(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-09
(45)【発行日】2024-07-18
(54)【発明の名称】インクジェット記録装置及びその制御方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20240710BHJP
B41J 2/17 20060101ALI20240710BHJP
B41J 2/165 20060101ALI20240710BHJP
【FI】
B41J2/01 213
B41J2/01 303
B41J2/01 305
B41J2/01 451
B41J2/01 401
B41J2/17 207
B41J2/165 207
(21)【出願番号】P 2020116644
(22)【出願日】2020-07-06
【審査請求日】2023-07-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】栗山 恵司
(72)【発明者】
【氏名】和田 聡
(72)【発明者】
【氏名】神田 英彦
(72)【発明者】
【氏名】中島 芳紀
(72)【発明者】
【氏名】矢澤 剛
(72)【発明者】
【氏名】永井 肇
(72)【発明者】
【氏名】西岡 真吾
【審査官】岩本 太一
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-221405(JP,A)
【文献】特開2016-221720(JP,A)
【文献】特開2006-015542(JP,A)
【文献】特開2015-189095(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0024531(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出する複数の吐出口が形成された記録ヘッドと、
前記記録ヘッドを搭載し所定の方向に往復移動するキャリッジと、
前記記録ヘッドから吐出されたインク液滴によって画像が記録される記録媒体を搬送する搬送手段と、
前記所定の方向に延在し、前記記録ヘッドによる記録位置において前記搬送手段により搬送された前記記録媒体を支持するプラテンと、
前記キャリッジに設けられ、前記所定の方向に複数の位置で前記プラテンの上において前記記録ヘッドの吐出口面から前記記録媒体までの距離の情報を取得する取得手段と、を有するインクジェット記録装置であって、
前記キャリッジがある方向に移動しながら前記記録ヘッドからインク吐出することで前記プラテンの第1の位置の上の前記記録媒体の単位領域に画像を記録した後、前記搬送手段によって前記記録媒体の前記単位領域が前記プラテンの前記第1の位置とは前記搬送手段による搬送方向に異なる位置である第2の位置の上にくるように搬送し、該搬送された前記記録媒体上を前記キャリッジがある方向に移動しながら前記記録ヘッドからインクを吐出することによって前記単位領域とは少なくとも一部が異なる領域に画像を記録し、前記取得手段によって取得された前記距離の情報と、前記単位領域に画像を記録するための前記キャリッジが移動する回数である記録のパス数と対応する情報とに従って、前記記録ヘッドからのインクの吐出タイミングを制御する制御手段と
、
前記複数の吐出口によって前記所定の方向とは交差する方向に形成される吐出口列の中央において前記距離を測定する第1のセンサを含む測定手段と、を有
し、
前記取得手段は、前記測定手段によって測定された前記距離を取得し、
前記制御手段は、
第1のパス数で記録を行う場合、前記第1のセンサにより測定された前記吐出口列の中央における前記距離から前記吐出口列の端部における前記距離を補正し、該補正された距離に基づいて、前記吐出口列の端部に位置する吐出口からのインクの吐出タイミングを制御し、
第2のパス数で記録を行う場合、前記第1のセンサにより測定された前記吐出口列の中央における前記距離に基づいて、前記吐出タイミングを制御することを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記記録のパス数とは、第1のパス数と第2のパス数とを含むことを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記第1のパス数の記録は1パス記録であり、
前記第2のパス数の記録は複数パス記録であることを特徴とする請求項2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記第1のパス数での画像の記録における前記キャリッジの速度と、前記第2のパス数での画像の記録における前記キャリッジの速度は同じ速度であることを特徴とする請求項2又は3に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
第1のパス数で前記第1の位置に記録を行う場合には、前記制御手段は前記取得手段が取得した前記第1の位置における前記距離に従って前記記録ヘッドからのインクの吐出タイミングを制御し、
第2のパス数で前記第1の位置に記録を行う場合には、前記制御手段は前記取得手段が取得した前記所定の方向において前記第2の位置における前記距離に従って前記記録ヘッドからのインクの吐出タイミングを制御することを特徴とする
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記記録媒体の種類として、普通紙とコート紙とを含み、
前記制御手段は、
前記記録媒体の種類が普通紙であり、かつ、前記第1のパス数で記録を行う場合、前記補正された距離に基づいて、前記吐出口列の端部に位置する吐出口からのインクの吐出タイミングを変更するよう制御し、
前記記録媒体の種類がコート紙であるか、或いは、前記第2のパス数で記録を行うかの少なくともいずれかである場合、前記吐出口列の中央における前記距離に基づいて、前記吐出タイミングを制御することを特徴とする
請求項1乃至5のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
前記制御手段は、前記距離が第1の距離である前記記録媒体の領域に対してインクを吐出するタイミングよりも、前記距離が前記第1の距離よりも距離が大きい第2の距離である前記記録媒体の領域に対してインクを吐出するタイミングの方が早くなるように吐出を制御することを特徴とする
請求項1乃至6のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項8】
前記プラテンには、前記所定の方向に関し、予め定められた位置に前記記録ヘッドから吐出された排インクを受けて回収する受け口が設けられており、
前記制御手段は、前記受け口が設けられた位置における前記吐出タイミングを制御することを特徴とする
請求項1乃至7のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項9】
前記受け口は、使用が可能な前記記録媒体のサイズに基づいて、複数の位置に設けられており、
それぞれの位置に設けられた前記受け口は、使用される記録媒体に関して前記記録ヘッドから予備吐出がなされる場合の排インクの受け口として用いられることを特徴とする
請求項8に記載のインクジェット記録装置。
【請求項10】
前記キャリッジの前記所定の方向に関する位置を検出する検出手段をさらに有することを特徴とする
請求項1乃至9のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項11】
前記プラテンには、空気を吸引して前記記録媒体を吸着させるために複数の穴が形成されていることを特徴とする
請求項1乃至10のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項12】
インクを吐出する複数の吐出口が形成された記録ヘッドと、
前記記録ヘッドを搭載し所定の方向に往復移動するキャリッジと、
前記記録ヘッドから吐出されたインク液滴によって画像が記録される記録媒体を搬送する搬送手段と、
前記所定の方向に延在し、前記記録ヘッドによる記録位置において前記搬送手段により搬送された前記記録媒体を支持するプラテンと、
前記キャリッジに設けられ、前記所定の方向に複数の位置で前記プラテンの上において前記記録ヘッドの吐出口面から前記記録媒体までの距離の情報を取得する取得手段と、を有するインクジェット記録装置であって、
前記キャリッジがある方向に移動しながら前記記録ヘッドからインク吐出することで前記プラテンの第1の位置の上の前記記録媒体の単位領域に画像を記録した後、前記搬送手段によって前記記録媒体の前記単位領域が前記プラテンの前記第1の位置とは前記搬送手段による搬送方向に異なる位置である第2の位置の上にくるように搬送し、該搬送された前記記録媒体上を前記キャリッジがある方向に移動しながら前記記録ヘッドからインクを吐出することによって前記単位領域とは少なくとも一部が異なる領域に画像を記録し、前記取得手段によって取得された前記距離の情報と、前記単位領域に画像を記録するための前記キャリッジが移動する回数である記録のパス数と対応する情報とに従って、前記記録ヘッドからのインクの吐出タイミングを制御する制御手段と、
前記複数の吐出口によって前記所定の方向とは交差する方向に形成される吐出口列の中央において前記距離を測定する第1のセンサ、前記吐出口列の端部において前記距離を測定する第2のセンサを含む測定手段と、を有し、
前記取得手段は、前記測定手段によって測定された前記距離を取得し、
前記記録媒体の種類として、普通紙とコート紙とを含み、
前記制御手段は、
前記記録媒体の種類が普通紙であり、かつ、第1のパス数で記録を行う場合、前記第2のセンサにより測定された前記吐出口列の端部における前記距離に基づいて、前記吐出口列の端部に位置する吐出口からのインクの吐出タイミングを制御し、
前記記録媒体の種類がコート紙であるか、或いは、第2のパス数で記録を行うかの少なくともいずれかである場合、前記第1のセンサにより測定された前記吐出口列の中央における前記距離に基づいて、前記吐出タイミングを制御する、
ことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項13】
インクを吐出する複数の吐出口が形成された記録ヘッドと、
前記記録ヘッドを搭載し所定の方向に往復移動するキャリッジと、
前記記録ヘッドから吐出されたインク液滴によって画像が記録される記録媒体を搬送する搬送手段と、
前記所定の方向に延在し、前記記録ヘッドによる記録位置において前記搬送手段により搬送された前記記録媒体を支持し、前記所定の方向に関し、予め定められた位置に前記記録ヘッドから吐出された排インクを受け、インクを回収する回収口を備えた受け口が設けられたプラテンと、
前記キャリッジに設けられ、前記所定の方向に複数の位置で前記プラテンの上において前記記録ヘッドの吐出口面から前記記録媒体までの距離の情報を取得する取得手段と、を有するインクジェット記録装置であって、
前記キャリッジがある方向に移動しながら前記記録ヘッドからインク吐出することで前記プラテンの第1の位置の上の前記記録媒体の単位領域に画像を記録した後、前記搬送手段によって前記記録媒体の前記単位領域が前記プラテンの前記第1の位置とは前記搬送手段による搬送方向に異なる位置である第2の位置の上にくるように搬送し、該搬送された前記記録媒体上を前記キャリッジがある方向に移動しながら前記記録ヘッドからインクを吐出することによって前記単位領域とは少なくとも一部が異なる領域に画像を記録し、前記取得手段によって取得された前記距離の情報と、前記単位領域に画像を記録するための前記キャリッジが移動する回数である記録のパス数と対応する情報とに従って、前記記録ヘッドからのインクの吐出タイミングを制御する制御手段と、
前記回収口が備えられた位置において前記距離を測定する第1のセンサを含む測定手段を有し、
前記取得手段は、前記測定手段によって測定された前記距離を取得し、
前記制御手段は、
第1のパス数で記録を行う場合、前記第1のセンサにより測定された前記回収口が備えられた位置における前記距離から、前記プラテンの前記回収口が備えられた位置とは異なる位置と対向する前記複数の吐出口によって前記所定の方向とは交差する方向に形成される吐出口列の吐出口における前記距離を補正し、該補正された距離に基づいて、前記吐出口列の前記異なる位置と対向する吐出口からのインクの吐出タイミングを変更するように制御し、
第2のパス数で記録を行う場合、前記第1のセンサにより測定された前記回収口が備えられた位置における前記距離に基づいて、前記吐出タイミングを制御する、
ことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項14】
インクを吐出する複数の吐出口が形成された記録ヘッドと、
前記記録ヘッドを搭載し所定の方向に往復移動するキャリッジと、
前記記録ヘッドから吐出されたインク液滴によって画像が記録される記録媒体を搬送する搬送手段と、
前記所定の方向に延在し、前記記録ヘッドによる記録位置において前記搬送手段により搬送された前記記録媒体を支持するプラテンと、
前記キャリッジに設けられ、前記所定の方向に複数の位置で前記プラテンの上において前記記録ヘッドの吐出口面から前記記録媒体までの距離の情報を取得する取得手段と、
前記複数の吐出口によって前記所定の方向とは交差する方向に形成される吐出口列の中央において前記距離を測定する第1のセンサを含む測定手段と、を有
し、
前記取得手段は、前記測定手段によって測定された前記距離を取得する、インクジェット記録装置の制御方法であって、 前記キャリッジがある方向に移動しながら前記記録ヘッドからインク吐出することで前記プラテンの第1の位置の上の前記記録媒体の単位領域に画像を記録した後、前記搬送手段によって前記記録媒体の前記単位領域が前記プラテンの前記第1の位置とは前記搬送手段による搬送方向に異なる位置である第2の位置の上にくるように搬送し、該搬送された前記記録媒体上を前記キャリッジがある方向に移動しながら前記記録ヘッドからインクを吐出することによって前記単位領域とは少なくとも一部が異なる領域に画像を記録し、前記取得手段によって取得された前記距離の情報と、前記単位領域に画像を記録するための前記キャリッジが移動する回数である記録のパス数と対応する情報とに従って、前記記録ヘッドからのインクの吐出タイミングを制御する
ことであって、
第1のパス数で記録を行う場合、前記第1のセンサにより測定された前記吐出口列の中央における前記距離から前記吐出口列の端部における前記距離を補正し、該補正された距離に基づいて、前記吐出口列の端部に位置する吐出口からのインクの吐出タイミングを制御し、
第2のパス数で記録を行う場合、前記第1のセンサにより測定された前記吐出口列の中央における前記距離に基づいて、前記吐出タイミングを制御する、
制御することを特徴とする制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェット記録装置及びその制御方法に関し、特に、例えば、記録ヘッドを搭載したキャリッジを往復走査しながら記録を行うインクジェット記録装置及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、紙、フィルム等の各種記録媒体に画像を記録する記録装置として、インクを断続的に吐出して記録を行うインクジェット記録装置が知られている。そのインクジェット記録装置では、インクを吐出する記録ヘッドを搭載したキャリッジを往復移動させながら、その記録ヘッドからインクを吐出して記録媒体上に画像を記録する。そのため、記録ヘッドから吐出されたインク滴は、慣性の法則により、インク滴を吐出した時の吐出口位置よりも移動方向に関して下流位置で記録媒体に着弾する。その着弾位置は、記録ヘッドの移動速度やインク滴の吐出速度以外にインク滴を吐出する吐出口と記録媒体との距離(以下、紙間)によって変化する。
【0003】
このため、記録媒体の目標着弾位置にインク滴を着弾させるためには、紙間に基づいてインク滴の吐出タイミングを調整する必要がある。一方で、記録媒体を保持するためのプラテンに要求される機能が多様化しており、記録媒体を安定的に保持するための吸引機構や、フチ無し印刷や記録中のインク吐出安定化するための予備吐出のための排インク受け口(以下、フチなし予備吐口)を設けている。
【0004】
例えば、特許文献1は、紙間の基準位置からの変位情報に基づいて吐出タイミングを制御することで着弾位置を補正する技術を開示している。また、特許文献2は、記録ヘッド移動方向の異なる位置に設けられた複数の吐出口それぞれの位置で検出された紙間に基づいて、インク滴の吐出タイミングを制御する技術を開示している。これらの技術により、記録ヘッドの移動方向の紙間に対する吐出タイミングを制御することを可能にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平11-240146号公報
【文献】特開2006-15542号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら上記フチなし予備吐口において、剛性の弱い普通紙等では記録ヘッドの移動方向と直交する吐出口列方向に紙間が変動してしまい、吐出口毎の適切な吐出タイミングが異なってしまうという問題があった。
【0007】
例えば、フチなし予備吐口が記録ヘッドの吐出口列方向に吐出口列の長さよりも十分長い長さを長辺とした長方形の溝で形成されている構成では、フチなし予備吐口の溝の上、また、その近傍に位置する記録媒体が変形する。吐出口列の中央部付近では記録媒体の記録ヘッドの移動方向の凹みが大きくなり、吐出口列の端部では記録ヘッドの移動方向の記録媒体の凹みが小さくなる。その結果、吐出口列方向で記録ヘッドの移動方向に関する紙間変化が異なり、吐出タイミングが異なってしまう。
【0008】
本発明は上記従来例に鑑みてなされたもので、記録媒体に高品位な画像の記録が可能なインクジェット記録装置及びその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明のインクジェット記録装置は、次のような構成からなる。
【0010】
即ち、インクを吐出する複数の吐出口が形成された記録ヘッドと、前記記録ヘッドを搭載し所定の方向に往復移動するキャリッジと、前記記録ヘッドから吐出されたインク液滴によって画像が記録される記録媒体を搬送する搬送手段と、前記所定の方向に延在し、前記記録ヘッドによる記録位置において前記搬送手段により搬送された前記記録媒体を支持するプラテンと、前記キャリッジに設けられ、前記所定の方向に複数の位置で前記プラテンの上において前記記録ヘッドの吐出口面から前記記録媒体までの距離の情報を取得する取得手段と、を有するインクジェット記録装置であって、前記キャリッジがある方向に移動しながら前記記録ヘッドからインク吐出することで前記プラテンの第1の位置の上の前記記録媒体の単位領域に画像を記録した後、前記搬送手段によって前記記録媒体の前記単位領域が前記プラテンの前記第1の位置とは前記搬送手段による搬送方向に異なる位置である第2の位置の上にくるように搬送し、該搬送された前記記録媒体上を前記キャリッジがある方向に移動しながら前記記録ヘッドからインクを吐出することによって前記単位領域とは少なくとも一部が異なる領域に画像を記録し、前記取得手段によって取得された前記距離の情報と、前記単位領域に画像を記録するための前記キャリッジが移動する回数である記録のパス数と対応する情報とに従って、前記記録ヘッドからのインクの吐出タイミングを制御する制御手段と、前記複数の吐出口によって前記所定の方向とは交差する方向に形成される吐出口列の中央において前記距離を測定する第1のセンサを含む測定手段と、を有し、前記取得手段は、前記測定手段によって測定された前記距離を取得し、前記制御手段は、第1のパス数で記録を行う場合、前記第1のセンサにより測定された前記吐出口列の中央における前記距離から前記吐出口列の端部における前記距離を補正し、該補正された距離に基づいて、前記吐出口列の端部に位置する吐出口からのインクの吐出タイミングを制御し、第2のパス数で記録を行う場合、前記第1のセンサにより測定された前記吐出口列の中央における前記距離に基づいて、前記吐出タイミングを制御することを特徴とする。
【0012】
また本発明を別の側面から見れば、インクを吐出する複数の吐出口が形成された記録ヘッドと、前記記録ヘッドを搭載し所定の方向に往復移動するキャリッジと、前記記録ヘッドから吐出されたインク液滴によって画像が記録される記録媒体を搬送する搬送手段と、前記所定の方向に延在し、前記記録ヘッドによる記録位置において前記搬送手段により搬送された前記記録媒体を支持するプラテンと、前記キャリッジに設けられ、前記所定の方向に複数の位置で前記プラテンの上において前記記録ヘッドの吐出口面から前記記録媒体までの距離の情報を取得する取得手段と、前記複数の吐出口によって前記所定の方向とは交差する方向に形成される吐出口列の中央において前記距離を測定する第1のセンサを含む測定手段と、を有し、前記取得手段は、前記測定手段によって測定された前記距離を取得する、インクジェット記録装置の制御方法であって、前記キャリッジがある方向に移動しながら前記記録ヘッドからインク吐出することで前記プラテンの第1の位置の上の前記記録媒体の単位領域に画像を記録した後、前記搬送手段によって前記記録媒体の前記単位領域が前記プラテンの前記第1の位置とは前記搬送手段による搬送方向に異なる位置である第2の位置の上にくるように搬送し、該搬送された前記記録媒体上を前記キャリッジがある方向に移動しながら前記記録ヘッドからインクを吐出することによって前記単位領域とは少なくとも一部が異なる領域に画像を記録し、前記取得手段によって取得された前記距離の情報と、前記単位領域に画像を記録するための前記キャリッジが移動する回数である記録のパス数と対応する情報とに従って、前記記録ヘッドからのインクの吐出タイミングを制御することであって、第1のパス数で記録を行う場合、前記第1のセンサにより測定された前記吐出口列の中央における前記距離から前記吐出口列の端部における前記距離を補正し、該補正された距離に基づいて、前記吐出口列の端部に位置する吐出口からのインクの吐出タイミングを制御し、第2のパス数で記録を行う場合、前記第1のセンサにより測定された前記吐出口列の中央における前記距離に基づいて、前記吐出タイミングを制御する、制御することを特徴とする制御方法を備える。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、記録ヘッドから記録媒体までの距離の変動に起因する吐出されるインク液滴の着弾ズレを考慮して適切な吐出タイミング制御を行うことができるので、高品位な画像の記録が可能になるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の代表的な実施例であるインクジェット記録装置の概略構成を示す外観斜視図である。
【
図2】
図1に示した記録装置の制御構成を示すブロック図である。
【
図3】記録ヘッドのインク吐出面に設けられた吐出口列の構成を示す図である。
【
図4】
図1に示した反射型光学センサによる紙間測定を説明するための模式図である。
【
図5】記録ヘッドの吐出口列と反射型光学センサの位置関係を示す図である。
【
図6】エンコーダが出力する位置信号と吐出タイミング信号と記録媒体における着弾位置との関係を示す図である。
【
図8】記録媒体の搬送時の記録ヘッドの吐出口列の中央部付近と吐出口列の端部付近におけるキャリッジ移動方向(X方向)の記録媒体の紙間変動を示す図である。
【
図9】記録ヘッドによる1パス記録と2パス記録を説明する図である。
【
図10】予備吐口をZ方向から見たプラテンの上面図とX方向から見たプラテンの断面図と記録媒体Pの挙動と、予備吐口の2つの異なる位置における往復記録時のインク液滴の着弾位置を示す図である。
【
図11】反射型光学センサで検出した紙間挙動と吐出タイミング算出方法を説明する図である。
【
図12】種類の異なる記録媒体を搬送した時の記録ヘッドの吐出口列の中央部付近と吐出口列の端部付近におけるキャリッジ移動方向(X方向)の記録媒体の紙間変動を示す図である。
【
図13】吐出タイミング補正選択の処理を示すフローチャートである。
【
図14】記録ヘッドと複数の反射型光学センサの取り付け位置の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下添付図面を参照して本発明の好適な実施形態について、さらに具体的かつ詳細に説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には、複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられても良い。さらに添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0016】
なお、この明細書において、「記録」(「プリント」という場合もある)とは、文字、図形等有意の情報を形成する場合のみならず、有意無意を問わない。また人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かを問わず、広く記録媒体上に画像、模様、パターン等を形成する、または媒体の加工を行う場合も表すものとする。
【0017】
また、「記録媒体」とは、一般的な記録装置で用いられる紙のみならず、広く、布、プラスチック・フィルム、金属板、ガラス、セラミックス、木材、皮革等、インクを受容可能なものも表すものとする。
【0018】
さらに、「インク」(「液体」と言う場合もある)とは、上記「記録(プリント)」の定義と同様広く解釈されるべきものである。従って、記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成または記録媒体の加工、或いはインクの処理(例えば記録媒体に付与されるインク中の色剤の凝固または不溶化)に供され得る液体を表すものとする。
【0019】
またさらに、「ノズル」とは、特にことわらない限り吐出口ないしこれに連通する液路およびインク吐出に利用されるエネルギーを発生する素子を総括して言うものとする。
【0020】
以下に用いる記録ヘッド用基板(ヘッド基板)とは、シリコン半導体からなる単なる基体を指し示すものではなく、各素子や配線等が設けられた構成を差し示すものである。
【0021】
さらに、基板上とは、単に素子基板の上を指し示すだけでなく、素子基板の表面、表面近傍の素子基板内部側をも示すものである。また、本発明でいう「作り込み(built-in)」とは、別体の各素子を単に基体表面上に別体として配置することを指し示している言葉ではなく、各素子を半導体回路の製造工程等によって素子板上に一体的に形成、製造することを示すものである。
【0022】
<記録装置の概要(
図1~
図4)>
図1は本発明の代表的な実施例であるインクジェット記録装置(以下、記録装置)の概観斜視図である。これはいわゆるシリアル走査型のプリンタであり、記録媒体Pの搬送方向(Y方向)に対して直交する方向(X方向)に、キャリッジ102に搭載した記録ヘッド105を走査して画像を記録する。また、
図2は、
図1に示した記録装置における制御構成を示すブロック図である。
【0023】
ここで、
図1~
図2を参照してこの記録装置の構成と記録動作の概略を説明する。
【0024】
まず、搬送モータ209によりギヤを介して駆動される搬送ローラによって記録媒体Pを保持しているスプール101より記録媒体PがY方向に搬送される。一方、所定の搬送位置においてキャリッジモータ208によりキャリッジ102をX方向に延在するガイドシャフト103に沿って往復走査させる。この往復走査において、+X方向を往路とし、-X方向の復路とする。そして、この走査過程でガイドシャフト103に平行に設けられたスリットをエンコーダ106が読取ることによって得られるエンコーダ信号に基づいたタイミングと同期をとり、記録ヘッド105の吐出口からインク液滴を吐出して記録媒体Pに画像を記録する。また、キャリッジ102には記録ヘッド105の吐出口が形成された吐出口面から記録媒体Pまでの距離である紙間を測定するための反射型光学センサ107が取り付けられている。
【0025】
この実施例では、記録ヘッド105の吐出口面と反射型光学センサ107のZ方向の高さは同じである。記録ヘッド105と同様にキャリッジ往復走査の過程でエンコーダ106によって得られる位置信号に基づいたタイミングと同期をとり、キャリッジ102の位置に対応した検出信号を処理する。なお、キャリッジモータ208からキャリッジ102への駆動力の伝達には、キャリッジベルトを用いることができる。しかし、キャリッジベルトの代わりに、例えば、キャリッジモータ208により回転駆動され、X方向に延在するリードスクリューと、キャリッジ102に設けられたリードスクリューの溝に係合する係合部とを備える構成など、他の駆動方式を用いても良い。なお、上記往復走査は、キャリッジのホームポジションから離れる方向(往路方向)へキャリッジが移動する動作とキャリッジのホームポジションに向かう方向(復路方向)へキャリッジが移動する動作とを含む。
【0026】
給送された記録媒体Pは、給紙ローラ(不図示)とピンチローラ(不図示)とに挟持搬送されて、プラテン104上の記録位置(記録ヘッドの走査領域)に導かれる。通常、休止状態では記録ヘッド105のインク吐出面はキャッピングされているため、記録に先立ってキャップ(不図示)を開放してキャリッジ102を走査可能状態にする。その後、1走査分のデータがバッファに蓄積されたらキャリッジモータ208によりキャリッジ102を走査させ、上述のように記録を行う。
【0027】
コントローラ200には、例えば、マイクロ・コンピュータ形態のCPU201、プログラムや所要のテーブルその他の固定データを格納するROM202、および画像データを展開する領域や作業用の領域等が設けられるRAM203が備えられる。一方、ホスト装置210は画像データの供給源であり、記録に係る画像等のデータの作成、および処理等を行うコンピュータの形態の他、画像読取り用のスキャナ、デジタルカメラ等の形態であってもよい。画像データ、その他のコマンド、およびステータス信号等は、インタフェース(I/F)211を介してコントローラ200と送受信される。電源スイッチ212は記録装置への電力供給をON/OFFする。
【0028】
モータドライバ205は、キャリッジモータ208を駆動するためのドライバであり、モータドライバ206は、搬送モータ209を駆動するためのドライバである。ヘッドドライバ204は、記録データ等に応じて記録ヘッド105を駆動するドライバである。ヘッドドライバ204は、記録データを記録ヘッド105の吐出口に対応させて整列させるシフトレジスタ、適宜のタイミングでラッチするラッチ回路、および駆動タイミング信号に同期して吐出口毎に配置されているヒータを駆動する論理回路を含む。
【0029】
CPU201は、エンコーダ106からの位置信号と反射型光学センサ107からの紙間情報に基づいて記録位置調整のための調整値をRAM203に格納する。CPU201は、RAM203に格納された調整値を用いて、ヘッドドライバ204を介して記録ヘッド105によるインク液滴の吐出タイミングを制御し記録位置の調整を行う。
【0030】
また、キャリッジ102のホームポジションの近傍には、記録ヘッド105の回復動作を行う回復ユニット207が設けられている。
【0031】
図3は記録ヘッド105のインク吐出面に設けられた吐出口列の構成を示す図である。
【0032】
図3に示されているように、記録ヘッド105には、インクを吐出する複数の吐出口300が2つの列(以下、吐出口列)301、302を成すように形成されている。吐出口列301、302は、記録媒体が搬送されるY方向(副走査方向)に延在する。なお、吐出口列の方向はY方向と必ずしも一致していなくても良く、Y方向と交差する方向であっても良い。
【0033】
吐出口300は、吐出口列301、302夫々において、解像度600dpiに相当する間隔をピッチPyとして、640個ずつ形成されている。また、吐出口列301の吐出口300と吐出口列302の吐出口300は、Y方向に解像度1200dpiに相当する半ピッチ(Py/2)ずらされて形成されている。吐出口列301、302の一方には、Y方向において奇数番目に位置する奇数吐出口が配列され、他方には、偶数番目に位置する偶数吐出口列が配列されている。X方向は、記録ヘッド105が往復移動する方向である。
【0034】
そして、これら2列の計1280個の吐出口300から同色インクを吐出することにより、Y方向におけるドット密度を1200dpiとして、画像を記録することができる。また、
図3において、吐出口の全体長をLとし、吐出口の番号は+Y方向から#0、#1、#2、#3、……、#1278、#1279とする。
【0035】
図4は、
図1に示した反射型光学センサ107による紙間測定を説明するための模式図である。
【0036】
反射型光学センサ107は上述したようにキャリッジ102に取り付けられており、
図4に示すように、発光部401と受光部402とを有する。そして、発光部401から照射された光403は発光部401に対向する記録媒体Pによって反射され、その反射光404は記録媒体Pに対向する受光部402によって検出することができる。受光部402で得られる反射光404の検出信号(アナログ信号)は、フレキシブルケーブル(不図示)を介して記録装置のコントローラ200に伝えられる。そして、コントローラ200に内蔵されたA/D変換器(不図示)によってデジタル信号に変換され紙間情報としてRAM203に格納される。
【0037】
次に、以上のような構成の記録装置と記録ヘッドとを用いた紙間調整処理を行った記録制御のいくつか実施例について説明する。
【実施例1】
【0038】
図5は記録ヘッド105の吐出口列と反射型光学センサ107の位置関係を示す図である。
図5に示されているように、反射型光学センサ107は、吐出口#0~#1279(全体長L)に対してほぼ中央部に配置されている。
【0039】
図6はエンコーダ106が出力する位置信号と吐出タイミング信号と記録媒体Pにおける着弾位置との関係を示す図である。
【0040】
図6において、(a)はエンコーダ106が出力する位置信号、即ち、X方向に関するキャリッジ102の位置を示すエンコーダ信号を示し、(b)はエンコーダ信号に同期した記録ヘッド105からのインク吐出タイミングを示す吐出タイミング信号である。
図6(a)と
図6(b)では、3種類の吐出タイミング信号の例を示している。左から一つめは、エンコーダ信号に合わせて吐出タイミング信号を送信している例であり、二つめは、吐出タイミング信号がエンコーダ信号に対して時間dT1だけ早い例である。さらに、三つめは、吐出タイミング信号がエンコーダ信号に対して時間dT2だけ遅延している例である。
【0041】
図6(c)は記録媒体Pは3種類の紙間に対する着弾位置を示している。特に、
図6(c)には、記録ヘッド105が+X方向に速度Vcrで移動している時に吐出速度Vfでインク滴を吐出した際のインク滴の飛翔方向と記録媒体Pの着弾位置を示している。そして、
図6(c)において、601は基準となる紙間であり、エンコーダ信号と吐出タイミング信号とは同期しており、キャリッジ速度Vcrとインク吐出速度Vfとの合成ベクトル方向にインク滴が飛翔した結果、目標着弾位置600に着弾する。
【0042】
また、紙間が基準より狭い位置602にある時、インク液滴は着弾目標位置に対して-X方向に着弾するため、目標着弾位置とのズレ量(d2)に相当する吐出タイミングdT2分だけ遅延させる必要がある。これに対して、紙間が基準より広い位置603にある時、インク液滴は着弾目標位置に対して+X方向に着弾するため、目標着弾位置とのズレ量(d1)に相当する吐出タイミングdT1分だけ早める必要がある。
【0043】
ここで、基準紙間601と紙間602との距離をGap2、基準紙間601と紙間603との距離をGap1とした時、dT1およびdT2は、次のように算出される。即ち、
dT1=d1/Vcr=(Gap1/Vf×Vcr)/Vcr=Gap1/Vf
dT2=d2/Vcr=(Gap2/Vf×Vcr)/Vcr=Gap2/Vf
となる。
【0044】
例えば、Gap1=Gap2=200μm、Vf=10m/秒、Vcr=25インチ/秒とするとdT1=-20μ秒、dT2=+20μ秒となる。このように基準となる紙間からの差分紙間情報に基づいてエンコーダ信号に対する吐出タイミング信号をずらすことで目標着弾位置にインク滴を着弾させることが可能になる。
【0045】
【0046】
図7において、(a)はZ方向から見たプラテンの上面図、(b)は(a)に示した点線701に沿った断面をY方向から見た断面図、(c)は(a)に示した点線705に沿った断面をX方向から見た断面図である。
図7(a)と
図7(b)に示されているプラテン104に形成された複数の穴702を通して空気を吸引することで記録媒体Pを吸着させ保持する。また、
図7(a)において、700は記録媒体のサイズ(幅)によらず、記録媒体の端部となるX方向の原点を示している。
【0047】
また、
図7(a)に示されているように、複数の用紙幅に合わせて、X方向に幅10mmの予備吐出用の排インクの受け口(以下、予備吐口)703を複数、配置している。具体的には、原点700からX方向に245mmの位置に第1の予備吐口を、345mmの位置に第2の予備吐口を、420mmの位置に第3の予備吐口を配置している。ここでは、第3の予備吐口よりもさらに左側に配置されている予備吐口の説明は省略しているが、記録装置のX方向のサイズと対応可能な記録媒体サイズに応じて適切な位置に配置されている。
【0048】
予備吐口703の内部は、
図7(b)と
図7(c)に示すように、排インク回収口704に向けて傾斜をつけインクを回収できるようになっている。また、プラテン104の記録媒体を支持する側と反対側に設置されたファンが駆動することにより発生する圧力によって、吸引口穴702を通して記録媒体Pをプラテン104に吸着する。このとき、排インク回収口704もファンの圧力を通すため、記録媒体Pは排インク回収口704からの圧力によっても吸着される。こここで、予備吐口703は、記録ヘッド105の吐出口列の長さ(L)に対して十分大きめに設定されており、吐出口から吐出されるインク滴を受けられるように設計されている。この実施形態の排インク回収口704は記録ヘッドの吐出口列の中央付近に配置される。
【0049】
図8は記録媒体の搬送時の記録ヘッドの吐出口列の中央部付近と吐出口列の端部付近におけるキャリッジ移動方向(X方向)の記録媒体の紙間変動を示す図である。なお、
図8において、既に
図7を参照して説明したのと同じ構成要素には同じ参照番号を付して言及し、その説明は省略する。
【0050】
図8において、(a)は
図7(a)と同じ図である。また、(b)は
図8(a)に示した記録ヘッドの吐出口列の中央部付近を示す破線801に沿った断面をY方向から見た断面図であり、(c)は記録ヘッドの吐出口列の端部付近を示す破線802に沿った断面をY方向から見た図である。
図8(b)において、プラテン104上の記録媒体Pの紙間変動は破線803で示しており、
図8(c)において、プラテン104上の記録媒体Pの紙間変動は破線804で示している。
【0051】
図8(b)と
図8(c)とを比較すると分かるように、記録媒体Pの紙間変動は記録ヘッドの吐出口列の中央部付近では、排インク回収口704からの吸引により予備吐口703に記録媒体が吸い込まれるため局所的に大きくなっている。一方、記録ヘッドの吐出口列の端部付近では、予備吐口703への記録媒体の落ち込みが小さく局所的な紙間変動も小さい。このように、予備吐口703の影響で記録ヘッド105の吐出口列の中央部と端部とでX方向の紙間変動に大きな違いが発生していることがわかる。
【0052】
図9は記録ヘッドによる1パス記録と2パス記録を説明する図である。
図9において、(a)は1パス記録を(b)は2パス記録を説明している。なお、この実施形態においては、1パス記録と2パス記録でのキャリッジ速度は同じとする。
【0053】
図9(a)によれば、1パス記録では、記録ヘッド105のY方向の位置(破線)901で矢印(+X方向)の方向に移動しながらバンド910を記録する。次に、記録媒体Pを記録ヘッドの吐出口列の長さに対応する搬送量Lだけ搬送し、記録媒体Pに対してY方向の位置(破線)902に移動する。その後、矢印の方向(-X方向)に移動しながらバンド911を記録する。さらに、記録媒体Pを記録ヘッドの吐出口列の長さに対応する搬送量Lだけ搬送し、記録媒体Pに対してY方向の位置(破線)903に移動する。その後、矢印の方向(+X方向)に移動しながらバンド912を記録する。以上のような動作を繰り返して1パス往復記録を実行して画像を完成させる。バンド910~912は記録ヘッドの1走査によって記録される領域なので単位領域ともいう。
【0054】
1パス記録においては、各バンド間のつなぎ部分は吐出口列の端部の吐出口(#0と#1279)からの吐出されたインク滴で形成される。このため、吐出口列の端部の吐出口から吐出されたインク滴の着弾精度が画質(特に、Y方向に延びる罫線品位)に大きく影響する。
【0055】
図9(b)によれば、記録ヘッド105のY方向の位置904で矢印(+X方向)の方向に移動しながらバンド913(#640~#1279のみ吐出)を記録する。次に記録媒体Pを搬送量L/2だけ搬送し記録媒体に対してY方向の位置(破線)905に移動する。その後、記録ヘッド105を矢印の方向(-X方向)に移動させながらバンド913とバンド914を記録する。以下同様に、記録走査毎に記録媒体Pを搬送量L/2だけ搬送しながら、Y方向の位置(破線)906、907、908、909夫々に移動させて残りのバンド914~917を2パスで記録を行う動作を繰り返して2パス往復記録を実行して画像を完成させる。バンド914~917は上記単位領域の一部に相当する。
【0056】
2パス記録では、各バンドは、記録ヘッドの吐出口列の中央部と端部の吐出口から吐出されたインク滴で形成される。このため、吐出口列の中央部と端部の吐出口から吐出されたインク滴双方の着弾精度が画質(特に、罫線品位(線幅)や粒状性)に影響する。従って、このような記録方法による着弾位置に対する画質への影響を考慮して適切な着弾位置補正を実行する必要がある。
【0057】
図10は予備吐口をZ方向から見たプラテンの上面図とX方向から見たプラテンの断面図と記録媒体Pの挙動と、予備吐口の2つの異なる位置における往復記録時のインク液滴の着弾位置を示す図である。
図10において、(a)の左側は予備吐口703の上面図を右側が点線705に沿った予備吐口703の断面図である。そして、(b)は(a)の点線1001の位置でのインク液滴の着弾状態を示し、(c)は(a)の点線1002の位置でのインク液滴の着弾状態を示している。
【0058】
図10(b)によれば、紙間1004での記録ヘッドによる往復記録時のインク滴が記録媒体P上の目標着弾位置に着弾している。これに対して、
図10(c)によれば、位置1001に対して紙間1000だけ狭い位置1002において、位置1001におけるのと同じ吐出タイミングでインク液滴を吐出した時の往復記録各々のインク液滴の飛翔状態と記録媒体P上の着弾位置を示している。
図10(c)から分かるように、紙間が狭くなることで距離1003分のだけ着弾位置がズレてしまう。このように、同じ吐出タイミングで往復記録をすると記録ヘッドの吐出口列の中央部と端部とにおいて、着弾ズレが発生してしまう。
図5では記録ヘッド105と反射型光学センサ107との位置関係を示しているが、反射型光学センサ107で検出する紙間は記録ヘッド105の吐出口列の中央部付近の状態であり、吐出口列の端部付近の紙間とは異なってしまう。
【0059】
図9でも説明したように1パス記録時に反射型光学センサ107(吐出口列の中央部付近)で測定した紙間を使用すると吐出口列の端部付近の距離1003分の着弾ズレにより画質劣化(Y方向の縦罫線の罫線ズレ)が発生してしまう。このため、記録ヘッド105の吐出口列の端部の紙間変動を考慮した紙間情報に基づいた制御が必要になる。
【0060】
図11は反射型光学センサで検出した紙間挙動と吐出タイミング算出方法を説明する図である。この実施例では、反射型光学センサ107で検知した紙間情報は、X方向に5mm間隔で取得する。なお、ここで言う5mm間隔で取得する紙間情報は、各種平均化処理を通してノイズ除去している情報である。そのため、記録ヘッドの移動速度や反射型光学センサの読み取り間隔によって適宜最適化する必要がある。
【0061】
図11において、(a)は
図8(a)の破線801の位置に設けられた反射型光学センサ107で検出した紙間情報、(b)は
図11(a)に示した紙間情報に基づいて
図6(b)に示したのと同様に算出した吐出タイミングである。また、(c)は
図11(a)に示した紙間情報に基づいて
図10で説明した吐出口列の端部付近の紙間挙動を想定して予備吐口付近の紙間情報を補正した紙間情報、(d)は
図11(c)に示した紙間情報に基づいて算出した吐出タイミングである。また、
図11(a)~(d)において、横軸はプラテンのX方向の位置を示しており、
図7(a)に原点700として示したのと同様に原点0が記録媒体の端部の位置となっている。また、この実施例では記録ヘッド105の移動速度(Vcr)を25インチ/秒、記録ヘッド105からのインク液滴の吐出速度(Vf)を10m/秒としている。
【0062】
ここで、
図11(a)~(b)を参照して、紙間情報に基づいた従来の着弾位置補正処理方法を説明する。
【0063】
詳細な説明は省略するが、位置1100で従来の記録装置と同様に往復記録の着弾位置補正を実行している。そのため、X方向の着弾位置補正は、位置1100における紙間と吐出タイミングを基準とした時の変位量に基づいて制御する。
図11(a)に示すように、予備吐口の位置1101で紙間が急峻に広がっていることがわかる。それに伴って、基準である、位置1100における吐出タイミングに対して
図11(b)に示すように、予備吐口の位置で吐出タイミングを早めている。
【0064】
しかしながら、
図11(b)に示した吐出タイミングに合わせて記録を実行すると、
図9(a)で説明した1パス記録において、吐出口列の端部で約100μm弱のX方向の着弾位置ズレが発生しY方向の罫線を記録すると罫線ズレが発生してしまう。そこで、この実施例では、
図11(c)に示すように、予備吐口の位置1101の紙間情報を吐出口列の端部付近で紙間変動が小さいことを想定して変更する。
【0065】
具体的には、予備吐口の位置1101の紙間情報を位置1101からX方向に前後各2つ、合計4つの位置の紙間情報を平均化し、これを予備吐口の位置1101における紙間情報として置換する。これによって、吐出口列の端部の紙間挙動に近い紙間情報を作成することができる。さらに、
図11(c)に示した紙間情報に基づいて
図11(d)に示した吐出タイミング情報を算出する。
【0066】
ここで、
図9を用いて説明した記録方法と着弾位置ズレ影響を考慮して、
図11(a)と
図11(c)にそれぞれ示した紙間情報に基づいて算出した吐出タイミング情報(
図11(b)と
図11(d))の適用方法を説明する。
【0067】
即ち、1パス記録(
図9(a))では、記録ヘッドの吐出口列の端部の吐出口から吐出されたインク液滴の着弾精度が画質(特に、Y方向に延びる罫線品位)に大きく影響するため、
図11(d)に示した吐出タイミング補正を実行する。
【0068】
一方、2パス記録(
図9(b))では、記録ヘッドの吐出口列の中央部と端部の吐出口から吐出されたインク液滴双方の着弾精度が画質(特に、罫線品位(線幅)や粒状性)に影響するため、従来通り
図11(b)の吐出タイミング補正を実行する。
【0069】
従って以上説明した実施例によれば、1パス記録と2パス記録とで吐出タイミングの補正の方法を変更することで、1パス記録、2パス記録ともに大きな画質劣化を生じない高品位な記録を実現することができる。
【0070】
なお、上述の実施例では複数パス記録として2パス記録を挙げて説明したが、記録のパスの回数はこれに限られない。4パス、6パス、8パス、16パスなどの複数パス記録を行う場合にも、上述した2パス記録の方法と同様に
図11(d)で示した吐出タイミング補正を実行することができる。
【0071】
また、複数パスの記録においても、例えば、吐出口列端部における吐出量が多く、上述の1パス記録で説明したような画像劣化があるパス数の記録がある場合には、次のように制御しても良い。即ち、そのパス数における吐出タイミング補正を上述の1パス記録時の補正方法で行い、他のパス数における吐出タイミングの補正方法を上述の2パス記録時の補正方法で行うようにしてもよい。
【0072】
また、上述の実施例の記録装置では、吐出口列の中央部に排インク回収口704が位置するような構成であったが、排インク回収口は予備吐口の中央部に位置しない構成の装置であってもよい。その場合には、排インク回収口の位置における紙間変動が局所的に大きいため、排インク回収口上の記録媒体の紙間を検出可能なように反射型光学センサを配置し、吐出タイミング補正を実行するようにしてもよい。
【実施例2】
【0073】
この実施例が実施例1と異なる点は、記録媒体の種類によって紙間情報の処理を変更する点である。
【0074】
図12は種類の異なる記録媒体を搬送した時の記録ヘッドの吐出口列の中央部付近と吐出口列の端部付近におけるキャリッジ移動方向(X方向)の記録媒体の紙間変動を示す図である。なお、
図12において、既に
図7や
図8を参照して説明したのと同じ構成要素には同じ参照番号を付して言及し、その説明は省略する。なお、
図12において、(a)は
図7(a)や
図8(a)と同様な図である。また、(b)と(c)は
図12(a)に示した記録ヘッドの吐出口列の中央部付近を示す破線1201に沿った断面をY方向から見た断面図である。そして、
図12(b)はプラテン104上の普通紙Pの紙間変動を破線803で示しており、
図12(c)はプラテン104上のコート紙Pの紙間変動を破線1303で示している。
【0075】
図12(b)と
図12(c)を比較すると分かるように、記録ヘッドの吐出口列の中央部付近において、X方向に大きな紙間変動が発生する予備吐口703の付近においても、記録媒体の剛性によって、その挙動が大きく異なる。このため、予備吐口の影響を受けやすい普通紙を用いる場合、実施例1と同様の処理を実行するが、コート紙を用いる場合、記録方法によらず反射型光学センサ107によって検出された紙間情報に基づいて吐出タイミング補正を実行する。
【0076】
図13は吐出タイミング補正選択の処理を示すフローチャートである。
【0077】
図13によれば、まず、ステップS1301では、用いる記録媒体が普通紙か否かを調べる。ここで、その記録媒体が普通紙であると判定された場合、処理はステップS1320に進み、用いる記録方法が1パス記録であるか否かを調べる、ここで、その記録方法が1パス記録であると判定された場合、処理はステップS1303に進む。
【0078】
そして、ステップS1303では、
図11(b)に示した吐出タイミングを選択する。即ち、用いる記録媒体が普通紙であり、かつ、用いる記録方法が1パス記録である場合、
図11(b)に示した吐出タイミングを選択する。
【0079】
これに対して、それ以外の場合、即ち、用いる記録媒体が普通紙ではないか、普通紙であっても記録方法が1パス記録ではない場合、処理はステップS1304において、
図11(d)に示した吐出タイミングを選択する。
【0080】
従って以上説明した実施例に従えば、用いる記録媒体や記録方法によらず、適切な吐出タイミングで記録を行うことができ、従来例では課題となっていた普通紙の1パス記録時の画質劣化を低減することができる。
【実施例3】
【0081】
この実施例が実施例1、2と異なる点は、反射型光学センサを2つ搭載し、記録ヘッドの吐出口列の中央部付近と端部付近の双方の紙間挙動を検出可能にしたことである。
【0082】
図14は記録ヘッドと複数の反射型光学センサの取り付け位置の関係を示す図である。なお、
図14において、既に
図5において説明したのと同じ構成要素には同じ参照番号を付し、その説明は省略する。
図14に示されているように、反射型光学センサ107に加えて、記録ヘッド105の吐出口端部(#0付近)に、発光部1401と受光部1402とを有する、反射型光学センサ700と同じ構成反射型光学センサ1400を備える。
【0083】
図14に示されているように、発光部1401から照射された光1403は記録媒体Pによって反射され、反射光1404は受光部1402によって検出することができる。
【0084】
反射光1404に基づいて受光部1402により生成された検出信号(アナログ信号)は、フレキシブルケーブル(不図示)を介して記録装置のコントローラ200に伝えられる。そして、コントローラ200に内蔵されたA/D変換器(不図示)によってデジタル信号に変換され紙間情報としてRAM203に格納される。
【0085】
その後、実施例1、2で説明したのと同様に記録媒体の種類および記録方法によって使用する紙間情報を選択する。そして、反射型光学センサ1400で検出した紙間情報に基づいて算出した吐出タイミング情報を用いて普通紙1パス記録を実行する。一方、反射型光学センサ107で検出した紙間情報に基づいて算出した吐出タイミング情報を用いて普通紙2パス記録と、コート紙1パス記録及び2パス記録を行う。
【0086】
従って、以上説明した実施例に従えば、実施例1、2と同様に吐出されたインク液滴の着弾位置補正を適正化し、従来課題となっていた普通紙1パス記録時の画質劣化を低減することができる。
【0087】
本発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0088】
104 プラテン、105 記録ヘッド、106 エンコーダ、
107、1400 反射型光学センサ、702 穴、703 予備吐口、
704 排インク回収口、P 記録媒体