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特許7520557画像形成装置、異常診断方法、画像形成システム及びサーバ装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-12
(45)【発行日】2024-07-23
(54)【発明の名称】画像形成装置、異常診断方法、画像形成システム及びサーバ装置
(51)【国際特許分類】
   H04N 1/00 20060101AFI20240716BHJP
   G03G 21/00 20060101ALI20240716BHJP
   B41J 29/38 20060101ALI20240716BHJP
   B41J 29/42 20060101ALI20240716BHJP
   G06F 3/12 20060101ALI20240716BHJP
【FI】
H04N1/00 002A
G03G21/00 510
G03G21/00 386
G03G21/00 388
B41J29/38 301
B41J29/42 F
G06F3/12 310
G06F3/12 329
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020069277
(22)【出願日】2020-04-07
(65)【公開番号】P2021166353
(43)【公開日】2021-10-14
【審査請求日】2023-03-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原 星児
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 洋平
(72)【発明者】
【氏名】門出 昌文
(72)【発明者】
【氏名】萩原 紘史
(72)【発明者】
【氏名】財津 義貴
(72)【発明者】
【氏名】熊田 博光
【審査官】花田 尚樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-197153(JP,A)
【文献】特開2006-208074(JP,A)
【文献】特開2003-083801(JP,A)
【文献】特開2008-032948(JP,A)
【文献】特開2016-022619(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04N 1/00
G03G 15/00
15/36
21/00
21/02
21/14
21/20
B41J 29/00 -29/70
G06F 3/09 - 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像形成装置であって、
複数の部材を含む画像形成手段と、
第1動作モードにおいて、前記複数の部材の動作を制御することにより、前記画像形成手段に画像を形成させる制御手段と、
前記画像形成装置において発生した音を収集して音信号を生成する集音手段と、
を備え、
前記制御手段は、前記第1動作モードでの動作時に前記集音手段により生成された前記音信号に基づいて異常音が発生したと判定され場合に、前記異常音が発生したと判定された期間の前記複数の部材の駆動状態に基づいて、前記異常音の原因となった可能性のある1つ以上の部材を特定し、
特定した前記1つ以上の部材が第1部材及び第2部材を含む場合に、前記制御手段は、第2動作モードにおいて、前記第1部材及び前記第2部材を別個に動作させることにより、前記異常音の原因を判定する、
画像形成装置。
【請求項2】
請求項1に記載の画像形成装置であって、前記制御手段は、前記第2動作モードにおいて、前記第1部材を、前記第1動作モードにおいて前記第1部材と同時に動作する前記第2部材を動作させることなく、動作させる、画像形成装置。
【請求項3】
請求項2に記載の画像形成装置であって、
前記画像形成手段は、
前記第1部材及び前記第2部材を動作させるための駆動力を生成する駆動手段と、
前記駆動手段から前記第2部材へ前記駆動力を伝達し、又は前記駆動手段から前記第2部材への前記駆動力の前記伝達を遮断する伝達手段と、
をさらに含み、
前記制御手段は、前記第2動作モードにおいて、前記第2部材への前記駆動力の前記伝達を遮断するように前記伝達手段を制御しながら、前記第1部材を動作させる、
画像形成装置。
【請求項4】
請求項2に記載の画像形成装置であって、
前記画像形成手段は、
前記第1部材を動作させるための駆動力を生成する第1駆動手段と、
前記第2部材を動作させるための駆動力を生成する第2駆動手段と、
をさらに含み、
前記制御手段は、前記第2動作モードにおいて、前記第2駆動手段を停止させ、前記第1駆動手段に前記第1部材を動作させるための駆動力を生成させる、
画像形成装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の画像形成装置であって、
前記集音手段により生成される前記音信号を処理して、前記音のレベルを表す音データを生成する信号処理手段、をさらに備え、
前記制御手段は、前記音データを閾値と比較することにより、前記異常音が発生したか否かを判定する、
画像形成装置。
【請求項6】
請求項5に記載の画像形成装置であって、
前記信号処理手段により実行される前記処理は、可変的に設定される通過帯域の周波数成分を前記音信号から抽出することを含み、
前記制御手段は、どの部材が異常診断の対象であるかに応じて、前記信号処理手段の前記通過帯域を可変的に設定する、
画像形成装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の画像形成装置であって、前記制御手段は、前記第1動作モードでのジョブの実行に続いて、前記第2動作モードでの動作を前記画像形成手段に行わせる、画像形成装置。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の画像形成装置であって、前記制御手段は、前記第2動作モードへの切替えの承認をユーザインタフェースを介してユーザへ要求し、前記切替えが前記ユーザにより承認された場合に動作モードを前記第2動作モードへ切替える、画像形成装置。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の画像形成装置であって、前記制御手段により判定された前記異常音の原因に関する情報を表示する表示手段、をさらに備える、画像形成装置。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか1項に記載の画像形成装置であって、前記制御手段により判定された前記異常音の原因に関する情報を他の装置へ送信する通信手段、をさらに備える、画像形成装置。
【請求項11】
画像形成手段、集音手段及び制御手段を備える画像形成装置により実行される異常診断方法であって、
第1動作モードにおいて、前記画像形成手段の複数の部材が動作することにより画像を形成することと、
前記集音手段により、前記画像形成手段において発生した音を収集して、音信号を生成することと、
前記第1動作モードでの動作時に前記集音手段により生成された前記音信号に基づいて、異常音が発生したと判定された場合に、前記制御手段により、前記異常音が発生したと判定された期間の前記複数の部材の駆動状態に基づいて、前記異常音の原因となった可能性のある1つ以上の部材を特定することと、
特定した前記1つ以上の部材が第1部材及び第2部材を含む場合に、第2動作モードにおいて、前記制御手段により、前記第1部材及び前記第2部材を別個に動作させることにより、前記異常音の原因を判定することと、
を含む異常診断方法。
【請求項12】
画像形成装置及びサーバ装置を含む画像形成システムであって、
前記画像形成装置は、
複数の部材を含む画像形成手段と、
第1動作モードにおいて、前記複数の部材の動作を制御することにより、前記画像形成手段に画像を形成させる制御手段と、
前記画像形成装置において発生した音を収集して音信号を生成する集音手段と、
前記集音手段により生成された前記音信号に基づくデータを前記サーバ装置へ送信する通信手段と、
を備え、
前記サーバ装置は、
前記画像形成装置から受信される前記データを用いて、前記画像形成装置の状態を診断する診断手段、
を備え、
前記診断手段は、
前記データに基づいて前記画像形成装置において異常音が発生したと判定される場合に、前記画像形成装置の前記制御手段に、第2動作モードにおいて、前記異常音の原因となった可能性のある1つ以上の部材を他の部材とは別個に動作させるように指示し、
前記第2動作モードにおいて生成された音信号に基づくデータを用いて、前記異常音の原因を判定する、
画像形成システム。
【請求項13】
画像形成装置と接続されるサーバ装置であって、
前記画像形成装置は、
複数の部材を含む画像形成手段と、
第1動作モードにおいて、前記複数の部材の動作を制御することにより、前記画像形成手段に画像を形成させる制御手段と、
前記画像形成装置において発生した音を収集して音信号を生成する集音手段と、
前記集音手段により生成された前記音信号に基づくデータを前記サーバ装置へ送信する通信手段と、
を備え、
前記サーバ装置は、
前記データを用いて、前記画像形成装置の状態を診断する診断手段、
を備え、
前記診断手段は、
前記データに基づいて前記画像形成装置において異常音が発生したと判定される場合に、前記画像形成装置の前記制御手段に、第2動作モードにおいて、前記異常音の原因となった可能性のある1つ以上の部材を他の部材とは別個に動作させるように指示し、
前記第2動作モードにおいて生成された音信号に基づくデータを用いて、前記異常音の原因を判定する、
サーバ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、画像形成装置、異常診断方法画像形成システム及びサーバ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
コピー機及びプリンタといった画像形成装置において、耐用年数に達した部材が交換されることなく継続して使用されると、そうした部材から異常音が発生することがある。特許文献1は、画像形成装置において集音される音の周波数成分ごとの音圧レベルを分析することにより、異常音の原因となっている部材を特定する手法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4863802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1により開示された周波数分析の手法では、重なり合う帯域で複数の部材が同時に音を発生させている場合に、それら音を適切に分離できないため、異常音の原因を正確に特定することが困難となる。
【0005】
そこで、本開示は、画像形成装置において異常音が発生した場合の異常音の原因を、より正確に特定することを可能にする仕組みを実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ある観点によれば、画像形成装置であって、複数の部材を含む画像形成手段と、第1動作モードにおいて、前記複数の部材の動作を制御することにより、前記画像形成手段に画像を形成させる制御手段と、前記画像形成装置において発生した音を収集して音信号を生成する集音手段と、を備え、前記制御手段は、前記第1動作モードでの動作時に前記集音手段により生成された前記音信号に基づいて異常音が発生したと判定され場合に、前記異常音が発生したと判定された期間の前記複数の部材の駆動状態に基づいて、前記異常音の原因となった可能性のある1つ以上の部材を特定し、特定した前記1つ以上の部材が第1部材及び第2部材を含む場合に、前記制御手段は、第2動作モードにおいて、前記第1部材及び前記第2部材を別個に動作させることにより、前記異常音の原因を判定する、画像形成装置が提供される。対応する方法システム及びサーバ装置もまた提供される。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、画像形成装置において異常音が発生した場合に、異常音の原因をより正確に特定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】一実施形態に係る画像形成装置の概略的な構成の一例を示す模式図。
図2】一実施形態に係る画像形成装置の駆動機構の一例を示す模式図。
図3図1に示した制御ユニットの詳細な構成の一例を示すブロック図。
図4】異常音の原因となった可能性のある部材を特定する手法の一例について説明するための説明図。
図5】異常音の原因を判定する手法の第1の例について説明するための説明図。
図6】異常音の原因を判定する手法の第2の例について説明するための説明図。
図7】通常モードでのジョブの実行に続く個別駆動モードでの動作について説明するための第1の説明図。
図8】通常モードでのジョブの実行に続く個別駆動モードでの動作について説明するための第2の説明図。
図9】一実施形態において実行される異常診断処理の流れの一例を示すフローチャート。
図10】個別駆動モードでの原因判定処理の詳細な流れの一例を示すフローチャート。
図11】一変形例に係る画像形成システムの概略的な構成の一例を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0010】
<<1.導入>>
本節では、本開示に係る技術がプリンタに適用される例を主に説明する。但し、本開示に係る技術は、例えばコピー機及び複合機といった他の種類の画像形成装置にも適用可能である。特に説明の無い限り、以下に説明する装置、デバイス、モジュール及びチップといった構成要素の各々は、単一のエンティティで構成されてもよく、又は物理的に異なる複数のエンティティから構成されてもよい。
【0011】
<1-1.装置の概略的な構成>
図1は、一実施形態に係る画像形成装置1の概略的な構成の一例を示す模式図である。
ここでは、画像形成装置1は、異常診断機能を具備する電子写真方式の画像形成装置であるものとする。より具体的には、画像形成装置1は、中間転写ベルトを採用したタンデム方式のカラーレーザプリンタである。なお、本開示に係る技術は、これら方式には限定されない。
【0012】
図1において、参照符号の末尾のY、M、C及びKは、それぞれ、対応する部材により扱われるトナーの色が、イエロー、マゼンタ、シアン及びブラックであることを示している。しかしながら、以下の説明において、色を区別する必要が無い場合には、末尾の文字を省略した参照符号を使用する。像担持体である感光体11は、画像形成時、図の時計回り方向に回転駆動される。帯電ローラ12は、感光体11の表面を所定の電位に帯電させる。光学ユニット13は、感光体11を露光して、感光体11に静電潜像を形成する。現像器14は、現像剤を有し、現像ローラ15により感光体11の静電潜像を現像して現像剤像(画像)を形成する。一次転写ローラ16は、一次転写バイアスを出力し、感光体11の静電潜像を像担持体である中間転写ベルト17に転写し、中間転写ベルト17に現像剤像を形成する。なお、感光体11Y、11M、11C及び11Kに形成された現像剤像を中間転写ベルト17に重ねて転写することで、中間転写ベルト17にフルカラーの現像剤像を形成することができる。
【0013】
中間転写ベルト17は、駆動ローラ18、テンションローラ25及び二次転写対向ローラ20により張架されており、画像形成時、駆動ローラ18の回転に従属して、図の反時計回り方向に回転駆動される。これにより、中間転写ベルト17に転写された現像剤像は、二次転写ローラ19の対向位置に搬送される。一方、カセット2は、搬送前の記録材Pを蓄積して保持する。カセット2により保持されている記録材(用紙ともいう)Pは、給送ローラ4により搬送路に給送される。分離ローラ5は、カセット2から記録材Pを給送する際、記録材Pを1枚ずつ分離する。図示しない電磁クラッチが伝達状態である間、図示しない給紙モータからの回転駆動力が給送ローラ4に伝達され、これにより給送ローラ4は回転駆動される。電磁クラッチが遮断状態である間、給紙モータから給送ローラ4への回転駆動力の伝達は遮断される。搬送ローラ対6は、給送された記録材Pを、搬送路の下流側へ、レジローラ対7を経て、二次転写ローラ19の対向位置に向けて搬送する。二次転写ローラ19は、二次転写バイアスを出力して、中間転写ベルト17の現像剤像を記録材Pに転写する。なお、記録材Pに転写されず、中間転写ベルト17に残留した現像剤は、クリーニングブレード35により、クリーニング部36に回収される。現像剤像の転写後、記録材Pは、定着ローラ21により搬送される。定着ローラ21は、記録材Pを加圧・加熱して現像剤像を記録材Pに定着させる。現像剤像の定着後、記録材Pは、排出ローラ対22により排紙トレイへ排出される。
【0014】
画像形成装置1は、さらに、記録材Pを搬送する搬送路の近傍に配設された集音部60と、制御ユニット3とを備える。図1の例では、集音部60は、記録材Pの給送に関与するローラ群の近くに配設されている。集音部60は、画像形成装置1において発生した音を収集して音信号を生成する集音手段である。集音部60は、例えば、圧力による振動板の振動変位を電圧変化に変換して出力するMEMS(Micro-Electro Mechanical System)マイクロフォン、及び電極端子を含み得る。なお、集音部60は、MEMSマイクロフォンの代わりに、例えばコンデンサマイクロフォンなど、いかなる種類の集音手段を含んでもよい。集音部60は、振動板の振動変位を電圧レベルとして表す音信号を制御ユニット3へ出力する。
【0015】
制御ユニット3は、図示しない信号線を介して、画像形成装置1の各部と接続される。制御ユニット3は、少なくとも信号処理部70及びCPU80を含む。図1に示したように、画像形成装置1の画像形成機能は、何らかの駆動力によりそれぞれ駆動される複数の部材からなる。CPU80は、それら部材の動作を制御することにより、画像形成装置1に画像を形成させる制御手段である。画像形成装置1の外部の装置(図示せず。例えば、ホストコンピュータ)から印刷用画像データを含む印刷ジョブが受信されると、CPU80は、図1を用いて説明した様々な部材の動作の制御を開始する。画像形成動作中に、いくつかの部材は、音を発生させる。それらの音は、集音部60により収集され、音信号へ変換される。信号処理部70は、集音部60から入力されるそうした音信号を処理する。制御ユニット3のより詳細な構成の一例について、後にさらに説明する。
【0016】
<1-2.課題の説明>
画像形成装置1は、1つ以上の駆動部材と、それら駆動部材により駆動される被駆動部材とを含む。駆動部材は、例えば、給紙モータ、メインモータ群及び定着モータを含み得る。給紙モータは、給送ローラ4、分離ローラ5及び搬送ローラ対6を駆動する。メインモータ群は、例えば、YMCドラムモータ、YMC現像モータ、中間転写ベルト-Bkモータを含み得る。YMCドラムモータは、感光体11Y、11M及び11Cを駆動する。YMC現像モータは、現像ローラ15Y、15M及び15Cを駆動する。中間転写ベルト-Bkモータは、中間転写ベルト17の駆動ローラ18、感光体11K及び現像ローラ15Kを駆動する。定着モータは、定着ローラ21及び排出ローラ対22を駆動する。
【0017】
図2は、画像形成装置1の駆動機構の一例として、中間転写ベルト-Bkモータ100及び関係する部材を示している。図2のモータ100は、モータ軸110を介してピニオンギヤ101を回転駆動する。ピニオンギヤ101は、感光体ギヤ102及びアイドラギヤ103に嵌合し、これらギヤにモータ100の駆動力を伝達する。感光体ギヤ102は、ピニオンギヤ101から伝達される駆動力により、感光体駆動軸111の周りに回転駆動される。感光体ギヤ102と接続された側とは反対側の感光体駆動軸111の一端には、感光体カップリング120が接続され、感光体カップリング120もまた、感光体駆動軸111の周りに回転駆動される。アイドラギヤ103は、中間転写ベルトギヤ104及び現像ローラギヤ105にさらに嵌合される。中間転写ベルトギヤ104は、ピニオンギヤ101及びアイドラギヤ103から伝達される駆動力により、中間転写ベルト駆動軸112の周りに回転駆動される。中間転写ベルトギヤ104と接続された側とは反対側の中間転写ベルト駆動軸112の一端には、中間転写ベルトカップリング121が接続され、中間転写ベルトカップリング121もまた、中間転写ベルト駆動軸112の周りに回転駆動される。現像ローラギヤ105は、ピニオンギヤ101及びアイドラギヤ103から伝達される駆動力により、現像ローラ駆動軸113の周りに回転駆動される。現像ローラ駆動軸113は、電磁クラッチ115を介して現像ローラカップリング122と接続される。電磁クラッチ115は、駆動手段としてのモータ100により生成される駆動力を現像ローラカップリング122へ伝達し、又は当該駆動力の現像ローラカップリング122への伝達を遮断する。電磁クラッチ115の伝達状態と遮断状態との間の切替えは、上述したCPU80により制御され得る。感光体カップリング120は、感光体11Kに接続される。中間転写ベルトカップリング121は、駆動ローラ18に接続される。現像ローラカップリング122は、現像ローラ15Kに接続される。このような駆動機構の構成によって、モータ100は、被駆動部材である感光体11K、駆動ローラ18及び現像ローラ15Kを駆動することができる。とりわけ、CPU80は、電磁クラッチ115の状態を伝達状態と遮断状態との間で切替えることにより、現像ローラ15Kを、駆動ローラ18及び感光体11Kが駆動されている間に選択的に停止し又は駆動することができる。例えば、クリーニング部36が中間転写ベルト17をクリーニングしている間、現像ローラ15Kとの摩擦が現像剤を劣化させることを防止する目的で、現像ローラ15Kは、電磁クラッチ115を遮断状態に切替えることにより停止され得る。
【0018】
上述したような駆動部材及び被駆動部材は、長期間継続して使用されると、異常音を発生させることがある。そうした異常音の原因となっている部材を特定するために、マイクロフォンを用いて集音した音の周波数成分ごとの音圧レベルを分析する手法が知られている。しかし、単に音の周波数成分を分析する手法では、重なり合う帯域で複数の部材が同時に音を発生させている場合に、それら音を適切に分離できない。これは、異常音の原因を正確に特定することを困難にする。そこで、本実施形態において、画像形成装置1は、以下に詳しく説明するように、異常診断のための動作モードである個別駆動モードを取り入れる。
【0019】
<<2.詳細な構成>>
<2-1.制御ユニットの構成例>
図3は、図1に示した制御ユニット3の詳細な構成の一例を示すブロック図である。図3を参照すると、制御ユニット3は、信号処理部70、CPU80、RAM81、ROM82、操作/表示部83、通信I/F84、I/Oポート85及びバス86を含む。
【0020】
CPU(Central Processing Unit)80は、画像形成装置1の機能の全般を制御するプロセッサである。RAM(Random Access Memory)81は、揮発性のメモリであり、CPU80に作業用の一時的な記憶領域を提供する。ROM(Read-Only Memory)82は、不揮発性のメモリであり、CPU80により実行されるべきプログラム及びデータを記憶する。CPU80は、例えばROM82に記憶されているコンピュータプログラムをRAM81へロードして実行することにより、画像形成装置1の制御機能を実現する。操作/表示部83は、ユーザによる操作を受け付ける操作手段(例えば、操作パネル又は操作ボタン(図示せず))と、情報を表示する表示手段とを有する。通信インタフェース(I/F)84は、画像形成装置1による他の装置との通信のためのインタフェースである。通信I/F84は、有線通信I/Fであってもよく、又は無線通信I/Fであってもよい。I/O(Input / Output)ポート85は、図1及び図2を用いて説明した画像形成装置1の様々な部材と制御ユニット3との間の信号の入出力のためのポートである。信号処理部70もまたI/Oポート85へ接続される。バス86は、CPU80、RAM81、ROM82、操作/表示部83、通信I/F84及びI/Oポート85を相互に接続する信号線である。
【0021】
信号処理部70は、増幅部71、AD変換部72、DC除去部73、デジタルフィルタ74、二乗演算部75、平均演算部76及びデータ記憶部77を含む。増幅部71は、集音部60から入力される音信号の信号レベルを増幅する。AD(Analogue to Digital)変換部72は、増幅部71から入力される増幅後の音信号についてAD変換を実行して、デジタル形式の音信号を生成する。DC除去部73は、デジタル形式の音信号を、DC成分を除去することにより音波レベル(音圧)の変動を表す信号へ変換する。除去すべきDC成分の基準値は、CPU80から通知され得る。デジタルフィルタ74は、DC成分の除去された音信号のうちの特定の通過帯域の周波数成分を抽出する。デジタルフィルタ74は、ローパスフィルタ、バンドパスフィルタ又はハイパスフィルタであってよく、デジタルフィルタ74の通過帯域はCPU80により可変的に設定され得る。二乗演算部75は、デジタルフィルタ74によりフィルタリングされた音信号の信号値を二乗する。平均演算部76は、ある時間長を有する時間区間ごとに、二乗演算部75から入力される音信号の区間平均を計算する。各区間の時間長は、例えば30msといった固定的な長さであってもよく、可変的に設定(例えば、複数の候補時間長から選択、又は任意の値へ設定)されてもよい。音信号は、上述した二乗及び区間平均を通じて整形され、時間区間ごとの音圧変動のレベルを表す時系列の音データとなる。こうした信号の整形の結果、異常診断を目的として音のレベルを良好な精度で相互に比較することが可能となる。データ記憶部77は、平均演算部76により区間平均の結果として算出される時系列の音データを記憶する。
【0022】
CPU80は、通常モード(第1動作モードともいう)において、図1及び図2を用いて説明した部材の動作を制御することにより画像形成を実行しつつ、I/Oポート85を介してデータ記憶部77から読出される音データを監視する。例えば、CPU80は、読出した音データにより表される信号レベルが予め定義される閾値を上回る場合、異常音が発生したと判定し得る。本実施形態において、CPU80は、異常音が発生したと判定した場合、動作モードを通常モードから個別駆動モード(第2動作モードともいう)に切替える。個別駆動モードにおいて、CPU80は、異常音の原因となった可能性のある1つ以上の部材を特定し、特定した1つ以上の部材のうちの少なくとも1つを他の部材とは別個に動作させることにより、発生した異常音の原因を判定する。
【0023】
<2-2.異常音の原因の絞り込み>
図4は、異常音の原因となった可能性のある部材を特定する手法の一例について説明するための説明図である。図4において、グラフ4a、4b及び4cは、画像形成動作中の、それぞれ給紙モータ、メインモータ群、及び定着モータの駆動状態を時間の進行に沿って示している。各モータの駆動状態は、駆動(ON)又は停止(OFF)のいずれかである。
【0024】
グラフ4a~4cでは、時刻T=0[秒]において、印刷ジョブの実行が開始される。給紙モータは、時刻T=0.8において動作を開始し、給紙モータにより駆動される給送ローラ4が記録材Pの最初のシートを搬送路へ給送する。給紙モータは、時刻T=1.8において停止する。メインモータ群は、時刻T=1.0において動作を開始し、メインモータ群により駆動される感光体11、現像ローラ15及び駆動ローラ18が記録材Pへの画像の形成に関与する。定着モータもまた時刻T=1.0において動作を開始し、定着ローラ21の温度が目標温度へ調整された後、定着モータにより駆動される定着ローラ21が記録材Pに画像を定着させる。給紙モータは時刻T=3.4において動作を再開し、給送ローラ4が次のシートを搬送路へ給送する。給紙モータは、時刻T=4.4において再び停止する。
【0025】
図4のグラフ4d及び4eは、信号処理部70により生成される音データにより表される信号レベルの推移を、グラフ4a~4cと同じ時間軸に沿って示している。グラフ4dは、デジタルフィルタ74において全ての周波数成分を通過させた(即ち、フィルタリングを行わなかった)場合の信号レベルを示している。一方、グラフ4eは、デジタルフィルタ74において4kHz以上の高周波成分を通過させた(即ち、ハイパスフィルタを適用した)場合の信号レベルを示している。グラフ中の実線は、異常音が発生しなかった正常時の信号レベルの推移の一例を、破線は異常音が発生した時の信号レベルの推移の一例をそれぞれ示す。グラフ4eにおける点線は、正常時の信号レベルに基づいて予め設定され得る、異常音検知用の閾値を示す。なお、グラフ4d及び4eにおける音データの時間区間の長さは30msecである。
【0026】
被駆動部材であるローラは、(例えば、耐用年数を超える程)長期間継続して使用されると、例えばローラと軸受との間の摩耗に起因して、数KHz以上の高い周波数の音を発生させることがある。4kHz以上というハイパスフィルタの通過帯域(又はカットオフ周波数)の設定は、こうした摩耗に起因するローラの異常音を捕捉するためのものである。グラフ4dでは、フィルタリングを行わなかった結果として、正常時の音の信号レベルと異常時の音の信号レベルとの間にほとんど差が無く、異常音は検知されない。一方、グラフ4eでは、上記ハイパスフィルタを通過した周波数成分に基づく異常時の音の信号レベルが、3つの期間401、402及び403において閾値を上回る値を示している。そのため、CPU80は、これらタイミングで異常音が発生したと判定し得る。こうした異常診断のための閾値は、時間的に変化する値のシーケンスとして、例えば予めROM82に記憶され得る。閾値は、デジタルフィルタ74の通過帯域(又はカットオフ周波数)の設定、及び時間区間の長さの設定にも相関することから、これら設定値に関連付けて記憶されてもよい。
【0027】
グラフ4a~4cから理解されるように、異常音が発生したと判定された期間401、402及び403において動作していたのは、メインモータ群及び定着モータである。したがって、CPU80は、メインモータ群又は定着モータに関係する部材を、異常音の原因となった可能性のある部材として特定し得る。このように、CPU80は、異常音の発生したタイミングを各部材の駆動状態と比較することにより、異常音の原因となった可能性のある1つ以上の部材を特定することができる。但し、これだけでは、同時に動作する2つ以上の部材のうちのどの部材が実際に異常音を発生させたのかを判定するには至らない。そこで、本実施形態において、CPU80は、上述したように、動作モードを個別駆動モードへ切替えてより精細な原因の判定を進める。
【0028】
<2-3.個別駆動モードによる原因の判定>
CPU80は、個別駆動モードにおいて、異常音の原因となった可能性のある少なくとも1つの部材を動作させ、但し、その最中に、通常モードにおいて当該部材と同時に動作する他の部材を動作させない。
【0029】
(1)第1の例
上述したように、画像形成装置1の給紙モータ、メインモータ群及び定着モータといった駆動手段の各々は、1つ以上の被駆動部材を動作させるための駆動力を生成する。そこで、第1の例として、CPU80は、個別駆動モードにおいて、あるモータを停止させて対応する被駆動部材を動作しない状態に維持しつつ、他のモータに駆動力を生成させて対応する被駆動部材を動作させてもよい。
【0030】
図5は、異常音の原因を判定する手法の第1の例について説明するための説明図である。図5において、グラフ5a及び5bは、個別駆動モードでの動作中の、それぞれメインモータ群及び定着モータの駆動状態を時間の進行に沿って示している。グラフ5a及び5bでは、時刻T=0.5から時刻T=5.5の期間中に、メインモータ群は停止状態に維持され、一方で定着モータは駆動状態に維持される。その後、時刻T=7.0までメインモータ群及び定着モータの双方は停止状態である。時刻T=7.0から時刻T=12.0の期間中に、メインモータ群は駆動状態に維持され、一方で定着モータは停止状態に維持される。
【0031】
図5のグラフ5cは、信号処理部70により生成される音データにより表される信号レベルの推移を、グラフ5a及び5bと同じ時間軸に沿って示している。ここでは、4kHz以上の高周波成分を通過させるハイパスフィルタが音信号に適用され、30msecの時間区間ごとの時間平均が算出されるものとする。グラフ5a~5cから理解されるように、定着モータが駆動しているタイミングでは、音データの信号レベルが常に閾値を下回るのに対し、メインモータ群が駆動しているタイミングでは、音データの信号レベルが閾値を上回る。CPU80は、このような個別駆動モードでの動作中の音データと閾値との比較に基づいて、メインモータ群により駆動される被駆動部材が異常音を発生させていると判定することができる。
【0032】
同様に、CPU80は、例えばメインモータ群のうちのYMCドラムモータ、YMC現像モータ及び中間転写ベルト-Bkモータの各々を個別に動作させて、どのモータが異常音の発生に関係しているかをさらに判定してもよい。
【0033】
(2)第2の例
駆動手段からある被駆動部材への駆動力の伝達は、駆動手段と被駆動部材との間に介在する伝達手段によってオン/オフ制御可能である。例えば、上述したように、中間転写ベルト-Bkモータは、電磁クラッチ115を介して現像ローラ15Kへ接続されている。そこで、第2の例として、CPU80は、個別駆動モードにおいて、伝達手段に接続された被駆動部材への駆動力の伝達を遮断するように当該伝達手段を制御しながら、その駆動力により駆動される他の被駆動部材を動作させてもよい。
【0034】
図6は、異常音の原因を判定する手法の第2の例について説明するための説明図である。図6において、グラフ6aは、個別駆動モードでの動作中の、電磁クラッチ115の接続状態を時間の進行に沿って示している。グラフ6aでは、時刻T=7.5以前には、電磁クラッチ115の状態が遮断状態に維持され、時刻T=7.5において電磁クラッチ115の状態が伝達状態へ切替えられる。なお、中間転写ベルト-Bkモータは、電磁クラッチ115の状態の切替えの前後にわたり継続して動作しているものとする。
【0035】
図6のグラフ6bは、信号処理部70により生成される音データにより表される信号レベルの推移を、グラフ6aと同じ時間軸に沿って示している。グラフ6a及び6bから理解されるように、電磁クラッチ115が遮断状態に維持されているタイミングでは、音データの信号レベルが常に閾値を下回るのに対し、電磁クラッチ115が伝達状態であるタイミングでは、音データの信号レベルが閾値を上回る。CPU80は、このような個別駆動モードでの動作中の音データと閾値との比較に基づいて、電磁クラッチ115に接続されている現像ローラ15Kが異常音を発生させていると判定することができる。
【0036】
上述したように、CPU80は、個別駆動モードにおいて、異常音の原因となった可能性のある少なくとも1つの第1部材を、通常モードにおいて第1部材と同時に動作する第2部材を動作させることなく動作させて、異常音の原因を判定し得る。図5に関連して説明した第1の例では、第1部材及び第2部材は、互いに異なる駆動部材により駆動される部材である。図6に関連して説明した第2の例では、第1部材及び第2部材は、共通の駆動部材により駆動される部材であり、但し、第2駆動部材への駆動力の伝達は伝達手段により遮断される。
【0037】
図6では現像ローラ15Kが異常音の原因である例を説明したが、本実施形態は、他の種類のローラ、又はローラ以外の部材(例えば、ギヤ、軸受け又はベルトなど)が異常音の原因であるケースにも適用可能である。CPU80は、どの部材が異常診断の対象であるかに応じて、個別駆動モードにおける動作パラメータの値を変化させてもよい。例えば、可変的に設定され得る動作パラメータは、デジタルフィルタ74の通過帯域、平均演算部76における平均演算のための時間区間の長さ、定着ローラ21の温度及び各モータの回転速度のうちの1つ以上を含み得る。
【0038】
<2-4.異常音の原因に関する報知>
CPU80は、上述した手法に従って判定した異常音の原因に関する情報を、操作/表示部83の画面上に表示させてもよい。また、CPU80は、異常音の原因に関する情報を通信I/F84を介して他の装置へ送信してもよい。異常音の原因に関する情報は、例えば、異常音を発生させた部材の名称、型番及び装置内の物理的位置のうちの1つ以上を含み得る。異常音の原因に関する情報と共に、異常音の発生日時及び異常音のレベルといった付加的な情報が表示され又は送信されてもよい。さらに、CPU80は、異常音の原因となった部材の交換を促すメッセージを画面上に表示させ又は他の装置へ送信してもよい。通信I/F84は、例えば、LAN(Local Area Network)又はインターネットといったネットワークを介して遠隔的な場所にある管理センタへ異常音の原因に関する情報を送信してもよい。こうした報知によって、ローカルユーザ又はリモートの管理ユーザが新たな部材の手配及び古い部材の新たな部材への交換といったメンテナンス作業を適時に遂行することが可能となる。
【0039】
<2-5.個別駆動モードへの遷移タイミング>>
CPU80は、信号処理部70により生成される音データに基づいて異常音が検知されると、画像形成装置1の動作モードを通常モードから個別駆動モードに切替えて、異常音の原因を判定する。例えば、個別駆動モードへの切替えは、通常モードでのジョブの実行後に行われてよい。即ち、CPU80は、通常モードでのジョブの実行に続いて個別駆動モードでの動作を画像形成装置1に行わせてもよい。
【0040】
図7及び図8は、通常モードでのジョブの実行に続く個別駆動モードでの動作について説明するための説明図である。図7のグラフ7a、7b及び7cは、それぞれ給紙モータ、メインモータ群、及び定着モータの駆動状態を時間の進行に沿って示している。
【0041】
具体的には、図7を参照すると、時刻T=0[秒]において、印刷ジョブの実行が開始される。給紙モータは、時刻T=0.8において動作を開始し、給紙モータにより駆動される給送ローラ4が記録材Pの最初のシートを搬送路へ給送する。給紙モータは、時刻T=1.9において停止する。メインモータ群は、時刻T=1.0において動作を開始し、メインモータ群により駆動される感光体11、現像ローラ15及び駆動ローラ18が記録材Pへの画像の形成に関与する。定着モータもまた時刻T=1.0において動作を開始し、定着ローラ21の温度が目標温度へ調整された後、定着モータにより駆動される定着ローラ21が記録材Pに画像を定着させる。給紙モータは時刻T=3.5において動作を再開し、給送ローラ4が次のシートを搬送路へ給送する。給紙モータは、時刻T=4.6において再び停止する。印刷ジョブの実行は、例えば、2枚目のシートが排紙される時刻T=5.8において終了する。
【0042】
グラフ7dは、信号処理部70により生成される音データにより表される信号レベルの推移を、グラフ7a~7cと同じ時間軸に沿って示している。ここでは、200~500Hzの通過帯域の周波数成分を通過させるバンドパスフィルタが音信号に適用されるものとする。こうした通過帯域の設定は、例えば、ギヤの摩耗に起因する噛み合わせの変化が異常音の原因であると疑われる場合に有効である。グラフ7a~7cから理解されるように、給紙モータが動作しておらずメインモータ群及び定着モータが動作している期間701及び702において、音データの信号レベルが閾値を上回る。CPU80は、このように通常モードでの動作中に異常音が検知された回数がある上限値に到達した場合、印刷ジョブの終了に続いて動作モードを個別駆動モードに切替えることを決定し得る。異常音の原因となった可能性のある部材は、メインモータ群又は定着モータに関係する部材である。
【0043】
グラフ7a~7cに着目すると、印刷ジョブの実行が終了した後の期間703において、給紙モータ及び定着モータは停止状態に維持され、メインモータ群のみが動作している。この期間703において、グラフ7dによれば、音データの信号レベルは閾値を上回らない。こうした結果から、CPU80は、異常音の原因がメインモータ群及び定着モータのうちの定着モータに関係していると判定することができる。
【0044】
図8の例では、図7の例と同様に、通常モードでの印刷ジョブの実行中の期間801及び802において異常音が検知される。これら期間では、グラフ8a~8cから理解されるように、給紙モータは動作しておらずメインモータ群及び定着モータが動作している。よって、CPU80は、異常音の原因となった可能性のある部材としてメインモータ群及び定着モータに関係する部材を特定し、印刷ジョブの終了に続いて動作モードを個別駆動モードに切替えることを決定し得る。
【0045】
印刷ジョブの実行が終了した後の期間803において、給紙モータ及びメインモータ群は停止状態に維持され、定着モータのみが動作している。この期間803において、グラフ8dによれば、音データの信号レベルは閾値を上回る。こうした結果からも、CPU80は、異常音の原因が定着モータに関係していると判定することができる。
【0046】
このように、通常モードでのジョブの実行に続いて個別駆動モードでの異常診断を行うことで、ユーザが装置の動作を予期していないタイミングで装置が異常診断のために突然に動き出してユーザに不快感を与えてしまうという事態を回避することができる。また、異常音が検知されてから時間を開けずに異常音の原因が判定されるため、装置のダウンタイムを可能な限り短くすることができる。
【0047】
なお、異常音の原因は、必ずしも1回の個別駆動モードでの動作の結果から判定されなくてもよい。例えば、CPU80は、複数回のジョブの実行の後に動作モードを個別駆動モードに切替え、それら複数回の個別駆動モードでの動作の結果を総合的に考慮して、異常音の原因を判定してもよい。この場合に、ある個別駆動モードでの動作の結果に基づいて、次の個別駆動モードでどの部材を動作させどの部材を停止するかが決定されてもよい。
【0048】
CPU80は、異常音を検知した場合に、個別駆動モードへの切替えの承認をユーザインタフェース(例えば、操作/表示部83)を介してユーザへ要求し、その切替えがユーザにより承認された場合に、動作モードを個別駆動モードへ切替えてもよい。それにより、ユーザが異常診断を望まないタイミングで個別駆動モードでの動作が行われることを回避することができる。また、CPU80は、ジョブの実行前のユーザ入力に基づく設定の際に、個別駆動モードへの切替えをユーザへ提案してもよい。
【0049】
<<3.処理の流れ>>
図9は、一実施形態において画像形成装置1により実行される異常診断処理の流れの一例を示すフローチャートである。図9に示した異常診断処理は、例えば、集音部60及び信号処理部70のようなハードウェア(マイクロフォン、アナログ回路及びデジタル回路)と、CPU80により実行されるソフトウェア(コンピュータプログラム)との組合せにより実現され得る。コンピュータプログラムは、例えば、ROM82からRAM81へロードされて、CPU80により実行され得る。なお、以下の説明では、処理ステップをS(ステップ)と略記する。
【0050】
まず、S901で、CPU80は、画像形成動作を開始する際に、デジタルフィルタ74の通過帯域及び平均演算部76において使用される時間区間の長さといった動作パラメータを設定する。例えば、CPU80は、どの部材を異常診断の対象とするかに依存して、デジタルフィルタ74の通過帯域を設定してもよい。どの部材を異常診断の対象とするかは、ユーザにより指定されてもよく、又は過去の動作の結果に基づいて選択されてもよい。また、CPU80は、搬送速度又は画像形成の速度に依存して、平均演算のための時間区間の長さを設定してもよい。これら動作パラメータの設定は、例えばジョブの実行の都度行われてもよい。
【0051】
次いで、画像形成装置1の複数の部材を含む画像形成手段により画像形成動作が開始されると、S903で、集音部60は、音を受信して音信号を生成し、生成した音信号を信号処理部70へ出力する。次いで、S905で、信号処理部70は、集音部60から入力された音信号について、AD変換、DC成分の除去、フィルタリング、二乗演算及び平均演算を含む処理を実行して、時間区間ごとの音のレベルを表す音データを生成する。信号処理部70により生成された音データは、データ記憶部77に記憶される。
【0052】
次いで、S907で、CPU80は、最新の時間区間の音データの信号レベルLをデータ記憶部77から取得する。次いで、S909で、CPU80は、取得した信号レベルLが閾値LTH以上であるか、即ちL≧LTHという条件が満たされるかを判定する。ここで、条件L≧LTHが満たされる場合、処理はS911へ進む。条件L≧LTHが満たされない場合、処理はS917へ進む。
【0053】
S909で条件L≧LTHが満たされる場合、最新の時間区間において異常音が検知されたことを意味する。この場合、S911で、CPU80は、発生した異常音の原因である可能性のある1つ以上の部材を特定する。例えば、異常音の発生時に動作していた部材は、異常音の原因部材の候補であり得る。CPU80は、そうした異常音の発生のタイミングに加えて、デジタルフィルタ74に設定した通過帯域を考慮して、異常音の原因部材の候補を特定してもよい。ここで、CPU80は、異常音の検知回数を示すカウンタ(以下、異常検知回数という)を制御変数として保持しているものとする。S913で、CPU80は、異常検知回数が上限値に到達したかを判定する。異常検知回数が上限値に到達していない場合、処理はS915へ進む。一方、異常検知回数が上限値に到達した場合、処理はS921へ進む。異常検知回数と比較される上限値は、デジタルフィルタ74の通過帯域、時間区間の長さ、記録材のタイプ、又は画像形成のモード(例えば、省電力、画質優先/速度優先、若しくはカラーモードなど)といったパラメータに依存して可変的に設定されてもよい。
【0054】
異常検知回数が上限値に到達していない場合、S915で、CPU80は、異常検知回数をインクリメント(カウンタに1を加算)する。次いで、S917で、CPU80は、画像形成動作を終了するか否かを判定する。例えば、印刷ジョブの実行が途中である場合には、CPU80は画像形成動作を終了しないと判定する。その場合、処理はS903へ戻り、次の時間区間において発生する音について上述した処理が繰り返される。CPU80が画像形成動作を終了すると判定した場合、図9の異常診断処理は終了する。
【0055】
異常検知回数が上限値に到達した場合、S921で、CPU80は、画像形成動作を終了するか否かを判定する。例えば、印刷ジョブの実行が終了し、待機中の次のジョブも存在しない場合には、CPU80は、画像形成動作を終了すると判定し得る。一方、印刷ジョブの実行が途中であり、又は待機中の次のジョブが存在する場合には、CPU80は、画像形成動作を終了しないと判定し得る。画像形成動作を終了しない場合、処理はS903へ戻り、次の時間区間において発生する音について上述した処理が繰り返される。画像形成動作を終了する場合、S923で、CPU80は、動作モードを個別駆動モードへ切替えるか否かを判定する。CPU80は、異常検知回数が上限値に到達した場合には、必ず動作モードを個別駆動モードへ切替えてもよい。その代わりに、CPU80は、個別駆動モードへの切替えの承認をユーザへ要求し、ユーザによりその切替えが承認された場合にのみ、動作モードを個別駆動モードへ切替えてもよい。個別駆動モードへの切替えの承認は、管理センタに所在する管理ユーザにより遠隔的に与えられてもよい。CPU80は、動作モードを個別駆動モードへ切替えると決定すると、S930で、動作モードを個別駆動モードへ切替えて異常の原因を判定する。S930における個別駆動モードでの処理の流れについて、後にさらに説明する。CPU80により動作モードを個別駆動モードへ切替えないと決定され、又は個別駆動モードでの動作が終了すると、図9の異常診断処理は終了する。
【0056】
図10は、図9のS930において実行される個別駆動モードでの原因判定処理の詳細な流れの一例を示すフローチャートである。図10に示した原因判定処理は、例えば、集音部60及び信号処理部70のようなハードウェアと、CPU80により実行されるソフトウェアとの組合せにより実現され得る。
【0057】
まず、S1001で、CPU80は、異常音の原因である可能性のあるものとして特定した部材のうちの少なくとも1つを、個別動作モードにおいて動作させる対象部材とし、他の部材を停止状態に保ちつつ対象部材を駆動させる。このとき、CPU80は、S901と同様に、デジタルフィルタ74の通過帯域及び平均演算部76において使用される時間区間の長さといった動作パラメータを設定し又は変更してもよい。
【0058】
次いで、S1003で、集音部60は、音を受信して音信号を生成し、生成した音信号を信号処理部70へ出力する。次いで、S1005で、信号処理部70は、集音部60から入力された音信号について、AD変換、DC成分の除去、フィルタリング、二乗演算及び平均演算を含む処理を実行して、時間区間ごとの音のレベルを表す音データを生成する。信号処理部70により生成された音データは、データ記憶部77に記憶される。
【0059】
次いで、S1007で、CPU80は、最新の時間区間又は個別動作モードにおけるそれまでの時間区間の音データをデータ記憶部77から取得する。次いで、S1009で、CPU80は、取得した音データが異常音の原因の判定のための判定条件を満たすか否かを判定する。一例として、異常が疑われる1つの対象部材のみを動作させた場合において、所定個数の時間区間にわたって信号レベルLが第1判定閾値を上回るときに、CPU80は、その対象部材が異常音の原因であると判定してもよい。他の例として、異常が疑われるK個の部材のうちK-1個の対象部材を動作させた場合において、所定個数の時間区間にわたって信号レベルLが第2判定閾値を下回るときに、CPU80は、異常が疑われる他の1つの部材が異常音の原因であると判定してもよい。ここでの他の1つの部材とは、S1001で停止状態に保たれた部材であり得る。
【0060】
S1009で音データが異常音の原因の判定のための上述した判定条件を満たさない場合、S1011で、CPU80は、個別動作モードを終了するか否かを判定する。例えば、CPU80は、最終的な判定のために十分な数の時間区間の音データが生成されていない場合に、個別動作モードでの動作を継続してもよい。また、CPU80は、異常音の原因である可能性のある部材が複数残されている場合に、対象部材を変更して個別駆動モードでの動作を継続してもよい。個別駆動モードでの動作が継続される場合、処理はS1001へ戻る。CPU80が個別動作モードを終了すると判定した場合、図10の原因判定処理は終了する。
【0061】
S1009で音データが異常音の原因の判定のための上述した判定条件を満たす場合、S1013で、CPU80は、その判定条件に従って異常音の原因となった部材を決定する。次いで、CPU80は、S1015で、決定した異常音の原因に関する情報を、操作/表示部83の画面上に表示させ又は通信I/F84を介して他の装置へ送信することにより、ローカルユーザ又は管理ユーザへ報知する。そして、図10の原因判定処理は終了する。
【0062】
なお、図10には示していないものの、個別動作モードでの動作中に新たな印刷ジョブが受信された場合には、CPU80は、個別動作モードでの動作を中止して新たな印刷ジョブを優先的に実行してもよい。
【0063】
<<4.変形例>>
上では画像形成装置1が異常診断機能を有する例を主に説明したが、画像形成装置1の状態を診断するための診断機能は、画像形成装置1とは別個の装置に実装されてもよい。例えば、画像形成装置1とネットワークを介して接続されるサーバ装置が、そうした診断機能を有していてもよい。また、複数の画像形成装置のうちの1つが、他の画像形成装置の状態を診断するための診断機能を有していてもよい。
【0064】
図11は、一変形例に係る画像形成システム1100の概略的な構成の一例を示す模式図である。図11を参照すると、画像形成システム1100は、画像形成装置1及びサーバ装置1110を含む。画像形成装置1のCPU80は、集音部60により生成された音信号に基づく(信号処理部70により処理された)音データを、通信I/F84を介してサーバ装置1110へ送信する。サーバ装置1110の診断部1111は、画像形成装置1から通信I/F(図示せず)を介して受信される上記音データに基づいて、画像形成装置1の状態を診断する。とりわけ、本変形例において、診断部1111は、上記音データに基づいて画像形成装置1において異常音が発生したと判定される場合に、画像形成装置1のCPU80に、個別駆動モードでの動作を指示する。画像形成装置1のCPU80は、診断部1111からの指示に従って、異常音の原因となった可能性のある1つ以上の部材を他の部材とは別個に動作させる。CPU80は、集音部60により生成された音信号に基づく個別駆動モードでの新たな音データを、通信I/F84を介してサーバ装置1110へ送信する。診断部1111は、画像形成装置1から受信される個別駆動モードにおける上記音データに基づいて、異常音の原因を判定する。診断部1111は、画像形成装置1の異常診断機能に関連して上で説明した手法と同様に、異常音の原因を絞り込み、異常音の原因を判定し、及び異常音の原因に関する情報をユーザへ報知してよい。
【0065】
<<5.まとめ>>
ここまで、図1図11を用いて、本開示の実施形態について詳細に説明した。上述した実施形態では、画像形成装置において、第1動作モードで画像形成のために複数の部材を動作させながら収集される音の音信号に基づいて異常音が発生したと判定される場合に、上記異常音の原因となった可能性のある1つ以上の部材が特定される。そして、上記第1動作モードが第2動作モードへ切替えられ、上記第2動作モードにおいて、特定された部材のうちの少なくとも1つを他の部材とは別個に動作させることにより、上記異常音の原因が判定される。かかる構成によれば、画像形成の際に複数の部材が同時に動作しており、それら動作により生じる音の周波数帯域が重なり合っている場合に、どの部材が異常音の原因であるのかを正確に特定すること可能となる。
【0066】
また、上述した実施形態では、上記第2動作モードにおいて、上記異常音の原因となった可能性のある少なくとも1つの第1部材が動作する一方で、上記第1動作モードにおいて上記第1部材と同時に動作する第2部材は動作しないように制御され得る。かかる構成によれば、上記第1動作モードにおける音信号の分析だけでは区別することのできなかった2つ以上の部材からの音を上記第2動作モードにおいて分離して、個別に分析することが可能となる。それにより、異常音の原因を精細に判定することができる。
【0067】
一例として、上記第2動作モードでは、ある駆動手段により上記第1部材へ駆動力が伝達される一方、同じ駆動手段から上記第2部材への駆動力の伝達が、伝達手段の制御によって遮断され得る。即ち、どの部材を判定の対象とするかに応じて伝達手段の接続状態を制御することで、上記第2動作モードでの異常音の原因の精細な判定を簡易に遂行することができる。
【0068】
他の例として、上記第2動作モードでは、上記第2部材のための駆動力を生成する第2駆動手段が停止される一方で、上記第1部材のための駆動力を生成する第1駆動手段は動作するように制御され得る。即ち、どの部材を判定の対象とするかに応じて駆動手段の駆動状態を制御することで、上記第2動作モードでの異常音の原因の精細な判定を簡易に遂行することができる。
【0069】
また、上述した実施形態では、上記第1動作モードでの画像形成の際に収集される音のレベルを表す音データが生成され、当該音データを閾値と比較することにより、上記異常音が発生したか否かが判定され得る。したがって、通常のジョブの実行の最中に正常時の動作音と比較して大きくなる異常音を検知して、動作モードを上記第2動作モードへ切替えるべきかを判定することができる。音データを生成するための信号処理は、可変的に設定される通過帯域の周波数成分を音信号から抽出することを含んでもよく、どの部材が異常診断の対象であるかに応じて、上記通過帯域が可変的に設定されてもよい。この場合、異常音の原因を原因部材の候補から必要に応じて絞り込んで、異常診断を効果的に進めることができる。
【0070】
また、上述した実施形態では、上記第2動作モードでの動作は、上記第1動作モードでの通常のジョブの実行に続いて行われ得る。この場合、唐突な異常診断によってユーザに不快感を与えてしまうという事態を回避することができ、かつ装置のダウンタイムを可能な限り短くすることができる。
【0071】
<<6.その他の実施形態>>
上記実施形態は、1つ以上の機能を実現するプログラムをネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読み出して実行する処理の形式でも実現可能である。また、1つ以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【0072】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0073】
1:画像形成装置、60:集音部(集音手段)、70:信号処理部(信号処理手段)、80:CPU(制御手段)、83:操作/表示部(表示手段)、84:通信I/F(通信手段)、100:モータ(駆動手段)、115:電磁クラッチ(伝達手段)、1100:画像形成システム、1110:サーバ装置、1111:診断部(診断手段)
図1
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図5
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図9
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図11