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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】発振器、撮像装置
(51)【国際特許分類】
   H03B 7/08 20060101AFI20240708BHJP
   G01N 21/01 20060101ALI20240708BHJP
   G01N 21/17 20060101ALI20240708BHJP
【FI】
H03B7/08
G01N21/01 D
G01N21/17 A
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2019028242
(22)【出願日】2019-02-20
(65)【公開番号】P2020136910
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2022-02-18
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】香取 篤史
(72)【発明者】
【氏名】海部 紀之
【審査官】及川 尚人
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0234762(US,A1)
【文献】特開2011-061276(JP,A)
【文献】特開2010-252299(JP,A)
【文献】特表2014-517620(JP,A)
【文献】国際公開第2015/170425(WO,A1)
【文献】特開2014-014072(JP,A)
【文献】特開2016-111541(JP,A)
【文献】特開2013-168928(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03B 7/08
G01N 21/01
G01N 21/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負性抵抗素子を含む共振器と、
前記負性抵抗素子に電圧を印加する電圧バイアス回路と、
抵抗と容量とが電気的に直列に接続されているシャント素子と、
1または複数の第2シャント素子と、
を備え、
前記共振器と前記シャント素子とは、前記電圧バイアス回路の正側電源端子および負側電源端子のそれぞれに並列に接続されて、電源電圧が供給され、
前記シャント素子の一方の端子は、前記共振器と前記電圧バイアス回路間の配線に接続されており
前記1または複数の第2シャント素子のそれぞれは、容量を含み、
前記電圧バイアス回路に対して、前記1または複数の第2シャント素子のそれぞれと前記負性抵抗素子と前記シャント素子とが電気的に並列に接続されており、
前記シャント素子と前記1または複数の第2シャント素子とはそれぞれ、高周波側のカットオフ周波数に対応する波長の1/4以下の長さの配線によって、前記負性抵抗素子と接続されている、
ことを特徴とする発振器。
【請求項2】
前記シャント素子と前記1または複数の第2シャント素子とはそれぞれ、
前記負性抵抗素子と接続する配線の長さが短いほど、より高い周波数帯域の電磁波の発振を抑制する、
ことを特徴とする請求項に記載の発振器。
【請求項3】
前記1または複数の第2シャント素子のうちいずれかと前記共振器とは、同一のチップに形成されている、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の発振器。
【請求項4】
前記シャント素子と前記1または複数の第2シャント素子とのそれぞれは、互いに異なる部材に形成されている、
ことを特徴とする請求項からのいずれか1項に記載の発振器。
【請求項5】
前記1または複数の第2シャント素子のそれぞれは、抵抗を含まない、
ことを特徴とする請求項からのいずれか1項に記載の発振器。
【請求項6】
負性抵抗素子を含む共振器と、
前記負性抵抗素子に電圧を印加する電圧バイアス回路と、
抵抗と容量とが電気的に直列に接続されているシャント素子と、
を備え、
前記共振器と前記シャント素子とは、前記電圧バイアス回路の正側電源端子および負側電源端子のそれぞれに並列に接続されて、電源電圧が供給され、
前記シャント素子の一方の端子は、前記共振器と前記電圧バイアス回路間の配線に接続されており、
前記シャント素子が有する容量の容量値をCとし、前記シャント素子が有する抵抗の抵抗値をRとし、前記シャント素子の低周波側のカットオフ周波数をf0とすると、R/10≧1/(2πf0×C)を満たす、
ことを特徴とする発振器。
【請求項7】
前記負性抵抗素子と前記シャント素子とを接続する配線の長さは、前記共振器が発振する電磁波の波長の1/4以下である、
ことを特徴とする請求項に記載の発振器。
【請求項8】
前記共振器および前記シャント素子は、同一のチップに形成されている、
ことを特徴とする請求項または請求項に記載の発振器。
【請求項9】
前記電圧バイアス回路が形成された第1基板と、
前記共振器が形成された第2基板と、
をさらに有し、
前記第1基板と前記第2基板とは、ケーブルを介して電気的に接続されている、
ことを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の発振器。
【請求項10】
前記シャント素子が有する抵抗の抵抗値は、負性抵抗領域における前記負性抵抗素子のインピーダンスの絶対値の1/2倍以上、2倍以下の値であり、
前記負性抵抗領域は、電圧電流特性において、電圧の増加に応じて電流が減少する領域である、
ことを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の発振器。
【請求項11】
前記電圧バイアス回路は、交流の電圧を前記負性抵抗素子に印加する、
ことを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載の発振器。
【請求項12】
前記共振器は、アンテナを有し、
前記シャント素子は、前記アンテナから離間して配置されている、
ことを特徴とする請求項1から11のいずれか1項に記載の発振器。
【請求項13】
前記シャント素子は、配線を介してアンテナと接続している、
ことを特徴とする請求項12に記載の発振器。
【請求項14】
前記容量は、2つの電極を有する、
ことを特徴とする請求項1から13のいずれか1項に記載の発振器。
【請求項15】
前記共振器と前記シャント素子は、第2基板に配され、
前記第2基板の上には、第1電極と第2電極とが配されており、
前記第1電極および前記第2電極は、前記電圧バイアス回路と電気的に接続する、
ことを特徴とする請求項1から14のいずれか1項に記載の発振器。
【請求項16】
前記共振器が発振する電磁波の周波数は、30GHz以上30THz以下である、
ことを特徴とする請求項1から15のいずれか1項に記載の発振器。
【請求項17】
請求項1から16のいずれか1項に記載の発振器を有する照明装置と、
前記発振器が発振した電磁波が照射された被対象を撮像する撮像素子と、
を備える、
ことを特徴とする撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発振器、撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
30GHz~30THzの周波数帯の所定の電磁波であるテラヘルツ波を発生させる小型の発振器にとして、共鳴トンネルダイオード(RTD)などの負性抵抗素子を含む発振回路(共振器)を用いることがある。この発振回路は、負性抵抗素子が負性抵抗の特性を有する電圧値を、負性抵抗素子に印加するような電圧バイアス回路と接続している。なお、負性抵抗素子は、所定の電磁波の周波数(所定の周波数)だけでなく、広い周波数帯域において利得を持つ。このため、負性抵抗素子と電圧バイアス回路を接続することによって、所定の周波数よりも低い共振点での電磁波の発振(以下、「寄生発振」と呼ぶ)が生じるので、これを抑制する必要がある。
【0003】
これに関し、特許文献1および特許文献2には、負性抵抗素子101を含む発振回路100と電圧バイアス回路200とを含む発振器が開示されている。特許文献1では、図15(A)が示すように、負性抵抗素子101に対して並列に抵抗素子301(シャント抵抗素子;抵抗)を配置することで、寄生発振を抑制する構成が開示されている。また、特許文献2では、図15(B)が示すように、負性抵抗素子101に対して並列に容量素子302(シャント容量素子;容量)を配置することで、寄生発振を抑制する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5717336号公報
【文献】特許第5612842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に係る発振器では、抵抗素子301が存在するため、電圧バイアス回路200は、定常的な直流電流を流す必要がある。このため、所定の電磁波の発振を安定に行うために、発振器は電力を消費し続ける必要があるという課題がある。一方、特許文献2に係る発振器では、電圧バイアス回路200は、瞬時電流を流すのみで直流電流が不要なため、特許文献1に係る発振器に比べて消費電力は低減することができる。しかし、容量素子302による寄生発振の抑制には、安定性に課題がある。
【0006】
従って、本発明は、消費電力の増加を抑制しつつ、寄生発生の抑制を安定して行うことができる発振器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の1つの態様は、
負性抵抗素子を含む共振器と、
前記負性抵抗素子に電圧を印加する電圧バイアス回路と、
抵抗と容量とが電気的に直列に接続されているシャント素子と、
1または複数の第2シャント素子と、
を備え、
前記共振器と前記シャント素子とは、前記電圧バイアス回路の正側電源端子および負側電源端子のそれぞれに並列に接続されて、電源電圧が供給され、
前記シャント素子の一方の端子は、前記共振器と前記電圧バイアス回路間の配線に接続されており
前記1または複数の第2シャント素子のそれぞれは、容量を含み、
前記電圧バイアス回路に対して、前記1または複数の第2シャント素子のそれぞれと前記負性抵抗素子と前記シャント素子とが電気的に並列に接続されており、
前記シャント素子と前記1または複数の第2シャント素子とはそれぞれ、高周波側のカットオフ周波数に対応する波長の1/4以下の長さの配線によって、前記負性抵抗素子と接続されている、
ことを特徴とする発振器である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、発振器において、消費電力の増加を抑制しつつ、寄生発振の抑制を安定して行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態1に係る発振器の回路構成図である。
図2】負性抵抗素子における電圧-電流特性を説明する図である。
図3】実施形態1および比較例に係る電磁波の損失を示す図である。
図4】実施形態1に係る発振器の外部構成を示す図である。
図5】実施形態1に係る発振器の外部構成を示す図である。
図6】実施形態1に係るシャント素子の外部構成を示す図である。
図7】実施形態1および実施形態2に係る発振器の回路構成図である。
図8】実施形態2に係る発振器の外部構成を示す図である。
図9】実施形態2および実施形態3に係る電磁波の損失を示す図である。
図10】実施形態3および実施形態4に係る発振器の回路構成図である。
図11】実施形態3に係る発振器の外部構成を示す図である。
図12】実施形態4および実施形態5に係る発振器の外部構成を示す図である。
図13】実施形態5に係る発振器を説明する図である。
図14】実施形態6および変形例1に係る撮像装置を説明する図である。
図15】従来の発振器を説明する回路構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を用いて本発明の実施形態について説明する。ただし、本発明は、これらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形、変更が可能である。
【0011】
<実施形態1>
本実施形態に係る発振器では、負性抵抗素子に電圧を印加する電圧バイアス回路に対して、当該負性抵抗素子と、直列に配置した抵抗および容量を有するシャント素子とを電気的に並列に接続する。これにより、消費電力の増加を抑制しつつ、寄生発生の抑制を安定して行うことのできる発振器を実現する。
【0012】
[発振器の回路構成]
本実施形態に係る発振器1の回路構成について図1(A)、図1(B)を用いて説明する。図1(A)は、発振器1の簡易的な回路構成(最小回路構成)を示しており、図1(B)は、発振器1のより詳細な回路構成を示している。発振器1は、発振回路100、電圧バイアス回路200、シャント素子310を有する。
【0013】
発振回路100は、負性抵抗素子101、容量102、インダクタ103といった素子を有する共振器(テラヘルツ発振回路)である。より詳細には、負性抵抗素子101と、これに対して並列に接続された容量102とインダクタ103が、発振回路100を構成している。発振回路100は、電圧バイアス回路200により、負性抵抗素子101に所定の電圧が印加されることにより、30GHz~30THzの間において、所定の周波数の電磁波(テラヘルツ波;所定の電磁波)の発振を行う。つまり、所定の電磁波は、発振回路100の設計パラメータで主に決まる、発振回路100が発振する(共振する)電磁波である。なお、以下では、発振回路100による所定の電磁波(テラヘルツ波)の発振を、「テラヘルツ発振」と呼ぶ。
【0014】
負性抵抗素子101には、電圧制御型負性抵抗を用いることができる。具体的には、電流注入型の共鳴トンネルダイオード(Resonant tunnelling Dio
de:RTD)を用いることにより、所定の電磁波の周波数(テラヘルツ周波数)での発振回路100を構成することができる。この共鳴トンネルダイオードは、GaAS,InP基板上に格子整合系でエピタキシャル成長されたGaAs/AlGaAs,InGaAs/InAlAsから成る量子井戸により構成される。
【0015】
図2は、負性抵抗素子101(RTD)の両端子(アノード、カソード)間に印加した電圧Vと、負性抵抗素子101に流れる電流Iとの電圧-電流特性(電圧電流特性)を示す。この電圧-電流特性では、電圧増加に対して電流値が増加する領域PRと、電圧増加に対して電流値が減少する領域NRとの2つの領域に分けることができる。この電圧増加に対して、電流値が減少する領域NRが、負性抵抗の特性を有している領域であり、以後、「負性抵抗領域」と呼ぶ。ここで、負性抵抗領域中の電圧値Vopを、負性抵抗素子101の両端子間に印加することにより、負性抵抗素子101と、容量102およびインダクタ103との間で、テラヘルツ周波数ftの電磁波(テラヘルツ波)が発振する。なお、印加する電圧値Vopは、発振の安定性を高めるために、負性抵抗領域NRの電圧範囲の中心付近の値を設定することが望ましい。ただし、これに限らず、負性抵抗領域であれば、それ以外の電圧を印加することもできる。
【0016】
また、電圧値Vopを印加しているときに、負性抵抗素子101に流れる電流値がIopである。なお、電圧値Vopの具体的な値としては、負性抵抗素子101が有するパラメータによって変化するが、一般的には、概ね0.5~1.5V(ボルテージ)の範囲(0.5V以上1.5V以下)であることが多い。一方、電流値Iopの具体的な値としては、同じように負性抵抗素子101が有するパラメータによって変化するが、一般的には、概ね20~150mA(ミリアンペアー)の範囲(20mA以上150mA以下)であることが多い。ただし、この電圧値範囲や電流値範囲に限定されず、この範囲以外でも適用可能であり、同様の効果を得ることができる。
【0017】
電圧バイアス回路200は、負性抵抗素子101(RTD)に負性抵抗領域の電圧値Vop(直流電圧)を印加するための回路である。電圧バイアス回路200は、例えば、図1(B)が示すように、理想的な電圧源201と、寄生インダクタ411、寄生抵抗412、寄生容量413などを有している。また、電圧バイアス回路200自身は、寄生インダクタ411、寄生抵抗412、寄生容量413といった寄生素子を有するため、理想的な電圧源ではない。そのため、テラヘルツ周波数ft以外の周波数での電磁波の発振(寄生発振)が、発振回路100が有する素子と、電圧バイアス回路200が有する寄生素子との間で発生する場合がある。
【0018】
また、図1(A)では省略しているが、図1(B)が示すように、発振器1における様々な機能を実現するために、発振回路100と電圧バイアス回路200との間には、配線部400が存在する場合が多い。
【0019】
配線部400は、発振回路100と電圧バイアス回路200との間に形成され、例えば、寄生インダクタ401、寄生インダクタ402、寄生抵抗403、寄生容量404の4つの寄生素子を有する。そのため、発振回路100が有する素子と、配線部400が有する寄生素子との間で、テラヘルツ周波数ftと異なる周波数での、寄生発振が発生する場合がある。
【0020】
シャント素子310は、上述した発振回路100が有する素子と他の寄生素子とによる寄生発振を防止する。シャント素子310は、抵抗素子311(シャント抵抗素子)と容量素子312(シャント容量素子)から構成され、それらが直列に接続された配置である。なお、本実施形態では、「シャント素子」とは、一方の端子が、共通配線(基板;グラウンド20)に接続されており、他方の端子が、発振回路100と電圧バイアス回路20
0間の配線に接続される素子である。
【0021】
[電磁波の損失特性]
続いて、本実施形態のシャント素子310による寄生発振の抑制の効果を図3(A)~図3(C)を用いて説明する。図3(A)および図3(B)は、比較例の発振器が有するシャント素子による電磁波の損失特性(遮断特性)を示す。図3(C)は、本実施形態に係る発振器1のシャント素子310による電磁波の損失特性を示す。
【0022】
ここで、図3(A)~図3(C)は、シャント素子が有する、周波数ごとの電磁波の損失特性を示す模式図である。また、図3(A)~図3(C)が示すグラフでは、横軸は、周波数を示し、縦軸は、シャント素子での電磁波の損失の大きさの一例を示している。ここで、損失(損失量)が多いほど、電磁波の発振を抑制することができる。なお、以下では、シャント素子が損失を有する範囲の境界の周波数を「カットオフ周波数(遮断周波数)」と呼ぶ。つまり、シャント素子は、高周波側のカットオフ周波数と低周波側のカットオフ周波数との間の周波数帯域の電磁波の発振を抑制することができる。
【0023】
図3(A)~図3(C)において、テラヘルツ周波数がft(30GHz以上30THz以下)であり、寄生発振周波数がfp1,fp2,fvである。寄生発振周波数fp1,fp2は、発振回路100と配線部400の寄生素子とにより発振する電磁波の発振周波数である。また、寄生発振周波数fvは、発振回路100と、電圧バイアス回路200内の寄生素子とにより発振する電磁波の発振周波数である。
【0024】
(シャント素子として抵抗素子を用いる場合)
まず、図3(A)は、シャント素子として「抵抗素子(抵抗)」を用いた場合の損失特性例を示している。この場合、シャント素子は、テラヘルツ周波数ftより少し小さい全ての周波数において、損失L1を有しているため、寄生発振周波数fp1,fp2,fvにおける寄生発振を抑制できる。つまり、本例では、発振器は、広い範囲の周波数帯域に対して損失を有するため、十分に寄生発振を抑制することができる。一方、本例の発振器では、抵抗素子に対して定常的に電流が流れてしまうため、不要な電力消費が生じてしまう。
【0025】
(シャント素子として容量素子を用いる場合)
図3(B)は、シャント素子として「容量素子(容量)」を用いた場合の損失特性例を示している。図3(B)では、発振器が、2つの容量素子を備えた構成の例について説明する。より詳細には、発振器は、所定の容量値の容量素子(容量値の小さい容量素子)と、これよりも容量値の大きい容量素子を備える。
【0026】
容量値の小さい容量素子は、テラヘルツ周波数ftより低い周波数のfp2の周辺で損失L3を有しており、寄生発振周波数fp2での寄生発振を抑制する。しかし、当該容量素子のみでは、より低い周波数での損失を発生させることができないため、発振器は、容量値の大きい容量素子をさらに備えている。容量値の大きい容量素子は、寄生発振周波数fp2より低い寄生発振周波数fp1,fvの周辺で損失L2を有しており、寄生発振周波数fp1,fvでの寄生発振を抑制する。
【0027】
しかし、本例では、寄生発振周波数fvの周波数が低いような場合や、fvより低い寄生発振周波数の成分があった場合には、低周波数領域に対して容量素子により損失を発生させることが難しいため、寄生発振の抑制が難しくなる。これは、周波数が高い領域に対しては、容量素子のインピーダンスを低くすることが容易であるが、周波数が低い領域に対しては、容量素子のインピーダンスを低くすることが難しいためである。また、シャント素子として用いられる容量素子と配線部400が有する寄生インダクタ402とによる
共振が発生して、当該容量素子が寄生発振を引き起こす可能性すらある。
【0028】
(シャント素子として抵抗素子および容量素子を用いる場合;本実施形態の場合)
図3(C)は、本実施形態のように、シャント素子310として、抵抗素子311(抵抗)と容量素子312(容量)を直列に接続した素子を用いる場合の損失特性例を示している。図3(C)が示すように、高い周波数においては、抵抗素子311が損失L0を有する。つまり、抵抗素子311が、寄生発振を抑制するシャント素子として動作する。このように、発振回路100において発生した不要なエネルギーを抵抗素子311により適正に損失させてしまうことによって、配線部400や電圧バイアス回路200の寄生素子と発振回路100との結合を防ぎ、寄生発振を抑制することができる。
【0029】
一方、シャント素子310の低周波側のカットオフ周波数以下においては、容量素子312のインピーダンスが大きいため、シャント素子310によって発生する損失がない。言い換えると、直流付近では、シャント素子310がオープンの状態であり、抵抗素子311によって損失が発生しないため、発振器1全体として電力の消費を抑制できる。従って、低周波側のカットオフ周波数が、発振回路100内における最も低い寄生発振周波数fvより低く設定されることによって、発振器1の電力の消費を抑制することができる。なお、低周波側のカットオフ周波数は、容量素子312と抵抗素子311の時定数により決まる周波数であるため、抵抗値と容量値をそれぞれ調整するによって、非常に低い周波数まで調整することが可能である。
【0030】
なお、本実施形態では、寄生インダクタ401もしくは寄生インダクタ411とシャント素子310内の容量素子312との間の共振があっても、シャント素子310における抵抗素子311の損失により寄生発振を抑制することができる。
【0031】
このように本実施形態に係るシャント素子310は、寄生発振を抑制する抵抗素子311(抵抗)と、直流付近での電力の消費を抑える容量素子312(容量)とを有する。このことにより、寄生発振の抑制と不要な電力の抑制を両立することができる。
【0032】
なお、抵抗素子311には、安定したテラヘルツ波発振を行うために、負性抵抗領域において負性抵抗素子101が有するインピーダンスの絶対値|Zrtd|と、近い値の抵抗値が選ばれているとよい。具体的には、当該抵抗値には、|Zrtd|の半分から2倍まで(1/2倍以上2倍以下)の間の値が選ばれるとよい。さらに、望ましくは、当該抵抗値は、|Zrtd|の0.8倍から1.2倍(0.8倍以上1.2倍以下)の値であるとよい。
【0033】
このように抵抗値が選択されることにより、より効果的に、寄生素子による寄生発振を抑制して、発振回路100において安定したテラヘルツ発振をすることができる。なお、抵抗素子311の負性抵抗領域でのインピーダンスの絶対値|Zrtd|は、典型的には、数オームから数十オームの値の範囲である。また、発振器1の発振周波数によっては、絶対値|Zrtd|は、より大きな百オーム程度であってもよい。
【0034】
一方、容量素子312の容量値は、低周波側のカットオフ周波数f0(抵抗素子311と容量素子312との時定数により決まる周波数)が、寄生発振を抑制する下限の周波数以下をとるような値が設定されるとよい。具体的には、容量素子312の容量値Cは、抵抗素子311の抵抗値Rに対して、周波数f0における容量素子312のインピーダンス1/(2πf0×C)が十分低い値をとるように設定される。好ましくは、インピーダンス1/(2πf0×C)が、抵抗値Rの数分の1以下の値をとるように、さらに好ましくは10分の1以下の値をとるように、容量値Cが設定される。つまり、R/10≧1/(2πf0×C)を満たすことが望ましい。例えば、抵抗値Rが10Ωであり、周波数f0
が1MHzであれば、容量素子312の容量値Cは160pF以上であることが好ましい。
【0035】
なお、この容量値Cは、実装サイズの制約や、実施形態6で後述する交流バイアス回路を用いる際のスイッチング速度での問題がなければ、できるだけ大きな値にしておくことが望ましい。これらの抵抗素子311や容量素子312の値は、発振回路が有するパラメータと抑制したい寄生発振周波数との関係に基づいて、最適な値に設定されるとよい。
【0036】
加えて、シャント素子310は、配置する位置を考慮する必要がある。具体的には、負性抵抗素子101とシャント素子310とを接続する配線の長さを、シャント素子310が寄生発振を抑制しようとする(損失を有する)最大の寄生発振周波数の電磁波の波長λの1/4以下にする必要がある。図3(C)の示す例であれば、当該配線の長さを、寄生発振周波数fp2の電磁波の波長の1/4にする必要がある。これは、交流信号の波長が短いと、配線の位置が少し変わっただけで、位相が大きく変化してしまい、配線端での反射による等価容量や等価インダクタが発生するからである。特に、波長の短いギガヘルツからテラヘルツでの寄生発振を抑制する場合には、負性抵抗素子101のより近傍にシャント素子310を配置する必要がある。このように、負性抵抗素子101とシャント素子310とを接続する配線の長さが波長λの1/4以下であれば、配線端での反射による等価容量や等価インダクタの発生を抑えることができ、寄生発振を抑制することができる。なお、シャント素子310が寄生発振を抑制しようとする最大の寄生発振周波数の電磁波の波長とは、シャント素子310の高周波側のカットオフ周波数に対応する波長ということもできる。
【0037】
なお、所定の電磁波(テラヘルツ波)の波長λmの1/4以下に、負性抵抗素子101とシャント素子310とを接続する配線の長さをしてもよい。これによれば、所定の電磁波のテラヘルツ周波数ftよりも周波数の低い寄生発振周波数の全てにおいて、配線端での反射による等価容量や等価インダクタの発生を抑えることができるため、より効果的に寄生発振を抑制することができる。
【0038】
[発振器の外部構成について]
以下にて、発振器1の外部構成について、図4(A)~図6(B)を用いて説明する。図4(A)は、本実施形態の発振器1の外部構成を示す模式図であり、図4(B)は、発振器1が有するチップ600および周辺をより詳細に示す模式図である。
【0039】
発振器1は、図4(A)が示すように、プリント回路基板500(PCB)、パッケージ501(PKG)、チップ600(Chip)、電圧バイアス回路200を有する。
【0040】
チップ600およびその周辺には、図4(B)が示すように、チップ600およびワイヤー611、ワイヤー612、ワイヤーボンディング用(ワイボン用)の電極641が形成されている。また、チップ600には、負性抵抗素子101を含む発振回路100、シャント素子310、アンテナ602、配線603、配線605、ワイヤーボンディング用の2つの電極640が形成されている。従って、本実施形態では、発振器1は、図7(A)が示すような回路構成であり、発振回路100とシャント素子310がチップ600に形成されており、電圧バイアス回路200がプリント回路基板500に形成されている。
【0041】
チップ600は、パッケージ501内に実装されている。図4(B)が示すように、チップ600の2つの電極640は、パッケージ501が有する2つの電極641とそれぞれ、ワイヤーボンディングによりワイヤー611,612によって電気的に接続されている。なお、チップ600は、典型的には、1mm弱角から、数mm角のものを用いるが、それよりサイズの大きな10mm角のものを用いることもできる。
【0042】
また、プリント回路基板500上には、図4(A)が示すように、パッケージ501と電圧バイアス回路200が実装されている。このため、プリント回路基板500とパッケージ501とが有する配線を介して、チップ600における発振回路100と電圧バイアス回路200とが電気的に接続されている。これにより、電圧値Vopの直流電圧が、電圧バイアス回路200から発振回路100に印加され、テラヘルツ周波数ftにおいて発振回路100がテラヘルツ発振するように設定されている。
【0043】
図5(A)は、図4(B)のチップ600におけるA1-A2-A3-A4断面を模式的に示す図である。図5(A)が示すように、チップ600上には、絶縁膜620が形成されている。発振回路100は、絶縁膜620の深さ方向に埋め込まれるように、チップ600上に形成されており、発振回路100の一方の端子はチップ600(チップ600の基板電位)に接続されている。発振回路100の他方の端子は、チップ600上に形成されたアンテナ602に接続されている。なお、チップ600の基板電位は、絶縁膜620を貫通した配線613により、電極640に接続されている。
【0044】
シャント素子310は、一方の端子がチップ600(チップ600の基板電位)に接続されている。また、シャント素子310の他方の端子は、配線603を介してアンテナ602と、配線605を介して電極640とに接続されている。従って、本実施形態では、配線603が、シャント素子310と発振回路100(負性抵抗素子101)とを接続する配線である。
【0045】
アンテナ602のサイズは、テラヘルツ周波数ftに応じて、最適な大きさにすればよく、例えば、百μm角から数百μm角の大きさである。なお、アンテナ602には、テラヘルツ周波数ftによっては、より大きな数mm角のものを用いることができる。また、本実施形態の発振器1のアンテナ602は、正方形状のアンテナに限らず、所定の電磁波(テラヘルツ波)を発振することができれば、どのようなアンテナ形状でもよい。
【0046】
(シャント素子の詳細な構成)
シャント素子310の詳細の構成例を、図6(A)、図6(B)を用いて説明する。図6(A)は、図4(B)が示しているシャント素子310付近を拡大した模式図である。
【0047】
シャント素子310は、アンテナ602への配線603と、電極640への配線605との接点B0に接続されている。図6(A)が示すように、接点B0には、抵抗素子311の抵抗部631が接続され、その先で、容量素子312の上部電極632が接続されている。
【0048】
図6(B)は、図6(A)のB1-B2断面によって、シャント素子310を切断した模式図である。チップ600上に、上部電極632と同じ大きさの下部電極633が形成されており、下部電極633と誘電膜634と上部電極632とが順に積層されることにより、コンデンサを形成している。
【0049】
下部電極633は、チップ600と電気的に接続されているので、負性抵抗素子101の両端子に対して、シャント素子310が電気的に並列に配置された構成となっている。
【0050】
抵抗部631は、金属薄膜にパターンを形成して、配線長を長くした構成により容易に形成することができる。当該配線長を長くした構成は、図6(A)が示す例では、ミアンダ配線構成である。金属薄膜は、アルミニウムをはじめとした、半導体の配線に対して用いられる金属であれば、任意のものを用いることができる。また、金属薄膜の抵抗値(シート抵抗値)は、金属の種類、配線の幅、厚さ、長さなどを調整して容易に調整すること
ができる。なお、金属薄膜の代わりには、ポリシリコンへのドーピング量を調整して抵抗値を制御したポリシリコン抵抗をはじめとして、チップ600上に所望の抵抗を形成できるものであれば、任意のものを用いることができる。
【0051】
誘電膜634は、シリコン酸化膜やシリコン窒化膜などを用いて容易に形成することができる。具体的には、所望の被誘電率に応じて、低誘電率の材料や高誘電率の材料を選択することにより誘電膜634を形成可能である。
【0052】
上部電極632および下部電極633は、アルミニウムをはじめとした金属材料により容易に形成することができる。ここで、下部電極633は、誘電膜634を形成する工程において発生する温度に耐えられる材料を選択する必要がある。また、ポリシリコンを上下電極にしたキャパシタやMOSキャパシタをはじめとする所望の容量値をチップ600上に実現できるのであれば、上部電極632および下部電極633の形成に任意のものを用いてよい。また、使用上の問題がなければ、チップ600を下部電極633の代わりとして用いることにより、下部電極633が含まれない構成も同様に用いることができる。
【0053】
なお、本実施形態では、絶縁膜620と誘電膜634は、別の材料によって構成されるものとするが、この構成に限らない。例えば、所望の容量値を形成することができれば、絶縁膜620と誘電膜634に対して、酸化シリコンや、窒化シリコン膜などの同じ絶縁膜を用いることもできる。同じ絶縁膜を用いることによれば、同じチップ600上において異なる絶縁膜(誘電膜)を形成する必要がないため、よい簡易な構成で、簡易な製造プロセスでチップ600を形成することができる。
【0054】
また、本実施形態では、発振回路100とシャント素子310とを同一の部材であるチップ600上に形成する構成であるため、負性抵抗素子101とシャント素子310の間の配線の長さ(配線603の長さ)を短くすることができる。つまり、負性抵抗素子101とシャント素子310とを接続する配線603の長さを、所定の電磁波の波長λmの1/4の長さ以下に容易にすることができる。このため、発振器1によれば、サイズの小さな構成により、消費電力を抑制しつつ、寄生発振を安定的に抑制することができる。
【0055】
なお、本実施形態では、パッケージ501上にチップ600を形成した構成について説明したが、この形態に限らない。例えば、図5(B)が示すように、パッケージ501を介さずに、プリント回路基板500上にチップ600を直接形成した構成であってもよい。これにより、発振器1におけるパッケージ501を省くことができるので、より少ない構成要素によって発振器1を構成することができる。
【0056】
(効果)
本実施形態によれば、負性抵抗素子を含む発振回路を所定の周波数で発振させる発振器において、消費電力の増加を抑制し、寄生発振の抑制を安定的に行うことができる。
【0057】
<実施形態2>
実施形態2に係る発振器2は、シャント素子の数と配置場所が実施形態1の発振器1と異なり、それ以外は実施形態1の発振器1と同じである。以下では、図8を用いて、本実施形態に係る発振器2を説明する。本実施形態に係る発振器2では、2つのシャント素子のそれぞれが、異なる部材(チップとプリント回路基板)に形成されている。
【0058】
発振器2は、実施形態1に係る発振器1が有しているプリント回路基板500、パッケージ501、チップ600、電圧バイアス回路200に加えて、シャント素子520をプリント回路基板500上に有する。
【0059】
チップ600は、実施形態1におけるシャント素子310の代わりに、シャント素子として容量素子302を有する。容量素子302は、容量素子302と発振回路100(負性抵抗素子101)とを接続する配線の長さがλmの1/4以内であるように設計されており、テラヘルツ周波数ft以下の高い周波数の寄生発振を抑制する。つまり、例えば、容量素子302は、図9(A)が示すように、テラヘルツ周波数ft以下の寄生発振周波数fp2の周辺において損失L4を有する。なお、必ずしも、容量素子302と発振回路100(負性抵抗素子101)とを接続する配線の長さがλm/4以内である必要はない。当該長さは、容量素子302が発振を抑制する(損失を有する)最大の寄生発振周波数fp2の電磁波の波長の1/4以下であればよい。
【0060】
一方、容量素子302では、特定の周波数以下(例えば、寄生発振周波数fp1)の寄生発振は十分抑制できない。このため、プリント回路基板500において、特定の周波数以下の寄生発振を抑制するシャント素子520が形成されている。つまり、例えば、シャント素子520は、図9(A)が示すように、寄生発振周波数fp1,fvの周辺において損失L5を有する。
【0061】
また、シャント素子520は、シャント素子520と発振回路100(負性抵抗素子101)とを接続する配線の長さが、寄生発振周波数fp1の波長λp1の1/4以内であるように設定されている。なお、シャント素子520は、電力消費の抑制の効果を得るために、図7(B)が示すように、実施形態1において説明したシャント素子310と同様に抵抗素子311と容量素子312を有する。また、シャント素子520が有する抵抗素子311および容量素子312は、実施形態1において説明した抵抗値および容量値の条件を満たすように設計されているとよい。
【0062】
このように、本実施形態では、容量素子302が高い周波数の寄生発振の抑制を行うため、発振回路100からシャント素子520をより遠くに配置することができる。そのため、チップ600上に形成することが難しい大きな部品をシャント素子520に用いる場合にも、シャント素子520を適切な位置に配置することができる。
【0063】
なお、シャント素子520は、チップ抵抗やチップコンデンサなどの表面実装チップ部品を用いて形成するとよい。これによれば、抵抗素子311の抵抗値や容量素子312の容量値を任意に選択することができるからである。
【0064】
チップ抵抗は、例えば、アルミナ基板上に、金属薄膜被膜などの抵抗体をスクリーン印刷して形成されるため、様々な抵抗値や精度のものを実現することができる。また、チップコンデンサは、誘電体シートを内部電極で挟んだ構造を幾層にも積層し、プレス・焼成して形成される。従って、チップコンデンサは、積層する数や、用いる誘電体シートを選択することにより、小さな容量値(例えば、数pF)から大容量(例えば、数百μF)まで対応することができる。
【0065】
従って、本実施形態では、シャント素子520に対して、大きな容量の値も容易に選択することができるため、より低周波数の寄生発振が生じうるような場合には、より安定的に寄生発振を抑制することができる。加えて、発振回路100が形成されているチップ600とは別の部材に、シャント素子520が存在する形態によれば、歩留まりの向上や、シャント素子520の設計の変更が容易であり、カスタマイズが実現し易いというメリットが得られる。
【0066】
なお、本実施形態では、チップ600に形成されるシャント素子として容量素子302を用いたが、当該シャント素子として容量素子と抵抗素子とが電気的に直列に接続された素子を用いてもよい。
【0067】
これにより、発振器は、テラヘルツ周波数の帯域から、十分に低い周波数帯域までの広い周波数領域において、安定的に寄生発振を抑制することができる。さらに、シャント素子520にはチップ部品を用いているので、設計の制約が小さく、寄生発振をより確実に抑制することができる。
【0068】
<実施形態3>
実施形態2に係る発振器2では、プリント回路基板500にシャント素子520が形成されていたが、実施形態3に係る発振器3では、図10(A)の回路構成図が示すように、パッケージ501にシャント素子520が形成される。以下では、図11(A)および図11(B)を用いて、実施形態3に係る発振器3について実施形態2と異なる部分について説明する。
【0069】
図11(A)は、本実施形態の発振器3を説明する模式図である。パッケージ501は、ピン503を備えており、プリント回路基板500は、ピン503に対応したピンソケット504を備えている。そのため、チップ600を備えたパッケージ501は、図11(B)が示すように、プリント回路基板500から挿抜することができる。これにより、発振器3の特性の変更をユーザが望む場合や、発振器3が故障して交換が必要になった場合にも、パッケージ501を交換することによって容易に対応可能である。
【0070】
一方、パッケージ501とプリント回路基板500を接続する配線内には、ピンソケット504に起因する寄生インダクタや寄生容量などの寄生素子が含まれる。このため、発振器3は、実施形態2に係る発振器2よりも寄生発振が発生しやすく、テラヘルツ波発振がより妨害されやすい。
【0071】
しかしながら、本実施形態の構成によれば、パッケージ501内のシャント素子520によって、寄生発振を抑制することができるので、パッケージ501外に寄生素子が付加されても、安定したテラヘルツ波発振が実現できる。具体的には、本実施形態によれば、ピンソケット504に寄生素子を有する場合でも、パッケージ501内において十分低い周波数までの電磁波の損失が実現可能であるので、寄生発振を抑制することができる。
【0072】
なお、発振回路100(負性抵抗素子101)とシャント素子520とを接続する配線の長さの条件、および、発振回路100(負性抵抗素子101)と容量素子302とを接続する配線の長さの条件は実施形態2と同様に満たされている。また、容量素子302に限らず、容量素子と抵抗素子とが電気的に直列に接続された素子を、容量素子302に代わるシャント素子として用いてもよい。
【0073】
従って、本実施形態に係る発振器は、交換が容易であり、かつ、消費電力を抑制して、寄生発振の抑制を安定的に行うことができる。
【0074】
<実施形態4>
実施形態4は、実施形態2と実施形態3とが組み合わさった実施形態である。より詳細には、本実施形態は、3つのシャント素子が、それぞれ異なる部材(チップ、パッケージ、プリント回路基板)に形成される形態である。図12(A)が示すように、本実施形態に係る発振器4は、実施形態2のように、容量素子302と同様の構成である容量素子502をプリント回路基板500上に備えている。また、発振器4は、実施形態3のように、パッケージ501がプリント回路基板500から挿抜が可能である。
【0075】
チップ600には、図10(B)が示すように、シャント素子として容量素子302が形成されている。一方、パッケージ501に、シャント素子として容量素子502が形成
されている。また、プリント回路基板500には、抵抗素子311と容量素子312を有するシャント素子520が形成されている。これらの容量素子302,502とシャント素子520のそれぞれは、異なる寄生発振を抑制するようにパラメータが設定されており、図9(B)が示すように、損失の周波数特性が連続している。
【0076】
例えば、本実施形態では、図9(B)が示すように、発振回路100と接続する配線の長さが短い容量素子302は、高周波数の寄生発振周波数fp2の電磁波の発振を抑制する損失L6を有する。一方、発振回路100と接続する配線の長さが長い容量素子502は、寄生発振周波数fp1の電磁波の発振を抑制する損失L7を有する。また、さらに長い距離の配線を要するシャント素子520は、寄生発振周波数fvの電磁波の発振を抑制する損失L8を有する。
【0077】
言い換えると、容量素子302,502およびシャント素子520のそれぞれは、発振回路100(負性抵抗素子101)とを接続する配線が短いほど、高い周波数帯域の電磁波の発振を抑制する。また、容量素子302,502およびシャント素子520のそれぞれが、自身が発振を抑制する(損失を有する)の最大周波数の電磁波における波長の1/4以下の長さの配線によって、発振回路100(負性抵抗素子101)と接続されている。なお、上述するように、発振を抑制する(損失を有する)の最大周波数の電磁波における波長とは、高周波側のカットオフ周波数といえる。
【0078】
なお、容量素子302,502に限らず、容量素子と抵抗素子とが電気的に直列に接続された素子を、容量素子302,502に代わるシャント素子として用いてもよい。
【0079】
本実施形態に係る発振器によれば、複数のシャント素子を用いて、接続する部分ごと(チップ-パッケージ、パッケージ-プリント回路基板、プリント回路基板-電圧バイアス回路)に寄生発振を抑制できる。このため、それぞれのシャント素子のパラメータを、より最適なパラメータとすることができ、必要最小限の設計値にすることができる。
【0080】
<実施形態5>
実施形態5に係る発振器5は、電圧バイアス回路の配置場所が実施形態1に係る発振器1と異なり、それ以外は、実施形態1に係る発振器1と同じである。
【0081】
本実施形態では、図12(B)が示すように、電圧バイアス回路200は、パッケージ501を備えたプリント回路基板500に形成されずに、他のプリント回路基板510に形成される。ここで、プリント回路基板500とプリント回路基板510との間は、ケーブル513によって電気的に接続されている。具体的には、プリント回路基板500上のコネクタ511と、プリント回路基板510上のコネクタ512とが、ケーブル513により接続されている。
【0082】
このため、プリント回路基板510上に形成されている電圧バイアス回路200は、ケーブル513を介して、パッケージ501内のチップ600に電圧Vopを印加することができる。
【0083】
なお、本実施形態では、発振回路100と電圧バイアス回路200との間に寄生素子があっても、シャント素子310によって寄生発振を抑制することができる。このため、電圧バイアス回路200を他のプリント回路基板510上に分離しても、ケーブル513を用いることによって、発振器5は、所定の電磁波(テラヘルツ波)を発振可能である。
【0084】
従って、本実施形態によれば、発振器において、所定の電磁波が発振される部分(発振回路を有する部分)と電圧バイアス回路とを分離することができるので、所定の電磁波を
発振する部分の設計の制約を少なくすることができ、配置もより自由にできる。
【0085】
<実施形態6>
実施形態1に係る発振器1では、電圧バイアス回路は、負性抵抗素子に直流電圧を印加していたが、本実施形態に係る発振器6では、電圧バイアス回路は、負性抵抗素子に交流電圧を印加する。なお、発振器6は、それ以外の構成については、実施形態1に係る発振器1と同様である。
【0086】
電圧バイアス回路210は、図13(A)が示すように、発振回路100(負性抵抗素子101)に交流の電圧(交流電圧)を印加する。具体的には、交流の電圧として、図13(B)が示すように、所定の電磁波の発振をするための電圧値Vopと、所定の電磁波の発振を停止させる電圧値Voffとの間を、ある周波数で変化する電圧を用いることができる。電圧値Voffは、負性抵抗領域以外の電圧値であればよく、例えば0Vである。また、交流電圧としては、図13(B)が示すように、電圧値Vopと電圧値Voffの2値間を変化するパルス波的に遷移する電圧を用いることができる。この電圧の変化の周波数は、所定の電磁波の発振周波数より、十分低い周波数を用いる。
【0087】
電圧バイアス回路210は、交流の電圧を生成するために、実施形態1に係る電圧バイアス回路200に比べて複雑な動作をする。そのため、電圧バイアス回路210は、実施形態1に係る電圧バイアス回路200が有する寄生素子もより大きな素子を含み、電圧バイアス回路210と発振回路100による寄生発振が発生しやすい。しかしながら、発振器6は、このように寄生発振がより発生しやすい構成においても、シャント素子310を有することによって、効果的に当該寄生発振を抑制することができる。
【0088】
なお、シャント素子310において、容量素子312と抵抗素子311の時定数により決まる周波数(低周波側のカットオフ周波数)は、電圧バイアス回路210が変化する周波数より高い必要がある。例えば、矩形波の電圧を用いる場合は、当該時定数により決まる周波数は、当該変化する周波数の望ましくは数倍以上であることが好ましい。
【0089】
本実施形態によれば、寄生発振がより発生しやすい、交流の電圧バイアス回路210を用いた場合でも、消費電力の増加を抑制し、寄生発振の抑制を安定的に行うことができる。
【0090】
<実施形態7>
実施形態1に係る発振器1は、撮像装置(画像取得装置)に対して適用可能であるため、本実施形態では発振器1を用いた撮像装置10について説明する。
【0091】
撮像装置10は、図14(A)が示すように、照明801と撮像素子802を有する。照明801は、実施形態1に係る発振器1を有することによって、被対象800に対してテラヘルツ波811(所定の電磁波)を照射する照明装置である。撮像素子802は、被対象800において反射したテラヘルツ波812を取得(撮像)する。撮像素子802は、被対象800の形状や物性値に対応して変化する被対象800の情報を、画像として取得することができる。
【0092】
このように、照明801に対して発振器1を用いると、撮像装置10において、消費電力の増加を抑制し、寄生発振の抑制を安定的に行うことができるので、発熱などによる特性変動が少ない安定したテラヘルツ波の照射を行うことができる。そのため、本実施形態によれば、被対象800の情報を正確に取得することができる撮像装置10を提供することができる。
【0093】
[変形例1]
さらに、実施形態7に係る撮像装置10に限らず、図14(B)が示すように、照明801には、実施形態6の電圧バイアス回路210を用いた発振器6を用いる撮像装置11とすることができる。
【0094】
図14(B)では、撮像装置11は、発振器6を用いた照明801と、撮像素子802と、タイミング生成手段803を有している。タイミング生成手段803は、タイミング信号810を、発振器6を用いた照明801と、撮像素子802に入力する。
【0095】
照明801は、入力されたタイミング信号810に基づいて、電圧バイアス回路210の電圧変化タイミングを調整する。調整されたタイミングにより、照明801が、テラヘルツ波811の発振と停止を周期的に繰り返すことによって、被対象800において、テラヘルツ波811が照射された期間と、照射されていない期間が発生する。
【0096】
一方、撮像素子802は、入力されたタイミング信号810に基づいて、照明801がテラヘルツ波を照射した期間と、照射していない期間における被対象800の撮像をそれぞれ行う。そして、撮像素子802は、2つの期間において撮像した情報の差を判定する。この差によって、撮像素子802は、意図して照射していない電磁波の成分(ノイズ成分)を除去することができるため、取得する画像のSN比(Singal to Noise Ratio)を向上させることができる。
【0097】
本変形例によれば、SN比のより高い画像情報を取得できる撮像装置(テラヘルツ撮像装置)を提供することができる。
【符号の説明】
【0098】
1:発振器、100:発振回路、101:負性抵抗素子、200:電圧バイアス回路
310:シャント素子、311:抵抗素子、312:容量素子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15