(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-19
(45)【発行日】2024-07-29
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッド及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/16 20060101AFI20240722BHJP
B41J 2/14 20060101ALI20240722BHJP
【FI】
B41J2/16 201
B41J2/14 613
B41J2/16 503
B41J2/16 507
B41J2/16 517
(21)【出願番号】P 2020130779
(22)【出願日】2020-07-31
【審査請求日】2023-07-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】米本 太地
【審査官】小宮山 文男
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-097129(JP,A)
【文献】特開2018-187789(JP,A)
【文献】特開2018-051767(JP,A)
【文献】特開2017-213859(JP,A)
【文献】特開2012-192720(JP,A)
【文献】特開2010-036580(JP,A)
【文献】特開2009-279830(JP,A)
【文献】特開2007-290359(JP,A)
【文献】特開平10-323979(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出する
ための吐出口
及び前記吐出口に連通する流路を有する吐出口形成部材と、前記流路
と連通
する液体導入流路を有する流路形成基板と
、を含む構造体
と、
前記流路形成基板と接着剤を介して接合する接合プレートと、
を有する液体吐出ヘッドであって、
純水接触角が40°以下の第1の酸化チタン膜が
、前記流路及び液体導入流路
内において露出するように、前記構造体を覆
っており、
前記構造体を覆う前記第1の酸化チタン膜は、前記液体導入流路内の、前記流路形成基板と前記接合プレートとの接合部の近傍において、純水接触角が70°以上の第2の酸化チタン膜
によって覆われていることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記第1の酸化チタン膜は、純水接触角が35°以下の親水性を有し、
前記第2の酸化チタン膜は、純水接触角が75°以上の撥水性を有する、請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記第1の酸化チタン膜は、純水接触角が30°以下の親水性を有する、請求項1又は2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記第
1の酸化チタン
膜は、前記吐出口形成部材
の外表面上
の前記吐出口を囲
む該吐出口の開口端近傍
において、純水接触角が70°以上の酸化チタン膜によって覆われている、請求項1から3のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記第2の酸化チタン
膜は、前記流路形成基板において、前記液体導入流路の液体を導入する導入側開口が形成された外表面上に該導入側開口を囲むように該開口端近傍を被覆し、さらに該開口端から流路内の開口端近傍を覆う、請求項1から4のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
前記流路形成基板がシリコン基板である、請求項1から5のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
液体を吐出する吐出口と該吐出口に連通する流路を有する吐出口形成部材と、前記流路に連通し前記液体を供給するための液体導入流路を有する流路形成基板とを含む構造体、を少なくとも有する液体吐出ヘッドの製造方法であって、
原子層堆積法により、純水接触角が40°以下の第1の酸化チタン膜を、前記流路及び液体導入流路の内壁を含む前記構造体を覆うように形成する工程と、
前記第1の酸化チタン膜上に、原子層堆積法により純水接触角が70°以上の第2の酸化チタン膜を形成する工程と、
前記第2の酸化チタン膜をパターニングして、少なくとも前記流路及び液体導入流路内に前記第1の酸化チタン膜を露出させる工程と、を有する液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項8】
前記第1の酸化チタン膜は、TiCl
4及び純水を原料に290~310℃の範囲で成膜された親水性を示す酸化チタン膜であり、
前記第2の酸化チタン膜は、TiCl
4及び純水を原料に65~85℃の範囲で成膜された撥水性を示す酸化チタン膜である、請求項7に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項9】
前記パターニングする工程において、フッ酸を含むエッチング液を用いてエッチングを行い、前記エッチングにおいて、第2の酸化チタン膜のエッチングレートに対する第1の酸化チタン膜のエッチングレートが7.0倍以上遅い、請求項8に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項10】
前記パターニングする工程において、
前記吐出口が形成された外表面上に前記吐出口を囲むように該吐出口の開口端近傍が前記第2の酸化チタン膜で被覆された部分を形成するように前記第2の酸化チタン膜をパターニングする、請求項7から9のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項11】
前記パターニングする工程において、
前記流路形成基板において、前記液体導入流路の液体を導入する導入側開口が形成された外表面上に該導入側開口を囲むように該開口端近傍を被覆し、さらに該開口端から流路内の開口端近傍が前記第2の酸化チタン膜で被覆された部分を形成するように前記第2の酸化チタン膜をパターニングする、請求項7から10のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項12】
前記第1の酸化チタン膜は、純水接触角が35°以下の親水性を有し、
前記第2の酸化チタン膜は、純水接触角が75°以上の撥水性を有する、請求項7から11のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項13】
前記第1の酸化チタン膜は、純水接触角が30°以下の親水性を有する、請求項7から12のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項14】
前記流路形成基板がシリコン基板である、請求項7から13のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を吐出口から吐出する液体吐出ヘッド及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体吐出ヘッドの例として、インクに圧力を加え、吐出口から液滴として吐出させるインクジェット記録ヘッドが挙げられる。インクジェット記録ヘッドの様な、吐出する液体として顔料系、染料系などの様々な液体を扱う製品では、液体と接する表面に撥水処理を行ったり、親水処理を行ったりする場合があり、それらを使い分ける技術が重要となっている。
【0003】
インクジェット記録ヘッドにおいては、インクを吐出するためのエネルギーを与えるエネルギー発生素子を基板に有しており、その基板表面上には吐出口形成部材が形成され、その吐出口形成部材にはインクを吐出する吐出口が複数開口している。
【0004】
また、基板は一般的にシリコン基板が用いられ、シリコン基板にインクの流路としての貫通孔が形成されている。この貫通孔を通って基板の裏面側から表面側に向かってインクが供給される。貫通孔と吐出口とは連通しており、貫通孔を通過したインクは、エネルギー発生素子から与えられる圧力により吐出口から吐出される。エネルギー発生素子としては、ヒータ素子のような通電加熱によりインクを沸騰させ得る素子や、ピエゾ素子のような体積変化を利用して液体に圧力を加え得る素子が挙げられる。
【0005】
このようなインクジェット記録ヘッドにおいては、インクによってシリコン基板のシリコンが溶出し、シリコン基板が侵食される場合がある。例えば、特許文献1には、アルカリ含有インクによるシリコンの溶出を回避するために、貫通孔を無機酸化物(SiO2等)や金属(Ta等)で形成した保護膜で保護することが記載されている。
【0006】
一方、表面を処理する技術として、例えば、特許文献2には、マイクロポンプの流路における気泡発生を防止するために、親水性モノマーを表面グラフト重合することが開示されている。また、特許文献3には、水と接触する固体表面の汚染を防止するために、透明石英ガラスの試験片の片面に、白金を担持させた酸化チタン層を形成することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平9-11478号公報
【文献】特開平5-312153号公報
【文献】特開昭61-83106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、液体吐出ヘッドの貫通孔内の表面が撥水性であった場合、インク等の液体が流れ込む際に貫通孔内に気泡が残る課題がある。液体吐出ヘッド内の液体を排出させるクリーニング動作を行っても、付着した気泡を排出するのは困難である。このような場合、気泡が成長し大型化して液体と共に排出されるため、気泡が排出されるタイミングを制御できなくなり、液体吐出特性が劣化してしまうことがある。
【0009】
一方、親水性の保護膜を形成した場合、吐出口開口近傍から圧力室にかけて余分な親水性の保護膜が形成されてしまうと、吐出口と吐出口の開口がある表面(吐出口形成部材の表面)との境にメニスカスが維持しにくくなる。この結果、液体吐出特性が不安定になることがある。
【0010】
また、親水性の保護膜を貫通孔内の表面に形成した場合、液体吐出ヘッドと実装部材を接続するために使用する接着剤が、保護膜に沿って貫通孔内部へ這い上がってしまい、液体の供給が阻害される問題がある。
【0011】
これらの問題は、いずれも吐出性能へ影響を及ぼし、印字品質を劣化させる場合がある。
そこで本発明の目的は、基板を液体から効率的に保護し、且つ、安定的に液体を吐出することを可能とし、高寿命化、高画質化された液体吐出ヘッドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様によれば、液体を吐出する吐出口と該吐出口に連通する流路を有する吐出口形成部材と、前記流路に連通し前記液体を供給するための液体導入流路を有する流路形成基板とを含む構造体、を少なくとも有する液体吐出ヘッドであって、
純水接触角が40°以下の第1の酸化チタン膜と、純水接触角が70°以上の前記第1の酸化チタン膜を有し、前記第1の酸化チタン膜が前記流路及び液体導入流路の内壁を含む前記構造体を覆い、該流路及び液体導入流路内で露出し、前記第2の酸化チタン膜が、前記吐出口形成部材の吐出口の開口端近傍または前記流路形成基板の液体導入流路の開口端近傍の少なくともいずれかに、前記第1の酸化チタン膜を被覆する部分を有する、液体吐出ヘッドが提供される。
【0013】
本発明の他の態様によれば、液体を吐出する吐出口と該吐出口に連通する流路を有する吐出口形成部材と、前記流路に連通し前記液体を供給するための液体導入流路を有する流路形成基板とを含む構造体、を少なくとも有する液体吐出ヘッドの製造方法であって、
原子層堆積法により、純水接触角が40°以下の第1の酸化チタン膜、前記流路及び液体導入流路の内壁を含む前記構造体を覆うようにを形成する工程と、
前記第1の酸化チタン膜上に、原子層堆積法により純水接触角が70°以上の第2の酸化チタン膜を形成する工程と、
前記第2の酸化チタン膜をパターニングして、少なくとも前記流路及び液体導入流路内に前記第1の酸化チタン膜を露出させる工程と、を有する液体吐出ヘッドの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、基板を液体から効率的に保護し、且つ、安定的に液体を吐出することが可能となり、高寿命化、高画質化された液体吐出ヘッドが提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の第1の実施形態の液体吐出ヘッドの模式的断面図である。
【
図2】本発明の第2の実施形態の液体吐出ヘッドをチップ接合プレートと接続した状態を示す模式的断面図である。
【
図3】撥水性酸化チタン膜を有していない液体吐出ヘッドをチップ接合プレートと接続した状態を示す模式的断面図である。
【
図4】本発明の第1の実施形態の液体吐出ヘッドの製造方法の実施例を説明するための概略工程断面図である。
【
図5】本発明の第2の実施例の液体吐出ヘッドの製造方法の実施例を説明するための概略工程断面図である。
【
図6】本発明の実施形態の液体吐出ヘッドにおける酸化チタン膜の積層構成を説明するための模式的な部分拡大断面図である。
【
図7】接触角が互いに異なる2種類の保護膜を1層に形成する場合の問題を説明するための模式的断面図である。
【
図8】接触角が互いに異なる2種類の保護膜を1層に形成する場合の問題を説明するための模式的断面図である。
【
図9】酸化チタン膜の成膜温度とエッチングレートとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の液体吐出ヘッド及びその製造方法について、実施形態を挙げて以下に説明する。
【0017】
本発明の実施形態では、流路内、実装部材(例えばチップ接合プレート)との接合部における開口近傍、吐出口の開口近傍など、液体吐出ヘッドの流路内部(内壁)を含む構造体の表面において、撥水性膜と親水性膜を使い分ける。これにより、上述の課題を解決した液体吐出ヘッドを提供することができる。本実施形態では少なくとも流路内を親水性膜で被覆し該流路内で該親水性膜を露出させ、撥水性膜で特定の部分の親水性膜を被覆する。撥水性膜は、吐出口形成部材の吐出口の開口端近傍または流路形成基板の液体導入流路の開口端近傍の少なくともいずれかの部分の親水性膜を被覆する。第1の実施形態では、特定の部分として、吐出口周辺において親水性膜を撥水性膜で被覆する。第2の実施形態では、特定の部分として、流路形成基板の裏面(液体導入側)の流路開口周辺から液体導入流路内の開口端近傍において親水性膜を撥水性膜で被覆する。
【0018】
(第1の実施形態)
以下に、本発明の実施形態の液体吐出ヘッドについて図面を用いて説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態の液体吐出ヘッドの模式的断面図(側面図)である。
図1に示すように、液体吐出ヘッド(例えばインクジェット記録ヘッド)は、エネルギー発生素子3と液体導入流路5を有する流路形成基板2と、この流路形成基板2上に配される吐出口形成部材1と、を少なくとも有する。吐出口形成部材1は、液体を吐出する吐出口4と、この吐出口4に連通する圧力室6を含む流路を有する。この流路に、個別連通孔13、14を介して液体導入流路5が連通している。吐出口形成部材1と流路形成基板2からなる構成部分(構造体)を貫通孔基板15と呼ぶ。吐出口4に連通する液室を含む流路から個別連通孔13、14を介した液体導入流路5で貫通孔が形成されている。
【0019】
本実施形態では、液体導入流路5の内面を含む貫通孔基板15の表面が親水性酸化チタン膜(第1の酸化チタン膜)7で被覆されている。また、吐出口形成部材1の圧力室6を含む流路の内面も親水性酸化チタン膜(第1の酸化チタン膜)7で被覆されている。
また、吐出口形成部材1の吐出口4が形成された外表面上の吐出口周辺が撥水性酸化チタン膜8(第2の酸化チタン膜)で被覆されている。すなわち、本実施形態の液体吐出ヘッドは、吐出口4を囲むように該吐出口の開口端近傍を被覆する撥水性酸化チタン膜8を有する。この撥水性酸化チタン膜8は、親水性酸化チタン7上にパターニング形成されている。
【0020】
この構成により、親水性酸化チタン膜7は流路内を保護するとともに親水性を示すため、液体が流入する際に発生する流路内の泡だまりの発生を抑えることができる。また、吐出口4の周辺に成膜された撥水性酸化チタン膜8により吐出口形成部材の吐出口周辺の表面は撥水性を示す状態となり、吐出口においてメニスカスが形成されやすくなり、液体吐出特性を安定化(高画質化)できる。
【0021】
流路形成基板2には、圧力室6に対応する領域内の基板上面にエネルギー発生素子3が形成されている。液体導入流路5から個別連通孔13、14を経て圧力室6に充填された液体に、エネルギー発生素子3で発生する圧力を加えることによって、吐出口4から液滴を吐出させることができる。
【0022】
エネルギー発生素子3としては、特に限定されず、例えば、液体を沸騰させる電気熱変換素子(発熱抵抗体素子、ヒータ素子)や、体積変化や振動により液体に圧力を与える素子(ピエゾ素子、圧電素子)などを用いることができる。エネルギー発生素子の数や配置は、作製する液体吐出ヘッドの構造に応じて適宜選択することができる。例えば、エネルギー発生素子を複数、所定のピッチで並べた素子列を一対の液体導入流路5間の中央に設けることができる(両側の液体導入流路5から中央の素子上へ液体を供給する形態:
図1に示す形態)。あるいは、エネルギー発生素子を複数、所定のピッチで並べた素子列を液体導入流路5の両側にそれぞれ設けることができる(中央の液体導入流路から両側の素子上へ液体を供給する形態:例えば特開2020-62809号公報に記載の配置)。
【0023】
流路形成基板2には、裏面側(液体を供給する側)に開口を持つ液体導入流路5が形成されている。この液体導入流路5は、流路形成基板2の表側(吐出口形成部材1が形成されている側)の個別連通孔13、14を通して圧力室6につながっている。
液体導入流路5の液体を供給する側の開口形状は、例えば矩形にすることができ、その角部が丸められていたり、面取りされていたりしてもよい。
液体導入流路5の形状は、
図1に示すように、基板表面(平面)に垂直な壁面を有する溝形状であってもよいが、液体導入側から反対側へ向かって開口面積が小さくなるテーパー形状としてもよい。
【0024】
液体導入流路5は、例えば、異方性エッチングを用いて形成することができる。流路形成基板2を形成するための基板として、例えば単結晶シリコン基板を用いた場合は、パターニングされたシリコン酸化膜をマスクとして用いて、アルカリ溶液を用いた異方性エッチングを行うことにより、液体導入流路5を形成することができる。異方性エッチングでは、シリコンの結晶面に沿ってエッチングが進行することから、ほぼ矩形の開口形状が得られる。予めレーザーによる孔が形成された基板を用いることもできる。また、後述する実施例のようにエッチングとパッシベーションを繰り返すボッシュプロセスによる反応性イオンエッチングで、垂直な溝を形成することができる。
【0025】
エネルギー発生素子3が形成された基板は、エネルギー発生素子3を液体から保護する保護膜(不図示)や、エネルギー発生素子3を駆動するための駆動回路(不図示)等を有することもできる。
【0026】
吐出口形成部材1は、吐出口4と、吐出口4に連通する圧力室6を有する。吐出口4は、液体を吐出するための開口であり、エネルギー発生素子3の上方の部分に形成される。吐出口の数や配置は適宜設定することができ、
図1に示す液体吐出ヘッドでは、液体吐出ヘッドの長手方向(図面の手前から奥方向)に沿って等間隔に配置することができる。吐出口が配列した吐出口列は、一対の液体導入流路5の間に配置される。
【0027】
圧力室6は、吐出口形成部材1と流路形成基板2に囲まれる空間であり、液体導入流路5に繋がる流路となる。圧力室6には、流路形成基板2の個別連通孔13、14を介して液体導入流路5から液体が供給される。
【0028】
吐出口形成部材1としては、吐出口と液室を含む流路が形成された吐出口基板を用いることができ、これを流路形成基板2に接合することができる。吐出口形成部材1は、吐出口を有するオリフィスプレートと、流路を有する流路壁部材とを含む複数層から構成されていてもよい。あるいは、感光性樹脂材料を用いたフォトリソ技術により形成することもできる。吐出口形成部材1と流路形成基板2の間には、密着性を高めるために、例えばポリアミド樹脂等の密着樹脂層(不図示)を設けてもよい。
【0029】
以上に説明した構造を有する液体吐出ヘッドにおいて、親水性酸化チタン膜7と撥水性酸化チタン膜8が積層して形成される。
本実施形態においては、
図1に示すように、圧力室6を含む流路と液体導入流路5の内面を含む貫通孔基板15(構成部材)の表面が、親水性酸化チタン膜7(第1の酸化チタン膜)で被覆される。この親水性酸化チタン膜7の上に、吐出口4の周辺を覆うように(開口端に沿って囲むように)撥水性酸化チタン膜8(第2の酸化チタン膜)が形成されている。すなわち、本実施形態の液体吐出ヘッドは、吐出口形成部材1において、吐出口4が形成された外表面上に、吐出口を囲むように該吐出口の開口端近傍を被覆する、撥水性酸化チタン膜8を有する。
【0030】
親水性酸化チタン膜7により、インク等の液体から構成部材が保護され(高寿命化)、また流路内の気泡の残留を抑制でき、液体吐出特性の劣化を防止(高画質化)できる。
また、撥水性酸化チタン膜8により、吐出口においてメニスカスが形成されやすくなり、液体吐出特性を安定化(高画質化)できる。
撥水性酸化チタン膜(第2の酸化チタン膜)は、被覆する開口端近傍として、吐出口形成部材の外表面において吐出口の開口端からの距離(
図1において撥水性酸化チタン膜8の横方向の長さに相当)が少なくとも8μmの部分を被覆することが好ましい。本明細書においては、この部分を吐出口の開口端近傍とする。吐出口形成部材の外表面の全面を被覆していてもよいが、開口端近傍の外側では親水性酸化チタン膜(第1の酸化チタン膜)を露出させることが好ましい。これにより、液体吐出の際に吐出口の開口端近傍に付着した液体が外側の親水部へ積極的に排出され、吐出口付近での液体の付着を抑えることができ、印字ヨレを軽減できる。
【0031】
第1の酸化チタン膜(親水性酸化チタン膜7)は、純水接触角が40°以下の親水性を有することが好ましい。第2の酸化チタン膜(撥水性酸化チタン膜8)は、純水接触角が70°以上の撥水性を有することが好ましい。本発明における純水接触角は、JIS R 3257に準じて静滴法により測定される純水に対する静的接触角である。
【0032】
このような接触角が異なる酸化チタン膜は、原子層堆積法(ALD:atomic layer deposition)により成膜温度条件を制御して形成することができる。成膜温度を高くすると、酸化チタン膜の親水性を高くすることができ、逆に成膜温度を低くすると、酸化チタン膜の親水性を低く(すなわち撥水性を高く)することができる。親水性の酸化チタン膜(第1の酸化チタン膜)、特に純水接触角が40°以下の親水性を有する酸化チタン膜は、290~310℃の範囲で成膜することが好ましい。撥水性の酸化チタン膜(第2の酸化チタン膜)、特に純水接触角が70°以上の撥水性を有する酸化チタン膜は、65~85℃の範囲で成膜することが好ましい。
本実施形態における第1の酸化チタン膜(親水性酸化チタン膜7)は、TiCl4及び純水を原料に290~310℃の範囲で成膜された、親水性を示す酸化チタン膜であることが好ましい。また、第2の酸化チタン膜(撥水性酸化チタン膜8)は、TiCl4及び純水を原料に65~85℃の範囲で成膜された、撥水性を示す酸化チタン膜であることが好ましい。テトラキス(ジメチルアミノ)チタン(TDMAT)及び純水を用いても第1及び第2の酸化チタン膜を形成することができる。
【0033】
図6は本実施形態の液体吐出ヘッドにおける酸化チタン膜の積層構成を説明するための模式的な部分拡大断面図である。以下に、本実施形態の液体吐出ヘッドにおける、酸化チタン膜とその形成方法についてさらに説明する。
【0034】
本実施形態における酸化チタン膜は、原子層堆積法(ALD法)により、四塩化チタン(TiCl4)、純水を用いて成膜される酸化チタン膜(ALD-TiO膜)を用いることができる。TiCl4と純水が交互に供給されることで、成膜を行うことができる。この時、得られる酸化チタン膜の撥水性、親水性の度合は、酸化チタン膜の成膜温度により変化する。表1は、酸化チタン膜の成膜温度と接触角(純水に対する接触角[°])との関係を示すものである。成膜温度75℃及び300℃でそれぞれ同じ条件で3回の成膜を行い、得られた酸化チタン膜について純水による接触角を測定した。純水による接触角の測定は、JIS R 3257に準じた静滴法により静的接触角の測定を行った。
【0035】
【0036】
この表が示すように、300℃で成膜された酸化チタン膜は接触角が平均値(Ave)23.0であり、約20°近くまで小さくなっている。一方、75℃で成膜された酸化チタン膜は接触角が平均値(Ave)78.1°であり、約80°近くまで大きくなっている。このことから、成膜温度が300℃付近の高い温度で成膜された酸化チタン膜は接触角が小さくなり、成膜温度が75℃付近の低い温度で成膜された酸化チタン膜は接触角が大きくなっていることがわかる。
【0037】
液体流入時に発生する流路内に気泡が残る課題に対しては、流路内面の純水に対する接触角が40°以下の酸化チタン膜を形成することが好ましい。この酸化チタン膜の純水接触角は35°以下がより好ましく、30°以下がさらに好ましい。このように純水接触角が小さい酸化チタン膜を流路内に形成することにより、気泡の残留を十分に抑えることができる。
液体吐出特性が不安定になるという課題、および液体吐出ヘッドと実装部材との接合に使われる接着剤が液体導入流路内へ這い上がる課題に対しては、流路内面の純水に対する接触角が70°以上の酸化チタン膜を形成することが好ましい。この酸化チタン膜の純水接触角が75°以上がより好ましい。このような接触角が大きい酸化チタン膜を吐出口の開口端近傍に形成することで、液体吐出特性を安定化できる。また、このような純水接触角が大きい酸化チタン膜を液体導入流路の開口端近傍に形成することにより、接着剤の液体導入流路内への侵入を抑えることができる。
【0038】
撥水性を得る点から、第1の酸化チタン膜(親水性酸化チタン膜7)の厚みは、30nm以上が好ましく、また第2の酸化チタン膜(撥水性酸化チタン膜8)の厚みは、30nm以上が好ましい。第1の酸化チタン膜と第2の酸化チタン膜との積層膜の厚みは、60nm以上が好ましい。また、膜厚が300nmを超えると膜が剥がれやすくなるので、第1の酸化チタン膜および第2の酸化チタン膜の厚みは、それぞれ300nm以下であることが好ましい。
【0039】
本実施形態では、原子層堆積法による成膜において前記成膜温度差により発生する酸化チタン膜の接触角の差を利用する。これにより、酸化チタン膜を二層構成とし、接触角は違うが組成は同種の膜が積層された積層構造を形成できる。
このような酸化チタン膜の積層構造を有する液体吐出ヘッドの製造方法は、まず、原子層堆積法により、純水接触角が40°以下の第1の酸化チタン膜を、流路の内壁を含む構造体(吐出口形成部材1と流路形成基板2からなる構成部分)を覆うように形成する。第1の酸化チタン膜は、前記構造体の流路の内壁、すなわち吐出口形成部材1の流路と流路形成基板2の液体導入流路5の内壁を覆うように形成される。次に、第1の酸化チタン膜上に、原子層堆積法により純水接触角が70°以上の第2の酸化チタン膜を形成する。
続いて、第2の酸化チタン膜をパターニングして、少なくとも前記流路内に第1の酸化チタン膜を露出させる。その際、この第2の酸化チタン膜のパターニングは、前記吐出口形成部材の吐出口の開口端近傍または前記流路形成基板の液体導入流路の開口端近傍の少なくともいずれかにおいて、第2の酸化チタン膜が第1の酸化チタン膜を被覆する部分を残すように行う。第1の実施形態では、前記吐出口形成部材の吐出口の開口端近傍において第1酸化チタン膜を被覆する部分を残すように第2の酸化チタン膜のパターニングを行う。後述の第2の実施形態では、前記流路形成基板の液体導入流路の開口端近傍において、第1の酸化チタン膜を被覆する部分を残すように第2の酸化チタン膜のパターニングを行う。
【0040】
例えば、
図6(a)に示すように、シリコン基板17(吐出口形成部材1又は流路形成基板2)上に親水性酸化チタン膜7を成膜し、この親水性酸化チタン膜7の上に撥水性酸化チタン膜8を成膜することにより積層構造を形成できる。その後、
図6(b)に示すように、撥水性膜を必要とする部分に撥水性膜を残し、親水性としたい部分には親水性膜を露出させる構成を形成する。
【0041】
その際、親水性としたい部分に親水性膜を露出させるために、親水性としたい部分の直上の撥水性膜の部分(不要な部分)をウェットエッチングにより選択的に除去する(パターニングする)ことができる。撥水性膜の不要な部分を除去する(撥水性膜をパターニングする)ためのエッチング液にはフッ素系エッチング液(フッ酸を含むエッチング液)を用いることができる。撥水性膜をフッ素系エッチング液で除去する(パターニングする)際、撥水性膜(第2の酸化チタン膜)のエッチングレートに対する親水性膜(第1の酸化チタン膜)のエッチングレートが7.0倍以上遅いことが好ましい。
【0042】
図9に、フッ酸を含むエッチング液を用いたウェットエッチングにおいて、酸化チタン膜の成膜温度とエッチングレートとの関係を示すグラフを示す。このグラフから分かるように、300℃で成膜された親水性酸化チタン膜のエッチングレートは約0.6nm/min、75℃で成膜された撥水性酸化チタン膜のエッチングレートは、約4.5nm/minとなる。このことから、親水性酸化チタン膜を下層に、撥水性酸化チタンを上層に用いる形態であれば、良好な保護性とパターニング形状を得ることができる。
【0043】
図7及び
図8に、接触角が互いに異なる2種類の保護膜を1層に形成する場合の問題を説明するための模式的断面図を示す。本実施形態では、上記のように接触角が互いに異なる2種類の酸化チタン膜を積層して積層構造を形成したが、以下に、接触角が互いに異なる2種類の保護膜を単層で成膜する場合(単層構造)の問題点を説明する。本実施形態の積層構造であれば、単層構造で生じる問題を防ぐことができる。
【0044】
例えば
図7に示すように、シリコン基板17上に親水性の保護膜7sを成膜し、不要な親水性部分を除去し必要な親水性部分のみ残すようにパターニングし、親水性部分が除去された部分へ撥水性の保護膜8sをパターニング形成した場合、次の問題が生じる。すなわち、親水性の保護膜と撥水性の保護膜との境にパターニング精度により隙間Aができ、基板17の表面が露出し、保護膜としての機能を損なうこととなる。
また、パターニング精度を考慮し、親水性の保護膜と撥水性の保護膜の境に重なりを設けた場合でも、エッチングレートのばらつきから、基板17の表面が露出することがあり、保護膜としての機能を損なうこととなる。
【0045】
また、撥水性の保護膜と親水性の保護膜として、構成元素が互いに異なる膜、又は成膜法が互いに異なる膜を形成し、単層で形成する場合は次の問題が生じる。例えば、
図8は、下層が圧縮方向に働く応力を持った圧縮膜19であり、重なり部分の上層が引っ張り方向に働く応力を持った引っ張り膜18である場合を示す。このような場合、下層と上層の応力の違いから剥がれBやクラックCが生じやすく、やはり保護性を損なうこととなる。
【0046】
本実施形態のように、下層側に高温で成膜した親水性の酸化チタン膜、上層に低温で成膜した撥水性の酸化チタン膜を配置した積層構造とすれば、構成元素が同種の膜を成膜するため、応力差や密着力の問題がなくなる。また、耐薬品性の差からくる保護膜の信頼性低下もないため、保護性を確保しつつ、親水部と撥水部を維持することが可能となる。
【0047】
(第2の実施形態)
図2は、本発明の第2の実施形態の液体吐出ヘッドをチップ接合プレート11(実装部材)と接続した状態を示す模式的断面図である。
図3は、撥水性酸化チタン膜8を有していない液体吐出ヘッドをチップ接合プレート11と接続した状態を示す模式的断面図である。
【0048】
図2に示す液体吐出ヘッド(チップ接合プレート11と接合前の状態)は、撥水性酸化チタン膜8が吐出口4の周辺には形成されず、液体導入流路5の導入側開口の周辺から開口端を覆いさらに液体導入流路内で開口端近傍を被覆するように形成されている。これら以外は、
図2に示す液体吐出ヘッドは
図1に示す第1の実施形態の液体吐出ヘッドと同様な構造を有する。本実施形態の液体吐出ヘッドは、流路形成基板において、液体導入流路の液体を導入する導入側開口が形成された外表面上に、該導入側開口を囲むように該開口端近傍を被覆し、さらに該開口端から液体導入流路内の開口端近傍を覆う撥水性酸化チタン膜を有する。この撥水性酸化チタン膜8は、外表面上から開口内にわたって連続的に形成され開口端を覆っている。
【0049】
一方、
図3に示す液体吐出ヘッドは、撥水性酸化チタン膜8を有していないため、チップ接合プレート10を接着剤9で張り合わせた際、次の問題が生じる。すなわち、
図3に示すように、接着剤9は流路内壁の濡れやすさとの兼ね合いで流路内へ不規則に這い上がる現象が発生し、液体導入流路5の幅を狭め液体の流入量が減少し、吐出性能が低下する。
【0050】
これに対して、
図2に示される第2の実施形態の液体吐出ヘッドでは、流路形成基板2裏面の開口近傍に撥水性酸化チタン膜8がパターニング形成されたことで、開口近傍が撥水性を示す。これにより、接着剤に対するぬれ性が低くなることから、接着剤9の這い上がる量を抑えることが可能となる。また、液体導入流路の内面は親水性酸化チタン膜7で被覆されていることから、液体流入時に泡だまりの発生を抑えることができる。
【0051】
撥水性酸化チタン膜(第2の酸化チタン膜)は、液体導入流路の開口端近傍として、開口端からの距離(
図2において液体導入流路5内の撥水性酸化チタン膜8の縦方向の長さに相当)が1~5μmの部分を被覆することが好ましい。本明細書においては、この部分を液体導入流路の開口端近傍とする。流路内の気泡残留を抑制する点から、流路内における撥水性酸化チタン膜の被覆部分はできるだけ少ない方が好ましい。
撥水性酸化チタン膜(第2の酸化チタン膜)は、流路形成基板の外表面における液体導入流路の開口端近傍として、開口端からの距離(
図2中の液体導入流路5外の撥水性酸化チタン膜8の横方向の長さに相当)が1~5μmの部分を被覆することが好ましい。より好ましくは、1.1~4.5μmの部分を被覆する。使用する接着剤に対するぬれ性の点から、流路形成基板の外表面(接合面)における撥水性酸化チタン膜の被覆部分はできるだけ少ない方が好ましい。
【0052】
(その他の実施形態)
撥水性酸化チタン膜8は、第1の実施形態のように吐出口を囲むように開口端近傍を被覆し、且つ第2の実施形態のように液体導入流路の導入側開口を囲むように該開口端近傍を被覆し、さらに該開口端近傍から流路内の開口端近傍を被覆することができる。これにより、流路内を保護しながら、液体吐出特性をより一層安定化(高画質化)することが可能になる。
【実施例】
【0053】
(実施例1)
本発明の第1の実施形態の液体吐出ヘッドについて実施例を挙げて図面を用いて説明する。
図4は、本実施例の製造方法を説明するための概略工程断面図である。
【0054】
最初に、流路形成基板2を形成するために、エネルギー発生素子3と駆動回路(不図示)が形成されたシリコン基板を用意した。
【0055】
次に、
図4(a)に示すように、次のようにして前記シリコン基板に液体導入流路5と個別連通孔13、14を形成して流路形成基板2を得た。
まず、前記シリコン基板の裏面に感光性ポジ型レジストを全面に塗布した。塗布したポジ型レジストに対して、半導体露光装置を用いて4800J/m
2の露光量で液体導入流路5のパターン形成用露光マスクを通して露光を行った。続いて、2.38%のテトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド水溶液を用いて現像を行い、液体導入流路パターン(樹脂マスク層)を形成した。
次に、SF
6、C
4F
8のガスを交互に用い、エッチングとパッシベーションを繰り返すことで異方性エッチングが可能なボッシュプロセスの反応性イオンエッチングにより、シリコン基板を所定の位置までエッチングし、液体導入流路5を形成した。
【0056】
次に、前記シリコン基板の表面側より、前記工程と同様な手法により、パターニングされたマスク層を形成し、シリコン基板をエッチングすることで個別連通孔13、14を形成し、流路形成基板2を得た。
【0057】
次に、
図4(b)に示すように、以下のようにして、吐出口4と圧力室6を構成する凹部とを有する吐出口形成部材1を形成した。
まず、シリコン基板の所定の位置に裏面より圧力室6を構成する凹部を形成し、次に、基板表面より吐出口4を形成した。圧力室6を構成する凹部及び吐出口4の形成は、上述の流路形成基板2の液体導入流路の形成プロセスと同様のプロセスにより行った。この時、基板厚さはCMP(化学的機械的研磨)により研削研磨することで調整した。
【0058】
その後、
図4(c)に示すように、圧力室6を構成する凹部と吐出口4とが形成された吐出口形成部材1を流路形成基板2に接合した。これにより、圧力室6と液体導入流路5とは個別連通孔13、14により連通し、液体は液体導入流路5より流入し貯留される。
【0059】
次に、
図4(d)に示すように、以下のようにして、酸化チタン膜(TiO膜)7、8を、原子層堆積法(ALD法)により、TiCl
4、純水を用いて成膜した。
具体的には、TiCl
4と純水を交互に供給することで、成膜を行った。この時、成膜サイクルは次のように行った。まず、TiCl
4を気化させたガスを窒素と共に炉内へ輸送し5秒間吹き付け、その後、窒素によるパージと排気を十分に行った。次に、純水を気化させたガスを窒素と共に炉内へ輸送し5秒間吹き付け、その後、窒素によるパージと排気を十分に行なった。このサイクルを1サイクルとして、1000回程度同じサイクルを繰り返し、親水性酸化チタン膜7を300℃±10℃で制御された成膜温度により80nmの厚みに成膜した。さらに、前記成膜サイクルと同じ成膜サイクルにより75℃±10℃に制御された成膜温度で、撥水性酸化チタン膜8を親水性酸化チタン膜7上に80nmの厚みに成膜し、親水性酸化チタン膜7と撥水性酸化チタン膜8の積層膜を得た。
【0060】
その後、吐出口4が形成された側の面に、
図4(e)に示すように、次のようにしてフィルムを用いたテンティング法により樹脂マスク層16を形成した。
まず、感光性フィルムを、吐出口4が形成された側の面に貼り付けた。次に、半導体露光装置を用いて4800J/m
2の露光量で撥水性酸化チタン膜8のパターン形成用露光マスクを通して露光を行った。次に、2.38%のテトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド水溶液を用いて現像を行い、吐出口4を囲むように開口端近傍を覆う樹脂マスク層16を形成した。
【0061】
次に、フッ素系エッチング液(フッ酸を含むエッチング液)によるウェットエッチング工程において、吐出口4を囲むように開口端近傍を覆う撥水性酸化チタン膜8を残し、必要のない部分の撥水性酸化チタン膜8をエッチングし除去した。その後、樹脂マスク層16を除去し、撥水性酸化チタン膜8のパターン(吐出口4を囲むように開口端近傍を覆う撥水性酸化チタン膜パターン)を得た(
図4(f))。
【0062】
以上のようにして得られた液体吐出ヘッドにおいて、液体導入流路5の内面は成膜された親水性酸化チタン膜7により親水性を示し、吐出口4が形成された側の表面に形成された撥水性酸化チタン膜8により吐出口4を囲む開口端近傍は撥水性を示す状態となる。
流路内が親水性酸化チタン膜7で被覆された構成により、流路内に液体が流入する際に発生する泡だまりの発生を抑えることが可能となる。また、流路を構成する流路内の基板表面はこの酸化チタン膜で保護されるため耐薬品性、耐水性に優れた構造となる。また、吐出口4の開口周囲端近傍に形成された撥水性酸化チタン膜8は耐薬品性に優れ、またその撥水性により吐出口においてメニスカスが形成されやすくなり、液体吐出特性を安定化(高画質化)できる。
【0063】
(実施例2)
第2の実施形態の液体吐出ヘッドについて実施例を挙げて図面を用いて説明する。
図5は、本実施例の製造方法を説明するための概略工程断面図である。
【0064】
図5(a)~
図5(d)に示す工程は、実施例1における
図4(a)~
図4(d)に示す工程と同様に行った。
【0065】
次に、
図5(e)に示すように、樹脂マスク層16を、流路形成基板2の裏面に液体導入流路5の開口を覆うように(断面図では開口を跨ぐように)形成した。
【0066】
次に、
図5(f)に示すように、樹脂マスク層16の一部を液体導入流路5の内壁に接するまで落ち込ませるために、加熱器により140℃で7分間加熱を行った。
【0067】
その後、実施例1で行った方法と同様にして、樹脂マスク層16をパターニングした。次いで、
図5(g)に示すように、樹脂マスク層16が異なる以外は実施例1で行った撥水性酸化チタン膜8のエッチング方法と同様にして、本実施例の撥水性酸化チタン膜8のエッチングを行なった。その後、樹脂マスク層16を除去し、撥水性酸化チタン膜8のパターン(液体導入流路5の液体導入側の開口を囲むように該開口端近傍を被覆し、さらに該開口部から流路内の開口端近傍を覆う撥水性酸化チタン膜パターン)を得た(
図5(h))。
【0068】
以上のようにして得られた液体吐出ヘッドにおいて、撥水性酸化チタン膜8が、流路形成基板2の裏面の液体導入流路5の開口近傍にパターニング形成される。すなわち、撥水性酸化チタン膜が、液体導入流路5の開口を囲むように該開口端近傍を被覆し、さらに流路内へ向けて開口端を覆い、流路内の開口端近傍を被覆する。これにより、液体導入流路5内の開口端近傍は撥水性を示す状態となる。このように流路内の開口端近傍が撥水性を示すことにより、チップ接合プレート接着時の液体導入流路5内への接着剤の侵入を抑制することが可能となった。
【0069】
また、実施例1と同様に、流路内が親水性酸化チタン膜7で被覆されているため、流路内に液体が流入する際に発生する泡だまりの発生を抑えることが可能となった。また、流路を構成する流路内の基板表面はこの酸化チタン膜で保護されるため耐薬品性、耐水性に優れた構造となった。
【符号の説明】
【0070】
1 吐出口形成部材
2 流路形成基板
3 エネルギー発生素子
4 吐出口
5 液体導入流路
6 圧力室
7 親水性酸化チタン膜(第1の酸化チタン膜)
7s 親水性の保護膜
8 撥水性酸化チタン膜(第2の酸化チタン膜)
8s 撥水性の保護膜
9 接着剤
10 チップ接合プレート
13 個別連通孔
14 個別連通孔
15 貫通孔基板(液体吐出ヘッド基板)
16 樹脂マスク層
17 シリコン基板
18 引っ張り膜
19 圧縮膜