熱画像を用いて、非着衣部位(額)の皮膚温を取得する。次に、皮膚温推定部12は、第1対応情報を用いて、当該取得した非着衣部位の皮膚温に対応する着衣部位(胸部)の皮膚温推定値を取得する。例えば、額の皮膚温が32度の場合、これに対応する着衣部位の皮膚温推定値“35度”が取得される。
【0037】
なお、本開示において「推定する」ことは、例えば、データテーブルを用いて、予め準備された複数の推定値のうち1つを取得することでもよいし、アルゴリズムを用いて推定値を算出することでもよい。また、データテーブルを用いた推定値の取得において、「対応する」ことは、一致する場合に限らず、最も近接している場合や、差分が閾値より小さい場合も含むことは言うまでもない。さらに、アルゴリズムは、関数でもよいし、機械学習等の人工知能を利用したアルゴリズムでもよい。
【0038】
ただし、第1対応情報は必須ではない。皮膚温推定部12は、例えば、“胸部の温度=固定値”と推定してもよい。固定値は、例えば、35度であるが、これに限らない。
【0039】
また、皮膚温推定部12は、胸部以外の着衣部位についても、皮膚温を推定可能である。例えば、腕部又は脚部について、皮膚温推定部12は、非着衣部位である額の皮膚温から所定値(例えば2.5度)を減算した値を、着衣の、腕部又は脚部を覆う部分における表面温度情報として取得してもよい。
【0040】
また、実施例の変形例で詳述するが、腕部や脚部のような末梢部の皮膚温は、温冷感に応じて血管の収縮/拡張が起こるので、それに応じて皮膚温の下降、上昇が生じる。そこで、温冷感に応じて皮膚温の変化が少ない胸部の皮膚温をまず推定し、胸部の皮膚温によって後述する方法で仮の温冷感を求め、仮の温冷感に応じて腕部や脚部の皮膚温を推定し、推定した腕部や脚部の皮膚温を用いて最終的な温冷感を求めてもよい。
【0041】
このように、皮膚温推定部12は、非着衣部位の皮膚温を利用することで、着衣部位の皮膚温を簡易に精度よく推定できる。
【0042】
(2-3)皮膚温推定値の補正
また、皮膚温推定部12は、上記のようにして取得した皮膚温推定値を、利用者の皮下脂肪に関する値を用いて補正しうる。
【0043】
詳しくは、皮膚温推定部12を構成する算出部121は、皮下脂肪値を算出する。皮下脂肪値とは、利用者の皮下脂肪に関する値である。本実施形態では、皮下脂肪値をBMI(Body Mass Index)で代用するが、例えば、BMIの代わりに、皮下脂肪率、体脂肪率等で代用してもよい。
【0044】
皮膚温推定部12は、例えば、サーモカメラ301からの熱画像を用いて、利用者の身長の推定値を取得し、また、利用者が着席する座席330に設けられた感圧センサ302(
図9参照)の出力を用いて、利用者の体重の推定値を取得する。そして、皮膚温推定部12は、当該体重推定値及び当該身長推定値を用いて、皮下脂肪値を算出する。
【0045】
補正部122は、皮膚温推定部12が取得した皮膚温推定値を、算出部121が算出した皮下脂肪値に応じて補正する。詳しくは、皮下脂肪が多いほど、皮膚温は低下する。そこで、補正部122は、例えば、皮下脂肪値を変数とする増加関数を用いて補正量を算出し、当該算出した補正量を皮膚温推定値から減算することにより、皮下脂肪値に応じて補正された皮膚温推定値を取得する。
【0046】
こうして、皮下脂肪値に基づいて皮膚温推定値を補正することで、利用者の皮下脂肪の多寡による皮膚温の差が縮小される結果、温冷感をより正確に推定できる。
【0047】
ただし、算出部121及び補正部122は必須ではなく、皮下脂肪値の算出及び算出結果に応じた皮膚温推定値の補正は、行われなくてもよい。
【0048】
(2-4)着衣量の推定
着衣量推定部13は、利用者の着衣量を推定する。
【0049】
着衣量とは、利用者が身に着けている衣類の熱抵抗(断熱性)に関する情報である。熱抵抗とは、温度の伝えにくさを表す値である。着衣の熱抵抗の単位はClo(クロ)である。なお、1Cloは、気温21度、湿度50%、気流0.1m/秒の室内で着席している安静状態の人が快適と感じる着衣量であり、1Clo=0.155m2℃/Wと定義されている。
【0050】
着衣量推定部13は、例えば、利用者の上記表面領域(すなわち、着衣の表面のうち、一の着衣部位を覆う部分の表面領域)における着衣量を推定する。
【0051】
これにより、一の着衣部位(例えば、胸部)について、着衣の一部分であり、当該一の着衣部位を覆う部分における表面領域の表面温度情報と、当該一の着衣部位の皮膚温推定値と、当該表面領域における着衣量推定値とが取得される。
【0052】
本実施形態における着衣量推定部13は、例えば、季節及び日付に関する情報を用いて、着衣量を推定する。
【0053】
詳しくは、図示しないメモリに、例えば、
図4に示すような第2対応情報が格納されている。第2対応情報とは、日付と季節と着衣量推定値との対応に関する情報である。第2対応情報は、例えば、一の季節に該当する期間と、当該季節と、当該季節における着衣量推定値との組の集合で構成される。
【0054】
季節は、春夏秋冬のいずれかである。期間は、当該季節の初日から終日までの複数の日付を含む。ただし、期間は、当該季節の初日及び終日の2つの日付で表現されてもよい。ここでの着衣量推定値は、季節及び日付の少なくとも一方の入力に対し、着衣量の推定結果として出力される数値である。
【0055】
期間、季節及び着衣量推定値の組は、具体的には“(4/1~6/30,春,0.8)”,“(7/1~9/30,夏,0.4)”,“(10/1~12/31,秋,0.8)”及び“(1/1~3/31,冬,1.2)”等である。
【0056】
着衣量推定部13は、プロセッサの内蔵時計又はNTPサーバ等から日付を取得し、第2対応情報を用いて、当該日付に対応する季節を取得し、更に当該季節に対応する着衣量を取得する。
【0057】
例えば、当該日付が12月20日である場合、これに対応する季節“秋”が取得され、更に、当該季節“秋”に対応する着衣量“0.8”が取得されてもよい。
【0058】
(2-4-1)着衣量推定の変形例1
なお、上記のようにして当該季節に対応する着衣量推定値を取得する代わりに、着衣量推定部13は、四季(春、夏、秋及び冬)に対応する4つの着衣量推定値の、当該日付又はそれを構成する月に応じた重み付け平均を取得してもよい。
【0059】
この場合、図示しないメモリには、第3対応情報(図示しない)が更に格納される。第3対応情報とは、日付又は月と4つの重み付け係数との対応に関する情報である。第3対応情報は、具体的には、例えば“{1月,(0,0,1/3,2/3)},{2月,(0,0,0,1)},{3月,(1/3,0,0,2/3)}・・・{12月,(0,0,2/3,1/3)}”であってもよい。
【0060】
着衣量推定部13は、当該日付に含まれる月を取得し、第3対応情報を用いて、当該取得した月に対応する4つの重み付け係数を取得し、当該4つの重み付け係数を、四季に対応する4つの着衣量それぞれに乗算することにより、重み付け平均を取得する。
【0061】
例えば、当該日付が12月20日である場合、これに対応する月“12月”が取得され、第3対応情報から、当該月“12月”に対応する4つの重み付け係数(0,0,2/3,1/3)が取得される。そして、当該4つの重み付け係数(0,0,2/3,1/3)が、四季に対応する4つの着衣量(0.8,0.4,0.8,1.2)に乗算され、重み付け平均“0.8×0+0.4×0+0.8×(2/3)+1.2×(1/3)=(14/15)”が取得される。
【0062】
(2-4-2)着衣量推定の変形例2
または、着衣量推定部13は、日付に代えて、気温に関する情報を用いて、着衣量を推定してもよい。
【0063】
気温は、例えば、現在の気温である。現在の気温は、例えば、室外に設置された温度センサから取得される。または、気温は、予想気温でもよい。予想気温は、例えば、気象庁又は気象予報会社等のサーバから受信可能である。
【0064】
例えば、図示しないメモリに、第4対応情報が格納されている。第4対応情報とは、気温と着衣量推定値との対応に関する情報である。第4対応情報は、具体的には、例えば“・・・(18度,1.2Clo),(19度,1.1Clo)・・・”等であるが、これと同等の関数でもよく、その形式は問わない。なお、関数は、例えば、気温を入力とし、着衣量推定値を出力とする減少関数である。
【0065】
着衣量推定部13は、室外の温度センサ等から気温を取得し、第4対応情報を用いて、当該気温に対応する着衣量推定値を取得する。例えば、気温が19度である場合、これに対応する着衣量“1.1Clo”が取得される。
【0066】
なお、着衣量推定部13は、例えば、こうして気温を用いて取得した着衣量推定値と、前述のように季節及び日付を用いて取得した着衣量推定値との平均を算出し、その算出結果を放熱量推定部14に引き渡してもよい。
【0067】
このように、本実施形態の着衣量推定部13は、日付、及び気温のうち1種類以上の情報を用いて着衣量を推定しうる。
【0068】
(2-4-3)着衣量推定の変形例3
または、着衣量推定部13は、無風状態での気温及び表面温度を基に、着衣量を推定してもよい。
【0069】
本例において、利用者は自動車300又は家屋の室内に居り、当該室内に空調装置2と温度センサが設けられている。利用者が空調装置2をオフにすることで、室内は無風状態となり、無風状態における室内の気温が温度センサによって検知される。
【0070】
例えば、図示しないメモリに、第5対応情報が格納されている。第5対応情報とは、気温及び表面温度の組と着衣量推定値との対応に関する情報である。第5対応情報は、具体的には、例えば“・・・{(15度,25度),1.2Clo},{(15度,26度),1Clo},{(15度,27度),0.9Clo}・・・{(16度,25度),1.1Clo}・・・”であるが、これと同等の関数であってもよい。
【0071】
温度センサによって無風状態での気温“15度”が検知され、取得部11によって表面温度“26度”が取得された場合、着衣量推定部13は、第5対応情報を用いて、当該気温及び当該表面温度の組(15度,26度)に対応する着衣量“1Clo”を取得する。
【0072】
(2-4-4)着衣量推定の変形例4
または、着衣量推定部13は、利用者を撮影可能な場所に位置する可視光カメラ(図示しない)からの画像を用いて着衣量を推定してもよい。
【0073】
可視光カメラは、例えば、自動車300の室内であれば、ルームミラー310又はダッシュボード320等に設けられ、家屋の室内であれば、空調装置2の外面等に設けられるが、利用者によって携帯される携帯端末のカメラでもよい。
【0074】
例えば、図示しないメモリに、第6対応情報、及び衣類特徴情報が格納されている。第6対応情報とは、衣類の種類と着衣量推定値との対応に関する情報である。第6対応情報は、例えば“(スーツ,0.8Clo),(Tシャツ,0.4Clo),・・・”であってもよい。
【0075】
衣類特徴情報とは、各種の衣類(例えば、スーツ、Tシャツ等)の特徴に関する情報である。特徴とは、例えば、輪郭線の形状、ボタンの有無等である。
【0076】
着衣量推定部13は、可視光カメラからの画像に対して、衣類特徴情報に基づく画像認識を行い、衣類の種類を推定する。そして、着衣量推定部13は、第6対応情報を用いて、当該推定した衣類の種類に対応する着衣量推定値を取得する。例えば、推定された衣類の種類が“スーツ”である場合、これに対応する着衣量推定値“0.8Clo”が取得される。
【0077】
(2-4-5)着衣量推定の変形例5
または、例えば、座席330のシートベルトに温度センサ(図示しない)が設けられ、着衣量推定部13は、当該温度センサの出力を基に着衣量を推定してもよい。
【0078】
一般に、利用者が着衣の上からシートベルトを装着すると、シートベルトの温度が変化する。詳しくは、装着前のシートベルトの温度は、例えば外気温と同じであり、通常、着衣の温度よりも低い。装着以降、シートベルトの温度は上昇し、着衣の表面温度に近づいていく。そして、このようなシートベルトの温度の変化率は、着衣の量に依存する。
【0079】
着衣量推定部13は、例えば、上記温度センサの出力値の時間変化を基に、シートベルトの温度の変化率を算出し、当該算出した変化率を用いて着衣量を推定する。
【0080】
例えば、図示しないメモリに、第7対応情報が格納される。第7対応情報とは、シートベルトの温度の変化率と着衣量推定値との対応に関する情報である。着衣量推定部13は、上記算出した変化率に対応する着衣量推定値を、第7対応情報を用いて取得する。
【0081】
なお、上記温度センサに代えて、シートベルトを撮影可能な場所に位置する熱画像センサ(例えば、ルームミラー310に設けられたサーモカメラ301でもよい)からの出力を基に、着衣量推定部13は、上記と同様の着衣量推定を行ってもよい。
【0082】
(2-4-6)着衣量推定のその他の変形例
なお、着衣量推定部13は、利用者の、上記表面領域における着衣量に加えて、他の表面領域(例えば、腕部を覆う部分の表面領域、脚部を覆う部分の表面領域など)における着衣量を更に推定してもよい。着衣量推定部13は、他の表面領域についても、上記表面領域と同様に着衣量の推定を行いうる。こうして取得される複数の着衣量に基づく全身放熱量の推定については、変形例で説明する。
【0083】
または、例えば、図示しないメモリに、第8対応情報が格納される。第8対応情報とは、着衣部位と重み付け係数との対応に関する情報である。第8対応情報は、例えば“(胸部,1),(腕部,0.6),(脚部,0.8)・・・”であってもよい。
【0084】
着衣量推定部13は、第8対応情報を用いて、上記表面領域で覆われた着衣部位(胸部)に対応する重み付け係数、及び他の表面領域で覆われた着衣部位(腕部又は脚部)に対応する重み付け係数を取得する。そして、着衣量推定部13は、前者の重み付け係数で後者の重み付け係数を除算し、上記表面領域における着衣量推定値に当該除算結果を乗算することにより、他の表面領域における着衣量推定値を算出してもよい。
【0085】
例えば、胸部を覆う部分の表面領域における着衣量推定値が“0.5Clo”である場合、腕部を覆う部分の表面領域における着衣量推定値は“0.5×(0.6/1)=0.3Clo”、脚部を覆う部分の表面領域における着衣量推定値は“0.5×(0.8/1)=0.4Clo”、のように算出される。
【0086】
着衣量推定部13は、2以上の各部位に対応する2以上の着衣量推定値を上記のようにして算出し、それらを合計することによって、全身着衣量を求めてもよい。例えば、胸部を覆う部分の表面領域における着衣量推定値“0.5Clo”と、腕部を覆う部分の表面領域における着衣量推定値“0.3Clo”と、脚部を覆う部分の表面領域における着衣量推定値“0.4Clo”とを合計することにより、全身着衣量“1.2Clo”が得られる。
【0087】
または、例えば、利用者が、タッチパネルやキーボード等の入力デバイス(図示しない)を介して着衣情報を入力し、着衣量推定部13は、当該入力された着衣情報を基に、着衣量を推定してもよい。
【0088】
着衣情報とは、着衣に関する情報である。着衣情報は、例えば、種類情報である。種類情報とは、利用者が身に着けている衣類の種類を特定する情報である。着衣量推定部13は、当該入力された種類情報で特定される衣類の種類に対応する着衣量推定値を、前述した第6対応情報を用いて取得する。
【0089】
または、着衣情報は、着衣量でもよい。着衣量推定部13は、入力された着衣量を、着衣量推定値として放熱量推定部14に引き渡してもよい。
【0090】
(2-5)放熱量の推定
放熱量推定部14は、上記表面領域(又はこれに対応する着衣部位)について、取得部11が取得した表面温度情報と、皮膚温推定部12が推定した着衣部位の皮膚温と、着衣量推定部13が推定した着衣量と、に少なくとも基づいて、利用者の体から体外に放出される放熱量を推定する。
【0091】
体外には、通常、外気が存在する。外気は、着衣部位においては、着衣の外部に存在する空気であり、非着衣部位においては、皮膚と直に接する空気である。
【0092】
放熱量は、通常、熱流束として計算し得る。熱流束とは、体の表面(すなわち、皮膚)から単位時間に放出される単位面積当たりの熱量であり、その単位は“W/m2 ”である。ただし、放熱量は、例えば、熱流束に体の表面積を乗算した値(つまり、単位時間に全身から放出される熱量)でもよい。
【0093】
なお、本実施形態では、体の表面積、体の各部位の表面積又は部位間の面積比等として、予め決められた値を用いる。ただし、表面積等は、例えば、サーモカメラ301からの熱画像又は可視光カメラ(図示しない)からの画像を基に推定される推定値でもよい。
【0094】
放熱量推定部14は、通常、全身放熱量を推定する。全身放熱量とは、利用者の体の全体(以下、全身)から体外に放出される放熱量である。
【0095】
一般に、利用者の着衣の温度が一定に保たれている場合、着衣に対する熱の出入りは平衡状態にある。従って、
図3に示すように、着衣で覆われた皮膚(例えば、第1着衣部位である胸部の皮膚)から着衣への放熱量Qcと、着衣から外気への放熱量Qaとは等しい。
【0096】
一方、着衣の内部(皮膚と着衣の間)は風の影響を受け難いため、着衣で覆われた皮膚から着衣への放熱量Qcは、着衣から外気への放熱量Qaと比べ、推定が容易である。
【0097】
そこで、放熱量推定部14は、Qa=Qcと仮定して、Qcを下記の式1により推定する。
【0098】
Qc=(Tsk-Tcl)/0.155Clo・・・(式1)
ここで、Tskは、着衣部位(例えば、第1着衣部位)の皮膚温であり、Tclは、着衣の、当該着衣部位に対応する表面領域(例えば、第1表面領域)の表面温度である。なお、
図3中のTaは外気温である。
【0099】
従って、全身放熱量は、利用者の体の、着衣部分から着衣への放熱量と、非着衣部分から体外への放熱量との合計値として求めることができる。着衣部分とは、1つ以上の着衣部位の集合(例えば、胸部、腕部及び脚部)であり、非着衣部分とは、1つ以上の非着衣部位の集合(例えば、頭部)である。
【0100】
ただし、放熱量推定部14が推定する放熱量は、全身放熱量に限らず、体の一部(例えば、着衣部分)から体外に放出される放熱量でもよい。なお、着衣部分の表面積が非着衣部分の表面積よりも十分大きい場合は、着衣部分から着衣への放熱量を全身放熱量とみなしてもよい。
【0101】
詳しくは、本実施形態において、利用者の体は、頭部、胸部、腕部及び脚部の4部位で構成され、そのうち、胸部、腕部及び脚部の3部位の各々が着衣部位(第1着衣部位、第2着衣部位及び第3着衣部位)であり、頭部が非着衣部位である。従って、利用者の体の着衣部分は、第1着衣部位である胸部、第2着衣部位である腕部、及び第3着衣部位である脚部、の集合で構成され、非着衣部分は、唯一の非着衣部位である頭部で構成される。放熱量推定部14は、全身放熱量を、例えば、以下のように推定する。
(A)第1着衣部位(胸部)から着衣への第1放熱量を推定し、第1放熱量を基に全身の放熱量を推定する(本実施形態)。
(B)第2着衣部位(腕部)から着衣への第2放熱量、及び第3着衣部位(脚部)から着衣への第3放熱量を更に推定し、第1-第3放熱量を基に全身の放熱量を推定する(放熱量推定の変形例1:後述)。
(C)第1放熱量から風速を逆算し、風速と気温と非着衣部位(頭部)の皮膚温とを基に、非着衣部位(頭部)から体外への第4放熱量を推定し、第1及び第4放熱量を基に、全身の放熱量を推定する(放熱量推定の変形例2:後述)。
【0102】
体を構成する複数の部位として例示した頭部、胸部、腕部及び脚部のうち、胸部は、通常、着衣で覆われているため、着衣部位である可能性が最も高いといってよい。一方、腕部及び脚部は、少なくとも部分的に着衣で覆われている可能性が高いが、何ら着衣で覆われていない場合もある。また、頭部は、通常、何ら着衣で覆われていないが、部分的に着衣で覆われている可能性もある。
【0103】
腕部のうち上腕部は、前腕部と比べ着衣で覆われている可能性がより高く、脚部のうち大腿部は、下腿部と比べて着衣で覆われている可能性がより高い。このため、1以上の着衣部位は、例えば、胸部、上腕部、及び大腿部であってもよい。
【0104】
第1着衣部位とは、利用者の体を構成する1以上の着衣部位のうち、いずれか1つの着衣部位である。第1着衣部位は、例えば、前述した3つの着衣部位(胸部、腕部及び脚部)のうち、着衣部位である可能性が最も高い胸部が好適であり、以下では、第1着衣部位は胸部であるものとして説明する。ただし、第1着衣部位は、通常着衣で覆われている部位であれば、例えば腹部や腰部等の部位でもよい。
【0105】
なお、前述した表面領域(着衣の一部分における表面領域)は、通常、第1表面領域である。この場合、第1表面領域は、利用者の着衣のうち、第1着衣部位を覆う部分の表面領域である。また、前述した表面温度は、第1表面領域の表面温度である。また、前述した着衣量は、例えば、利用者の第1表面領域における第1着衣量である。さらに、前述した放熱量は、第1着衣部位からの放熱量を含む全身放熱量である。
【0106】
(2-5-1A)第1放熱量に基づく全身放熱量推定
本実施形態における放熱量推定部14は、
図2に示すように、第1放熱量推定部141と、全身放熱量推定部145とを含む。
【0107】
第1放熱量推定部141は、第1表面領域の表面温度の情報と、第1着衣部位の皮膚温と、第1表面領域における着衣量とに基づいて、第1放熱量を推定する。第1放熱量とは、第1着衣部位から着衣に放出される放熱量である。
【0108】
具体的には、第1着衣部位に関して、取得部11が取得した表面温度情報Tcl、皮膚温推定部12が推定した皮膚温Tsk、及び着衣量推定部13が推定した着衣量Cloが第1放熱量推定部141に与えられる。第1放熱量推定部141は、与えられたTsk、Tcl及びCloを上記式1に代入し、第1着衣部位から着衣への第1放熱量Qcを求める。
【0109】
全身放熱量推定部145は、第1放熱量推定部141が推定した第1放熱量Qcを用いて、全身放熱量を推定する。
【0110】
例えば、図示しないメモリに、全身の表面積(S)に占める第1着衣部位の表面積の割合α(ただし、0<α<1)が格納されており、全身放熱量推定部145は、第1放熱量Qcを割合αで除算することにより、第1着衣部位を含む2以上の着衣部位(前述した着衣部分)から着衣への放熱量(Qc/α)を算出する。
【0111】
また、図示しないメモリには、着衣部分からの放熱量に対する非着衣部分からの放熱量の比β(ただし、0<β)も格納されており、全身放熱量推定部145は、着衣部分からの放熱量(Qc/α)に比βを乗算することにより、非着衣部分から体外への放熱量{(Qc/α)×β}を算出する。
【0112】
そして、全身放熱量推定部145は、着衣部分からの放熱量(Qc/α)と、非着衣部分からの放熱量{(Qc/α)×β)}とを合計し、全身の表面積Sで除算することにより、全身放熱量{Qc×(1+β)/(α×S)}を求めてもよい。
【0113】
このように、着衣部位の皮膚温、着衣部位に対応する表面領域の表面温度、及び表面領域における着衣量を基に、第1着衣部分から着衣への第1放熱量を推定することで、少なくとも第1放熱量を用いて全身放熱量を推定できる。
【0114】
(2-5-1B)放熱量推定の変形例1:複数の着衣部位からの放熱量に基づく全身放熱量推定
なお、放熱量推定部14は、例えば、前述した第1着衣部位から着衣への第1放熱量に加えて、第2着衣部位から着衣への第2放熱量、及び第3着衣部位から着衣への第3放熱量を更に推定し、推定した第1-第3放熱量を用いて、全身から着衣への放熱量である全身放熱量を推定してもよい。
【0115】
第2着衣部位とは、利用者の体を構成する3以上の着衣部位(例えば、胸部、腕部、及び脚部等)のうち、第1着衣部位以外のいずれかの着衣部位である。通常、胸部が第1着衣部位であり、第2着衣部位は腕部又は脚部である。本変形例1では、特に言及しない限り、第2着衣部位は腕部であるとする。
【0116】
第3着衣部位とは、3つ以上の着衣部位のうち、第1着衣部位及び第2着衣部位以外のいずれかの着衣部位である。
【0117】
本変形例1では、胸部が第1着衣部位、腕部が第2着衣部位であり、第3着衣部位は脚部であるとする。
【0118】
(2-5-1Ba)第1-第3放熱量に基づく全身放熱量推定:仮温冷感を利用
本変形例1における放熱量推定部14aの構成が
図11に示される。放熱量推定部14aは、実施形態における放熱量推定部14(
図2参照)に対し、仮温冷感推定部142、第2放熱量推定部143、及び第3放熱量推定部144を追加すると共に、全身放熱量推定部145を全身放熱量推定部145aに置き換えたものである。
【0119】
仮温冷感推定部142は、第1放熱量推定部141が推定した第1放熱量に基づいて、仮温冷感を推定する。
【0120】
仮温冷感とは、利用者の仮の温冷感である。本実施形態における仮温冷感とは、体の一部分からの放熱量(通常、第1放熱量)のみに基づく温冷感である。これに対して、全身放熱量に基づく温冷感が、真の温冷感である。
【0121】
一般に、腕部及び脚部(四肢)の皮膚温は温冷感との相関が強いため、まず、第1着衣部位(胸部)からの第1放熱量を求め、第1放熱量を基に温冷感を推定する。こうして第1放熱量を基に推定される放熱量が仮温冷感である。
【0122】
なお、仮温冷感推定部142は、例えば、後述する第13対応情報を用いて仮温冷感を推定してもよい。この場合、第13対応情報を構成する温冷感は、仮温冷感とみなされる。具体的には、例えば、第1放熱量が“45W/m2”と推定された場合、これに対応する仮温冷感“涼しい”が取得される。
【0123】
皮膚温推定部12は、仮温冷感推定部142が推定した仮温冷感に基づいて、第2着衣部位(腕部)の皮膚温を更に推定する。例えば、図示しないメモリに、第9対応情報が格納されている。第9対応情報とは、温冷感推定値と腕部の皮膚温推定値との対応に関する情報である。皮膚温推定部12は、取得された仮温冷感推定値に対応する皮膚温推定値を、第9対応情報を用いて取得する。
【0124】
取得部11は、前述した熱画像を用いて、着衣の第2表面領域の表面温度の情報をも取得する。第2表面領域とは、利用者の着衣の、第2着衣部位を覆う部分の表面領域である。
【0125】
着衣量推定部13は、利用者の第2表面領域における第2着衣量を更に推定する。第2着衣量は、例えば、第1着衣部位の着衣量に対し、部位に応じた係数を乗算したものでもよい。
【0126】
例えば、図示しないメモリに、前述した第6対応情報が格納されている。第1着衣部位の着衣量の推定値が“0.8Clo”である場合、着衣量推定部13は、第1対応部位“胸部”に対応する係数“1”と、第2着衣部位“腕部”に対応する係数“0.6”とを取得する。そして、着衣量推定部13は、“0.8Clo”に“0.6/1”を乗算することにより、第2着衣量“0.48Clo”を取得してもよい。
【0127】
第2放熱量推定部143は、こうして取得された、第2表面領域の表面温度情報と、第2着衣部位の皮膚温と、第2表面領域における着衣量とに基づいて、第2放熱量を推定する。第2放熱量とは、第2着衣部位から着衣に放出される放熱量である。
【0128】
第3放熱量推定部144は、空調装置2の設定温度及び設定風量に基づいて、風速及び気温を推定し、当該推定した風速及び当該推定した気温を基に第3放熱量を推定する。第3放熱量とは、第3着衣部位(脚部)から着衣に放出される放熱量である。
【0129】
詳しくは、空調装置2は上半身向けの吹出口211と、下半身向けの吹出口(図示せず)の二つの吹出口を持つ。一般的に、冷房運転の場合は、吹出口211のみを用いるように設定される。吹出口211には、規制部材211aが設けられている。規制部材211aは、吹出口211からの風の吹出方向を、第1着衣部位(胸部)に向かう方向、及び第2着衣部位(腕部)に向かう方向を含み、第3着衣部位(脚部)の向かう方向を含まない範囲に規制する。これによって、吹出口211からの風は、利用者の上半身に向かい、下半身には直接当たらず、下半身の周りの気流が安定する。このため、空調装置2の設定風量を基に、第3着衣部位(脚部)での風速を容易に推定できる。
【0130】
例えば、図示しないメモリに、設定温度と推定気温との対応に関する第10対応情報、及び設定風量と推定風速との対応に関する第11対応情報が格納されている。第3放熱量推定部144は、設定温度に対応する推定気温及び設定風量に対応する推定風速を、第10対応情報及び第11対応情報を用いて取得し、当該取得した推定気温及び当該取得した推定風量を基に、第3放熱量を推定する。
【0131】
例えば、前述した人体情報に面積情報が含まれている。面積情報とは、人体を構成する2以上の各部位の面積に関する情報である。面積情報は、例えば、2以上の部位それぞれの面積を示す情報であるが、部位間の面積比を示す情報でもよい。
【0132】
全身放熱量推定部145aは、面積情報を用いて、第1着衣部位部から着衣への第1放熱量と、第2着衣部位から着衣への第2放熱量と、第3着衣部位部から着衣への第3放熱量との、各部位間の面積比による重み付け平均をとることにより、着衣部分から着衣への放熱量を推定する。
【0133】
更に、全身放熱量推定部145aは、例えば、上記のようにして推定した着衣部分から着衣への放熱量、及び着衣部分と非着衣部分との面積比等の情報を用いて、非着衣部分から外気への放熱量をも推定する。そして、全身放熱量推定部145aは、着衣部分から着衣への放熱量、及び非着衣部分から外気への放熱量を合計し、全身放熱量を取得する。
【0134】
温冷感推定部17は、こうして推定された全身放熱量を基に温冷感を推定し、それによって、真の温冷感が取得される。
【0135】
このように、本変形例1では、利用者の四肢の皮膚温は温冷感との相関が強いことを利用して、第1着衣部位(胸部)からの第1放熱量を基に仮温冷感を推定し、仮温冷感を基に第2着衣部位(腕部)の皮膚温を推定する。更に、第2着衣部位に対応する表面領域における表面温度情報及び着衣量を取得し、当該皮膚温、当該表面温度情報及び当該着衣量を基に第2放熱量を推定する。
【0136】
一方、空調装置2の吹出口211に設けられた規制部材211aによって、第3着衣部位(脚部)には風が直接当たらないことから、第3着衣部位からの第3放熱量を空調装置2の設定温度及び設定風量に基づいて推定する。そして、第1-第3放熱量を基に改めて温冷感を推定することで、真の温冷感が得られる。こうして、第1-第3放熱量を用いて、全身からの放熱量を簡易に、より精度よく推定できる。
【0137】
(2-5-1Bb)第3放熱量の他の推定方法
なお、例えば、空調装置2がリビング内のエアコンの場合、上記車内の例と比べ、利用者の下半身の周りの気流が安定していない。このような場合、第3放熱量推定部144は、例えば、第2放熱量推定部143が推定した第2放熱量を基に、第3放熱量を推定してもよい。
【0138】
具体的には、第3放熱量推定部144は、例えば、前述した面積情報を用いて、第2着衣部位(腕部)に対する第3着衣部位(脚部)の面積比を取得する。そして、第3放熱量推定部144は、第2放熱量推定部143が推定した第2放熱量に、当該取得した面積比を乗算することにより、第3放熱量を取得する。
【0139】
または、例えば、利用者の下半身を撮影可能な場所に、別のサーモカメラ(図示しない)が更に設けられている。取得部11は、当該別のサーモカメラからの熱画像を用いて、第3着衣部位(脚部)の表面温度を取得する。以降、第1着衣部位又は第2着衣部位の場合と同様にして、皮膚温推定部12が第3着衣部位の皮膚温を推定し、着衣量推定部13は、着衣の、第3着衣部位に対応する表面領域における着衣量を推定する。第3放熱量推定部144は、これら第3着衣部位に関する表面温度、皮膚温及び着衣量を用いて、第3放熱量を推定する。
【0140】
(2-5-1Bc)第1及び第2放熱量に基づく全身放熱量推定
ただし、本変形例1において、
図11に示した放熱量推定部14aの構成から第3放熱量推定部144を除外してもよい。つまり、第3着衣部位からの第3放熱量の推定は行わず、放熱量推定部14aは、第1及び第2放熱量のみを用いて、全身放熱量を推定してもよい。
【0141】
全身放熱量推定部145aは、例えば、第1及び第2放熱量を基に、第1及び第2着衣部位を含む2以上の部位間の面積比に応じた加重平均を求めることにより、全身放熱量を推定してもよい。
【0142】
例えば、第1着衣部位(胸部)に対応する第1放熱量がQ1、第2着衣部位(腕部)に対応する第2放熱量がQ2であり、前述した面積情報から、第1及び第2着衣部位間の表面積の比“a:b”が取得された場合、全身放熱量は、例えば“(Q1×a+Q2×b)/(a+b)”のように計算される。
【0143】
こうして、第1及び第2放熱量を用いることで、全身からの放熱量を精度よく推定できる。
【0144】
(2-5-1C)放熱量推定の変形例2:着衣部位及び非着衣部位からの放熱量に基づく全身放熱量推定
本変形例2における非着衣部位は、頭部(特に、額)である。
【0145】
本変形例2における放熱量推定部14bが
図13に示される。放熱量推定部14bは、実施形態における放熱量推定部14(
図2参照)に対し、風速逆算部146及び第4放熱量推定部147を追加すると共に、全身放熱量推定部145を全身放熱量推定部145bに置き換えたものである。
【0146】
風速逆算部146は、第1放熱量推定部141が推定した第1放熱量から風速を逆算する。
【0147】
例えば、図示しないメモリに、風速と第1放熱量との対応に関する第12対応情報(テーブルまたは関数等)が格納されている。風速逆算部146は、推定された第1放熱量に対応する風速を、第12対応情報を用いて取得する。
【0148】
風速逆算部146が逆算した風速と同等の風速で、非着衣部位(頭部)が送風に曝露されていると仮定し、第4放熱量推定部147は、前記風速と、風温と、頭部の皮膚温とを基に、第4放熱量を推定する。第4放熱量とは、非着衣部位である頭部から外気に放出される放熱量である。なお、外気の気温(風温)は、例えば、室内の温度センサで計測するが、空調装置2から取得してもよい。
【0149】
全身放熱量推定部145bは、第1放熱量推定部141が推定した第1放熱量、及び第4放熱量推定部147が推定した第4放熱量を用いて、全身放熱量を推定する。
【0150】
詳しくは、全身放熱量推定部145bは、例えば、前述した面積情報を用いて、第1着衣部位に対する着衣部分の面積比(>1)を求め、第1放熱量に当該面積比を乗算することにより、着衣部位から着衣への放熱量を算出する。次に、全身放熱量推定部145bは、こうして算出した着衣部位から着衣への放熱量と第4放熱量とを加算し、全身放熱量を求める。
【0151】
または、全身放熱量推定部145bは、第1及び第4放熱量と、第1着衣部位及び非着衣部位を含む2以上の部位間の面積比と、着衣の有無に応じた係数とを用いて、当該2以上の部位の、面積比及び着衣の有無に応じた加重平均を求めてもよい。なお、各部位の着衣の有無は、例えば、送風に応じた表面温度の変化(例えば、変化が急峻か緩慢か)を基に判断してもよい。
【0152】
こうして、第1着衣部位(胸部)からの第1放熱量から風速を逆算し、風速と気温と非着衣部位(頭部)の皮膚温とを基に、非着衣部位(頭部)からの第4放熱量を推定することによって、第1放熱量及び第4放熱量を用いて、全身の放熱量を精度よく推定できる。
【0153】
(2-6)温冷感の推定
温冷感推定部17は、放熱量推定部14が推定した放熱量に基づいて、利用者の温冷感を推定する。
【0154】
たとえば、図示しないメモリに、第13対応情報が格納されている。第13対応情報とは、放熱量推定値と温冷感推定値との対応に関する情報である。第13対応情報は、例えば、“(50W/m2,寒い),(45W/m2,涼しい),(35W/m2,快適),(25W/m2,暖かい),(20W/m2,暑い)・・・”であるが、これと同等の関数であってもよい。
【0155】
放熱量推定部14によって放熱量推定値“50W/m2”が取得された場合、着衣量推定部13は、第13対応情報を用いて、例えば、当該放熱量に対応する温冷感推定値“寒い”を取得する。
【0156】
なお、例えば、減算後の放熱量推定値が“50W/m2”と“45W/m2”の中間値又はそれに近い値となった場合、全身放熱量推定部145(145a,145b)は、放熱量推定値“50W/m2”に対応する温冷感推定値“寒い”と、放熱量推定値“45W/m2”に対応する温冷感“涼しい”との中間値“やや寒い”を取得してもよい。
【0157】
(2-7)代謝量を考慮した温冷感推定
ただし、人間の温冷感は、放熱量と代謝量が同等のとき「快適」となる。そこで、本実施形態では、放熱量推定値から代謝量推定値が減算され、減算後の放熱量推定値が温冷感推定部17に引き渡される。
【0158】
詳しくは、代謝量推定部15は、利用者の代謝量を推定する。代謝量とは、人が活動するために必要な熱量である。代謝量は、通常、基礎代謝量(BMR)である。基礎代謝量は、人が生命を維持するために必要な最低限の熱量である。代謝量推定部15は、例えば、以下のいずれかの方法で代謝量を推定する。
(a)図示しないメモリに、性別と代謝量推定値との対応に関する第14対応情報が格納されている。代謝量推定部15は、前述した可視光カメラ(図示しない)からの画像を用いて利用者の性別を推定し、当該性別に対応する代謝量推定値を、第14対応情報を用いて取得する。
(b)図示しないメモリに、年齢と代謝量推定値との対応に関する第15対応情報が格納されている。代謝量推定部15は、可視光カメラからの画像を用いて利用者の年齢を推定し、当該年齢に対応する代謝量推定値を、第15対応情報を用いて取得する。
(c)図示しないメモリに、性別及び年齢の組と代謝量推定値との対応に関する第16対応情報が格納されている。代謝量推定部15は、可視光カメラからの画像を用いて性別及び年齢を推定し、当該性別及び当該年齢に対応する代謝量推定値を、第16対応情報を用いて取得する。
【0159】
代謝量推定部15が取得した代謝量推定値は、利用者の体表から単位時間に放出される単位面積当たり熱量に換算された後、減算部16に引き渡される。
【0160】
減算部16は、全身放熱量推定部145(145a,145b)が取得した全身放熱量推定値から、代謝量推定部15が取得した代謝量推定値を減算する。
【0161】
温冷感推定部17は、減算部16による減算後の全身放熱量推定値を用いて、温冷感を推定する。
【0162】
例えば、図示しないメモリには、上記第13対応情報に代えて、代謝量を考慮した第13対応情報が格納される。代謝量を考慮した第13対応情報は、例えば“(15W/m2,寒い),(10W/m2,涼しい),(0W/m2,快適),(-10W/m2,暖かい),(-15W/m2,暑い)”である。
【0163】
例えば、全身放熱量推定部145(145a,145b)が取得した全身放熱量推定値“35W/m2”に対し、減算部16による減算後の放熱量推定値が“-10W/m2”となった場合、温冷感推定部17は、上記代謝量を考慮した第13対応情報を用いて、減算後の放熱量推定値“-10W/m2”に対応する温冷感推定値“暖かい”を取得する。“また、全身放熱量推定値50W/m2”に対し、減算部16による減算後の放熱量推定値が“15W/m2”となった場合、温冷感推定部17は、上記代謝量を考慮した第13対応情報を用いて、減算後の放熱量推定値“15W/m2”に対応する温冷感推定値“寒い”を取得する。
【0164】
なお、例えば、減算後の放熱量推定値が“15W/m2”と“10W/m2”の中間値又はそれに近い値となった場合、全身放熱量推定部145(145a,145b)は、放熱量推定値“15W/m2”に対応する温冷感推定値“寒い”と、放熱量推定値“10W/m2”に対応する温冷感“涼しい”との中間値“やや寒い”を取得してもよい。
【0165】
こうして温冷感推定部17によって取得された温冷感推定値、または減算部16による減算後の温冷感推定値は、空調装置2に引き渡される。
【0166】
(3)空調装置
本開示の実施形態に係る空調装置2は、空調部21と、空調制御部22とを備える。空調装置2のメモリ(図示しない)には、利用者が設定した風量及び風温等に関する各種の設定値が格納されている。
【0167】
空調部21は、例えば、ファン、ファンを駆動するモータ、及びコンプレッサなどを含み、上記各種の設定値に応じて、風量及び風温の少なくとも一方を調整した風を吹き出すように構成されている。
【0168】
なお、空調部21は、風量及び風温の少なくとも一方に加えて、例えば、湿度、風向等をも調整した風を吹き出してもよい。また、風向は、利用者が規制部材211aの羽板の向きを手動で操作することにより、適時変更可能である。
【0169】
空調制御部22は、温冷感推定装置1から引き渡された温冷感推定値に基づいて、空調部21を制御する。
【0170】
空調制御部22は、例えば、推定された温冷感に応じて上記各種の設定値を一時的に変更し、変更後の設定値に基づいて、風量及び風温の少なくとも一方を調整してもよい。
【0171】
または、空調制御部22は、車載のディスプレイ及びスピーカの少なくとも一方を介して、利用者に対し、規制部材211aを操作して風向を変えるように促したり、窓の開閉を勧めたりする情報を、出力してもよい。
【0172】
このように、空調制御装置が、風速を計測することなく、送風の影響を含めた温冷感を高い精度で推定し、当該推定した温冷感に基づいて空調装置2を制御するので、簡易な構成で利用者の快適性を高めることができる。
【0173】
(4)空調システムの動作
次に、以上のように構成された空調システム100の動作について説明する。なお、以下では、空調装置2を構成する各部の処理の流れ(構成要素間の連携)を中心に説明し、各部の詳細な動作説明は省略する。
【0174】
(4-1)温冷感推定装置の動作
本開示の実施形態に係る空調装置2の動作について
図5-
図7のフローチャートを参照して説明する。
【0175】
取得部11は、サーモカメラ301からの熱画像を用いて、第1着衣部位(胸部)に対応する第1表面領域の表面温度情報を取得する(ステップS1)。
【0176】
次に、皮膚温推定部12は、第1着衣部位の皮膚温を推定する(ステップS2)。なお、ステップS2の皮膚温推定については、
図6のフローチャートを用いて説明する。
【0177】
次に、着衣量推定部13は、第1表面領域における着衣量を推定する(ステップS3)。例えば、着衣量推定部13は、内蔵時計等から日付を取得し、メモリに格納されている第2対応情報を用いて、当該日付に対応する季節を取得し、更に当該季節に対応する着衣量を取得してもよい。
【0178】
次に、放熱量推定部14を構成する第1放熱量推定部141は、ステップS1で取得された第1表面領域の表面温度情報と、ステップS2で推定された第1着衣部位の皮膚温と、ステップS3で推定された第1表面領域における着衣量とに基づいて、第1着衣部位から着衣への第1放熱量を推定する(ステップS4)。
【0179】
次に、全身放熱量推定部145は、ステップS4で推定された第1放熱量を少なくとも用いて、全身放熱量を推定する(ステップS5)。
【0180】
そして、温冷感推定部17は、ステップS5で推定された全身放熱量を基に温冷感を推定する(ステップS6)。その後、この処理は終了される。
【0181】
なお、
図5のフローチャートにおいて、例えば、ステップS5を省略し、ステップS6では、第1放熱量を基に全身放熱量を推定してもよい。
【0182】
上記ステップS2の皮膚温推定は、
図6のフローチャートに従って実行される。
【0183】
取得部11は、サーモカメラ301からの熱画像を用いて、非着衣部位(頭部)の皮膚温を取得する(ステップS21)。
【0184】
皮膚温推定部12は、ステップS21で取得された非着衣部位の皮膚温を基に、例えば、メモリに格納されている第1対応情報を用いて、第1着衣部位の皮膚温を推定する(ステップS22)。
【0185】
算出部121は、サーモカメラ301からの熱画像及び感圧センサ302の出力を用いて身長及び体重を推定し、当該推定した身長及び体重を基に皮下脂肪値(例えばBMI)を算出する(ステップS23)。
【0186】
補正部122は、ステップS22で推定した第1着衣部位の皮膚温を、ステップS23で算出した皮下脂肪値に応じて補正する(ステップS24)。その後、上位の処理にリターンする。
【0187】
なお、図示は省略するが、上記ステップS5の全身放熱用推定は、本実施形態では、以下のように実行される。
【0188】
全身放熱量推定部145は、ステップS4で推定された第1放熱量を、メモリに格納されている割合αで除算することにより、第1着衣部位を含む着衣部分から着衣への放熱量を算出する(ステップS5A)。
【0189】
次に、全身放熱量推定部145は、ステップS5Aで算出した着衣部分から着衣への放熱量に、メモリに格納されている比βを乗算することにより、非着衣部分から体外への放熱量を算出する(ステップS5B)。
【0190】
そして、全身放熱量推定部145は、ステップS5Aで算出した着衣部分からの放熱量と、ステップS5Bで算出した非着衣部分からの放熱量とを合計し、体の表面積で除算することにより、全身放熱量を求める(ステップS5C)。
【0191】
上記ステップS6の温冷感推定は、
図7のフローチャートに従って実行される。
【0192】
代謝量推定部15は、可視光カメラからの画像を基に、メモリに格納されている人体情報を用いて性別及び年齢を推定し、当該推定した性別及び年齢に対応する代謝量を、メモリに格納されている第11対応情報を用いて推定する(ステップS61)。
【0193】
減算部16は、ステップS5で推定された全身放熱量から、ステップS61で推定された代謝量を減算する(ステップS62)。
【0194】
温冷感推定部17は、ステップS62での減算後の全身放熱量を基に温冷感を推定する(ステップS63)。その後、上位の処理にリターンする。
【0195】
なお、上記ステップS5の全身放熱量推定は、上記(2-5-1B)の変形例1では、
図12のフローチャートに従って実行される。
【0196】
仮温冷感推定部142は、ステップS4で推定された第1放熱量に基づいて仮温冷感を推定する(ステップS51)。
【0197】
皮膚温推定部12は、ステップS51で推定された仮温冷感に基づいて第2着衣部位(腕部)の皮膚温を推定する(ステップS52)。
【0198】
取得部11は、サーモカメラ301からの熱画像を用いて、第2着衣部位に対応する第2表面領域の表面温度の情報を取得する(ステップS53)。
【0199】
着衣量推定部13は、例えば、ステップS3で推定した第1表面領域における着衣量と、第1及び第2着衣部位間の面積比とを用いて、第2表面領域における着衣量を推定する(ステップS54)。
【0200】
第2放熱量推定部143は、ステップS52で推定された第2着衣部位の皮膚温と、ステップS53で取得された第2表面領域の表面温度と、ステップS54で推定された第2表面領域における着衣量とに基づいて、第2着衣部位から着衣への第2放熱量を推定する(ステップS55)。
【0201】
第3放熱量推定部144は、空調装置2の設定温度及び設定風量に基づいて第3着衣部位(脚部)から着衣への第3放熱量を推定する(ステップS56)。
【0202】
全身放熱量推定部145aは、ステップS4で推定された第1放熱量、ステップS55で推定された第2放熱量、及びステップS56で推定された第3放熱量を用いて全身放熱量を推定する(ステップS57)。その後、上位の処理にリターンする。
【0203】
さらに、上記ステップS5の全身放熱用推定は、上記(2-5-1C)の変形例2では、
図14のフローチャートに従って実行される。
【0204】
風速逆算部146は、ステップS4で推定された第1放熱量から風速を逆算する(ステップS5a)。また、着衣量推定部13は、温度センサから気温を取得する(ステップS5b)。
【0205】
第4放熱量推定部147は、ステップS5aで推定された風速と、ステップS5bで取得された気温と、ステップS21(
図6)でサーモカメラ301によって取得された非着衣部位(頭部)の皮膚温とを基に、非着衣部位(頭部)からの放熱量である第4放熱量を推定する(ステップS5c)。
【0206】
そして、全身放熱量推定部145bは、ステップS4で推定された第1放熱量、及びステップS5cで推定された第4放熱量を用いて、全身放熱量を推定する(ステップS5d)。その後、上位の処理にリターンする。
【0207】
(4-2)空調装置の動作
なお、図示は省略するが、本開示の実施形態に係る空調装置2は、以下のように動作する。
【0208】
空調装置2を構成する空調部21は、メモリに格納されている各種の設定値に応じて、風量及び風温の少なくとも一方を調整した風を吹き出す動作を行っている。
【0209】
温冷感推定装置1から温冷感推定値が引き渡されると、空調制御部22は、当該温冷感に基づいて空調部21を制御する。
【0210】
例えば、空調制御部22が温冷感推定値に応じて上記各種の設定値を一時的に変更し、空調部21は、変更後の設定値に基づいて風量及び風温の少なくとも一方を調整する。
【0211】
(5)空調システムの使用例
(5-1)自動車内での使用例
本開示の実施形態に係る空調システム100は、例えば、
図8-
図10に示すような自動車300内の、フロントガラスの下方のダッシュボード320内に設けられる。利用者は、自動車300の室内の座席330に着席している。
【0212】
ただし、
図8-
図10の配置は例示に過ぎず、空調システム100は、例えば、図示しないコンソール等、自動車300のどこに設けられてもよい。また、空調システム100を構成する温冷感推定装置1及び空調装置2は、例えば、後者がダッシュボード320に、前者がコンソール(図示しない)に設けられる等、車内に分散して設けられていてもよい。その場合、温冷感推定装置1及び空調装置2は、有線または近距離無線で通信可能に接続される。
【0213】
空調装置2には、ユーザが所望の風温及び風量等を設定するための各種のボタンが設けられており、空調装置2は、基本的に、設定された風温及び設定された風量の風を吹き出すように構成されている。空調装置2は、特に、設定された風量及び設定された風温の少なくとも一方に対し、ユーザの温冷感に応じた調整を行い、調整された風を吹き出す。
【0214】
空調装置2の吹出口211は、
図10に示すように、ダッシュボード320の前面の左右の端部に配置されている。吹出口211には、規制部材211aが設けられている。規制部材211aは、吹出口211から吹き出す風の方向を規制する部材(ルーバー)である。規制部材211aは、細長い板状の部材(羽板)を平行に複数並べたものであり、利用者の操作に応じて又は自動的に、羽板の向きが変わるように構成されている。
【0215】
空調システム100が起動されると、取得部11は、サーモカメラ301からの熱画像を用いて、胸部に対応する第1表面領域の表面温度情報(Tcl)を取得する。ここでは、第1表面領域の表面温度情報“Tcl=25度”が取得されたとする。
【0216】
次に、皮膚温推定部12は、胸部の皮膚温(Tsk)を、次のように推定する。まず、取得部11が、サーモカメラ301からの熱画像を用いて、非着衣部位(頭部)の皮膚温を取得する。ここでは、頭部の皮膚温“33度”が取得されたとする。皮膚温推定部12は、メモリに格納されている第1対応情報を用いて、当該取得された頭部の皮膚温“33”に対応する胸部の皮膚温推定値“Tsk=34度”を取得する。
【0217】
次に、算出部121は、サーモカメラ301からの熱画像及び感圧センサ302の出力を用いて身長及び体重を推定し、当該推定した身長及び体重を基に皮下脂肪値(BMI)を算出する。補正部122は、BMIに応じた補正量を算出し、胸部の皮膚温推定値“Tsk=35度”から当該補正量を減算する。ここでは、補正量は0であり、胸部の皮膚温推定値は“Tsk=35度”のままであるとする。
【0218】
次に、着衣量推定部13は、第1表面領域における着衣量(Clo)を、次のように推定する。例えば、日付が12月20日の場合、第3対応情報を用いて、“12月”に対応する4つの重み付け係数(0,0,2/3,1/3)が取得され、四季に対応する4つの着衣量(0.8,0.4,0.8,1.2)に乗算され、重み付け平均“0.8×0+0.4×0+0.8×(2/3)+1.2×(1/3)=(14/15)Clo”が取得される。
【0219】
次に、第1放熱量推定部141は、第1表面領域の表面温度情報“Tcl=25度”と、胸部の皮膚温推定値“Tsk=35度”と、第1表面領域における着衣量“(14/15)Clo”とを上記式1に代入し、第1着衣部位から着衣への第1放熱量の推定値を取得する。ここでは、Qc=(34度-25度)/(0.155×15/14)=54.2W/m2が取得される。
【0220】
次に、全身放熱量推定部145は、第1放熱量“54.2W/m2”を用いて、次のように全身放熱量を推定する。
【0221】
全身放熱量推定部145は、第1放熱量を割合α(ここでは、α=1/3)で除算することにより、第1着衣部位を含む着衣部分から着衣への放熱量“54.2/(1/3)=162.6W/m2”を算出する(ステップS5A)。
【0222】
次に、全身放熱量推定部145は、着衣部分から着衣への放熱量“162.6W/m2”に、メモリに格納されている比β(ここでは、β=3/7)を乗算することにより、非着衣部分から体外への放熱量“162.6×(3/7)=69.7W/m2”を算出する。
【0223】
次に、全身放熱量推定部145は、着衣部分からの放熱量“162.6W”と、非着衣部分からの放熱量“69.7W/m2”とを合計し、全身の表面積(ここでは、A=4.5)で除算することにより、全身放熱量“(162.6+69.7)/4.5=51.6W/m2”を求める。
【0224】
そして、温冷感推定部17は、メモリに格納されている第13対応情報を用いて、全身放熱量“51.6W/m2”に対応する温冷感推定値“寒い”を取得する。
【0225】
取得された温冷感推定値“寒い”は、空調装置2に引き渡される。
【0226】
空調装置2を構成する空調制御部22は、当該温冷感“寒い”に基づいて空調部21を制御し、吹出口211から吹き出す風の風温を、その設定値に対して所定温度(例えば、3度)だけ高い温度に変更する。これによって、室内の気温が上昇していき、温冷感が“快適”に変わると、空調制御部22は、風温を設定値に戻す。
【0227】
以上のように、自動車300の室内では、空調装置2の吹出口211が利用者の近くにあるため、吹出口211から利用者に向かう風の流れが、利用者自身の腕や荷物等の障害物で遮られ、実際に人体に当たる風の風速(以下、実風速)は低下する。
【0228】
このような使用環境において、風速の実測値を用いる従来のシステムでは、温冷感の推定精度が低下する可能性があったが、本開示の実施形態に係る空調システム100によれば、風速の実測値を用いることなく、風の影響を含めた温冷感の推定を高い精度で行える。
【0229】
(5-2)建物の室内での使用例
この使用例における空調システム100は、温冷感推定装置1と、2つ以上の空調装置2とを備える。
【0230】
空調システム100を構成する2つ以上の空調装置2は、例えば、エアコン及び扇風機である。この空調システム100では、例えば、扇風機が送風動作を行えば、利用者の温冷感が低下し、エアコンは冷却動作を抑制する。
【0231】
従って、複数の空調装置2を連携させるための複雑な制御を行うことなく、快適性と省エネの両立を図ることができる。
【0232】
なお、上記実施形態においては、皮膚温の推定が必須であったが、皮膚温を用いず、着衣の表面温度と着衣量とを用いて放熱量を推定しても、前述した先行技術文献に対し、推定対象の発熱の影響を含めた温冷感の推定精度の向上を図ることができる、という効果が得られる。
【0233】
詳しくは、本開示において、放熱量推定部14が、皮膚温を用いず、着衣の表面温度と着衣量とを用いて、放熱量の推定を行うものとする。この場合、利用者が風邪等で発熱すると、着衣の表面温度が上昇し、それに応じて、放熱量推定部14による放熱量推定値も増大する。そして、放熱量推定値が増大すると、温冷感推定部17による温冷感推定値は「寒い」側に傾く。
【0234】
従って、利用者の発熱時、温冷感推定装置1から空調装置2には、平熱時と比べて「寒い」側に傾いた温冷感推定値が引き渡され、空調装置2は、気温を上げる方向に空調制御を行う。これにより、発熱時にも、皮膚温を用いることなく温冷感を的確に推定でき、ひいては、的確な空調制御が行える。
【0235】
なお、上記実施形態に係る温冷感推定装置1と同様の機能は、温冷感推定方法、(コンピュータ)プログラム、又はプログラムを記録した非一時的記録媒体等で具現化されてもよい。なお、温冷感推定方法は、上記(4-1)で説明した各種ステップのうち、少なくとも、ステップS1(取得ステップ)と、ステップS3(着衣量推定ステップ)と、ステップS4及びS5(放熱量推定ステップ)と、ステップS6(温冷感推定ステップ)とを含む方法である。また、プログラムは、温冷感推定方法をコンピュータに実行させるためのプログラムである。
【0236】
(6)まとめ
第1の態様に係る温冷感推定装置(1)は、取得部(11)と、着衣量推定部(13)と、放熱量推定部(14,14a,14b)と、温冷感推定部(17)とを備える。取得部(11)は、利用者の着衣の一部分における表面領域の表面温度の情報を取得する。着衣量推定部(13)は、利用者の体の前記表面領域に覆われた部位である着衣部位における着衣量を推定する。放熱量推定部(14,14a,14b)は、表面温度の情報と、着衣量とに少なくとも基づいて、利用者の体から体外に放出される放熱量を推定する。温冷感推定部(17)は、放熱量に基づいて利用者の温冷感を推定する。
【0237】
この態様によれば、人体からの放熱量を着衣の表面温度と着衣量とを用いて求め、放熱量を基に温冷感を推定することで、推定対象の発熱の影響を含めた温冷感の推定精度の向上を図ることができる。
【0238】
従って、推定対象が風邪等で発熱していても、温冷感を的確に推定でき、ひいては的確な空調制御を行える。
【0239】
第2の態様に係る温冷感推定装置(1)は、第1の態様において、皮膚温推定部(12)を更に備える。皮膚温推定部(12)は、利用者の体の前記着衣部位の皮膚温を推定する。放熱量推定部(14,14a,14b)は、表面温度の情報と、着衣部位の皮膚温と、着衣量とに少なくとも基づいて、前記利用者の体から体外に放出される放熱量を推定する。
【0240】
この態様によれば、人体からの放熱量を、着衣の表面温度と着衣量とに加えて、着衣下の皮膚温をも用いて求めることで、送風の影響を含めた温冷感の推定精度の向上を図ることができる。
【0241】
なお、例えば、特開2017-3195号公報に、対象空間内の人の温冷感に基づいて空調制御を行う空気調和機が開示されている。この空気調和機では、熱画像取得部が、対象空間内の温度分布を示す熱画像を取得する。風速推定部は、空気調和機に設定されたパラメータであり、空気調和機の吹出口の風速を規定する風速パラメータを含む1以上のパラメータに基づいて、対象空間内の風速を推定する。放熱量推定部は、取得された熱画像及び推定された風速に基づいて、人の人体放熱量を推定する。温冷感推定部は、推定された人体放熱量に基づいて、人の温冷感を推定する。
【0242】
上記空気調和機によれば、風速パラメータを含む1以上のパラメータを用いたことで、送風の影響を含めた温冷感を推定できるが、実風速は、障害物の有無や配置等によって変化する。例えば、吹出口と人の間に障害物が存在する場合、吹出口から人に向かう風の流れが障害物で遮られ、実風速は低下する。このような場合は、推定された風速の実風速に対する誤差が大きくなり、放熱量の推定精度ひいては温冷感の推定精度が低下することもありうる。
【0243】
第2の態様に係る温冷感推定装置(1)は、上記空気調和機と比べると、風速の実測値を用いないので、風速の測定を行う必要がなく、吹出口(211)と人の間に障害物が存在する場合でも、送風の影響を含めた温冷感の推定を高い精度で簡易に行える。
【0244】
第3の態様に係る温冷感推定装置(1)は、第2の態様において、利用者を撮影可能な場所に位置するサーモカメラ(301)を更に備え、取得部(11)は、サーモカメラ(301)からの熱画像を用いて表面温度の情報を取得する。
【0245】
この態様によれば、表面温度の情報を遠隔から広範囲に取得できる。
【0246】
第4の態様に係る温冷感推定装置(1)は、第3の態様において、皮膚温推定部(12)は、熱画像を用いて、利用者の着衣で覆われていない部位である非着衣部位の皮膚温を取得し、非着衣部位の皮膚温を基に、着衣部位の皮膚温を推定する。
【0247】
この態様によれば、非着衣部位の皮膚温を利用することで、着衣部位の皮膚温を簡易に推定できる。
【0248】
第5の態様に係る温冷感推定装置(1)は、第4の態様において、利用者が着席する座席(330)に設けられた感圧センサ(302)を更に備え、皮膚温推定部(12)は、算出部(121)と、補正部(122)とを含む。算出部(121)は、熱画像を用いて利用者の身長を取得し、感圧センサ(302)の出力に基づいて利用者の体重を取得し、体重と身長とを用いて、利用者の皮下脂肪に関する値である皮下脂肪値を算出する。補正部(122)は、皮膚温推定部(12)が推定した皮膚温を算出部(121)が算出した値に応じて補正する。
【0249】
この態様によれば、身長及び体重を基に脂肪量を推定し、脂肪量に基づいて皮膚温を補正することで、脂肪量よる皮膚温の差が縮小される結果、温冷感をより正確に推定できる。
【0250】
第6の態様に係る温冷感推定装置(1)は、第4または第5の態様において、着衣量推定部(13)は、季節、日付、及び気温のうち1種類以上の情報を用いて着衣量を推定する。
【0251】
この態様によれば、季節や日付、気温等の情報を利用して、着衣量を簡易に推定できる。
【0252】
第7の態様に係る温冷感推定装置(1)は、第4又は第5の態様において、着衣量推定部(13)は、無風状態での気温、及び表面温度を基に、着衣量を推定する。
【0253】
この態様によれば、無風時の気温を利用することで、着衣量を精度よく推定できる。
【0254】
第8の態様に係る温冷感推定装置(1)は、第4又は第5の態様において、着衣量推定部(13)は、利用者を撮影可能な場所に位置する可視光カメラからの画像を用いて着衣量を推定する。
【0255】
この態様によれば、可視光で撮影された画像を用いることで、着衣量を精度よく推定できる。
【0256】
第9の態様に係る温冷感推定装置(1)は、第4-第8いずれかの態様において、着衣部位は、利用者の着衣で覆われた1以上の着衣部位のうちの第1着衣部位である。表面領域は、着衣の、第1着衣部位を覆う部分の表面領域である第1表面領域である。表面温度は、第1表面領域の表面温度である。着衣量は、利用者の第1表面領域における第1着衣量である。放熱量は、利用者の全身から体外に放出される全身放熱量である。放熱量推定部(14,14a,14b)は、第1放熱量推定部(141)と、全身放熱量推定部(145,145a,145b)とを含む。第1放熱量推定部(141)は、第1表面領域の表面温度の情報と、第1着衣部位の皮膚温と、第1表面領域における着衣量とに基づいて、第1着衣部位から着衣に放出される第1放熱量を推定する。全身放熱量推定部(145,145a,145b)は、第1放熱量を少なくとも用いて、全身放熱量を推定する。
【0257】
この態様によれば、着衣部位の皮膚温、表面温度及び着衣量を基に、第1着衣部分からの第1放熱量を推定することで、少なくとも第1放熱量を用いて全身からの放熱量を推定できる。
【0258】
第10の態様に係る温冷感推定装置(1)は、第9の態様において、利用者の体を構成する複数の部位のうち胸部、腕部及び脚部が着衣に覆われており、第1着衣部位は、胸部である。放熱量推定部(14a)は、仮温冷感推定部(142)を更に含み、仮温冷感推定部(142)は、第1放熱量に基づいて利用者の仮の温冷感である仮温冷感を推定する。皮膚温推定部(12)は、仮温冷感に基づいて、腕部又は脚部である第2着衣部位の皮膚温を更に推定する。取得部(11)は、着衣の、第2着衣部位を覆う部分の表面領域である第2表面領域の表面温度の情報をも取得する。着衣量推定部(13)は、利用者の第2表面領域における第2着衣量を更に推定する。放熱量推定部(14a)は、第2放熱量推定部(143)を更に含み、第2放熱量推定部(143)は、第2表面領域の表面温度の情報と、第2着衣部位の皮膚温と、第2表面領域における着衣量とに基づいて、第2着衣部位から着衣に放出される第2放熱量を推定する。全身放熱量推定部(145a)は、第2放熱量を更に用いて、全身放熱量を推定する。
【0259】
この態様によれば、胸部からの第1放熱量に加えて、腕部又は脚部からの第2放熱量を推定することで、第1及び第2放熱量を用いて、全身からの放熱量を精度よく推定できる。
【0260】
第11の態様に係る温冷感推定装置(1)は、第10の態様において、利用者は、空調装置(2)が設けられた自動車(300)の室内に居る。第2着衣部位は、腕部であり、第2放熱量は、腕部から着衣に放出される放熱量である。空調装置(2)の吹出口(211)には、風の吹出方向を、第1着衣部位に向かう方向、及び第2着衣部位に向かう方向を含み、脚部である第3着衣部位の向かう方向を含まない範囲に規制する規制部材(211a)が設けられている。放熱量推定部(14a)は、第3放熱量推定部(144)を更に含み、第3放熱量推定部(144)は、空調装置(2)の設定温度及び設定風量に基づいて、脚部である第3着衣部位から着衣に放出される第3放熱量を推定する。全身放熱量推定部(145a)は、第3放熱量に更に用いて、全身放熱量を推定する。
【0261】
この態様では、自動車(300)内において、空調装置(2)の吹出口(211)に設けられた規制部材(211a)によって、脚部には風が直接当たらないことから、脚部からの第3放熱量を、空調装置(2)の設定温度及び設定風量に基づいて推定できる。これにより、第1-第3放熱量を用いて、全身からの放熱量を簡易に、より精度よく推定できる。
【0262】
第12の態様に係る温冷感推定装置(1)は、第9の態様において、非着衣部位は、頭部である。放熱量推定部(14b)は、風速逆算部(146)と、第4放熱量推定部(147)とを更に含む。風速逆算部(146)は、第1放熱量から風速を逆算する。第4放熱量推定部(147)は、風速と、着衣の外部の空気である外気の気温と、非着衣部位(頭部)の皮膚温とを基に、非着衣部位(頭部)から外気に放出される放熱量である第4放熱量を推定する。全身放熱量推定部(145b)は、第4放熱量を更に用いて、全身放熱量を推定する。
【0263】
この態様によれば、第1放熱量から風速を逆算し、風速と気温と胸部の皮膚温とを基に、非着衣部位である頭部からの第4放熱量を推定することで、第1放熱量及び第4放熱量を用いて、全身の放熱量を精度よく推定できる。
【0264】
第13の態様に係る温冷感推定装置(1)は、第9-第12いずれかの態様において、代謝量推定部(15)と、減算部(16)とを更に備える。代謝量推定部(15)は、利用者の代謝量を推定する。減算部(16)は、全身放熱量から代謝量を減算する。温冷感推定部(17)は、減算部(16)による減算後の放熱量を用いて温冷感を推定する。
【0265】
この態様によれば、代謝量を推定し、放熱量から減算することで、年齢、性別等に起因して変化する代謝量を考慮した放熱量を精度よく推定できる。
【0266】
第14の態様に係る空調装置(2)は、空調部(21)と、空調制御部(22)とを備える。空調部(21)は、風量及び風温の少なくとも一方を調整した風を吹き出す。空調制御部(22)は、第1-第13いずれかの態様に係る温冷感推定装置(1)が推定した温冷感に基づいて、空調部(21)を制御する。
【0267】
この態様によれば、推定対象の発熱の影響を含めた温冷感を高い精度で推定し、推定結果を基に的確な空調が行える。
【0268】
第15の態様に係る空調システム(100)は、第1-第13いずれかの態様に係る温冷感推定装置(1)と、1つ以上の空調装置(2)とを備える。空調装置(2)は、空調部(21)と、空調制御部(22)とを備える。空調部(21)は、風量及び風温の少なくとも一方を調整した風を吹き出す。空調制御部(22)は、温冷感推定装置(1)が推定した温冷感に基づいて、空調部(21)を制御する。
【0269】
この態様によれば、温冷感推定装置(1)が、送風の影響を含めた温冷感の推定精度の向上を図り、1つ以上の空調装置(2)の各々は、推定された温冷感に基づいて風量及び風温の少なくとも一方を制御するので、的確な空調制御を行える。
【0270】
例えば、空調システム(100)がエアコン及び扇風機を備える場合、扇風機が送風動作を行えば、温冷感が低下し、エアコンは冷却動作を抑制する。従って、複数の空調装置(2)を連携させるための複雑な制御を行うことなく、快適性と省エネの両立を図ることができる。
【0271】
第16の態様に係る温冷感推定方法は、取得ステップ(S1)と、着衣量推定ステップ(S3)と、放熱量推定ステップ(S4,S5)と、温冷感推定ステップ(S6)とを含む。取得ステップ(S1)では、利用者の着衣の一部分における表面領域の表面温度の情報を取得する。着衣量推定ステップ(S3)では、前記利用者の体の前記表面領域に覆われた部位である着衣部位における着衣量を推定する。放熱量推定ステップ(S4,S5)では、前記表面温度の情報と、前記着衣量と、に少なくとも基づいて、前記利用者の体から体外に放出される放熱量を推定する。温冷感推定ステップ(S6)では、前記放熱量に基づいて前記利用者の温冷感を推定する。
【0272】
この態様によれば、推定対象の発熱の影響を含めた温冷感の推定精度の向上を図ることができる。
【0273】
第17の態様に係るプログラムは、第16の態様に係る温冷感推定方法を1以上のプロセッサに実行させるためのプログラムである。
【0274】
この態様によれば、推定対象の発熱の影響を含めた温冷感の推定精度の向上を図ることができる。
【符号の説明】
【0275】
1 温冷感推定装置
2 空調装置
11 取得部
12 皮膚温推定部
13 着衣量推定部
14,14a,14b 放熱量推定部
15 代謝量推定部
16 減算部
17 温冷感推定部
21 空調部
22 空調制御部
100 空調システム
121 算出部
122 補正部
141 第1放熱量推定部
142 仮温冷感推定部
143 第2放熱量推定部
144 第3放熱量推定部
145,145a,145b 全身放熱量推定部
146 風速逆算部
147 第4放熱量推定部
211 吹出口
211a 規制部材
300 自動車
330 座席
301 サーモカメラ
302 感圧センサ