(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-19
(45)【発行日】2024-07-29
(54)【発明の名称】溶接方法
(51)【国際特許分類】
B23K 9/127 20060101AFI20240722BHJP
B23K 9/12 20060101ALI20240722BHJP
【FI】
B23K9/127 508B
B23K9/12 331Q
B23K9/127 509D
(21)【出願番号】P 2020131986
(22)【出願日】2020-08-03
【審査請求日】2022-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】520291168
【氏名又は名称】新東スマートエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【氏名又は名称】近藤 寛
(72)【発明者】
【氏名】水谷 亮
(72)【発明者】
【氏名】久保田 淳
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 明裕
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 隼也
(72)【発明者】
【氏名】田中 将太
(72)【発明者】
【氏名】鍋田 武志
【審査官】黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-216941(JP,A)
【文献】特開平09-099368(JP,A)
【文献】国際公開第2011/102142(WO,A1)
【文献】特開平8-281435(JP,A)
【文献】特開平1-170583(JP,A)
【文献】特開昭63-84776(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/00 - 9/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接用のエンドエフェクタとセンサとを有する溶接ロボットを用いて溶接対象物に設定された溶接対象領域に対する多層盛溶接を行う溶接方法であって、
溶接が行われる前の前記溶接対象領域をセンシングすることにより、前記センサによって前記溶接対象領域の開先の情報を取得する第1センシング工程と、
前記第1センシング工程において取得した結果に基づいて、前記溶接対象領域に対する複数の溶接パスを計画するパス計画工程と、
前記パス計画工程の後に、前記エンドエフェクタによって前記溶接対象領域に対する溶接パスを繰り返し行うことにより前記溶接対象領域を溶接する第1溶接工程と、を備え、
前記第1溶接工程は、
前記エンドエフェクタによって前記溶接パスを行いながら、前記センサによって前記開先の情報を取得する第2センシング工程と、
前記第2センシング工程において取得した情報に基づいて、前記パス計画工程において計画した前記溶接パスとなるように、前記エンドエフェクタの位置を調整するパス位置調整工程と、を有し、
前記センサによって取得された、少なくとも一回の前記溶接パスが行われた後の前記開先の情報に基づいて、前記開先の断面上において、前記開先と前記開先に形成された溶接ビードの表面とが接する点を示す仮想点の位置を算出する算出工程をさらに備え、
前記算出工程では、前記開先の断面上における前記溶接ビードの表面の輪郭のうち、前記開先とは接していない部分の近似直線を算出し、前記開先と前記近似直線との交点の位置を、前記仮想点の位置として算出する、
溶接方法。
【請求項2】
複数の前記溶接パスが行われた後の前記開先の情報を取得する第3センシング工程と、
前記第3センシング工程において取得した情報に基づいて、前記溶接対象領域に対する複数の前記溶接パスを再計画するパス再計画工程と、
前記パス再計画工程において再計画した複数の前記溶接パスを繰り返し行うことにより前記溶接対象領域を溶接する第2溶接工程と、をさらに備え、
前記パス再計画工程では、前記算出工程において算出した結果を用いて、前記溶接対象領域に対する複数の前記溶接パスを再計画する、
請求項
1に記載の溶接方法。
【請求項3】
少なくとも一回の前記溶接パスが行われた後の前記開先の情報を前記センサによって取得する前に、実行済みの前記溶接パスの回数に応じて、前記センサの位置を前記開先から遠ざける、
請求項
1又は2に記載の溶接方法。
【請求項4】
前記センサによって取得された、前記開先の情報から得た前記開先の深さを、前記センサの傾きに応じて補正する、
請求項1~
3のいずれか一項に記載の溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、自動溶接ロボットを用いた溶接方法が記載されている。この溶接方法においては、初層、中間層、及び仕上層を含む多層の溶接を行うことにより、溶接対象領域に対する多層盛溶接が行われる。自動溶接ロボットは、初層、中間層、及び仕上層のそれぞれに対する溶接パスを繰り返し行い、全溶接対象領域を溶接する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載されたような自動溶接ロボットにおいて、溶接部位の状態を確認しながら溶接を行うために、溶接ロボットには、溶接部位の情報を取得するセンサが設けられる場合がある。この場合、センサによって取得された開先情報から溶接パスを計画し、計画に沿って溶接パスを行うことが考えられる。しかしながら、多層盛溶接においては、複数の溶接パスが行われるので、計画位置と溶接パス位置とにずれが生じやすい。そのため、溶接対象領域に対する溶接の位置精度の向上が望まれている。
【0005】
本発明は、多層盛溶接において溶接対象領域に対する溶接の位置精度を向上させることができる溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る溶接方法は、溶接用のエンドエフェクタとセンサとを有する溶接ロボットを用いて溶接対象物に設定された溶接対象領域に対する多層盛溶接を行う溶接方法であって、溶接が行われる前の溶接対象領域をセンシングすることにより、センサによって溶接対象領域の開先の情報を取得する第1センシング工程と、第1センシング工程において取得した結果に基づいて、溶接対象領域に対する複数の溶接パスを計画するパス計画工程と、パス計画工程の後に、エンドエフェクタによって溶接対象領域に対する溶接パスを繰り返し行うことにより溶接対象領域を溶接する第1溶接工程と、を備え、第1溶接工程は、エンドエフェクタによって溶接パスを行いながら、センサによって開先の情報を取得する第2センシング工程と、第2センシング工程において取得した情報に基づいて、パス計画工程において計画した溶接パスとなるように、エンドエフェクタの位置を調整するパス位置調整工程と、を有する。
【0007】
本発明に係る溶接方法では、溶接が行われる前の溶接対象領域の開先の情報に基づいて複数の溶接パスが計画された後、第1溶接工程において溶接パスが繰り返し行われる。ここで、第1溶接工程では、溶接パスを行いながらセンサによって開先の情報が取得されるとともに、当該開先の情報に基づいて、パス計画工程において計画した溶接パスとなるように、エンドエフェクタの位置が調整される。これにより、パス計画工程において計画した溶接パスに対する誤差を補正しながら溶接パスが行われる。したがって、多層盛溶接において溶接対象領域に対する溶接の位置精度を向上させることができる。
【0008】
また、本発明に係る溶接方法において、パス位置調整工程では、開先の情報として、溶接対象物における溶接対象領域と溶接非対象領域との境界部の位置を取得し、境界部の位置に対する溶接パスの相対的な位置をエンドエフェクタによる溶接パス狙い位置として、エンドエフェクタの位置を調整してもよい。この場合、溶接非対象領域に極めて近い境界部の位置に対する溶接パスの相対的な位置をエンドエフェクタの溶接パス狙い位置とするので、多層盛溶接において開先の一部の溶接が行われた状態においても、溶接対象領域に対する溶接パスの位置のずれが低減される。したがって、溶接対象領域に対する溶接の位置精度を特に向上させることがきる。
【0009】
また、本発明に係る溶接方法は、センサによって取得された、少なくとも一回の溶接パスが行われた後の開先の情報に基づいて、開先の断面上において、開先と開先に形成された溶接ビードの表面とが接する点を示す仮想点の位置を算出する算出工程をさらに備え、算出工程では、開先の断面上における溶接ビードの表面の輪郭のうち、開先とは接していない部分の近似直線を算出し、開先と近似直線との交点の位置を、仮想点の位置として算出してもよい。例えば、開先と溶接ビードの表面とが接する点の仮想点の位置を算出する際に、開先の断面上における溶接ビードの表面全体の輪郭から算出された近似直線を用いることが考えられる。しかしながら、まだ溶接パスが行われていない部分(溶接対象物の接合面等)が溶接ビードの表面として誤認識されてしまう場合があり、このような場合に、適切な近似直線が得られなくなってしまう。これに対し、溶接ビードの表面の輪郭のうち、開先とは接していない部分の近似直線を用いるので、開先と溶接ビードの表面とが接する点の仮想点の算出のための近似直線をより適切に得ることができる。
【0010】
また、本発明に係る溶接方法は、複数の溶接パスが行われた後の開先の情報を取得する第3センシング工程と、第3センシング工程において取得した情報に基づいて、溶接対象領域に対する複数の溶接パスを再計画するパス再計画工程と、パス再計画工程において再計画した複数の溶接パスを繰り返し行うことにより溶接対象領域を溶接する第2溶接工程と、をさらに備え、パス再計画工程では、算出工程において算出した結果を用いて、溶接対象領域に対する複数の溶接パスを再計画してもよい。例えば、複数の溶接パスが行われた後に残された溶接対象領域には、はじめに計画した溶接パスが適さない場合も生じ得る。これに対し、再度開先の情報を取得して、溶接パスを再計画するので、第2溶接工程において、溶接の進捗に応じた溶接パスを行うことができる。また、パス再計画工程において、上記算出工程で得られた結果を使用するので、溶接の進捗により適した溶接パスが計画される。したがって、多層盛溶接において溶接対象領域に対する溶接の位置精度をより一層向上させることができる。
【0011】
また、本発明に係る溶接方法においては、少なくとも一回の溶接パスが行われた後の開先の情報をセンサによって取得する前に、実行済みの溶接パスの回数に応じて、センサの位置を開先から遠ざけてもよい。この場合、実行済みの溶接パスの回数に応じて、センシングに適した位置においてセンサが開先の情報を取得できる。
【0012】
また、本発明に係る溶接方法においては、センサによって取得された、開先の情報から得た開先の深さを、センサの傾きに応じて補正してもよい。この場合、開先の深さを精度よく取得できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、多層盛溶接において溶接対象領域に対する溶接の位置精度を向上させることができる溶接方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る溶接方法を模式的に示す斜視図である。
【
図3】
図3は、制御部の機能上の構成を示すブロック図である。
【
図4】
図4(a)及び
図4(b)は、センシング制御部を説明するための図である。
【
図5】
図5は、傾き補正部を説明するための図である。
【
図6】
図6は、パス計画部を説明するための図である。
【
図7】
図7(a)及び
図7(b)は、溶接制御部によるパス位置調整処理を説明するための図である。
【
図8】
図8(a)及び
図8(b)は、開先算出部を説明するための図である。
【
図9】
図9は、一実施形態に係る溶接方法の手順を示すフローチャートである。
【
図10】
図10は、溶接処理における一回の溶接パスの手順を示すフローチャートである。
【
図11】
図11は、センシング処理の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して一実施形態について説明する。なお、図面の説明においては、同一の要素同士、或いは、相当する要素同士には、互いに同一の符号を付し、重複する説明を省略する場合がある。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態に係る溶接方法を模式的に示す斜視図である。
図1には、本実施形態に係る溶接方法に用いられる溶接装置1と、溶接対象物(例えば2つの柱部品3)と、が示されている。溶接対象物の外形状は、例えば角形状である。溶接対象物は、4つの側面部Wsと4つの隅角部Wcとを含む。4つの側面部Wsのそれぞれは平坦に形成されており、4つの側面部Wsのうち隣り合う2つの側面部Ws同士は、隅角部Wcにおいて互いに交差(直交)している。溶接装置1は、建物の施工現場において、例えば上記溶接対象物としての柱部品3同士の溶接を行うための現場溶接装置である。
【0017】
柱部品3は例えば角形の鋼管であり、複数の柱部品3が鉛直方向に重ねられ互いに溶接されることで角形の鋼管柱が構築される。溶接される柱部品3同士は、水平な端部同士を全周に亘って近接させ対向させるように配置される。この端部同士が対向する領域が、溶接装置1により溶接される溶接対象領域Wであり、溶接対象領域Wの開先は柱部品3の全周に亘って(すなわち、すべての側面部Wsに亘って)水平面内に延在している。以下では、互いに溶接される柱部品3のうち下に位置するものを柱部品3A、上に位置するものを柱部品3Bとする。
【0018】
柱部品3A,3Bには、溶接対象領域Wを跨ぐようにそれぞれエレクションが設けられている。エレクションは、溶接対象領域Wの近傍において、各柱部品3A,3Bの各側面の中央部に溶接されたエレクションピース5と、建て方治具7とを有する。柱部品3Aに設けられたエレクションピース5と、柱部品3Bに設けられたエレクションピース5とが鉛直方向に並び、建て方治具7によって互いに接続されている。このようなエレクションによって柱部品3Aと柱部品3Bとが仮接続されている。
【0019】
溶接装置1は、ロボット9(溶接ロボット)と、ロボット9を柱部品3の周囲で移動させるためのレール11と、ロボット9の動作及び移動を制御する制御部13と、を備えている。
【0020】
図2は、
図1のロボットを示す側面図である。
図1及び
図2に示されるように、ロボット9は多関節ロボットであり、例えば汎用の6軸の垂直多関節ロボットである。ロボット9は、溶接ツール15(例えば、アーク溶接用の溶接トーチ、又はレーザ溶接用のレーザヘッド等)をエンドエフェクタとして備えている。つまり、ロボット9は、溶接用のエンドエフェクタを備えている。ロボット9は、制御部13の制御下で動作し、溶接ツール15を溶接対象領域Wに沿って移動させ溶接対象領域Wを溶接する。また、ロボット9は、溶接対象領域Wの開先の情報を取得するための開先センサ17(センサ)をさらに備えている。開先センサ17は、例えば、開先の断面形状をセンシングするレーザセンサである。開先センサ17は、例えば、取り付け治具16を介して溶接ツール15に固定されている。ロボット9は、制御部13の制御下で動作し、開先センサ17を溶接対象領域Wに沿って移動させ開先形状(例えば、開先の3次元座標データ)を取得する。取得された開先形状は、制御部13で一時的に記憶される。
【0021】
レール11は、溶接対象領域Wよりもやや低い位置で柱部品3の周囲を取り囲むように円環状に延びており、柱部品3Aの外周面に固定され支持されている。レール11は、平面視で柱部品3の材軸を中心とする円環をなしている。レール11には、当該レール11上をスライド可能なキャリッジ19が設置されている。ロボット9は、キャリッジ19に取付けられることで、レール11に沿って柱部品3の周囲を走行可能である。
【0022】
キャリッジ19の取付座面21は鉛直面に対して傾斜している。また、取付座面21は、キャリッジ19のスライド方向に対して平行である。この取付座面21に取付けられたロボット9の第1軸23(旋回軸)は、取付座面21に直交し、鉛直方向及び水平面の両方に対して傾斜している。すなわち第1軸23は鉛直軸でもなく水平軸でもない。この構成によれば、水平に延びる溶接対象領域Wに沿って移動する溶接ツール15や開先センサ17の移動範囲を、ロボット9の可動域の中で好適な可動範囲に合せることが容易になる。すなわち、例えばロボット9がアームの可動限界の付近で動作するといった状態を回避し易くなる。
【0023】
図3は、制御部の機能上の構成を示すブロック図である。
図3に示されるように、制御部13は、機能的な構成(以下、「機能モジュール」という。)として、記憶部31と、走行制御部32と、センシング制御部33と、傾き補正部34と、パス計画部35と、溶接制御部36と、開先算出部37と、を有する。これらの機能モジュールは、制御部13の機能を便宜上複数のモジュールに区切ったものに過ぎず、制御部13を構成するハードウェアがこのようなモジュールに分かれていることを必ずしも意味するものではない。各機能モジュールは、プログラムの実行により実現されるものであってもよく、専用の電気回路(例えば論理回路)、又は、これを集積した集積回路(ASIC:Application Specific Integrated Circuit)により実現されるものであってもよい。
【0024】
走行制御部32は、ロボット9をレール11に沿って走行させるように制御する。これにより、ロボット9は、溶接対象領域Wの近傍において柱部品3の周囲で移動可能である。走行制御部32は、ロボット9を一定の速度で走行させてもよいし、速度を変更しながらロボット9を走行させてもよい。例えば走行制御部32は、記憶部31から取得した予め設定された速度によってロボット9を走行させる。
【0025】
センシング制御部33は、開先センサ17によって溶接対象領域Wの開先の情報を取得する。
図4(a)及び
図4(b)は、センシング制御部を説明するための図である。
図4(a)及び
図4(b)には、開先の延在方向に交差する方向から見た溶接対象領域W及びその周辺が示されている。
図4(a)及び
図4(b)に示されるように、溶接対象領域Wは、柱部品3A,3Bと、柱部品3A,3Bの内側面に設けられた裏当金物3Cとによって画成された領域である。
【0026】
センシング制御部33は、溶接が行われる前の溶接対象領域Wの開先の情報を取得する第1センシング処理(
図4(a)参照)と、溶接ツール15によって溶接パスが行われている状態の溶接対象領域Wの開先の情報を取得する第2センシング処理と、少なくとも一回の溶接パス(一例として、複数の溶接パス)が行われた後の溶接対象領域Wの開先の情報を取得する第3センシング処理(
図4(b)参照)と、を実行する。開先の情報は、開先の延在方向に交差する断面(以下、「開先断面」という。)上の各点の深さ及び高さである。センシング制御部33は、第1センシング処理及び第3センシング処理において取得した開先の情報を、傾き補正部34に送信する。センシング制御部33は、第2センシング処理において取得した開先の情報を溶接制御部36に送信する。
【0027】
また、センシング制御部33は、実行済みの溶接パスの回数に応じて、開先センサ17の開先に対する距離を調整する処理を行う。
図4(a)に示されるように、センシング制御部33は、第1センシング処理を行う際(つまり、実行済みの溶接パスの回数がゼロである際)、開先センサ17を初期計測位置に移動させる。初期計測位置は、例えば開先の最深部(ここでは、裏当金物3C)から開先の深さ方向に所定の焦点距離L1だけ離れた位置である。開先センサ17がこの初期計測位置に配置されたとき、開先センサ17が備えるカメラは、必要な各部位(例えば、裏当金物3Cの表面)に対して良好に焦点を合わせることができる。
【0028】
また、
図4(b)に示されるように、センシング制御部33は、第3センシング処理を行う際、開先センサ17を再計測位置まで後方移動させる。再計測位置は、初期計測位置に対して、開先の深さ方向に沿って開先から遠ざかる向き(すなわち、後方)に所定距離L2だけ移動した位置である。所定距離L2は、実行済みの溶接パスの回数に応じて設定される。一例として、所定距離L2は、実行済みの溶接パスの各層の設計上の厚みを加算した値である。つまり、センシング制御部33は、実行済みの溶接パスの回数に応じて、開先センサ17の位置を開先から遠ざける。これにより、第3センシング処理が行われる際の開先の最深部(ここでは、実行済みの溶接パスによって形成された溶接ビードWBの表面)と開先センサ17との開先の深さ方向における距離L3は、上記所定の焦点距離L1とほぼ同じとなる。従って、開先センサ17が備えるカメラは、第3センシング処理においても、必要な各部位(例えば、溶接ビードWBの表面)に対して良好に焦点を合わせることができる。
【0029】
傾き補正部34は、センシング制御部33によって取得された開先の情報から得た開先の深さを、開先センサ17の傾きに応じて補正する。
図5は、傾き補正部を説明するための図である。傾き補正部34は、開先の深さ方向に対する開先センサ17の傾斜角θを算出し、センシング制御部33が取得した開先の見かけの深さD11に当該傾斜角θの余弦値(すなわちcosθ)を乗じることによって補正された開先の深さD12を導出する。例えば、傾き補正部34は、ロボット9の姿勢情報を取得し、当該姿勢情報における溶接ツール15の水平方向に対する傾斜角を開先センサ17の傾斜角θとして算出する。傾き補正部34は、算出して得られた開先の情報の補正値を記憶部31に保存する。
【0030】
パス計画部35は、記憶部31から取得した開先の情報に基づいて、溶接対象領域Wに対する複数の溶接パスを計画する処理を実行する。
図6は、パス計画部を説明するための図である。パス計画部35は、第1センシング処理において取得された開先の情報の補正値に基づいて、溶接が行われる前の溶接対象領域Wに対する複数の溶接パスを計画するパス計画処理と、第3センシング処理において取得された開先の情報の補正値に基づいて、複数の溶接パスが行われた後の溶接対象領域Wに対する複数の溶接パスを再計画するパス再計画処理と、を実行する。
【0031】
パス計画処理及びパス再計画処理として、パス計画部35は、開先断面に対して割り付ける複数のパス断面Pを設定する処理を実行する。本実施形態のパス再計画処理においては、開先断面として、後述する開先算出部37によって設定された開先断面が採用される。複数のパス断面Pを設定する処理は、パス断面Pの層数(開先の深さ方向の積層数)を算出する第1処理と、パス断面Pの段数(開先の高さ方向の積層数)を算出する第2処理と、第1処理の算出結果及び第2処理の算出結果を満たすように、開先断面に対して複数のパス断面を割り付ける第3処理と、を含む。
【0032】
第1処理において、パス断面Pの層数は、各層の厚み(例えば、各層の下端部の厚みD1)が所定範囲内(例えば、9mm未満)となるように、開先断面の深さ(例えば、各層の下端部の深さD2)に応じて算出される。厚みD1の範囲は、例えば4.5mm以上9mm未満に設定されてもよい。パス断面Pの段数は、層ごとに算出される。第2処理において、パス断面Pの各層(
図4(b)の例では、開先の奥から2層目)の段数は、各段の幅(例えば各段の最深部の上下方向の幅D3)が所定範囲内(例えば、9mm未満)となるように、開先断面の各層の高さ(例えば各層の最深部の高さD4)に応じて算出される。幅D3の範囲は、例えば4.5mm以上9mm未満に設定されてもよい。第3処理において、算出された層数及び段数によって開先断面を分割(例えば均等割)してパス割を行う。
パス計画部35は、分割によって得られた各分割点を、溶接ツール15の狙い位置Kに設定する。
【0033】
溶接制御部36は、パス計画部35が計画したパス計画に沿って、溶接ツール15による溶接パスを実行する。具体的には、溶接制御部36は、溶接ツール15による溶接状態のON/OFFを切り替える処理を実行する。溶接制御部36は、溶接ツール15による溶接状態を調節する処理をさらに実行してもよい。溶接状態を調節する処理においては、溶接制御部36は、例えば、溶接パスごとの溶接電流値や溶加材の供給速度等を調節する。溶接制御部36は、各パス断面Pの位置(例えば、開先の奥から何層目であるか、及び対象の層において下から何段目であるか等)と溶接条件(例えば、溶接電流値及び溶加材の供給速度等)とが予め対応付けられたテーブルを参照して溶接状態を調節してもよい。
【0034】
また、溶接制御部36は、センシング制御部33から取得した開先の情報に基づいて、パス計画部35によって計画された溶接パスとなるように、溶接ツール15の位置を調整するパス位置調整処理を実行する。
図7(a)及び
図7(b)は、溶接制御部によるパス位置調整処理を説明するための図である。具体的には、溶接制御部36は、溶接パスを行いながら、第2センシング処理による開先の情報として、溶接対象物(柱部品3A,3B)における溶接対象領域Wと溶接非対象領域(ここでは、側面部Ws)との境界部B1,B2の位置をセンシング制御部33から取得する。
【0035】
次に、
図7(a)に示されるように、溶接制御部36は、パス計画部35に計画された狙い位置Kに対する境界部B1,B2のそれぞれからの鉛直距離L11,L12及び水平距離L13を算出する。そして、
図7(b)に示されるように、溶接制御部36は、境界部B1,B2の位置に対する狙い位置Kの相対的な位置を溶接ツール15による溶接パス狙い位置として溶接ツール15の位置を調整する。
【0036】
開先算出部37は、複数の溶接パスが行われた後の開先断面を設定するための処理を実行する。
図8(a)及び
図8(b)は、開先算出部を説明するための図である。具体的に、開先算出部37は、記憶部31から取得した、複数の溶接パスが行われた後の開先の情報に基づいて、開先断面上において、開先と開先に形成された溶接ビードWBの表面とが接する点を示す仮想点V1,V2の位置を算出する処理を実行する。例えば開先算出部37は、複数の溶接パスが行われた後の開先の情報として、第3センシング処理において取得された開先の情報の補正値を記憶部31から取得する。
【0037】
開先算出部37は、第3センシング処理において取得された開先の情報の補正値に基づいて、溶接ビードWBの近似直線Nを算出する処理(
図8(a)参照)と、近似直線Nと開先との交点を仮想点V1,V2として算出する処理(
図8(b)参照)と、仮想点V1,V2を頂点として含む四角形状の部分を開先断面として設定する処理(
図8(b)参照)と、を実行する。
【0038】
図8(a)に示されるように、近似直線Nを算出する処理において、開先算出部37は、開先の断面上における溶接ビードWBの表面の輪郭のうち、開先とは接していない部分の近似直線Nを算出する。溶接ビードWBの表面の輪郭のうち、開先とは接していない部分の範囲は、実行済みの溶接パスの回数に応じて設定される。一例として、開先算出部37は、実行済みの溶接パスの最外層の設計上の表面よりもひとまわり狭い範囲(つまり、当該最外層の設計上の下端よりも所定量だけ上側の位置から、当該最外層の設計上の上端よりも所定量だけ下側の位置まで)を開先とは接していない部分の範囲として設定する。そして、設定した範囲内の溶接ビードWBの表面の輪郭から、例えば最小二乗法によって当該輪郭の近似直線Nを算出する。
【0039】
図8(b)に示されるように、この近似直線Nと開先との交点として仮想点V1,V2が導出された後、開先断面を設定する処理において、開先算出部37は、仮想点V1,V2及び境界部B1,B2を頂点とする四角形状の部分を開先断面として設定する。当該開先断面は、パス再計画処理において複数のパス断面Pが再設定される対象の開先断面として用いられる。
【0040】
制御部13のハードウェアは、例えば一つまたは複数の制御用のコンピュータにより構成される。制御部13が複数のコンピュータで構成されている場合には、上記の機能モジュールがそれぞれ、一つのコンピュータによって実現されていてもよいし、2つ以上のコンピュータの組み合わせによって実現されていてもよい。
【0041】
次に、溶接方法の一例として、制御部13による現場溶接処理の概要について説明する。なお、本実施形態に係る現場溶接処理においては、溶接対象領域Wのうち、1つのエレクションの建て方治具7に覆われた位置から隣接するエレクションの建て方治具7に覆われた位置までを対象の溶接区間とする。つまり、溶接対象領域Wのうちの4分の1の開先に1つの溶接区間が設定されている。
図9は、制御部13による現場溶接処理の手順を示すフローチャートである。
【0042】
図9に示されるように、制御部13は、まず、ステップS01を実行する。ステップS01では、溶接が行われる前の溶接対象領域Wにおける開先の情報を開先センサ17によって取得するように、センシング制御部33がロボット9を制御する処理を実行する(第1センシング工程)。はじめに、
図4(a)に示されるように、センシング制御部33が、開先センサ17を初期計測位置に移動させ、第1センシング処理を実行する。この第1センシング処理により、センシング制御部33は、開先の情報として、開先断面上の各点の深さ及び高さを取得する。この第1センシング処理では、ロボット9が開先センサ17を溶接対象領域Wに沿って移動させながら、開先センサ17により溶接対象領域Wの全長に亘ってセンシングが行われ、所定のピッチ(例えば50mmピッチ)の各々の開先断面ごとに、各開先の情報が取得される。
【0043】
そして、傾き補正部34が、センシング制御部33によって取得された開先の情報から得た開先の深さを、開先センサ17の傾きに応じて補正する。具体的には、
図5に示されるように、傾き補正部34は、開先の深さ方向に対する開先センサ17の傾斜角θを算出し、センシング制御部33に取得された開先の見かけの深さD11に当該傾斜角θの余弦値を乗じることによって補正された開先の深さD12を導出する。傾き補正部34は、算出して得られた開先の情報の補正値を記憶部31に保存する。
【0044】
次に、制御部13は、ステップS02を実行する。ステップS02では、ステップS01において取得した結果に基づいて、溶接対象領域Wに対する複数の溶接パスをパス計画部35が計画する処理を実行する(パス計画工程)。具体的には、パス計画部35は、
図6に示されるように、開先断面に対して割り付ける複数のパス断面Pを設定する処理を実行する。また、パス計画部35は、パス断面Pを割り付ける際の開先断面の分割によって得られた各分割点を、溶接ツール15の狙い位置Kに設定する。
【0045】
次に、制御部13は、ステップS03を実行する。ステップS03では、溶接ツール15によって溶接対象領域Wに対する溶接パスを繰り返し行うことにより、溶接対象領域Wの少なくとも一部を溶接するように、溶接制御部36がロボット9を制御する溶接処理を実行する(第1溶接工程)。溶接パスを行うとは、ロボット9が溶接ツール15を溶接対象領域Wに沿って移動させながら、溶接ツール15が溶接対象領域Wの開先内に溶接ビードを形成していくことをいう。なお、ステップS03の具体的な処理内容については後述する。
【0046】
次に、制御部13は、ステップS04を実行する。ステップS04では、複数の溶接パスが行われた後の開先の情報を開先センサ17によって取得するように、センシング制御部33がロボット9を制御するセンシング処理を実行する。なお、ステップS04の具体的な処理内容については後述する。
【0047】
次に、制御部13は、ステップS05を実行する。ステップS05では、ステップS04において取得した情報に基づいて、パス計画部35が溶接対象領域Wに対する複数の溶接パスを再計画する処理を実行する(パス再計画工程)。このとき、パス計画部35は、ステップS04において設定された開先断面に対して割り付ける複数のパス断面Pを設定する処理を実行する。
【0048】
次に、制御部13は、ステップS06を実行する。ステップS06では、ステップS04において再計画した複数の溶接パスを繰り返し行うことにより溶接対象領域Wを溶接するように、溶接制御部36がロボット9を制御する処理を実行する(第2溶接工程)。なお、ステップS06は、ステップS03と同様に行ってよい。また、溶接対象領域Wの全領域の溶接が完了するまでに(ステップS07)、制御部13による上記ステップS04~S06の処理が繰り返し実行される。なお、このステップS04~S06の処理を複数回繰り返すことは必須ではなく、ステップS04~S06の処理が1回のみ実行されてもよい。対象の溶接区間における溶接対象領域Wの全領域の溶接が完了(ステップS07で「Yes」)したら、制御部13は、当該溶接区間に対する現場溶接処理を終了する。そして、この現場溶接処理が溶接区間ごと実行されて溶接対象領域Wの開先の全周分の溶接が完了する。
【0049】
ステップS03(第1溶接工程)の具体的な処理内容の一例について説明する。
図10は、溶接処理における一回の溶接パスの手順を示すフローチャートである。
図10に示されるように、制御部13は、まず、ステップS31を実行する。ステップS31では、溶接対象領域Wに対する溶接パスを開始するように、溶接制御部36がロボット9を制御する処理を実行する。具体的には、溶接ツール15による溶接状態をONに切り替えるように溶接制御部36がロボット9を制御する。
【0050】
溶接パスを行いながら、制御部13は、ステップS32,S33を順に実行する。ステップS32では、開先センサ17によって溶接対象領域Wにおける開先の情報を取得するように、センシング制御部33がロボット9を制御する第2センシング処理を実行する(第2センシング工程)。この第2センシング処理により、センシング制御部33は、開先の情報として、開先断面上の各点の深さ及び高さを随時取得する。この第2センシング処理は溶接パスの実行中に実行される。この溶接パスにおいては、溶接ツール15と開先センサ17とが移動方向に並んだ状態で、ロボット9が溶接ツール15及び開先センサ17を溶接対象領域Wに沿って移動させる。そして、第2センシング処理では、溶接ツール15よりも数cmだけ移動方向前方の位置の開先断面が開先センサ17でセンシングされ、開先の情報が取得される。
【0051】
ステップS33では、ステップS32において取得した情報に基づいて、ステップS02において計画した溶接パスとなるように、溶接制御部36が溶接ツール15の位置を調整する処理を実行する(パス位置調整工程)。具体的には、
図7(a)に示されるように、溶接制御部36が、開先の情報として、境界部B1,B2の位置をセンシング制御部33から随時取得する。また、溶接制御部36が、狙い位置Kに対する境界部B1,B2のそれぞれからの鉛直距離L11,L12及び水平距離L13を随時算出する。そして、
図7(b)に示されるように、境界部B1,B2の位置に対する狙い位置Kの相対的な位置を溶接ツール15による溶接パス狙い位置として、溶接制御部36が溶接ツール15の位置を随時調整する。
【0052】
このようなステップS32及びステップS33が、対象の溶接区間の終点に溶接ツール15が到達する(ステップS34で「Yes」)までの間、短周期(例えば500ミリ秒程度)で繰返し実行されることで、溶接ツール15の位置がフィードバック制御され、溶接パス狙い位置が正しく維持される。その後、対象の溶接区間の終点に溶接ツール15が到達したら(ステップS34で「Yes」)、制御部13は、ステップS35を実行する。ステップS35では、溶接対象領域Wに対する溶接パスを終了するように、溶接制御部36がロボット9を制御する処理を実行する。具体的には、溶接ツール15による溶接様態をOFFに切り替えるように溶接制御部36がロボット9を制御する。以上により、制御部13は、溶接処理における一回の溶接パスを終了する。そして、上記の溶接パスが繰り返し実行されて、ステップS03における溶接処理が完了する。
【0053】
次に、ステップS04の具体的な処理内容の一例について説明する。
図11は、センシング処理の手順を示すフローチャートである。
図11に示されるように、制御部13は、まず、ステップS41を実行する。ステップS41では、ステップS03において実行済みの溶接パスの回数に応じて、
図4(b)に示されるように、開先センサ17の位置を開先から遠ざけるようにセンシング制御部33がロボット9を制御する。具体的には、センシング制御部33は、開先センサ17を再計測位置(ここでは、初期計測位置に対して、開先の深さ方向に沿って開先から遠ざかる向きに所定距離L2だけ移動した位置)まで後方移動させる。なお、上述したように、所定距離L2は、例えば、実行済みの溶接パスの各層の設計上の厚みを加算した値である。なお、もともと開先センサ17のカメラの焦点を必要な箇所に合わせることができる場合には、このステップS41の処理は省略されてもよい。
【0054】
次に、制御部13は、ステップS42を実行する。ステップS42では、ステップS03において複数の溶接パスが行われた後の開先の情報を開先センサ17によって取得するように、センシング制御部33がロボット9を制御する(第3センシング工程)。つまり、センシング制御部33が第3センシング処理を実行する。この第3センシング処理により、センシング制御部33は、開先の情報として、開先断面上の各点の深さ及び高さを取得する。この第3センシング処理では、前回までの溶接パスで溶接ビードWBが形成済みの溶接対象領域W(例えば
図8参照)において、ロボット9が開先センサ17を溶接対象領域Wに沿って移動させながら、開先センサ17により溶接対象領域Wの全長に亘ってセンシングが行われ、所定のピッチ(例えば50mmピッチ)の各々の開先断面ごとに、各開先の情報が取得される。
【0055】
次に、制御部13は、ステップS43を実行する。ステップS43では、傾き補正部34が、ステップS42においてセンシング制御部33によって取得された開先の情報から得た開先の深さを、開先センサ17の傾きに応じて補正する。具体的には、
図5に示されるように、傾き補正部34は、まず、開先の深さ方向に対する開先センサ17の傾斜角θを算出する。また、傾き補正部34は、センシング制御部33に取得された開先の見かけの深さD11に当該傾斜角θの余弦値を乗じることによって補正された開先の深さD12を導出する。そして、傾き補正部34は、算出して得られた開先の情報の補正値を記憶部31に保存する。
【0056】
次に、制御部13は、ステップS42,S43において取得された、複数の溶接パスが行われた後の開先の情報に基づいて、開先断面上において、開先と開先に形成された溶接ビードWBの表面とが接する点を示す仮想点V1,V2の位置を算出する処理を実行する(算出工程)。具体的には、制御部13は、ステップS44,S45,S46を順に実行する。
【0057】
ステップS44では、開先算出部37が、まず、ステップS42,S43において取得された開先の情報の補正値を記憶部31から取得する。そして、開先算出部37は、この開先の情報の補正値に基づいて、開先算出部37が溶接ビードWBの近似直線Nを算出する処理を実行する。具体的には、
図8(a)に示されるように、開先算出部37は、開先の断面上における溶接ビードWBの表面の輪郭のうち、開先とは接していない部分の近似直線Nを算出する。一例として、開先算出部37は、実行済みの溶接パスの最外層の設計上の表面よりもひとまわり狭い範囲を開先とは接していない部分の範囲として設定し、当該範囲内の溶接ビードWBの表面の輪郭から、最小二乗法によって当該輪郭の近似直線Nを算出する。
【0058】
ステップS45では、
図8(b)に示されるように、開先算出部37が、ステップS44において算出された近似直線Nと開先との交点として仮想点V1,V2を導出する処理を実行する。ステップS46では、開先算出部37が、ステップS45において導出された仮想点V1,V2を頂点として含む四角形状の部分を開先断面として設定する処理を実行する。具体的には、開先算出部37は、仮想点V1,V2及び境界部B1,B2を頂点とする四角形状の部分を開先断面として設定する。以上により、制御部13は、ステップS04におけるセンシング処理を終了する。ステップS04(ステップS46)において設定された開先断面は、ステップS05において複数のパス断面Pが再設定される対象の開先断面として用いられる。
【0059】
以上説明した溶接方法の作用効果について説明する。本実施形態に係る溶接方法では、溶接が行われる前の溶接対象領域Wの開先の情報に基づいて、ステップS02(パス計画工程)において溶接対象領域Wに対する複数の溶接パスが計画された後、ステップS03(第1溶接工程)において溶接パスが繰り返し行われる。ここで、ステップS03では、溶接パスを行いながら、開先センサ17によって取得した開先の情報に基づいて、ステップS02において計画した溶接パスとなるように、溶接ツール15の位置が調整される。これにより、ステップS02において計画した溶接パスに対する誤差を補正しながら溶接パスが行われる。したがって、多層盛溶接において溶接対象領域Wに対する溶接の位置精度を向上させることができる。
【0060】
また、この溶接方法において、ステップS33(パス位置調整工程)では、開先の情報として、溶接対象物(柱部品3A,3B)における溶接対象領域Wと溶接非対象領域(ここでは、側面部Ws)との境界部B1,B2の位置を取得し、境界部B1,B2の位置に対する溶接パスの相対的な位置を溶接ツール15による溶接パス狙い位置として、溶接ツール15の位置を調整する。この構成により、溶接非対象領域(ここでは、側面部Ws)に極めて近い境界部B1,B2の位置に対する溶接パスの相対的な位置を溶接ツール15の溶接パス狙い位置とするので、多層盛溶接において開先の一部の溶接が行われた状態においても、溶接対象領域Wに対する溶接パスの位置のずれが低減される。したがって、溶接対象領域Wに対する溶接の位置精度を特に向上させることがきる。
【0061】
また、この溶接方法は、開先センサ17によって取得された、少なくとも一回の溶接パスが行われた後の開先の情報に基づいて、開先の断面上において、開先と開先に形成された溶接ビードWBの表面とが接する点を示す仮想点V1,V2の位置を算出するステップS44,S45,S46(算出工程)をさらに備え、ステップS44,S45,S46では、開先の断面上における溶接ビードWBの表面の輪郭のうち、開先とは接していない部分の近似直線Nを算出し、開先と近似直線Nとの交点の位置を、仮想点V1,V2の位置として算出する。
【0062】
ここで、比較例として、開先と溶接ビードの表面とが接する点の仮想点の位置を算出する際に、開先の断面上における溶接ビードの表面全体の輪郭から算出された近似直線を用いる方法が挙げられる。しかしながら、この方法では、まだ溶接パスが行われていない部分(溶接対象物の接合面等)が溶接ビードの表面として誤認識されてしまう場合があり、このような場合、適切な近似直線が得られなくなってしまう。
【0063】
これに対し、本実施形態に係る溶接方法においては、溶接ビードWBの表面の輪郭のうち、開先とは接していない部分の近似直線Nを用いるので、開先と溶接ビードWBの表面とが接する点の仮想点V1,V2の算出のための近似直線Nをより適切に得ることができる。
【0064】
また、本実施形態に係る溶接方法は、複数の溶接パスが行われた後の開先の情報を取得するステップS04(第3センシング工程)と、ステップS04において取得した情報に基づいて、溶接対象領域Wに対する複数の溶接パスを再計画するステップS05(パス再計画工程)と、ステップS05において再計画した複数の溶接パスを繰り返し行うことにより溶接対象領域Wを溶接するステップS06(第2溶接工程)と、をさらに備え、ステップS05では、ステップS44,S45,S46において算出した結果を用いて、溶接対象領域Wに対する複数の溶接パスを再計画する。
【0065】
例えば、複数の溶接パスが行われた後に残された溶接対象領域Wには、はじめに計画した溶接パスが適さない場合も生じ得る。これに対し、本実施形態に係る溶接方法では、再度開先の情報を取得して、溶接パスを再計画するので、ステップS06において、溶接の進捗に応じた溶接パスを行うことができる。また、ステップS05において、上記ステップS44,S45,S46で得られた結果を使用するので、溶接の進捗により適した溶接パスが計画される。したがって、多層盛溶接において溶接対象領域Wに対する溶接の位置精度をより一層向上させることができる。
【0066】
また、本実施形態に係る溶接方法においては、少なくとも一回の溶接パスが行われた後の開先の情報を開先センサ17によって取得する前に、実行済みの溶接パスの回数に応じて、開先センサ17の位置を開先から遠ざける。この構成により、実行済みの溶接パスの回数に応じて、センシングに適した位置において開先センサ17が開先の情報を取得できる。
【0067】
また、本実施形態に係る溶接方法においては、開先センサ17によって取得された、開先の情報から得た開先の見かけ上の深さD11を、開先センサ17の傾きに応じて補正する。この構成により、開先の深さD12を精度よく取得できる。
【0068】
以上の実施形態は、本発明に係る溶接方法の一実施形態について説明したものである。本発明に係る溶接方法は、上述した溶接方法を任意に変更したものとすることができる。
【0069】
例えば、上記実施形態に係る溶接方法は、ステップS01~S06まで備えていたが、ステップS04~S06が省略されてもよい。溶接方法は、ステップS01~S03のみによって行われてもよい。上記実施形態に係る溶接方法では、ステップS01における第1センシング工程、及びステップS42における第3センシング工程のそれぞれにおいて得られた開先の情報(開先の深さ)が傾き補正部34によって補正されたが、傾き補正部34によって開先の情報を補正する処理が適宜省略されてよい。また、第2センシング工程において得られた開先の情報が傾き補正部34によって補正されてもよい。同様に、第2センシング工程において得られた開先の情報に基づいて、算出工程(すなわち、開先の断面上において、開先と開先に形成された溶接ビードの表面とが接する点を示す仮想点の位置を算出する処理)が行われてもよい。第2センシング工程において開先の情報を取得する前に、実行済みの溶接パスの回数に応じて、開先センサ17の位置を開先から遠ざけるようにセンシング制御部33がロボット9を制御する処理が行われてもよい。
【符号の説明】
【0070】
3A,3B…柱部品(溶接対象物)、9…ロボット(溶接ロボット)、15…溶接ツール(エンドエフェクタ)、17…開先センサ(センサ)、B1,B2…境界部、D11,D12…深さ、N…近似直線、V1,V2…仮想点、W…溶接対象領域、Ws…側面部(溶接非対象領域)、WB…溶接ビード。