(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】光電変換素子
(51)【国際特許分類】
H10K 30/60 20230101AFI20240708BHJP
H01L 31/08 20060101ALI20240708BHJP
H01L 27/146 20060101ALI20240708BHJP
H10K 30/86 20230101ALI20240708BHJP
H10K 85/60 20230101ALI20240708BHJP
H10K 85/30 20230101ALI20240708BHJP
【FI】
H10K30/60
H01L31/08 L
H01L27/146 E
H10K30/86
H10K85/60
H10K85/30
(21)【出願番号】P 2020068921
(22)【出願日】2020-04-07
【審査請求日】2023-04-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110870
【氏名又は名称】山口 芳広
(74)【代理人】
【識別番号】100096828
【氏名又は名称】渡辺 敬介
(72)【発明者】
【氏名】山口 智奈
(72)【発明者】
【氏名】角田 隆行
【審査官】吉岡 一也
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-507954(JP,A)
【文献】特開2018-085427(JP,A)
【文献】特開2011-187937(JP,A)
【文献】特開2017-063008(JP,A)
【文献】特表2017-516320(JP,A)
【文献】特開2006-049890(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102668158(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0300513(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第105418666(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 30/00-99/00
H01L 31/08-31/119
H01L 27/146
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の電極と、光電変換層と、第一の界面層と、第二の電極と、をこの順で有し、
前記光電変換層は、量子ドットを有し、
前記量子ドットは、PbS量子ドットであり、
前記第一の界面層は、ガラス転移温度が100℃以上の有機化合物を有し、
下記式(1)が成立することを特徴とする光電変換素子。
μh
EBL≧1.0×10
-3(cm
2/Vs)・・・(1)
μh
EBL:前記第一の界面層の正孔移動度
【請求項2】
第一の電極と、光電変換層と、第一の界面層と、第二の電極と、をこの順で有し、
前記光電変換層は、量子ドットを有し、
前記第一の界面層は、ガラス転移温度が100℃以上の有機化合物を有し、
下記式(2)が成立することを特徴とする光電変換素子。
μh
EBL/μh
PH>10・・・(2)
μh
EBL:前記第一の界面層の正孔移動度
μh
PH:前記光電変換層の正孔移動度
【請求項3】
前記有機化合物は、分子構造にトリアリールアミン部位を有することを特徴とする請求項1または2に記載の光電変換素子。
【請求項4】
前記有機化合物は、分子構造にフルオレン部位またはカルバゾール部位を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の光電変換素子。
【請求項5】
第一の電極と、光電変換層と、第一の界面層と、第二の電極と、をこの順で有し、
前記光電変換層は、量子ドットを有し、
前記第一の界面層は、有機化合物を有し、
前記有機化合物は、分子構造にトリアリールアミン部位を有し、且つフルオレン部位またはカルバゾール部位を有し、
下記式(2)が成立することを特徴とする光電変換素子。
μh
EBL/μh
PH>10・・・(2)
μh
EBL:前記第一の界面層の正孔移動度
μh
PH:前記光電変換層の正孔移動度
【請求項6】
前記量子ドットはナノ粒子を有し、前記ナノ粒子は、PbS、PbSe、PbTe、InP、InAs、CdS、CdSeまたはCdTeを含むことを特徴とする請求項2または
5に記載の光電変換素子。
【請求項7】
前記第一の電極と前記第二の電極との間の印加電圧が1V以上であることを特徴とする請求項1乃至
6のいずれか一項に記載の光電変換素子。
【請求項8】
前記有機化合物が、下記化合物の少なくとも一方であることを特徴とする請求項1乃至
7のいずれか一項に記載の光電変換素子。
【化1】
【請求項9】
前記第一の電極と前記光電変換層との間に、第二の界面層を有することを特徴とする請求項1乃至
8のいずれか一項に記載の光電変換素子。
【請求項10】
前記第二の界面層が、n型ワイドバンドギャップ半導体である酸化チタンもしくは酸化亜鉛を有することを特徴とする請求項
9に記載の光電変換素子。
【請求項11】
前記第一の電極が、チタンもしくは窒化チタンを有することを特徴とする請求項1乃至
10のいずれか一項に記載の光電変換素子。
【請求項12】
前記量子ドットはナノ粒子を有し、前記ナノ粒子の表面が、1,4-ベンゼンジチオール、1,3-ベンゼンジチオールから選ばれる少なくとも一種の有機配位子で配位されていることを特徴とする請求項1乃至
11のいずれか一項に記載の光電変換素子。
【請求項13】
前記量子ドットはナノ粒子を有し、前記ナノ粒子の表面に、ヨウ素、塩素、臭素から選ばれる少なくとも一種のハロゲンが添加されていることを特徴とする請求項1乃至
12のいずれか一項記載の光電変換素子。
【請求項14】
前記第一の電極または前記第二の電極の上に、封止層、レンズ層、カラーフィルタ層から選ばれる少なくとも一つの層を有することを特徴とする請求項1乃至
13のいずれか一項に記載の光電変換素子。
【請求項15】
複数の画素と、前記画素に接続されている信号処理回路と、を有し、前記画素は、請求項1乃至
14のいずれか一項に記載の光電変換素子と、前記光電変換素子に接続されている読み出し回路とを有することを特徴とする画像センサー。
【請求項16】
請求項1乃至
14のいずれか一項に記載の光電変換素子と、前記光電変換素子から電荷を読み出す読み出し回路と、前記読み出し回路から電荷を受け取り、信号処理する信号処理回路とを有することを特徴とする受光素子。
【請求項17】
複数のレンズを有する光学系と、前記光学系を透過した光を受光する受光素子と、を有し、前記受光素子が、請求項1乃至
14のいずれか一項に記載の光電変換素子を有することを特徴とする撮像装置。
【請求項18】
撮像装置が設けられた機体と、前記機体を移動させる移動手段とを有し、前記撮像装置が、請求項
17に記載の撮像装置であることを特徴とする移動体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、固体撮像装置を構成する光検出装置の光電変換部として、単結晶シリコン基板に形成した不純物拡散層を用いたフォトダイオードが広く用いられてきた。近年、シリコンでは感度が低い長波長領域に高い光感度を有する有機材料あるいはコロイダル量子ドットと呼ばれるナノ粒子を用いた光電変換膜からなる光検出装置が提案されている。これらの光電変換膜は、真空蒸着や塗布といった簡便なプロセスで成膜できる。このため、基板上部、すなわち光入射側に光電変換膜を形成することで、1画素当たりの面積の縮小化が可能かつ光利用効率の高い光検出装置とすることができる。
特許文献1には、量子ドット膜の製造方法及び光電変換デバイスが開示されている。特許文献2には、大きな単分散ナノ粒子の合成方法及びデバイスが開示されている。また、非特許文献1には、PbS量子ドットの欠陥を保護するために保護配位子として有機配位子と共に無機配位子も導入することにより、光電変換効率が向上したことが開示されている。いずれも光電変換層と電極の間にキャリア輸送層を有し、光電変換効率向上及び暗電流の低減に寄与している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-157180号公報
【文献】特表2018-529214号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】Nat Nanotechnol. 2012 Sep;7(9):577-82
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、いずれも光電変換デバイスの要素検討にとどまり、光電変換膜画像センサーにおける残像や実際の製造時の熱処理に起因する課題については、詳細に検討されていなかった。そこで、本発明では、耐熱性を高めつつ、残像を低減させる光電変換素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第一の光電変換素子は、第一の電極と、光電変換層と、第一の界面層と、第二の電極と、をこの順で有し、
前記光電変換層は、量子ドットを有し、
前記量子ドットは、PbS量子ドットであり、
前記第一の界面層は、ガラス転移温度が100℃以上の有機化合物を有し、
下記式(1)が成立することを特徴とする。
μhEBL≧1.0×10-3(cm2/Vs)・・・(1)
μhEBL:前記第一の界面層の正孔移動度
【0007】
また、本発明の第二の光電変換素子は、第一の電極と、光電変換層と、第一の界面層と、第二の電極と、をこの順で有し、
前記光電変換層は、量子ドットを有し、
前記第一の界面層は、ガラス転移温度が100℃以上の有機化合物を有し、
下記式(2)が成立することを特徴とする。
μhEBL/μhPH>10・・・(2)
μhEBL:前記第一の界面層の正孔移動度
μhPH:前記光電変換層の正孔移動度
【0008】
また、本発明の第三の光電変換素子は、第一の電極と、光電変換層と、第一の界面層と、第二の電極と、をこの順で有し、
前記光電変換層は、量子ドットを有し、
前記第一の界面層は、有機化合物を有し、
前記有機化合物は、分子構造にトリアリールアミン部位を有し、且つフルオレン部位またはカルバゾール部位を有し、
下記式(2)が成立することを特徴とする光電変換素子。
μhEBL/μhPH>10・・・(2)
μhEBL:前記第一の界面層の正孔移動度
μhPH:前記光電変換層の正孔移動度
【発明の効果】
【0009】
本発明の光電変換素子によれば、耐熱性を高めつつ、残像を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態における光電変換装置を示す断面模式図である。
【
図2】本実施形態における光電変換素子の外部量子効率を示す図である。
【
図3】光電変換素子の光照射の有無による光電流過渡応答の測定例である。
【
図4】光電変換素子の各照射光波長における電圧-電流曲線である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る光電変換素子を用いた撮像システムの一例を示す図である。
【
図6】本実施形態による撮像システム及び移動体の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら本発明に係る光電変換素子について説明する。各実施形態は、いずれも本発明の一例を示すものであり、数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置および接続などは、本発明を限定するものではない。例えば、各実施形態においてトランジスタや半導体領域などの説明を行うが、その導電型は適宜変更可能である。
【0012】
各図面において同じ符号が付されている構成は、同等の構成を指すものとして説明を省略する。また、繰り返しパターンや同一の構成物と理解できるものについては、符号を省略する場合がある。
【0013】
≪光電変換素子及び光電変換装置≫
図1は、光電変換装置の3つの単位セル120を示す断面模式図である。ここで、
図1は上方向であるZ方向とX方向を含む面での断面である。単位セル120は画素や副画素とも称される。各単位セル120は等価な回路構成を有し、少なくとも1つの光電変換素子を有する。本実施形態では、各単位セル120が1つの光電変換素子を有する構成を示している。光電変換素子は、後に説明する光電変換層133の材料を適宜、選択することによって構成される。また、光電変換装置の単位セルの回路構成については、適宜、設定される。次に、
図1の光電変換装置について詳細に説明する。
【0014】
<基板100>
図1において、基板100は主面P1を有する。基板100の材料は、ガラスやセラミックなどでもよく、本実施形態ではシリコン単結晶からなる半導体基板である。基板100は、トランジスタ101や素子分離部113を有する。トランジスタ101は、ソース・ドレイン領域102と、ゲート絶縁膜103と、ゲート電極104と、ソース・ドレイン領域105と、を含む。ゲート電極104は、主面P1の上に配される。ゲート絶縁膜103は、ゲート電極104と主面P1との間に位置する。ソース・ドレイン領域102とソース・ドレイン領域105は、基板100の内部に配される。
【0015】
<配線構造体106>
基板100の主面P1の上には、配線構造体106が配されている。配線構造体106は、コンタクトプラグ107と、配線層108と、ビアプラグ109と、配線層110と、ビアプラグ111と、絶縁膜112とを有する。絶縁膜112は、
図1では詳細に示していないが多層膜であってもよい。これらの部材は、一般的な半導体材料を用いることができる。
【0016】
<電極(第一の電極131、第二の電極135)>
図1の光電変換装置は、第一の電極131と、第二の電極135を有する。第一の電極131は、電子捕集電極、カソードまたは負極であってよい。第二の電極135は、正孔捕集電極、アノードまたは正極であってよい。また、第一の電極131と、第二の電極135は、一方が上部電極、他方が下部電極であってよく、
図1では、第一の電極131が下部電極、第二の電極135が上部電極である。
【0017】
基板100の上には、第二の電極135が配されている。第二の電極135は、3つの単位セル120に渡って連続して設けられている。本実施形態においては、第二の電極135の上面と下面は平坦である。
【0018】
第一の電極131は、基板100と第二の電極135との間に配されている。第一の電極131は、単位セル120ごとに少なくとも1つが含まれる。本実施形態では、単位セル120ごとに1つの第一の電極131が配された構成を示している。複数の第一の電極131の間には、分離領域130が配されている。分離領域130は、配線構造体106の絶縁膜112であってもよい。
【0019】
第一の電極131および第二の電極135は、電極として、導電性を有する任意の材料により形成することが可能である。電極の構成材料の例を挙げると、白金、金、銀、アルミニウム、クロム、ニッケル、銅、チタン、マグネシウム等の金属あるいはそれらの合金または窒化物、酸化インジウムや酸化錫等の金属酸化物、あるいはその複合酸化物(例えばITO、IZO)である。
【0020】
また、電極の構成材料としては、カーボンブラック、フラーレン、カーボンナノチューブ、グラフェン等の導電性粒子あるいはそれらをポリマーバインダー等のマトリクスに分散したような導電性の複合材料なども挙げられる。電極の構成材料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。光電変換素子において、少なくとも一対(2個)の電極が設けられ、この一対の電極の間に光電変換層133が設けられる。この際、一対の電極のうち、少なくとも一方は透明であることが好ましい。なぜなら、光電変換層133が吸収する光を透過させるためである。
【0021】
電極は、光電変換層133の内部に生じた電子および正孔を捕集する機能を有するものである。従って、電極の構成材料としては、上述した材料のうち、電子および正孔を捕集するのに適した構成材料を用いることが好ましい。第二の電極135の材料としては、正孔の捕集に適した材料、例えば、Au、ITO等の高い仕事関数を有する材料が挙げられる。一方、第一の電極131の材料としては、電子の捕集に適した材料、例えば、Al、チタン若しくは窒化チタンのような低い仕事関数を有する材料が挙げられる。これらのうちでも、チタン若しくは窒化チタンが好ましい。電極の厚さには特に制限はなく、用いた材料と、必要とされる導電性、透明性等を考慮して適宜決定されるが、通常10nm以上10μm以下程度である。
【0022】
<光電変換層133>
光電変換層133は、それぞれの第一の電極131と第二の電極135との間に配されている。光電変換層133は、光電変換を行い、第一の電極131は光電変換によって生じた電荷に基づく信号を読み出しうる。
【0023】
光電変換層133の材料としては、無機材料であっても有機材料であってもよい。例えば、光電変換層は、非晶質(アモルファス)シリコン、有機半導体、又は化合物半導体材料のナノ粒子の集合体である量子ドット、等を用いることができる。有機半導体としては、例えばフラーレン(C60)、クマリン6(C6)、ローダミン6G(R6G)、キナクリドン、フタロシアニン系、ナフタロシアニン系等が好適である。本実施形態では、光電変換層133は、化合物半導体材料のナノ粒子であるコロイダル量子ドット等の量子ドットを有する。
【0024】
光電変換層133を構成するコロイダル量子ドットは、ナノ粒子(平均粒子径が0.5nm以上100nm未満)を有する。ナノ粒子の材料としては、例えば一般的な半導体結晶である、IV族半導体、III-V族、II-VI族の化合物半導体、II族、III族、IV族、V族、および、VI族元素の内3つ以上の組み合わせからなる化合物半導体などである。具体的には、PbS、PbSe、PbTe、InN、InAs、InP、InSb、InAs、InGaAs、CdS、CdSe、CdTe、Ge、CuInS、CuInSe、CuInGaSe、Siなどの比較的バンドギャップの狭い半導体材料が挙げられる。
【0025】
これらは、半導体量子ドットとも呼ばれる。量子ドットとしては、これらの半導体量子ドット材料を少なくとも1種類含んでいればよい。量子ドットは、半導体量子ドット材料を核(コア)とし、半導体量子ドット材料を被覆化合物で覆ったコアシェル構造であってもよい。各半導体材料に固有の励起子ボーア半径と同程度のサイズ以下をもった量子ドットでは、量子サイズ効果が発現するためそのサイズにより所望のバンドギャップつまり光吸収波長の制御が可能となる。
【0026】
半導体量子ドット材料は、以上の中でも、PbS、PbSe、PbTe、InP、InAs、CdS、CdSe、CdTeが望ましく、量子ドットの合成の容易さから、PbS、またはPbSeであることがより望ましい。PbSの励起子ボーア半径はおよそ18nmであり、量子ドットの平均粒径は、2nm以上15nm以下であることが望ましい。量子ドットの粒径の測定には、透過型電子顕微鏡を用いる。量子ドットの平均粒径を2nm以上とすることで、量子ドットの合成において、量子ドットの結晶成長を制御し易くすることができる。量子ドット膜としてナノ粒子の集合体を含んで構成される光電変換層133の製造方法は特に限定されない。光電変換層133の膜厚は、特に制限されないが、高い光吸収特性を得る観点から、10nm以上であることが好ましく、50nm以上であることがより好ましい。また、製造し易さの観点から、光電変換層133の膜厚は、800nm以下であることが好ましい。
【0027】
量子ドットは、ナノ粒子の表面が、有機配位子、好ましくは1,4-ベンゼンジチオール、1,3-ベンゼンジチオールから選ばれる少なくとも一種の有機配位子で配位されていることが好ましい。また、量子ドットは、ナノ粒子の表面に、ヨウ素、塩素、臭素から選ばれる少なくとも一種のハロゲンが添加されていることが好ましい。
【0028】
<界面層(第一の界面層134、第二の界面層132)>
本発明の光電変換装置は、第一の界面層134を有し、さらに第二の界面層132を有することが好ましい。本実施形態の光電変換装置は、第一の界面層134と第二の界面層132を有する。第一の界面層134は、電子ブロック界面層または電子阻止層であってよい。第二の界面層132は、ホールブロック界面層または正孔阻止層であってよい。
【0029】
光電変換層133と複数の第一の電極131との間に第二の界面層132が配されている。
図1では、互いに分離された2つの界面層が示されている。光電変換層133と第二の電極135との間に第一の界面層134が配されている。
【0030】
界面層は、電極と光電変換層133との間で一部のキャリアつまりホールもしくは電子に関して電気的絶縁を確保するための層である。また、界面層は、電極と光電変換層133との間で他方のキャリアに関しては導通を確保する層である。したがって界面層は、キャリア注入阻止層ともいえる。また、界面層は、密着層としても機能することが可能であり、電極と光電変換層133との濡れ性が悪いために起こる膜剥がれを抑制しうる。したがって、膜剥がれ抑制という観点からは、界面層は光電変換層133との接触面積を大きくとるため全面に成膜されていることが好ましい。通常は、正孔を捕集する電極(正極)には、電子をブロックして正孔のみ伝導する層(電子ブロック界面層)を、電子を捕集する電極(負極)には、正孔をブロックして電子のみ伝導する層(ホールブロック界面層)を形成することができる。
【0031】
第一の界面層134(電子ブロック界面層)の材料としては、光電変換層133で生成した正孔を効率よく第二の電極135(正極)へ輸送できるものが好ましい。その材料は、正孔移動度が高いこと、電気伝導率が高いこと、正極との間の正孔注入障壁が小さいこと、光電変換層133から電子ブロック界面層への正孔注入障壁が小さいこと、などの性質を有することが好ましい。さらに、電子ブロック界面層を通して光電変換層133に光を取り込む場合には、電子ブロック界面層の材料として、透明性の高い材料を用いることが好ましい。可視光を光電変換層133に取り込む場合には、透明な電子ブロック界面層材料としては、透過する可視光の透過率が、通常60%以上、中でも80%以上となるものを用いることが好ましい。このような観点から、電子ブロック界面層材料として、酸化モリブデンMoO3、酸化ニッケルNiO等の無機半導体もしくはトリフェニルアミン部位等のトリアリールアミン部位やフルオレン部位を有する有機材料などが挙げられる。
【0032】
第一の界面層134は、下記条件1乃至3の一つ以上を満たすことにより、耐熱性を高めつつ、残像を低減することができる。
条件1)光電変換層が有する量子ドットがPbS量子ドットである場合に、ガラス転移温度が100℃以上の有機化合物を有し、下記式(1)が成立する。
条件2)ガラス転移温度が100℃以上の有機化合物を有し、下記式(2)が成立する。
条件3)分子構造に、トリアリールアミン部位を有し、且つフルオレン部位またはカルバゾール部位を有する有機化合物を有し、下記式(2)が成立する。
μhEBL≧1.0×10-3(cm2/Vs)・・・(1)
μhEBL/μhPH>10・・・(2)
μhEBL:第一の界面層134の正孔移動度
μhPH:光電変換層133の正孔移動度
【0033】
第一の界面層134が有する有機化合物としては、例えば、以下に示す化合物等が挙げられ、特にEB-2,EB-3が好ましい。各化合物のガラス転移温度(Tg)及びμhEBLを表1に示す。
【0034】
【0035】
【0036】
第二の界面層132(ホールブロック界面層)に求められる機能は、光電変換層133から分離された正孔をブロックし、電子を第一の電極131(負極)に輸送することである。そのため、第二の界面層132は、上記第一の界面層134の記載において、正極を負極に正孔を電子に置き換えたものである。また、負極側から光を照射する構成や負極側から反射した光を有効に利用することも考えられ、その場合には透過率も高い必要がある。このような観点から、ホールブロック界面層材料の好適な例を挙げると、n型ワイドバンドギャップ半導体である酸化チタンTiO2、酸化亜鉛ZnO等の無機半導体などのN型半導体材料や、フラーレンC60などのN型半導体材料が挙げられる。特に酸化物系の無機半導体は成膜時条件もしくは成膜後のプロセス処理によって酸化度を制御することで電気導電性を容易に変えることができる。
【0037】
界面層の膜厚は1nm程度以上100nm程度以下で形成される。界面層は、膜厚方向に対する電界印加で電荷の注入が制御できるが、膜厚に対して水平方向には、電荷が自由に動くことが可能である。界面層の膜としての電気伝導率が高い場合には、単位セル間のリーク電流やクロストークとして生じうる。
【0038】
<その他の層>
図1において、第二の電極135の上には、Z方向に沿って、絶縁層136と、カラーフィルタ層137と、平坦化層138と、レンズ層139とがこの順に配されている。絶縁層136は、保護層や封止層として機能しうる。カラーフィルタ層137は、複数の色に対応したカラーフィルタを有する。例えば、1つの単位セル120は、1つのカラーフィルタを含む。平坦化層138は、カラーフィルタ層137の上に配され、平坦な上面を有する。レンズ層139は、複数のマイクロレンズを有する。例えば、1つの単位セル120は、1つのマイクロレンズを含む。
【0039】
≪光電変換素子及び光電変換装置の製造方法≫
本実施形態の光電変換素子及び光電変換装置の製造方法について
図1を用いて説明する。
【0040】
<基板100>
まず、配線構造体106が形成された基板100を準備する工程について説明する。半導体基板である基板100に、素子分離部113と、トランジスタ101を形成する。素子分離部113は、例えばSTI構造(Shallow Trench Isolation)を有する。トランジスタ101は、例えばN型のMOSトランジスタであり、ゲート電極104、ゲート絶縁膜103、ソース・ドレイン領域102、ソース・ドレイン領域105からなる。ソース・ドレイン領域102、105は、N型の半導体領域からなる。
【0041】
<配線構造体106>
次に、基板100の上に配線構造体106を形成する。コンタクトプラグ107、ビアプラグ109、ビアプラグ111は、金属、例えばAl、Cu、W、Ti、TiN等から選ばれた材料からなり、本実施形態では、チタンと窒化チタンとタングステンの積層構造を有しうる。配線層108と配線層110は、金属、例えばAl、Cu、W、Ti、TiN等から選ばれた材料からなり、本実施形態では、タンタルと銅の積層構造を有しうる。絶縁膜112は、例えば、酸化シリコンや窒化シリコンなどの膜からなる。
【0042】
<第一の電極131>
次に、ビアプラグ111の上に、第一の電極131を形成する。第一の電極131は、10nm程度以上500nm程度以下の厚みに形成される。第一の電極131を形成後に、絶縁膜112を形成する構成を有していてもよい。その際には、絶縁膜112と第一の電極131の上面高さが一致するように平坦化処理が行われる。平坦化処理は、エッチングあるいはCMP(Chemical Mechanical Polishing)法で行われる。これらの製造方法については、一般的な半導体プロセスが適用できる。
【0043】
<第二の界面層132>
その後、絶縁膜112と第一の電極131の上に第二の界面層132となる膜を形成する。第二の界面層132となる膜は、上述の材料からなり、例えば、蒸着法やスパッタ法により、1nm程度以上100nm程度以下の厚みになるよう堆積される。第二の界面層132の膜厚が薄い場合には、光電変換層133に印加する電圧を下げることができる。一方、第二の界面層132の膜厚が厚い場合には、トンネル効果によりホールが通過してしまうことを低減でき、また、ピンホールなどの膜欠陥を避けることができる。例えば、第二の界面層132の膜厚を第一の電極131の表面の凹凸よりも厚くすることで、第二の界面層132の欠陥を低減することができる。これらの観点を考慮して、第二の界面層132の膜厚は適宜、設定されうる。
【0044】
ここでは第二の界面層132の材料として酸化チタン(TiOx)を例として説明する。一例としてスパッタリング装置を用いてTiO2ターゲットに対して、所定のRFパワー,アルゴンガス流量、チャンバー圧力で所望の厚みでTiO2を成膜する。
【0045】
<光電変換層133>
続いて、光電変換層133を形成する。具体的には、化合物半導体のナノ粒子である量子ドットを、基板全面に堆積し、光電変換層133を形成する。ここでは、量子ドットとして硫化鉛(PbS)を用いた例を示す。硫化鉛(PbS)の量子ドットは、例えば次のような手順で合成することができる。
【0046】
[合成工程]
三口フラスコに酸化鉛(PbO)、オクタデセン、オレイン酸を投入し、オイルバスにセットする。オイルバスを所定温度に設定し、フラスコ内を窒素雰囲気にして、反応時の量子ドットの酸化を防ぐために所定の流量で窒素フローを実施する。投入時の薄黄色の溶液が透明の溶液に変わるまで撹拌を行う。別途、窒素雰囲気のグローブボックス内で硫黄源であるビストリメチルシリルスルフィドのオクタデセン溶液をシリンジに準備しておく。この硫黄源を三口フラスコ内で透明になった溶液に急速添加する。添加後に三口フラスコをオイルバスから外し、自然放冷を経て室温に到達したところで、次の精製工程に移る。なお、溶液は黒色であり、オレイン酸で表面保護された硫化鉛(PbS)の量子ドットの生成が確認できる。
【0047】
[精製工程]
合成工程で得られた量子ドットのオクタデセン分散液を三口フラスコから遠沈管に移す。これに極性溶媒であるアセトンを添加することで、量子ドットはオクタデセン中での安定分散が困難な状態となり、これを遠心分離機で遠心分離することで量子ドットを沈殿させる。遠心分離機から遠沈管を取り出し、上澄みの透明なアセトンを捨てたのち遠沈管の底部に沈殿した量子ドットに対して非極性溶媒であるトルエンを添加する。トルエン添加後、遠沈管を振とうすることで、量子ドットをトルエンに再分散させる。再度、このトルエン分散液にアセトンを添加し、遠心分離をかけて沈殿させる。このアセトンによる沈殿とトルエンによる再分散を3回繰り返すことで、量子ドット分散液を精製し、量子ドットのトルエン分散液を得る。なお、量子ドットの沈殿に用いた極性溶媒はメタノールやエタノールなどでも良いが、量子ドットを保護しているオレイン酸への影響、すなわち量子ドット表面からの脱離が少ないものが好ましい。
【0048】
[塗布液作成工程]
精製工程で得られた量子ドットのトルエン分散液にアセトンを添加し、同様に遠心分離して沈殿させる。最終的に、量子ドットをトルエンではなく所定の濃度となるようにオクタンに再分散させたものを量子ドット塗布液として使用する。
【0049】
[量子ドット膜の形成工程]
まず、上記の量子ドット塗布液を基板の中央に滴下し、スピンコートする。スピンコート後の量子ドット膜は分子長の長いオレイン酸で保護された量子ドットの集合体であるため、量子ドット間の間隔が大きく、光照射で発生するフォトキャリアの伝導性に乏しく、光電変換機能が低い傾向にある。ここでは、この膜を「オレイン酸保護量子ドット膜」と呼ぶ。
【0050】
そこで、オレイン酸から分子長の短い配位子に配位子交換を行うことが好ましい。ここでは、有機の配位子として1,3-ベンゼンジチオールを用いる。配位子交換のための配位子溶液として、1,3-ベンゼンジチオールのN,N-ジメチルホルムアミド溶液を使用する。有機配位子での配位子交換後に無機配位子としてハロゲン(ヨウ素、塩素、臭素)を添加することもできる。例えば、ヨウ化鉛のN,N-ジメチルホルムアミド溶液を使用することができる。
【0051】
配位子交換は上記の配位子溶液を基板上に成膜されたオレイン酸保護量子ドット膜上に塗布することで実施する。具体的には、配位子溶液をオレイン酸保護量子ドット膜上に全面塗布し、所定時間、配位子交換反応を行う。反応時間は使用する配位子溶液の濃度を鑑みて適宜、変更してもよい。所定反応時間後、基板を一定時間回転させることで液を振り切り、乾燥させる。配位子交換後には、膜に残留する過剰な配位子を除くために配位子が溶解する溶媒であるアセトニトリルあるいはメタノールでリンスする。さらに、量子ドットから脱離したオレイン酸を除去するためオクタンにてリンスすることで、オレイン酸保護量子ドット膜のオレイン酸が脱離し所定の配位子に交換されて1,3-ベンゼンジチオール量子ドット膜となる。この際、配位子交換後の1,3-ベンゼンジチオール量子ドット膜の膜厚は40nm以上60nm以下であった。また、これら有機配位子での配位子交換後に上記と同様の配位子交換手順でヨウ化鉛溶液を用いてヨウ素添加を実施することもできる。
【0052】
なお、有機配位子としては1,3-ベンゼンジチオールに限定されるものではなく、エタンジチオール、1,4-ベンゼンジチオール、4-メチル安息香酸、ベンゼンジアミンおよびジベンゼンジアミンを含む有機化合物などの配位子から選択される少なくとも1種の配位子であってもよい。とくに、ベンゼン環を含むベンゼンジチオールなどの配位子は沸点が200℃を超えるために、140℃以上の高温となっても配位子の量子ドット表面からの脱離分解や揮発が抑制されるため、量子ドット膜としての耐熱性が高い。また、3-メルカプトプロピオン酸といった配位子も選びうるが、耐熱性の観点よりベンゼン環を有する配位子が好ましい。
【0053】
この配位子交換後の量子ドット膜(40nm乃至60nm厚)の上に再び、オレイン酸保護量子ドット膜を形成、配位子交換、リンスを繰り返すことで所望の膜厚のヨウ素添加1,3-ベンゼンジチオール量子ドット膜を形成することができる。
【0054】
<第一の界面層134>
その後、光電変換層133の上に第一の界面層134となる膜を形成する。第一の界面層134となる膜は、上述の材料からなり、例えば、蒸着法やスパッタ法により、1nm程度以上100nm程度以下の厚みになるよう堆積される。第一の界面層134の膜厚が薄い場合には、光電変換層133に印加する電圧を下げることができる。一方、第一の界面層134の膜厚が厚い場合には、トンネル効果により電子が通過してしまうことを低減でき、また、ピンホールなどの膜欠陥を避けることができる。例えば、第一の界面層134の膜厚を第二の電極135の表面の凹凸よりも厚くすることで、第一の界面層134の欠陥を低減することができる。これらの観点を考慮して、第一の界面層134の膜厚は適宜、設定されうる。
【0055】
<第二の電極135>
その後、第二の電極135を形成する。詳細には、ITO、IZO、又はZnO等を第一の界面層134上に堆積し、第二の電極135を形成する。
【0056】
<アニール処理>
形成したデバイスは、光電変換効率の向上や、キャリア注入の改善のためにアニール処理を行う。アニール温度については、各層に用いられている材料の耐熱性により決定されるが、少なくとも用いられている有機化合物のうち最も低いガラス転移温度よりも低いことが好ましい。また、各プロセスで印加されうる温度に十分な耐久性を有するため、有機材料のガラス転移温度は少なくとも100℃以上が望ましい。
【0057】
<その他の層>
そして、絶縁層136、カラーフィルタ層137、平坦化層138、レンズ層139を順次形成する。これらの製造方法は、一般の半導体装置の製造方法が適用できる。
【0058】
<印加電圧、外部量子効率>
以上のようにして、
図1に示す光電変換装置を製造することができる。本実施形態の光電変換素子は、第一の電極131と第二の電極135との間の印加電圧が1V以上であることが好ましい。
図2に本実施形態により作製した光電変換素子の外部量子効率の一例を示す。
【0059】
≪残像評価について≫
残像とは、1回の走査で電荷を完全転送できずに次の走査時にも残ってしまう現象である。入射している光の強度が急に変化した際に追随できず、実際の動画撮影時には、尾を引いたような画となるため、残像はできる限り少なくすべきである。残像の原因として、光電変換装置のうち、第二の電極135と第一の電極131に挟まれた光電変換素子構造に起因するか否かについては、以下のように電流値の過渡応答を測定することにより評価可能である。
【0060】
図3は光電変換素子の光照射の有無による過渡応答の測定例である。まず、光照射の無い状態で、暗電流が安定するまで一定時間通電したときの暗電流の値をaとする。次に光照射を行い、一定時間経過した後の光電流の値をbとする。その後光を消灯し、短時間経過後の暗電流の値をc、さらに時間経過後の値をdとする。
【0061】
本発明においては以下の式(3)により残像を数値化する。
残像(%)=|{(cまたはd)-a}|/|(b-a)|・・・(3)
【0062】
図3において「両矢印(⇔)」で示されている電流が、観測される残像に相当する。残像には、
図3(a)で示されるような、光照射終了直後の暗電流が、初期暗電流より増えている「白浮き」と、
図3(b)で示されるような、光照射終了直後の暗電流が、初期暗電流より減っている「黒沈み」の2種類がある。
【0063】
過渡応答測定時の印加電圧は、光電変換装置を駆動する際に電極間に印加される最大電圧が望ましいが、下限値が存在する。
図4に主な光電変換素子の各照射光波長における電圧-電流曲線を示す。電圧-電流曲線が立ち上がり、飽和して曲線の傾きが減少し始めるところが下限値となる。照射波長によるその下限値は異なり、そのすべてを包含するため、下限値は1Vが望ましい。
【0064】
≪光電変換素子の用途例≫
本発明の一実施形態に係る光電変換素子は、受光素子、画像センサー等の光電変換装置に用いられてよい。受光素子は光電変換素子と、光電変換素子から電荷を読み出す読み出し回路と、読み出し回路から電荷を受け取り、信号処理する信号処理回路とを有する。画像センサーは、複数の画素と、画素に接続されている信号処理回路とを有し、画素は、光電変換素子と、光電変換素子に接続されている読み出し回路とを有する。
【0065】
本発明の一実施形態に係る光電変換素子は、撮像装置に用いられてよい。撮像装置は、複数のレンズを有する光学系と、光学系を透過した光を受光する受光素子と、を有し、受光素子が光電変換素子を有する受光素子である。撮像装置は、具体的には、デジタルスチルカメラ、デジタルビデオカメラであってよい。
【0066】
図5は、本発明の一実施形態に係る光電変換素子を用いた撮像システムの一例を示す図である。撮像システム200は、
図5に示すように、光電変換装置201、撮像光学系202、CPU210、レンズ制御部212、光電変換装置制御部214、画像処理部216、絞りシャッタ制御部218、表示部220、操作スイッチ222、記録媒体224を備える。
【0067】
撮像光学系202は、被写体の光学像を形成するための光学系であり、レンズ群、絞り204等を含む。絞り204は、その開口径を調節することで撮影時の光量調節を行なう機能を備えるほか、静止画撮影時には露光秒時調節用シャッタとしての機能も備える。レンズ群及び絞り204は、光軸方向に沿って進退可能に保持されており、これらの連動した動作によって変倍機能(ズーム機能)や焦点調節機能を実現する。撮像光学系202は、撮像システムに一体化されていてもよいし、撮像システムへの装着が可能な撮像レンズでもよい。
【0068】
撮像光学系202の像空間には、その撮像面が位置するように光電変換装置201が配置されている。光電変換装置201は、本発明の一実施形態に係る光電変換装置であり、CMOSセンサ(画素部)とその周辺回路(周辺回路領域)とを含んで構成される。光電変換装置201は、複数の光電変換部を有する画素が2次元配置され、これらの画素に対してカラーフィルタが配置されることで、2次元単板カラーセンサを構成している。光電変換装置201は、撮像光学系202により結像された被写体像を光電変換し、画像信号や焦点検出信号として出力する。
【0069】
レンズ制御部212は、撮像光学系202のレンズ群の進退駆動を制御して変倍操作や焦点調節を行うためのものであり、その機能を実現するように構成された回路や処理装置により構成されている。絞りシャッタ制御部218は、絞り204の開口径を変化して(絞り値を可変として)撮影光量を調節するためのものであり、その機能を実現するように構成された回路や処理装置により構成される。
【0070】
CPU210は、カメラ本体の種々の制御を司るカメラ内の制御装置であり、演算部、ROM、RAM、A/Dコンバータ、D/Aコンバータ、通信インターフェイス回路等を含む。CPU210は、ROM等に記憶されたコンピュータプログラムに従ってカメラ内の各部の動作を制御し、撮像光学系202の焦点状態の検出(焦点検出)を含むAF、撮像、画像処理、記録等の一連の撮影動作を実行する。CPU210は、信号処理部でもある。
【0071】
光電変換装置制御部214は、光電変換装置201の動作を制御するとともに、光電変換装置201から出力された信号をA/D変換してCPU210に送信するためのものであり、それら機能を実現するように構成された回路や制御装置により構成される。A/D変換機能は、光電変換装置201が備えていてもかまわない。画像処理部216は、A/D変換された信号に対してγ変換やカラー補間等の画像処理を行って画像信号を生成するためのものであり、その機能を実現するように構成された回路や制御装置により構成される。表示部220は、液晶表示装置(LCD)等の表示装置であり、カメラの撮影モードに関する情報、撮影前のプレビュー画像、撮影後の確認用画像、焦点検出時の合焦状態等を表示する。操作スイッチ222は、電源スイッチ、レリーズ(撮影トリガ)スイッチ、ズーム操作スイッチ、撮影モード選択スイッチ等で構成される。記録媒体224は、撮影済み画像等を記録するためのものであり、撮像システムに内蔵されたものでもよいし、メモリカード等の着脱可能なものでもよい。
【0072】
このようにして、本発明の一実施形態に係る実施形態による光電変換装置201を適用した撮像システム200を構成することにより、高性能の撮像システムを実現することができる。
【0073】
本発明の一実施形態に係る光電変換装置は、移動体に用いられてよい。移動体は光電変換装置が設けられた機体と、機体を移動させる移動手段を有する。具体的には自動車、航空機、船舶、ドローンなどがあげられる。移動体に設けることで周囲の状況を撮像して、移動体の操作のサポートを行ってよい。機体は金属や炭素繊維で形成することができる。炭素繊維としてはポリカーボネート等を用いてよい。移動手段は、タイヤ、磁気による浮遊、燃料を気化させ噴射する機構等があげられる。
【0074】
図6A及び
図6Bは、本実施形態による撮像システム及び移動体の構成を示す図である。
【0075】
図6Aは、車載カメラに関する撮像システム300の一例を示したものである。撮像システム300は、撮像装置310を有する。撮像装置310は、本実施形態に記載の撮像装置である。撮像システム300は、撮像装置310により取得された複数の画像データに対し、画像処理を行う処理装置である画像処理部312を有する。また、撮像システム300は、撮像装置310により取得された複数の画像データから視差(視差画像の位相差)の算出を行う処理装置である視差取得部314を有する。また、撮像システム300は、算出された視差に基づいて対象物までの距離を算出する処理装置である距離取得部316と、算出された距離に基づいて衝突可能性があるか否かを判定する処理装置である衝突判定部318と、を有する。ここで、視差取得部314や距離取得部316は、対象物までの距離情報等の情報を取得する情報取得手段の一例である。すなわち、距離情報とは、視差、デフォーカス量、対象物までの距離等に関する情報である。衝突判定部318はこれらの距離情報のいずれかを用いて、衝突可能性を判定してもよい。上述した各種の処理装置は、専用に設計されたハードウェアによって実現されてもよいし、ソフトウェアモジュールに基づいて演算を行う汎用のハードウェアによって実現されてもよい。また、処理装置は、FPGA(Field Programmable Gate Array)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等によって実現されてもよいし、これらの組合せによって実現されてもよい。
【0076】
撮像システム300は、車両情報取得装置320と接続されており、車速、ヨーレート、舵角などの車両情報を取得することができる。また、撮像システム300は、衝突判定部318での判定結果に基づいて、車両に対して制動力を発生させる制御信号を出力する制御装置である制御ECU330が接続されている。すなわち、制御ECU330は、距離情報に基づいて移動体を制御する移動体制御手段の一例である。また、撮像システム300は、衝突判定部318での判定結果に基づいて、ドライバーへ警報を発する警報装置340とも接続されている。例えば、衝突判定部318の判定結果として衝突可能性が高い場合、制御ECU330はブレーキをかける、アクセルを戻す、エンジン出力を抑制するなどして衝突を回避、被害を軽減する車両制御を行う。警報装置340は音等の警報を鳴らす、カーナビゲーションシステムなどの画面に警報情報を表示する、シートベルトやステアリングに振動を与えるなどしてユーザに警告を行う。
【0077】
本実施形態では、車両の周囲、例えば前方又は後方を撮像システム300で撮像する。
図6Bに、車両前方(撮像範囲350)を撮像する場合の撮像システム300を示した。車両情報取得装置320は、撮像システム300を動作させ撮像を実行させるように指示を送る。本実施形態の撮像装置を撮像装置310として用いることにより、本実施形態の撮像システム300は、測距の精度をより向上させることができる。
【0078】
以上の説明では、他の車両と衝突しないように制御する例を述べたが、他の車両に追従して自動運転する制御、車線からはみ出さないように自動運転する制御等にも適用可能である。更に、撮像システムは、自動車等の車両に限らず、例えば、船舶、航空機あるいは産業用ロボットなどの移動体(輸送機器)に適用することができる。移動体(輸送機器)における移動装置はエンジン、モーター、車輪、プロペラなどの各種の移動手段である。加えて、移動体に限らず、高度道路交通システム(ITS)等、広く物体認識を利用する機器に適用することができる。
【実施例】
【0079】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は実施例に記載の範囲内に限定されるものではない。本実施例では、各有機電子阻止層材料を用いた次のような光電変換素子を作製し、素子特性を評価した。なお、本実施例は、種々の組み合わせの素子の特性を評価することで残像が減少することの効果を示すためのものである。したがって、次に示す電子阻止層材料、素子内の各層の膜厚、層構成は一例であるので、本発明はここで開示された実施例のみに限定されない。
【0080】
≪実施例1≫
本実施例における光電変換素子は、Si基板の上に、電子捕集電極(第一の電極)、正孔阻止層(第二の界面層)、光電変換層、電子阻止層(第一の界面層)、正孔捕集電極(第二の電極)の順に積層し形成されている。
【0081】
まず、配線層、絶縁層が積層されており各画素に対応する箇所に配線層からコンタクトホールが絶縁層に開口を設けて導通可能なように形成されているSi基板を準備した。該コンタクトホールは配線によって基板端まで引き出されパッド部が形成されている。このコンタクトホール部に重なるようにTiN電極を成膜し所望のパターニングを行い0.64mm2となるTiN電極(電子捕集電極)を形成した。このときTiN電極の膜厚を60nmとした。
【0082】
電子捕集電極を形成したSi基板上に、上記の順で、表2に示す構成材料、膜厚で素子を作製した。作製した素子は、100℃で1時間アニール処理を行った。
【0083】
【0084】
図2に本実施例の光電変換装置の外部量子効率を示す。また、正孔阻止層、光電変換層、電子阻止層、正孔捕集電極の具体的製法は以下の通りである。
【0085】
<正孔阻止層(第二の界面層)>
スパッタリング装置を用いてTiO2ターゲットに対して、RFパワー500W,アルゴンガス100sccm、チャンバー圧力0.5Paの条件で50nm厚のTiOxを成膜した。
【0086】
<光電変換層>
[合成工程]
三口フラスコに酸化鉛(PbO)892mg、オクタデセン40mL、オレイン酸4mLを投入し、オイルバスにセットした。オイルバスの設定温度は90℃であり、フラスコ内を窒素雰囲気にして、反応時の量子ドットの酸化を防ぐために0.5L/minの流量で窒素フローを実施した。投入時の薄黄色の溶液が透明の溶液に変わるまで30分以上撹拌を行った。別途、窒素雰囲気のグローブボックス内で硫黄源である1.9mMビストリメチルシリルスルフィドのオクタデセン溶液20mLをシリンジに準備しておく。この硫黄源を三口フラスコ内で透明になった溶液に急速添加した。添加1分後に三口フラスコをオイルバスから外し、2時間の自然放冷を経て室温に到達したところで、次の精製工程に移った。なお、溶液は黒色であり、オレイン酸で表面保護された硫化鉛(PbS)の量子ドットの生成が確認できた。
【0087】
[精製工程]
合成工程で得られた量子ドットのオクタデセン分散液を三口フラスコから遠沈管に移した。これに極性溶媒であるアセトンを添加することで、量子ドットはオクタデセン中での安定分散が困難な状態となり、これを遠心分離機で遠心分離することで量子ドットを沈殿させた。なお、遠心分離条件は17,000rpmで20分である。遠心分離機から遠沈管を取り出し、上澄みの透明なアセトンを捨てたのち遠沈管の底部に沈殿した量子ドットに対して非極性溶媒であるトルエンを添加した。トルエン添加後、遠沈管を振とうすることで、量子ドットをトルエンに再分散させた。再度、このトルエン分散液にアセトンを添加し、15,000rpmで5分の遠心分離をかけて沈殿させた。このアセトンによる沈殿とトルエンによる再分散を3回繰り返すことで、量子ドット分散液を精製し、量子ドットのトルエン分散液を得た。
【0088】
[塗布液作成工程]
精製工程で得られた量子ドットのトルエン分散液にアセトンを添加し、同様に遠心分離して沈殿させた。最終的に、量子ドットをトルエンではなく濃度80mg/mLとなるようにオクタンに再分散させたものを量子ドット塗布液として使用する。
【0089】
[量子ドット膜の形成工程]
まず、上記の量子ドット塗布液を基板の中央に滴下し、2,500rpm30秒のスピンコート条件でスピンコートした。スピンコート後の量子ドット膜はオレイン酸保護量子ドット膜(分子長の長いオレイン酸で保護された量子ドットの集合体)である。
【0090】
次に、オレイン酸から分子長の短い配位子に配位子交換を行った。ここでは、有機の配位子として1,3-ベンゼンジチオールを用いた。配位子交換のための配位子溶液として、3mM 1,3-ベンゼンジチオールのN,N-ジメチルホルムアミド溶液を使用した。
【0091】
配位子溶液をオレイン酸保護量子ドット膜上に全面塗布し、30秒間、配位子交換反応を行った。その後、基板を2,000rpmで60秒間回転させることで液を振り切り、乾燥させた。配位子交換後には、膜に残留する過剰な配位子を除くために配位子が溶解する溶媒であるアセトニトリルあるいはメタノールでリンスした。さらに、量子ドットから脱離したオレイン酸を除去するためオクタンにてリンスすることで、オレイン酸保護量子ドット膜のオレイン酸が脱離し所定の配位子に交換されて1,3-ベンゼンジチオール量子ドット膜となった。この際、配位子交換後の1,3-ベンゼンジチオール量子ドット膜の膜厚は40nm以上60nm以下であった。また、これら有機配位子での配位子交換後に上記と同様の配位子交換手順で10mMヨウ化鉛のN,N-ジメチルホルムアミド溶液を用いてヨウ素添加を実施した。
【0092】
この配位子交換後の量子ドット膜(40nm乃至60nm厚)の上に再び、オレイン酸保護量子ドット膜を形成、配位子交換、リンスを繰り返すことで所望の膜厚のヨウ素添加1,3-ベンゼンジチオール量子ドット膜を形成した。なお、本実施例では、これを4回繰り返すことで4層分の量子ドット膜(200nm厚)とした。
【0093】
<電子阻止層(第一の界面層)>
蒸着装置を用いて、タングステンボートより、電流値54A、蒸着速度1.5Å/sで15nm厚のEB-1を成膜した。
【0094】
<正孔捕集電極>
スパッタリング装置を用いて、ITOターゲットに対して、DC400V,アルゴンガス300sccm、チャンバー圧力0.5Paの条件で40nm厚のITOを成膜した。
【0095】
<残像評価>
作製した素子を用い、デバイスの光照射の有無による電流の過渡応答を測定した。測定条件は、電圧印加開始から光を消灯した状態で5分間通電した後に、4分間光照射を行い、再び消灯して1分間、とした。印加電圧は4.8Vに設定した。前述の式(3)におけるcは10秒後、dは60秒後とした。電圧印加及び電流測定には、半導体パラメータアナライザー(4156B、Agilent社製)を用いた。光照射には、面発光白色LED(TH-100X100SW、シーシーエス株式会社製)を用いた。
【0096】
なお、残像の評価の基準は以下の通りとし、A判定以上を良好、B及びC判定を不良とした。結果を表3に示す。
AAA:光消灯後10秒後及び60秒後の残像が0.001%未満。
AA:光消灯後10秒後の残像が0.001%以上0.01%未満、60秒後の残像が0.001%未満。
A:光消灯後10秒後及び60秒後の残像が0.001%以上0.01%未満。
B:光消灯後10秒後及び60秒後の残像が0.01%以上0.1%未満。
C:光消灯後10秒後及び60秒後の残像が0.1%以上。
【0097】
≪実施例2乃至5、比較例1乃至5≫
電子阻止層に含まれる化合物を表3に示すように変更した以外は実施例1と同様にして光電変換素子を作製し、評価した。結果を表3に示す。また、比較例1乃至3で使用した化合物を以下に示す。
【0098】
【0099】
【0100】
表3に示す様に、A評価以上の電子阻止層材料は、式(1)、及びガラス転移温度が100℃以上をいずれも満たしている。これらの電子阻止層材料は、正孔移動度の向上に寄与するトリフェニルアミン部位を有し、且つ耐熱性に優れるフルオレン部位またはカルバゾール部位を有している。
【0101】
また、A評価以上の電子阻止層材料は、ガラス転移温度が100℃以上、及び式(2)をいずれも満たしているが、よりTgが高いものでAA以上の評価となり、特にμhEBL/μhPHが大きい値のもので、AAAとなる。
【0102】
B,C評価のものは、電子阻止層材料のガラス転移温度が100℃未満のもの、式(1)を満たさないもの、または(2)を満たさないものである。
【0103】
従って、第一の界面層(電子阻止層)が、上記条件1乃至3の一つ以上を満たすことで、残像の低減が実現できる。
【符号の説明】
【0104】
131:第一の電極、132:第二の界面層、133:光電変換層、134:第一の界面層、135:第二の電極、136:絶縁層、137:カラーフィルタ層、139:レンズ層