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特許7516075筒状部品、撮像装置、樹脂成形体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】筒状部品、撮像装置、樹脂成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 70/32 20060101AFI20240708BHJP
   G02B 7/02 20210101ALI20240708BHJP
   B29C 70/16 20060101ALI20240708BHJP
【FI】
B29C70/32
G02B7/02 Z
B29C70/16
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020040245
(22)【出願日】2020-03-09
(65)【公開番号】P2021138120
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2023-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003133
【氏名又は名称】弁理士法人近島国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】兒玉 保則
(72)【発明者】
【氏名】菊池 渉
【審査官】関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-219328(JP,A)
【文献】特開平03-161326(JP,A)
【文献】特開2019-194018(JP,A)
【文献】特開昭61-104732(JP,A)
【文献】特開2004-347022(JP,A)
【文献】特開平07-195540(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 70/00-70/88
G02B 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮像装置を含む光学機器に着脱可能に構成された筒状部品であって、
筒状に編まれた繊維に樹脂が含浸した筒形状の樹脂成形体であって、
前記繊維のうち第1部分において編まれた前記繊維が前記筒形状の中心軸に対してなす第1角度は、前記繊維のうち第2部分において編まれた前記繊維が前記中心軸に対してなす第2角度より大きい、樹脂成形体を備え、
前記樹脂成形体は、第1部分と、前記第1部分より直径が小さい第2部分を含み、
前記第1部分の肉厚は、前記第2部分の肉厚より小さく、
前記第2部分の側に、前記光学機器に着脱するための取り付け部が設けられていることを特徴とする筒状部品。
【請求項2】
前記第1角度および前記第2角度は、0度より大きく90度より小さい、ことを特徴とする請求項1に記載の筒状部品。
【請求項3】
撮像装置を含む光学機器に着脱可能に構成された筒状部品であって、
筒状に編まれた繊維に樹脂が含浸した筒形状の樹脂成形体を備え、
前記樹脂成形体は、第1部分と、前記第1部分より直径が小さい第2部分を含み、
前記第1部分の肉厚は、前記第2部分の肉厚より小さく、
前記第2部分の側に、前記撮像装置に着脱するための取り付け部が設けられていることを特徴とする筒状部品。
【請求項4】
前記樹脂成形体は、前記筒形状の中心軸に対して傾斜するテーパー形状を有し、前記第1部分と前記第2部分は、前記テーパー形状の部分で接続されている、ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の筒状部品。
【請求項5】
前記樹脂成形体の外周面および内面の形状は、テーパー形状である、ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の筒状部品。
【請求項6】
前記樹脂成形体の外周面は、前記樹脂成形体の内周面に沿う形状である、ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の筒状部品。
【請求項7】
前記樹脂は、熱可塑性樹脂である、ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の筒状部品。
【請求項8】
レンズまたはミラーの少なくとも一方を含む光学素子をさらに有し、
前記光学素子は、前記樹脂成形体に保持される、ことを特徴とする請求項1に記載の筒状部品。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の筒状部品と着脱可能に構成される、ことを特徴とする撮像装置。
【請求項10】
筒状に編まれた繊維と熱可塑性樹脂とを含む筒状体をマンドレルにセットし、
前記筒状体を前記熱可塑性樹脂の溶融温度以上である第1の温度に加熱し、
前記第1の温度に加熱された前記筒状体に、前記熱可塑性樹脂のガラス転移温度以上もしくは前記筒状体の荷重たわみ温度以上であって、かつ前記熱可塑性樹脂の溶融温度未満である第2の温度になるよう制御された第1プレートを接触させて加圧し、前記筒状体を転動させて成形し、
成形された前記筒状体に、前記熱可塑性樹脂のガラス転移温度未満もしくは前記筒状体の荷重たわみ温度未満の温度である第3の温度になるよう制御された第2プレートを接触させて加圧し、前記筒状体を転動させて冷却し、
冷却された前記筒状体を前記マンドレルから取り外す、
ことを特徴とする樹脂成形体の製造方法。
【請求項11】
前記第1の温度において、前記熱可塑性樹脂の粘度は、せん断速度が10[l/s]の時に1×10 [Pa・s]以下である、
ことを特徴とする請求項10に記載の樹脂成形体の製造方法。
【請求項12】
前記マンドレルは、その中心軸に対して傾斜した外周面を有し、
前記筒状体は、その中心軸に対して傾斜したテーパー面を有し、前記テーパー面が前記マンドレルの前記傾斜した外周面に沿うようにセットされ、
前記筒状体において、直径が大きな部分の肉厚に対する直径が小さな部分の肉厚の比を肉厚比とすれば、
前記筒状体を前記マンドレルにセットした際の前記肉厚比よりも、前記筒状体を前記第1プレートにより成形した後における前記肉厚比の方が大きい、
ことを特徴とする請求項10または11に記載の樹脂成形体の製造方法。
【請求項13】
前記マンドレルは、その中心軸に対して傾斜した外周面を有し、
前記筒状体は、その中心軸に対して傾斜したテーパー面を有し、前記テーパー面が前記マンドレルの前記傾斜した外周面に沿うようにセットされ、
前記筒状体において、直径が大きな部分の肉厚に対する直径が小さな部分の肉厚の比を肉厚比とすれば、
前記第1プレートにより成形した後における前記肉厚比は1よりも大きい、
ことを特徴とする請求項10乃至12のいずれか1項に記載の樹脂成形体の製造方法。
【請求項14】
前記マンドレルは、その中心軸に対して傾斜した外周面を有し、
前記筒状体は、その中心軸に対して傾斜したテーパー面を有し、前記テーパー面が前記マンドレルの前記傾斜した外周面に沿うようにセットされ、
前記筒状体を前記マンドレルにセットした時に、前記筒状体の直径が大きな部分において編まれた前記繊維が前記筒状体の中心軸に対してなす角度をA1、直径が小さな部分において編まれた前記繊維が前記筒状体の中心軸に対してなす角度をA2とし、
前記筒状体を前記第1プレートにより成形した後に、前記筒状体の直径が大きな部分において編まれた前記繊維が前記筒状体の中心軸に対してなす角度をA3、直径が小さな部分において編まれた前記繊維が前記筒状体の中心軸に対してなす角度をA4とした時、
A1-A2>A3-A4である、
ことを特徴とする請求項10乃至13のいずれか1項に記載の樹脂成形体の製造方法。
【請求項15】
前記マンドレルは、その中心軸に対して傾斜した外周面を有し、
前記筒状体は、その中心軸に対して傾斜したテーパー面を有し、前記テーパー面が前記マンドレルの前記傾斜した外周面に沿うようにセットされ、
前記筒状体を前記マンドレルにセットした時に、前記筒状体の直径が小さな部分において編まれた前記繊維が前記筒状体の中心軸に対してなす角度をA2とし、
前記筒状体を前記第1プレートにより成形した後に、前記筒状体の直径が小さな部分において編まれた前記繊維が前記筒状体の中心軸に対してなす角度をA4とした時、
A4>A2である、
ことを特徴とする請求項10乃至14のいずれか1項に記載の樹脂成形体の製造方法。
【請求項16】
前記マンドレルは、その中心軸に対して傾斜した外周面を有し、
前記筒状体は、その中心軸に対して傾斜したテーパー面を有し、前記テーパー面が前記マンドレルの前記傾斜した外周面に沿うようにセットされ、
前記第1プレートおよび/または前記第2プレートは、前記マンドレルの外周面と対向する側に、前記マンドレルの外周面の傾斜に倣った傾斜面を有する、
ことを特徴とする請求項10乃至15のいずれか1項に記載の樹脂成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筒状部品、撮像装置、樹脂成形体の製造方法、に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、カメラ用交換レンズ等の光学機器の分野をはじめとして、筒形状の部品や構造材に機械的な強度と軽量性の両方が求められる場合がある。例えば、焦点距離が300mmを超えるような望遠レンズでは、持ち運びのし易さや、撮影時の操作性向上の観点から、軽量かつ高剛性であることが望まれている。
【0003】
従来では、この種の大型の光学機器の鏡筒の材質には、耐衝撃性の観点からアルミニウム合金やマグネシウム合金が用いられていた。また、レンズに取付けられるフードも、耐衝撃性の観点から、アルミニウム合金が採用されていた。しかし、この種の合金材料は金属の中では軽い部類に属するものであっても、絶対的な重量が軽いとは言えないため、ユーザーからは可搬性や操作性の向上のための更なる軽量化が求められていた。
【0004】
そこで、近年では、熱可塑性樹脂を含浸させた熱可塑性繊維強化樹脂(Fiber Reinforced Thermo Plastics)を用いて、鏡筒やフードを製造することが考えられている。
例えば、特許文献1には、ある程度の熱可塑性樹脂を含浸させた炭素繊維材を円筒状の金型であるマンドレルに巻き付かせて組紐し、筒状の組紐層を形成した後に成形圧力を加えながら加熱し、その後冷却して成形物を固化させる方法が開示されている。このように、熱可塑性繊維強化樹脂は、合金よりも軽量で高剛性な筒状部材を形成可能な材料として期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-194018号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、特許文献1によれば、熱可塑性樹脂をある程度含浸した炭素繊維材をマンドレルに巻き付かせて組紐し、筒状の組紐層を形成した後、成形圧力を加えながら加熱し、その後冷却して固化させる。成形圧力を加えながら筒状の組紐層を加熱することにより、熱可塑性樹脂の含浸度合いを進め、剛性強化と成形を達成する。特許文献1には、成形圧力を加えながら加熱する方法として、オートクレーブを用いて加圧する方法や、金型(外型)を用いてプレスする方法や、予め金属テープを巻き付けておいて張力を加える方法が記載されている。
【0007】
ところで、熱可塑性繊維強化樹脂を用いて筒状部材を低コストで製造するためには、成形工程で達成する形状の精度を高くして製造歩留まりを向上させるとともに、成形工程の工数を短縮したり、製造装置のコストを低減する必要がある。
【0008】
しかしながら、例えばオートクレーブを用いて加圧する場合には、装置の規模が大きくなり装置コストが増大するとともに、加圧/減圧や昇温/降温に長時間を要するため量産性が低下し、成形コストを増大させる可能性がある。
【0009】
また、金型(外型)を用いてプレスする方法では、金型のパーティングライン近傍において組紐層に十分な圧力がかからないため、熱可塑性樹脂の含浸が不均一になったり、パーティングラインに沿ってプレス痕が残る場合が有り得る。このため、筒の形状精度や強度が低下したり、製造歩留まりが低下する可能性がある。
【0010】
また、予め金属テープを巻き付けておいて張力を加える方法では、金属テープを巻き付ける工程と、固化後に金属テープを解く工程が必要なため、成形工程に要する時間が増大する可能性がある。また、特にテーパー形状のように径が一定でない筒状の部材を作成する場合には、金属テープの巻き付けが不均一になりがちで、熱可塑性樹脂の含浸が不均一になり、筒の形状精度や強度が低下したり、製造歩留まりが低下する可能性がある。
そこで、熱可塑性繊維強化樹脂により筒状の成形体を形成する際に、高い形状精度で成形でき、しかも成形コストを抑制できる技術が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の態様は、撮像装置を含む光学機器に着脱可能に構成された筒状部品であって、筒状に編まれた繊維に樹脂が含浸した筒形状の樹脂成形体であって、前記繊維のうち第1部分において編まれた前記繊維が前記筒形状の中心軸に対してなす第1角度は、前記繊維のうち第2部分において編まれた前記繊維が前記中心軸に対してなす第2角度より大きい、樹脂成形体を備え、前記樹脂成形体は、第1部分と、前記第1部分より直径が小さい第2部分を含み、前記第1部分の肉厚は、前記第2部分の肉厚より小さく、前記第2部分の側に、前記光学機器に着脱するための取り付け部が設けられていることを特徴とする筒状部品である。
【0012】
また、本発明の第2の態様は、筒状に編まれた繊維と熱可塑性樹脂とを含む筒状体をマンドレルにセットし、前記筒状体を前記熱可塑性樹脂の溶融温度以上である第1の温度に加熱し、前記第1の温度に加熱された前記筒状体に、前記熱可塑性樹脂のガラス転移温度以上もしくは前記筒状体の荷重たわみ温度以上であって、かつ前記熱可塑性樹脂の溶融温度未満である第2の温度になるよう制御された第1プレートを接触させて加圧し、前記筒状体を転動させて成形し、成形された前記筒状体に、前記熱可塑性樹脂のガラス転移温度未満もしくは前記筒状体の荷重たわみ温度未満の温度である第3の温度になるよう制御された第2プレートを接触させて加圧し、前記筒状体を転動させて冷却し、冷却された前記筒状体を前記マンドレルから取り外す、ことを特徴とする樹脂成形体の製造方法である。
【0013】
また、本発明の第3の態様は、撮像装置を含む光学機器に着脱可能に構成された筒状部品であって、筒状に編まれた繊維に樹脂が含浸した筒形状の樹脂成形体を備え、前記樹脂成形体は、第1部分と、前記第1部分より直径が小さい第2部分を含み、前記第1部分の肉厚は、前記第2部分の肉厚より小さく、前記第2部分の側に、前記撮像装置に着脱するための取り付け部が設けられていることを特徴とする筒状部品である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、熱可塑性繊維強化樹脂により筒状の成形体を形成する際に、高い形状精度で形成でき、しかも成形コストを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施形態に係る組紐装置を示した斜視図。
図2】(a)実施形態に係る筒状体の外観図。(b)実施形態に係る筒状体の断面図。
図3】(a)実施形態に係る筒状体を加熱する工程を示す模式図。(b)実施形態に係る筒状体を転動させて成形する工程を示す模式図。(c)実施形態に係る筒状体を転動させて冷却する工程を示す模式図。
図4】(a)実施形態2に係る筒状体の成形前の外観図。(b)実施形態2に係る筒状体の成形前の断面図。
図5】(a)実施形態2に係る筒状体の成形後の外観図。(b)実施形態2に係る筒状体の成形後の断面図。
図6】(a)実施形態3に係る筒状体の外観図。(b)実施形態3に係る筒状体を成形装置にセットした状態を示す模式図。
図7】(a)実施形態3に係る筒状体を転動させて成形する工程を示す模式図。(b)実施形態3に係る筒状体を冷却後に切断する工程を示す模式図。
図8】(a)実施形態3に係る筒状体を切断後、連結されていたマンドレルを分解した状態を示す模式図。(b)分解したマンドレルの各々から繊維強化樹脂成形体を取り外した状態を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図面を参照して、本発明の実施形態である繊維強化樹脂成形体の製造方法、繊維強化樹脂成形体の製造システム、および繊維強化樹脂成形体について説明する。
尚、以下の説明において、繊維あるいは繊維材とは、特段の記載がない限りその断面形状は限定されないものとする。例えば断面形状が略円形の糸や紐でもよいし、断面形状が矩形でアスペクト比が1ではない所謂テープでもよいし、その他の断面形状を有する紐でもよい。
また、以下の実施形態及び実施例の説明において参照する図面では、特に但し書きがない限り、同一の参照番号を付して示す要素は、同様の機能を有するものとする。
【0018】
[製造方法の概要]
最初に、実施形態である繊維強化樹脂成形体の製造方法の概要について説明する。
後述する各実施形態においては、まず、筒状に編まれた繊維と熱可塑性樹脂とを含む筒状体をマンドレルにセットする。言い換えれば、実施形態の繊維強化樹脂成形体の製造システムが備えるマンドレルは、筒状に編まれた繊維と熱可塑性樹脂とを含む筒状体をセット可能なマンドレルである。例えば、繊維材を組む(あるいは編む)装置に筒状の金属部材であるマンドレルを装着し、炭素繊維材をマンドレルに巻き付かせながら組んで(あるいは編んで)組紐層を形成し、マンドレル上に筒状体を作成する。
【0019】
マンドレルにセットされた筒状体には、熱可塑性樹脂が含有されるようにする。例えば、予め熱可塑性樹脂を被覆した繊維材をマンドレルに巻き付かせながら組んで(あるいは編んで)組紐層を形成してもよい。あるいは、マンドレル上に組紐層を組む際に、熱可塑性樹脂が含浸されたプリプレグシートを重ねながら炭素繊維材を組んだり、複数の組紐層がプリプレグシートを挟み込むように繊維材を組み込んでもよい。繊維材としては炭素繊維が好適に用いられ、熱可塑性樹脂としてはポリカーボネートやナイロン6が好適に用いられる。また、熱可塑性樹脂としてポリプロピレン、ポリメタクリル酸メチル、等を用いてもよい。特に、熱可塑性樹脂としてポリカーボネートを用いることで、靭性に優れた繊維強化樹脂成形体を製造することができる。その際、ポリカーボネートの粘度平均分子量は18000以上25000以下が好ましい。18000以下では著しく靱性が低下し、25000以上では溶融粘度が高く、後述する成形工程での含浸性が悪くなるためである。
【0020】
また、繊維と熱可塑性樹脂との親和性を高めるためにサイジング剤を用いても良い。例えば、エポキシエマルジョン系のサイジング剤を繊維に付着させることで、繊維と熱可塑性樹脂との界面密着性を高めることができる。また、その際には、繊維束は、良好な樹脂含浸性を得られるよう、開繊されていることが望ましい。
【0021】
マンドレル上に筒状体がセットされると、繊維材を組む装置から筒状体はマンドレルごと取り外される。この段階では、マンドレルにセットされた筒状体(組紐層)の内部において、組まれた(あるいは編まれた)炭素繊維材同士の間には空隙が多く存在する。すなわち、組紐層内における熱可塑性樹脂の含浸の度合いが小さく、筒状体の密度(筒状体の外形形状に対する筒状体の重量)は、炭素繊維材同士の間に最密に熱可塑性樹脂が含浸(充填)した場合に比べて小さい状態である。例えば、理論通りのVF(繊維体積含有率)値で空隙無く完全含浸した状態と比較して、密度が40%~70%の状態である。
【0022】
次に、筒状体がセットされたマンドレルを加熱装置(繊維強化樹脂成形体の製造システムが備える加熱機構)に装着する。マンドレルにセットされた筒状体は、加熱装置により熱可塑性樹脂の溶融温度以上である第1の温度に加熱される。ここで、第1の温度とは、熱可塑性樹脂の溶融温度以上であるとともに、溶融した熱可塑性樹脂の粘度が、せん断速度が10[l/s]の時に1×10[Pa・s]以下となる温度から設定される。
【0023】
例えば、熱可塑性樹脂としてポリカーボネートを用いる場合には、溶融温度は280[°C]であるが、この時の粘度はせん断速度が10[l/s]の時に5×10[Pa・s]程度である。このため、1×10[Pa・s]以下にまで粘度を小さくするために、第1の温度としては融点温度よりも40[°C]程度高い温度、つまり例えば320[°C]が設定される。また、例えば、熱可塑性樹脂としてナイロン6を用いる場合には、溶融温度は225[°C]であるが、この時の粘度はせん断速度が10[l/s]の時に2×10[Pa・s]程度と小さい。このため、第1の温度としては融点温度よりもわずかに高い温度、つまり例えば250[°C]が設定される。また、熱可塑性樹脂としてPMMAを用いる場合には、溶融温度は190[°C]であるが、この時の粘度はせん断速度が10[l/s]の時に5×10[Pa・s]程度である。このため、1×10[Pa・s]以下にまで粘度を小さくするために、第1の温度としては融点温度よりも40[°C]程度高い温度、つまり例えば230[°C]が設定される。また、熱可塑性樹脂としてPEEKを用いる場合には、溶融温度は334[°C]であるが、この時の粘度はせん断速度が10[l/s]の時に4×10[Pa・s]程度と小さい。このため、第1の温度としては融点温度よりもわずかに高い温度、つまり例えば350[°C]が設定される。また、熱可塑性樹脂としてポリプロピレンを用いる場合には、溶融温度は160[°C]であるが、この時の粘度はせん断速度が10[l/s]の時に8×10[Pa・s]程度と小さい。このため、第1の温度としては融点温度よりもわずかに高い温度、つまり例えば170[°C]が設定される。このように、用いる熱可塑性樹脂の種類に応じて、第1の温度は適宜設定される。
【0024】
加熱装置においては、マンドレルの内側と筒状体の外側にヒーターを配置して加熱する方法が好適であるが、それ以外の加熱方法でもよく、筒状体に含まれる熱可塑性樹脂が均一に第1の温度に加熱されればよい。第1の温度に加熱された筒状体はマンドレルごと加熱装置から取り外される。この段階においても、マンドレルにセットされた筒状体(組紐層)の内部において、組まれた(あるいは編まれた)炭素繊維材同士の間には空隙が多く存在する。
【0025】
次に、溶融した熱可塑性樹脂の粘度がせん断速度が10[l/s]において1×10[Pa・s]以下である状態のまま、すなわち筒状体が冷めない状態で、マンドレルを成形装置に装着する。成形装置は、熱可塑性樹脂のガラス転移温度以上もしくは筒状体の荷重たわみ温度以上であって、かつ熱可塑性樹脂の溶融温度未満である第2の温度になるよう制御された第1プレート(好適には複数の第1プレート)を備える。第1プレートは、後述する冷却装置が備えるプレートよりも相対的に高い温度なので、説明の便宜上、以下では第1プレートを高温プレートと呼ぶ。
【0026】
例えば1対の高温プレートで筒状体を挟持し、筒状体の外周に挟圧力を加えながら高温プレートを揺動させることにより、筒状体を中心軸回りに転動させ、筒状体の外形が高温プレートの面形状に倣うように筒状体を成形する。同時に、筒状体の内面の形状は、マンドレルの外周面の形状に倣うように成形される。すなわち、高温プレートは熱可塑性樹脂のガラス転移温度以上もしくは筒状体の荷重たわみ温度以上であるため、高温プレートで押圧することにより筒状体を成形することができる。
【0027】
各々の高温プレートが筒状体と接触するのは、筒状体の外周面のうち筒の軸方向に沿った線状あるいは帯状の領域であるが、接触する部位が移動するように筒状体の軸方向と直交する方向に高温プレートを揺動させて筒状体を転動させる。言い換えれば、高温プレートをマンドレルの軸方向と直交する方向に揺動させて筒状体を中心軸回りに転動させる。こうすることにより、成形圧力をかける領域を移動させながら筒状体の全周を成形することができる。
【0028】
対向する高温プレートの対の間に筒状体を挟持する場合には、筒状体を少なくとも半回転(少なくとも1/2回転)させるように高温プレートを揺動させることにより、筒状体の全周を高温プレートにより成形することができる。尚、筒状体を半回転以上回転させた後、高温プレートの対を逆方向に揺動させて所定の経路を往復させ、高温プレートで筒状体の全周を繰り返し複数回押圧して成形するのが好ましい。
【0029】
筒状体において高温プレートと接触している部位には、高温プレートとマンドレルに挟まれて筒状体の肉厚を薄くする方向に圧力がかかるが、熱可塑性樹脂は溶融温度以上かつ所定粘度以下であるため流動性が高い。このため、編まれた炭素繊維材同士の間の空隙に含浸してゆく。ただし、高温プレート自身は、熱可塑性樹脂の溶融温度未満になるよう制御されているため、熱可塑性樹脂が筒状体の外面から高温プレート側(筒状体の外側)に溢れ出ることはほとんどない。
【0030】
この段階では、マンドレルにセットされた筒状体(組紐層)の内部において、組まれた(あるいは編まれた)組紐層が厚み方向に押圧されるとともに、炭素繊維材同士の間に熱可塑性樹脂が含浸して空隙が少なくなるため、筒状体の肉厚が減少する。すなわち、組紐層内における熱可塑性樹脂の含浸の度合いが大きくなり、筒状体の密度(筒状体の外形形状に対する筒状体の重量)は、炭素繊維材同士の間に熱可塑性樹脂が最密に含浸した場合に近づいた状態となる。
【0031】
次に、成形された筒状体がセットされたマンドレルを、冷却装置にセットする。冷却装置は、熱可塑性樹脂のガラス転移温度未満もしくは筒状体の荷重たわみ温度未満の温度である第3の温度になるよう制御された第2プレート(好適には複数の第2プレート)を備える。以下では、第2プレートを便宜的に低温プレート呼ぶ。第2プレートが成形装置の高温プレートよりも相対的に低温であることを示すためであり、室温よりも低温であるという意味ではない。
【0032】
冷却装置は、例えば1対の低温プレートで筒状体を挟持し、筒状体の外周に挟圧力を加えながら低温プレートを揺動させることにより、筒状体を中心軸回りに転動させ、成形装置により成形された形状を維持しながら筒状体を均一に冷却してゆく。
【0033】
最後に、冷却された筒状体(繊維強化樹脂成形体)をマンドレルから取り外す。以上の製造方法により、筒状の繊維強化樹脂成形体を形成する際に、高い形状精度で成形でき、しかも成形コストを抑制することができる。
【0034】
[実施形態1]
実施形態1においては、直径がほぼ一定の円筒形状の繊維強化樹脂成形体を製造する。
図1に示すのは、繊維材を組むための組紐装置6であり、筒状に組まれた繊維と熱可塑性樹脂とを含む筒状体を、マンドレル8にセットするために用いられる。
図1において、組紐装置6は、貫通孔9を有する環状フレーム7を有する。直径がほぼ一定の円筒形状のマンドレル8は、環状フレーム7の貫通孔9の軸芯付近に挿通された状態で不図示の手段によって位置決めされる。なお、後にマンドレル8から筒状体をスムーズに脱芯するために、予め、マンドレルに対して、離型剤を塗布しておく、あるいは硬質Crメッキやポリテトラフルオロエチレン成膜などの表面処理を施しておくことができる。環状フレーム7は、組紐層を構成する組糸12、13を巻装したキャリア10、11を備える。組糸12、13としては、例えば炭素繊維が好適に用いられる。
【0035】
キャリア10、11は、不図示の駆動手段により、パイプ体15の周囲に形成された8の字軌道14上を変位しながら環状フレーム7を互いに逆方向に周回する。これにより、筒状体1の組紐層が、例えばブレーディング法によって組糸12、13から編製される。図1において、16は繊維が筒状に組まれた組紐層を簡略に図示している。
【0036】
各キャリア10、11には、それぞれボビン(詳細不図示)が組み込まれており、このボビンに組糸12、13が巻装されている。また各キャリア10、11には組糸12、13をマンドレル8に巻装するためのテンションをバネ力等で発生させる機構(詳細不図示)を有するものとする。キャリア10とキャリア11の移動方向はお互いに逆である。即ち、キャリア10、11は環状フレーム7に形成された8の字軌道14に沿って互いに逆方向に移動する。このキャリア10、11の動作によってマンドレル8上に組紐層が形成される。
【0037】
なお、図1では、図示の簡略化のため、2組の組糸12、13のみを図示しているが、環状フレーム7上で隣接する各組のキャリア10、11からそれぞれに対応する組糸が、マンドレル8上の組紐位置へ供給される。また、図1では、環状フレーム7上のキャリア10、11の数を36個と想定しているが、所期の鏡筒部品のサイズや形状に応じて、必要な組糸の数に対応する数のキャリア10、11を配置することができる。なお、環状フレーム7に、複数のパイプ体15を環状に配置し、これらのパイプ体15からマンドレル8へ向けて組糸を供給して筒状に組まれた組紐層16を組む構成としてもよい。
【0038】
以上説明した組紐装置6を用いて、筒状に編まれた繊維と熱可塑性樹脂とを含む筒状体をマンドレル8にセットする。繊維としては炭素繊維が好適に用いられ、熱可塑性樹脂としてはポリカーボネートやナイロン6が好適に用いられる。筒状体がセットされたマンドレル8は、組紐装置6から取り外される。この段階では、マンドレル8にセットされた筒状体1(組紐層)の内部において、組まれた炭素繊維材同士の間には空隙が多く存在する。
【0039】
図2(a)は、組紐装置6から取り外された筒状体1の外観図である。尚、マンドレル8は、筒状体1に覆われているため図2(a)では不可視である。また、図2(b)は、筒状体1を、筒の中心軸に沿って切断した断面図であり、図示の便宜のためマンドレルは不図示である。
【0040】
図2(b)に示すように、筒状体1は、炭素繊維の組紐層3、熱可塑性樹脂を予め含浸させた1方向プリプレグシート層4、炭素繊維の組紐層5が積層された積層構造を有する。すなわち、筒状体1は、図1の組紐装置6を用いて、炭素繊維の組紐層3と組紐層5の間に、熱可塑性樹脂を予め含浸させた1方向プリプレグシート層4を挟み込むように炭素繊維を組んだものである。尚、筒状に編まれた繊維と熱可塑性樹脂とを含む筒状体をマンドレル8にセットするには、図2(b)のようにプリプレグシートを用いなくとも、熱可塑性樹脂を被覆した炭素繊維を用いて組紐層を編んでもよい。
【0041】
図3(a)は、筒状体1がセットされたマンドレル8を加熱装置に装着して加熱する工程を示す模式図であり、筒状体1あるいはマンドレル8の中心軸に沿った方向から見た図である。マンドレル8にセットされた筒状体1は、マンドレルの内側と筒状体の外側に配置された加熱手段36により、マンドレル8とともに第1の温度に加熱される。第1の温度とは、熱可塑性樹脂の溶融温度以上であり、熱可塑性樹脂の粘度がせん断速度が10[l/s]において1×10[Pa・s]以下となる温度である。その際、加熱手段36として、例えばハロゲンヒーター等の赤外線ヒーターを用いてもよいし、マンドレル8または筒状体1が導電性を有する場合には、コイルを設置し電磁誘導加熱により加熱してもよい。また、マンドレル8にカートリッジヒーターを設置し、マンドレル8からの熱伝達により筒状体1を加熱してもよい。
【0042】
第1の温度に加熱された筒状体1はマンドレル8ごと加熱装置から取り外される。この段階においても、マンドレル8にセットされた筒状体1(組紐層)の内部において、組まれた炭素繊維材同士の間には空隙が多く存在する。
【0043】
次に、図3(b)は、加熱装置から取り外された筒状体1が、成形装置に装着されて成形されている工程を示す模式図であり、筒状体1あるいはマンドレル8の中心軸に沿った方向から見た図である。筒状体1は、熱可塑性樹脂の溶融温度未満に冷めない状態で、マンドレル8ごと成形装置に装着される。
【0044】
成形装置は、熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)以上もしくは筒状体1の荷重たわみ温度以上であって、かつ熱可塑性樹脂の溶融温度未満である第2の温度になるよう制御された複数の高温プレート34(高温プレート34の対)を備える。高温プレート34の対で筒状体1を挟持し、筒状体1の外周に成形圧力P1を加えながら相対的に高温プレート34をM1方向に揺動させることにより筒状体1を転動させ、筒状体1の外形が高温プレート34の面形状に倣うように筒状体1を成形する。同時に、筒状体1の内面の形状は、マンドレル8の外周面の形状に倣うように成形される。高温プレート34を第2の温度に制御するためには、高温プレート34自体にカートリッジヒーターを設置してもよいし、高温プレート34内に流体流路を設け、温度調整された流体を流してもよい。
【0045】
各々の高温プレート34が筒状体1と接触するのは、筒状体1の外周面のうち筒の軸方向に沿った線状あるいは帯状の領域であるが、接触部位が移動するように高温プレートを筒状体の軸方向と直交するM1方向に揺動させて筒状体1を転動させる。言い換えれば、高温プレート34をマンドレル8の軸方向と直交するM1方向に揺動させて筒状体1を中心軸回りに転動させる。こうすることにより、成形圧力P1をかける領域を移動させながら筒状体1の全周を成形することができる。
【0046】
高温プレート34で筒状体1を挟み込む圧力は0.5kgf/cm以上20kgf/cm以下が好ましい。0.5kgf/cm以下であると、溶融した熱可塑性樹脂が繊維間に十分に含浸してゆかないからである。また、20kgf/cm以上であると、高温プレート34と筒状体1の繊維の間の摩擦によって、繊維が撚れて破断する可能性があるからである。高温プレート34が筒状体1を所定圧力で加圧するための機構には、例えばサーボモーターやシリンダーを用いることができる。
【0047】
図3(b)に示すように、高温プレート34の対を対向させて筒状体1を挟持する場合には、高温プレート34を揺動させて筒状体1を少なくとも半回転させることにより、筒状体1の全周を高温プレート34の対により成形することが可能である。尚、成形精度(筒状体の形状精度)を高めるため、筒状体1を半回転以上回転させた後、高温プレート34の対を逆方向に揺動させて往復することにより、高温プレート34で筒状体1の全周に対して複数回にわたり成形処理をするのが好ましい。
【0048】
筒状体1において高温プレート34と接触している部位には、高温プレート34とマンドレル8に挟まれて筒状体1の肉厚を薄くする方向に圧力がかかる。この際には、熱可塑性樹脂は溶融温度以上であるため流動性が高く、編まれた炭素繊維材同士の空隙に含浸する。ただし、高温プレート34自身は、熱可塑性樹脂の溶融温度未満になるよう制御されているため、熱可塑性樹脂が筒状体1の外側の高温プレート34側に溢れ出ることはほとんどない。
【0049】
この段階では、マンドレル8にセットされた筒状体1(組紐層)の内部において、組まれた炭素繊維材同士の間に熱可塑性樹脂が含浸して空隙が少なくなり、筒状体1の肉厚が減少する。すなわち、組紐層内における熱可塑性樹脂の含浸の度合いが大きくなり、筒状体1の密度(筒状体の外形形状に対する筒状体の重量)は、炭素繊維材同士の間に熱可塑性樹脂が最密に含浸した場合に近づいた状態となる。
【0050】
次に、図3(c)は、成形装置から取り外された筒状体1が、冷却装置に装着されて冷却されている工程を示す模式図であり、筒状体1あるいはマンドレル8の中心軸に沿った方向から見た図である。
【0051】
冷却装置は、熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)未満もしくは筒状体1の荷重たわみ温度未満の温度である第3の温度になるよう制御された複数の低温プレート35(低温プレート35の対)を備える。ここで、便宜的に低温プレートという名称を用いるのは、成形装置の高温プレート34よりも相対的に低温であることを示すためであり、室温よりも低温であるという意味ではない。
【0052】
冷却装置は、低温プレート35の対で筒状体1を挟持し、筒状体1の外周に挟圧力P2を加えながら相対的に低温プレート35をM2方向に揺動させる。これにより筒状体1を中心軸回りに転動させ、成形装置により成形された筒状体1の形状を維持しながら均一に冷却してゆく。低温プレート35で挟み込む圧力は0.5kgf/cm以上20kgf/cm以下が好ましい。0.5kgf/cm以下であると、冷却中に炭素繊維材同士の間に含浸した熱可塑性樹脂が移動してしまい、空隙が発生する可能性があるからである。また、20kgf/cm以上であると、低温プレート35と筒状体1の繊維の間の摩擦によって、繊維が撚れて破断する可能性があるからである。低温プレート35が筒状体1を所定圧力で加圧するための機構には、例えばサーボモーターやシリンダーを用いることができる。また、低温プレート35の温度を制御するには、低温プレート35内に流体流路を設け、温度が調整された流体を流してもよいし、冷風を低温プレート35に当てて冷却する方法でもよい。
熱可塑性樹脂が固化したら、筒状体1すなわち繊維強化樹脂成形体をマンドレル8から取り外す。
【0053】
この段階では、筒状体1(組紐層)の内部は成形後の状態のまま、すなわち組まれた炭素繊維材同士の間に熱可塑性樹脂が含浸して空隙が少なくなった状態のまま、固化されている。すなわち、筒状体1の密度(筒状体の外形形状に対する筒状体の重量)は、炭素繊維材同士の間に熱可塑性樹脂が最密に含浸した場合に近づいた状態で固化されており、筒状体1は高い強度を有している。
【0054】
繊維材として炭素繊維を用い、熱可塑性樹脂としてポリカーボネートを用いる場合、および熱可塑性樹脂としてナイロン6を用いる場合について、加熱装置、成形装置、冷却装置の好適な動作条件の例を表1に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
本実施形態の筒状の繊維強化樹脂成形体は、例えばカメラの交換レンズなどの光学機器における鏡筒部品、例えば、レンズフード、フォーカスリング、鏡筒の躯体部などに好適に用いられる筒状体である。ここで、レンズフードは、撮影光以外の不要光が撮影光学系に入射しないよう遮光する遮光部品であり、カメラ等の光学機器(撮像装置)の先端などに着脱可能に構成される。また、鏡筒の外筒、内筒、フォーカスリングのような鏡筒部品は、レンズやミラーなどの光学素子を保持または調整する鏡筒の躯体部を構成する鏡筒部品である。
本実施形態によれば、筒状の繊維強化樹脂成形体を形成する際に、高い形状精度で成形でき、しかも成形コストを抑制することができる。
【0057】
[実施形態2]
実施形態1では、直径がほぼ一定の円筒形状の繊維強化樹脂成形体を製造したが、実施形態2では、直径が一定ではない、すなわちテーパーを有する筒(例えば円錐台形状の筒)を製造する。実施形態1と共通する事項については、説明を簡略化あるいは省略する。
【0058】
実施形態2では、製造しようとする繊維強化樹脂成形体の筒形状に応じたテーパー形状を有するマンドレルを用い、実施形態1と同様に、組紐装置6を用いて筒状に組まれた繊維と熱可塑性樹脂とを含む筒状体を、テーパー形状のマンドレルにセットする。
【0059】
図4(a)は、組紐装置6から取り外されたテーパー形状を有する筒状体1Aの外観図である。尚、マンドレルは、その中心軸に対して傾斜したテーパー面を有するが、筒状体1Aに覆われているため図4(a)では不可視である。また、図4(b)は、筒状体1Aを、筒の中心軸に沿って切断した断面図であり、図示の便宜のためマンドレルは示していない。
【0060】
組紐装置6により、テーパー形状を有するマンドレル上に筒状に組まれた組紐層は、マンドレルのテーパー形状に倣ったテーパー形状を有する。図4(a)および図4(b)に示すように、図中の左側が筒状体1Aの大径部(直径が大きな部分)、右側が筒状体1Aの小径部(直径が小さな部分)である。図4(a)に示すように、左側の大径部と右側の小径部では、組まれた炭素繊維の配向が異なる。すなわち、筒状体1A(およびマンドレル)の中心軸Cに対して炭素繊維が成す角度は、大径部では炭素繊維の配向角度がA1であるのに対し、小径部では炭素繊維の配向角度はA2であり、A1>A2の関係がある。すなわち大径部から小径部に向かって、炭素繊維が筒状体1A(およびマンドレル)の中心軸Cに対してなす角度は、減少してゆく。炭素繊維がこのように組まれているため、図4(b)に示すように、筒状体1Aの肉厚は左側の大径部と右側の小径部で、ほぼ同一である。すなわち、左側の大径部における筒状体1Aの肉厚をt1、右側の小径部における筒状体1Aの肉厚をt2とした時、t1とt2はほぼ等しい。すなわち、肉厚比t2/t1は概ね1であり、筒状体1Aの全域にわたり肉厚はほぼ一定である。この段階では、テーパー形状を有するマンドレルにセットされたテーパー形状を有する筒状体1A(組紐層)の内部において、組まれた炭素繊維材同士の間には空隙が多く存在する。
【0061】
次に、本実施形態においても、筒状体1Aがセットされたマンドレルを加熱装置に装着して加熱する。図3(a)を参照して説明した実施形態1と同様の加熱方法を用い、熱可塑性樹脂の溶融温度以上で、せん断速度が10[l/s]の時に熱可塑性樹脂の粘度が1×10[Pa・s]以下である第1の温度に、マンドレルごと筒状体1Aは加熱される。
【0062】
第1の温度に加熱された筒状体はマンドレルごと加熱装置から取り外される。この段階においても、マンドレルにセットされた筒状体1A(組紐層)の内部において、組まれた炭素繊維材同士の間には空隙が多く存在する。また、筒状体1Aの全域にわたり、肉厚はほぼ一定である。
【0063】
次に、加熱装置から取り外された筒状体1Aが、熱可塑性樹脂の溶融温度未満に冷めない状態で、マンドレルごと成形装置に装着される。実施形態1では、筒状体1の径がほぼ一定であったため、成形装置の高温プレート34は、筒状体1(およびマンドレル)の中心軸に沿って平坦な面形状を備えていた。しかし、実施形態2の筒状体1A(およびマンドレル)はテーパー形状を有しているため、実施形態1とは異なる形態の高温プレート34Aを用いる。
【0064】
すなわち、図4(a)に示すように、筒状体1Aとの接触面がテーパー形状を有する高温プレート34Aを用い、マンドレルのテーパー面との間でテーパー形状の筒状体1Aを挟持できるようにする。成形装置は、熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)以上もしくは筒状体1Aの荷重たわみ温度以上であって、かつ熱可塑性樹脂の溶融温度未満である第2の温度になるよう制御された複数の高温プレート34A(高温プレート34Aの対)を備える。高温プレート34Aの対で筒状体1Aを挟持し、筒状体1Aの外周に挟圧力を加えながら相対的に高温プレート34Aを、図4(a)において紙面と直交する方向に揺動させることにより筒状体1Aを中心軸Cの回りに転動させる。筒状体1Aの外形が高温プレート34の面形状に倣うように筒状体1Aを成形する。同時に、筒状体1Aの内面の形状は、マンドレルの外周面のテーパー形状に倣うように成形される。
【0065】
各々の高温プレート34Aが筒状体1Aと接触するのは、筒状体1の外周面のうち筒の軸方向に沿った線状あるいは帯状の領域であるが、接触部位が移動するように高温プレートを筒状体の軸方向と直交する方向に揺動させて筒状体1Aを転動させる。言い換えれば、高温プレート34Aをマンドレルの軸方向と直交する方向に揺動させて筒状体1Aを中心軸Cの回りに転動させる。こうすることにより、成形圧力をかける領域を移動させながら筒状体1Aの全周を成形することができる。
【0066】
高温プレート34Aの対を対向させて筒状体1Aを挟持する場合には、高温プレート34Aを揺動させて筒状体1Aを少なくとも半回転させることにより、筒状体1Aの全周を高温プレート34Aにより成形することが可能である。尚、成形精度(筒状体の形状精度)を高めるため、筒状体1Aを半回転以上回転させた後、高温プレート34Aの対を逆方向に揺動させて往復することにより、高温プレート34Aで筒状体1Aの全周に対して複数回にわたり成形処理するのが好ましい。
【0067】
筒状体1Aにおいて高温プレート34Aと接触している部位には、高温プレート34Aとマンドレルに挟まれて筒状体1Aの肉厚を薄くする方向に圧力がかかる。熱可塑性樹脂は溶融温度以上であるため流動性が高く、編まれた炭素繊維材同士の間の空隙に含浸する。ただし、高温プレート34A自身は、熱可塑性樹脂の溶融温度未満になるよう制御されているため、熱可塑性樹脂が筒状体1Aの外側の高温プレート34A側に溢れ出ることはほとんどない。
【0068】
本実施形態では、高温プレート34Aを筒状体1Aの軸方向と直交する方向に揺動させるが、筒状体1Aの大径部と小径部では外周長が異なるため、筒状体1Aの小径部が高温プレート34Aに対して摺動しながら筒状体1Aは中心軸回りに転動する。このため、成形前に比べて成形後においては、筒状体1A(およびマンドレル)の中心軸Cに対して炭素繊維が成す角度が変化する。
【0069】
本実施形態では、成形前には、図4(a)に示すように筒状体1A(およびマンドレル)の中心軸Cに対して炭素繊維が成す角度は、大径部では炭素繊維の配向角度がA1であるのに対し、小径部では炭素繊維の配向角度はA2であり、A1>A2であった。
【0070】
一方、成形後には、筒状体1Aの形状は、図5(a)に示す外観形状、および図5(b)に示す断面形状になる。尚、図5(a)では、マンドレルは筒状体1Aに覆われているため不可視である。また、図5(b)は、成形後の筒状体1Aを、筒の軸心に沿って切断した断面図であり、図示の便宜のためマンドレルは示していない。
【0071】
成形後には、大径部では炭素繊維の配向角度がA3であるのに対し、小径部では炭素繊維の配向角度はA4であるが、成形前と比べると、A4>A2である。また、A1-A2>A3-A4である。また、大径部における筒状体1Aの肉厚をt3、小径部における筒状体1Aの肉厚をt4とした時、t3<t4となる。すなわち、肉厚比t4/t3は1よりも大きい。また、A3>A4である。
【0072】
この段階では、マンドレルにセットされた筒状体1A(組紐層)の内部において、組まれた炭素繊維材同士の間に熱可塑性樹脂が含浸して空隙が少なくなる。すなわち、組紐層内における熱可塑性樹脂の含浸の度合いが大きくなり、筒状体1Aの密度(筒状体の外形形状に対する筒状体の重量)は、炭素繊維材同士の間に熱可塑性樹脂が最密に含浸した場合に近づいた状態となる。
【0073】
次に、成形後の筒状体1Aは成形装置から取り外され、本実施形態においても冷却装置に装着されて冷却される。実施形態2の筒状体1A(およびマンドレル)はテーパー形状を有しているため、実施形態1とは異なる形態の低温プレートを用いる。すなわち、図4(a)を参照して説明した高温プレート34Aと同様に、筒状体1Aとの接触面がテーパー形状を有する低温プレートを用いる。
【0074】
冷却装置は、熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)未満もしくは筒状体1Aの荷重たわみ温度未満の温度である第3の温度になるよう制御された複数の低温プレート(低温プレートの対)を備える。ここで、便宜的に低温プレートという名称を用いるのは、成形装置の高温プレート34Aよりも相対的に低温であることを示すためであり、室温よりも低温であるという意味ではない。同様に便宜的に冷却装置という名称を用いるのは、成形後の筒状体の温度を低下させることを示すためであり、室温よりも冷却するという意味ではない。
【0075】
冷却装置は、低温プレートの対で筒状体1Aを挟持して筒状体1Aの外周に挟圧力を加えながら、低温プレートを筒状体1Aの中心軸と直交する方向に揺動させる。これにより筒状体1Aを中心軸回りに転動させ、成形装置により成形された筒状体1Aの形状を維持しながら均一に冷却してゆく。熱可塑性樹脂が固化したら、筒状体1Aすなわち繊維強化樹脂成形体をマンドレルから取り外す。
【0076】
この段階では、筒状体1A(組紐層)の内部は成形後の状態のまま、すなわち組まれた炭素繊維材同士の間に熱可塑性樹脂が含浸して空隙が少なくなった状態のまま、固化されている。すなわち、筒状体1Aの密度(筒状体の外形形状に対する筒状体の重量)は、炭素繊維材同士の間に熱可塑性樹脂が最密に含浸した場合に近づいた状態で固化されており、筒状体1Aは高い強度を有している。
【0077】
特に、本実施形態では、テーパー形状を有する筒状部材を成形する際に、小径部の肉厚を大径部の肉厚よりも大きくし、小径部において中心軸に対する炭素繊維の配向方向が大きくなるように成形できるため、小径部の機械強度を強くすることができる。すなわち、小径部において、炭素繊維の配向方向を中心軸方向から周方向に向けて変化させ、炭素繊維の配置密度を高めることにより、例えば部品として用いられたときに取り付け部として応力が集中しがちな小径部の機械強度を高めることができる。
【0078】
本実施形態の筒状の繊維強化樹脂成形体は、例えば、カメラの交換レンズなどの光学機器におけるレンズフード等に好適に用いられる筒状体である。ここで、レンズフードは、撮影光以外の不要光が撮影光学系に入射しないよう遮光する遮光部品であり、カメラ等の光学機器(撮像装置)の先端などに着脱可能に構成される。
本実施形態によれば、筒状の繊維強化樹脂成形体を形成する際に、高い形状精度で成形でき、しかも成形コストを抑制することができる。
【0079】
[実施形態3]
実施形態1および実施形態2では、一度に1個の筒状体を成形装置で成形したが、実施形態3では一度に複数個の筒状体を成形する。実施形態1、あるいは実施形態2と共通する事項については、説明を簡略化あるいは省略する。尚、以下の実施形態3では、実施形態2と同様のテーパー形状を有する筒状体を6個同時に成形するが、同時に成形する筒状体の形状や個数はこの例に限られるものではない。
【0080】
本実施形態で用いる6個のマンドレルの各々は、製造しようとする個別の筒状体に対応したテーパー形状を有するが、マンドレル同士を直列に接続したり個別に分離したりすることができる。すなわち、本実施形態のマンドレルは、複数個を接続して一体化することが可能であり、一体化したものを個別に分解することも可能である。組紐装置6を用いて繊維と熱可塑性樹脂とを含む筒状体を編む際には、6個のマンドレルを直列に接続して組紐装置6に装着し、6個の筒状体を連続して組んでマンドレルにセットする。
【0081】
図6(a)は、テーパー形状を有するマンドレルを6個直列に接続した上に、6個分の筒状体1B(組紐層)が連続的に組まれてセットされ、組紐装置6から取り外された状態を示している。テーパー形状を有する6個のマンドレルは、大径部同士、あるいは小径部同士が向き合うように、交互に異なる向きで中心軸Cに沿って直列に接続され、その上に6個分の筒状体1Bが炭素繊維により連続的に組まれている。
【0082】
この段階では、マンドレルにセットされた6個分の筒状体1B(組紐層)の内部において、組まれた炭素繊維材同士の間には空隙が多く存在する。また、6個分の筒状体1Bの各部において、実施形態2において図4(a)、(b)を参照して説明したのと同様の炭素繊維の配向や筒状体の肉厚が形成されている。すなわち、各部において筒状体(およびマンドレル)の中心軸Cに対して炭素繊維が成す角度は、大径部では炭素繊維の配向角度がA1であるのに対し、小径部では炭素繊維の配向角度はA2であり、A1>A2の関係がある。また、6個分の筒状体1Bの全域にわたり、筒状体の肉厚はほぼ一定である。
【0083】
次に、図6(a)に示した6個分の筒状体1Bは、加熱装置にセットされ、熱可塑性樹脂の溶融温度以上である第1の温度に、マンドレルごと加熱される。第1の温度に加熱された6個分の筒状体1Bは、マンドレルごと加熱装置から取り外される。この段階においても、マンドレル8にセットされた筒状体1(組紐層)の内部において、組まれた炭素繊維材同士の間には空隙が多く存在する。
【0084】
次に、加熱装置から取り外された6個分の筒状体1Bが、熱可塑性樹脂の溶融温度未満に冷めない状態で、マンドレルごと成形装置に装着される。本実施形態では、直列に接続された6個分の筒状体1Bを成形するため、実施形態1や実施形態2とは異なる形態の高温プレート34Bを用いる。6個分の筒状体1Bとの接触面が、マンドレルの凹凸とは反転した形状を有する高温プレート34Bを用い、高温プレート34Bとマンドレルとの間で6個分の筒状体1Bを挟持できるようにする。
【0085】
すなわち、図6(b)に示すように、直列に接続された6個分の筒状体1Bとの接触面が、6個分のテーパー形状に整合する面形状(傾斜面)を有する高温プレート34Bを用いる。高温プレート34Bには、温度調整用に用いるヒーター36Bが設けられている。高温プレート34Bは、熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)以上もしくは6個分の筒状体1Bの荷重たわみ温度以上であって、かつ熱可塑性樹脂の溶融温度未満である第2の温度になるよう制御される。温度が制御された高温プレート34Bの対により、6個分の筒状体1Bは挟持される。
【0086】
図7(a)に示すように、16個分の筒状体1Bの外形が高温プレート34Bの面形状に倣うように6個分の筒状体1Bを成形する。同時に、6個分の筒状体1Bの内面の形状は、マンドレルの外周面のテーパー形状に倣うように成形される。
【0087】
各々の高温プレート34Bが6個分の筒状体1Bと接触するのは、筒状体の外周面のうち筒の軸方向に沿った線状あるいは帯状の領域であるが、接触部位が移動するように高温プレートを筒状体の軸方向と直交する方向に揺動させて筒状体を転動させる。言い換えれば、高温プレート34Bをマンドレルの軸方向と直交する方向に揺動させて6個分の筒状体1Bを中心軸C回りに転動させる。こうすることにより、成形圧力をかける領域を移動させながら6個分の筒状体1Bを成形することができる。
【0088】
6個分の筒状体1Bにおいて高温プレート34Bと接触している部位には、高温プレート34Bとマンドレルに挟まれて筒状体の肉厚を薄くする方向に圧力がかかるが、熱可塑性樹脂は溶融温度以上であるため流動性が高い。このため、編まれた炭素繊維材同士の間の空隙に熱可塑性樹脂が含浸する。ただし、高温プレート34B自身は、熱可塑性樹脂の溶融温度未満になるよう制御されているため、熱可塑性樹脂が高温プレート34B側(6個分の筒状体1Bの外側)に溢れ出ることはほとんどない。
【0089】
また、実施形態2において説明したのと同様に、成形後には、大径部および小径部における炭素繊維の配向および筒状部の肉厚が変化する。すなわち、組紐層では、図7(a)において矢印で示すように、小径部に向かってが集まるように炭素繊維が移動し、筒状体の中心軸Cに対する炭素繊維の配向も変化する。
【0090】
この段階では、マンドレルにセットされた6個分の筒状体1B(組紐層)の内部において、組まれた炭素繊維材同士の間に熱可塑性樹脂が含浸して空隙が少なくなる。すなわち、組紐層内における熱可塑性樹脂の含浸の度合いが大きくなり、6個分の筒状体1Bの密度(筒状体の外形形状に対する筒状体の重量)は、炭素繊維材同士の間に熱可塑性樹脂が最密に含浸した場合に近づいた状態となる。
【0091】
次に、本実施形態においても成形後の6個分の筒状体1Bは成形装置から取り外され、冷却装置に装着されて冷却される。
冷却装置は、熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)未満もしくは6個分の筒状体1Bの荷重たわみ温度未満の温度である第3の温度になるよう制御された複数の低温プレート(低温プレートの対)を備える。6個分の筒状体1Bとの接触面が、マンドレルの凹凸とは反転した形状、すなわち図6(b)に示した高温プレート34Bと同様の接触面形状を有する低温プレートを用い、低温プレートとマンドレルとの間で6個分の筒状体1Bを挟持できるようにする。
【0092】
冷却装置は、低温プレートの対で6個分の筒状体1Bを挟持し、6個分の筒状体1Bの外周に挟圧力を加えながら相対的に低温プレートを6個分の筒状体1Bの中心軸Cと直交する方向に揺動させる。これにより6個分の筒状体1Bを中心軸C回りに転動させ、成形装置により成形された6個分の筒状体1Bの形状を維持しながら均一に冷却してゆく。熱可塑性樹脂が固化したら、6個分の筒状体1Bを、冷却装置から取り外す。
【0093】
この段階では、6個分の筒状体1B(組紐層)の内部は成形後の状態のまま、すなわち編まれた炭素繊維材同士の間に熱可塑性樹脂が含浸して空隙が少なくなった状態のまま、固化されている。すなわち、6個分の筒状体1Bの密度(筒状体の外形形状に対する筒状体の重量)は、炭素繊維材同士の間に熱可塑性樹脂が最密に含浸した場合に近づいた状態で固化されており、6個分の筒状体1Bは高い強度を有している。
【0094】
次に、図7(b)に示すように、各筒状体の境界位置に切断装置S(例えばカッター)を当てながらマンドレルを回転させ、連続した6個分の筒状体1Bを、6個の筒状体に切り分ける。
次に、図8(a)に示すように、直列接続していた6個のマンドレルを分解する。
最後に、図8(b)に示すように、6個のマンドレル8Bの各々から、筒状の繊維強化樹脂成形体100を取り外す。
本実施形態によれば、筒状の繊維強化樹脂成形体を形成する際に、複数個を同時に高い形状精度で成形でき、しかも成形コストを抑制することができる。
【実施例
【0095】
実施形態3に関する具体的な実施例を説明する。
【0096】
図6(a)に示すように、テーパー形状を有するマンドレルを6個直列に接続した上に、6個分の筒状体1B(組紐層)を組んでセットした。筒状体1Bの形状は、大径部の径はΦ70mm、小径部の径はΦ55mmとし、両者をテーパー面で接続する形状とした。また、2層の組紐層の間にプリプレグシートを挟み込んだ3層構造とした。熱可塑性樹脂を含有するプリプレグシートとして、開繊された連続繊維シート材と熱可塑性樹脂フィルムを加熱ロール等で挟み込むことで一体化させたものをテープ状にカットして用いた。
【0097】
図6(a)に示す段階における6個分の筒状体1B(組紐層)のVF(繊維体積含有率)は50%とし、熱可塑性樹脂は粘度平均分子量が22000のポリカーボネートを用いた。熱可塑性樹脂が繊維に完全に含浸した時の理論厚みは0.115mmとし、組紐層形成時の6個分の筒状体1B(組紐層)の密度は50%~60%となるように設定した。
繊維材として、炭素繊維を用いた。筒状体(およびマンドレル)の中心軸Cに対して炭素繊維が成す角度は、大径部では60°とし、小径部では51°とした。
【0098】
まず、図3(a)に示した加熱装置を用いて、成形前の6個分の筒状体1Bを320℃になるまで加熱した。この際の加熱手段36は、ハロゲンヒーターを用いたが、加熱時にマンドレルを回転させることで、6個分の筒状体1Bにおける温度分布がなるべく小さくなるようにした。第1の温度である320℃に加熱された6個分の筒状体1Bは、マンドレルごと加熱装置から取り外され、不図示の搬送手段により成形装置に搬送され、セットされた。
【0099】
成形装置において、図7(a)に示したように、高温プレート34Bの対で6個分の筒状体1Bを挟持し、筒状体の外周に挟圧力を加えながら相対的に高温プレート34Bを、紙面と直交する方向に揺動させ、筒状体を中心軸C回りに転動させた。成形圧力P1として、9.6kgf/cmの圧力が掛かるように制御した。高温プレート34Bはカートリッジヒーターを備え、第2の温度である220℃を維持するように高温プレート34Bは制御された。また、高温プレート34Bと6個分の筒状体1Bの摩擦を低減するために、表面にフッ素含有のセラミックコーティングを施した高温プレート34Bを用いた。
【0100】
成形された6個分の筒状体1Bは、マンドレルごと成形装置から取り外され、搬送手段により冷却装置に搬送した。冷却装置において、低温プレートの対で6個分の筒状体1Bを挟持し、筒状体の外周に挟圧力を加えながら相対的に低温プレートを、中心軸と直交する方向に揺動させることにより筒状体を中心軸回りに転動させた。挟圧力として、9.6kgf/cmの圧力が掛かるように制御した。低温プレートには、伝熱流体の流路が設けられており、低温プレートを第3の温度である120℃に維持するように制御した。また、低温プレートと6個分の筒状体1Bとの摩擦を低減するために、低温プレートの表面にはフッ素含有のセラミックコーティングを施した。
【0101】
冷却装置により固化された6個分の筒状体1Bを、図7(b)に示すように、ファインカッターを用いてカットした。マンドレルとカッターが干渉して、マンドレルやカッターの刃が損傷するのを防止するため、カット位置には比較的柔軟な材料でできた交換可能な円環部材をマンドレル本体に装着しておくのが望ましい。筒状体1Bとマンドレル本体の間に円環部材を介在させることで、マンドレル本体やカッターの刃が損傷するのを防止でき、マンドレル本体やカッターを再使用することができる。
【0102】
その後、図8(a)に示すように、連結されていたマンドレルを分解し、さらに図8(b)に示すように、各々の筒状体(繊維強化樹脂成形体)をマンドレルから取り外した。図5(a)および図5(b)に示す形状の筒状の繊維強化樹脂成形体が、6個製造された。
本実施例では、筒状の繊維強化樹脂成形体を形成する際に、複数個を同時に高い形状精度で成形でき、しかも成形コストを抑制することができた。
【0103】
[他の実施形態]
なお、本発明は、以上説明した実施形態や実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で多くの変形が可能である。
例えば、高温プレート及び低温プレートについて、プレートの数、配置、構成は、実施形態や実施例に限られるものではない。たとえば、高温プレートと低温プレートの各々については、プレート対を用いなくても、単板のプレートを用いてマンドレルとの間で筒状体を挟持し、圧力をかけながら揺動させて筒状体とマンドレルを転動させてもよい。また、高温プレート及び低温プレートの各々は、複数の部材の組み合わせにより構成されていてもよい。
【0104】
また、上記の実施形態では、成形装置と冷却装置を別の装置としたが、例えばプレートの温度調整機構の能力を上げて広範囲の温度にわたり迅速に温度調節できるようにすれば、同一のプレートを用いて成形と冷却の両方を行うことができる。その場合には、成形装置と冷却装置を別の装置としなくてもよい。すなわち、プレートにヒートサイクル等の強制加熱冷却機構を設けて、高温プレートと低温プレートの機能を同一のプレートにて発揮させてもよい。
【0105】
また、成形装置では高温プレートを、冷却装置では低温プレートを揺動させながら、回転自由に軸支されたマンドレルを転動させたが、マンドレルを直接回転駆動する機構を設けてマンドレルを回転させてもよい。
【0106】
また、高温プレートおよび/または低温プレートには、筒状体の外面との摩擦を小さくする表面処理(摩擦低減処理)を施すのが好ましい。それにより、筒状体を構成する繊維が撚れることや、筒状体に含まれる熱可塑性樹脂がプレートに付着することを防止でき、表面が滑らかな繊維強化樹脂成形体を製造することができる。その際、摩擦を小さくする表面処理の種類は特に問わないが、フッ素が含浸されたニッケルやクロム等のメッキや、フッ素樹脂コーティング、セラミックコーティング、フッ素含有セラミックコーティング、DLC等が好適である。
【符号の説明】
【0107】
1、1A・・・筒状体/1B・・・6個分の筒状体/3・・・炭素繊維の組紐層/4・・・1方向プリプレグシート層/5・・・炭素繊維の組紐層/6・・・組紐装置/8・・・マンドレル/12、13・・・組糸/16・・・組紐層/34、34A、34B・・・高温プレート/35・・・低温プレート/36・・・加熱手段/36B・・・ヒーター/P1・・・成形圧力/P2・・・挟圧力/S・・・切断装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8