(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-12
(45)【発行日】2024-07-23
(54)【発明の名称】通信システム及び通信方法
(51)【国際特許分類】
H01P 5/18 20060101AFI20240716BHJP
H04B 5/43 20240101ALI20240716BHJP
【FI】
H01P5/18 J
H04B5/43
(21)【出願番号】P 2022183734
(22)【出願日】2022-11-16
(62)【分割の表示】P 2018196232の分割
【原出願日】2018-10-17
【審査請求日】2022-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】行正 浩二
【審査官】安藤 一道
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-044944(JP,A)
【文献】特表2006-514482(JP,A)
【文献】特表2004-518370(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0355935(US,A1)
【文献】特開2018-113673(JP,A)
【文献】特開2013-171298(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01P 5/18
H04B 5/43
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定方向における一方の端部に信号が入力され、他方の端部に終端抵抗が接続され、前記一方の端部から他方の端部へ信号を伝送する第1結合器と、
前記所定方向における長さが前記第1結合器よりも短い第2結合器と、
前記第1結合器と前記第2結合器との間での電磁界結合による無線通信を制御する通信制御手段と、
前記第1結合器に対する前記第2結合器の前記所定方向における位置が変化するように、前記第1結合器と前記第2結合器との少なくとも何れかを移動させる移動制御手段とを有し、
前記所定方向と垂直な方向の視点において前記第1結合器と前記第2結合器とが重なる部分と前記第1結合器の前記一方の端部との前記所定方向における距離が第1距離である場合における前記第1結合器と前記第2結合器との第1の結合度が、前記垂直な方向の視点において前記第1結合器と前記第2結合
器とが重なる部分と前記第1結合器の前記一方の端部との前記所定方向における距離が前記第1距離より短い第2距離である場合における前記第1結合器と前記第2結合器との第2の結合度よりも大きく、
前記所定方向と垂直な方向の視点において前記第1結合器と前記第2結合器とが重なる部分と前記第1結合器の前記一方の端部との前記所定方向における距離が前記第1距離より長い第3距離である場合における前記第1結合器と前記第2結合器との第3の結合度が、第1の結合度よりも大きいことを特徴とする通信システム。
【請求項2】
前記垂直な方向の視点において前記第1結合器と前記第2結合器とが重なる部分と前記第1結合器の前記一方の端部との前記所定方向における距離が前記第1距離である場合における前記第1結合器と前記第2結合器との間隔が、前記垂直な方向の視点において前記第1結合器と前記第2結合
器とが重なる部分と前記第1結合器の前記一方の端部との前記所定方向における距離が前記第2距離である場合における前記第1結合器と前記第2結合器との間隔よりも短いことを特徴とする請求項1に記載の通信システム。
【請求項3】
前記垂直な方向の視点において前記第1結合器と前記第2結合器とが重なる部分と前記第1結合器の前記一方の端部との前記所定方向における距離が前記第1距離である場合における当該重なる部分の面積が、前記垂直な方向の視点において前記第1結合器と前記第2結合
器とが重なる部分と前記第1結合器の前記一方の端部との前記所定方向における距離が前記第2距離である場合における当該重なる部分の面積よりも大きいことを特徴とする請求項1又は2に記載の通信システム。
【請求項4】
前記第1結合器の前記他方の端部における幅は、前記第1結合器の前記一方の端部における幅より大きいことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の通信システム。
【請求項5】
前記第1結合器は、前記所定方向に並ぶ第1基板及び第2基板に設置され、
前記第1基板は、前記第2基板よりも、前記所定方向において前記第1結合器の前記一方の端部から遠く、
前記第1基板の誘電率は、前記第2基板の誘電率よりも低いことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の通信システム。
【請求項6】
前記第1結合器は平板状であり、
前記所定方向は前記第1結合器の面に平行な方向であることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の通信システム。
【請求項7】
前記第1結合器は輪形状を成し、
前記所定方向は前記第1結合器の円周方向であることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の通信システム。
【請求項8】
前記移動制御手段は、前記第1結合器と前記第2結合器との少なくとも何れかを前記所定方向に移動させることを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載の通信システム。
【請求項9】
前記移動制御手段は、前記第1結合器に対する前記第2結合器の前記所定方向における位置と、前記第1結合器に対する前記第2結合器の前記所定方向に垂直な方向における位置とが変化するように、前記第1結合器と前記第2結合器との少なくとも何れかを移動させることを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載の通信システム。
【請求項10】
前記通信制御手段は、前記第1結合器と前記第2結合器とを介したベースバンド方式による無線通信を制御することを特徴とする請求項1乃至9の何れか1項に記載の通信システム。
【請求項11】
所定方向における一方の端部に信号が入力され、他方の端部に終端抵抗が接続され、前記一方の端部から他方の端部へ信号を伝送する第1結合器と、
前記所定方向における長さが前記第1結合器よりも短い第2結合器と、を有する無線通信システムを用いて通信を行う通信方法であって、
前記第1結合器と前記第2結合器との間での電磁界結合による無線通信を制御する通信制御工程と、
前記第1結合器に対する前記第2結合器の前記所定方向における位置が変化するように、前記第1結合器と前記第2結合器との少なくとも何れかを移動させる移動制御工程とを有し、
前記所定方向と垂直な方向の視点において前記第1結合器と前記第2結合器とが重なる部分と前記第1結合器の前記一方の端部との前記所定方向における距離が第1距離である場合における前記第1結合器と前記第2結合器との第1の結合度が、前記垂直な方向の視点において前記第1結合器と前記第2結合
器とが重なる部分と前記第1結合器の前記一方の端部との前記所定方向における距離が前記第1距離より短い第2距離である場合における前記第1結合器と前記第2結合器との第2の結合度よりも大きく、
前記所定方向と垂直な方向の視点において前記第1結合器と前記第2結合器とが重なる部分と前記第1結合器の前記一方の端部との前記所定方向における距離が前記第1距離より長い第3距離である場合における前記第1結合器と前記第2結合器との第3の結合度が、第1の結合度よりも大きいことを特徴とする通信方法。
【請求項12】
前記移動制御工程は、前記垂直な方向の視点において前記第1結合器と前記第2結合器とが重なる部分と前記第1結合器の前記一方の端部との前記所定方向における距離が前記第1距離である場合における前記第1結合器と前記第2結合器との間隔が、前記垂直な方向の視点において前記第1結合器と前記第2結合
器とが重なる部分と前記第1結合器の前記一方の端部との前記所定方向における距離が前記第2距離である場合における前記第1結合器と前記第2結合器との間隔よりも短くなるように、前記第1結合器と前記第2結合器との少なくとも何れかを移動させることを特徴とする請求項11に記載の通信方法。
【請求項13】
前記移動制御工程は、前記垂直な方向の視点において前記第1結合器と前記第2結合器とが重なる部分と前記第1結合器の前記一方の端部との前記所定方向における距離が前記第1距離である場合における当該重なる部分の面積が、前記垂直な方向の視点において前記第1結合器と前記第2結合
器とが重なる部分と前記第1結合器の前記一方の端部との前記所定方向における距離が前記第2距離である場合における当該重なる部分の面積よりも大きくなるように、前記第1結合器と前記第2結合器との少なくとも何れかを移動させることを特徴とする請求項11又は12に記載の通信方法。
【請求項14】
前記第1結合器は、前記所定方向に並ぶ第1基板と第2基板とを有し、
前記第1基板は、前記第2基板よりも、前記所定方向において前記第1結合器の前記一方の端部から遠く、
前記第1基板の誘電率は、前記第2基板の誘電率よりも低いことを特徴とする請求項11乃至13の何れか1項に記載の通信方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁界結合により無線通信を行う技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、近接した機器間において電磁界結合を用いて無線で通信を行う近接無線通信システムが考えられている。特許文献1には、コンピュータ断層撮影装置において、回転するフレームに設置された結合器と固定されたフレームに設置された結合器とが電磁界結合し、撮影データを無線通信する構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術のように、無線通信を行うための送信側の結合器と受信側の結合器との位置関係が変化する通信システムにおいて、通信の精度を向上させることが求められている。例えば、送信側の結合器が長い伝送線路である場合には、伝送線路における信号の入力端とは反対側の端部付近では信号が減衰してしまう。そのため、その端部付近に受信側の結合器が位置すると、受信される信号の強度がコンパレータの閾値より小さくなることにより、受信回路において信号を正しく復元できない。一方、これを回避するために伝送線路の入力端に入力する信号の振幅を大きくすると、入力信号に応じて発生するノイズも大きくなる。そのため、入力端付近に受信側の結合器が位置する場合に受信されるノイズの強度がコンパレータの閾値より大きくなることにより、受信回路において復元される信号にノイズが混じってしまう。
【0005】
本発明は上記の課題に鑑み、無線通信を行うための送信側の結合器と受信側の結合器との位置関係が変化する通信システムにおいて、通信の精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、本発明に係る無線通信システムは、例えば以下の構成を有する。すなわち、所定方向における一方の端部に信号が入力され、他方の端部に終端抵抗が接続され、前記一方の端部から他方の端部へ信号を伝送する第1結合器と、前記所定方向における長さが前記第1結合器よりも短い第2結合器と、前記第1結合器と前記第2結合器との間での電磁界結合による無線通信を制御する通信制御手段と前記第1結合器に対する前記第2結合器の前記所定方向における位置が変化するように、前記第1結合器と前記第2結合器との少なくとも何れかを移動させる移動制御手段とを有し、前記所定方向と垂直な方向の視点において前記第1結合器と前記第2結合器とが重なる部分と前記第1結合器の前記一方の端部との前記所定方向における距離が第1距離である場合における前記第1結合器と前記第2結合器との結合度が、前記垂直な方向の視点において前記第1結合器と前記第2結合器とが重なる部分と前記第1結合器の前記一方の端部との前記所定方向における距離が前記第1距離より短い第2距離である場合における前記第1結合器と前記第2結合器との結合度よりも大きく、前記所定方向と垂直な方向の視点において前記第1結合器と前記第2結合器とが重なる部分と前記第1結合器の前記一方の端部との前記所定方向における距離が前記第1距離より長い第3距離である場合における前記第1結合器と前記第2結合器との第3の結合度が、第1の結合度よりも大きい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、無線通信を行うための送信側の結合器と受信側の結合器との位置関係が変化する通信システムにおいて、通信の精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】無線通信システムの構成例について説明するための図である。
【
図2】伝送線路を伝わる信号の減衰について説明するための図である。
【
図3】カプラの構成例について説明するための図である。
【
図4】カプラの対向面積と通信信号との関係について説明するための図である。
【
図5】無線通信システムの構成例について説明するための図である。
【
図6】カプラの構成例について説明するための図である。
【
図7】カプラ間の距離と通信信号との関係について説明するための図である。
【
図8】カプラの構成例について説明するための図である。
【
図9】カプラ及び誘電体基板の構成例について説明するための図である。
【
図10】無線通信システムの構成例について説明するための図である。
【
図11】カプラの構成例について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[無線通信システムの構成]
以下、図面を用いて本発明の実施形態について説明する。
図1(a)に、本実施形態における無線通信システム100のシステム構成を示す。無線通信システム100は、通信装置101と、通信装置101との間で無線通信を行う通信装置102とを有する。通信装置101は、送信回路103、送信カプラ104、受信回路107、受信カプラ108及び制御部111を有する。同様に通信装置102は、受信回路105、受信カプラ106、送信回路109、送信カプラ110、及び制御部112を有する。なお、通信装置101と通信装置102はそれぞれ単一の装置の第1部分と第2部分であってもよい。
【0010】
本実施形態において無線通信システム100は、通信装置101と通信装置102とを所定の位置関係(例えば送信カプラと受信カプラとが対向する位置関係)を保つように支持するための構造を有する。具体的には、通信装置101がプリンタのプリントヘッド部であり、通信装置102がプリンタの本体部である。別の例としては、通信装置101が工場内のラインヘッド部であり、通信装置102が工場のラインのレールである。ただし無線通信システム100の適用先はこれらに限定されない。
【0011】
送信カプラ104は受信カプラ106と電磁界結合することにより、通信装置101と通信装置102との間の無線通信を実現するためのアンテナとして機能する。送信カプラ110は受信カプラ108と電磁界結合することにより、通信装置101と通信装置102との間の無線通信を実現するためのアンテナとして機能する。本実施形態における電磁界結合には、電界結合と磁界結合の両方が含まれる。すなわち、カプラ間における無線通信は電界結合によって行われてもよいし、磁界結合によって行われてもよいし、電界結合と磁界結合の両方によって行われてもよい。
【0012】
通信装置101の制御部111は、送信回路103を制御して通信装置102へのデータの送信処理を行い、受信回路107を制御して通信装置102からのデータの受信処理を行う。同様に、通信装置102の制御部112は、送信回路109を制御して通信装置101へのデータの送信処理を行い、受信回路105を制御して通信装置101からのデータの受信処理を行う。すなわち、制御部111及び制御部112による通信制御によって、通信装置101と通信装置102との間でデータが相互通信される。なお、制御部111は受信回路107を制御して受信したデータに基づいて、通信装置101が有する不図示の機能部を制御してもよい。同様に、制御部112は受信回路105を制御して受信したデータに基づいて、通信装置102が有する不図示の機能部を制御してもよい。ここで不図示の機能部には、例えば、受信データに基づく画像を表示部に表示させる表示制御部や、受信データを外部の装置に転送する転送部などが含まれる。
【0013】
送信回路103は、制御部111による制御に基づいて電気信号を生成し、送信カプラ104に電気信号を入力する。同様に、送信回路109は、制御部112による制御に基づいて電気信号を生成し、送信カプラ110に電気信号を入力する。受信回路107は、送信カプラ104への電気信号の入力に応じて電磁界結合により受信カプラ108に生じた電圧を、コンパレータなどを介して電気信号に復元し、制御部111に伝達する。同様に受信回路105は、受信カプラ106に生じた電圧に基づく電気信号を制御部112に伝達する。このように、送信回路103及び受信回路105は、送信カプラ104と受信カプラ106との間での電磁界結合による通信を制御し、送信回路109及び受信回路107は、送信カプラ110と受信カプラ108との間での電磁界結合による通信を制御する。
【0014】
なお、本実施形態では、送信側の結合器と受信側の結合器とを介したベースバンド方式による無線通信が行われる場合について説明する。ベースバンド方式によれば、電気信号の変調や復調を必要としないため、回路規模を小さくし且つ低遅延で通信することができるが、受信信号の振幅の変化が通信の精度に影響する。ただし、通信方式はこれに限らず、例えば送信カプラ104から受信カプラ106へ送信される搬送波を、送信回路103により生成される電気信号により変調することで、搬送通信を行ってもよい。また、本実施形態ではシングルエンド信号の通信が行われるものとするが、これに限らず、差動信号の通信が行われてもよい。
【0015】
移動制御部113は、通信装置101と通信装置102との少なくとも何れかを所定方向に移動させることで、送信側と受信側のカプラ間の位置関係を変化させる。例えば移動制御部113は、通信装置101を支持するレールと、レールに沿って通信装置を移動させるためのモータと、モータに電力を供給する電源などを有する。ただし移動制御部113の構成はこれに限定されない。また、移動制御部113は、通信装置101や通信装置102の全体を移動させる代わりに、送信カプラ104や、受信カプラ106、もしくはその両方を直接移動させてもよい。
【0016】
なお、
図1(a)においては通信装置101と通信装置102がそれぞれ送信用と受信用の2つのカプラ(結合器)を有しているが、通信装置101と通信装置102の少なくとも何れかが3つ以上のカプラを有していてもよい。また、通信装置101と通信装置102は
図1に示すような双方向通信が可能な構成に限定されず、通信装置101が送信用のカプラのみを有し、通信装置102が受信用のカプラのみを有するような、単方向通信を行う構成であってもよい。以下では通信装置101から通信装置102へ信号を送信するための構成(例えば送信回路103、送信カプラ104、受信回路105、及び受信カプラ106)を中心に説明するが、通信装置102から通信装置101へ送信するための構成についても同様である。ただし、通信装置101から通信装置102へ送信するための構成と通信装置102から通信装置101へ送信するための構成とが同一でなくてもよい。
【0017】
次に
図1(b)を用いて、送信カプラ104と受信カプラ106の構成及び位置関係について説明する。送信カプラ104は誘電体基板121の一方の面に設置された導体部材であり、誘電体基板121の反対側の面には金属部材のグランド122が設置されている。送信カプラ104の一方の端部(入力端)には送信回路103が接続され、他方の端部には終端抵抗123が接続されている。そして、送信回路103から送信カプラ104の入力端に信号が入力されると、信号は送信カプラ104の他方の端部の方向(
図1(b)におけるx方向)へ伝送される。すなわち、送信カプラ104は伝送線路の信号線として機能する。
【0018】
受信カプラ106は誘電体基板131の一方の面に設置された導体部材であり、誘電体基板131の反対側の面には金属部材のグランド132が設置されている。送信カプラ104に信号が流れると、電磁界結合によって受信カプラ106に電荷が生じ、受信カプラ106に接続された受信回路105を介して信号が出力される。すなわち、受信カプラ106はキャパシタを構成する電極として機能する。ただし、受信カプラ106の構成はこれに限らない。受信カプラ106の一方の端部に受信回路107が接続され、他方の端部に終端抵抗が接続され、受信カプラ106が伝送線路の信号線として機能してもよい。
【0019】
受信カプラ106は送信カプラ104の延伸方向(
図1(b)におけるx方向)における長さが送信カプラ104よりも短い。また、送信カプラ104の信号の伝送方向と垂直な方向(
図1(b)におけるz方向)の視点において、送信カプラ104と受信カプラ106は少なくとも一部が重なる位置関係にある。そして移動制御部113は、送信カプラ104の信号の伝送方向(
図1(b)におけるx方向)において、送信カプラ104に対する受信カプラ106の相対位置を変化させる。例えば、移動制御部113は、受信カプラ106を送信カプラ104と対向する範囲(x=0からx2の範囲)で移動させる。ただし移動範囲はこれに限定されず、受信カプラ106が送信カプラ104上の一部の範囲でのみ移動してもよいし、送信カプラ104上の外側まで移動してもよい。
【0020】
図2(a)は、
図1(b)に示した構成の送信カプラ104と受信カプラ106との間での無線通信に関するシミュレーション結果を示す。
図2(a)のグラフの縦軸は送信カプラ104と受信カプラ106との間の散乱行列パラメータS21を表し、横軸は送受信される信号の周波数を表す。点線201はx=0mmの位置(送信カプラの入力端の位置)に受信カプラ106が位置する場合の結果を示し、実線202はx=1000mmの位置に受信カプラ106が位置する場合の結果を示す。なお、x=0mmの位置においてもx=1000mmの位置においても、z方向の視点において受信カプラ106の全体が送信カプラ104と重なり、送信カプラ104と受信カプラ106との間隔(z方向の距離)は一定であるものとする。
【0021】
本シミュレーションにおいて、誘電体基板121と誘電体基板131の基材はガラスエポキシ(FR4)であり、基板厚は1.0mmであり、カプラ幅は1.82mmであり、カプラ間の間隔は1.0mmである。
図2(a)が示すように、受信カプラ106が送信カプラ104の入力端から遠い場合は、入力端に近い場合と比べて受信カプラ106により受信される信号が弱くなり、周波数が高いほどその差は大きくなる。これは、送信カプラ104を伝わる信号の減衰によるものである。例えば周波数が1GHzの場合において、x=1000mmの位置で受信される信号の強度はx=0mmの位置で受信される信号の強度よりも2.75dB低くなる。
【0022】
図2(b)は、
図2(a)のシミュレーションと同様の構成の送信カプラ104と受信カプラ106との間で通信される信号に関するシミュレーション結果を示す。
図2(b)のグラフの縦軸は信号電圧を表し、横軸は経過時間を表す。波形203は送信カプラ104に入力される信号の波形を示し、波形204と波形205はそれぞれx=0mmとx=1000mmの位置に受信カプラ106が位置する場合に受信カプラ106から出力される信号の波形を示す。本シミュレーションにおいて、送信カプラ104に入力されるデジタル信号は速度が1.0Gbpsであり、信号の振幅は0.21Vであり、終端抵抗123は50オームである。
図2(b)が示すように、x=1000mmの位置で受信カプラ106に生じる電圧は8.8mVであり、x=0mmの位置で受信カプラ106に生じる電圧18mVよりも小さくなる。なお、波形204と波形205とで信号のタイミングが異なるのは、送信カプラ104における信号の伝搬遅延の影響である。
【0023】
[カプラの対向面積による調整]
以下では、上述したような送信カプラ104と受信カプラ106との位置関係の変化に応じた受信信号の強度の変化を抑制するための構成例について説明する。
図3(a)は
図1(b)の構成から送信カプラ104の向きを変更した場合の構成例を示し、
図3(b)は
図1(b)の構成から送信カプラ104の形状を変更した場合の構成例を示す。
図3(a)(b)はz方向から送信カプラ104と受信カプラ106を見た様子を表しており、誘電体基板121やグランド122などは省略されている。受信カプラ106は、点線で囲まれた移動範囲301内を移動する。
【0024】
図3(a)に示す構成においては、受信カプラ106の移動方向と送信カプラ104の延伸方向とがz方向から見て平行でない。そのため、受信カプラ106のx方向における位置が送信カプラ104の入力端に近づくほど送信カプラ104と受信カプラ106とのy方向のずれが大きくなる。一方、
図3(b)に示す構成においては、送信カプラ104のy方向の幅が均一でなく、送信カプラ104の入力端の近傍の幅は他方の端部の近傍の幅よりも小さい。したがって、
図3(a)及び(b)に示す構成においては、z方向の視点において送信カプラ104と受信カプラ106とが重なる重複部分と送信カプラ104の入力端との距離(
図3のx1)が短くなるほど、その重複部分の面積(対向面積)が小さくなる。
【0025】
図4は、
図1(b)に示した構成において、受信カプラ106のx方向の位置をx=70mmに固定し、y方向の位置をy=0mmからy=1.0mmまで変化させた場合の、無線通信に関するシミュレーション結果を示す。送信カプラ104と受信カプラ106の幅は同一であるため、受信カプラ106のy方向の位置がy=0mmから離れるほど、送信カプラ104と受信カプラ106との対向面積が小さくなる。
図4のグラフの縦軸と横軸、及びここで特に記載しないパラメータに関する設定は、
図2(a)のシミュレーションと同様である。
図4が示すように、送信カプラ104と受信カプラ106の対向面積が小さいほど、受信カプラ106により受信される信号が弱くなる。すなわち、対向面積が小さくなることにより、送信カプラ104と受信カプラ106との結合度が小さくなる。
【0026】
この結果からわかるように、
図3に示す構成においては、受信カプラ106のx方向における位置が送信カプラ104の入力端から遠いほど、送信カプラ104と受信カプラ106との結合度は大きくなる。そのため、
図3に示す構成によれば、受信カプラ106が送信カプラ104の入力端から遠い位置にある場合に、送信カプラ104を伝わる信号の減衰に起因して受信カプラ106における受信信号が弱くなることを抑制することができる。これにより、送信カプラ104と受信カプラ106との位置関係の変化に応じた受信信号の強度の変化を抑制することができる。
【0027】
なお、カプラの対向面積を調整する構成は
図3に示すものに限定されず、例えば
図5に示す構成でも、
図3の構成と同様に受信信号の強度の変化を抑制することができる。
図5において、
図1及び
図3と同様の構成については同じ符号を付している。
図5(a)に示す無線通信システム500は、通信装置501と通信装置502とを有する。通信装置501は、
図1(a)に示す通信装置101の構成に加えて、カプラ位置検知部515とカプラ位置制御部516とを有する。同様に通信装置502は、通信装置102の構成に加えて、カプラ位置検知部513とカプラ位置制御部514とを有する。
【0028】
カプラ位置検知部513は、送信カプラ104に対する受信カプラ106の相対位置を検知する。そしてカプラ位置制御部514は、カプラ位置検知部513により検知された相対位置に基づいて、受信カプラ106をy方向に移動させ、送信カプラ104と受信カプラ106の対向面積を変化させる。例えば
図5(b)に示すように、受信カプラ106のx方向における位置がx1にあることをカプラ位置検知部513が検知した場合、カプラ位置制御部514は受信カプラ106のy方向における位置をy2に移動させる。一方、受信カプラ106のx方向における位置がx2にあることが検知された場合は、カプラ位置制御部514は受信カプラ106のy方向における位置をy1に移動させる。
【0029】
このように、カプラ位置制御部514は、z方向の視点において送信カプラ104と受信カプラ106とが重なる部分と送信カプラ104の入力端とが近いほど、送信カプラ104と受信カプラ106のy方向における位置のずれを大きくする。その結果、
図3の構成と同様に、受信カプラ106が送信カプラ104の入力端に近いほどカプラの対向面積が小さくなり、送信カプラ104と受信カプラ106の結合度が小さくなる。
【0030】
なお、
図5の例では移動制御部113がカプラのx方向における位置を制御し、カプラ位置制御部514がカプラのy方向における位置を制御するものとしたが、これに限らない。移動制御部113又はカプラ位置制御部514が、カプラのx方向における位置とy方向における位置の両方を制御してもよい。
図5に示した方法によれば、
図3(b)に示すような特殊な形状の送信カプラを用いる必要がない。一方、
図3に示した方法によれば、カプラ位置検知部513やカプラ位置制御部514が必要ないため、通信システムの構成を簡単にできる。
【0031】
[カプラ間の間隔による調整]
送信カプラ104と受信カプラ106との位置関係の変化に応じた受信信号の強度の変化を抑制するための別の構成例について説明する。
図6は、
図1(b)の構成から受信カプラ106の移動方向を変更した場合の構成例を示す。
図6はy方向から送信カプラ104と受信カプラ106を見た様子を表しており、誘電体基板121やグランド122などは省略されている。受信カプラ106は移動範囲601内を移動する。
【0032】
図6に示す構成においては、受信カプラ106の移動方向と送信カプラ104の延伸方向とがy方向から見て平行でない。そのため、受信カプラ106のx方向における位置が送信カプラ104の入力端に近づくほど送信カプラ104と受信カプラ106とのz方向における間隔が大きくなる。ここでは、送信カプラ104が設置された誘電体基板121の面と受信カプラ106の移動方向とが平行でないものとするが、これに限らない。例えば、誘電体基板121と受信カプラ106は平行であり、送信カプラ104の一部が誘電体基板121の表層に構成され、送信カプラ104の別の部分が誘電体基板121の内層に構成されていてもよい。
【0033】
図7は、
図1(b)に示した構成において、受信カプラ106のx方向の位置をx=70mmに固定し、z方向の位置をz=0.5mmからz=1.5mmまで変化させた場合の、無線通信に関するシミュレーション結果を示す。なお送信カプラ104のz方向の位置はz=0mmであり送信カプラ104と受信カプラ106のy方向のずれはないものとする。
図7のグラフの縦軸と横軸、及びここで特に記載しないパラメータに関する設定は、
図2(a)のシミュレーションと同様である。
図7が示すように、送信カプラ104と受信カプラ106の間隔が大きいほど、受信カプラ106により受信される信号が弱くなる。すなわち、カプラ間の間隔が大きくなることにより、送信カプラ104と受信カプラ106との結合度が小さくなる。
【0034】
この結果からわかるように、
図6に示す構成においては、受信カプラ106のx方向における位置が送信カプラ104の入力端から遠いほど、送信カプラ104と受信カプラ106との結合度は大きくなる。そのため、
図6に示す構成によれば、受信カプラ106が送信カプラ104の入力端から遠い位置にある場合に、送信カプラ104を伝わる信号の減衰に起因して受信カプラ106における受信信号が弱くなることを抑制することができる。すなわち、送信カプラ104と受信カプラ106との位置関係の変化に応じた受信信号の強度の変化を抑制することができる。
【0035】
なお、カプラ間の間隔を調整する構成は
図6に示すものに限定されず、
図5に示す無線通信システム500において、カプラ位置制御部514が受信カプラ106をz方向に移動させることでも、
図6の構成と同様に受信信号の強度の変化を抑制することができる。例えば
図8に示すように受信カプラ106のx方向における位置がx1にあることをカプラ位置検知部513が検知した場合、カプラ位置制御部514は受信カプラ106のz方向における位置をz2に移動させる。一方、受信カプラ106のx方向における位置がx2にあることが検知された場合は、カプラ位置制御部514は受信カプラ106のz方向における位置をz1に移動させる。
【0036】
このように、カプラ位置制御部514は、z方向の視点において送信カプラ104と受信カプラ106とが重なる部分と送信カプラ104の入力端とが近いほど、送信カプラ104と受信カプラ106のz方向における間隔を大きくする。その結果、
図6の構成と同様に、受信カプラ106が送信カプラ104の入力端に近いほど送信カプラ104と受信カプラ106の結合度が小さくなる。なお、カプラ位置制御部514は、カプラのz方向における位置に加えてy方向における位置やx方向における位置を制御してもよい。
【0037】
図6及び
図8に示したカプラの間隔を調整する方法によれば、
図3(b)に示したような特殊な形状の送信カプラ104を用いる必要がない。また、
図3(a)及び
図5に示した方法よりも、通信システムにおける送受信カプラが格納される部分のy方向の幅を小さくすることができる。一方、
図3及び
図5に示したカプラの対向面積を調整する方法によれば、
図6及び
図8に示した方法よりも、通信システムにおける送受信カプラが格納される部分のz方向の幅を小さくすることができる。
【0038】
[基板の誘電率による調整]
送信カプラ104と受信カプラ106との位置関係の変化に応じた受信信号の強度の変化を抑制するための別の構成例について説明する。
図9は、
図1(b)の構成における誘電体基板121を、送信カプラ104の延伸方向に並ぶ誘電体基板1001及び誘電体基板1002に変更した場合の構成例を示す。すなわち
図9の構成において、送信カプラ104は誘電体基板1001及び誘電体基板1002上に設置される。
図1(b)と同様の構成については同じ符号を付している。
【0039】
送信カプラ104の入力端に近い方の誘電体基板1001は、入力端から遠い方の誘電体基板1002よりも誘電率が高い。そのため、受信カプラ106がz方向の視点において送信カプラ104のうち誘電体基板1001上に設置されている部分に重なる場合(例えば受信カプラのx方向における位置がx1である場合)には、送信カプラ104と受信カプラ106の結合度は小さい。それと比べて、受信カプラ106がz方向の視点において送信カプラ104のうち誘電体基板1002上に設置されている部分に重なる場合(例えば受信カプラのx方向における位置がx2である場合)には、送信カプラ104と受信カプラ106の結合度は大きい。
【0040】
したがって、
図9に示す構成によれば、受信カプラ106が送信カプラ104の入力端から遠い位置にある場合に、送信カプラ104を伝わる信号の減衰に起因して受信カプラ106における受信信号が弱くなることを抑制することができる。すなわち、送信カプラ104と受信カプラ106との位置関係の変化に応じた受信信号の強度の変化を抑制することができる。なお、
図9の例では送信カプラ104が設置される誘電体基板が誘電率の異なる2つの部分で構成されるものとしているが、これに限らず、それぞれ誘電率の異なる3つ以上の部分で構成されてもよい。
図9に示した方法によれば、
図3(b)に示したような特殊な形状の送信カプラ104を用いる必要がない。また、
図3(a)、
図5、
図6及び
図8に示した方法よりも、通信システムにおける送受信カプラが格納される部分を小さくすることができる。
【0041】
以上、
図1から
図9を用いて説明したように、本実施形態における通信システムは、x方向における一方の端部(入力端)から他方の端部へ信号を伝送する送信カプラ104と、x方向における長さが送信カプラ104よりも短い受信カプラ106を有する。また通信システムは、送信カプラ104と受信カプラ106との間での電磁界結合による無線通信を制御する送信回路103及び受信回路105を有する。さらに通信システムは、送信カプラ104に対する受信カプラ106のx方向における位置が変化するように、送信カプラ104と受信カプラ106との少なくとも何れかを移動させる移動制御部113を有する。そしてこの通信システムにおいて、x方向と垂直なz方向の視点において送信カプラ104と受信カプラ106とが重なる部分と送信カプラ104の入力端との距離が遠いほど、送信カプラ104と受信カプラ106との結合度が大きい。
【0042】
このような構成によれば、送信カプラ104と受信カプラ106との位置関係の変化に応じた受信信号の強度の変化を抑制することができる。したがって、送信カプラ104の入力端付近に受信カプラ106が位置する場合に受信される信号のノイズが大きくなることや、送信カプラ104の入力端とは反対側の端部付近に受信カプラが位置する場合に受信される信号が弱くなりすぎることを抑制できる。その結果、無線通信を行うための送信カプラ104と受信カプラ106との位置関係が変化する通信システムにおいて、通信の精度を向上させることができる。
【0043】
なお、送信カプラ104と受信カプラ106との結合度は、必ずしも受信カプラ106が送信カプラ104の入力端から遠ざかるにつれて線形的に増加しなくてもよい。例えば、
図3や
図5の構成において、受信カプラ106のx方向における位置が第1の範囲内である場合に、当該第1の範囲よりも入力端に近い第2の範囲内である場合よりもカプラの対向面積が小さく、且つ、各範囲内において対向面積が一定であってもよい。
図6や
図8の構成においても同様に、受信カプラ106のx方向における位置が所定の範囲内にある場合には、カプラ間の間隔が一定であってもよい。
【0044】
[信号の振幅制御による調整]
上記では送信カプラ104と受信カプラ106の結合度を変化させる構成について説明したが、以下では、信号の振幅を変化させることで、送信カプラ104と受信カプラ106との位置関係の変化に応じた受信信号の強度の変化を抑制する構成例を説明する。
図10に示す無線通信システム900は、通信装置901と通信装置902とを有する。通信装置901は、
図1(a)に示す通信装置101の構成に加えて、カプラ位置検知部915を有する。同様に通信装置902は、通信装置102の構成に加えて、カプラ位置検知部913を有する。送信カプラ104と受信カプラ106の構成は、
図1(b)に示したものと同様である。
【0045】
カプラ位置検知部915は、送信カプラに104に対する受信カプラ106の相対位置を検知する。そして制御部111は、カプラ位置検知部915により検知された相対位置に基づいて、送信回路103から送信カプラ104に入力される信号の振幅を変化させる。例えば、受信カプラ106のx方向における位置が
図1(b)のx2にあることをカプラ位置検知部915が検知した場合には、x1にあることが検知された場合と比べて、振幅が増幅された信号が送信カプラ104の入力端に入力される。
【0046】
このように、無線通信システム900においては、z方向の視点において送信カプラ104と受信カプラ106とが重なる部分と送信カプラ104の入力端とが遠いほど、送信回路103により送信カプラ104に入力する信号の振幅を大きくする。そのため、
図10に示す構成によれば、受信カプラ106が送信カプラ104の入力端から遠い位置にある場合に、送信カプラ104を伝わる信号の減衰に起因して受信カプラ106における受信信号が弱くなることを抑制することができる。これにより、送信カプラ104と受信カプラ106との位置関係の変化に応じた受信信号の強度の変化を抑制することができ、その結果、通信の精度を向上させることができる。
【0047】
なお、送信回路103における入力信号の振幅の増幅や減衰は、ハードウェアとソフトウェアの何れにより行われてもよい。また、送信回路における入力信号の振幅の制御に代えて、もしくはそれと併せて、受信回路105が受信カプラ106から出力される信号の振幅の増幅や減衰を行ってもよい。また、制御部111は、カプラ位置検知部915により検知された相対位置に基づいて、受信回路105において受信カプラ106から出力される信号を処理するためのコンパレータの閾値を制御してもよい。例えば、z方向の視点において送信カプラ104と受信カプラ106とが重なる部分と送信カプラ104の入力端とが遠いほど、受信回路105におけるコンパレータの閾値を低くしてもよい。この方法によっても、上述の振幅を制御する方法と同様の効果が得られる。また、送信カプラ104と受信カプラ106との相対位置を検知するカプラ位置検知部915を、通信装置901でなく通信装置902が有し、その検知結果を通信装置902から通信装置901へ送信してもよい。
【0048】
図10に示した方法によれば、
図3(b)に示したような特殊な形状の送信カプラ104を用いる必要がなく、
図9に示したような複数の異なる誘電体基板を用いる必要もない。また、
図3(a)、
図5、
図6及び
図8に示した方法よりも、通信システムにおける送受信カプラが格納される部分を小さくすることができる。一方、上述したカプラ間の結合度を調整する方法によれば、信号の振幅やコンパレータの閾値を細かく制御する必要がないため、通信システムの構成を簡単にできる。
【0049】
図1から
図10を用いた以上の説明では、送信カプラ104が平板状であり、その面に平行な方向に送信カプラ104上を信号が伝送されるものとしたが、送信カプラ104の形状はこれに限定されない。例えば
図11に示すように、送信カプラ104が輪形状をなし、その円周方向に送信カプラ104上を信号が伝送されてもよい。そして、移動制御部113が送信カプラ104及び受信カプラ106の少なくとも何れかを送信カプラ104の円周方向に移動させる構成であってもよい。このような構成の通信システムは、例えばコンピュータ断層撮影装置などに適用できる。具体的には、装置の固定部と回転部にそれぞれ送信カプラ104と受信カプラ106を実装することで、回転部が固定部に対して回転移動しながら固定部との間で通信を行うことができる。そしてこの構成においても、送信カプラ104と受信カプラ106との位置関係の変化に応じた受信信号の強度の変化を抑制するための上述した各方法を適用することができる。
【0050】
また、以上の説明では、送信カプラ104から送信された信号が、送信カプラ104よりもx方向における長さが短い受信カプラ106により受信されるものとしたが、送信側と受信側の構成を入れ替えてもよい。すなわち、
図1から
図11に示す受信カプラ106に信号を入力して送信側の結合器として用い、送信カプラ104を受信側の結合器として用いて信号を受信してもよい。この場合にも、上述した実施形態と同様の効果が得られる。
【0051】
また、送信カプラ104と受信カプラ106との位置関係の変化に応じた受信信号の強度の変化を抑制するための上述した各方法を組み合わせてもよい。例えば、受信カプラ106が送信カプラ104の入力端に近づくほど、送信カプラ104と受信カプラ106との間隔を大きくし、且つ、それらの対向面積を小さくしてもよい。さらにその場合に、誘電率の異なる複数の誘電体基板を用いてもよいし、入力信号の振幅の制御を行ってもよい。これにより、受信信号の強度の変化をより小さくすることが可能になる。