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特許7516789配位子の探索方法、配位子の製造方法及び硬化促進剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】配位子の探索方法、配位子の製造方法及び硬化促進剤
(51)【国際特許分類】
   C07F 15/06 20060101AFI20240709BHJP
   C07C 211/48 20060101ALI20240709BHJP
   C07C 49/92 20060101ALI20240709BHJP
   C07C 45/77 20060101ALI20240709BHJP
   C07C 237/16 20060101ALI20240709BHJP
   C07D 295/185 20060101ALI20240709BHJP
   C07D 307/33 20060101ALI20240709BHJP
   C07D 207/333 20060101ALI20240709BHJP
   C08F 4/80 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
C07F15/06
C07C211/48
C07C49/92
C07C45/77
C07C237/16
C07D295/185
C07D307/33 300
C07D207/333
C08F4/80
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020048373
(22)【出願日】2020-03-18
(65)【公開番号】P2021147350
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2022-12-08
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】中陳 巧勤
(72)【発明者】
【氏名】西澤 尚平
(72)【発明者】
【氏名】宇佐美 彬
【審査官】高森 ひとみ
(56)【参考文献】
【文献】特開昭49-021311(JP,A)
【文献】特開2003-276013(JP,A)
【文献】特開2004-027172(JP,A)
【文献】特開2006-282766(JP,A)
【文献】特開2011-236108(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0237711(US,A1)
【文献】特開2009-292890(JP,A)
【文献】特開2003-049974(JP,A)
【文献】特開2019-214501(JP,A)
【文献】特表2010-510383(JP,A)
【文献】特開2001-354947(JP,A)
【文献】特表2005-526880(JP,A)
【文献】特開2018-135478(JP,A)
【文献】特開2004-143274(JP,A)
【文献】石井孝美,鈴木太郎,各種金属キレート触媒によるホルムアルデヒドの重合,工業化学雑誌,1969年,Vol.72, No.12,pp.2644-2649,Polymerization of formaldehyde by metal chelate catalysts
【文献】Nishiura, Toshiki,Heteroleptic cobalt(III) acetylacetonato complexes with N-heterocyclic carbine-donating scorpionate ligands: synthesis, structural characterization and catalysis,Dalton Transactions ,2019年,Vol.48, No.8,2564-2568,DOI: 10.1039/c8dt04469d
【文献】鈴置一紘 ほか,塩基性金属錯体によるDL-アラニンNCAの立体特異性重合,高分子論文集,1974年,Vol.31, No.11,pp.720-726,Stereospecific polymerization of DL-alanine-N-carboxylic acid anhydride by basic transition-metal complexes
【文献】Roymuhury, Sagnik K.,Synthesis and characterization of group 4 metal alkoxide complexes containing imine based bis-bidentate ligands: effective catalysts for the ring opening polymerization of lactides, epoxides and polymerization of ethylene,Dalton Transactions,2015年,Vol.44, No.22,pp.10352-10367,DOI: 10.1039/c5dt01092f
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
C07C
C07D
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コバルトに配位する配位子を探索する方法であって、
一般式(I)
【化1】
(式中、R、Rは、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1のアルキル基であり、R~Rは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1のアルキル基である。)
で表される配位子または一般式(II)
【化2】
(式中、R~R10は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1のアルキル基、炭素数1のアルコキシ基、炭素数2~4のアリール基であり、RとR10は、共同して環を形成していてもよい。)
で表される配位子において、プロセッサが、下記式
[T]=-4875.70-14539.28x-11127.49x-6334.33x
(式中、xは、前記配位子がコバルトに配位している錯体のドーマント種のLUMO準位[a.u.]であり、xは、前記配位子がコバルトに配位している錯体のドーマント種のHOMO準位[a.u.]であり、xは、前記配位子がコバルトに配位している錯体のドーマント種の前記コバルトから2[Å]以内に存在する酸素原子(ただし、OHラジカル由来の酸素原子を除く。)の平均Mulliken chargeである。)
によって算出される硬化時間[T][秒]が所定時間として620秒以下となる配位子を探索するステップを含み、
前記一般式(I)で表される配位子がコバルトに配位している錯体のドーマント種は、2配座配位子であるカルボキシレート配位子が2分子、1配座配位子である前記一般式(I)で表される配位子2分子が配位しているコバルト(II)のWerner錯体において、前記一般式(I)で表される配位子1分子の代わりに、OHラジカルが配位しているコバルト(III)のドーマント種であり、
前記一般式(II)で表される配位子がコバルトに配位している錯体のドーマント種は、2配座配位子である前記一般式(II)で表される配位子3分子が配位しているコバルト(II)のWerner錯体において、前記一般式(II)で表される配位子1分子の一方の配位の代わりに、OHラジカルが配位しているコバルト(III)のドーマント種である、配位子の探索方法。
【請求項2】
請求項1に記載の配位子の探索方法により、配位子を探索する工程と、
該探索された配位子を合成する工程を含む、配位子の製造方法。
【請求項3】
コバルトの有機酸塩と、配位子とを含む硬化促進剤であって、
前記配位子は、一般式(III)
【化3】
(式中、R31、R32は、それぞれ独立に、炭素数1~10のアルキル基であり、R33、R34は、それぞれ独立に、ヒドロキシ基、炭素数1~8のアルキル基、炭素数1~8のシクロアルキル基、炭素数1~8のアルコキシ基、炭素数1~8のアルキル基により置換されているアミノ基、ハロゲン原子または炭素数1~8のハロゲン化アルキル基である。)
、一般式(IV)
【化4】
(式中、R41、R42、R43、R44は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~8の直鎖のアルキル基であり、R45は、水素原子、炭素数1~10の直鎖のアルキル基または炭素数6~10のアリール基である。)
、一般式(VIII)
【化5】
(式中、R81は、ハロゲン原子または炭素数1~10のアルキル基であり、R82は、水素原子または炭素数1~10のアルキル基である。)
、一般式(IX)
【化6】
(式中、R91は、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子または炭素数1~10のアルキル基である。)
、および一般式(X)
【化7】
(式中、R101は、ハロゲン原子または炭素数1~10のアルキル基である。)
からなる群から選ばれるいずれか一種で表される化合物であり、
前記一般式(IV)は、アセチルアセトンを含まない、硬化促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コバルトに配位する配位子の探索方法、配位子の製造方法及び硬化促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂等のラジカル重合性樹脂を常温で硬化させる際に、レドックス開始剤を使用するのが一般的である。
【0003】
レドックス開始剤における硬化剤/硬化促進剤の組み合わせとしては、例えば、ケトンパーオキシド/コバルトの有機酸塩が知られている。
【0004】
ここで、コバルトの有機酸塩に配位子を添加することで、硬化促進剤の硬化促進能が変化する。
【0005】
例えば、特許文献1には、コバルト石鹸及びジピリジルからなる、塗料及びインキ用硬化促進剤が開示されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1の実施例1~6の塗料の乾燥時間は5.5~12.2時間であり、ラジカル重合性樹脂の硬化時間を十分に短縮することができない。
【0007】
一方、非特許文献1には、コバルト・アミン複合ドライヤーにおいて、コバルト石鹸にアミンが配位することによる紫外・可視吸収(d-d遷移吸収)のシフトと、塗料の硬化時間は、ほぼ比例関係にあることが開示されている。
【0008】
しかしながら、非特許文献1のd-d遷移吸収のシフトと、塗料の硬化時間の相関は、十分に高いものではなく、ラジカル重合性樹脂の硬化時間を短縮することが可能な配位子を探索することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平6-172689号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】松永, DIC Technical Review No.5/1999, p51-56
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の一態様は、ケトンパーオキシド/コバルトの有機酸塩からなるレドックス開始剤を用いて、ラジカル重合性樹脂を常温で硬化させる際に、硬化時間を短縮することが可能な配位子を探索することが可能な配位子の探索方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
[1]コバルトに配位する配位子を探索する方法であって、一般式(I)
【0013】
【化1】
(式中、R、Rは、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~10のアルキル基であり、R~Rは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のアルコキシ基、炭素数2~11のアルコキシカルボニル基、炭素数6~12のアリール基、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシ基、シアノ基、ニトロ基、ホルミル基またはハロゲン原子である。)
で表される配位子または一般式(II)
【0014】
【化2】
(式中、R~R10は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のアルコキシ基、炭素数6~12のアリール基、アミノ基、カルボキシ基、シアノ基またはハロゲン原子であり、RとR10は、共同して環を形成していてもよい。)
で表される配位子において、プロセッサが、式(1)
[T]=a+a+a+a・・・(1)
(式中、xは、前記配位子がコバルトに配位している錯体のドーマント種のLUMO準位[a.u.]であり、xは、前記配位子がコバルトに配位している錯体のドーマント種のHOMO準位[a.u.]であり、xは、前記配位子がコバルトに配位している錯体のドーマント種の前記コバルトから2[Å]以内に存在する酸素原子(ただし、OHラジカル由来の酸素原子を除く。)の平均Mulliken chargeであり、a、a、a、aは、係数である。)
によって算出される硬化時間[T][秒]が所定時間以下となる配位子を探索するステップを含み、前記一般式(I)で表される配位子がコバルトに配位している錯体のドーマント種は、2配座配位子であるカルボキシレート配位子が2分子、1配座配位子である前記一般式(I)で表される配位子2分子が配位しているコバルト(II)のWerner錯体において、前記一般式(I)で表される配位子1分子の代わりに、OHラジカルが配位しているコバルト(III)のドーマント種であり、前記一般式(II)で表される配位子がコバルトに配位している錯体のドーマント種は、2配座配位子である前記一般式(II)で表される配位子3分子が配位しているコバルト(III)のWerner錯体において、前記一般式(II)で表される配位子1分子の一方の配位の代わりに、OHラジカルが配位しているコバルト(III)のドーマント種である、配位子の探索方法。
[2]前記式(1)は、
[T]=-4875.70-14539.28x-11127.49x-6334.33x
であり、前記所定時間は、620秒である、[1]に記載の配位子の探索方法。
[3][1]又は[2]に記載の配位子の探索方法により、配位子を探索する工程と、該探索された配位子を合成する工程を含む、配位子の製造方法。
[4]コバルトの有機酸塩と、配位子とを含む硬化促進剤であって、前記配位子は、一般式(III)
【0015】
【化3】
(式中、R31、R32は、それぞれ独立に、炭素数1~10のアルキル基であり、R33、R34は、それぞれ独立に、ヒドロキシ基、炭素数1~8のアルキル基、炭素数1~8のシクロアルキル基、炭素数1~8のアルコキシ基、炭素数1~8のアルキル基により置換されているアミノ基、ハロゲン原子または炭素数1~8のハロゲン化アルキル基である。)
、一般式(IV)
【0016】
【化4】
(式中、R41、R42、R43、R44は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~8の直鎖のアルキル基であり、R45は、水素原子、炭素数1~10の直鎖のアルキル基または炭素数6~10のアリール基である。)
、一般式(V)
【0017】
【化5】
(式中、R51、R52は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~10の直鎖のアルキル基または炭素原子数6~10のアリール基である。)
、一般式(VI)
【0018】
【化6】
(式中、R61は、水素原子または炭素数1~10の直鎖のアルキル基であり、R62は、水素原子またはハロゲン原子である。)
、一般式(VII)
【0019】
【化7】
(式中、R71、R72は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~10の直鎖のアルキル基であり、R73は、水素原子、炭素数1~10の直鎖のアルキル基、炭素数6~10の芳香族炭化水素基またはハロゲン原子であり、R74は、炭素数1~10の直鎖のアルキル基である。)
、一般式(VIII)
【0020】
【化8】
(式中、R81は、ハロゲン原子または炭素数1~10のアルキル基であり、R82は、水素原子または炭素数1~10のアルキル基である。)
、一般式(IX)
【0021】
【化9】
(式中、R91は、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子または炭素数1~10のアルキル基である。)
、一般式(X)
【0022】
【化10】
(式中、R101は、ハロゲン原子または炭素数1~10のアルキル基である。)
および、一般式(XI)
【0023】
【化11】
(式中、R111、R112は、それぞれ独立に、炭素数1~10のアルキル基であり、R113は、水素原子またはヒドロキシ基である。)
からなる群から選ばれるいずれか一種で表される化合物である、硬化促進剤。
【発明の効果】
【0024】
本発明の上記態様によれば、ケトンパーオキシド/コバルトの有機酸塩からなるレドックス開始剤を用いて、ラジカル重合性樹脂を常温で硬化させる際に、硬化時間を短縮することが可能な配位子を探索することが可能な配位子の探索方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の一実施例による回帰モデル生成装置及び配位子探索装置を示す概略図である。
図2】ドーマント種が含む、コバルト(III)のLUMO準位と、相互作用する活性種(P・)のSOMO準位との比較を示す概略図である。
図3】本発明の一実施例による回帰モデル生成装置及び配位子探索装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
図4】本発明の一実施例による回帰モデル生成装置の機能構成を示すブロック図である。
図5】本発明の一実施例による実測硬化時間と予測硬化時間との相関を示す図である。
図6】本発明の一実施例による回帰モデル生成処理を示すフローチャートである。
図7】本発明の一実施例による配位子探索装置の機能構成を示すブロック図である。
図8】本発明の一実施例による配位子探索処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。以下の実施例では、物性値から硬化時間を予測する回帰モデルを生成する回帰モデル生成装置と、生成された回帰モデルを利用して硬化促進剤の配位子を探索する配位子探索装置とが開示される。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0027】
[概略]
まず、図1を参照して、本発明の一実施例による回帰モデル生成装置及び配位子探索装置の概略を説明する。図1は、本発明の一実施例による回帰モデル生成装置及び配位子探索装置を示す概略図である。
【0028】
図1に示されるように、回帰モデル生成装置100は、物質データベース50から硬化促進剤に関する物質データ(例えば、硬化時間)を取得し、硬化促進剤の物性値から硬化時間を予測する回帰モデルを推定する。硬化促進剤は、ラジカル重合性樹脂の硬化を促進することが可能な、コバルトの有機酸塩と、配位子を含む硬化促進剤であり、当該硬化促進剤は、アミン構造又はβ-ジケトン構造を含有する配位子を含む。また、硬化促進剤の物性値は、配位子がコバルトに配位している錯体のドーマント種のLUMO準位[a.u.]、HOMO準位[a.u.]、及びコバルト原子から2[Å]以内に存在する酸素原子(ただし、OHラジカル由来の酸素原子を除く。)の平均Mulliken chargeである。
【0029】
ここで、硬化時間は、例えば、硬化剤として、ケトンパーオキシド及び上記硬化促進剤を用いて、ラジカル重合性樹脂を常温(例えば、25℃)で硬化させるのに要する時間である。
【0030】
ラジカル重合性樹脂としては、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂等が挙げられる。
【0031】
例えば、不飽和ポリエステル樹脂の硬化時間は、JIS K 6901(「液状不飽和ポリエステル樹脂試験方法」の「常温硬化特性(発熱法)」)に準拠して、測定することができる。
【0032】
なお、液状不飽和ポリエステル樹脂とは、不飽和ポリエステル樹脂が、不飽和ポリエステル樹脂と重合することが可能な単量体(例えば、スチレン)に溶解している溶液である。
【0033】
推定された回帰モデルは、配位子探索装置200に提供され、配位子探索装置200は、回帰モデル生成装置100から取得した回帰モデルを利用して、硬化促進剤の配位子を探索する。
【0034】
配位子探索装置200は、コバルトに配位する配位子を探索し、一般式(I)で表される配位子または一般式(II)で表される配位子において、線形回帰式
[T]=a+a+a+a・・・(1)
(式中、x、x、xは、それぞれ一般式(I)
【0035】
【化12】
(式中、R、Rは、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~10のアルキル基であり、R~Rは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のアルコキシ基、炭素数2~11のアルコキシカルボニル基、炭素数6~12のアリール基、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシ基、シアノ基、ニトロ基、ホルミル基またはハロゲン原子である。)
で表される配位子または一般式(II)
【0036】
【化13】
(式中、R~R10は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のアルコキシ基、炭素数6~12のアリール基、アミノ基、カルボキシ基、シアノ基またはハロゲン原子であり、RとR10は、共同して環を形成していてもよい。)
で表される配位子がコバルトに配位している錯体のドーマント種のLUMO準位[a.u.]、HOMO準位[a.u.]、及びコバルト原子から2[Å]以内に存在する酸素原子(ただし、OHラジカル由来の酸素原子を除く。)の平均Mulliken chargeであり、a、a、a、aは、係数である。)
によって算出される予測硬化時間[T][秒]が所定時間以下となる配位子を探索する。
【0037】
本明細書及び特許請求の範囲において、アミノ基は、1級アミノ基(-NH)、2級アミノ基(-NHR)及び3級アミノ基(-NR)を含む。ここで、Rは、炭素数1~10のアルキル基であることが好ましい。また、3級アミノ基における2個のRは、同一であってもよいし、異なっていてもよく、共同で環を形成していてもよい。
【0038】
~R10におけるハロゲン原子としては、例えば、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
【0039】
なお、上記配位子がコバルトに配位している錯体のドーマント種は、後述するドーマント種が含む活性種(P・)の代わりに、OHラジカル(・OH)を配位しているものである。
【0040】
ここで、一般式(I)で表される配位子がコバルトに配位している錯体のドーマント種は、2配座配位子であるカルボキシレート配位子2分子と、1配座配位子である一般式(I)で表される配位子2分子が配位しているコバルト(II)のWerner錯体において、一般式(I)で表される配位子1分子の代わりに、OHラジカル1分子が配位しているコバルト(III)のドーマント種を構造最適化したものである。
【0041】
また、一般式(II)で表される配位子がコバルトに配位している錯体のドーマント種は、2配座配位子である一般式(II)で表される配位子3分子が配位しているコバルト(III)のWerner錯体において、一般式(II)で表される配位子1分子の一方の配位の代わりに、OHラジカル1分子が配位しているコバルト(III)のドーマント種を構造最適化したものである。
【0042】
カルボキシレート配位子としては、例えば、アセタト配位子等が挙げられる。
【0043】
本実施形態において、線形回帰式(1)によって算出される予測硬化時間[T]が短縮されることは、コバルトの有機酸塩と、配位子とを含む硬化促進剤を用いて実測される硬化時間T(以下、実測硬化時間Tという)が短縮されることに対応する。
【0044】
本実施形態においては、予測硬化時間[T]が620秒以下である配位子を探索することが好ましい。
【0045】
ここで、非特許文献1の関係について、まず、ケトンパーオキシド/コバルトの有機酸塩からなるレドックス開始剤を用いて、ラジカル重合性樹脂を常温で硬化させる際に、硬化時間を十分に短縮することが可能な配位子を探索する際に、非特許文献1の関係が成り立たないことを以下に説明する。
【0046】
一般に、コバルト錯体は、交換連鎖機構により、ラジカル重合性樹脂を常温で硬化させることができる。
【0047】
例えば、2座配位子のカルボキシレート配位子が2分子、1座配位子の一般式(I)で表される配位子(L)2分子が配位しているコバルト(II)のWerner錯体は、一般式(I)で表される配位子(L)1分子の代わりに、活性種(P・)1分子が配位して、コバルト(III)の錯体、即ち、ドーマント種が生成する。ドーマント種は、活性種(P・)を、他の活性種(P・)と交換し、活性種(P・)を放出する。活性種(P・)は、ラジカル重合性樹脂と反応して分子量を増加させた後、再びドーマント種に配位し、他の活性種(P・)を放出する。
【0048】
【化14】
このような活性化と不活性化反応が同時に起こる交換連鎖機構では、全体の反応速度は交換反応の速度に等しく、交換反応の速度が高い程、ラジカル重合性樹脂の硬化が進行する。
【0049】
しかしながら、ケトンパーオキシド/コバルトの有機酸塩からなるレドックス開始剤を用いて、ラジカル重合性樹脂を常温で硬化させる際には、硬化剤としての、ケトンパーオキシドの添加量が多いため、非特許文献1の関係が成り立たない。
【0050】
ケトンパーオキシドの添加量が多いと、交換反応は容易に進行するが、交換反応が進行しすぎると、ドーマント種が活性種を十分な時間トラップすることができず、コバルト錯体の存在意義を満たせない。
【0051】
ドーマント種が活性種を十分な時間トラップするためには、交換反応の活性化障壁を高くすればよいため、一般的な考え方では、ドーマント種のLUMO準位、HOMO準位を高くする方向を模索する(図2参照)。
【0052】
しかしながら、活性種がドーマント種に近づきやすく、トラップされやすいため、他にも重要な要素が存在すると考えられるが、自明ではない。
【0053】
したがって、非特許文献1の関係は、硬化剤の添加量が少なく、交換反応が律速となりうる場合に成り立ち、ケトンパーオキシド/コバルトの有機酸塩からなるレドックス開始剤を用いて、ラジカル重合性樹脂を常温で硬化させる場合には、成り立たない。
【0054】
このため、ケトンパーオキシド/コバルトの有機酸塩からなるレドックス開始剤を用いて、ラジカル重合性樹脂を常温で硬化させる際に、硬化時間を十分に短縮することが可能な配位子を探索する方法が必要である。
【0055】
[Werner錯体]
Werner錯体とは、中心金属イオンに非共有電子対を有する配位子が配位している八面体形錯体のことである。
【0056】
本実施形態では、Werner錯体として、2配座配位子であるカルボキシレート配位子2分子と、1配座配位子である一般式(I)で表される配位子2分子が配位しているコバルト(II)の錯体、または、2配座配位子である一般式(II)で表される配位子3分子が配位しているコバルト(II)の錯体を用いる。
【0057】
[ドーマント種]
ケトンパーオキシド/コバルトの有機酸塩からなるレドックス開始剤を用いて、ラジカル重合性樹脂を常温で硬化させる際に、活性種(P・)がWerner錯体を構成するコバルトに配位することで、ドーマント種が生成する。
【0058】
活性種(P・)としては、例えば、ケトンパーオキシドが分解して生成したラジカル、または、ケトンパーオキシドが分解して生成したラジカルがラジカル重合性樹脂と反応して生成したラジカル等が挙げられる。
【0059】
なお、回帰モデル生成装置100及び配位子探索装置200は、例えば、図3に示されるようなハードウェア構成を有してもよい。すなわち、回帰モデル生成装置100及び配位子探索装置200は、バスBを介し相互接続されるドライブ装置101、補助記憶装置102、メモリ装置103、CPU(Central Processing Unit)104、入出力装置105及び通信装置106を有する。
【0060】
回帰モデル生成装置100及び配位子探索装置200における後述される各種機能及び処理を実現するプログラムを含む各種コンピュータプログラムは、CD-ROM(Compact Disk-Read Only Memory)などの記録媒体107によって提供されてもよい。プログラムを記憶した記録媒体107がドライブ装置101にセットされると、プログラムが記録媒体107からドライブ装置101を介して補助記憶装置102にインストールされる。但し、プログラムのインストールは必ずしも記録媒体107により行う必要はなく、ネットワークなどを介し何れかの外部装置からダウンロードするようにしてもよい。補助記憶装置102は、インストールされたプログラムを格納すると共に、必要なファイルやデータなどを格納する。メモリ装置103は、プログラムの起動指示があった場合に、補助記憶装置102からプログラムやデータを読み出して格納する。プロセッサとして機能するCPU104は、メモリ装置103に格納されたプログラムやプログラムを実行するのに必要なパラメータなどの各種データに従って、後述されるような回帰モデル生成装置100及び配位子探索装置200の各種機能及び処理を実行する。入出力装置105は、回帰モデル生成装置100及び配位子探索装置200とユーザとの間のインタフェースを提供し、例えば、キーボード、マウス、タッチスクリーン等の入力デバイスと、ディスプレイ、スピーカー等の出力デバイスとから構成されてもよい。通信装置106は、外部装置と通信するための各種通信処理を実行する。
【0061】
しかしながら、回帰モデル生成装置100及び配位子探索装置200は、上述したハードウェア構成に限定されるものでなく、他の何れか適切なハードウェア構成およびネットワークを介した構成により実現されてもよい。
【0062】
[回帰モデル生成装置]
次に、図4を参照して、本発明の一実施例による回帰モデル生成装置100を説明する。図4は、本発明の一実施例による回帰モデル生成装置100の機能構成を示すブロック図である。
【0063】
図4に示されるように、回帰モデル生成装置100は、物性値取得部110及び回帰モデル生成部120を有する。
【0064】
物性値取得部110は、回帰モデルを生成するのに利用する物質データを物質データベース50から取得し、取得した物質データに対して量子化計算などの所定の処理を実行し、物質の物性値を取得する。
【0065】
具体的には、物性値取得部110は、量子化学計算ソフトウェアであるGaussian社製Gaussian09を利用して、前述した配位子がコバルトに配位している錯体のドーマント種のLUMO準位[a.u.]、HOMO準位[a.u.]、及びコバルトから2[Å]以内に存在する酸素原子(ただし、OHラジカル由来の酸素原子を除く。)の平均Mulliken chargeを決定してもよい。このとき、Gaussian09では、密度汎関数理論を基にし、スピン非制限で汎関数としてRωB97XD、基底関数として6-31+G(d)が用いられてもよい。すべての計算で振動数解析を実施し虚数振動の数が0であることを確認してポテンシャル曲面の底部に収束したと判断した。計算を簡単にするため、ドーマント種に配位している活性種(P・)の代わりに、OHラジカル(・OH)を用いる。
【0066】
量子化学計算ソフトウェアから最適化された構造を取得すると、物性値取得部110は、前述した配位子がコバルトに配位している錯体のドーマント種のLUMO準位[a.u.]、HOMO準位[a.u.]、及びコバルト原子から2[Å]以内に存在する酸素原子(ただし、OHラジカル由来の酸素原子を除く。)の平均Mulliken chargeを求める。
【0067】
本実施例の配位子の探索方法では、回帰モデルから求められる予測硬化時間[T]の値を基準として、配位子を探索し、硬化促進剤を決定する。回帰モデルは、第一原理計算から求められる、前述した配位子がコバルトに配位している錯体のドーマント種のLUMO準位[a.u.]、HOMO準位[a.u.]、及びコバルト原子から2[Å]以内に存在する酸素原子(ただし、OHラジカル由来の酸素原子を除く。)の平均Mulliken chargeの3つの物性値x(i=1~3)のシンプルな線形回帰式で表されうる。後述するように、実測硬化時間Tと高い相関を示すことから、線形回帰式以外の関係式の考察については、本明細書では割愛する。
【0068】
コバルトに配位する配位子を探索する際、2配座配位子であるカルボキシレート配位子2分子と、1配座配位子である一般式(I)で表される配位子(L)が配位しているコバルト(II)のWerner錯体において、一般式(I)で表される配位子(L)1分子の代わりに、活性種(P・)1分子が配位しているコバルト(III)のドーマント種を、コバルトの有機酸塩に一般式(I)で表される配位子が配位しているドーマント種の初期構造とした。ただし、計算を簡単にするため、活性種(P・)の代わりに、OHラジカル(・OH)を用い、カルボキシレート配位子をアルキル鎖が短いアセタト配位子で近似することで、ドーマント種の初期構造を、化学式
【0069】
【化15】
で表される構造とした。ここで、xは、コバルト原子から2[Å]以内に存在する酸素原子(ただし、OHラジカル由来の酸素原子を除く。)の平均Mulliken chargeであり、矢印が指し示す酸素原子は、平均Mulliken chargeを求める際に用いる酸素原子を意味する。
【0070】
また、2配座配位子である一般式(II)で表される配位子3分子が配位しているコバルト(II)のWerner錯体において、一般式(II)で表される配位子1分子の一方の配位の代わりに、活性種(P・)1分子が配位しているコバルト(III)のドーマント種を、コバルトの有機酸塩に一般式(II)で表される配位子が配位しているドーマント種の初期構造とした。ただし、計算を簡単にするため、活性種(P・)の代わりに、OHラジカル(・OH)が配位しているドーマント種を用いることで、ドーマント種の初期構造を、化学式
【0071】
【化16】
で表される構造とした。ここで、xは、コバルト原子から2[Å]以内に存在する酸素原子(ただし、OHラジカル由来の酸素原子を除く。)の平均Mulliken chargeであり、矢印が指し示す酸素原子は、平均Mulliken chargeを求める際に用いる酸素原子を意味する。
【0072】
次に、ドーマント種の初期構造を構造最適化する。推定する回帰モデルは、下記式(2)の通り、3つの変化量xを含む線形結合で表される線形回帰式であると仮定し、線形重回帰分析を実行して係数aを決定する。
【0073】
[T]=a+a+a+a・・・(2)
係数aは小数点以下2桁までの有理数であり、xは、構造最適化したドーマント種の第一原理計算から求まる物性値である。
【0074】
例えば、物性値取得部110は、後述する参照例1~8の配位子が配位している、構造最適化したドーマント種の第一原理計算を行うことにより、物性値xを求めてもよい。
【0075】
[参照例1~8の配位子]
参照例1の配位子(L
【0076】
【化17】
参照例2の配位子(L
【0077】
【化18】
参照例3の配位子(L
【0078】
【化19】
参照例4の配位子(L
【0079】
【化20】
参照例5の配位子(L
【0080】
【化21】
参照例6の配位子(L
【0081】
【化22】
参照例7の配位子(L
【0082】
【化23】
参照例8の配位子(L
【0083】
【化24】
具体的には、物性値取得部110は、ドーマント種を第一原理計算した結果から、LUMO準位[a.u.]、HOMO準位[a.u.]、及びコバルトから2[Å]以内に存在する酸素原子(ただし、OHラジカル由来の酸素原子を除く。)の平均Mulliken chargeを求め、それぞれx、x、xとする。
【0084】
なお、参照例1~5の配位子は、一般式(I)で表される配位子の具体例であり、参照例6~8の配位子は、一般式(II)で表される配位子の具体例である。
【0085】
表1に、参照例1~8の配位子が配位している錯体のドーマント種の物性値x、x、x、予測硬化時間[T]、実測硬化時間Tを示す。
【0086】
なお、実測硬化時間は、物質データベース50から提供され、例えば、その測定方法は、以下の通りである。
【0087】
すなわち、JIS K 6901(「液状不飽和ポリエステル樹脂試験方法」の「常温硬化特性(発熱法)」)に準拠して、硬化性組成物の実測硬化時間を測定する。そして、オクチル酸コバルトと、コバルトに対するモル比が2.0の配位子(L~L)またはコバルトに対するモル比が3.0の配位子(L~L)を、室温下、混合し、硬化促進剤を得る。液状不飽和ポリエステル樹脂100gに対して、硬化促進剤1.0mmolを添加した後、活性酸素量10%の硬化剤(ケトンパーオキシド)パーメックN(日油製)1.0gを添加し、硬化性組成物を得る。ここで、液状不飽和ポリエステル樹脂としては、不飽和ポリエステル樹脂(プロピレングリコール/フマル酸(質量比1:1)の重縮合体)(72.98質量%)、ハイドロキノン(0.02質量%)が、スチレン(27.00質量%)に溶解している溶液を用いる。
【0088】
そして、JIS K 6901に準拠して、硬化性組成物の実測硬化時間を測定した。25℃の恒温水槽中に設置した試験管内へ100mmの高さになるまで硬化性組成物を注ぎ込んだ後、熱電対を用いて、硬化性組成物の温度を測定する。硬化剤を添加してから最高温度になるまでの時間を実測硬化時間とする。
【0089】
物性値取得部110は、このようにして取得した物性値x及び実測硬化時間Tを回帰モデル生成部120にわたす。
【0090】
回帰モデル生成部120は、取得した物性値x及び実測硬化時間Tに対して重回帰分析を実行し、回帰モデルとして線形回帰式(2)の係数a,a,a,aを推定する。具体的には、回帰モデル生成部120は、上述した参照例1~8の配位子L(j=1~8)に関して取得した物性値xを推定対象の線形回帰式に代入し、[T]_L(j=1~8)を取得する。すなわち、[T]_Lは、配位子(L)に対応した式であり、全部で配位子の数と同数で、8つ存在する。
【0091】
回帰モデル生成部120は、[T]_Lのそれぞれの実測硬化時間Tを再現するように係数a(i=0~3)を決定する。例えば、相関係数の二乗である決定係数Rによって、実測硬化時間Tの再現性を評価してもよい。決定係数Rは1に近いほど2つの値に相関が見られることが知られており、一般的に0.4以上の値であれば、相関があるといえる。例えば、本実施例では、Rが0.6以上をもって、再現性があると評価した。回帰モデル生成部120は、実測硬化時間Tと予測硬化時間[T]の決定係数Rが1に近づくように、エボリューショナリーアルゴリズムを用いて係数a(i=0~3)を決定してもよい。
【0092】
例えば、このようなエボリューショナリーアルゴリズムを利用した回帰係数の推定は、Excel(登録商標)に付随のソルバーにおけるエボリューショナリーアルゴリズムを用いて行うことによって実現可能である。例えば、計算の条件として、収束は0.0001、変異率0.075、母集団のサイズ100、ランダムシード100、改善が見られない最大時間300として、ソルバーによる回帰係数の推定を行ってもよい。また、変数の上下限を必須とせず、計算結果として出力されるaの値は、正負の制限を設けてなくてもよい。
【0093】
このようにして、回帰モデル生成部120は、参照例1~8の配位子Lについて取得したLUMO準位[a.u.]x、HOMO準位[a.u.]、x及びコバルト原子から2[Å]以内に存在する酸素原子(ただし、OHラジカル由来の酸素原子を除く。)の平均Mulliken charge xの各物性値xに対して、以下の線形回帰式を導出した。
【0094】
[T]=-4875.70-14539.28x-11127.49x-6334.33x・・・(3)
導出した線形回帰式によると、コバルトの有機酸塩に参照例1~8の配位子が配位している錯体のドーマント種の物性値xに対して、以下のように予測硬化時間[T]を求める。
【0095】
【表1】
なお、参照例1~8の実測硬化時間Tと合うように[T]の定数倍、切片の平行移動を行い、実測硬化時間Tと予測硬化時間[T]の関係を示す図5において、その線形近似の式の傾きが1.0となるように調整して、線形回帰式(3)を求めた。この操作は予測硬化時間[T]をより実測硬化時間Tのスケールに合うようにするための調整であり、必須のものではない。図5のグラフの決定係数Rは、0.60であるため、十分な相関を持って実測硬化時間Tが予想されたことを確認することができる。
【0096】
回帰モデル生成部120は、このようにして推定した線形回帰式を配位子探索装置200に提供する。
【0097】
[回帰モデル生成処理]
次に、図6を参照して、本発明の一実施例による回帰モデル生成処理を説明する。当該回帰モデル生成処理は、例えば、上述した回帰モデル生成装置100によって実行され、具体的には、回帰モデル生成装置100のプロセッサによって実現されてもよい。図6は、本発明の一実施例による回帰モデル生成処理を示すフローチャートである。
【0098】
図6に示されるように、ステップS101において、回帰モデル生成装置100は、物質データベース50から取得した物質データに対して、ドーマント種の構造最適化を実行する。
【0099】
ステップS102において、回帰モデル生成装置100は、構造最適化したドーマント種からLUMO準位[a.u.]x、HOMO準位[a.u.]x、及びコバルトから2[Å]以内に存在する酸素原子(ただし、OHラジカル由来の酸素原子を除く。)の平均Mulliken charge xの各物性値xを取得する。
【0100】
ステップS103において、回帰モデル生成装置100は、取得した物性値x及び実測硬化時間Tを利用して重回帰分析を実行し、回帰モデルとして線形回帰式の係数を推定する。例えば、回帰モデル生成装置100は、物性値xを推定対象の線形回帰式
[T]=a+a+a+a
に代入する。
【0101】
ステップS104において、回帰モデル生成装置100は、実測硬化時間Tを再現するように線形回帰式の各係数aを決定し、決定係数Rに基づき回帰モデルを評価する。このとき、Rが0.6以上をもって、再現性があると評価する。例えば、回帰モデル生成装置100は、実測硬化時間Tと予測硬化時間[T]の決定係数Rが1に近づくように、エボリューショナリーアルゴリズムを用いて係数a~aを決定してもよい。Excel(登録商標)に付随のソルバーにおけるエボリューショナリーアルゴリズムを利用して当該重回帰分析を実行する場合、例えば、計算の条件として、収束は0.0001、変異率0.075、母集団のサイズ100、ランダムシード100、改善が見られない最大時間300として、ソルバーによる回帰係数の推定を行ってもよい。
【0102】
ステップS105において、回帰モデル生成装置100は、所定の終了条件を充足したか判定し、終了条件を充足しない場合(S105:NO)、ステップS101に戻って上述した各ステップを繰り返す。例えば、終了条件としては、計算条件として設定された収束値に収束したこと、最大時間を超えたことなどであってもよい。他方、終了条件を充足している場合(S105:YES)、回帰モデル生成装置100は、当該回帰モデル生成処理を終了し、最終的に取得された線形回帰式を回帰モデルとして配位子探索装置200に提供する。
【0103】
[配位子探索装置]
次に、図7を参照して、本発明の一実施例による配位子探索装置200を説明する。配位子探索装置200は、回帰モデル生成装置100から提供された線形回帰式を利用して、各種配位子を有する硬化促進剤の物性値から硬化時間を予測する。図7は、本発明の一実施例による配位子探索装置200の機能構成を示すブロック図である。
【0104】
図7に示されるように、配位子探索装置200は、物性値取得部210、硬化時間計算部220及び配位子探索部230を有する。
【0105】
物性値取得部210は、各配位子の硬化促進剤の物性値を取得する。具体的には、物性値取得部210は、回帰モデル生成装置100に関して説明した物性値取得処理と同様に、物質データベース50から取得した処理対象の物質の物質データに対して構造最適化を実行し、構造最適化したドーマント種の第一原理計算によって、前述した配位子がコバルトに配位しているドーマント種のLUMO準位[a.u.]x、HOMO準位[a.u.]x、及びコバルトから2[Å]以内に存在する酸素原子(ただし、OHラジカル由来の酸素原子を除く。)の平均Mulliken charge xの各物性値xを求める。
【0106】
硬化時間計算部220は、取得した物性値xを線形回帰式に代入し、予測硬化時間[T]を算出し、算出した予測硬化時間[T]を配位子探索部230に提供する。
【0107】
配位子探索部230は、算出した予測硬化時間[T]が所定時間以下であるか判定し、予測硬化時間[T]が所定時間以下である配位子を有する硬化促進剤を探索対象の硬化促進剤として決定する。当該所定時間は、例えば、620秒であってもよい。他方、予測硬化時間[T]が所定時間を超える場合、配位子探索部230は、当該配位子を有する硬化促進剤を探索対象外として判定し、次の配位子の硬化促進剤を探索する。
【0108】
例えば、配位子探索装置200は、一般式(I)で表される配位子又は一般式(II)で表される配位子の具体例(e1~e55、h1~h30)に対して、線形回帰式(3)によって計算される予測硬化時間[T]が620秒以下となる配位子を探索してもよい。具体的には、配位子探索装置200は、参照例1~8の配位子と同様にして、物性値xを求めた後、線形回帰式(3)に代入して、予測硬化時間[T]を得る。
【0109】
【化25】
【0110】
【化26】
【0111】
【化27】
配位子探索装置200による配位子探索処理によって、上記配位子に対する探索結果を得る。
【0112】
【表2】
【0113】
【表3】
表2及び表3から、ケトンパーオキシド/コバルトの有機酸塩からなるレドックス開始剤を用いて、ラジカル重合性樹脂を常温で硬化させる際に、予測硬化時間が620秒以下になる配位子は、一般式(III)~(XI)で表される配位子であることがわかる。
【0114】
一般式(III)
【0115】
【化28】
(式中、R31、R32は、それぞれ独立に、炭素数1~10のアルキル基であり、R33、R34は、それぞれ独立に、ヒドロキシ基、炭素数1~8のアルキル基、炭素数1~8のシクロアルキル基、炭素数1~8のアルコキシ基、炭素数1~8のアルキル基により置換されているアミノ基、ハロゲン原子または炭素数1~8のハロゲン化アルキル基である。)
一般式(IV)
【0116】
【化29】
(式中、R41、R42、R43、R44は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~8の直鎖のアルキル基であり、R45は、水素原子、炭素数1~10の直鎖のアルキル基または炭素数6~10のアリール基である。)
一般式(V)
【0117】
【化30】
(式中、R51、R52は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~10の直鎖のアルキル基または炭素原子数6~10のアリール基である。)
一般式(VI)
【0118】
【化31】
(式中、R61は、水素原子または炭素数1~10の直鎖のアルキル基であり、Rは、水素原子またはハロゲン原子である。)
一般式(VII)
【0119】
【化32】
(式中、R71、R72は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~10の直鎖のアルキル基であり、R73は、水素原子、炭素数1~10の直鎖のアルキル基、炭素数6~10の芳香族炭化水素基またはハロゲン原子であり、R74は、炭素数1~10の直鎖のアルキル基である。)
一般式(VIII)
【0120】
【化33】
(式中、R81は、ハロゲン原子または炭素数1~10のアルキル基であり、R82は、水素原子または炭素数1~10のアルキル基である。)
一般式(IX)
【0121】
【化34】
(式中、R91は、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子または炭素数1~10のアルキル基である。)
一般式(X)
【0122】
【化35】
(式中、R101は、ハロゲン原子または炭素数1~10のアルキル基である。)
一般式(XI)
【0123】
【化36】
(式中、R111、R112は、それぞれ独立に、炭素数1~10のアルキル基であり、R113は、水素原子またはヒドロキシ基である。)
[配位子探索処理]
次に、図8を参照して、本発明の一実施例による配位子探索処理を説明する。当該配位子探索処理は、上述した配位子探索装置200によって実行され、例えば、配位子探索装置200のプロセッサによって実現されてもよい。図8は、本発明の一実施例による配位子探索処理を示すフローチャートである。
【0124】
図8に示されるように、ステップS201において、配位子探索装置200は、探索対象の配位子を有する硬化促進剤に関する物性値を取得する。例えば、物性値は、前述した配位子がコバルトに配位している錯体のドーマント種のLUMO準位[a.u.]x、HOMO準位[a.u.]x、及びコバルト原子から2[Å]以内に存在する酸素原子(ただし、OHラジカル由来の酸素原子を除く。)の平均Mulliken charge xである。
【0125】
ステップS202において、配位子探索装置200は、回帰モデルを利用して、取得した物性値から硬化時間を算出する。具体的には、配位子探索装置200は、回帰モデル生成装置100から提供された線形回帰式
[T]=a+a+a+a
(例えば、
[T]=-4875.70-14539.28x-11127.49x-6334.33x
など)に、ステップS201において取得した物性値xを代入し、予測硬化時間[T]を算出してもよい。
【0126】
ステップS203において、配位子探索装置200は、算出した予測硬化時間[T]が所定時間(例えば、620秒)以下であるか判定し、予測硬化時間[T]が所定時間以下である配位子を有する硬化促進剤を探索する。算出した予測硬化時間[T]が所定時間(例えば、620秒)以下である配位子を有する硬化促進剤を検出すると、配位子探索装置200は、検出した硬化促進剤を探索対象の硬化促進剤として決定する。
【0127】
[硬化促進剤]
本実施形態において、硬化促進剤は、コバルトの有機酸塩と、配位子を含む。
【0128】
コバルトの有機酸塩としては、例えば、オクチル酸コバルト、ナフテン酸コバルト、ステアリン酸コバルト、ネオデカン酸コバルト等が挙げられる。
【0129】
配位子としては、例えば、前述した一般式(III)~(XI)で表される配位子等が挙げられる。
【0130】
なお、配位子は、公知の合成方法を用いて、合成することができる(例えば、特開2004-26765号公報、独国特許第1089760号明細書、特表2013-522343号公報、国際公開第95/21525号、Calter et al., Journal of Organic Chemistry 2004, vol.69 (4), p1270-1275、Hilgenkamp et al., Tetrahedron 2001, vol.57, #42, p8793-8800参照)。
【0131】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は上述した特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0132】
50 物質データベース
100 回帰モデル生成装置
110、210 物性値取得部
120 回帰モデル生成部
200 配位子探索装置
220 硬化時間計算部
230 配位子探索部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8