(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】銅/セラミックス接合体、絶縁回路基板、及び、銅/セラミックス接合体の製造方法、絶縁回路基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 37/02 20060101AFI20240702BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
C04B37/02 B
H05K1/03 630H
H05K1/03 630J
(21)【出願番号】P 2020194601
(22)【出願日】2020-11-24
【審査請求日】2023-06-29
(31)【優先権主張番号】P 2019221364
(32)【優先日】2019-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】寺▲崎▼ 伸幸
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-255416(JP,A)
【文献】特許第4375730(JP,B2)
【文献】特開2018-140929(JP,A)
【文献】国際公開第2020/044593(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/045388(WO,A1)
【文献】特許第7056744(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 37/02
H01L 23/15
H05K 1/03
H05K 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅又は銅合金からなる銅部材と、窒化ケイ素からなるセラミックス部材とが接合されてなる銅/セラミックス接合体であって、
前記銅部材と前記セラミックス部材との接合界面に存在するMg-N化合物相の最大長さが100nm未満とされ、
前記接合界面に沿った単位長さにおいて、長さが10nm以上100nm未満の範囲内の前記Mg-N化合物相の個数密度が8個/μm未満とされていることを特徴とする銅/セラミックス接合体。
【請求項2】
前記セラミックス部材は、窒化ケイ素相と、この窒化ケイ素相の間に形成されたガラス相と、を備えており、
前記銅部材側に位置する前記ガラス相の内部にCu原子が存在していることを特徴とする請求項1に記載の銅/セラミックス接合体。
【請求項3】
前記Mg-N化合物相におけるMgとNとSiの合計値を100原子%とした場合に、Si濃度が25原子%以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の銅/セラミックス接合体。
【請求項4】
窒化ケイ素からなるセラミックス基板の表面に、銅又は銅合金からなる銅板が接合されてなる絶縁回路基板であって、
前記銅板と前記セラミックス基板との接合界面に存在するMg-N化合物相の最大長さが100nm未満とされ、
前記接合界面に沿った単位長さにおいて、長さが10nm以上100nm未満の範囲内の前記Mg-N化合物相の個数密度が8個/μm未満とされていることを特徴とする絶縁回路基板。
【請求項5】
前記セラミックス基板は、窒化ケイ素相と、この窒化ケイ素相の間に形成されたガラス相と、を備えており、
前記銅板側に位置する前記ガラス相の内部にCu原子が存在していることを特徴とする請求項4に記載の絶縁回路基板。
【請求項6】
前記Mg-N化合物相におけるMgとNとSiの合計値を100原子%とした場合に、Si濃度が25原子%以下であることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の絶縁回路基板。
【請求項7】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の銅/セラミックス接合体を製造する銅/セラミックス接合体の製造方法であって、
前記銅部材と前記セラミックス部材との間に、Mgを配置するMg配置工程と、
前記銅部材と前記セラミックス部材とをMgを介して積層する積層工程と、
Mgを介して積層された前記銅部材と前記セラミックス部材とを積層方向に加圧した状態で、真空雰囲気下において加熱処理して接合する接合工程と、
を備えており、
前記Mg配置工程では、Mg量を0.34mg/cm
2以上2.09mg/cm
2以下の範囲内とし、
前記接合工程では、Mg-Si共晶温度(639℃)以上における温度と時間とを掛け合わして積算した温度積分値を40℃・h以上420℃・h以下の範囲内とすることを特徴とする銅/セラミックス接合体の製造方法。
【請求項8】
請求項4から請求項6のいずれか一項に記載の絶縁回路基板の製造方法であって、
前記銅板と前記セラミックス基板との間に、Mgを配置するMg配置工程と、
前記銅板と前記セラミックス基板とをMgを介して積層する積層工程と、
Mgを介して積層された前記銅板と前記セラミックス基板とを積層方向に加圧した状態で、真空雰囲気下において加熱処理して接合する接合工程と、
を備えており、
前記Mg配置工程では、Mg量を0.34mg/cm
2以上2.09mg/cm
2以下の範囲内とし、
前記接合工程では、Mg-Si共晶温度(639℃)以上における温度と時間とを掛け合わして積算した温度積分値を40℃・h以上420℃・h以下の範囲内とすることを特徴とする絶縁回路基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、銅又は銅合金からなる銅部材と、窒化ケイ素からなるセラミックス部材とが接合されてなる銅/セラミックス接合体、セラミックス基板の表面に銅又は銅合金からなる銅板が接合されてなる絶縁回路基板、及び、銅/セラミックス接合体の製造方法、絶縁回路基板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パワーモジュール、LEDモジュール及び熱電モジュールにおいては、絶縁層の一方の面に導電材料からなる回路層を形成した絶縁回路基板に、パワー半導体素子、LED素子及び熱電素子が接合された構造とされている。
例えば、風力発電、電気自動車、ハイブリッド自動車等を制御するために用いられる大電力制御用のパワー半導体素子は、動作時の発熱量が多いことから、これを搭載する基板としては、セラミックス基板と、このセラミックス基板の一方の面に導電性の優れた金属板を接合して形成した回路層と、を備えた絶縁回路基板が、従来から広く用いられている。なお、絶縁回路基板としては、セラミックス基板の他方の面に金属板を接合して金属層を形成したものも提供されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、セラミックス基板の一方の面及び他方の面に、銅板を接合することにより回路層及び金属層を形成した絶縁回路基板が提案されている。この特許文献1においては、セラミックス基板の一方の面及び他方の面に、Ag-Cu-Ti系ろう材を介在させて銅板を配置し、加熱処理を行うことにより銅板が接合されている(いわゆる活性金属ろう付け法)。この活性金属ろう付け法では、活性金属であるTiが含有されたろう材を用いているため、溶融したろう材とセラミックス基板との濡れ性が向上し、セラミックス基板と銅板とが良好に接合されることになる。
【0004】
また、特許文献2においては、Cu-Mg-Ti系ろう材を用いて、セラミックス基板と銅板とを接合した絶縁回路基板が提案されている。
この特許文献2においては、窒素ガス雰囲気下にて560~800℃で加熱することによって接合する構成とされており、Cu-Mg-Ti合金中のMgは昇華して接合界面には残存せず、かつ、窒化チタン(TiN)が実質的に形成しないものとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第3211856号公報
【文献】特許第4375730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、最近では、上述の絶縁回路基板においては、大電流高電圧が負荷される傾向にある。このため、上述の絶縁回路基板においては、セラミックス基板における絶縁性の向上が求められている。
【0007】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、絶縁性に優れた銅/セラミックス接合体、絶縁回路基板、及び、銅/セラミックス接合体の製造方法、絶縁回路基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述の課題を解決するために、本発明の銅/セラミックス接合体は、銅又は銅合金からなる銅部材と、窒化ケイ素からなるセラミックス部材とが接合されてなる銅/セラミックス接合体であって、前記銅部材と前記セラミックス部材との接合界面に存在するMg-N化合物相の最大長さが100nm未満とされ、前記接合界面に沿った単位長さにおいて、長さが10nm以上100nm未満の範囲内の前記Mg-N化合物相の個数密度が8個/μm未満とされていることを特徴としている。
【0009】
本発明の銅/セラミックス接合体によれば、前記銅部材と前記セラミックス部材との接合界面に存在するMg-N化合物相の最大長さが100nm未満とされ、前記接合界面に沿った単位長さにおいて、長さが10nm以上100nm未満の範囲内の前記Mg-N化合物相の個数密度が8個/μm未満とされているので、接合界面に存在するMg-N化合物相に起因して電界集中が生じることを抑制できる。よって、銅/セラミックス接合体の絶縁性を十分に向上させることができる。
【0010】
ここで、本発明の銅/セラミックス接合体においては、前記セラミックス部材は、窒化ケイ素相と、この窒化ケイ素相の間に形成されたガラス相と、を備えており、前記銅部材側に位置する前記ガラス相の内部にCu原子が存在していることが好ましい。
この場合、セラミックス部材において、窒化ケイ素相と、これら窒化ケイ素相の間に形成されたガラス相と備え、前記銅部材側に位置する前記ガラス相の内部にCu原子が存在しているので、セラミックス部材と銅部材とが十分に界面反応しており、接合信頼性に特に優れている。
【0011】
また、本発明の銅/セラミックス接合体においては、前記Mg-N化合物相におけるMgとNとSiの合計値を100原子%とした場合に、Si濃度が25原子%以下であることが好ましい。
この場合、前記Mg-N化合物相におけるSi濃度が25原子%以下とされているので、前記Mg-N化合物相の内部にSi単相が局所的に析出することが抑えられ、前記Mg-N化合物相の強度を十分に確保することができる。これにより、端子材の超音波接合等で、接合界面に負荷がかかった際に、Mg-N化合物相でのクラックを抑制することが可能となり、Mg-N化合物相によるアンカー効果を維持することができる。
【0012】
本発明の絶縁回路基板は、窒化ケイ素からなるセラミックス基板の表面に、銅又は銅合金からなる銅板が接合されてなる絶縁回路基板であって、前記銅板と前記セラミックス基板との接合界面に存在するMg-N化合物相の最大長さが100nm未満とされ、前記接合界面に沿った単位長さにおいて、長さが10nm以上100nm未満の範囲内の前記Mg-N化合物相の個数密度が8個/μm未満とされていることを特徴としている。
【0013】
本発明の絶縁回路基板によれば、前記銅板と前記セラミックス基板との接合界面に存在するMg-N化合物相の最大長さが100nm未満とされ、前記接合界面に沿った単位長さにおいて、長さが10nm以上100nm未満の範囲内の前記Mg-N化合物相の個数密度が8個/μm未満とされているので、接合界面に存在するMg-N化合物相に起因して電界集中が生じることを抑制できる。よって、絶縁回路基板の絶縁性を十分に向上させることができる。
【0014】
ここで、本発明の絶縁回路基板においては、前記セラミックス基板は、窒化ケイ素相と、この窒化ケイ素相の間に形成されたガラス相と、を備えており、前記銅板側に位置する前記ガラス相の内部にCu原子が存在していることが好ましい。
この場合、セラミックス基板において、窒化ケイ素相と、これら窒化ケイ素相の間に形成されたガラス相と備え、前記銅板側に位置する前記ガラス相の内部にCu原子が存在しているので、セラミックス基板と銅板とが十分に界面反応しており、接合信頼性に特に優れている。
【0015】
また、本発明の絶縁回路基板においては、前記Mg-N化合物相におけるMgとNとSiの合計値を100原子%とした場合に、Si濃度が25原子%以下であることが好ましい。
この場合、前記Mg-N化合物相におけるSi濃度が25原子%以下とされているので、前記Mg-N化合物相の内部にSi単相が局所的に析出することが抑えられ、前記Mg-N化合物相の強度を十分に確保することができる。これにより、端子材の超音波接合等で、接合界面に負荷がかかった際に、Mg-N化合物相でのクラックを抑制することが可能となり、Mg-N化合物相によるアンカー効果を維持することができる。
【0016】
本発明の銅/セラミックス接合体の製造方法は、上述の銅/セラミックス接合体を製造する銅/セラミックス接合体の製造方法であって、前記銅部材と前記セラミックス部材との間に、Mgを配置するMg配置工程と、前記銅部材と前記セラミックス部材とをMgを介して積層する積層工程と、Mgを介して積層された前記銅部材と前記セラミックス部材とを積層方向に加圧した状態で、真空雰囲気下において加熱処理して接合する接合工程と、を備えており、前記Mg配置工程では、Mg量を0.34mg/cm2以上2.09mg/cm2以下の範囲内とし、前記接合工程では、Mg-Si共晶温度(639℃)以上における温度と時間とを掛け合わして積算した温度積分値を40℃・h以上420℃・h以下の範囲内とすることを特徴としている。
【0017】
この構成の銅/セラミックス接合体の製造方法によれば、前記Mg配置工程において、Mg量を0.34mg/cm2以上とし、接合工程において、Mg-Si共晶温度(639℃)以上における温度と時間とを掛け合わして積算した温度積分値を40℃・h以上としているので、界面反応に必要なCu-Mg液相を十分に得ることができ、銅部材とセラミックス部材とを確実に接合することができる。よって、接合信頼性を向上させることができる。
また、前記Mg配置工程において、Mg量を2.09mg/cm2以下とし、接合工程において、Mg-Si共晶温度(639℃)以上における温度と時間とを掛け合わして積算した温度積分値を420℃・h以下としているので、前記銅部材と前記セラミックス部材との接合界面にMg-N化合物相が過剰に生成・成長することを抑制できる。よって、絶縁性を向上させることが可能となる。
【0018】
本発明の絶縁回路基板の製造方法は、上述の絶縁回路基板を製造する絶縁回路基板の製造方法であって、前記銅板と前記セラミックス基板との間に、Mgを配置するMg配置工程と、前記銅板と前記セラミックス基板とをMgを介して積層する積層工程と、Mgを介して積層された前記銅板と前記セラミックス基板とを積層方向に加圧した状態で、真空雰囲気下において加熱処理して接合する接合工程と、を備えており、前記Mg配置工程では、Mg量を0.34mg/cm2以上2.09mg/cm2以下の範囲内とし、前記接合工程では、Mg-Si共晶温度(639℃)以上における温度と時間とを掛け合わして積算した温度積分値を40℃・h以上420℃・h以下の範囲内とすることを特徴としている。
【0019】
この構成の絶縁回路基板の製造方法によれば、前記Mg配置工程において、Mg量を0.34mg/cm2以上とし、接合工程において、Mg-Si共晶温度(639℃)以上における温度と時間とを掛け合わして積算した温度積分値を40℃・h以上としているので、界面反応に必要なCu-Mg液相を十分に得ることができ、銅板とセラミックス基板とを確実に接合することができる。よって、接合信頼性を向上させることができる。
また、前記Mg配置工程において、Mg量を2.09mg/cm2以下とし、接合工程において、Mg-Si共晶温度(639℃)以上における温度と時間とを掛け合わして積算した温度積分値を420℃・h以下としているので、前記銅板と前記セラミックス基板との接合界面にMg-N化合物相が過剰に生成・成長することを抑制できる。よって、絶縁性を向上させることが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、絶縁性に優れた銅/セラミックス接合体、絶縁回路基板、及び、銅/セラミックス接合体の製造方法、絶縁回路基板の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の実施形態に係る絶縁回路基板を用いたパワーモジュールの概略説明図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る絶縁回路基板のセラミックス基板の接合界面の拡大説明図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る絶縁回路基板における接合界面Sに存在するMg-N化合物相の長さの説明図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る絶縁回路基板の回路層(金属層)とセラミックス基板との接合界面の観察結果である。
【
図5】本発明の実施形態に係る絶縁回路基板の製造方法のフロー図である。
【
図6】本発明の実施形態に係る絶縁回路基板の製造方法の概略説明図である。(a)はMg配置工程、(b)は接合工程、(c)は得られた絶縁回路基板を示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明の実施形態について添付した図面を参照して説明する。
本実施形態に係る銅/セラミックス接合体は、セラミックスからなるセラミックス部材としてのセラミックス基板11と、銅又は銅合金からなる銅部材としての銅板22(回路層12)及び銅板23(金属層13)とが接合されてなる絶縁回路基板10である。
図1に、本実施形態である絶縁回路基板10を備えたパワーモジュール1を示す。
【0023】
このパワーモジュール1は、回路層12及び金属層13が配設された絶縁回路基板10と、回路層12の一方の面(
図1において上面)に接合層2を介して接合された半導体素子3と、金属層13の他方側(
図1において下側)に配置されたヒートシンク30と、を備えている。
【0024】
半導体素子3は、Si等の半導体材料で構成されている。この半導体素子3と回路層12は、接合層2を介して接合されている。
接合層2は、例えばSn-Ag系、Sn-In系、若しくはSn-Ag-Cu系のはんだ材で構成されている。
【0025】
ヒートシンク30は、前述の絶縁回路基板10からの熱を放散するためのものである。このヒートシンク30は、Cu又はCu合金で構成されており、本実施形態ではりん脱酸銅で構成されている。このヒートシンク30には、冷却用の流体が流れるための流路31が設けられている。
なお、本実施形態においては、ヒートシンク30と金属層13とが、はんだ材からなるはんだ層32によって接合されている。このはんだ層32は、例えばSn-Ag系、Sn-In系、若しくはSn-Ag-Cu系のはんだ材で構成されている。
【0026】
そして、本実施形態である絶縁回路基板10は、
図1に示すように、セラミックス基板11と、このセラミックス基板11の一方の面(
図1において上面)に配設された回路層12と、セラミックス基板11の他方の面(
図1において下面)に配設された金属層13と、を備えている。
【0027】
セラミックス基板11は、絶縁性および放熱性に優れた窒化ケイ素(Si3N4)で構成されている。このセラミックス基板11の厚さは、例えば、0.2mm以上1.5mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、0.32mmに設定されている。
【0028】
回路層12は、
図5に示すように、セラミックス基板11の一方の面(
図5において上面)に、銅又は銅合金からなる銅板22が接合されることにより形成されている。
本実施形態においては、回路層12は、無酸素銅の圧延板からなる銅板22がセラミックス基板11に接合されることで形成されている。
なお、回路層12となる銅板22の厚さは0.1mm以上2.0mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、0.6mmに設定されている。
【0029】
金属層13は、
図5に示すように、セラミックス基板11の他方の面(
図5において下面)に、銅又は銅合金からなる銅板23が接合されることにより形成されている。
本実施形態においては、金属層13は、無酸素銅の圧延板からなる銅板23がセラミックス基板11に接合されることで形成されている。
なお、金属層13となる銅板23の厚さは0.1mm以上2.0mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、0.6mmに設定されている。
【0030】
そして、セラミックス基板11と回路層12(金属層13)との接合界面においては、セラミックス基板11側から回路層12(金属層13)側に向けて延在するMg-N化合物相が形成されることがある。
このMg-N化合物相は、接合材として用いられるマグネシウム(Mg)とセラミックス基板11に含まれる窒素(N)とが反応することによって形成されるものである。
【0031】
本実施形態においては、
図2に示すように、セラミックス基板11と回路層12(金属層13)との積層方向に沿った断面を観察した際の、セラミックス基板11と回路層12(金属層13)との接合界面Sに存在するMg-N化合物相15の最大長さが100nm未満とされ、この接合界面Sに沿った単位長さにおいて、長さが10nm以上100nm未満の範囲内のMg-N化合物相15の個数密度が8個/μm未満とされている。
図4の点線が接合界面Sに沿った長さとなる。
ここで、長さは、以下の通り定義する。
図3に示すように、Mg-N化合物相15と接合界面Sとの接触点をそれぞれ左端A、右端Bとし、左端Aから右端Bまでの接合界面Sに沿った長さの半分の箇所を中間点P1とし、Mg-N化合物相15と回路層12(金属層13)との境界線Cとし、境界線Cの変曲点を先端P2とする。中間点P1と先端P2の距離Lを長さと定義する。
【0032】
なお、長さが10nm以上100nm未満の範囲内のMg-N化合物相15の個数密度は、5個/μm未満であることが好ましく、3個/μm未満であることがさらに好ましい。また、長さが10nm以上100nm未満の範囲内のMg-N化合物相15の個数密度の下限値が0個/μmであってもよい。
また、Mg-N化合物相15の最大長さは10nm以上とすることが好ましい。
ここで、
図4に、セラミックス基板11と回路層12(金属層13)との接合界面S近傍の観察結果を示す。
図4は、セラミックス基板11と回路層12(金属層13)との積層方向に沿った断面をFEI社製Titan ChemiSTEMを用いて観察したSTEM-HAADF像である。
この
図4においては、明確なMg-N化合物相15は観察されておらず、長さが10nm以上100nm未満の範囲内のMg-N化合物相15の個数密度は0個/μmとされている。
【0033】
また、本実施形態の絶縁回路基板10においては、
図2に示すように、セラミックス基板11は、窒化ケイ素相11aと、この窒化ケイ素相11aの間に形成されたガラス相11bと、を備えており、回路層12(金属層13)側に位置するガラス相11bの内部にCu原子が存在していることが好ましい。
なお、ガラス相11bは、窒化ケイ素の原料を焼結する際に用いられる焼結助剤によって形成されるものであり、窒化ケイ素相11a同士の粒界部分に存在する。
【0034】
さらに、本実施形態の絶縁回路基板10においては、Mg-N化合物相15におけるMgとNとSiの合計値を100原子%とした場合に、Si濃度が25原子%以下であることが好ましい。この場合、Mg-N化合物相15におけるSi濃度が25原子%以下とされているので、Mg-N化合物相15の内部にSi単相が局所的に析出することが抑えられ、Mg-N化合物相15の強度を十分に確保することができる。これにより、端子材の超音波接合等で、接合界面に負荷がかかった際に、Mg-N化合物相15でのクラックを抑制することが可能となり、Mg-N化合物相15によるアンカー効果を維持することができる。
Si濃度は、より好ましくは20原子%以下であり、下限値は5原子%である。
【0035】
以下に、本実施形態に係る絶縁回路基板10の製造方法について、
図5及び
図6を参照して説明する。
【0036】
(Mg配置工程S01)
まず、窒化ケイ素(Si3N4)からなるセラミックス基板11を準備し、
図6(a)に示すように、回路層12となる銅板22とセラミックス基板11との間、及び、金属層13となる銅板23とセラミックス基板11との間に、それぞれMgを配置する。
本実施形態では、回路層12となる銅板22とセラミックス基板11との間、及び、金属層13となる銅板23とセラミックス基板11との間に、Mg箔25を配設している。
【0037】
ここで、Mg配置工程S01では、配置するMg量を0.34mg/cm2以上2.09mg/cm2以下の範囲内とする。
配置するMg量を0.34mg/cm2以上とすることで、界面反応に必要なCu-Mg液相を十分に得ることができ、銅板とセラミックス基板とを確実に接合することができる。一方、配置するMg量を2.09mg/cm2以下に制限することで、上述のMg-N化合物相が過剰に生成・成長することを抑制できる。
なお、配置するMg量の下限は0.43mg/cm2以上とすることが好ましく、0.52mg/cm2以上とすることがさらに好ましい。一方、配置するMg量の上限は1.34mg/cm2以下とすることが好ましく、1.04mg/cm2以下とすることがさらに好ましい。
【0038】
(積層工程S02)
次に、銅板22とセラミックス基板11を、Mg箔25を介して積層するとともに、セラミックス基板11と銅板23を、Mg箔25を介して積層する。
【0039】
(接合工程S03)
次に、
図6(b)で示すように、積層された銅板22、Mg箔25、セラミックス基板11、Mg箔25、銅板23を、積層方向に加圧するとともに、真空炉内に装入して加熱し、銅板22とセラミックス基板11と銅板23を接合する。
ここで、接合工程S03においては、Mg-Si共晶温度(639℃)以上における温度と時間とを掛け合わして積算した温度積分値が40℃・h以上420℃・h以下の範囲内となるように、昇温速度、保持温度、保持時間、降温速度を設定する。
【0040】
ここで、Mg-Si共晶温度(639℃)以上における温度と時間とを掛け合わして積算した温度積分値を40℃・h以上とすることで、界面反応に必要なCu-Mg液相を十分に得ることができ、銅板とセラミックス基板とを確実に接合することができる。一方、上述の温度積分値を420℃・h以下とすることで、上述のMg-N化合物相が過剰に生成及び成長することを抑制できる。
【0041】
なお、Mg-Si共晶温度(639℃)以上における温度と時間とを掛け合わして積算した温度積分値の下限は、100℃・h以上とすることが好ましく、150℃・h以上とすることがさらに好ましい。一方、Mg-Si共晶温度(639℃)以上における温度と時間とを掛け合わして積算した温度積分値の上限は、400℃・h以下とすることが好ましく、350℃・h以下とすることがさらに好ましく、300℃・h以下とすることがより好ましい。
【0042】
なお、接合工程S03における加圧荷重は、0.049MPa以上3.4MPa以下の範囲内とすることが好ましい。
さらに、接合工程S03における真空度は、1×10-6Pa以上5×10-2Pa以下の範囲内とすることが好ましい。
【0043】
以上のように、Mg配置工程S01と、積層工程S02と、接合工程S03とによって、
図6(c)で示す本実施形態の絶縁回路基板10が製造されることになる。
【0044】
(ヒートシンク接合工程S04)
次に、絶縁回路基板10の金属層13の他方の面側にヒートシンク30を接合する。
絶縁回路基板10とヒートシンク30とを、はんだ材を介して積層して加熱炉に装入し、はんだ層32を介して絶縁回路基板10とヒートシンク30とをはんだ接合する。
【0045】
(半導体素子接合工程S05)
次に、絶縁回路基板10の回路層12の一方の面に、半導体素子3をはんだ付けにより接合する。
上述の工程により、
図1に示すパワーモジュール1が製出される。
【0046】
以上のような構成とされた本実施形態の絶縁回路基板10(銅/セラミックス接合体)によれば、回路層12(及び金属層13)とセラミックス基板11との接合界面に存在するMg-N化合物相15の最大長さが100nm未満とされ、接合界面に沿った単位長さにおいて、長さが10nm以上100nm未満の範囲内のMg-N化合物相15の個数密度が8個/μm未満とされているので、接合界面に存在するMg-N化合物相15に起因して電界集中が生じることを抑制できる。よって、絶縁回路基板10の絶縁性を十分に向上させることができる。
【0047】
また、本実施形態の絶縁回路基板10において、セラミックス基板11が、窒化ケイ素相11aと、この窒化ケイ素相11aの間に形成されたガラス相11bと、を備えており、回路層12(及び金属層13)側に位置するガラス相11bの内部にCu原子が存在している場合には、セラミックス基板11と銅板22,23とが十分に界面反応していることになり、回路層12(及び金属層13)とセラミックス基板11との接合信頼性に特に優れている。
【0048】
また、本実施形態の絶縁回路基板10において、Mg-N化合物相15におけるMgとNとSiの合計値を100原子%とした場合に、Si濃度が25原子%以下である場合には、Mg-N化合物相15の内部にSi単相が局所的に析出することが抑えられ、Mg-N化合物相15の強度を十分に確保することができる。
【0049】
本実施形態の絶縁回路基板10(銅/セラミックス接合体)の製造方法によれば、Mg配置工程S01において、Mg量を0.34mg/cm2以上とし、接合工程S03において、Mg-Si共晶温度(639℃)以上における温度と時間とを掛け合わして積算した温度積分値を40℃・h以上としているので、界面反応に必要なCu-Mg液相を十分に得ることができ、銅板22,23とセラミックス基板11とを確実に接合することが可能となる。
また、Mg配置工程S01において、Mg量を2.09mg/cm2以下とし、接合工程S03において、Mg-Si共晶温度(639℃)以上における温度と時間とを掛け合わして積算した温度積分値を420℃・h以下としているので、回路層12(及び金属層13)とセラミックス基板11との接合界面にMg-N化合物相が過剰に生成・成長することを抑制できる。
【0050】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施形態では、絶縁回路基板に半導体素子を搭載してパワーモジュールを構成するものとして説明したが、これに限定されることはない。例えば、絶縁回路基板の回路層にLED素子を搭載してLEDモジュールを構成してもよいし、絶縁回路基板の回路層に熱電素子を搭載して熱電モジュールを構成してもよい。
【0051】
また、本実施形態の絶縁回路基板では、回路層と金属層がともに銅又は銅合金からなる銅板によって構成されたものとして説明したが、これに限定されることはない。
例えば、回路層とセラミックス基板とが本発明の銅/セラミックス接合体で構成されていれば、金属層の材質や接合方法に限定はなく、金属層がなくてもよいし、金属層がアルミニウム又はアルミニウム合金で構成されていてもよく、銅とアルミニウムの積層体で構成されていてもよい。
一方、金属層とセラミックス基板とが本発明の銅/セラミックス接合体で構成されていれば、回路層の材質や接合方法に限定はなく、回路層がアルミニウム又はアルミニウム合金で構成されていてもよく、銅とアルミニウムの積層体で構成されていてもよい。
【0052】
さらに、本実施形態では、Mg配置工程において、銅板とセラミックス基板との間に、Mg箔を積層する構成として説明したが、これに限定されることはなく、セラミックス基板及び銅板の接合面に、Mgからなる薄膜を、スパッタ法や蒸着法等によって成膜してもよい。また、MgまたはMgH2を用いたペーストを塗布してもよい。
【実施例】
【0053】
以下に、本発明の効果を確認すべく行った確認実験の結果について説明する。
【0054】
(実施例1)
まず、窒化ケイ素(Si3N4)からなるセラミックス基板からなるセラミックス基板(40mm×40mm×0.32mm)を準備した。
このセラミックス基板の両面に、無酸素銅からなる銅板(37mm×37mm×厚さ0.6mm)を、表1に示すMg配置工程及び接合工程の条件で銅板とセラミックス基板とを接合し、絶縁回路基基板(銅/セラミックス接合体)を得た。なお、接合時の真空炉の真空度は2×10-3Paとした。
【0055】
得られた絶縁回路基板(銅/セラミックス接合体)について、接合界面におけるMg-N化合物相の最大長さ、長さが10nm以上100nm未満の範囲内のMg-N化合物相の個数密度、ガラス相内部のCu原子の有無、冷熱サイクル後の接合率、絶縁耐圧について、以下のようにして評価した。
【0056】
(Mg-N化合物相)
銅板とセラミックス基板との接合界面を、透過型電子顕微鏡(FEI社製Titan ChemiSTEM)を用いて加速電圧200kV、倍率2万倍で観察し、MgとNが共存する領域が存在し、かつ、その領域において、Mg,N,Siの合計を100原子%として、Mgの濃度が40原子%以上65原子%以下である場合に、Mg-N化合物相と認定した。
そして、Mg-N化合物相の最大長さ、接合界面に沿った単位長さにおいて長さが10nm以上100nm未満の範囲内のMg-N化合物相の個数密度を算出した。
【0057】
Mg-N化合物相の最大長さは、銅/セラミックス接合体の断面において、接合界面を、透過型電子顕微鏡(FEI社製Titan ChemiSTEM)で観察した際の視野(2μm×2μm)における、Mg-N化合物相を抽出して、上述した定義に従ってMg-N化合物相の長さを測定した。これを各銅/セラミックス接合体において5視野で行い、最も長さの大きかった、Mg-N化合物相の長さをMg-N化合物相の最大長さとして示した。
【0058】
Mg-N化合物相の個数密度は、銅/セラミックス接合体を、銅/セラミックス接合体の積層方向に沿って切断した断面を透過型電子顕微鏡(FEI社製Titan ChemiSTEM)を用いて観察した際の視野(2μm×2μm)における、銅板とセラミックス基板との接合界面に沿った単位長さにおいて、長さが10nm以上100nm未満の範囲内のMg-N化合物相の個数をカウントして、個数密度(個/μm)を算出した。これを5視野で行い、平均値を個数密度(個/μm)として示した。
【0059】
評価結果を表1に示す。なお、Mg-N化合物相の最大長さ及びMg-N化合物相の個数密度については、測定視野の境界部に存在して全体が把握できないMg-N化合物相は、除外して測定している。
【0060】
(ガラス相内部のCu原子)
セラミックス基板の断面を透過型電子顕微鏡(FEI社製Titan ChemiSTEM、加速電圧200kV)を用いて観察し、ガラス相中のCu原子の有無を確認した。
なお、ガラス相は、Cu,Si,O,Nの合計値を100原子%とした際に、Siが15原子%未満、且つ、Oが3原子%以上25原子%以下の範囲内の領域とした。評価結果を表1に示す。
【0061】
(冷熱サイクル負荷後の接合率)
冷熱衝撃試験機(エスペック株式会社製TSA-72ES)を使用し、絶縁回路基板に対して、気相で、-40℃×5分←→175℃×5分の800サイクルを実施した。この後、セラミックス基板と銅板との接合率を以下のようにして評価した。
接合率の評価は、絶縁回路基板に対し、セラミックス基板と銅板(回路層及び金属層)との界面の接合率について超音波探傷装置(株式会社日立パワーソリューションズ製FineSAT200)を用いて評価し、以下の式から接合率を算出した。
【0062】
ここで、初期接合面積とは、接合前における接合すべき面積、すなわち本実施例では回路層及び金属層の面積(37mm×37mm)とした。
(接合率)={(初期接合面積)-(剥離面積)}/(初期接合面積)
超音波探傷像を二値化処理した画像において剥離は接合部内の白色部で示されることから、この白色部の面積を剥離面積とした。これらの結果を表1に示す。
【0063】
(絶縁耐圧)
上述の冷熱サイクル負荷後の絶縁回路基板の表裏を電極で挟み、昇圧速度1kV/秒で0.5kVずつ昇圧して30秒間保持を繰り返し、絶縁破壊したときの電圧を絶縁耐圧とした。なお、本実施例では、1mA以上の電流が流れた際の電圧を絶縁耐圧とした。評価結果を表1に示す。
【0064】
【0065】
Mg配置工程におけるMg量が2.61mg/cm2とされた比較例1においては、Mg-N化合物相の最大長さが100μmを超え、長さが10nm以上100nm未満のMg-N化合物相の個数密度が8個を超えた。このため、絶縁耐圧が5.5kVと低く、絶縁性が不十分であった。
【0066】
接合工程における温度積分値が503℃・hとされた比較例2においては、Mg-N化合物相の最大長さが100μmを超え、長さが10nm以上100nm未満のMg-N化合物相の個数密度が8個を超えた。このため、絶縁耐圧が5.0kVと低く、絶縁性が不十分であった。
【0067】
Mg配置工程におけるMg量が0.17mg/cm2とされた比較例3においては、Mg-N化合物相の最大長さが10μm未満となった。このため、接合不良となり、その他の評価を中止した。
【0068】
接合工程における温度積分値が19℃・hとされた比較例4においては、Mg-N化合物相の最大長さが10μm未満となった。このため、接合不良となり、その他の評価を中止した。液相は十分に発生したが、反応が不十分であったためと推測される。
【0069】
これに対して、接合界面に存在するMg-N化合物相の最大長さが100nm未満とされ、接合界面に沿った単位長さにおいて、長さが10nm以上100nm未満の範囲内のMg-N化合物相の個数密度が8個/μm未満とされた本発明例1-8においては、絶縁耐圧が7.0kV以上であり、絶縁性に優れていた。
また、ガラス相の内部にCu原子が存在する本発明例3-8においては、冷熱サイクル負荷後の接合率が高くなり、接合信頼性に優れていた。
【0070】
(実施例2)
窒化ケイ素(Si3N4)からなるセラミックス基板からなるセラミックス基板(40mm×40mm×0.32mm)を準備した。
このセラミックス基板の両面に、無酸素銅からなる銅板(37mm×37mm×厚さ0.6mm)を、表2に示す条件で銅板とセラミックス基板とを接合し、絶縁回路基基板(銅/セラミックス接合体)を得た。なお、接合時の真空炉の真空度は2×10-3Paとした。
【0071】
得られた絶縁回路基板(銅/セラミックス接合体)について、接合界面におけるMg-N化合物相の最大長さ、長さが10nm以上100nm未満の範囲内のMg-N化合物相の個数密度、ガラス相内部のCu原子の有無、について、実施例1と同様に評価した。評価結果を表2に示す。
また、Mg-N化合物相におけるSi濃度、通炉試験後の接合率および絶縁性について、以下のようにして評価した。
【0072】
(Mg-N化合物相におけるSi濃度)
得られた絶縁回路基板(銅/セラミックス接合体)の中央部から観察試料を採取し、銅板とセラミックス基板との接合界面を、透過型電子顕微鏡(FEI社製Titan ChemiSTEM)を用いて加速電圧200kV、倍率2万倍で観察し、MgとNが共存する領域(即ち前述のMg-N化合物相)が存在し、その領域において、Mg,N,Siの合計を100原子%として、Si濃度を測定した。
【0073】
(冷熱サイクル負荷後の接合率)
-78℃×2min←→350℃×2min×5回の冷熱サイクルを負荷させたさせた後、セラミックス基板と銅板との接合率を、実施例1と同様に評価した。評価結果を表2に示す。
【0074】
(絶縁評価)
上述の通炉試験荷後の絶縁回路基板の表裏を電極で挟み、昇圧速度1kV/秒で0.5kVずつ昇圧して30秒間保持を繰り返し、放電電荷が10pCを超えたときの電圧を放電開始電圧とした。評価結果を表2に示す。
【0075】
【0076】
Mg配置工程におけるMg量が3.741mg/cm2とされた比較例11においては、Mg-N化合物相の最大長さが100μmを超え、長さが10nm以上100nm未満のMg-N化合物相の個数密度が8個を超え、Mg-N化合物相のSi濃度が25原子%を超えた。このため、冷熱サイクル負荷後の放電開始電圧が4.9kVと低く、絶縁性が不十分であった。
【0077】
これに対して、接合界面に存在するMg-N化合物相の最大長さが100nm未満とされ、接合界面に沿った単位長さにおいて、長さが10nm以上100nm未満の範囲内のMg-N化合物相の個数密度が8個/μm未満とされ、Mg-N化合物相のSi濃度が25原子%以下とされた本発明例11-19においては、冷熱サイクル負荷後の放電開始電圧が6.5kV以上であり、絶縁性に優れていた。
また、本発明例11-19を比較すると、Mg-N化合物相におけるSi濃度が低く抑えることで、冷熱サイクル負荷後の放電開始電圧が高くなり、絶縁性にさらに優れることが確認された。
【0078】
以上の結果、本発明例によれば、絶縁性に優れた銅/セラミックス接合体、絶縁回路基板、及び、銅/セラミックス接合体の製造方法、絶縁回路基板の製造方法を提供可能であることが確認された。
【符号の説明】
【0079】
10 絶縁回路基板(銅/セラミックス接合体)
11 セラミックス基板(セラミックス部材)
11a 窒化ケイ素相
11b ガラス相
12 回路層(銅部材)
13 金属層(銅部材)
15 Mg-N化合物相