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特許7520642画像処理装置、画像処理方法、およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-12
(45)【発行日】2024-07-23
(54)【発明の名称】画像処理装置、画像処理方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/12 20060101AFI20240716BHJP
   A61B 3/14 20060101ALI20240716BHJP
   A61B 3/10 20060101ALI20240716BHJP
【FI】
A61B3/12
A61B3/14
A61B3/10 100
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020143388
(22)【出願日】2020-08-27
(65)【公開番号】P2022038751
(43)【公開日】2022-03-10
【審査請求日】2023-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【弁理士】
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【弁理士】
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】田中 一将
(72)【発明者】
【氏名】堀江 寿雲
【審査官】▲高▼木 尚哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-176497(JP,A)
【文献】特開2014-140490(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00-3/18
G06T 7/00
G16H 50/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者の左右眼の第1の眼底画像情報及び第2の眼底画像情報において、黄斑および乳頭を基準とした第1の座標軸を設定する設定手段と、
前記第1の眼底画像情報における第1の点または領域と前記第1の座標軸に対して対称な第2の点または領域と、前記第2の眼底画像情報における第3の点または領域であって、前記第1の点または領域と黄斑および乳頭との相対関係が対応する前記第3の点または領域とを特定する特定手段と、
前記第1の眼底画像情報における前記第1の点または領域に関する値と、前記第1の眼底画像情報における前記第2の点または領域に関する値と、前記第2の眼底画像情報における前記第3の点または領域に関する値とに基づいて、前記第1の点または領域に関する特性値を決定する決定手段と、
を有する画像処理装置。
【請求項2】
異なる時間に被検眼を撮影して得た第1の眼底画像情報及び第2の眼底画像情報において、黄斑および乳頭を基準とした第1の座標軸を設定する設定手段と、
前記第1の眼底画像情報における第1の点または領域と前記第1の座標軸に対して対称な第2の点または領域と、前記第2の眼底画像情報における第3の点または領域であって、前記第1の点または領域と黄斑および乳頭との相対関係が対応する前記第3の点または領域とを特定する特定手段と、
前記第1の眼底画像情報における前記第1の点または領域に関する値と、前記第1の眼底画像情報における前記第2の点または領域に関する値と、前記第2の眼底画像情報における前記第3の点または領域に関する値とに基づいて、前記第1の点または領域に関する特性値を決定する決定手段と、
を有する画像処理装置。
【請求項3】
前記眼底画像情報は、眼底カメラ、SLO、OCTの少なくとも1つから得られる、カラー、蛍光単色の眼底正面画像、En-face画像、OCTA画像、層厚マップ、網膜トポロジー、又はこれらの少なくとも2つを演算して得られた画像情報である請求項1又は2に記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記特定手段は、前記第2の眼底画像情報における前記第3の点または領域と前記第1の座標軸に対して対称な第4の点または領域を特定するとともに、
前記決定手段は、前記第1の眼底画像情報における前記第1の点または領域に関する値と、前記第1の眼底画像情報における前記第2の点または領域に関する値と、前記第2の眼底画像情報における前記第3の点または領域に関する値と、前記第4の点または領域に関する値とに基づいて、前記第1の点または領域に関する特性値を決定する請求項1乃至3のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記決定された特性値と前記第1の点または領域の座標値に基づいて特性マップを生成する請求項1乃至4のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項6】
前記特性値の決定の可否を判定して得た結果に基づいて、第1の眼底画像情報と第2の眼底画像情報とのうち少なくとも一つの取得を行うことを促すメッセージを表示部に表示させる制御手段を更に備える請求項1乃至5のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項7】
前記決定手段は、前記第1の点または領域に関する値と前記第2の点または領域に関する値とを比較して得た第1の比較結果と、前記第1の点または領域に関する値と前記第3の点または領域に関する値とを比較して得た第2の比較結果とを比較して得た第3の比較結果を、前記特性値として決定する請求項1乃至6のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項8】
画像処理装置により実行される画像処理方法であって、
被検者の左右眼の第1の眼底画像情報及び第2の眼底画像情報において、黄斑および乳頭を基準とした第1の座標軸を設定する工程と、
前記第1の眼底画像情報における第1の点または領域と前記第1の座標軸に対して対称な第2の点または領域と、前記第2の眼底画像情報における第3の点または領域であって、前記第1の点または領域と黄斑および乳頭との相対関係が対応する前記第3の点または領域とを特定する工程と、
前記第1の眼底画像情報における前記第1の点または領域に関する値と、前記第1の眼底画像情報における前記第2の点または領域に関する値と、前記第2の眼底画像情報における前記第3の点または領域に関する値とに基づいて、前記第1の点または領域に関する特性値を決定する工程と、
を有する画像処理方法。
【請求項9】
画像処理装置により実行される画像処理方法であって、
異なる時間に被検眼を撮影して得た第1の眼底画像情報及び第2の眼底画像情報において、黄斑および乳頭を基準とした第1の座標軸を設定する工程と、
前記第1の眼底画像情報における第1の点または領域と前記第1の座標軸に対して対称な第2の点または領域と、前記第2の眼底画像情報における第3の点または領域であって、前記第1の点または領域と黄斑および乳頭との相対関係が対応する前記第3の点または領域とを特定する工程と、
前記第1の眼底画像情報における前記第1の点または領域に関する値と、前記第1の眼底画像情報における前記第2の点または領域に関する値と、前記第2の眼底画像情報における前記第3の点または領域に関する値とに基づいて、前記第1の点または領域に関する特性値を決定する工程と、
を有する画像処理方法。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の画像処理方法の各工程をコンピュータに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書の開示は、画像処理装置、画像処理方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
医師が眼科疾患を診断するために、眼科写真を取得する眼底カメラなどの眼科装置が広く普及している。また、光干渉断層撮影法(Optical Coherence Tomography、以下、OCTという)を用いた装置(以下、OCT装置という)により、測定対象の断層画像を非侵襲で取得することができることが知られている。OCT装置を用いて、被験者のOCT画像と健常者あるいは正常眼データベースのOCT画像の乖離度を評価して、被験者の眼科疾患を見つける診断が行われている。
【0003】
ここで、緑内障が進行すると網膜の厚さ(層厚)が小さくなることが知られており、OCT画像で層厚を評価することで緑内障を検出することができる。特許文献1には、標準的な眼(正常眼等)における層厚の多数の計測値の統計値に基づいて得た標準層厚に対する、対応位置における層厚値の変位を演算する技術が開示されている。また、特許文献1には、中心窩を通る横軸に対して互いに対称な位置の上記変位同士を比較する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-89792号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
正常眼データベースと比較して疾患を検出する方法は、個人差によって正常値から外れていた場合、健常時においても疾患だと誤判定されてしまう場合がある。例えば、近視などによって眼軸長が長い場合、一般的に網膜厚が薄くなる傾向があるため、健常眼であっても緑内障と誤判定されてしまう可能性がある。また、正常眼データベースを用いる方法は、正常眼データベースを生成あるいは入手するためにコストが多くかかってしまうという課題がある。また、層厚の上下対称性を評価する解析方法には、層厚が上下ともに同程度に小さくなった場合、緑内障の進行を見落としてしまうという課題がある。
【0006】
そこで、本明細書の開示の目的の一つは、疾患を高精度に検出することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書の開示の一実施態様に係る画像処理装置は、
被検者の左右眼の第1の眼底画像情報及び第2の眼底画像情報において、黄斑および乳頭を基準とした第1の座標軸を設定する設定手段と、
前記第1の眼底画像情報における第1の点または領域と前記第1の座標軸に対して対称な第2の点または領域と、前記第2の眼底画像情報における第3の点または領域であって、前記第1の点または領域と黄斑および乳頭との相対関係が対応する前記第3の点または領域とを特定する特定手段と、
前記第1の眼底画像情報における前記第1の点または領域に関する値と、前記第1の眼底画像情報における前記第2の点または領域に関する値と、前記第2の眼底画像情報における前記第3の点または領域に関する値とに基づいて、前記第1の点または領域に関する特性値を決定する決定手段と、を有する。
【発明の効果】
【0008】
本明細書の開示の少なくとも一実施形態によれば、疾患を高精度に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1の実施形態に係る画像処理装置の全体構成の一例を概略的に示す。
図2】第1の実施形態に係る画像処理の動作のフローチャートの一例を示す。
図3】第1の実施形態に係る対称性マップ生成処理のフローチャートの一例を示す。
図4】第1の実施形態に係る幾何補正処理の過程の例を示す。
図5】第1の実施形態に係る対称性マップの生成過程の例を示す。
図6】第1の実施形態に係る対称性マップの効果の一例を示す。
図7】第2の実施形態に係る対称性マップ生成処理のフローチャートの一例を示す。
図8】第2の実施形態に係る対称性マップ生成過程の概略図を示す。
図9】変形例に係る層厚プロファイルの例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明を実施するための例示的な実施の形態を詳細に説明する。図面において、同一であるか又は機能的に類似している要素を示すために図面間で同じ参照符号を用いる。なお、各図面において説明上重要ではない構成要素、部材、処理の一部は省略して記載されている場合がある。
【0011】
また、本明細書では、OCT、眼底カメラ、走査型レーザ検眼鏡(SLO)など各撮影技術(モダリティ)で取得される眼底の画像をまとめて「眼底画像」と呼ぶこととする。さらに、本明細書においては、被検体の深さ方向をZ方向とし、Z方向に垂直な方向をX方向とし、Z方向とX方向に垂直な方向をY方向とする。
【0012】
本実施形態について、図1乃至図9を参照しながら説明する。本実施形態に係る画像処理装置100は、図1に例示するように、入力部101と、制御部102と、表示部103と、操作部104と、記憶部105とを含んで構成される。
【0013】
入力部101は、例えばUSB(Universal Serial Bus)ケーブル等を用いたインタフェースであり、OCT装置などの眼科機器からデータを入力して制御部102へ出力する。また、入力部101は、制御部102に接続されたサーバ等の不図示の外部装置から画像を含む各種データを入力してもよい。ここで、制御部102と不図示の外部装置はインターネット等の任意のネットワークを介して接続されていてもよい。また、入力部101は、記憶部105に記憶された各種データを入力してもよい。
【0014】
制御部102は、入力されたデータに対して記憶部105に格納されているプログラムを実行し、結果を表示部103へ出力する。ここで、制御部102は、OCT装置100の内蔵(内部)のコンピュータであってもよいし、OCT装置100が通信可能に接続された別体(外部)のコンピュータであってもよい。また、制御部102は、例えば、パーソナルコンピュータであってもよく、デスクトップPCや、ノート型PC、タブレット型PC(携帯型の情報端末)が用いられてもよい。このとき、制御部102と眼科機器の通信接続は、有線通信による接続であってもよいし、無線通信による接続であってもよい。なお、プロセッサーは、CPU(Central Processing Unit)であってよい。また、プロセッサーは、例えば、MPU(Micro Processing Unit)、GPU(Graphical Processing Unit)やFPGA(Field-Programmable Gate Array)等であってもよい。
【0015】
表示部103は、ディスプレイ等であり、制御部102から入力されるデータに基づいて検者へ情報を表示する。例えば、表示部103は、被検眼に関する患者情報や各種画像、眼科疾患に関する推定結果等を表示することができる。
【0016】
操作部104はマウスやキーボード、あるいはタッチパネルなどであり、検者の操作によって指示された処理を制御部102へ入力することができる。
【0017】
記憶部105は、オペレーティングシステム(OS)、周辺機器のデバイスドライバ、後述する処理等を行うためのプログラムを含む各種アプリケーションソフトを実現するためのプログラムを格納する。また、各種演算に必要なデータが保存されている。
【0018】
以下、第1の実施形態および第2の実施形態を説明する。第1の実施形態は、単一時間に取得された画像に基づいて眼科診断のための処理を行う。第2の実施形態は、異なる複数の時間に取得された画像に基づいて眼科診断のための処理を行う。
【0019】
[第1の実施形態]
図2のフローチャートを参照しながら、第1の実施形態に係る画像処理をステップごとに説明する。特に、眼底のOCT画像を用いて緑内障に関する推定を行う場合を例にして説明する。
【0020】
[ステップS1:画像入力]
入力部101は、OCT装置で取得された眼底の断層画像(OCT画像)データを入力する(ステップS1)。この断層画像データは、複数のBスキャン位置で撮影されたものを含み、これにより、入力部101は被検眼の眼底に関する3次元データを取得することができる。ここで、Aスキャンとは、被検眼の一点から断層の情報を取得することをいい、Aスキャンを任意の横断方向(主走査方向)において複数回行うことで被検眼Eの当該横断方向と深さ方向の二次元の断層の情報を取得することをBスキャンという。本実施例では、同一患者に対して、右眼と左眼の両方の断層画像を入力する。右眼と左眼で眼軸長に差がある場合は、これを補正する処理を行ってもよい。
【0021】
入力部101はケーブルによって眼科機器と接続されており、ケーブルを通して画像が入力される。また、別の場所で撮影された画像が、通信ネットワークなどを通して入力部101へ入力されてもよい。入力部101は、入力された画像を制御部102へ出力する。
【0022】
また、入力部101は、眼底カメラで撮影された眼底写真や、SLO光学系を用いて撮影された眼底正面画像(SLO画像)など、他の撮影技術で取得された画像やデータも入力し得る。
【0023】
また、入力部101は、被検眼に関する患者の識別番号、眼軸長、年齢、視力、人種、病歴、および強度近視の該非の少なくとも1つを含む等の患者データも併せて入力することができる。入力部101は、これらの画像やデータも不図示の外部装置から入力してもよい。なお、制御部102は、入力部101が入力したカルテの画像からテキストマイニング技術などを用いて患者データを抽出してもよい。
【0024】
[ステップS2:画像処理]
制御部102は、入力部100から入力された画像を処理して、表示部103へ出力する画像を生成する(ステップS2)。本実施形態に係る画像処理の例を、図3のフローチャートを用いて説明する。
【0025】
[ステップS21:厚みマップ生成]
制御部102は、断層画像データを用いて厚みマップを生成する(ステップS21)。厚みマップとは、被検眼の深さ方向(Z方向)に垂直なXY平面における各XY位置に対して、網膜内の解剖学的に定められる観察対象層の厚み(層厚)を輝度値等で表したマップ(マップ画像)であり、層厚マップとも言う。観察対象層の一例は、神経繊維層(NFL)、神経節細胞層(GCL)、内網状層(IPL)の3層であり、この層厚を積算することで厚みマップを生成することができる。また、神経線維層(NFL)のみの厚さから厚みマップを生成してもよいし、任意の層の層厚に基づいて厚みマップを生成してよい。厚みマップは、各XY位置の層厚をグレースケールの輝度値に変換して表すことができる。また、厚みマップは、各XY位置の層厚を疑似カラースケールの輝度値に変換して表したものであってもよい。また、入力されたOCTデータに対して、マップの見やすさや処理の負荷を鑑みて画素サイズを変更してもよい。
【0026】
具体的には、制御部102は、入力された断層画像についてセグメンテーション処理を行い、被検眼の断層における層構造を抽出し、各層構造の厚みを算出する。なお、セグメンテーション処理の手法及び厚みの算出方法は、公知の任意の手法を用いてよい。制御部102は、観察対象層について算出した厚みを用いて、被検眼の厚みマップを生成する。このように得られる左眼と右眼の厚みマップは、被検者の左右一対の眼底画像情報、つまり第1の眼底画像情報および第2の眼底画像情報の一例である。また、制御部102は、このように画像情報を取得する画像情報取得手段の一例である。
【0027】
[ステップS22:補正処理]
次に、制御部102は、厚みマップに対して補正処理を行う。補正処理の例を、以下で説明する。
【0028】
補正処理の一例は、厚みマップの不適切な箇所の輝度値を補正する処理(エラー補正処理)である。例えば、層のセグメンテーション処理でエラーが生じた場合、その位置の厚みは特異的な値となり、厚みマップ上で白飛びあるいは黒つぶれとして表される。制御部102は、厚みマップにおいて特異的な値を有する、そのような不適切な箇所の輝度値を、例えば周辺の平均的な値に置換する処理を行う。あるいは、制御部102は、そのような不適切な箇所を厚みマップから除去してもよい。また、制御部102は、視神経乳頭部(以下、単に「乳頭部」とも呼ぶ)内など、診断に不要と考えられる領域の輝度値を同様に置換してもよいし、その領域をマップから除去してもよい。
【0029】
また、入力部101から入力された画像データの画質が低く、診断に用いるのに不適切であると判断された場合、制御部102は、再撮影を促すメッセージを表示部103へ表示させることができる。この判断は検者(ユーザ)が目視で判断してもよい。また、画像の明るさやセグメンテーションの成功率などに基いたルールベースによる自動判定を行ってもよいし、機械学習による画質判定を行ってもよい。
【0030】
補正処理の他の一例は、厚みマップを生成する際に、被検眼の眼軸長データに基づいて、層厚の値を補正する処理である。ここで、被検眼の眼軸長データは、ステップS1において取得されてもよいし、検者から入力されてもよい。正常眼データベースと比べて被検眼の眼軸長が長い場合、網膜が引き伸ばされることで層厚全体が薄くなる影響がある。そのため、制御部102は、眼軸長に応じた層厚の影響を低減するように厚みマップを補正することができる。なお、眼軸長に応じた層厚の補正は公知の任意の手法を用いて行われてよい。このような補正によって、病変により層厚が薄くなっている場合と健常時から層厚が薄くなっている場合とを識別することができる。また、眼軸長が異なるとスキャン角度に対する眼底の撮影範囲が変わるため、制御部102は、厚みマップのスケールを補正する処理を行ってもよい。また、患者が強度近視である場合は眼軸長が長くなっている傾向がある。そのため、患者が強度近視である場合には、制御部102は厚みマップについて同様の補正を行ってもよい。なお、被検眼の眼軸長や強度近視の該非に関しては、入力された患者データに基づいて判断されてよい。
【0031】
補正処理の他の一例は、厚みマップを幾何学的に補正する処理(幾何補正処理)である。幾何補正処理の例を、図4(a)及び図4(b)を用いて説明する。ここで、図4(a)は幾何補正処理前の厚みマップの一例を示し、図4(b)は幾何補正処理後の厚みマップの一例を示す。
【0032】
幾何補正処理として、制御部102は、例えば記憶部105に記憶された厚みマップに関する基準情報を参照しながら、生成された厚みマップに対して、拡縮(拡大あるいは縮小)、回転、平行移動といった、幾何学的な補正処理を行う。この補正処理は、アフィン変換を用いて行ってもよい。
【0033】
記憶部105に記憶された基準情報の一例は、黄斑の中心位置、乳頭部の中心位置、ならびに図4(a)及び図4(b)における点線で示すような画像中の黄斑部Aから乳頭部Bまでの距離および角度である。なお、黄斑部Aから乳頭部Bまでの角度としては、例えば、画像の水平方向(横方向)に対する黄斑部Aと乳頭部Bとを結ぶ線の角度であってよい。
【0034】
具体的には、まず、制御部102は、黄斑部Aの中心位置が厚みマップの中心に来るように、厚みマップを平行移動する。なお、黄斑部Aの中心位置情報は断層画像や厚みマップ等を解析して取得することができる。また、厚みマップを表示部103に表示して、検者が操作部104を用いて黄斑の中心位置を選択してもよい。次に、図4(a)内の点線で示す黄斑部Aと乳頭部Bとを結ぶ線が基準の長さおよび角度(水平)になるように、厚みマップの拡縮および回転の調整を行う。ここでの基準の長さは任意に設定され得るが、一例として黄斑部(A)から乳頭部(B)までの距離が4500μm相当となるように設定し、画像の拡縮処理を行ってもよい。このような調整により、図4(b)に示すような厚みマップを取得することができる。なお。幾何補正処理で画素値が無くなった縁の箇所には、例えば周辺の画素値の平均値を画素値として用いることができる。また、縁が十分埋まるように画像全体を切り抜く処理を行ってもよい。また、アスペクト比の補正を行ってもよい。
【0035】
制御部102は、これらの補正処理を組み合わせて実施してもよい。
【0036】
[ステップS23:対称性マップ生成]
次に、制御部102は、厚みマップを用いて、被検眼に関する対称性を示す対称性マップを生成する(S23)。以下、図5(a)及び図5(b)を用いて、対称性マップの生成方法の一例を説明する。図5(a)は、被検者の右眼の断層画像から得られた厚みマップの一例であり、図5(b)は同一被検者の左眼の断層画像から得られた厚みマップである。なお、図5(a)及び図5(b)では、被検眼の対称性に関する基準として、厚みマップの水平方向に延びる中央線H1、H2、垂直方向に延びる中央線V1、V2が一点鎖線で示されている。本実施形態では、中央線H1、H2、V1、V2は、厚みマップにおける黄斑の中心を基準として定めている。すなわち、水平方向に延びる中央線H1、H2は、黄斑部および乳頭部を基準として第1の眼底画像情報および第2の眼底画像情報に設定された、被検眼の対称性の基準となる第1の座標軸の一例である。また、垂直方向に延びる中央線V1、V2は、第1の座標軸と垂直な第2の座標軸の一例である。第1の座標軸と第2の座標軸から、2次元座標系が設定される。制御部102は、このように2次元座標系を設定する座標系設定手段の一例である。なお、被検眼の対称性に関する基準となる第1の座標軸および第2の座標軸(中央線H1、H2、V1、V2)は、これに限られず、被検眼の対称性を確保できる対象を基準として定められてよい。
【0037】
本実施例の対称性マップは、図5(a)の厚みマップ内の注目画素P1と、図5(a)および(b)に示される画素P2、P3、P4におけるそれぞれの輝度値I1、I2、I3、I4から生成される。P2は、厚みマップの水平方向の中央線H1に対してP1と上下対称な位置の画素である。P3は、図5(b)のマップ内で、P1に該当する位置と垂直方向の中央線V2に対して左右対称な位置(黄斑部・乳頭部との相対関係がP1と対応する位置の一例)の画素である。P4は、P3と厚みマップの水平方向の中央線H2に対して上下対称な位置の画素である。I1、I2、I3、I4は、それぞれ周辺画素の輝度値の平均値としてもよい。つまり、注目画素P1は第1の眼底画像情報の上記座標系における第1の点の一例であり、その周辺画素が第1の領域の一例である。制御部102は、このように点または領域を指定する、点または領域指定手段の一例である。本実施形態の一例では、厚みマップ内の各点が第1の点または領域として順次指定される。また、検者によって特定の点または領域が指定されてもよい。また、P2、P3、P4ならびにそれらの周辺画素は、それぞれ第2の点または領域、第3の点または領域、第4の点または領域の一例である。制御部102は、このように対称点または領域を特定する対象位置特定手段の一例である。また、厚みマップのP1、P2、P3における輝度値はそれぞれ、第1の眼底画像情報における第1の点または領域に関する値、第1の眼底画像情報における第2の点または領域に関する値、第2の眼底画像情報における第3の点または領域に関する値の一例である。また、制御部102は、第1から第3の点または領域に関連する値を取得する情報取得手段の一例である。
【0038】
対称性マップの生成方法の一例は、まず、I1に対する他の3点の輝度値の比R12=I1/I2、R13=I1/I3、R14=I1/I4をそれぞれ計算する。次に、これらの比の最小値RM1=Min(R12,R13,R14)を選択する。次に、式(1)のように対数変換を行うことで特性値IS1を決定する。
【0039】
IS1=A×Log10(RM1)+B・・・(1)
ここでAは、対称性マップを見やすくするように階調のレンジを調整するための係数である。Bはオフセットであり、例えば中間の輝度値とすることができる。例えば対称性マップを8ビット(256階調)のデータで生成する場合、一例としてA=30、B=128と設定することができる。特に緑内障では網膜厚が薄くなっている領域に着目する必要がある。そこで、式(1)のように対数変換を行うことで、比の小さい箇所をより敏感に強調することができる。この処理を厚みマップ内の各画素に対して行うことによって、対称性マップを生成する。対称性マップは、上記のように決定された特性値と、指定された点または領域の座標値に基づいて生成される特性マップの一例である。
【0040】
また、特性値IS1はI1、I2、I3のみに基づいて決定してもよく、RM1=Min(R12,R13)とすることで上下と左右の対称性を併せて評価することができる。このように、制御部102は、第1の眼底画像情報における第1の点または領域に関する値と、第1の眼底画像情報における第2の点または領域に関する値と、第2の眼底画像情報における第3の点または領域に関する値とに基づいて、第1の点または領域に関する特性値を決定する決定手段の一例である。またこのように、決定手段は、第1の点または領域に関する値と第2の点または領域に関する値とを比較して得た第1の比較結果と、第1の点または領域に関する値と第3の点または領域に関する値とを比較して得た第2の比較結果とを比較して得た第3の比較結果を、特性値として決定する。
【0041】
幾何補正処理で画素値が無くなった縁の箇所は、式(1)の演算を行わずに、例えば中間輝度値あるいは近くの画素の輝度値に基づいた輝度値で埋めることができる。また、撮影画像の回転バラツキの統計データに基づいて厚みマップの縁の領域を周辺から何画素までかを一律に定義し、この縁の領域内で厚みマップの輝度値がゼロの画素を対称性マップでは中間輝度値に置き換えてもよい。縁に黄斑部や経乳頭などが含まれている場合、これらの部位については対称性マップ上では中間輝度値で表示してもよいし、輝度値をゼロなどにして表示してもよい。
【0042】
また、制御部102は、上記で輝度値の比を計算する前に、厚みマップに対して平滑化する処理を施してもよい。平滑化処理は、移動平均フィルタ処理、ガウシアンフィルタ処理、あるいはメディアンフィルタ処理などによって行うことができる。平滑化処理を施すことによって、厚みマップごとの位置ずれや回転ずれによる影響を低減することができる。フィルタのサイズや強さは、厚みマップ内の血管の太さに基づいて決定してもよい。また、画素数を減らす処理を行ってもよい。
【0043】
また、黄斑部や乳頭部境界は厚みマップの値が周囲に比べて急峻に小さくなることから、位置ずれの影響を受けやすい。そこで、これらの位置ずれの影響を受けやすい領域をマスクする処理を行ってもよい。また、これらの領域にのみ上記のような平滑化処理を施してもよい。
【0044】
また、このように上下と左右の両方の対称性を併せて評価することによる効果を、図6を用いて説明する。図6の各行の(a)、(b)、(c)、(d)において、左側の列は右眼のマップであり、右側の列は左眼のマップである。
【0045】
図6(a)は、厚みマップを模式的に示したものである。黒塗りの楕円領域E1、E2、E3は、緑内障によって、ドットパターンで示す背景領域よりも厚みが小さくなっている(薄い)ことを示している。また、E1、E2、E3の厚みは互いに同じ値である。E2は、E1と上下対称な位置に分布している。また、E3は、左眼において、E2と左右対称な位置に分布している。
【0046】
図6(b)は上下のみの対称性を評価した、上下対称性マップである。上下対称性マップは、図5(a)のP1における輝度値IUD1ならびにP2における輝度値IUD2を、上記のI1、I2を用いて
IUD1=A×Log10(I1/I2)+B・・・(2)
IUD2=A×Log10(I2/I1)+B・・・(3)
とする処理を、厚みマップ内の各画素に対して行うことで生成されるマップである。
【0047】
図6(a)の左眼で、厚みが小さい領域が下半分のみにあったため、図6(b)のように、上半分は輝度値が周囲よりも大きく、下半分は輝度値が周囲よりも小さい、上下対称性マップが得られる。一方、E1とE2は上下対称な位置に分布していたため、これらの位置の比は周囲と同じとなり、図6(b)の右眼の上下対称性マップには構造が見られない。このように、上下対称性マップのみでは、上下でほぼ対称に緑内障が進行した場合、緑内障であることを見落としてしまう可能性がある。
【0048】
図6(c)は左右の対称性を評価した、左右対称性マップである。左右対称性マップは、図5(a)のP1における輝度値ILR1ならびにP3における輝度値ILR3を、上記のI1、I3を用いて
ILR1=A×Log10(I1/I3)+B・・・(4)
ILR3=A×Log10(I3/I1)+B・・・(5)
とする処理を、厚みマップ内の各画素に対して行うことによって生成されるマップである。
【0049】
図6(a)の上半分は右眼の方が左眼よりも厚みが小さく、下半分は右眼と左眼で共に周囲よりも厚みが小さく互いに同じ厚みであったため、図6(c)のように、左眼の上半分は輝度値が周囲よりも小さく、右眼の上半分は輝度値が周囲よりも大きい、左右対称性マップが得られる。
【0050】
一方、E2とE3は左右対称な位置に分布していたため、これらの位置の比は周囲と同じとなり、図6(c)の右眼と左眼の左右対称性マップの下半分には構造が見られない。このように、左右対称性マップでは、右眼と左眼でほぼ対称に緑内障が進行した場合、緑内障であることを見落としてしまう可能性がある。
【0051】
また、図6(b)の上下対称性マップと図6(c)の左右対称性マップを個別に両方見た場合は、E2の領域が周囲と同じ輝度値となり、薄い箇所として抽出されていない。この場合、緑内障が進んでいることを見落としてしまう可能性がある。
【0052】
図6(d)は上記の方法で生成した、本実施形態に係る対称性マップである。この対称性マップではE2の領域が薄いことを抽出できている。本実施形態に係る対称性マップは、上下と左右に加えて上下かつ左右対称となる対角位置も参照し、これらの最小値を取ることで、より多くの条件から注目画素が他の領域と比べて薄くないかの情報を取得できている。より多くの条件を参照することで、従来のDeviation Mapにより近いマップを得ることができる。さらに、厚みマップで正常眼データベースと比較する方法には、以下の2つの課題がある。一つ目は、緑内障の正常眼データベースの比較マップは正常範囲よりも薄い部分にのみ反応するように作られていることが一般的なので、元々の層厚が厚い場合、多少薄くなってきても正常範囲に収まってしまい、初期の緑内障が検出できない、という課題である。もう一つは、乳頭中心から見た中大血管・神経線維束の走行方向が個人毎に異なるため、層厚の厚い部分が他の人とは異なると健常眼でも擬陽性として検出されてしまう、という課題である。これらの課題は、本実施形態によって改善することができる。また、一つのマップで対称性を表現できるので、上下対称性マップや左右対称性マップを個別に表示させるよりも、異常個所をより簡便に示すことができる。RM1=Min(R12,R13)として対称性マップを生成した場合は、上記のように図6(a)のE2の領域が薄いことを見落としてしまう可能性がある。
【0053】
また、対称性は疑似カラースケールに変換してもよい。このことによって、非対称な特徴領域を見やすくすることができる。
【0054】
さらに、対称性マップの輝度値の分布に基づいて、症状の有無や病期を定量評価してもよい。対称性マップの輝度値の分布として、例えば標準偏差を用いることができる。健常者の対称性マップはほぼ均一な輝度値であるため、標準偏差は小さい。一方、緑内障が進んで非対称な構造ができると、標準偏差は大きくなる。症状の有無や病期を判定するための標準偏差の閾値は、ルールベースにより判定してもよいし、患者データから機械学習モデルを生成して決定してもよい。
【0055】
緑内障の初期症状である前視野緑内障では、このように部分的に層厚の小さい領域が発生する。前視野緑内障は自覚症状が無いことも多いため、対称性マップによる観察でこのような症状を検出することができる。一方、緑内障が進行すると網膜が全体的に薄くなることが知られている。このため、厚みマップから網膜が全体的に薄くなっている場合は、緑内障である可能性を表示部103で示唆してもよい。
【0056】
[ステップS3:対称性マップ表示]
制御部102は、このようにして生成された対称性マップを表示部103へ表示させる。厚みマップなども一緒に表示させてもよい。対称性マップおよび厚みマップを表示部103へ表示させる時は、ステップS22で行った幾何補正処理などを元に戻してから表示してもよい。検者は、対称性の崩れをもとに緑内障であるか否かや、緑内障の進行度(病期)の診断を行うことができる。また、網膜厚の対称性の局所的な崩れから、加齢黄斑変性の診断を同様に実施することができる。対称性を示す標準偏差を、対称性マップと一緒に表示してもよい。対称性マップは、撮影中に表示する撮影画面に表示してもよいし、撮影後に撮影結果や解析結果を表示するレポート画面に表示してもよい。また、これらの両方に表示してもよい。
【0057】
対称性マップを、眼底写真、SLO画像、OCTのEn-face画像、OCTアンギオグラフィ(OCTA)画像の少なくとも一つと重ねて表示してもよい。なお、OCTのEn-Face画像は、OCTで取得したデータ(3次元のOCTデータ)について、撮影対象の深さ方向における少なくとも一部の範囲のデータを用いて生成された正面画像であってよい。また、OCTA画像は、2組以上のOCTデータより得られるモーションコントラストデータから生成され、血流の動きを測定する正面画像(OCTAのEn-Face画像)であってよい。モーションコントラストデータは、例えば、2枚の断層画像又はこれに対応する干渉信号間の脱相関値、分散値、又は最大値を最小値で割った値(最大値/最小値)として求めることができ、公知の任意の方法により求められてよい。このとき、2枚の断層画像は、例えば、被検眼の同一領域(同一位置)において測定光が複数回走査されるように制御して得ることができる。対称性マップをこれらの画像と重ねて表示することで、症状が出ている部位を分かりやすく示すことができる。この際、ステップS22で行った幾何補正処理などを元に戻してから重ねる処理を行ってもよい。
【0058】
このように対称性マップを生成することで、正常眼データベースを用いずに、また全体的な網膜厚の個人差に依らずに、診断を行うことが可能となる。
【0059】
[第1の実施形態の変形例]
制御部102は、生成した対称性マップを用いて機械学習モデルによる推定を行ってもよい。対称性マップと健常者あるいは緑内障の病期などを紐づけて学習させることで、機械学習モデルを生成することができる。機械学習モデルを生成する際は、厚みマップも入力画像として用いてもよい。制御部102は、学習結果と被験者の対称性マップの少なくとも一方を、表示部103へ表示させる。
【0060】
また、上記の例では厚みマップをR1、R2、R3の最小値RM1=Min(R1,R2,R3)を用いて生成していたが、代えてI2、I3、I4の平均値IMを計算し、RM1=I1/IMとして式(1)から対称性マップを生成してもよい。また、対数変換を行わず、RM1の値をP1における輝度値として、対称性マップを生成してもよい。また、輝度値の比を取るのではなく、差分をとることで対称性マップを生成してもよい。ただし差分で評価する場合は全体的な網膜厚の個人差の影響を受けるため、その際は眼軸長や視力などのデータから、全体的な網膜厚の影響を補正してもよい。
【0061】
上記の例では黄斑と乳頭部を含むOCTデータから対称性マップを生成したが、乳頭部を略中心にスキャンされたOCTデータから対称性マップを生成してもよい。このことで乳頭部周辺に変化が出る疾病の検出精度が向上する効果がある。このとき、別途取得されたOCTデータや眼底写真などの情報から黄斑部・中心部の位置情報を抽出することで、上下対称性を評価するための水平方向の中心軸を設定しても良い。またこのとき、左右対称性を評価するための垂直方向の中心軸を、乳頭部中心を通るように設定してもよい。
【0062】
[第2の実施形態]
眼科疾患に関する予後を予測するため、同一被検眼で異なる時間に撮影された複数の眼底画像(時系列データ)から、疾患の進行を高精度に検出することが求められる。そこで、本実施形態に係る画像処理装置は、時系列データから対称性マップを生成することで、正常眼データベースを用いずに疾患の進行を検出するためのデータを提示する。本実施形態に係る画像処理装置は、図1と同様の構成を持つため、同じ参照符号を用いて説明を省略する。また、本実施形態に係る画像処理装置は、図2と同様のフローチャートの処理を行うため、同じ参照符号を用いて説明する。以下、第1実施形態との違いを中心に本実施形態に係る制御部102について説明する。
【0063】
[ステップS1:画像入力]
本実施形態に係る入力部101は、同一被検眼に対して異なる時間に撮影された複数の眼底画像を入力する(ステップS1)。入力部101が入力した複数の眼底画像は、制御部102へ出力される。
【0064】
例えば、過去に撮影された少なくとも1つの3次元の断層画像が、通信ネットワークなどを通して既存のデータベースから入力部101へ入力される。併せて、新たに撮影された断層画像が、OCT装置からケーブルなどを通して入力部101へ入力される。これらの断層画像が、制御部102へ出力される。なお、過去の断層画像は、予め記憶部105に記憶しておき、記憶部105から制御部102に入力してもよい。
【0065】
また、入力部101は、第1の実施形態と同様に、眼底写真や、SLO画像、En-Face画像、OCTA画像、患者データ等も取得することができる。
【0066】
[ステップS2:画像処理]
本実施形態に係る制御部102は、異なる時間に撮影された同一被検眼の眼底画像を比較して、対称性マップを生成する。(ステップS2)。対称性マップ生成の例を、図7のフローチャートならびに図8の概略図を用いて説明する。
【0067】
まず、制御部102は、新しく撮影された断層画像(第1のOCT画像801)から第1の厚みマップ811を生成し、過去に撮影された断層画像(第2のOCT画像802)から第2の厚みマップ812を生成する(ステップS31)。厚みマップは、第1の実施形態と同様の方法で生成される。例として、第2の厚みマップは健常時のデータや、取得した中で最も古い時間のデータを用いて生成される。このように得られる第1の厚みマップ811と第2の厚みマップ812は、被検者の一対の異なる時間における眼底画像情報、つまり第1の眼底画像情報および第2の眼底画像情報の一例である。また、制御部102は、このように画像情報を取得する画像情報取得手段の一例である。
【0068】
次に、制御部102は、第1の厚みマップ811および第2の厚みマップ812に対して補正処理を行う(ステップS32)。
【0069】
本実施形態の補正処理の一例は、幾何補正処理を含む。制御部102は第1の実施形態と同様に、記憶部105に記憶された基準情報を参照しながら、第1の厚みマップ811および第2の厚みマップ812に対して、拡縮(拡大あるいは縮小)、回転、平行移動といった、幾何学的な補正処理を行う。なお、基準情報は、第1の実施形態と同様に一律に設定してもよいし、最も古い時間に撮影された断層画像から生成された厚みマップの黄斑部Aから乳頭部Bまでの距離、角度、ならびに黄斑部Aおよび乳頭部Bの位置としてもよい。この場合、基準情報を参照しながら、他の時間に撮影された断層画像から生成された厚みマップを補正する。また、基準情報の取得に用いる画像は、最も古いものに限らず、任意の時間に撮影された画像であってよい。
【0070】
また、本実施形態の補正処理の一例は、厚みマップを平滑化する処理を含むことができる。平滑化処理によって、異なる時間に撮影された断層画像同士の位置ずれや回転ずれの影響を低減することができる。また、黄斑部や乳頭部境界などの位置ずれの影響を受けやすい領域をマスクする処理を行ってもよい。さらに、補正処理は、不適切箇所の輝度値の補正や眼軸長に応じた補正等、その他の画像処理を含んでもよい。
【0071】
本実施形態の一例では、対称性マップは、図8の第1の厚みマップ内の注目画素P1と、さらに第1の厚みマップおよび第2の厚みマップ内のP2、P3、P4におけるそれぞれの輝度値I1、I2、I3、I4から生成される。P2は、厚みマップの水平方向の中央線に対してP1と上下対称な位置の画素である。P3は、第2の厚みマップにおいてP1に該当する位置の画素である。P4は、P3と厚みマップの水平方向の中央線に対して上下対称な位置の画素である。I1、I2、I3、I4は、それぞれ周辺画素の輝度値の平均値としてもよい。つまり、注目画素P1は第1の眼底画像情報の上記座標系における第1の点の一例であり、その周辺画素が第1の領域の一例である。制御部102は、このように点または領域を指定する、点または領域指定手段の一例である。本実施形態の一例では、厚みマップ内の各点が第1の点または領域として制御部102によって順次指定される。また、検者によって特定の点または領域が第1の点または領域として指定されてもよい。また、P2、P3、P4ならびにそれらの周辺画素は、それぞれ第2の点または領域、第3の点または領域、第4の点または領域の一例である。制御部102は、このように第2の点または領域、第3の点または領域、第4の点または領域を特定する、対象位置特定手段の一例である。また、厚みマップのP1、P2、P3における輝度値は、それぞれ、第1の眼底画像情報における第1の点または領域に関する値、第1の眼底画像情報における第2の点または領域に関する値、第2の眼底画像情報における第3の点または領域に関する値の一例である。また、制御部102は、第1から第3の点または領域に関連する値を取得する情報取得手段の一例である。
【0072】
対称性マップの生成方法の一例は、まず、I1に対する他の3点の輝度値の比R12=I1/I2、R13=I1/I3、R14=I1/I4をそれぞれ計算する。次に、これらの比の最小値RM1=Min(R12,R13,R14)を選択する。次に、式(1)のように対数変換を行うことで特性値IS1を決定する。この処理を厚みマップ内の各画素に対して行うことによって、対称性マップが生成される。対称性マップは、上記のように決定された特性値と、指定された点または領域の座標値に基づいて生成される特性マップの一例である。
【0073】
また、特性値IS1は、I1、I2、I3に基づいて決定してもよい。このとき、RM1=Min(R12,R13)とすることで、現時点の厚みマップの上下対称性と、現時点の厚みマップの輝度値と過去の厚みマップの輝度値とを比べることで得られる対称性との2つの対称性を併せて評価することができる。このように、制御部102は、第1の眼底画像情報における第1の点または領域に関する値と、第1の眼底画像情報における第2の点または領域に関する値と、第2の眼底画像情報における第3の点または領域に関する値とに基づいて、第1の点または領域に関する特性値を決定する決定手段の一例である。またこのように、決定手段は、第1の点または領域に関する値と第2の点または領域に関する値とを比較して得た第1の比較結果と、第1の点または領域に関する値と第3の点または領域に関する値とを比較して得た第2の比較結果とを比較して得た第3の比較結果を、特性値として決定する。
【0074】
また、過去に撮影された複数の断層画像のそれぞれから厚みマップを生成し、最も古い時間の厚みマップに対して式(1)で説明した演算をすることで、複数の対称性マップを生成してもよい。これにより、制御部102は、相関マップの時系列データを生成することができる。また、式(1)の演算で参照する対象は最も古い時間に撮影された画像から得られる厚みマップに限らず、別の時間の画像から得られる厚みマップや、健常時の画像から得られる厚みマップであってもよい。
【0075】
[ステップS3:対称性マップ表示]
制御部102は、このようにして生成された対称性マップを表示部103へ表示させる。この対称性マップを観察することで、その時点の上下対称性に加えて、過去と比べた疾病の進行の評価を行うことができる。
【0076】
[第2の実施形態の変形例]
制御部102は、機械学習モデルによって対称性マップの時間変化から症状の有無やその確率を推定し、結果を表示部103へ出力してもよい。また、所定の未来時に症状がどのくらい進行しているかを推定し、その結果を表示部103へ出力してもよい。機械学習の過程で、学習モデルが注意を払った箇所を示す注意マップ(ヒートマップ)を生成し、注意マップの時系列データを表示部103に表示してもよい。
【0077】
[変形例1]
本変形例1では、制御部102は、対称性マップ生成(あるいは特性値の決定)の可否を判定する。
【0078】
入力部101から取得可能な断層画像データが左右眼のうち片方しか存在しない場合(例えば、第1の眼底画像情報は存在するが、第2の眼底画像情報が存在しない場合)、制御部102は対称性マップ生成が「不可」と判定する。また、左右眼の断層画像データが存在する場合においても左右でスキャンパターン(位置、画角、間隔など)が異なっている場合は、制御部102は対称性マップ生成が「不可」と判定する。
【0079】
また、入力部101から取得可能な断層画像データに左右眼両方のデータが存在する場合においても、制御部102によってデータの品質がよくないと判定された場合(例えば、第1の眼底画像情報と第2の眼底画像情報とのうち少なくとも一つの品質がよくない場合)、制御部102は対称性マップ生成が「不可」と判定する。ここで言うデータの品質がよくない例としては、「画像が暗い」、「断層画像のセグメンテーションが大きく失敗している」、「黄斑部あるいは乳頭部が写っていない」「データに欠損部が存在する」などが挙げられる。データの品質は断層画像データを評価して行っても良いし、生成された対称性マップを評価して行ってもよい。
【0080】
これらによって、制御部102は、対称性マップ生成を「不可」と判定した場合、対称性マップ生成が不可であることを表示部103に表示させる。このとき、制御部102は、左右眼のデータが入力されたものの品質がよくない場合は、対称性マップを生成・表示した上で、品質がよくない旨を表示させてもよい。
【0081】
また、制御部102は、データが存在しなかった方の眼あるいはスキャンパターンなど、対称性マップ生成に必要なデータの撮影を行うことを促すメッセージを表示部102に表示させてもよい。すなわち、制御部102は、特性値の決定の可否を判定して得た結果に基づいて、第1の眼底画像情報と第2の眼底画像情報とのうち少なくとも一つの取得を行うことを促すメッセージを表示部102に表示させてもよい。このとき、メッセージ表示方法として、例えば検者が対称性マップ生成に必要なデータの撮影を行うことを承諾した場合は「OK」ボタンを押すような、ポップアウト形式でもよい。検者がこれを承諾した場合、制御部102はデータ撮影の準備を行い、対称性マップ生成に必要なデータを取得する。
【0082】
[変形例2]
本変形例2では、入力部101から取得される断層画像データが左右眼そろっており、なおかつ対称性マップ生成に使用可能なデータが複数ある場合に、対称性マップ生成に用いるデータを検者または制御部102が選択するステップを備える。
【0083】
検者が対称性マップ生成に用いる画像データを選択する例では、表示部103に候補となる画像データならびにそのデータに関する情報を表示させる。データに関する情報は、例えば撮影時間や品質評価値などである。データの品質評価値は、画像の明るさ、セグメンテーションの成功率、信号対雑音比(SNR)などによって設定される。検者は、表示された画像データおよび情報を見ながら、操作部104を用いて対称性マップ生成に用いるデータを選択する。
【0084】
制御部102が対称性マップ生成に用いる画像データを選択する例では、制御部102は撮影時間や品質評価値などに基づいて、データを選択する。撮影時間に基づかせる例として、撮影時間が最も新しいものや、左右眼データの撮影時間が最も近いものを選択候補とすることができる。品質評価値は、画像の明るさ、セグメンテーションの成功率、信号対雑音比(SNR)などによって設定され、これが優れているものを選択候補とすることができる。
【0085】
制御部102は、このように選択された断層画像データを用いて、対称性マップを生成する。
【0086】
[変形例3]
上述の実施形態及び変形例で生成された対称性マップは、他の関連する画像やマップと組み合わせて表示部103に表示される。このことによって、その位置における対称性の情報と、血管走行状態や層厚などの他の情報とを対応させて認識しやすくなる。この場合、対称性マップは、生成時に施した幾何補正を、元に戻してから表示してもよい。
【0087】
本変形例の一例では、対称性マップと、他の関連する画像やマップとが、並べて表示される。例えば、SLO画像、En-face画像、OCTA画像、断層画像、厚みマップの少なくとも1つと、対称性マップとを並べて表示してもよい。この時、対応する撮影範囲を四角枠や線などのマークで示してもよい。
【0088】
また、対称性マップは、他の関連する画像やマップと重畳して表示部103に表示してもよい。例えば、SLO画像、En-face画像、OCTA画像、厚みマップの少なくとも1つと、対称性マップとを重畳して表示してもよい。この場合、各画像あるいはマップの重畳比率を検者が操作部104で指定するために、制御部102は重畳比率調整手段を備えていてもよい。
【0089】
[その他の変形例]
上述の実施形態及び変形例では、OCTで取得される厚みマップから対称性マップを生成して緑内障の診断を行う例を説明したが、実施形態はこれに限らない。
【0090】
例えば、厚みマップから対称性マップを生成し、加齢黄斑変性(AMD)のような網膜変形を起こす疾病を診断してもよい。
【0091】
また、眼底写真、蛍光単色の眼底正面画像、SLO画像から同様に対称性マップを生成し、糖尿病網膜症や緑内障のように、明暗や色差について対称性の崩れが現れる疾病を診断してもよい。また、SLO画像に代えてOCT画像から得られるEn-face画像を用いてもよい。
【0092】
また、OCTA画像から血管密度マップを取得し、その対称性マップを同様に生成してもよい。この対称性マップを用いて、糖尿病網膜症など血管密度に症状が現れる疾病を診断しても良い。
【0093】
また、Swept Source OCT(SS-OCT)などで取得されたOCT画像から脈絡膜のEn-face画像を生成し、血管走行パターンの対称性を評価することで中心性漿液性脈絡網膜症などの診断を行ってもよい。
【0094】
また、図9の(a)(b)のように左右眼の断層画像を取得し、図9の(c)(d)のような一次元網膜厚プロファイルや網膜トポロジー形状の上下左右対称性を評価してもよい。例えば、ある地点P1に対して、上下対称な位置P2、反対側の眼のP1に該当する位置P3、P3と上下対称な位置P4に対して第1の実施形態と同様の処理を行ってもよい。つまり、P1の厚さに対してP2、P3、P4それぞれの厚さの比R12、R13、R14をとり、RM1=Min(R12,R13,R14)をプロットすることで、一次元での対称性マップ(図9(e))を生成することができる。その上で、加齢黄斑変性や緑内障などの診断を行ってもよい。
【0095】
また、眼底カメラで得られる眼底写真、SLO画像、蛍光単色の眼底正面画像、En-face画像、OCTA画像、層厚マップ、の少なくとも2つを演算して得られた画像情報から、対称性マップを生成してもよい。画像情報の一例は重畳画像であり、一例として、眼底写真と層厚マップの重畳画像から対称性マップを生成してもよい。
【0096】
なお、本発明はこれらの実施形態に限定されないことは言うまでもなく、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【0097】
また、本発明は、以下の処理を実行することによっても実現される。即ち、本発明は、上述した様々な実施形態及び変形例の1以上の機能を実現するソフトウェア(プログラム)を、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータ(またはCPUやMPU等)がプログラムを読み出して実行する処理でも実現可能である。コンピュータは、1つ又は複数のプロセッサー若しくは回路を有し、コンピュータ実行可能命令を読み出し実行するために、分離した複数のコンピュータ又は分離した複数のプロセッサー若しくは回路のネットワークを含みうる。
【0098】
このとき、プロセッサー又は回路は、中央演算処理装置(CPU)、マイクロプロセッシングユニット(MPU)、グラフィクスプロセッシングユニット(GPU)、特定用途向け集積回路(ASIC)、又はフィールドプログラマブルゲートウェイ(FPGA)を含みうる。また、プロセッサー又は回路は、デジタルシグナルプロセッサ(DSP)、データフロープロセッサ(DFP)、又はニューラルプロセッシングユニット(NPU)を含みうる。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9