(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】物理量推定装置、物理量推定方法、物理量推定プログラムおよび記録媒体
(51)【国際特許分類】
B29B 7/28 20060101AFI20240709BHJP
B29B 7/20 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
B29B7/28
B29B7/20
(21)【出願番号】P 2020147451
(22)【出願日】2020-09-02
【審査請求日】2023-01-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】加賀 雅文
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-037039(JP,A)
【文献】国際公開第2019/008727(WO,A1)
【文献】特開2015-123668(JP,A)
【文献】特開2009-035007(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 7/28
B29B 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
混練機で混練される混練物に関係する物理量の時間発展を表す関係式であって、前記混練機の混練槽または前記混練物に関係するパラメータを含む前記関係式に基づいて、前記物理量を推定するように構成された物理量推定装置において、
第1時刻から第2時刻までの前記物理量に関する実験データに基づいて前記パラメータの値を決定するように構成されたパラメータ決定部と、
前記パラメータ決定部で決定された前記パラメータの値を代入した前記関係式によって表される前記物理量の時間発展から、前記第2時刻よりも後の時刻における前記物理量を推定するように構成された物理量推定部と、
を備え、
前記関係式は、以下に示す数式(1)で表され、
前記
数式(1)中の粘度は、複数の温度において実測されたせん断速度と粘度との関係を以下の数式(2)でフィッティングすることにより得られる関係を有し、
前記パラメータ決定部は、時間と前記混練物の温度との関係を示す実験データに基づいて、前記数式(2)で表される前記粘度を前記数式(1)に代入して得られる以下の数式(3)に含まれるパラメータα1とパラメータα2とをフィッティングにより決定するように構成されたフィッティング部を有する、物理量推定装置。
【数10】
ここで、
ρ:混練物の密度
C
p:混練物の比熱
h:混練物と混練槽との間の熱伝達係数
S:混練物と混練槽との接触面積
V:混練物の体積
T:混練物の温度
T
w:混練槽壁面の温度
t:時刻
η:混練物の粘度
dγ/dt:混練槽内のせん断速度
【数11】
ここで、
a:フィッティング係数
b:フィッティング係数
n:フィッティング係数
【数12】
ここで、
α1=hS/ρ/C
p/V
β(T)=a×e
-bT
α2=(dγ/dt)
n+1/2/ρ/C
p
【請求項2】
請求項1に記載の物理量推定装置において、
前記フィッティング部は、
前記実験データから前記第1時刻と前記第2時刻との間の時刻t
0、時刻t
1、時刻t
2のそれぞれにおける温度T
0、温度T
1、温度T
2を求めるように構成された温度算出部と、
前記数式(3)に基づいて導出される、前記温度T
0から前記温度T
1に対する以下に示す数式(5)と前記温度T
1から前記温度T
2に対する以下に示す数式(6)からなる連立方程式を解くことにより、前記パラメータα1と前記パラメータα2を算出するように構成されたパラメータ算出部と、
を有する、物理量推定装置。
【数13】
【数14】
【請求項3】
請求項2に記載の物理量推定装置において、
前記物理量推定部は、前記パラメータ算出部で算出された前記パラメータα1の値と前記パラメータα2の値を代入した前記数式(3)によって表される温度の時間発展に基づいて、前記第2時刻よりも後の時刻である混練終了時刻における温度を推定するように構成される、物理量推定装置。
【請求項4】
請求項3に記載の物理量推定装置において、
前記物理量推定装置は、前記実験データから把握される前記第1時刻から前記第2時刻までの温度-時間曲線と、前記物理量推定部での計算結果から把握される温度-時間曲線のうちの前記第1時刻から前記第2時刻までの温度-時間曲線とによって囲まれる面積の値が所定値以下になるまで、前記時刻t
0、前記時刻t
1、前記時刻t
2のそれぞれの値を変更して、前記温度算出部による処理と前記物理量推定部による処理とを繰り返すように構成されている、物理量推定装置。
【請求項5】
混練機で混練される混練物に関係する物理量の時間発展を表す関係式であって、前記混練機の混練槽または前記混練物に関係するパラメータを含む前記関係式に基づいて、前記物理量を推定するように構成された物理量推定装置において、
第1時刻から第2時刻までの前記物理量に関する実験データに基づいて前記パラメータの値を決定するように構成されたパラメータ決定部と、
前記パラメータ決定部で決定された前記パラメータの値を代入した前記関係式によって表される前記物理量の時間発展から、前記第2時刻よりも後の時刻における前記物理量を推定するように構成された物理量推定部と、
を備え、
前記関係式は、以下に示す数式(1)で表され、
前記
数式(1)中の粘度は、複数の温度において実測されたせん断速度と粘度との関係を以下の数式(2)でフィッティングすることにより得られる関係を有し、
前記パラメータ決定部は、時間と前記混練物の温度との関係を示す実験データに基づいて、前記数式(2)で表される前記粘度を前記数式(1)に代入し、時間を離散化することにより得られる以下の数式(7)に含まれるパラメータAとパラメータBとをフィッティングにより決定するように構成されたフィッティング部を有する、物理量推定装置。
【数15】
ここで、
ρ:混練物の密度
C
p:混練物の比熱
h:混練物と混練槽との間の熱伝達係数
S:混練物と混練槽との接触面積
V:混練物の体積
T:混練物の温度
T
w:混練槽壁面の温度
t:時刻
η:混練物の粘度
dγ/dt:混練槽内のせん断速度
【数16】
ここで、
a:フィッティング係数
b:フィッティング係数
n:フィッティング係数
【数17】
ここで、
A=hS/ρ/C
p/V
B=1/2/ρ/C
p×a×(dγ/dt)
n+1
【請求項6】
請求項5に記載の物理量推定装置において、
前記フィッティング部は、前記パラメータAおよび前記パラメータBを最小二乗法または回帰分析法で決定するように構成されている、物理量推定装置。
【請求項7】
混練機で混練される混練物に関係する物理量の時間発展を表す関係式であって、前記混練機の混練槽または前記混練物に関係するパラメータを含む前記関係式に基づいて、前記物理量を推定する、物理量推定方法において、
第1時刻から第2時刻までの前記物理量に関する実験データに基づいて前記パラメータの値を決定するパラメータ決定工程と、
前記パラメータ決定工程で決定された前記パラメータの値を代入した前記関係式によって表される前記物理量の時間発展から、前記第2時刻よりも後の時刻における前記物理量を推定する物理量推定工程と、
を備え、
前記関係式は、以下に示す数式(1)で表され、
前記
数式(1)中の粘度は、複数の温度において実測されたせん断速度と粘度との関係を以下の数式(2)でフィッティングすることにより得られる関係を有し、
前記パラメータ決定工程は、時間と前記混練物の温度との関係を示す実験データに基づいて、前記数式(2)で表される前記粘度を前記数式(1)に代入して得られる以下の数式(3)に含まれるパラメータα1とパラメータα2とをフィッティングにより決定するように構成されたフィッティング工程を有する、物理量推定方法。
【数18】
ここで、
ρ:混練物の密度
C
p:混練物の比熱
h:混練物と混練槽との間の熱伝達係数
S:混練物と混練槽との接触面積
V:混練物の体積
T:混練物の温度
T
w:混練槽壁面の温度
t:時刻
η:混練物の粘度
dγ/dt:混練槽内のせん断速度
【数19】
ここで、
a:フィッティング係数
b:フィッティング係数
n:フィッティング係数
【数20】
ここで、
α1=hS/ρ/C
p/V
β(T)=a×e
-bT
α2=(dγ/dt)
n+1/2/ρ/C
p
【請求項8】
混練機で混練される混練物に関係する物理量の時間発展を表す関係式であって、前記混練機の混練槽または前記混練物に関係するパラメータを含む前記関係式に基づいて、前記物理量を推定する、物理量推定方法において、
第1時刻から第2時刻までの前記物理量に関する実験データに基づいて前記パラメータの値を決定するパラメータ決定工程と、
前記パラメータ決定工程で決定された前記パラメータの値を代入した前記関係式によって表される前記物理量の時間発展から、前記第2時刻よりも後の時刻における前記物理量を推定する物理量推定工程と、
を備え、
前記関係式は、以下に示す数式(1)で表され、
前記
数式(1)中の粘度は、複数の温度において実測されたせん断速度と粘度との関係を以下の数式(2)でフィッティングすることにより得られる関係を有し、
前記パラメータ決定工程は、時間と前記混練物の温度との関係を示す実験データに基づいて、前記数式(2)で表される前記粘度を前記数式(1)に代入し、時間を離散化することにより得られる以下の数式(7)に含まれるパラメータAとパラメータBとをフィッティングにより決定するように構成されたフィッティング工程を有する、物理量推定方法。
【数21】
ここで、
ρ:混練物の密度
C
p:混練物の比熱
h:混練物と混練槽との間の熱伝達係数
S:混練物と混練槽との接触面積
V:混練物の体積
T:混練物の温度
T
w:混練槽壁面の温度
t:時刻
η:混練物の粘度
dγ/dt:混練槽内のせん断速度
【数22】
ここで、
a:フィッティング係数
b:フィッティング係数
n:フィッティング係数
【数23】
ここで、
A=hS/ρ/C
p/V
B=1/2/ρ/C
p×a×(dγ/dt)
n+1
【請求項9】
混練機で混練される混練物に関係する物理量の時間発展を表す関係式であって、前記混練機の混練槽または前記混練物に関係するパラメータを含む前記関係式に基づいて、前記物理量を推定する処理をコンピュータに実行させるための物理量推定プログラムにおいて、
第1時刻から第2時刻までの前記物理量に関する実験データに基づいて前記パラメータの値を決定するパラメータ決定処理と、
前記パラメータ決定処理で決定された前記パラメータの値を代入した前記関係式によって表される前記物理量の時間発展から、前記第2時刻よりも後の時刻における前記物理量を推定する物理量推定処理と、
を備え、
前記関係式は、以下に示す数式(1)で表され、
前記
数式(1)中の粘度は、複数の温度において実測されたせん断速度と粘度との関係を以下の数式(2)でフィッティングすることにより得られる関係を有し、
前記パラメータ決定処理は、時間と前記混練物の温度との関係を示す実験データに基づいて、前記数式(2)で表される前記粘度を前記数式(1)に代入して得られる以下の数式(3)に含まれるパラメータα1とパラメータα2とをフィッティングすることにより決定する、物理量推定プログラム。
【数24】
ここで、
ρ:混練物の密度
C
p:混練物の比熱
h:混練物と混練槽との間の熱伝達係数
S:混練物と混練槽との接触面積
V:混練物の体積
T:混練物の温度
T
w:混練槽壁面の温度
t:時刻
η:混練物の粘度
dγ/dt:混練槽内のせん断速度
【数25】
ここで、
a:フィッティング係数
b:フィッティング係数
n:フィッティング係数
【数26】
ここで、
α1=hS/ρ/C
p/V
β(T)=a×e
-bT
α2=(dγ/dt)
n+1/2/ρ/C
p
【請求項10】
混練機で混練される混練物に関係する物理量の時間発展を表す関係式であって、前記混練機の混練槽または前記混練物に関係するパラメータを含む前記関係式に基づいて、前記物理量を推定する処理をコンピュータに実行させるための物理量推定プログラムにおいて、
第1時刻から第2時刻までの前記物理量に関する実験データに基づいて前記パラメータの値を決定するパラメータ決定処理と、
前記パラメータ決定処理で決定された前記パラメータの値を代入した前記関係式によって表される前記物理量の時間発展から、前記第2時刻よりも後の時刻における前記物理量を推定する物理量推定処理と、
を備え、
前記関係式は、以下に示す数式(1)で表され、
前記
数式(1)中の粘度は、複数の温度において実測されたせん断速度と粘度との関係を以下の数式(2)でフィッティングすることにより得られる関係を有し、
前記パラメータ決定処理は、時間と前記混練物の温度との関係を示す実験データに基づいて、前記数式(2)で表される前記粘度を前記数式(1)に代入し、時間を離散化することにより得られる以下の数式(7)に含まれるパラメータAとパラメータBとをフィッティングすることにより決定する、物理量推定プログラム。
【数27】
ここで、
ρ:混練物の密度
C
p:混練物の比熱
h:混練物と混練槽との間の熱伝達係数
S:混練物と混練槽との接触面積
V:混練物の体積
T:混練物の温度
T
w:混練槽壁面の温度
t:時刻
η:混練物の粘度
dγ/dt:混練槽内のせん断速度
【数28】
ここで、
a:フィッティング係数
b:フィッティング係数
n:フィッティング係数
【数29】
ここで、
A=hS/ρ/C
p/V
B=1/2/ρ/C
p×a×(dγ/dt)
n+1
【請求項11】
請求項9または10に記載の物理量推定プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物理量推定技術に関し、例えば、混練機で混練される混練物に関係する物理量を推定する物理量推定装置に適用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2016-49739号公報(特許文献1)には、粘性を有する液体の混練状態を評価することができるシミュレーション法に関する技術が記載されている。
【0003】
特開平11-77666号公報(特許文献2)には、混練機における混練制御方法に関する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-49739号公報
【文献】特開平11-77666号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
加硫前のゴムや樹脂などの粘性を有する流動性材料(粘性流体)は、例えば、バンバリーミキサや混練機によって、各種添加材や配合材と混ぜ合わせられて、目的の材料(混練物)が作製される。このような混練物を作製する工程では、粘性流体と各種材料を短時間で均一に混ぜ合わせることが重要であり、粘性流体と各種材料を短時間で均一に混ぜ合わせることができるように混練機におけるロータの選定や混練条件の検討が行われている。このようなロータの選定や混練条件の検討には、混練機の試作や評価を繰り返す必要があり、多大な時間を要するとともに製造コストの上昇を招く。このことから、近年では、試作や評価を実施する前に、コンピュータを用いたシミュレーションによって、混練物の混練挙動を予測する方法が提案されている。
【0006】
ところが、コンピュータを用いたシミュレーションによって詳細な解析を行うためには、多くの計算点や計算回数を要するため、計算コストの問題から、実際の混練時間に対応した長時間の解析が行われていないのが現状である。
【0007】
特に、混練工程中における混練物の温度や粘度に代表される物理量は、混練物の混練具合を把握する上で重要であり、実際の混練時間経過後におけるこれらの物理量を推定することは、混練条件を検討する上で非常に有用である。
【0008】
本発明の目的は、多大な計算コストをかけることなく、混練機で混練される混練物に関係する物理量を混練時間終了時まで推定できる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一実施の形態における物理量推定装置は、混練機で混練される混練物に関係する物理量の時間発展を表す関係式であって、混練機の混練槽または混練物に関係するパラメータを含む関係式に基づいて、物理量を推定するように構成されている。ここで、物理量推定装置は、第1時刻から第2時刻までの物理量に関する実験データに基づいてパラメータの値を決定するように構成されたパラメータ決定部と、パラメータ決定部で決定されたパラメータの値を代入した関係式によって表される物理量の時間発展から、第2時刻よりも後の時刻における物理量を推定するように構成された物理量推定部とを備える。
【0010】
一実施の形態における物理量推定方法は、混練機で混練される混練物に関係する物理量の時間発展を表す関係式であって、混練機の混練槽または混練物に関係するパラメータを含む関係式に基づいて、物理量を推定する。ここで、物理量推定方法は、第1時刻から第2時刻までの前記物理量に関する実験データに基づいてパラメータの値を決定するパラメータ決定工程と、パラメータ決定工程で決定されたパラメータの値を代入した関係式によって表される物理量の時間発展から、第2時刻よりも後の時刻における物理量を推定する物理量推定工程とを備える。
【0011】
一実施の形態における物理量推定プログラムは、混練機で混練される混練物に関係する物理量の時間発展を表す関係式であって、混練機の混練槽または混練物に関係するパラメータを含む関係式に基づいて、物理量を推定する処理をコンピュータに実行させるためのプログラムである。ここで、物理量推定プログラムは、第1時刻から第2時刻までの物理量に関する実験データに基づいてパラメータの値を決定するパラメータ決定処理と、パラメータ決定処理で決定されたパラメータの値を代入した関係式によって表される物理量の時間発展から、第2時刻よりも後の時刻における物理量を推定する物理量推定処理とを備える。
【0012】
この物理量推定プログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録される。
【発明の効果】
【0013】
一実施の形態によれば、多大な計算コストをかけることなく、混練機で混練される混練物に関係する物理量を混練時間終了時までの長時間にわたって推定できる。この結果、一実施の形態によれば、混練機の試作前に混練条件を推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】混練物の温度と時間との関係を示す実験データである。
【
図3】
図2に示す実験データを混練終了時刻(1500[s])まで取得した時間-温度曲線と、本実施の形態におけるシミュレーション結果から取得される時間-温度曲線とを比較するグラフである。
【
図4】物理量推定装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
【
図5】物理量推定装置の機能を示す機能ブロック図である。
【
図6】物理量推定方法を説明するフローチャートである。
【
図7】<<さらなる工夫点>>に記載した方法を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。なお、図面をわかりやすくするために平面図であってもハッチングを付す場合がある。
【0016】
<改善の余地>
例えば、コンピュータを使用したシミュレーションによって、混練物の物理量を評価する手法が提案されている。この手法によれば、混練機の試作や評価する前に、シミュレーションの結果に基づいて、混練条件を推定することができる。このため、シミュレーション手法は、混練機の試作や評価に費やされる多大な時間を節約することができ、かつ、製造コストも抑制できる点で有用である。
【0017】
この点に関し、現在のシミュレーションでは、粒子法・有限要素法などによる混練シミュレーションが主流である。このシミュレーションは、混練物全体に計算点を設けることで、複雑な混練物の流れやばらつきを考慮して物理量を評価できる利点がある。
【0018】
しかしながら、計算点が多くなるほど計算に要するコストが高くなる。このことから、現状では、計算コストの問題から、実際の混練時間に対応した長時間の解析を行うことが困難な状況にある。すなわち、混練条件の推定には、混練時間終了時点での物理量を取得することが重要であるが、現状のシミュレーション技術では、実際の混練時間に対応した長時間の解析が困難であることから、混練条件の充分な評価を行うことができていない。つまり、現状のシミュレーション技術では、多大な計算コストをかけることなく、実際の混練時間に対応した長時間の物理量の解析を行う観点から改善の余地が存在する。
【0019】
そこで、本実施の形態では、現状のシミュレーション技術に存在する改善の余地に対する工夫を施している。以下では、この工夫を施した技術的思想について説明する。
【0020】
<実施の形態における基本思想>
本実施の形態における基本思想は、混練機で混練される混練物に関係する物理量の時間発展を表す関係式であって、混練機の混練槽または混練物に関係するパラメータを含む関係式に基づいて、物理量を推定するシミュレーション技術において、例えば、第1時刻から第2時刻までの物理量に関する実験データに基づいて、関係式に含まれるパラメータを決定する思想である。その後、基本思想では、実験データに基づいて決定したパラメータの値を代入した関係式によって表される物理量の時間発展から、第2時刻よりも後の時刻における物理量を推定する。
【0021】
この基本思想において、実験データに基づいて決定したパラメータの値を代入した関係式によって表される物理量の時間発展から推定される物理量は、混練物全体でみたときの平均的な値となる。すなわち、基本思想によるシミュレーション技術では、上述した現状のシミュレーション技術のように、混練物の流れや物理量のばらつきを評価することができない一方、平均的な物理量だけを計算することから、多大な計算コストをかけることなく、混練条件を評価する際の重要な要素となる混練終了時の物理量を推定することができる。つまり、基本思想では、計算コストをかけずに、現状のシミュレーション技術では実現困難であった混練終了時の物理量を推定できる点で大きな技術的意義を有する。
【0022】
以下では、この基本思想を具現化した本実施の形態における具現化態様を説明する。
【0023】
本実施の形態では、混練機で混練される混練物に関係する物理量を推定するシミュレーション技術を例に挙げて、上述した基本思想を説明する。特に、混練物の温度を推定する例について説明するが、本実施の形態における基本思想は、混練機で混練される混練物に関係する物理量だけでなく、様々な幅広い対象物についての物理量を推定するシミュレーション技術にも適用することができる。
【0024】
<混練機の構成>
まず、混練物の温度を推定するシミュレーション技術の具体的な内容を説明する前に、混練機の模式的な構成について簡単に説明する。
【0025】
【0026】
図1において、混練機1は、空洞部10aを有する混練槽10を有する。そして、混練槽10の空洞部10aには、2つの回転可能なロータ11aとロータ11bとが設けられている。さらに、空洞部10aには、混練物12が入れられている。この空洞部10aは、上蓋13で密閉されるようになっている。密閉された空洞部10aに入れられた混練物12は、2つの回転するロータ11aとロータ11bによって混練される。このようにして、混練機1では、混練物12を混練することができる。混練機1で混練された混練物12は、例えば、ケーブルを被覆する絶縁材料(被覆材料)として使用される。
【0027】
例えば、ケーブルを被覆する絶縁材料としての混練物12は、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)と、マレイン酸変性ポリマと、水酸化マグネシウムからなる充填剤と、トリメチロールプロパントアクリルレート(TMPT)からなる架橋助剤から構成される。すなわち、混練機1では、エチレン-酢酸ビニル共重合体とマレイン酸ポリマと充填剤と架橋助剤とが混練されて混練物12が形成される。
【0028】
この混練物12を短時間で均一に混練することが絶縁材料の特性を実現するために重要である。このことから、混練物12を混練する混練機1での混練条件を評価する必要性が生じる。そして、例えば、混練物12の温度は、混練物12の練り具合を把握する上で重要な物理量であり、混練時間全体にわたって混練物12の温度を推定することは、混練条件を評価する上で非常に重要である。そこで、以下では、混練時間全体にわたって混練物12の温度を推定するシミュレーション技術の具体的内容について説明する。
【0029】
<シミュレーション技術の具体的内容>
<<混練物の温度の時間発展を表す関係式>>
まず、本実施の形態では、混練機で混練される混練物の温度の時間発展を表す関係式であって、混練機の混練槽または混練物に関係するパラメータを含む関係式に基づいて、混練物の温度を推定するために、関係式として、以下に示す数式(1)を採用する。
【0030】
【0031】
ここで、数式(1)に含まれるパラメータは、以下の通りである。
【0032】
ρ:混練物の密度[kg/m3]
Cp:混練物の比熱[J/kg/℃]
h:混練物と混練槽との間の熱伝達係数[W/m2/℃]
S:混練物と混練槽との接触面積[m2]
V:混練物の体積[m3]
T:混練物の温度[℃]
Tw:混練槽壁面の温度[℃]
t:時刻[s]
η:混練物の粘度[Pa・s]
dγ/dt:混練槽内のせん断速度[1/s]
【0033】
数式(1)は、粘性流体からなる混練物のエネルギー保存式であり、定性的に以下に示す内容を有する関係式である。すなわち、数式(1)の左辺は、混練物に加わる熱量の時間変化を示している。一方、数式(1)の右辺第1項は、混練物の温度と混練槽の温度との差に基づいて混練物に流入あるいは混練物から流出する熱量を示している。例えば、数式(1)の右辺第1項は、混練物の温度が混練槽の温度よりも低い場合、混練物の温度と混練槽の温度との温度差に比例する熱量が混練槽から混練物に流入することを示している。一方、混練物の温度が混練槽の温度よりも高い場合、混練物の温度と混練槽の温度との温度差に比例する熱量が混練物から混練槽に向かって流出することを示している。さらに、混練物の温度と混練槽の温度が等しい場合、数式(1)の右辺第1項は、「0」となるため、混練物と混練槽との間における熱量の流入あるいは流出はないことになる。
【0034】
続いて、数式(1)の右辺第2項は、ロータの回転によって混練物に供給される熱量を示している。つまり、数式(1)の右辺第2項は、ロータの回転による混練によって、ロータの回転エネルギーの一部が混練物に加わる熱エネルギーとなることを示している。
【0035】
以上のことから、数式(1)は、混練物に加わる熱量の時間変化(左辺)は、混練物の温度と混練槽の温度との差に基づく熱量の移動(右辺第1項)と、ロータの回転エネルギーに基づいて混練物に供給される熱エネルギー(右辺第2項)との和に等しいということを表している関係式である。この数式(1)は、混練物の温度に関する微分方程式であることから、混練物の温度の時間発展を表していることがわかる。
【0036】
<<粘度とせん断速度との関係の算出>>
次に、数式(1)に含まれる粘度(η)は、一般的に温度(T)とせん断速度(dγ/dt)に依存する。このことから、この粘度を温度およびせん断速度の関係式として表すことを考える。ここで、粘度は、一般的に、温度とせん断速度を変数として、以下の数式(2)で示される関係があることが知られている。
【0037】
【0038】
ここで、数式(2)に含まれる「a」、「b」、「n」は、フィッティング係数である。
【0039】
以下では、このフィッティング係数を算出するために、本実施の形態では、まず、混練物の粘度を測定する。具体的に、複数の温度において、せん断速度と粘度との関係をプロットデータとして取得する。その後、取得したプロットデータに対して、数式(2)で示される関係式でフィッティングすることにより、数式(2)に含まれる3つのフィッティング係数を算出する。これにより、混練物の材料に固有の粘度特性を求めることができる。
【0040】
<<数式(2)の数式(1)への代入>>
続いて、数式(2)に含まれる3つのフィッティング係数を算出した後、3つのフィッティング係数を決定した数式(2)で示される粘度を数式(1)に代入する。これにより、以下に示す数式(3)が得られる。
【0041】
【0042】
ここで、数式(3)に含まれるパラメータは、以下の通りである。
【0043】
α1=hS/ρ/Cp/V
β(T)=a×e-bT
α2=(dγ/dt)n+1/2/ρ/Cp
【0044】
この数式(3)は、混練物の温度に関する微分方程式であり、混練物の温度の時間発展を表している。この数式(3)において、未知のパラメータは、「パラメータα1」と「パラメータα2」と「混練槽壁面の温度(Tw)」である。なお、「パラメータβ(T)」は、未知のパラメータではない。なぜなら、「パラメータβ(T)」に含まれる「a」および「b」は、既に求められているフィッティング係数であるからである。
【0045】
<<未知のパラメータの決定>>
以下では、未知のパラメータを決定するために、実験データを使用する。
【0046】
図2は、混練物の温度と時間との関係を示す実験データである。
【0047】
例えば、一例として、混練物を混練機(空洞部)の体積の75%だけ入れ、かつ、ロータの回転数を30[rpm]とした状態で、混練物の混練を開始した後(第1時刻)、熱電対で測定される混練物の温度が160[℃]となったところで混練処理を終了する(第2時刻)。このとき、混練槽壁面の温度Twを70[℃]としている。これにより、まず、「混練槽壁面の温度(Tw)」は、決定される。
【0048】
次に、数式(3)に含まれる「パラメータα1」と「パラメータα2」とを
図2に示す実験データに基づいて決定する手法について説明する。
【0049】
まず、数式(3)を第1時刻tiから第2時刻tfまで時間積分すると、以下に示す数式(4)が得られる。
【0050】
【0051】
そして、
図2に示す実験データから、例えば、時刻t
0(=0[s])における温度T
0と、時刻t
1(=100[s])における温度T
1と、時刻t
2(=480[s])における温度T
2を求める。その後、数式(4)において、時刻t
i=時刻t
0における温度T
0と時刻t
f=t
1における温度T
1を代入するとともに、右辺第1項および右辺第2項の被積分関数に含まれるT(t)を定数T
0に置き換える近似を行う。
【0052】
これにより、以下に示す数式(5)が得られる。
【0053】
【0054】
同様に、数式(4)において、時刻ti=時刻t1における温度T1と時刻tf=t2における温度T2を代入するとともに、右辺第1項および右辺第2項の被積分関数に含まれるT(t)を定数T1に置き換える近似を行う。
【0055】
これにより、以下に示す数式(6)が得られる。
【0056】
【0057】
このようにして、
図2に示す実験データと数式(4)に基づいて、未知のパラメータである「パラメータα1」と「パラメータα2」に関する2本の連立方程式(数式(5)と数式(6))を得ることができる。この結果、数式(5)と数式(6)から構成される2本の連立方程式を解くことにより、2つの未知のパラメータである「パラメータα1」と「パラメータα2」とを決定することができる。
【0058】
なお、本実施の形態では、数式(5)および数式(6)を導出する際に、数式(4)の右辺第1項および右辺第2項の被積分関数に含まれるT(t)を定数T0や定数T1に置き換える近似を行った。ただし、近似手法は、これに限らず、例えば、数式(5)を導出する際に、数式(4)の右辺第1項および右辺第2項の被積分関数に含まれるT(t)を定数(T0+T1)/2に置き換える近似を行うこともできる。同様に、例えば、数式(6)を導出する際に、数式(4)の右辺第1項および右辺第2項の被積分関数に含まれるT(t)を定数(T1+T2)/2に置き換える近似を行うこともできる。
【0059】
<<決定したパラメータの数式(3)への代入>>
以上のようして算出された「パラメータα1」と「パラメータα2」とともに、「混練槽壁面の温度(Tw)」を数式(3)に代入する。これにより、数式(3)によって、混練物の温度の時間発展が完全に規定される。したがって、数式(3)に基づいて、混練物の温度の時間依存性が決定する。これにより、時刻を指定すれば、指定した時刻における混練物の温度を推定することができる。例えば、混練終了時刻が1500[s]である場合、時刻を1500[s]に設定することにより、混練終了時刻での混練物の温度を推定することができる。このようにして、本実施の形態におけるシミュレーション技術によれば、実験データを取得していない第2時刻よりも後の時刻である混練終了時刻においても、混練物の温度を推定することができる。
【0060】
なお、数式(3)の「パラメータα2」に含まれるせん断速度(dγ/dt)は、混練機の形状やロータの形状やロータの回転数などで決まるパラメータであるが、本実施の形態では、このせん断速度が含まれる「パラメータα2」を実験データに基づいて算出している。このため、ロータの回転数に代表される混練条件は、「パラメータα2」に自動的に組み込まれる。これにより、本実施の形態によれば、混練条件を適切に反映した状態で、混練物の温度を推定できる利点が得られる。
【0061】
<<シミュレーション結果の検証>>
続いて、本実施の形態におけるシミュレーション結果の検証について説明する。
【0062】
図3は、
図2に示す実験データを混練終了時刻(1500[s])まで取得した時間-温度曲線と、本実施の形態におけるシミュレーション結果から取得される時間-温度曲線とを比較するグラフである。
図3において、実線が実験データを示している一方、破線が本実施の形態によるシミュレーション結果を示している。
【0063】
図3において、実線で示す実験データにおいては、混練終了時刻での混練物の温度が188.5[℃]であるのに対し、破線で示すシミュレーション結果においては、混練終了時刻における混練物の温度が187.2[℃]となっている。この結果、本実施の形態におけるシミュレーションによれば、差1%未満の精度で、混練終了時刻における混練物の温度を推定できることが裏付けられていることがわかる。
【0064】
<<さらなる工夫点>>
本実施の形態におけるシミュレーションでは、時刻t
0(=0[s])における温度T
0を使用して未知のパラメータを算出している。この点に関し、
図3に示すように、時刻t
0付近において、実験データでは、混練開始時刻の直後に混練物の温度が低下しているのに対し、本実施の形態におけるシミュレーションでは、この現象が反映されていない。
【0065】
これは、実際の混練機においては、高温状態の混練機の内部に樹脂が投入されたことにより、混練槽全体の温度が下がったことに起因すると考えられる。これにより、本実施の形態におけるシミュレーションでは、この現象まで反映することができず、混練開始時刻の直後において、実験データとの誤差が大きくなっていると推察される。
【0066】
そこで、実験データとシミュレーションとの誤差を小さくする以下に示す工夫が考えられるので、この工夫点について説明する。
【0067】
具体的に、この工夫点は、実験データから把握される第1時刻から第2時刻までの温度-時間曲線と、シミュレーションでの計算結果から把握される温度-時間曲線のうちの第1時刻から第2時刻までの温度-時間曲線とによって囲まれる面積の値が所定値以下になるまで、時刻t0、時刻t1、時刻t2のそれぞれの値を変更して、上述した「<<未知のパラメータの決定>>」で説明した処理を繰り返すものである。
【0068】
この工夫点によれば、「<<未知のパラメータの決定>>」で説明した処理を繰り返さない構成よりも、シミュレーション結果を実験データに近づけることができるため、シミュレーション計算の精度を向上することができる。
【0069】
<<変形例>>
例えば、本実施の形態では、数式(3)に含まれる「パラメータα1」や「パラメータα2」を「<<未知のパラメータの決定>>」で説明した手法で算出する例について説明している。ただし、混練物の温度の時間発展を表す数式(3)を他の手法で近似することも可能である。具体的に、数式(3)は、数式(2)で表される粘度を数式(1)に代入し、時間を離散化することにより得られる以下の数式(7)で近似できる。
【0070】
【0071】
ここで、数式(7)に含まれるパラメータは、以下の通りである。
【0072】
A=hS/ρ/Cp/V
B=1/2/ρ/Cp×a×(dγ/dt)n+1
【0073】
そして、数式(7)に含まれる「パラメータA」および「パラメータB」は、
図2に示す実験データに合うようにフィッティングで決定することができる。例えば、実験データへのフィッティングは、最小二乗法や回帰分析法を使用して実施することができる。
【0074】
<実施の形態における特徴>
次に、本実施の形態における特徴点について説明する。
【0075】
本実施の形態における特徴点は、混練機で混練される混練物の温度の時間発展を表す数式(1)に含まれるパラメータを第1時刻から第2時刻までの実験データに基づいて決定した後、パラメータを決定した数式(1)によって、第2時刻よりも後の時刻における混練物の温度を推定する点にある。
【0076】
これにより、まず、以下に示す第1利点を得ることができる。すなわち、実験データに基づいてパラメータを決定した場合、この数式(1)に基づいて推定される混練物の温度は、混練物全体でみたときの平均的な値となる。すなわち、本実施の形態によるシミュレーション技術では、一般的な粒子法・有限要素法などによるシミュレーション技術とは異なり、要素分析を行わないことから、混練物の流れや物理量のばらつきを評価することができない。その一方で、本実施の形態における特徴点によれば、平均的な物理量だけを計算することから、多大な計算コストをかけることなく、混練条件を評価する際の重要な要素となる混練終了時の混練物の温度を推定することができる。つまり、本実施の形態における特徴点によれば、計算コストをかけずに、現状のシミュレーション技術では実現困難であった混練終了時の混練物の温度を推定できる点で大きな利点を有することになる。
【0077】
続いて、本実施の形態における特徴点によってもたらされる第2利点を説明する。
【0078】
例えば、混練物の温度の時間発展を表す数式(1)に数式(2)を代入して、混練物の温度を推定する場合、数式(1)に含まれる7つのパラメータ(「ρ」、「Cp」、「h」、「S」、「V」、「Tw」、「dγ/dt」)と数式(2)に含まれる3つのフィッティング係数(「a」、「b」、「n」)を決定しなければならない。
【0079】
この点に関し、本実施の形態では、まず、粘度とせん断速度の関係を示す数式(2)を数式(1)に代入した後、数式(1)を変形して数式(3)を得る。この数式(3)において混練物の温度を推定する場合、数式(3)の含まれる3つのパラメータ(「パラメータα1」と「パラメータα2」と「Tw」)と数式(2)に含まれる3つのフィッティング係数(「a」、「b」、「n」)を決定する必要がある。
【0080】
ただし、「パラメータα1」は、「h」と「S」と「ρ」と「Cp」と「V」とを含み、かつ、「パラメータα2」は、「ρ」と「Cp」と「dγ/dt」とを含んでいる。このことから、単に、パラメータを決定した数式(3)に基づいて、混練物の温度を推定する場合も、基本的には、パラメータを決定した数式(1)に基づいて混練物の温度を推定する場合と同様に、7つのパラメータ(「ρ」、「Cp」、「h」、「S」、「V」、「Tw」、「dγ/dt」)と3つのフィッティング係数(「a」、「b」、「n」)を決定する必要がある。
【0081】
ここで、本実施の形態における特徴点では、数式(3)に含まれるパラメータを決定する際に混練物の温度に関する実験データ(混練終了時までの実験データではなく、第1時刻から第2時刻までの部分的な実験データ)を使用する。この点が重要である。すなわち、本実施の形態では、混練物の温度に関する実験データに合うように数式(3)に含まれるパラメータを決定する。この場合、数式(3)に基づく混練物の温度の時間発展を解析するためには、物理的に意味のある7つのパラメータ(「ρ」、「Cp」、「h」、「S」、「V」、「Tw」、「dγ/dt」)のそれぞれをすべて決定する必要はなく、これらのパラメータの複合である「パラメータα1」および「パラメータα2」を混練物の温度に関する実験データから決定すれば充分である。つまり、パラメータの決定に混練物の温度に関する実験データを使用すると、数式(3)から混練物の温度を推定するためには、数式(3)に含まれる「パラメータα1」と「パラメータα2」と「Tw」だけを決定すればよい。
【0082】
このことから、本実施の形態における特徴点によれば、決定すべきパラメータの数を低減することができるため、すべてのパラメータを決定する作業を要することなく、数式(3)に基づいて混練物の温度を容易に推定することができる利点が得られる。
【0083】
この利点は、決定することが困難なパラメータが含まれている場合に特に有用である。例えば、混練物と混練槽との間の熱伝達係数を示す「h」や、混練槽内のせん断速度を示す「dγ/dt」は、決定することが困難である。この点に関し、本実施の形態における特徴点によれば、決定することが困難な「h」や「dγ/dt」を含む「パラメータα1」や「パラメータα2」を実験データに基づいて決定している。このため、実験データを使用してパラメータを決定するという本実施の形態における特徴点を採用すると、決定することが困難なパラメータが含まれる関係式の時間発展に基づいて、混練物の温度を推定することが容易となる。さらには、決定することが困難な「h」や「dγ/dt」は、実験データに合うように決定されることから、実際の「h」や「dγ/dt」を正確に反映した値が自動的に採用されることになる。このことから、本実施の形態における特徴点によれば、決定することが困難なパラメータを含む関係式に基づいて混練物の温度を推定することが容易になるだけでなく、実際の「h」や「dγ/dt」が正確に反映されることから、推定される混練物の温度の精度も向上できる。
【0084】
このように、実験データを使用してパラメータを決定するという本実施の形態における特徴点は、決定することが困難なパラメータを含む関係式の時間発展に基づいて、混練物の温度を推定するシミュレーション技術に適用すると特に有効であることがわかる。
【0085】
次に、本実施の形態における特徴点によってもたらされる第3利点を説明する。
【0086】
例えば、数式(3)に含まれる「パラメータα2」には、せん断速度を示す「dγ/dt」が含まれる。この「dγ/dt」は、ロータの回転速度に依存するため、本実施の形態のように実験データに基づいて「dγ/dt」を含む「パラメータα2」を決定すると、自動的にロータの回転速度が反映される。
【0087】
したがって、ロータの回転速度が異なるときの実験データに基づいて「パラメータα2」を決定する複数のシミュレーションを実施すると、これらの複数のシミュレーションからロータの回転速度と、「dγ/dt」を含む「パラメータα2」との関係を把握することができる。例えば、ロータの回転数が30[rpm]のときの実験データに基づいて「パラメータα2」を第1値に決定して混練物の温度を推定する第1シミュレーションを実施する。そして、ロータの回転数が50[rpm]のときの実験データに基づいて「パラメータα2」を第2値に決定して混練物の温度を推定する第2シミュレーションを実施する。すると、(ロータの回転数、「パラメータα2」)というデータの組として、(30[rpm]、第1値)と(50[rpm]、第2値)というデータの組を取得することができる。
【0088】
そして、ロータの回転速度が異なるときの実験データに基づいて「パラメータα2」を決定するシミュレーションをさらに実施すると、(ロータの回転数、「パラメータα2」)という複数のデータの組を取得できる。この結果、例えば、取得された(ロータの回転数、「パラメータα2」)という複数のデータの組を線形回帰することによって、ロータの回転数と「パラメータα2」との関係を導き出すことができる。
【0089】
この場合、例えば、ロータの回転数が未実施の回転数である場合においても、線形回帰したロータの回転数と「パラメータα2」との関係から、「パラメータα2」の値を決定することができる。このことは、本実施の形態における特徴点によれば、ロータの回転数が異なる混練条件でのシミュレーションを繰り返すことによって、最終的に、ロータの回転数が未実施の回転数であっても「パラメータα2」の値を決定することができることを意味する。このことから、本実施の形態によれば、未実施のロータの回転数で混練物を混練した場合における混練物の温度も推定可能となるという利点を得ることができる。
【0090】
<実施の形態で推定される物理量>
上述したように、本実施の形態におけるシミュレーションでは、推定する物理量として、混練物の温度を挙げている。ただし、本実施の形態における技術的思想は、混練物の温度だけでなく、混練物に関するその他の物理量を推定することもできる。
【0091】
例えば、混練物の粘度(η)やせん断応力(τ)やせん断応力の時間積分(Σ)などは、混練条件を評価する上で重要であり、本実施の形態におけるシミュレーションでは、混練物の温度だけでなく、これらの物理量も推定することができる。
【0092】
具体的に、混練物の粘度(η)は、数式(2)に基づいて算出することができる。
【0093】
また、せん断応力(τ)は、以下に示す数式(8)で求めることができる。
【0094】
【0095】
ここで、本実施の形態では、「パラメータα2」を決定していることから、さらに、「ρ」と「Cp」とが分かれば、数式(8)に含まれる「dγ/dt」を求めることができる。この結果、「ρ」と「Cp」とを実測したり、文献値を使用したりする必要があるが、本実施の形態におけるシミュレーションでは、せん断応力(τ)も推定することができる。
【0096】
さらに、せん断応力の時間積分(Σ)は、以下に示す数式(9)で求めることができる。
【0097】
【0098】
ここで、上述したように、本実施の形態におけるシミュレーションでは、せん断応力(τ)を推定することができることから、このせん断応力(τ)を時間積分することにより、せん断応力の時間積分(Σ)も推定することができる。
【0099】
<物理量推定装置の構成>
<<ハードウェア構成>>
以下では、まず、上述したシミュレーションを実行する本実施の形態おける物理量推定装置のハードウェア構成について説明する。
【0100】
図4は、本実施の形態における物理量推定装置100のハードウェア構成の一例を示す図である。なお、
図4に示す構成は、あくまでも物理量推定装置100のハードウェア構成の一例を示すものであり、物理量推定装置100のハードウェア構成は、
図4に記載されている構成に限らず、他の構成であってもよい。
【0101】
図4において、本実施の形態における物理量推定装置100は、プログラムを実行するCPU(Central Processing Unit)101を備えている。このCPU101は、バス113を介して、例えば、ROM(Read Only Memory)102、RAM(Random Access Memory)103、および、ハードディスク装置112と電気的に接続されており、これらのハードウェアデバイスを制御するように構成されている。
【0102】
また、CPU101は、バス113を介して入力装置や出力装置とも接続されている。入力装置の一例としては、キーボード105、マウス106、通信ボード107、および、スキャナ111などを挙げることができる。一方、出力装置の一例としては、ディスプレイ104、通信ボード107、および、プリンタ110などを挙げることができる。さらに、CPU101は、例えば、リムーバルディスク装置108やCD/DVD-ROM装置109と接続されていてもよい。
【0103】
物理量推定装置100は、例えば、ネットワークと接続されていてもよい。例えば、物理量推定装置100がネットワークを介して他の外部機器と接続されている場合、物理量推定装置100の一部を構成する通信ボード107は、LAN(ローカルエリアネットワーク)、WAN(ワイドエリアネットワーク)やインターネットに接続されている。
【0104】
RAM103は、揮発性メモリの一例であり、ROM102、リムーバルディスク装置108、CD/DVD-ROM装置109、ハードディスク装置112の記録媒体は、不揮発性メモリの一例である。これらの揮発性メモリや不揮発性メモリによって、物理量推定装置100の記憶装置が構成される。
【0105】
ハードディスク装置112には、例えば、オペレーティングシステム(OS)201、プログラム群202、および、ファイル群203が記憶されている。プログラム群202に含まれるプログラムは、CPU101がオペレーティングシステム201を利用しながら実行する。また、RAM103には、CPU101に実行させるオペレーティングシステム201のプログラムやアプリケーションプログラムの少なくとも一部が一次的に格納されるとともに、CPU101による処理に必要な各種データが格納される。
【0106】
ROM102には、BIOS(Basic Input Output System)プログラムが記憶され、ハードディスク装置112には、ブートプログラムが記憶されている。物理量推定装置100の起動時には、ROM102に記憶されているBIOSプログラムおよびハードディスク装置112に記憶されているブートプログラムが実行され、BIOSプログラムおよびブートプログラムにより、オペレーティングシステム201が起動される。
【0107】
プログラム群202には、物理量推定装置100の機能を実現するプログラムが記憶されており、このプログラムは、CPU101により読み出されて実行される。また、ファイル群203には、CPU101による処理の結果を示す情報、データ、信号値、変数値やパラメータがファイルの各項目として記憶されている。
【0108】
ファイルは、ハードディスク装置112やメモリなどの記録媒体に記憶される。ハードディスク装置112やメモリなどの記録媒体に記憶された情報、データ、信号値、変数値やパラメータは、CPU101によりメインメモリやキャッシュメモリに読み出され、抽出・検索・参照・比較・演算・処理・編集・出力・印刷・表示に代表されるCPU101の動作に使用される。例えば、上述したCPU101の動作の間、情報、データ、信号値、変数値やパラメータは、メインメモリ、レジスタ、キャッシュメモリ、バッファメモリなどに一次的に記憶される。
【0109】
物理量推定装置100の機能は、ROM102に記憶されたファームウェアで実現されていてもよいし、あるいは、ソフトウェアのみ、素子・デバイス・基板・配線に代表されるハードウェアのみ、ソフトウェアとハードウェアとの組み合わせ、さらには、ファームウェアとの組み合わせで実現されていてもよい。ファームウェアとソフトウェアは、プログラムとして、ハードディスク装置112、リムーバルディスク、CD-ROM、DVD-ROMなどに代表される記録媒体に記憶される。プログラムは、CPU101により読み出されて実行される。すなわち、プログラムは、コンピュータを物理量推定装置100として機能させるものである。
【0110】
このように、本実施の形態における物理量推定装置100は、処理装置であるCPU101、記憶装置であるハードディスク装置112やメモリ、入力装置であるキーボード105、マウス106、通信ボード107、出力装置であるディスプレイ104、プリンタ110、通信ボード107を備えるコンピュータである。そして、物理量推定装置100の機能は、処理装置、記憶装置、入力装置、および、出力装置を利用して実現される。
【0111】
<<機能ブロック構成>>
次に、物理量推定装置100の機能ブロック構成について説明する。
【0112】
図5は、物理量推定装置の機能を示す機能ブロック図である。
【0113】
図5において、物理量推定装置100は、入力部301と、パラメータ決定部302と、物理量推定部306と、出力部307と、データ記憶部308を有する。
【0114】
入力部301は、例えば、混練機で混練される混練物に関係する物理量の時間発展を表す関係式であって、混練機の混練槽または混練物に関係するパラメータを含む関係式を入力するように構成されている。例えば、この関係式としては、数式(1)(数式(3))で表される混練物のエネルギー保存式を挙げることができる。また、入力部301は、数式(2)で示される粘度とせん断速度との関係式も入力するように構成されている。さらに、入力部301は、複数の温度において実測されたせん断速度と粘度とのプロットデータ(測定データ)も入力するように構成されているとともに、第1時刻から第2時刻までの時間と混練物の温度との関係を示す実験データも入力するように構成されている。また、入力部301には、混練槽壁面の温度(「Tw」)に関するデータも入力するように構成されている。そして、入力部301は、数式(4)~数式(9)で示される関係式も入力するように構成されている。
【0115】
この入力部301に入力された数式(1)~数式(9)に示される関係式や、プロットデータ、実験データおよび混練槽壁面の温度(「Tw」)は、データ記憶部308に記憶される。なお、数式(1)~数式(9)に示される関係式や、プロットデータ、実験データおよび混練槽壁面の温度(「Tw」)は、予めデータ記憶部308に記憶されていてもよい。
【0116】
続いて、パラメータ決定部302は、以下に示す2つの機能を実現するように構成されている。すなわち、第1機能は、データ記憶部308に記憶されているプロットデータに基づいて、数式(2)に含まれる3つのフィッティング係数(「a」、「b」、「n」)を決定する機能である。また、第2機能は、データ記憶部308に記憶されている第1時刻から第2時刻までの実験データに基づいて、数式(3)に含まれる2つのパラメータ(「パラメータα1」、「パラメータα2」)の値を決定する機能である。
【0117】
第2機能を実現するにあたって、パラメータ決定部302は、フィッティング部303を有する。このフィッティング部303は、データ記憶部308に記憶されている実験データに基づいて、数式(2)で表される粘度を数式(1)に代入して得られる以下の数式(3)に含まれる「パラメータα1」と「パラメータα2」とをフィッティングにより決定するように構成されている。
【0118】
このフィッティング部303は、温度算出部304とパラメータ算出部305を有する。
【0119】
温度算出部304は、データ記憶部308に記憶されている実験データから第1時刻と第2時刻との間の時刻t
0、時刻t
1、時刻t
2のそれぞれにおける温度T
0、温度T
1、温度T
2を求めるように構成されている(
図2参照)。
【0120】
パラメータ算出部305は、数式(3)に基づいて導出される、温度T0から温度T1に対する以下に示す数式(5)と温度T1から温度T2に対する以下に示す数式(6)からなる連立方程式を解くことにより、「パラメータα1」と「パラメータα2」を算出するように構成されている。
【0121】
なお、パラメータ決定部302は、「<変形例>」を実現する場合には、以下に示すように構成されたフィッティング部303を有する。すなわち、「<変形例>」を実現するフィッティング部303は、データ記憶部308に記憶されている実験データに基づいて、数式(2)で表される粘度を数式(1)に代入し、時間を離散化することにより得られる数式(7)に含まれる「パラメータA」と「パラメータB」とをフィッティングにより決定するように構成されている。具体的に、このフィッティング部303は、数式(7)に含まれる「パラメータA」および「パラメータB」を最小二乗法または回帰分析法で決定するように構成されている。
【0122】
次に、物理量推定部306は、パラメータ決定部302で決定されたパラメータの値を代入した関係式によって表される混練物の温度の時間発展から、第2時刻よりも後の時刻における混練物の温度を推定するように構成されている。例えば、物理量推定部306は、パラメータ算出部305で算出された「パラメータα1」の値と「パラメータα2」の値を代入した数式(3)によって表される温度の時間発展に基づいて、第2時刻よりも後の時刻である混練終了時刻における温度を推定するように構成されている。
【0123】
なお、物理量推定部306は、混練物の温度以外の物理量を推定するように構成することもできる。例えば、数式(2)に基づく混練物の粘度の推定、数式(8)に基づくせん断応力の推定や数式(9)に基づくせん断応力の時間積分の推定を行うこともできる。
【0124】
そして、出力部307は、物理量推定部306で推定された物理量に関する情報を出力するように構成されている。例えば、出力部307は、物理量推定部306で推定された混練物の温度に関する情報を出力するように構成されている(
図3の破線参照)。
【0125】
<物理量推定方法(物理量推定装置の動作)>
物理量推定装置100は、上記のように構成されており、以下に、この物理量推定装置100を使用した物理量推定方法について、図面を参照しながら説明する。
【0126】
図6は、物理量推定方法を説明するフローチャートである。
【0127】
まず、数式(1)~数式(9)に示される関係式や、プロットデータ、実験データおよび混練槽壁面の温度(「Tw」)は、予めデータ記憶部308に記憶されているものとする。
【0128】
物理量推定装置100のパラメータ決定部302は、複数の温度において実測されたせん断速度と粘度とのプロットデータ(測定データ)に基づいて、数式(2)で示される曲線でフィッティングを行うことにより(S101)、数式(2)に含まれる3つのフィッティング係数(「a」、「b」、「n」)を決定する(S102)。
【0129】
次に、物理量推定装置100のパラメータ決定部302は、データ記憶部308に記憶されている実験データから第1時刻と第2時刻との間の時刻t0、時刻t1、時刻t2のそれぞれにおける温度T0、温度T1、温度T2を求めた後、求めた温度T0、温度T1、温度T2を使用して、数式(5)および数式(6)で示される連立方程式を算出する(S103)。その後、パラメータ決定部302は、数式(5)および数式(6)からなる連立方程式を解くことにより、パラメータ(「パラメータα1」と「パラメータα2」)を決定する(S104)。なお、パラメータ決定部302は、データ記憶部308に記憶されている実験データに基づいて、数式(7)に含まれる「パラメータA」と「パラメータB」とを例えば、最小二乗法や回帰分析法を使用することにより決定してもよい。
【0130】
続いて、物理量推定部306は、パラメータ決定部302で決定されたパラメータの値を代入した関係式によって表される混練物の温度の時間発展を決定し(S105)、決定した混練物の温度の時間発展に基づいて、指定された時刻における混練物の温度を推定する(S106)。例えば、物理量推定部306は、パラメータ算出部305で決定された「パラメータα1」の値と「パラメータα2」の値を代入した数式(3)によって表される温度の時間発展に基づいて、第2時刻よりも後の時刻である混練終了時刻における温度を推定する。
【0131】
その後、出力部307は、物理量推定部306で推定された物理量に関する情報を出力する(S107)。例えば、出力部307は、物理量推定部306で推定された混練物の温度に関する情報を出力する。
【0132】
以上のようにして、本実施の形態における物理量推定方法が実現される。
【0133】
以下では、「<<さらなる工夫点>>」に記載した方法を説明する。
【0134】
図7は、「<<さらなる工夫点>>」に記載した方法を説明するフローチャートである。
【0135】
図7において、まず、物理量推定装置100は、データ記憶部308に記憶されている混練物の温度に関する第1時刻から第2時刻までの実験データから温度-時間曲線を取得する(S201)。また、物理量推定装置100は、シミュレーションでの計算結果から把握される温度-時間曲線のうちの第1時刻から第2時刻までの温度-時間曲線も取得する(S202)。そして、物理量推定装置100は、実験データから把握される温度-時間曲線と、シミュレーションでの計算結果から把握される温度-時間曲線で囲まれる面積を算出する(S203)。続いて、物理量推定装置100は、算出した面積が所定値以下であるか否かを判断する(S204)。
【0136】
物理量推定装置100は、面積が所定値以下であると判断すると、処理を終了する。一方、物理量推定装置100は、面積が所定値以下ではないと判断すると、時刻t0、時刻t1、時刻t2のそれぞれの値を変更して、面積が所定値以下になるまで、温度算出部304による処理とパラメータ算出部305による処理とを繰り返す。
【0137】
具体的に、温度算出部304は、時刻t0、時刻t1、時刻t2のそれぞれの値を変更して、変更した新たな時刻t0、時刻t1、時刻t2のそれぞれにおける温度T0、温度T1、温度T2を求める。そして、パラメータ算出部305は、温度算出部304で再度新しく求めた温度T0、温度T1、温度T2を使用して数式(5)と数式(6)からなる連立方程式を解くことにより、「パラメータα1」と「パラメータα2」を再決定する(S205)。
【0138】
次に、物理量推定部306は、再決定された「パラメータα1」と「パラメータα2」に基づいて、混練物の温度の時間発展を決定する(S206)。そして、物理量推定装置100は、この混練物の温度の時間発展に基づくシミュレーションの計算結果から再度の新しい温度-時間曲線を取得する。その後は、実験データから把握される温度-時間曲線と、シミュレーションでの再計算結果から把握される温度-時間曲線で囲まれる面積を算出する処理と、算出した面積が所定値以下であるか否かを判断する処理とが繰り返される。
【0139】
以上のようにして、「<<さらなる工夫点>>」に記載した方法が実現される。
【0140】
<物理量推定プログラム>
上述した物理量推定装置100で実施される物理量推定方法は、物理量推定処理をコンピュータに実行させる物理量推定プログラムにより実現することができる。
【0141】
例えば、
図4に示すコンピュータからなる物理量推定装置100において、ハードディスク装置112に記憶されているプログラム群202の1つとして、本実施の形態における物理量推定プログラムを導入することができる。そして、この物理量推定プログラムを物理量推定装置100であるコンピュータに実行させることにより、本実施の形態における物理量推定方法を実現することができる。
【0142】
物理量推定処理に関するデータを作成するための各処理をコンピュータに実行させる物理量推定プログラムは、コンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録して頒布することができる。記録媒体には、例えば、ハードディスクやフレキシブルディスクに代表される磁気記憶媒体、CD-ROMやDVD-ROMに代表される光学記憶媒体、ROMやEEPROMなどの不揮発性メモリに代表されるハードウェアデバイスなどが含まれる。
【0143】
以上、本発明者によってなされた発明をその実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0144】
1 混練機
10 混練槽
10a 空洞部
11a ロータ
11b ロータ
12 混練物
13 上蓋
100 物理量推定装置
101 CPU
102 ROM
103 RAM
104 ディスプレイ
105 キーボード
106 マウス
107 通信ボード
108 リムーバルディスク装置
109 CD/DVD-ROM装置
110 プリンタ
111 スキャナ
112 ハードディスク装置
201 OS
202 プログラム群
203 ファイル群
301 入力部
302 パラメータ決定部
303 フィッティング部
304 温度算出部
305 パラメータ算出部
306 物理量推定部
307 出力部
308 データ記憶部