(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-11
(45)【発行日】2024-07-22
(54)【発明の名称】推定装置、推定方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G06F 17/17 20060101AFI20240712BHJP
G06N 5/04 20230101ALI20240712BHJP
【FI】
G06F17/17
G06N5/04
(21)【出願番号】P 2020130787
(22)【出願日】2020-07-31
【審査請求日】2023-01-30
(73)【特許権者】
【識別番号】516299338
【氏名又は名称】三菱重工サーマルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】岡 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】野村 真澄
(72)【発明者】
【氏名】石黒 達男
(72)【発明者】
【氏名】森田 克明
(72)【発明者】
【氏名】池田 龍司
(72)【発明者】
【氏名】長原 健一
(72)【発明者】
【氏名】小川 草太
(72)【発明者】
【氏名】松倉 紀行
(72)【発明者】
【氏名】二階堂 智
(72)【発明者】
【氏名】西▲崎▼ 友基
【審査官】田中 幸雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-92511(JP,A)
【文献】特表2008-512801(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 17/17
G06N 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一観測系で観測された第一観測値と、第二観測系で観測された第二観測値と、の各観測値の時系列データから、第一制約内のデータである制約内データを判定する観測系制約判定部と、
前記各観測系のモデルである観測モデルと、前記各観測系が設けられる機器内のモデルである物理モデルと、を含む複数のモデルのパラメータを、前記制約内データに基づいて推定するモデル推定部と、
推定された前記パラメータに基づき前記第二観測系から予測した第一予測観測値と前記第一観測値との偏差から、前記
観測モデル
及び前記物理モデルの整合性を判定する整合性判定部と、
を備える推定装置。
【請求項2】
前記パラメータに基づき推定される前記機器内の物理量である物理量推定値が、第二制約内か否かを判定する物理量制約判定部をさらに備える請求項1に記載の推定装置。
【請求項3】
前記各パラメータが、第三制約内か否かを判定するモデル制約判定部をさらに備える請求項1又は2に記載の推定装置。
【請求項4】
前記モデル推定部が、前記複数のモデルを含むネットワークモデルにおける3以上の各系統から、前記パラメータに基づき推定される前記機器内の物理量である物理量推定値どうしの偏差を求める請求項1に記載の推定装置。
【請求項5】
前記物理モデルへの介入によって、前記パラメータを変更可能な介入施策部をさらに備える請求項1から4のいずれか一項に記載の推定装置。
【請求項6】
前記介入施策部が、前記第一観測値を前記物理モデルにフィードバックして、前記パラメータを変更するフィードバック制御部を備える請求項5に記載の推定装置。
【請求項7】
第一観測系で観測された第一観測値と、第二観測系で観測された第二観測値と、の各観測値の時系列データから、第一制約内のデータである制約内データを判定するステップと、
前記各観測系のモデルである観測モデルと、前記各観測系が設けられる機器内のモデルである物理モデルと、を含む複数のモデルのパラメータを、前記制約内データに基づいて推定するステップと、
推定された前記パラメータに基づき前記第二観測系から予測した第一予測観測値と前記第一観測値との偏差から、前記
観測モデル
及び前記物理モデルの整合性を判定するステップと、
を
コンピュータが実行する推定方法。
【請求項8】
推定装置のコンピュータに、
第一観測系で観測された第一観測値と、第二観測系で観測された第二観測値と、の各観測値の時系列データから、第一制約内のデータである制約内データを判定するステップと、
前記各観測系のモデルである観測モデルと、前記各観測系が設けられる機器内のモデルである物理モデルと、を含む複数のモデルのパラメータを、前記制約内データに基づいて推定するステップと、
推定された前記パラメータに基づき前記第二観測系から予測した第一予測観測値と前記第一観測値との偏差から、前記
観測モデル及び
前記物理モデルの整合性を判定するステップと、
を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、推定装置、推定方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
大型冷凍機や水中ポンプといった機器では、センサ、計測器等の観測系を設けることにより、機器内の状態を監視することが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、原子力プラントにセンサを設けることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された設備は、センサが設置されている環境条件を監視するための環境センサを備え、センサの健全性を評価している。
しかし、センサが環境条件によらず異常を示す場合、特許文献1に開示された判定装置では、センサの観測値の整合性を評価できないことがある。
このため、特許文献1に開示された設備では、観測値の整合性を推定できないことがある。
【0006】
本開示は、上記課題を解決するためになされたものであって、観測値の整合性を推定しやすい推定装置、推定方法、及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本開示に係る推定装置は、第一観測系で観測された第一観測値と、第二観測系で観測された第二観測値と、の各観測値の時系列データから、第一制約内のデータである制約内データを判定する観測系制約判定部と、前記各観測系のモデルである観測モデルと、前記各観測系が設けられる機器内のモデルである物理モデルと、を含む複数のモデルのパラメータを、前記制約内データに基づいて推定するモデル推定部と、推定された前記パラメータに基づき前記第二観測系から予測した第一予測観測値と前記第一観測値との偏差から、前記モデルの整合性を判定する整合性判定部と、を備える。
【0008】
本開示に係る推定方法は、第一観測系で観測された第一観測値と、第二観測系で観測された第二観測値と、の各観測値の時系列データから、第一制約内のデータである制約内データを判定するステップと、前記各観測系のモデルである観測モデルと、前記各観測系が設けられる機器内のモデルである物理モデルと、を含む複数のモデルのパラメータを、前記制約内データに基づいて推定するステップと、推定された前記パラメータに基づき前記第二観測系から予測した第一予測観測値と前記第一観測値との偏差から、前記モデルの整合性を判定するステップと、を含む。
【0009】
本開示に係るプログラムは、推定装置のコンピュータに、第一観測系で観測された第一観測値と、第二観測系で観測された第二観測値と、の各観測値の時系列データから、第一制約内のデータである制約内データを判定するステップと、前記各観測系のモデルである観測モデルと、前記各観測系が設けられる機器内のモデルである物理モデルと、を含む複数のモデルのパラメータを、前記制約内データに基づいて推定するステップと、推定された前記パラメータに基づき前記第二観測系から予測した第一予測観測値と前記第一観測値との偏差から、前記モデルの整合性を判定するステップと、を実行させる。
【発明の効果】
【0010】
本開示の推定装置、推定方法、及びプログラムによれば、観測値の整合性を推定しやすい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第一実施形態に係る観測装置のブロック図である。
【
図2】第一実施形態に係る観測系制約判定部の機能を説明するグラフである。
【
図3】第一実施形態に係るモデル推定部の機能を説明する図である。
【
図4】第一実施形態に係る観測モデルを説明する図である。
【
図8】アラン分散と時間窓との関係を説明する図である。
【
図9】第一実施形態に係るモデル推定部の機能を説明する図である。
【
図10】第一実施形態に係る整合性判定部の機能を説明する図である。
【
図11】第一実施形態に係る整合性判定部の機能を説明する図である。
【
図12】第一実施形態に係る整合性判定部の機能を説明する図である。
【
図13】第一実施形態に係る整合性判定部の機能を説明する図である。
【
図14】第一実施形態に係る推定方法のフローチャートである。
【
図15】第二実施形態に係る観測装置のブロック図である。
【
図16】第二実施形態に係る介入施策部の機能を説明する図である。
【
図17】第二実施形態に係る観測方法のフローチャートである。
【
図18】第三実施形態に係る観測装置のブロック図である。
【
図19】第三実施形態に係る介入施策部の機能を説明する図である。
【
図20】各実施形態に係る推定装置が備えるコンピュータのハードウェア構成の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示に係る実施形態について、図面を用いて説明する。すべての図面において同一または相当する構成には同一の符号を付し、共通する説明は省略する。
【0013】
<第一実施形態>
(全体構成)
図1は、第一実施形態に係る設備9の全体構成を示す。
設備9は、機器1と、推定装置2と、第一観測系3と、第二観測系4と、を備える。
機器1は、例えば、大型冷凍機、水中ポンプ、プラント等である。
例えば、機器1と推定装置2と第一観測系3と第二観測系4とは、互いに有線、無線等により接続されており、互いに通信可能であってもよい。
【0014】
(第一観測系の構成)
第一観測系3は、機器1の状態を観測するためのシステムである。
第一観測系3は、第一観測値OB1を観測する。
例えば、第一観測系3は、機器1に設けられてもよい。
例えば、第一観測系3は、第一センサ31を備えてもよい。
例えば、第一観測系3は、第一観測値OB1として、観測値A1を観測してもよい。
【0015】
例えば、第一センサ31は、例えば、機器1の内部に設けられてもよい。その際、第一センサ31は、観測値A1として、機器1の内部圧力を計測する圧力センサであってもよい。
【0016】
(第二観測系の構成)
第二観測系4は、機器1の状態を観測するためのシステムである。
第二観測系4は、第二観測値OB2を観測する。
例えば、第二観測系4は、第一観測系3に対し独立している他の観測系であってもよい。
例えば、第二観測値OB2は、第一観測値OB1と異なる観測値であってもよい。
例えば、第二観測系4は、機器1に設けられてもよい。
例えば、第二観測系4は、第二センサ41と、第三センサ42と、第四センサ43と、を備えてもよい。
例えば、第二観測系4は、第二観測値OB2として、観測値A2、A3、A4を観測してもよい。
【0017】
第二センサ41は、例えば、機器1の出口に設けられてもよい。その際、第二センサ41は、観測値A2として、機器1内から流出する液体、気体等の流体温度である出口温度を計測する温度計であってもよい。
また、第三センサ42は、例えば、機器1の入口に設けられてもよい。その際、第三センサ42は、観測値A3として、機器1内へ流入する液体、気体等の流体温度である入口温度を計測する温度計であってもよい。
また、第四センサ43は、例えば、機器1に設けられてもよい。その際、第四センサ43は、観測値A4として、機器1内を流れる液体、気体等の流体の流量である機器内流量を計測する流量計であってもよい。
【0018】
(推定装置の構成)
推定装置2は、機器1、第一観測系3、及び第二観測系4の各モデルのパラメータPRを推定するための装置である。
例えば、推定装置2は、機器1の監視によるアセットマネジメントサービスを展開するための装置であってもよい。
【0019】
推定装置2は、観測系制約判定部22と、モデル推定部23と、整合性判定部24と、を備える。
例えば、推定装置2は、物理量制約判定部25と、モデル制約判定部26と、をさらに備えてもよい。
また、推定装置2は、取得部21と、出力部27と、をさらに備えてもよい。
【0020】
(取得部の構成)
取得部21は、第一観測値OB1を取得する。
例えば、取得部21は、第一観測値OB1として、第一観測系3から観測値A1を取得してもよい。
例えば、取得部21は、観測値A1として、第一センサ31で計測された機器1の内部圧力を取得してもよい。
【0021】
取得部21は、第二観測値OB2を取得する。
例えば、取得部21は、第二観測値OB2として、第二観測系4から観測値A2、A3、A4を取得してもよい。
例えば、取得部21は、観測値A2として、第二センサ41で計測された出口温度を取得してもよい。
例えば、取得部21は、観測値A3として、第三センサ42で計測された入口温度を取得してもよい。
例えば、取得部21は、観測値A4として、第四センサ43で計測された機器内流量を取得してもよい。
【0022】
(観測系制約判定部の構成)
観測系制約判定部22は、第一観測系3で観測された第一観測値OB1と、第二観測系4で観測された第二観測値OB2と、の各観測値の時系列データDT1から、第一制約R1内のデータである制約内データDT2を判定する。
各観測系単体の制約条件への適合を判定することで、観測系制約判定部22は、各観測値が単体として異常な振る舞いをしているデータか否かを判定する。
例えば
図2に示すように、観測系制約判定部22は、第一制約R1として、最大値及び最小値に関する制約、移動平均変化率に関する制約、スパイク発生頻度に関する制約、時間窓内の分散に関する制約等の観測系制約等により、制約内データDT2の判定を行ってもよい。
これにより、観測系制約判定部22は、各観測系そのものの計測原理(物理法則)に基づいて、各観測値単体としてみて異常な値を含むレコードは異常と判定する。
【0023】
例えば
図2の場合、各観測系で観測した生の観測値の時系列データである時系列データDT1のうち、データDT3は、観測値のスパイク発生頻度が規定の閾値より高いデータ、又は時間窓内の観測値の分散が規定の閾値より高いデータとして、第一制約R1により制約外と判定される。
同様に、時系列データDT1のうち、データDT4は、観測値が上限値で規定される最大値より大きいデータ、又は下限値で規定される最小値より小さいデータとして、第一制約R1により制約外と判定される。
同様に、時系列データDT1のうち、データDT5は、移動平均変化率が規定の閾値より大きいデータとして、第一制約R1により制約外と判定される。
他方、制約外とされなかったデータは、制約内データDT2と判定される。
【0024】
例えば、各観測系のうち、何れかの観測系で制約外の判定が出た場合は、観測系制約判定部22は、同一時刻の他の観測系のデータに対しても、制約外と判定し、推定装置2における後段の処理は行わなくてもよい。
【0025】
(モデル推定部の構成)
モデル推定部23は、各観測系のモデルである観測モデルMLOと、観測系が設けられる機器1内のモデルである物理モデルMLPと、を含む複数のモデルのパラメータPRを、制約内データDT2に基づいて推定する。
例えば、モデル推定部23は、複数の観測モデルMLOと複数の物理モデルMLPを含むネットワークモデルNWMを含んでもよい。
例えば、複数の観測モデルMLOと複数の物理モデルMLPとの各モデルは、パラメータPRを含んでよい。
例えば、モデル推定部23は、ネットワークモデルNWMの一例である
図3に示すようなネットワークモデルNWM1において、観測モデルMLOと物理モデルMLPとの各モデルのパラメータPRを推定してもよい。
【0026】
図3に示すように、ネットワークモデルNWM1において、モデル推定部23は、観測値A1から、1つの観測モデルMLOを介して、複数の物理量推定値PVのうちの1つである物理量推定値PV1を推定できる。
他方、ネットワークモデルNWM1において、モデル推定部23は、観測値A2と観測値A3と観測値A4とから、複数の観測モデルMLO及び複数の物理モデルMLPを介して、物理量推定値PV1を推定することもできる。
すなわち、ネットワークモデルNWM1において、モデル推定部23は、異なる系統から、共通の物理量推定値PV1を推定することができる。
なお、物理量推定値PVとは、パラメータPRに基づき推定される機器1内の物理量である。
【0027】
図3に示すように、例えば、モデル推定部23において、観測値A2に関する観測モデルMLOのパラメータPRは、観測値A2と、観測値A2を観測したステップの前の観測値A2’(観測値A2を観測した直前の時刻に観測した観測値A2’)と、から推定されてもよい。
同様に、モデル推定部23において、観測値A3に関する観測モデルMLOのパラメータPRは、観測値A3と、観測値A3を観測したステップの前の観測値A3’(観測値A3を観測した直前の時刻に観測した観測値A3’)と、から推定されてもよい。
【0028】
(モデルの構成)
例えば、観測モデルMLO及び物理モデルMLPの各モデルは、それぞれ理論式及び実験式に基づく非線形多項式の形で表現してもよい。その際、多項式の係数が、パラメータPRに相当し、実際の機器1のばらつきを表現するためのパラメータとなる。
【0029】
ここで、物理モデルMLPについて詳しく説明する。
例えば、各物理モデルMLPは、物理現象において、知られた純粋な物理法則から導かれるモデルであってもよい。
例えば、
図3に示す物理モデルMLPAは、出口温度を示す物理量推定値PV2と、入口温度を示す物理量推定値PV3と、機器内流量を示す物理量推定値PV4から、冷凍能力等の機器1内の仕事量を示す物理量推定値PVAを算出できるモデルであってもよい。
例えば、
図3に示す物理モデルMLPBは、出口温度を示す物理量推定値PV2と、仕事量を示す物理量推定値PVAから、機器1内の液体、気体等の流体飽和温度を示す物理量推定値PVBを算出できるモデルであってもよい。
例えば、
図3に示す物理モデルMLPCは、機器1内の液体、気体等の流体飽和温度を示す物理量推定値PVBから、機器1内の液体、気体等の流体圧力(飽和蒸気圧)を示す物理量推定値PV1を算出できるモデルであってもよい。
【0030】
次に、観測モデルMLOについて詳しく説明する。
例えば各観測モデルMLOは、
図4に示すような代表的なモデルであってもよい。
図4では、センサの特性によって生じる真値との誤差を内的要因と表し、観測対象の値以外の要因によって生じる誤差を外的要因と示す。
モデル化可能な内的要因、外的要因のほかに、観測値は、さらにランダムなノイズ成分の影響を受ける。
なお、外的要因は、「無視できるほど小さい」、「外的要因を別センサで計測」、「ノイズ扱いできるだけのデータ量」のいずれかの前提が必要である。
【0031】
観測モデルMLOにおいて、観測系の精度は、全ての誤差を考慮した上で
図5に示すようなフルスケール誤差(±〇%F.S.)、又は
図6に示すような指示値誤差(±〇%R.D.)のどちらか、若しくは、それらを組み合わせた指標によって規定される。
なお、これらの誤差範囲はあくまで正常動作をしている場合の精度であり、センサの取付け位置ズレや故障が起きるとこの範囲を逸脱する。
【0032】
また、同じ値を計測し続けた場合に、時間窓平均を取った値どうしを比較した結果のばらつきの大きさはアラン分散と呼ばれる。
典型的なアラン分散は、
図7に示すような分散を示す。なお、
図7に示すσy(f)は、アラン分散の大きさに関連する値である。
図7、
図8に示すように、平均時間τが短い間は、ノイズの影響が支配的で平均値間のばらつきは徐々に小さくなるが、平均時間τを延ばすと逆に観測系パラメータの長期的な変動の影響が顕在化して、ばらつきが徐々に大きくなっていく。
したがって、例えば、モデル推定部23は、理想的にはアラン分散が極小化するだけのレコードのデータをもとに、観測モデルMLOのパラメータPRを推定してもよい。
【0033】
例えば、モデル推定部23は、観測系制約判定部22で単体の観測値として異常がない制約内データDT2のうち、直近の観測値から、各パラメータPRを推定するために必要なレコード数のデータを用いて、各系統から推定できる物理量推定値PVについて、全系統の物理量推定値PVの平均値と各系統の物理量推定値PVの誤差の二乗の和を全レコードで積算してもよい。その際、モデル推定部23は、積算した値と、各パラメータPRの補正項の大きさについて、それぞれ事前に定めていたペナルティ係数の大きさに基づいて推定の正しさに対する報酬関数を定め、この値が最小になるようにパラメータPRを推定してもよい。
【0034】
例えば、モデル推定部23は、ネットワークモデルNWM1の各モデルに基づく値の変換によって、共通の物理量推定値PV1を導出できる観測系について、各系統から推定した物理量推定値PV1どうしの偏差に対するペナルティと、各パラメータPRの補正項に対するペナルティの総和が最小になるようにパラメータPRの推定を行ってもよい。
なお、推定するべきパラメータPRの数に対して、観測系の数は一般的に極端に少ない場合でも、複数のレコードを用いることで、モデル推定部23は、物理量推定値PV1を推定できる。
【0035】
例えば、観測モデルMLOは、忠実にモデル化された観測モデルではなく、機器1の使用条件と各センサの仕様を考慮して適切な範囲を簡素化した観測モデルであってもよい。
例えば、観測値A1に関する観測モデルMLOにおいて、バイアスやスケールファクター(以下「SF」ともいう。)の理想状態からの補正項に対するペナルティが、センサ精度に基づいて定められてもよい。
【0036】
モデル推定部23は、ネットワークモデルNWM1における各系統から推定した物理量推定値PV1どうしの偏差として、複数の物理量推定値PV1の平均値からの各物理量推定値PV1の差分の二乗誤差平均の大きさに対する報酬関数が定めるように構成されてもよい。
【0037】
例えば、
図9に示すように、複数のモデルを含むネットワークモデルNWMにおける3以上の異なる系統から各物理量推定値PVが推定できる場合、モデル推定部23は、3以上の系統から推定した各物理量推定値PVどうしの偏差として、複数の物理量推定値PVの平均値からの各物理量推定値PVの差分の二乗誤差平均の大きさに対する報酬関数を定めてもよい。
図9に示す場合も同様に、モデル推定部23は、3以上の各系統から推定した物理量推定値PVどうしの偏差に対するペナルティと、各パラメータPRの補正項に対するペナルティの総和が最小になるようにパラメータPRの推定を行ってもよい。
【0038】
(整合性判定部の構成)
整合性判定部24は、モデル推定部23で推定された複数のモデルのパラメータPRに基づき第二観測値OB2から予測した第一予測観測値PA1と第一観測値OB1との偏差から、モデルの整合性を判定する。
すなわち、整合性判定部24は、推定されたパラメータPRに基づいてある観測値を別の観測値から回帰させ、その偏差の大きさを評価できる。
なお、第一予測観測値PA1は、ネットワークモデルNWM1の各モデルに基づく値の変換によって導出される値であって、ネットワークモデルNWM1において、第一観測値OB1に相当する値である。
【0039】
例えば、整合性判定部24は、モデル推定部23で推定された各モデルのパラメータPRを元に予測した回帰結果である第一予測観測値PA1と、実測値である第一観測値OB1と、を比較してもよい。
例えば、モデルの整合性として、整合性判定部24は、第二観測値OB2から予測した第一予測観測値PA1と、第一観測値OB1と、の偏差が、第一観測系3の仕様範囲内であるかを判定してもよい。
【0040】
例えば、
図10に示すように、モデルの整合性として、整合性判定部24は、観測値A2と観測値A3と観測値A4とから予測した第一予測観測値PA1と、観測値A1との偏差が、第一観測系3の仕様範囲内であるかを判定してもよい。
例えば、整合性判定部24は、モデル推定部23で推定されたパラメータPRが導入された複数の観測モデルMLO及び複数の物理モデルMLPを介して、観測値A2と観測値A3と観測値A4とから、第一予測観測値PA1を予測し、予測した第一予測観測値PA1と観測値A1とを比較してもよい。
【0041】
例えば、整合性判定部24は、第一予測観測値PA1と第一観測値OB1との偏差として、第一予測観測値PA1と第一観測値OB1との差を取得してもよい。その際、モデルの整合性の判定として、整合性判定部24は、取得した差が規定の閾値以下なら、パラメータPRが導入された複数の観測モデルMLO及び複数の物理モデルMLPは整合していると判定してもよい。
【0042】
例えば、整合性判定部24は、相互回帰を行い、全ての観測系に対して相互に整合性を評価してもよい。
例えば、
図10に示した評価に加え、
図11に示すように、整合性判定部24は、モデル推定部23で推定されたパラメータPRが導入された複数の観測モデルMLO及び複数の物理モデルMLPを介して、観測値A1と観測値A3と観測値A4とから、第二予測観測値PA2を予測し、予測した第二予測観測値PA2と観測値A2とをさらに比較してもよい。
さらに、
図10に示した観測値A1に関する評価、
図11に示した観測値A2に関する評価と同様に、整合性判定部24は、観測値A1と観測値A2と観測値A4とに基づき、観測値A3に関する評価を行ってもよいし、観測値A1と観測値A2と観測値A3とに基づき、観測値A4に関する評価を行ってもよい。
【0043】
例えば、
図12、
図13に示すように、同一の観測値を回帰する系統が独立して複数ある場合、整合性判定部24は、回帰する各系統について偏差を求めて、求められた複数の偏差の最小値を観測値の評価結果としてもよい。
【0044】
(物理量制約判定部の構成)
物理量制約判定部25は、パラメータPRに基づき推定される物理量推定値PVが、第二制約R2内か否かを判定する。
例えば、物理量制約判定部25は、整合性判定部24において整合している判定されたときのパラメータPRを含む物理モデルMLPと制約内データDT2の観測値とに基づき推定される物理量推定値PVが、第二制約R2内か否かを判定してもよい。
【0045】
例えば、第二制約R2は、機器1の設計水準(仕様)内の物理量を示す規定の数値範囲であってもよい。
例えば、物理量制約判定部25は、物理量推定値PVが、第二制約R2内であれば正常と判定し、第二制約R2内でなければ異常と判定してもよい。正常と判定された場合、物理量制約判定部25の判定において、各モデルに導入されたパラメータPRは妥当であるとみなすことができる。
【0046】
例えば、物理量推定値PVが異常と判定された場合、物理量制約判定部25は、機器1が異常であると判定してもよい。
すなわち、正常と判定されたレコードである制約内データDT2について、物理量の推定が行えているものという仮定に基づけば、その物理量である物理量推定値PVが設計仕様の制約以内に収まっていなければ機器1の異常とみることができる。
【0047】
例えば、第一制約R1の適用により、制約内データDT2の各観測値が時間的に離散している場合、物理量制約判定部25は、離散している各観測値を時間補間し、時間補完した制約内データDT2の各観測値に基づき、物理量推定値PVを推定してもよい。
例えば、物理量制約判定部25は、各タイムステップで推定された物理量推定値PVが、第二制約R2内か否かを判定してもよい。
例えば、物理量制約判定部25は、推定される各物理量推定値PVを、設計水準(仕様)と比較して、仕様内、仕様以上、仕様以下といった判定を行うことにより、2~7段階程度の離散化データに変換してもよい。
【0048】
(モデル制約判定部の構成)
モデル制約判定部26は、各パラメータPRが、第三制約R3内か否かを判定する。
例えば、モデル制約判定部26は、整合性判定部24において整合していると判定されたときの各パラメータPRが、第三制約R3内か否かを判定してもよい。
【0049】
例えば、物理モデルMLPにおける各パラメータPRに対する第三制約R3は、機器1の設計水準(仕様)内のパラメータを示す規定の数値範囲であってもよい。
例えば、観測モデルMLOにおける各パラメータPRに対する第三制約R3は、各観測値の設計水準(仕様)内のパラメータを示す規定の数値範囲であってもよい。
例えば、モデル制約判定部26は、各パラメータPRが、第三制約R3内であれば正常と判定し、第三制約R3内でなければ異常と判定してもよい。正常と判定された場合、モデル制約判定部26の判定において、各モデルに導入された各パラメータPRは妥当であるとみなすことができる。
【0050】
例えば、モデル制約判定部26において判定される各パラメータPRは、相互回帰を行った移動窓、又はバッチ窓毎に推定された各パラメータであってもよい。
例えば、モデル制約判定部26は、推定される各パラメータPRを、設計水準(仕様)と比較して、仕様内、仕様以上、仕様以下といった判定を行うことにより、2~7段階程度の離散化データに変換してもよい。
【0051】
例えば、物理モデルMLPのパラメータPRが異常と判定された場合、モデル制約判定部26は、機器1が異常であると判定してもよい。
すなわち、パラメータ推定が正しく行えているものという仮定に基づけば、物理モデルMLPのパラメータPRが設計仕様の制約以内に収まっていなければ、機器1の異常とみることができる。
【0052】
例えば、観測モデルMLOのパラメータPRが異常と判定された場合、モデル制約判定部26は、観測系が異常であると判定してもよい。さらに、モデル制約判定部26は、異常と判定されたパラメータPRを有する観測モデルMLOに関連するセンサが異常であると判定してもよい。
すなわち、パラメータ推定が正しく行えているものという仮定に基づけば、観測モデルMLOのパラメータPRが設計仕様の制約以内に収まっていなければ、観測系の異常とみることができる。
【0053】
(出力部の構成)
出力部27は、正常と判定されたパラメータPRと、そのパラメータPRに基づき推定される物理量推定値PVと、を出力する。
また、出力部27は、異常と判定されたパラメータPRと、そのパラメータPRに基づき推定される物理量推定値PVと、を出力する。
例えば、出力部27は、異常と判定されたパラメータPRが観測モデルMLOのパラメータPRである場合、異常と判定されたパラメータPRを有する観測モデルMLOに関連するセンサが異常である旨を出力してもよい。
例えば、出力部27は、異常と判定されたパラメータPRが物理モデルMLPのパラメータPRである場合、機器1が異常である旨を出力してもよい。
【0054】
(動作)
本実施形態の推定装置2の動作について説明する。
推定装置2の動作は、本実施形態の推定方法に相当する。
推定装置2の動作は、例えば
図14に示すように実施されてもよい。
【0055】
まず、取得部21は、第一観測系3で観測された第一観測値OB1と、第二観測系4で観測された第二観測値OB2と、を取得する(ST01:取得ステップ)。
【0056】
ST01の実施後、観測系制約判定部22は、第一観測値OB1と、第二観測値OB2と、の各観測値の時系列データDT1から、第一制約R1内のデータである制約内データDT2を判定する(ST02:観測系制約判定ステップ)。
【0057】
ST02の実施後、モデル推定部23は、各観測系のモデルである観測モデルMLOと、観測系が設けられる機器1内のモデルである物理モデルMLPと、を含む複数のモデルのパラメータPRを、制約内データDT2に基づいて推定する(ST03:モデル推定ステップ)。
【0058】
ST03の実施後、整合性判定部24は、モデル推定部23で推定された複数のモデルのパラメータPRに基づき第二観測値OB2から予測した第一予測観測値PA1と第一観測値OB1との偏差から、モデルの整合性を判定する(ST04:整合性判定ステップ)。
例えば、ST04において、整合性判定部24は、偏差が規定値より大きい場合は、観測モデル又は物理モデルに異常があると判定してもよい(ST04A)。その際、整合性判定部24は、最適化してもモデルから外れるレコードを削除してもよい。
例えば、ST04Aの実施後、整合性判定部24は、制約内データDT2のうち、不整合データを判定し、異常データとして制約内データDT2から排除してもよい(ST04B)。
【0059】
例えばST04の実施後、物理量制約判定部25は、パラメータPRに基づき推定される物理量推定値PVが、第二制約R2内か否かを判定してもよい(ST05:物理量制約判定ステップ)。
【0060】
例えばST05と並行して、モデル制約判定部26は、各パラメータPRが、第三制約R3内か否かを判定してもよい(ST06:モデル制約判定ステップ)。
【0061】
例えばST04及びST05の実施後、出力部27は、正常と判定されたパラメータPRと、そのパラメータPRに基づき推定される物理量推定値PVと、を出力するとともに、異常と判定されたパラメータPRと、そのパラメータPRに基づき推定される物理量推定値PVと、を出力してもよい(ST07:出力ステップ)。
【0062】
(作用及び効果)
本実施形態によれば、推定装置2は、観測モデルMLOと物理モデルMLPとを含む複数のモデルのパラメータPRを推定することで、互いに異なる観測系に基づき得られた観測値どうしを比較することができる。
このため、推定装置2は、観測値の整合性を評価することができる。
したがって、推定装置2は、観測値の整合性を推定しやすい。
【0063】
また、本実施形態によれば、整合性判定部24は、推定されたモデルの整合性を判定している。
モデル推定部23で推定されたモデルは、偏差等が最小になるようにパラメータPRが調整されたベストエフォートであって、正しい観測値を推定できるモデルかどうか不明である。
そこで、本実施形態では、推定されたモデルの整合性を整合性判定部24で判定するため、推定された観測値が、例えば補償対象精度に収まっているどうかを判定できる。
【0064】
また、本実施形態の一例によれば、推定装置2は、物理量制約判定部25をさらに備えるため、機器1内の物理量が正常か否かを判定できる。
したがって、推定装置2によれば、利用者は、機器1自体の異常を認識することできる。
【0065】
また、本実施形態の一例によれば、推定装置2は、モデル制約判定部26をさらに備えるため、各パラメータPRが正常か否かを判定できる。
したがって、推定装置2によれば、利用者は、機器1自体の異常と観測系に起因する異常とを識別できる。
さらに、通常の観測だけでは推定できない、機器1内部の物理量や観測モデルMLO及び物理モデルMLPのパラメータPRを推定することで、より詳細な機器1の診断も可能である。
【0066】
比較例として、同一の観測値に対して、2~3個のセンサを設置して冗長計測することによって、観測系の異常を検出する場合を挙げる。
この場合、同一の観測値に対して複数のセンサ取付けが必要となり、新規の機器については製造コストが増加し、既往の機器についてはセンサの取付けのコストが発生やサービスの適用ができないことがある。
また、同様の手法によって担保されるのはあくまで観測値が異常でないという事実に留まり、機器自体の異常原因を推定するための、内部状態量が提供できないことがある。
【0067】
これに対し、本実施形態の一例の推定装置2によれば、異なる観測値に基づき観測系の異常を判定できるため、例えば、同一の観測値に対して複数のセンサを取付けない構成とすることが可能である。
さらに、本実施形態の一例の推定装置2は、機器1自体の異常と観測系に起因する異常とを識別できるように、機器1自体の内部状態を提供できる。
【0068】
また、本実施形態の一例によれば、モデル推定部23が、複数のモデルを含むネットワークモデルNWMにおける3以上の各系統から推定した物理量推定値どうしの偏差を求めるため、推定装置2は、3以上の物理量推定値どうしを比較できる。
このため、推定装置2は、より尤らしいモデルを推定することができる。
【0069】
<第二実施形態>
第二実施形態に係る推定装置2について、図面を参照しながら説明する。
本実施形態の推定装置2の構成は、以下に説明する点を除いて、第一実施形態と同様である。
【0070】
(構成)
例えば
図15に示すように、推定装置2は、介入施策部28をさらに備えてもよい。
図16に示すように、介入施策部28は、物理モデルMLPへの介入によって、パラメータPRを変更可である。その際、推定装置2は、観測値を入力条件として、介入された物理モデルMLPに応じて、機器1の性能に影響する真値である各物理量推定値PVを推定することができる。
例えば、出力部27は、変更されたパラメータPRを含むパラメータPRと、変更されたパラメータPRから推定される物理量推定値PVと、を出力してもよい。
例えば、介入施策部28は、利用者が入力するパラメータに従って、パラメータPRを変更してもよい。
なお、本実施形態において、推定装置2は、物理量制約判定部25と、モデル制約判定部26と、を備えてもよいし、備えなくてもよい。
【0071】
(動作)
本実施形態の推定装置2の動作について説明する。
推定装置2の動作は、本実施形態の推定方法に相当する。
推定装置2の動作は、例えば
図17に示すように実施されてもよい。
【0072】
まず、推定装置2は、第一実施形態と同様に、ST01~ST04を実施する。
例えばST04の実施後、介入施策部28は、物理モデルMLPへの介入によって、パラメータPRを変更してもよい(ST11:介入ステップ)。その際、出力部27は、変更されたパラメータPRを含むパラメータPRと、変更されたパラメータPRから推定される物理量推定値PVと、を出力してもよい(ST12:入力ステップ)。
なお、本実施形態において、推定装置2は、第一実施形態のST05~ST07を実施してもよいし、実施しなくてもよい。
【0073】
(作用及び効果)
本実施形態では、第一実施形態と同様な作用及び効果を有する。
【0074】
また、本実施形態の一例によれば、推定装置2は、物理モデルMLPにおけるパラメータPRの変化が機器1の性能に及ぼす影響をシミュレーションできる。
このため、推定装置2によれば、利用者は、機器1の性能を評価できる。
【0075】
また、本実施形態の一例によれば、推定装置2は、機器1の現状に基づいて推定した物理モデルMLPのパラメータについて、介入によってパラメータPRを仕様に近い形に改善したときの機器1の性能に及ぼす影響を定量的に算出することができる。
これによって、利用者は、介入施策を行うのに適したタイミングを把握できる。
【0076】
<第三実施形態>
第三実施形態に係る推定装置2について、図面を参照しながら説明する。
本実施形態の推定装置2の構成は、以下に説明する点を除いて、第二実施形態と同様である。
【0077】
(構成)
例えば
図18に示すように、介入施策部28は、フィードバック制御部281を備えてもよい。
図19に示すように、フィードバック制御部281は、第一観測値OB1を物理モデルMLPにフィードバックして、パラメータPRを変更する。
例えば、フィードバック制御部281は、第一観測値OB1に基づき制御ロジックで指令値を決定し、観測モデルMLOを介して、物理モデルMLPにフィードバックして、パラメータPRを変更してもよい。
なお、本実施形態においても、推定装置2は、物理量制約判定部25と、モデル制約判定部26と、を備えてもよいし、備えなくてもよい。
【0078】
(動作)
本実施形態の推定装置2の動作は、本実施形態の推定方法に相当する。
本実施形態の推定装置2の動作は、例えば第二実施形態と同様に、
図17に示すように実施されてもよい。
なお、本実施形態においても、推定装置2は、第一実施形態のST05~ST07を実施してもよいし、実施しなくてもよい。
【0079】
(作用及び効果)
本実施形態では、第二実施形態と同様な作用及び効果を有する。
【0080】
また、本実施形態の一例によれば、介入施策部28は、第一観測値OB1を物理モデルMLPにおけるパラメータPRにフィードバックできる。
このため、利用者は、観測値による機器1のフィードバック制御のための制御パラメータをシミュレーションできる。
したがって、推定装置2によれば、利用者は、制御パラメータを評価できる。
【0081】
また、本実施形態の一例によれば、推定装置2は、ST04までの動作により、機器1の現状に基づいて推定した物理モデルMLPと観測モデルMLOの内部パラメータを推定できている。
このため、推定装置2は、入力条件に対してフィードバック制御を行っている観測値がどのような応答を示すかを正確にシミュレーションすることができる。
したがって、推定装置2によれば、シミュレーションされたモデルと、機器1の運転実績と、に基づいて、制御ロジック内のPIDゲインのような制御パラメータを最適化することによって、実効的な効率の改善を実現できる。
【0082】
<変形例>
上述の各実施形態では、モデル推定部23は、ネットワークモデルNWMを含んでいるが、パラメータPRを推定できるなら、どのように構成されてもよい。
例えば、モデル推定部23は、推定装置2の外部との通信により、推定装置2の外部に格納されているネットワークモデルNWMのパラメータPRを推定してもよい。
【0083】
<コンピュータのハードウェア構成>
なお、上述の各実施形態においては、推定装置2の各種機能を実現するためのプログラムを、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをマイコンといったコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより各種処理を行うものとしている。ここで、コンピュータシステムのCPUの各種処理の過程は、プログラムの形式でコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記憶されており、このプログラムをコンピュータが読み出して実行することによって上記各種処理が行われる。また、コンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリ等をいう。また、このコンピュータプログラムを通信回線によってコンピュータに配信し、この配信を受けたコンピュータが当該プログラムを実行するようにしてもよい。
【0084】
上述の各実施形態において、推定装置2の各種機能を実現するためのプログラムを実行させるコンピュータのハードウェア構成の例について説明する。
【0085】
図20に示すように、推定装置2が備えるコンピュータ29は、CPU291と、メモリ292と、記憶/再生装置293と、Input Output Interface(以下、「IO I/F」という。)294と、通信Interface(以下、「通信I/F」という。)295と、を備える。
【0086】
メモリ292は、推定装置2で実行されるプログラムで使用されるデータ等を一時的に記憶するRandom Access Memory(以下、「RAM」という。)等の媒体である。
【0087】
記憶/再生装置293は、CD-ROM、DVD、フラッシュメモリ等の外部メディアへデータ等を記憶したり、外部メディアのデータ等を再生したりするための装置である。
【0088】
IO I/F294は、推定装置2と他の装置との間で情報等の入出力を行うためのインタフェースである。
【0089】
通信I/F295は、インターネット、専用通信回線等の通信回線を介して、推定装置2と他の装置との間で通信を行うインタフェースである。
【0090】
<その他の実施形態>
以上、本開示の実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、開示の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、開示の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、開示の範囲や要旨に含まれる。
【0091】
<付記>
上述の実施形態に記載の推定装置、推定方法、及びプログラムは、例えば以下のように把握される。
【0092】
(1)第1の態様の推定装置2は、第一観測系3で観測された第一観測値OB1と、第二観測系4で観測された第二観測値OB2と、の各観測値の時系列データDT1から、第一制約R1内のデータである制約内データDT2を判定する観測系制約判定部22と、各観測系のモデルである観測モデルMLOと、各観測系が設けられる機器1内のモデルである物理モデルMLPと、を含む複数のモデルのパラメータPRを、制約内データDT2に基づいて推定するモデル推定部23と、推定されたパラメータPRに基づき第二観測系4から予測した第一予測観測値PA1と第一観測値OB1との偏差から、モデルの整合性を判定する整合性判定部24と、を備える。
【0093】
本態様によれば、推定装置2は、観測モデルMLOと物理モデルMLPとを含む複数のモデルのパラメータPRを推定することで、互いに異なる観測系に基づき得られた観測値どうしを比較することができる。
このため、推定装置2は、観測値の整合性を評価することができる。
したがって、推定装置2は、観測値の整合性を推定しやすい。
【0094】
(2)第2の態様の推定装置2は、パラメータPRに基づき推定される機器1内の物理量である物理量推定値PVが、第二制約R2内か否かを判定する物理量制約判定部25をさらに備える(1)の推定装置2である。
【0095】
本態様によれば、推定装置2は、機器1内の物理量が正常か否かを判定できる。
したがって、推定装置2によれば、利用者は、機器1自体の異常を認識することできる。
【0096】
(3)第3の態様の推定装置2は、各パラメータPRが、第三制約R3内か否かを判定するモデル制約判定部をさらに備える(1)又は(2)の推定装置2である。
【0097】
本態様によれば、推定装置2は、各パラメータPRが正常か否かを判定できる。
したがって、推定装置2によれば、利用者は、機器1自体の異常と観測系に起因する異常とを識別できる。
【0098】
(4)第4の態様の推定装置2は、モデル推定部23が、複数のモデルを含むネットワークモデルNWMにおける3以上の各系統から、前記パラメータに基づき推定される機器1内の物理量である物理量推定値PVどうしの偏差を求める(1)の推定装置2である。
【0099】
本態様によれば、推定装置2は、3以上の物理量推定値どうしを比較できる。
このため、推定装置2は、より尤らしいモデルを推定することができる。
【0100】
(5)第5の態様の推定装置2は、物理モデルMLPへの介入によって、パラメータPRを変更可能な介入施策部28をさらに備える(1)から(4)のいずれかの推定装置2である。
【0101】
本態様によれば、推定装置2は、物理モデルMLPにおけるパラメータPRの変化が機器1の性能に及ぼす影響をシミュレーションできる。
このため、推定装置2によれば、利用者は、機器1の性能を評価できる。
【0102】
(6)第6の態様の推定装置2は、介入施策部28が、第一観測値OB1を物理モデルMLPにフィードバックして、パラメータPRを変更するフィードバック制御部281を備える(5)の推定装置2である。
【0103】
本態様によれば、介入施策部28は、第一観測値OB1を物理モデルMLPにおけるパラメータPRにフィードバックできる。
このため、利用者は、観測値による機器1のフィードバック制御のための制御パラメータをシミュレーションできる。
したがって、推定装置2によれば、利用者は、制御パラメータを評価できる。
【0104】
(7)第7の態様の推定方法は、第一観測系3で観測された第一観測値OB1と、第二観測系4で観測された第二観測値OB2と、の各観測値の時系列データDT1から、第一制約R1内のデータである制約内データDT2を判定するステップと、各観測系のモデルである観測モデルMLOと、各観測系が設けられる機器1内のモデルである物理モデルMLPと、を含む複数のモデルのパラメータPRを、制約内データDT2に基づいて推定するステップと、推定されたパラメータPRに基づき第二観測系4から予測した第一予測観測値PA1と第一観測値OB1との偏差から、モデルの整合性を判定するステップと、を含む。
【0105】
本態様によれば、推定方法は、観測モデルMLOと物理モデルMLPとを含む複数のモデルのパラメータPRを推定することで、互いに異なる観測系に基づき得られた観測値どうしを比較することができる。
このため、推定方法は、観測値の整合性を評価することができる。
したがって、推定方法は、観測値の整合性を推定しやすい。
【0106】
(8)第8の態様のプログラムは、推定装置2のコンピュータに、第一観測系3で観測された第一観測値OB1と、第二観測系4で観測された第二観測値OB2と、の各観測値の時系列データDT1から、第一制約R1内のデータである制約内データDT2を判定するステップと、各観測系のモデルである観測モデルMLOと、各観測系が設けられる機器1内のモデルである物理モデルMLPと、を含む複数のモデルのパラメータPRを、制約内データDT2に基づいて推定するステップと、推定されたパラメータPRに基づき第二観測系4から予測した第一予測観測値PA1と第一観測値OB1との偏差から、モデルの整合性を判定するステップと、を実行させる。
【0107】
本態様によれば、プログラムが実行された推定装置2は、観測モデルMLOと物理モデルMLPとを含む複数のモデルのパラメータPRを推定することで、互いに異なる観測系に基づき得られた観測値どうしを比較することができる。
このため、プログラムが実行された推定装置2は、観測値の整合性を評価することができる。
したがって、プログラムが実行された推定装置2は、観測値の整合性を推定しやすい。
【符号の説明】
【0108】
1 機器
2 推定装置
3 第一観測系
4 第二観測系
21 取得部
22 観測系制約判定部
23 モデル推定部
24 整合性判定部
25 物理量制約判定部
26 モデル制約判定部
27 出力部
28 介入施策部
29 コンピュータ
31 第一センサ
41 第二センサ
42 第三センサ
43 第四センサ
281 フィードバック制御部
291 CPU
292 メモリ
293 記憶/再生装置
294 IO I/F
295 通信I/F
A1 観測値
A2 観測値
A2’ 観測値
A3 観測値
A3’ 観測値
A4 観測値
DT1 時系列データ
DT2 制約内データ
DT3 データ
DT4 データ
DT5 データ
MLO 観測モデル
MLP 物理モデル
MLPA 物理モデル
MLPB 物理モデル
MLPC 物理モデル
NWM ネットワークモデル
NWM1 ネットワークモデル
OB1 第一観測値
OB2 第二観測値
PA1 第一予測観測値
PA2 第二予測観測値
PR パラメータ
PV 物理量推定値
PV1 物理量推定値
PV2 物理量推定値
PV3 物理量推定値
PV4 物理量推定値
PVA 物理量推定値
PVB 物理量推定値
R1 第一制約
R2 第二制約
R3 第三制約